酸度上昇が抑制された発酵乳およびその製造方法

申请号 JP2015519952 申请日 2014-05-30 公开(公告)号 JPWO2014192905A1 公开(公告)日 2017-02-23
申请人 株式会社明治; 发明人 英明 内田; 沙織 村田; 瑞恵 斎藤; 勝紀 木村;
摘要 本発明は、酸度上昇が抑制された発酵乳およびその製造方法、ならびに酸度上昇が抑制された発酵乳の製造に有用な乳酸産生菌株である Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171(NITE BP-01569)、および酸度上昇が抑制された発酵乳の製造に有用な乳酸産生菌株のスクリーニング方法に関する。
权利要求

Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171(NITE BP-01569)。Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171(NITE BP-01569)を含む、発酵乳。pHが4.1〜4.7である、請求項2に記載の発酵乳。冷蔵保存された、請求項2または3に記載の発酵乳。酸度の上昇が抑制された、請求項4に記載の発酵乳。酸度が0.7〜1.0である、請求項2〜5のいずれか一項に記載の発酵乳。酵母エキスが0.05重量%より多く添加されていない、請求項1〜6のいずれか一項に記載の発酵乳。乳酸を添加してpHを4.2〜4.3に調整した脱脂粉乳培地に、乳酸産生菌を賦活して接種した後、35〜47℃に維持した該培地において、pHの0.2が低下するまでに15時間以上を要する、生物学的な特徴を有する、前記の乳酸産生菌を含む発酵乳。乳酸産生菌が、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171(NITE BP-01569)である、請求項8に記載の発酵乳。原料ミックスに Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171(NITE BP-01569)をスターター菌として添加する工程を含む、発酵乳の製造方法。3〜4時間、35〜47℃で発酵する工程を含む、請求項10に記載の製造方法。発酵工程を、酸度が0.7以上0.8以下となった時点で終了する、請求項10または11に記載の製造方法。原料ミックスの脱酸素処理工程を含む、請求項10〜12のいずれか一項に記載の製造方法。スターターに、酵母エキスが0.05重量%より多く添加されていない、請求項10〜13のいずれか一項に記載の製造方法。乳酸を添加してpHを4.2〜4.3に調整した脱脂粉乳培地に、乳酸産生菌を賦活して接種した後、35〜47℃に維持した該培地において、pHの0.2が低下するまでに15時間以上を要する、微生物学的な特徴を有する、前記の乳酸産生菌を、原料ミックスに乳酸産生菌をスターター菌として添加する工程を含む、発酵乳の製造方法。乳酸を添加してpHを4.2〜4.3に調整した脱脂乳培地を調整すること、該培地に、試験菌を賦活して接種した後、35〜47℃に維持した該培地におけるpHの変化を測定すること、を含む、酸感受性を有する乳酸産生菌のスクリーニング方法。

说明书全文

本発明は、酸度上昇が抑制された発酵乳およびその製造方法、ならびに酸度上昇が抑制された発酵乳の製造に有用な乳酸産生菌株およびそのスクリーニング方法に関する。

乳酸産生菌を用いて製造される発酵乳では、最終製品においても、生きた乳酸産生菌が含まれていることが多い。発酵乳の風味を保つために、最終製品は通常、冷蔵保存される。しかし、冷蔵保存時においても、生きた乳酸産生菌によって、緩やかに発酵が進んで酸度が上昇するため、発酵乳の品質を長期間にわたって一定に保つことが困難である。かかる現象は、ポストアシディフィケーションまたはアフターアシディフィケーションと称され、発酵乳の製造上で不可欠な酸生成と区別されている。

冷蔵保存時において酸度の上昇が抑制された発酵乳の製造方法として、発酵後に加圧処理して、発酵乳の乳酸菌の活性を低下させる方法が提案されている(特許文献1)。

また、キトサンを配合することで、発酵乳の保存時における酸度上昇を抑制する方法も提案されている(特許文献2)。

さらに、ラクトバチルス・ブルガリカスの酸生成抑制株と、ストレプトコッカス・サーモフィラスの粘性物生産株とをスターター乳酸菌として併用する、保存時における酸度上昇を抑制した発酵乳の製造方法が提案されている(特許文献3)。また、ストレプトコッカス・サーモフィラスの低温感受性乳酸菌株を用いた、保存中時における酸度上昇を抑制した発酵乳の製造方法も提案されている(特許文献4)

特開平04−075555号公報

特開平03−292853号公報

特開平07−236416号公報

特開2000−270844号公報

しかし、本発明者らの研究によれば、特許文献1の発明においては、発酵終了後の製品全体を高圧処理する必要があり、実用的ではない。また、特許文献2の発明においては、キトサンの使用が必須であるため、プレーンヨーグルトの製造に利用することができない。さらに、特許文献3の発明においては、発酵を促進し、発酵時間の遅延を抑制するために、酵母エキス等を用いる必要があり、通常の発酵時間で達成される酸度も低いものとなっている。また、特許文献4の発明においては、酵母エキスを用いて調製した乳酸菌スターターを用いて発酵乳を製造している。

上述の通り、ポストアシディフィケーションを抑制するために、様々な方法が提案されているが、依然として、発酵促進または酸度抑制のための添加物を使用することなく、通常の発酵時間で、特別な製造工程を必要としない、冷蔵保存時における酸度の上昇を抑制した発酵乳の製造方法は確立されていない。また、従来の冷蔵保存時における酸度の上昇を抑制した発酵乳の製造方法では、発酵時間が長く、発酵乳の好ましい香りが豊かでないことが多かった。

したがって、本発明の課題は、従来技術の問題点を解消し、発酵促進または酸度抑制のための添加物を使用する必要がなく、従来と同程度の発酵時間で、通常の製造工程によって、冷蔵保存時における酸度の上昇を抑制した発酵乳およびその製造方法を提供することにある。

さらに、本発明は、冷蔵保存時における酸度の上昇を抑制した発酵乳の製造を可能とする乳酸産生菌株、およびそのスクリーニング方法を提供することも課題とする。

本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意研究を重ねる中で、酸感受性を有する乳酸産生菌株を使用して、発酵乳を製造することにより、発酵を遅延させることなく、冷蔵保存中における酸度の上昇を抑制できることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。

すなわち、本発明は、以下に関する。 [1] Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171(NITE BP-01569)。

[2] Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171(NITE BP-01569)を含む、発酵乳。 [3] pHが4.1〜4.7である、前記[2]に記載の発酵乳。 [4] 冷蔵保存された、前記[2]または[3]に記載の発酵乳。 [5] 酸度の上昇が抑制された、前記[4]に記載の発酵乳。 [6] 酸度が0.7〜1.0である、前記[2]〜[5]のいずれかに記載の発酵乳。 [7] 酵母エキスが0.05重量%より多く添加されていない、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の発酵乳。

