鍛鋼ロールの製造方法

申请号 JP2012035164 申请日 2012-02-21 公开(公告)号 JP5672255B2 公开(公告)日 2015-02-18
申请人 新日鐵住金株式会社; 发明人 洋史 大西; 洋史 大西; 山中 章裕; 章裕 山中; 水上 英夫; 英夫 水上; 知暁 瀬羅; 知暁 瀬羅; 英良 山口; 英良 山口;
摘要
权利要求
  • 鍛鋼ロールの製造方法であって、
    ESR法により、質量%で、C:0.3%以上、Si:0.2%以上、Cr:2.0〜13.0%およびMo:0.2%以上を含有し、さらにBiを10〜100質量ppmで含有する鋼塊を鋳造し、
    この鋼塊を鍛造してロールを製造することを特徴とする鍛鋼ロールの製造方法。
  • 说明书全文

    本発明は、冷間または温間で使用する鍛鋼ロールの製造方法に関し、特に、使用に伴ってロール表面を繰り返し切削しても、良好な表面性状を保つことが可能な鍛鋼ロールの製造方法に関する。

    一般に、鍛鋼ロールは、直径が大きいため、造塊法によって大型のインゴット(鋳塊)を鋳造し、これを鍛造することにより製造される。 大型インゴットには、鋳造時に中心から表面近傍にかけてゴースト偏析と呼ばれるマクロ偏析が生成しやすく、このゴースト偏析は、鍛造工程および熱処理工程を経た後においても、製造された鍛鋼ロールの内部に偏析として残存する。

    図1は、造塊法によって得られた一般的なインゴットの縦断面図である。 同図に示すように、インゴット内には、一般的なマクロ偏析としてV偏析とゴースト偏析が現れる。 V偏析は、インゴットの中心部でV字状を呈し、上部の濃V偏析と下部の淡V偏析からなる。 淡V偏析の下方には沈殿晶が存在する。 ゴースト偏析は、CやP、またはMnやその他の合金成分が濃化した偏析であり、V偏析の外側からインゴットの半径の約1/2の位置までの領域に存在し、インゴットの上下方向に伸びた線状の偏析線の体をなす。

    ゴースト偏析は、生成位置がV偏析よりもインゴット表面に近いため、インゴットの鋳造以降の鍛造や熱処理工程で、このゴースト偏析を起点に加工変形時の応や熱処理‐冷却時の熱応力で割れが発生するという問題がある。

    また、鍛鋼ロールは、使用していくうちに表面が摩耗したり損耗したりした場合、平滑度を規定範囲内に復元するために、ロール表面を切削する手入れが行われる。 このとき、ゴースト偏析線が鍛鋼ロールの表面近傍に残存していると、当初の製造工程で割れ等の欠陥が発生しなくても、この切削手入れによってロールの表面に偏析線が露出することがある。 偏析線が露出したロールを圧延等の加工に使用すると偏析線が被加工材に転写されるため、ロール自体が再使用に適さなくなる。

    したがって、鍛造や熱処理工程で割れが発生せず、また、鍛鋼ロールの表面を繰り返し切削手入れしても偏析線が露出せず、長期にわたって安定して利用できる鍛鋼ロールの製造技術を確立することが強く求められる。

    造塊法によって得られたインゴットをそのまま鍛鋼ロールの素材とした場合、特にゴースト偏析に起因し、鍛鋼ロールの品質悪化が顕著である。 この点、エレクトロスラグ溶解法(以下、「ESR法」という)によって得られる鋼塊は、一般に、偏析の少ない凝固組織となることが知られている。 このため、鍛鋼ロールの素材としては、通常、ESR法によって得られた鋼塊が適用される。

    図2は、ESR法によって得られた一般的な鋼塊の縦断面図である。 鋼塊内には、溶鋼プールの深さにもよるが、溶鋼プールの曲率が大きくなる鋼塊の半径の約1/2の領域近傍に、フレッケル欠陥が現れる。 このようなESR法による鋼塊内に現れるフレッケル欠陥は、造塊法によるインゴット内に現れるV偏析とゴースト偏析と比べ、軽微である。 このため、ESR法によって得られた鋼塊を鍛鋼ロールの素材として適用すれば、鍛鋼ロールの品質向上を一応は期待することができる。

