【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、車両用タイヤ、及びそれを用いた車両、特に、通常の路面の走行において転がり抵抗を小さく保持しつつ側溝からの脱出がし易い車両用タイヤ、及び通常の路面と砂地等の荒れた路面の両路面をタイヤ交換なしに走行できる車両用タイヤに関する。 【0002】 【従来の技術】高齢者や身体障害者のための電動車椅子は、最高速度が所定の速度に制限されており、歩道を走行することができる。 また、砂地等の路面を走行する必要のある車両では、そのような路面の走行に適した幅広のバルーンタイヤを装着する。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかし、電動車椅子が走行する歩道などのわきには側溝が存在することがある。 したがって、この側溝に電動車椅子の前輪あるいは後輪がはまってしまった場合、高齢者等にとっては自力で側溝から車輪を引き上げるのは容易ではない。 また、 砂地等を走行するのに適したバルーンタイヤを装着したままで車両が通常の舗装道路を走ると、バルーンタイヤは幅が広く舗装道路面との転がり抵抗が大きいので、燃費が悪化したり、騒音が大きくなったりする。 これを避けるためには、通常の路面と砂地等の荒れた路面とでタイヤを交換するという作業が必要となる。 【0004】本発明の課題は、電動車椅子が側溝から脱出し易いタイヤを提供することにある。 本発明の別の課題は、通常の路面と砂地等の荒れた路面の両路面を燃費等の悪化を抑えつつタイヤ交換なしに車両が走行できるようなタイヤを提供することにある。 【0005】 【課題を解決するための手段】請求項1に記載の車両用タイヤは、車両に装着され、接地面を転動する車両用タイヤであって、第1タイヤ部と第2タイヤ部とを備えている。 第2タイヤ部の径は第1タイヤ部の径よりも小さい。 また、第2タイヤ部は第1タイヤ部の軸方向側方に同心に設けられている。 【0006】本請求項に記載の車両用タイヤを車両に装着すれば、第1タイヤ部の径が第2タイヤ部の径よりも大きいため、通常は第1タイヤ部が接地面を転動する。 そして、第1タイヤ部が側溝などに落ちた場合や、第1 タイヤ部が砂地等に埋もれた場合に、第2タイヤ部が接地面と当接する。 第2タイヤ部が接地面と当接することにより、第1タイヤ部が側溝に落ちた場合にも、第2タイヤ部が接地面上に残るため第1タイヤ部を側溝から脱出させることが可能となる。 すなわち、本請求項に記載の車両用タイヤを装着すれば、車両が側溝から脱出し易くなる。 【0007】また、第2タイヤ部が接地面と当接することにより、第1タイヤ部が砂地等に埋もれて第1タイヤ部だけでは砂地等の接地面との間に十分な摩擦抵抗が得られず走行できない場合にも、第2タイヤ部と接地面との間に摩擦抵抗が作用するため、車両用タイヤの空転が抑えられる。 すなわち、第2タイヤ部を設けたことにより、砂地等の荒れた路面(接地面)での車両の走行性が向上する。 【0008】一方、舗装道路等の通常の路面(接地面) を走行するときには、本請求項に記載の車両用タイヤを装着した車両は第1タイヤ部だけが接地面上を転動するため、接地面との転がり摩擦抵抗は第1タイヤ部だけが発生し、接地していない第2タイヤ部は発生しない。 すなわち、径の異なる少なくとも2つのタイヤ部から車両用タイヤを構成しているため、単に幅が広い車両用タイヤを装着した場合に較べて、通常の路面を走行するときに車両用タイヤの転がり摩擦抵抗が増大して燃費や静粛性が悪化するといった不具合が抑えられる。 【0009】このように、本請求項に記載の車両用タイヤを車両、例えば車椅子に装着すれば、通常の路面での車椅子の走行性の悪化を抑えつつ、側溝からの脱出を容易とすることができる。 また、本請求項に記載の車両用タイヤを悪路を走行することのある車両に装着すれば、 通常の路面での車両の走行性の悪化を抑えつつ、砂地等の荒れた路面での走行性を向上させることができる。 【0010】請求項2に記載の車両用タイヤは、請求項1に記載の車両用タイヤにおいて、第1タイヤ部の接地面との転がり抵抗は第2タイヤ部の接地面との転がり抵抗よりも小さい。 ここでは、第2タイヤ部の接地面との転がり抵抗が第1タイヤ部の接地面との転がり抵抗よりも大きいため、本請求項に記載の車両用タイヤを装着した車両は、砂地等の荒れた路面を走行する際には主として第2タイヤ部と路面との転がり摩擦抵抗によって走行する。 