[8] 乳酸を添加してpHを4.2〜4.3に調整した脱脂粉乳培地に、乳酸産生菌を賦活して接種した後、35〜47℃に維持した該培地において、pHの0.2が低下するまでに15時間以上を要する、生物学的な特徴を有する、前記の乳酸産生菌を含む発酵乳。 [9] 乳酸産生菌が、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171(NITE BP-01569)である、前記[8]に記載の発酵乳。 [10] 原料ミックスに Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171(NITE BP-01569)をスターター菌として添加する工程を含む、発酵乳の製造方法。 [11] 3〜4時間、35〜47℃で発酵する工程を含む、前記[10]に記載の製造方法。 [12] 発酵工程を、酸度が0.7以上0.8以下となった時点で終了する、前記[10]または[11]に記載の製造方法。 [13] 原料ミックスの脱酸素処理工程を含む、前記[10]〜[12]のいずれかに記載の製造方法。 [14] スターターに、酵母エキスを0.05重量%より多く添加されていない、前記[10]〜[13]のいずれかに記載の製造方法。

[15] 乳酸を添加してpHを4.2〜4.3に調整した脱脂粉乳培地に、乳酸産生菌を賦活して接種した後、35〜47℃に維持した該培地において、pHの0.2が低下するまでに15時間以上を要する、微生物学的な特徴を有する、前記の乳酸産生菌を、原料ミックスに乳酸産生菌をスターター菌として添加する工程を含む、発酵乳の製造方法。 [16] 乳酸を添加してpHを4.2〜4.3に調整した脱脂乳培地を調整すること、 該培地に、試験菌を賦活して接種した後、35〜47℃に維持した該培地におけるpHの変化を測定すること、を含む、酸感受性を有する乳酸産生菌のスクリーニング方法。

本発明では、酸感受性を有する乳酸産生菌、特にLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171株(NITE BP-01569)(本明細書において、「OLL1171株」ともいう)を用いることにより、発酵の促進または酸度の上昇の抑制のための添加物の使用を必要とせず、従来と同程度の発酵時間で、特殊な製造工程を用いずに、冷蔵保存時における酸度の上昇を抑制した発酵乳を提供することができる。

特に、本発明は、発酵乳の冷蔵保存時における経時的な酸度の上昇やpHの低下を抑制し、長期間に亘って、爽やかな風味と、乳酸産生菌の生菌数を保ちながらも、発酵乳の製造後の流通中または保存期間中の風味の変化を従来よりも抑制することを可能とする。

さらに、本発明は、酸度上昇が抑制された発酵乳の製造に有用な酸感受性を有する乳酸産生菌株を、短時間でスクリーニングすることを可能とする。

L. bulgaricusの43 ℃の発酵に及ぼすpH(pH:4.5)の影響を示す図である。

L. bulgaricusの43 ℃の発酵に及ぼすpH(pH:4.25)の影響を示す図である。

L. bulgaricusの43 ℃の発酵に及ぼすpH(pH:4.0)の影響を示す図である。

L. bulgaricusの10 ℃の保存に及ぼすpH(pH:4.5)の影響を示す図である。

L. bulgaricusの10 ℃の保存に及ぼすpH(pH:4.25)の影響を示す図である。

L. bulgaricusの10 ℃の保存に及ぼすpH(pH:4.0)の影響を示す図である。

本明細書において「発酵乳」とは、乳を発酵させたものをいい、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)で定義される「発酵乳」、「乳酸菌飲料」、「乳飲料」、「ナチユラルチーズ」等を包含する。例えば、発酵乳は、乳等省令で定義される「発酵乳」、すなわち、生乳、乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳および加工乳などの乳またはこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を、乳酸菌または酵母で発酵させ、固形状(ハードタイプ)、糊状(ソフトタイプ)または液状(ドリンクタイプ)にしたもの、または、これらを凍結したものをいう。

発酵乳の典型例としては、ヨーグルトが挙げられる。国連食料農業機構(FAO)/世界保健機構(WHO)の定義した、国際規格にも「ヨーグルトと称される製品は、Streptococcus salivarius subsp. thermophilus、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusの両方の菌の乳酸発酵作用により乳及び脱脂粉乳などの乳製品から作られるもので、最終製品中には前述の2つの菌が多量に生存しているもの」と規定される。本明細書において、「ヨーグルト」とは、前記のFAO/WHOの定義するヨーグルトを包含するものである。

ヨーグルトは生きた乳酸産生菌を大量に含むものであるため、本発明の酸感受性を有する乳酸産生菌をヨーグルトの製造に用いることにより、発酵乳の冷蔵保存時における酸度上昇の抑制効果が顕著に現れる。したがって、本発明において、ヨーグルト、ならびに、生菌を含む乳酸菌飲料、乳飲料およびチーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズ)が発酵乳として好適である。特に、プレーンヨーグルト、ハードヨーグルト(セットタイプヨーグルト)、ソフトヨーグルト、ドリンクヨーグルトなどの冷蔵保存されるヨーグルトであることが発酵乳として好適である。

以下、本発明について、発酵乳がヨーグルトである場合を中心にして詳細に説明する。しかしながら、本発明は、かかる態様に限定されるものではなく、乳酸菌飲料、乳飲料およびチーズなどの態様を包含するものである。また、ヨーグルトおよびその他の態様については、本明細書の記載に基づいて、当業者が適宜改変することができる。

本明細書において、「原料ミックス」とは、生乳、全脂乳、脱脂乳、ホエイなどの乳成分を含む液体である。ここで、生乳とは、例えば、牛乳などの獣乳をいう。原料ミックスには、生乳、全脂乳、脱脂乳、ホエイなどの乳成分の他に、その加工品(例えば、全脂粉乳、全脂濃縮乳、脱脂粉乳、脱脂濃縮乳、練乳、ホエイ粉、バターミルク、バター、クリーム、チーズ、カゼイン、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質単離物(WPI)、α−ラクトアルブミン(α−La)、β−ラクトグロブリン(β−Lg)など)を含むことができる。

なお、原料ミックスには、乳成分の他にも、豆乳、砂糖、糖類、甘味料、香料、果汁、果肉、ビタミン、ミネラル、油脂などの食品、食品成分および食品添加物などを含むことができる。また、原料ミックスには、必要に応じて、ペクチン、大豆多糖類、CMC(カルボキシメチルセルロース)、寒天、ゼラチン、カラギナン、ガム類などの安定剤、増粘剤、ゲル化剤などを含むことができる。

本発明において、原料ミックスには、一般的に発酵乳の製造に用いられる、上述の食品、食品成分、食品添加物および安定剤、増粘剤、ゲル化剤のみを含むことが好ましい。特に、発酵乳の食感や風味の観点から、「酵母エキス」や「キトサン」などの発酵の促進効果のある成分や酸度上昇の抑制効果のある成分を発酵乳に添加(配合)しないか、それらを発酵乳に添加する場合でも、そのような効果を発揮しない微量で添加することが望ましい。

