有機金属錯体、有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法、表示装置並びに照明装置

申请号 JP2016084427 申请日 2016-11-21 公开(公告)号 JPWO2017119200A1 公开(公告)日 2018-11-01
申请人 コニカミノルタ株式会社; 发明人 服部 貴宗; 田畑 顕一; 植田 則子;
摘要 本発明の課題は、良好な安定性と発光性とを兼ね備え、素子の発光効率や発光寿命を向上させることが可能な有機金属錯体、これを含有した有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法、表示装置並びに照明装置を提供することである。本発明の有機金属錯体は、元素周期表における8族〜11族の金属を中心金属(例;イリジウム等)として有し、架橋基によって互いに連結された2座の配位子が配位した構造を有する。配位子は、芳香族炭化 水 素環、芳香族複素環(例;2−フェニルイミダゾール等)によって構成され、金属−配位子間の配位結合に対するオルト位に、架橋基が連結した2価以上のヘテロ 原子 (例;酸素原子、窒素原子、硫黄原子等)が結合している。有機エレクトロルミネッセンス素子は、この有機金属錯体を有機層に含有し、ウェットプロセス方式で形成される。表示装置及び照明装置は、この有機エレクトロルミネッセンス素子を具備する。
权利要求

下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表されることを特徴とする有機金属錯体。 [式中、Mは、元素周期表における8族〜11族の金属、L1 、L2 及びL3 は、下記一般式(3)で表される2座の配位子、V1 は、L1 、L2 及びL3 のそれぞれと共有結合した3価以上の架橋基をそれぞれ表す。] [式中、Mは、元素周期表における8族〜11族の金属、L1 及びL2 は、下記一般式(3)で表される2座の配位子、La は、2座の配位子、V2 は、L1 及びL2 のそれぞれと共有結合した2価以上の架橋基をそれぞれ表す。] [式中、Z1 及びZ2 は、それぞれ独立に、縮環していてもよい置換若しくは無置換の芳香族炭化素環又は芳香族複素環を表す。A1 、A2 、A3 、B1 及びB2 は、5員環又は6員環を形成する環形成原子であり、それぞれ独立に、炭素原子又は窒素原子を表し、Xは、置換基を有していてもよい2価以上のヘテロ原子を表す。※は、V1 又はV2 との結合部位を表し、*は、Mとの結合部位を表す。]前記一般式(1)及び前記一般式(2)におけるMが、イリジウムであることを特徴とする請求項1に記載の有機金属錯体。前記一般式(3)におけるXが、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子のうちのいずれかであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機金属錯体。前記一般式(3)におけるZ1 が、2環以上に縮環していてもよい置換又は無置換のベンゼン環であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の有機金属錯体。前記一般式(1)におけるV1 及び前記一般式(2)におけるV2 が、1個以上4個以下の原子で構成された主鎖を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の有機金属錯体。前記一般式(3)におけるZ2 が、下記一般式(4)で表されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の有機金属錯体。 [式中、B3 、B4 及びB5 は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を表す。**は、A2 との結合部位を表す。B1 、B2 及び*は、前記一般式においてと同義である。]前記一般式(4)で表される環が、下記一般式(5)〜(7)のうちのいずれかで表されることを特徴とする請求項6に記載の有機金属錯体。 [式中、B6 、B7 、B8 及びB9 は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子又は窒素原子を表す。R3 、R4 及びR5 は、置換基を表す。*及び**は、前記一般式においてと同義である。]請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の有機金属錯体を、陽極と陰極との間に介在する有機層に含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、前記有機層のうちの少なくとも一層を、前記有機金属錯体を含有する塗布液を用いてウェットプロセス方式で形成することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具備することを特徴とする表示装置。請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具備することを特徴とする照明装置。

说明书全文

本発明は、有機金属錯体、これを含有した有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法、表示装置並びに照明装置に関する。

代表的な有機エレクトロニクス材料である有機金属錯体(以下、単に「金属錯体」ということがある。)は、電荷輸送材料、発光材料、有機半導体等として様々な有機エレクトロニクス素子で利用されている。金属錯体の特性は、有機エレクトロニクス素子の性能に大きな影響を与えることが多い。そのため、素子性能を改良するにあたっては、目的に適う金属錯体を使用することが極めて重要である。

有機エレクトロニクス素子の一種である有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ともいう。)においては、発光層、電子輸送層等の有機層の材料として金属錯体が使用されている。有機EL素子の発光波長や発光寿命をはじめとする諸性能や素子の生産性に関しては、従来から更なる改善が望まれており、それにしたがって、材料として用いられる金属錯体の改良も求められている。

金属錯体の特性は、一般的な有機化合物と同様に、分子の基本骨格の構造や、置換基の種類や、置換基の結合位置等によって左右される。そこで、金属錯体の特性を改良するにあたって、配位子の基本骨格の選択、置換基の種類や置換基の結合位置の組み合わせに主眼をおいた検討が従来からなされてきた。一方、近年では、配位子の数に注目し、配位子の骨格構造自体を改変する試みもなされている。具体的には、複数の配位子同士を共有結合によって連結し、カゴ状の配位子骨格を形成することによって、金属錯体の熱学的な安定化を図る技術が検討されている。

このような技術として、例えば、特許文献1には、架橋単位Vを介して共有結合によって連結された三つの配位子部分L1,L2,L3が金属Metに配位している構造の金属錯体について開示されている(請求項1等参照)。また、特許文献2には、3個の2座配位子を有する6配位金属錯体において、少なくとも2つの配位子が連結基を介して共有結合で連結されている金属錯体について開示されている。

特表2007−524585号公報

特開2013−187211号公報

特許文献1や特許文献2に開示されているような金属錯体は、配位子同士が連結されているため、比較的高い熱力学的安定性を有している。よって、このような金属錯体を有機EL素子の材料として使用すると、所定量の金属錯体を所定位置で確実に機能させることができるため、発光中心の位置や電荷バランス等の制御をより精密に行うことができる。また、精密な制御により素子の駆動電圧をより低くすることが可能となり、また、金属錯体自体も高い安定性を有しているため、材料としての使用寿命も良好となる。すなわち、カゴ状の金属錯体を用いることで、有機EL素子の発光効率や発光寿命を向上させることができる可能性がある。

しかしながら、カゴ状の金属錯体においては、配位子同士が共有結合で互いに拘束された状態にあるため、中心金属と配位子との位置関係が歪を持って固定されてしまう傾向がある。また、カゴ状の金属錯体は合成が容易でなく、分子設計上の制約が大きいという難点もある。そのため、発光波長等の諸特性を正確に発揮させる観点等から、カゴ状の金属錯体の特性の更なる向上が求められている。

一方、金属錯体の発光波長等の諸特性を制御する方法としては、一般に多用されているように、配位子に置換基を導入する方法を利用することも可能である。しかしながら、或る種の置換基を多用すると、局所的な反応性が増して金属錯体の安定性が損なわれたり、置換基が消光を促進する等して発光性が低下したりすることもある。

そこで、本発明は、良好な安定性と発光性とを兼ね備え、素子の発光効率や発光寿命を向上させることが可能な有機金属錯体、これを含有した有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法、表示装置並びに照明装置を提供することを目的とする。

本発明の上記目的は、下記構成により達成される。

1.下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表されることを特徴とする有機金属錯体。

[式中、Mは、元素周期表における8族〜11族の金属、L1 、L2 及びL3 は、下記一般式(3)で表される2座の配位子、V1 は、L1 、L2 及びL3 のそれぞれと共有結合した3価以上の架橋基をそれぞれ表す。]

[式中、Mは、元素周期表における8族〜11族の金属、L1 及びL2 は、下記一般式(3)で表される2座の配位子、La は、2座の配位子、V2 は、L1 及びL2 のそれぞれと共有結合した2価以上の架橋基をそれぞれ表す。]

[式中、Z1 及びZ2 は、それぞれ独立に、縮環していてもよい置換若しくは無置換の芳香族炭化素環又は芳香族複素環を表す。A1 、A2 、A3 、B1 及びB2 は、5員環又は6員環を形成する環形成原子であり、それぞれ独立に、炭素原子又は窒素原子を表し、Xは、置換基を有していてもよい2価以上のヘテロ原子を表す。※は、V1 又はV2 との結合部位を表し、*は、Mとの結合部位を表す。]

2.前記一般式(1)及び前記一般式(2)におけるMが、イリジウムであることを特徴とする前記1に記載の有機金属錯体。

3.前記一般式(3)におけるXが、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子のうちのいずれかであることを特徴とする前記1又は前記2に記載の有機金属錯体。

4.前記一般式(3)におけるZ1 が、2環以上に縮環していてもよい置換又は無置換のベンゼン環であることを特徴とする前記1から前記3のいずれかに記載の有機金属錯体。

5.前記一般式(1)におけるV1 及び前記一般式(2)におけるV2 が、1個以上4個以下の原子で構成された主鎖を有することを特徴とする前記1から前記4のいずれかに記載の有機金属錯体。

6.前記一般式(3)におけるZ2 が、下記一般式(4)で表されることを特徴とする前記1から前記5のいずれかに記載の有機金属錯体。

[式中、B3 、B4 及びB5 は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子、窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を表す。**は、A2 との結合部位を表す。B1 、B2 及び*は、前記一般式においてと同義である。]

7.前記一般式(4)で表される環が、下記一般式(5)〜(7)のうちのいずれかで表されることを特徴とする前記6に記載の有機金属錯体。

[式中、B6 、B7 、B8 及びB9 は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子又は窒素原子を表す。R3 、R4 及びR5 は、置換基を表す。*及び**は、前記一般式においてと同義である。]

8.前記1から前記7のいずれかに記載の有機金属錯体を、陽極と陰極との間に介在する有機層に含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

9.前記8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、前記有機層のうちの少なくとも一層を、前記有機金属錯体を含有する塗布液を用いてウェットプロセス方式で形成することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

10.前記8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具備することを特徴とする表示装置。

11.前記8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具備することを特徴とする照明装置。

本発明によれば、良好な安定性と発光性とを兼ね備え、素子の発光効率や発光寿命を向上させることが可能な有機金属錯体、これを含有した有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法、その素子を具備する表示装置及び照明装置を提供することができる。詳細には、熱力学的安定性が高く、有機EL素子に適用したときに発光効率や発光寿命を向上させることが可能なカゴ状の有機金属錯体が提供される。そして、この有機金属錯体により、発光効率や発光寿命が良好であり、駆動時の駆動電圧の上昇が抑制されると共に黒点(ダークスポット)の発生も低減された有機エレクトロルミネッセンス素子や、表示装置や、照明装置が実現される。

有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図。

図1における表示部Aの模式図。

画素の模式図。

パッシブマトリクス方式フルカラー表示装置の模式図。

照明装置の概略図。

照明装置の模式図。

以下、本発明の一実施形態に係る有機金属錯体、有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法、表示装置並びに照明装置のそれぞれの構成について説明する。

