Inverted pendulum type vehicle

申请号 JP2012111032 申请日 2012-05-14 公开(公告)号 JP2013129415A 公开(公告)日 2013-07-04
申请人 Honda Motor Co Ltd; 本田技研工業株式会社; 发明人 JOKURA SHINYA; MURAKAMI HIDEO; TAKENAKA TORU;
摘要 PROBLEM TO BE SOLVED: To provide an inverted pendulum type vehicle with enhanced maneuverability of the vehicle capable of permitting an easy turn of the vehicle.SOLUTION: An inverted pendulum type vehicle 1 having a tiltable rider mounting section 5 includes a first travel operation unit 3 and a second travel operation unit 4, which are disposed with an interval provided therebetween in a longitudinal direction and which are capable of traveling in all directions, and an operation device 12 which outputs a turn command. In the case where the turn command is output from the operation device 12 while at least the first travel operation unit travels in the longitudinal direction or at rest, the moving velocity of the ground contact point of the first travel operation unit 3 and the moving velocity of the ground contact point of the second travel operation unit 4 in the lateral direction of a rider are controlled to have velocities that are different from each other.
权利要求
  • 床面上を移動可能な第1の移動動作部と、該第1の移動動作部を駆動する第1のアクチュエータ装置と、前記第1の移動動作部及び第1のアクチュエータ装置が組み付けられた基体と、鉛直方向に対して傾動自在に前記基体に組み付けられた乗員搭乗部とを少なくとも備え、前記第1の移動動作部が、前記第1のアクチュエータ装置の駆動力によって前記乗員搭乗部に搭乗した乗員の前後方向及び左右方向を含む全方向に移動可能に構成された倒立振子型車両であって、
    前記第1の移動動作部と前記前後方向に間隔を存して該第1の移動動作部又は前記基体に連結され、床面上を前記全方向に移動可能に構成された第2の移動動作部と、
    少なくとも該第2の移動動作部の前記左右方向への移動を行なわせる駆動力を発生する第2のアクチュエータ装置と、
    前記乗員搭乗部に搭乗した乗員による操作に応じて、少なくとも前記倒立振子型車両の旋回を行なわせるための旋回指令を出力する操作器と、
    前記第1のアクチュエータ装置を制御することにより前記第1の移動動作部の移動動作を制御する第1の制御手段と、
    前記第2のアクチュエータ装置を制御することにより前記第2の移動動作部の移動動作を制御する第2の制御手段とを備え、
    前記第1の制御手段は、前記操作器から前記旋回指令が出力されている場合及び該旋回指令が出力されていない場合のいずれの場合においても、少なくとも前記乗員搭乗部の前記前後方向及び左右方向の一方又は両方の方向への傾動に応じて前記第1の移動動作部を移動させるように前記第1のアクチュエータ装置を制御し、
    前記第2の制御手段は、少なくとも前記第1の移動動作部が前記前後方向に移動しているか又は静止している状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、前記左右方向での前記第2の移動動作部の接地点の移動速度が、前記左右方向での前記第1の移動動作部の接地点の移動速度と異なる速度になるように前記第2のアクチュエータ装置を制御することを特徴とする倒立振子型車両。
  • 請求項1記載の倒立振子型車両において、
    前記第2の移動動作部は、前記第1の移動動作部の後方側に配置されており、
    前記第2の制御手段は、前記倒立振子型車両を右側に旋回させるための前記旋回指令が前記操作器から出力されている場合には、前記第1の移動動作部の接地点に対する前記第2の移動動作部の接地点の前記左右方向での相対的な移動速度が左向きの相対速度となるように前記第2のアクチュエータ装置を制御し、前記倒立振子型車両を左側に旋回させるための前記旋回指令が前記操作器から出力されている場合には、前記第1の移動動作部の接地点に対する前記第2の移動動作部の接地点の前記左右方向での相対的な移動速度が右向きの相対速度となるように前記第2のアクチュエータ装置を制御することを特徴とする倒立振子型車両。
  • 請求項1又は2記載の倒立振子型車両において、
    前記第1の制御手段は、少なくとも前記左右方向での前記第1の移動動作部の接地点の移動速度がゼロとなっている状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、前記第1の移動動作部を前記左右方向に移動させるように前記第1のアクチュエータ装置を制御することを特徴とする倒立振子型車両。
  • 請求項2記載の倒立振子型車両において、
    前記第1の制御手段は、少なくとも前記前後方向及び左右方向での前記第1の移動動作部の接地点の移動速度がゼロとなっている状況である第1の状況で、前記倒立振子型車両を右側に旋回させるための前記旋回指令が前記操作器から出力された場合には、前記第1の移動動作部を左向きに移動させるように前記第1のアクチュエータ装置を制御し、前記第1の状況で、前記倒立振子型車両を左側に旋回させるための前記旋回指令が前記操作器から出力された場合には、前記第1の移動動作部を右向きに移動させるように前記第1のアクチュエータ装置を制御することを特徴とする倒立振子型車両。
  • 請求項4記載の倒立振子型車両において、
    前記第1の制御手段及び第2の制御手段は、少なくとも前記第1の移動動作部が前記前後方向に移動している状況である第2の状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、前記左右方向での前記第1の移動動作部の接地点の移動速度が前記第2の移動動作部の接地点の移動速度と同じ向きにゼロ以上の移動速度となると共に、前記左右方向での第2の移動動作部の接地点の移動速度の大きさが前記第1の移動動作部の接地点の移動速度よりも大きくなるように前記第1のアクチュエータ装置及び第2のアクチュエータ装置のそれぞれを制御することを特徴とする倒立振子型車両。
  • 請求項5記載の倒立振子型車両において、
    前記第1の制御手段及び第2の制御手段は、前記第2の状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、前記左右方向での前記第2の移動動作部の接地点の移動速度の大きさに対する前記第1の移動動作部の接地点の移動速度の大きさの比率を、前記倒立振子型車両のあらかじめ定めた代表点の前記前後方向での移動速度の大きさが大きいほど、ゼロに近づけるように前記第1のアクチュエータ装置及び第2のアクチュエータ装置のそれぞれを制御することを特徴とする倒立振子型車両。
  • 請求項1記載の倒立振子型車両において、
    前記第2の移動動作部は、前記第1の移動動作部の後方側に配置されており、
    前記第1の制御手段及び第2の制御手段は、少なくとも前記前後方向及び左右方向での前記第1の移動動作部の接地点の移動速度がゼロとなっている状況である第1の状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、前記倒立振子型車両が旋回し、且つ、前記第1の移動動作部の前方の領域に瞬間旋回中心が存在するように、前記左右方向での前記第1の移動動作部及び第2の移動動作部の接地点の移動速度をそれぞれ前記第1のアクチュエータ装置及び第2のアクチュエータ装置を介して制御することを特徴とする倒立振子型車両。
  • 請求項7記載の倒立振子型車両において、
    前記第1の制御手段及び第2の制御手段は、少なくとも前記第1の移動動作部が前記前後方向に移動している状況である第2の状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、前記倒立振子型車両が旋回し、且つ、前記第1の移動動作部の接地面内又は該接地面よりも前方の領域に瞬間旋回中心が存在するように、前記左右方向での前記第1の移動動作部及び第2の移動動作部の接地点の移動速度をそれぞれ前記第1のアクチュエータ装置及び第2のアクチュエータ装置を介して制御することを特徴とする倒立振子型車両。
  • 請求項8記載の倒立振子型車両において、
    前記第1の制御手段及び第2の制御手段は、前記第2の状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、前記瞬間旋回中心を、前記倒立振子型車両のあらかじめ定めた代表点の前記前後方向での移動速度の大きさが大きいほど、前記第1の移動動作部の接地面の前方側から該接地面に近づけるように前記左右方向での前記第1の移動動作部及び第2の移動動作部の接地点の移動速度をそれぞれ前記第1のアクチュエータ装置及び第2のアクチュエータ装置を介して制御することを特徴とする倒立振子型車両。
  • 说明书全文

    本発明は、床面上を移動可能な倒立振子型車両に関する。

    床面上を移動する移動動作部と、この移動動作部を駆動するアクチュエータ装置とが組み付けられた基体に、鉛直方向に対して傾動自在な乗員搭乗部が組み付けられた倒立振子型車両が従来より知られている。 この倒立振子型車両は、乗員が搭乗した乗員搭乗部が傾倒しないようにするために、倒立振子の支点を動かすような形態で、移動動作部の移動動作を制御するようにした車両である。

    例えば特許文献1等には、乗員搭乗部の傾動等に応じて、移動動作部を駆動することで、床面上を、乗員の前後方向及び左右方向を含む全方向に移動可能とした倒立振子型車両が本願出願人により提案されている。

    特開2011−068165号公報

    ところで、特許文献1に見られる如き従来の倒立振子型車両では、車両の移動方向を徐々に変化させるように乗員が上体を動かすことで、車両の旋回を行なうことは可能であるものの、その旋回をスムーズに行なうためには一般には、乗員の熟練した操縦技術を必要としていた。

    特に、車両の前進走行を低速で行なっている状況や、車両がほぼ停車しているような状況で、車両の旋回(方向転換)を行なうことは、熟練した乗員であっても難しいものとなっていた。

    本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであり、車両の操縦性を高め、車両の旋回を容易に行なうことができる倒立振子型車両を提供することを目的とする。

    本発明の倒立振子型車両は、かかる目的を達成するために、床面上を移動可能な第1の移動動作部と、該第1の移動動作部を駆動する第1のアクチュエータ装置と、前記第1の移動動作部及び第1のアクチュエータ装置が組み付けられた基体と、鉛直方向に対して傾動自在に前記基体に組み付けられた乗員搭乗部とを少なくとも備え、前記第1の移動動作部が、前記第1のアクチュエータ装置の駆動によって前記乗員搭乗部に搭乗した乗員の前後方向及び左右方向を含む全方向に移動可能に構成された倒立振子型車両であって、
    前記第1の移動動作部と前記前後方向に間隔を存して該第1の移動動作部又は前記基体に連結され、床面上を前記全方向に移動可能に構成された第2の移動動作部と、
    少なくとも該第2の移動動作部の前記左右方向への移動を行なわせる駆動力を発生する第2のアクチュエータ装置と、
    前記乗員搭乗部に搭乗した乗員による操作に応じて、少なくとも前記倒立振子型車両の旋回を行なわせるための旋回指令を出力する操作器と、
    前記第1のアクチュエータ装置を制御することにより前記第1の移動動作部の移動動作を制御する第1の制御手段と、
    前記第2のアクチュエータ装置を制御することにより前記第2の移動動作部の移動動作を制御する第2の制御手段とを備え、
    前記第1の制御手段は、前記操作器から前記旋回指令が出力されている場合及び該旋回指令が出力されていない場合のいずれの場合においても、少なくとも前記乗員搭乗部の前記前後方向及び左右方向の一方又は両方の方向への傾動に応じて前記第1の移動動作部を移動させるように前記第1のアクチュエータ装置を制御し、
    前記第2の制御手段は、少なくとも前記第1の移動動作部が前記前後方向に移動しているか又は静止している状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、前記左右方向での前記第2の移動動作部の接地点の移動速度が、前記左右方向での前記第1の移動動作部の接地点の移動速度と異なる速度になるように前記第2のアクチュエータ装置を制御することを特徴とする(第1発明)。

    かかる第1発明によれば、前記第1の移動動作部及び第1のアクチュエータ装置に加えて、前記旋回指令を出力する操作器と、前記第1の移動動作部と前後方向に間隔を存して配置されて、全方向に移動可能な第2に移動動作部と、この第2の移動動作部を前記左右方向に移動させる駆動力を発生する第2のアクチュエータ装置とが倒立振子型車両に備えられている。

