A method of reducing the free fatty acids and cholesterol in animal anhydrous fat

申请号 JP2000586177 申请日 1999-12-09 公开(公告)号 JP3943836B2 公开(公告)日 2007-07-11
申请人 アワド、アジズ、チャフィック; グレイ、ジェームズ、イーアン; 发明人 アワド、アジズ、チャフィック; グレイ、ジェームズ、イーアン;
摘要
权利要求
  • (a)液状動物性脂肪中の遊離脂肪酸(FFA)と、水酸化カリウム,水酸化ナトリウム及びそれらの混合物で構成されるグループから選ばれる水酸化アルカリ金属水溶液 であって、水酸化アルカリ金属のFFAに対するモル比が 0.5 −5:1である水酸化アルカリ金属水溶液との反応混合物を 温度約0−55℃で5−35分間 200 1800 rpm の多段翼ミキサーで混合して液状動物性脂肪中に存在するFFAから可溶性の脂肪酸塩(SFAS)を形成させ;
    (b)当該SFASをアルカリ土類金属 塩であって、そのFFAに対するモル比が約 0.25 10 :1であるアルカリ土類金属塩と反応させ、段階(a)と同時又は段階(a)の後で、当該SFASに当該反応混合物の中で不溶性の脂肪酸塩(IFAS)を形成させ;
    (c)当該IFASを当該反応混合物から分離して加工動物油を形成させる
    工程からなる、液状動物性無水脂肪中に存在し、タンパク質を含まない純粋な脂質成分からなる遊離脂肪酸を減少させ、加工動物性脂肪を生成させるための方法。
  • さらに当該動物性脂肪をβ-シクロデキストリンと混合して、当該動物性脂肪中に存在するコレステロールを除去する、請求項1記載の方法。
  • さらに当該動物性脂肪をβ-シクロデキストリンと段階(a)及び(b)の後、且つ当該IFASの分離前に混合する、請求項1記載の方法。
  • 当該塩基が水酸化カリウムである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  • 当該アルカリ土類金属塩が塩化カルシウムである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  • 当該塩基が水酸化カリウムであり、FFAに対する水酸化カリウムのモル比が0.5−5:1であって、当該アルカリ土類金属塩が塩化カルシウムであり、CaCl 2のFFAに対するモル比が約0.25−10:1である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  • 塩基のFFAに対するモル比が約0.5−5である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  • 当該IFASを遠心分離により分離する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  • 当該反応混合物に液状の植物油を添加する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  • 当該反応混合物に液状の植物油を水に対して約0.15:1と1:2の間の重量比で添加する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  • 当該塩基が水酸化カリウムであり、水酸化カリウムとFFAのモル比が0.5−5:1であり、当該アルカリ土類金属塩が塩化カルシウムであり、CaCl 2とFFAのモル比が約0.25−10:1であり、当該温度が約0−55℃であり、塩基のFFAに対するモル比が約0.5−5であり、当該混合を5−35分間行い、当該IFASを遠心分離により分離する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  • 当該塩基が水酸化カリウムであり、水酸化カリウムのFFAに対するモル比が0.5−5:1であり、当該アルカリ土類金属塩が塩化カルシウムであり、CaCl 2のFFAに対するモル比が約0.25−10:1であり、当該温度が約0−55℃であり、塩基のFFAに対するモル比が約0.5−10であり、当該混合を5−35分間行い、当該IFASを遠心分離により分離し、当該反応混合物に液状の植物油を添加する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  • シクロデキストリンのコレステロールに対するモル比が約4.7−6.4:1である、請求項2記載の方法。
  • さらに当該動物性脂肪をシクロデキストリンと混合して当該動物性脂肪中に存在するコレステロールを除去し、当該IFAS及び当該コレステロール及びシクロデキストリンを遠心分離により分離する、請求項1記載の方法。
  • 当該塩基が水酸化カリウムであり、水酸化カリウムのFFAに対するモル比が0.5−5:1であり、当該アルカリ土類金属塩が塩化カルシウムであり、CaCl 2のFFAに対するモル比が約0.25−10:1であり、当該温度が約0−55 ℃であり、塩基のFFAに対するモル比が約0.5−5であり、当該混合を5−35分間行い、当該IFASを遠心分離で分離し、液状の植物油を当該反応混合物に添加し、当該動物性脂肪にβ-シクロデキストリンも混合して当該遠心分離中にコレステロールをIFASと同時に除去し、β-シクロデキストリンのコレステロールに対するモル比が4.72−6.4:1である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  • 当該塩基が水酸化カリウムであり、水酸化カリウムのFFAに対するモル比が0.5−5:1であり、当該アルカリ土類金属塩が塩化カルシウムであり、CaCl 2のFFAに対するモル比が約0.25−10:1であり、当該温度が約0−55 ℃であり、塩基のFFAに対するモル比が約0.5−5であり、当該混合を約5−35分間行い、当該IFASを遠心分離により分離し、当該反応混合物に液状の植物油を添加し、当該動物性脂肪にβ-シクロデキストリンも添加して当該遠心分離中にコレステロールを除去し、β-シクロデキストリンのコレステロールに対するモル比が約4.72−6.4:1である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  • 当該加工動物性脂肪を、さらに低脂肪ミルク又は脂肪を含まないミルクの中でホモジナイズしてミルク全体を再構成する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  • 说明书全文