本発明の好ましい態様において、原料ミックスには、酵母エキスの添加量を、例えば 0.01重量%以下、好ましくは0.005重量%以下、より好ましくは0.001重量%以下、さらに好ましくは0.0005重量%以下、特に好ましくは0.0001重量%以下とし、最も好ましくは、酵母エキスを含まないことである。そして、本発明の好ましい態様において、発酵乳には、酵母エキスの添加量を、例えば 0.01重量%以下、好ましくは0.005重量%以下、より好ましくは0.001重量%以下、さらに好ましくは0.0005重量%以下、特に好ましくは0.0001重量%以下とし、最も好ましくは、酵母エキスを含まないことである。

また、本発明の好ましい態様において、原料ミックスには、キトサンの添加量を、例えば 0.01重量%未満、好ましくは0.005重量%未満、より好ましくは0.001重量%未満、さらに好ましくは0.0005重量%未満、特に好ましくは0.0001重量%未満とし、最も好ましくは、キトサンを含まないことである。そして、本発明の好ましい態様において、発酵乳には、キトサンの添加量を、例えば 0.01重量%未満、好ましくは0.005重量%未満、より好ましくは0.001重量%未満、さらに好ましくは0.0005重量%未満、特に好ましくは0.0001重量%未満とし、最も好ましくは、キトサンを含まないことである。

本明細書において、「乳酸産生菌を含む」、「Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171株(受託番号:NITE BP-01569)を含む」とは、発酵乳が当該菌(当該微生物)を含むこと、好ましくは当該菌の生菌を含むことをいう。乳酸産生菌を発酵乳のスターター菌として用いることにより、その得られた発酵乳が当該菌を含む場合だけでなく、スターター菌として用いる乳酸産生菌とは別に、乳酸産生菌を発酵前、発酵中または発酵後に添加することにより、当該菌を含む場合が挙げられる。本明細書において、「スターター菌」とは、発酵する微生物を意味し、「スターター」とは、スターター菌の培養物を意味する。

本明細書において、「酸度」とは、牛乳関係法令集(乳業団体衛生連絡協議会、平成十六年三月)の56頁の「5.乳及び乳製品の酸度の測定法」による測定値であり、その詳細は以下の通りである。すなわち、本明細書において、「酸度」とは、「試料 10 mlに同量の炭酸ガスを含まないを加えて希釈し、指示薬としてフェノールフタレイン液 0.5 mlを加えて、0.1 mol/L 水酸化ナトリウム溶液で30秒間、微紅色の消失しない点を限度として滴定し、その滴定量から試料 100 g当たりの乳酸のパーセント量を求め、酸度とする。0.1 mol/L 水酸化ナトリウム溶液 1 mlは、乳酸 9 mgに相当する。指示薬は、フェノールフタレイン 1 gを50 % エタノールに溶かして 100 mlとする。」に基づいて測定された酸度をいう。

一般的に、最終製品として出荷される発酵乳がヨーグルトである場合、その新鮮物(発酵の終了時点)の酸度は、0.6〜0.8 %程度である。発酵乳は通常、1〜2週間(7〜14日間)程度で冷蔵保存され得るため、発酵乳が実際に消費される際には、その冷蔵保存品(冷蔵保存の後)の酸度は、0.9〜1.2 %程度まで上昇し得る。このとき、発酵乳の食感や風味(特に、酸味)の観点から、発酵乳の酸度として、例えば0.6〜1.1 %、好ましくは0.7〜0.9 %、より好ましくは0.75〜0.85 %程度である。そこで、本発明では、発酵乳の冷蔵保存時における酸度の上昇が抑制されているため、発酵乳の新鮮物の酸度として、例えば0.6〜0.9 %、好ましくは0.65〜0.85 %、より好ましくは0.7〜0.8 %であり、1〜2週間程度で冷蔵保存した後に、発酵乳の冷蔵保存品の酸度として、例えば0.7〜1.1 %、好ましくは0.75〜1.0 %、より好ましくは0.75〜0.9 %である。

本明細書おいて、「酸度の上昇が抑制される」とは、発酵の終了時点の酸度から、一定期間で冷蔵保存した場合の酸度の上昇が0.25 %以下であることをいう。本発明の一態様において、発酵の終了時点から1週間(7日間)の経過時点まで冷蔵(10 ℃)保存した場合における当該1週間(7日間)後の酸度の変化(上昇)は、例えば0.15 %以下、好ましくは0.13 %以下、より好ましくは0.11 %以下、さらに好ましくは0.10 %以下、特に好ましくは0.09 %以下である。このとき、酸度の変化(上昇)の下限値は、特に限定されないが、例えば0.02 %である。

本発明の一態様において、発酵の終了時点から2週間(14日間)の経過時点まで冷蔵(10 ℃)保存した場合における当該2週間(14日間)後の酸度の変化(上昇)は、例えば0.25 %以下、好ましくは0.23 %以下、より好ましくは0.21 %以下、さらに好ましくは0.20 %以下、特に好ましくは0.19 %以下である。このとき、酸度の変化(上昇)の下限値は、特に限定されないが、例えば0.05 %である。

本発明の一態様において、発酵の終了時点から1週間(7日間)の経過時点まで冷蔵(10℃)保存した場合における当該1週間(7日間)目の発酵乳の酸度は、例えば0.6〜0.95 %、好ましくは0.65〜0.9 %、より好ましくは0.7〜0.85 %、さらに好ましくは0.75〜0.85 %、特に好ましくは0.8〜0.85 %である。本発明の一態様において、発酵の終了時点から2週間(14日間)の経過時点まで冷蔵(10 ℃)保存した場合における当該2週間(14日間)目の発酵乳の酸度は、例えば0.7〜1.05 %、好ましくは0.75〜1.0 %、より好ましくは0.8〜0.95 %、さらに好ましくは0.85〜0.95 %、特に好ましくは0.9〜0.95 %である。

本明細書において、「冷蔵保存」とは、10 ℃以下の低温における保存をいい、典型的には5〜10 ℃における保存をいう。一般的に、最終製品として出荷される発酵乳がヨーグルトである場合、その新鮮物(発酵の終了時点)のpHは、4.0〜5.0程度である。このとき、発酵乳の食感や風味(特に、酸味)の観点から、発酵乳のpHは、例えば4.0以上、好ましくは4.1以上、より好ましくは4.2以上である。そこで、本発明では、発酵乳の冷蔵保存時における酸度の上昇が抑制されているため、発酵乳の新鮮物のpHは、例えば4.0〜5.0、好ましくは4.1〜4.7、より好ましくは4.2〜4.6であり、1〜2週間程度で冷蔵保存した後に、発酵乳の冷蔵保存品のpHは、例えば4.0〜5.0、好ましくは4.1〜4.7、より好ましくは4.2〜4.6である。

