組織または器官の癒着を予防または治療するための組換え融合タンパク質

申请号 JP2017530418 申请日 2015-08-20 公开(公告)号 JP2017526746A 公开(公告)日 2017-09-14
申请人 アケジオン ゲーエムベーハー; アケジオン ゲーエムベーハー; 发明人 クラウス リュープザーメン; クラウス リュープザーメン; シュテファン ヴィッテ; シュテファン ヴィッテ;
摘要 本発明は、アミノ酸配列を含有する線維素原溶解酵素であって、50kDa超の相対分子質量を有する少なくとも1個の高分子の不活性な安定ドメインのアミノ酸配列にC末端および/またはN末端で結合している線維素原溶解酵素を含む、組織または器官の癒着、特に外科手術後の腹膜の癒着の予防または治療のための組換え融合タンパク質に関する。
权利要求

アミノ酸配列を有する線維素原溶解酵素であって、50kDa超の分子量を有する少なくとも1個の高分子の不活性な安定ドメインのアミノ酸配列にC末端および/またはN末端で結合している線維素原溶解酵素を含む、組織または器官の癒着、具体的には外科的介入後の腹膜の癒着の予防または治療のための組換え融合タンパク質。前記不活性な安定ドメインが前記線維素原溶解酵素にリンカーを介して結合していることを特徴とする、請求項1に記載の組換え融合タンパク質。前記リンカーが、配列(GGGGGS)xを有するグリシン−セリンリンカーまたは配列(GGGGA)xRを有するグリシン−アラニンリンカー(式中、A=アラニン、G=グリシン、R=アルギニン、S=セリン、x=1を超える反復数である)であることを特徴とする、請求項2に記載の組換え融合タンパク質。複数の不活性な安定ドメインが前記線維素原溶解酵素のC末端に結合していることを特徴とする、請求項1に記載の組換え融合タンパク質。複数の不活性な安定ドメインが前記線維素原溶解酵素のN末端に結合していることを特徴とする、請求項1に記載の組換え融合タンパク質。前記安定ドメインが50〜150kDaの分子量を有することを特徴とする、請求項1に記載の組換え融合タンパク質。前記線維素原溶解酵素がトロンビン様セリンプロテアーゼであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組換え融合タンパク質。前記線維素原溶解酵素が、アンクロッドもしくはバトロキソビン、またはアンクロッドもしくはバトロキソビンの組換えバリアントであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組換え融合タンパク質。前記高分子の不活性な安定ドメインが、タンパク質のまたはペプチドのドメイン、具体的には血清アルブミン、トランスフェリン、モノクローナルもしくはヒト化抗体、または抗体フラグメント、あるいは人工ドメイン、例えばPASまたはXTENであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組換え融合タンパク質。ヒト血清アルブミンのアミノ酸配列、または50kDa超の分子量を有する前記配列の一部が、線維素原溶解酵素としてのアンクロッドまたはバトロキソビンのC末端またはN末端に不活性な安定化ドメインとして結合していることを特徴とする、請求項1に記載の組換え融合タンパク質。配列番号2(N末端融合)もしくは配列番号4(C末端融合)で示されるアミノ酸配列、または前記配列の線維素原溶解に有効な部分を含むことを特徴とする、請求項10に記載の組換え融合タンパク質。持続的腹膜内放出のための生分解性マトリックス中に埋め込まれることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組換え融合タンパク質。組織または器官の癒着、具体的には外科的介入後の腹膜の癒着の予防または治療に使用される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組換え融合タンパク質を含む医薬組成物。前記組換え融合タンパク質が浸透圧活性媒体、好ましくはイコデキストリン溶液中に存在することを特徴とする、請求項13に記載の医薬組成物。組織または器官の癒着、具体的には外科的介入後の腹膜の癒着の予防または治療用の薬剤の製造のための、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組換え融合タンパク質の使用。

说明书全文

通常の治癒条件下では、哺乳動物は、特異的に進む創傷治癒過程で傷に応答する。これらは、創傷治癒に関与する線維素、すなわち粘着性物質の産生を引き起こす。線維素の前駆物質である線維素原は血中を循環し、創傷液(滲出液)として傷の部分に現れる。局所的に形成されるトロンビンの作用により、線維素原は不溶性の線維素に転換し、その結果、創傷は数分以内に塞がれる。過剰な線維素は、プラスミンの作用によって仲介される、同時に活性化される内在性線維素溶解系によって迅速に除去される。

組織の凝着または癒着は、内在性線維素溶解系の不均衡によって生じる誤った創傷治癒過程の結果である(非特許文献1;非特許文献2)。腹部の事故または外科手術に関係する傷では、線維素の除去は、プラスミンの阻害物質の活性化により、具体的にはPAI−1、PAI−2、およびα2抗プラスミンにより弱められる。除去されなかった過剰の繊維素は、隣接する組織および器官の凝着を引き起こし、線維芽細胞および血管の成長によって数日以内に恒久的な癒着に転換する(非特許文献3)。これらの癒着は、様々な器官間およびまた器官と腹膜との間の両方で起こる可能性がある。結果として器官の動きが制限されて、多くの場合、慢性的な疼痛が目立ち、また女性の患者では不妊症が目立つ。また、重症の場合には蠕動の機能障害によって引き起こされる命にかかわる腸閉塞を引き起こす恐れもある。

Scottish National Health Service Medical Record Linkage Databaseのレトロスペクティブ分析は、手術処置全体の半分以上に腹部の癒着が存在することを明らかにした(非特許文献4)。癒着のある患者の約3分の1は、臨床症状が重症であるため、手術後最初の1年以内に再手術しなければならなかった。多重手術の回数の増加は、その手術の回数と共にさらなる癒着のリスクを有意に(著しく)増加させることを示した(非特許文献5)。

