【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、天井走行台車が高架レールの曲線部を走行する際に車体の横振れを抑制するバランス制御機構に関する。 【0002】 【従来の技術】工場内等において、高架レールを走行して物品を搬送するために用いられている天井走行台車は、高架レールの曲線部を通過する際に、その車体やこれに搭載している物品が遠心力を受けて傾き、車体に横振れを生じる傾向がある。 【0003】そこで、従来では、例えば実公平8−89 38号公報に開示されているように、高架レールの曲線部の両側に補助高架レールを設置し、これらの補助高架レールで天井走行台車の左右にそれぞれ設けられている補助走行ローラを受けて、車体の横振れを防止していた。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前述した実公平8−8938号公報に開示されている構造の天井走行台車では、高架レールの曲線部を天井走行台車が通過する際に車体が受ける遠心力を補助走行ローラを介して補助高架レールで受けているため、高架レールの曲率半径が小さいと車体に作用する遠心力が大きくなり、 天井走行台車の車体や補助高架レールの剛性を高める必要がある。 【0005】しかしながら、補助高架レールや天井走行台車の車体の剛性を高めようとすると、これらの部分のサイズや重量が増加し、また、製造コストも高くなるため、天井走行台車の走行速度を曲線部で低下させなければならず、物品搬送のサイクルタイムが長くなる問題があった。 【0006】そこで、本発明は、前述したような従来技術の問題点を解消し、天井走行台車を補助高架レールや補助走行ローラを用いずに、高架レールの曲線部を横振れを生じることなく高速で走行させることできる天井走行台車のバランス制御機構を提供することを目的とする。 【0007】 【課題を解決するための手段】前記目的のため、本発明の天井走行台車のバランス制御機構は、高架レールに走行車輪で車体が懸垂支持されて走行する天井走行台車の高架レール上の走行車輪の支点位置より下方で、重心位置を左右方向に変位自在に車体に設けられた可動部と、 車体に対して可動部の重心を移動させる重心移動手段と、高架レールの曲線部を走行する際に、走行方向を軸とする前記支点位置回りに天井走行台車全体に作用する遠心力のモーメントと重力のモーメントが釣り合う可動部の重心のバランス位置を算出し、前記バランス位置へ可動部の重心を移動させるように重心移動手段を制御するバランス制御手段とを備えている。 【0008】前記バランス制御手段は、天井走行台車に設けられた読取手段が高架レールに付設する被検出部から読み取った高架レールの曲率半径データを利用して可動部重心のバランス位置の算出を行うことが望ましい。 【0009】 【作用】請求項1に記載された発明において、天井走行台車が停止している場合や、高架レールの直線部分を走行している場合には、天井走行台車全体の重心は支点位置の垂直下方に位置し、この時、天井走行台車は高架レールの略真下に吊り下げられた状態にある。 【0010】一方、天井走行台車が高架レールの曲線部分を走行するときは、その車体全体に遠心力が作用する。 前記遠心力は天井走行台車の走行方向を軸とする前記支点位置回りのモーメントを生じさせる。 【0011】本発明においては、天井走行台車が高架レールの曲線部分に侵入する直前に、バランス制御手段が天井走行台車全体に作用する前記支点位置回りの遠心力によるモーメントと重力によるモーメントが釣り合う可動部の重心のバランス位置を算出し、重心移動手段を制御して可動部の重心を前記バランス位置へ移動させる。 【0012】その結果、可動部の重量によって前記支点位置回りに生じた重力のモーメントによって、同支点位置回りの遠心力によるモーメントが打ち消され、天井走行台車は高架レールの曲線部を傾くことなく走行し、走行中の横振れの発生が防止される。 【0013】また、請求項2記載の発明においては、バランス制御手段がバランス位置を算出するために必要な高架レールの曲率半径データを、高架レールに設けられている被検出部から天井走行台車側の読取手段で読み取る。 