本発明の一態様において、発酵の終了時点から1週間(7日間)の経過時点まで冷蔵(10℃)保存した場合における当該1週間(7日間)のpHの変化(低下)は、例えば0.35以下、好ましくは0.32以下、より好ましくは0.3以下、さらに好ましくは0.27以下、特に好ましくは0.25以下である。酸度の変化(低下)の下限値は、特に限定されないが、例えば0.02である。

本発明の一態様において、発酵の終了時点から2週間(14日間)の経過時点まで冷蔵(10 ℃)保存した場合における当該2週間(14日間)のpHの変化(低下)は、例えば0.5以下、好ましくは0.47以下、より好ましくは0.45以下、さらに好ましくは0.42以下、特に好ましくは0.4以下である。このとき、pHの変化(低下)の下限値は、特に限定されないが、例えば0.05である。

本発明の一態様において、発酵の終了時点から1週間(7日間)の経過時点まで冷蔵(10℃)保存した場合における当該1週間(7日間)目の発酵乳のpHは、例えば4.0〜5.0、好ましくは4.1〜4.8、より好ましくは4.2〜4.6、さらに好ましくは4.3〜4.6、特に好ましくは4.4〜4.6である。本発明の一態様において、発酵の終了時点から2週間(14日間)の経過時点まで冷蔵(10 ℃)保存した場合における当該2週間(14日間)目の発酵乳のpHは、例えば4.0〜5.0、好ましくは4.1〜4.8、より好ましくは4.2〜4.6、さらに好ましくは4.3〜4.6、特に好ましくは4.4〜4.6である。

本発明の一態様において、経時的な酸度の変化やpHの変化が上記の範囲内であれば、長期間に亘って、発酵乳を所定の品質(特に、所定の風味)に管理(維持)することができると共に、発酵乳の賞味期限を十分に延長することができる。

本明細書において、「乳酸産生菌」とは、乳酸を産生する微生物をいい、Lactobacillus 属、Streptococcus 属、Lactococcus 属、Leuconostoc 属およびPediococcus 属などに属する乳酸菌、ならびにBifidobacterium 属が挙げられる。ここで、乳酸産生菌として、好ましくは、ヨーグルトの製造に必須である、ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus、本明細書において、「ブルガリア菌」、「L. bulgaricus」ともいう)、および、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus、本明細書において、「サーモフィラス菌」、「S. thermophilus」ともいう)であり、特に好ましくは、ヨーグルトの製造において、乳酸を多く産生する、ブルガリア菌(L. bulgaricus)である。

本発明の Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171(ブルガリア(L.bulgaricus) OLL1171)は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(日本国 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、2013年3月13日付、受託番号:NITE BP-01569として寄託されており、以下の特徴を有するLactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus菌である。

ここで、L. bulgaricus OLL1171は、次のような科学的な性質(形態的、培地上の特徴、生理学的な性質など)を有する。 (a)形態的な性質 培地(BL(+) Agar、Nissui)上のコロニー性状 : 基本的に円形(やや多形)、白色〜グレー、Smooth型(一部:rough型)、扁平状 (b)生理学的な性質 菌形態 : 桿菌、 グラム染色 : 陽性、 乳酸発酵形式 : ホモ乳酸発酵、 好気的な発育 : +

(c)その他、当該微生物を特徴付ける性質 16sRNA配列ではsubsp.以下の亜種は区別できないため、groEL配列解析をdelbrueckiiの4亜種(delbrueckii, bulgaricus, lactis, indicus)の同定に活用し、以下の配列のものをOLL1171株の同定に活用することができる。 groEL配列(OLL1171株) AAAGGCCACCAAAGCAGCCGTTGACCAATTGCACAAGAACAGCCACAAAGTTTCCAGCCGGGACCAAATTGCCCAAGTTGCTTCAATCTCAAGTGCTTCAAAGGAAATCGGCGACTTGATCGCTGAAGCCATGGAAAAGGTCGGCAAGGACGGTGTTATCACCATTGAAGACTCCCGCGGGATCGAAACTGAACTGAGCGTGGTTGAAGGGATGCAATTCGACCGCGGCTACCTGTCCCAATACATGGTAACGGACAACGACAAGATGGAAGCTGACTTGGAAAACCCATACATCTTGATCACTGACAAGAAGATTTCCAACATCCAGGACATCTTGCCAATGTTGCAGGAAATCGTGCAAC(配列番号:1)

また、L. bulgaricus OLL1171は、上記の性質に加えて、実施例1に示される、発酵乳の酸度上昇の抑制の特性を有する。

本発明の発酵乳の製造方法は、従来の発酵乳の製造工程を採用することができるが、その好ましい態様を以下に説明する。

本発明の発酵乳の製造方法は、原材料を混合(調合)する、原料ミックスの調合工程を含む。原料ミックスの調合工程では、発酵乳を製造する際に用いられる通常の条件を適宜採用すればよい。さらに、本発明の発酵乳の製造方法は、従来の方法と同様に、原料ミックスの(加熱)殺菌工程、原料ミックスの冷却工程、スターターの添加工程、発酵工程、発酵乳の冷却工程を含み、この順番で含むことが望ましい。なお、これらの工程では、発酵乳を製造する際に用いられる通常の条件を適宜採用すればよい。

本発明の発酵乳の製造方法は、原料ミックスの均質化工程を含んでもよい。本発明の発酵乳の製造方法は、原料ミックスの調合工程と同時やその後、原料ミックスの殺菌工程の前や後、原料ミックスの殺菌工程の後の冷却工程と同時やその前や後、発酵工程の後、発酵工程の後の冷却工程と同時やその前や後などの順番で、原料ミックスの均質化工程を含ませることができる。そして、本発明の発酵乳の製造方法は、原料ミックスの均質化工程を一回または複数回で含ませることができる。そして、原料ミックスの均質化工程では、ホモゲナイザーなどを用いた場合には、均質化の圧を、例えば 1〜100 MPa、好ましくは 5〜50 MPa、より好ましくは 8〜30 MPa、さらに好ましくは 10〜20 MPaとして処理する。

本発明の発酵乳の製造方法は、原料ミックスを脱酸素処理する脱酸素処理工程を含んでもよい。脱酸素処理工程では、原料ミックスに存在している酸素(溶存酸素濃度)を低減または除去する。原料ミックスの溶存酸素濃度(DO)の低減方法(脱酸素方法)は、例えば、窒素ガス、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノンなどの不活性ガスによるガス置換処理、酸素透過膜による膜分離処理、低圧や真空による脱気処理などを用いることができる。脱酸素処理工程では、原料ミックスの溶存酸素濃度を、例えば 5 ppm以下、好ましくは 3 ppm以下、より好ましくは 2 ppm以下、さらに好ましくは 1 ppm以下となるまで低減または除去することとなる。

