【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は質感提示方法及び装置に関し、とくに、製品開発時において消費者の意見を製品に積極的に反映させるために、開発中の製品の仮想質感を消費者に提示して、視覚と触覚で体験し得るようにする質感提示方法及び装置に関するものである。

【０００２】

【従来の技術】一般に、新たなファッションの衣服を製作する場合において、開発される製品は全的にデザイナーの感覚またはアイディアによって設計され作られるが、その製品の成功の可否は、完成製品が市場に出荷された以後に消費者の反応により決定される。 したがって、購買対象である消費者の意見を開発中の製品に反映させることができれば成功の可能性の高い製品を開発することができ、かつ研究開発に必要な人力と時間及び経費を節減することができる。 従来は、このように消費者の意見を開発中の製品に反映するため、デザイナーにより衣服のデザインが決定されると、多様な種類の服地でサンプルを製作し、これを消費者に発表し、消費者の意見を聴取する方法を用いていた。 しかし、服地の種類として、紳士用冬服地と夏服地、女性用冬服地と夏服地及び民俗衣装用服地など、服地の種類が非常に多様であるために、これらの服地のすべてを全て新たなデザインに適用してサンプルを製作することは事実上不可能である。

【０００３】一般に、触感という用語を調べると、触覚
(Tactile Sensing) という用語と質感(Texture) という用語とに両分し得る。 触覚は主にロボットを研究する人々に使用される用語であり、物体を持つ際に必要な力、
換言すると把持力の概念として使用されている。 すなわち、ロボットが物体を取る時の把持力が大きすぎると物体が破損し、逆に把持力が小さすぎるとロボットは物体を取り落としてしまうことになる。 このように、ロボットに適切な把持力を付与するための制御は非常に重要である。

【０００４】一方、質感という用語は織物研究者（日本国のKawabataなど）間に主として使用されている用語である。 織物研究者は、質感を態(Hand Value)という用語で定義して使用している。 この態は、引張性質，曲げ性質，表面性質（表面粗さと摩擦特性），剪断性質，圧縮性質，重さ及び厚さのような織物の力学的性質による感じによって決定され、態の評価基準は、その織物の用途が衣類用品に適するか否かによる。 しかしながらこのような概念には視覚的な質感が排除されており、織物の温熱特性、つまり熱伝達特性もやはり排除されている。 さらに、織物の判断基準として人間の感じまたは感性が全く考慮されておらず、単に衣類用品としての適合性のみが判断されている。

【０００５】触感の提示に関連した研究結果を調べると、まずＲ． Ｄ． Ｈｏｗｅなどにより提案された触感提示器がある(RDHowe, WJPeine, DAKontarinisand
JSSon, "Remote Palpation Technology for Surgical
Application", TheIEEE Engineering in Medicine and
Biology Magazine, 14(3), pp.318-323,May/June 199
5)。 このＲ． Ｄ． Ｈｏｗｅは、中心間距離が２ｍｍである６×４個のピンアレイを構成し、各ピンの高さを調節して所望形状を提示する装置を提案した。 各品の高さ調節はピンの下端に連結されたレバーと形状記憶合金ワイヤ及びスプリングにより調節され、各ピンには前記のように構成された別のレバー式高さ調節装置が装着されている。

【０００６】しかし、このような触感提示器は人体内部に挿入された探触子が取得した患部の表面触感情報を外科医に提供するために開発されたもので、２ｍｍの空間分解能のため、微細な質感の提示には限界がある問題点を有している。

【０００７】触感提示のための他の研究結果としては、
Ｙ． Ｉｋｅｉなどが開発した触感提示器がある(Y.Ikei,
K.Waka ｍatsu and S.Fukuda, "Vibratory TactileDis
play of Image-Based Texture", IEEE Computer Graphi
cs and Application,pp53-61, November/December 199
7) 。 この触感提示器もピンアレイを用いるものであり、１０×５個のピンが使用され、各品の中心間距離は２ｍｍである。 この提示器は、提示しようとする対象の写真を撮って陰影処理した後、その明るさによって各ピンの振動強度を調節して表面形状を提示し、各々のピンは圧電(piezoelectric) アクチュエータにより加振される。 この時の振動周波数は２５０Hzに固定されている。
しかし、前記提示器も空間分解能のため、微細な表面の質感提示には限界を有する問題点があった。 したがって、形状の提示でなく質感の提示のためには空間分解能の高い新たな装置の開発が求められている。

【０００８】

【発明が解決しようとする課題】本発明は前記のような問題点に鑑みて創案されたものであり、多様な種類の服地をデータベース化し、これをスクリーンと空間分解能の高い触覚質感提示器により具現して、消費者が開発中の製品の仮想質感を視覚及び触覚で体験し得るようにする質感提示方法及び装置の提供をその目的としている。

