耐熱性のミスマッチエンドヌクレアーゼの利用方法

申请号 JP2015505565 申请日 2014-03-13 公开(公告)号 JP6009649B2 公开(公告)日 2016-10-19
申请人 タカラバイオ株式会社; 发明人 松村 清之; 高津 成彰; 上森 隆司; 向井 博之;
摘要
权利要求

二本鎖核酸の切断方法であって、下記(i)〜(iii)からなる群より選択された少なくとも一種のポリペプチドをミスマッチ塩基対を有する二本鎖核酸に作用させ、当該二本鎖核酸の両鎖をミスマッチ塩基対部位で切断することを特徴とする、方法: (i)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド; (ii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド;及び (iii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド。ミスマッチ塩基対が、二本鎖核酸上、通常の塩基対合を行う2個の塩基対の間に存在する、連続して1以上8以下のミスマッチ塩基対である、請求項1に記載の方法。下記(a)〜(c)を含む組成物: (a)DNAポリメラーゼ; (b)少なくとも一対のオリゴヌクレオチドプライマー;及び (c)下記(i)〜(iii)からなる群より選択された少なくとも一種のポリペプチド: (i)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド; (ii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド;及び (iii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド。エラー率の低減した核酸増幅方法であって、下記(a)〜(b)の工程を含む方法: (a)請求項3に記載の組成物と鋳型になる核酸分子を含む組成物を調製する工程;及び (b)工程(a)により得られた組成物を適切な条件下で反応させ、核酸増幅を行う工程。核酸増幅が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、等温核酸増幅法、又はMDA(multiple displacement amplification)法で実施される請求項4に記載の方法。下記(A)〜(C)からなる群より選択されるポリペプチド: (A)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において、77番目のトリプトファンが他のアミノ酸残基に置換されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性するポリペプチド; (B)前記(A)のポリペプチドのアミノ酸配列において、77番目のアミノ酸残基を除く1〜10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド;及び (C)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列において、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列における77番目のトリプトファンに対応するアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド。下記(A)〜(C)からなる群より選択される、請求項6記載のポリペプチド: (A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド; (B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、77番目のフェニルアラニンを除く1〜10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド;及び (C)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列において、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列における77番目のトリプトファンに対応するアミノ酸残基がフェニルアラニンに置換されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド。核酸増幅反応において特定の塩基配列を有する核酸の増幅を抑制する方法であって、下記の(a)〜(d)の存在下で核酸増幅反応を行う工程を含む方法: (a)前記特定の塩基配列を有する核酸またはその相補鎖とハイブリダイズさせた際に1個もしくは数個のミスマッチを生じるように設計されたオリゴデオキシヌクレオチド; (b)DNAポリメラーゼ; (c)少なくとも一対のオリゴヌクレオチドプライマー;及び (d)ミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、ここで、該ミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドは、下記(i)〜(vi)からなる群より選択された少なくとも一種のポリペプチドである: (i)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド; (ii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド; (iii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド; (iv)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド; (v)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、77番目のフェニルアラニンを除く1〜10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド;及び (vi)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列において、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列における77番目のトリプトファンに対応するアミノ酸残基がフェニルアラニンに置換されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、 ここで、当該工程は、前記ミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドが、前記オリゴデオキシヌクレオチドとのハイブリダイズにより生じるミスマッチ塩基対を有する二本鎖核酸に作用して、当該二本鎖核酸の両鎖をミスマッチ塩基対部位で切断する反応を含む。核酸増幅反応がポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、又は等温核酸増幅法である、請求項8に記載の方法。標的DNAを優先的に増幅する方法であって、当該標的DNAと1個もしくは数個の塩基が異なる塩基配列のDNAの増幅を請求項8記載の方法で抑制することを特徴とする方法。野生型塩基配列のDNAと、当該DNAに一塩基多型変異が生じたDNAとを区別して増幅する目的に使用される請求項10に記載の方法。一塩基多型変異が、癌化、又は癌治療用薬剤による治療効果と相関する一塩基多型変異である、請求項11に記載の方法。DNA増幅反応がポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、又は等温核酸増幅法で実施される請求項10に記載の方法。

说明书全文

本発明は、二本鎖核酸中のミスマッチ塩基対を認識して切断する耐熱性のミスマッチエンドヌクレアーゼ、当該ミスマッチエンドヌクレアーゼを含む組成物、及びミスマッチエンドヌクレアーゼを用いた方法に関する。

近年の生物工学技術の発展は著しく、特にゲノム解析法の進歩に伴った大規模ゲノム解析の結果、膨大なゲノム配列情報が蓄積されてきている。さらに前記情報と各種の生理機能解析と合わせることで、機能的な遺伝子変異が数多く見出されてきた。これらの変異解析は、農作物の改良や有用微生物の分離、作製ばかりではなく、人の遺伝子診断などにも利用されるようになってきており、一般生活上にも大きな恩恵を与えている。

これらの変異の解析法としては、ゲノム配列を直接解析する他に、ミスマッチ塩基対を認識する酵素群を利用する方法が行われてきた。変異型と野生型のDNAを対合させて形成されたミスマッチ塩基対に対して、特異的結合能のある因子を結合させて検出する解析方法がその一つであり、代表的な例としては大腸菌のMutS、MutT、MutL複合体を利用した変異部位の検索が挙げられる(特許文献1)。

また、ミスマッチ部位を特異的に切断するミスマッチエンドヌクレアーゼを利用する方法も行われている。この場合は、ミスマッチエンドヌクレアーゼを利用し、ミスマッチ塩基対付近で切断されたDNA断片を解析することで、変異の有無やその位置を検出する。代表的な例としては、セロリ由来のCelI遺伝子産物を利用する方法が知られており(特許文献2)、実際に変異塩基の解析に利用されている。しかし、この酵素は耐熱性を持たず、PCR法など高温の反応過程を含む手法には直接使用できない。このため、変異塩基の検出を行う際にも、増幅、ミスマッチ形成、ミスマッチ切断、検出の4ステップが必要となる。

また、変異解析の他にも大きな影響を与えている生物工学的技術としては、核酸増幅技術が挙げられる。 この核酸増幅技術の中で代表的な技術であるポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction;PCR)法は、試験管内において簡便に所望の核酸断片を増幅する技術であり、遺伝子に関する研究のみならず、生物学、医学、農業等の幅広い分野において不可欠の実験手法となっている。PCR法は、変異型遺伝子の検出や、DNAのメチル化の解析にも応用されている。 また、LAMP法やICAN法などの等温核酸増幅法は特別な機器を必要としないことから、より安価な核酸検出法として使用されている。 さらに近年になり行われるようになったゲノム全体の構造解析においては、特に希少な試料からの解析を行う上で、全ゲノム増幅法は重要な技術である。

これらの核酸増幅法の問題点として、一定確率で間違った塩基の取り込みを起こすことがあげられる。ポリメラーゼの改良などを通して、この確率は低減されてきたものの、依然精密な解析の際には障害となっている。

また、核酸増幅技術はある特定の塩基配列を有するDNAの増幅のみならず、共通の塩基配列領域を両端に保持するDNAの混合物を増幅する際にも用いられる。具体的な例としては、ゲノムライブラリーやcDNAライブラリーの構築などが挙げられるが、その際に含有率の高いDNA分子が優先的に増幅され、多様な種類のDNAの解析やスクリーニングの障害となることがある。

その問題を解決するため、自己ハイブリダイゼーションを利用した正規化(normalization)により含有率の高いDNAの比率の低減が行われている(非特許文献1)。またPCR法と自己ハイブリダイザーションを組み合わせたSSH−PCR法も使用されている(非特許文献2)が、含有率の高いDNAと相同性を持つDNAも取り除かれる危険性も存在している。

さらに、核酸増幅法によるDNAの検出においては、検出対象のDNAの増幅と、検出対象でないDNAの増幅とが競合し得る場合がある。すなわち、検出対象以外のDNAも同時に増幅され、対象のDNAの検出が困難な場合である。サイクリングプローブやTaqManプローブ等のプローブを用いたリアルタイムPCRによって検出対象のDNAの増幅のみを検出して上記の問題を解消できることもあるが、検出対象でないDNAが検出対象のDNAに対して大過剰に存在する場合には、大多数の類似DNAの存在による偽陽性反応のため、検出対象のDNAの検出は困難となる。

このような問題は、例えば正常対立遺伝子の存在下における少数の変異対立遺伝子の検出(血中循環腫瘍DNAの検出等)、エピジェネティックアッセイでの少数のメチル化あるいは非メチル化対立遺伝子の検出、母親の血液中に循環する少量の胎児DNA配列の検出等の実施において起こり得る。