合計で150,797人の患者に対する196件の調査のメタ分析は、腹部手術の9%までが深刻な合併症として腸閉塞を起こしたことを示し(非特許文献6)、そのうち、腸閉塞の2%の緊急手術において手術中に癒着が確認された。癒着の除去のために行われた手術後の6%で内臓に重大な間接的傷害が生じた。手術による癒着の除去時の腸管の傷害は、最も重要な孤立した危険因子であった(非特許文献7)。癒着によって生じる時間および材料の追加コストはかなりの大きさである。手術後の腸閉塞に起因する138件の入院(非特許文献8)について、合計1118日の入院日数が必要とされた。

「2005 Healthcare Cost and Utilization Project’s Nationwide Inpatient Sample」に基づき、非特許文献9は、癒着を引き起こした手術の結果を矯正するための総コストを23億ドルと算定した。このうち、一次癒着剥離が14億米ドルを占め、二次癒着剥離が9億2600万米ドルを占める。癒着を引き起こした腹部手術のケースは、合計で57,005日の追加の病院滞在を生じさせた。米国の「National Hospital Discharge Database」(1994年)に基づく病気データの分析は、続いて起こる癒着除去の場合、合計で846,415日の追加の病院滞在が必要となり、毎年13億米ドルの追加コストを生じさせることを示した(非特許文献10)。

これらの薬剤経済学的データは、個々の患者および保健医療制度の両方にとって有効かつ安全な癒着予防の必要性およびその潜在的利益を裏付ける。腹膜の癒着の唯一可能な治療は、結合したその表面と器官との外科的な分離である。その新たな医療行為によるさらなる癒着発生のリスクの増加のため、癒着の形成のリスクを減らす可能性のある予防法が特に重要になる。

凝着または癒着を防ぐための予防法として手術手技を最適化することも、また傷付いた表面の物理的分離のために機械的方法を利用することもできる。最終的には、その基礎をなす病態生理学的過程に影響を与える薬理学的なアプローチがある(非特許文献3;非特許文献12に要約されている)。

最少の侵襲的手術手技(腹腔鏡)の使用による凝着および癒着のリスクは、開腹を伴う通常の手術手技(開腹術)と比較して若干低下すると思われる(非特許文献13;非特許文献12)。この違いは、場合により、開腹術と比較して創傷表面がより小さく、組織および器官の取扱いがより少なく、かつこの手術手技の影響のリスクが一般により低いためである(非特許文献14)。手術手技の多くの改良にもかかわらず、腹部の外科的処置の結果としての癒着は、依然として慢性的疼痛、不妊症、またはさらには腸閉塞などの合併症の変わらない高いリスクを示す(非特許文献15)。

術後の癒着のリスクを減らすために現在使用されている別の方法は、様々な生体適合性材料のバリアの使用により、または腹腔中へのより大量の流体の導入により傷付いた組織領域を機械的に分離することである。その最も普通に使用される手段は、生分解性材料の薄膜を導入することであり、それらは創部間に導入され、そこに固定される。器官表面の機械的分離により、それらを隔離された状態で治癒することができ、それは癒着の予防につながるはずである。例えば、ヒアルロン酸およびカルボキシメチルセルロースなどの組成物(セプラフィルム)が傷付いた表面に膜として置かれる。さらに、ヒアルロン酸は、子宮筋腫摘出術において癒着の予防に使用されており、これは凝着の低減をもたらす(非特許文献16)。他の既知の組成物は、ゲル形成ポリエチレングリコール、ナトリウムカルボキシメチルセルロースと組み合わせたポリエチレンオキシド、または酸素化再生セルロースである。このような癒着バリアのさらなる例は、特許文献1に、および新規な多層癒着バリアの形態では特許文献2に記載されている。

幾つかの実験的アプローチは、初期段階において癒着形成の病態生理学的過程に介入することを目的とした化学物質の使用に取り組んでいる。数時間続くに過ぎないこの癒着の初期位相は、持続性の局所的炎症および凝固活性化、続いて脈管透過性の増加(これは表面を覆う線維素を多く含む滲出液の蓄積を引き起こす)を特徴とする(非特許文献2)。組織の低酸素症などの状態(非特許文献17)と、マクロファージおよびT細胞によって引き起こされるサイトカイン誘発細胞免疫応答とは、癒着の形成の増大因子である(非特許文献18)。2日目にはすでに、創傷表面は、短時間のうちに一緒に到来するマクロファージ、線維芽細胞、および中皮細胞によって覆われて、マスト細胞、線維芽細胞、および新たに形成される内皮細胞が浸透した閉ざされた層を形成する。固体マトリックスのこの不可逆的形成は、帯状コラーゲン原線維と、血管および結合組織線維の成長とによって特徴付けられるさらなる凝集の基礎である。

したがって、癒着の形成における中心事象は、前駆物質である線維素原に由来する局所的線維素の形成である。通常の条件下では、線維素の形成とプラスミンによる線維素の減少との間で均衡が存在する。このプラスミンの酵素活性は、次に阻害物質PAI−1、PAI−2、およびα2抗プラスミンによって制御される。実験データは、癒着の部分で生じる線維芽細胞が、プラスミノーゲン活性化因子阻害物質の形成が上昇すると、低いプラスミノーゲン活性化因子濃度を有することを示し、これは線維素マトリックスの無制御の形成を裏付ける(非特許文献19)。この観察結果は、子宮内膜症を有する患者のプロスペクティブ研究において確かめられた(非特許文献1)。