    【0001】
    (発明の分野)
    本発明は遊離脂肪酸(FFA)を減少させ、好ましくはコレステロールを減少させ、動物性脂肪,特に無ミルク脂肪の融点を低下させるプロセスに関するものである。 当該プロセスにはβ-シクロデキストリン及び中和剤である水酸化アルカリ金属(Na又はK),脂肪酸受容体であるアルカリ土類金属塩(Ca又はMg塩)、及び特に低融点の植物油で構成される水性液状処方を使用する。 本発明は、特に動物性脂肪と液状処方との混合物を緩やかに加熱してFFAを沈殿させ、融点を低下させ、コレステロールをβ-シクロデキストリンで包接し、次に当該混合物を遠心分離して脂肪酸及び包接化合物の不溶性塩を除去するプロセスに関するものである。 本発明は特に選択的に当該FFAを、脂質物質(無水ミルク脂肪)を沈殿させずに、又は無水ミルク脂肪の素敵な揮発性の芳香成分(ラクトン)を損なうことなく、無水ミルク脂肪から除去する問題に対処するものである。
    【0002】
    (従来技術の説明)
    血清コレステロール濃度が非常に高く、血圧が高く、心電図(EKG)に異常が存在すると、これらが心臓発作に寄与する重要因子となることは、ずっと前から知られている。 これらの因子が、喫煙,肥満,運動不足の影響よりずっと前に、既に明らかにされていたことは注目すべき事実である。 血清コレステロール濃度の重要性は、もう何年も前から強調されてきた。 そして、心臓血管研究における最も一貫した発見の一つは、コレステロールの血漿濃度が高くなるとアテローム性動脈硬化症が起こり、冠心臓病(CHD)のリスクが高まるという事実であった。 この効果は、通常、血漿低密度タンパク質(LDL;多くのアテローム性脂タンパク質はこれである)の仲介により起こる(Grundy, SM, Am. J. Clin. Nutr. 45, 1168, (1987))。
    【0003】
    高血清コレステロール濃度の主な原因は、遺伝子疾患,異種家族性高コレステロール血症(FH),及び高飽和脂肪値,高カロリー,高コレステロール値の習慣性食餌である。
    【0004】
    健康に関する専門家及び医師の一致した意見は、通常、高コレステロール血症の治療では、先ず食餌の管理を行うことがその第一歩となるということである。 このことは、後で薬剤治療が必要な場合においても当てはまる。 人が移住して食事が変化すると血清コレステロール及びCHDが変化する。 このことは、これらの値の変化に食事が大きな役割を演じていることの確かな証拠となっている(Dyerberg, J., Nutrition Review 44 (4), 125, (1986))。
    【0005】
    コレステロールの消費がCHDの主な要因であるとは思えない。 しかし、Khosla, P.及びHays, KC, Biochim Biophys Acta 1210, 13, (1993)は、過剰のコレステロールを食餌から摂取すると、C 16:0に富む脂肪の代謝に相乗的な効果が現れ、高コレステロール血症の原因となることを報告している。 食餌の中にコレステロールが存在しない場合、脂タンパク質プロフィールが正常な個人においては、C 16:0全血漿コレステロール濃度又はLDL値の上昇原因とはならないのが普通である(Hayes, KC, Food Technology Journal 50 (4), 92-97, (1996)。さらにコレステロールの酸化物は有毒であり、組織培養液中の大動脈平滑筋細胞の変質原因となり、これがアテローム硬化を進行させることも報告されている。
    【0006】
    ミルク脂肪は酸化に対して安定であり、他の脂肪には無い独特の心地よい芳香を有している。 ミルク脂肪は商業的に重要であり、そのために多くの人達の注目を集めてきた。 ミルク脂肪を食品に添加すると、加工性に影響を及ぼすような独特の性質を与える。 ミルク脂肪は良好な必須脂肪酸源であり、高濃度の短鎖脂肪酸を含み、これが消化を容易にする働きを有している(Kennedy, J., Food Technol. 11:76, (1991))。 さらにミルク脂肪は共役リノール酸(CLA)を含有し、その癌抑制に対する潜在能が認識されている(Yeongら, J. Agric. Food Chem. 37, 75-81, (1989))。 CLAは、反芻動物製品中に豊富に含まれ、この点で特異な存在である。 CLAは、雌ウシのコブ胃中における多不飽和脂肪酸(PUFA)の生物水素化過程で形成され、その後ミルクの中へ入り込む(Gurr, MI, Advanced Dairy Chemistry, Lipids; Fox, PF編, p.349, Chapman & Hall社 (ロンドン), (1994))。 ある疫学的研究において、デンマーク コペンハーゲンの都市部とフィンランドの田舎における食習慣を比較した(MacLennan, R.ら, Am. J. Clin. Nutr. 31:S239, (1978)。フィンランドの田舎では、結腸癌の発生率が4分の1しか無いのである。結腸癌の発生率が低いこの地域では、高発生グループと比較して大量のジャガイモ及び全ミルクを消費し、これに対して白パン及び肉の消費量が低かった。ミルク脂肪には高比率の飽和脂肪酸,主にC 16:0 (26.3%)及びコレステロール(0.2−0.4%)が含まれており、結腸癌の発生率が高い地域では、これらの消費量が少ない結果となっていた。これは、ミルク脂肪はダイエットに悪いという認識があったためである。
    【0007】
    多くの天然脂肪の中で、ミルク脂肪はその化学特性及び機能特性において最も変化に富む脂肪である。 ミルク脂肪の融点はその飽和度が上がると高くなり、その脂肪酸成分の鎖長が上がっても高くなる(Walstra, P.ら, Advanced Dairy Chemistry, Lipids (Fox, PF編), 第5章, pp. 179-212, Chapman & Hall社 (ロンドン), (1994))。 ミルク脂肪の融点は、グリセリン分子上における脂肪酸残基の位置によっても影響を受ける(Walstraら, 同書)。 その天然形において、ミルク脂肪は、種々の食物処方に必ずしも適している訳ではない。 例えば、ミルク脂肪の融点範囲は広く、-40−40 ℃にも及んでいる(Walstraら, 同書)。 このために冷蔵庫温度において展延性に富むバターを造ることは困難である。 最近の消費者は、バターのこの性質は好ましくないと考えている。 従って、ミルク脂肪の限られた機能性(注入性及び展延性)故に、現在その新しい使用分野が検討されているところである。
    【0008】
    最適な脂肪が常に自然界から得られるとは限らない。 動物性脂肪は、その自然状態から見ると、その用途は限られている。 しかし、動物性脂肪から望ましい健康特性を有する脂肪を製造することはできる。 そのための原材料として動物性脂肪を見た場合には、当該脂肪は経済的に優れた特性を有していると言える。
    【0009】
    油脂産業は、脂肪分子を改変する新しい技術を探し求めている。 最大の挑戦は、栄養面から、その機能的ニーズを再検討することである。 物理的及び栄養的な性能面から、ミルク脂肪同士又はミルク脂肪と植物油の間でエステル交換反応を行わせると、望ましい融点を持つ製品を得ることができる。 ミルク脂肪をエステル交換させると、トリアシルグリセリン中における脂肪酸の分布状態が変化し、従って、溶融挙動,結晶化及び可塑性など、その物理的性質が変化する。 Christophe, AMらArch. Int. Physiol., Biochem. 86:413 (1978)は、ミルク脂肪を化学触媒を使用してエステル交換反応させることにより、ヒトの血漿コレステロール濃度を低下させることを示した。 エステル交換を行わせたミルク脂肪は、その膵臓リパーゼによる生体外加水分解速度が、天然のミルク脂肪より速まるようである(Christophe, AMら, Arch Int. Physiol. Biochem. 89, B156, (1981))。
    【0010】
    エステル交換反応は、脂肪或いは脂肪と油のブレンド物を、化学触媒の存在下に比較的低温(50 ℃)で30分間加熱することにより行わせることができる(Eckey, EW, Ind. and Eng. Chem. 40:1183, (1948))。 触媒は、当該反応を低温,短時間で完結させるために一般に使用されている。 アルカリ金属及びアルカリ金属アルキレートが有効な低温触媒であり、その中でもメトキシ化ナトリウムが最も広く使用されている。 脂肪をその融点よりほんの少し低い温度で加熱して行う指向性エステル交換反応は、飽和脂肪酸を脂肪から結晶化した三飽和グリセリドの沈殿として除去し(Eckey, EW, Ind. and Eng. Chem. 40:1183, (1948))、従って栄養学的な性質(飽和:不飽和の脂肪酸比)を改良する手法として有用である。 Eckeyは、25%の飽和脂肪酸を含有する綿実油から、19%の三飽和グリセリドを除去することに成功した。 当産業界においては、指向性エステル交換反応を用いてラードの品質を改良することが広く行われてきた(Hawley, HK及びHolman, J., Am. Oil Chem. Soc. 33:29, (1956))。
    【0011】
    それにも拘わらず、エステル交換反応がミルク脂肪産業に適用されたことはこれ迄には無かった。 ミルク脂肪の風味並びにミルク脂肪中のFFAを除去して精製及び脱臭を行う上において有害であるということから、その可能性が限定されていたからである(Frede, 1991; Bulletin of the International Dairy Federation No. 260/1991)。 FFAが一旦生成すると、これが活性触媒を消費又は不活性化する。 Sreenivasan, B., J. Am. Oil Soc. 55:796, (1978)は、酸価(AV)0.1は、1000ポンドの油に含まれるメトキシ化ナトリウム0.1ポンドを毒する可能性があることを報告している。 このように、FFAを無水ミルク脂肪から除去する段階は、エステル交換反応を行わせる前の重要な段階である。 さらに、FFAはエステル化された脂肪酸より酸化され易く、従ってミルク脂肪が「苦み」のある無風味な酸化臭を持ち易くなってしまう可能性がある。
    【0012】
    米国特許第5,382,442号(Perlmanら, 1995)には、ブレンド工程により植物油,魚油又は動物性脂肪の酸化安定性を改良する方法が述べられている。 当該脂肪ブレンド物は、植物油又は魚油及びコレステロール分を低減させた動物性脂肪から成っており、ミリスチン酸1部に対して約2部及び約9部のリノール酸で構成されている。
    【0013】
    油脂の精製及び脱臭は、油脂産業において、FFA除去の目的で非常に広く使用されている手法である。 欧米において多くの精製業者が使用しているアルカリ精製法(Braae, B., J. Am. Oil Chem. Soc. 53:353, 1976; Carr, RA, J. Am. Oil Chem. Soc. 53:347, (1976))は、脂肪又は油を75−90 ℃に加熱し、次にこれを油の種類(綿実油,大豆油,トウモロコシ油,椰子油,紅花油,落花生油)により12−18度Be'の水酸化ナトリウム濃縮カセイ溶液で30秒間(短時間混合プロセス)又は28度Be'の水酸化ナトリウムで0.2秒間(超短時間混合プロセス)で処理することから成っている。 これらのプロセスをミルク脂肪に使用した場合、ミルク脂肪の主要芳香成分であるラクトンに対して非常に有害である。 ラクトン(γ又はδ)はγ又はδ-ヒドロキシ酸の環状エステルであり、濃カセイ溶液の存在下に速やかに加水分解されてヒドロキシ酸の開放鎖塩を生成する。 その結果、反応時間が短く、カセイ溶液の濃度が高く、反応温度の高い従来技術によるプロセスをミルク脂肪に適用することはできない。