上記の問題を解決するために、Restriction endonuclease−mediated selective polymerase chain reaction(REMS PCR)と呼ばれる方法が開発された(非特許文献3)。この方法は、耐熱性の制限酵素を利用し、例えば鋳型が正常型の塩基配列を持つ場合のみにこの制限酵素による切断が起こるように設計したプライマーを用いて、変異型の塩基配列を持つDNAのみを選択的に検出する方法である。しかしながら、検出しようとするDNAによっては、REMS PCRによる選択的検出に適した認識配列を持つ耐熱性の制限酵素が存在しない場合もある。

米国特許第5922539号明細書

国際公開第01/062974号パンフレット

“Nucleic Acids Research”、2004年2月、第32巻、3号、e37

“Methods in Molecular Biology”、2009年、第496巻、2号、p.223−243

“American Journal of Pathology”、1998年8月、第153巻、2号、p.373−379

本発明の目的は、耐熱性ミスマッチエンドヌクレアーゼ、当該ミスマッチエンドヌクレアーゼを含む組成物、及びミスマッチエンドヌクレアーゼを用いた方法を提供することにある。

本発明者らは、上記の事情を鑑みて鋭意努力した結果、複製機構の1因子と考えられていた古細菌由来のタンパク質が耐熱性のミスマッチエンドヌクレアーゼの酵素活性を持つことを見出した。

また、特定の塩基配列を有する核酸とハイブリダイズさせた際に1以上のミスマッチを生じるように設計されたオリゴデオキシヌクレオチドとこのミスマッチエンドヌクレアーゼの存在下で核酸増幅反応を行うことで、特定の塩基配列を有するDNAの増幅を抑制することが可能となった。

さらには、この耐熱性のミスマッチエンドヌクレアーゼを基にして、塩基特異性を向上させた変異型ミスマッチエンドヌクレアーゼの創製に成功した。そして、ミスマッチエンドヌクレアーゼを使用することで、特定のミスマッチ塩基対以外の切断が抑えられ、より特異的な増幅抑制が可能であることを見出し、本発明を完成させた。

すなわち、本発明の第1の発明は、 [1]二本鎖核酸の切断方法であって、下記(i)〜(iii)からなる群より選択された少なくとも一種のポリペプチドをミスマッチ塩基対を有する二本鎖核酸に作用させ、当該二本鎖核酸の両鎖をミスマッチ塩基対部位で切断することを特徴とする、方法: (i)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド; (ii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド;及び (iii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して50%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、 [2]ミスマッチ塩基対が、二本鎖核酸上、通常の塩基対合を行う2個の塩基対の間に存在する、連続して1以上8以下のミスマッチ塩基対である、[1]に記載の方法、 [3]下記(a)〜(c)を含む組成物: (a)DNAポリメラーゼ; (b)少なくとも一対のオリゴヌクレオチドプライマー;及び (c)下記(i)〜(iii)からなる群より選択された少なくとも一種のポリペプチド: (i)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド; (ii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド;及び (iii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して50%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、 [4]核酸の増幅方法であって、下記(a)〜(b)の工程を含む方法: (a)[3]に記載の組成物と鋳型になる核酸分子を含む組成物を調製する工程;及び (b)工程(a)により得られた組成物を適切な条件下で反応させ、核酸増幅を行う工程、 [5]核酸増幅が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、等温核酸増幅法、又はMDA(multiple displacement amplification)法で実施される[4]に記載の方法、 [6]下記(A)〜(C)からなる群より選択されるポリペプチド: (A)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において、77番目のトリプトファンが他のアミノ酸残基に置換されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性するポリペプチド; (B)前記(A)のポリペプチドのアミノ酸配列において、77番目のアミノ酸残基を除く1〜10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド;及び (C)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して50%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列において、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列における77番目のトリプトファンに対応するアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、 [7]下記(A)〜(C)からなる群より選択される、[6]記載のポリペプチド: (A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド; (B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、77番目のフェニルアラニンを除く1〜10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド;及び (C)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して50%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列において、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列における77番目のトリプトファンに対応するアミノ酸残基がフェニルアラニンに置換されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、 [8]核酸増幅反応において特定の塩基配列を有する核酸の増幅を抑制する方法であって、下記の(a)〜(d)の存在下で核酸増幅反応を行う工程を含む方法: (a)前記特定の塩基配列を有する核酸またはその相補鎖とハイブリダイズさせた際に1個もしくは数個のミスマッチを生じるように設計されたオリゴデオキシヌクレオチド; (b)DNAポリメラーゼ; (c)少なくとも一対のオリゴヌクレオチドプライマー;及び (d)ミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、 [9]核酸増幅反応がポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、又は等温核酸増幅法である、[8]に記載の方法、 [10]ミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドが、下記(i)〜(vi)からなる群より選択された少なくとも一種のポリペプチドである、[8]に記載の方法; (i)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド; (ii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド; (iii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して50%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド; (iv)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド; (v)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、77番目のフェニルアラニンを除く1〜10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド;及び (vi)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して50%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列において、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列における77番目のトリプトファンに対応するアミノ酸残基がフェニルアラニンに置換されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、 [11]標的DNAを優先的に増幅する方法であって、当該標的DNAと1個もしくは数個の塩基が異なる塩基配列のDNAの増幅を[8]記載の方法で抑制することを特徴とする方法、 [12]野生型塩基配列のDNAと、当該DNAに一塩基多型変異が生じたDNAとを区別して増幅する目的に使用される[11]に記載の方法、 [13]一塩基多型変異が、癌化、又は癌治療用薬剤による治療効果と相関する一塩基多型変異である、[12]に記載の方法、および [14]DNA増幅反応がポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、又は等温核酸増幅法で実施される[11]に記載の方法 に関する。

本発明により、生物工学上利用価値の高い耐熱性ミスマッチエンドヌクレアーゼ、当該ミスマッチエンドヌクレアーゼを含む組成物、及びミスマッチエンドヌクレアーゼを用いた方法が提供される。

実施例2におけるポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果を示す図である。

実施例2におけるPF0012タンパク質のミスマッチ切断活性を蛍光強度の上昇を指標に示した図である。

実施例3におけるPF0012相同タンパク質のミスマッチ切断活性を蛍光強度の上昇を指標に示した図である。

実施例5における変異型PF0012相同タンパク質のミスマッチ切断活性を蛍光強度の上昇を指標に示した図である。

実施例6における特異的配列を持つDNAの増幅抑制をリアルタイムPCRの技術を用いて示した図である。

実施例6におけるHRM解析法を用いた1塩基変異遺伝子の検出を示した図である。

本発明においてミスマッチとは、二本鎖核酸中に存在するワトソン−クリック塩基対とは異なる塩基の対合、すなわちG(グアニン塩基)−C(シトシン塩基)、A(アデニン塩基)−T(チミン塩基)またはU(ウラシル塩基)の塩基対結合以外の組み合わせの塩基結合を示す。

本明細書において、ミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド(ミスマッチエンドヌクレアーゼと記載することがある)とは、二本鎖核酸中のミスマッチ部位を切断する活性を有するヌクレアーゼのことをいう。前記のミスマッチエンドヌクレアーゼ活性は、ミスマッチ塩基対を形成するヌクレオチドに隣接するリン酸ジエステル結合を切断する活性の他、ミスマッチ塩基対から1〜5塩基対、好ましくは1〜3塩基対離れたヌクレオチドに隣接するリン酸ジエステル結合を切断する活性を包含する。本発明においてミスマッチエンドヌクレアーゼは、特定のミスマッチ塩基対を特異的に認識して二本鎖核酸を切断する活性を有するもの(例えばGTミスマッチを特異的に認識するものや、GTミスマッチ及びGGミスマッチを特異的に認識するもの等)であってもよい。また、本発明において耐熱性のミスマッチエンドヌクレアーゼは、二本鎖核酸中のミスマッチ部位を切断する活性の他に、一本鎖DNA、一本鎖核酸と二本鎖核酸のジャンクション部分、ダブルフラップ構造、レプリケーションフォーク構造、D−ループ構造、及び/又はニックが入ったホリデイジャンクション構造を認識して核酸を切断する活性を有していても良い。また、本明細書において耐熱性のミスマッチエンドヌクレアーゼとは、50℃以上の温度において二本鎖核酸中のミスマッチ部位を切断する活性を示すヌクレアーゼのことをいい、本発明においては耐熱性のミスマッチエンドヌクレアーゼの使用が好ましい。