したがって、炎症反応の阻害と、線維素溶解活性の増大と、凝固の影響とは、癒着の形成を防止するための有用な治療標的であるように思われた。多くの実験において、線維素溶解活性物質の投与により内在性線維素溶解活性の不足を相殺する試みがなされた。特許文献3、特許文献4、特許文献5、および特許文献6は、例えば、ヒドロキシエチルセルロースヒドロゲルおよび他のマトリックス中でのrt−PAの使用が癒着の防止に有効であることを述べている。高い線維素親和性を有するr−tPA修飾物でさえ、この用途のために提案されている(特許文献7)。特許文献8に記載されているトロンビン阻害物質の使用による線維素形成の阻害は、初期段階において癒着を防止するための別のアプローチを代表する。特許文献9は、プラスミノーゲン活性化因子、例えばウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、およびt−PAの使用について述べており、これは血中での短い半減期を意味する。溶液としては、プラスミノーゲン活性化因子の線維素フラグメントとの共役が提案されている。

rt−PAの繰返し腹腔内投与の結果、マウスモデルにおいて癒着の形成が減少した。しかしながら、この効果は用量依存的ではなかった(非特許文献20)。ラットの癒着モデルにおいてプラスミノーゲン活性化因子のt−PA、ウロキナーゼ、またはストレプトキナーゼが、生分解性ヒドロゲルマトリックスの使用または毎日4回の注射のいずれかで4日間にわたって投与された。マトリックスから放出されるt−PAは、72±15%の癒着(対照)を4±3%まで減少させたが、腹腔内注射は、この癒着を49±8%まで減少させたに過ぎなかった(非特許文献21)。要約すれば、線維素溶解物質で得られるこれら結果は不満足である。

これらのネガティブな実験結果にもかかわらず、rt−PAは臨床症状下での子宮筋腫摘出術による26人の患者のプロスペクティブ研究でテストされた(非特許文献22)。2つのグループ間の癒着の頻度の有意な差を観察することはできなかった。癒着の頻度および重症度は、手術前に測定されたPAI−1濃度と相関関係があった。したがって、それらは癒着形成に対する線維素溶解系の重要性を意味する。しかしながら、rt−PAの短い生物学的半減期が原因でこの研究で達成されなかった予防を成功させるには、比較的高いt−PA濃度が必要である。したがって、これらの物質は、腹部の傷害後の組織コンパートメント中の癒着を防ぐための予防または治療用途には適していない。

癒着のリスクを減らすためにこれまで使用されてきたすべての薬理学的方法は、臨床試験において一般にむしろ効果がないことが分かった。

具体的には、線維素溶解活性物質の有効性は期待外れであった。これは、場合により、体外から投与された線維素溶解物質の線維素溶解活性が結合中に生じる高濃度のプラスミノーゲン活性化因子阻害物質(PAI−1、PAI−2)によって阻害されるためである。線維素溶解物質の十分な効能を達成するには非常に高い用量が必要であるが、それらの物質は、腹膜を通過して吸収されるため、全身的な副作用、具体的には出血を引き起こす。したがって、副作用のない予防、または結果として生じる癒着の原因としての線維素の架橋の早期解決は確証されていない。

したがって、その形成を初期段階で阻害するには、線維素の前駆物質である線維素原の除去がより期待できると思われる。術後癒着の防止に対する線維素原溶解酵素の適切性が、マレーマムシ(マレーマムシ属マレーマムシ(Calloselasma rhodostoma)の毒の単離酵素アンクロッドを使用して動物で実験的に研究された(非特許文献23;非特許文献24;非特許文献25)。アンクロッドは、線維素原のAα鎖のアルギニン−グリシン結合を特異的に切断する。トロンビンと異なり、そのBβ鎖はアンクロッドによって切断されない。得られるdes−A−線維素モノマーは、フィブリノペプチドの分割後に重合して短鎖可溶性線維素になる。これは架橋せず、細網内皮系およびプラスミンによって迅速に排除される。アンクロッドの静脈内または腹膜内投与により、血中の線維素原濃度を制御された方法で下げることができる。前述の研究において、これは、癒着形成のほぼ完全な用量依存的阻害をもたらした。アンクロッドは、40kDa未満の低分子量のために腹部から迅速に出て血液循環系中に入り、そこで凝固の阻害を引き起こす。血中濃度が高くなるにつれて、それは局所的な出血を引き起こす可能性がある。

加えて、アンクロッドの融合タンパク質の医薬組成物が知られており、血液の凝固を消散するために使用される。例えば、特許文献10は、アンクロッドと5’末端ポリペプチドとの間の融合タンパク質について述べている。これは2〜1000個のアミノ酸を含むことができる。しかしながら、術後癒着の治療用にこの融合タンパク質を使用することはその中に記載されていない。

南米のヘビであるカイサカ(Bothrops atrox)の毒から得られるバトロキソビンも同様の方法で作用する。これも同様に線維素原を選択的に分割し、それにより線維素原の濃度を下げる。バトロキソビンと第二のポリペプチド鎖との間の融合タンパク質は、例えば、特許文献11に記載されている。

長年にわたり、アンクロッドは、とりわけヘパリン誘発型血小板減少症を有する患者の血栓症を予防するために、および末梢動脈血行障害の治療用に使用されてきたが、その後、より新しい薬物に置き替えられている。しかしながら、これらのおよび類似の酵素は、その分子構造により腹部に十分に長く留まらないため、かつそれらが血流中に迅速に入り込み、それにより凝固を阻害するため、動物モデルでのそのすぐれた薬効にもかかわらず腹膜の癒着の予防には適していない。この副作用により、「術後癒着の予防」の表示は禁止され、したがって、これらの物質のネイティブアプリケ—ションは患者に対して考えられない。

