ビフィドバクテリウム属細菌含有発酵食品の製造方法

申请号 JP2012501482 申请日 2011-08-31 公开(公告)号 JP5845169B2 公开(公告)日 2016-01-20
申请人 森永乳業株式会社; 发明人 小田巻 俊孝; 米澤 寿美子; 丸山 広志; 高橋 典俊;
摘要
权利要求

ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスLcL13(FERM BP-11276)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスLcL26(FERM BP-11277)、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスLcC46(FERM BP-11275)からなる群より選択される乳酸菌と、ビフィドバクテリウム属細菌とを用いて、乳原料を発酵させることを特徴とする発酵食品の製造方法。前記ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガムである請求項1に記載の方法。前記ビフィドバクテリウム・ロンガムが、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株である請求項2に記載の方法。さらに、ストレプトコッカス・サーモフィラス及びラクトバチルス・デルブルッキーからなる群より選択される乳酸菌とを発酵に用いることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスLcL13(FERM BP-11276)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスLcL26(FERM BP-11277)、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスLcC46(FERM BP-11275)からなる群より選択される乳酸菌を含むビフィドバクテリウム属細菌入り乳原料発酵用スターター。前記ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガムである請求項5に記載のビフィドバクテリウム属細菌入り乳原料発酵用スターター。前記ビフィドバクテリウム・ロンガムが、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株である請求項6に記載のビフィドバクテリウム属細菌入り乳原料発酵用スターター。ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスLcL13(FERM BP-11276)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスLcL26(FERM BP-11277)、及 びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスLcC46(FERM BP-11275)からなる群より選択される乳酸菌。

说明书全文

本発明は、ラクトコッカス・ラクティスとビフィドバクテリウム属細菌とを用いて乳原料を発酵させることにより得られる発酵食品の製造方法、及びそれに好適に用いられるラクトコッカス・ラクティスに関する。

ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)等のビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属細菌(以下、「ビフィズス菌(bifidobacteria)」ともいう。)は、ヒトの腸管内で形成される腸内菌叢の優勢菌種の一つである。ビフィズス菌は、腸内細菌のバランスを回復させる整腸作用や、免疫増強作用、発ガン抑制作用等を有することが知られている。このため、近年、生活者の健康志向の高まりと共に、ビフィズス菌発酵乳等の、生きているビフィズス菌を含む食品への需要が高まっている。

ビフィズス菌は、乳性培地における増殖性が悪い。このため、例えば1×107CFU(colony forming unit)/mLのビフィズス菌を含有させるためには、通常、発酵乳中に一定量の様々な生育促進物質を添加することが行われている。

しかし、前記生育促進物質は一般的に高価であり、かつ、食品の風味を損なうおそれもある。また、ビフィズス菌は、酸性条件下での保存が難しく、死滅し易い。このため、発酵乳製品等の製造中にビフィズス菌が一旦増殖しても、発酵乳製品等が流通する過程で、発酵乳製品中の生きているビフィズス菌量は加速度的に減少してしまう。

そこで、ビフィズス菌の生育性や保存生残性を改善することにより、生きているビフィズス菌を多く含有する発酵乳を製造するとともに、生きているビフィズス菌が、製造直後と同様に、消費者が摂食する時点においても豊富に含有されている発酵乳を製造することが課題となっている。

ビフィズス菌を、それ以外の乳酸菌と混合発酵させることにより、前記のような生育促進物質等を添加することなく、ビフィズス菌の生育性や保存生残性を改善する種々の方法が開示されている。

発酵乳製造におけるビフィズス菌の生育性を改善させる方法については、例えば、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcuslactis subsp. cremoris)、およびビフィズス菌を含有することを特徴とするヨーグルト及びその製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。

その他、発酵乳のビフィズス菌の保存生残性を改善させる方法については、例えば、乳を主成分とする培地で、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、並びにダイアセチル及びアセトインを生成しないラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスを混合培養することを特徴とするビフィズス菌発酵乳の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。

また、例えば、細胞壁局在性タンパク質分解酵素(cell wall-enveloped proteinase, PrtP)を有するラクトコッカス・ラクティスと、ビフィドバクテリウム属菌とを用いて発酵用ベースを発酵させることを特徴とする、発酵乳の製造方法(例えば、特許文献3参照)や、細胞壁局在性タンパク質分解酵素を有する乳酸菌の菌体破砕物又は前記乳酸菌から分画された前記酵素画分を添加した、乳タンパク質を含有する培地に、ビフィドバクテリウム属菌を接種することを特徴とするビフィドバクテリウム属菌含有組成物の製造方法(例えば、特許文献4参照)、さらには、10%還元脱脂粉乳培地における発酵性を有し、且つビフィドバクテリウム・ロンガムに対する増殖促進効果と生残性改善効果を有するラクトコッカスを用いることを特徴とする、発酵乳の製造方法、及び、該製造方法により製造された発酵乳が開示されている(例えば、特許文献5参照)。

特許第3364491号公報

特許第3068484号公報

特許第4448896号公報

特開2009−296910号公報

国際公開第2008/099543号パンフレット

前記のように、ビフィズス菌の生育性や保存生残性を改善する種々の方法が開示されているが、さらに改善の余地がある。例えば、上記特許文献1の方法では、ビフィズス菌の生育が促進され、発酵時間を短縮することができるものの、ビフィズス菌の保存生残性については一切記載がない。