本発明を特に限定するものではないが、本発明に使用される耐熱性のミスマッチエンドヌクレアーゼとしては、古細菌由来の耐熱性のミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドが例示される。本発明者らは、これまで複製系の1因子と考えられていたPyrococcus furiosus由来のポリペプチドPF0012(RefSeq ID:NP_577741、配列表の配列番号1)が耐熱性のミスマッチエンドヌクレアーゼであることを見出した。さらには、PF0012のホモログであるMethanocaldococcus jannaschii由来のポリペプチドMJ_0225(RefSeq ID:NP_247194、配列表の配列番号8)、及びThermococcus barophilus由来のポリペプチドTERMP_01877(RefSeq ID:YP_004072075、配列表の配列番号7)も同様に耐熱性のミスマッチエンドヌクレアーゼであることを見出した。なお、MJ_0225、TERMP_01877は、それぞれPF0012のアミノ酸配列に対して57%、73%の配列同一性を有する。従って、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、当該ポリペプチドのアミノ酸配列において1〜10個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有するポリペプチド、及び配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、またさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドは、本発明における耐熱性のミスマッチエンドヌクレアーゼとして好適である。さらには、配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、当該ポリペプチドのアミノ酸配列において1〜10個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有するポリペプチド、及び配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、またさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドも、本発明における耐熱性のミスマッチエンドヌクレアーゼとして好適である。またさらに、配列表の配列番号8に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、当該ポリペプチドのアミノ酸配列において1〜10個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有するポリペプチド、及び配列表の配列番号8に記載のアミノ酸配列に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、またさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドも、本発明における耐熱性のミスマッチエンドヌクレアーゼとして好適である。

さらに本発明者らは、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、77番目のトリプトファン残基が他のアミノ酸残基、好ましくはフェニルアラニンに置換されてなるアミノ酸配列を有するポリペプチドが、G(グアニン塩基)−G(グアニン塩基)ミスマッチを特異的に認識する耐熱性のミスマッチエンドヌクレアーゼであることを見出した。当該ミスマッチエンドヌクレアーゼのグアニン塩基同士で形成されたミスマッチ塩基対に対する切断活性を測定したところ、他のミスマッチ塩基対に対する切断活性の10倍以上であった。従って、こうして作成された配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、ならびにそのホモログは、本発明の一態様である。配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド及びそのホモログとしては、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列における77番目のトリプトファン残基が他のアミノ酸残基に置換されてなるポリペプチド、当該ポリペプチドのアミノ酸配列において、77番目のアミノ酸残基を除く1〜10個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有するポリペプチド、及び配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、またさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドであって、かつ配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列における77番目のトリプトファン残基に対応するアミノ酸残基がトリプトファン以外のアミノ酸残基であり、それぞれがミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドが例示される。このようなミスマッチエンドヌクレアーゼは、後述する種々の用途、例えば特異的DNA配列を含有するDNAを排除しその他のDNAを増幅、検出する方法に好適である。 ここで、ミスマッチエンドヌクレアーゼの活性は、ミスマッチ塩基対を含有する二本鎖核酸を基質として測定することができる。具体的には、ミスマッチ塩基対を含有する二本鎖核酸を調製した後、ミスマッチエンドヌクレアーゼに対して過剰量の当該二本鎖核酸をミスマッチエンドヌクレアーゼと反応させ、単位時間当たりの切断核酸量を測定することで活性測定が実施される。切断された二本鎖核酸は、電気泳動などにより切断を受けなかった核酸と分離して定量することが可能である。切断を受けた場合にのみ蛍光強度の増加が検出できるように蛍光物質と消光物質とで二重に標識した二本鎖核酸を使用すれば、反応溶液中の蛍光強度を適当な時間ごとに測定することにより活性を簡便に測定することができる。また、基質となる二本鎖核酸の中のミスマッチ塩基対の塩基を変えることで、特定のミスマッチ塩基対に対する切断活性を調べることも可能である。

本発明の二本鎖核酸の切断方法は、ミスマッチ塩基対を有する二本鎖核酸に配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又はそのホモログを作用させることで行われる。配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドのホモログとしては、本発明を特に限定するものではないが、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜10個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、及び配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、またさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、ならびに上記した配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド及びそのホモログが例示される。また、本発明の二本鎖核酸の切断方法におけるポリペプチドの由来生物としては、古細菌が例示され、好適には耐熱性の古細菌が、より好適にはPyrococcus furiosus、Thermococcus barophilus、Methanocaldococcus jannaschii等の耐熱性の古細菌が例示される。本発明の二本鎖核酸の切断方法においては、PF0012のホモログであるMethanocaldococcus jannaschii由来のポリペプチドMJ_0225(RefSeq ID:NP_247194、配列表の配列番号8)又はそのホモログ、あるいはThermococcus barophilus由来のポリペプチドTERMP_01877(RefSeq ID:YP_004072075、配列表の配列番号7)又はそのホモログも使用できる。配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドのホモログとしては、本発明を特に限定するものではないが、配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列において1〜10個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、及び配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、またさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドが例示される。配列表の配列番号8に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドのホモログとしては、本発明を特に限定するものではないが、配列表の配列番号8に記載のアミノ酸配列において1〜10個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、及び配列表の配列番号8に記載のアミノ酸配列に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、またさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドが例示される。

本発明の二本鎖核酸の切断方法におけるミスマッチ塩基対は、二本鎖核酸の内部(通常の塩基対合を行う2個の塩基対の間)に存在するものであれば二本鎖核酸中に1つのミスマッチ塩基対が存在するものに限定されることはなく、ミスマッチ塩基対が間隔をおいて複数個存在するものであってもよいし、2以上の連続するミスマッチ塩基対が存在していてもよい。本発明の二本鎖核酸の切断方法におけるミスマッチ塩基対としては、好ましくは二本鎖核酸の内部に存在する1又は8以下の連続するミスマッチ塩基対、より好ましくは1又は4以下の連続するミスマッチ塩基対、さらにより好ましくは2つの連続するミスマッチ塩基対又は1つのミスマッチ塩基対が例示される。本発明の二本鎖核酸の切断方法において、二本鎖核酸中に複数のミスマッチ塩基対が存在する場合は、該複数のミスマッチ塩基対は、同種のミスマッチ塩基対であってもよいし、または異なる種類のミスマッチ塩基対であってもよい。

ミスマッチ塩基対を有する二本鎖核酸としては、PCR産物、ゲノムDNAやその断片などの生物試料由来の核酸、及び合成核酸等が例示される。また、ミスマッチ塩基対を有する二本鎖核酸は、複数の生物試料由来の混合物又は生物試料由来の核酸と合成核酸との混合物を融解、再アニーリングさせて生成された核酸混合物であってもよい。例えば、変異を有する核酸と野生型の核酸を混合し、融解、再アニーリングした場合、ミスマッチ塩基対が形成され、この部位でミスマッチエンドヌクレアーゼの切断を受ける。こうして生じたミスマッチエンドヌクレアーゼによる切断後の核酸断片の大きさを観察することで、変異の有無、位置を検証できる。本発明のミスマッチエンドヌクレアーゼを利用することにより、PCR法などの核酸増幅法の反応液にこのミスマッチエンドヌクレアーゼを添加するだけの一段階の反応で変異解析を行うことが可能である。PCR法においては、そのサイクル数を一定数以上増加させても、増幅効果が得られなくなることが知られている。添加されている核酸の枯渇や、プライマーと反応産物のアニーリングの競合がその主な原因であるが、この時には反応産物同士のアニーリングが起こっており、変異を有する鋳型と野生型の鋳型が混在していれば、これらから増幅した反応産物同士のアニーリングにより変異部位にミスマッチ塩基対が生じることになる。したがって、本発明のミスマッチエンドヌクレアーゼの共存下でのPCRを通常よりも増加させたサイクル数で実施することだけで、変異解析が可能になる。すなわち、本発明は、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド又はそのホモログを二本鎖核酸に作用させることを含む、変異解析方法を提供する。さらに、本発明は、配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド又はそのホモログを二本鎖核酸に作用させることを含む、変異解析方法を提供する。またさらに、本発明は、配列表の配列番号8に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド又はそのホモログを二本鎖核酸に作用させることを含む、変異解析方法を提供する。