    そして、前記操作器から前記旋回指令が出力されていない場合及び該旋回指令が出力されていない場合のいずれの場合においても、少なくとも前記乗員搭乗部の前記前後方向及び左右方向の一方又は両方の方向への傾動に応じて前記第1の移動動作部を移動させるように前記第1のアクチュエータ装置が第1の制御手段により制御される。

    一方、前記第2の制御手段は、少なくとも前記第1の移動動作部が前記前後方向に移動しているか又は静止している状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、前記左右方向での前記第2の移動動作部の接地点の移動速度が、前記左右方向での前記第1の移動動作部の接地点の移動速度と異なる速度になるように前記第2のアクチュエータ装置を制御する。

    このため、第1の移動動作部と第2の移動動作部とでは、それぞれの接地点の左右方向の移動速度の速度差が発生する。 これにより、前後方向での倒立振子型車両の移動速度によらずに、倒立振子型車両の旋回(方向転換を含む)が行なわれる。

    従って、第1発明の倒立振子型車両によれば、乗員搭乗部に搭乗した乗員は、該乗員搭乗部を傾動させることで、車両の移動を行なわせることができるだけでなく、操作器を操作して、旋回指令を出力させることで、乗員搭乗部の複雑な傾動動作を行なわせることなく、車両を旋回させることができる。

    よって、第1発明の倒立振子型車両によれば、車両の操縦性を高め、車両の旋回を容易に行なうことができる。

    かかる第1発明では、前記第2の移動動作部は、例えば前記第1の移動動作部の後方側に配置される。 そして、この場合、前記第2の制御手段は、前記倒立振子型車両を右側に旋回させるための前記旋回指令が前記操作器から出力されている場合には、前記第1の移動動作部の接地点に対する前記第2の移動動作部の接地点の前記左右方向での相対的な移動速度が左向きの相対速度となるように前記第2のアクチュエータ装置を制御し、前記倒立振子型車両を左側に旋回させるための前記旋回指令が前記操作器から出力されている場合には、前記第1の移動動作部の接地点に対する前記第2の移動動作部の接地点の前記左右方向での相対的な移動速度が右向きの相対速度となるように前記第2のアクチュエータ装置を制御する(第2発明)。

    この第2発明によれば、前記第1の移動動作部の接地点に対する前記第2の移動動作部の接地点の前記左右方向での相対的な移動速度の向きが、前記旋回指令により規定される車両の旋回方向に対応する向きになるので、車両の右側又は左側への旋回をスムーズに行なうことができる。

    上記第1発明又は第2発明では、前記第1の移動動作部の移動が行なわれていない状態で、車両の旋回を行うことも可能であるが、その場合、第1の移動動作部と床面との間の摩擦力によって、車両の旋回が円滑に行われない恐れがある。

    そこで、前記第1発明又は第2発明では、前記第1の制御手段は、少なくとも前記左右方向での前記第1の移動動作部の接地点の移動速度がゼロとなっている状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、前記第1の移動動作部を前記左右方向に移動させるように前記第1のアクチュエータ装置を制御することが好ましい(第3発明)。

    なお、第3発明において、前記左右方向での第1の移動動作部の接地点の移動速度がゼロとなっている状況というのは、該移動速度が厳密にゼロである状況だけを意味するものではなく、該移動速度の大きさが十分に微小なもの(ほぼゼロ)となっている状況を含むものである。

    この第3発明によれば、前記第1の移動動作部の前記左右方向への移動が行なわれつつ、車両の旋回が行なわれる。 このため、前記第1の移動動作部と床面との間の摩擦力が軽減される。 その結果、車両の旋回を円滑に行うことができる。

    また、前記第2発明においては、前記第1の制御手段は、少なくとも前記前後方向及び左右方向での前記第1の移動動作部の接地点の移動速度がゼロとなっている状況である第1の状況で、前記倒立振子型車両を右側に旋回させるための前記旋回指令が前記操作器から出力された場合には、前記第1の移動動作部を左向きに移動させるように前記第1のアクチュエータ装置を制御し、前記第1の状況で、前記倒立振子型車両を左側に旋回させるための前記旋回指令が前記操作器から出力された場合には、前記第1の移動動作部を右向きに移動させるように前記第1のアクチュエータ装置を制御することが好ましい(第4発明)。

    なお、第4発明において、前記前後方向及び左右方向での第1の移動動作部の接地点の移動速度がゼロとなっている状況(第1の状況)というのは、該前後方向及び左右方向の移動速度が厳密にゼロである状況だけを意味するものではなく、該前後方向又は左右方向の移動速度の大きさが十分に微小なもの(ほぼゼロ)となっている状況を含むものである。

    この第4発明によれば、前記第1の状況で、倒立振子型車両を右側に旋回させるための旋回指令が操作器から出力された場合には、第1の移動動作部は、左右方向のうちの左向きに移動するように制御される。

    また、前記第1の状況で、倒立振子型車両を左側に旋回させるための旋回指令が操作器から出力された場合には、第1の移動動作部は、左右方向のうちの右向きに移動するように制御される。

    また、第2の移動動作部は、前記左右方向のうちの第1の移動動作部と同じ向きに、第1の移動動作部よりも速い移動速度で移動するように制御される。

    このため、前記第1の状況での前記旋回指令に応じた車両の旋回は、第1及び第2の移動動作部の接地面の前方の領域に瞬間旋回中心が存在するように行なわれることとなる。 なお、本明細書における瞬間旋回中心というのは、車両の旋回中の各瞬間でのヨー軸周りの方向の車両の回転運動の回転中心を意味する。

    この結果、乗員搭乗部に搭乗している乗員は、車両の旋回挙動を体感的に認識しやすくなる。 ひいては、該乗員は、車両の旋回挙動の認識を適切に行いつつ、所望の旋回挙動が得られるように操作器を操作することができる。

    また、第1の移動動作部及び第2の移動動作部の両方が左右方向に移動しつつ、車両の旋回が行なわれるので、該旋回が、各移動動作部と床面との間の摩擦力により阻害されるのを防止できる。 ひいては、該旋回を円滑に行うことができる。

    また、上記第4発明では、前記第1の制御手段及び第2の制御手段は、少なくとも前記第1の移動動作部が前記前後方向に移動している状況である第2の状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、前記左右方向での前記第1の移動動作部の接地点の移動速度が前記第2の移動動作部の接地点の移動速度と同じ向きにゼロ以上の移動速度となると共に、前記左右方向での第2の移動動作部の接地点の移動速度の大きさが前記第1の移動動作部の接地点の移動速度よりも大きくなるように前記第1のアクチュエータ装置及び第2のアクチュエータ装置のそれぞれを制御することが好ましい(第5発明)。

    この第5発明によれば、前記第1の移動動作部が前記前後方向に移動している第2の状況、すなわち、車両が前後方向に移動している状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、第1の移動動作部及び第2の移動動作部の接地点の移動速度が上記の如く制御されることで、車両は、第1の移動動作部の接地面内あるいは、該接地面よりも前方の領域に瞬間旋回中心が存在するように旋回することとなる。

    このため、乗員搭乗部に搭乗している乗員は、車両の旋回挙動を体感的に容易に認識しつつ、所望の旋回挙動が得られるように操作器を操作することができる。

    上記第5発明では、前記第1の制御手段及び第2の制御手段は、前記第2の状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、前記左右方向での前記第2の移動動作部の接地点の移動速度の大きさに対する前記第1の移動動作部の接地点の移動速度の大きさの比率を、既定の所定値に保つように前記第1のアクチュエータ装置及び第2のアクチュエータ装置のそれぞれを制御するようにすることも可能である。

    ただし、前記第1の制御手段及び第2の制御手段は、前記第2の状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、前記左右方向での前記第2の移動動作部の接地点の移動速度の大きさに対する前記第1の移動動作部の接地点の移動速度の大きさの比率を、前記倒立振子型車両のあらかじめ定めた代表点の前記前後方向での移動速度の大きさが大きいほど、ゼロに近づけるように前記第1のアクチュエータ装置及び第2のアクチュエータ装置のそれぞれを制御することが好ましい(第6発明)。

    なお、倒立振子型車両の代表点としては、該車両の全体の重心点、あるいは、前記基体又は乗員搭乗部に対して固定された位置の点、あるいは、前記第1の移動動作部と前記前後方向の移動速度が同一になる点等を採用することができる。

    この第6発明によれば、前記旋回指令に応じて車両の旋回を行なうときに、倒立振子型車両の代表点の前後方向での移動速度が大きいほど、前記比率がゼロに近づくので、第1の移動動作部及び第2の移動動作部の左右方向での移動が少なくなり、車両の旋回経路を、所望の経路に沿わせ易くなる。 ひいては、車両を前後方向に移動させながら、所望の旋回させるための操作器の操作が容易になる。

    また、前記倒立振子型車両の代表点の前記前後方向での移動速度が小さい場合には、前記旋回指令に応じた車両の旋回時には、第1の移動動作部及び第2の移動動作部が左右方向に移動しながら車両の旋回が行なわれる。 このため、前記倒立振子型車両の代表点の前記前後方向での移動速度が小さい状況での車両の旋回が、各移動動作部と床面との間の摩擦力により阻害されるのを防止できる。 ひいては、該旋回を円滑に行うことができる。

    また、本発明の倒立振子型車両は、上記第1発明において、前記第2の移動動作部は、例えば前記第1の移動動作部の後方側に配置される。 そして、この場合、前記第1の制御手段及び第2の制御手段は、少なくとも前記前後方向及び左右方向での前記第1の移動動作部の接地点の移動速度がゼロとなっている状況である第1の状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、前記倒立振子型車両が旋回し、且つ、前記第1の移動動作部の接地面の前方の領域に瞬間旋回中心が存在するように、前記左右方向での前記第1の移動動作部及び第2の移動動作部の接地点の移動速度をそれぞれ前記第1のアクチュエータ装置及び第2のアクチュエータ装置を介して制御するとが好ましい(第7発明)。

    なお、第7発明において、前記前後方向及び左右方向での前記第1の移動動作部の接地点の移動速度がゼロとなっている状況(第1の状況)というのは、第4発明の場合と同様に、該前後方向及び左右方向の移動速度が厳密にゼロである状況だけを意味するものではなく、該前後方向又は左右方向の移動速度の大きさが十分に微小なもの(ほぼゼロ)となっている状況を含むものである。

    この第7発明によれば、第4発明と同様に、前記第1の状況での前記旋回指令に応じた車両の旋回は、第1及び第2の移動動作部の接地面の前方の領域に瞬間旋回中心が存在するように行なわれることとなる。

    この結果、乗員搭乗部に搭乗している乗員は、車両の旋回挙動を体感的に認識しやすくなる。 ひいては、該乗員は、車両の旋回挙動の認識を適切に行いつつ、所望の旋回挙動が得られるように操作器を操作することができる。

    また、第1の移動動作部及び第2の移動動作部の両方が左右方向に移動しつつ、車両の旋回が行なわれるので、該旋回が、各移動動作部と床面との間の摩擦力により阻害されるのを防止できる。 ひいては、該旋回を円滑に行うことができる。

    なお、第7発明では、前記左右方向での第1の移動動作部及び第2の移動動作部の接地点の移動速度を前記第4発明と同様に制御することで、第1の移動動作部の前方の領域に瞬間旋回中心が存在するように車両を旋回させるようにすることができる。