本発明に係る有機金属錯体は、下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される分子構造を有している。

一般式(1)中、Mは、元素周期表における8族〜11族の金属、L1 、L2 及びL3 は、下記一般式(3)で表される2座のモノアニオン性の配位子、V1 は、L1 、L2 及びL3 のそれぞれと共有結合した3価以上の架橋基をそれぞれ表す。

一般式(2)中、Mは、元素周期表における8族〜11族の金属、L1 及びL2 は、下記一般式(3)で表される2座のモノアニオン性の配位子、La は、任意の2座のモノアニオン性の配位子、V2 は、L1 及びL2 のそれぞれと共有結合した2価以上の架橋基をそれぞれ表す。

一般式(1)及び一般式(2)において、2座の配位子(L1 〜L3 )は、中心金属(M)に配位結合している。一方、2座の配位子(L1 〜L3 )同士は、架橋基(V1 ,V2 )を介した共有結合によって互いに連結しており、カゴ状の金属錯体を形成している。一般式(1)や一般式(2)で表される金属錯体は、このようなカゴ状の構造により、高い熱力学的安定性を有するものとなっている。こうした安定化の機序については、エントロピー項の寄与を考慮して熱力学的に説明することが可能である。

次の表は、金属錯体の一種であるカドミウムのアミン錯体を例にとり、その錯安定度を熱力学パラメータに分解して記載したものである。下表におけるβは生成定数、ΔG0 は標準自由エネルギーの変化量、ΔH0 は標準生成エンタルピーの変化量、Tは温度、ΔS0 は標準エントロピーの変化量である。また、次の一般式及び反応式は、その錯生成の平衡反応を成分数の変化と共に示したものである。

上記のとおり、No.2の錯体化合物は、単座配位子であるメチルアミンがカドミウムイオンに配位数2で配位した構造を有している。一方、No.3の錯体化合物は、2座配位子であるエチレンジアミンがカドミウムイオンに配位数1で配位した構造を有している。

表1に示すように、No.2の錯体化合物と、No.3の錯体化合物は、エンタルピーの変化量については略同等の値となっている。その一方で、エントロピー項については、非キレート錯体であるNo.2の錯体化合物よりも、キレート錯体であるNo.3の錯体化合物で大きな値をとっている。具体的には、No.2の錯体化合物と、No.3の錯体化合物とでは、エントロピー項の変化量について5.8kJ/mol相当の相違を生じている。

このようなエネルギー的な相違は、錯生成の平衡反応を通じた成分数の変化から説明することが可能である。ここで、系のエントロピーは、ボルツマン定数と成分数との積として表される。そのため、上記のようにエンタルピーの変化量が小さい場合には、錯生成の平衡反応に伴う成分数の変化が、ギブスの自由エネルギーを大きく支配しているものと見做せる。

具体的には、式(a)に示すように、単座配位子が配位数2で配位しているNo.2の錯体化合物では、錯生成の平衡反応において成分数は3のまま不変である。これに対して、式(b)に示すように、2座配位子が配位数1で配位しているNo.3の錯体化合物では、錯生成に伴って成分数が2から3に増加する。このように成分数が変化する場合には、エントロピー(S)が増大に向かい、自由度ないし乱雑さが高い錯生成状態が熱力学的に安定となる。

本発明についてみると、一般式(1)又は一般式(2)で表される金属錯体は、2座の配位子(L1 〜L3 )同士が架橋基(V1 ,V2 )を介した共有結合によって互いに連結した構造を有している。すなわち、配位子が配位結合していない状態では、主たる配位子(L1 〜L3 )についての成分数は1である。これに対して、錯生成状態では、配位子の配位結合に伴って中心金属(M)に結合していた水和水ないしイオンが解離するため、全体の成分数は少なくとも2以上増加する。

そのため、本発明に係る金属錯体においては、錯体の状態がエントロピー項の寄与により安定化されることになる。つまり、本発明に係る金属錯体は、配位子同士が連結されていない場合と比較して、高い熱力学的安定性を示すことができる。

加えて、本発明に係る金属錯体は、2座の配位子(L1 〜L3 )同士を連結している架橋基(V1 ,V2 )の結合部分にも特徴を有している。一般式(1)における2座の配位子(L1 〜L3 )、及び、一般式(2)における2座の配位子(L1 、L2 )は、詳細には、下記一般式(3)で表される。

一般式(3)中、Z1 及びZ2 は、それぞれ独立に、縮環していてもよい置換若しくは無置換の芳香族炭化水素環、又は、縮環していてもよい置換若しくは無置換の芳香族複素環を表す。A1 、A2 、A3 、B1 及びB2 は、5員環又は6員環を形成する環形成原子であり、それぞれ独立に、炭素原子又は窒素原子を表し、Xは、置換基を有していてもよい2価以上のヘテロ原子を表す。※は、V1 又はV2 との共有結合の結合部位を表し、*は、Mとの結合部位を表す。

本発明に係る金属錯体においては、一般式(3)で表される2座の配位子につき、環(Z1 )を構成する環形成原子(A3 )に対してヘテロ原子(X)が結合している。すなわち、導入されている原子は、ヘテロ原子(X)であり、その結合位置は、金属−配位子間の配位結合に対するオルト位(2位)である。そして、配位子同士を連結する架橋基(V1 ,V2 )は、このようなヘテロ原子(X)に共有結合している。

本発明に係る金属錯体においては、このように架橋基(V1 ,V2 )が連結する結合位置がオルト位であることにより、配位子同士の連結の結合が適切に保たれ、配位子(L1 〜L3 )に与えられる歪が少なくて済むようになっている。また、オルト位(2位)に結合している原子がヘテロ原子(X)であることにより、一般の炭化水素等とは異なり、水素原子同士の反発によって結合角の自由度が制約されることが少なくなっている。そのため、金属−配位子間の配位結合の結合距離が適切に保たれ、各配位子同士や配位子と中心金属との位置関係の揺らぎも抑えられた構造が実現されている。よって、本発明に係る金属錯体を有機EL素子の材料として用いると、発光波長の精密な制御や、内部量子効率、電力効率等の改善を図ることが可能である。

また、本発明に係る金属錯体においては、オルト位(2位)に結合している原子がヘテロ原子(X)であることにより、有機EL素子における発光寿命や発光性を大きく損なうこと無く、エネルギーギャップが調節されるようになっている。通常、一般式(3)で表されるような配位子においては、オルト位にヒドロキシ基、スルフヒドリル基等の置換基を導入することでエネルギーギャップを効果的に調整することができる。しかしながら、置換基の導入によって、局所的に反応性が増して寿命が低下したり、消光が促進されて発光性が低下したりすることがある。これに対して、オルト位(2位)に結合している原子がヘテロ原子(X)であると、エネルギーギャップを調節しつつ、金属錯体の安定性や発光性についても維持することが可能である。

Mで表される中心金属としては、具体的には、例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)、ルテニウム(Ru)、銀(Ag)、銅(Cu)等が挙げられる。Mで表される中心金属としては、これらの中でも、重原子効果等の観点から、イリジウム、オスミウム又は白金が好ましく、イリジウムが特に好ましい。中心金属(M)がイリジウムであると、有機EL素子の材料として用いた場合に、室温において高い発光効率が得られ、発光寿命も良好となる。

La で表される2座の配位子としては、適宜のモノアニオン性の配位子を用いることができる。具体的には、例えば、フェニルピリジン、フェニルピラゾール、フェニルイミダゾール、フェニルトリアゾール、フェニルテトラゾール、ピラザボール、ピコリン酸、アセチルアセトン等が挙げられる。これらの配位子は、任意の置換基を有していてもよい。La で表される配位子は、発光波長等の金属錯体の特性の制御や、金属錯体の溶解性、合成性等の観点から適宜の種類を選択してよい。

V1 又はV2 で表される2価以上の架橋基としては、各配位子(L1 〜L3 )それぞれのヘテロ原子(X)と結合可能な価数、すなわち各配位子(L1 〜L3 )を共有結合する結合手を有する基であれば適宜の基を用いることができる。架橋基(V1 ,V2 )を構成する原子は、直鎖状に結合していてもよいし、分枝状に結合していてもよいし、置換基を有していてもよい。

V1 又はV2 で表される架橋基としては、具体的には、RA C、RA C(RB )3 、RA C(ORB )3 、RA Si、RA Si(ORB )3 、(RA )2 C、(RA )2 C(RB )2 、(RA )2 C(ORB )2 、O=C、(RA )2 Si、(RA )2 Si(ORB )2 、P、O=P、O=P(ORB )3 、B、RA B、B(ORB )3 、N、RA N、O=N、RA N(RB )3 、As、Sb、Bi、シクロヘキサン−1,3,5−トリイル等が挙げられる。但し、RA は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアミノ基、ニトロ基、シアノ基等を表し、RB は、直鎖状若しくは分枝状のアルキレン基、直鎖状若しくは分枝状のアリーレン基、アルケンジイル等の2価の連結基、又は、これらの連結基と、エーテル基、スルフィド基、アミノ基、アミド基等の2価の結合とによって構成される分子鎖を表す。なお、これらの基は、さらに置換基を有していてもよい。

V1 又はV2 で表される架橋基としては、1個以上10個以下の原子で構成された主鎖を有するものが好ましく、1個以上4個以下の原子で構成された主鎖を有するものがより好ましい。特に、V2 で表される架橋基については、1個以上7個以下の原子で構成された主鎖を有するものが好ましく、1個以上3個以下の原子で構成された主鎖を有するものがより好ましい。架橋基を構成する分子鎖の原子数がこのように少数であると、中心金属と各配位子(L1 〜L3 )との位置関係に対して歪が与えられ難く、金属−配位子間の配位結合の結合距離が大きく伸長することも無い。そのため、金属錯体の特性の制御をより精密に行うことができるし、金属錯体の安定性も高く保つことができる。

V1 又はV2 で表される架橋基は、より具体的には、複数の配位子の中心に配置される中心原子と、この中心原子と各配位子との間を連結し、配位子数と同数備えられる分子鎖とによって構成されることが好ましい。そして、各配位子を連結する分子鎖の原子数は、3個以下であることが好ましく、1個であることがより好ましく、0個であることがさらに好ましい。また、中心原子としては、C、Si、P又はBが好ましい。

Z1 又はZ2 で表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、アズレン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、コロネン環、フルオレン環、フルオランテン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピラントレン環、アンスラアントレン環等が挙げられる。

Z1 又はZ2 で表される芳香族複素環としては、例えば、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トリアジン環、インドール環、インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾオキサジアゾール環、ベンゾチアジアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、カルバゾール環、カルボリン環、ジアザカルバゾール環、フラン環、ベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環等が挙げられる。