さらに、他の線維素原溶解融合タンパク質も存在するが、それらは腹膜の癒着の治療へのアプローチに関して進展していない。このような構築物は、特許文献12または非特許文献26に開示されている。

活性成分の徐放および腹膜腔内でのより長期間の作用を達成するために、例えば、線維素溶解物質および脱線維素原化物質が担体材料中に埋め込まれた(特許文献13)。特許文献14は、癒着の防止のための様々な活性物質のポリマーマトリックスへの実装について述べている。類似の実験が特許文献15および特許文献16にも開示されている。ここでは、局所的に施用される生分解性ポリマーマトリックスが、プラスミノーゲン、ウロキナーゼ、およびストレプトキナーゼ、ならびにアンクロッド用の担体として使用されている。これらの方策の効果は、恐らく主にその埋め込まれた作用薬の制御不能な放出のために低かった。

米国特許第8629314号明細書

米国特許出願公開第20080254091号明細書

欧州特許第0318801号明細書

米国特許第5578305号明細書

欧州特許第0297860号明細書

欧州特許第0227400号明細書

欧州特許第0517756号明細書

欧州特許第0874634号明細書

欧州特許第0473689号明細書

欧州特許第0395375号明細書

国際公開第99/29838号パンフレット

米国特許第6,214,594号明細書

米国特許出願公開第2004/224006号明細書

米国特許第8,629,314号明細書

米国特許第6,461,640号明細書

国際公開第1995/15747号パンフレット

米国特許出願公開第2009/0175893号明細書

米国特許出願公開第2014/0017273号明細書

米国特許出願公開第2013/0165389号明細書

Hellebrekers 等,2005

Hellebrekers&Kooistra,2011

Arung 等,2011

Ellis 等,1999

Parker 等,2001

Parker 等,2005

Broek 等,2013a

Brummer 等,2011

Koessi 等,2003

Sikirica 等(2011)

Ray 等,1998

Schnueriger 等(2011)

Broek 等,2013b

SCAR Group,2013

Wallwiener 等,2014

Fossum 等,2011

Saeed and Diamond 2004

Binneboesel 等,2011

Diamond 等,2004

Binda 等,2009

Hill−West 等,1995

Hellebrekers 等,2009

Ashby 等,1969

Buckman 等,1975

Chowdhury&Hubbell,1996

Yang 等,Protein Expression and Purification,66(2009).138−147

Schlapschy 等,2013

この背景に鑑み、本発明の目的は、既知の線維素溶解性または線維素原溶解性物質と関連のある局所的または全身的副作用、具体的には出血または血液凝固阻害の形態の副作用を軽減または防止すること、および術後の癒着の防止または軽減を可能にする薬理学的に活性な薬剤を提供することである。

この目的は、添付の特許請求の範囲の請求項1の特徴を有する組換え融合タンパク質によって解決される。好ましい実施形態は、その従属請求項中に見出すことができる。

本発明者らは、驚くべきことに、術後の、特に腹膜腔内の癒着防止用の既知の線維素原溶解酵素の望ましくない特性を、高分子量の不活性な安定化(stabilizing)ドメインと結合させることによって減少または阻止し得ることを発見した。本発明の組換え融合タンパク質は、組織または器官の癒着、具体的には手術または傷害後の腹膜の癒着の予防処置を可能にする。融合タンパク質の場合、線維素原溶解酵素または酵素フラグメントは、生物活性ドメインとしての高分子量の不活性な安定(stabilization)ドメインと結合し、それにより、新規な酵素特性および薬物動態学的特性を有する高分子フィブリノゲナーゼである融合タンパク質が生じる。この線維素原溶解酵素を不活性な高分子量の安定ドメインと結合させることにより、その分子量は有意に増加し、腹膜腔の内側を覆う中皮表面との非特異的結合が得られる。驚くべきことに、腹膜を通した輸送が減少し、かつ血流中への移動も減少する。加えて、腹部における組換え活性成分としてのフィブリノゲナーゼの滞留時間、したがって作用時間が延長され、それにより、施用時に罹患患者(例えば、ヒトまたは動物)を成功裡に治療する機会が増加する。より長い滞留時間および作用時間により、線維素原除去のために必要な生物学的に活性な用量を劇的に減少することができ、それにより、出血などの症状または血液凝固の防止に関して線維素溶解性または線維素原溶解性物質について最初に述べた欠点は、殆ど完全になくなるか、少なくとも有意に減少する。

好ましくは、高分子量のこの不活性な安定化ドメインは、タンパク質α、ポリペプチドα、または50kDaを超える分子量、好ましくは80kDaを超える分子量を有するペプチドである。酵素ドメインと結合させるために提供されるこの安定ドメインの好ましい分子量は、50〜150kDa、好ましくは50〜100kDaである。安定ドメインの望ましい分子量の増大はまた、安定ドメインの二量体化または多量体化により、例えばヒトIgG1−FcフラグメントのIgG−Fcフラグメントの二量体化によって作り出すことができる。 高分子量の不活性な安定ドメインの線維素原溶解酵素との共役は、C末端および/またはN末端のいずれかで起こる。この場合、酵素の活性を維持するには、その酵素ドメインの構造が考慮されなければならない。任意選択的に、十分に長いリンカー配列がタンパク質間に挿入されなければならない。遊離のNまたはC末端が酵素の活性にとって必要とされる場合、可能なバリアントのうちの1つのみの酵素の活性が維持される。これは、既知の方法に従って、例えば、活性アッセイに基づいて不当な負担なしに専門家が決めることができる。この分子量の増加を達成するために、好ましいバリアントにおいて複数の安定ドメインを酵素ドメインのC末端またはN末端と結合させることができる。また、様々な安定ドメインの組合せ(例えば、組換え発現の産物として調製される)も可能である。この安定ドメインを線維素原溶解酵素と結合させることにより、その酵素の線維素原溶解特性は融合産物中でさえ保存され、したがって、得られる新規な組換え融合タンパク質は薬理学的に活性であると同時に前述の不利点を回避する。