一方、上記特許文献2の方法では、特定のビフィズス菌と特定の乳酸菌とからなる混合菌を用いることにより、増殖促進効果と生残性改善効果の両方が認められるものの、ビフィドバクテリウム・ブレーベ以外のビフィズス菌、例えば食品に汎用されているビフィドバクテリウム・ロンガムについては、一切記載がない。実際に、後述するように、特許文献2に示された菌株(FERM BP-6224)を用いて実験したところ、ビフィドバクテリウム・ロンガムについては十分な生残性を得ることが出来なかった。

また、上記特許文献3に記載の方法では、細胞壁局在性タンパク質分解酵素(PrtP)を有するラクトコッカス・ラクティスを用いることにより、ビフィズス菌の増殖が促進されるという効果があるが、PrtPは、タンパク質から多くのオリゴペプチドやアミノ酸を生成するため、苦味や旨味が生じてしまい、発酵乳の風味に影響を及ぼす可能性がある(例えば、Pillidge, C.J. et al., Int. Dairy Journal 2003, 13:345-354)。特許文献4に記載の方法も同様である。

さらに、Yonezawa S. et al., J. Dairy Sci. 2010, 93:1815-23、および特許文献3によれば、脱脂粉乳培地における発酵性を有するラクトコッカス・ラクティスはPrtPを有していることから、特許文献5についても特許文献3と同様に風味に対する課題が残されていた。

一方で、PrtPを有していないラクトコッカス・ラクティスは、脱脂粉乳培地から十分な栄養を取り込むことが出来ないため、ほとんどの菌株は脱脂粉乳培地で生育できず、ビフィズス菌に対する増殖促進効果と生残性改善効果は認められていなかった。

本発明は、ビフィドバクテリウム属細菌の保存生残性を改善させ得る乳酸菌を用いた、風味の良い発酵食品の製造方法、及び、該製造方法により製造された発酵食品、並びに前記乳酸菌を含むビフィドバクテリウム属細菌入り乳原料発酵用スターターを提供することを目的とする。

本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、細胞壁局在性タンパク質分解酵素PrtPを有していないラクトコッカス・ラクティスと、ビフィドバクテリウム属細菌とを混合発酵させた場合に、ビフィドバクテリウム属細菌の保存性を向上し得る菌株が存在することを見出し、本発明を完成させた。

すなわち、本発明は、細胞壁局在性タンパク質分解酵素を有しないラクトコッカス・ラクティスと、ビフィドバクテリウム属細菌とを用いて、乳原料を発酵させることを特徴とする発酵食品の製造方法である。 また、本発明は、前記方法により製造された発酵食品を提供する。 また、本発明は、細胞壁局在性タンパク質分解酵素を有しないラクトコッカス・ラクティスを含むビフィドバクテリウム属細菌入り乳原料発酵用スターターを提供する。

本発明の発酵食品の製造方法、及び、ビフィドバクテリウム属細菌入り乳原料発酵用スターターは、前記ラクトコッカス・ラクティスは、1%(W/W)グルコース、及び10%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地に同細菌を培地1ml当たり5.0×106 〜2.0×108 CFU接種し、37℃で4〜24時間培養したときに、当該培地が凝固しない性質を有することを好ましい態様としている。

また、本発明は、前記ラクトコッカス・ラクティスは、1%(W/W)グルコース、及び10%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地に同細菌を培地1ml当たり5.0×106 〜2.0×108 CFU、及び、ビフィドバクテリウム属細菌を培地1ml当たり1.0×107 〜3.0×109 CFU、各々接種して培養し、培地のpHが4.6〜5.5に達した時点で培地を培養温度から10℃に急冷して、10℃で2週間保存したときの溶存酸素濃度を、2ppm以下に維持する性質を有することを好ましい態様としている。

また、本発明は、前記ラクトコッカス・ラクティスは、1%(W/W)グルコース、及び10%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地に同細菌を培地1ml当たり5.0×106 〜2.0×108 CFU、及び、ビフィドバクテリウム属細菌を培地1ml当たり1.0×107 〜3.0×109 CFU、各々接種して培養し、培地のpHが4.6〜5.5に達した時点で培地を培養温度から10℃に急冷して、10℃で2週間保存したときのビフィドバクテリウム属細菌の生残率を30%以上に維持する性質を有することを好ましい態様としている。

また、本発明は、前記ラクトコッカス・ラクティスは、1%(W/W)グルコース、及び10%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地に同細菌を培地1ml当たり5.0×106 〜2.0×108 CFU、ビフィドバクテリウム属細菌を培地1ml当たり1.0×107 〜3.0×109 CFU、並びに、ストレプトコッカス・サーモフィラス及びラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスをそれぞれ培地1ml当たり2.0×105 〜9.0×107 CFU接種し、37℃で3〜24時間培養したときに、当該培地が凝固する性質を有することを好ましい態様としている。

また、本発明は、前記ラクトコッカス・ラクティスが、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、およびラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスからなる群より選択されることを好ましい態様としている。

また、本発明は、前記ラクトコッカス・ラクティスが、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスLcL13 (FERM BP-11276)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスLcL26 (FERM BP-11277)、およびラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスLcC46 (FERM BP-11275)からなる群より選択されることを好ましい態様としている。

また、本発明は、前記ビフィドバクテリウム属細菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガムであることを好ましい態様としている。

また、本発明は、前記ビフィドバクテリウム・ロンガムが、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株であることを好ましい態様としている。

さらに、本発明は、ストレプトコッカス・サーモフィラスおよびラクトバチルス・デルブルッキーからなる群より選択される乳酸菌とを発酵に用いることを好ましい態様としている。

また、本発明は、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスLcL13 (FERM BP-11276)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスLcL26 (FERM BP-11277)、およびラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスLcC46 (FERM BP-11275)からなる群より選択される菌株を提供する。