【0014】バランス制御手段は、読取手段で得た高架レールの曲率半径データと、天井走行台車の走行速度と、天井走行台車の車体とこれに設けられている可動部のそれぞれの重量と重心位置から天井走行台車全体に作用する走行方向を軸とする前記支点位置回りの遠心力によるモーメントを算出し、このモーメントと釣り合う重力のモーメントが生じる可動部重心のバランス位置を算出する。 【0015】 【実施例】以下、図面に基づいて本発明の実施例について説明する。 図1は、本発明の一実施例を示すバランス制御機構が搭載された天井走行台車の概略構造図であって、天井走行台車1は、工場内等に架設されている高架レール2の水平な車輪走行面2Aに走行車輪3で走行自在に懸垂支持されている車体4を有している。 【0016】前記走行車輪3は車体4上部の高架レール2に沿って前後方向に複数箇所設けられており、その一つが走行用モータ5で回転駆動されて、天井走行台車1 の走行を行うようになっている。 【0017】前記走行用モータ5は、車体4内部に搭載されている走行制御手段6に内蔵されているプログラムと走行制御手段6へ天井走行台車1外部から送られる指令データによって制御されるように構成されている。 【0018】車体4の下部には可動部4Aが設けられている。 前記可動部4Aと車体4の下面との間には、長手方向を左右方向(天井走行台車1の幅方向)に向けた一対のリニアガイド機構7が車体4の走行方向前後に間隔をあけて並行に設けられていて、これらのリニアガイド機構7により、可動部4Aが車体4の左右両側にスライド自在に支持されている。 【0019】車体4内の下部幅方向左右位置には、駆動側歯付プーリ8と被駆動側歯付プーリ9が回転自在に支持されていて、これらのプーリ8,9間に歯付ベルト1 0が掛け渡されている。 【0020】前記歯付ベルト10は、連結部材11を介して可動部4Aの上面と連結されており、車体4内部に搭載されている重心移動手段としてのバランス制御用パルスモータ12を正方向または逆方向に回転させることによって、可動部4Aが車体4に対して左右方向に移動されるように構成されている。 【0021】前記バランス制御用パルスモータ12の回転制御は、車体4に搭載されているバランス制御手段1 3から出力されるパルス信号によって行われる。 【0022】なお、本発明における重心移動手段は、この実施例では駆動側歯付プーリ8、被駆動側歯付プーリ9、歯付ベルト10、バランス制御用パルスモータ12 で構成されている。 【0023】また、この実施例では、可動部4Aは搬器Cと前記搬器に保持される定型の被搬送物品Wからなるものであり、搬器Cには、被搬送物品Wの有無を検出する物品検出センサ(図示せず。)が設けられている。 【0024】一方、高架レール2の下面には、その曲率半径データが記録されたバーコードで構成される被検出部14が付設されている。 前記被検出部14は、高架レール2が直線部分から曲線部分へ移行する位置や曲線部分から直線部分へ移行する位置、あるいは、曲線部分の途中で高架レールの曲率半径が変化する位置の手前側に設けられていて、高架レール2を天井搬送台車1が走行する際に、被検出部14に記録されている曲率半径データを対向する天井搬送台車1の車体4上面に設けられたバーコードリーダからなるデータ読取手段15で読み取り、その情報をバランス制御手段13に送出するようになっている。 【0025】なお、被検出部とデータ読取手段は、前述したものに限らず、例えば、被検出部として磁気的にデータを記録したものを用い、データ読取手段に磁気的に前記データを読み取るもの構造のものを用いてもよい。 【0026】次に、図2は、本発明の天井走行台車のバランス制御機構の動作原理を説明する図であって、同図の(a)は、図1に示す天井走行台車1が高架レール2 の直線部分を走行中または、高架レール2上に停止している状態における車体4の重心G 1と可動部4Aの重心G 2のそれぞれの位置を模式的に示している。 【0027】なお、車体4と可動部4Aの質量はそれぞれm 1 ,m 2で表しており、車体4の重心G 1は、高架レール2上の走行車輪3の支点位置0を通過する垂線N 上で支点位置Oから距離L 1だけ下方にあり、可動部4 Aの重心G 2は重心G 1の位置から前記垂線N上をさらに距離L 2だけ下がった位置にある。 【0028】これらの状態では、天井走行台車1に作用する外力は支点位置0を通る垂線N上で下方に作用する重力のみであり、支点位置O回りのモーメントは存在せず、天井走行台車1に傾きは生じていない。 