    また、上記第7発明では、前記第1の制御手段及び第2の制御手段は、少なくとも前記第1の移動動作部が前記前後方向に移動している状況である第2の状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、前記倒立振子型車両が旋回し、且つ、前記第1の移動動作部の接地面内又は該接地面よりも前方の領域に瞬間旋回中心が存在するように、前記左右方向での前記第1の移動動作部及び第2の移動動作部の接地点の移動速度をそれぞれ前記第1のアクチュエータ装置及び第2のアクチュエータ装置を介して制御することが好ましい(第8発明)。

    この第8発明によれば、前記第1の移動動作部が前記前後方向に移動している第2の状況、すなわち、車両が前後方向に移動している状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、第5発明と同様に、車両は、第1の移動動作部の接地面内あるいは、該接地面よりも前方の領域に瞬間旋回中心が存在するように旋回することとなる。

    このため、乗員搭乗部に搭乗している乗員は、車両の旋回挙動を体感的に容易に認識しつつ、所望の旋回挙動が得られるように操作器を操作することができる。

    なお、第8発明では、前記左右方向での第1の移動動作部及び第2の移動動作部の接地点の移動速度を前記第5発明と同様に制御することで、前記第1の移動動作部の接地面内あるいは、該接地面よりも前方の領域に瞬間旋回中心が存在するように車両を旋回させるようにすることができる。

    上記第8発明では、前記第1の制御手段及び第2の制御手段は、前記第2の状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合における車両の瞬間旋回中心を、車両に対して一定の位置になるようにすることも可能である。

    ただし、前記第1の制御手段及び第2の制御手段は、前記第2の状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合には、前記瞬間旋回中心を、前記倒立振子型車両のあらかじめ定めた代表点の前記前後方向での移動速度の大きさが大きいほど、前記第1の移動動作部の接地面の前方側から該接地面に近づけるように前記左右方向での前記第1の移動動作部及び第2の移動動作部の接地点の移動速度をそれぞれ前記第1のアクチュエータ装置及び第2のアクチュエータ装置を介して制御することが好ましい(第9発明)。

    なお、倒立振子型車両の代表点としては、前記第6発明と同様に、該車両の全体の重心点、前記基体又は乗員搭乗部に対して固定された位置の点、前記第1の移動動作部と前記前後方向の移動速度が同一になる点等を採用することができる。

    この第9発明によれば、前記旋回指令に応じて車両の旋回を行なうときに、前記第6発明と同様に、前記倒立振子型車両の代表点の前記前後方向での移動速度の大きさが大きいほど、第1の移動動作部及び第2の移動動作部の左右方向での移動が少なくなり、車両の旋回経路を、所望の経路に沿わせ易くなる。 ひいては、車両を前後方向に移動させながら、所望の旋回させるための操作器の操作が容易になる。

    また、前記倒立振子型車両の代表点の前記前後方向での移動速度が小さい場合には、前記第6発明と同様に、前記旋回指令に応じた車両の旋回時には、第1の移動動作部及び第2の移動動作部が左右方向に移動しながら車両の旋回が行なわれる。 このため、前記倒立振子型車両の代表点の前記前後方向での移動速度が小さい状況での車両の旋回が、各移動動作部と床面との間の摩擦力により阻害されるのを防止できる。 ひいては、該旋回を円滑に行うことができる。

    なお、第9発明では、前記第2の状況で、前記操作器から前記旋回指令が出力された場合に、前記第1の移動動作部及び第2の移動動作部の接地点の移動速度を前記第6発明と同様に制御することで、前記瞬間旋回中心を、前記倒立振子型車両の代表点の前記前後方向での移動速度の大きさが大きいほど、前記第1の移動動作部の接地面の前方側から該接地面に近づけるようにすることができる。

    なお、本発明の倒立振子型車両は次のような形態を採用することもできる。 すなわち、例えば前記乗員搭乗部が前記基体と一体に傾動自在である場合には、前記第2の移動動作部を前記第1の移動動作部の後方側に配置し、該第2の移動動作部を前記左右方向の軸周りで前記基体に対して揺動自在に設ける。 そして、この場合、前記基体に対する第2の移動動作部の揺動範囲を制限する機構を前記車両に備えておく。

    このようにすることで、乗員搭乗部が前記乗員による視認が難しい後方側に過剰に傾くのを防止することができる。

    また、前記第2の移動動作部を床面に対して押し付けるバネ等の付勢手段を備えるようにしてもよい。 このようにすることで、第2の移動動作部のスリップが生じるのを防止することができる。

    また、前記操作器は、前記乗員搭乗部に搭乗した乗員による操作に応じて、前記倒立振子型車両の前進又は後進を行なわせるための前進・後進指令を出力する機能をさらに備えるようにしてもよい。 そして、この場合、前記第1の制御手段は、該操作器から前進・後進指令が出力されている場合に、前記第1の移動動作部を前記前後方向に移動させるように前記第1のアクチュエータ装置を制御するようにしてもよい。

    本発明の第1実施形態の倒立振子型車両の外観斜視図。

    第1実施形態の倒立振子型車両の側面図。

    第1実施形態の倒立振子型車両の制御のための構成を示すブロック図。

    図3に示す第1制御処理部の処理を示すブロック線図。

    図3に示す第1制御処理部の処理に用いる倒立振子モデルを説明するための図。

    図5の倒立振子モデルに関する挙動を示すブロック線図。

    図4に示す操作指令変換部の処理を示すブロック線図。

    図4に示す重心ずれ推定部の処理を示すブロック線図。

    図3に示す第2制御処理部の処理を示すブロック線図。

    第2実施形態における第1制御処理部の要部の処理を示すブロック図。

    [第1実施形態]
    本発明の第1実施形態を図1〜図8を参照して説明する。 図1及び図2に示すように本実施形態の倒立振子型車両1(以降、単に車両1ということがある)は、基体2と、床面上を移動可能な第1の移動動作部3及び第2の移動動作部4と、乗員が搭乗する乗員搭乗部5とを備える。

    第1の移動動作部3は、図2に示す円環状の芯体6(以下、環状芯体6という)と、この環状芯体6の円周方向(軸心周り方向)に等度間隔で並ぶようにして該環状芯体6に装着された複数の円環状のローラ7とを備える。 各ローラ7は、その回転軸心を環状芯体6の円周方向に向けて環状芯体6に外挿されている。 そして、各ローラ7は、環状芯体6の軸心周りに該環状芯体6と一体に回転可能とされていると共に、該環状芯体6の横断面の中心軸(環状芯体6の軸心を中心とする円周軸)周りに回転可能とされている。

    これらの環状芯体6及び複数のローラ7を有する第1の移動動作部3は、環状芯体6の軸心を床面と平行に向けた状態で、ローラ7(環状芯体6の下部に位置するローラ7)を介して床面上に接地される。 この接地状態で、環状芯体6をその軸心周りに回転駆動することで、環状芯体6及び各ローラ7の全体が輪転し、それにより第1の移動動作部3が環状芯体6の軸心と直交する方向に床面上を移動するようになっている。 また、上記接地状態で、各ローラ7をその回転軸心周りに回転駆動することで、第1の移動動作部3が、環状芯体6の軸心方向に移動するようになっている。

    さらに、環状芯体6の回転駆動と各ローラ7の回転駆動とを行なうことで、環状芯体6の軸心と直交する方向と、環状芯体6の軸心方向とに対して傾斜した方向に第1の移動動作部3が移動するようになっている。

    これにより、第1の移動動作部3は、床面上を全方向に移動することが可能となっている。 以降の説明では、図1及び図2に示す如く、第1の移動動作部3の移動方向のうち、環状芯体6の軸心と直交する方向をX軸方向、該環状芯体6の軸心方向をY軸方向とし、鉛直方向をZ軸方向とする。 なお、前方向をX軸の正方向、左方向をY軸の正方向、上方向をZ軸の正方向とする。

    基体2には、上記第1の移動動作部3が組み付けられている。 より詳しくは、基体2は、床面に接地させた第1の移動動作部3の下部を除く部分の周囲を覆うように設けられている。 そして、この基体2に第1の移動動作部3の環状芯体6が、その軸心周りに回転自在に支持されている。

    この場合、基体2は、第1の移動動作部3の環状芯体6の軸心を支点として、その軸心周りに(Y軸周りに)傾動自在とされていると共に、第1の移動動作部3と共に床面に対して傾くことで、第1の移動動作部3の接地部を支点として、環状芯体6の軸心と直交するX軸周りに傾動自在とされている。 従って、基体2は、鉛直方向に対して2軸周りに傾動自在とされている。

    また、基体2の内部には、図2に示す如く、第1の移動動作部3を移動させる駆動力を発生する第1のアクチュエータ装置8が搭載されている。 この第1のアクチュエータ装置8は、環状芯体6を回転駆動するアクチュエータとしての電動モータ8aと、各ローラ7を回転駆動するアクチュエータとしての電動モータ8bとから構成される。 そして、電動モータ8a,8bは、それぞれ図示を省略する動力伝達機構を介して環状芯体6、各ローラ7に回転駆動力を付与するようにしている。 なお、該動力伝達機構は公知の構造のものでよい。

    なお、第1の移動動作部3は、上記の構造と異なる構造のものであってもよい。 例えば、第1の移動動作部3及びその駆動系の構造として、PCT国際公開公報WO/2008/132778、あるいは、PCT国際公開公報WO/2008/132779にて本願出願人が提案した構造のものを採用してもよい。

    また、基体2には、乗員搭乗部5が組み付けられている。 この乗員搭乗部5は、乗員が着座するシートにより構成されており、その基体2の上端部に固定されている。 そして、乗員は、その前後方向をX軸方向、左右方向をY軸方向に向けて、乗員搭乗部5に着座することが可能となっている。 また、乗員搭乗部5(シート)は、基体2に固定されているので、該基体2と一体に鉛直方向に対して傾動自在とされている。

    基体2には、さらに乗員搭乗部5に着座した乗員がその足を載せる一対の足載せ部9,9と、該乗員が把持する一対の把持部10,10とが組み付けられている。

    足載せ部9,9は、基体2の両側部の下部に突設されている。 なお、図1及び図2では、一方側(右側)の足載せ部9の図示は省略されている。

    また、把持部10,10は、乗員搭乗部5の両側にX軸方向(前後方向)に延在して配置されたバー状のものであり、それぞれ、基体2から延設されたロッド11を介して基体2に固定されている。 そして、把持部10,10のうちの一方の把持部10(図では右側の把持部10)には、操作器としてのジョイスティック12が取り付けられている。

    このジョイスティック12は、前後方向(X軸方向)及び左右方向(Y軸方向)に揺動操作可能とされている。 そして、該ジョイスティック12は、その前後方向(X軸方向)の揺動量を示す操作信号を、車両1を前方又は後方に移動させる指令として出力し、左右方向(Y軸方向)の揺動量を示す操作信号を、車両1を右周り(時計周り)又は左周り(反時計周り)に旋回させるための指令(旋回指令)として出力する。 なお、本実施形態では、ジョイスティック12の前後方向の揺動量(すなわち、Y軸周りの回転量)は、前向きの揺動量が正、後向きの揺動量が負である。 また、ジョイスティック12の左右方向の揺動量(すなわち、X軸周りの回転量)は、左向きの揺動量が正、右向きの揺動量が負である。

    第2の移動動作部4は、本実施形態では、所謂、オムニホイールにより構成されている。 第2の移動動作部4としてのオムニホイールは、同軸心の一対の環状芯体(図示省略)と、各環状芯体に、回転軸心を該環状芯体の円周方向に向けて回転自在に外挿された複数の樽状のローラ13とを備える公知の構造のものである。