    【0014】
    油脂産業において非常に広く使用されている脱臭操作は、スチームを高真空(3−10 torr)下で200−275 ℃の高温油に吹き込む工程から成っている。 脱臭プロセスにより、同時にFFA,可溶性ビタミン(A,E,D,K),モノグリセリド,ステロール,及びカラテノイドなど幾つかの着色成分が除去される。 その用語が示すように、脱臭操作により油脂が持つ芳香及び風味が完全に除去され、何の刺激も無い最終製品が出来上がってしまう。 この状態はミルク脂肪としては極端に好ましからざる状態である。 従って、水酸化アルカリの濃厚溶液を使用するミルク脂肪の精製及び脱臭は、FFA含有量を低下させ、ミルク脂肪の素敵な揮発性の風味,芳香,及びビタミンを失わせる。 こうなっては折のミルク脂肪も、他の安っぽい原材料と同じ類に成り下がってしまう。
    【0015】
    米国特許第3,560,219号(Attebery)には、アルカリ性の条件下で金属塩を使用し、チーズ乳漿などの水性食品中で溶解脂質を沈殿させる方法について述べられている。 しかし、このプロセスでは、食品中に存在する全脂質が沈殿してしまうので、この方法により遊離脂肪酸だけを選び出すことはできない。 従って、このプロセスを無水ミルク脂肪などの純脂質から成る食品に使用することはできない。
    【0016】
    このように従来技術において、ミルク脂肪自体を沈殿させること無く又は素敵な揮発性ミルク脂肪の芳香成分を損なうこと無く、ミルク脂肪からFFAを除去する必要性が認識された。 ヒトの食餌に関してそのコレステロール含有量に対する関心が高まりつつあるが、これにより、食品加工業者がミルク脂肪からコレステロールを低減させる幾つかの手法を開発するに至った。
    【0017】
    (ミルク脂肪中のコレステロールを酵素により低減する方法)
    NADPHの存在下にコレステロール レダクターゼの触媒作用により、コレステロールをコプロスタノールに変換することができる。 コプロスタノールは、吸収されること無く身体の中を通過する(MacDonald, IAら, J. Lipid Res. 24:675, (1983); 「今日に至るまで、大きな成功は得られていない」)。 37 ℃においてコレステロール オキシダーゼでミルクを処理したところ、3時間以内にコレステロール濃度が78%に低下した(Smith, M.ら, Journal of Agricultural and Food Chemistry 39:2158, (1991))。 しかし、この方法で生成するコレステロールの酸化物には毒性があることが報告されている(Peng, SK及びMorin, RJ,「コレステロール酸化物の生物学的影響」, CRC Press社 (Boca Raton, Ann Arbor, London, 1991)。無水ミルク脂肪にこれらのプロセスを適用するのは、余り実際的な方法とは言えない。
    【0018】
    (短絡蒸留〔SPD〕)
    SPDは、事実上ガスが存在しない空間(例えば真空中)へ分子を蒸発させるプロセスである。 その制御因子は、分子が蒸留液体の加熱表面から逃散して氷冷されたコンデンサー表面により受け取られる速度である。 ビタミンA及びE、ステロール並びに揮発性成分を天然油から除去し、モノグリセリド及びジグリセリドを脂肪酸から分離する操作は、化学薬品及び医薬品分野以外では食品関連用途で行われている。 Arulら(J. Am. Oil Chem. Soc. 65:1642, 1988)は、温度245 ℃及び265 ℃、圧力220及び100 mm Hgにおいて、SPDによりミルク脂肪を4分画に分別した。 室温において、その中の2分画が液体,1分画が半固体,1分画が固体であった。 天然のミルク脂肪にはコレステロールが2.6 mg/g脂肪の濃度で含まれ、当該液体分画にはコレステロールが16.6 mg/g-脂肪の濃度で含まれていた。 これに対して固体分画のコレステロール含有量は0.2 mg/g脂肪であった。 ミルク脂肪のSPDは、ミルク脂肪から化学的及び物理的性質の異なる分画を得る機会を提供する。 しかし、この手法には大きな欠点も存在する。 即ち、(1)コレステロール低減が観察された低収量の分画が固体であること;(2)高温を使用するので、例え真空下で蒸留しても、トリアシルグリセリン,特に不飽和度の高いトリアシルグリセリンが分解又は重合してしまう可能性があること;及び(3)資本投資額が大きいことなどである。
    【0019】
    (超臨界流体抽出〔SFE〕)
    このプロセスにおいては、製品を高密度,低粘度,及び低表面張力のガス(通常は二酸化炭素)を使用し、高温高圧下で処理する。 この手法は、タンパク質から脂質を除去し、種々の食品に含まれるコレステロールの量を低減させ、コーヒー及び紅茶からカフェインを除去し、ホップから苦味のある芳香性化合物を除去する目的で使用されてきた。 この手順には、潜在的毒性を有する溶剤を使用せず、毒性のある副産物が生成しないという利点がある(Friedrich, JP及びPryde, EH, J. Am. Oil Chem. Soc. 61:223 (1984))。 ArulらJ. Food Sci. 52:1231-1236 (1987)は、10−35 MPa及び50−70 ℃において、ミルク脂肪を8つの異なる分画に分別した。 彼らは、コレステロールが低融点及び中間融点分画に濃縮される傾向にあることを見いだした。 Lim, S.及びRizvi, SSH, J. Food Science 61 (4):817-821, (1996)は、工程収率88.5%で、92.6%の全コレステロールの低減を達成した。 この場合、抽出は40 ℃, 24.1−27.5 MPaで行った。 超臨界二酸化炭素を溶媒として使用すると、これが無差別な溶解性を示し、トリアシルグリセリンの中にもコレステロールとともに抽出されるものがあり、そのために、ミルク脂肪の正常な芳香バランスが攪乱される可能性がある。 コレステロール濃度の低減操作においては、これが主な欠点となる。
    【0020】
    (真空水蒸気蒸留)
    ヨーロッパでは、油の脱酸性及び脱臭を行う目的で真空水蒸気蒸留が長年に亘り行われてきた。 この手法は、超過熱状態の水蒸気を高真空下で200−275 ℃に加熱した油の中に吹き込む操作である。 General Mills, Inc.(米国ミネアポリス)は、バター油のコレステロール低減及び脱酸性化を、真空水蒸気蒸留により同時に行うプロセスについて開示している(Manchester及びFine, 米国特許第4,804,555号, 1989)。 この手法により達成されるコレステロールの除去率は90%であり、収率は95%であった。 この手法の主な欠点は、過熱水蒸気がミルク脂肪中に含まれる揮発性の芳香性化合物を、コレステロール及びFFAとともに完全に取り去ってしまうことである。 バターの素敵な風味が無くなると、ミルク脂肪の品位は他の安物脂肪と同じ水準に落ち込んでしまう。
    【0021】
    (錯体の形成)
    この手法は、ミルク及び酪農製品中のコレステロールを、コレステロール及びそのβ-シクロデキストリン(β−CD)などのエステルを錯体化剤と錯体化して低減させる目的で使用されている。
    【0022】
    シクロデキストリンは、澱粉の酵素分解により得られる環状のオリゴ多糖類である。 シクロデキストリンは、ドーナツ型に環状配列された6個,7個又は8個のグルコース単量体から成っており、これらはそれぞれα,β又はγシクロデキストリンと呼ばれている。 β−CDに吸湿性は無いが、温度30 ℃,相対湿度(RH)86%においては13.6%の水分を含有している(Szejtli, J.ら, Inclusion Compound 3:331, (1984))。 シクロデキストリンは、分子の外縁に存在する遊離ヒドロキシル基のために水に溶解する(Szejtli, J.ら, Inclusion Compound 3, 331, (1984))。 シクロデキストリンの溶解度は温度の関数である。 温度が高ければ高い程、シクロデキストリンの溶解度は高くなる。 β−CDの溶解度は0.5 ℃においては0.8%であるが、90 ℃においては39.7%まで増加する。 内部空洞が疎水性であるために、シクロデキストリンは芳香族アルコール,脂肪酸及びそのエステル並びにコレステロールなどの分子と錯体を形成することができる。 β−CDはミルク脂肪中のコレステロールを低減させる用途に使用されてきたが、それには幾つかの理由がある。
    【0023】
    1−β−CD内部空洞の相対的サイズ及び形状により、遊離コレステロール及びエステル化コレステロールと良好な状態で錯体化できること;
    2−β−CDの工業規模の生産が実現したこと;
    3−過去10年間にβ−CDの毒性に関して集中的に研究が行われ、これによりその食品添加剤としての安全性が保証されたこと。
    【0024】
    現在、シクロデキストリンが使用されている用途は下記の通りである。 即ち、
    (1)病原菌,昆虫,及び雑草を駆除する農業用化合物の揮発性を制御する;
    (2)医薬品(医薬,ビタミン),芳香剤,及びスキンケア ローションに添加し、これらの薬品を包み込んでその安定性を改良する;(3)清涼飲料水及び加工食品の色,臭い,及び香りの安定性を高める(Szejtli, J., Inclusion Compound 3:311 (1984))。
    【0025】
    与えられた分子が錯体を形成できるかどうかを決める最も重要な変数は、シクロデキストリンの空洞に対するその相対的な疎水性,相対サイズ及び形状である(Szejtli, J., Inclusion Compound 3, 331, (1984))。 水に溶解させた場合、シクロデキストリンの分子は自分より小さな宿借分子、又は水より親水性の低い分子の官能基を、その内部空洞の中に取り込むことができる(Szejtli, J., Inclusion Compound 3, 311, (1984))。 水溶液においては、極性がやや低いシクロデキストリンの空洞が水分子により一旦占拠される。 しかし、この反応はエネルギー的には起こりにくい反応である(極性−非極性相互作用)。 従って、これらの水分子は、例えば「コレステロール又はFFA及びそのエステル」(水と比較してこれらの極性は低い)のような適切な宿借分子により容易に置換される(Szejtli, J., Inclusion Compound 3:311, (1984))。
    【0026】
    ラットに対して最高1.6 g/kg-体重/日、イヌに対して最高0.6 g/kg-体重/日のβ−CDを与え、6カ月間に亘りその経口慢性毒性を試験した(Szejtli, J., Inclusion Compound 3:311, (1984))。 体重増加,食物消費,及び臨床−生化学的測定値に対する影響は認められなかった。 又、β−CDは胚毒性効果を示さなかった。 このように、経口投与した場合において、β−CDは無毒物質であると考えることができる(Szejtli, J., Inclusion Compound 3:311, (1984))。
    【0027】