また、核酸増幅反応の過程でも本発明の二本鎖核酸の切断方法を実施することができる。核酸増幅の反応液にミスマッチエンドヌクレアーゼを添加することで、増幅過程の誤ったヌクレオチドの取り込みで生じたミスマッチ塩基対を有する二本鎖核酸が切断される。この結果、反応開始前の鋳型核酸とは異なる配列の核酸の増幅が抑制される。こうして、エラー率の低減した核酸増幅が可能になる。すなわち、本発明は、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド又はそのホモログを用いてミスマッチ塩基対を有する二本鎖核酸を切断する工程を含む、核酸増幅方法を提供する。さらに、本発明は、配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド又はそのホモログを用いてミスマッチ塩基対を有する二本鎖核酸を切断する工程を含む、核酸増幅方法を提供する。またさらに、本発明は、配列表の配列番号8に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド又はそのホモログを用いてミスマッチ塩基対を有する二本鎖核酸を切断する工程を含む、核酸増幅方法を提供する。該ミスマッチ塩基対を有する二本鎖核酸を切断する工程は、核酸増幅工程と同時に行われてもよい。さらに、(a)DNAポリメラーゼ、(b)少なくとも一対のオリゴヌクレオチドプライマー、並びに(c)(i)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(ii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜10個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、及び(iii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、またさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドからなる群より選択された少なくとも1種のポリペプチドを含む組成物も、本発明の一態様である。また、本発明の別の態様として、(a)DNAポリメラーゼ、(b)少なくとも一対のオリゴヌクレオチドプライマー、並びに(c)(i)配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(ii)配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列において1〜10個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、及び(iii)配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、またさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドからなる群より選択された少なくとも1種のポリペプチドを含む組成物が提供される。また、本発明のさらに別の態様として、(a)DNAポリメラーゼ、(b)少なくとも一対のオリゴヌクレオチドプライマー、並びに(c)(i)配列表の配列番号8に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(ii)配列表の配列番号8に記載のアミノ酸配列において1〜10個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、及び(iii)配列表の配列番号8に記載のアミノ酸配列に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、またさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドからなる群より選択された少なくとも1種のポリペプチドを含む組成物が提供される。同様に、さらに上記の核酸増幅反応用の組成物と鋳型となる核酸分子を含む組成物を調製する工程、及び得られたこの組成物を適切な条件下で反応させ、核酸増幅を行う工程を含む核酸の増幅方法も、本発明の一態様である。

上記の組成物は、さらに反応緩衝剤、2価の金属イオン、デオキシリボヌクレオチド、オリゴヌクレオチドプローブ、及びインターカレーティング色素から選択される少なくとも1種を含んでもよい。また、上記の組成物を核酸増幅反応に使用する場合、上記の組成物は、さらに核酸増幅反応の鋳型となる核酸を含んでいても良い。上記の反応緩衝剤とは、反応溶液の素イオン濃度(pH)の変動を和らげる作用を持つ化合物又は混合物のことをいう。一般に弱酸とその塩、あるいは弱塩基とその塩の混合溶液は強い緩衝作用を持つので、反応緩衝剤としてpHコントロールの目的で広く用いられている。本発明に使用される反応緩衝剤としては、例えばTris−HCl、HEPES−KOH等のグッドバッファーやリン酸ナトリウムバッファー等のリン酸バッファーが挙げられる。上記の2価の金属イオンとしては、例えばマグネシウムイオン、マンガンイオン、亜鉛イオン、及びコバルトイオンが挙げられる。2価の金属イオンは、塩化物、硫酸塩、又は酢酸塩等の塩の形態で供給され得る。

上記の核酸の増幅法としては、本発明を特に限定するものではないが、DNAを増幅する方法が例示される。DNAを増幅する方法としては、たとえばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、MDA(Multiple displacement amplification)法、及びICAN法やLAMP法等の等温核酸増幅法が挙げられる。

上記の核酸増幅反応用の組成物中のミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドの濃度は、適宜各々の反応系でDNAの増幅反応を阻害しない濃度やミスマッチ塩基対の切断に有効な濃度を検定して決定すればよい。

上記の核酸増幅反応用の組成物に使用される少なくとも1対のプライマーとしては、各種の核酸増幅法に適した2個以上のプライマーが選択される。これらは、所望の増幅が生じるものであればDNA、RNAのほか、DNAの一部がRNAに置換されている所謂キメラプライマーであっても良い。また、公知の核酸アナログを含むプライマーや検出などを目的とした蛍光色素などにより標識されたプライマーであってもよい。

さらに、本発明者らは、ミスマッチエンドヌクレアーゼと適切に設計されたオリゴデオキシヌクレオチドとを利用して、核酸増幅反応において特定の塩基配列を有する核酸の増幅を抑制可能であることを見出した。従って、(a)前記特定の塩基配列を有する核酸とハイブリダイズさせた際に1個もしくは数個のミスマッチを生じるように設計されたオリゴデオキシヌクレオチド、(b)DNAポリメラーゼ、(c)少なくとも一対のプライマー、及び(d)ミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドの存在下で核酸増幅反応を行う工程を含む、核酸増幅反応において特定の塩基配列を有する核酸の増幅を抑制する方法も、本発明の一態様である。また、この方法を使用して標的核酸の塩基配列と1個もしくは数個の塩基が異なる特定の塩基配列を有する核酸の増幅を抑制することによって、標的核酸を優先的に増幅する方法も、本発明の一態様である。

上記の(a)のオリゴデオキシヌクレオチドは、特定の塩基配列を有する核酸とハイブリダイズさせた際に1個もしくは数個のミスマッチを生じるように設計されたオリゴデオキシヌクレオチドであれば特に限定はなく、DNAの一部がRNAに置換されている所謂キメラオリゴデオキシヌクレオチドであっても良い。また、本発明を特に限定するものではないが、このオリゴデオキシヌクレオチドの3’端は、このオリゴデオキシヌクレオチドからのDNAポリメラーゼによる伸長反応を抑制するための修飾を施されていてもよい。たとえば、アミノ化などの修飾が例示される。また、オリゴデオキシヌクレオチドは、このオリゴデオキシヌクレオチドが結合する核酸がミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドの切断を受ける限りにおいて、ホスホロチオエート化やその他の修飾によりデオキシリボヌクレアーゼからの切断から保護されていてもよい。さらに、検出などを目的とした蛍光色素や消光物質などにより標識されていてもよい。

上記オリゴデオキシヌクレオチドの鎖長は、実施される反応の条件の下で前記特定の塩基配列を有する核酸とこのオリゴデオキシヌクレオチドとがハイブリダイズできるように、適宜決定できる。また、特定の塩基配列を有する核酸とハイブリダイズさせた際にミスマッチを生じる位置は、このオリゴデオキシヌクレオチドの5’末端、3’末端の両方から少なくとも3ヌクレオチド以上離れていることが望ましい。

本発明の、核酸増幅反応において特定の塩基配列を有する核酸の増幅を抑制する方法には、ミスマッチ部位を特異的に切断する活性を有する任意のミスマッチエンドヌクレアーゼを使用することができる。例えば、核酸増幅法として高温での反応を包含するPCR法のような方法で、耐熱性DNAポリメラーゼを使用する場合には、ミスマッチエンドヌクレアーゼも耐熱性を有するものを使用することが好ましい。本発明を特に限定するものではないが、このような場合には、前記の耐熱性のミスマッチエンドヌクレアーゼ、すなわち、(i)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(ii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜10個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、(iii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、またさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、(iv)配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(v)配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列において1〜10個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、(vi)配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、またさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、(vii)配列表の配列番号8に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(viii)配列表の配列番号8に記載のアミノ酸配列において1〜10個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド、及び(ix)配列表の配列番号8に記載のアミノ酸配列に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、またさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドからなる群から選択される少なくとも1種のポリペプチドを使用することが好適である。

本発明の、核酸増幅反応において特定の塩基配列を有する核酸の増幅を抑制する方法には、特定のミスマッチ塩基対を含む二本鎖核酸のみを特異的に切断する活性を有するミスマッチエンヌクレアーゼを使用することがさらに好ましい。この場合、増幅抑制する塩基配列を1種類に限定することが可能である。例えば、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列における77番目のトリプトファン残基が他のアミノ酸残基に置換されている配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、G(グアニン塩基)−G(グアニン塩基)ミスマッチを含む二本鎖核酸を特異的に切断するため、G(グアニン塩基)以外の塩基がミスマッチを生じる位置に存在する二本鎖核酸は切断されず、増幅抑制を受けることがない。すなわち、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列における77番目のトリプトファン残基が他のアミノ酸残基に置換されてなるポリペプチド、ならびにそのホモログは特定の塩基配列を有する核酸の増幅を抑制する方法に好適である。 したがって、本発明はさらに、下記(a)〜(d)を含む核酸増幅反応用組成物を提供する: (a)特定の塩基配列を有する核酸またはその相補鎖とハイブリダイズさせた際に1個もしくは数個のミスマッチを生じるように設計されたオリゴデオキシヌクレオチド; (b)DNAポリメラーゼ; (c)少なくとも一対のオリゴヌクレオチドプライマー;及び (d)下記(i)〜(xii)からなる群より選択された少なくとも一種のポリペプチド: (i)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド; (ii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列において1〜10個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド; (iii)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、またさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド; (iv)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド; (v)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、77番目のフェニルアラニンを除く1〜10個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド; (vi)配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、またさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列において、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列における77番目のトリプトファンに対応するアミノ酸残基がフェニルアラニンに置換されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド; (vii)配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド; (viii)配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列において1〜10個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド; (ix)配列表の配列番号7に記載のアミノ酸配列に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、またさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド; (x)配列表の配列番号8に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド; (xi)配列表の配列番号8に記載のアミノ酸配列において1〜10個、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されてなるアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド;及び (xii)配列表の配列番号8に記載のアミノ酸配列に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、またさらに好ましくは95%以上のアミノ酸配列の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチド。上記の組成物は、さらに反応緩衝剤、2価の金属イオン、デオキシリボヌクレオチド、オリゴヌクレオチドプローブ、及びインターカレーティング色素から選択される少なくとも1種を含んでもよい。また、上記の組成物は、さらに核酸増幅反応の鋳型となる核酸を含んでいてもよい。

