【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、高強度成形体を製造するための高流動性をなすセメント等の水硬性物質を製造する装置に関する。 【0002】 【従来の技術】水硬性材料を代表するセメントは、その原料をロータリーキルン内で焼成してできた塊状物(クリンカ)を石膏と一緒に微粉砕して製造される。 ロータリーキルン内では、クリンカが溶融しないように、焼成温度が狭く限定され、また焼結温度と溶融温度の差を大きくするように原料の化学成分の範囲が狭く限定される。 【0003】石灰焚きボイラの集塵物のうち、球状物質はフライアッシュとしてセメント中に混合使用されているが、各種焼却灰は、そのまま或は溶融後、埋立てに使われており、水硬性材料としては有効利用されていない。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】セメントを製造する従来の装置においては、 (1)ロータリキルンでは溶融物を製造することができないので、条件成分範囲が限定される。 (2)ロータリキルンは回転するため、内張りレンガが摩耗脱落しやすく、メンテナンスが容易でない。 (3)固い焼結物であるクリンカを微粉砕するに要する電力使用量が大きい。 (4)粉砕媒体(ボール、ローラ)とライナーの摩耗が激しく、メンテナンスが容易でない。 (5)クリンカができてからセメントになるまでの輸送系統が長く、発塵する箇所が多く、装置が摩耗しやすい。 という各種の問題があり、また上記従来の装置を用いて製造されたセメントは、 (6)粉砕物であるため、粒子が角張った不定形である。 という問題がある。 【0005】ここで上記(6)がなぜ問題であるかについて説明する。 上記のようにして製造されたセメントは角張った不揃いの形状をしているため、これを水と混練したものは流動性に優れず、セメントペーストにおいては、成形可能な最低限の流動性を得るための水量は、水セメント比で30%である。 高性能減水剤を用いた場合は更に水量を減じることができるが、それでもセメント比で25%が限度である。 【0006】一方、水セメント比を小さくすると硬化後のコンクリート強度が高くなることは周知の事実で、従来より水セメント比率をできるだけ小さくし、密実なコンクリートを打設し高強度の硬化体を得るための努力がなされている。 しかし従来の粉砕による製造方法で得られたセメントでは、水セメント比を小さくすることができないためコンクリートの圧縮強度は1200kgf/ cm 2程度が限度であり、これを構造用のセラミックスや金属の代りとすることは困難である。 【0007】一方、このセメントを球状の微粒子とした場合、この球状微粒子は高強度コンクリートに利用されているシリカフュームなどの球状微粒子と同等の作用を果し、水との混練物は流動性向上及び最密充填構造の達成による高強度化、乾燥収縮の低減、高耐久性の作用を生ずる。 適切な粒度を選定し、分散剤を使用して流し込み製品に使用すれば、焼結による酸化物セラミックス成形物に匹敵する高強度が発現するばかりでなく、流し込み後に焼結工程が不要なために酸化物セラミックス焼結物よりも寸法精度に優れた成形物を得ることができる。 【0008】したがって球状化されたセメントを製造することが要望される。 微粉砕された水硬性粉末の球状化を行う方法として、例えば特開平2−192439号公報に開示されているような、高速気流中衝撃装置により粒子表面を球状に平滑化する方法があるが、この方法では、水硬性物質のクリンカを焼成する必要があり、球状化の程度及び表面の平滑度が不十分である。 また、この方法によっては上記(1)〜(5)の装置上の問題点は何ら解決されない。 【0009】本発明は、上記事情に鑑み、上記装置上の問題点を解決するとともに球状化された水硬性物質を製造することのできる装置を提供することを目的とする。 【0010】 【課題を解決するための手段】水硬性材料を溶融してから噴霧等により微粒化して、表面張力により球状化した状態で冷却すれば、球状の水硬性物質が製造され、かつ製法に由来する前記問題点が解消されることに想到し、 以下の製造装置を発明するに至った。 即ち、上記目的を達成する本発明の第1の製造装置は、水硬性物質を溶融する溶解炉と、溶融された水硬性物質をガスとともに噴霧するノズルと、該ノズルから噴霧された水硬性物質を冷却するタンクと、該タンク内で冷却され粒状化された水硬性物質を回収する回収手段とを備えたことを特徴とするものである。 