    この場合、第2の移動動作部4は、その一対の環状芯体の軸心をX軸方向(前後方向)に向けて第1の移動動作部3の後方に配置され、ローラ13を介して床面に接地されている。

    なお、上記一対の環状芯体の一方側のローラ13と、他方側のローラ13とは、該環状芯体の周方向に位相をずらして配置されており、該一対の環状芯体の回転時に、該一対の環状芯体の一方側のローラ13と、他方側のローラ13とのうちのいずれか一方が床面に接地するようになっている。

    上記オムニホイールにより構成された第2の移動動作部4は、基体2に連結されている。 より詳しくは、第2の移動動作部4は、オムニホイール(一対の環状芯体及び複数のローラ13の全体)の上部側の部分を覆う筐体14を備えており、この筐体14にオムニホイールの一対の環状芯体がその軸心周りに回転自在に軸支されている。 さらに、筐体14から基体2側に延設されたアーム15が、前記第1の移動動作部3の環状芯体6の軸心周りに揺動し得るように基体2に軸支されている。 これにより、第2の移動動作部4が、アーム15を介して基体2に連結されている。

    そして、第2の移動動作部4は、アーム15の揺動によって前記第1の移動動作部3の環状芯体6の軸心周りに基体2に対して揺動自在とされ、これにより、第1の移動動作部3と第2の移動動作部4との両方を接地させたまま、乗員搭乗部5を基体2と共にY軸周りに傾動させることが可能となっている。

    なお、アーム15を第1の移動動作部3の環状芯体6の軸心部に軸支して、第1の移動動作部3に第2の移動動作部4をアーム15を介して連結するようにしてもよい。

    また、基体2には、アーム15の揺動範囲を制限する一対のストッパ16,16が設けられており、該アーム15は、ストッパ16,16の間の範囲内で揺動することが可能となっている。 これにより、第1の移動動作部3の環状芯体6の軸心周りでの第2の移動動作部4の揺動範囲、ひいては、基体2及び乗員搭乗部5のX軸周りの傾動範囲が制限され、該基体2及び乗員搭乗部5が乗員の後ろ側に過大に傾くのが防止されるようになっている。

    なお、第2の移動動作部4は、床面に押し付けられるようにバネにより付勢されていてもよい。

    上記の如く第2の移動動作部4は、その一対の環状芯体の回転と、ローラ13の回転とのうちの一方又は両方を行なうことで、第1の移動動作部3と同様に、床面上をX軸方向及びY軸方向を含む全方向に移動することが可能となっている。 詳しくは、環状芯体の回転によって、第2の移動動作部4がY軸方向(左右方向)に移動可能とされ、ローラ13の回転によって、X軸方向(前後方向)に移動可能とされている。

    また、第2の移動動作部4の筐体14には、第2の移動動作部4を駆動する第2のアクチュエータ装置としての電動モータ17を取り付けられている。 この電動モータ17は、第2の移動動作部4の一対の環状芯体を回転駆動するように該一対の環状芯体に連結されている。

    従って、本実施形態では、第2の移動動作部4のX軸方向での移動は、第1の移動動作部3のX軸方向での移動に追従して従動的に行なわれ、第2の移動動作部4のY軸方向での移動は、電動モータ17により第2の移動動作部4の一対の環状芯体を回転駆動することで行なわれるようになっている。

    補足すると、第2の移動動作部4は、第1の移動動作部3と同様の構造のものであってもよい。

    以上が本実施形態における車両1の機構的な構成である。

    図1及び図2での図示は省略したが、本実施形態の車両1の基体2には、該車両1の動作制御(第1の移動動作部3及び第2の移動動作部4の動作制御)のための構成として、図3に示す如く、CPU、RAM、ROM等を含む電子回路ユニットにより構成された制御装置21と、鉛直方向に対する乗員搭乗部5の傾斜角度(基体2の傾斜角度)を計測するための傾斜センサ22と、車両1のヨー軸周りの角速度を計測するためのヨーレートセンサ23とが搭載されている。

    そして、制御装置21には、前記ジョイスティック12の出力と、傾斜センサ22及びヨーレートセンサ23の検出信号とが入力されるようになっている。

    なお、制御装置21は、相互に通信可能な複数の電子回路ユニットに構成されていてもよい。

    上記傾斜センサ22は、例えば加速度センサとジャイロセンサ等の角速度センサとにより構成される。 そして、制御装置21は、これらの加速度センサ及び角速度センサの検出信号から、乗員搭乗部5の傾斜角度(換言すれば基体2の傾斜角度)の計測値を公知の手法を用いて取得する。 その手法としては、例えば特許4181113号にて本願出願人が提案した手法を採用することができる。

    なお、本実施形態における乗員搭乗部5の傾斜角度(又は基体2の傾斜角度)というのは、より詳しくは、車両1と、その乗員搭乗部5に既定の姿勢(標準姿勢)で搭乗した乗員とを併せた全体の重心が、第1の移動動作部3の接地部の直上(鉛直方向上方)に位置する状態での乗員搭乗部5(又は基体2)の姿勢を基準(ゼロ)とする傾斜角度(X軸周り方向の傾斜角度とY軸周り方向の傾斜角度との組)である。

    また、ヨーレートセンサ23は、ジャイロセンサ等の角速度センサにより構成される。 そして、制御装置21は、その検出信号に基づいて、車両1のヨー軸周りの角速度の計測値を取得する。

    また、制御装置21は、実装されるプログラム等により実現される機能(ソフトウェアにより実現される機能)又はハードウェアにより構成される機能として、上記の如く計測値を取得する機能の他、第1のアクチュエータ装置8を構成する電動モータ8a,8bを制御することで第1の移動動作部3の移動動作を制御する第1制御処理部24と、第2のアクチュエータ装置としての電動モータ17を制御することで第2の移動動作部4の移動動作を制御する第2制御処理部25と備える。 これらの第1制御処理部24及び第2制御処理部25は、それぞれ、本発明における第1の制御手段、第2の制御手段に相当するものである。

    第1制御処理部24は、後述する演算処理を実行することで、第1の移動動作部3の移動速度(詳しくは、X軸方向の並進速度とY軸方向の並進速度との組)の目標値である第1目標速度を逐次算出し、第1の移動動作部3の実際の移動速度を、第1目標速度に一致させるように電動モータ8a,8bの回転速度を制御する。

    この場合、電動モータ8a,8bのそれぞれの回転速度と、第1の移動動作部3の実際の移動速度との間の関係はあらかじめ定められており、第1の移動動作部3の第1目標速度に応じて、各電動モータ8a,8bの回転速度の目標値が規定されるようになっている。 そして、電動モータ8a,8bの回転速度を第1目標速度に応じて規定される目標値にフィードバック制御することで、第1の移動動作部3の実際の移動速度が、第1目標速度に制御される。

    また、第2制御処理部25は、後述する演算処理を実行することで、第2の移動動作部4の移動速度(詳しくは、Y軸方向の並進速度)の目標値である第2目標速度を逐次算出し、Y軸方向での第2の移動動作部4の実際の移動速度を、第2目標速度に一致させるように電動モータ17の回転速度を制御する。

    この場合、第1の移動動作部3の場合と同様に、電動モータ17の回転速度と、Y軸方向での第2の移動動作部4の実際の移動速度との間の関係はあらかじめ定められており、第2の移動動作部4の第2目標速度に応じて、電動モータ17の回転速度の目標値が規定されるようになっている。 そして、電動モータ17の回転速度を第2目標速度に応じて規定される目標値にフィードバック制御することで、Y軸方向での第2の移動動作部4の実際の移動速度が、第2目標速度に制御される。

    補足すると、本実施形態では、第2の移動動作部4のX軸方向での移動は、第1の移動動作部3のX軸方向の移動に追従して従動的に行なわれる。 このため、X軸方向での第2の移動動作部4の移動速度の目標値を設定する必要はない。

    なお、本明細書の実施形態の説明では、第1の移動動作部3の速度は、特にことわらない限り、第1の移動動作部3の接地点の移動速度を意味する。 同様に、第2の移動動作部4の速度は、特にことわらない限り、第2の移動動作部4の接地点の移動速度を意味する。

    次に、上記第1制御処理部24及び第2制御処理部25の処理をさらに詳細に説明する。 まず、図4〜図7を参照して第1制御処理部24の処理を説明する。

    第1制御処理部24は、図4に示すように、その主要な機能部として、ジョイスティック12から入力される操作信号により示される該ジョイスティック12の前後方向の揺動量(Y軸周りの回転量)Js_x及び左右方向の揺動量(X軸周りの回転量)Js_yから車両1の移動のための速度指令に変換する操作指令変換部31と、車両1とその乗員搭乗部5に搭乗した乗員とを併せた全体の重心(以降、車両系全体重心という)の目標速度を決定する重心目標速度決定部32と、車両系全体重心の速度を推定する重心速度推定部33と、推定した車両系全体重心の速度を目標速度に追従させつつ、乗員搭乗部5の姿勢(基体2の姿勢)を安定化するように第1の移動動作部3の移動速度の目標値を決定する姿勢制御演算部34とを備える。 そして、第1制御処理部24は、これらの各機能部の処理を、制御装置21の所定の演算処理周期で実行する。

    なお、本実施形態では、車両系全体重心というのは、車両1の代表点の一例としての意味を持つものである。 従って、車両系全体重心の速度というのは、その代表点の並進移動速度を意味するものである。

    ここで、第1制御処理部24の各機能部の処理を具体的に説明する前に、その処理の基礎となる事項を説明しておく。 車両系全体重心の動力学的な挙動(詳しくは、Y軸方向から見た挙動と、X軸方向から見た挙動)は、近似的に、図5に示すような倒立振子モデルの挙動により表現される。 第1制御処理部24の処理のアルゴリズムは、この挙動を基礎として構築されている。

    なお、図5の参照符号を含めて、以降の説明では、添え字“_x”はY軸方向から見た場合の変数等の参照符号を意味し、添え字“_y”はX軸方向から見た場合の変数等の参照符号を意味する。 また、図5では、Y軸方向から見た場合の倒立振子モデルと、X軸方向から見た場合の倒立振子モデルとを併せて図示するために、Y軸方向から見た場合の変数の参照符号に括弧を付さないものとし、X軸方向から見た場合の変数の参照符号に括弧を付している。

    Y軸方向から見た車両系全体重心の挙動を表す倒立振子モデルは、Y軸方向と平行な回転軸心を有して床面上を輪転自在な仮想的な車輪61_x(以降、仮想車輪61_xという)と、該仮想車輪61_xの回転中心から延設されて、該仮想車輪61_xの回転軸周りに(Y軸周り方向に)揺動自在なロッド62_xと、このロッド62_xの先端部(上端部)である基準部Ps_xに連結された質点Ga_xとを備える。

    この倒立振子モデルでは、質点Ga_xの運動が、Y軸方向から見た車両系全体重心の運動に相当し、鉛直方向に対するロッド62_xの傾斜角度θb_x(Y軸周り方向の傾斜角度)が、乗員搭乗部5(又は基体2)のY軸周り方向の傾斜角度に一致するものとされる。 また、第1の移動動作部3のX軸方向の並進運動が、仮想車輪61_xの輪転によるX軸方向の並進運動に相当するものとされる。