本発明の核酸増幅反応において特定の塩基配列を有する核酸の増幅を抑制する方法は、任意の核酸増幅法において実施することができる。本発明を特に限定するものではないが、DNAを増幅する方法に特に好適である。たとえばPCR法、MDA法、及びICAN法やLAMP法等の等温核酸増幅法等で本発明を実施することができる。

本発明の、核酸増幅反応において特定の塩基配列を有する核酸の増幅を抑制する方法は、任意の核酸を対象として実施することができる。DNAを増幅対象とする場合には、人工的に作製されたDNA混合物、環境由来試料や生物由来の試料、又はその試料より調製されたDNA混合物中に存在するDNAが例示される。本発明を特に限定するものではないが、生物由来の試料としては、ヒト等の哺乳類由来の試料が例示される。また、本発明を特に限定するものではないが、DNA混合物としては、断片化されたゲノムDNA混合物、mRNAより逆転写反応により生じたcDNA混合物、複数のPCR産物の混合物などが例示される。増幅が抑制される特定の塩基配列を有するDNAとしては、分離されずにのこるrRNA由来の逆転写産物や、プライマー同士の対合により生じる低分子DNAなどが例示される。後に機能的スクリーニングを行う遺伝子ライブラリーを増幅する場合には、陽性を示す既知の遺伝子の配列を持つDNAの増幅を抑制することで、より効率的に未知遺伝子を探索できるライブラリーの作製も可能になる。

本発明[8]の、核酸増幅反応において特定の塩基配列を有する核酸の増幅を抑制する方法における(d)のミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドの濃度は、適宜各々の反応系でDNAの増幅反応を阻害しない濃度やミスマッチ塩基対の切断に有効な濃度を検定して決定すればよい。(a)のオリゴデオキシヌクレオチドの濃度は、鋳型量や目的DNAの増幅効率を勘案して、使用濃度を最適化し、決定すればよい。例えば増幅反応に使用されるプライマーの濃度の0.1倍〜10倍の濃度で実施可能である。

本発明[11]の、標的DNAを優先的に増幅する方法は、更に増幅された標的DNAを検出する工程を含んでいても良い。本明細書においては、本発明のこの態様のことを「本発明の検出方法」と記載することがある。例えば、DNAを検出対象とする本発明の検出方法によれば、検出対象でないDNA(特定の塩基配列を有するDNA)が検出対象のDNA(標的DNA)に対して大過剰に存在する場合においても、本発明[8]の核酸増幅反応において特定の塩基配列を有する核酸の増幅を抑制する方法における(a)のオリゴデオキシヌクレオチドと(d)のミスマッチエンドヌクレアーゼ活性を有するポリペプチドとにより検出対象でないDNAを鋳型としたDNAの増幅が抑制されるため、検出対象のDNAの検出を行うことが可能となる。

本発明の検出方法は、例えば変異の存在が知られている遺伝子に対応する核酸について、野生型と変異型とを区別して検出することを可能にする。特定の塩基配列を有する核酸として、野生型の塩基配列を含有するDNAを設定して本発明の検出方法を実施することにより、大過剰の正常対立遺伝子(すなわち野生型の塩基配列を有するDNA)の存在下における少数の変異対立遺伝子の検出が可能となる。例えば血中循環腫瘍DNAの検出や母親の血液中に含有されている少量の胎児DNA配列の検出に本発明の方法は有用である。当該変異としては、微小欠失及び点突然変異が例示される。なお、点突然変異によって生じた多型は一塩基多型(SNPs)と呼ばれる。本明細書においては、SNPsのうち変異型の塩基配列を有するDNAのことを、一塩基多型変異を有するDNAと記載することがある。

本発明を特に限定するものではないが、前記の特定の塩基配列を有する核酸としては、腫瘍マーカーとして利用される一塩基多型変異、癌治療用薬剤による治療効果と相関する一塩基多型変異、及び細胞の癌化との相関が知られている一塩基多型変異からなる群より選択された少なくとも1つの一塩基多型変異を含む核酸が好ましい。SNPsには、腫瘍細胞に高頻度で認められるものや、癌治療用薬剤による治療効果や発癌との相関が知られているものがある。このようなSNPsとしては、K−ras遺伝子、B−raf遺伝子、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子のSNPsが例示される。K−ras遺伝子の体細胞変異は、結腸直腸癌、腺癌、甲状腺癌等において高頻度で認められる。B−raf遺伝子の体細胞変異は、結腸直腸癌、悪性黒色腫、甲状腺乳頭癌、非小細胞肺癌、肺腺癌等において高頻度で認められる。また、EGFR遺伝子の体細胞変異は、様々な固形腫瘍において高頻度で認められる。ゲフィチニブやエルロチニブ等のEGFR阻害剤による癌の治療は、癌組織のEGFR遺伝子が特定の一塩基多型変異を有する場合に有効である可能性が高いことが知られている。一方、癌組織のK−ras遺伝子が一塩基多型変異を有する場合には、EGFR阻害剤への抵抗性を示す可能性が高いことが知られている。

本発明の検出方法は、生物由来試料から抽出したメチル化DNAを含む組成物を亜硫酸水素塩処理した後に得られたDNAを材料として実施してもよい。本発明の検出方法によれば、大過剰の非メチル化対立遺伝子の存在下における少数のメチル化対立遺伝子の検出、あるいは大過剰のメチル化対立遺伝子の存在下における少数の非メチル化対立遺伝子の検出を行うことができる。

前記の亜硫酸水素塩による処理として、メチル化DNAの検出に用いられる公知の亜硫酸水素塩法(バイサルファイト法)が利用できる。当該処理により非メチル化シトシンはウラシルに変換されるが、メチル化シトシンは変化しない。さらに、このバイサルファイト処理済みの反応液をPCR法で増幅すると、ウラシルはチミンに変換され、メチル化シトシンはシトシンとなる。つまり特定の部位での大過剰の非メチル化対立遺伝子の存在下における少数のメチル化対立遺伝子の検出、あるいは大過剰のメチル化対立遺伝子の存在下における少数の非メチル化対立遺伝子の検出は、それぞれ大過剰のチミンの中のシトシンの存在、または大過剰のシトシンの中のチミンの存在を検証することに他ならない。ここで大過剰に存在するチミンあるいはシトシンを含有するDNAからの増幅を抑制できれば、少数のメチル化対立遺伝子あるいは非メチル化対立遺伝子の存在はたやすく検証することができる。

本発明の検出方法における標的核酸を検出する工程には、電気泳動、塩基配列解析、サイクリングプローブやTaqManプローブ等のプローブを用いたリアルタイムPCRを利用することができる。これらの検定方法は一般的な手法をそのまま用いることが可能である。特にHRM(High Resolution Melting)解析法を用いた場合、目的DNAの増幅と検出を1段階で行うことができ、迅速かつ簡便な目的DNAの検証が可能になる。

以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。

調製例1 ゲノムDNAの調製 Pyrococcus furiosusのゲノムDNAの調製は、日本特許第3742659号公報の実施例1に記載の方法に従い行った。Thermococcus barophilus、およびMethanocaldococcus jannaschiiのゲノムDNAの調製は、菌株としてThermococcus litoralisの代わりにThermococcus barophilus、又はMethanocaldococcus jannaschiiを使用する以外は国際公開第02/22831号パンフレットの実施例8に記載の方法に従って行った。なお、これらの菌株は、ドイッチェ・ザムルンク・フォン・ミクロオルガニスメン・ウント・ツェルクルツレンGmbH(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)より購入可能である。

