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Manufacture of film structure, electronic device, recording medium and oxide conductive thin film

阅读:493发布:2023-12-21

专利汇可以提供Manufacture of film structure, electronic device, recording medium and oxide conductive thin film专利检索,专利查询,专利分析的服务。并且PROBLEM TO BE SOLVED: To form a conductive thin film exhibiting a high surface flatness, which can control stress of a ferroelectric thin film, especially a PZT thin film exhibiting a high surface flatness and an enough selfpolarization which is to be formed on a Si single crystal substrate. SOLUTION: A film structure is comprised of a substrate having a Si 100 on its surface and an oxide conductive thin film formed on the substrate. The oxide conductive thin film is an epitaxial film, whose major constituent is strontium lutenite. At least 80% of the surface of the oxide conductive thin film exhibits 10 nm or less of average roughness Rz of 10 points in a reference length of 500 nm. A ferroelectric thin film of zircon titanium or so is formed on the oxide conductive thin film.,下面是Manufacture of film structure, electronic device, recording medium and oxide conductive thin film专利的具体信息内容。

【特許請求の範囲】
  • 【請求項1】 Si(100)面を表面に有する基板と、この基板上に形成された酸化物導電性薄膜とを有する膜構造体であって、 前記酸化物導電性薄膜が、ルテニウム酸ストロンチウムを主成分とするエピタキシャル膜であり、前記酸化物導電性薄膜の表面の少なくとも80%が、基準長さ500
    0nmでの十点平均粗さRzが10nm以下である膜構造体。
  • 【請求項2】 前記酸化物導電性薄膜が、Sr、RuおよびOを含有し、膜中における原子比Sr/RuをF
    (Sr/Ru)としたとき、 F (Sr/Ru) =0.91〜0.97 である請求項1の膜構造体。
  • 【請求項3】 基板と酸化物導電性薄膜との間に下地薄膜を有し、この下地薄膜が、ペロブスカイト結晶構造を有し、正方晶であるときは(001)単一配向であり、
    立方晶であるときは(100)単一配向である請求項1
    または2の膜構造体。
  • 【請求項4】 前記下地薄膜が、チタン酸バリウムを主成分とする請求項3の膜構造体。
  • 【請求項5】 基板と酸化物導電性薄膜との間に中間薄膜を有し、この中間薄膜が酸化ジルコニウム系薄膜を含み、この酸化ジルコニウム系薄膜が、酸化ジルコニウムまたは希土類元素(ScおよびYを含む)により安定化された酸化ジルコニウムを主成分とし、正方晶または単斜晶であるときは(001)単一配向であり、立方晶であるときは(100)単一配向である請求項1〜4のいずれかの膜構造体。
  • 【請求項6】 酸化物導電性薄膜上に強誘電体薄膜を有する請求項1〜5のいずれかの膜構造体。
  • 【請求項7】 前記強誘電体薄膜がジルコンチタン酸鉛から構成される請求項6の膜構造体。
  • 【請求項8】 請求項1〜7のいずれかの膜構造体を有する電子デバイス。
  • 【請求項9】 請求項1〜7のいずれかの膜構造体を有する記録媒体。
  • 【請求項10】 少なくともSrおよびRuを含む酸化物からなる酸化物導電性薄膜を多元蒸着法により基板上に形成する方法であり、蒸発源として少なくともSr金属およびRu金属を用い、酸化性ガスを真空槽内に導入しながら蒸着を行うに際し、蒸発源から供給する元素の原子比Sr/RuをE (Sr/Ru)としたとき、 E (Sr/Ru) =0.75〜0.95 とする酸化物導電性薄膜の製造方法。
  • 【請求項11】 基板の温度を800〜1100℃として蒸着を行う請求項10の酸化物導電性薄膜の製造方法。
  • 【請求項12】 請求項1〜7のいずれかの膜構造体の製造に適用される請求項10または11の酸化物導電性薄膜の製造方法。
  • 说明书全文

    【発明の詳細な説明】

    【0001】

    【発明の属する技術分野】本発明は、酸化物導電性薄膜を含む膜構造体と、この膜構造体を備えた電子デバイスと、この膜構造体を利用した記録媒体と、酸化物導電性薄膜を多元蒸着法により製造する方法とに関する。 前記膜構造体は、強誘電体を半導体素子に組み込んだ不揮発性メモリ、赤外線センサ、光変調器、光スイッチ、OE
    IC(光・電子集積回路:opto-electronic integrated
    circuits )等の各種電子デバイス、あるいは、AFM
    原子顕微鏡)プローブ等により強誘電体を分極反転させて情報を記録する記録媒体などに適用されるものである。

    【0002】

    【従来の技術】半導体結晶基板であるSi基板上に、超電導膜、誘電体膜、強誘電体膜等を形成、集積化した電子デバイスが考案されている。 半導体と超伝導体、誘電体、強誘電体を組み合わせることにより、例えば、半導体と超伝導体との組み合わせでは、SQUID、ジョセフソン素子、超電導トランジスタ、電磁波センサーおよび超電導配線LSI等が挙げられ、半導体と誘電体との組み合わせでは、集積度のさらに高いLSI、SOI技術による誘電体分離LSI、半導体と強誘電体との組み合わせでは、不揮発性メモリー、赤外線センサー、光変調器、および光スイッチ、OEIC等が試作されている。

    【0003】これらの電子デバイスにおいて、最適なデバイス特性およびその再現性を確保するためには、超電導体材料、誘電体材料、強誘電体材料として単結晶を用いることが必要である。 多結晶体では粒界による物理量の撹乱のため、良好なデバイス特性を得ることが難しい。 このことは薄膜材料についても同様であり、できるだけ完全な単結晶に近いエピタキシャル膜が望まれる。

    【0004】したがって、近年、上述した応用を目的として、エピタキシャル膜の検討がなされている。 例えば、JAP76(12),15,7833(1994)には、MgO基板上に形成した強誘電体エピタキシャル膜が記載されている。

    【0005】ただし、実際のデバイスに応用するためには、半導体と強誘電体との集積化を可能にする必要があるが、MgO基板をSiデバイス中に組み込むことは極めて困難である。 しかし、Si(100)基板上に結晶性の良好なBaTiO 3 (001)単一配向膜を形成するなど、Si単結晶基板上に単一配向強誘電体薄膜を形成することも極めて困難である。 これに対し本発明者らは、特願平8−217884号等においてSi単結晶基板上に強誘電体のエピタキシャル薄膜を容易に形成できる方法を提案している。

    【0006】しかし、Si基板上に形成された強誘電体薄膜の特性は、通常、強誘電体本来の特性から算出される特性より大きく劣る。 強誘電体の特性、例えば、誘電率、キュリー温度、抗電界、残留分極は、強誘電体が有する応力により変化する。 そして、薄膜化した強誘電体では、成膜にともなって応力が発生しやすいので、優れた特性を有する強誘電体薄膜を形成するには、応力の制御が重要である。 Si基板上において薄膜化した強誘電体の特性劣化については、特に応力の影響が大きい。

    【0007】例えば、上記JAP76(12),15,7833(1994)
    やAPL59(20),11,2524(1991)では、Si単結晶基板ではなくMgO単結晶基板を用いた場合についてではあるが、膜面内の二次元応力が強誘電体特性に強く影響を及ぼすことが指摘されている。 応力発生の主要な原因は、
    下地である基板と強誘電体との物性の違い、例えば、熱膨張係数差や格子定数差などである。 このため、強誘電体薄膜をデバイスに応用するためには、上述した応力を制御しなくては、望ましい強誘電性を安定に得ることはできない。

    【0008】ところで、強誘電体として好ましい特性をもつものに、PbTiO 3 、PLT(La添加PbTi
    3 )、PZT(PbZrO 3 −PbTiO 3固溶体)、
    PLZT(La添加PbZrO 3 −PbTiO 3固溶体)
    等のPb系強誘電体がある。 Pb系強誘電体の多くは分極軸が[001]方向なので、強誘電特性の点では(0
    01)単一配向膜であることが好ましい。 しかし、本発明者らの研究によれば、Si単結晶基板上にPb系強誘電体薄膜を形成すると、(001)配向結晶と(10
    0)配向結晶とが混在したドメイン構造が形成されやすいことがわかった。 組成を調整することにより、例えばPLT薄膜ではLaの添加量を増やすことにより、ドメイン構造が生じにくくなるが、その場合には強誘電体特性が著しく低くなってしまう。 また、優れた強誘電体材料として多用されているPZT薄膜でも、強誘電体特性が良好となる組成域、すなわちTi/Zr(原子比)が比較的大きい組成域では、ドメイン構造が生じやすく、
    単一配向膜とすることが極めて困難であった。 このようなドメイン構造となると、強誘電体特性が単結晶よりも著しく低くなり、MgO基板上に形成した場合よりも特性が低くなってしまうことがわかった。

    【0009】Si単結晶基板上にPb系強誘電体の単一配向膜を形成することが困難なのは、以下に説明する理由によると考えられる。 以下の説明では、Pb系強誘電体としてPZTを例に挙げる。

    【0010】SiおよびMgOはいずれもPZTよりも熱膨張係数が小さいが、特に、Siの熱膨張係数は2.
    6×10 -6 /℃であり、MgOの熱膨張係数(14×1
    -6 /℃)に比べ著しく小さい。 したがって、例えばP
    ZT薄膜の形成温度を600℃とすると、形成後に室温まで冷却する過程でPZT薄膜の収縮をSi基板が阻害することになり、PZT薄膜にはその面内に比較的大きな二次元の引っ張り応力が生じてしまう。 二次元引っ張り応力の大きな膜では、後述するように自発分極値の低下が生じる。 そして、この引っ張り応力を緩和しようとして、PZTは(001)配向結晶と(100)配向結晶とが混在する膜となり、自発分極値の低下が著しくなると考えられる。 また、たとえ(001)単一配向膜となったとしても、PZT薄膜内には大きな引っ張り応力が存在することになるため、(001)配向と(10
    0)配向とが混在している膜よりも強誘電体特性が低くなってしまう。

    【0011】ところで近年、例えばAppl. Phys. Lett.
    68, 2358 (1996)に示されるように、AFM(原子間力顕微鏡)プローブ等により強誘電体を分極反転させて情報を記録する超高密度記録媒体が検討されている。

    【0012】強誘電体は、あるしきい値電圧で分極が反転する材料である。 強誘電体を用いる場合、AFMプローブやSTM(走査型トンネル顕微鏡)プローブなどにより強誘電体にパルス電圧を印加し、プローブされた領域だけ分極を一方向に揃える、あるいは分極を反転させることにより、情報の書き込みを行う。 情報の読み出しには、強誘電体の圧電効果、焦電効果、電気光学効果、
    分極反転時の電流検出などが利用可能である。

    【0013】AFMやSTMは、原子レベルの分解能を有する。 また、強誘電体は分極反転速度が100ns以下と高速であり、かつ記録ビットを10nmφ以下の寸法で形成することが可能であるため、記録ビットを例えば10nm×
    10nmの領域で形成すれば、10 6メガビット/cm 2程度の高密度メモリが実現できる。

    【0014】上記のような、AFMまたはSTMメモリー用の強誘電体媒体としては、導電体層を形成した基板上に、多結晶の強誘電体薄膜を形成したものが用いられてきた。 多結晶強誘電体薄膜による媒体においては、強誘電体薄膜の結晶粒界、ドメイン、表面の凹凸がノイズとなる。

    【0015】AFMまたはSTMメモリーにおけるプローブと媒体との間の距離はナノメーターオーダーであるから、そのメモリー媒体にもナノメーターオーダーでの均一な表面が要求される。 表面凹凸、結晶性、ドメイン、表面にトラップされる電荷などの均一性が重要である。 なぜなら、書き込み、読み出しの際に、記録ビットにアドレスする際、プローブと記録媒体の相対位置をアクチュエーターを用いて制御するため、媒体の表面凹凸、結晶性、ドメイン、表面にトラップされる電荷などの均一性が悪いと正常にビットを読み出せない。 あるいは高速動作が行えない。 また、媒体の平坦性が悪いと表面凹凸、結晶性、ドメイン、表面にトラップされる電荷などによるノイズが記録ビット信号に混入する。 従来、
    強誘電体薄膜を用いた媒体では、表面均一性が不十分であり、ナノメーターオーダーで均一な表面を有する媒体は利用されていなかった。

    【0016】平坦性の高い記録媒体を実現するためには、強誘電体を基板上にエピタキシャル膜の形で形成すれば、分子レベルの平坦性を得ることができる。 しかしながら、この強誘電体媒体は、導電性薄膜を形成した基板上に形成する必要があるので、平坦性の悪い導電性薄膜上では、平坦性の高い強誘電体薄膜表面は得られない。 また、強誘電体をエピタキシャル膜の形で形成するためには、強誘電体材料と結晶格子の整合のとれた導電性薄膜でなければならない。

    【0017】さらに、上述したように、ここで用いられる強誘電体材料は、実用上、Si基板上に形成される必要があり、また、応力、ドメイン形成などにより、強誘電体特性が劣化したものであってはならない。 したがって、AFMプローブ等により強誘電体を分極反転させて情報を記録する超高密度記録媒体には、強誘電体材料と格子整合し、結晶性の高く、かつ表面平坦性の高い導電性薄膜が必要であり、さらに応力、ドメイン形成等による劣化のない強電体特性に優れる強誘電体薄膜が必要で、かつこのような導電性薄膜および強誘電体薄膜を、
    実用的な基板であるSi基板上で実現しなければならない。 しかし、そのような薄膜を備えた膜構造体はこれまでに得られていなかった。

    【0018】なお、Ptからなる導電性薄膜上に強誘電体薄膜を形成することにより、平坦性に優れた強誘電体が得られることは、例えば本出願人による特願平8−2
    45642号に開示されている。 しかし、Pt薄膜上に形成された強誘電体薄膜は、比較的短周期の平坦性は良好であるが、比較的長周期の平坦性についてはさらに改善する必要がある。

    【0019】

    【発明が解決しようとする課題】上記したように、Si
    単結晶基板上に強誘電体薄膜、特にPZT薄膜を形成した場合、膜面内に二次元の大きな引っ張り応力が残留し、十分な自発分極値を得ることができない。 また、S
    i単結晶基板上では、平坦な導電性薄膜が得られなかった。

    【0020】そこで、本発明では、Si単結晶基板上に、表面が平坦でかつ十分な自発分極値を有する強誘電体薄膜、特にPZT薄膜を形成するために、強誘電体薄膜の応力を制御でき、かつ表面の平坦性が良好な導電性薄膜を形成することを目的とする。 半導体であるSi単結晶基板上に自発分極値の大きな強誘電体薄膜が形成できれば、不揮発性メモリー、赤外線センサー、光変調器、光スイッチ、OEICなどの各種分野に適用する際に、極めて有用である。 特に、表面平坦性の高い導電性薄膜とその上に形成される平坦な強誘電体薄膜とが実現できれば、分極反転を利用した記録媒体に有用である。