    そして、仮想車輪61_xの半径r_xと、基準部Ps_x及び質点Ga_xの床面からの高さh_xとは、あらかじめ設定された既定値(一定値)とされる。

    同様に、X軸方向から見た車両系全体重心の挙動を表す倒立振子モデルは、X軸方向と平行な回転軸心を有して床面上を輪転自在な仮想的な車輪61_y(以降、仮想車輪61_yという)と、該仮想車輪61_yの回転中心から延設されて、該仮想車輪61_yの回転軸周りに(X軸周り方向に)揺動自在なロッド62_yと、このロッド62_yの先端部(上端部)である基準部Ps_yに連結された質点Ga_yとを備える。

    この倒立振子モデルでは、質点Ga_yの運動が、X軸方向から見た車両系全体重心の運動に相当し、鉛直方向に対するロッド62_yの傾斜角度θb_y(X軸周り方向の傾斜角度)が、乗員搭乗部5(又は基体2)のX軸周り方向の傾斜角度に一致するものとされる。 また、第1の移動動作部3のY軸方向の並進運動が、仮想車輪61_yの輪転によるY軸方向の並進運動に相当するものとされる。

    そして、仮想車輪61_yの半径r_yと、基準部Ps_y及び質点Ga_yの床面からの高さh_yとは、あらかじめ設定された既定値(一定値)とされる。 なお、X軸方向で見た基準部Ps_y及び質点Ga_yの床面からの高さh_yは、Y軸方向で見た基準部Ps_x及び質点Ga_xの床面からの高さh_xと同じである。 そこで、以降、h_x=h_y=hとおく。

    ここで、Y軸方向から見た場合の上記基準部Ps_xと質点Ga_xとの位置関係ついて補足すると、基準部Ps_xの位置は、乗員搭乗部5に搭乗(着座)した乗員が、該乗員搭乗部5に対してあらかじめ定められた中立姿勢のまま不動であると仮定した場合における車両系全体重心の位置に相当している。 従って、この場合には、質点Ga_xの位置は、基準部Ps_xの位置に一致する。 このことは、X軸方向から見た場合の上記基準部Ps_yと質点Ga_yとの位置関係ついても同様である。

    ただし、実際には、乗員搭乗部5に搭乗した乗員が、その上体等を乗員搭乗部5(又は基体2)に対して動かすことで、実際の車両系全体重心のX軸方向の位置及びY軸方向の位置は、一般には、それぞれ基準部Ps_x,Ps_yの位置から平方向にずれることとなる。 このため、図5では、質点Ga_x,Ga_yの位置をそれぞれ、基準部Ps_x,Ps_yの位置からずらした状態で図示している。

    上記のような倒立振子モデルで表現される車両系全体重心の挙動は、次式(1a)、(1b)、(2a)、(2b)により表現される。 この場合、式(1a),(1b)は、Y軸方向で見た挙動、式(2a),(2b)は、X軸方向で見た挙動を表している。


    Vb_x=Vw1_x+h・ωb_x ……(1a)
    dVb_x/dt=(g/h)・(θb_x・(h−r_x)+Ofst_x)+ωz・Vb_y ……(1b)
    Vb_y=Vw1_y+h・ωb_y ……(2a)
    dVb_y/dt=(g/h)・(θb_y・(h−r_y)+Ofst_y)−ωz・Vb_x ……(2b)

    ここで、Vb_xは、車両系全体重心のX軸方向の速度(並進速度)、θb_xは乗員搭乗部5(又は基体2)のY軸周り方向の傾斜角度、Vw1_xは、仮想車輪61_xのX軸方向の移動速度(並進速度)、ωb_xはθb_xの時間的変化率(=dθb_x/dt)、Ofst_xは車両系全体重心のX軸方向の位置(質点Ga_xのX軸方向の位置)の、前記基準部Ps_xの位置からのX軸方向のずれ量、Vb_yは、車両系全体重心のY軸方向の速度(並進速度)、Vw1_yは、仮想車輪61_yのY軸方向の移動速度(並進速度)、θb_yは乗員搭乗部5(又は基体2)のX軸周り方向の傾斜角度、ωb_yはθb_yの時間的変化率(=dθb_y/dt)、Ofst_yは車両系全体重心のY軸方向の位置(質点Ga_yのY軸方向の位置)の、前記基準部Ps_yの位置からのY軸方向のずれ量である。 また、ωzは車両1の旋回時のヨーレート(ヨー軸周り方向の角速度)、gは重力加速度定数である。 なお、θb_x、ωb_xの正方向は、車両系全体重心がX軸の正方向(前向き)に傾く方向、θb_y、ωb_yの正方向は、車両系全体重心がY軸の正方向(左向き)に傾く方向である。 また、ωzの正方向は、車両1を上方から見た場合に、反時計周り方向である。

    式(1a)の右辺第2項(=h・ωb_x)は、乗員搭乗部5のY軸周り方向の傾動によって生じる基準部Ps_xのX軸方向の並進速度成分、式(2a)右辺第2項(=h・ωb_y)は、乗員搭乗部5のX軸周り方向の傾動によって生じる基準部Ps_yのY軸方向の並進速度成分である。

    補足すると、式(1a)におけるVw1_xは、詳しくは、ロッド62_xに対する(換言すれば乗員搭乗部5又は基体2に対する)相対的な仮想車輪61_xの周速度である。 このため、Vw1_xには、床面に対する仮想車輪61_xの接地点のX軸方向の移動速度(床面に対する第1の移動動作部3の接地点のX軸方向の移動速度)の加えて、ロッド62_xの傾動に伴う速度成分(=r_x・ωb_x)が含まれている。 このことは、式(1b)におけるVw1_yについても同様である。

    また、式(1b)の右辺の第1項は、車両系全体重心のX軸方向の位置(質点Ga_xのX軸方向の位置)の、仮想車輪61_xの接地部(Y軸方向から見た第1の移動動作部3の接地部)の鉛直上方位置からのずれ量(=θb_x・(h−r_x)+Ofst_x)に応じて仮想車輪61_xの接地部に作用する床反力(図5のF)のX軸方向成分(図5のF_x)によって車両系全体重心に発生するX軸方向の加速度成分、式(1b)の右辺の第2項は、ωzのヨーレートでの旋回時に車両1に作用する遠心力によって発生するX軸方向の加速度成分である。

    同様に、式(2b)の右辺の第1項は、車両系全体重心のY軸方向の位置(質点Ga_yのY軸方向の位置)の、仮想車輪61_yの接地部(X軸方向から見た第1の移動動作部3の接地部)の鉛直上方位置からのずれ量(=θb_y・(h−r_y)+Ofst_y)に応じて仮想車輪61_yの接地部に作用する床反力(図5のF)のY軸方向成分(図5のF_y)によって車両系全体重心に発生するY軸方向の加速度成分、式(2b)の右辺の第2項は、ωzのヨーレートでの旋回時に車両1に作用する遠心力によって発生するY軸方向の加速度成分である。

    上記の如く、式(1a)、(1b)により表現される挙動(X軸方向で見た挙動)は、ブロック線図で表現すると、図6に示すように表される。 図中の1/sは積分演算を表している。

    そして、図6における参照符号Aを付した演算部の処理が、式(1a)の関係式に該当しており、参照符号Bを付した演算部の処理が、式(1b)の関係式に該当している。

    なお、図6中のh・θb_xは、近似的には、図5に示したDiff_xに一致する。

    一方、式(2a)、(2b)により表現される挙動(Y軸方向で見た挙動)を表現するブロック線図は、図6中の添え字“_x”を“_y”に置き換え、参照符号Cを付した加算器への入力の一つである図中下側の加速度成分(遠心力によって発生する加速度成分)の符号“+”を“−”に置き換えることによって得られる。

    本実施形態では、第1制御処理部24の処理のアルゴリズムは、上記の如く車両系全体重心の基準部Ps_x,Ps_yからのずれ量と、遠心力とを考慮した車両系全体重心の挙動モデル(倒立振子モデル)に基づいて構築されている。

    以上を前提として、第1制御処理部24の処理をより具体的に説明する。 なお、以降の説明では、Y軸方向から見た挙動に関する変数の値と、X軸方向から見た挙動に関する変数の値との組を添え字“_xy”を付加して表記する場合がある。

    図4を参照して、第1制御処理部24は、制御装置21の各演算処理周期において、まず、操作指令変換部31の処理と、前記重心速度推定部33の処理とを実行する。

    図7に示すように、操作指令変換部31は、ジョイスティック12のY軸方向への揺動量(すなわち、X軸周りの回転量)Js_yと、ジョイスティック12のX軸方向への揺動量(すなわちY軸周りの回転量)Js_xとに応じて、第1の移動動作部3の移動速度(並進速度)の基本指令値である基本速度指令Vjs_xyと、車両1の旋回時のヨー軸周り方向の角速度の基本指令値である基本旋回角速度指令ωjsとを決定する。

    上記基本速度指令Vjs_xyのうち、X軸方向の基本速度指令Vjs_xは、処理部31aにて、ジョイスティック12のX軸方向への揺動量Js_xに応じて決定される。 具体的には、揺動量Js_xが正方向の揺動量(前向きの揺動量)である場合には、X軸方向の基本速度指令Vjs_xは、車両1の前進方向への速度指令(正の速度指令)とされ、揺動量Js_xが負方向の揺動量(後向きの揺動量)である場合には、X軸方向の基本速度指令Vjs_xは、車両1の後進方向への速度指令(負の速度指令)とされる。 また、この場合、X軸方向の基本速度指令Vjs_xの大きさは、ジョイスティック12のX軸方向(前向き又は後向き)への揺動量Js_xの大きさが大きいほど、既定の上限値以下で、大きくなるように決定される。

    なお、ジョイスティック12の正方向又は負方向への揺動量Js_xの大きさが十分に微小なものとなる所定の範囲を不感帯域として、その不感帯域内の揺動量では、X軸方向の基本速度指令Vjs_xをゼロに設定するようにしてもよい。 図7の処理部31a中に示すグラフは、上記不感帯域を有する場合の入力(Js_x)と、出力(Vjs_x)との間の関係を示している。

    また、基本速度指令Vjs_xyのうち、Y軸方向の基本速度指令Vjs_yは、車両1の旋回用の第1の移動動作部3のY軸方向の速度指令として、ジョイスティック12のY軸方向への揺動量Js_yに応じて決定される。 具体的には、揺動量Js_yが負方向の揺動量(右向きの揺動量)である場合には、Y軸方向の基本速度指令Vjs_yは、車両1の左向きへの速度指令(正の速度指令)とされ、揺動量Js_yが正方向の揺動量(左向きの揺動量)である場合には、Y軸方向の基本速度指令Vjs_yは、車両1の右向きへの速度指令(負の速度指令)とされる。 この場合、Y軸方向の基本速度指令Vjs_yの大きさは、ジョイスティック12のY軸方向への(右向き又は左向きへの)揺動量の大きさが大きいほど、既定の上限値以下で、大きくなるように決定される。

    より具体的には、例えば、図7に示す如く、処理部31bの処理によって、ジョイスティック12のY軸方向への揺動量Js_yに応じて、車両1の旋回時のヨー軸周りの方向の角速度の基本指令値である基本旋回角速度指令ωjsが決定される。 この場合、ジョイスティック12の揺動量Js_yが負方向の揺動量(右向きの揺動量)である場合には、基本旋回角速度指令ωjsは、右周り(時計周り)の旋回の角速度指令(負の角速度指令)とされ、ジョイスティック12の揺動量Js_yが正方向の揺動量(左向きの揺動量)である場合には、基本旋回角速度指令ωjsは、左周り(反時計周り)の旋回の角速度指令(正の角速度指令)とされる。 この場合、基本旋回角速度指令ωjsの大きさは、ジョイスティック12のY軸方向への揺動量の大きさが大きいほど、既定の上限値以下で、大きくなるように決定される。