【0029】次に図2の(b)は、天井走行台車1が、 本発明のバランス制御機構を動作させずに車体4と可動部4Aとが同図(a)の位置関係を保ったまま、高架レール2の曲線部分を走行する状態を示したものである。 【0030】この時、車体4と可動部4Aの重心G 1 , G 2にはそれぞれ遠心力f 1 ,f 2が水平方向に作用し、これらの遠心力f 1 ,f 2によって天井走行台車1 には、支点位置O回りにモーメントMcが作用し、その車体4とこれに連結されている可動部4Aに支点位置O を通る垂線Nに対して角度θの傾斜を生じさせる。 【0031】前記角度θは、天井走行台車1の走行速度が大きくなるほど増大し、また、高架レール2の曲線部分を前記角度θ傾いて走行してきた天井走行台車1が高架レール2の直線部分へ侵入すると、これらの遠心力f 1 ,f 2が消失するため、支点位置0を中心に車体4と可動部4Aが振り子のように横揺れを生じる。 これに対し、図2の(c)は、天井走行台車1が本発明のバランス制御機構を動作させて高架レール2の曲線部分を走行する状態を示したものである。 【0032】同図(c)において、車体4の重心G 1は、支点位置Oを通る垂線N上にあり、一方、可動部4Aの重心G 2は、垂線Nから高架レール2の曲率中心O'側と反対側に水平方向に距離Xだけ変位している。 【0033】ここで、高架レール2の曲率半径をR、天井走行台車1の走行速度をVとすると、質量m 1である車体4の重心G 1に作用する遠心力はf 1は、f 1 =m 1 V 2 /Rである、また、質量m 2である可動部4Aの重心G 2に作用する遠心力f 2は、f 2 =m 2 V 2 /R である。 (ただし、高架レールの曲率半径Rは、前記距離Xに比較して十分大きいものとする。) この時、天井走行台車1全体に支点位置O回りに作用する遠心力f 1とf 2によって生じるモーメントMcは、 Mc=f 1 L 1 +f 2 (L 1 +L 2 )となる。 【0034】一方、可動体4Aの重心G 2の位置を支点位置Oを通る垂線Nから水平方向に距離Xだけ変位させることによって、天井走行台車1には可動体4Aの重量m 2 gによる支点位置O回りの前記モーメントMcと反対向きのモーメントMrが生じる。 ただし、ここでgは重力加速度であって、Mr=Xm 2 gとなる。 【0035】したがって、Mc=Mrとなるように、X の値が選択されていれば、天井走行台車1に作用する支点位置O回りのモーメントを除去することができ、高架レール2の曲線部分を走行する天井走行台車1の横振れを防止することができる。 前記距離Xは、X=(L 2 + L 1 (m 1 +m 2 )/m 2 )V 2 /(Rg)の関係から算出することができる。 【0036】ここで、m 1 ,L 1は、天井走行台車1の車体4の構造上からあらかじめ決まっており、また、可動部4Aの重心G 2の位置と質量m 2は、被搬送物品W が特定されていればこれらもあらかじめ既知の値である。 【0037】また、天井走行台車1の走行速度Vはあらかじめ決められているか、あるいは走行車輪3の回転等から容易に検出できる量である。 【0038】本実施例においては、天井走行台車1が高架レール2の曲線部分に侵入する手前で、データ読取手段15が高架レール2の被検出部14から高架レール2 の曲率半径Rに対応するデータを読み取る。 【0039】バランス制御手段13は、データ読取手段15が読み取った曲率半径Rの値に基づいて前記距離X を算出し、バランス制御用パルスモータ12を制御して可動部4Aを図2(c)の位置関係になるように移動させる。 【0040】バランス制御手段13にはあらかじめ可動部4Aの質量m 2と垂直方向の重心位置L2のデータが複数通り記憶されていて、前記距離Xは、天井走行台車1の搬器Cに被搬送物品Wが保持されている場合と保持されていない場合で異なり、さらに、被搬送物品Wの種類によっても異なった値が算出される。 【0041】なお、被搬送物品Wの種類の識別は、物品検出センサにその機能を持たせて行うことができ、例えば、被搬送物品Wに付加された識別コードを光学的に読み取るようにしてもよい。 