    【0021】

    【課題を解決するための手段】このような目的は、下記(1)〜(12)の本発明により達成される。 (1) Si(100)面を表面に有する基板と、この基板上に形成された酸化物導電性薄膜とを有する膜構造体であって、前記酸化物導電性薄膜が、ルテニウム酸ストロンチウムを主成分とするエピタキシャル膜であり、
    前記酸化物導電性薄膜の表面の少なくとも80%が、基準長さ5000nmでの十点平均粗さRzが10nm以下である膜構造体。 (2) 前記酸化物導電性薄膜が、Sr、RuおよびO
    を含有し、膜中における原子比Sr/RuをF (Sr/Ru)
    としたとき、 F (Sr/Ru) =0.91〜0.97 である上記(1)の膜構造体。 (3) 基板と酸化物導電性薄膜との間に下地薄膜を有し、この下地薄膜が、ペロブスカイト結晶構造を有し、
    正方晶であるときは(001)単一配向であり、立方晶であるときは(100)単一配向である上記(1)または(2)の膜構造体。 (4) 前記下地薄膜が、チタン酸バリウムを主成分とする上記(3)の膜構造体。 (5) 基板と酸化物導電性薄膜との間に中間薄膜を有し、この中間薄膜が酸化ジルコニウム系薄膜を含み、この酸化ジルコニウム系薄膜が、酸化ジルコニウムまたは希土類元素(ScおよびYを含む)により安定化された酸化ジルコニウムを主成分とし、正方晶または単斜晶であるときは(001)単一配向であり、立方晶であるときは(100)単一配向である上記(1)〜(4)のいずれかの膜構造体。 (6) 酸化物導電性薄膜上に強誘電体薄膜を有する上記(1)〜(5)のいずれかの膜構造体。 (7) 前記強誘電体薄膜がジルコンチタン酸鉛から構成される上記(6)の膜構造体。 (8) 上記(1)〜(7)のいずれかの膜構造体を有する電子デバイス。 (9) 上記(1)〜(7)のいずれかの膜構造体を有する記録媒体。 (10) 少なくともSrおよびRuを含む酸化物からなる酸化物導電性薄膜を多元蒸着法により基板上に形成する方法であり、蒸発源として少なくともSr金属およびRu金属を用い、酸化性ガスを真空槽内に導入しながら蒸着を行うに際し、蒸発源から供給する元素の原子比Sr/RuをE (Sr/Ru)としたとき、 E (Sr/Ru) =0.75〜0.95 とする酸化物導電性薄膜の製造方法。 (11) 基板の温度を800〜1100℃として蒸着を行う上記(10)の酸化物導電性薄膜の製造方法。 (12) 上記(1)〜(7)のいずれかの膜構造体の製造に適用される上記(10)または(11)の酸化物導電性薄膜の製造方法。

    【0022】

    【作用】本発明によれば、Si基板上に、特に長周期の平坦性が良好な酸化物導電性薄膜が形成できる。 そして、この酸化物導電性薄膜を利用して、その上に形成されるエピタキシャル強誘電体薄膜中の結晶格子を、膜に平行な結晶面の間隔が伸びるように歪ませるか、あるいは、ほぼ無歪みの状態とすることができる。 これにより、強誘電体薄膜がドメイン構造をとらない(001)
    単一配向膜として得られるので、強誘電体薄膜の自発分極値の増大、あるいは自発分極値の低下防止を可能にすると同時に、表面平坦性を良好にすることが可能となる。

    【0023】次に、理論的考察および実験データに基づいて、本発明の作用および効果について詳細に述べる。
    ここでは、Pb系強誘電体について理論的考察をする上で、物性値がよく知られており、また、単純な組成系であるPbTiO 3を例に挙げて説明するが、他のPb系強誘電体材料についても、同様にして考えることができる。

    【0024】まず、はじめに、強誘電体材料のバルク単結晶における自発分極特性について考察する。 強誘電体材料をPbTiO 3とする。 PbTiO 3結晶は、室温においてa軸の格子定数が0.3904nm、c軸の格子定数が0.4152nmの正方晶の結晶であり、[001]
    方向に分極軸をもつ。 この結晶に格子のc面に平行な面内方向に二次元の応力を発生させ、その場合の自発分極値PsをDevonshire熱力学関係式を用いて計算した結果を、図1に示す。 図中においてマイナスの符号の二次元応力は圧縮応力、プラスの符号をもつものは引っ張り応力を表す。 この図から、自発分極は、二次元圧縮応力の増大にともなって増大し、二次元引っ張り応力の増大にともなって減少することがわかる。

    【0025】次に、Si基板上にエピタキシャル成長したPbTiO 3薄膜について考える。 薄膜の形成温度が600℃のときに(001)配向の単結晶薄膜が得られるとすると、このときPbTiO 3結晶格子のc面は、
    基板表面に現れる結晶面と平行に位置することになる。
    PbTiO 3とSiとは熱膨張係数が異なるため、成膜温度から室温まで冷却する過程でPbTiO 3薄膜の面内に二次元応力が発生する。 Siの熱膨張係数は2.6
    ×10 -6 /℃であり、この係数にしたがい、Si基板表面は600℃から室温までの冷却過程において二次元的に収縮を起こす。 一方、PbTiO 3薄膜も、Si基板表面の収縮に伴って収縮するが、このときPbTiO 3
    結晶に生じるa軸方向およびb軸方向の収縮は、PbT
    iO 3の熱膨張係数にしたがって生じる収縮に比べ、著しく小さい。 これは、Siの熱膨張係数がPbTiO 3
    のそれに比べ著しく小さいからである。 このため、冷却後、PbTiO 3薄膜には引っ張り応力が生じている。

    【0026】このように、Si基板上に形成されたPb
    TiO 3薄膜には面内に二次元の引っ張り応力が生じているため、図1からわかるように、自発分極値がバルクの単結晶よりも小さくなってしまう。 なお、実際には、
    この引っ張り応力を緩和するために、PbTiO 3薄膜は(001)配向結晶と(100)配向結晶とが混在した膜となる。

    【0027】本発明では、PbTiO 3やPZTなどの強誘電体について、薄膜化したときの自発分極低下を抑えることを目的とする。 この目的を達成するため、基板との熱膨張係数の差に起因して生じる強誘電体薄膜の引っ張り応力を低減または実質的にゼロとする。 これにより、自発分極値の劣化を防ぐことができる。 また、本発明では、強誘電体薄膜に圧縮応力を生じさせることもでき、この場合には自発分極値を増大させることができる。

    【0028】本発明における強誘電体薄膜の応力制御は、具体的にはSi単結晶基板と強誘電体薄膜との間に形成された酸化物導電性薄膜によって行う。 この酸化物導電性薄膜は、強誘電体薄膜をエピタキシャル成長させるためのバッファ層として使用されると同時に、電極層としても使用される。 ここでは、強誘電体材料としてP
    ZTを、酸化物導電性薄膜構成材料としてSrRuO 3
    を用いた場合を例に挙げて説明する。

    【0029】まず、Si(100)単結晶上にSrRu
    3薄膜をエピタキシャル成長させたSi(100)/
    SrRuO 3 (001)積層構造体を基板とし、この上にPZT(001)薄膜をエピタキシャル成長させる場合について考える。 PZT薄膜形成時の基板温度を60
    0℃とすると、600℃におけるa軸の格子定数はPZ
    Tバルク体が0.409nmである(ここでのPZTの組成はPb(Ti 0.4 Zr 0.6 )O 3とする)。 一方、Sr
    RuO 3は、本来、GdFeO 3型の結晶であり、その格子定数はa=0.553nm、b=0.557nm、c=
    0.785nmである。 しかし、薄膜化や応力、あるいは他の効果により、格子が疑似立方ペロブスカイト(pseu
    do-cubicペロブスカイト)構造になる。 この疑似立方ペロブスカイト構造のa軸の格子定数a pcは、600℃において0.396nmである。 したがって、成膜時にPZ
    T薄膜とSrRuO 3薄膜との間には格子定数のミスフィットが存在する。

    【0030】基板とエピタキシャル成長薄膜との間にミスフィットが存在する場合の薄膜結晶格子の一般的な変形パターンについて、図2を用いて説明する。 図2において、(a)は、基板と薄膜とが独立した系となっている場合を示し、(b)は、薄膜が弾性歪みでミスフィットを吸収する場合を示し、(c)は、転位によってミスフィットを吸収する場合を示す。 (b)では薄膜の結晶格子がc軸方向で伸び、a軸およびb軸方向では収縮している。 すなわち、この状態では、薄膜の結晶格子に二次元の圧縮応力が生じている。 (b)の状態は、膜が薄い場合に生じる。 (c)に示すように転位によりミスフィットが完全に吸収されれば、(a)に示す状態と同じ格子定数を有する無応力の薄膜となる。 (c)の状態は、膜が厚い場合に生じる。

    【0031】このように、基板(Si/SrRuO 3
    との間に格子定数のミスフィットが存在するPZT薄膜は、成膜温度に保持した状態では、二次元圧縮応力が存在する状態(弾性歪みによってミスフィットを吸収した場合)か、無応力状態(転位によってミスフィットを吸収した場合)である。 そして、前述したように、成膜温度から室温まで冷却する過程で、SiとPZTとの熱膨張係数の大きな差に起因して、PZT薄膜には二次元の引っ張り応力を生じさせる力が働く。 このため、成膜温度において図2(c)に示されるような無応力状態であると、室温では引っ張り応力が生じてしまい、自発分極が小さくなってしまう。 一方、成膜温度において図2
    (b)に示されるような圧縮応力が生じている状態であると、冷却に伴う引っ張り応力の発生をキャンセルすることができる。

    【0032】そこで本発明では、Si単結晶基板の熱膨張係数の小ささを考慮して、成膜温度における酸化物導電性薄膜と強誘電体薄膜との間の格子定数のミスフィットが適当となるように、具体的には図2(b)に示される状態となるように、両者の組み合わせを選択した。 これにより、成膜時の強誘電体の圧縮応力を、冷却の際のSi単結晶基板の影響をキャンセルできるような適当な値とすることができ、Si基板上において室温で実質的に無応力状態の強誘電体薄膜、または室温で圧縮応力が生じている強誘電体薄膜を実現できる。 このため、本発明によれば、PZT薄膜をSi単結晶基板上に(00
    1)配向のエピタキシャル膜として形成することが可能となる。 したがって、本発明によれば、デバイスに応用する際に極めて重要なSi単結晶基板を用いて、その上に自発分極の極めて大きな強誘電体薄膜を形成することが可能となる。

    【0033】これに対し、従来知られているMgO基板と強誘電体薄膜との組み合わせでは、両者の間の熱膨張係数の差がSi基板を用いる場合に比べ著しく小さい。
    このため、成膜温度からの冷却過程における基板と強誘電体薄膜との収縮の違いを考慮して成膜温度における両者のミスフィットの程度を限定する必要はなく、実際、
    そのような提案は従来なされていない。

    【0034】また、膜を厚く形成した場合には転位が生じやすく、このためミスフィットによる圧縮応力が緩和されやすい。 MgO基板を用いた場合、成膜温度で多少の転位が生じてミスフィットによる圧縮応力が緩和されたとしても、冷却中に生じる引っ張り応力が小さいので、室温まで冷却したときに大きな引っ張り応力が存在することはない。 このため、MgO基板を用いた場合には、強誘電体薄膜が厚く転位が生じやすい条件でも、最終的に大きな引っ張り応力が生じることはない。 これに対し本発明では、Si基板を用いるので冷却時に基板の収縮により生じる引っ張り応力が大きい。 したがって、
    成膜時に大きな圧縮応力が生じていなければならない。

    【0035】ミスフィットによって蓄積される強誘電体薄膜中の圧縮応力は、強誘電体薄膜が薄いほど緩和されにくいので、冷却の際のSi単結晶基板の影響をキャンセルするには強誘電体薄膜が薄いほど好ましい。 しかし、薄い強誘電体薄膜は、下地である酸化物導電性薄膜の表面性の影響を受けやすいので、酸化物導電性薄膜の表面性が良好でなければならない。 このような要求に対し、本発明で用いるルテニウム酸ストロンチウム薄膜は、Si単結晶基板表面に形成したとき優れた表面性が得られ、その上に薄い強誘電体薄膜を形成した場合でも分子レベルの平坦性を実現できる。

    【0036】しかも、ルテニウム酸ストロンチウム薄膜上では、比較的厚い強誘電体薄膜であっても転位の発生によるミスフィット緩和が生じにくく、強誘電体薄膜の厚さが圧縮応力の蓄積に与える影響が小さいことがわかった。 この効果は、ルテニウム酸ストロンチウム薄膜表面の平坦性がきわめて良好であるために、強誘電体薄膜とルテニウム酸ストロンチウム薄膜との界面に転位が入りにくく、より完全性の高い強誘電体薄膜がエピタキシャル成長するため実現すると考えられる。 また、この効果は、強誘電体薄膜とルテニウム酸ストロンチウム薄膜とが共にペロブスカイト酸化物(ルテニウム酸ストロンチウム薄膜は前述した疑似立方ペロブスカイト構造)であるために、結晶格子が弾性変形し、塑性変形限界が高い、すなわちミスフィットや熱膨張係数の違いなどによる大きな応力が生じたときにも、転位なしに格子が弾性変形して応力の蓄積が行われるため実現すると考えられる。

    【0037】このような作用により、本発明では、Si
    基板上において室温で実質的に無応力状態の強誘電体薄膜、または室温で圧縮応力が生じている強誘電体薄膜を実現できる。 このため、本発明によれば、例えばPZT
    薄膜を、Si単結晶基板上に(001)配向のエピタキシャル膜として形成することが可能となる。

    【0038】誘電体薄膜を形成する際に膜応力を制御して特性改善をはかることは、例えば特開平8−1953
    28号公報に記載されている。 同公報記載の第1の発明は、キャパシタ電極と常誘電体ペロブスカイト結晶の薄膜からなるキャパシタ誘電体膜において、誘電体膜とキャパシタ電極との界面がなす面に平行な方向の結晶面の間隔が長くなるように結晶格子を歪ませ、一方、キャパシタ誘電体膜が、キャパシタ電極と強誘電体ペロブスカイト結晶とからなる場合には、前記結晶面の間隔が短くなるように結晶格子を歪ませるというものである。 すなわちこの発明は、常誘電体薄膜では膜面内に圧縮応力を存在させ、強誘電体薄膜では膜面内に引っ張り応力を存在させるものである。 強誘電体に引っ張り応力を生じさせると、誘電率は向上するが自発分極が低下する。 同公報記載の発明は、通常のDRAMなどに適用することを目的として誘電率の向上を目指すものであり、強誘電体メモリーに適用することを目的として自発分極値の向上を目指すものではない。

    【0039】同公報にはSi単結晶基板を用いた実施例も記載されているが、同公報の実施例において誘電体膜が(001)配向しているのは、MgO(001)膜上にPt(001)膜を積層し、この上に誘電体膜(KT
    aO 3 )を形成した場合(第6の実施例)だけである。