    しかし、フレッケル欠陥は、ゴースト偏析と同じ発生機構のチャンネル型偏析の一種である。 このため、ESR法によって得られた鋼塊を鍛鋼ロールの素材とした場合であっても、実際には、フレッケル欠陥に起因し、ゴースト偏析に起因するものと同様に、鍛鋼ロールの品質悪化が顕在化する。

    ここで、フレッケル欠陥の発生機構は以下の通りに説明できる。

    鋳造過程において、鋼中のCやP、Si等の軽元素は、凝固途上のデンドライト樹間でミクロ偏析する。 ミクロ偏析した溶鋼は、これらの軽元素が濃化しているために、バルク(母材)溶鋼よりも密度が低く、浮力により重力と反対方向の鉛直上向きの力を受ける。

    ミクロ偏析溶鋼は、生成当初には樹枝状のデンドライト樹間で止まっているが、その後浮力によりわずかに浮上し、さらに上部に位置していた別のミクロ偏析溶鋼と合体し、マクロ的な偏析溶鋼の集合体に成長して体積を増す。 ミクロ偏析溶鋼は、さらに浮上して合体が進行し、体積が増すことによって、大きな浮力が生じ、上部に存在するデンドライトの樹枝を横切り、また、樹枝を破壊しながら上昇し、別のミクロ偏析溶鋼をさらに集めることとなる。

    この偏析溶鋼は、デンドライト樹間を上昇中に凝固の進展とともに凍結し、偏析線となって鋼塊の内部に残り、これが、フレッケル欠陥として現れる。

    フレッケル欠陥は、その発生機構上、溶鋼中の軽元素の含有量が多ければ多いほど発生しやすいのは言うまでもない。

    また、凝固組織であるデンドライト組織が粗いと、ミクロ偏析溶鋼の体積が大きくなりやすく、フレッケル欠陥が粗大化しやすい。 これは、デンドライト組織が粗いと、デンドライト樹間に最初に発生するミクロ偏析溶鋼の体積も大きくなることと、ミクロ偏析溶鋼が浮力により上昇し始める際の抵抗が小さいことにより、溶鋼の上昇流が容易に生起するためである。

    一般的に、フレッケル欠陥は、溶鋼プールの曲率が大きくなりデンドライトアーム間隔の先端が広がりやすい鋼塊のR/2近傍に発生しやすい。 しかし、鋼塊が大型で、軽元素の含有量が高い場合には、鋼塊の表面寄りにも発生しやすく、上述したゴースト偏析の場合と同様に熱処理工程で割れが発生する等の問題が生じる。

    上述のとおり、鍛鋼ロールを製造するにあたり、鍛造や熱処理工程で割れが発生せず、また、鍛鋼ロールの表面を繰り返し切削手入れしても偏析線が露出せず、長期にわたって安定して利用できる技術の確立が強く求められる。 この要求に応えるためには、フレッケル欠陥を鋼塊の鋳造段階で完全に抑制するか、少なくとも鋼塊の表面から中心寄りにフレッケル欠陥を封じ込める必要がある。

    フレッケル欠陥の発生は、その発生機構からすれば、デンドライト組織を微細化することによって抑制できると考えられる。 デンドライト組織の微細化は、鋳造時の冷却速度を大きくすることによって実現することができるが、例えば、冷却速度の大きい小径の鋼塊を製造しても、製品のロール径が制限されたり、鋼塊の鍛造時の鍛錬比を充分に取れなかったりする問題がある。

    特許文献1には、鋳造時に生じるデンドライト組織が冷間圧延機のワークロール表面の肌荒れの原因であるため、ロール表面の肌荒れを改善する方法として、Pの含有量を0.025〜0.060重量%としてデンドライト組織を微細化する方法が記載されている。 しかし、Pは一般的に不純物元素であり、鉄鋼材料の脆化の原因となるため、Pの含有量を高くすることは好ましくない。 また、Pは上述したようにフレッケル欠陥の原因となる軽元素であり、Pの含有量を高くすることは、フレッケル欠陥の発生を助長することにもなると考えられる。