調製例2 PF0012タンパク質の調製 (1)PF0012の発現用プラスミド pET−PF12の作製 PF0012タンパク質の機能解析を行うため、大腸菌での強制発現系を構築した。Genbank Acc.NC_003413で公開されているPyrococcus furiosus PF0012遺伝子のタンパク質翻訳領域(塩基番号11810−12610)をIn—Fusion(登録商標) HD Cloning Kit(タカラバイオ社)を用いてクローニングするため、2種のプライマー、PF12FとPF12Rを設計した。PF0012のアミノ酸配列を配列番号1に、プライマーPF12FとPF12Rの塩基配列をそれぞれ配列番号3、4に示す。Pyrococcus furiosusのゲノムDNAを鋳型として、これらのプライマーを用いてPrimeSTAR(登録商標) HS DNA Polymerase(タカラバイオ社)を使用して当該領域を増幅した。この増幅領域の塩基配列を配列番号5に示す。この増幅断片をIn—Fusion(登録商標) HD Cloning Kitを用いてプラスミドpET15b(メルクミリポア社)のNdeI、BamHI切断サイト間に挿入した。このIn−Fusion反応液を用いて大腸菌JM109株を形質転換し、アンピシリン耐性となったクローンから、PF0012発現プラスミド pET−PF12を分離した。このプラスミドを保持する大腸菌の粗抽出液から、後述の実施例2記載の方法によりミスマッチエンドヌクレアーゼ活性が検出できた。しかしこのプラスミドは非常に安定性が悪く、内部欠失を高頻度で起こすため、タンパク質生産には不適だった。

(2)最適化PF0012発現用プラスミド pET−optPF12の作製 pET−PF12を用いたPF0012タンパク質の発現が安定しなかったため、PF0012のアミノ酸配列を大腸菌型のコドンでコードする塩基配列を設計し、この配列を含むDNAを人工合成した。このDNAの塩基配列を配列番号6に示す。このDNAを制限酵素NdeI、BamHIで切断した後、精製を行い、得られたDNA断片をプラスミドpET15bの同制限酵素部位間にDNA Ligation Kit

(タカラバイオ社)を用いて挿入した。このLigation反応液を用いて大腸菌JM109株を形質転換し、アンピシリン耐性となったクローンを選択した。このクローンから最適化PF0012発現プラスミドpET−optPF12を得た。

(3)PF0012タンパク質の発現 プラスミドpET−optPF12で大腸菌BL21 DE3株を形質転換しアンピシリン耐性となったクローンを分離した。得られた新鮮な単一コロニーをアンピシリン100μg/mlを含むLB培地(以下LB−AP培地と称する)2mlに接種し37℃で終夜培養を行った。終夜培養液500μlを50mlのLB−AP培地に加えて37℃で3時間培養した後、培養液に終濃度1mMのIPTGを加えてさらに37℃で3時間培養した。培養終了後、6000×g 10分の遠心分離を行って培養液より菌体を採取した。

(4)PF0012タンパク質の精製 上記で得られた菌体を3mlの50mM Tris・HCl pH7.5、100mM NaCl溶液(以下Buffer Aと称する)に懸濁し、VP—5S Ultras. Homogenizer(TAITEC社)を用いて超音波破砕を行った。30秒間の超音波処理を3回繰り返す操作を行い、懸濁液が透明になることを確認した。 超音波破砕後の懸濁液を95℃ 10分加温し易熱性タンパク質を変性させ、17000×g 10分遠心し上清を回収した。こうして得た粗抽出液に対して500μlのNi−NTA Agarose(Qiagen社)を添加して4℃で2時間緩やかに撹拌した。この樹脂をエコノパック(登録商標)カラム(Bio−rad社)に充てんし、5mMイミダゾールを含むBuffer A 20mlで洗浄した。洗浄後1mlの300mMイミダゾールを含むBuffer AでPF0012タンパク質を溶出した。溶出液を4℃、Buffer Aで2回透析し、さらに50%Glycerolを含むBuffer Aで4℃終夜透析し、PF0012タンパク質溶液を得た。

調製例3 PF0012相同タンパク質の調製 (1)PF0012相同タンパク質の発現用プラスミドpET−TBA、pET−MJAの作製 古細菌に属するThermococcus barophilus、Methanocaldococcus jannaschiiの2つの菌株からPF0012相同タンパク質の分離を目指して、これらをコードする領域のクローニングを行った。この2つの株由来のPF0012相同タンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号7、8に示す。 それぞれ、Genbank Acc.CP002372.1、Genbank Acc.NC_000909.1にて公開されている塩基配列情報より、各々のPF0012相同タンパク質の翻訳領域に相当する配列情報(TERMP_01877:塩基番号1674836−1675591、MJ_0225:塩基番号215449−216240)を取得し、対応遺伝子をクローニングするためのプライマーの設計及び作製を行った。TERMP_01877遺伝子のクローニングにはTBA1877F、TBA1877Rのプライマー対、MJ_0225遺伝子のクローニングにはMJ255F、MJ255Rのプライマー対を使用した。それぞれのプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号9、10、11、12に示す。 Thermococcus barophilus、Methanocaldococcus jannaschiiのゲノムDNAを鋳型として、前記のプライマー対とPrimeSTAR(登録商標)HS DNA Polymerase(タカラバイオ社)を使用して当該領域を増幅した。増幅されたDNAの配列を塩基配列13、14に示す。上述のpET−PF12の作製と同様に、この増幅DNAをそれぞれプラスミドpET15bへ挿入し、プラスミドpET−TBA、プラスミドpET−MJAを作製した。

(2)PF0012相同タンパク質の発現 PF0012相同タンパク質の発現、精製は、使用するプラスミドをpET−TBA、pET−MJAに変更し、菌体破砕後の易熱性タンパク質を沈殿させるための高温処理を75℃ 10分に変更する以外は、上述のPF0012タンパク質の発現の場合と同様に行い、PF0012相同タンパク質であるTERMP_01877タンパク質、MJ_0225タンパク質を得た。

実施例1 変異型PF0012タンパク質の調製 (1)変異型PF0012の発現用プラスミド pET−optPF12−W77Fの作製 PF0012タンパク質の相同タンパク質NucSの解析(The EMBO Journal、2009年、第28巻、p.2479−2489)より、ssDNA結合領域と考えられたPF0012タンパク質(配列番号1)の77番目のアミノ酸トリプトファン(コドンTGG)をフェニルアラニン(コドンTTT)に変換した変異型PF0012をコードする遺伝子を作製した。この変異型PF0012タンパク質(以下、W77F変異体と記載する)のアミノ酸配列を配列番号2に示す。 変異導入用のプライマーとして配列番号15、16に示されるmutF1、mutR1を作製した。pET−optPF12を鋳型として、前記のプライマーとPrimeSTAR(登録商標) Mutagenesis Basal Kit(タカラバイオ社)を用いてPCRを行った。この増幅反応液を用いて大腸菌JM109を形質転換し、アンピシリン耐性となったクローンから、W77F変異体発現プラスミドpET−optPF12−W77Fを得た。

(2)W77F変異体の発現、精製 W77F変異体の発現、精製は、使用するプラスミドをpET−optPF12−W77Fに変更した以外は、上述の野生型PF0012タンパク質の場合と同様に行った。

実施例2 PF0012タンパク質のミスマッチ切断活性 (1)切断活性測定用基質の作製1 PF0012タンパク質のミスマッチ切断活性を確認するため、活性検出用の基質を作製した。 FAMおよびROXでそれぞれ5’末端を標識した2本の合成DNAを混合、アニールしたものを基質として使用した。ROX標識DNAはROX−probe−G、ROX−probe−A、ROX−probe−T、ROX−probe−Cの4種を合成した。これら4種それぞれの塩基配列を配列番号17、18、19、20に示す。ROX−probe−G、ROX−probe−A、ROX−probe−T、ROX−probe−Cは5’末端から11番目の塩基以外は同じ塩基配列をしており、11番目にはそれぞれG、A、T、Cの塩基が挿入されている。FAM標識DNAはFAM−probe−G、FAM−probe−A、FAM−probe−T、FAM−probe−Cの4種を合成した。それぞれの塩基配列を配列番号21、22、23、24に示す。FAM−probe−G、FAM−probe−A、FAM−probe−T、FAM−probe−Cも、同じく5’末端から15番目の塩基(それぞれG、A、T、C)以外は同じ配列である。これらのうちROX標識DNAとFAM標識DNAをそれぞれ1種選んで混合してハイブリダイズさせ、ミスマッチ切断活性を検出するための基質とした。これらの基質はROXで標識された塩基から数えて11番目の塩基以外で塩基対を形成し、11番目の塩基に1か所のミスマッチ塩基対を保有する二本鎖DNAである。