本発明の方法により製造されたヨーグルトの味覚評価の結果を示す図。

以下、本発明を詳細に説明する。 本発明に用いる細菌は、細胞壁局在性タンパク質分解酵素を有しないラクトコッカス・ラクティスである。細胞壁局在性タンパク質分解酵素(cell wall-enveloped proteinase、EC 3.4.21.96。「PrtP」とも記載する。)は、細胞膜に存在し、細胞表面に活性部位が剥き出しになっている酵素である。ラクトコッカス・ラクチス由来のPrtP酵素には、PI型(α−カゼインをあまり分解せず、β−カゼインをC末端の近辺からよく分解する)、PIII型(α−カゼイン及びβ−カゼインをC末端及びN末端の両方からよく分解する)、及びその中間型(PI/PIII型)が知られている(例えば、Reid, J.R. et al., Applied and Environmental Microbiology、1994年、第60巻第3号、第801〜806ページ)。PrtPとして具体的には、ラクトコッカス・ラクティス由来のPrtPとして、NCBIにアクセッション番号AY542690, AY542691等として遺伝子配列が登録されているPrtP、及びそのホモログが挙げられる。ホモログとしては、前記遺伝子配列によってコードされるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を含むアミノ酸配列を含み、かつ、PrtP活性を有するタンパク質が挙げられる。1若しくは数個とは、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3である。又、前記ホモログとして、前記アクセッション番号AY542690、又はAY542691の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であって、かつ、PrtP活性を有するタンパク質が挙げられる。

細菌が「PrtPを有しない」とは、同細菌がPrtPの持つ酵素活性を有しないことを意味し、PrtPタンパク質を有しないか、PrtPタンパク質を持っていても、同タンパク質が酵素活性を有しない場合は、「PrtPを有しない」に包含される。また、細菌がPrtPを有していても、PrtPを有する菌株に比べて、著しくPrtPタンパク質の量又はその活性が低い場合は、実質的に「PrtPを有しない」に包含される。

ラクトコッカス・ラクティスは、亜種(サブスピーシーズ)は特に制限されないが、PrtPを有している菌株と、有していない菌株が存在するものが好ましい。具体的には例えば、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスが挙げられる。PrtPを有しないラクトコッカス・ラクティスは、自然界から、PrtP活性を有しない菌株、又はPrtPをコードする遺伝子を有しない菌株として選択することによって、取得することができる。

PrtPは、細胞外に酵素活性部位を有するため、PrtPを有する菌株は、培地中のタンパク質を分解して、自身の生育に利用することができるが、PrtPを有しない菌株は、培地中のタンパク質を生育に利用することができない。したがって、タンパク質を含む培地、例えば10%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地での生育を観察することにより、PrtPを有しない菌株を選択することができる。

また、PrtPをコードする遺伝子を有しない菌株は、例えば実施例に記載したように、PrtP遺伝子又はその一部をPCR法により検出することによって、選択することができる。PrtP遺伝子を増幅するためのプライマーとしては、配列番号1及び2のセット、及び配列番号3及び4のセットが挙げられる。

PrtPを有しない菌株は、PrtPを有する菌株から、突然変異法、又は遺伝子組換えにより、PrtP遺伝子を不活化、又は破壊もしくは欠失させることによっても、取得することができる。不活化、又は破壊もしくは欠失させるPrtP遺伝子がコードするPrtPは、PI型、PIII、又はPI/PIII型のいずれであってもよい。

PrtPを有しないラクトコッカス・ラクティスの一態様は、1%(W/W)グルコース、及び10%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地に同細菌を培地1ml当たり5.0×106 〜2.0×108 CFU接種し、37℃で4〜24時間、例えば16時間培養したときに、当該培地が凝固しない性質を有する菌株である。

1%(W/W)グルコース、及び10%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地は、グルコースが1%(W/W)、及び還元脱脂粉乳が10%(W/W)となるように、に溶解し、殺菌することによって製造することができる。殺菌は、例えば、80〜122℃で40〜5分間、好ましくは85〜95℃で35〜5分間の加熱処理により行うことができる。

前記細菌の細胞数(CFU)は、適当に希釈した菌の懸濁液を、好適な寒天培地、例えばBCP加プレートカウント寒天培地(栄研化学社製)に広げて培養し、出現するコロニー数によって測定することができる。

培地の凝固の有無は、例えば、試験管等を用いた培養により判定することができる。具体的には、試験管を倒置させ、培地に流動性が無ければ、培地は凝固する、流動性が有れば、培地は凝固しない、と判定される。

また、PrtPを有しないラクトコッカス・ラクティスは、1%(W/W)グルコース、及び10%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地に同細菌を培地1ml当たり5.0×106 〜2.0×108 CFU、及び、ビフィドバクテリウム属細菌を培地1ml当たり1.0×107 〜3.0×109 CFU、好ましくは1.0×107 〜5.0×107 CFU、各々接種して培養し、培地のpHが4.6〜5.5に達した時点で培地を培養温度から10℃に急冷して、10℃で2週間保存したときの溶存酸素濃度を、2ppm以下、好ましくは1ppm以下、より好ましくは0.5ppm以下に維持する性質を有することが好ましい。ビフィドバクテリウム属細菌は、培地中の溶存酸素濃度が高いと生育し難くなるため、ラクトコッカス・ラクティスをビフィドバクテリウム属細菌とともに用いて乳原料を発酵させる場合、ラクトコッカス・ラクティスは、培地中の溶存酸素濃度を高めないものであることが好ましい。 培養温度から10℃への急冷は、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分以内、特に好ましくは10分以内に行うことが望ましい。培養温度としては、30℃〜40℃が好ましく、36℃〜38℃がより好ましく、37℃が特に好ましい。以下の記載においても同様である。