また、重心位置が一定した被搬送物品Wでは、搬器に被搬送物品Wの重量を計測する荷重センサを設けて被搬送物品Wの種類を判別するようにしてもよい。 【0042】図示は省略するが、高架レール2の曲線部分が終了する手前の位置にも被検出部14と同様に車体4に対して可動部4Aの位置を変更するための被検出部が付設されていて、天井走行台車1がこの位置を通過すると、高架レール2の直線部分に対応して走行できるように、バランス制御手段13はバランス制御用パルスモータ12を制御して可動部4Aを、図2の(A)の位置へ戻す。 【0043】前述した実施例においては、可動部4Aを搬器Cと前記搬器Cに保持される定型の被搬送物品Wから構成しているが、可動部は単に天井走行台車の重心位置を左右方向に変化させるバランスウエイトとして構成し、搬器Cは車体の左右方向に移動しない構造としてもよい。 【0044】また、可動部の重心を車体に対して左右に移動させるための重心移動手段は、前述した実施例で用いられている歯付ベルト9を用いたものに限定するものではなく、歯付ベルトの代わりにチェーンを用いてもよいし、ラックピ二オン機構やシリンダ機構等を用いてもよい。 【0045】さらに、本実施例においては、可動部4A が車体4に対してリニアガイド機構7によって直線的に移動するように構成されているが、両者の間を左右に対になった平行リンクで連結して、可動部の重心を車体に対して左右方向に変位させるように構成してもよい。 【0046】また、本実施例では、バランス制御手段1 3が、天井走行台車1に設けられた読取手段15が高架レール2に付設した被検出部14から読み取った高架レール2の曲率半径データを利用して可動部4Aの重心G 2のバランス位置の算出を行うようにしているが、高架レール2の曲率半径データをあらかじめ天井走行台車1 の走行位置に対応させてバランス制御手段13に記憶させておき、天井走行台車1の走行位置を検出して前記バランス位置を算出するようにしてもよい。 【0047】さらに、この実施例では、天井走行台車1 の走行制御を行う走行制御手段6と可動部4Aの移動制御を行うバランス制御手段13をそれぞれ独立した制御ユニットとして設けているが、これらを単一の制御ユニットとして構成してもよい。 【0048】 【発明の効果】以上に説明したように、請求項1に記載された発明によれば、天井走行台車が高架レールの曲線部分を走行する際に、車体に横振れを生じさせる遠心力のモーメントを可動部の重心の移動によって生じる重力のモーメントで打ち消しているため高速走行が可能となり、特に、半導体ウエハ等を搬送する場合のように搬送中の振動や揺れが問題となる場合に好適に用いることができる。 【0049】また、従来の天井走行台車のように、高架レールの曲線部分で車体が受ける遠心力を補助走行ローラを介して補助高架レールで受ける必要が無いため、設備コストを大幅に低減することができる。 【0050】また、請求項2に記載された発明によれば、高架レールに付設するバーコード等の被検出部から高架レールの曲率半径データをリアルタイムで読み取ってバランス制御手段にバランス位置の算出を行わせているため、バランス制御手段が走行位置に対応した高架レールの曲率半径データをあらかじめ記憶していたり、走行位置を監視している必要がなく、バランス制御機構全体を簡略化でき且つ動作の信頼性を高めることができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の一実施例を示すバランス制御機構が搭載された天井走行台車の概略構造図である。 【図2】 本発明の天井走行台車のバランス制御機構の動作原理を説明する図であり、(a)は、天井走行台車が高架レールの直線部分を走行中または停止状態を示す。 (b)は、天井走行台車がバランス制御機構を動作させないで高架レールの曲線部分を走行中の状態を示す。 (c)は、天井走行台車がバランス制御機構を動作させて高架レールの曲線部分を走行中の状態を示す。 【符号の説明】 1 天井走行台車 2 高架レール 2A 車輪走行面 3 走行車輪 4 車体 4A 可動部 5 走行用モータ 6 走行制御手段 7 リニアガイド機構 8 駆動側歯付プーリ 9 被駆動側歯付プーリ 10 歯付ベルト 11 連結部材 12 バランス制御用パルスモータ 13 バランス制御手段 14 被検出部 15 データ読取手段 |