    特許文献2には、任意の鋳造方案に基づく鋳造プロセスシミュレーションで算出する濃度や温度から、偏析溶鋼流れを考慮したフレッケル欠陥評価指標(Ra数(Rayleigh数;レイリー数))や、異結晶発生機構を考慮した異結晶欠陥評価指標を同時に評価し、鋳物方案の善し悪しを判定することを特徴とする鋳造プロセスシミュレータにおける判定方法が提案されている。 同文献の段落[0057]の記載のように、同文献の図12の計算実施例からRa数が0.07以上の場所でフレッケル欠陥の発生する可能性が高いこと等を示唆できるが、記載鋳物材料を変えた場合、欠陥評価基準値をあらためて設定する必要がある。

    特開昭61−9554号公報

    特開2003−33864号公報

    上述のように、鍛鋼ロールの素材となる鋼塊のデンドライト組織の微細化には、ロール径の制限や、軽元素含有量の増大による脆化や偏析の発生等の問題がある。 本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、ESR法により鍛鋼ロールの素材となる鋼塊を鋳造する際、フレッケル欠陥を完全に抑制するか、少なくとも従来の鋼塊でフレッケル欠陥が現れる位置よりも中心寄りにフレッケル欠陥を封じ込めることが可能な鍛鋼ロールの製造方法を提供することを目的とする。

    本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ESR法による鋳造の過程で溶鋼にBiを含有させ、Biを所定量含有する鋼塊を鋳造することにより、フレッケル欠陥の発生を抑制するとともに、デンドライト組織を微細化させることができることを知見した。 この検討内容については後述する。

    本発明は、この知見に基づいて完成されたものであり、下記の鍛鋼ロールの製造方法を要旨としている。 すなわち、ESR法により、質量%で、C:0.3%以上、Si:0.2%以上、Cr:2.0〜13.0%およびMo:0.2%以上を含有し、さらにBiを10〜100質量ppmで含有する鋼塊を鋳造し、この鋼塊を鍛造してロールを製造することを特徴とする鍛鋼ロールの製造方法である。

    以下の説明では、鋼の成分組成について、特に断らない限り、「%」は「質量%(mass%)」を意味し、「ppm」は「質量ppm」を意味する。

    本発明の鍛鋼ロールの製造方法によれば、ESR法による鋼塊の鋳造時に生成するマクロ偏析であるフレッケル欠陥を、鋼塊の表面から中心よりに封じ込めることができる。 そのため、鋼塊の鍛造および熱処理時に偏析を起点とした割れを抑制することができるとともに、ロールを再使用するためにロールを切削手入れしてもフレッケル欠陥の偏析線が露出しにくいため、長期にわたってロールを安定して使用することができる。

    造塊法によって得られた一般的なインゴットの縦断面図である。

    ESR法によって得られた一般的な鋼塊の縦断面図である。

    本発明の鍛鋼ロールの製造方法において、素材となる鋼塊をESR法によって鋳造する際の状態の一例を示す模式図である。

    Bi含有量とデンドライト一次アーム間隔との関係を示す図である。

    鋼塊表面から半径方向の距離とデンドライト一次アーム間隔との関係を示す図である。

    鋼塊表面から半径方向の距離とRa/Ra

    0の値との関係を示す図である。

    本発明の鍛鋼ロールの製造方法は、ESR法により、C:0.3%以上、Si:0.2%以上、Cr:2.0〜13.0%およびMo:0.2%以上を含有し、さらにBiを10〜100ppmで含有する鋼塊を鋳造し、この鋼塊を鍛造してロールを製造することを特徴とする。

    以下に、本発明の鍛鋼ロールの製造方法を上記のとおりに規定した理由およびその好ましい態様について説明する。

    1. ESR法による鋼塊の鋳造 図3は、本発明の鍛鋼ロールの製造方法において、素材となる鋼塊をESR法によって鋳造する際の状態の一例を示す模式図である。

    同図に示すように、ESR法では、鋼塊1の母材である円柱状の消耗電極2は、その上端に溶接によってスタブ4が連結され、図示しない昇降機構によるスタブ4の下降に伴って下降する。 その際、チャンバー5内の鋳型(冷銅モールド)6内には溶融スラグ7が保持されており、消耗電極2を溶融スラグ7に浸漬させた状態で通電を行うことにより、溶融スラグ7に電流が流れ溶融スラグ7が発熱する。 消耗電極2は、その溶融スラグ7のジュール熱によって下端から順次溶解する。 溶解した消耗電極2は、溶滴となって溶融スラグ7中を沈降し、鋳型6内で溶鋼3のプールとなって貯溜されつつ積層凝固していく。 こうして消耗電極2が上端まで順次溶解し、その溶鋼3が鋳型6内で順次凝固することにより、鍛鋼ロール用の鋼塊1が得られる。