    【0040】また、特開平8−139292号公報にも、強誘電体薄膜の応力を制御することにより、特性を改善する発明が記載されている。

    【0041】同公報の請求項1に記載された発明は、少なくとも表面が正方晶系の(001)面または立方晶系に属する結晶構造を有する導電性材料からなる導電性基板と、この導電性基板の上にエピタキシャル成長した正方晶系または立方晶系に属するペロブスカイト型結晶構造を有する誘電性材料からなる誘電体膜と、この誘電体膜の上に形成された上部電極とを具備した薄膜キャパシタにおいて、前記誘電性材料本来のキュリー温度が15
    0℃以下で、ペロブスカイト型結晶構造のa軸長で表される誘電性材料本来の格子定数a dと正方晶系または立方晶系の結晶構造のa軸長で表される導電性材料本来の格子定数a sとが、 1.002≦a d /a s ≦1.015 の関係式を満足する薄膜キャパシタである。 また、同公報の請求項7に記載された発明は、第1の電極と、この第1の電極上にエピタキシャル成長した正方晶系または六方晶系のペロブスカイト型結晶構造である誘電性材料からなる誘電体膜と、この誘電体膜の上に形成された第2の電極とを具備した薄膜キャパシタにおいて、前記誘電体膜の膜厚が15nm以上であり、エピタキシャル成長後の誘電性材料のc軸長Ceと、このc軸長Ceに対応するエピタキシャル成長前の誘電性材料本来の正方晶系のc軸長または六方晶系a軸長Coとが、 Ce/Co≧1.02 の関係式を満足する薄膜キャパシタである。

    【0042】同公報記載の薄膜キャパシタは、同公報の作用の欄に示されるように、ペロブスカイト型結晶構造を有する格子のa軸が縮みc軸が伸びた強誘電体薄膜を有するものである。 同公報では、残留分極およびその温度依存性を改善できることなどを効果としている。

    【0043】このような強誘電体薄膜を得るために、同公報では、Si基板表面に形成した絶縁層(酸化Si
    層)上に単結晶Si層を形成し、その上に、ニッケルケイ化物等からなるバリア層やPt等からなる下部電極などを介して強誘電体薄膜を形成している。 単結晶Si層の形成方法としては、単結晶Si層を直接選択成長させる方法と、まず、アモルファスSi層を選択成長させ、
    次いで、アニールによりSi基板界面より固相成長を通じて単結晶化させる方法とが記載されている。

    【0044】しかし、本発明者らの研究によれば、同公報記載の方法を用いても表面性の良好なSi単結晶層を得ることはできず、したがって、その上に結晶性の良好な強誘電体薄膜を得ることができなかった。 そして、同公報の請求項7で限定されているc軸長比(Ce/Co)
    も実現できなかったが、同公報の実施例においてもc軸長比が記載されているのはMgO等の酸化物基板を用いた場合だけである。

    【0045】同公報の実施例のうちSi単結晶基板を用いた旨の明示があるのは実施例7、8、9だけである。
    実施例7では、Si単結晶基板上に厚さ400nmのTi
    N膜、この上に下部電極として厚さ200nmのCa 0.5
    0.5 TiO 3膜を形成し、この上に厚さ200nmのBa
    0.5 Sr 0.5 TiO 3誘電体膜を形成しており、また、実施例8では誘電体膜の厚さを100nmとしており、また、実施例9では誘電体膜の組成をBa 0.45 La 0.05
    0.5 TiO 3に変更している。 これらの実施例では、各膜を形成した時点では下部電極および誘電体膜は非晶質であり、赤外線ランプアニール装置を用いた700℃、
    1分間のアニールを行った結果、単結晶化したとしている。 しかし、本発明のようにSi単結晶基板側から順に薄膜をエピタキシャル成長させて最終的に単結晶の強誘電体薄膜を形成する方法と異なり、非晶質膜の積層体を形成した後、これをアニールする方法では、上述したミスフィットの利用が不可能である。 このため、同公報に記載されたアニールを利用する方法では、強誘電体薄膜の単結晶化が難しいか、不可能であると思われる。 実際、同公報の実施例7〜9には、c軸長比は記載されておらず、単一配向膜が得られた旨の記載もない。

    【0046】このように、本発明はMgO基板上の強誘電体薄膜の応力を制御する従来の技術とは異なり、Si
    基板上において平坦性の高い酸化物導電性薄膜を実現し、これを利用して、エピタキシャル強誘電体薄膜中の結晶格子を、膜に平行な結晶面の間隔が伸びるように歪ませるか、あるいは、ほぼ無歪みの状態とすることにより、ドメイン構造をとらない(001)単一配向膜として、強誘電体薄膜の自発分極値の増大、あるいは自発分極値の低下防止を可能にすると同時に表面の平坦性を実現することを可能としたものであり、従来なし得なかった効果を実現するものである。

    【0047】また、本発明において酸化物導電性薄膜上には、強誘電体薄膜に限らず他の機能膜、例えば超電導薄膜などを形成することもできる。 例えば超電導薄膜を形成した場合、強誘電体薄膜の場合と同様に、平坦であって、応力による劣化の少ない薄膜となるので、優れた超電導特性が得られる。

    【0048】本発明により得られる膜構造体は、例えば、不揮発性メモリー、赤外線センサー、光変調器、光スイッチ、OEIC、分極反転を利用する記録媒体などの各種分野において、優れた特性を発揮する。

    【0049】

    【発明の実施の形態】本発明の膜構造体は、Si基板と、この基板上に形成された酸化物導電性薄膜とを少なくとも有する。 基板と酸化物導電性薄膜との間には、中間薄膜または下地薄膜が設けられることが好ましく、基板、中間薄膜、下地薄膜、酸化物導電性薄膜の順で積層されていることがより好ましい。 強誘電体薄膜は、酸化物導電性薄膜上にこれと接して設けられる。 以下、各薄膜および基板ならびに製造方法について詳細に説明する。

    【0050】 基板本発明で用いる基板の材料は、Si単結晶の(100)
    面が基板表面となるように用いる。

    【0051】 酸化物導電性薄膜本発明の膜構造体が有する酸化物導電性薄膜の組成は、
    ルテニウム酸ストロンチウム(以下、SROという)を主成分とすることが好ましい。 酸化物導電性薄膜は、強誘電体薄膜や、その他の機能膜、例えば超電導体薄膜などを、エピタキシャル膜として形成するためのバッファ結晶として用いられ、同時に、電極層として利用することが可能である。

    【0052】酸化物導電性薄膜は、バルクでの比抵抗が10 -5 〜10 -2 Ωcmであることが好ましい。 また、薄膜としての比抵抗も10 -5 〜10 -2 Ωcmであることが好ましい。

    【0053】酸化物導電性薄膜は、エピタキシャル膜であって(001)単一配向膜である。 SROの(00
    1)面を薄膜表面とすることで、分子レベルの平坦性が得られる。 また、その上に強誘電体薄膜を形成した場合、強誘電体薄膜を(001)配向で結晶成長させることができる。 (001)配向の強誘電体薄膜の分極軸方向は基板表面と垂直になるので、この薄膜構造を使用するデバイスの特性に有利である。

    【0054】なお、本明細書においてエピタキシャル膜とは、第一に、単一配向膜である必要がある。 この場合の単一配向膜とは、X線回折による測定を行ったとき、
    目的とする面以外のものの反射のピーク強度が目的とする面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である膜である。 例えば、(001)単一配向膜、すなわちc面単一配向膜では、膜の2θ−θX線回折で(00L)面以外の反射ピークの強度が、(00L)面反射の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である。 なお、本明細書において(00L)は、(0
    01)や(002)などの等価な面を総称する表示である。 第二に、膜面内をX−Y面とし、膜厚方向をZ軸としたとき、結晶がX軸、Y軸およびZ軸方向にともに揃って配向している必要がある。 このような配向は、RH
    EED評価でスポットまたはストリークパターンを示すことで確認できる。 これらの条件を満足すれば、エピタキシャル膜といえる。 なお、RHEEDとは、反射高速電子線回折(Reflction HighEnergy Electron Diffract
    ion)であり、RHEED評価は、膜面内における結晶軸の配向の指標である。

    【0055】酸化物導電性薄膜は、バッファ結晶として、その上に形成される強誘電体薄膜等の機能膜の結晶性を向上させるために、結晶性が良好でかつ表面が分子レベルで平坦であることが好ましい。

    【0056】薄膜の結晶性は、XRD(X線回折)における反射ピークのロッキングカーブの半値幅や、RHE
    EDによる像のパターンで評価することができる。 また、表面性は、RHEED像のストリーク性、およびA
    FMで測定した表面粗さ(十点平均粗さ)で評価することができる。

    【0057】酸化物導電性薄膜は、X線回折による(0
    02)面の反射のロッキングカーブの半値幅が1.50
    °以下となる程度の結晶性を有していることが好ましい。 また、AFMにより測定される表面粗さRz(十点平均粗さ、基準長さ5000nm)は、10nm以下、好ましくは5nm以下である。 なお、このような表面粗さは、
    表面の好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の領域で実現していることが望ましい。 上記表面粗さは、基板全面にわたって各層を形成したときに、面積10cm 2以上の領域にわたって平均に分布した任意の10箇所以上を測定しての値である。 本明細書において、薄膜表面の例えば80%以上でRzが10nm以下であるとは、上記のように10箇所以上を測定したときにその80%以上の箇所でRzが10nm以下であることを意味する。 なお、表面粗さRz
    は、JIS B 0610に規定されている。

    【0058】ロッキングカーブの半値幅およびRzの下限値は特になく、小さいほど好ましいが、現在のところ、ロッキングカーブの半値幅の下限値は、一般に0.
    7°程度、特に0.4°程度、上記Rzの下限値は0.
    10nm程度である。

    【0059】また、RHEED像がストリークであって、しかもシャープである場合、各層の結晶性および表面平坦性が優れていることになる。

    【0060】本発明では、酸化物導電性薄膜の組成を後述するように制御することにより、Si基板上において上記のような分子レベルでの表面平坦性に優れる酸化物導電性薄膜が実現できる。

    【0061】SROは、SrおよびRuを含む酸化物であり、一般にSr:Ru:O=1:1:3であり、疑似立方ペロブスカイト型結晶構造である。 SROには、通常、酸素欠陥または過剰な酸素が存在するので、Ruに対するOの比率は、通常、2.7〜3.3程度である。

    【0062】本発明において酸化物導電性薄膜に用いるSROにおける原子比Sr/RuをF (Sr/Ru)と表すと、好ましくは F (Sr/Ru) =0.91〜0.97 であり、好ましくは F (Sr/Ru) =0.92〜0.96 であり、より好ましくは F (Sr/Ru) =0.93〜0.95 である。 図3〜図5に、F (Sr/Ru)を変えたときのSR
    O薄膜の表面性の変化を示す。 これらの図は、酸化物導電性薄膜のAFM像である。 各図における凹凸の程度を表す濃淡スケールを、図6に示す。 これらの図から、F
    (Sr/Ru)の値が0.94付近で平坦な表面が得られることがわかる。 F (Sr/Ru)が小さすぎてもまた、大きすぎても薄膜の表面性が悪くなってしまう。 平坦な表面を得るためにF (Sr/ Ru)を上記範囲とすることは、製造条件の制御により可能である。 具体的には、後述する製造方法を用いることにより、非常に容易に、かつ安定に再現性よくF (Sr/Ru)を制御できる。 SrおよびRuの含有率は、蛍光X線分析法により求めることができる。 SR
    O薄膜における疑似立方ペロブスカイト構造において、
    Aサイト(Srサイト)の一部がBa、Caおよび希土類元素(ScおよびYを含む)の少なくとも1種により置換されていてもよく、Bサイト(Ruサイト)の一部がTiおよびZrの少なくとも1種で置換されていてもよい。 これらの元素での置換により、酸化物導電性薄膜の電極としての導電率、仕事関数の制御や、バッファ結晶としての格子定数の制御が可能となり、この薄膜構造を使用するデバイスの特性最適化に利用できる。 なお、
    SrおよびRuが置換されている場合、上記したF
    (Sr/Ru)を算出するときには、これらの置換元素をSr
    およびRuに換算して考える。

    【0063】酸化物導電性薄膜の厚さは、一般に好ましくは50〜500nm程度であるが、電極としての導電率が損なわれない程度に、また、結晶性および表面性が損なわれない程度に薄いことが好ましい。

    【0064】 下地薄膜基板と酸化物導電性薄膜との間には、下地薄膜を設けることが好ましい。 下地薄膜は酸化物導電性薄膜と接して存在する。

    【0065】下地薄膜は、ペロブスカイト型の結晶構造を有する。 ペロブスカイト型構造は、化学式ABO 3で表される。 ここで、AおよびBは各々陽イオンを表す。
    本発明では、AとしてCa、Ba、Sr、Pb、K、N
    a、Li、LaおよびCdから選ばれた1種以上、特にBaまたはSrが好ましく、BとしてTi、Zr、Ta
    およびNbから選ばれた1種以上、特にTiが好ましい。 すなわち、下地薄膜はチタン酸バリウムまたはチタン酸ストロンチウムを主成分として形成されることが好ましく、特に、チタン酸バリウムにより形成されることが好ましい。

    【0066】こうしたペロブスカイト型化合物における原子比A/Bは、好ましくは0.8〜1.3、より好ましくは0.9〜1.2である。 A/Bが0.8未満では結晶性の改善効果が望めなくなり、またA/Bが1.3
    を超えると均質な薄膜の形成が困難になってしまう。 A
    /Bの組成比は、蛍光X線分析法から求めることができる。 ABO 3におけるOの組成は、3に限定されるものではない。 ペロブスカイト材料によっては、酸素欠陥または酸素過剰で安定したペロブスカイト構造を組むものもあるので、ABO Xにおいて、xの値は2.7〜3.
    3であることが好ましい。

    【0067】下地薄膜は、正方晶であるときは(00
    1)単一配向、すなわち基板表面と平行にc面が単一に配向したものであることが好ましく、立方晶であるときは(100)単一配向、すなわち基板表面と平行にa面が単一に配向したものであることが好ましく、いずれの場合でもエピタキシャル膜であることがより好ましい。
    また、下地薄膜とSi(100)基板との結晶方位関係は、正方晶[100]//Si[010]または立方晶[010]//Si[010]であることが好ましい。 すなわち、薄膜と基板とは、面内において軸同士が平行であることが好ましい。 このような積層構造は、さらにこの構造上に形成される酸化物導電性薄膜や強誘電体薄膜の結晶性を向上させて、これらを単一配向膜やエピタキシャル膜として形成するのに効果的である。 下地薄膜は酸化物導電性薄膜との格子整合性が良好であるため、結晶性の高い酸化物導電性薄膜および強誘電体薄膜が得られる。

    【0068】 中間薄膜基板と酸化物導電性薄膜との間には、中間薄膜が設けられることが好ましい。 下地薄膜を設ける場合には、下地薄膜は、中間薄膜と酸化物導電性薄膜との間に位置することになる。 中間薄膜は、酸化ジルコニウム系薄膜、またはこれと希土類酸化物系薄膜とから構成される。

    【0069】酸化ジルコニウム系薄膜は、酸化ジルコニウムを主成分とするか、希土類元素(ScおよびYを含む)により安定化された酸化ジルコニウム(安定化ジルコニア)を主成分とする。 この薄膜を設けることにより、その上に設けられる下地薄膜や酸化物導電性薄膜および強誘電体薄膜の剥離を防止できる。 また、この薄膜は、チタン酸バリウム等からなる下地薄膜との格子整合性がよいため、結果として結晶性の高い酸化物導電性薄膜および強誘電体薄膜が得られる。

    【0070】酸化ジルコニウムおよび安定化ジルコニアは、Zr 1-xx2- δ(RはScおよびYを含む希土類元素であり、x=0〜0.75、δ=0〜0.5である)で表わされる組成のものが好ましい。 xおよびδについては、後述する。 Rとしては、Pr、Ce、Nd、
    Gd、Tb、Dy、HoおよびErから選択される少なくとも1種であることが好ましい。