また、本発明の他の態様では、PrtPを有しないラクトコッカス・ラクティスは、1%(W/W)グルコース、及び10%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地に同細菌を培地1ml当たり5.0×106 〜2.0×108 CFU、及び、ビフィドバクテリウム属細菌を培地1ml当たり1.0×107 〜3.0×109 CFU、好ましくは1.0×107 〜5.0×107 CFU、各々接種して培養し、培地のpHが4.6〜5.5に達した時点で培地を培養温度から10℃に急冷して、10℃で2週間保存したときのビフィドバクテリウム属細菌の生残率を30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上に維持する性質を有する菌株である。生残率は、保存開始時の生菌数に対する保存後の生菌数の割合をいう。この性質は、前記の培地中の溶存酸素濃度を高めない性質と独立であってもよいが、ラクトコッカス・ラクティスは両方の性質を有することが好ましい。

また、本発明の他の態様では、PrtPを有しないラクトコッカス・ラクティスは、1%(W/W)グルコース、及び10%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地に同細菌を培地1ml当たり5.0×106 〜2.0×108 CFU、ビフィドバクテリウム属細菌を培地1ml当たり1.0×107 〜3.0×109 CFU、好ましくは1.0×107 〜5.0×107 CFU、並びに、ストレプトコッカス・サーモフィラス及びラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスをそれぞれ培地1ml当たり2.0×105 〜9.0×107 CFU接種し、37℃で3〜24時間、例えば8時間培養したときに、当該培地が凝固する性質を有することが好ましい。

PrtPを有しないラクトコッカス・ラクティスが、還元脱脂粉乳を含む培地を凝固しないことは、前記培地で単独で発酵性を有しないことを意味しているが、同細菌をビフィドバクテリウム属細菌とともに同培地で培養したときに、培地中の溶存酸素濃度を低下させること、及び、培地を凝固する、すなわち培地のpHを低下させること、並びに、発酵後にビフィドバクテリウム属細菌の生残率を高めることは、本発明のラクトコッカス・ラクティスが、乳原料からビフィドバクテリウム属細菌を含有する発酵食品の製造に好適であることを示している。したがって、PrtPを有しないラクトコッカス・ラクティス、特に上記の性質を有する菌株は、ビフィドバクテリウム属細菌を含有する発酵食品を製造するためのスターターとして好適である。本発明の「ビフィドバクテリウム属細菌入り乳原料発酵用スターター」とは、このような、ビフィドバクテリウム属細菌を含有する発酵食品を製造するためのスターター、すなわち、発酵食品を製造するためにビフィドバクテリウム属細菌とともに乳原料に接種される細菌をいう。

本発明に用いるラクトコッカス・ラクティスの具体的菌株としては、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスLcL13 (FERM BP-11276)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスLcL26 (FERM BP-11277)、及び、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスLcC46 (FERM BP-11275)が挙げられる。

これらの菌株は、平成22年8月11日に、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、各々カッコ内に記載された受託番号で、ブダペスト条約に基づき国際寄託されている。

本発明の方法は、上記のような、PrtPを有しないラクトコッカス・ラクティスと、ビフィドバクテリウム属細菌とを用いて、乳原料を発酵させることにより、発酵食品を製造する方法である。

ビフィドバクテリウム属細菌としては、特に制限されないが、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、及び、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスに再分類されている)が挙げられる。これらの中では、ビフィドバクテリウム・ロンガムが好ましい。また、ビフィドバクテリウム・ロンガムとしてより具体的には、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株が挙げられる。同菌株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所 12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852, United States of America)から購入することができる。

乳原料(milk raw material)としては、乳由来の原料であって、PrtPを有しないラクトコッカス・ラクティス、及びビフィドバクテリウム属細菌、並びに必要に応じて他の乳酸菌を用いて発酵させることにより、発酵食品を製造することができるものであれば特に制限されず、乳又はその分画物又は加工品、例えば乳、脱脂乳、生クリーム、バター、全粉乳、及び脱脂粉乳、又はこれらを水に混合、溶解または懸濁させたもの等が挙げられる。乳原料は、必要に応じて蔗糖等の甘味料、ペクチン、果実、フルーツジュース、寒天、ゼラチン、油脂、香料、着色料、安定剤、還元剤等を配合されてもよい。乳原料は、発酵前に、常法に従って殺菌、均質化、冷却等を施してもよい。

PrtPを有しないラクトコッカス・ラクティス、及びビフィドバクテリウム属細菌の乳原料への接種量は特に制限されないが、ラクトコッカス・ラクティスについては好ましくは104〜108CFU/ml乳原料、より好ましくは106〜107CFU/ml乳原料、ビフィドバクテリウム属細菌については好ましくは105〜109CFU/ml乳原料、より好ましくは107〜108CFU/ml乳原料である。また、ラクトコッカス・ラクティス、及びビフィドバクテリウム属細菌の接種量の比率(菌数比)は特に制限されないが、1000:1〜1:10が好ましく、10:1〜1:1がより好ましい。

乳原料に接種するPrtPを有しないラクトコッカス・ラクティスは、単一の菌株であってもよく、複数の菌株であってもよい。また、ビフィドバクテリウム属細菌も、単一の菌株であってもよく、複数の菌株であってもよい。