    米国特許第4,880,573号(Courregelongueら, 1989)は、10% β−CDを使用して、無水ミルク脂肪から41%のステロールを除去する方法について述べている。 EP-A1-0 326 469(Bayolら, 1989; ヨーロッパ特許)は、80%のΔ 4-コレステン-3-オンを無水ミルク脂肪から除去できることを指摘している。 米国特許第5,232,725号(Roderbourgら, 1993)は、錯体化剤としてβ−CDを使用し、動物性脂肪から単一操作で37%以上のコレステロールを遊離脂肪酸とともに除去するプロセスについて述べている。 米国特許第5,264,241号(Grailleら, 1993)は、β−CDを使用して、クリームから50%のコレステロール及び52%のFFAを同時に除去する方法について報告している。 米国特許第5,223,295号(Maffrandら)は、ステロイド化合物を水性媒体中で5時間攪拌してシクロデキストリンにより錯体化させることにより、動物性脂肪からコレステロールを除去するプロセスについて述べている。 このプロセスは比較的長時間を要するだけでなく、単一操作によるコレステロール含有量の減少幅も小さい。 米国特許第4,980,180(Cullyら, 1990)は、β-アミラーゼを使用して、β−CDを卵原料から除去する方法について述べている。 この特許は、シクロデキストリンの除去が不完全であることに問題があることを認めている。 オーストラリアにおいては、Okenfullら (1991; PCT W091/11114) がSIDOAKと呼ばれる酪農製品のコレステロール低減プロセスを発明している。 このプロセスは、ミルクにβ−CDを添加して10 ℃より低い温度で混合するプロセスから成っている。 コレステロールとβ−CDの不溶性錯体は、遠心分離によりこれを除去している。 得られたコレステロールの最大減少幅は80−90%であった。 Yen, CG及びTsai, LJ(J. Food Sci. 60:561, 1995)は、10% β−CDを使用することにより、95%のコレステロールが50%のFFAと同時にラードから除去されることを示した。 米国特許第5,484,624号(Awadら, 1996)では、β−CDを使用して、卵黄に含まれるコレステロール濃度を96%低下させている。 このプロセスにおいては、希釈した卵黄(9<pH<10.5)をβ−CDとともに50 ℃で10分間混合する。 β−CDとコレステロールの錯体は媒体から遠心分離によりこれを除去する。
    【0028】
    動物性脂肪中のコレステロール及びFFAを減少させるために開発された全てのβ-CDプロセスから得られる総括的な結論は、このプロセスには今だにその改良余地が存在するということである。 エステル交換反応により無水ミルク脂肪を修飾して、その栄養学的及び機能的な性質を改良する方法においては、FFA含有量が高いためにこれが触媒を毒してしまい、これが今だに当該方法の制約となっている。
    【0029】
    従来の技術において、このようにミルク脂肪をエステル交換反応法又はブレンド法によりそのコレステロール含有量を減少させる場合、少なくともミルク脂肪に含まれる揮発性の芳香成分(特にラクトン)を損なうこと無くコレステロールとFFAを同時に減少させるプロセスを開発することが必要であり、それが無い限り脂肪製品の製造において競争力を持ち得ないであろうことが認識されている。 ミルク脂肪の溶融範囲が-40−40 ℃(Walstraら, 同書)と広いことが、冷蔵庫温度で展延性を有するバターの製造を困難にしている。 冷蔵庫温度における展延性は、バターが持つべき好ましい性質として、近年多くの消費者がこれを求めている。 従って、ミルク脂肪の新しい用途分野は、その機能性(注入性及び展延性)に問題が残されているために、依然として制約を受けたままの状態が続いている。 ミルク脂肪を物理的に分別して種々の分画に分けることにより、その溶融性は適度に改良された。 しかし、この公知プロセスには長時間を要し、コストが嵩む飽き飽きするようなプロセスである。 分画法のもう一つの欠点は、ミルク脂肪の正常な芳香バランスが乱されることである。 従って従来技術には、融点が低く軟らかで、冷蔵庫温度でも展延性のあるミルク脂肪を造れるようなプロセスの出現が必要であり、このことは広く認識されている。
    【0030】
    (目的)
    動物性脂肪,特にミルク脂肪から遊離脂肪酸(FFA)を除去できるような改良プロセスを提供することが、本発明の目的である。 さらに、動物性脂肪からコレステロールが除去されるようなプロセスを提供することも、本発明の目的である。 さらに、動物性脂肪の融点を低下させるようなプロセスを提供することも、本発明の目的である。 さらに、安価に実施でき、芳香を逃がすことなく動物性脂肪の中に保存することができ、従来から存在する設備をそのまま使用して容易にその大容積を完全シールできるようなプロセスを提供することが、本発明の目的でもある。 下記の記述及び図面を参照することにより、本発明のこれら目的及びその他目的が、次第に明らかとなるであろう。
    【0031】
    (発明の要約)
    本発明は、無水液状動物性脂肪中に存在する遊離脂肪酸(FFA)を減少させ、加工動物性脂肪を生成させるプロセスに関するものであり、下記の反応ステップで構成される:(a)液状動物性脂肪中の遊離脂肪酸と、水酸化カリウム,水酸化ナトリウム及びこれらの混合物から成るグループから選ばれた水酸化アルカリ金属の水溶液とを高温で混合して反応させ、液状動物性脂肪中に存在するFFAを可溶性の脂肪酸塩(SFAS)に変えた反応混合物を提供し;
    (b)当該SFASを当該反応混合物中でステップ(a)と同時又はステップ(a)の後でアルカリ土類金属塩と反応させて、当該SFASに不溶性の脂肪酸塩(IFAS)を形成させ;
    (c)当該IFASを当該反応混合物から分離して加工動物性脂肪を形成させる。
    【0032】
    特に、本発明はβ-シクロデキストリンを使用してコレステロールを遊離脂肪酸とともに除去する方法に関するものでもある。 さらに本発明は、植物油を加工動物性脂肪とともにブレンド物に添加し、ブレンド物の融点を低下させる方法に関するものでもある。
    【0033】
    (好ましい態様の説明)
    本発明は、水性液状処方のβ-シクロデキストリンを使用して、FFA,並びに好ましくは融点を低下させ、且つ無水ミルク脂肪中のコレステロール量を減少させるプロセスを提供するものでもある。 当該水性液状処方は、水酸化アルカリ金属(Na, K),アルカリ土類金属(Ca及びMg),及び低融点植物油の混合物から成っている。 当該液状処方は、単一操作で目標を達成する目的で特に設計され、このことが本発明に対して、従来技術によるプロセスに比べて多くの利点を与えるものである。 本プロセスにおいては、ミルク脂肪の芳香を損なわないように、非常に温和な実験条件下に、脂肪受容体として非常に希薄な濃度(0.023−0.058%)の水酸化アルカリ金属(Na又はK)並びにカルシウム又はマグネシウム塩を滴加し、無水ミルク脂肪中のFFAを選択的に沈殿させる。 また本プロセスでは、ミルク脂肪中に存在する遊離脂肪酸に対して化学量論量の水酸化アルカリ金属を使用し、ミルク脂肪自体を沈殿させ又は損なってしまうこと無く、遊離脂肪酸を選択的に除去する。 本プロセスでは、ミルク脂肪の損失を抑え、収率を向上させ、コレステロールの減少幅を増加させる目的でアルカリ土類金属を使用する。 本プロセスにおいては、低温で比較的長時間の反応を行わせてFFAを減少させる。 この条件がミルク脂肪の芳香成分であるラクトンを逃がすことなく、これを有効に保護してくれる。 本プロセスはコレステロールの錯体化剤としてβ-CDを使用し、同時に無水ミルク脂肪中のコレステロール量を減少させ、その融点を下げ、FFA量を低下させることができる。 本プロセスは、商業的に可能な時間範囲内において、動物性脂肪中に含まれるコレステロール量,FFA量及び融点を著しく低下させる。
    【0034】
    (材料及び方法)
    商業グレードの無塩バター,脂及びラードは、地域の食品店から入手した。 55 ℃で溶かし、5000 xg,室温で10分間遠心分離し、最上部の脂肪層をホワットマン1号濾紙を通して濾過して、無塩バターを無水ミルク脂肪(AMF)に変換した。 当該AMFを-20 ℃で保存し、その後にこれを使用に供した。
    【0035】
    AOAC公式分析法 (公式分析化学者協会:Association of Official Analytical Chemists,ワシントンDC), 第16版, 994.10, 1995の手順に従って、全コレステロールを抽出してこれを定量した。 ヒューレット パッカード社(ペンシルバニア州アボンダール)製5890A ガスクロマトグラフ(GC)に水素炎イオン化検出器,及び0.1 μm厚のDB−1(100% メチルポリシロキサン)フィルムをコーティングして調製した溶融シリカ キャピラリカラム(15 mx 0.25 mm; J & W Scientific社, カリホルニア州フォルソム)を装備し、これを使用して、全コレステロールを誘導体化せずにそのままの形で定量した。
    【0036】
    FFAは、AOAC公式分析法 (公式分析化学者協会,ワシントンDC), 第16版, 996.17, 1995の手順に従ってこれを定量した。
    【0037】
    統計学的解析は、第二水準モデル対応のソフトウェア パッケージ〔SAS Institute, Inc.(ノースカロライナ州ケーリー)〕, SASユーザーガイド第5版(1985),及びジェネレート レスポンス サーフェス プロット(Sigma社, 199?)を使用してこれを実施した。 各応答(Y)に対して提案されたモデルは、下式の通りであった。
    Y=B o + ΣB ii + ΣB iii 2 + ΣB ijij
    ここに、B o , B i , B ii , B ijは定数であり、本モデルの回帰変数である。 X iはコード化独立変数である。 ある変数を完全回帰から除外する場合、R 2値及びf−テストの有意性に基づきこれを実施した。
    【0038】
    (プロセスの開発)
    FFAの除去プロセス無水ミルク脂肪(AMF)からFFAを除去する優先的プロセスの概要を、図1に示す。 このプロセスは、低濃度のアルカリ溶液及び低温(40−50 ℃)を使用し、反応に比較的長時間をかけて実施される。 この点、本発明は、(綿実油、トウモロコシ、大豆及びヤシ油における)従来技術とは対照的である。 従来技術においては、濃アルカリ溶液(12−28度Be'),高温(75−95 ℃),及び短時間反応(0.2−30秒)を使用する。 次に、各ステップに関する理論について記す。 本発明プロセスにおける精製用溶液は、本プロセスにおいて精製ステップを成功させる場合の鍵となる重要因子である。 当該精製用溶液は、水酸化アルカリ金属(Na又はK)及びCa又はMgの塩化物から成る水性混合物である。
    【0039】
    (例1)
    水酸化アルカリ金属の希薄溶液(KOH:FFAモル比=1)をFFA(1)又はそのエステル(2)と反応させると、下記の反応が起こる。
    RCOOH + KOH = RCOOK + H 2 O (1)
    RCOOR'+ KOH = RCOOK + R'OH (2)
    KOHの量は、AMFに含まれるFFA量の関数である。 KOH:FFAのモル比を1にすることにより、図1に示した実験条件下において、当該媒体中に存在する全てのFFAを充分に中和することができる。 アルカリ溶液を過剰に使用すると、中性脂肪まで鹸化して損ねてしまい、収率にとって非常に有害である。 アルカリ溶液を過剰に使用すると、過剰のOH -が下記2つの反応によりラクトンを加水分解させて対応するヒドロキシ酸に変えてしまうので、芳香に対しても非常に有害である。