Xで表される2価以上のヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。3価以上のヘテロ原子(X)である場合は、置換基によって置換されていてもよい。つまり、ヘテロ原子(X)は、X−R(但し、Rは置換基を表す。)等のかたちで導入されていてもよい。また、置換基を有する場合は、環(Z1 )が有する置換基と結合してさらに縮合環を形成していてもよい。

Xで表されるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子が好ましく、酸素原子、硫黄原子又は水素原子を直接的に結合していない第3級の窒素原子がより好ましく、酸素原子、硫黄原子が特に好ましい。ヘテロ原子(X)がこのような原子であれば、炭化水素等とは異なり、直接的に結合している水素原子同士が反発し合うことが無いため、配位子に対して歪を与え難い点で有利である。また、ヘテロ原子(X)がこのような原子であれば、一般的な反応性基のかたちで環(Z1 )に導入し、その反応性基に対して架橋基(V1 ,V2 )を連結させることができる。つまり、このような分子構造を持つ金属錯体は比較的容易に合成することができる点で有利である。

以上の配位子の各結合可能部位に導入する置換基としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリール基等)、アルキニル基(例えば、エチニル基、プロパルギル基等)、芳香族炭化水素環基(芳香族炭素環基、アリール基等ともいい、例えば、フェニル基、p−クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等)、芳香族複素環基(例えば、ピリジル基、ピリミジニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、トリアゾリル基(例えば、1,2,4−トリアゾール−1−イル基、1,2,3−トリアゾール−1−イル基等)、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、フラザニル基、チエニル基、キノリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、ジアザカルバゾリル基(前記カルボリニル基のカルボリン環を構成する炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったもの)、キノキサリニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、キナゾリニル基、フタラジニル基等)、複素環基(例えば、ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、アシル基(例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基等)、アミド基(例えば、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基、ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2−エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2−ピリジルスルフィニル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基等)、アリールスルホニル基又はヘテロアリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、シリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジエチルシリル基等)等が挙げられる。これらの置換基は、これらの置換基によってさらに置換されていてもよい。また、置換基同士が互いに結合して縮環していてもよい。また、個々の配位子の置換基同士が互いに結合して配位子同士をさらに連結していてもよい。

前記の一般式で表される金属錯体において、ヘテロ原子(X)が結合する環(Z1 )は、芳香族炭化水素環であることが好ましく、2環以上に縮環していてもよい置換又は無置換のベンゼン環であることがより好ましい。すなわち、環(Z1 )としては、単環のベンゼン環や、ベンゼン環の部分において中心金属(M)との配位結合を形成する縮合多環芳香族化合物が好適である。環(Z1 )がこのような構造であると、発光波長等の金属錯体の特性の制御をヘテロ原子(X)の導入によって効果的に行うことができる。

前記の一般式で表される金属錯体において、ヘテロ原子(X)が結合しない環(Z2 )は、芳香族複素環であることが好ましく、5員又は6員の芳香族複素環であることがより好ましく、5員の含窒素芳香族複素環であることがさらに好ましい。環(Z2 )がこのような構造であると、金属錯体のエネルギーギャップを大きくとり易い。

前記の一般式(3)で表される配位子において、ヘテロ原子(X)が結合しない環(Z2 )は、下記一般式(4)で表される構造であることが好ましい。このような構造であると、安定性がより高くなる傾向がある。但し、前記の一般式(3)で表される配位子の構造は、金属錯体中において、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。また、配位子の立体配座は、いずれかの異性体に制限されるものではない。

一般式(4)中、B3 、B4 及びB5 は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子、置換基を有していてもよい窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を表す。**は、A2 との結合部位を表す。B1 、B2 及び*は、前記一般式においてと同義である。

前記の一般式(4)で表される環(Z2 )は、下記一般式(5)〜(7)のうちのいずれかで表される構造であることがより好ましい。このような構造であると、比較的容易に合成することができるし、金属錯体のエネルギーギャップの制御も行い易い。

一般式(5)〜(7)中、B6 、B7 、B8 及びB9 は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子又は窒素原子を表す。R3 、R4 及びR5 は、それぞれ独立の種から選択される任意の置換基を表す。*及び**は、前記一般式においてと同義である。

一般式においてR3 、R4 及びR5 で表される置換基としては、具体的には、前記の配位子における置換基と同様のものが挙げられる。R3 、R4 及びR5 で表される置換基としては、置換する環に対して電子供与性を示し、また、所要の構造の金属錯体の収率が良好なものが好ましい。置換若しくは無置換のアルキル基又は置換若しくは無置換のアリール基、好ましくは置換のアルキル基又は無置換のアリール基等である。置換基がこのような基であると、発光性の低下が少なく金属錯体の特性を制御することができる。

前記の一般式(5)で表される環(Z2 )において、環形成原子(B6 )及び環形成原子(B7 )のうち少なくとも一方は、置換基を有していてもよい炭素原子であることが好ましい。また、前記の一般式(7)で表される環(Z2 )において、環形成原子(B8 )及び環形成原子(B9 )のうち少なくとも一方は、置換基を有していてもよい炭素原子であることが好ましい。このような構造であると、配位子が安定であり、また、比較的容易に合成することができる。

本発明に係る金属錯体としては、一般式(1)で表され、共有結合によって互いに連結された3個の2座の配位子が配位した6配位金属錯体が特に好ましい。一般式(1)で表される金属錯体は、一般式(2)で表される金属錯体と比較して成分数が少ないため、より高い熱力学的安定性が得られるという利点がある。また、異種の配位子が含まれる場合と比較して、溶媒に対する溶解性も良好となるため、塗布性等の点においても有利である。このような一般式(1)で表される6配位金属錯体における中心金属(M)としては、イリジウムが特に好ましく用いられる。

以下、本発明に係る金属錯体の具体例を示す。但し、本発明は、これらの化合物に限定されるものではない。なお、以下の構造式中においては、架橋基を構成する原子の結合手の一部を省略している。架橋基を構成する原子は、この省略されている結合手を介して、括弧で括られた複数の配位子に対して共有結合している。

以下、本発明に係る金属錯体の合成方法について、前記の具体例の中のD−102の合成方法を例にとって説明する。但し、本発明に係る金属錯体の合成方法は、これに限定されるものではない。D−102以外の金属錯体についても類似の方法で合成することが可能である。

(化合物D−102の合成)

200mLナスフラスコに、D−102配位子(3.90g)と、酢酸イリジウム(0.90g)及びエチレングリコール(100mL)を入れ、窒素気流下、160℃で10時間加熱撹拌を続けた。反応終了後、室温まで冷却し、析出物を濾別した。濾取した固体をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、黄色のD−102中間体(1.40g)を得た。

次に、100mLナスフラスコに、D−102中間体(1.0g)と、トリエチルアミン(0.30g)、5塩化リン(0.2g)及びジクロロメタン(50mL)を入れ、室温で10時間撹拌を続けた。反応終了後、反応液に水を加え、ジクロロメタンで抽出した。さらに、有機層に硫酸マグネシウムを加え、1時間撹拌した後、硫酸マグネシウムを濾過により取り除き、母液を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、黄色のD−102(0.7g)を得た。得られた化合物の構造は、核磁気共鳴スペクトル及びマススペクトルで確認した。

測定条件及び得られたスペクトルの各ピークのケミカルシフト、プロトン数等を以下に示す。 1H−NMR(磁場強度:400MHz,溶媒:CD2Cl2,測定温度:25℃) 測定装置:FT−NMR装置 Lambda 400:日本電子社株式会社製 スペクトルの帰属(ケミカルシフトδ、ピーク形状、プロトン数) 0.92〜1.23(d,36H),2.26(sep,3H),2.76(sep,3H),6.14(d,3H),6.40(s,3H),6.51(t,3H),6.65(d,3H),6.94(s,3H),7.38(d,6H),7.54(t,3H)

以上の本発明に係る金属錯体は、有機EL素子の他、有機薄膜太陽電池、有機トランジスタ等の他の有機エレクトロニクス素子の材料としても好適に用いることができる。また、本発明に係る金属錯体は、画像安定化剤として用いることもできる。例えば、インク、トナー、カラーフィルタ等において使用される色素は、光照射等によって生じる一重項酸素によって退色が大きく進行することが知られている。これに対して、本発明に係る金属錯体は、抗酸化作用を有しており、一重項酸素に対するクエンチャーとして働くことができる。そのため、本発明に係る金属錯体を色素分子の近傍に含有させておくことによって、色素の分解を抑制することが可能である。

<有機エレクトロルミネッセンス素子> 次に、本発明に係る有機EL素子について説明する。本発明に係る有機EL素子は、前記の一般式(1)又は一般式(2)で表される金属錯体を、陽極と陰極との間に介在する有機層に含有するものである。

有機EL素子の層構成は、具体的には、次のような積層構造とすることができる。 (i)陽極/発光層/電子輸送層/陰極 (ii)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極 (iii)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極 (iv)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極 (v)陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極

なお、有機EL素子の層構成は、前記の(i)〜(v)に限定されるものではなく、従来知られている適宜の構成をとることができる。例えば、発光層は、単一の層で構成してもよいし、複数の発光層を積層した構成としてもよい。発光層が複数の層で構成される場合、発光層同士の間に非発光性の中間層が設けられていてもよい。

前記の一般式(1)又は一般式(2)で表される金属錯体は、これらの層構成における、発光層、電子輸送層、正孔輸送層、電子輸送層、陰極バッファー層、陽極バッファー層、正孔阻止層等の有機層のうちいずれか単層のみに含まれていてもよいし、複数層に含まれていてもよい。但し、好ましい形態では、前記の一般式(1)又は一般式(2)で表される金属錯体を発光層に含有させるものとする。

《発光層》 発光層は、電極又は隣接層から電子と正孔とが注入され、これらの再結合によって生じる励起子の失活により、発光を生じさせる層である。但し、発光を生じる位置は、発光層の層内であっても、発光層と隣接層との界面であってもよい。発光層においては、発光ドーパントと、ホスト化合物とが併用されていることが好ましい。

(発光ドーパント) 発光ドーパントとしては、蛍光発光性を有する蛍光ドーパント及びリン光発光性を有するリン光ドーパントのいずれを用いることも可能である。但し、リン光ドーパントを用いることが好ましく、前記の本発明に係る金属錯体をリン光ドーパントとして用いることがより好ましい。

発光層中の発光ドーパントの濃度については、発光ドーパントの種類や、有機EL素子が適用されるデバイスの仕様等に基いて、適宜の値に設定することができる。例えば、発光ドーパントが、発光層の層厚方向に対して均一な濃度で含有されていてもよいし、任意の濃度分布を有して含有されていてもよい。

発光ドーパントとしては、単一の発光層中において複数種を併用してもよい。また、有機EL素子中において、異なる発光層に複数種を併用してもよい。また、分子構造の異なる発光ドーパント同士を組み合わせて用いてもよいし、蛍光ドーパントとリン光ドーパントとを組み合わせて用いてもよい。このとき、前記の本発明に係る金属錯体をリン光ドーパントとして用いると共に、他の発光ドーパントを併用してよい。