アンクロッドの安定ドメインのN末端との共役は、特に効果的であることが分かっている。具体的には、その構築物の滞留時間の延長は、腹膜腔内において天然のアンクロッド分子と対比して検出することができる。

組換え融合タンパク質の生物活性ドメインは、線維素原の酵素による除去を引き起こし、それにより、癒着の前兆である線維素の形成を防止する。酵素を、これらのタンパク質またはペプチドから作られた安定ドメインと共役させることにより、血液循環系における腹部からの生物活性酵素成分の放出が減少または防止され、それにより、局所的な過剰な線維素の形成に与える影響が限定され、かつ望ましくない血液凝固阻止が減少または防止される。そうすることで、手術による創傷の治癒と妥協することなしに出血を防止することができる。前記構築物の滞留時間の増加により、活性物質の滞留時間がさらに増加し、したがって、2〜4日間の重要な治癒段階を通じて癒着の形成が抑えられる。 これらの理由のため、本発明の組換え融合タンパク質は、それらが今日までにテストされた物質と比べて副作用を殆どまたは全くなくすため(その低い全身アベイラビリティにより)、治療用途の優れた候補である。さらに、本発明の物質は、その長い作用持続時間のために有意に良好な有効性を有し、したがって、それらは活性物質の長い作用持続時間を必要とする治療用途に広く適している。

好ましい実施形態では、線維素原溶解酵素をコードするドメインと安定ドメインとは、そのC末端またはN末端を介して直接連結していなければならない。安定ドメインと線維素原溶解酵素のアミノ酸配列との共役は、例えば、特許文献17および特許文献18に記載されているものなどの方法によって行うことができる。

しかしながら、線維素原溶解酵素を安定ドメインと結合させることによって生成される組換え融合タンパク質の生物活性は、安定ドメインと酵素ドメインとの間に配置される追加のリンカーによって最適化することができる。したがって、好ましい実施形態では、不活性な安定ドメインは、可変リンカーを介して線維素原溶解酵素と結合する。このリンカーの共役は、安定ドメインまたは酵素活性ドメインのC末端またはN末端のいずれかを介して起こる。リンカーに取り付ける場合、従来の技術において知られている標準的な方法を使用することができる。

好ましくは、このリンカーは、ペプチドまたはポリペプチドであり、そのアミノ酸配列は様々な長さまたは分岐度を有することができる。好ましいリンカーは、例えば、グリシン、アラニン、およびセリンの残基の反復配列を含む。好ましくは、このリンカーは、配列(GGGGGS)xまたは(GGGGA)xRを含む(ただし、A=アラニン、G=グリシン、S=セリン、R=アルギニン、x=1を超える反復数である)。リンカー配列における反復数xは、好ましくは1〜4である。リンカーは、線維素原溶解酵素と本発明による組換え融合タンパク質の不活性な安定ドメインとの間の球面距離を増大させる。

上記ペプチドリンカーに加えて、両方のドメインを結合させるために本発明に従ってよく知られている化学リンカーを使用することができ、それにより、その構造および長さを、両方のドメインを配向させるために通常の方法論の範囲内で修飾して、融合タンパク質の最適な発現および酵素活性を得ることができる。 本発明の構築物は、その産生後に既知のアッセイの1つでその生物活性に関して検証され、そこで融合タンパク質の線維素原溶解酵素活性が判定される。より具体的には、本発明は、十分な線維素原溶解活性の融合タンパク質を含む。生物活性を最適化するために、その共役の型および位置と、リンカーの構造および長さと、安定化ドメインの型および構造とを調整することが必要な場合がある。具体的には、安定ドメインの立体的障害は酵素活性に悪影響を与えるが、これはin vitroで利用できる手段を使用して当業者が容易に判定することができる。

したがって、本発明の高分子量の組換え融合タンパク質は、きわめて効果的なフィブリノゲナーゼであり、標準的な方法を使用してこれをクローン化することができ、また適切な発現系中で発現させることができる。その構築物の比較的高い分子量と、ジスルフィド架橋を含むその複雑な構造とのために、真核発現系が好ましい。

本明細書中で使用される用語「線維素原溶解酵素」は、フィブリノゲナーゼ活性を有し、かつ線維素原の分解を引き起こすかまたは促進させる酵素、活性な酵素フラグメント、または酵素活性物質を含む。好ましくは、このフィブリノゲナーゼドメインの線維素原溶解酵素は、セリンプロテアーゼ、好ましくはトロンビン様セリンプロテアーゼである。好ましい線維素原溶解酵素は、例えば、ヘビ毒から単離された酵素であるアンクロッドまたはバトロキソビンである。これらの酵素は、それらが本発明の組換え融合タンパク質中でその活性を十分に保持するため、高分子の不活性な安定ドメインと共役させるのにきわめて適していることが分かった。それに加えて、ヘビ毒から単離されるトロンビン様プロテアーゼおよびその組換えバージョンなどの他の候補も存在する。具体的には、酵素アンクロッドまたはバトロキソビンの組換え型またはバリアントが、組換え融合タンパク質のフィブリノゲナーゼドメインとして適している。