    【0040】


    KOH:FFAモル比がFFA及び収率の減少に対して与える影響を、図2に示す。


    【0041】


    (比較例2)


    図1に示したプロセス概要に従い、FFA0.293%を含む無水ミルク脂肪10 (g)を、先ずCaCl

    2 0.763%を含むdH

    2 O10 mLと混合した。 CaCl

    2溶液のpHは、水酸化カリウムでアルカリ側(pH=7.5−8.5)に調節した。 アルカリ側のpHで得られた遊離脂肪酸の減少量は20%を下回っており、水酸化カリウムをCaCl

    2より後で添加することは適切でないことが分かる。


    【0042】


    (比較例3)


    図1のプロセス概要に従い、FFA0.293%を含む無水ミルク脂肪10 (g)を、CaCl

    2 0.763%を含むトリス−HCl緩衝液10 mLと混合した。 緩衝液のpHは、7.5から8.5まで変化させた。 アルカリ性pHにおいて得られた遊離脂肪酸の減少量は35%を下回っていた。 この結果は、例2と同様である。


    【0043】


    (例4)


    CaCl

    2 :FFAのモル比がFFA量の減少及び収率に及ぼす影響を、図3に示す。 Ca又はMgの塩化物をカルボキシレートの受容体として使用した。 これらの塩化物が持つ下記能力を利用するために、これら塩化物を精製用溶液に添加する必要があった。 即ち、


    (1)カルボキシレートと反応して不溶性塩(石灰石と類似の塩)を生成し、従ってその媒体から遠心分離により効率的にこれを分離することができるようになる;


    (2)可溶性のK又はNa石鹸と反応して不溶性石鹸を形成し、乳化による中性脂肪の損失を最低限に抑え、従って収率を向上させる;


    (3)FFA及びKOHの減少幅を相乗的に増加させる;


    (4)下記反応の発生を抑制することによりFFA量を減少させる。


    RCOO

    - + H

    2 O−−−→ RCOOH + OH

    -


    ←−−−


    カセイ溶液はその過剰ヒドロキシル基が収率及び芳香に対して有害作用を及ぼすので、カセイ溶液ではなくCaCl

    2又はMgCl

    2による過剰カチオンの存在が必要である。


    【0044】


    (例5)


    精製用溶液のAMFに対する重量比は、乳化による損失が発生するために、収率にとって重要である。 しかし、図1に示した実験条件下においては、AMFに対する精製用溶液の重量比を種々に変化させても、図4に示すように、収率の著しい低下は起こらなかった。


    【0045】


    (例6)


    混合速度がFFAの減少及び収率の低下に及ぼす影響を、図5に示す。 精製用溶液をAMFに添加した後で混合物を完全に混合して、精製用溶液中の溶質とFFAとを確実に接触させるべきである。 この工程で使用したミキサーは、LIGHTNIN LAB MASTER, モデルL1U03, インペラー型 A100(直径:1インチ)であった。


    【0046】


    (例7)


    図6に示すように、全てのヒドロキシル基(OH

    - )がFFAにより消費され、中和された。 混合時間及び混合温度は、収率にとって非常に重要である。 濃厚なカセイ溶液の存在下,高温で長時間混合すると、過剰のカセイ化合物が中性油を鹸化してしまうので、当該鹸化による損失量が増大する。 油用に使用される従来プロセスにおいては、高カセイ濃度及び高温において、鹸化による損失を防ぐために非常に短時間の混合を行ってきた。 しかし、本発明においては、非常に希薄なカセイ溶液(FFA:KOHのモル比=1)の濃度,及びAMFを精製用溶液で完全に溶融させて微細なエマルションを創るのに充分な低温を使用し、広範囲の混合時間(1−10分間)について試験を行った。 しかし、収率への影響は認められなかった。


    【0047】


    (例8)


    先ず、試験に使用した遠心分離力について、その範囲を図7に示す。 得られた石鹸を、遠心分離により媒体から分離した。 AMFが結晶化して石鹸の分離度が低下しないように、当該混合物は直ちにこれを遠心分離することが好ましい。 遠心分離は迅速且つ高効率でこれを行うことができた。


    【0048】


    (例9)


    FFA 2.07%を含む牛脂10 (g)を精製用溶液(KOH 0.412%及びCaCl

    2 5.409%)10 mL及びLIGHTNIN LAB MASTER(SI)ミキサー モデル L1U03, インペラー型 A100(直径:1インチ)を使用し、1800 rpmの混合速度で、温度が70 ℃に達するまで混合した。 温度が70 ℃に達した後、混合速度はそのまま(1800 rpm)にして、直ちにミキサーのタイマーを1分に設定した。 得られた石鹸を、8700 xg,室温,10分間の条件で、直ちに遠心分離した。 FFA量が低下した牛脂を上澄相から回収した。 精製牛脂のFFA含有量は0.08% であった。 96.01%のFFA量低下が達成された。


