【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は炭素材の表面改質方法に関し、より詳細には例えば単結晶Si(シリコン) の引き上げ工程、Siエピタキシャル成長工程、プラズマエッチング工程等における半導体製造用装置材料として使用される炭素材の表面改質方法に関する。 【0002】 【従来の技術】炭素材は、還元雰囲気中で非常に耐熱性に優れており、2000℃以上の高温においてもその機械的特性はほとんど変化しない。 また炭素材は、ハロゲンガス等の雰囲気中で熱処理を行うことにより高純度化が可能である。 【0003】これらの優れた特性により、炭素材は耐熱材、電極、Si単結晶引き上げ用の黒鉛ルツボ、真空装置、ヒーター及び治具等に用いられている。 【0004】炭素材の製造方法としては、炭素材原料をラバー容器に充填し、プレス成形を行った後炭化・黒鉛化するのが一般的である。 【0005】前記炭素材の実用性を左右するものの一つに気孔率が挙げられる。 例えばSi単結晶引き上げ用の黒鉛ルツボにおいてはSi溶融時の突沸により飛散したSi融液や、単結晶引き上げ時に発生するSi蒸気等により、黒鉛ルツボの開口面に液滴状にSiが付着する場合があり、黒鉛ルツボの気孔率が小さいと前記付着したSiを吸収する能力に劣り、前記付着したSiに起因して、黒鉛ルツボが開口面で開かなくなり、冷却時石英ルツボとの間の熱膨張係数差に基づく熱応力、歪が発生し、黒鉛ルツボが破損し易いといった問題が生じる。 また、黒鉛ルツボとそれに内層される石英ルツボとの間に前記Siが浸入・付着した場合は該Siが両ルツボを固着し、両ルツボの熱膨張係数の違いから冷却時には前記黒鉛ルツボに大きな引っ張り応力がかかり、おなじく破損し易いといった問題が生じる。 【0006】また例えば真空加熱炉の内壁材として黒鉛等の炭素材を用いた場合、加熱時発生するガスと黒鉛とが反応し、膜状付着物が生成されことがあり、前記炭素材の気孔率が小さいと前記膜状付着物により前記気孔が閉塞ぎみとなり、減圧時に前記炭素材内部のガスが抜けにくくなるため所定真空度への到達時間が長くなったり、所定時間減圧後、前記真空加熱炉を真空保持する際の圧のもどりが大きくなったりするといった問題が生じ易い。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】気孔率は、一般に炭素材粉末原料の粒径・成型圧力等によって制御されてきたが、上記した問題を解決するために例えば気孔率を大きくすると炭素材の強度が低下してしまうため、前記気孔率のみを単独に制御することは困難であるという課題があった。 【0008】本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、強度等の低下を招くことなく、炭素材の気孔率、なかでも炭素材使用時の特性として重要な炭素材表面の気孔率を単独に制御し得る、炭素材の表面改質方法を提供することを目的としている。 【0009】 【課題を解決するための手段及びその効果】上記目的を達成するために本発明に係る炭素材の表面改質方法(1)は、炭素材を製品形状に加工した後、酸化雰囲気中で加熱して炭素材表面を酸化することを特徴としている。 【0010】例えば上記した黒鉛ルツボにおいて、Si 吸収能力の向上は前記黒鉛ルツボ(炭素材)のマクロな単位比表面積(BET法等で得られる比表面積ではなく、形状から算出される比表面積)あたりの気孔率の増加が0.010cm 3 /cm 2以上になると顕著となる。 【0011】しかしながら、前記気孔率を増大させるために施される酸化処理を過剰に行うと、炭素材の曲げ強度が著しく低下するため好ましくない。 実用上、気孔率増加に伴う炭素材の曲げ強度の低下は、酸化処理前の1 0%以下であるのが望ましい。 【0012】上記した炭素材の表面改質方法(1)によれば、酸化加熱処理時に炭素材表面の炭素が酸化されてCOもしくはCO 2が形成され、前記酸化箇所近傍から揮発するため、前記炭素材表面の気孔率が増大することになる。 また、前記気孔率の増大は炭素材表面に限られるため、強度等の物性をほとんど変化させることがない。 このため本発明に係る方法により製造された炭素材を例えば黒鉛ルツボに採用すれば飛散したSiの吸収能力を向上させることができ、また例えば真空加熱炉の内壁材に採用すれば真空機能の向上を図ることができる。 【0013】さらに、本発明者らは酸化触媒作用のある元素(以下、酸化促進物質と記す)を付着させて酸化処理を施した場合、気孔率増大後の曲げ強度の低下が、これらの元素を付着させない場合と比べて少なくなることを見い出した。 また、気孔率やSi吸収能力を大幅に向上させ得ることを見い出した。 【0014】そこで、本発明に係る炭素材の表面改質方法(2)は、炭素材を製品形状に加工した後、該炭素材製品の表面に酸化促進物質を付着させ、その後酸化雰囲気中で加熱することを特徴としている。 