    そして、処理部31cにおいて、この基本旋回角速度指令ωjsに、車両1の瞬間旋回中心と第1の移動動作部3の接地点とのX軸方向の距離としてあらかじめ定められた所定値(>0)の(−1)倍の負の値Kを乗じることによって、第1の移動動作部3のY軸方向の基本速度指令Vjs_yが決定される。

    従って、第1の移動動作部3のY軸方向の基本速度指令Vjs_yは、ジョイスティック12のY軸方向への揺動量Js_yに応じて決定される基本旋回角速度指令ωjsに比例するように決定される。

    ただし、基本速度指令Vjs_y又は基本旋回角速度指令ωjsの大きさは、ジョイスティック12のY軸方向への揺動量の大きさが十分に微小なものとなる所定の範囲を不感帯域として、その不感帯域内の揺動量では、Y軸方向の基本速度指令Vjs_y又は基本旋回角速度指令ωjsをゼロに設定するようにしてもよい。 図7の処理部31b中に示すグラフは、上記不感帯域を有する場合の入力(Js_y)と、出力(ωjs)との間の関係を示している。

    また、ジョイスティック12がX軸方向(前後方向)及びY軸方向(左右方向)の両方に操作されている場合には、Y軸方向の基本速度指令Vjs_yの大きさを、ジョイスティック12のX軸方向への揺動量又はX軸方向の基本速度指令Vjs_xに応じて変化させるようにしてもよい。

    なお、本実施形態では、ジョイスティック12のY軸方向(左右方向)への揺動操作に応じて決定される基本旋回角速度指令ωjs(又はY軸方向の基本速度指令Vjs_y)がゼロでない状態が、ジョイスティック12から旋回指令が出力されている状態に相当し、ωjs(又はVjs_y)がゼロとなる状態が、ジョイスティック12から旋回指令が出力されていない状態に相当する。

    前記重心速度推定部33は、前記倒立振子モデルにおける前記式(1a),(2a)に表される幾何学的な(運動学的な)関係式に基づいて、車両系全体重心の速度の推定値Vb_estm1_xyを算出する。

    具体的には、図4のブロック線図で示す如く、第1の移動動作部3の実際の並進速度Vw1_act_xyの値と、乗員搭乗部5の傾斜角度θb_xyの実際の時間的変化率(傾斜角速度)ωb_act_xyに、車両系全体重心の高さhを乗じてなる値とを加え合せることにより、車両系全体重心の速度の推定値Vb_estm1_xyを算出する。

    すなわち、車両系全体重心のX軸方向の速度の推定値Vb_estm1_xとY軸方向の速度の推定値Vb_estm1_yとがそれぞれ、次式(3a),(3b)により算出される。


    Vb_estm1_x=Vw1_act_x+h・ωb_act_x ……(3a)
    Vb_estm1_y=Vw1_act_y+h・ωb_act_y ……(3b)

    ただし、車両系全体重心の位置の基準部Ps_xyの位置からの前記ずれ量Ofst_xy(以降、重心ずれ量Ofst_xyという)の時間的変化率は、Vb_estm1_xyに比べ十分に小さく無視できるものとした。

    この場合、上記演算におけるVw1_act_x,Vw1_act_yの値としては、本実施形態では、前回の演算処理周期で姿勢制御演算部34により決定された第1の移動動作部3の移動速度の目標値Vw1_cmd_x,Vw1_cmd_y(前回値)が用いられる。

    ただし、例えば、電動モータ8a,8bのそれぞれの回転速度をロータリエンコーダ等の回転速度センサにより検出し、それらの検出値から推定したVw1_act_x,Vw1_act_yの最新値(換言すれば、Vw1_act_x,Vw1_act_yの計測値の最新値)を式(3a),(3b)の演算に用いるようにしてもよい。

    また、ωb_act_x,ωb_act_yの値としては、本実施形態では、前記傾斜センサ22の検出信号に基づく乗員搭乗部5の傾斜角度θbの計測値の時間的変化率の最新値(換言すれば、ωb_act_x,ωb_act_yの計測値の最新値)が用いられる。

    第1制御処理部24は上記の如く操作指令変換部31及び重心速度推定部33の処理を実行した後、次に、図4に示す重心ずれ推定部35aの処理を実行することで、前記重心ずれ量Ofst_xyの推定値である重心ずれ量推定値Ofst_estm_xyを決定する。

    この重心ずれ推定部35aの処理は、図8のブロック線図により示される処理である。 なお、図8は、重心ずれ量推定値Ofst_estm_xyのうちのX軸方向の重心ずれ量推定値Ofst_estm_xの決定処理を代表的に表している。

    図8の処理を具体的に説明すると、重心ずれ推定部35aは、傾斜センサ22の検出信号から得られた乗員搭乗部5のY軸周り方向の実際の傾斜角度θb_act_xの計測値(最新値)と、ヨーレートセンサ23の検出信号から得られた車両1の実際のヨーレートωz_actの計測値(最新値)と、重心速度推定部33により算出された車両系全体重心のY軸方向の速度の第1推定値Vb_estm1_y(最新値)と、前回の演算処理周期で決定したX軸方向の重心ずれ量推定値Ofst_estm_x(前回値)とを用いて、前記式(1b)の右辺の演算処理を演算部35a1で実行することにより、車両系全体重心のX軸方向の並進加速度の推定値DVb_estm_xを算出する。

    さらに重心ずれ推定部35aは、車両系全体重心のX軸方向の並進加速度の推定値DVb_estm_xを積分する処理を演算部35a2で実行することにより、車両系全体重心のX軸方向の速度の第2推定値Vb_estm2_xを算出する。

    次いで、重心ずれ推定部35aは、車両系全体重心のX軸方向の速度の第2推定値Vb_estm2_x(最新値)と、第1推定値Vb_estm1_x(最新値)との偏差を算出する処理を演算部35a3で実行する。

    さらに、重心ずれ推定部35aは、この_偏差に所定値のゲイン(−Kp)を乗じる処理を演算部35a4で実行することにより、X軸方向の重心ずれ量推定値Ofst_estm_xの最新値を決定する。

    Y軸方向の重心ずれ量推定値Ofst_estm_yの決定処理も上記と同様に実行される。 具体的には、この決定処理を示すブロック線図は、図8中の添え字“_x”と“_y”とを入れ替え、加算器35a5への入力の一つである図中右側の加速度成分(遠心力によって発生する加速度成分)の符号“+”を“−”に置き換えることによって得られる。

    このような重心ずれ推定部35aの処理によって、重心ずれ量推定値Ofst_estm_xyを逐次更新しつつ決定することによって、Ofst_estm_xyを実際の値に収束させるように決定することができる。

    第1制御処理部24は、次に、図4に示す重心ずれ影響量算出部35bの処理を実行することによって、重心ずれ影響量Vofs_xyを算出する。

    重心ずれ影響量Vofs_xyは、後述する姿勢制御演算部34において、車両系全体重心の位置が倒立振子モデルにおける前記基準部Ps_xyの位置からずれることを考慮せずにフィードバック制御を行った場合の車両系全体重心の目標速度に対する実際の重心速度のずれを表す。

    具体的には、この重心ずれ影響量算出部35bは、新たに決定された重心ずれ量推定値Ofst_estm_xyの各成分に、(Kth_xy/(h-r_xy))/Kvb_xyという値を乗じることにより、前記重心ずれ影響量Vofs_xyを算出する。

    なお、Kth_xyは、後述する姿勢制御演算部34の処理において、乗員搭乗部5の傾斜角度をゼロ(目標傾斜角度)に近づけるように機能する操作量成分を決定するためのゲイン値である。 また、Kvb_xyは、後述する姿勢制御演算部34の処理において、車両系全体重心の目標速度Vb_cmd_xyと該車両系全体重心の速度の第1推定値おけるVb_estm1_xyとの偏差をゼロに近づけるように機能する操作量成分を決定するためのゲイン値である。

    第1制御処理部24は、次に、図4に示す重心目標速度決定部32の処理を実行することによって、前記操作指令変換部31により決定された基本速度指令Vjs_xyと、前記重心ずれ影響量算出部35bにより決定された重心ずれ影響量Vofs_xyとに基づいて、制限後重心目標速度Vb_cmd_xyを算出する。

    重心目標速度決定部32は、まず、図4に示す処理部32cの処理を実行する。 この処理部32cは、重心ずれ影響量Vofs_xyの値に関する不感帯処理とリミット処理とを実行することで、車両系全体重心の目標値のうちの重心ずれに応じた成分としての目標重心速度加算量Vb_cmd_by_ofs_xyを決定する。

    具体的には、本実施形態では、重心目標速度決定部32は、X軸方向の重心ずれ影響量Vofs_xの大きさがゼロ近辺の所定の範囲である不感帯域内の値(比較的ゼロに近い値)である場合には、X軸方向の目標重心速度加算量Vb_cmd_by_ofs_xをゼロにする。

    また、重心目標速度決定部32は、X軸方向の重心ずれ影響量Vofs_xの大きさが不感帯域内から逸脱した値である場合には、X軸方向の目標重心速度加算量Vb_cmd_by_ofs_xを、Vofs_xと同極性で、その大きさが、Vofs_xの大きさの増加に伴い大きくなるように決定する。 ただし、目標重心速度加算量Vb_cmd_by_ofs_xの値は、所定の上限値(>0)と下限値(≦0)との間の範囲内に制限される。

    Y軸方向の目標重心速度加算量Vb_cmd_by_ofs_yの決定処理も上記と同様である。

    次いで、重心目標速度決定部32は、前記操作指令変換部31により決定された基本速度指令Vjs_xyの各成分に目標重心速度加算量Vb_cmd_by_ofs_xyの各成分を加え合わせてなる目標速度V1_xyを決定する処理を図4に示す処理部32dで実行する。 すなわち、V1_x=Vjs_x+Vb_cmd_by_ofs_x、V1_y=Vjs_y+Vb_cmd_by_ofs_yという処理によって、V1_xy(V1_xとV1_yとの組)を決定する。

    さらに、重心目標速度決定部32は、処理部32eの処理を実行する。 この処理部32eでは、第1の移動動作部3のアクチュエータ装置8としての電動モータ8a,8bのそれぞれの回転速度を、所定の許容範囲から逸脱させることのないようにするために、目標速度V1_xとV1_yとの組み合わせを制限してなる車両系全体重心の目標速度としての制限後重心目標速度Vb_cmd_xy(Vb_cmd_x,Vb_cmd_yの組)を決定するリミット処理が実行される。

    この場合、処理部32dで求められた目標速度V1_x,V1_yの組が、目標速度V1_xの値を縦軸、目標速度V1_yの値を横軸とする座標系上で所定の領域(例えば8角形状の領域)内に在る場合には、その目標速度V1_xyがそのまま制限後重心目標速度Vb_cmd_xyとして決定される。

    また、処理部32dで求められた目標速度V1_x,V1_yの組が、上記座標系上の所定の領域から逸脱している場合には、該所定の領域の境界上の組に制限したものが、制限後重心目標速度Vb_cmd_xyとして決定される。

    以上のごとく、前記基本速度指令Vjs_xyと、前記重心ずれ影響量Vofs_xy(または、重心ずれ)とに基づいて、重心目標速度Vb_cmd_xyが決定されるので、乗員は、操作器の操作(ジョイスティック12の操作)と、乗員の身体の姿勢の変化(体重移動)によって、車両1を操縦することができる。