(リン光ドーパント) リン光ドーパントは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には、室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が、25℃において0.01以上の化合物であると定義される。リン光ドーパントのリン光量子収率は、好ましくは0.1以上である。

リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法によって測定することができる。このとき、溶液中でのリン光量子収率は、種々の溶媒を用いて測定することができる。つまり、リン光ドーパントにおけるリン光量子収率は、任意の溶媒のいずれかにおいて0.01以上が達成されればよい。

リン光ドーパントの発光の原理は、エネルギー移動型とキャリアトラップ型とに大別される。エネルギー移動型は、ホスト化合物上においてキャリアの再結合が起こり、励起状態となったホスト化合物のエネルギーがリン光ドーパントに移動して発光を生じるものである。一方、キャリアトラップ型は、リン光ドーパントがキャリアトラップとなり、リン光ドーパント上においてキャリアの再結合が起こり、リン光ドーパントが発光を生じるものである。いずれの場合においても、リン光ドーパントの励起状態のエネルギーは、ホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。本発明に係る金属錯体の発光の原理としては、これらのいずれであってもよい。

本発明に係る有機EL素子において用いることができる他のリン光ドーパントの具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が挙げられる。但し、これらの化合物に制限されるものではない。Nature,395,151(1998)、Appl.Phys.Lett.,78,1622(2001)、Adv.Mater.,19,739(2007)、Chem.Mater.,17,3532(2005)、Adv.Mater.,17,1059(2005)、国際公開第2009/100991号、国際公開第2008/101842号、国際公開第2003/040257号、米国特許公開第2006/835469号、米国特許公開第2006/0202194号明細書、米国特許公開第2007/0087321号明細書、米国特許公開第2005/0244673号明細書、Inorg.Chem.,40,1704(2001)、Chem.Mater.,16,2480(2004)、Adv.Mater.,16,2003(2004)、Angew.Chem.lnt.Ed.,2006,45,7800、Appl.Phys.Lett.,86,153505(2005)、Chem.Lett.,34,592(2005)、Chem.Commun.,2906(2005)、Inorg.Chem.,42,1248(2003)、国際公開第2009/050290号、国際公開第2002/015645号、国際公開第2009/000673号、米国特許公開第2002/0034656号明細書、米国特許第7332232号明細書、米国特許公開第2009/0108737号明細書、米国特許公開第2009/0039776号明細書、米国特許第6921915号明細書、米国特許第6687266号明細書、米国特許公開第2007/0190359号明細書、米国特許公開第2006/0008670号明細書、米国特許公開第2009/0165846号明細書、米国特許公開第2008/0015355号明細書、米国特許第7250226号明細書、米国特許第7396598号明細書、米国特許公開第2006/0263635号明細書、米国特許公開第2003/0138657号明細書、米国特許公開第2003/0152802号明細書、米国特許第7090928号明細書、Angew.Chem.lnt.Ed.,47,1(2008)、Chem.Mater.,18,5119(2006)、Inorg.Chem.,46,4308(2007)、Organometallics,23,3745(2004)、Appl.Phys.Lett.,74,1361(1999)、国際公開第2002/002714号、国際公開第2006/009024号、国際公開第2006/056418号、国際公開第2005/019373号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2007/004380号、国際公開第2006/082742号、米国特許公開第2006/0251923号明細書、米国特許公開第2005/0260441号明細書、米国特許第7393599号明細書、米国特許第7534505号明細書、米国特許第7445855号明細書、米国特許公開第2007/0190359号明細書、米国特許公開第2008/0297033号明細書、米国特許第7338722号明細書、米国特許公開第2002/0134984号明細書、米国特許第7279704号明細書、米国特許公開第2006/098120号明細書、米国特許公開第2006/103874号明細書、国際公開第2005/076380号、国際公開第2010/032663号、国際公開第2008/140115号、国際公開第2007/052431号、国際公開第2011/134013号、国際公開第2011/157339号、国際公開第2010/086089号、国際公開第2009/113646号、国際公開第2012/020327号、国際公開第2011/051404号、国際公開第2011/004639号、国際公開第2011/073149号、米国特許公開第2012/228583号明細書、米国特許公開第2012/212126号明細書、特開2012−069737号公報、特開2012−195554号公報、特開2009−114086号公報、特開2003−81988号公報、特開2002−302671号公報、特開2002−363552号公報等である。

また、本発明に係る有機EL素子において用いることができる他のリン光ドーパントの具体例としては、さらに、以下の化合物が挙げられる。

(蛍光ドーパント) 蛍光ドーパントは、励起一重項からの発光が主として観測される化合物である。蛍光ドーパントとしては、例えば、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、希土類錯体系蛍光体等が挙げられる。また、レーザー色素に代表される蛍光量子収率が高い化合物が挙げられる。

蛍光ドーパントとしては、遅延蛍光を利用したものを用いてもよい。遅延蛍光を利用した発光ドーパントの具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が挙げられる。但し、これらの化合物に制限されるものではない。国際公開第2011/156793号、特開2011−213643号公報、特開2010−93181号公報等である。

(ホスト化合物) ホスト化合物は、発光層において主に電荷の注入及び輸送を担い、観測可能な程度の発光を実質的には生じない化合物である。具体的には、リン光量子収率が、25℃において0.1未満の化合物であると定義される。ホスト化合物のリン光量子収率は、好ましくは0.01未満である。

ホスト化合物は、発光層に含有される化合物の内で、その層中での質量比が20%以上であることが好ましい。また、ホスト化合物の励起状態エネルギーは、同一層内に含有される発光ドーパントの励起状態エネルギーよりも高いことが好ましい。

ホスト化合物としては、公知の有機EL素子において一般的に用いられている化合物を用いることができる。例えば、カルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体、芳香族誘導体、含窒素複素環化合物、チオフェン誘導体、フラン誘導体、オリゴアリーレン化合物等の基本骨格を有するもの、カルボリン誘導体、ジアザカルバゾール誘導体(カルボリン環を構成する炭化水素環の炭素原子が窒素原子で置換されているもの)等が挙げられる。ホスト化合物としては、単一種を用いてもよいし、複数種を併用してもよい。

ホスト化合物は、また、低分子化合物であってもよいし、繰り返し単位を有する高分子化合物であってもよいし、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物であってもよい。ホスト化合物としては、具体的には、正孔輸送能又は電子輸送能を有しつつ、かつ、発光の長波長化が生じない化合物が好ましい。また、高いガラス転移温度(Tg)を有する化合物が好ましい。

本発明に係る有機EL素子において用いることができるホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が挙げられる。但し、これらの化合物に制限されるものではない。特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報及び同2002−308837号公報等である。

また、本発明に係る有機EL素子において用いることができるホスト化合物の具体例としては、さらに、以下の化合物が挙げられる。

発光層の層厚の総和は、特に制限されるものではない。但し、形成する層の均質性を確保し、発光時に不必要な高電圧を印加するのを防止し、駆動電流に対する発光色の安定性を向上させるといった観点からは、好ましくは2nm〜5μmの範囲、より好ましくは2〜500nmの範囲、さらに好ましくは5〜200nmの範囲に調整する。

《電子輸送層》 電子輸送層は、電子を輸送する機能を有し、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。電子輸送層は、単層で構成してもよいし、複数層で構成してもよい。

電子輸送層の材料としては、電子の注入性若しくは輸送性、又は、正孔の障壁性のいずれかを有しており、公知の有機EL素子において一般的に用いられている化合物を用いることができる。例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレン等の多環芳香族炭化水素、複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、カルボリン誘導体、ジアザカルバゾール誘導体(カルボリン環を構成する炭化水素環の炭素原子が窒素原子で置換されているもの)、ヘキサアザトリフェニレン誘導体等が挙げられる。また、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引性基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体等が挙げられる。これらの誘導体等は、高分子鎖の主鎖に対して導入されていてもよいし、高分子の主鎖自体を構成していてもよい。

また、電子輸送層の材料としては、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等の金属錯体や、これらの金属錯体の中心金属が、インジウム、マグネシウム、銅、カルシウム、スズ、ガリウム、鉛等に置き換えられた金属錯体も用いることができる。

また、電子輸送層の材料としては、例えば、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又は、これらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されている化合物も用いることができる。

また、電子輸送層の材料としては、例えば、n型−Si、n型−SiC等の無機半導体も用いることができる。

本発明に係る有機EL素子において用いることができる電子輸送層の材料の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が挙げられる。但し、これらの化合物に制限されるものではない。特開2012−169325号公報に記載のET−1〜ET−39、特開2012−104536号公報に記載のE1−1〜E5−6等である。

電子輸送層の層厚の総和は、特に制限されるものではない。通常は2nm〜5μm、好ましくは5〜200nmである。電子輸送層の層厚を厚くすると電圧が上昇しやすくなるため、特に層厚が厚い場合においては、電子輸送層の電子移動度は10−5cm2/Vs以上であることが好ましい。

《正孔輸送層》 正孔輸送層は、正孔を輸送する機能を有し、陽極より注入された正孔を発光層に伝達する機能を有していればよい。正孔輸送層は、単層で構成してもよいし、複数層で構成してもよい。

正孔輸送層の材料としては、正孔の注入性若しくは輸送性、又は、電子の障壁性のいずれかを有しており、公知の有機EL素子において一般的に用いられている化合物を用いることができる。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、PEDOT/PSSをはじめとする導電性高分子オリゴマー等が挙げられる。また、特表2003−519432号公報や特開2006−135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体等も用いることができる。これらの誘導体等は、高分子鎖の主鎖に対して導入されていてもよいし、高分子の主鎖自体を構成していてもよい。

また、正孔輸送層の材料としては、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物、スチリルアミン化合物等も用いることができる。具体的には、例えば、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル、N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1′−ビフェニル]−4,4′−ジアミン(TPD)、2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン、N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル、N,N,N−トリ(p−トリル)アミン、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−[4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]スチルベン、4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン、3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベン、N−フェニルカルバゾール等が挙げられる。また、米国特許第5061569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが三つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。

また、正孔輸送層の材料としては、例えば、p型−Si、p型−SiC等の無機半導体も用いることができる。

また、正孔輸送層の材料としては、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Appl.Phys.Lett.,80(2002),p.139)に記載されているようなp型正孔輸送材料を用いることもできる。

正孔輸送層は、不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層としてもよい。具体的には、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。

正孔輸送層の層厚の総和は、特に制限されるものではない。通常は5nm〜5μm、好ましくは5〜200nmである。

《注入層:電子注入層(陰極バッファー層)、正孔注入層(陽極バッファー層)》 注入層は、駆動電圧低下や発光輝度向上等のために電極と有機層との間に設けられる層である。注入層としては、電子注入層(陰極バッファー層)と、正孔注入層(陽極バッファー層)とが知られており、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123頁〜166頁)に詳細に記載されている。電子注入層は、陰極と発光層との間、正孔注入層は、陽極と発光層との間にそれぞれ設けることができる。