すなわち、第2タイヤ部は主として荒れた路面を走行するための部分であり、第1タイヤ部は主として通常の路面を走行するための部分である。 そして、荒れた路面での走行性を向上させるために第2タイヤ部の転がり抵抗が大きく設定されており、通常の路面上の走行時に燃費や静粛性を向上させるために第1タイヤ部の転がり抵抗が小さく設定されている。 【0011】請求項3に記載の車両用タイヤは、請求項1又は2に記載の車両用タイヤにおいて、第2タイヤ部の幅は第1タイヤ部の幅よりも広い。 ここでは、第2タイヤ部の幅が第1タイヤ部の幅よりも広いため、本請求項に記載の車両用タイヤを装着した車両、例えば車椅子は、通常の走行時には幅が狭く接地面との転がり抵抗が小さい第1タイヤ部により走行するため、燃費や静粛性がよい。 一方、第1タイヤ部が側溝にはまった場合には、第2タイヤ部の幅が第1タイヤ部の幅よりも広いため、さらに第2タイヤ部が側溝にはまってしまうという不具合が抑えられる。 【0012】請求項4に記載の車両用タイヤは、車両に装着され、接地面を転動する車両用タイヤであって、第1タイヤ部と第2タイヤ部とを備えている。 第2タイヤ部は第1タイヤ部の軸方向側方に同心に設けられる。 第1タイヤ部は、空気により膨張可能なものであり、膨張しているときには径が第2タイヤ部の径よりも大きく、 空気量を調節することにより径が第2タイヤ部の径よりも小さくなり得る。 【0013】本請求項に記載の車両用タイヤを車両に装着すれば、第1タイヤ部が膨張しているときには第1タイヤ部の径が第2タイヤ部の径よりも大きいため、第1 タイヤ部が接地面を転動する。 そして、第1タイヤ部が側溝などに落ちた場合や、第1タイヤ部が砂地等に埋もれた場合に、第2タイヤ部が接地面と当接する。 第2タイヤ部が接地面と当接することにより、第1タイヤ部が側溝に落ちた場合にも、第2タイヤ部が接地面上に残るため第1タイヤ部を側溝から脱出させることが可能となる。 すなわち、本請求項に記載の車両用タイヤを装着すれば、車両が側溝から脱出し易くなる。 【0014】また、第2タイヤ部が接地面と当接することにより、第1タイヤ部が砂地等に埋もれて第1タイヤ部だけでは砂地等の接地面との間に十分な摩擦抵抗が得られず走行できない場合にも、第2タイヤ部と接地面との間に摩擦抵抗が作用するため、車両用タイヤの空転が抑えられる。 すなわち、第2タイヤ部を設けたことにより、砂地等の荒れた路面(接地面)での車両の走行性が向上する。 【0015】一方、舗装道路等の通常の路面(接地面) を走行するときには、本請求項に記載の車両用タイヤを装着した車両は第1タイヤ部だけが接地面上を転動するため、接地面との転がり摩擦抵抗は第1タイヤ部だけが発生し、接地していない第2タイヤ部は発生しない。 すなわち、径の異なる少なくとも2つのタイヤ部から車両用タイヤを構成しているため、単に幅が広い車両用タイヤを装着した場合に較べて、通常の路面を走行するときに車両用タイヤの転がり摩擦抵抗が増大して燃費や静粛性が悪化するといった不具合が抑えられる。 【0016】上記のとおり、第1タイヤ部が膨張しているときには第1タイヤ部が接地面を転動するが、第1タイヤ部が側溝などに落ちた場合や、第1タイヤ部が砂地等に埋もれた場合には、第2タイヤ部が接地面と当接する。 そして、第1タイヤ部が側溝などに落ちた場合には第2タイヤ部が接地面上に残ることで第1タイヤ部を側溝から脱出させることが可能となり、第1タイヤ部が砂地等に埋もれた場合には第2タイヤ部と接地面との間の転がり抵抗が車両用タイヤの空転を抑える。 【0017】しかし、第1タイヤ部が側溝などに落ちた場合に、第2タイヤ部が接地面上を転動しても、第1タイヤ部と第2タイヤ部の径の差による段差が存在するため、スムーズには側溝から脱出できない。 また、第1タイヤ部と第2タイヤ部の径の差による段差が存在するため側溝に対する車両用タイヤの角度が一定値以上なければ第1タイヤ部を側溝から脱出させることができないが、側溝に対する車両用タイヤの角度を大きくすると逆に第1タイヤ部及び第2タイヤ部の両タイヤ部が側溝にはまってしまう恐れもある。 【0018】また、第1タイヤ部が砂地等に埋もれた場合に、第1タイヤ部と第2タイヤ部の径の差による段差が存在するため、路面の状態によっては車両の安定性が悪化する。 