    【0049】


    (例10)


    FFA0.122%を含むラード10 (g)を精製用溶液(KOH 0.024%及びCaCl

    2 0.326%)10 mLと、LIGHTNIN LAB MASTER(SI)ミキサー, モデル L1U03, インペラー型 A100(直径:1インチ)を使用して、混合速度1800 rpmで温度が50 ℃に達するまで混合した。 温度が50 ℃に達した後、混合速度を同じ値(1800 rpm)に据え置いたまま、直ちにミキサーを1分に設定した。 得られた石鹸を、8700 xgで10分間,室温で直ちに遠心分離した。 FFA量を低下させたラードを上澄相から回収した。 精製ラードのFFA含有量は0.02%であった。 83.60%のFFA量低下が達成された。


    【0050】


    動物性脂肪中のFFA量を低下させるプロセスは、中和剤として水酸化アルキル金属を使用し、脂肪酸受容体としてCa又はMgの塩を使用するプロセスである。 この反応を、希薄な精製用溶液,低温及び比較的に長い反応時間を使用して行わせるというのが、このプロセスの概念である。 油の精製に使用される従来技術によるプロセスと比較して、このプロセスには、大きな実用上の利点に繋がるような多くの特徴がある。 このプロセスは従来技術によるプロセスに比べて効率が高く、AMF中のFFA量を0.02%まで単一工程で低下させることができ、特に脱臭を行う必要も無かった。 このプロセスでは温和な実験条件を使用するので、AMFの素敵な芳香成分,即ちラクトンが失われることも無い。


    【0051】


    (FFA及びコレステロールを除去するプロセス)


    図8に、AMF中のコレステロール及びFFAの量を低下させるために開発したプロセスについて、その概要を示す。


    【0052】


    (例11)


    コレステロール0.395%及びFFA0.293%を含むAMF10 (g)を、1000 rpmで温度が50 ℃に達するまで、精製用溶液(KOH0.0583%及びCaCl

    2 0.763%)10 mLと混合した。 50 ℃において、当該混合物を同じ速度でさらに10分間攪拌しながら、これにβ-シクロデキストリン650 mg(β-シクロデキストリン:コレステロールのモル比=5.58)を添加した。 得られた石鹸及びβ-シクロデキストリン:コレステロール錯体を、8700 xgで10分間、室温で直ちに遠心分離した。 AMF中で減少したコレステロール及びFFAを、上澄相から回収した。 達成されたコレステロール及びFFAの低下幅は,それぞれ54及び92%であった。


    【0053】


    (例12)


    コレステロール0.395%及びFFA0.293%を含むAMF10 (g)を、蒸留水10 mLと、回転速度1000 rpmで、温度が50 ℃に達するまで混合した。 50 ℃において、当該混合物に、同じ速度でさらに10分間,室温で混合しながらβ-シクロデキストリン650 mg(β-シクロデキストリン:コレステロールのモル比=5.58)を添加した。 得られたβ-シクロデキストリン:コレステロール及びβ-シクロデキストリン:FFAの錯体を、8700 xgで10分間,室温で直ちに遠心分離した。 AMF中で減少したコレステロール及びFFAを、上澄相から回収した。 達成されたコレステロール及びFFAの減少幅は、それぞれ54及び49.65%であった。 AMF中のFFAが42.35%も減少したことから、この実験結果は、AMF中のFFA減少量を改良する上で精製用溶液が重要な役割を果していることを示している。 さらに、コレステロールの減少幅が一定値に保たれたことから、当該精製用溶液は、コレステロールとβ-シクロデキストリンの間で錯体を形成する反応には影響を与えなかったことが分かる。


    【0054】


    (例13)


    希望する反応に対して影響を与える因子及び相互作用が数多く存在する場合、当該プロセスの最適化には、応答表面法(response surface methodology:RSM)を有効なツールとして使用することができる(Hunter, 1959)。 このように応答表面法を使用することにより、独立変数(KOH:FFAのモル比,CaCl

    2 :FFAのモル比,混合時間,β-シクロデキストリン:コレステロールのモル比,及び混合速度)の組合せを最適化し、これから得られるコレステロール及びFFA量の低下幅を最大化することができた。 この場合、2種類の応答について測定を行った。 即ち比較対照中コレステロール量に対するサンプル中全コレステロール量の比率を求め、これに100を掛けてコレステロール減少率(%, Y1)とした。 また比較対照中FFA量に対するサンプル中FFA量の比率を求め、これに100を掛けてFFA減少率(%, Y2)とした。 予備実験の結果に基づき、5個の独立変数(表1に示す)をKOH:FFAのモル比,CaCl

    2 :FFAのモル比,混合時間,β-シクロデキストリン:コレステロールのモル比,混合時間とした。 その他の重要な独立変数,即ち温度及び遠心分離の条件(8700 xg, 10分, 室温)についてはこれを固定した。 実験設計においては、5個の因子(5水準の中央複合値)を採用した(John L. Gill,「動物実験及び医療科学実験の設計及び解析」, 第(2)巻, 第9章, ミシガン州立大学, 1993)。 独立変数のコード化値を-2(最低水準),-1.0(中央水準),1.0 及び2(最高水準)とした。 試験で使用した各独立変数に対しては、図8記載の予備試験の結果に基づき、その中央値(0)を選んだ。 表2に示した完全設計は32個の実験点から成っており、その中に中央値の応答が6個含まれていた(0,0,0,0,0)。


    【0055】


    適合性テストを行うために、回帰変動解析(ANOVA)を実施した。 各応答値の変動解析結果並びに対応多重決定係数(R

    2 )及び変動係数(CV)を、表3に示す。 F値及びR

    2値の解析結果から、5個の独立変数中4個(KOH:FFAのモル比,混合時間,β-シクロデキストリン:コレステロールのモル比,及び混合時間)だけがコレステロールの減少率(Y

    1 )に影響を与えているように思われた。 事実、塩化カルシウムを当該モデルから除外したにも拘わらず、R

    2は高い値(0.95)を保ち、F−テストの有意性も<0.001に維持されていた。 当該4個の選択因子の(Y

    1 )に対する推定回帰係数及び当該係数に関する有意性テストの結果を、表4に示す。 また、F値及びR

    2値の解析結果から、5個の独立変数中3個(KOH:FFAのモル比,CaCl

    2 :FFAのモル比,及び混合速度)だけが、FFA量の減少率(Y

    2 )に影響を与えているように思われた。 混合時間,β-シクロデキストリンを除外しても、R

    2は高い値(0.96)を保ち、またF−テストにおける有意性は<0.001の水準を維持していたので、当該モデルへの影響は無かったものと考えられる。 これら3個の選択因子係数に関して(Y

    2 )の推定回帰係数を求め、有意性テストを実施した。 その結果を表5に示す。 当該モデルの中で、適合性の欠如を示した因子は存在しなかった。 両モデルとも満足なR

    2値を示し、F−テストにおいても<0.001の水準で有意性を示したので、これらのモデルは適切且つ使用可能であると考えられた。 このモデルを使用して予測したY

    1値,Y

    2値,及び残差値を、表6及び7に示した。


    【0056】


    〔Y

    1値(コレステロール減少率)に基づく最適化〕


    モデルY

    1は、コレステロール減少率を最大化するために変数変更の方向性を定める場合に有用である。 回帰係数(表4)が有意であることから判断して、コレステロールの減少率に影響を与える最も重要な因子はKOH:FFAのモル比,混合時間,β-シクロデキストリン:コレステロールのモル比,及び混合速度であると考えられる。 これらの因子は、いずれも一次有意性,二次有意性及び二因子相関性を示した。


    【0057】


    (KOH:FFAのモル比)


    KOHを使用してFFAを中和し、これを媒体から除去した。 検討したKOH:FFAモル比の範囲を表2に示す。 勾配が負〔b

    1 =-3.99(表4)〕であることから、KOH量を増やすとコレステロール量の低下幅が、いずれの混合時間又は混合速度においても減少したことが分かった(図9及び10)。 KOH量がコレステロール量の減少に及ぼす負の効果は、媒体中に存在するFFAを石鹸分子に変化させるKOHの能力に起因するものと考えられる。 当該石鹸分子の媒体中濃度(10.39 mM)が臨界ミセル濃度(CMC)を上回っているので、当該石鹸分子は凝集してミセルを形成する。 オレイン酸ナトリウムでは、当該CMCは1.5 mMであると報告されている(Small, DM, Molecular Biology and Biotechnology, Meyers, RA編, 503-511, VCH Publishers, Inc. USA, 1995)。 負に帯電したカルボキシル酸エステル基がミセル表面に突き刺さり、β-シクロデキストリン分子の外縁に存在するヒドロキシル基と水素結合を形成し、コレステロールとβ-シクロデキストリン分子を奪い合う。