本発明の発酵乳の製造方法は、原料ミックスの調合工程と同時やその後、原料ミックスの均質化工程の後、原料ミックスの殺菌工程の前や後、原料ミックスの冷却工程と同時やその前や後、スターターの添加工程と同時やその前や後、発酵工程と同時やその前や後、発酵乳の冷却工程と同時やその前や後などの順番で、脱酸素処理工程を含ませることができる。そして、本発明の発酵乳の製造方法は、脱酸素処理工程を一回または複数回で含ませることができる。

脱酸素処理工程では、発酵工程の開始時において、原料ミックスの溶存酸素濃度を低減することによって、発酵時間を短縮することができる。さらに、発酵乳の冷蔵保存時における酸度上昇の抑制効果を高めることもできる。そこで、発酵工程の開始時において、原料ミックスの溶存酸素濃度が低減された状態で維持されていることが重要であることから、脱酸素処理工程は、スターターの添加工程と同時や直前や直後、発酵工程と同時や直前で含ませることが望ましい。

本発明の発酵乳の製造方法は、前記の通り、スターターの添加工程を含む。スターターは、酸感受性を有する乳酸産生菌の単独で培養した単独スターターであっても、他の微生物と混合して培養した混合スターターであってもよい。本発明では、酸感受性を有する乳酸産生菌以外の微生物をさらなるスターター菌として用いることができる。

乳酸産生菌を培養する成分として、原料ミックスに含まれる成分を用いることが好ましく、原料ミックスに含まれる成分のみを用いることがより好ましい。具体的には、生乳、全脂乳、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、全脂濃縮乳、脱脂濃縮乳、ホエイ、ホエイ粉、バターミルク、バター、クリーム、チーズ、カゼイン、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質単離物(WPI)、α−ラクトアルブミン(α−La)、β−ラクトグロブリン(β−Lg)などを用いることが好ましく、生乳、殺菌乳、脱脂乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、全脂濃縮乳および/または脱脂濃縮乳を用いることがより好ましい。

乳酸産生菌を培養する増殖促進剤として、酵母エキス、ミートエキスなどの抽出物を、スターター菌を培養するための培地に添加することができる。しかしながら、発酵乳の風味の観点から、発酵乳の製造時において、これらの成分が高濃度で原料ミックスに添加されることは好ましくない。したがって、スターターには、増殖促進剤の添加量を、例えば0.1重量%未満、好ましくは 0.05重量%未満、より好ましくは 0.01重量%未満、さらに好ましくは 0.005重量%未満、特に好ましくは 0.001重量%未満とし、最も好ましくは増殖促進剤を含まないことである。

スターターにおける乳酸産生菌の菌数は、例えば 10 5 〜10 13 cfu/mL、好ましくは 10 6 〜10 12 cfu/mL、より好ましくは 10 7 〜10 11 cfu/mL、さらに好ましくは 10 8 〜10 10 cfu/mLである。

原料ミックスには、スターターの添加量を、例えば 1〜 10重量%、好ましくは 1〜 8重量%、より好ましくは 2〜 6重量%、さらに好ましくは 2〜 4重量%とする。なお、本発明において、原料ミックスには、スターターを常法に従って添加することができる。

本発明の発酵乳の製造方法は、前記の通り、発酵工程を含む。本発明では、風味と食感の良好な発酵乳を効率的に得る観点から、発酵温度を、例えば 30〜 50 ℃、好ましくは35〜 47 ℃、より好ましくは 37〜 45 ℃、さらに好ましくは 40〜 43 ℃とする。一方、原料ミックスの脱酸素処理工程を含む場合には、風味と食感の良好な発酵乳を効率的に得る観点からも、比較的に低温で発酵することが望ましいため、発酵温度を、例えば 28〜47 ℃、好ましくは 30〜 45 ℃、より好ましくは 32〜 43 ℃、さらに好ましくは 35〜 40 ℃とする。

本発明では、風味と食感の良好な発酵乳を効率的に得る観点から、発酵時間を、例えば1〜 48時間、好ましくは 2〜 24時間、より好ましくは 3〜 10時間、さらに好ましくは3〜 6時間、特に好ましくは 3〜 5時間とする。一方、原料ミックスの脱酸素処理工程を含む場合には、風味と食感の良好な発酵乳を効率的に得る観点からも、比較的に短時間で発酵することが望ましいため、発酵時間を、例えば 1〜 36時間、好ましくは 1〜 12時間であり、より好ましくは 2〜 8時間、さらに好ましくは 2〜 5時間、特に好ましくは 2〜4時間とする。

発酵工程では、風味と食感の良好な発酵乳を得る観点から、発酵乳の酸度として、例えば 0.6〜 1.0 %、好ましくは 0.65〜0.95 %、より好ましくは 0.7〜 0.9 %、さらに好ましくは 0.75〜0.85 %となった時点で終了する。また、発酵工程では、風味と食感の良好な発酵乳を得る観点から、発酵乳のpHとして、例えば 4.15〜4.75、好ましくは 4.2〜4.7、より好ましくは 4.25〜4.65、さらに好ましくは 4.3〜4.6となった時点で終了する。

本発明の発酵乳の製造方法は、前記の通り、発酵乳の冷却工程を含むことができる。発酵乳の冷却工程では、発酵乳を発酵温度(例えば 43 ℃)から所定の低温(例えば 10 ℃)に低下させる。そして、発酵乳の冷却工程では、発酵乳の冷却速度として、例えば 1〜60分間、好ましくは 1〜 30分間、より好ましくは 1〜 10分間、さらに好ましくは 1〜5分間で、10℃以下まで冷却させる。このとき、発酵乳の冷却工程において、酸生成を可能な限り少なくするため、冷却速度として速いことが望ましい。

本発明の発酵乳の製造方法は、発酵乳のカードの破砕工程および/または発酵乳の均質化工程を含むことができる。発酵乳のカードの破砕工程では、例えば、発酵乳に攪拌力を加えるなどして、発酵乳に含まれるカゼインの粒子(カードの固形成分)をホエイに細かく分散させて、発酵乳の組織を微粒化させる。発酵乳の均質化工程では、例えば、発酵乳に圧力を加えながら、発酵乳を狭い流路から押し出すなどして、発酵乳に含まれるカゼインの粒子(カードの固形成分)をホエイに細かく分散させて、発酵乳の組織を微粒化させることとなる。