【０００９】

【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明は、製品をコンピュータで再現表示する第１
段階と、前記第１段階でコンピュータで再現表示された製品を仮想モデルに適用する第２段階と、前記第２段階で製品を着用した仮想モデルをスクリーンに投影して製品の視覚質感を提示する第３段階と、製品適用される織物の表面特性、柔軟程度及び熱伝達率によって座標データを生成する第４段階と、前記第４段階で生成された座標データによってプローブピンの装着された圧電アクチュエータを遊動させる第５段階と、前記第５段階で目標座標に移動した圧電アクチュエータのプローブピンにより表面生成部の鉄線を軸方向に移動させて仮想織物を形成し、製品の触覚質感を提示する第６段階とを備えることを特徴とする。 また、本発明は、軸方向に遊動可能に装着された多数の鉄線でなった表面生成部と、前記鉄線の一端に接触されて鉄線を軸方向に遊動させるプローブピンが装着された圧電アクチュエータと、前記圧電アクチュエータをＸ−Ｙ方向に遊動させる２自由度を有するＸ−Ｙアクチュエータと、前記圧電アクチュエータのプローブピンが鉄線の一端に接触されるよう、圧電アクチュエータをＺ方向に遊動させるＺ−駆動関節とから構成される触覚質感提示器を備えることを特徴とする。

【００１０】

【発明の実施の形態】本発明の一実施の形態を説明する前に、本明細書で使用される用語をまず定義する。 本発明では質感(Texture) を、手で織物に触れるか接触した場合に感ずる感覚と、物体を見るときに感ずる感覚、かつ当該織物がどの衣服としての用途に適合するか、または織物がよいか悪いかを判断する人間の感じ(Feeling)
または感性(Sensibility) の尺度で定義する。 換言すると、本発明では、質感を触覚質感と視覚質感とに分ける。 触覚質感は織物の表面特性（表面粗さ、摩擦特性）、柔らかさの程度（Complianceまたは堅さの逆数）、熱伝達率によって決定し、視覚質感は、ある織物で製作された衣類を着用したときの視覚的感じまたは感性によって決定する。 また、質感評価の基準としては、
その織物が衣類用品として適合するか否かを評価するばかりでなく、その織物で製造した衣服を着用したときに、よいか、悪いか、セクシーか、尊いか、柔らかいか、などの感性に基づいて評価する。

【００１１】つぎに、前記のように視覚質感と触覚質感で定義された質感を消費者に提示して、視覚及び触覚で開発中の製品の仮想質感を消費者が体験し得るようにする本発明の一実施の形態を添付図面を参照して詳細に説明する。 図１は本発明による質感提示方法の概念を説明するためのものであり、デザイナーが新商品をデザインすると、これをコンピュータで再現し、その衣服を仮想モデルに着用させてスクリーン２０に投影する。 このようにスクリーン２０に投影された仮想モデルを見て、消費者はモデルが着用した衣服がよいか、悪いか、セクシーか、尊いか、柔らかいか、など、開発中の製品に対する視覚質感が感じられる。 一方、デザイナーが新製品に適すると思う織物の種類を決定すると、以降に説明する触覚質感提示器１０がその織物に対応する仮想織物を消費者に提供する。 換言すると、実験装置により収集された織物の性質、つまり表面特性（表面粗さ、摩擦特性）、柔らかさの程度（Complianceまたは堅さの逆数）、熱伝達率によって触覚質感提示器１０が仮想織物を具現して、開発中の製品に対する触覚質感を消費者が感じられるようにする。

【００１２】開発中の製品に対する質感を評価するためには、触覚質感と視覚質感を独立的に提示して評価した後、その結果を統合することもでき、触覚質感と視覚質感を同時に提示してその結果を評価することもできる。
触覚質感と視覚質感を独立的に提示して個別評価を行ってから統合する場合には、触覚質感と視覚質感の相互作用に対する十分な検討が要求される。

【００１３】図２は実験装置を介して収集されデータベース化された織物の性質を組合せ、前記のように消費者に仮想織物を提示する触覚質感提示器１０を概略的に示すものであり、図３は図２に示す触覚質感提示器１０の表面生成部３０がコンプライアンス(Compliance)提示器７０に装着された状態を概略的に示すものである。 本発明では仮想織物の表面生成のため鉄線束を使用する。 すなわち、細い鉄線束を作り、この鉄線束の各鉄線３１を軸方向に動かすことにより所望形態の表面を生成することができる。 勿論、生成される表面の精度は鉄線３１の直径と強度及び鉄線の両端面の加工度に左右される。

【００１４】各鉄線３１を軸方向に遊動させる駆動アクチュエータとしては圧電(Piezoelectric) アクチュエータ４０が使用され、この圧電アクチュエータ４０の端部には、鉄線３１の一端に接触し鉄線３１を軸方向に遊動させるプローブピン４１が装着されている。 鉄線３１の遊動が容易であるよう、各鉄線３１は別に製作されたガイドに挿入して使用する方法も可能である。