ここでは、空気量を調節することで、第1タイヤ部の径を第2タイヤ部の径よりも小さくすることができる。 したがって、第1タイヤ部が側溝などに落ちた場合に、第1タイヤ部の径を第2タイヤ部の径よりも小さくするあるいは等しくした後に第2タイヤ部を転動させれば、スムーズに側溝から脱出できる。 また、第1タイヤ部を側溝から脱出させるために側溝に対して車両用タイヤの角度をつける必要がなくなり、両タイヤ部が側溝にはまるという不具合が抑えられる。 【0019】また、ここでは、第1タイヤ部が砂地等に埋もれた場合に、第1タイヤ部の径を調節して車両の安定性を害する第1タイヤ部と第2タイヤ部の径の差を抑えることができるため、車両の砂地等の荒れた路面での走行性を向上することが可能となる。 請求項5に記載の車両は、本体と、車軸と、車両用タイヤとを備えている。 車軸は本体に対して回転自在に装着される。 車両用タイヤは、請求項1から4のいずれかに記載の車両用タイヤであって、車軸に連結される。 【0020】 【発明の実施の形態】本発明の一実施形態における車両用タイヤを装着した電動の車椅子を図1及び図2に示す。 図1は車椅子1の上面図であり、図2は車椅子1の側面図である。 車椅子1は、主として、本体2と、座席3と、ハンドル4と、前輪(車両用タイヤ)5と、左後輪(車両用タイヤ)6及び右後輪(車両用タイヤ)7 と、駆動装置カバー8内の図示しない駆動装置と、操作パネル20とから構成される。 【0021】本体2の前部は運転者の足が載置し易いように傾斜している。 座席3は本体2の後部に固定されている。 ハンドル4は、本体2の前部にベアリングを介して回転自在に装着されており、下端が二股に分かれて前輪5が固定されている車軸の両端を回転自在に支持している。 また、ハンドル4の上部には運転者が握って操舵するための環状の操作部4aが形成されている。 【0022】前輪5は、車軸に固定された前輪リム5d と、前輪リム5dの外周面に固定される空気タイヤ部(第1タイヤ部)5a及び中実タイヤ部(第2タイヤ部)5b,5cとから構成されている。 中実タイヤ部5 b,5cは、空気タイヤ部5aを挟んで左右に配置されており、それぞれ空気タイヤ部5aの幅よりも広い幅を有している。 空気タイヤ部5aは、空気量を調節することで膨張したり収縮したりするものであって、膨張しているときには径が中実タイヤ部5b,5cの径よりも大きく、収縮しているときには径が中実タイヤ部5b,5 cの径よりも小さくなる。 通常の走行においては、空気タイヤ部5aは空気により膨張しており、空気タイヤ部5aの径は中実タイヤ部5b,5cの径よりも大きい。 【0023】左右の後輪6,7は同様の構造であるので、右後輪7について説明する。 右後輪7の拡大図及び拡大断面図を図3及び図4に示す。 右後輪7は、後輪リム7cと、後輪リム7cの外周面に固定される空気タイヤ部(第1タイヤ部)7a及び中実タイヤ部(第2タイヤ部)7bとから構成されている。 後輪リム7cは、後輪車軸9の端部に固定されているリム固定具10にボルト11によって固定される。 【0024】中実タイヤ部7bは、空気タイヤ部7aよりも内側に配置されており、空気タイヤ部7aの幅s1 よりも広い幅s2を有している。 この中実タイヤ部7b の外周面には円周方向に複数の突起17bが形成されており、この突起17bが中実タイヤ部7bの転がり抵抗を大きくする役割を果たしている。 また、突起17b は、中実タイヤ部7bの幅方向にも複数配置されている。 これにより、中実タイヤ部7bの横滑りが抑えられる。 【0025】空気タイヤ部7aは、空気量を調節することで膨張したり収縮したりするものであって、膨張しているときには径が中実タイヤ部7bの径(R2×2)よりも大きく、収縮しているときには径が中実タイヤ部7 bの径(R2×2)よりも小さくなる。 通常の走行においては、空気タイヤ部7aは空気により膨張しており、 空気タイヤ部7aの径は中実タイヤ部7bの径(R2× 2)よりも大きい径(R1×2)である。 また、空気タイヤ部7aの外周面には円周方向に沿った溝17aが複数形成されている。 この溝17aが存在するため、通常の舗装された路面に接地するときの空気タイヤ部7aの接地面積が小さくなっている。 