本発明の発酵乳の製造方法は、発酵工程の後、発酵乳の冷却工程と同時やその前や後などの順番で、発酵乳のカードの破砕工程および/または発酵乳の均質化工程を含ませることができる。そして、発酵乳のカードの破砕工程では、攪拌翼付きのタンクやスタティックミキサーなどを用いることができる。発酵乳の均質化工程では、ホモゲナイザーなどを用いた場合には、均質化の圧力として、例えば 1〜100 MPa、好ましくは 5〜50 MPa、より好ましくは 8〜30 MPa、さらに好ましくは 10〜20 MPaで処理される。なお、発酵乳のカードの破砕工程は、前発酵型の発酵乳のソフトタイプヨーグルトやドリンクタイプヨーグルトに用いられ、発酵乳の均質化工程は、主に前発酵型の発酵乳のドリンクタイプヨーグルトに用いられる。

本発明の発酵乳の製造方法は、風味物質、酸味料、栄養強化物質、香料、安定剤などを原料ミックスおよび/または発酵乳(主に、新鮮物)と混合させる他成分の添加工程を含むことができる。他成分の添加工程では、例えば、風味物質(砂糖、高甘味度甘味料、液糖等の甘味料、果物や野菜などの果肉や果汁、ジャム、ソース、プレパレーションなど)、酸味料(クエン酸、乳酸など)、栄養強化物質(ビタミン、ミネラル、不溶性塩類(リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、乳清カルシウムなど)など)、香料(フレーバー)、安定剤(ペクチン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カラギナン、大豆多糖類など)などを含んだ流動性のあるトロミ状や液状の溶液を発酵乳と混合させる。

本発明の発酵乳の製造方法は、前発酵型の発酵乳(ソフトタイプヨーグルト、ドリンクタイプヨーグルト)の場合には、発酵工程の後、発酵乳の冷却工程と同時やその前や後、均質化工程の前や後などの順番で、他成分の添加工程を含ませることができる。また、本発明の発酵乳の製造方法は、後発酵型の発酵乳(ハードタイプヨーグルト、セットタイプヨーグルト)の場合には、原料ミックスの調合工程と同時やその後、原料ミックスの殺菌工程の前や後、原料ミックスの殺菌工程の後の冷却工程と同時やその前や後などの順番で、他成分の添加工程を含ませることができる。ただし、発酵乳の製造工程において、他成分の温度の変化を抑制する観点からは、他成分の添加工程は、前発酵型の発酵乳に用いられることが望ましい。

本発明の好ましい態様において、原料ミックスには、安定剤(ペクチン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カラギナン、大豆多糖類など)の添加量として、例えば 0.05〜 1.0重量%、好ましくは 0.05〜 0.8重量%、より好ましくは 0.1〜 0.5重量%、さらに好ましくは 0.1〜 0.4重量%、特に好ましくは 0.1〜 0.3重量%で含み、最も好ましくは、安定剤を含まないことである。そして、本発明の好ましい態様において、発酵乳には、安定剤の添加量として、例えば 0.05〜 1.0重量%、好ましくは 0.05〜 0.8重量%、より好ましくは 0.1〜0.5重量%、さらに好ましくは 0.1〜 0.4重量%、特に好ましくは 0.1〜 0.3重量%で含み、最も好ましくは、安定剤を含まないことである。

本発明は、酸感受性を有する乳酸産生菌の選抜(スクリーニング)方法も提供する。本明細書において、「酸感受性を有する乳酸産生菌」とは、酸性条件下(特にpHが 4.5以下)における活性が低い、乳酸産生菌をいう。具体的には、酸感受性を有する乳酸産生菌は、pHが 4.5以下の発酵乳において、乳酸を産生する能力が低い、乳酸産生菌である。

かかる酸感受性を有する乳酸産生菌を以下の工程により、スクリーニングすることができる。 (1) 脱脂粉乳培地(例えば、脱脂粉乳を8〜12重量%で含む)に乳酸を添加して、pHを 4.2〜 4.3に調整した脱脂粉乳培地を調整すること。 (2) 酵母エキスを含む脱脂粉乳培地を用いて賦活した試験菌(微生物)を得ること。 (3) 該脱脂粉乳培地(前記(1))に、該試験菌(前記(2))を接種した後、その温度を 35 〜47 ℃に維持しながら、該脱脂粉乳培地におけるpHの変化を測定すること。

より具体的には、pHが4.2 〜4.3 の脱脂粉乳培地は、以下の方法で調製し得る。すなわち、脱脂粉乳、水、乳酸やクエン酸、ペクチンなどを用いて、発酵直後の発酵乳(新鮮物)のpH付近であるpHが 4.4〜 4.6程度の脱脂粉乳培地を調製する。かかる脱脂粉乳培地は、無脂乳固形分を例えば 8〜12重量%、好ましくは 8,5 〜11.5重量%、より好ましくは 9 〜11重量%、さらに好ましくは 9.5〜10.5重量%、特に好ましくは 10重量%で含む。また、かかる脱脂粉乳培地は、脂肪分を例えば 0.001〜0.5重量%、好ましくは 0.001〜0.2重量%、より好ましくは0.001〜0.1重量%、さらに好ましくは 0.001〜0.05重量%で含み、特に好ましくは 実質的に含まない。ここで、pHを 4.4〜 4.6程度に調整した脱脂粉乳培地に、乳酸やクエン酸を添加し、そのpHを 4.2〜 4.3、好ましくは約 4.25に調整する。

試験菌は、増殖促進剤を含む脱脂粉乳培地を用いて培養することで賦活させることができる。このとき、この脱脂粉乳培地は、脱脂粉乳、水、酵母エキス、ミートエキス、キトサンなどを用いて調製することができる。ここで、増殖促進剤には例えば、酵母エキス、ミートエキスキトサンを挙げることができる。本発明の好ましい態様において、脱脂粉乳培地には、増殖促進剤の添加量として、例えば 0.01〜 0.5重量%、好ましくは 0.02〜 0.3重量%、より好ましくは 0.03〜 0.2重量%、さらに好ましくは 0.05〜 0.15重量%、特に好ましくは 0.1重量%である。

増殖促進剤を含む脱脂粉乳培地を用いて、所定の培養温度と所定の培養時間で、試験菌を培養する。本発明では、試験菌を効率的に得る観点から、培養温度を、例えば 30〜 50℃、好ましくは 32〜 45 ℃、より好ましくは 35〜 42 ℃、さらに好ましくは 37〜 40℃とする。また、本発明では、試験菌を効率的に得る観点から、培養時間を、例えば 2〜48時間、好ましくは 6〜 36時間、より好ましくは 12〜 30時間、さらに好ましくは 18〜 27時間、特に好ましくは 24時間とする。なお、試験菌は、1回または複数回で賦活させることができる。

pHを 4.2〜 4.3 に調整した脱脂粉乳培地を常法に従って(加熱)殺菌した後に、試験菌を常法に従って接種して培養する。このとき、pHを所定値に調整した脱脂粉乳培地を用いて、通常の発酵乳の発酵温度で、試験菌の活性を測定することが好ましい。