この高分子の不活性な安定ドメインは、好ましくは血清アルブミン、好ましくは動物またはヒト血清アルブミンである。別のバリアントでは、高分子量の不活性な安定ドメインは、遺伝子修飾によって不活性化したトランスフェリンまたはトランスフェリンのバリアントを含む。別のバリアントでは、この高分子の不活性な安定ドメインは、人工アミノ酸配列、例えばPAS(非特許文献27)またはXTEN(特許文献19)を含む。さらに、抗体または抗体フラグメントを安定ドメインとして線維素原溶解酵素と結合させることもできる。ヒトにおける予防または治療用途の場合、好ましくは、モノクローナル抗体、ヒト化抗体またはその抗体フラグメントが抗体として使用される。さらに、前述の安定ドメインのバリアントも本発明による目的に使用することができる。また、他の実施形態は、合成ドメインまたは他の不活性タンパク質ドメインの使用をそれらが従来の技術で述べられている限りにおいて提供する。

好ましい実施形態では、融合タンパク質は、酵素アンクロッドおよび安定化ドメイン(例えば、血清アルブミンまたはIgG−Fc抗体フラグメント)を含むアミノ酸配列を含む。好ましくは、この融合タンパク質は、例えば、配列番号2または配列番号4で記述されるアミノ酸配列またはこの配列の繊維素原溶解に有効なフラグメントを含む。この配列の繊維素原溶解に有効なフラグメントは、酵素ドメインおよび安定化ドメインをコードし、かつ線維素原の分解において酵素活性配列セグメントを指す。具体的な例では、例えば、ヘキサヒスチジンタグ(His−tag)が、精製を容易にするためにその線維素原溶解成分に付加され、またシグナルペプチドが付加される。さらに、追加または代替のアミノ酸を上記配列に付加するか、またはそれから除去することもできる。

本発明の融合タンパク質は、繊維素原溶解にきわめて効果的であり、線維素原の特異的分解を引き起こす。二次効果として、この酵素の分解産物であるdesAプロフィブリンおよびdesAAフィブリンモノマーが可溶性の繊維素複合体を形成し、次にそれが内在性t−PAの蓄積を通じてプラスミノーゲンの活性化を引き起こすため、生物に適用した場合に繊維素溶解効果を感知することができる。この効果は、この酵素の適用後のプラスミン濃度の増加としてin vivoで測定することができる。自然な繊維素分解の失敗および癒着につながることになる傷の場合、この効果は高濃度のプラスミノーゲン活性化因子阻害物質(PAI−1)としてさらなる利点を提供する。

アンクロッドまたは別の線維素原溶解活性タンパク質の安定ドメインとの、例えば血清アルブミンまたはIgG−Fc抗体フラグメントとのC末端共役により、この構築物の滞留時間は、天然の線維素原溶解活性酵素と比べて腹膜腔内で有意に延長されることになる。このようにして構築物は、天然のアンクロッド分子でもそうであるように、はるかに長い作用持続時間を示すことができる。この構築物を腹膜腔内に保持することにより、血流中の活性物質の通過は有意に減少した。

本発明は、上記組換え融合タンパク質を含む医薬組成物にさらに関する。この医薬組成物は、薬学的に許容できる担体を含み、罹患した創傷部、例えば腹部に溶液として直接適用することができる。それにより、活性物質は、コンパートメント、特に場合により損傷が生じている可能性のあるコンパートメント全体にわたって癒着の形成を防止する。その高分子量のため、組換え融合タンパク質は、より長時間にわたって腹膜腔内に活性物質として留まり、血液循環系中に入らないか、またはわずかな程度にのみ入る。それにより、天然物質の(例えば、アンクロッドまたはバトロキソビンの)全身作用および副作用が防止または軽減される。この活性物質は、手術中または手術後に腹膜腔内に1回または複数回施用することができる。単回施用が好ましく、したがって、さらなる注射または点滴が絶対的に必要というわけではない。この利点は、天然物質と比較して、この組換え構築物の腹部中でのより長い滞留時間によるものである。

好ましい実施形態では、本発明の組換え融合タンパク質は、他の治療または製品と組み合わせて使用することができる。例えば、この融合タンパク質と、固体または液体の膜、ゲル、スプレー液の物理的バリア法との組み合わせが考えられる。好ましくは、これらは生分解性である。

安定化ドメインとして種特異的ドメイン(例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)またはヒトIgG−Fc抗体フラグメント)を適用することにより、本発明の組換え融合タンパク質は低い抗原性を有し、それ自体の薬学的効果を有しない。好ましくは、50kDa超の高分子量のために長い生物学的耐久性も保証される。

本発明の医薬組成物で最適の予防効果を発現させるには、その線維素原溶解活性は創傷治癒の期間全体を通じて存在しなければならない。好ましくは、この組換え融合タンパク質は、有効濃度で作用部位に存在する。完全な創傷治癒に必要な時間は1〜8日間であり、予防処置の場合には2〜4日の期間が好ましい。 腹部に投与され、予防または治療効果に必要とされる薬学的に有効な溶液の酵素活性は、創傷治療の全期間にわたって0.01〜10単位/mlの範囲である。好ましくは、0.1〜5単位/ml(単位/ml)の融合タンパク質の濃度が使用される。好ましくは、この組換え融合タンパク質は、浸透圧活性媒体(例えば、イコデキストリン溶液)中で使用されることになる。