    本発明では、ESR法によって得られる鋼塊1にBiを所定量含有させるため、ESR法による鋳造の過程で溶鋼3にBiを含有させる必要がある。 その手法として、ESR法による鋳造段階で溶鋼3にBiを添加してもよいし、ESR法による鋳造の前段階、すなわち造塊法によって母材となる消耗電極2を製作する段階でその溶鋼にBiを添加してもよい。

    前者のようにESR法による鋳造段階で溶鋼3にBiを添加する場合、Bi添加は、図3に示すように、Biを含有するBiワイヤ8を溶鋼3に供給することにより実現することができる。 そのほかに、予め、消耗電極2の側面に軸方向に沿ってBiワイヤを溶接しておくことでも実現できる。

    ここで、ESR法による鋳造時、溶鋼の温度は1600℃を超える。 一方、Biの純粋な沸点は、溶鋼温度を下回る1564℃に過ぎない。 このため、BiワイヤをBi単体で構成すると、鋳造時にBiが揮発し、溶鋼中にBiを有効に留めることができない。 そこで、Biワイヤは、BiとNi等の合金で構成するのが適切である。 Ni等の含有により、見かけ上、Biの沸点が上昇するからである。 合金としてNi−Bi系を選定する場合には、溶鋼中でBiが液相状態で存在するように、Biワイヤ中のBi含有量は20〜70質量%であるのが好ましい。

    後者のように消耗電極2を製作する段階でその溶鋼にBiを添加する場合は、ESR法による鋳造時のBiの揮発量を見越して添加すればよい。

    2. 鍛鋼ロールの成分組成およびその限定理由 C:0.3%以上 Cは、鋼の焼入れ性を高める。 さらに、Cは、CrやVと結合して炭化物を形成し、鋼の耐摩耗性を高める。 したがって、C含有量は0.3%以上とする。 より好ましくは0.5%以上とし、さらに好ましくは0.85%以上とする。 C含有量の上限は特に限定しないが、Cが過剰に含有されると、特に冷間圧延用の鍛鋼ロールとして十分な硬さが得られず、また、炭化物が不均一に分布し、鋼の靭性および旋削性が低下する。 このため、C含有量は1.3%以下とするのが好ましい。 より好ましくは1.05%以下とする。

    Si:0.2%以上 Siは、鋼を脱酸するのに有効な元素である。 さらに、Siは、鋼に固溶して鋼の焼戻し軟化抵抗性を高め、鋼の硬度を高める。 したがって、Si含有量は0.2%以上とする。 より好ましくは0.3%以上とする。 Si含有量の上限は特に限定しないが、Siが過剰に含有されると、鋼の清浄性が低下する。 このため、Si含有量は1.1%以下とするのが好ましい。 より好ましくは0.85%以下とし、さらに好ましくは0.6%以下とする。

    Cr:2.0〜13.0%
    Crは、鋼の焼入れ性を高める。 さらに、Crは、炭化物を形成して鋼の耐摩耗性を高める。 一方、Crが過剰に含有されると、炭化物が不均一に分布し、鋼の延性や靭性が低下する。 したがって、Cr含有量は2.0〜13.0%とする。 より好ましくは2.5〜10.0%とする。

    Mo:0.2%以上 Moは、鋼の焼入れ性を高める。 さらに、Moは、焼戻し軟化抵抗性を高める。 したがって、Mo含有量は0.2%以上とする。 より好ましくは0.3%以上とする。 Mo含有量の上限は特に限定しないが、Moが過剰に含有されると、炭化物を形成して鋼の延性や靭性が低下する。 このため、Mo含有量は1.0%以下とするのが好ましい。 より好ましくは0.7%以下とする。