    【0058】


    図11に示すように、KOHの負の効果に対抗させるためにβ-シクロデキストリン:FFAのモル比を増大させる方法は、経済的に成り立たない。 応答表面の形状(図11)及び2因子相互作用項の勾配(B

    1

    4 =12.86)が、これら2つの変数間に強い相互作用が存在することを示している。 カルシウム塩は、カルボキシル酸エステルの受容体として作用する。 カルシウム塩の添加により、実験#18及び#19(表2)に示す通り、コレステロール量の低下幅が少なくとも約15%増加した。 カルシウム塩は可溶性のカリウム石鹸と反応して不溶性のカルシウム石鹸を形成し、これにより石鹸のミセルが破壊され、従って石鹸ミセルがコレステロール量の低下に及ぼす有害作用を消してくれる。 本実験範囲内で使用したCaCl

    2 :FFAのモル比は、本モデルに対して著しい影響を与えなかった。 検討したCaCl

    2 :FFAモル比の範囲を、表2に示す。


    【0059】


    (混合時間)


    コレステロール量の減少率Y

    1は、混合時間に対して強い依存性を示した。 正の勾配B

    3 =10.76は、β-シクロデキストリン:コレステロールのモル比又は混合速度を増加した状態でさらに混合時間を延長すると、コレステロール量の低下幅が増加したことを示している(図12及び13)。 検討した混合時間の範囲を、表2に示す。


    【0060】


    (β-シクロデキストリン:コレステロールのモル比)


    理論的に言って、錯体を形成するβ-シクロデキストリンと化合物のモル比は、通常1:1である(Szejtli, J., Inclusion Compound 3:331, (1984))。 但し、化合物の分子量が特に大きい場合には、2個のシクロデキストリン分子と錯体を形成する場合も存在する(Szejtli 1984, 同書)。 検討したβ-シクロデキストリン:コレステロールのモル比範囲を、表2に示す。 コレステロール量の低下はβ-シクロデキストリン:コレステロールのモル比に強い依存性を示した。 正の勾配B

    4 =4.97は、β-シクロデキストリン:コレステロールのモル比の増加とともに、コレステロール量の低下幅が増加したことを示している(図14)。


    【0061】


    (混合速度)


    β-シクロデキストリンとコレステロールを確実に接触させ、水中油エマルションを安定化させるためには、混合速度が重要因子の一つであると考えられる。 温度が50 ℃に到達したら、直ちにβ-シクロデキストリンを添加し、LIGHTNIN LAB MASTER(MS)ミキサー モデルL1U03,及びA100型インペラー(直径:1インチ)を使用して10分間混合した。 コレステロール量の低下は、混合速度に強い依存性を示した。 正の勾配B

    5 =30.44は、コレステロール量の低下幅が、全てのβ-シクロデキストリン:コレステロールのモル比において、混合速度の増加とともに著しく増加したことを示している。 応答表面の形状(図14)は、β-シクロデキストリン:コレステロールのモル比と混合速度の間に強い相互作用が存在することを示している。 検討した混合速度の範囲を、表2に示す。


    【0062】


    〔Y

    2 (FFAの減少率)に基づく最適化〕


    モデルY

    2は、FFAの減少率を最大化するための方向性を示す指標として有用である。 有意回帰係数(表5)から判断して、FFA量の低下に対して影響を与える最も重要な因子は、KOH:FFAのモル比,CaCl

    2 :FFAのモル比,及び混合速度である。 これらの因子は、有意な一次項、二次項,及び2因子相互作用項の存在を示している。


    【0063】


    (KOH:FFAのモル比)


    強度を正確に測定した水酸化アルカリ金属の非常に希薄な溶液をFFAと反応させる(KOH:FFAのモル比:1)場合、下記の反応式に従って反応が進行する。


    RCOOH + KOH → RCOOK + H

    2


    KOHの量は、AMF中に存在するFFA量の関数である。 媒体中に存在する全てのFFAを図8記載の適切な実験条件下で中和するには、KOH:FFAのモル比=1で充分である。 過剰のアルカリ溶液を使用すると、中性脂肪が鹸化して失われるために、収率にとって非常に有害である。 また、過剰のアルカリ溶液を使用すると、過剰の(OH

    - )がラクトンを加水分解して対応するヒドロキシ酸に変えてしまうために、芳香を著しく損ねてしまう。 FFA量の低下はKOH:FFAのモル比に対して強い依存性を示した。 正の勾配B

    1 =24.58は、FFA量の低下幅が、全ての混合速度においてKOH:FFAモル比の増加とともに増加したことをを示している(図15)。 検討したKOH:FFAモル比の範囲を、表2に示す。


    【0064】


    (塩化カルシウム:FFAのモル比)


    カルボキシル酸エステルの受容体として塩化カルシウムを使用した。 精製用溶液に塩化カルシウムを添加することは、下記の理由により非常に重要な意味を持っている。 即ち、塩化カルシウムが(1)カルボキシル酸エステルと反応して不溶性の塩(石灰石類似の塩)を形成し、これにより、遠心分離により媒体から効率良く分離できるようになり;(2)可溶性のK又はNa石鹸と反応して不溶性の石鹸を形成させ、中性脂肪の乳化による損失を最小限に抑え、従って収率が向上し;(3)石鹸のミセルを破壊し、β-シクロデキストリンが負に帯電したミセル表面上で凝集を起こす現象を最小限に抑え、従ってコレステロールの低下幅を改善することができ;(4)相乗的にKOHととともにFFAの減少率を増加させ;(5)カチオンで媒体を飽和させ、下記反応を抑制することによりFFA量の減少幅を改善する。


    RCOO

    - + H

    2 O −−−−→ RCOOH + OH

    -


    ←−−−−


    【0065】


    ヒドロキシル基が過剰に存在すると収率及び芳香に対して有害作用を及ぼすので、過剰のカチオンはカセイ溶液ではなくCa塩によりこれを供給する。 検討したCaCl

    2 :FFAのモル比の範囲を、表2に示す。 塩化カルシウムがFFA量の低下に及ぼす効果は、β-シクロデキストリン自体にFFA量を減少させる能力があるので、媒体中に存在するβ-シクロデキストリンによりこれを推定した。


    【0066】


    (混合速度)


    精製用溶液の溶質とFFAを充分に接触させるには、混合速度が重要な因子である。 本実験範囲内において使用した混合速度は、FFA量の低下幅に対して軽度の影響を及ぼすに止まった(図15)。 正の勾配B

    5 =5.28(図5)は、FFA量の低下幅が混合速度の増加とともに増加することを示している。 検討した混合速度の範囲を、表2に示す。


    【0067】


    (例14)


    1のモデルにおいては、β-シクロデキストリン:コレステロールのモル比を上げ,混合時間を延長し,混合速度を上げると、コレステロールの低下幅が増加することを示している。 また、表2の#4及び#26で使用したこれら3個の独立変数の効果を組み合わせることにより、AMF中のコレステロールを、それぞれ77.30%及び73.70%減少させることができた。 さらにこれらの処理条件を最適化することにより、コレステロール量の減少率を改善することができる。 表2における実験#4で使用したβ-シクロデキストリンの量は、実験#26で使用した量よりも多かった。


    【0068】


    当該プロセスの経済性を考慮に入れ、表2における実験#26について、さらに最適化を実施した。 β-シクロデキストリンの量を増加する方法は経済的に不利である。 混合速度を上げると媒体の粘度が上がり、これにより遠心分離時に収率の問題が起こる可能性がある。 そこで、#26を混合時間に関して最適化した。 検討を行った2個の応答を考慮に入れて混合時間を延長したところ、コレステロール量の減少率をさらに改善できることが明らかになった。 事実、コレステロール量の低下に関する理論的な数学モデルから、約30−35分の混合時間で、コレステロールを完全に除去できることが判明した。


    【0069】


    本発明の主目標は、動物性脂肪中のコレステロール及び遊離脂肪酸の量を単一操作で減らし,融点を下げ,冷蔵庫温度で展延できる健康的な脂肪を製造することにある。 これらの目標は、図16にその概要を示した最終最適化プロセスを使用することにより達成することができる。


    【0070】


    (例15)


    コレステロール0.283%及びFFA0.3%を含むAMF10 (g)を、混合速度1400 rpmで、水:トウモロコシ油の重量比がそれぞれ10:0,11.5:1.5, 13:3,16:6及び20:10の「液状処方」10, 13, 16, 22, 30 (g)と、温度が50 ℃になるまで混合した。 当該「液状処方」はこれを全実験に使用した。 その組成はKOH,CaCl