電子注入層は、陰極と発光層との間に設けることができる。電子注入層については、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されている。電子注入層はごく薄い膜であることが好ましい。電子注入層の層厚は、好ましくは0.1nm〜5μmである。

電子注入層の材料としては、例えば、ストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等に代表されるアルカリ金属化合物、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム等に代表されるアルカリ土類金属化合物、酸化アルミニウムに代表される金属酸化物、リチウム8−ヒドロキシキノレート(Liq)等に代表される金属錯体等が挙げられる。

正孔注入層は、陽極と発光層との間に設けることができる。正孔注入層については、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されている。

正孔注入層の材料としては、例えば、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニン誘導体、特表2003−519432号公報や特開2006−135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体、酸化バナジウムに代表される金属酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体等に代表されるオルトメタル化錯体等が挙げられる。

《阻止層:正孔阻止層、電子阻止層》 阻止層は、必要に応じて設けることができる。阻止層については、例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている。

正孔阻止層は、広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が小さい材料からなる。電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。正孔阻止層は、発光層の陰極側に隣接して設けることが好ましい。

正孔阻止層の材料としては、電子輸送層に用いられる材料や、ホスト化合物として用いられる材料を利用することができる。これらの中でも、カルバゾール誘導体、カルボリン誘導体、ジアザカルバゾール誘導体が特に好適である。正孔阻止層の層厚は、好ましくは3〜100nm、より好ましくは5〜30nmである。

電子阻止層は、広い意味では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が小さい材料からなる。正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。電子阻止層は、発光層の陽極側に隣接して設けることが好ましい。

電子阻止層の材料としては、正孔輸送層に用いられる材料を利用することができる。電子阻止層の層厚は、好ましくは3〜100nm、より好ましくは5〜30nmである。

《陽極》 陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウム・スズ酸化物(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In2O3−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。

陽極は、蒸着やスパッタリング等の方法によって、これらの電極物質の薄膜を成膜することにより作製することができる。陽極は、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよいし、パターン精度を余り必要としない場合は(100μm以上程度)電極物質の成膜時に所望の形状のマスクを使用してパターンを形成してもよい。また、有機導電性化合物のように塗布可能な電極物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等の湿式成膜法を用いることもできる。陽極の厚さは、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmである。また、陽極のシート抵抗は、好ましくは数百Ω/□以下の範囲である。陽極から発光光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが好ましい。

《陰極》 陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する。)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属と、これより仕事関数の値が大きく安定な金属である第2金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。

陰極は、蒸着やスパッタリング等の方法によって、これらの電極物質の薄膜を成膜することにより作製することができる。陰極の厚さは、通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmである。また、陰極のシート抵抗は、好ましくは数百Ω/□以下の範囲である。

陰極は、光透過性が高い透明又は半透明の電極となるように設けてもよい。例えば、電極物質を1〜20nmの厚さに成膜し、その膜上に、陽極の材料として用いられる導電性透明材料を成膜することによって、透明又は半透明の陰極を形成することができる。

《支持基板》 支持基板としては、ガラス、プラスチック等の適宜の材料を用いることができる。支持基板は、透明であってもよいし、不透明であってもよいが、支持基板側から発光光を取り出す場合には、支持基板は透明であることが好ましい。不透明な支持基板としては、例えば、アルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。一方、透明な支持基板としては、ガラス、石英、樹脂フィルム等を材質とするものが挙げられる。これらの中でも、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能である点で樹脂フィルムが特に好ましい。

樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル又はポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)又はアペル(商品名三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等が挙げられる。

樹脂フィルムの表面には、無機物の被膜、有機物の被膜又はこれらの両方によるハイブリッド被膜がバリアー膜として形成されていてもよい。JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%)が0.01g/(m2・24h)以下のガスバリアー性フィルムであることが好ましく、さらには、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、10−3ml/(m2・24h・atm)以下、水蒸気透過度が、10−5g/(m2・24h)以下の高ガスバリアー性フィルムであることが好ましい。

バリアー膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよい。このような材料としては、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等が挙げられる。これらの無機材料によって形成される膜は、膜の脆弱性を改良する観点から、有機材料によって形成される膜との積層構造を構成するように設けてもよい。具体的には、無機材料によって形成される無機層と有機材料によって形成される有機層とを交互に複数積層させることが好ましい。但し、無機層と有機層との積層順については、特に制限されるものではない。

ガスバリアー膜の形成方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等が挙げられる。これらの中でも特に、特開2004−68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によることが好ましい。

本発明に係る有機EL素子は、室温(25℃)における外部取り出し量子効率が、1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。ここで、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。

本発明に係る有機EL素子は、カラーフィルター等の色相改良フィルター等と併用されてもよい。また、有機EL素子からの発光色を蛍光体として用いて多色へ変換する色変換フィルターと併用されてもよい。色変換フィルターを用いる場合においては、有機EL素子の発光のλmaxは480nm以下であることが好ましい。

<有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法> 本発明に係る有機EL素子は、例えば、以下の手順に従って製造することができる。はじめに、陽極を形成するための電極物質を真空蒸着法等により支持基板上に成膜して陽極を形成する。

続いて、形成した陽極上に発光層等の各有機層を成膜する。有機層を成膜する方法としては、ドライプロセス方式を用いてもよいし、塗布液を用いるウェットプロセス方式を用いてもよい。ドライプロセス方式の成膜方法としては、具体的には、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法等が挙げられる。ウェットプロセス方式の成膜方法としては、具体的には、スピンコート法、キャスト法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、インクジェット法、印刷法、スプレーコート法、カーテンコート法、ラングミュア・ブロジェット(Langmuir Blodgett;LB)法等の成膜方法が挙げられる。

なお、各有機層毎の成膜方法は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。但し、精密な薄膜を形成することが可能であり、また、高生産性を有している点で、ダイコート法、ロールコート法、インクジェット法、スプレーコート法等のロール・to・ロール方式の製造の適性が高い方法を用いることが好ましい。

有機層の成膜に用いる塗布液において、材料を溶解又は分散する液媒体としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、DMF、DMSO等が挙げられる。また、分散方法としては、超音波による分散や、高剪断力分散、メディア分散等の分散方法を用いることができる。

続いて、形成した有機層上に、陰極を形成するための電極物質を真空蒸着法等により成膜して陰極を形成する。その後、必要に応じて、後記するように封止を行ったり、保護用の部材、光学的機能部材、電装部材等を装着して有機EL素子とする。

なお、有機EL素子の製造における成膜の順序は、前記の方法とは逆にして、はじめに、支持基板上に陰極を成膜し、陰極上に各有機層を積層した後、有機層上に陽極を成膜してもよい。また、各層の成膜時には、パターニングを行ってもよい。パターニングは、電極のみについて行ってもよいし、電極と共に発光層についても行ってよいし、各層の全てについて行ってもよい。パターニングには、シャドーマスクを使用してもよいし、有機層等についてはインクジェット法等を利用してもよい。

本発明に係る有機EL素子は、有機層のうちの少なくとも一層を、前記の一般式(1)又は一般式(2)で表される金属錯体を含有する塗布液を用いてウェットプロセス方式で形成することが好ましい。また、特に、発光層について、このような方法を用いることが好ましい。本発明に係る金属錯体は、溶媒に対する溶解性がよいため、ウェットプロセス方式における成膜性が良好となる。そのため、ウェットプロセス方式によって有機層を形成することで、生産性良く有機EL素子を製造することができる。また、塗布後に乾燥させた状態において、均質な膜が得られ易く、ピンホールは形成され難くなる。そのため、ピンホールに起因するダークスポットの生成が低減される点でも有利である。

《封止》 有機EL素子は、陽極、陰極及び有機層が封止されていてもよい。封止方法としては、例えば、封止部材と電極及び支持基板とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。封止部材は、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されていればよく、凹板状であってもよいし、平板状であってもよい。封止部材を凹状に加工する方法としては、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等を用いることができる。また、封止部材の透明性、電気絶縁性等については、特に制限されるものではなく、有機EL素子の仕様に応じて適宜のものとすることができる。

封止部材の材料としては、例えば、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特に、ソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる1種以上の金属又は合金からなるものが挙げられる。

封止部材の材料としては、有機EL素子を薄膜化できるという点で、ポリマーフィルム又は金属フィルムが特に好ましい。ポリマーフィルムとしては、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10−3ml/(m2・24h・atm)以下、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%)が、1×10−3g/(m2/24h)以下のものが特に好ましい。

封止部材を接着する接着剤としては、例えば、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマー等の反応性ビニル基を有する光硬化型接着剤や熱硬化型接着剤、2−シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型接着剤等が挙げられる。また、エポキシ系等の熱硬化型接着剤や化学硬化型(二液混合)接着剤、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等のホットメルト型の接着剤、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤等を用いることもできる。

封止部材を接着する接着剤としては、有機EL素子の熱処理による劣化を避ける観点から、室温(25℃)から80℃までの範囲で接着硬化できるものが好ましい。接着剤中には、乾燥剤を分散させておいてもよい。

接着剤を塗布する方法としては、例えば、市販のディスペンサーを使用することによる方法や、スクリーン印刷のように印刷する方法等を用いることができる。

封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を封入することが好ましい。また、この間隙を真空とすることも可能である。また、この間隙の内部に吸湿性化合物を封入することもできる。

吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられる。硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類としては、これらの無水塩が特に好適である。

有機EL素子に備えられる、陽極、陰極及び有機層を封止する封止方法としては、封止膜を用いてもよい。有機層を挟んで支持基板とは反対側に配置される電極の外側に、無機物の被膜、有機物の被膜又はこれらの両方によるハイブリッド被膜を封止膜として成膜し、電極や有機層を被覆することによって封止することができる。封止膜を形成する材料や方法としては、前記の支持基板の表面に設けられるバリアー膜においてと同様のものが挙げられる。

《保護膜、保護板》 有機EL素子は、封止膜や封止部材の外側に、機械的強度を確保するための保護膜又は保護板が設けられていてもよい。特に、封止手段として封止膜が用いられている場合には、封止膜の機械的強度が必ずしも高くないため、保護膜又は保護板が設けられていることが好ましい。

保護膜の材料としては、例えば、ポリマーフィルム、金属フィルム等が挙げられる。また、保護板の材料としては、例えば、ガラス板、ポリマー板、金属板等が挙げられる。これらの中でも、軽量であり、また、薄膜化に適している点で、ポリマーフィルムが特に好ましい。