(2)PF0012タンパク質によるミスマッチ切断反応(PAGEによる検出) 5μM ROX標識DNA1種 1μl、5μM FAM標識DNA1種 1μl、10×Ex taq Buffer(タカラバイオ社 TaKaRa Ex Taq(登録商標)に付属)1μl、PF0012タンパク質とH2Oを加えることで最終反応液量10μlとした。この反応液を60℃で1時間保温した後、反応を停止させて、10%ポリアクリルアミド変性ゲルで電気泳動を行った。泳動後、ゲル中の蛍光シグナルをFMBIO(登録商標)(日立ソリューションズ社)で検出した。

図1a)はROXのシグナルを検出した図であり、図1b)は同じ泳動ゲルからFAMのシグナルで検出したものである。図の上部のROXの左に示されたアルファベットは使用したROX標識DNAの種類を示している。すなわちG、A、T、CはそれぞれROX−probe−G、ROX−probe−A、ROX−probe−T、ROX−probe−Cが使用されたことを示している。同様にFAMの左のアルファベットはFAM標識DNAの種類を示し、G、A、T、CはそれぞれFAM−probe−G、FAM−probe−A、FAM−probe−T、FAM−probe−Cが使用されたことを示している。空欄になっている場合にはFAM標識DNAは使用されず、ROX標識DNAのみで反応されたことを示す。 両方の検出系において、G−G、G−T、T−G、T−Tのミスマッチの存在する基質を使用した場合のみ、低分子領域に切断断片と思われるDNA由来の蛍光シグナルが観察された。このことはPF0012タンパク質がG−G、G−T、T−G、T−Tのミスマッチ部位を認識し、その付近でDNAの両鎖を切断する活性を持つことを示している。 また、切断断片によるシグナルがスメアパターンを示さないことから、PF0012タンパク質はエキソヌクレアーゼ活性を有しないと考えられた。さらに、単一の蛍光標識DNAのみを使用した場合にも低分子領域に蛍光シグナルは観察されないことから、PF0012タンパク質は一本鎖のDNAに対する切断活性もほぼ有しないことが明らかになった。 PF0012タンパク質は切断できるミスマッチの塩基に選択性を持つものの、ミスマッチに対する特異性が高く、通常の塩基対を形成する二本鎖DNA、および一本鎖のDNAに対しては反応性が低いことが明らかとなった。本タンパク質の高いミスマッチへの特異性は核酸増幅反応への添加という点で、反応阻害を起こしにくく有利である。

(3)切断活性測定用基質の作製2 PF0012によるミスマッチ切断活性を継時的に観察するため、切断により蛍光シグナルを発する基質を作製した。 5’末端に消光物質であるeclipse、3’末端にFAMを結合させた配列番号25、26、27、28で示される塩基配列のDNA、DD−probe−G、DD−probe−A、DD−probe−T、DD−probe−Cを合成した。さらに相補鎖側のtemplate DNAとして配列番号29、30で示されるtemplate−G、template−Tを作製した。蛍光標識されたDNAとtemplate DNAを混合することで、5’末端の塩基から5番目にミスマッチ塩基対を保有する二本鎖DNA基質を作製した。

(4)PF0012タンパク質によるミスマッチ切断反応の継時的観察 5μMの蛍光標識されたDNA(DD−probe−G、DD−probe−A、DD−probe−T、DD−probe−Cのいずれか1つ)1.5μl、25μM template−G 1μl、10×Ex taq Buffer 2.5μl、PF0012タンパク質とH2Oを加えることで25μlとした。この反応液を55℃で1時間反応させ、1分ごとに蛍光強度の変化を観察した。反応および蛍光シグナルの測定にはThermal Cycler Dice(登録商標)Real Time System(タカラバイオ社)を使用した。

図2は1分ごとの蛍光強度を測定したものである。未切断の基質ではFAM由来の蛍光はeclipseにより消光されている。しかし、PF0012タンパク質により基質が切断されると、FAMとeclipseとの間の距離が増大するためFAMの蛍光が観察できるようになる。 実際にG−G、G−Tミスマッチの存在する基質を使用した場合のみ蛍光強度の上昇が観察でき、G−AミスマッチやG−C塩基結合を保持する基質では蛍光強度の上昇は観察できなかった。この実験においてもPF0012タンパク質はG、Tの介在するミスマッチを切断する活性を持つことが示された。また、個々のミスマッチ塩基対に対する切断活性は、反応開始時点の初速度、つまり、直線性を保持している区間の傾きにそれぞれの基質の蛍光強度の補正を加えた値で表される。図2の曲線から算出される反応の初速度の比較からは、PF0012タンパク質のG−Gミスマッチに対する切断活性は、G−Tミスマッチに対するより2倍程度高いことが分かった。

実施例3 PF0012相同タンパク質のミスマッチ切断活性 (1)PF0012相同タンパク質によるミスマッチ切断反応 Thermococcus barophilus、Methanocaldococcus jannaschii由来のPF0012相同タンパク質についても、ミスマッチ切断活性およびその塩基特異性について検証した。 酵素タンパク質をPF0012相同タンパク質(TERMP_01877タンパク質、MJ_0225タンパク質)に変更した以外は、PF0012タンパク質によるミスマッチ切断反応の継時的観察と同様に行い、ミスマッチ切断活性を蛍光強度の増加を指標に観察した。 その結果、図3に示す通り、Thermococcus barophilus、Methanocaldococcus jannaschii由来のタンパク質についても、PF0012タンパク質と同様にG、Tの介在するミスマッチ部位を切断する活性を持つことが示された。

実施例4 PF0012タンパク質添加によるPCR法を用いた遺伝子増幅のエラー率の減少 PF0012タンパク質は、二本鎖核酸中のミスマッチ塩基対を認識してその両鎖を切断することができる。またこのタンパク質は耐熱性であるため、PCRのような高温の反応系に直接添加することが可能である。PCR中に生じたミスマッチ塩基対を含む二本鎖核酸を特異的に切断することで、増幅反応で生じるエラーを抑制することが期待できる。

(1)PF0012タンパク質を添加したPCR PCRの反応液にPF0012タンパク質を添加し、Thermus thermophilus HB8のゲノムDNAを鋳型に4個のプライマー対を用いてPCRを行った。使用したプライマー対はTth1F(配列番号31)とTth1R(配列番号32)、Tth2F(配列番号33)とTth2R(配列番号34)、Tth3F(配列番号35)とTth3R(配列番号36)、Tth4F(配列番号37)とTth4R(配列番号38)である。Thermus thermophilus HB8 Genomic DNA Solution(タカラバイオ社)を鋳型として、上記プライマー対とPF0012タンパク質を添加し、TaKaRa Taq(登録商標) Hot Start Version(タカラバイオ社)を用いて、98℃10秒、55℃30秒、72℃1分の条件で30サイクル行うPCRを行った。

(2)PCRによるエラー率の算出 上記で増幅したDNA断片をNucleoSpin(登録商標)Gel and PCR Clean—up(タカラバイオ社)を用いて精製し、そのDNA断片をpMD19(simple)プラスミド(タカラバイオ社)にTAクローニングを行った。各増幅DNA断片につき96個、合わせて384個のクローンのプラスミドについて増幅領域の塩基配列決定を行った。 目的DNAを含まないものや塩基配列解析操作時に生じた誤りと考えられる配列情報を取り除いたのち、増幅領域の塩基配列を元のゲノムDNA配列と比較し、異なった塩基数を解析された総塩基数で割ってエラー率とした。 PF0012タンパク質を含まないPCRから増幅されたDNA中には、128826bp中71bpの間違いが見いだされエラー率は0.055%であった。PF0012タンパク質を添加したPCRでは97112bp中28bpの間違いが見いだされ、エラー率は0.029%であった。 このように、PCRの反応液にPF0012タンパク質を添加するだけで、核酸増幅によって生じるエラーを減らすことが可能であった。

実施例5 W77F変異体のミスマッチ切断活性 PF0012タンパク質はもともとG、Tを含むミスマッチ塩基対に対して選択性を持っている。このタンパク質に変異を導入することで、認識するミスマッチ塩基対をさらに限定させた酵素タンパク質を作製することを試みた。

(1)W77F変異体によるミスマッチ切断反応の継時的観察 実施例1で作製されたW77F変異体のミスマッチ切断活性、およびその塩基特異性を前述の蛍光DNA基質を用いて観察した。PF0012タンパク質に変えて、W77F変異体を使用し、DD−probe−G、DD−probe−Tとtemplate−G、template−Tを組み合わせて実験を行った。そのほかの反応条件は実施例2(4)の継時的ミスマッチ切断活性の測定と同様に行った。

図4にあるように、W77F変異体はG−Gのミスマッチはよく切断できるが、G−Tのミスマッチに対する切断活性はその1/20以下であり、T−Tのミスマッチについては切断できなかった。野生型PF0012タンパク質のG−Tのミスマッチに対する活性は図2にあるようにG−Gのミスマッチに対する活性と比較すると1/2程度であるので、W77F変異体は、G−Gのミスマッチに対してより特異的な切断活性を持っていることが分かった。