本発明のスクリーニング方法では、pHを所定値に調整した脱脂粉乳培地を用いて、試験菌を接種してから、試験温度を、例えば 35〜 50 ℃、好ましくは 37〜 50 ℃、より好ましくは 40〜 47 ℃、さらに好ましくは、 43〜 45 ℃、特に好ましくは 43 ℃として保持する。また、本発明のスクリーニング方法では、pHを所定値に調整した脱脂粉乳培地を用いて、試験菌を接種してから、試験時間を、例えば 1〜 48時間、好ましくは 2〜 24時間、より好ましくは 3〜 10時間、さらに好ましくは 3〜 6時間、特に好ましくは 3〜5時間とする。

pHの変化は常法に従って測定することができる。具体的には、pHメーター(市販品)を用いて継時的に測定することが好ましい。pHの変化は例えば 3時間以上、好ましくは 5時間以上、より好ましくは 10時間以上、さらに好ましくは 24時間以上で継時的に測定することとなる。

本発明の一態様において、酸感受性を有する乳酸産生菌のスクリーニング方法は、以下の工程を含む。 (1) 脱脂粉乳、水、乳酸、ペクチンを混合して、pHが 4.5の脱脂粉乳培地(無脂乳固形分:9.5重量%、脂肪分:0.1重量%)を調製(調合)し、そこに乳酸(50重量%)を添加しながら、pHを 4.25と4.0に調整した脱脂粉乳培地を調整すること。 (2) 酵母エキスを0.1 重量%で含む脱脂粉乳培地(無脂乳固形分:9.5重量%、脂肪分0.1重量%)を用いて 2回で賦活した試験菌を得ること。 (3) 該脱脂粉乳培地(前記(1))に、該試験菌(前記(2))を接種した後、その温度を 43 ℃に維持しながら、該脱脂粉乳培地におけるpHの変化を測定すること。

本発明では、上記培地で培養した際に、pHの変化が小さい試験菌(低pHで生育しない乳酸産生菌)を、酸感受性を有する乳酸産生菌として認定することができる。本発明の一態様において、脱脂粉乳培地を 35〜 47 ℃に維持した状態において、pHの 0.2が低下するまでに、例えば 15時間以上、好ましくは 16時間以上、より好ましくは 17時間以上、さらに好ましくは 18時間以上を要する乳酸産生菌を、酸感受性を有する乳酸産生菌と認定することができる。また、本発明の一態様において、脱脂粉乳培地を 40〜 45 ℃に維持した状態において、pHの0.2が低下するまでに、例えば 15時間以上、好ましくは 16時間以上、より好ましくは 17時間以上、さらに好ましくは 18時間以上を要する乳酸産生菌を、酸感受性を有する乳酸産生菌と認定することができる。

本発明の一態様において、脱脂粉乳培地を 35〜 47 ℃に維持した状態において、pHの0.1が低下するまでに、例えば 7時間以上、好ましくは 8時間以上、より好ましくは 9時間以上、さらに好ましくは 10時間以上を要する乳酸産生菌を、酸感受性を有する乳酸産生菌と認定することができる。また、本発明の一態様において、脱脂粉乳培地を 40〜45 ℃に維持した状態において、pHの0.1が低下するまでに、例えば 7時間以上、好ましくは 8時間以上、より好ましくは 9時間以上、さらに好ましくは 10時間以上を要する乳酸産生菌を、酸感受性を有する乳酸産生菌と認定することができる。

本発明の別の一態様において、脱脂粉乳培地を 35〜 47 ℃に維持した状態において、24時間が経過しても、pHが0.25よりも大きく低下しない乳酸産生菌を、酸感受性を有する乳酸産生菌と認定することができる。また、本発明の別の一態様において、脱脂粉乳培地を 40〜 45 ℃に維持した状態において、24時間が経過しても、pHが0.25よりも大きく低下しない乳酸産生菌を、酸感受性を有する乳酸産生菌と認定することができる。

以下、本発明を実施例に基づいて、更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的な思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。なお、本明細書において、特に明示しない場合には、%は重量%を意味する。

[実施例1] 酸感受性を有する乳酸産生菌のスクリーニング ◆脱脂粉乳培地(pH:4.5、pH:4.25、pH:4.0)の調製方法 脱脂粉乳、水、乳酸、糖液(ペクチン)を混合して、pHが4.5の脱脂粉乳培地(無脂乳固形分:9.5重量%、脂肪分:0.1重量%)を調製した。脱脂粉乳培地を均質化(ホモジナイズ)して、ペクチンで安定化した後に、市販の乳酸(50重量%、和光純薬工業株式会社、日本:特級試薬)を添加しながら、pHが 4.25と pHが 4.0の未殺菌の培地を調製した。このようにして培地を調製することで、乳成分を含む培地のpHの調整に伴う、ダマの形成を抑制した。これらの培地を各々95℃で5分加熱殺菌後、実験に使用した。

◆試験の乳酸産生菌の準備 試験の乳酸産生菌: 菌株A: 明治ブルガリアヨーグルトLB81(プレーンタイプヨーグルト)(株式会社明治、日本:2013年4月製造)用のLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 菌株B: 明治ブルガリアヨーグルト(フルーツ入りソフトタイプヨーグルト)(株式会社明治、日本:2013年4月製造)用のLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 菌株C: Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171(NITE BP-01569)

試験の乳酸産生菌を、それぞれ脱脂粉乳培地(脱脂粉乳: 10重量%、水: 90重量%、酵母エキス: 0.1重量%)を用いて、37 ℃、24時間の条件にて2回で賦活した。

◆酸感受性に関する検討 前記の通り、試験の乳酸産生菌を賦活(2回)してから、pHが4.5、pHが4.25、pHが4.0の脱脂粉乳培地に、それぞれの培養液を2重量%で接種した後、多検体用の自動モニタリングpHメーター(ABLE社製)の電極をセットし、43 ℃の恒温槽を用いて、約1日間で継時的にpHを測定した。

◆低温感受性に関する検討 前記の通り、菌株A、菌株B、および菌株C(OLL1171株)を賦活(2回)してから、pHが4.5、pHが4.25、pHが4.0の脱脂粉乳培地に、それぞれの培養液を10重量%で接種した後、多検体用の自動モニタリングpHメーター(ABLE社)の電極をセットし、10℃の恒温槽を用いて、約2日間で継時的にpHを測定した。

◆結果 43 ℃の培養における測定結果を、図1、図2、図3に示した。 10 ℃の保存における測定結果を、図4、図5、図6に示した。

[43 ℃の培養]

通常のヨーグルトの新鮮物のpHに近いpHが4.5の脱脂粉乳培地を用いて、43 ℃で培養した際に、3種類の試験菌では、生育曲線で良好な傾向を示した(図1)。

[43 ℃の培養]