《光取り出し》 有機EL素子は、光取り出し効率を向上させる手法が、適用されているものであってもよい。有機EL素子は、空気よりも屈折率の高い(屈折率1.7〜2.1程度)層の内部で発光を生じ、発生した発光光のうち15%から20%程度しか素子の外部に取り出すことができないと一般的にいわれている。臨界角以上の角度θで透明支持基板と空気との界面に入射する光は、全反射を起こして素子外部に取り出されないし、臨界角以上の角度で透明電極と透明支持基板との界面や、発光層と透明電極との界面に入射する光は、全反射を起こして透明電極や発光層の層内を導波し、素子の側面方向に逃げるためである。

光の取り出し効率を向上させる手法としては、例えば、透明支持基板の表面に凹凸を形成し、透明支持基板と空気界面での全反射を防ぐ方法(米国特許第4774435号明細書)、透明支持基板に集光性を持たせることにより効率を向上させる方法(特開昭63−314795号公報)、素子の側面等に反射面を形成する方法(特開平1−220394号公報)、透明支持基板と発光体との間に中間の屈折率を持つ平坦層を導入し、反射防止膜を形成する方法(特開昭62−172691号公報)、透明支持基板と発光体との間に透明支持基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法(特開2001−202827号公報)、透明支持基板、透明電極、発光層等の界面に回折格子を形成する方法(特開平11−283751号公報)等を用いることができる。これらの中でも、平坦層を導入する方法や、回折格子を形成する方法が特に好適である。

低屈折率層を設ける場合、発光光の波長よりも長い厚さで設けることが好ましい。透明電極を通過して外部に取り出される発光光の光取り出し効率は、媒質の屈折率が低いほど高くなるためである。低屈折率層の材料としては、例えば、エアロゲル、多孔質シリカ、フッ化マグネシウム、フッ素系ポリマー等が挙げられる。透明支持基板の屈折率は、一般に、1.5〜1.7程度の範囲内である。よって、低屈折率層の屈折率は、1.5以下とすることが好ましく、1.35以下とすることがより好ましい。

低屈折率層の厚さは、具体的には、低屈折率層中を進む発光光の波長の2倍以上としておくことが好ましい。低屈折率層の厚さが、この程度確保されていると、エバネッセント光が発光光の波長程度で支持基板に浸透することが避けられるため、低屈折率層を設けることによる効果をより確実に得ることができる。

回折格子を導入する場合、周期的な屈折率分布を二次元的に持たせて設けることが好ましい。発光光は、発光層において任意の方向に向けて発生し得るため、或る一方向についてのみ周期性を有している一次元的な回折格子では、光取り出し効率を十分に向上させることができない。これに対して、二次元的な回折格子であると、より多方向の発光光が回折されるため、光取り出し効率を効果的に向上させることができる。

回折格子は、具体的には、発光光が発生する発光層の近傍、例えば、発光層の界面に設けることが好ましい。また、回折格子の周期は、その媒質中における発光光の波長の1/2〜3倍程度とすることが好ましい。回折格子の配列としては、正方形のラチス状、三角形のラチス状、ハニカムラチス状等の二次元的な配列が繰り返されるものが好ましい。

《集光》 有機EL素子は、集光性を向上させる手段が、適用されているものであってもよい。例えば、透明支持基板の光取り出し側に、マイクロレンズアレイ状の構造を設けたり、集光シートを貼付したりすることができる。このような集光手段によって素子の発光面に対する正面方向等に発光光を集光することで、特定方向上の輝度を高めることができる。

マイクロレンズアレイ状の構造としては、例えば、その頂角が90度となるような四角錐を二次元に配列する構造が挙げられる。四角錐の一辺は、10〜100μmとすることが好ましく、例えば、30μm等にすることができる。この程度の長さであれば、回折の効果によって色付いたり、厚さが不必要に厚くなるのを避けることができる。

集光シートとしては、例えば、液晶表示装置のLEDバックライトで実用化されているものを用いることが可能である。このようなシートとしては、例えば、住友スリーエム社製輝度上昇フィルム(BEF)等を用いることができる。プリズムシートの形状としては、例えば、基材に頂角90度、ピッチ50μm程度の△状のストライプが形成されたものであってもよいし、頂角が丸みを帯びた形状であってもよいし、ピッチをランダムに変化させた形状等であってもよい。また、集光シートと共に、発光光の光放射角を制御するための光拡散板・フィルムを併用してもよい。例えば、(株)きもと製拡散フィルム(ライトアップ)等を用いることができる。

<タンデム型有機EL素子> 本発明に係る有機EL素子は、前記の各種の層構成を有する発光ユニットが複数積層されたタンデム型の有機EL素子としてもよい。タンデム型の有機EL素子の層構成は、例えば、次のような積層構造とすることができる。 (I)陽極/第1発光ユニット/第2発光ユニット/第3発光ユニット/陰極 (II)陽極/第1発光ユニット/中間層/第2発光ユニット/中間層/第3発光ユニット/陰極

但し、タンデム型の有機EL素子の素子構成は、(I)〜(II)に限定されるものではなく、発光ユニットを2個以上の任意の個数とすることができる。複数の発光ユニットの個々の構成については、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。

[中間層] 中間層は、陽極側の隣接層に電子を、陰極側の隣接層に正孔を供給する機能を持った層である。中間層は、一般に、中間電極、中間導電層、電荷発生層、電子引抜層、接続層、中間絶縁層とも呼ばれている。

中間層は、例えば、ITO(インジウム・スズ酸化物)、IZO(インジウム・亜鉛酸化物)、ZnO2、TiN、ZrN、HfN、TiOx、VOx、CuI、InN、GaN、CuAlO2、CuGaO2、SrCu2O2、LaB6、RuO2、Al等による導電性無機化合物層や、Au/Bi2O3等の2層膜や、SnO2/Ag/SnO2、ZnO/Ag/ZnO、Bi2O3/Au/Bi2O3、TiO2/TiN/TiO2、TiO2/ZrN/TiO2等の多層膜や、C60等のフラーレン類、オリゴチオフェン等による導電性有機物層や、金属フタロシアニン類、無金属フタロシアニン類、金属ポルフィリン類、無金属ポルフィリン類等による導電性有機化合物層等として形成することができる。

本発明に係る有機EL素子に適用することができるタンデム型の素子の具体例としては、以下の文献に記載されている形態が挙げられる。但し、これらの形態に制限されるものではない。米国特許第6337492号明細書、米国特許第7420203号明細書、米国特許第7473923号明細書、米国特許第6872472号明細書、米国特許第6107734号明細書、米国特許第6337492号明細書、国際公開第2005/009087号、特開2006−228712号公報、特開2006−24791号公報、特開2006−49393号公報、特開2006−49394号公報、特開2006−49396号公報、特開2011−96679号公報、特開2005−340187号公報、特許第4711424号公報、特許第3496681号公報、特許第3884564号公報、特許第4213169号公報、特開2010−192719号公報、特開2009−076929号公報、特開2008−078414号公報、特開2007−059848号公報、特開2003−272860号公報、特開2003−045676号公報、国際公開第2005/094130号等である。

<用途> 本発明の有機EL素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。発光光源としては、例えば、照明装置(家庭用照明、車内照明)、時計用バックライト、液晶用バックライト、看板広告の光源、信号機の光源、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられる。本発明の有機EL素子を光源等として用いる場合、有機EL素子に共振器構造を持たせてもよく、レーザー発振させて発光を利用してもよい。

<表示装置> 本発明の有機EL素子は、表示装置に用いることができる。表示装置は、単色表示装置であってもよいし、多色表示装置であってもよい。以下では、本発明の有機EL素子を具備する表示装置の一例として、多色表示装置について説明する。

多色表示装置は、例えば、組成が互いに異なる複数の発光層をパターニングを行って成膜することによって形成することができる。発光層を除く他の有機層や電極については、支持基板上に一面に成膜し、発光層についてのみ、マスクを使用してパターニングを行ってもよいし、発光層をインクジェット法、印刷法等を利用してパターンを持って成膜してもよい。

表示装置に具備される有機EL素子の構成は、前記の素子構成の例をはじめとして各種の構成を採ることができる。多色表示装置に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧2〜40V程度を印加すると発光を観測することができる。交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が−の状態になったときのみ発光を観測することができる。なお、印加する交流の波形は特に制限されない。

多色表示装置は、例えば、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。表示デバイス、ディスプレイとしては、テレビ、パソコン、モバイル機器、AV機器、文字放送表示、自動車内の情報表示等が挙げられる。表示デバイス、ディスプレイにおいて、青発光、赤発光及び緑発光の三種類の有機EL素子を用いるとフルカラーの表示が可能である。静止画像や動画像を再生する表示装置としての使用が可能であり、動画像の再生を行う場合の駆動方式としては、単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式、アクティブマトリクス方式のいずれであってもよい。

以下、本発明の有機EL素子を具備する表示装置の一例を図面に基づいて説明する。

図1は、有機EL素子を具備する表示装置の一例を示した模式図である。この表示装置は、有機EL素子の発光により画像情報の表示を行う表示装置である。ディスプレイ1は、複数の画素を有する表示部Aと、画像情報に基づいて表示部Aの画像走査を行う制御部Bと、表示部Aと制御部Bとの間を電気的に接続する配線部等を備えて構成されている。

制御部Bは、複数の画素のそれぞれに外部からの画像情報に基づいて走査信号と画像データ信号とを送る。そして、走査信号により走査線ごとの画素が画像データ信号に応じて順次発光し、表示部Aによって画像情報が表示される。

図2は、アクティブマトリクス方式による表示装置の模式図である。表示部Aは、基板上に、複数の画素3と、複数の走査線5と、複数のデータ線6とを有している。図2においては、各画素3からの発光光Lが下方向(白矢印方向)へ取り出される場合が示されている。

配線部の走査線5及びデータ線6は、それぞれ導電材料からなる。走査線5とデータ線6とは、互いに格子状に直交し、直交する位置で各画素3に接続している。画素3は、走査線5から走査信号が印加されると、データ線6から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。発光色が赤色である画素、緑色である画素及び青色である画素のそれぞれを適宜基板上に配列させることによって、フルカラーの表示が可能となる。

図3は、画素の回路を示した概略図である。画素3は、有機EL素子10、スイッチングトランジスタ11、駆動トランジスタ12、コンデンサー13等を備えている。複数の画素3には、赤色、緑色及び青色の各発光色の有機EL素子10が用いられる。

図3において、スイッチングトランジスタ11のドレインには、制御部Bからデータ線6を介して画像データ信号が印加される。そして、制御部Bからスイッチングトランジスタ11のゲートに走査線5を介して走査信号が印加されると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオンし、ドレインに印加された画像データ信号が、コンデンサー13と駆動トランジスタ12のゲートに伝達される。

画像データ信号の伝達により、コンデンサー13が画像データ信号の電位に応じて充電されると共に、駆動トランジスタ12の駆動がオンする。駆動トランジスタ12は、ドレインが電源ライン7に接続され、ソースが有機EL素子10の電極に接続されている。有機EL素子10には、ゲートに印加された画像データ信号の電位に応じて電源ライン7から電流が供給される。