実施例6 W77F変異体添加による希少混入変異型遺伝子の特異的増幅 (1)鋳型プラスミドの調製 変異遺伝子増幅試験のため、鋳型となるプラスミドを調製した。 Genbank Acc.NG_017013で公開されているhuman TP53遺伝子領域の配列情報から配列番号39、40でそれぞれ示される2種のプライマー、TP53CloneFとTP53CloneRを設計、合成した。これらのプライマーを用いてhuman genomic DNA(Clontech社)を鋳型として、PrimeSTAR(登録商標) HS DNA Polymeraseを使用して当該領域を増幅した。増幅した領域の塩基配列情報は配列番号41に示す。この増幅したDNA断片をプラスミドpMD19(simple)(タカラバイオ社)にTAクローニングを行った。得られたプラスミドをpTP53(G)とした。このpTP53(G)を鋳型にTP53遺伝子の増幅領域の99番目の塩基GをAに変換するため、変異導入用プライマーとして配列番号42、43に示されるTP53AF、TP53ARを設計、作製した。プラスミドpTP53(G)を鋳型にこの変異導入用プライマー対とPrimeSTAR(登録商標) Mutagenesis Basal Kitを用いて目的部位のGをAに変換した変異体プラスミドpTP53(A)を作製した。

(2)特異的変異型遺伝子切断用プローブの設計、調製 特異的変異型遺伝子切断用オリゴヌクレオチドとして、pTP53(G)上の変異を導入した部位の5´側に8塩基、3´側に7塩基伸ばした領域の相補鎖の配列を持ち、変異部位に対応するCをGに変換したオリゴヌクレオチドを設計した。本オリゴヌクレオチドはpTP53(G)にハイブリダイズするとG−Gのミスマッチを生じる。また、このオリゴヌクレオチドからの伸長反応が起こらないように、オリゴヌクレオチドの3’末端のヒドロキシ基はアミノ基に置換されている。このオリゴヌクレオチドを特異的SNP切断用オリゴヌクレオチド、TP53degと命名した。TP53degの塩基配列を配列番号44に示す。

(3)特異的変異型遺伝子増幅抑制PCR プラスミドpTP53(G)単独、プラスミドpTP53(A)単独、ならびに両プラスミドを混合したもののそれぞれを鋳型として、W77F変異体とTP53degを添加しPCRを行った。プラスミドの混合比はpTP53(G) 100ngに対し、pTP53(A) 100ng(1/1)、10ng(1/10)、1ng(1/100)、100pg(1/1000)、10pg(1/10000)を混合したものをそれぞれ準備した。反応液はRoche社のLightCycler(登録商標) 480 High Resolution Melting Masterに従って調製した。増幅用プライマーとして配列番号45、46でそれぞれ示されるプライマー TP53AmpF、TP53AmpRを終濃度3μM、特異的変異型遺伝子切断用オリゴヌクレオチドとしてTP53degを終濃度で3μM添加し、W77F変異体を加えて最終容量を20μlとした。PCRおよび蛍光検出はRosch社のLC480で行った。PCRの反応条件は、95℃ 5分の予温の後、95℃ 10秒、95℃ 20秒、72℃ 20秒の3step反応を40cycle行い、最後に解離反応として95℃ 1分、40℃ 1分の後、50℃から95℃まで継時的に温度を上昇させ、各温度の蛍光強度を観察した。また、W77F変異体を添加しない反応液で同様の測定を行った。

(4)希少変異型遺伝子の検出 このPCRの増幅曲線を示したのが図5となる。また、この測定結果から計算されるCt値を表1に示す。反応液にW77F変異体を含まない場合には、鋳型の混合比によるCt値の変化はほとんど観察されなかった。一方、W77F変異体を添加してPCRを実施した場合は、プラスミドpTP53(G)を単独で鋳型に用いる反応は抑制を受けて、Ct値で10以上の遅れとなった。このことはこのプラスミドからのDNAの増幅がW77F変異体によって1000倍以上抑制されていることを示している。一方、プラスミドpTP53(A)を単独で鋳型に用いる増幅についてはW77F変異体を加えた場合でも、Ct値はほぼ変化せず、ほとんど抑制を受けなかった。また、プラスミド混合物を鋳型とした場合には、pTP53(A)の量に応じた増幅が観察できた。このことは、W77F変異体はPCRの反応液中にpTP53(G)とTP53degが形成するG−Gのミスマッチ塩基対を含む二本鎖核酸は切断するにもかかわらず、pTP53(A)とTP53degが形成するG−Aのミスマッチ塩基対に対してはほとんど切断活性を示さないことを示している。また、ミスマッチを持たない核酸に対しては、W77F変異体は増幅阻害効果を示さないことが分かった。さらに、pTP53(G)に対して1/10000のコピー数のpTP53(A)が含まれている場合にもCt値はpTP53(G)プラスミド単独の場合より小さく、W77F変異体によって1/10000の混入比率の鋳型からも変異型(A)の遺伝子領域が特異的に増幅されていることを示唆している。

各増幅産物を50℃から95℃まで温度上昇させながら蛍光強度を測定し、融解曲線解析(Melting curve Analysis)を行った。各温度に対する蛍光強度の一次微分のグラフを示したものが図6である。図6a)にあるようにW77F変異体を添加せずPCRを行った場合には、pTP53(G)を単独で鋳型に用いた増幅産物の解離曲線解析で90.2℃にpeakが現れた。pTP53(A)を単独で鋳型に用いた場合には、89.6℃のpeakとなり、さらに両プラスミドが1対1で存在するヘテロ2重鎖の場合には、単独の際に現れるpeakに加えて88.5℃付近の幅の広いpeakを示した。このように解離曲線の一次微分のpeakの違いを利用して、野生型(G)と変異型(A)を有する鋳型を判別することが可能である。 W77F変異体を添加しPCRを行った場合は、図6b)にあるようにプラスミドpTP53(A)の混合比率が1/100以上の場合にはpTP53(A)を単独で鋳型に用いた場合の波形とほぼ同じとなり、pTP53(A)のみを鋳型とした増幅のみが起こっていることが示された。1/1000、1/10000の混合比率の場合にもpTP53(A)に由来すると思われる89.6℃のピークが観察でき、同時にヘテロ2重鎖に由来すると思われる88.5℃付近の幅の広いピークもみられた。このことは、これらの混入率の場合にもpTP53(A)由来の断片が優先的に増幅されていることを示している。

本実施例において、反応液中にPF0012タンパク質の変異体と目的遺伝子領域の塩基配列との間にミスマッチを生じるオリゴデオキシヌクレオチドを添加することにより、前記塩基配列を持つ遺伝子の増幅を抑制し、希少なSNPを有する遺伝子を特異的に増幅することが可能になることが示された。

本発明は、遺伝子工学、生物学、医学、農業等幅広い分野において有用である。

SEQ ID NO:1 ; The amino acid sequence of PF0012 from Pyrococcus furiosus SEQ ID NO:2 ; The amino acid sequence of PF0012 Y77F mutant SEQ ID NO:3-4 ; A designed oligonucleotide primer for PCR SEQ ID NO:5 ; The nucleic acid sequence of inserted DNA in the circular double stranded DNA for cloning PF0012 gene. SEQ ID NO:6 ; The nucleic acid sequence of inserted DNA in the circular double stranded DNA for cloning a designed sequence deduced from PF0012 amino acid sequence. SEQ ID NO:7 ; The amino acid sequence of TERMP_01877 from Thermococcus barophilus SEQ ID NO:8 ; The amino acid sequence of MJ_0225 from Methanocaldococcus jannaschii SEQ ID NO:9-12 ; A designed oligonucleotide primer for PCR SEQ ID NO:13 ; The nucleic acid sequence of inserted DNA in the circular double stranded DNA for cloning TERMP_01877 gene. SEQ ID NO:14 ; The nucleic acid sequence of inserted DNA in the circular double stranded DNA for cloning MJ_0225 gene. SEQ ID NO:15-16 ; A designed oligonucleotide primer for PCR SEQ ID NO:17-30 ; A designed oligonucleotide DNA for assay of a mismatch nuclease activity. SEQ ID NO:31-40 ; A designed oligonucleotide primer for PCR SEQ ID NO:41 ; The nucleic acid sequence of inserted DNA in the circular double stranded DNA for cloning partial TP53 gene. SEQ ID NO:42-43 ; A designed oligonucleotide primer for PCR SEQ ID NO:44 ; A designed oligonucleotide DNA for suppression of amplification of specific TP53 fragment SEQ ID NO:45-46 ; A designed oligonucleotide primer for PCR

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