乳原料に接種するラクトコッカス・ラクティス、及びビフィドバクテリウム属細菌、並びに必要に応じて他の乳酸菌は、予め他の培地で種培養又は前培養しておくことが好ましい。培地としては、ラクトコッカス・ラクティス、及びビフィドバクテリウム属細菌、並びに必要に応じて他の乳酸菌の培養に適した培地であれば特に制限されないが、例えば、還元脱脂粉乳を含む培地が挙げられる。還元脱脂粉乳の濃度は、3%(W/W)以上が好ましく、8%(W/W)以上が特に好ましい。また種培養又は前培養に用いられる培地には、酵母エキス等の生育促進物質や、L−システイン等の還元剤等を添加してもよい。特にビフィドバクテリウム属細菌は、還元脱脂粉乳を含む培地での増殖性が低いため、生育促進物質、例えば、0.1〜1%(W/W)の酵母エキスを含有する培地を用いることが好ましい。培地の殺菌条件は、前記と同様である。

必要に応じて、乳原料に、PrtPを有しないラクトコッカス・ラクティス、及びビフィドバクテリウム属細菌に加えて、他の乳酸菌を加えて発酵を行ってもよい。他の乳酸菌としては、食品の製造に用いられ得るものであって、ラクトコッカス・ラクティス及びビフィドバクテリウム属細菌の生育を阻害しないものであれば特に制限されないが、例えば発酵食品がヨーグルトの場合、ストレプトコッカス・サーモフィルス、および、ラクトバチルス・デルブルッキー等が挙げられる。これらの乳酸菌は、単一の菌株であってもよく、複数の菌株であってもよい。

PrtPを有しないラクトコッカス・ラクティス、及びビフィドバクテリウム属細菌を用いて乳を発酵させた場合、通常、pHが5付近であり、ドリンクヨーグルトが得られる。さらにストレプトコッカス・サーモフィルスやラクトバチルス・デルブルッキー等の乳酸菌を併用して発酵させると、pHが低下し、よりしっかりとした組織を有したヨーグルト(スプーンで摂取できるヨーグルト)を製造することができる。

ラクトコッカス・ラクティス及びビフィドバクテリウム属細菌の接種量と、上記他の乳酸菌の接種量の比率(菌数比)は特に制限されないが、1000:1〜10:1が好ましい。

ラクトコッカス・ラクティス、ビフィドバクテリウム属細菌、及び他の乳酸菌を乳原料に接種する順序は特に問わず、全てを同時に投与してもよい。また、これらの細菌のうち任意の細菌を、複数回接種してもよい。

培養温度、培養時間等の発酵条件は、通常の乳原料からの発酵食品の製造と同様の条件を採用することができる。例えば、培養温度は30℃〜40℃が好ましく、36℃〜38℃がより好ましい。培養時間は、製造する発酵食品の種類によって適宜設定することができるが、通常、3〜18時間が好ましい。

得られた発酵食品は、通常の乳原料からの発酵食品と同様に適宜加工することができる。例えば、発酵後の発酵食品をそのまま食品としてもよいし、均質化して液状に加工してもよい。さらに、蔗糖等の甘味料、ペクチン、果実、フルーツジュース、寒天、ゼラチン、油脂、香料、着色料、安定剤、還元剤等を添加してもよい。また、発酵食品は、適宜、容器に充填してもよい。

上記のようにして製造される発酵食品は、タンパク質の分解に起因する苦味や旨味が少なく、ビフィドバクテリウム属細菌の保存生残性にも優れている。

次に、試験例及び実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。

〔試験例1〕ラクトコッカス・ラクティス菌株の取得 ラクトコッカス・ラクティスに属し、PrtP酵素を保有しない菌株を自然界から取得すべく、日本国内の自然界から採集したサンプルを嫌気性希釈液(光岡知足著「腸内菌の世界」、叢文社発行、1980年、 第322ページ)で希釈し、下記組成のBriggs liver broth(前記文献、319ページ)の平板(寒天15g/Lを含む)に塗布し、30℃で嫌気培養した。

〔嫌気性希釈液〕 塩類溶液I(0.78% K2HPO4溶液) 37.5 ml 塩類溶液II(0.47% KH2PO4、1.18% NaCl、 1.20% (NH4)2SO4、0.12% CaCl2、0.25% MgSO4・H2O を含む溶液) 37.5 ml Resazurin (0.1%水溶液) 1 ml L−システイン HCl・H2O 0.5 g L−アスコルビン酸 (25%水溶液) 2 ml Na2CO3 (8%溶液) 50 ml 寒天 0.5 g 精製水 860 ml

〔Briggs liver broth〕 トマトジュース浸出液 400 ml ネオペプトン(Difco) 15 g 酵母エキス(Difco) 6 g 肝臓エキス 75 ml グルコース 20 g 可溶性でんぷん 0.5 g NaCl 5 g Tween 80 1 g L−システイン HCl・H2O 0.2 g 精製水 525 ml pH 6.8

そして、得られたコロニーの中で連鎖球菌の形態を示し、かつ塗布標本の顕微鏡観察によりグラム陽性である菌を釣菌した。これらの菌を、下記組成のBL寒天培地に画線塗布し、前記と同様の方法で嫌気培養を反復し、純粋単離された菌株を得た。

〔BL寒天培地〕 Lab-Lemco powder(Oxoid) 2.4 g プロテオースペプトン No.3(Difco) 10 g トリプチケース(Trypticase)(BBL) 5 g フィトン(Phytone) 3 g 酵母エキス(Difco) 5 g 肝臓エキス 150 ml グルコース 10 g 可溶性でんぷん 0.5 g 溶液A 10 ml トーレシリコンSH5535(10%溶液) 5 ml Tween 80 1 g 寒天 15 g L−システイン HCl・H2O 0.5 g 馬血液 50 ml pH 7.2 肝臓エキス:肝臓末(極東)10gを170mlの精製水で50〜60℃の温浴槽中約1時間浸出した後、100℃で数分間加熱し、pH 7.2に調整してから濾紙で濾過する。 溶液A:MgSO4・7H2O 15g、FeSO4・7H2O 0.5g、NaCl 0.5g、MnSO4 0.337gを精製水250mlに溶解する。 L−システインと馬血液以外の成分を湯煎して溶解させ、pHを調整し、115℃で20分滅菌後、50℃に冷却し、L−システインと馬血液を加え、シャーレに分注して平板とする。