本発明は、組織の癒着(癒着)、特に手術後の癒着の予防のためのこの融合タンパク質の他の製品との併用にさらに関する。この目的では、酸素化再生セルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ヒアルロン酸カルボキシメチルセルロース、またはポリエチレングリコールから作られる膜が使用される。さらに、ハイドロフローテーションによって器官と組織とを分離する液体癒着バリアを使用することもできる。好ましくは、ヒアルロン酸、架橋ヒアルロン酸、またはイコデキストリンが使用される。

本発明の組換え融合タンパク質は、好ましくは、生体適合性の生分解性マトリックス中に埋め込まれ、これは初期治癒段階中、好ましくは2〜4日の期間にわたって持続的に融合タンパク質を放出する。

本発明を下記実施例において例示する。

実施例1:Nアンクロッド−Fc融合タンパク質の調製 本発明の組成物を生産するために、アンクロッドとヒトIgG1抗体の定常領域とからなる融合タンパク質が調製された。生物活性アンクロッドドメインと、IgG1−Fc抗体フラグメントによって形成される安定化ドメインとの間にグリシン−アラニンリンカーが挿入される。細胞培地中への分泌を向上させるために、かつ精製を容易にするためにヒト血清アルブミンのシグナルペプチドがN末端に付加される。 産生のためにアンクロッドタンパク質の配列(受託番号:ABN13428.1)が、ヒトIgG1の定常領域(Uniprot受託番号:P01857−1、アミノ酸104〜330)のC末端に屈曲性のグリシン−アラニンリンカーを介して付加された。続いて、精製に必要なHSAシグナルペプチド(アミノ酸1〜18)が付加された。この融合タンパク質をコードするcDNAの合成のため、DNAコドンがヒト細胞中での発現のために最適化された。cDNAの5’末端にNotIおよびXbaIの制限部位が、また3’末端にBstXIおよびHindiIIの制限部位が付加された。これは、一過性の発現用および/または安定な細胞株の産生用の適切なベクター中にDNAをクローン化することを可能にする。得られたcDNA構築物は合成的に産生された。

このcDNAはクローン化され、増幅され、かつ一過性トランスフェクション用の発現ベクター中に再クローン化された。cDNAの正確な挿入が制限消化物によってテストされた。次いで、得られたプラスミドを用いて病原性大腸菌(E.coli bacteria)(DH5α)が形質転換され、その菌株が0.8リットルのLB培地中で培養された。これからプラスミドDNAが単離され、そのエンドトキシン溶液が滅菌濾過された。

このタンパク質の一過性の発現のため、HEK−F細胞が、容積500mlの振とうフラスコ中の血清を含まない懸濁培養液中に置かれた(約2.5×106細胞/ml)。細胞のトランスフェクションは、約10μgのDNA/1×107細胞−DNA/coPEG33のトランスフェクション混合物(1/6w/w)を用いて分岐したPEG−アミノエステルコポリマーを介して行われた。バルプロ酸の添加後、細胞培養液をさらに7日間培養した。その後、この細胞培養液の上清を遠心分離により収集した。50mM MES緩衝液(pH5.5)中でクロマトグラフィ分析を行った。

イオン交換クロマトグラフィによって融合タンパク質の精製を行った。カラム材料としてHiTrap SP FF Affinity Resin(GE Healthcare Europe GmbH,Freiburg,Germany)を使用した。融合タンパク質の溶離は塩化ナトリウム勾配によって行った。溶出液のフラクションの分析をゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって行い、適切なタンパク質フラクションをプールし、透析し、等分し、さらなる使用まで緩衝食塩(PBS)にさらして−20℃で保管した。

この構築物のcDNA配列を配列番号1に示す。

下線部は挿入された制限部位である。融合タンパク質をコードする配列は太字で示される。

<配列番号1>

得られたアミノ酸配列を配列番号2で示す。

<配列番号2>

このアミノ酸配列は、前掲のヒト血清アルブミンのシグナルペプチドMKWVTFISLLFLFSSAYS(下線部)から始まる。このシグナルペプチドはタンパク質の分泌中に細胞から分離される。ヒト血清アルブミンとアンクロッドドメインとの間に配置されたリンカーGGGGAGGGGAGGGGARがアンクロッドのC末端に結合される(太字で示される)。

実施例2:His−Tagを有するNアンクロッド−HSA−C融合タンパク質の調製 この実施例では、アンクロッド、ヒト血清アルブミン(HSA)、ヒト血清アルブミンのシグナルペプチド、およびそれに続くHis−Tagからなるアンクロッド系融合タンパク質のさらなるバリアントを示す。生物活性ドメインとヒト血清アルブミンによって形成される安定ドメインとの間にグリシン/セリンリンカーが挿入される。 この産生のためにアンクロッドタンパク質の配列(受託番号:ABN13428.1)を、C末端でヒト血清アルブミン(HSA)(受託番号:P02768、アミノ酸25〜609)のN末端と融合させる。続いてHSAシグナルペプチド(アミノ酸1〜18)が付加される。このcDNAは上記のように処理され、そのタンパク質が発現した。

この構築物のcDNA配列を配列番号3に示す。

<配列番号3>

下線部は挿入された制限部位(5’:NotI、3’:BstXI、HindIII)であり、太字については融合タンパク質配列をコードする配列が太字で示される。

得られるアミノ酸配列を配列番号4で示す。

<配列番号4>

このアミノ酸配列は、ヒト血清アルブミンのシグナルペプチドMKWVTFISLLFLFSSAYSから始まる。このシグナルペプチドはタンパク質の分泌中に細胞から分離される。ヒト血清アルブミンとアンクロッドドメインとの間に配置されたリンカーGGGGSGGGGSGGGGSが血清アルブミンのN末端と結合する(太字で示される)。