    以上の如く重心目標速度決定部32の処理を実行した後、第1制御処理部24は、次に、姿勢制御演算部34の処理を実行する。 この姿勢制御演算部34は、図4のブロック線図で示す処理によって、第1の移動動作部3の移動速度(並進速度)の目標値である第1目標速度Vw1_cmd_xyを決定する。

    より詳しくは、姿勢制御演算部34は、まず、前記制限後重心目標速度Vb_cmd_xyの各成分から、重心ずれ影響量Vofs_xyの各成分を減じる処理を演算部34bで実行することにより重心ずれ補償後目標速度Vb_cmpn_cmd_xy(最新値)を決定する。

    次いで、姿勢制御演算部34は、上記演算部34bと、積分演算を行う積分演算部34aとを除く演算部の処理によって、第1の移動動作部3の接地点の並進加速度の目標値である目標並進加速度DVw1_cmd_xyのうちのX軸方向の目標並進加速度DVw1_cmd_xと、Y軸方向の目標並進加速度DVw1_cmd_yとをそれぞれ次式(4a),(4b)の演算により算出する。


    DVw1_cmd_x=Kvb_x・(Vb_cmpn_cmd_x−Vb_estm1_x)
    −Kth_x・θb_act_x−Kw_x・ωb_act_x ……(4a)
    DVw1_cmd_y=Kvb_y・(Vb_cmpn_cmd_y−Vb_estm1_y)
    −Kth_y・θb_act_y−Kw_x・ωb_act_y ……(4b)

    式(4a),(4b)におけるKvb_xy、Kth_xy、Kw_xyはあらかじめ設定された所定のゲイン値である。

    また、式(4a)の右辺の第1項は、車両系全体重心のX軸方向の重心ずれ補償後目標速度Vb_cmpn_cmd_xy(最新値)と第1推定値Vb_estm1_x(最新値)との偏差に応じたフィードバック操作量成分、第2項は、乗員搭乗部5のY軸周り方向の実際の傾斜角度θb_act_xの計測値(最新値)に応じたフィードバック操作量成分、第3項は、乗員搭乗部5のY軸周り方向の実際の傾斜角速度ωb_act_xの計測値(最新値)応じたフィードバック操作量成分である。 そして、X軸方向の目標並進加速度DVw1_cmd_xは、これらのフィードバック操作量成分の合成操作量として算出される。

    同様に、式(4b)の右辺の第1項は、車両系全体重心のY軸方向の重心ずれ補償後目標速度Vb_cmpn_cmd_y(最新値)と第1推定値Vb_estm1_y(最新値)との偏差に応じたフィードバック操作量成分、第2項は、乗員搭乗部5のX軸周り方向の実際の傾斜角度θb_act_yの計測値(最新値)に応じたフィードバック操作量成分、第3項は、乗員搭乗部5のX軸周り方向の実際の傾斜角速度ωb_act_yの計測値(最新値)に応じたフィードバック操作量成分である。 そして、Y軸方向の目標並進加速度DVw1_cmd_yは、これらのフィードバック操作量成分の合成操作量として算出される。

    次いで、姿勢制御演算部34は、積分演算部34aによって、目標並進加速度DVw1_cmd_xyの各成分を積分することによって、第1の移動動作部3の第1目標速度Vw1_cmd_xy(最新値)を決定する。

    そして、第1制御処理部24は、上記の如く決定した第1目標速度Vw1_cmd_xyにしたがって第1の移動動作部3のアクチュエータ装置8としての電動モータ8a,8bを制御する。 より詳しくは、第1制御処理部24は、第1目標速度Vw1_cmd_xyにより規定される各電動モータ8a,8bの回転速度の目標値に、実際の回転速度(計測値)を追従させるように、フィードバック制御処理により各電動モータ8a,8bの電流指令値を決定し、この電流指令値に従って、各電動モータ8a,8bの通電を行なう。

    以上の処理により、前記制限後重心目標速度Vb_cmd_xyが一定値であって、車両1の運動が整定し、車両1が一定速度で直進している状態においては、車両系全体重心は、第1の移動動作部3の接地点の真上に存在する。 この状態では、乗員搭乗部5の実際の傾斜角度θb_act_xyは、式(1b)、(2b)に基づいて、−Ofst_xy/(h−r_xy)となる。 また、乗員搭乗部5の実際の傾斜角速度ωb_act_xyはゼロ、目標並進加速度DVw1_cmd_xyはゼロとなる。 このことと、図4のブロック線図から、Vb_estm1_xyとVb_cmd_xyとが一致することが導き出される。

    すなわち、第1の移動動作部3の第1目標速度Vw1_cmd_xyは、基本的には、車両系全体重心の制限後重心目標速度Vb_cmd_xyと第1推定値Vb_estm1_xyとの偏差をゼロに収束させるように決定される。

    また、車両系全体重心の位置が、倒立振子モデルにおける前記基準部Ps_xyの位置からずれることの影響を補償しつつ、前記処理部32eの処理によって、第1の移動動作部3のアクチュエータ装置8としての電動モータ8a,8bのそれぞれの回転速度が、所定の許容範囲から逸脱することのないように制御される。

    以上が、本実施形態における第1制御処理部24の処理の詳細である。

    次に、前記第2制御処理部25の処理を図9を参照して説明する。 第2制御処理部25は、その処理を概略的に言えば、前記操作指令変換部31により決定される基本旋回角速度指令ωjsがゼロである状況(ジョイスティック12のY軸方向への揺動量Js_yがゼロもしくはほぼゼロである状況)では、車両1の並進移動を行なわせるために、第2の移動動作部4のY軸方向の移動速度(並進速度)の目標値である第2目標速度Vw2_cmd_yを、第1の移動動作部3のY軸方向の第1目標速度Vw1_cmd_yに一致させるように決定する。

    また、第2制御処理部25は、前記基本旋回角速度指令ωjsがゼロでない状況では、車両1の旋回を行なわせるために、第2の移動動作部4のY軸方向の第2目標速度Vw2_cmd_yを、第1の移動動作部3のY軸方向の第1目標速度Vw1_cmd_yと異ならせるように決定する。

    このような第2制御処理部25の処理は、具体的には次のように行なわれる。 すなわち、図9を参照して、第2制御処理部25は、まず、演算部42の処理を実行する。 この演算部42は、上記基本旋回角速度指令ωjsに、第1の移動動作部3と第2の移動動作部4の間のX軸方向の距離L(あらかじめ定められた値)の(−1)倍の値を乗じることによって、基本旋回角速度指令ωjsの角速度で車両1の旋回を行なうための、第1の移動動作部3に対する第2の移動動作部4のY軸方向の相対速度の指令値である基本相対速度指令Vjs2_yを決定する。

    次いで、第2制御処理部25は、上記基本相対速度指令Vjs2_y(最新値)を、第1制御処理部24で決定された第1の移動動作部3のY軸方向の第1目標速度Vw1_cmd_y(最新値)に加える処理を演算部43で実行することにより、第2の移動動作部4のY軸方向の第2目標速度Vw2_cmda_yを決定する。

    次いで、第2制御処理部25は、図9中の演算部44で示すように、第2の移動動作部4のY軸方向における現在の実際の移動速度Vw2_act_yが、前記第2目標速度Vw2_cmd_y(最新値)に追従するように第2のアクチュエータ装置としての電動モータ17の電流(ひいては第2の移動動作部4の駆動力)を制御する。

    具体的には、次式(5)の演算によって電動モータ17の電流指令値Iw2_cmdを決定し、さらに、モータドライバによって、電動モータ17の実際の電流をIw2_cmdに制御する。


    Iw2_cmd=K2・(Vw2_cmd_y−Vw2_act_y) ……(5)

    式(5)におけるK2はあらかじめ設定された所定のゲイン値である。

    また、Vw2_act_yの値としては、本実施形態では、電動モータ17の回転速度の検出値(図示しないロータリエンコーダ等の回転速度センサによる検出値)から推定した値が用いられる。

    なお、式(5)のVw2_cmd_y−Vw2_act_yの代わりに、Vw2_cmd_yにより規定される電動モータ17の回転速度の目標値と、該回転速度の計測値との偏差を用いてもよい。

    以上の第2制御処理部25の制御処理によって、ジョイスティック12から旋回指令が出力されていない状況(基本旋回角速度指令ωjsがゼロである状況)では、前記第2目標速度Vw2_cmd_yは、第1の移動動作部3のY軸方向の第1目標速度Vw1_cmd_y(最新値)に一致するように決定されることとなる。

    また、ジョイスティック12から旋回指令が出力されている状況(基本旋回角速度指令ωjsがゼロでない状況)では、前記第2目標速度Vw2_cmd_yは、前記基本旋回角速度指令ωjsに応じて決定した基本相対速度指令Vjs2_y(最新値)を、第1の移動動作部3のY軸方向の第1目標速度Vw1_cmd_y(最新値)に加えた値に決定される。 すなわち、前記第2目標速度Vw2_cmd_yは、Vw1_cmd_y+Vjs2_yに一致するように決定される。

    従って、前記第2目標速度Vw2_cmd_yは、車両1の旋回が行なわれるように、第1の移動動作部3のY軸方向の第1目標速度Vw1_cmd_yと異なる速度値に決定されることとなる。

    より詳しくは、ジョイスティック12からの旋回指令が車両1を右側(右周り方向)に旋回させようとする指令である場合(ωjsが時計周り方向の角速度である場合)には、基本相対速度指令Vjs2_yは左向きの速度とされる。

    このとき、第1の移動動作部3のY軸方向の第1目標速度Vw1_cmd_yが左向きの速度である場合には、第2の移動動作部4のY軸方向の第2目標速度Vw2_cmd_yは、左向きの速度で、且つ、その大きさが、Vw1_cmd_yよりも大きい速度とされる。

    また、ジョイスティック12からの旋回指令が車両1を右側(右周り方向)に旋回させようとする指令である場合において、第1の移動動作部3のY軸方向の第1目標速度Vw1_cmd_yが右向きの速度である場合には、第2の移動動作部4のY軸方向の第2目標速度Vw2_cmd_yは、右向きの速度で、且つ、その大きさが、Vw1_cmd_yよりも小さい速度とされるか、又は、Vw1_cmd_yと逆向き(左向き)の速度とされる。

    一方、ジョイスティック12からの旋回指令が車両1を左側(左周り方向)に旋回させようとする指令である場合(ωjsが反時計周り方向の角速度である場合)には、基本相対速度指令Vjs2_yは右向きの速度とされる。

    このとき、第1の移動動作部3のY軸方向の第1目標速度Vw1_cmd_yが右向きの速度である場合には、第2の移動動作部4のY軸方向の第2目標速度Vw2_cmd_yは、右向きの速度で、且つ、その大きさが、Vw1_cmd_yよりも大きい速度とされる。

    また、ジョイスティック12からの旋回指令が車両1を左側(左周り方向)に旋回させようとする指令である場合において、第1の移動動作部3のY軸方向の第1目標速度Vw1_cmd_yが左向きの速度である場合には、第2の移動動作部4のY軸方向の第2目標速度Vw2_cmd_yは、左向きの速度で、且つ、その大きさが、Vw1_cmd_yよりも小さい速度とされるか、又は、Vw1_cmd_yと逆向き(右向き)の速度とされる。

    以上が、第2制御処理部25の処理の詳細である。

    以上説明した本実施形態の車両1では、乗員搭乗部5に搭乗した乗員の身体の動きに伴う該乗員搭乗部5(又は基体2)の前後方向(X軸方向)傾動に応じて、あるいは、ジョイスティック12の前後方向の揺動操作に応じてX軸方向での車両1の並進移動を行なうことができる。