これらの菌株のゲノムDNAの塩基配列を常法により同定した。NCBI(National Center for Biotechnology Information、国立バイオテクノロジー情報センター)の国際塩基配列データベース(GenBank)上で、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)による16S リボソーマルRNA遺伝子配列の全長についての相同性検索を行い、それぞれのタイプストレインと98%以上の相同性を有するラクトコッカス属細菌を280株同定した。ラクトコッカス・ラクティスと98%以上の相同性を有していた242菌株のうち、ラクトースを資化し、かつラクトコッカス・ラクティス亜種のタイプストレインのうちラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスに最も相同性が高い群の菌株をラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスと同定した。また、ラクトコッカス・ラクティス亜種のタイプストレインのうちラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスに最も相同性が高い群の菌株をラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスと同定した。得られた菌株はすべて無芽胞、非運動性の通性嫌気性グラム陽性球菌で、カタラーゼおよびガス産生はいずれも陰性であった。

続いて、得られたラクトコッカス・ラクティス株が、PrtP酵素を保有しているか否かを確認した。具体的には、ラクトース及びグルコースを0.5%添加したDifco(登録商標)M17 Broth(ベクトン・ディッキンソン社製)に、BL寒天培地上の各菌株のコロニーを白金にて接種し、30℃で16時間培養した。得られた培養液3%を同様の培地に接種し、30℃で16時間培養した。遠心分離により菌体を得て、DNeasy Blood and Tissue kit(キアゲン社製)を用いてDNAを抽出し、PCR法によりPrtP遺伝子の保有性を確認した。

PCRは、Journal of Applied Microbiology、2006年、第100巻、第1307〜1317ページに記載の手法に準じて行った。プライマーは、フォワードプライマーGBf(GCAAATACGGTGACGGCTGCGA、配列番号1)及びリバースプライマーGB2r(TGAGCATTATAATAGGTCTTCTTCC、配列番号2)のプライマーセット、又はフォワードプライマーGHf(CAAATACGGTGACGGCTGCTAA、配列番号3)及びリバースプライマーGH2r(TAGCATTATAATAGGTCTTCGTCA、配列番号4)のプライマーセットを用いた。その結果、ラクトコッカス・ラクティス242株中128株にはPrtP遺伝子の保有が確認された。一方、残りの114株はPrtP遺伝子を保有していないことが判明した。

〔試験例2〕乳性培地でのラクトコッカス・ラクティス菌株の発酵性試験 ラクトースおよびグルコースを0.5%添加したDifco(登録商標)M17 Broth(ベクトン・ディッキンソン社製)に、試験例1で得られた各菌株、及び表1に記載の菌株の培養液を3%接種し、30℃で16時間培養した。遠心分離により集菌し、洗浄後、元の培養液と同量の乳性培地(1%(W/W)グルコース、10%(W/W)還元脱脂粉乳(森永乳業社製))に菌体を懸濁し、シードカルチャーを得た。NBRC12007、及びNBRC100676は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(the National Institute of Technology and Evaluation)(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)から入手することができる。また、JCM20101は、独立行政法人理化学研究所微生物系統保存施設(JCM)(〒351-0198 埼玉県和光市広沢2-1)から入手することができる。また、ATCC 9625は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所 12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852, United States of America)から入手することができる。 次に、前記と同じ組成の乳性培地(95℃で30分間殺菌)に、前記各菌株のシードカルチャーを培地 1mlあたり5.0×106〜2.0×108 CFU接種し、37℃で16時間培養した。得られた培養液を10℃に急冷し、凝固状況、pH、及び含有される乳酸菌数を測定した。乳酸菌数の測定は、市販されているBCP加プレートカウント寒天培地(栄研化学社製)平板で行った。結果を表1に示す。表中、「E+N」は、「×10n」を表す。

Yonezawa S. et al., J. Dairy Sci. 2010, 93:1815-23に記載されているように、PrtPを有していないラクトコッカス・ラクティス亜種菌株は、乳性培地を固化しなかった。

〔試験例3〕PrtPを有しないラクトコッカス・ラクティスとビフィドバクテリウム・ロンガムとの混合培養試験 まず、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株を、0.6%(W/W)酵母エキス及び11%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地に、培地 1mlあたり1.0×106〜5.0×107CFU接種し、37℃で16時間培養して、シードカルチャーを得た。

また、ラクトースおよびグルコースを0.5%添加したDifco(登録商標)M17 Broth(ベクトン・ディッキンソン社製)に、ラクトコッカス・ラクティス各菌株の試験例1で得られた培養液を3%接種し、30℃で16時間培養した。各培養菌体を、遠心分離により集菌し、洗浄後、元の培養液と同量の前記と同じ組成の乳性培地に懸濁し、シードカルチャーを得た。

前記と同じ組成の乳性培地(90℃で10分間殺菌)に、ラクトコッカス・ラクティスの各菌株のシードカルチャーを培地 1mlあたり5.0×106〜2.0×108 CFUと、前記ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株のシードカルチャーを培地 1mlあたり1.0×107〜5.0×107 CFU接種し、37℃で16時間培養して発酵乳を得た。