【0015】炭素材の表面に酸化促進物質を付着させることにより、該酸化促進物質の濃度の高い部分の酸化が局部的に促進される。 また、特にピット状の気孔が形成され易くなるため、上記炭素材の表面改質方法(1)における効果をより向上させることができる。 【0016】また、本発明に係る炭素材の表面改質方法(3)は、上記炭素材の表面改質方法(1)又は(2) における酸化処理を、500〜600℃の大気雰囲気中で行うことを特徴としている(3)。 【0017】上記した炭素材の表面改質方法(3)によれば、酸化処理温度を500〜600℃とすることにより、酸化処理時の酸化速度を気孔率の増大に適した酸化速度とすることができる。 前記大気雰囲気の温度が50 0℃よりも低いと酸化速度が極めて遅くなるため製造効率が低下してしまい、一方、前記大気雰囲気の温度が6 00℃よりも高いと酸化速度が大きくなり、微妙な酸化の程度の制御が困難になったり、酸素供給が前記酸化速度に追い付かず、供給される酸素が部分的に欠乏し、位置によって酸化の程度が異なってしまうため好ましくない。 【0018】 【発明の実施の形態】以下、本発明に係る炭素材の表面改質方法の実施の形態を図面に基づいて説明する。 【0019】<実施の形態1>まず、炭素材原料としての自己焼結性メソフェーズ粉をラバー容器に充填し、C IP(Cold Isostatic Pressin g)成形を行う。 該CIP成形方法は、まず圧力容器中に水を張り、ラバー容器には前記炭素材原料を入れ、この水を張った圧力容器内にラバー容器を入れ、静水圧をかけて成形を行う方法である。 【0020】前記CIP成形により得られた成形体を窒素雰囲気の電気炉に入れ、1000℃程度まで加熱して炭化を行った後、Ar雰囲気の黒鉛炉で2500℃程度まで加熱して黒鉛化を行う。 【0021】このようにして得られた炭素材を任意の製品形状に機械加工した後、加熱炉に入れて酸化雰囲気中で加熱し、前記炭素材表面の酸化処理を行う。 【0022】酸化処理は大気雰囲気中で500〜600 ℃で行う。 【0023】このように大気雰囲気の温度を500〜6 00℃とすることにより、酸化処理時の酸化速度を気孔率の増大に適した酸化速度とすることができる。 【0024】実施の形態1に係る方法によれば、酸化処理時に炭素材表面の炭素が酸化されてCOもしくはCO 2が形成され、前記酸化箇所から揮発するため、前記炭素材表面の気孔率が増大することになる。 また、前記気孔率の増大は炭素材表面に限られるため、強度等の物性を低下させることがない。 よって前記炭素材を例えば黒鉛ルツボに採用すると飛散したSiの吸収能を向上させることができ、また例えば真空加熱炉の内壁材に採用すると真空機能の向上を図ることができる。 【0025】<実施の形態2>製品形状に機械加工された炭素材の表面に酸化促進物質を付着させる。 前記酸化促進物質としては銅、コバルト、マンガン、モリブデン、バナジウム等が挙げられ、いずれかの元素を用い、 粉末あるいは溶液状にして塗布する。 例えば銅を溶液状で塗布するには、炭素材を例えば硫酸銅水溶液に浸漬し、その後乾燥させることにより行う。 【0026】次いで実施の形態1と同様に加熱炉に入れて酸化雰囲気中で加熱し、表面の酸化処理を行う。 【0027】このように、実施の形態2に係る方法によれば、炭素材の表面に酸化促進物質を付着させることにより、該酸化促進物質の濃度の高い部分の酸化が局部的に促進される。 また、特にピット状の気孔が形成され易くなるため、好ましい形状の気孔が形成される確率が高まる。 【0028】ここで、前記酸化促進物質がそのまま製品に残存した状態で半導体製造工程で使用されると、前記酸化促進物質が不純物として作用するため好ましくない。 このため、酸化処理後にハロゲンガスと伴に高温加熱し、高純度化することが望ましい。 該高純度化の方法としては、酸化促進物質が付着している炭素材を、ハロゲン元素を含むガスの流通雰囲気下、約2000℃まで加熱する。 この過程でハロゲン化合物(フロン、塩素等)は熱分解してハロゲンガスとなり、炭素材中の不純物と反応して不純物のハロゲン化物が形成される。 このハロゲン化物は、通常、不純物元素の単体、酸化物等の化合物と比べて沸点が低いため、前記不純物の蒸発が促進されて炭素材中の不純物量が低下する。 【0029】実施の形態1〜2においては炭素材として自己焼結性メソフェーズを原料とする一元系等方性炭素材を用いたが、何らこれに限定されるものでなく、別の実施の形態では炭素骨材とバインダーピッチを原料とする二元系等方性炭素材等であってもよい。 【0030】 【実施例及び比較例】実施例及び比較例に係る炭素材の表面改質方法は以下に示す条件により行った。 【0031】自己焼結性メソフェーズ:揮発分10.5 %、平均粒径13.8μm 炭素材の嵩密度:1.78g/cm 3試験片形状:縦×横×高さ=10mm×60mm×10 mm 図1は該試験片を示した模式的斜視図であり、図中11 は試験片を示している。 