    Bi:10〜100ppm
    CおよびSiは軽元素であるため、C含有量が0.3%以上である高炭素系の炭素鋼において、Siを0.2%以上含有する場合、フレッケル欠陥が生じやすい。 しかし、後述するように、ESR法による鋳造の過程で溶鋼にBiを含有させ、Bi含有量を10ppm以上とすることにより、フレッケル欠陥の発生を抑制することができる。 Bi含有量が100ppmを超えると、微量とはいえ鍛造によってロールを成形する際に脆化が問題となるため、Bi含有量は100ppm以下とする。

    鍛鋼ロールは、上記の主要元素に加え、さらに下記の元素を含有することができる。

    Mn:0.4〜1.5%
    Mnは、鋼の焼入れ性を高める。 さらに、Mnは、鋼を脱酸するのに有効な元素である。 一方、Mnが過剰に含有されると、鋼の耐クラック性が低下する。 したがって、Mnを積極的に含有させる場合は、その含有量は0.4〜1.5%とする。

    Ni:2.5%以下 Niは、鋼の靭性を高める。 さらに、Niは、鋼の焼入れ性を高める。 一方、Niが過剰に含有されると、熱処理後に水素割れが発生しやすくなる。 また、Niはオーステナイト形成元素であるため、Niが過剰に含有されると、鋼の硬さが低下する。 したがって、Niを積極的に含有させる場合は、そのNi含有量は〜0.8%とする。

    V:1.0%以下 Vは、炭化物を形成し、鋼の耐摩耗性を高める。 しかし、Vが過剰に含有されると、炭化物の形成により、鋼の延性や靭性が低下する。 したがって、Vを積極的に含有させる場合は、その含有量は1.0%以下とする。 より好ましくは0.2以下である。

    ESR法での鋳造により、上記組成の鋼塊は、デンドライト組織が微細となる。 このため、その鋼塊を素材として鍛造して製造された鍛鋼ロールは、フレッケル欠陥が完全に抑制されるか、Biを含有させない場合よりも鋼塊の中心寄りにフレッケル欠陥が封じ込められており、鍛鋼ロールの表面を繰り返し切削手入れしても偏析線が露出せず、再生ロールとしても安定して使用することができる。

    3. Biを含有させることの効果 本発明者らは、ESR法による鋳造の過程で溶鋼にBiを含有させ、鋼塊にBiを微量(10ppm以上)に含有させることにより、デンドライト組織が微細化し、フレッケル欠陥の発生を抑制することが可能であることを、以下の一方向凝固試験により見出した。

    3−1. 試験条件 直径が15mm、高さが50mmの円柱形の鋼塊をESR法により鋳造する試験を行った。 その際、溶鋼中にBiを添加して、Bi含有量が10ppm、21ppmおよび38ppmである鋼塊を作製するとともに、Biを添加することなく、Biを含有しない鋼塊を作製した。 冷却速度は、実操業時の条件に合わせて5〜15℃/minとした。

    得られた鋼塊のそれぞれについて、中心を通る縦断面で軸方向にほぼ平行に延びる約10本の一次アーム同士の間隔を測定し、算術平均した値を各鋼塊のデンドライト一次アーム間隔とした。

    3−2. 試験結果 図4は、Bi含有量とデンドライト一次アーム間隔との関係を示す図である。 同図では、デンドライト一次アーム間隔(d)を、Bi含有無しの鋼塊のデンドライト一次アーム間隔(d B )に対する比(d/d B )として縦軸に表示した。 同図から、Bi含有量が高いほど、炭素鋼のデンドライト一次アーム間隔が狭くなり、デンドライト組織が微細となることがわかる。 これは、Biが炭素鋼の固液界面の界面エネルギーを下げる効果を有する元素であり、その含有量が微量でもデンドライト一次アーム間隔の微細化に効果を示すことによるものと考えられる。 Bi含有量は、後述の実施例に示すように、10ppm以上であればフレッケル欠陥の発生の抑制に効果がある。

    4. フレッケル欠陥発生の尺度 本発明者らは、フレッケル欠陥発生の尺度として、Ra数を用いることに着目した。 Ra数は、温度場での対流流動無次元数であり、Pr数(Prandtl数;プラントル数)とGr数(Grashof数;グラスホフ数)の積であり、下記(1)式で表される。
    Ra=Pr・Gr=gβ(Ts−T )L 3 /να …(1)
    ここで、g[m/s 2 ]:重力加速度、β[1/K]:体膨張係数、Ts[K]:物体表面温度、T [K]:流体の温度、ν[m 2 /s]:動粘性係数、α[m 2 /s]:熱拡散率、L[m]:代表長さである。