前記発酵乳を10℃に急冷し、pH及び含有されるビフィズス菌数、及び溶存酸素を測定した。ビフィズス菌数の測定は、TOSプロピオン酸寒天培地(ヤクルト薬品工業社製)平板で行った。また、溶存酸素の測定は、発酵乳の温度を10℃に保ちながら蛍光式酸素計FO-960S (ASR社製)を用いて計測した。測定結果を表2に示す。

PrtPを有していない株の中にも、PrtPを有している菌株(JCM20101、NBRC 100676)と同様にビフィズス菌を生残させる菌が存在していた。これらの菌株はいずれも、2週間保存後の発酵乳中の溶存酸素が2.0ppm以下であった。

〔試験例4〕 試験例3で得られたビフィズス菌含有発酵乳は、ほとんどのpHが5付近であるため、形態はドリンクヨーグルトであった。よりしっかりとした組織を有した発酵乳(スプーンで摂取できる通常のヨーグルト)を製造するために、ストレプトコッカス・サーモフィルスおよびラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスを培地に添加した以外は、試験例3と同様に乳性培地の発酵を行った。

試験例3と同様にラクトコッカス・ラクチスの各菌株とビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株のシードカルチャーを、乳性培地に試験例3と同じ接種量で接種し、さらにストレプトコッカス・サーモフィルスとラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスを含むヨーグルトスターター(ダニスコ社製)を、1%(W/W)グルコース、及び10%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地に、それぞれ培地 1mlあたり2.0×106 CFU、2.0×105 CFU接種し、37℃で8時間培養して発酵乳を得た。前記発酵乳を10℃に急冷し、pH及び凝固状態を測定した。結果を表3に示す。

ラクトコッカス・ラクティスが含まれていない系、およびPrtPを有する菌株を含む系では、通常の発酵乳が製造出来たが、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス LcL49およびラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス LcC 53を用いた発酵乳は、pHが下がらず凝固しなかった。

〔試験例5〕発酵乳の評価 後記実施例3に記載の方法で発酵乳(ヨーグルト)を作製し、5名の専門パネラーに、旨味、苦味について10段階評価してもらった。高い値ほど、その味が強いことを示している。スコア5を超えた場合、発酵乳としては強すぎる味であることを示している。結果を図1に示す。

その結果、PrtPを有している菌株を用いて作製した発酵乳は、旨味や苦味が強く感じられた。一方、PrtPを有していない菌株を用いて作製した発酵乳は、旨味や苦味をほとんど感じず、発酵乳本来の風味が損われていなかった。

〔実施例1〕ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスを用いたドリンクヨーグルトの製造 10%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地1000mL(90℃で30分間殺菌)に、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスLcL26株のシードカルチャーを30mL接種し、25℃で16時間培養した。一方、0.2%(W/W)酵母エキス、及び11%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地1000mL(90℃で30分間殺菌)に、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株のシードカルチャーを100mL接種し、37℃で4時間培養した。 なお、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株のシードカルチャーは、0.6%(W/W)酵母エキス及び11%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地に、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株を1.0×106〜5.0×107CFU接種し、37℃で16時間培養して、シードカルチャーを得た。

これとは別に、原料として脱脂粉乳、全粉乳、蔗糖及びペクチンを混合溶解して、乳脂肪0.5%(W/W)、無脂乳固形分8.0%(W/W)、蔗糖8.0%(W/W)、ペクチン0.2%(W/W)からなる乳原料50Lを調製し、90℃で10分間殺菌し、40℃に冷却した。前記殺菌した乳原料に、前記の通り前培養を行ったラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスLcL26株のカルチャー500mLとビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株のカルチャー500mLを接種し、37℃で16時間培養して発酵乳を得た。

前記発酵乳を15MPaの圧で均質化し、200mL容のガラス容器に充填した後、発酵乳の温度が10℃になるまで冷却し、さらに密封して、ドリンクヨーグルトを得た。得られたドリンクヨーグルトは乳酸酸度0.64%、pH4.9、1.6×108CFU/mlのビフィズス菌を含有していた。このドリンクヨーグルトを10℃で14日間保存した時のビフィズス菌数は1.1×108CFU/mlであり、生残率は68%であった。また、この時の溶存酸素濃度は0.93ppmであった。

〔実施例2〕ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスを用いたドリンクヨーグルトの製造 10%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地1000mL(90℃で30分間殺菌)に、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスLcC46株のシードカルチャーを30mL接種し、25℃で16時間培養した。一方、0.2%(W/W)酵母エキス、及び11%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地1000mL(90℃で30分間殺菌)に、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株のシードカルチャーを100mL接種し、37℃で4時間培養した。 なお、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株のシードカルチャーは、0.6%(W/W)酵母エキス及び11%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地に、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株を1.0×106〜5.0×107CFU接種し、37℃で16時間培養して、シードカルチャーを得た。

これとは別に、原料として脱脂粉乳、全粉乳、蔗糖及びペクチンを混合溶解して、乳脂肪0.5%(W/W)、無脂乳固形分8.0%(W/W)、蔗糖8.0%(W/W)、ペクチン0.2%(W/W)からなる乳原料50Lを調製し、90℃で10分間殺菌し、40℃に冷却した。前記殺菌した乳原料に、前記の通り前培養を行ったラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスLcC46株のカルチャー500mLとビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株のカルチャー500mLを接種し、37℃で16時間培養して発酵乳を得た。