冷蔵(10 ℃)に約1〜2週間で保存した通常のヨーグルトのpHに近いpHが4.25の脱脂粉乳培地を用いて、43 ℃で培養した際に、3種類の試験菌で、生育曲線に、ばらつきが見られた(図2)。菌株C(OLL1171株) < 菌株A < 菌株Bの順に、生育が良好であった。Δy/Δx(pHの変化/経過時間)では、菌株C = −0.0089、菌株A = −0.0119、菌株B = −0.0130であった。このことから、OLL1171株では、乳酸により、やや生育が抑制されることが示唆された。

[43 ℃の培養]

冷蔵(10 ℃)に約2〜3週間で保存した通常のヨーグルトのpHに近いpHが4.0の脱脂粉乳培地を用いて、43 ℃で培養した際に、3種類の試験菌とも、生育が鈍化した。Δy/Δx(pHの変化/経過時間)では、菌株C = −0.00384であった(図3)。初発のpHは同一のため、菌株A(明治ブルガリアヨーグルトLB81用のL. bulgaricus)では、最もpHの低下が大きいと判断できる。

[10 ℃の保存] 10 ℃の保存では、43 ℃の培養と比較して、各 L. bulgaricusにおいて、初発のpHから変動が見られない、もしくは僅かな変動のみが確認された(図4、図5および図6)。 僅かな変動が見られたものは、菌株AのpHが4.5およびpHが4.25の脱脂粉乳培地の場合のみで、そのときのΔy/Δx(pHの変化/経過時間)では、菌株A(pH: 4.5)=−0.000901、菌株A(pH: 4.25)=−0.000220であった。

各 L. bulgaricusの酸感受性(pH: 4.25)、低温感受性(10 ℃)の評価を下記の表1に示した。

[実施例2] 発酵乳(ヨーグルト)の製造 実施例1で用いた L. bulgaricus を、S. thermophilus と組み合わせた混合スターターを、脱脂粉乳培地(脱脂粉乳: 10重量%、水: 90重量%、砂糖: 2重量%)を用いて培養した。発酵乳の原料(脱脂粉乳: 12.4重量%、無塩バター: 0.4重量%、砂糖: 5.4重量%、水: 81.84重量%)を混合し、原料ミックスを調製した。この得られた原料ミックスを、95 ℃、2分間で加熱殺菌した後、45 ℃に冷却した。この得られた原料ミックスに、試験のスターターを、それぞれ2重量%で接種し、43 ℃で発酵させた。酸度が0.73 %となった時点で、発酵を終了させて、10 ℃に冷却させて、発酵乳を得た。そして、これらの発酵乳を冷蔵(10 ℃)で保存した。ここで、酸度およびpHを常法に従って測定し、1日目、7日目、10日目の各分析結果を表2に示した。

実施例1および実施例2の結果から、酸感受性(pH: 4.25)の高い乳酸産生菌(L.bulgaricus)を用いることで、冷蔵保存時における酸度の上昇が低い発酵乳を得られることが理解される。

[実施例3] スターターの能力の比較 実施例2と同様の方法で、ポストアシディフィケーションが低い、市販の混合スターターのYO-MIX 863(DANISCO社)を用いて、発酵乳を得た。また、OLL1171株と S. thermophilus の菌株Yを組み合わせた混合スターターを用いて、各種条件を変更し、3種類の発酵乳を得た。そして、これらの発酵乳を冷蔵(10 ℃)で保存し、1日目、7日目、10日目に、各分析を実施した。なお、脱酸素処理工程では、殺菌処理した後、原料ミックスの酸素(溶存酸素濃度)が 5 ppm以下となるまで、窒素置換した。ここで、酸度およびpHを常法に従って測定し、1日目、7日目、10日目の各分析結果を表2に示した。また、ブルガリア菌(L. bulgaricus : LB)およびサーモフィラス菌(S. thermophilus : ST)の生菌数を常法に従って測定し、1日目、7日目、10日目の各分析結果を表2に示した。

実施例3(表3)の結果から、OLL1171株と S. thermophilus の菌株Yを組み合わせた混合スターター(本発明の混合スターター)では、市販の混合スターター(従来の混合スターター、従来技術)と比較して、発酵時間を短く設定できることから、本発明の混合スターターは、発酵性の高いスターターであることが理解される。また、酸感受性の高い乳酸産生菌である、OLL1171株を用いた場合には、脱酸素処理工程を含ませることで、さらに発酵時間を短く設定できると共に、さらに発酵性における酸度の上昇を抑制できることが理解される。

実施例3(表4)の結果から、OLL1171株と S. thermophilus の菌株Yを組み合わせた混合スターター(本発明の混合スターター)では、市販の混合スターター(従来の混合スターター、従来技術)と比較して、Lactobacillus bulgaricus が多く生残していることが確認された。このとき、本発明の混合スターターでは、冷蔵保存時において、Lactobacillus bulgaricus が生菌として多く存在しながら、OLL1171株の能力(性質)に基づいて、発酵乳における酸度の上昇が抑制されているのに対して、従来の混合スターターでは、冷蔵保存時において、Lactobacillus bulgaricus が死滅することで、発酵乳における酸度の上昇が抑制されていることが理解される。つまり、酸感受性の高い乳酸産生菌であるOLL1171株は、冷蔵保存時においても生菌として多く存在していることが理解される。

[実施例4] 発酵乳(ヨーグルト)の風味の評価 実施例2と同様の方法で、2種の混合スターター([1] OLL1171株 + S. thermophilus の菌株Y 、「2」 L. bulgaricus の菌株A + S. thermophilus の菌株X(明治ブルガリアヨーグルトLB81用のスターター))を用いて、発酵乳(ヨーグルト)を調製(製造)した。そして、これらの発酵乳について、ヘッドスペース−GCMS(n=2)による香気成分を測定した。

アセトアルデヒドは、ヨーグルトの良好な風味を発生させる基本的な化合物と考えられており、Lactobacillus bulgaricus によって産生される。ここで、S. thermophilus の菌株Y(単菌)を接種した直後の状態におけるアセトアルデヒドの測定値を基準値として1.0と設定した。そして、この場合において、上記の2種類の混合スターターを用いて調製した発酵乳に含まれる、アセトアルデヒドの相対値を得た。

明治ブルガリアヨーグルトLB81は、芳醇な香りのプレーンタイプの発酵乳(ヨーグルト)である。この発酵乳に含まれる、アセトアルデヒドの相対値は、その製造直後(新鮮物)および冷蔵保存の 7日後において、3〜4程度である。一方、酸感受性の高い乳酸産生菌である OLL1171株を、S. thermophilus の菌株Yと組み合わせて混合スターターとして用いて調製した発酵乳における、アセトアルデヒド相対値は、その製造直後および冷蔵保存の 7日後において、3以上であり、ヨーグルトとして良好な風味であることが確認された。

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