空気タイヤ部7aは、従来の車椅子の車輪の幅と変わらない幅s1を有しているとともに溝17aが存在するため、転がり抵抗は従来の車椅子の車輪と同等あるいはそれ以下の値となっている。 【0026】駆動装置は、座席3の下部で本体2に固定される駆動装置カバー8内に配置されており、主に、バッテリーと、可変回転数制御のモータと、減速ギア機構と、後輪車軸9とから構成されている。 バッテリーを電源として作動するモータの回転は、減速ギア機構で減速されて後輪車軸9を回す。 操作パネル20は、ハンドル4の操作部4aの中央に固定されている。 操作パネル2 0には、メインスイッチと、走行速度や前後進を制御するための操作ボタンと、ブレーキスイッチと、他のキー及び警告灯類とが設けられている。 【0027】次に、車椅子1の動作について説明する。 運転者は、座席3に座って、ハンドル4の操作部4aを回転させることによって前輪5の操舵を行い、操作パネル20のスイッチ類を操作することで前後進を行い走行速度を調節する。 車椅子1は主に歩道を走行するが、歩道のわきには側溝が設けられていることがある。 図5 に、歩道60を走行していた車椅子1の左後輪6が側溝61に落ちた状態を背面から見たものを示す。 ここでは、空気タイヤ部6aは側溝61に落ちるが、中実タイヤ部6bが歩道60に接地することにより、左後輪6全体が側溝61に落ちてしまうことが回避される。 【0028】図5に示す空気タイヤ部6aが側溝61に落ちた状態から空気タイヤ部6aを側溝61から脱出させるには、前輪5を大きく右に向けて前進させることで、空気タイヤ部6aは歩道60の側溝61側の端部の角を乗り越えて歩道60上に復帰する。 通常は上記のようにすることで車椅子1は歩道60上に復帰できるが、 歩道60の道幅が狭い等の理由で前輪5を大きく右に向けて前進させることが困難な場合もある。 すると、空気タイヤ部6aと中実タイヤ部6bの径の差による段差(R1−R2)が存在するため、側溝61からうまく脱出できない。 このようなときには、空気タイヤ部6a内の空気を抜いて、空気タイヤ部6aの径を中実タイヤ部6bの径に近づける(図6参照)。 この後に前輪5を小さく右に向けて前進させれば、左車輪6は側溝61からだんだん脱出していく。 また、ここでは側溝61からスムーズに左車輪6が脱出するので、空気タイヤ部6aが側溝61と歩道60との角部と擦れて損傷することも抑えられる。 【0029】一方、本実施形態の車椅子1が通常の路面(歩道等)を走行するときには、幅s2が広く転がり抵抗の大きい中実タイヤ部5b,5c,6b,7bは路面に接地せず、転がり抵抗の小さい空気タイヤ部5a,6 a,7aのみが路面に接地するため、従来の車椅子と較べても燃費や静粛性が確保される。 [他の実施形態]上記実施形態において記載した車両用タイヤ(前輪5、左後輪6、及び右後輪7)を通常の路面と砂地との両方を走行する車両に装着することもできる。 【0030】ここでは、幅の狭い空気タイヤ部5a,6 a,7aが砂地に埋もれても、幅の広い中実タイヤ部5 b,5c,6b,7bが砂地に接地するため、車両用タイヤの空転が抑えられる。 すなわち、砂地での車両の走行性が向上する。 一方、通常の路面を走行するときには、幅が広く転がり抵抗の大きい中実タイヤ部5b,5 c,6b,7bは路面に接地せず、転がり抵抗の小さい空気タイヤ部5a,6a,7aのみが路面に接地するため、従来の車両と較べても燃費や静粛性が確保される。 【0031】 【発明の効果】本発明では、径の異なる少なくとも2つのタイヤ部から車両用タイヤを構成しているため、通常の路面での車両の走行性の悪化を抑えつつ、側溝からの脱出が容易となり、あるいは、砂地等の荒れた路面での走行性が向上する。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の一実施形態の車椅子の上面図。 【図2】車椅子の側面図。 【図3】右車輪の拡大図。 【図4】右車輪の拡大断面図。 【図5】車椅子の状態模式図。 【図6】車椅子の状態模式図。 【符号の説明】 1 車椅子(車両) 2 本体 5 前輪(車両用タイヤ) 5a 空気タイヤ部(第1タイヤ部) 5b,5c 中実タイヤ部(第2タイヤ部) 6 左後輪(車両用タイヤ) 6a 空気タイヤ部(第1タイヤ部) 6b 中実タイヤ部(第2タイヤ部) 7 右後輪(車両用タイヤ) 7a 空気タイヤ部(第1タイヤ部) 7b 中実タイヤ部(第2タイヤ部) |