    また、乗員搭乗部5(又は基体2)の左右方向(Y軸方向)傾動に応じてY軸方向での車両1の並進移動を行なうことができる。

    また、これらの並進移動を複合して、X軸方向及びY軸方向に対して傾斜した任意の方向にも車両1の並進移動を行なうこともできる。

    また、ジョイスティック12の左右方向の揺動操作に応じて出力される旋回指令に応じて、第1の移動動作部3及び第2の移動動作部4のそれぞれのY軸方向の移動速度を異ならせることによって、車両1の左右のうちの該旋回指令により規定される側への車両1の旋回(方向転換)を行なうこともできる。

    従って、ジョイスティック12等の操作器の複雑な操作や、乗員の身体の複雑な動きを必要とすることなく、車両1の並進移動や旋回を容易に行なうことができる。

    また、車両1の停車時等、第1の移動動作部3のY軸方向の移動速度がゼロもしくはほぼゼロとなっている状況(第1目標速度Vw1_cmd_yがゼロもしくはほぼゼロとなっている状況)で、車両1の旋回を行なうべく乗員がジョイスティック12を左右方向に揺動させると、車両1の代表点としての車両系全体重心の目標速度Vb_cmd_xyには、ジョイスティック12の左右方向の揺動量に応じたY軸方向の速度成分としての基本速度指令Vjs_yが、ジョイスティック12の左右方向の操作が無いと仮定した場合の目標速度に付加される。

    この速度成分Vjs_yは、ジョイスティック12からの旋回指令が車両1を左側(左周り方向)に旋回させようとする指令である場合には、右向きの速度となり、ジョイスティック12からの旋回指令が車両1を右側(右周り方向)に旋回させようとする指令である場合には、左向きの速度となる。

    このため、第1の移動動作部3のY軸方向の第1目標速度Vw1_cmd_yと、第2の移動動作部4のY軸方向の第2目標速度Vw2_cmd_yとは、基本的には、互いに同じ向きとなると共に、Vw2_cmd_yが、Vw1_cmd_yよりも大きな大きさの速度となるように、Vw1_cmd_y及びVw2_cmd_yが設定される。

    このため、ジョイスティック12の左右方向の揺動操作に応じた車両1の旋回(方向転換)は、その旋回中の各瞬間において、第1の移動動作部3及び第2の移動動作部4の接地面の前方の領域に存在する瞬間旋回中心を回転中心として、ヨー軸周り方向に該車両1が回転するように行なわれることとなる。

    この結果、乗員搭乗部5に搭乗している乗員は、車両1の旋回挙動を体感的に認識しやすくなる。 このため、車両1の乗員は、車両1の旋回挙動の認識を適切に行いつつ、所望の旋回挙動が得られるようにジョイスティック12を操作することができる。

    また、例えば、第1の移動動作部3の第1目標速度Vw1_cmd_xyがゼロもしくはほぼゼロに設定されている状況で、ジョイスティック12から旋回指令が出力された場合には、第1の移動動作部3に関するY軸方向の基本速度指令Vjs_yとして、旋回用の速度指令(≠0)が設定される。 このため、第1の移動動作部3をY軸方向に移動させつつ、車両1の旋回を行なうことができる。

    このため、第1の移動動作部3と床面との間の摩擦力が軽減され、車両1の旋回を円滑に行うことができる。

    また、本実施形態では、第1制御処理部24の重心ずれ推定部35aは、図8に示した処理によって、車両系全体重心の前記重心ずれ量Ofst_xyを推定する。 そのため、該重心ずれ量を精度よく推定することができる。 そして、この重心ずれ量Ofst_xyの推定値Ofst_estm_xyに応じて、前記した如く車両系全体重心の目標速度(制限後重心目標速度)Vb_cmd_xyが決定される。 このため、前記重心ずれ量Ofst_xyが車両1の挙動に及ぼす影響を適切に補償することができる。

    また、本実施形態の車両1では、基体2に対する第2の移動動作部4の揺動量(Y軸周り方向の揺動量)が、前記ストッパ16,16により規定される所定の範囲内に機構的に制限されるので、特に、乗員搭乗部5が、乗員が視認し難い後方側に過剰に傾倒するのを防止することができる。

    [第2実施形態]
    次に、本発明の第2実施形態を図10を参照して説明する。 なお、本実施形態では、第1制御処理部24の一部の処理だけが第1実施実施形態と相違するものである。 このため、本実施形態の説明では、第1実施形態と相違する事項を中心に説明し、第1実施形態と同一の事項については説明を省略する。

    本実施形態は、第1の移動動作部3の基本速度指令Vjs_xyを決定する操作指令変換部31の一部の処理(詳しくは、Y軸方向の基本速度指令Vjs_yを決定する処理)が第1実施形態と相違するものである。

    ここで、前記第1実施形態では、ジョイスティック12を左右方向に操作することによる車両1の旋回時には、第1制御処理部24の操作指令変換部31によって、第1の移動動作部3のY軸方向の基本速度指令Vjs_yが、車両1の旋回時の瞬間旋回中心と、第1の移動動作部3の接地点とのX軸方向の距離が所定値(一定値)になるように決定される。

    これに対して、本実施形態では、操作指令変換部31は、第1の移動動作部3の接地点と瞬間旋回中心とのX軸方向の距離が、車両1の代表点のX軸方向での移動速度、例えば車両系全体重心のX軸方向の移動速度の推定値Vb_estm1_xに応じて変化するように、第1の移動動作部3のY軸方向の基本速度指令Vjs_yを決定する。

    図10は、その処理を示すブロック図である。 以下、説明すると、操作指令変換部31は、まず、旋回角速度決定部51の処理を実行することによって、ジョイスティック12の左右方向の揺動量Js_yに応じて基本旋回角速度指令ωjsを決定する。 この処理は、第1実施形態における図7の処理部31bの処理と同じである。

    次いで、操作指令変換部31は、演算部52の処理を実行する。 この演算部52は、第1制御処理部24で決定された車両系全体重心のX軸方向の速度の推定値Vb_estm1_xに応じて、瞬間旋回中心と第1の移動動作部3の接地点との間のX軸方向の距離L1を設定する。

    この場合、演算部52は、あらかじめ設定されたマップあるいは演算式に基づいて、Vb_estm1_xの大きさが大きいほど、L1をゼロに近づけるようにL1を設定する。 換言すれば、演算部42は、Vb_estm1_xの大きさが大きいほど、L1が小さくなるようにL1を設定する。

    なお、Vb_estm1_xの代わりに、車両系全体重心のX軸方向の目標速度(制限後重心目標速度)Vb_cmd_xを用いて、L1を決定するようにしてもよい。 あるいは、基体2もしくは乗員搭乗部5に対して固定された任意の位置の代表点のX軸方向の移動速度の推定値に応じてL1を決定してもよい。 さらに、第1の移動動作部3のX軸方向の第1目標速度Vw1_cmd_x、もしくは、その検出値(電動モータ8aの回転速度の検出値から算出される第1の移動動作部3のX軸方向の移動速度)に応じてL1を決定するようにしてもよい。

    そして、演算部52は、このように設定した距離L1の(−1)倍の値(=−L1)を、基本旋回角速度指令ωjsに乗じることによって、第1の移動動作部3の接地点から前方側に距離L1を存する位置に瞬間旋回中心を存在させた状態で基本旋回角速度指ωjsの角速度での車両1の旋回を行なうための、第1の移動動作部3のY軸方向の基本速度指令Vjs_yを決定する。

    本実施形態は、以上説明した事項以外は、第1実施形態と同じである。

    かかる本実施形態によれば、前記第1実施形態と同様の効果を奏することに加えて、次のような効果を奏することができる。 すなわち、車両1の代表点のX軸方向の移動速度としての車両系全体重心のX軸方向の速度の推定値Vb_estm1_xの大きさが大きいほど、瞬間旋回中心と第1の移動動作部3の接地点とのX軸方向の距離L1がゼロに近づくように決定される。

    この場合、基本旋回角速度指令ωjsが一定である場合、L1がゼロに近いほど、第1の移動動作部3のY軸方向の基本速度指令Vjs_yの大きさもゼロに近づく。 ひいては、基本的には、第2の移動動作部4のY軸方向の目標移動速度Vw2_cmd_yに対する第1の移動動作部3のY軸方向の目標移動速度Vw1_cmd_yの比率の大きさがゼロに近づくように、Vw1_cmd_y、Vw2_cmd_yが決定される。

    そして、この場合、第1の移動動作部3及び第2の移動動作部4のY軸方向の移動量が少なくなるように、車両1の旋回が行なわれることなる。 このため、乗員は、車両1を所望の経路にほぼ沿わせて車両1の旋回を行なうように、ジョイスティック12の操作を行なうことができる。 従って、車両1を比較的高速で旋回させる場合の操縦性を高めることができる。

    また、車両1の移動速度(車両系全体重心のX軸方向の移動速度)が比較的小さい状況では、前記距離L1が大きくなるので、車両1の旋回は、第1の移動動作部3及び第2の移動動作部4のY軸方向の移動を行ないつつ、行なわれる。 このため、第1の移動動作部3と床面との間の摩擦力によって、車両1の旋回が阻害されるのを防止できる。

    次に、以上説明した実施形態の変形態様をいくつか説明する。

    前記各実施形態では旋回指令等を出力するための操作器として、ジョイスティック12を用いたが、ジョイスティックの代わりに、トラックボールや、タッチパッドを使用してもよく、あるいは、乗員による接触箇所を検知する荷重センサや、乗員が把持する姿勢センサ等を使用してもよい。 あるいは、例えばスマートフォン等の携帯型端末機を操作器として使用するようにすることもできる。

    また、第2の移動動作部4は、前述のような1対の環状芯体及びそれに外挿される複数のローラ13で構成されるオムニホイール以外に、一つの環状芯体及びそれに外挿される複数のローラで構成されるものであっても良い。 また、第2の移動動作部4は、オムニホイール以外の構造、例えば、第1の移動動作部3と同様の構造のものであってもよい。

    また、旋回時における第2の移動動作部4のY軸方向の第2目標速度Vw2_cmd_yを、前記重心ずれ量Ofst_xyのY軸方向の推定値Ofst_estm_yに応じて適宜変化させる(Ofst_estm_yに応じて決定した速度成分を、前記基本目標速度Vw2_cmda_yに付加する)ようにしてもよい。 このようにすることで、旋回時の車両1の操縦性をより一層高めることができる。

    また、前記第1実施形態においては、旋回時における第1の移動動作部3のY軸方向の第1目標速度Vw1_cmd_yは、X軸方向の第1目標速度Vw1_cmd_xの大きさが比較的大きい場合に、小さめの速度に制限するようにしてもよい。 このようにすることで、旋回時の車両1の操縦性を高めることができる。

    また、車両1の実際のヨーレートωz_actの計測値としては、ヨーレートセンサ23の検出信号を用いる代わりに、第1の移動動作部3のY軸方向の実際の速度(あるいは、目標速度)と、第2の移動動作部4のY軸方向の実際の速度(あるいは、目標速度)の差を、第1の移動動作部3と第2の移動動作部4の間のX軸方向の距離Lで除することによって、求めてもよい。

    1…倒立振子型車両、2…基体、3…第1の移動動作部、4…第2の移動動作部、5…乗員搭乗部、8a,8b…電動モータ(第1のアクチュエータ装置)、17…電動モータ(第2のアクチュエータ装置)、12…ジョイスティック(操作器)、24…第1制御処理部(第1の制御手段)、25…第2制御処理部(第2の制御手段)。

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