    【0071】酸化ジルコニウム系薄膜は、単一の結晶配向を有していることが望ましい。 これは、複数の結晶面を有する薄膜においては粒界が存在するため、その上の下地薄膜や酸化物導電性薄膜、さらにはその上の強誘電体薄膜のエピタキシャル成長が不可能になるためである。 具体的には、正方晶または単斜晶であるときは(0
    01)単一配向膜、立方晶であるときは(100)単一配向膜であることが好ましく、いずれの場合でもエピタキシャル膜であることがより好ましい。 このような良好な結晶性の酸化ジルコニウム系薄膜が形成できれば、粒界による物理量の攪乱等がなくなり、酸化ジルコニウム系薄膜上に良質の下地薄膜、酸化物導電性薄膜および強誘電体薄膜が形成できる。

    【0072】Si(100)基板表面に、中間薄膜(Z
    1-xx2- δ)および下地薄膜(BaTiO 3 )が順次積層されているとき、これらの結晶方位関係は、Ba
    TiO 3 (001)//Zr 1-xx2- δ(001)//S
    i(100)、かつBaTiO 3 [100]//Zr 1-x
    x2- δ[100]//Si[010]であることが好ましい。 これは、中間薄膜および下地薄膜がいずれも正方晶である場合であるが、これらの薄膜が立方晶である場合でも、面内において軸同士が平行であることが好ましいという点では同様である。

    【0073】YBCOなどの従来例からの類推では、
    (001)配向のBaTiO 3エピタキシャル膜を得ようとすると、その結晶方位関係は、BaTiO 3 (00
    1)//Zr 1-xx2- δ(001)//Si(100)、
    かつBaTiO 3 [110]//Zr 1-xx2- δ[10
    0]//Si[010]となり、BaTiO 3の単位格子は、Zr 1-xx2- δの格子に対してc面内で45°回転して格子の整合がとれてエピタキシャル成長すると推定される。 しかし、本発明者らの実験によると、そのような結晶方位関係は構成困難であり、BaTiO 3 (0
    01)//Zr 1-xx2- δ(001)//Si(10
    0)、かつBaTiO 3 [100]//Zr 1-xx2- δ
    [100]//Si[010]の関係で構成可能であることを見いだした。

    【0074】a軸の格子定数は、Zr 1-xx2- δ膜では0.52であり、BaTiO 3膜では0.40であるが、45°面内で回転して格子整合するBaTiO
    3 [110]//Zr 1-xx2- δ[100]//Si[0
    10]の関係ではミスフィットが8.4%になる。 ところが、BaTiO 3 [100]//Zr 1-xx2- δ[1
    00]//Si[010]では、BaTiO 3結晶のa面とZr 1-xx2- δ結晶のa面とは、回転せずにそのまま整合し、この際、Zr 1-xx2- δ3格子(0.52
    ×3=1.56[nm])に対し、BaTiO 3 4格子(0.4×4=1.60[nm])が整合する。 このとき、ミスフィットは2.6%とよくマッチングする。 したがって、BaTiO 3 [100]//Zr 1-xx2- δ
    [100]//Si[010]の関係を利用することにより、(001)配向のエピタキシャルBaTiO 3膜を得ることができる。

    【0075】ZrO 2は高温から室温にかけて立方晶→
    正方晶→単斜晶と相転移を生じる。 立方晶を安定化するために希土類元素を添加したものが、安定化ジルコニアである。 Zr 1-xx2- δ膜の結晶性はxの範囲に依存する。 Jpn . J. Appl. Phys.27 (8)L1404-L1405 (198
    8)に報告されているように、xが0.2未満である組成域では正方晶または単斜晶の結晶になる。 これまで、x
    が0.2以上の立方晶領域では単一配向のエピタキシャル膜が得られている。 ただし、xが0.75を超える領域では、立方晶ではあるが、例えば(100)単一配向は得られず、(111)配向の結晶が混入する。 一方、
    正方晶または単斜晶となる領域では、J.Appl. Phys. 58
    (6) 2407-2409 (1985)にも述べられているように、得ようとするもの以外の配向面が混入し、単一配向のエピタキシャル膜は得られていない。

    【0076】したがって、結晶配向の点からは、Zr
    1-xx2- δにおいてxは0.2〜0.75であることが好ましい。 xのより好ましい範囲は0.2〜0.50
    である。 酸化ジルコニウム系薄膜がエピタキシャル膜であれば、その上に形成される下地薄膜、酸化物導電性薄膜および強誘電体薄膜をエピタキシャル成長させやすい。

    【0077】安定化ジルコニアが含む希土類元素は、S
    i基板の格子定数および酸化ジルコニウム系薄膜上に設けられる薄膜の格子定数と、酸化ジルコニウム系薄膜の格子定数とを好ましくマッチングさせるために、その種類および添加量が選択される。 例えば、上記した格子定数0.52nmのZr 1-xx2- δは、RがYであり、x
    が0.3のものである。 Rの種類を固定したままxを変更すれば格子定数を変えることができるが、xだけの変更ではマッチングの調整可能領域が狭い。 ここで、例えばYに替えてPrを用いると、格子定数を大きくすることが可能であり、下地薄膜のBaTiO 3結晶とのマッチングを最適化することができる。

    【0078】なお、酸素欠陥を含まない酸化ジルコニウムは、化学式ZrO 2で表わされるが、希土類元素を添加した酸化ジルコニウムは、添加した希土類元素の種類、量および価数により酸素の量が変化し、Zr 1-xx
    2- δにおけるδは、通常、上記した範囲となる。

    【0079】Zr 1-xx2- δにおいてxが0.2未満である領域、特に、酸素を除く構成元素中におけるZr
    の比率が93mol%を超える高純度の組成域では、上述したように結晶性が良好とはならず、また、良好な表面性も得られていなかった。 しかし、本発明者らが検討を重ねた結果、後述する製造方法を適用することにより、上記した単一配向、さらにはエピタキシャル成長が可能となり、表面性も良好な値が得られることがわかった。 高純度のZrO 2膜には、以下に述べるようなメリットがある。

    【0080】酸素を除く構成元素中におけるZrの比率が高いほど、すなわちZrO 2の純度が高いほど絶縁抵抗も高くなり、リーク電流も小さくなることから、絶縁特性を必要とする場合には好ましい。 また、金属−絶縁体−半導体構造(MIS構造)においてZrO 2を絶縁体として用いた場合、YSZ(Y安定化ジルコニア)を絶縁体として用いた場合にみられるC−V特性のヒステリシスがなくなるので、MIS素子として界面特性が優れる。 この理由としては、Si基板と酸化ジルコニウム系薄膜との間で熱膨張係数の違いにより発生する応力がZrO 2の相転移により緩和されることと、ZrO 2の酸素欠陥が少ないこととが考えられる。 YSZは相転移がないため応力が緩和されず、また、希土類元素を添加しているために酸素欠陥が多い。 また、金属−強誘電体−
    金属−絶縁体−半導体構造(MFMIS構造)や、金属−強誘電体−絶縁体−半導体構造(MFIS構造)においても、絶縁体としてZrO 2を用いた場合、IS部分のC−Vヒステリシスがなくなるので、強誘電体の分極反転によるC−Vヒステリシスが効果的に得られ、好ましい。

    【0081】したがって、良好な結晶性および表面性が得られる場合には、酸化ジルコニウム系薄膜中の酸素を除く構成元素中におけるZrの比率は、好ましくは93
    mol%超、より好ましくは95mol%以上、さらに好ましくは98mol%以上、最も好ましくは99.5mol%以上である。 酸素およびZrを除く構成元素は、通常、希土類元素やPなどである。 なお、Zrの比率の上限は、現在のところ99.99mol%程度である。 また、現在の高純度化技術ではZrO 2とHfO 2との分離は難しいので、Z
    rO 2の純度は、通常、Zr+Hfでの純度を指している。 したがって、本明細書におけるZrO 2の純度は、
    HfとZrとを同元素とみなして算出された値であるが、HfO 2は本発明における酸化ジルコニウム系薄膜においてZrO 2と全く同様に機能するため、問題はない。

    【0082】なお、中間薄膜を形成する場合、中間薄膜中の酸素がSi単結晶基板の基板表面付近に拡散し、基板表面付近が浅く(例えば5nm程度以下)酸化されてS
    iO 2などの酸化物層が形成されることがある。 また、
    成膜の方法によっては、中間薄膜形成時にSi基板表面にSi酸化物層が残留する場合がある。

    【0083】上記したように、中間薄膜として上記した安定化ジルコニアを用いたとき、C−V特性にヒステリシスがみられ、この点においてZrO 2高純度膜に劣る。 この場合、後述する希土類酸化物系薄膜を酸化ジルコニウム系薄膜上に積層することにより、C−V特性のヒステリシスをなくすことができる。 また、希土類酸化物系薄膜を積層することにより、強誘電体薄膜との間での格子整合のマッチングがより良好となる。

    【0084】希土類酸化物系薄膜は、Y、La、Ce、
    Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、E
    r、Tm、YbおよびLuの少なくとも1種、特に、C
    e、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、HoおよびErの少なくとも1種を含有する希土類酸化物から実質的に構成されていることが好ましい。 なお、2種以上の希土類元素を用いるとき、その比率は任意である。

    【0085】希土類酸化物系薄膜が積層されている場合、酸化ジルコニウム系薄膜は、元素分布が均一な膜であってもよく、膜厚方向に組成が変化する傾斜構造膜であってもよい。 傾斜構造膜とする場合、基板側から希土類酸化物系薄膜側にかけて、酸化ジルコニウム系薄膜中の希土類元素含有率を徐々または段階的に増大させると共に、Zr含有率を徐々または段階的に減少させる。 このような傾斜構造膜とすることにより、酸化ジルコニウム系薄膜と希土類酸化物系薄膜との間の格子のミスフィットが小さくなるか、あるいは存在しなくなり、希土類酸化物系薄膜を高結晶性のエピタキシャル膜とすることが容易となる。

    【0086】なお、希土類酸化物系薄膜を酸化ジルコニウム系薄膜の上に形成するのは、希土類酸化物系薄膜だけでは(001)単一配向や(100)単一配向の膜が形成できず、立方晶の(111)配向の膜となってしまうからである。

    【0087】希土類酸化物系薄膜に添加する希土類元素は、酸化ジルコニウム系薄膜に添加する希土類元素と同一のものを用いることが好ましい。

    【0088】酸化ジルコニウム系薄膜および希土類酸化物系薄膜には、特性改善のために添加物を導入してもよい。 例えば、これらの薄膜にCaやMgなどのアルカリ土類元素をドーピングすると、膜のピンホールが減少し、リークを抑制することができる。 また、AlおよびSiは、膜の抵抗率を向上させる効果がある。 さらに、
    Mn、Fe、Co、Niなどの遷移金属元素は、膜中において不純物による準位(トラップ準位)を形成することができ、この準位を利用することにより導電性の制御が可能になる。

    【0089】 下地薄膜および中間薄膜の結晶性、表面性
    および厚さ下地薄膜および中間薄膜は、その上に形成される薄膜の結晶性を向上させるために、結晶性が良好でかつ表面が平坦であることが好ましい。

    【0090】薄膜の結晶性は、XRD(X線回折)における反射ピークのロッキングカーブの半値幅や、RHE
    EDによる像のパターンで調べることができる。 また、
    表面性は、RHEED像のストリーク性、およびAFM
    で測定した表面粗さ(十点平均粗さ)で調べることができる。

    【0091】下地薄膜および中間薄膜の結晶性は、X線回折による(002)面の反射のロッキングカーブの半値幅が1.50°以下となるものであることが好ましい。 また、下地薄膜および中間薄膜について、AFMにより表面粗さRz(十点平均粗さ、基準長さ500nm)
    を測定したとき、2nm以下であることが好ましく、0.
    60nm以下であることがより好ましい。 なお、このような表面粗さは、各薄膜の表面の好ましくは80%以上、
    より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の領域で実現していることが望ましい。 上記表面粗さは、面積10cm 2の基板全面にわたって各薄膜を形成したときに、平均に分布した任意の10ケ所以上を測定しての値である。

    【0092】ロッキングカーブの半値幅およびRzの下限値は特になく、小さいほど好ましいが、現在のところ、ロッキングカーブの半値幅の下限値は0.4°程度、基準長さ500nmでの十点平均粗さRzの下限値は0.10nm程度である。

    【0093】また、RHEED像がストリークであって、しかもシャープである場合、各薄膜の結晶性および表面平坦性が優れていることになる。

    【0094】下地薄膜の厚さは用途により異なり、一般に好ましくは5〜500nm、より好ましくは50〜15
    0nmであるが、結晶性および表面性が損なわれない程度に薄いことが好ましい。 また、下地薄膜を絶縁層として用いる場合の厚さは、50〜500nm程度であることが好ましい。

    【0095】中間薄膜の厚さも用途により異なり、一般に好ましくは5〜500nm、より好ましくは10〜50
    nmであるが、結晶性、表面性を損なわない程度に薄いことが好ましい。 また、中間薄膜を絶縁層として用いる場合の厚さは、50〜500nm程度であることが好ましい。 なお、中間薄膜を上記した2層構成とする場合、各薄膜の厚さは0.5nm以上であることが好ましく、かつ中間薄膜全体の厚さは上記範囲とすることが好ましい。

    【0096】 強誘電体薄膜強誘電体薄膜は、酸化物導電性薄膜上に設けられる。 下地である酸化物導電性薄膜は、Si基板上に形成されているにもかかわらず表面の平坦性が良好であるため、厚い強誘電体薄膜はもちろん、薄い強誘電体薄膜であっても、強誘電体薄膜表面の分子レベルの平坦性を実現することができる。

    【0097】酸化物導電性薄膜上に形成される強誘電体薄膜は、転位の発生によるミスフィット緩和が起こりにくいので、圧縮応力を蓄積することができる。 したがって、形成時に蓄積される圧縮応力を、冷却の際のSi単結晶基板の影響をキャンセルできるような適当な値とすることができ、Si基板上において室温で実質的に無応力状態の強誘電体薄膜、引っ張り応力の小さい強誘電体薄膜、または室温で圧縮応力が生じている強誘電体薄膜を実現できる。 このため、本発明ではPZT薄膜を、S
    i単結晶基板上であっても(001)配向結晶と(10
    0)配向結晶との混在膜ではなく、(001)配向のエピタキシャル膜として形成することが可能となる。 さらに応力を制御したことで、優れた強誘電性、たとえば高い残留分極を有する強誘電体薄膜が得られる。

    【0098】強誘電体薄膜に用いる材料は特に限定されず、強誘電性を有するものから適宜選択すればよいが、
    例えば以下の材料が好適である。

    【0099】(A)ペロブスカイト型材料:BaTiO
    3 ;PbTiO 3 、希土類元素含有チタン酸鉛、PZT
    (ジルコンチタン酸鉛)、PLZT(ジルコンチタン酸ランタン鉛)等のPb系ペロブスカイト化合物;Bi系ペロブスカイト化合物など。 以上のような単純、複合、
    層状の各種ペロブスカイト化合物。

    【0100】(B)タングステンブロンズ型材料:SBN
    (ニオブ酸ストロンチウムバリウム)、PBN(ニオブ酸鉛バリウム)等のタングステンブロンズ型酸化物など。