制御部Bが順次走査を行い、走査信号が次の走査線5に移ると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフする。しかしながら、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフしてもコンデンサー13は充電された画像データ信号の電位を保持する。そのため、駆動トランジスタ12の駆動はオン状態が保たれて、次の走査信号の印加が行われるまで有機EL素子10の発光が継続する。そして、順次走査により次に走査信号が印加されたとき、走査信号に同期した次の画像データ信号の電位に応じて駆動トランジスタ12が駆動して有機EL素子10が発光する。

すなわち、有機EL素子10の発光は、複数の画素3それぞれの有機EL素子10に対して、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタ11と駆動トランジスタ12とを設けて複数の画素3毎に行っている。このような発光方式は、アクティブマトリクス方式と呼ばれる。

なお、有機EL素子10の発光は、複数の階調電位を持つ多値の画像データ信号による複数の階調の発光でもよいし、2値の画像データ信号による所定の発光量のオン、オフによってもよい。また、コンデンサー13の電位は、次の走査信号の印加まで継続して保持してもよいし、次の走査信号が印加される直前に放電させてもよい。

本発明に係る表示装置の発光方式は、以上のアクティブマトリクス方式に制限されるものではなく、走査信号が走査されたときのみデータ信号に応じて有機EL素子を発光させるパッシブマトリクス方式としてもよい。

図4は、パッシブマトリクス方式による表示装置の模式図である。図4において、複数の走査線5と、複数の画像データ線6とが、画素3を挟んで対向して格子状に設けられている。順次走査により走査線5の走査信号が印加されたとき、印加された走査線5に接続している画素3が画像データ信号に応じて発光する。パッシブマトリクス方式によると、画素3にアクティブ素子を設ける必要が無く、製造コストを低減させることができる。

<照明装置> 本発明の有機EL素子は、照明装置に用いることができる。照明装置としては、適宜の光源色を生じる装置であってよいが、白色の光源色を生じる装置とすることが好ましい。

白色の発光は、複数の発光材料によって複数の発光色を同時に発光させて、混色することで得ることができる。発光色の組み合わせとしては、赤色、緑色及び青色の三原色の組み合わせであってもよいし、青色と黄色、青緑色と橙色等の補色の関係の組み合わせであってもよい。また、発光材料の組み合わせとしては、リン光発光材料及び蛍光発光材料を各発光色について適宜組み合わせて用いることができる。また、発光材料からの光を励起光として発光する色素材料を併用してもよいし、カラーフィルターを利用してもよい。

照明装置においては、各色の発光色を生じる有機EL素子をアレイ上に配列して白色の発光を生成してもよいし、有機EL素子自体の発光色を白色化してもよい。有機EL素子自体の発光色を白色にする場合には、発光層等のみについてパターニングしさえすれば、電極等については一面に一括して成膜することが可能である。そのため、照明装置の生産性の向上や大面積化を図る上で有利である。

以下、本発明の有機EL素子を具備する照明装置の一例を図面に基いて説明する。

図5は、照明装置の概略図を示している。また、図6は、照明装置の断面図を示している。照明装置は、例えば、本発明に係る有機EL素子101をガラスカバー102等で覆うことにより形成することができる。すなわち、一対の電極105,107と、有機層106とをガラスカバー102等で封止する。ガラスカバー102内には窒素ガス等の不活性ガス108を充填し、捕水剤109等を設置して、有機層106等の劣化が阻止された形態の照明装置とすることができる。

本発明の金属錯体、有機EL素子等における発光の色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図4.16において、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタ(株)製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定することができる。

本発明の照明装置等において発光色を白色にする場合、白色とは、2度視野角正面輝度を上記方法により測定した際に、1000cd/m2でのCIE1931表色系における色度がX=0.33±0.07、Y=0.33±0.1の領域内にあることをいう。

以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「体積%」を表す。

実施例で使用した有機EL素子の材料の化合物、及び、比較例に係る有機EL素子について用いた比較化合物1〜4の構造式は、次のとおりである。

<実施例1> 実施例1として、陽極/第1正孔輸送層/第2正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極の層構成を有し、発光ドーパントの種類がそれぞれ異なる有機EL素子1−1〜1−51を作製し、外部取り出し量子効率、半減寿命、駆動時の電圧上昇の評価を行った。この実施例1において、発光層の成膜には、ドライプロセス方式を用いた。

《有機EL素子1−1の作製》 有機EL素子の支持基板としては、100mm×100mm×1.1mmのガラス基板を用いた。この支持基板上に陽極としてITO(インジウム・スズ酸化物)を100nm成膜したもの(NHテクノグラス社製NA45)にパターニングを行った。その後、イソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥した後、UVオゾン洗浄を5分間にわたって行った。

続いて、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)(H.C.スタルク社製、CLEVIO P VP AI 4083)を純水で70%に希釈した溶液を、陽極が成膜された支持基板上に、3000rpm、30秒の条件でスピンコートした後、200℃で1時間にわたって乾燥して、厚さ20nmの第1正孔輸送層を形成した。

続いて、第1正孔輸送層が成膜された支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。また、モリブデン製の抵抗加熱ボートのそれぞれに、正孔輸送層の材料としてα−NPD、ホスト化合物としてOC−30、電子輸送層の材料としてET−1をそれぞれ200mg、発光ドーパントとして比較化合物1を100mg入れ、真空蒸着装置に装着した。

続いて、真空槽を4×10−4Paまで減圧した。そして、α−NPDを蒸着速度0.1nm/秒で第1正孔輸送層上に蒸着し、厚さ20nmの第2正孔輸送層を形成した。

続いて、OC−30を蒸着速度0.1nm/秒で、比較化合物1を蒸着速度0.006nm/秒でそれぞれ第2正孔輸送層上に共蒸着し、厚さ40nmの発光層を形成した。

続いて、ET−1を蒸着速度0.1nm/秒で発光層上に蒸着し、厚さ30nmの電子輸送層を形成した。なお、蒸着時の基板温度は、室温(25℃)であった。

続いて、フッ化リチウムを電子輸送層上に蒸着し、厚さ0.5nmの陰極バッファー層を形成した。そして、アルミニウムを陰極バッファー層上に蒸着し、厚さ110nmの陰極を形成して有機EL素子1−1とした。

《有機EL素子1−2〜1−51の作製》 有機EL素子1−1の作製において、比較化合物1を下記の表に記載される発光ドーパントのそれぞれに変えた以外は同様にして有機EL素子1−2〜1−51を作製した。

《有機EL素子1−1〜1−51の評価》 作製した有機EL素子1−1〜1−51について、外部取り出し量子効率、半減寿命、駆動時の電圧上昇の評価を行った。

作製した有機EL素子は、図5及び図6に示すような照明装置の形態として評価に用いた。具体的には、厚さ300μmのガラス板の周囲にエポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を塗布し、そのガラス板を陰極の側から有機EL素子の支持基板と密着させ、ガラス板の側からUVを照射して接着剤を硬化させることによって封止を行った。

(1)外部取り出し量子効率 外部取り出し量子効率(η)は、有機EL素子を室温(25℃)、2.5mA/cm2の定電流条件の下で点灯させて、点灯開始直後の発光輝度(L)[cd/m2]を測定することによって算出した。なお、発光輝度の測定については、CS−1000(コニカミノルタ株式会社製)を用いた。

(2)半減寿命 半減寿命は、有機EL素子を初期輝度1000cd/m2を与える電流で定電流駆動し、初期輝度の1/2(500cd/m2)になる時間を計測することによって求めた。

(3)駆動時の電圧上昇 駆動時の電圧上昇は、有機EL素子を室温(25℃)、2.5mA/cm2の定電流条件の下で駆動し、初期駆動電圧と輝度が半減したときの駆動電圧とから下式によって算出した。 駆動時の電圧上昇(相対値)=輝度半減時の駆動電圧−初期駆動電圧

以上の評価結果を下表に示す。なお、外部取り出し量子効率、半減寿命、駆動時の電圧上昇のそれぞれの結果は、有機EL素子1−1を100とする相対値で示した。

表2に示されるように、本発明に係る金属錯体を発光ドーパントとして用いた有機EL素子では、比較化合物を発光ドーパントとして用いた比較例に係る有機EL素子と比較して、外部取り出し量子効率及び半減寿命がそれぞれ向上していることが分かる。また、駆動時の電圧上昇についても本発明に係る有機EL素子においては良好に抑制されている。よって、本発明に係る金属錯体によると、有機EL素子の材料として用いた場合に、発光効率や発光寿命を向上させることが可能である。また、駆動電圧が上昇し難いため、発光効率や電力効率が安定的となる。

<実施例2> 実施例2として、陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極の層構成を有し、発光ドーパントの組み合わせの種類がそれぞれ異なる白色発光の有機EL素子2−1〜2−51を作製し、外部取り出し量子効率、半減寿命、駆動時の電圧上昇の評価を行った。この実施例2において、発光層の成膜には、ドライプロセス方式を用いた。

《有機EL素子2−1の作製》 有機EL素子の支持基板としては、100mm×100mm×1.1mmのガラス基板を用いた。この支持基板上に陽極としてITO(インジウム・スズ酸化物)を100nm成膜したもの(NHテクノグラス社製NA45)にパターニングを行った。その後、イソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥した後、UVオゾン洗浄を5分間にわたって行った。

続いて、陽極が成膜された支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。また、モリブデン製の抵抗加熱ボートのそれぞれに、正孔輸送層の材料としてα−NPD、ホスト化合物としてOC−11、電子輸送層の材料としてET−2をそれぞれ200mg、青色発光ドーパントとして比較化合物1、赤色発光ドーパントとしてD−10をそれぞれ100mg入れ、真空蒸着装置に装着した。

続いて、真空槽を4×10−4Paまで減圧した。そして、α−NPDを蒸着速度0.1nm/秒で陽極上に蒸着し、厚さ20nmの正孔輸送層を形成した。

続いて、OC−11と比較化合物1とD−10とを蒸着速度の比が100:5:0.6となるように調節して正孔輸送層上に共蒸着し、厚さ30nmの発光層を形成した。

続いて、ET−2を蒸着速度0.1nm/秒で発光層上に蒸着し、厚さ30nmの電子輸送層を形成した。なお、蒸着時の基板温度は、室温(25℃)であった。

続いて、フッ化リチウムを電子輸送層上に蒸着し、厚さ0.5nmの陰極バッファー層を形成した。そして、アルミニウムを陰極バッファー層上に蒸着し、厚さ110nmの陰極を形成して有機EL素子2−1とした。その後、作製した有機EL素子2−1に通電して白色発光が発せられることを確認した。

《有機EL素子2−2〜2−51の作製》 有機EL素子2−1の作製において、比較化合物1を下記の表に記載される青色発光ドーパントのそれぞれに変えた以外は同様にして有機EL素子2−2〜2−51を作製した。作製した有機EL素子2−2〜2−51に通電したところ、白色発光が発せられることが確認された。