    2 , dH

    2 O及びトウモロコシ油から成っていた。 種々の成分の比率は下記の通りであった:KOH:FFAのモル比=1:1(固定),FFA:CaCl

    2のモル比=1:5(固定)及び種々の比率のH2O:トウモロコシ油(上記の通り変動)。 50 ℃において、β-シクロデキストリン650 mgを当該混合物に同じ速度(1400 rpm)で30分間攪拌しながら添加した。 得られた石鹸及びβ-シクロデキストリン:コレステロール錯体を、直ちに8700 xg,室温で10分間遠心分離した。 当該修飾無水ミルク脂肪を上澄相から回収した。 コレステロール量及びFFAの融点低下として、表8記載の値が達成された。


    【0071】


    (例16)


    コレステロール0.0796%及びFFA0.547%を含む牛脂10 (g)を、「液状処方」〔KOH 0.108%, CaCl

    2 1.42%, 及び水:トウモロコシ油(重量比=10:0)〕10 (g)と、混合速度1400 rpmで温度が50 ℃に達するまで混合した。 温度50 ℃において、β-シクロデキストリン650 mgを、さらに30分間同じ速度で混合しながら、当該混合物に添加した。 次に、石鹸とβ-シクロデキストリン:コレステロール錯体の分離状態を改善するために、当該混合物を55 ℃まで加熱した。 得られた石鹸及びβ-シクロデキストリン:コレステロール錯体を、8700 xgで5分間,室温で直ちに遠心分離した。 遠心分離機のローターを加熱水浴中で50 ℃に加熱した。 コレステロール及びFFAの含有量が低下した牛脂を上澄相から回収した。 コレステロール及びFFAの達成減少率は、それぞれ100%及び98.16%であった。


    【0072】


    (例17)


    コレステロール0.071%及びFFA0.122%を含むラード10 (g)を「液状処方」〔KOH0.024%及びCaCl

    2 0.326%及び水:トウモロコシ油(重量比=10:0)〕10 (g)と、混合速度1400 rpmで温度が50 ℃に達するまで混合した。 温度50 ℃において、β-シクロデキストリン650 mgを同じ速度でさらに30分間混合しながら当該混合物に添加した。 得られた石鹸及びβ-シクロデキストリン:コレステロール錯体を、8700 xgで10分間,室温で直ちに遠心分離した。 コレステロール及びFFAの量を低下させた当該ラードを、上澄相から回収した。 コレステロール及びFFAの達成減少率は、それぞれ100%及び95.5%であった。


    【0073】


    本発明のプロセスは、中和剤として水酸化アルカリ金属,カルボキシル酸エステルの受容体としてカルシウム塩,錯体化剤としてβ-シクロデキストリン,及び低融点植物油を使用して、動物性脂肪のFFA量,コレステロール量,及び融点を低下させ、コレステロールを含有せず、冷蔵庫温度において展延性を有する無水ミルク脂肪を製造するプロセスである。 本プロセスの概念においては、希薄な「水性処方」,低温,及び比較的に長い反応時間を使用する。 当該プロセスは、ミルク脂肪中のコレステロール量及びFFA量を低下させるために使用する従来技術プロセスに比して、実際的な側面で大きなメリットが得られるような多くの属性を有している。 当該プロセスではコレステロールを単一操作により完全に除去することができるので、その効率は高い。 達成されたコレステロール低下率は、従来技術による減少率に比して少なくとも約20%高かった。 観察されたFFAの減少率は92.40%を上回った。 この値は、従来技術のプロセスより45%以上高い。 当該プロセスは、我々の目標全てを単一操作で達成することができるので、経済性が高く能率的である。 このことは、従来技術プロセスに比して優れた多くのメリットを当該プロセスに与えている。 当該プロセスは、AMFが空気に触れて酸化劣化を起こすことが無いように、密閉系でこれを実施することができるであろう。 当該プロセスにおいては、高価な特定資本設備を使用する必要は無い。 当該プロセスでは、加熱及び混合を行った後で遠心分離を行うだけである。


    【0074】


    FFA又はコレステロールを含まない当該加工動物性脂肪は、低脂肪又は脂肪を含まないミルクの中でこれをホモジナイズし、全ミルクに再構成することができる。 当該製品は、チーズ又はアイスクリームの製造にこれを使用することができる。


    【0075】


    前記の記述は、単に本発明に関して説明を行う目的で行ったものである。 本発明の範囲を限定するものは、付属の「特許請求の範囲」のみである。


    【図面の簡単な説明】


    【図1】 無水動物性脂肪(AMF)からFFAを除去する優先的プロセスを示すフローチャートである。 精製用溶液は、蒸留水,KOH及びCaCl

    2から成っている。 KOH:FFAのモル比は1:1である。 CaCl

    2 :FFAのモル比は5:1である。


    【図2】 KOH:FFAモル比がFFA量の低下並びに収率に及ぼす影響を示すグラフである。 CaCl

    2 :FFAのモル比は5,精製用溶液:AMF(重量比)は1,混合時間は1分,混合速度は1800 rpm, 温度は50 ℃であり、遠心分離は1085 xgで10分間, 室温で行った。


    【図3】 CaCl

    2 :FFAのモル比がFFA量の低下及び収率に及ぼす影響を示すグラフである。 KOH:FFAのモル比は1,精製用溶液:AMF(重量比)は1,混合時間は1分,混合速度は1800 rpm, 温度は50 ℃であり、遠心分離は1085 xgで10分間, 室温で行った。


    【図4】 AMF:精製用溶液(重量比)がFFA量の低下及び収率に及ぼす影響を示すグラフである。 KOH:FFAのモル比は1,CaCl

    2 :FFAのモル比は5,混合時間は1分,温度は50 ℃, 混合速度は1800 rpmであり、遠心分離は1085 xgで10分間, 室温で行った。


    【図5】 混合速度がFFA量の低下及び収率に及ぼす影響を示すグラフである。 精製用溶液:AMFの重量比は1,混合時間は10分,温度は50 ℃, FFA:KOHのモル比は1,CaCl

    2 :FFAのモル比は5であり、遠心分離は1085 xgで10分間, 室温で行った。


    【図6】 混合時間がFFA量の低下及び収率に及ぼす影響を示すグラフである。 FFA:KOHのモル比は1,CaCl

    2 :FFAのモル比は5,精製用溶液:AMFの重量比は1,混合速度は1800 rpm,温度は50 ℃であり、遠心分離は8700 xgで10分間, 室温で行った。


    【図7】 遠心分離力がFFA量の低下及び収率に及ぼす影響を示すグラフである。 FFA:KOHのモル比は1,CaCl

    2 :FFAのモル比は5,精製用溶液:AMFの重量比は1,混合速度は1800 rpm,温度は50 ℃,混合時間は10分であり、遠心分離は室温で10分間行った。


    【図8】 FFA及びAMFの優先的精製プロセスを示すフローチャートである。 精製用溶液は蒸留水,KOH及びCaCl

    2から成っている。 FFA:KOHのモル比は1:1である。 CaCl

    2 :FFAのモル比は5:1である。


    【図9】 AMFのコレステロール量低下率(Y

    1 , %)に対する応答表面を示すグラフである。 混合速度は1000 rpm, β-シクロデキストリン:コレステロールのモル比は5.58である。


    【図10】 AMFのコレステロール量低下率(Y

    1 , %)に対する応答表面を示すグラフである。 混合時間は10分,β-シクロデキストリン:コレステロールのモル比は5.58である。


    【図11】 AMFのコレステロール量低下率(Y

    1 , %)に対する応答表面を示すグラフである。 混合時間は10分,混合速度は1000 rpmである。


    【図12】 AMFのコレステロール量低下率(Y

    1 , %)に対する応答表面を示すグラフである。 KOH:FFAのモル比は1,混合速度は1000 rpmである。


    【図13】 AMFのコレステロール量低下率(Y

    1 , %)に対する応答表面を示すグラフである。 KOH:FFAのモル比は1,β-シクロデキストリン:コレステロールのモル比は5.58である。


    【図14】 AMFのコレステロール量低下率(Y

    1 , %)に対する応答表面を示すグラフである。 KOH:FFAのモル比は1,混合時間は10分である。


    【図15】 AMFのFFA量の低下率(Y

    2 , %)に対する応答表面を示すグラフである。


    【図16】 その他無水動物性脂肪(AMF)からコレステロール及びFFAを除去し、融点を低下させるプロセスを示すフローチャートである。 当該液状処方は、蒸留水,トウモロコシ油,KOH及びCaCl

    2から成っている。 KOH:FFAのモル比は1:1である。 CaCl

    2 :FFAのモル比は5:1である。 水:トウモロコシ油の重量比は11.5:1.5である。

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