    【0101】以下、これらの強誘電体材料について説明する。

    【0102】(A)ペロブスカイト型材料のうち、BaT
    iO 3や、PbTiO 3等の鉛系ペロブスカイト化合物などは、一般に化学式ABO 3で表される。 ここで、AおよびBは各々陽イオンを表す。 AはCa、Ba、Sr、
    Pb、K、Na、Li、LaおよびCdから選ばれた1
    種以上であることが好ましく、BはTi、Zr、TaおよびNbから選ばれた1種以上であることが好ましい。
    本発明では、これらのうちから、使用温度において強誘電性を示すものを目的に応じて適宜選択して用いればよい。

    【0103】こうしたペロブスカイト型化合物における比率A/Bは、好ましくは0.8〜1.3であり、より好ましくは0.9〜1.2である。

    【0104】A/Bをこのような範囲にすることによって、誘電体の絶縁性を確保することができ、また結晶性を改善することが可能になるため、誘電体特性または強誘電特性を改善することができる。 これに対し、A/B
    が0.8未満では結晶性の改善効果が望めなくなり、またA/Bが1.3を超えると均質な薄膜の形成が困難になってしまう。 このようなA/Bは、成膜条件を制御することによって実現する。

    【0105】なお、本明細書では、PbTiO 3などのようにABO xにおけるOの比率xをすべて3として表示してあるが、xは3に限定されるものではない。 ペロブスカイト材料によっては、酸素欠陥または酸素過剰で安定したペロブスカイト構造を組むものがあるので、A
    BO xにおいて、xの値は、通常、2.7〜3.3程度である。 なお、A/Bは、蛍光X線分析法から求めることができる。

    【0106】本発明で用いるABO 3型のペロブスカイト化合物としては、A 1+5+3 、A 2+4+3 、A 3+
    3+3 、A x BO 3 、A(B′ 0.67 B″ 0.33 )O 3 、A
    (B′ 0.3 3 B″ 0.67 )O 3 、A(B 3+ 0.55+ 0.5 )O 3
    A(B 2+ 0.56+ 0.5 )O 3 、A(B 1+ 0.57+ 0.5 )O 3
    3+ (B 2+ 0.54+ 0.5 )O 3 、A(B 1+ 0.255+ 0.75
    3 、A(B 3+ 0.54+ 0.5 )O 2.75 、A(B 2+ 0.55+
    0.5 )O 2.75等のいずれであってもよい。

    【0107】具体的には、PZT、PLZT等のPb系ペロブスカイト化合物、CaTiO 3 、BaTiO 3 、P
    bTiO 3 、KTaO 3 、BiFeO 3 、NaTaO 3 、S
    rTiO 3 、CdTiO 3 、KNbO 3 、LiNbO 3 、L
    iTaO 3 、およびこれらの固溶体等である。

    【0108】なお、上記PZTは、PbZrO 3 −Pb
    TiO 3系の固溶体である。 また、上記PLZTは、P
    ZTにLaがドープされた化合物であり、ABO 3の表記に従えば、例えば(Pb 0.890.91 La 0.110.09
    (Zr 0.65 Ti 0.35 )O 3のように表される。

    【0109】また、層状ペロブスカイト化合物のうちB
    i系層状化合物は、一般に式 Bi 2m-1m3m+3で表わされる。 上記式において、mは1〜5の整数、A
    は、Bi、Ca、Sr、Ba、Pbおよび希土類元素(ScおよびYを含む)のいずれかであり、Bは、T
    i、TaおよびNbのいずれかである。 具体的には、B
    4 Ti 312 、SrBi 2 Ta 29 、SrBi 2 Nb 29
    などが挙げられる。 本発明では、これらの化合物のいずれを用いてもよく、これらの固溶体を用いてもよい。

    【0110】本発明に用いることが好ましいペロブスカイト型化合物は、チタン酸塩ないしチタン酸塩含有ペロブスカイト型化合物、例えばBaTiO 3 、SrTi
    3 、PLZT、PZT、CaTiO 3 、PbTiO 3
    希土類元素含有チタン酸鉛等である。 希土類含有チタン酸鉛としては、R(Rは、Pr、Nd、Eu、Tb、D
    y、Ho、Yb、Y、Sm、Gd、ErおよびLaから選択された少なくとも1種の希土類元素)、Pb、Ti
    ならびにOを含有するものが好ましい。 これらのうちでは、PLZT、PZT、PbTiO 3 、希土類元素含有チタン酸鉛がより好ましい。 特にPZTは、自発分極、
    誘電率、キューリー点の点でメモリに好適である。 そして、本発明では、従来は不可能であったPZTのエピタキシャル膜化を実現できる。 エピタキシャル膜化により、単一配向ではない従来のPZT薄膜で問題であったリークや、分極反転による疲労特性の悪さが改善でき、
    PZT本来の高特性を利用できる。

    【0111】希土類元素含有チタン酸鉛としては、原子比率が (Pb+R)/Ti=0.8〜1.3、 Pb/(Pb+R)=0.5〜0.99 の範囲、特に、 (Pb+R)/Ti=0.9〜1.2、 Pb/(Pb+R)=0.7〜0.97 の範囲にある組成のものを用いることが好ましい。 この組成の希土類元素含有チタン酸鉛は、特願平8−186
    625号に開示されている。 希土類元素を上記比率でP
    bTiO 3に添加することにより、Ecを低下させることができ、しかも、それに伴なう残留分極値Prの減少を抑えることが可能となる。 また、上記組成では、半導体化を生じさせにくい希土類元素を添加するので、リークのより少ない強誘電体薄膜が実現する。 また、本発明者らは、添加する希土類元素の種類と量とが、分極反転の疲労特性に影響していることをつきとめた。 上記組成では、希土類元素の種類と量とを最適なものとしてあるので、繰り返し特性に優れた強誘電体薄膜が実現する。

    【0112】Rは、PbTiO 3材で構成される基本ペロブスカイトのAサイトに位置するPbと置換し、結晶を変形させる。 PbTiO 3は、正方晶型のペロブスカイト構造であり、c軸方向に分極軸を持つ。 R置換による結晶変形は、a軸とc軸との比を減少させるので、わずかに自発分極を減少させるが、分極反転に必要とされる電圧(Ec)を低下させることができる。 一方、R以外の希土類元素、例えば、Ceでは、PbTiO 3のB
    サイトに位置する元素と置換するので、結晶の変形が効果的に行えず、自発分極が極端に低下するためデバイス応用に好ましくない。

    【0113】希土類元素含有チタン酸鉛において、(P
    b+R)/Tiが小さすぎると結晶性の改善効果が望めなくなり、(Pb+R)/Tiが大きすぎると均質な薄膜の形成が困難になってしまう。 また、(Pb+R)/
    Tiを上記範囲とすることにより、良好な誘電特性が得られる。 Pb/(Pb+R)が小さすぎると、自発分極が小さくなってしまうと同時に誘電率も1000以上と大きくなってしまう。 一方、Pb/(Pb+R)が大きすぎると、希土類元素の添加効果、すなわちEcの低下効果が不十分となる。 Pb/(Pb+R)を上記範囲とすることは、強誘電体薄膜の形成条件を後述するように制御することによって容易に実現できる。 Pb、TiおよびRの含有率は、蛍光X線分析法により求めることができる。

    【0114】チタン酸鉛は、一般にPb:Ti:O=
    1:1:3であるが、本発明では添加するRの種類および量によって酸素の比率は異なり、O/Tiは、通常、
    2.7〜3.3程度である。

    【0115】なお、希土類元素含有チタン酸鉛では、T
    iの60原子%以下がZr、Nb、Ta、HfおよびC
    eの少なくとも1種で置換されていてもよい。

    【0116】(B)タングステンブロンズ型材料としては、強誘電体材料集のLandoit-Borenstein.Vol.16記載のタングステンブロンズ型材料が好ましい。 具体的には、(Ba,Sr)Nb 26 、(Ba,Pb)Nb
    26 、PbNb 26 、PbTa 26 、BaTa 26 、P
    bNb 411 、PbNb 26 、SrNb 26 、BaNb 2
    6等やこれらの固溶体が好ましく、特に、SBN
    [(Ba,Sr)Nb 26 ]やPBN[(Ba,Pb)
    Nb 26 ]が好ましい。

    【0117】強誘電体薄膜は、分極軸が基板面と垂直方向に配向した結晶化膜であることが望ましいが、本発明ではSi基板上に高品質の酸化物導電性薄膜を形成し、
    この酸化物導電性薄膜の応力効果を利用して、その上に形成する強誘電体薄膜をエピタキシャル膜とできるため、極めて優れた強誘電体特性が実現する。 具体的には、ペロブスカイト型材料では(001)配向のエピタキシャル膜とすることが可能であり、タングステンブロンズ型材料では(001)配向のエピタキシャル膜とすることが可能である。

    【0118】ペロブスカイト型材料から構成される強誘電体薄膜は、Si(100)表面を有する基板上に、前述した各薄膜を介して形成される。 強誘電体薄膜とSi
    基板との好ましい結晶軸方位関係は、以下の通りである。 なお、Siは立方晶である。 強誘電体薄膜が(00
    1)単一配向である場合、強誘電体[100]//Si
    [010]である。 すなわち、強誘電体薄膜とSi基板とは、面内に存在する軸同士も平行であることが好ましい。

    【0119】タングステンブロンズ型材料から構成される強誘電体薄膜を形成する際にも、Si(100)表面を有する基板を用いることが好ましい。 この場合の強誘電体薄膜とSi基板との好ましい結晶軸方位関係は、強誘電体[100]//Si[010]である。

    【0120】強誘電体薄膜に用いられる強誘電体材料は、以下に説明する条件を満足することが好ましい。

    【0121】強誘電体薄膜は、下地である酸化物導電性薄膜との間の結晶格子のミスフィットにより、形成時の温度において圧縮応力が蓄積されていることが好ましい。 このためには、強誘電体薄膜形成時の温度において、強誘電体材料(バルク体)のa軸格子定数a Fと、
    Si単結晶基板上に形成された酸化物導電性薄膜の面内の格子定数a Sとの関係が、 1<a F /a S ≦1.04 であることが好ましい。 a F /a Sが1以下であると、圧縮応力の蓄積ができない。 一方、a F /a Sが大きすぎると、強誘電体薄膜のエピタキシャル成長が不可能となるか、エピタキシャル成長が可能であったとしても、ミスフィットが大きすぎるために転位が生じやすく、強誘電体薄膜に応力を蓄積することが困難となる。

    【0122】酸化物導電性薄膜の組成をSrRuO 3とし、かつ、後述する形成方法を用いた場合、a Sは0.
    3966nmとなる。 このとき、a Fの好ましい範囲は、 0.3966nm<a F ≦0.4124nm となる。 この場合には、強誘電体材料としてPZTを用いることが好ましい。 PZTは、PbTiO 3とPbZ
    rO 3との固溶体であり、強誘電体薄膜形成時の温度において、両者は共に立方晶であって、PbTiO 3の格子定数は0.3968nm、PbZrO 3の格子定数は0.4169nmである。 したがって、PZTのa Fは、
    ZrとTiとの比に応じて0.3968nmから0.41
    69nmまでの間で変化することになる。 上記したa F
    Sの好ましい範囲を満足するPZTの組成は、PZT
    をPb(Zr 1-x Ti x )O 3で表したとき、 0.23≦x≦1.00 となる。 x=1のときは、PbTiO 3である。

    【0123】なお、Pb(Zr 1-x Ti x )O 3においてxが約0.4以下であると、バルク体では菱面体晶となり、分極軸は<111>方向に生じる。 しかし、エピタキシャル薄膜の場合には菱面体晶とはならず、立方晶または正方晶となり、Si単結晶基板表面に垂直な分極軸を有する薄膜となる。 すなわち、本発明により実現するPZTエピタキシャル膜は、バルク体とは異なった結晶型となって分極軸が基板表面に垂直となるので、各種デバイスに適用する際に有利である。

    【0124】上記説明では、SrRuO 3とPZTとの組み合わせを例に挙げたが、前述したように、SrRu
    3のSrサイトおよび/またはRuサイトの一部を置換することにより格子定数を変えることができるので、
    希土類元素含有チタン酸鉛など、PZT以外の強誘電体材料についても圧縮応力の蓄積が可能である。

    【0125】このように、成膜時のミスフィットを利用して圧縮応力を蓄積した強誘電体薄膜では、冷却時にS
    i単結晶基板との間の熱膨張係数の違いによって生じる引っ張り応力をキャンセルできるので、自発分極の劣化を抑えることができる。 また、ドメイン構造の発生や欠陥の発生を抑えることができので、(001)単一配向のエピタキシャル膜であって、分極軸がSi単結晶基板表面に垂直な強誘電体薄膜を得ることができる。

    【0126】強誘電体薄膜の厚さは、300nm以下であることが望ましく、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは75nm以下、最も好ましくは50nm以下である。 室温において優れた強誘電体特性を得るためには、強誘電体薄膜形成時に膜面内において圧縮応力が生じていることが好ましい。 この圧縮応力は、ミスフィットを膜の弾性歪みで吸収することにより生じさせることができる。 強誘電体薄膜が厚すぎると、エピタキシャル成長時にミスフィットを弾性歪みで吸収できず、転位による歪み吸収が行われるようになり、膜面内の二次元圧縮応力を効果的に生じさせることができなくなる。 しかしながら、本発明では、高品質の酸化物導電性薄膜を用いているため、比較的厚い領域においてもミスフィットを転位ではなく膜の弾性歪みで吸収することができる。 ただし、より大きな圧縮応力を生じさせるためには強誘電体薄膜が薄いほうがよい。 しかし、強誘電性は結晶格子の骨格と原子の配置とに依存して発現するため、厚さは最低でも2nm(5格子分)、
    好ましくは5nmは必要と考えられる。

    【0127】強誘電体薄膜表面を上記と同様にAFMにより測定したとき、基準長さ5000nmでのRzは、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下である。
    このような表面粗さは、強誘電体薄膜の表面の好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の領域で実現していることが望ましい。 上記表面粗さは、面積10cm 2の基板全面にわたって薄膜を形成したときに、平均に分布した任意の10ケ所以上を測定しての値である。 Rzの下限値は特になく、小さいほど好ましい。 強誘電体薄膜によりメモリを構成したとき、メモリの容量はビットの数に比例するので、大容量メモリとするためには単位面積当たりのビット数を増やす必要がある。 強誘電体薄膜の表面性が良好であると、ビット面積を小さくしても記録が可能になるので、表面性向上は単位面積当たりのビット数を増やす点で効果的である。 現在のところ上記Rzの下限値は、
    1nm程度である。

    【0128】 電子デバイス本発明の膜構造体は、半導体プロセスにより加工して、
    キャパシタおよびFETのゲートとして構成され、MF
    MIS構造の不揮発性メモリや赤外線センサなどの電子デバイスとすることができる。 また、光変調器、光スイッチ、OEICなどにも適用することができ、さらに、
    超電導体薄膜を利用したSQUID、ジョセフソン素子、超電導トランジスタ、電磁波センサー、超電導配線LSIなどにも適用することができる。 また、現在の半導体素子に適用して、SOIデバイス、LSIの配線などに利用することもできる。