【００１５】前記圧電アクチュエータ４０は、Ｘ−Ｙ方向の２自由度を有するＸ−Ｙアクチュエータ６０により所望位置に移動され、かつ圧電アクチュエータ４０に付着されたピン４１はＺ−駆動関節５０により鉄線３１の一端に接触して鉄線３１を軸方向に遊動させる。 したがって、デザイナーが新製品に適した織物を選択すると、
図４に示すように、データベース化された織物の性質によって座標データが生成され、この座標データによってＸ−Ｙアクチュエータ６０とＺ−駆動関節５０が遊動して圧電アクチュエータ４０を所望位置に移動させた後、
鉄線３１を軸方向に遊動させる。 このように、鉄線３１
を軸方向に遊動させると、選択された織物に対応する表面特性を有する仮想織物を消費者に提示することができる。 また、鉄線を軸方向に移動させた後には、鉄線束を締めて固定させると、消費者が触ったときに発生し得る鉄線３１の遊動を防止し得る。

【００１６】前記鉄線３１の直径は表面提示の空間分解能に直結され、本発明による触覚質感提示器１０は２ｍ
ｍ間隔で配置されたピンを使用する RDHowe 又はY.Ik
ei などが提示する触感提示器に比べて著しく高い空間分解能を提供し得る。 一例として、３ｃｍ×３ｃｍの面積に対して直径０．２ｍｍの鉄線を使用して表面提示を行う場合、総数１５０×１５０個の鉄線が使用され、空間分解能は０．２ｍｍとなる。

【００１７】本発明のように空間分解能を向上させるため多数の鉄線を使用する場合、RDHowe又は Y.Ikei などの触感提示器においては、各々のピンに別のアクチュエータを付着し得ないが、本発明では一つ又は少数のアクチュエータを移動させつつ鉄線３１を誘導させ得る。
一方、選択された織物の種類によって鉄線３１の端部にコーティング剤を塗布すると、仮想織物の摩擦特性を調節することができる。 このように、本発明は触覚質感提示器１０によりデザイナーが選択した織物に対応する仮想織物を消費者に提示する。 しかし、前記触覚質感提示器１０は、鉄線３１の直径のため、金属精密加工表面のような非常に細かい面を具現することはできない。 したがって、これを補完するため、本発明では振動を起こすコンプライアンス提示器７０の可動プレート７１に触覚質感提示器１０の表面生成部３０を載せ、適切な振幅と周波数で振動させる。

【００１８】このように、表面生成部１０を振動させると、実際に提示された表面は所望程度の細かい面はないが、人が触れて感ずる触感は実際の表面を触れたときの触感と同じにすることができる。 すなわち、提示しようとする織物と物理的に同一ではないが、表面状態、柔らかさの程度（堅さの程度）、熱伝達率とコンプライアンス提示器の振幅及び周波数を適宜組合せると、人が感ずる表面は提示しようとする表面と同じになる。

【００１９】本実施の形態では、表面生成部３０と駆動装置５０，６０及びコンプライアンス提示器７０がそれぞれ別に形成されているが、前記表面生成部３０と駆動装置５０，６０及びコンプライアンス提示器７０を一体に形成するとさらに効率的であり、このような構成は当該技術分野で通常の知識を有する者であれば十分に可能であるものである。 また、本実施例では織物を対象として説明したが、本発明の質感提示装置及び方法は織物だけでなく、皮革製品、家具、家電製品などのような全ての製品に適用し得る。 換言すると、消費者が触覚質感と視覚質感を組合した状態で購買物件を決定する場合であればすべて応用することが可能である。

【００２０】

【発明の効果】以上説明したように、本発明はスクリーンと触覚質感提示器により開発中の製品の仮想質感を提示して、消費者が視覚と触覚で体験し得るようにするので、消費者の意見を開発中の製品に積極反映することができる。 これにより、成功率の高い製品を開発することができ、さらに新製品の開発に投入される人力、時間及び費用を節減することができる優れた効果を奏する。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明による質感提示方法の概念を説明するための図である。

【図２】本発明による触覚質感提示器を示す概略斜視図である。

【図３】図２の表面再生部がコンプライアンス提示器に装着された状態を示す概略斜視図である。

【図４】図２の触覚質感提示器の動作手順を示す図である。

【符号の説明】 １０ 触覚質感提示器 ２０ スクリーン ３０ 表面生成部 ３１ 鉄線 ４０ 圧電アクチュエータ ４１ プローブピン ５０ Ｚ−駆動関節 ６０ Ｘ−Ｙアクチュエータ ７０ コンプライアンス提示器 ７１ 可動プレート

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