前記発酵乳を15MPaの圧力で均質化し、200mL容のガラス容器に充填した後、発酵乳の温度が10℃になるまで冷却し、さらに密封して、ドリンクヨーグルトを得た。得られたドリンクヨーグルトは乳酸酸度0.66%、pH4.8、9.6×107CFU/mlのビフィズス菌を含有していた。この前記ドリンクヨーグルトを10℃で14日間保存した時のビフィズス菌数は6.9×107CFU/mlであり、生残率は71%であった。また、この時の溶存酸素濃度は0.88ppmであった。

〔実施例3〕ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスを用いたヨーグルトの製造(I) 還元脱脂粉乳10%(W/W)を含む培地(115℃、20分殺菌)1000mLに、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスFERM BP-10758株のシードカルチャーを30mL接種し、37℃、16時間培養した。一方、酵母エキス0.1%(W/W)、及び還元脱脂粉乳10%(W/W)を含む培地(90℃で30分間殺菌)1000mLにストレプトコッカス・サーモフィルスFERM P-17216株のシードカルチャーを30mL接種し、37℃、5時間培養した。 なお、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスFERM BP-10758株のシードカルチャーは、0.1%(W/W)酵母エキスおよび10%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地に、1.0×105〜1.0×107CFU接種し、37℃で16時間培養して得た。 なお、ストレプトコッカス・サーモフィルスFERM P-17216株のシードカルチャーは、0.1%(W/W)酵母エキスおよび10%(W/W)還元脱脂粉乳を含む培地に、1.0×105〜1.0×107CFU接種し、37℃で16時間培養して得た。

脱脂粉乳、クリーム及び乳タンパク質などの原料を混合溶解して、乳脂肪3.0%(W/W)、無脂乳固形分12.0%(W/W)からなる乳原料50Lを調製し、70℃に加温し、15MPaの圧力で均質し、90℃で10分間殺菌し、40℃に冷却した。

この殺菌した乳原料に、前記の通り前培養を行ったラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスFERM BP-10758株のカルチャーを50ml、ストレプトコッカス・サーモフィルスFERM P-17216株のカルチャーを450mL、実施例1のLcL26株と同様の方法にて前培養を行ったラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスLcL13株のカルチャー500mLとビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株のカルチャー500mLを接種し、37℃で4時間培養して発酵乳を得た。得られた発酵乳は、直ちに発酵乳の温度が10℃になるまで攪拌冷却し、さらに、100mL容の紙カップ容器に充填し、密封して、ヨーグルトを得た。

得られたヨーグルトは乳酸酸度0.74%、pH4.69であり、1.0×108CFU/mlのビフィズス菌を含有していた。このヨーグルトを10℃で14日間保存した時のビフィズス菌数は9.3×107CFU/mlであり、生残率は93%であった。また、この時の溶存酸素濃度は0.5ppm以下であった。

〔実施例4〕ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスを用いたヨーグルトの製造(II) 脱脂粉乳、クリーム及び乳タンパク質を混合溶解して、乳脂肪3.0%(W/W)、無脂乳固形分12.0%(W/W)からなる乳原料50Lを調製し、70℃に加温し、15MPaの圧力で均質し、90℃で10分間殺菌し、40℃に冷却した。

この殺菌した乳原料に、実施例1と同様にして得られたラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスLcL26株のカルチャー500mLと、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株のカルチャー500mL、さらにストレプトコッカス・サーモフィルスとラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスを含むヨーグルトスターター(ダニスコ社製)0.002%を接種し、37℃で8時間培養して発酵乳を得た。得られた発酵乳は、直ちに発酵乳の温度が10℃になるまで攪拌冷却し、100mL容の紙カップ容器に充填し、密封し、ヨーグルトを得た。

得られたヨーグルトは、乳酸酸度0.65%、pH4.84であり、1.2×108CFU/mlのビフィズス菌を含有していた。このヨーグルトを10℃で14日間保存した時のビフィズス菌数は1.0×108CFU/mlであり、生残率は83%であった。また、この時の溶存酸素濃度は0.5ppm以下であった。

〔実施例5〕ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスを用いたヨーグルトの製造(III) 脱脂粉乳、クリーム及び乳タンパク質を混合溶解して、乳脂肪3.0%(W/W)、無脂乳固形分12.0%(W/W)からなる乳原料50Lを調製し、70℃に加温し、15MPaの圧力で均質し、90℃で10分間殺菌し、40℃に冷却した。

この殺菌した乳原料に、実施例1と同様にして得られたラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスLcL26株のカルチャー500mLと、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999株の凍結菌体(森永乳業社製)1.5×1014 CFU(colony forming unit) 、さらにストレプトコッカス・サーモフィルスとラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスを含むヨーグルトスターター(ダニスコ社製)0.002%を接種し、37℃で4時間培養して発酵乳を得た。得られた発酵乳は、直ちに発酵乳の温度が10℃になるまで攪拌冷却し、100mL容の紙カップ容器に充填し、密封して、ヨーグルトを得た。

得られたヨーグルトは、乳酸酸度0.70%、pH4.74であり、4.2×109CFU/mlのビフィズス菌を含有していた。このヨーグルトを10℃で14日間保存した時のビフィズス菌数は2.0×109CFU/mlであり、生残率は47.6%であった。また、この時の溶存酸素濃度は1.47ppmであった。

本発明の発酵乳の製造方法により、ビフィドバクテリウム属細菌、特にビフィドバクテリウム・ロンガムを多く含有する発酵食品を効率よく製造することができる。また、本発明の発酵食品の製造方法により製造された発酵食品は、健康管理上も有用なものであることは言うまでも無く、風味に優れた嗜好性の高いものである。

また、本発明のビフィドバクテリウム属細菌入り乳原料発酵用スターターは、前記発酵食品の製造に使用することができる。

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