    【0129】 記録媒体本発明の膜構造体は、AFMやSTM(走査型トンネル顕微鏡)などのプローブにより情報を記録する記録媒体にも適用することができる。 AFM等のプローブにより強誘電体に記録を行う方法は、例えば、Appl. Phys. Le
    tt. 68, 2358 (1996)に記載されている。 記録に際しては、まず、AFM等のプローブにより強誘電体薄膜に電圧を印加し、プローブされた領域だけ分極を反転させる。 分極反転された領域が記録ビットとなり、情報を担持することになる。 情報の読み出しには、強誘電体の圧電効果、焦電効果、電気光学効果、分極反転時の電流検出などが利用される。 具体的には、例えば、高周波バイアス電圧を記録媒体とプローブとに印加し、プローブにより走査する。 このとき、強誘電体薄膜の圧電効果により記録媒体表面が変形する。 記録ビット領域と未記録領域とでは分極方向が逆であるため圧電効果が異なる。 このため、記録媒体表面には記録ビットの存在に応じた変形が現われ、この変形をプローブで検知することにより、記録ビットを識別することができる。 記録ビットを消去する場合は、記録時とは逆極性のパルス電圧を印加して分極を反転すればよい。

    【0130】なお、このような記録再生方法が適用される本発明の膜構造体は、記録再生時には強誘電体薄膜に電界を印加する必要があるため、FMIS構造のものである。 本発明では、酸化物導電性薄膜を下部電極として機能させる。

    【0131】AFMやSTMは、原子レベルの分解能を有する。 また、強誘電体は分極反転速度が100ns以下と高速であり、かつ記録ビットを10nmφ以下の寸法で形成することが可能であるため、例えば10 6メガビット/cm 2以上の高密度メモリの実現が期待される。 本発明では、表面性が極めて良好でかつ強誘電性に優れる強誘電体薄膜が得られるため、このような高密度メモリが実現可能である。

    【0132】 酸化物導電性薄膜の形成方法次に、本発明の膜構造体中の酸化物導電性薄膜の形成方法について詳細に説明する。

    【0133】図7に示す蒸着装置1は、真空ポンプPが設けられた真空槽1aを有し、この真空槽1a内には、
    下部に基板2を保持するホルダ3が配置されている。 このホルダ3は、回転軸4を介してモータ5に接続されており、このモータ5によって回転され、基板2をその面内で回転させることができるようになっている。 上記ホルダ3は、基板2を加熱するヒータ6を内蔵している。

    【0134】蒸着装置1は、酸化性ガス供給装置7を備えており、この酸化性ガス供給装置7の酸化性ガス供給口8は、上記ホルダ3の直ぐ下方に配置されている。 これによって、酸化性ガスは基板2近傍でその分圧が高くなる。 ホルダ3のさらに下方には、Sr蒸発部である第1蒸発部9、Ru蒸発部である第2蒸発部10が配置されている。 これら各蒸発部には、それぞれの蒸発源の他に、蒸発のためのエネルギーを供給するエネルギー供給装置(電子線発生装置、抵抗加熱装置等)が配置されている。

    【0135】まず、上記ホルダに基板をセットする。 基板には、表面がSi(100)面であるもの、好ましくはSi単結晶を用いる。 また、このような基板の表面に、前記した中間薄膜、下地薄膜などを形成したものを基板として用いることも好ましい。

    【0136】この製造方法では、均質な酸化物導電性薄膜を大面積基板、例えば10cm 2以上の面積を持つ基板上に形成することができる。 これにより、酸化物導電性薄膜を有する電子デバイスや記録媒体を、従来に比べて極めて安価なものとすることができる。 なお、基板の面積の上限は特にないが、現状では400cm 2程度である。 現状の半導体プロセスは2〜8インチのSiウエハー、特に6インチタイプのウエハーを用いたものが主流であるが、本発明はこれに対応が可能である。 また、ウエハー全面ではなく、部分的にマスク等で選択して酸化物導電性薄膜を形成することも可能である。

    【0137】次に、基板を真空中で加熱し、SrおよびRuと酸化性ガスとを基板表面に供給することにより、
    酸化物導電性薄膜を形成していく。

    【0138】加熱温度は、800〜1100℃、好ましくは850〜1050℃、特に900〜1000℃とすることが好ましい。

    【0139】上記酸化性ガスとしては、酸素、オゾン、
    原子状酸素、NO 2 、ラジカル酸素等を用いることができる。 以下、酸化性ガスとして酸素ガスを用いる場合について具体的に説明する。

    【0140】まず、真空ポンプで継続的に真空槽内を排気しながら、酸素ガスを真空槽内に継続的に供給する。
    基板近傍における酸素ガス分圧は、10 -3 〜10 -1 Torr
    程度であることが好ましい。 酸素ガス分圧の上限を10
    -1 Torrとしたのは、真空槽内にある蒸発源中の金属を劣化させることなく、かつその蒸発速度を一定に保つためである。 真空槽に酸素ガスを導入するに際しては、基板の表面にその近傍からガスを噴射し、基板近傍に酸素ガス分圧の高い領域をつくることが好ましい。 これにより、少ないガス導入量で基板上での反応をより促進させることができる。 このとき真空槽内は継続的に排気されているので、真空槽のほとんどの部分は10 -4 〜10 -6
    Torr程度の低い圧力になっている。 酸素ガスの供給量は、好ましくは2〜50cc/分、より好ましくは5〜2
    5cc/分である。 酸素ガスの最適供給量は、真空槽の容積、ポンプの排気速度その他の要因により決まるので、
    あらかじめ適当な供給量を求めておく。

    【0141】各蒸発源は、電子ビーム等で加熱して蒸発させ、基板に供給する。 成膜速度は、好ましくは0.0
    5〜1.00nm/s、より好ましくは0.100〜0.5
    00nm/sである。 成膜速度が遅すぎると成膜速度を一定に保つことが難しくなり、膜が不均質になりやすい。 一方、成膜速度が速すぎると、形成される薄膜の結晶性が悪くなり、表面に凹凸が生じてしまう。

    【0142】SRO薄膜は、上述したようにSr/Ru
    =0.94付近の組成において、表面性、結晶性ともに優れたものとなる。 好ましい組成範囲のSRO薄膜を形成するためには、蒸発源から供給するSrとRuとの原子比をE (Sr/Ru)と表したとき、好ましくは E (Sr/Ru) =0.75〜0.95 とし、より好ましくは E (Sr/Ru) =0.75〜0.93 とし、さらに好ましくは E (Sr/Ru) =0.80〜0.90 とする。 図8に、本発明者らの測定による、E (Sr/Ru)
    と、そのとき形成されるSRO薄膜中のSrとRuとの原子比F (Sr/Ru)との関係を示す。 図8から、E ( Sr/Ru)
    が0.75〜0.95の範囲において、E (Sr/Ru)の変化に対しF (Sr/Ru)の依存性が全くみられないことがわかる。 このときのF (Sr/Ru)は約0.94であり、上述したようにこの組成では、表面性、結晶性ともに優れるSRO薄膜となる。 すなわち、SROは、安定して好ましい組成の薄膜が得られる点でも好ましい。 蒸着の際には、過剰なRu、RuO x 、あるいは結晶構造に組み込まれないRu、RuO xが基板表面で再蒸発し、基板上にはペロブスカイト構造のSRO薄膜だけが成長することになる。 ただし、E (Sr/Ru)が大きすぎると、膜中にRuを十分に供給することが困難となり、膜中のSr/
    Ruの比率が高くなりすぎて結晶性の高いペロブスカイト構造とならず、膜表面の平坦性も不十分となる。 一方、E (Sr/Ru)が小さすぎると、膜中のSr/Ruの比率が低くなりすぎて、ペロブスカイト相の他にRuリッチ相が出現して表面に析出し、膜表面の凹凸が大きくなってしまう。

    【0143】以上説明したように、SrおよびRuを蒸発源として、蒸着条件を所定範囲に設定することにより、Ruの過不足のないSRO結晶を基板上に自己整合的に成長させることができる。 このときのSRO薄膜中の原子比Sr/Ruは約0.94であり、この組成付近では、分子レベルで平坦な膜表面が得られる。 この方法は、分子レベルの平坦性を有するSRO結晶薄膜を製造する画期的な方法であり、結晶性、表面性の極めて高いSRO薄膜が得られる方法である。

    【0144】成膜面積が10cm 2程度以上である場合、
    例えば直径2インチの基板の表面に成膜するときには、
    図7に示すように基板を回転させ、酸化性ガスを基板表面の全域に万遍なく供給することにより、成膜領域全域で酸化反応を促進させることができる。 これにより、大面積でしかも均質な膜の形成が可能となる。 このとき、
    基板の回転数は10rpm以上であることが望ましい。 回転数が低いと、基板面内で膜厚の分布が生じやすい。 基板の回転数の上限は特にないが、通常は真空装置の機構上120rpm程度となる。

    【0145】以上、酸化物導電性薄膜の製造方法の詳細を説明したが、この製造方法は、従来の真空蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレージョン法などとの比較において特に明確なように、不純物の介在の余地のない、しかも制御しやすい操作条件下で実施しうるため、
    再現性よく完全性が高い目的物を大面積で得るのに適している。

    【0146】さらに、この方法においてMBE装置を用いても、全く同様にして目的とする薄膜を得ることができる。

    【0147】 膜構造体の製造方法次に、膜構造体の酸化物導電性薄膜以外の構成要素の製造方法について説明する。

    【0148】下地薄膜、中間薄膜および強誘電体薄膜の形成方法は特に限定されず、Si基板上にこれらを単一配向膜やエピタキシャル膜として形成可能な方法であればよいが、好ましくは蒸着法、特に、特願平7−219
    850号、特願平7−240607号、特願平8−18
    6625号等に開示されている蒸着法を用いることが好ましい。

    【0149】 基板表面処理 Si単結晶基板を用いる場合、中間薄膜の形成前に基板に表面処理を施すことが好ましい。 以下に、表面処理の必要性について説明する。

    【0150】結晶表面の数原子層における表面構造は、
    バルク(3次元的な大きな結晶)の結晶構造を切断したときに考えられる仮想的な表面の原子配列構造とは一般に異なる。 これは、片側の結晶がなくなくなることにより表面に現れた原子の周囲の状況が変化し、これに対応してエネルギーのより低い安定な状態になろうとするからである。 その構造変化は、主として、原子位置の緩和に留まる場合と、原子の組み換えが生じ、再配列構造を形成する場合とがある。 前者はほとんどの結晶表面で存在する。 後者は一般に表面に超格子構造を形成する。 バルクの表面構造の単位ベクトルの大きさをa、bとするとき、ma、nbの大きさの超格子構造が生じた場合、
    これをm×n構造とよぶ。

    【0151】Si基板上に酸化物薄膜をエピタキシャル成長させるためには、Si基板表面の構造が安定で、かつSi基板表面が、その結晶構造情報を、成長させる酸化物薄膜へ伝える役割を果たさなければならない。 バルク結晶構造を切断したときに考えられる原子配列構造は1×1構造なので、酸化物薄膜をエピタキシャル成長させるための基板の表面構造は、安定な1×1構造であることが必要である。

    【0152】しかし、清浄化されたSi(100)の表面は、後述するように、1×2または2×1構造となり、Si(111)の表面は、7×7または2×8構造の大きな単位メッシュをもつ複雑な超構造となってしまうため、好ましくない。

    【0153】また、これらの清浄化されたSi表面は、
    反応性に富み、特に、酸化物薄膜をエピタキシャル形成する温度(700℃以上)では、真空中の残留ガス、とくに炭化素と反応をおこし、表面にSiCが形成されることにより基板表面が汚染され、表面結晶が乱れる。
    したがって、酸化物薄膜の形成に際しては、反応性に富んだSi表面を保護する必要がある。

    【0154】このようなことから、Si単結晶基板に、
    以下の方法で表面処理を施すことが好ましい。

    【0155】この方法では、まず、表面が清浄化されたSi単結晶基板を、図7に示すホルダにセットして真空槽中に配置し、酸化性ガスを導入しつつ加熱して、基板表面にSi酸化物層を形成する。 酸化性ガスには、上記各種酸化性ガスを用いればよいが、空気を用いてもよい。 Si酸化物層は、基板表面を再配列、汚染などから保護するためのものである。 Si酸化物層の厚さは、
    0.2〜10nm程度とすることが好ましい。 厚さが0.
    2nm未満であると、Si表面の保護が不完全となる。 上限を10nmとした理由は、後述する。

    【0156】上記加熱は、300〜700℃の温度に、
    0〜10分間程度保持して行う。 このとき、昇温速度は、30〜70℃/分程度とする。 温度が高すぎたり、
    昇温速度が速すぎたりすると、Si酸化物層の形成が不十分になり、逆に、温度が低すぎたり、保持時間が長すぎると、Si酸化物層が厚くなりすぎてしまう。

    【0157】酸化性ガスの導入は、例えば酸化性ガスとして酸素を用いる場合、真空槽内を当初1×10 -7 〜1
    ×10 -4 Torr程度の真空にし、酸素ガスの導入により、
    少なくとも基板近傍の雰囲気中の酸素分圧が1×10 -4
    〜1×10 -1 Torrとなるようにして行うことが好ましい。

    【0158】上記工程後、真空中で加熱する。 基板表面のSi結晶はSi酸化物層により保護されているので、
    残留ガスである炭化水素と反応してSiCが形成されるなどの汚染が発生しない。 加熱温度は、600〜120
    0℃、特に700〜1100℃とすることが好ましい。
    600℃未満であると、Si単結晶基板表面に1×1構造が得られない。 1200℃を超えると、Si酸化物層によるSi結晶の保護が十分ではなくなり、Si単結晶基板の結晶性が乱れてしまう。

    【0159】次いで、Zrおよび酸化性ガスか、Zr、
    希土類元素(ScおよびYを含む)および酸化性ガスを、基板表面に供給する。 この過程で、Zr等の金属は前工程で形成したSi酸化物層を還元し、除去することになる。 同時に露出したSi結晶表面にZrおよび酸素、またはZr、希土類元素および酸素により、1×1
    の表面構造が形成される。

    【0160】表面構造は、RHEEDによる像のパターンで調べることができる。 例えば、好ましい構造である1×1の表面構造の場合、電子線入射方向が[110]
    で図9(a)に示すような1倍周期C1の完全なストリークパターンとなり、入射方向を[1−10]にしても全く同じパターンとなる。 一方、Si単結晶清浄表面は、たとえば(100)面の場合1×2または2×1であるか、1×2と2×1とが混在している表面構造となる。 このような場合には、RHEEDのパターンは、電子線の入射方向[110]または[1−10]のいずれか、または両方で、図9(b)に示すような1倍周期C
    1と2倍周期C2とを持つパターンになる。 1×1の表面構造においては、上記RHEEDのパターンでみて、
    入射方向が[110]および[1−10]の両方で、2
    倍周期C2が見られない。

    【0161】なお、Si(100)清浄表面も1×1構造を示す場合があり、われわれの実験でも何度か観察された。 しかし、1×1を示す条件は不明確であり、安定に再現性よく1×1をSi清浄面で得ることは、現状では不可能である。 1×2、2×1、1×1いずれの構造の場合であっても、Si清浄面は真空中、高温で汚染されやすく、特に残留ガス中に含まれる炭化水素と反応してSiCが形成されて、基板表面の結晶が乱れやすい。