《有機EL素子2−1〜2−51の評価》 作製した有機EL素子2−1〜2−51について、実施例1においてと同様にして、外部取り出し量子効率、半減寿命、駆動時の電圧上昇の評価を行った。

以上の評価結果を下表に示す。なお、外部取り出し量子効率、半減寿命、駆動時の電圧上昇のそれぞれの結果は、有機EL素子2−1を100とする相対値で示した。

表3に示されるように、本発明に係る金属錯体を発光ドーパントとして用いた有機EL素子では、他の発光ドーパントと同一の発光層に含有させた場合においても、外部取り出し量子効率及び半減寿命がそれぞれ向上していることが分かる。また、駆動時の電圧上昇についても本発明に係る有機EL素子においては良好に抑制されている。よって、本発明に係る金属錯体によると、発光効率や発光寿命が良好な白色発光型の有機EL素子を実現することが可能である。駆動電圧が上昇し難く、発光効率や発光寿命が良好な白色発光型の照明装置を提供することができるといえる。

<実施例3> 実施例3として、陽極/第1正孔輸送層/第2正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極の層構成を有し、発光ドーパントの種類がそれぞれ異なる有機EL素子3−1〜3−17を作製し、外部取り出し量子効率、半減寿命、駆動時の電圧上昇の評価を行った。この実施例3において、発光層の成膜には、ウェットプロセス方式を用いた。

《有機EL素子1−1の作製》 有機EL素子の支持基板としては、100mm×100mm×1.1mmのガラス基板を用いた。この支持基板上に陽極としてITO(インジウム・スズ酸化物)を100nm成膜したもの(NHテクノグラス社製NA45)にパターニングを行った。その後、イソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥した後、UVオゾン洗浄を5分間にわたって行った。

続いて、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)(Bayer株式会社製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を、陽極が成膜された支持基板上にスピンコートした後、200℃で1時間にわたって乾燥して、厚さ30nmの第1正孔輸送層を形成した。

続いて、ポリ(N,N′−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N′−ビス(フェニル))ベンジジン(American Dye Source株式会社製、ADS−254)のクロロベンゼン溶液を、第1正孔輸送層上にスピンコートした後、150℃で1時間にわたって加熱乾燥して、厚さ40nmの第2正孔輸送層を形成した。

続いて、ホスト化合物としてOC−11、発光ドーパントとして比較化合物1をそれぞれ溶解させた酢酸ブチル溶液を、第2正孔輸送層上にスピンコートした後、120℃で1時間にわたって加熱乾燥して、厚さ30nmの発光層を形成した。

続いて、ET−2の1−ブタノール溶液を、発光層上にスピンコートして、厚さ20nmの電子輸送層を形成した。

続いて、電子輸送層までが成膜された支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、真空槽を4×10−4Paまで減圧した。そして、フッ化リチウムを電子輸送層上に蒸着し、厚さ1.0nmの陰極バッファー層を形成した。そして、アルミニウムを陰極バッファー層上に蒸着し、厚さ110nmの陰極を形成して有機EL素子3−1とした。

《有機EL素子3−2〜3−17の作製》 有機EL素子3−1の作製において、比較化合物1を下記の表に記載される発光ドーパントのそれぞれに変えた以外は同様にして有機EL素子3−2〜3−17を作製した。

《有機EL素子3−1〜3−17の評価》 作製した有機EL素子3−1〜3−17について、実施例1においてと同様にして、外部取り出し量子効率、半減寿命、駆動時の電圧上昇の評価を行った。

以上の評価結果を下表に示す。なお、外部取り出し量子効率、半減寿命、駆動時の電圧上昇のそれぞれの結果は、有機EL素子3−1を100とする相対値で示した。

表4に示されるように、本発明に係る金属錯体を発光ドーパントとして用いた有機EL素子では、発光層等の形成にウェットプロセス方式を採用した場合においても、外部取り出し量子効率及び半減寿命がそれぞれ向上していることが分かる。また、駆動時の電圧上昇についても本発明に係る有機EL素子においては良好に抑制されている。よって、本発明に係る金属錯体によると、高い生産性をもって有機EL素子をはじめとする有機エレクトロニクス素子や、それを用いたデバイス類を製造することができるといえる。

<実施例4> 実施例4として、陽極/第1正孔輸送層/第2正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極の層構成を有し、発光ドーパントの種類がそれぞれ異なる有機EL素子4−1〜4−50を作製し、半減寿命に基く熱安定性の評価を行った。この実施例4において、発光層の成膜には、ドライプロセス方式を用いた。

《有機EL素子4−1の作製》 有機EL素子4−1は、発光ドーパントとして比較化合物1を用いて、有機EL素子1−1においてと同様にして作製した。このとき、有機EL素子4−1として、同様の仕様の素子を同じ抵抗加熱ボートを用いて合計5個作製した。すなわち、抵抗加熱ボートに最初に投入した発光ドーパント材料を抵抗加熱の繰り返しの間にも入れ替えずして、合計5個の有機EL素子4−1を連続的に作製した。

《有機EL素子4−2〜4−50の作製》 有機EL素子4−1の作製において、比較化合物1を下記の表に記載される発光ドーパントのそれぞれに変えた以外は同様にして5個づつの有機EL素子4−2〜4−50を作製した。

《有機EL素子4−1〜4−50の評価》 作製した有機EL素子4−1〜4−50の各5個の素子について、実施例1においてと同様にして、半減寿命の評価を行った。

以上の評価結果を下表に示す。なお、半減寿命の結果は、1回目、3回目及び5回目にそれぞれ作製した素子の結果について、有機EL素子4−1について1回目に作製した素子の結果を100とする相対値で示した。

表5に示されるように、比較化合物を発光ドーパントとして用いた比較例に係る有機EL素子では、1回目に作製された素子と比較して、3回目に作製された素子では半減寿命が大きく低下し、5回目に作製された素子では半減寿命がさらに低下している。これに対して、本発明に係る金属錯体を発光ドーパントとして用いた有機EL素子では、3回目に作製された素子や5回目に作製された素子においても半減寿命の低下が抑制されており、蒸着の際に抵抗加熱が繰り返されても材料の劣化が抑えられていることが分かる。よって、本発明に係る金属錯体は、良好な安定性を備えており、発光効率や発光寿命が良好な有機EL素子を実現するのに好適であるといえる。

<実施例5> 実施例5として、陽極/第1正孔輸送層/第2正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極の層構成を有し、電子輸送材料の種類がそれぞれ異なる有機EL素子5−1〜5−16を作製し、黒点(ダークスポット)の発生頻度の評価を行った。この実施例5において、発光層の成膜には、ドライプロセス方式を用いた。

《有機EL素子5−1の作製》 有機EL素子5−1は、電子輸送層の材料としてET−1を用いて、有機EL素子1−1においてと同様にして作製した。

《有機EL素子5−2〜5−16の作製》 有機EL素子5−1の作製において、ET−1を下記の表に記載される金属錯体のそれぞれに変えた以外は同様にして有機EL素子5−2〜5−16を作製した。

《有機EL素子5−1〜5−16の評価》 作製した有機EL素子5−1〜5−16について、実施例1においてと同様に照明装置の形態として、黒点の発生頻度の評価を行った。

(1)黒点 黒点の発生の状況は、有機EL素子を初期輝度の1/2になるまで連続点灯させた後、素子の発光面をマイクロスコープ(モリテックス社製、MS−804、レンズMP−ZE25−200)で撮影し、撮影画像を目視で観察して調べた。黒点の発生頻度は、発光面を100分割し、黒点の発生した数から黒点の発生割合を算出し、下記基準にしたがって評価した。 ◎:黒点発生率0%1%未満(黒点が略発生しない) ○:黒点発生率1%以上5%未満 △:黒点発生率5%以上10%未満 ×:黒点発生率10%以上 以上の評価結果を下表に示す。

表6に示されるように、本発明に係る金属錯体を電子輸送層の材料として用いた有機EL素子では、従来知られているET−1を電子輸送層の材料として用いた比較例に係る有機EL素子と比較して、黒点の発生が抑制されていることが分かる。よって、本発明に係る金属錯体は、キャリア輸送用の材料として、或いは、発光材料等と併用する材料としても有用であり、黒点の発生が低減された有機EL素子等を実現するのに適しているといえる。

<実施例6> 実施例6として、インク組成物が塗布された色素画像の評価シートを作製し、光照射時における色素の残存率の評価を行った。

《インク組成物の調製》 インク組成物は、色素材料C−1(特開平10−264541号公報に記載されている色素)1.2g、ポリビニルアセタール樹脂(KY−24:電気化学工業株式会社製)2.3g、シリコン変性ウレタン樹脂(SP−2105:大日精化工業株式会社製)1.8gを、メチルエチルケトン53gとトルエン22gとの混合溶液に溶解して調製した。

《評価シート6−1の作製》 色素材料C−1を含むインク組成物を、厚さ6μmのポリエチレンテレフタレート(PET)ベース上に、ワイヤーバーを用いて乾燥後の塗布量が2.0g/m2になるように塗布した後、乾燥して、PETベース上に色素含有層を有する色素画像の評価シート6−1を作製した。なお、評価シートの乾燥は、ドライヤーで仮乾燥した後、70℃のオーブン中で15分にわたって行った。 《評価シート6−2〜6−51の作製》 評価シート6−1の作製において用いたインク組成物に、下記の表に記載される金属錯体0.2gをそれぞれ添加した以外は同様にして評価シート6−2〜6−51を作製した。

《評価シート6−1〜6−51の評価》 作製した評価シート6−1〜6−51について、色素の残存率を評価した。

(1)色素画像の評価 色素の残存率は、評価シートの初期の最大反射濃度と光照射後の最大反射濃度とを、X−rite 310TRを用いてそれぞれ測定し、光照射前の濃度(D0)と光照射後の濃度(D1)とから下式によって算出した。なお、光照射は、キセノンフェードメーターで72時間にわたって行った。 色素残存率(%)=(D1/D0)×100 以上の評価結果を下表に示す。

表7に示されるように、本発明に係る金属錯体をインク組成物に添加している評価シートでは、色素残存率の大幅な改善がみられる。これは、本発明に係る金属錯体が、光照射により発生した一重項酸素をクエンチしたことによるものと考えられる。よって、本発明に係る金属錯体は、画像安定化剤等としても有用であるといえる。

1 ディスプレイ 3 画素 5 走査線 6 データ線 7 電源ライン 10 有機EL素子 11 スイッチングトランジスタ 12 駆動トランジスタ 13 コンデンサー 101 照明装置内の有機EL素子 102 ガラスカバー 105 陰極 106 有機EL層 107 透明電極付きガラス基板 108 窒素ガス 109 捕水剤 A 表示部 B 制御部

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