    Ra数は、物理的には流動抵抗力に対する流動駆動力である浮力の比と考えられ、上記(1)式に示すように代表長さの3乗に比例する。 フレッケル欠陥の発生の臨界について考える場合、Ra数における代表長さは、デンドライト樹間のミクロ偏析の大きさとするべきである。 この場合、ミクロ偏析溶鋼が生成初期にデンドライト樹間を満たすことから、ミクロ偏析の大きさをデンドライト一次アーム間隔と見なすことができるため、Ra数における代表長さをデンドライト一次アーム間隔とすることができる。 そのため、Ra数は、デンドライト一次アーム間隔の3乗に比例するといえる。

    上述のように、デンドライト組織が粗いほどフレッケル欠陥が粗大化しやすいため、Ra数が大きいほどフレッケル欠陥は発生しやすくなると考えられる。 また、実際の鋼塊でのフレッケル欠陥の発生実績と、Ra数とを比較すれば、Ra数をフレッケル欠陥の発生の臨界の指標とすることができる。 鋼塊にBiを微量に含有させることによるデンドライト一次アーム間隔の減少そのものが比較的小さくても、Ra数はデンドライト一次アーム間隔の3乗に比例するため、鋼塊にBiを含有させることは、Ra数の低減に有効であり、フレッケル欠陥の発生の抑制に大変効果的である。

    本発明の効果を、実際に鋼塊を用いて行った予備試験、および数値計算によるシミュレーションにより評価した。

    1. 予備試験 ESR法による直径800mmの鋼塊の鋳造試験を予備試験として行った。 対象鋼種は、0.87%C−0.30%Si−0.41%Mn−0.10%Ni−4.95%Cr−0.41%Mo−0.01%V(Bi含有無し)の高炭素鋼とした。 この鋼種の液相線温度は1460℃であり、固相線温度は1280℃である。 鋳造条件は、溶鋼規模を9t、鋼塊長さを2.3mとした。

    その結果、鋼塊表面から半径方向内部に133mmの位置まではフレッケル欠陥の発生がなく、それよりも内側ではフレッケル欠陥が発生した。 すなわち、フレッケル欠陥発生の臨界点は、鋼塊表面から半径方向内部に133mmの位置であった。 この鋼塊のフレッケル欠陥発生臨界点におけるデンドライト一次アーム間隔をd 0 、Ra数をRa 0とし、以下の数値計算によるシミュレーションの基準値とする。

    2. 数値計算によるシミュレーション 数値計算シミュレーションの評価条件は以下の通り設定した。 対象鋼種は、上記予備試験と同様の0.87%C−0.30%Si−0.41%Mn−0.10%Ni−4.95%Cr−0.41%Mo−0.01%Vとし、Bi含有量は0ppm(Bi含有無し)、10ppm、21ppmおよび38ppmとした。 対象鋼塊の直径も予備試験と同様の800mmとした。

    この評価条件において、鋼塊の半径方向一次元の非定常伝熱解析により、鋼塊各部の凝固速度と冷却速度とを計算し、鋼塊の表面から半径方向のデンドライト一次アーム間隔の分布を下記(2)式(「鉄鋼の凝固」、社団法人日本鉄鋼協会・鉄鋼基礎共同研究会、凝固部会、1977年、付−4)により算出した。 同(2)式は、凝固速度V(cm/min)および温度勾配G(℃/cm)は温度勾配をパラメータとするデンドライト一次アーム間隔d(μm)のCr−Mo鋼の実験式である。
    d=1620V -0.2-0.4 …(2)

    図5は、鋼塊表面から半径方向の距離とデンドライト一次アーム間隔との関係を示す図である。 同図に示す、Bi含有無しの場合のデンドライト一次アーム間隔(d B )は、上記(2)式から算出した。 Biを含有する場合のデンドライト一次アーム間隔(d)は、前記図4に示される各Bi含有量(10ppm、21ppmおよび38ppm)についてのデンドライト一次アーム間隔の比率(d/d B )を、(2)式から算出したd Bの値に乗じて算出した。