    【0162】Zr、またはZrおよび希土類元素は、これらを酸化性雰囲気中で蒸着して酸化物膜を形成したときの膜厚が0.3〜10nm、特に3〜7nm程度となるように供給することが好ましい。 このような供給量の表示を、以下、酸化物換算での供給量という。 酸化物換算での供給量が0.3nm未満では、Si酸化物の還元の効果が十分に発揮できず、10nmを超えると表面に原子レベルの凹凸が発生しやすくなり、表面の結晶の配列が凹凸により1×1構造でなくなることがある。 上記Si酸化物層の厚さの上限の好ましい値を10nmとした理由は、
    10nmを超えると、上記のように金属を供給してもSi
    酸化物層を十分に還元できなくなる可能性がでてくるからである。

    【0163】酸化性ガスとして酸素を用いる場合は、2
    〜50cc/分程度供給することが好ましい。 酸化性ガスの最適供給量は、真空槽の容積、ポンプの排気速度、その他の要因で決まるので、あらかじめ最適な供給量を求めておく。

    【0164】 中間薄膜の形成中間薄膜のうち酸化ジルコニウム系薄膜は、本出願人がすでに特願平7−93024号において提案した方法で形成することが好ましい。

    【0165】薄膜の形成にあたっては、まず、基板を加熱する。 成膜時における加熱温度は酸化ジルコニウムの結晶化のために400℃以上であることが望ましく、7
    50℃以上であれば結晶性に優れた膜が得られ、特に分子レベルの表面平坦性を得るためには850℃以上であることが好ましい。 なお、単結晶基板の加熱温度の上限は、1300℃程度である。

    【0166】次いで、Zrを電子ビーム等で加熱して蒸発させ、基板表面に供給すると共に、酸化性ガスおよび必要に応じ希土類元素を基板表面に供給して、酸化ジルコニウム系薄膜を形成する。 成膜速度は、好ましくは0.05〜1.00nm/s、より好ましくは0.100〜
    0.500nm/sとする。 成膜速度が遅すぎると成膜速度を一定に保つことが難しくなり、一方、成膜速度が速すぎると、形成される薄膜の結晶性が悪くなり、表面に凹凸が生じてしまう。

    【0167】なお、酸化性ガスの種類、その供給量、基板近傍の酸素分圧、基板の回転等の各種条件については、上記した酸化物導電性薄膜形成の場合と同様である。

    【0168】酸化ジルコニウム系薄膜の上に希土類酸化物系薄膜を積層する場合、蒸発源として希土類元素だけを用いればよい。 このときの酸化性ガスの導入条件や基板の温度条件等は、酸化ジルコニウム系薄膜の場合と同様とすればよい。 両薄膜において同一の希土類元素を使用する場合には、酸化ジルコニウム系薄膜が所定の厚さに形成されたときにZrの供給を停止し、希土類元素だけを引き続いて供給することにより、連続して希土類酸化物系薄膜を形成することができる。 また、酸化ジルコニウム系薄膜を傾斜構造とする場合には、Zrの供給量を徐々に減らし、最後にはゼロとして、希土類酸化物系薄膜の形成に移行すればよい。

    【0169】 下地薄膜中間薄膜上に下地薄膜としてBaTiO 3膜を形成する場合について説明する。

    【0170】中間薄膜成膜後、加熱および酸化性ガスの導入を続けながら、BaおよびTiを基板表面に供給する。 供給量は、Ba:Ti=1:1となるようにすることが好ましい。 成膜時の蒸着基板の温度および成膜初期のBa/Ti供給量比は、BaTiO 3膜の配向性に影響を及ぼす。 BaTiO 3膜、中間薄膜(Zr 1-xx
    2- δ)およびSi(100)基板の結晶方位関係が、前述した好ましい関係、すなわち、BaTiO 3 (00
    1)//Zr 1-xx2- δ(001)//Si(100)、
    かつBaTiO 3 [100]//Zr 1-xx2- δ[10
    0]//Si[010]となるようにするためには、Ba
    TiO 3成膜時における加熱温度は800〜1300
    ℃、好ましくは900〜1200℃が望ましい。 また、
    成長初期のBa/Ti供給量比は、1〜0、好ましくは1〜0.8とすることが望ましい。 すなわち、成長初期にはTi過剰にすることが好ましい。 なお、Ba/Ti
    供給量比が0であるとは、成長初期にはTiのみの供給であってもよいことを示す。 加熱温度が高すぎると、中間薄膜との間で相互拡散が生じ、結晶性が低下してしまう。 一方、加熱温度が低すぎたり、成長初期のBa/T
    i比が適切でなかったりすると、形成されるBaTiO
    3膜が目的とする(001)配向ではなく(110)配向になるか、または(001)配向BaTiO 3膜に(110)配向結晶が混在してしまう。 成長初期には、
    供給されたBaが下地の酸化ジルコニウム系薄膜と反応して、目的の配向を有するBaTiO 3が得られにくい。 成長初期にTi過剰とするのは、Baと酸化ジルコニウムとの反応を避けるためである。 なお、ここでいう成長初期とは、膜厚が1nm程度以下である範囲内である。

    【0171】下地薄膜形成時の成膜速度、酸化性ガスの種類、その供給量、基板近傍の酸素分圧、基板の回転等の各種条件については、上記した酸化ジルコニウム系薄膜形成の場合と同様である。

    【0172】中間薄膜や下地薄膜の上記形成方法は、上記した酸化物導電性薄膜の場合と同様に、従来の真空蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレージョン法などとの比較において特に明確なように、不純物の介在の余地のない、しかも制御しやすい操作条件下で実施しうるため、再現性よく完全性が高い目的物を大面積で得るのに好適である。 上記方法においてMBE装置を用いても、全く同様にして目的とする薄膜を得ることができる。

    【0173】 強誘電体薄膜強誘電体薄膜の形成方法は特に限定されないが、好ましくは蒸着法を用いる。 以下、形成方法の具体例として、
    強誘電体材料としてPZTを用いた場合について説明する。

    【0174】この形成方法を実施するにあたっても、図7に示したような蒸着装置1を用いることが望ましい。
    ここでは、PbTiO 3にZrを添加した組成であるP
    ZT薄膜を例に挙げて説明するが、他のPb系強誘電体材料からなる薄膜も、同様にして形成することができる。

    【0175】この場合の蒸着装置1は、第1蒸発部9をPbO蒸発部とし、第2蒸発部10をTiO x蒸発部とし、第3蒸発部11をZr蒸発部としたほかは、酸化物導電性薄膜形成に用いる蒸着装置と同様である。

    【0176】鉛蒸発源として酸化物(PbO)を用いる理由は、高温の基板上ではPbの蒸気圧が高いため、蒸発源にPbを用いると再蒸発して基板表面に付着しにくいが、PbOを用いると付着率が高まるからであり、T
    iO xを用いる理由も、同様に付着率が高いからである。 TiO xの替わりにTiを用いた場合、TiはPb
    Oよりも酸化されやすいため、PbOはTiに酸素を奪われてPbとなり、これが再蒸発してしまうので好ましくない。

    【0177】なお、TiO xにおけるxは、好ましくは1≦x<1.9、より好ましくは1≦x<1.8、さらに好ましくは1.5≦x≦1.75、特に好ましくは1.66≦x≦1.75である。 このようなTiO xは熱エネルギーを加えると真空槽内で溶融し、安定した蒸発速度が得られる。 これに対しTiO 2は、熱エネルギーを加えると真空槽内で酸素を放出しながらTiO xへと変化してゆくため、真空槽内の圧力変動が大きくなり、また、安定した蒸発速度が得られないため、組成制御が不可能である。

    【0178】まず、上記ホルダに基板をセットする。 基板には、Si単結晶基板上に、少なくとも酸化物導電性薄膜が形成されているものを用いる。

    【0179】次に、基板を真空中で加熱し、PbO、T
    iO xおよびZrと、酸化性ガスとを基板表面に供給することにより、強誘電体薄膜を形成していく。

    【0180】加熱温度は、500〜700℃、特に55
    0〜650℃とすることが好ましい。 500℃未満であると、結晶性の高い強誘電体薄膜が得られにくい。 70
    0℃を超えると、鉛蒸気と基板構成元素とが反応し、結晶性の鉛系強誘電体膜が得られにくい。

    【0181】上記酸化性ガスとしては、酸素、オゾン、
    原子状酸素、NO 2 、ラジカル酸素等を用いることができるが、酸化性ガスの一部または大部分をラジカル化した酸素とすることが好ましい。

    【0182】ここでは、ECR酸素源によるラジカル酸素を用いる場合について説明する。

    【0183】真空ポンプで継続的に真空槽内を排気しながら、ECR酸素源から大部分がラジカル化した酸化性ガスを真空槽内に継続的に供給する。 基板近傍における酸素分圧は、10 -3 〜10 -1 Torr程度であることが好ましい。 酸素分圧の上限を10 -1 Torrとしたのは、真空槽内にある蒸発源中の金属を劣化させることなく、かつその蒸発速度を一定に保つためである。 真空槽に酸化性ガスを導入するに際しては、基板の表面にその近傍からガスを噴射し、基板近傍だけに高い酸素分圧の雰囲気をつくるとよく、これにより少ないガス導入量で基板上での反応をより促進させることができる。 このとき真空槽内は継続的に排気されているので、真空槽のほとんどの部分は10 -4 〜10 -6 Torr程度の低い圧力になっている。
    酸化性ガスの供給量は、好ましくは2〜50cc/分、より好ましくは5〜25cc/分である。 酸化性ガスの最適供給量は、真空槽の容積、ポンプの排気速度、その他の要因により決まるので、あらかじめ適当な供給量を求めておく。

    【0184】各蒸発源は、電子ビーム等で加熱して蒸発させ、基板に供給する。 成膜速度は、好ましくは0.0
    5〜1.00nm/s、より好ましくは0.100〜0.5
    00nm/sである。 成膜速度が遅すぎると成膜速度を一定に保つことが難しくなり、膜が不均質になりやすい。 一方、成膜速度が速すぎると、形成される薄膜の結晶性が悪くなり、表面に凹凸が生じてしまう。

    【0185】TiO xおよびZrは、供給したほぼ全量が基板上に成長するPZT結晶に取り込まれるので、目的とする組成比に対応した比率の蒸発速度で基板上に供給すればよい。 しかし、PbOは蒸気圧が高いので組成ずれを起こしやすく、制御が難しい。 これまで鉛系の強誘電体材料では、組成ずれがなく、より単結晶に近い薄膜は得られていない。 この形成方法では、このPbOの特性を逆に利用し、PbO蒸発源からの基板への供給量比を、形成されるPZT膜結晶における比率に対し過剰とする。 過剰供給の度合いは、蒸発源から供給されるP
    bと(Ti+Zr)との原子比Pb/(Ti+Zr)をE [Pb/(Ti+Zr)]とし、そのとき形成される強誘電体薄膜中のPbと(Ti+Zr)との原子比Pb/(Ti+Z
    r)をF [Pb/(Ti+Zr)]としたとき、これらの関係が、 E [Pb/(Ti+Zr)] /F [Pb/(Ti+Zr)] =1.5〜3.5、 好ましくは E [Pb/(Ti+Zr)] /F [Pb/(Ti+Zr)] =1.7〜2.5、 より好ましくは E [Pb/(Ti+Zr)] /F [Pb/(Ti+Zr)] =1.9〜2.3 となるものである。 過剰なPbOあるいはペロブスカイト構造に組み込まれないPbOは基板表面で再蒸発し、
    基板上にはペロブスカイト構造のPZT膜だけが成長することになる。 E [Pb/(Ti+Zr)] /F [Pb/(Ti+Zr)]が小さすぎると、膜中にPbを十分に供給することが困難となり、膜中のPb/(Ti+Zr)の比率が低くなりすぎて結晶性の高いペロブスカイト構造とならない。 一方、
    [Pb/(Ti+ Zr)] /F [Pb/(Ti+Zr)]が大きすぎると、膜中のPb/(Ti+Zr)の比率が大きくなりすぎて、ペロブスカイト相の他に他のPbリッチ相が出現し、ペロブスカイト単相構造が得られなくなる。

    【0186】以上説明したように、PbOおよびTiO
    xを蒸発源として用いて付着率を高め、ラジカル酸素により強力に酸化し、かつ基板温度を所定範囲に設定することにより、Pbの過不足のないほぼストイキオメトリのPZT結晶が基板上に自己整合的に成長する。 この方法は、ストイキオメトリの鉛系ペロブスカイト結晶薄膜を製造する画期的な方法であり、結晶性の極めて高い強誘電体薄膜が得られる方法である。

    【0187】成膜面積が10cm 2程度以上である場合、
    例えば直径2インチの基板の表面に成膜するときには、
    図7に示すように基板を回転させ、酸化性ガスを基板表面の全域に万遍なく供給することにより、成膜領域全域で酸化反応を促進させることができる。 これにより、大面積でしかも均質な膜の形成が可能となる。 このとき、
    基板の回転数は10rpm以上であることが望ましい。 回転数が低いと、基板面内で膜厚の分布が生じやすい。 基板の回転数の上限は特にないが、通常は真空装置の機構上120rpm程度となる。

    【0188】以上、強誘電体薄膜の形成方法の詳細を説明したが、この方法は、従来の真空蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレージョン法などとの比較において特に明確なように、不純物の介在の余地のない、しかも制御しやすい操作条件下で実施しうるため、再現性よく完全性が高い目的物を大面積で得るのに好適である。

    【0189】さらに、この方法においてMBE装置を用いても、全く同様にして目的とする薄膜を得ることができる。

    【0190】以上ではPZT薄膜を形成する方法について説明したが、この方法は、前記した他のPb系強誘電体材料からなる薄膜の形成にも適用でき、これらの場合でも同様な効果が得られる。 また、Bi系酸化物薄膜にも適用できる。 Bi系酸化物薄膜においても、真空中でBiの蒸気圧が高いために、これまで組成制御が不十分であったが、この方法においてPbO蒸発源をBi 23
    蒸発源に替えることで同様に形成できることを確認している。 Bi系の場合も、Biが過不足無く自己整合的に結晶に取り込まれ、ストイキオメトリの強誘電体薄膜結晶が得られる。

    【0191】本発明の膜構造体では、強誘電体薄膜が、
    表面平坦性、結晶性ともに優れる酸化物導電性薄膜上に形成されるため、強誘電体薄膜が厚さ50nm以下と薄くても、その表面を分子レベルで平坦にすることが可能である。

    【0192】

    【実施例】以下、本発明の具体的実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。

    【0193】 実施例1酸化物導電性薄膜を成長させる単結晶基板として、その表面が(100)面となるように切断して鏡面研磨したSi単結晶ウエハー(直径2インチ)を用いた。 このウエハー表面を40%フッ化アンモニウム水溶液により、
    エッチング洗浄した。

    【0194】真空槽内に設置された回転および加熱機構を備えた基板ホルダーに上記単結晶基板を固定し、真空槽を10 -6 Torrまで油拡散ポンプにより排気した後、基板洗浄面をSi酸化物を用いて保護するため、基板を2
    0rpmで回転させ、酸素を基板付近にノズルから25cc
    /分の割合で導入しつつ、600℃に加熱した。 これにより基板表面が熱酸化され、基板表面に厚さ約1nmのS
    i酸化物層が形成された。

    【0195】次いで、基板を900℃に加熱し、回転させた。 回転数は20rpmとした。 このとき、ノズルから酸素ガスを25cc/分の割合で導入し、前記基板上に金属Zrを蒸発源から蒸発させ、ZrO 2の膜厚に換算して5nmとなるように供給し、1×1の表面構造を備えるSi表面処理基板を得た。