ノズル孔は1ケ或は複数ケ設置することができる。 以下、これを「ガスアトマイズ法」と呼ぶ。 【0011】ここで、上記溶解炉には、電気炉,高周波誘導炉,ガス炉,アーク放電炉,反射炉,微粉炭焚ボイラ,レーザ溶解炉,プラズマ溶解炉等を使用できる。 溶解炉とノズルを接合して、炉底あるいは炉壁に設置した栓を開けて溶融物をノズルに供給してもよく、溶解炉から溶融物を受ける容器あるいは保持炉をノズルの上に設置してもよく、いずれのタイプも使用可能である。 上記ガスはボンベあるいはコンプレッサから供給する。 また、上記回収手段としては、粒子を回収する容器,サイクロン,バッグフィルタなどを備えればよい。 【0012】また上記目的を達成する本発明の第2の製造装置は、水硬性物質を溶融する溶解炉と、内部を減圧する減圧装置を備えたタンクと、溶融された水硬性物質を前記タンク内に噴霧するノズルと、前記タンク内で粒状化された水硬性物質を回収する回収手段とを備えたことを特徴とするものである。 以下これを「減圧法」と呼ぶ。 【0013】ここで、溶解炉の種類及びノズルへの溶融物の供給方法については上記ガスアトマイズ法の場合と同じである。 また溶融物の噴霧方向は、上下左右いずれでもよい。 噴霧中の真空度は10 -2 Torrより高く保つようにすることが好ましい。 溶融物をガス等で加圧して、減圧タンク内に噴霧する方式とすると一層好ましい。 【0014】さらに、上記目的を達成する本発明の第3 の製造装置は、水硬性物質を溶融する溶解炉と、溶融された水硬性物質を飛散させる回転体と、該回転体により飛散され粒状化された水硬性物質を回収する回収手段とを備えことを特徴とするものである。 以下これを「遠心法」と呼ぶ。 この遠心法で採用される溶解炉の特徴はガスアトマイズ法,減圧法の場合と同様であり、材料の性状,溶融温度などにより選択される。 上記回転体は、例えば円錐盤、平盤、中央部或いは周縁部が少しへこんだ板状物で水平方向に回転するタイプ、或いはギヤのように凹凸が端部についた板状物が垂直方向に回転するタイプ等のいずれでもよい。 また、溶融物が回転体の表面に当たるタイプ、或いは回転体の内部を通過させるタイプでもよい。 【0015】以上の3種類の装置の溶解炉に入れる原料としては、石灰石,粘土,珪石,スラグ,ボーキサイト,鉄原料など、セメント用原料として通常使用されているものの他に、石炭灰,各種焼却灰,下水汚泥灰,生石灰,火山灰,赤泥,コンクリート廃材などを適合組合わせて使用したり、セメント,セメントクリンカ,スラグ,石炭灰などの水硬性物質を単独或いは混合して使用することができる。 【0016】球状粒子の粒径,粒度分布,結晶化度は、 溶融物の表面張力,粘度,飛散及び冷却の条件を変えることにより制御することができる。 そのために、原料の化学組成、フラックスの種類と添加量、溶融物の温度の他に装置の操作条件を変える。 即ち、ガスアトマイズ方法ではノズルの形状,粒子の濃度,チャージ量,滞留時間及び粒子を飛散させる気体の種類,圧力,温度,量を調整し、また減圧法では真空度,温度及びノズルの形状が選択され、さらに遠心法では回転体の回転数,ディスク半径,溶融物のチャージ量及び落下位置を選択し、これにより適正な飛散及び冷却条件をつくる必要がある。 【0017】 【作用】ここでは、噴霧方法の異なる3方式を提案した。 即ち、高圧ガスを使用したガスアトマイズ装置、高速回転体の遠心力を利用した装置、並びに減圧タンクの負圧を利用した装置である。 これらの装置は、いずれも、セメントクリンカなどの水硬性物質を溶融してから噴霧ないし飛散させて、冷却時に表面張力により球状化させる装置であり、上記従来の装置上の(1)〜(5) の問題点は本質的に解決され、かつ球状の水硬性物質が製造される。 【0018】 【実施例】以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。 図1は、ガスアトマイズ法の一実施例を表わした図である。 溶解炉1でセメント原料が溶融され、この溶融物2が保持炉3に移される。 この保持炉3 の下部にはノズル4が備えられている。 このノズル4 は、溶融物2を、高圧ガスボンベ8或はコンプレッサから供給される高圧ガスとともにタンク5内に噴霧するものである。 