    図6は、鋼塊表面から半径方向の距離とRa/Ra 0の値との関係を示す図である。 各Bi含有量のRa数(Ra)は、前記(1)式から導出される下記(3)式に示すように、Ra/Ra 0はd/d 0の3乗であるといえる。 同図に示すRa/Ra 0は、この(3)式に基づいて算出した。
    Ra/Ra 0 =(d/d 03 …(3)
    ここで、Ra/Ra 0は、各Bi含有量のRa数(Ra)の基準となるRa数(上記予備試験で求めたRa 0 )に対する比であり、d/d 0は、Biを含有する鋼塊のデンドライト一次アーム間隔dと、Bi含有無しの鋼塊のフレッケル欠陥発生臨界点におけるデンドライト一次アーム間隔d 0の比である。

    前記図5から、Bi含有無しの鋼塊のフレッケル欠陥発生臨界点におけるデンドライト一次アーム間隔d 0は、約400μmであることがわかる。 デンドライト一次アーム間隔dがd 0よりも大きい鋼塊内部では、フレッケル欠陥が発生する。 一方、Biを微量(10ppm、21ppmおよび38ppm)含有する場合には、デンドライト一次アーム間隔dが、鋼塊表面から半径方向のほぼ全域にわたって、上記臨界点におけるアーム間隔d 0よりも狭くなることがわかった。 この場合、すなわちd/d 0 <1を満たす場合には、フレッケル欠陥の発生が抑制される。 前記(3)式から、d/d 0 <1は、Ra数を用いて言い換えるとRa/Ra 0 <1となるため、Ra/Ra 0 <1を満たす場合には、フレッケル欠陥の発生が抑制されるといえる。

    また、前記図6によると、Biを含有する場合には鋼塊の表面からかなり深部(鋼塊の中心付近)までRa/Ra 0 <1を満たしていることから、フレッケル欠陥を鋼塊の表面近傍のみならず中心付近まで封じ込めること、または完全にフレッケル欠陥の発生を抑制することができる可能性が示された。

    以上の結果から、Biの含有量は、10ppm以上であればフレッケル欠陥の発生を確実に抑制することができる。

    さらに、前記図6から、Biを含有する場合のRa/Ra 0が1より小さくなる領域は、Bi含有無しの場合よりも、鋼塊中央側に広がっていると考えられる。 そのため、フレッケル欠陥の発生位置をできるだけ鋼塊表面よりも遠ざけたいという目的は、任意のサイズの鋼塊で達せられる可能性は充分にある。 ただし、実際の鋼塊の冷却は、必ずしも均等になされるとは限らず、均等でない場合も多いため、デンドライト一次アーム間隔が部分的に広くなることも想定できる。 このことから、Bi含有量は10ppm以上とすることが肝要である。

    加えて、対象鋼種として、1.30%C−0.24%Si−0.32%Mn−0.51%Ni−9.75%Cr−0.50%Mo−0.11%Vの高炭素鋼を選定し、同様の予備試験およびシミュレーションを実施したところ、同様の結果が得られた。

    以上のことから、Biを鋼塊に微量に(10ppm以上)含有させることの効果の可能性が明確に示された。

    ただし、上述のように、Biの含有量が100ppmを超えると、鍛造によってロールを成形する際に脆化が問題となるため、Bi含有量は100ppmを上限とする。

    また、上記の実施例では鋼塊の形状を円柱形としたが、柱形であっても同様の効果が得られることは言うまでもない。

    本発明の鍛鋼ロールの製造方法によれば、鋼塊の鋳造時に生成するマクロ偏析であるフレッケル欠陥を、鋼塊の表面から中心よりに封じ込めることができる。 そのため、鋼塊の熱処理時の偏析を起点とした割れを抑制することができるとともに、ロールを再使用するためにロールを切削手入れしてもフレッケル欠陥の偏析線が露出しにくいため、長期にわたってロールを安定して使用することができる。

    1:鋼塊、 2:消耗電極、 3:溶鋼、 4:スタブ、
    5:チャンバー、 6:鋳型、 7:溶融スラグ、 8:Biワイヤ

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