実施例3:産生した融合タンパク質のその線維素原溶解酵素活性についての活性試験 10mM Tris−HClおよび0.15M NaCl(pH7.4)中に溶解した基質としての線維素原(1mg/ml)を使用して融合タンパク質の活性試験を行った。ピペットで各500μlの線維素原溶液を取ってキュベットに入れた。2分後、100μlの試料または陽性対照(バトロキソビン)を加えた。その後、340nmにおける濁りの増加を光度測定によって1時間の期間にわたって測定し、曲線の最大勾配を確定した。曲線の最大勾配は酵素の活性に比例しており、較正曲線を使用して単位/mlに変換した。

実施例4:哺乳動物における腹膜の癒着の治療 哺乳動物(例えば、ヒトまたは実験動物)における予防または治療用途のために、発現後に単離および精製した本発明の組換え融合タンパク質または相当する用量のプラセボを、癒着を引き起こした術後の試験動物の腹部に直接施用した。最適の効果を達成するには0.01〜10U/mlの酵素活性が望ましい。この薬液は、0.1〜5U/mlの活性を有する融合タンパク質を含む。

この融合タンパク質の投与後、創傷治癒を維持すると同時に、数日間にわたって持続するその融合タンパク質の線維素溶解酵素活性を検出することができる。創傷治癒過程の一部として生じる癒着の量および重症度は、プラセボ処理動物と比較して劇的に軽減されるはずである。

実施例5:Nアンクロッド−HSA−C融合タンパク質の薬理学的および薬物動態学的特性 この融合タンパク質の産生のためにアンクロッドタンパク質の配列(受託番号:ABN13428.1)を、C末端でヒト血清アルブミン(HSA)(受託番号:P02768、アミノ酸25〜609)のN末端と融合させる。融合タンパク質の酵素の活性は24U/mlである。

天然のアンクロッドは腹膜の癒着の治療のための治療用途に適していないため、得られた融合タンパク質が腹部でのその活性および処分(滞留時間)に関してテストされた。図1は、天然のアンクロッドおよび本発明のアンクロッド融合タンパク質(AK03)の単回腹膜内投与後の腹部の体液中での酵素活性を示す。天然のアンクロッドは、腹膜内にその投与されたアンクロッドが直ちに腹部を出て、したがって低濃度が得られるに過ぎず、さらにまたそれが6時間以内に検出限界に近い値まで下がるため、治療用途に適さないことを明確に見ることができる。これとは対照的に、同等の用量のアンクロッド融合タンパク質(AK03)の投与後、有意により高い活性が腹部で達成され、それは6時間後でさえ依然として十分に治療に有効な範囲内にある。

図2には、血漿中の線維素原濃度に与えるアンクロッドおよび本発明のアンクロッド融合タンパク質(AK03)の効果が示される。この場合、脈管系中のアンクロッドの迅速な通過は、50%超の血中の線維素原レベルの降下を引き起こす。AK03は、分子構造の変更により血流中へ非常にゆっくり入り込むに過ぎず、したがって、わずかに14%の線維素原レベルの降下を引き起こす。線維素原濃度のこのような小さい変化は生理的範囲内にあり、血液凝固に影響を与えない。

したがって、安定ドメインを備えたアンクロッド融合タンパク質AK03は、天然のアンクロッド分子よりもはるかに有利な薬物動態学的挙動を示す。

これらの結果は、アンクロッド融合タンパク質が、アンクロッドと類似した酵素的特徴を示すが、薬物動態学的に明確に異なることを示す。具体的には、これは、腹膜腔中でのこの融合タンパク質のより長い滞留時間およびこの物質の血流中へのより低い移動につながる。これらの特性のため、本発明の融合タンパク質は、腹腔の癒着の治療/予防のための腹腔内用途に特に適している。

材料および方法 犬における薬物動態 3匹のビーグル犬に静脈中および腹膜内の留置カテーテルを入れた。カテーテル移植の1週間後、動物は試験物質の1回の腹膜内注射を受けた。0.5mlの腹水試料が、この物質の投与後、0、0.5、1、2、4、6および8時間の間隔で採取され、また静脈血試料が、0、0.5、1、2、4、6、8、16および24時間の時点でのクエン酸血漿を抽出するために採取された。血漿試料中の線維素原濃度をClaussによる方法による測光法で測定した。腹水中の酵素活性を、ヒト線維素原の添加後にカイネティック比濁法を使用して試料の遠心分離によって測定した。

ラットにおける薬物動態 Sprague−Dawleyラットが、短い吸入麻酔中に試験物質の腹膜内注射を受けた。同時に静脈血試料が採取された。その後、動物はケージに戻され、そこで動物は短時間後に覚醒した。この物質の投与の6時間後に動物を再度麻酔させ、クエン酸血の抽出のために腹水およびさらなる血液試料を取り出した。収集後、直ちに両方の試料を遠心分離機にかけ、−80℃に急速凍結し、その後、前述の方法で分析した。

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天然のアンクロッドおよび本発明のアンクロッド融合タンパク質(AK03)の単回腹膜内投与後の腹部の体液中での酵素活性を示す図である。

血漿中の線維素原濃度に与えるアンクロッドおよび本発明のアンクロッド融合タンパク質(AK03)の効果を示す図である。

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