    【0196】さらに、基板温度を900℃、基板回転数を20rpmとし、ノズルから酸素ガスを25cc/分の割合で導入した状態で、Si表面処理基板表面に金属Zr
    を蒸発源から供給することにより、厚さ10nmのZrO
    2膜を形成した。

    【0197】次いで、ZrO 2膜を形成した基板を蒸着基板として、BaTiO 3膜を形成した。 蒸着基板は、
    900℃に加熱し、20rpmで回転させた。 このとき、
    ノズルから酸素ガスを25cc/分の割合で導入し、基板上に金属Baと金属Tiとを蒸発源から蒸発させることにより、BaTiO 3膜を形成した。 成膜初期には、T
    iだけをTiO 2膜の厚さに換算して0.5nmとなるように供給し、次いで、成膜速度を0.05nm/sとしてB
    aTiO 3膜の厚さに換算して2nmとなるようにTiおよびBaを供給し、次いで、成膜速度を0.2nm/sに上げ、厚さ15nmのBaTiO 3膜とし、Si(100)/ZrO 2 (00
    1)(10nm)/BaTiO 3 (001)エピタキシャル構造体を作製した。

    【0198】さらに、このエピタキシャル構造体を蒸着基板として、SRO薄膜を形成した。 具体的には、まず、基板を950℃に加熱し、20rpmで回転させた。
    そして、酸素源から酸素ガスを25cc/分の割合で導入し、基板上にSrおよびRuをそれぞれの蒸発源から蒸発させることにより、厚さ100nmのSRO薄膜を形成した。 蒸発源からの供給は、Sr:Ruのモル比が1:
    1.15となるように制御しながら行った。 すなわち、 E (Sr/Ru) =0.87 とした。

    【0199】上記SRO薄膜の組成(原子比)を蛍光X
    線分析により調べたところ、 F (Sr/Ru) =0.935 であった。

    【0200】上記SRO薄膜のX線回折チャートを図1
    0に、RHEED測定結果を、図11に示す。 このSR
    O薄膜では(00L)反射のピークだけが認められ、また、SRO(002)反射のロッキングカーブの半値幅は1.2°であり、単一配向かつ結晶性の高い膜であることが確認できた。 また、RHEEDによる薄膜表面の回折パターンは、完全にストリークであるパターンであり、この完全にストリークであるパターンから、エピタキシャル膜であることが確認できた。

    【0201】上記SRO薄膜の抵抗率を測定した結果、
    4.08×10 -4 Ω・cmであった。 また、上記SRO
    薄膜の600℃における面内の格子定数を測定したところ、0.3966nmであった。

    【0202】上記SRO薄膜についてAFMを用いて表面性を調べた。 図4に、このSRO薄膜表面のAFM像を示す。 JIS B 0610による十点平均粗さRz(基準長さL:5000nm)を測定したところ、平均で4nm、最大で6nm、最小で2nm、測定箇所の80%以上で5nm以下であり、優れた平坦性を有していることがわかった。 なお、比較のために、F (Sr/Ru)が0.900であるSR
    O薄膜のAFM像を図3に、F (Sr/Ru)が1.235であるSRO薄膜のAFM像を図5に示す。 図6に示すスケールに基づいて図3〜図5を比較すると、Sr/Ru
    が0.935のときに、表面がもっとも平坦になることがわかる。

    【0203】次に、上記SRO薄膜を形成したエピタキシャル構造体を蒸着基板として、強誘電体材料であるP
    ZTを蒸着し、PZT膜を形成した。 具体的には、まず、基板を600℃に加熱し、20rpmで回転させた。
    そして、ECR酸素源からラジカル酸素ガスを10cc/
    分の割合で導入し、基板上にPbO、TiO x (x=
    1.67)およびZrをそれぞれの蒸発源から蒸発させることにより、図13に示す厚さのPZT膜を形成した。 蒸発源からの供給は、PbO:Zr:TiO xのモル比が2:0.6:0.4となるように制御しながら行った。 すなわち、 E [Pb/(Ti+Zr)] =2.0 とした。

    【0204】このPZT膜の組成(原子比)を蛍光X線分析により調べたところ、 Pb/(Ti+Zr)=1.00、 Zr/Ti=1.503 であった。 この組成では F [Pb/(Ti+Zr)] =1.00 となるので、 E [Pb/(Ti+Zr)] /F [Pb/(Ti+Zr)] =2.00 となる。

    【0205】この組成のPZTバルク材の600℃における格子定数(a F )は0.4090nmであり、一方、
    PZT膜の下に存在するSRO薄膜の600℃における格子定数(a S )は上記したように0.3966nmなので、前記した 1<a F /a S ≦1.04 を満足していることになる。 RHEEDおよびX線回折の結果、基板上に形成した薄膜のすべてが(001)配向のエピタキシャル膜であることが確認された。 なお、
    PZT(002)反射のロッキングカーブの半値幅は1.2°であり、高結晶性の膜であることが確認できた。 図12に、厚さ100nmのPZT膜を設けたエピタキシャル構造体のX線回折チャートを示す。 (200)
    配向面は検出されず、ドメインが生じていないことがわかる。

    【0206】形成した各PZT膜について、X線回折における(001)面反射からc軸の格子定数(c面間隔)を求めた。 図13に、PZT膜の厚さとc面間隔との関係を示す。 図13には、無歪みのPZTの面間隔、
    すなわち、このPZT膜と同一組成のPZTバルク材の面間隔(0.4063nm)も示してある。

    【0207】図13から、PZT膜のc軸は、厚さ30
    nm、50nm、100nmのすべてにおいてPZTバルク材よりも伸びており、膜厚が薄くなるほどc軸が伸びる傾向にあることがわかる。 これは、ミスフィットによる圧縮応力の蓄積が行われて、a軸が縮みc軸が伸びたことを示している。

    【0208】これらの薄膜についてAFMを用いて表面性を調べ、さらにJIS B 0610による十点平均粗さRz
    (基準長さL:5000nm)を測定したところ、平均で5nm、最大で7nm、最小で2nm、測定箇所の80%以上で5nm以下であり、優れた平坦性を有していることがわかった。

    【0209】このようにして得られた各エピタキシャル構造体のPZT膜表面に、蒸着法とリソグラフィー法とを用いて直径50μmのAl電極を形成し、SRO薄膜からリードを取り出し、ソーヤタワー回路を用いて残留分極を測定した。 この結果、PZT膜の厚さが100nm
    である構造体では残留分極が15μC/cm 2であり、厚さ50nmのものでは20μC/cm 2 、厚さ30nmのものでは24μC/cm 2であった。

    【0210】この結果から、PZT膜が薄くなるほど成膜時にPZT膜に蓄積される二次元圧縮応力が増大し、
    これにともない、室温まで冷却したときの残留分極値が増大することがわかる。

    【0211】 実施例2実施例1と同様にして、SRO薄膜を有するエピタキシャル構造体を作製した。 このエピタキシャル構造体を蒸着基板として、強誘電体材料であるPZTを蒸着し、P
    ZT膜を形成した。 具体的には、まず、基板を600℃
    に加熱し、20rpmで回転させた。 そして、ECR酸素源からラジカル酸素ガスを10cc/分の割合で導入し、
    基板上にPbO、TiO x (x=1.67)およびZr
    をそれぞれの蒸発源から蒸発させることにより、厚さ3
    0nmのPZT膜および厚さ100nmのPZT膜を形成した。 蒸発源からの供給は、PbO:Zr:TiO xのモル比が2:0.25:0.75となるように制御しながら行った。 すなわち、 E [Pb/(Ti+Zr)] =2.0 とした。

    【0212】このPZT膜の組成(原子比)を蛍光X線分析により調べたところ、 Pb/(Ti+Zr)=1.00、 Zr/Ti=0.330 であった。 この組成では F [Pb/(Ti+Zr)] =1.00 となるので、 E [Pb/(Ti+Zr)] /F [Pb/(Ti+Zr)] =2.00 となる。

    【0213】この組成のPZTバルク材の600℃における格子定数(a F )は0.4018nmであり、一方、
    PZT膜の下に存在するSRO薄膜の600℃における格子定数(a S )は上記したように0.3966nmなので、前記した 1<a F /a S ≦1.04 を満足していることになる。 RHEEDおよびX線回折の結果、(100)配向面は検出できず、基板上に形成した薄膜のすべてが(001)配向のエピタキシャル膜であることが確認された。 なお、PZT(002)反射のロッキングカーブの半値幅は、1.2°であり、高結晶性の膜であることが確認できた。 図14に、厚さ10
    0nmのPZT膜を設けたエピタキシャル構造体におけるPZT(002)近傍のX線回折チャートを示す。 (2
    00)配向面は検出されず、ドメインが生じていないことがわかる。

    【0214】形成した各PZT膜について、X線回折における(001)面反射からc軸の格子定数(c面間隔)を求めた。 PZT膜のc軸は、厚さ30nmのものでは0.4140nm、厚さ100nmのものでは0.413
    8nmであった。 これらのPZT膜と同組成であって、無歪みのPZTのc面間隔、すなわち、同組成のバルク体のc面間隔は0.4134nmであるから、いずれのPZ
    T膜でもc軸がPZTバルク材より伸びており、また、
    膜厚が薄くなるほどc軸が伸びる傾向にあることがわかる。 これは、ミスフィットによる圧縮応力の蓄積が行われて、a軸が縮みc軸が伸びたことを示している。

    【0215】これらの薄膜についてAFMを用いて表面性を調べ、さらにJIS B 0610による十点平均粗さRz
    (基準長さL:5000nm)を測定したところ、平均で5nm、最大で7nm、最小で2nm、測定箇所の80%以上で5nm以下であり、優れた平坦性を有していることがわかった。

    【0216】このようにして得られた各エピタキシャル構造体のPZT膜表面に、蒸着法とリソグラフィー法とを用いて直径50μmのAl電極を形成し、SRO薄膜からリードを取り出し、ソーヤタワー回路を用いて残留分極を測定した。 この結果、PZT膜の厚さが100nm
    である構造体では残留分極が48μC/cm 2であり、厚さ30nmのものでは55μC/cm 2に達した。 この値は、これまで薄膜の強誘電体において得られた残留分極値のうちで最高値であると思われる。

    【0217】この結果から、PZT膜が薄くなるほど成膜時にPZT膜に蓄積される二次元圧縮応力が増大し、
    これにともない、室温まで冷却したときの残留分極値が増大することがわかる。

    【0218】なお、上記各実施例で作製した膜構造体を、前述した記録媒体に適用したところ、AFMプローブによる記録再生が可能であった。

    【0219】

    【発明の効果】本発明では、Si基板上において、平坦性の高い酸化物導電性薄膜が実現する。 本発明における膜構造体は、平坦性の高い酸化物導電性薄膜を利用して、その上に形成される強誘電体薄膜中の結晶格子を、
    膜に平行な結晶面の間隔が伸びるように歪ませるか、あるいは、ほぼ無歪みの状態とする。 これにより、強誘電体薄膜を、ドメイン構造をとらない(001)単一配向のエピタキシャル膜として形成できるので、強誘電体薄膜の自発分極値の増大、あるいは自発分極値の低下防止が可能になると共に、強誘電体薄膜表面の平坦性が極めて良好なものとなる。

    【0220】本発明の膜構造体は、その優れた強誘電体薄膜の特性を利用することにより、不揮発性メモリ、赤外線センサ、光変調器、光スイッチ、OEIC、記録媒体などに応用することができる。 特に、MFMIS構造を有するゲート型不揮発性メモリや、AFM等のプローブにより記録を行う記録媒体用途に最適なものである。

    【0221】本発明の製造方法は、表面性と結晶性とに優れた酸化物導電性薄膜をSi基板上に形成可能としたものであり、不純物の介在の余地のない、制御しやすい操作条件で、直径2インチ以上の大面積にわたって高品質な酸化物導電性薄膜を再現性よく形成することができる方法である。 本発明は、半導体応用の上で重要であるSi基板上に、上記酸化物導電性薄膜および上記強誘電体薄膜を形成可能としたものなので、工業的な利用価値が高い。

    【図面の簡単な説明】

    【図1】強誘電体(PbTiO 3 )薄膜の二次元応力と自発分極との関係を示すグラフである。

    【図2】(a)、(b)および(c)は、単結晶基板とその上に形成されたエピタキシャル薄膜との間に格子定数のずれ(ミスフィット)が存在した場合における薄膜結晶格子の変形を、模式的に表す説明図である。

    【図3】薄膜を示す図面代用写真であって、SRO薄膜の原子比Sr/Ru[F (Sr/Ru ) ]とSRO薄膜の表面性との関係を示す原子間力顕微鏡(AFM)像である。

    【図4】薄膜を示す図面代用写真であって、SRO薄膜の原子比Sr/Ru[F (Sr/Ru ) ]とSRO薄膜の表面性との関係を示すAFM像である。

    【図5】薄膜を示す図面代用写真であって、SRO薄膜の原子比Sr/Ru[F (Sr/Ru ) ]とSRO薄膜の表面性との関係を示すAFM像である。

    【図6】薄膜を示す図面代用写真であって、図3〜図5
    に示すAFM像におけるSRO薄膜表面の起伏を示すスケールである。

    【図7】本発明において、薄膜の形成に用いられる蒸着装置の一例を示す説明図である。

    【図8】蒸発源から供給されるSrとRuの原子比[E
    (Sr/Ru) ]と、形成されるSRO薄膜の原子比Sr/R
    u[F (Sr/Ru) ]との関係を示すグラフである。

    【図9】(a)は1×1の表面構造のRHEEDパターンを示す模式図であり、(b)は2×1、1×2あるいはこれらが混在している場合のRHEEDパターンを示す模式図である。

    【図10】Si(100)/ZrO 2 (001)(10nm)/BaTiO 3 (001)(15n
    m)/SRO(100nm)構造のX線回折チャートである。

    【図11】結晶構造を示す図面代用写真であって、Si(1
    00)/ZrO 2 (001)(10nm)/BaTiO 3 (001)(15nm)構造上に形成したSRO薄膜のRHEEDパターンである。 電子線の入射方向は、Si[110]方向である。

    【図12】Si(100)/ZrO 2 (001)(10nm)/BaTiO 3 (001)(15n
    m)/SRO(100nm)/PZT(100nm)構造のX線回折チャートである。

    【図13】Si(100)/ZrO 2 (001)(10nm)/BaTiO 3 (001)(15n
    m)/SRO(001)(100nm)基板上に形成したPZT膜について、膜の厚さとc面間隔との関係を示すグラフである。

    【図14】Si(100)/ZrO 2 (001)(10nm)/BaTiO 3 (001)(15n
    m)/SRO(100nm)/PZT(100nm)構造のX線回折チャートである。

    【符号の説明】

    1 蒸着装置 1a 真空槽 2 基板 3 ホルダ 4 回転軸 5 モータ 6 ヒータ 7 酸化性ガス供給装置 8 酸化性ガス供給口 9 第1蒸発部 10 第2蒸発部 11 第3蒸発部

    ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl. 6識別記号 FI H01L 21/8242 H01L 27/10 651 27/14 27/14 Z 21/8247 K 29/788 29/78 371 29/792 41/08 L 37/02 Q 41/09 V 41/083

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