【0019】図2は、ノズル部分を拡大して示した模式断面図である。 図2(A)に示すタイプは、保持炉3の底から自由落下する溶融物2に高圧ガス11を吹き付ける自由落下型のノズルであり、図2(B)は、保持炉3 の底から流れ落ちる溶融物2の周囲をガイドするように高圧ガスを吹き付ける落下ガイド型のノズルである。 本発明では、これらのいずれのタイプのノズルも使用可能である。 【0020】図1に戻って説明を続行する。 タンク5内に噴霧された溶融物は、このタンク内で冷却され、この冷却の過程で表面張力により球状化された粉末のセメントとなり、サイクロン6,粉末槽7により回収される。 図3は、ガスアトマイズ法の他の実施例を表わした図である。 【0021】タンク5の上部には溶解炉1が備えられ、 この溶解炉1中の溶融物2は、プラグ9を抜くことにより、ノズル4を介して、コンプレッサ10或は高圧ガスボンベから供給された高圧ガスとともにタンク5内に噴霧される。 このように保持炉3(図1参照)を介さずに溶解炉1から直接噴霧するように構成してもよい。 【0022】図4は、減圧法の一実施例を表わした図である。 溶解炉1でセメント材料が溶融され、この溶融物2が保持炉3に移される。 またタンク5の内部は真空ポンプ12により減圧される。 この状態で保持炉3のプラグ9を抜くと、溶融物2はノズル4を介してタンク5内に噴霧される。 この噴霧され溶融物2はその表面張力により球状となり冷却された粉末となって粉末槽7に集められる。 【0023】図5は、減圧法の他の実施例を表わした図である。 この実施例ではタンク5の下部に溶解炉1が設けられて、この溶解炉1中の溶融物2がシャッタ16によりタンク5内に上方に向けて噴霧される。 この際タンク5内は真空ポンプ12により減圧されている。 この噴霧された溶融物2はタンク5内で球状粉末となり落下して粉末槽7に回収される。 【0024】このように、減圧法において、溶融物の噴霧方向は特に限定されるものではなく、図4,図5に示すように上下方向のいずれでもよく、また図示されてはいないが横方向に噴霧するように構成してもよい。 図6 は、遠心法の一実施例を表わした図である。 溶解炉1中の溶融物2は保持炉3に移される。 この保持炉3の下部には冷却水14により冷却されながら高速回転する回転盤13が備えられており、保持炉3の底から流れ落ちた溶融物2はこの回転盤13に当たって遠心力によりタンク5内に飛散される。 この飛散された粒子には冷却用のガスが吹き付けられ、飛散した溶融物2は球状粉末となってサイクロン6,粉末槽7により回収される。 【0025】図7は、遠心法の他の実施例を表わした図である。 溶解炉1内の溶融物2がタンク5内に備えられたギア型の高速回転体15上に注がれる。 この高速回転体15上に注がれた溶融物2は、この高速回転体15によりタンク5内に飛散され、サイクロン6、粉末槽7により球状粉末となって回収される。 【0026】以上、ここではガスアトマイズ法,減圧法,遠心法のそれぞれについて2例ずつ示したが、これらのいずれの場合もここに示した例以外に種々に構成できることはいうまでもない。 【0027】 【発明の効果】以上提案したガスアトマイズ法,減圧法,遠心法のいずれかに係る装置を用いることにより、 従来のセメントや混合材(高炉スラグなど)にない、高流動性,高強度発現性等、高性能の物性を示す球状水硬性物質が製造される。 また本発明の装置では、ロータリーキルン及び仕上ミルが不要となり、運転操作が容易となり、またメンテナンスも容易となる。 さらに焼却灰, 石炭灰などの各種廃棄物を原料として利用することができ、環境問題にも貢献できることとなる。 【図面の簡単な説明】 【図1】ガスアトマイズ法の一実施例を表わした図である。 【図2】ノズル部分を拡大して示した模式断面図である。 【図3】ガスアトマイズ法の他の実施例を表わした図である。 【図4】減圧法の一実施例を表わした図である。 【図5】減圧法の他の実施例を表わした図である。 【図6】遠心法の一実施例を表わした図である。 【図7】遠心法の他の実施例を表わした図である。 【符号の説明】 1 溶解炉 2 溶融物 3 保持炉 4 ノズル 5 噴霧タンク 6 サイクロン 7 粉末槽 8 高圧ガスボンベ 9 プラグ(栓) 10 コンプレッサ 11 高圧ガス 12 真空ポンプ 13 高速回転盤 14 冷却水 15 ギヤ型高速回転体 16 シャッタ |