試験片11の酸化処理時の上面を11a、下面を11bとする。 【0032】酸化処理時の酸素濃度:20〜50% 酸化促進物質及びその塗布方法:銅粉(平均粒径20μ mの電解銅粉)、銅粉を試験面に散布し、筆でこすりつけた後、余分な銅粉を吹き飛ばした。 【0033】加熱温度:500〜600℃ 炉の様式:マッフル炉 上記した条件により作製した試験片11を2000℃の塩素雰囲気中で加熱し、純化処理を行った。 【0034】前記純化処理後の試験片11について以下の測定を行った。 以下、測定項目と測定方法を説明する。 気孔率 図1に示したように、酸化処理時の上面11aが一面1 2aとして含まれるようにサンプル12を切り出し、嵩密度BD(g/cm 3 )を測定した後、水銀ポロシメーターで水銀圧入量V M (cm 3 /g)を測定し、気孔率(%)=BD×V M ×100として算出した。 【0035】曲げ強度 酸化処理時の上面11aを支持面、下面11bを載荷面とし、スパン40mmで曲げ試験を行った。 【0036】Si吸収能 酸化処理時の上面11aが一面13aとして含まれるように10mm×10mm×10mmのサンプル13を切り出し、初期重量W Oを秤量後、一面13aを試験面として上に向け、この上に縦×横×厚み=10mm×10 mm×1mmのSi板をのせて0.5Torrの減圧下、1570℃まで昇温させ、30分保持した後冷却した。 その後、フッ化水素酸と硝酸とを溶解させた水溶液中にサンプル13を入れ、50℃に加熱して酸処理を施すことにより余分なSiを溶解させた。 これを水洗して乾燥後、重量W Aを測定して、W A −W Oを一面13a の面積で除してSi吸収能(g/cm 2 )として算出した。 【0037】なお、気孔内に浸透したSiは、気孔径が数μmと小さいため気孔壁から迅速に拡散し、SiC化する。 よって前記酸処理で除去されるSiは気孔外部のSiのみである。 【0038】表1は試験片11の上記〜の性質を各作製条件毎に示した表である。 なお、比較例として上面11aに酸化処理を施さない試験片を作製し、同様に各性質を測定した。 【0039】 【表1】 【0040】表1から明らかなように炭素材表面に酸化処理を施した実施例1〜6に係る炭素材は、酸化処理が施されていない比較例1と比較し、曲げ強度をそれぼど低下させることなく気孔率を0.4〜10%程度増大させることができ、またSi吸収能力を0.01〜0.0 5g/cm 2程度向上させることができた。 【0041】また、表面に酸化促進物質を付着させた後酸化処理を施した実施例7〜12に係る炭素材は、Si 吸収能力の向上が特に顕著となり、0.02〜0.11 g/cm 2程度向上させることができた。 また、曲げ強度の低下も少なく、特に実施例8、9に示す炭素材ではむしろ曲げ強度が40〜60kg/cm 2向上した。 【0042】また、実施例5と実施例6あるいは実施例11と実施例12の比較から明らかなように、酸化処理時の酸素濃度が20%であっても50%であってもいずれも十分に上記効果を発揮させ得るものである。 よって前記酸素濃度は特に限定されるものではなく、酸化処理時間との関係を考慮する必要がある。 【0043】次に、酸化促進物質として様々の金属元素を使用し、適正を調べた結果を説明する。 【0044】表2は様々の元素と、炭素材表面の酸化挙動とを示した表であり、表中、酸化促進物質を付着させなかった場合(表1、実施例1〜6)と比較して、酸化減量(酸化処理による重量の減少量)が著しく増加したもの(酸化促進物質としての機能が十分に発揮されたもの)を○とし、酸化減量に大差が現われなかったもの(酸化促進物質としての機能が不十分であったもの)を×として記載した。 【0045】サンプルとしては嵩密度が1.78g/c m 3の炭素材を実施例1〜12と同形状に仕上げ、該サンプル上に鉄、銅、ニッケル、チタン、コバルト、マンガン、モリブデン、クロム、アルミニウム、バナジウムの粉末をおのおの単独でのせた後、硝酸を滴下して前記金属を表面に分散させ、その後580℃で1時間空気(酸素濃度20%)中で加熱することにより酸化処理を施した。 酸化処理の前後で前記サンプルの減量値を求め、その酸化減量値から酸化挙動を調べた。 【0046】 【表2】 【0047】表2から明らかなように、銅、コバルト、 マンガン、モリブデン、バナジウムでは、酸化促進物質を付着させなかった場合と比べ酸化減量が著しかったが、鉄、ニッケル、チタン、アルミニウムでは前記酸化減量が酸化促進物質を付着させなかった場合と大差なかった。 これにより、銅、コバルト、マンガン、モリブデン、バナジウムが酸化促進物質としては適切で、気孔率の増大にとって有効な元素であることがわかった。 【図面の簡単な説明】 【図1】実施例で用いた試験片の形態を示す模式的斜視図である。 |