Hard multilayer coating, and the hard multilayer coating coated tool

申请号 JP2007514950 申请日 2005-09-01 公开(公告)号 JP4555862B2 公开(公告)日 2010-10-06
申请人 オーエスジー株式会社; 发明人 孝臣 戸井原; 博之 羽生;
摘要
权利要求
  • TiAlN層とTiAlN+CrNの混合層とが所定の部材の表面に交互に積層される下地層と、
    該下地層の上に設けられたTiAlN+CrNの混合層から成る中間層と、
    該中間層の上に設けられて表面を構成しているCrN層と、
    から 成り、且つ、前記下地層の膜厚は2μm〜8μmの範囲内で、前記中間層の膜厚は0.1μm〜5μmの範囲内で、前記CrN層の膜厚は0.1μm〜5μmの範囲内で、総膜厚は10μm以下である
    ことを特徴とする硬質積層被膜。
  • TiAlN層とTiAlN+CrNの混合層とが所定の部材の表面に交互に積層された下地層と、
    該下地層の上に設けられて表面を構成しているCrN層と、
    から 成り、且つ、前記下地層の膜厚は2μm〜8μmの範囲内で、前記CrN層の膜厚は0.1μm〜8μmの範囲内で、総膜厚は10μm以下である
    ことを特徴とする硬質積層被膜。
  • 前記下地層の最下層および最上層は共にTiAlN層である ことを特徴とする請求項 1または2に記載の硬質積層被膜。
  • 切削工具の表面にコーティングされるものであることを特徴とする請求項1〜 の何れか1項に記載の硬質積層被膜。
  • 請求項1〜 の何れか1項に記載の硬質積層被膜で表面が被覆されていることを特徴とする硬質積層被膜被覆工具。
  • 说明书全文

    本発明は硬質積層被膜に係り、特に、優れた耐摩耗性および靱性に加えて高い潤滑性(耐溶着性)を併せ備えている硬質積層被膜に関するものである。

    高速度工具鋼や超硬合金等の工具母材の表面を、TiAlN層とTiAlN+CrNの混合層とを交互に積層した硬質積層被膜で被覆することが提案されている。 特許文献1に記載の回転切削工具はその一例で、高硬度のTiAlN層と、比較的硬度が低いCrNを含む混合層とが交互に積層されているため、高硬度のTiAlN層により優れた耐摩耗性が得られる一方、比較的低硬度のCrNを含む混合層の存在で靱性が高くなり、被膜の欠けや剥離が抑制されて実質的に工具の耐久性が向上する。

    特開2002−275618号公報

    しかしながら、上記TiAlN層は摩擦係数が比較的大きいため、例えば銅や銅合金等の溶着し易い被加工物に対して切削加工を行う場合には、摩擦により溶着が生じ易く、加工精度などの切削性能が損なわれるとともに、早期に摩耗して所望の耐久性能が得られないことがあった。 例えば、ボールエンドミルやドリル等の回転切削工具における回転中心付近やすくい面など、摩擦接触し易い部位において溶着が発生し易い。

    本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、TiAlNを主体として構成される硬質積層被膜の耐溶着性を向上させることにある。

    かかる目的を達成するために、第1発明の硬質積層被膜は、(a) TiAlN層とTiAlN+CrNの混合層とが所定の部材の表面に交互に積層された下地層と、(b) その下地層の上に設けられたTiAlN+CrNの混合層から成る中間層と、(c) その中間層の上に設けられて表面を構成しているCrN層と、から成り、且つ、(d) 前記下地層の膜厚は2μm〜8μmの範囲内で、前記中間層の膜厚は0.1μm〜5μmの範囲内で、前記CrN層の膜厚は0.1μm〜5μmの範囲内で、総膜厚は10μm以下であることを特徴とする。

    発明の硬質積層被膜は、(a) TiAlN層とTiAlN+CrNの混合層とが所定の部材の表面に交互に積層された下地層と、(b) その下地層の上に設けられて表面を構成しているCrN層と、から成り、且つ、(c) 前記下地層の膜厚は2μm〜8μmの範囲内で、前記CrN層の膜厚は0.1μm〜8μmの範囲内で、総膜厚は10μm以下であることを特徴とする。

    発明は、第1発明または第2発明の硬質積層被膜において、前記下地層の最下層および最上層は共にTiAlN層であることを特徴とする。

    発明は、第1発明〜第発明の何れかの硬質積層被膜において、切削工具の表面にコーティングされるものであることを特徴とする。

    発明は、硬質積層被膜被覆工具に関するもので、第1発明〜第発明の何れかの硬質積層被膜で表面が被覆されていることを特徴とする。

    第1発明〜第発明の硬質積層被膜においては、TiAlN層とTiAlN+CrNの混合層とが交互に積層された下地層により、優れた耐摩耗性および靱性が得られるとともに、最上部に設けられて表面を構成するCrN層は摩擦係数が小さいため、潤滑性すなわち耐溶着性が向上する。 また、CrN層の酸化開始温度は約700℃と高いため、高温環境下でも優れた被膜特性が安定して維持される。

    したがって、このような硬質積層被膜が例えばボールエンドミル等の回転切削工具に適用されると、硬さが低くて溶着し易い鉄系或いは銅合金等の非鉄系の被加工物から50HRC程度の硬さを有する調質鋼等の高硬度材まで、広範囲に亘って優れた切削性能および耐久性能が得られるようになる。 具体的には、CrN層の存在によりすくい面摩耗が抑制され、すくいが切削後期で負側へ変化することが抑制されるため、切れ味が長期間に亘って良好に維持され、耐久性の向上と被削面性状の安定化を実現できる。 また、ボールエンドミル等の回転切削工具の先端の回転中心付近では切れ味が悪くて被加工物が溶着し易いが、CrN層の存在により溶着が抑制されるため、切削性能や耐久性が良好に維持される。 また、高温環境下でも優れた被膜特性が安定して得られるため、摩擦熱等で高温となる高能率加工などの厳しい切削条件下での加工が可能となる。

    また、第1発明では、下地層とCrN層との間に、そのCrNを含むTiAlN+CrNの混合層から成る中間層が設けられているため、CrN層が高い密着性で積層され、そのCrN層の欠けや剥離が一層好適に抑制される。

    発明では、下地層の最下層および最上層が共にTiAlN層であるため、最下層のTiAlN層により所定の部材(工具母材など)に対して優れた密着性が得られるとともに、最上層のTiAlN層により優れた耐摩耗性が得られる。 最上層のTiAlN層の上には、CrN層が直接または中間層を介して設けられるため、高硬度のTiAlN層が直接被加工物等に接触することはないが、TiAlN層によってCrN層の変形が抑制されて、そのCrN層の耐摩耗性が向上するのである。

    硬質積層被膜被覆工具に関する第発明においても、実質的に第1発明〜第発明と同様の効果が得られる。

    本発明の一実施例であるエンドミルを示す図で、(a) は軸心と直角方向から見た正面図、(b) は拡大底面図、(c) は硬質積層被膜が設けられた刃部の表層部分の断面図である。

    図1の(c) に示す硬質積層被膜の別の例を示す断面図である。

    図1、図2の硬質積層被膜を好適に形成できるアークイオンプレーティング装置の一例を説明する概略構成図である。

    ボールオンディスク法によりCrNの摩擦係数を調べた結果をTiAlNと比較して示す図である。

    被膜の構成が異なる複数の本発明品および比較品を用いて、C1100(銅)に対して所定の加工条件で切削加工を行い、逃げ面摩耗幅を調べた結果を説明する図である。

    被膜の構成が異なる複数の本発明品および比較品を用いて、S50C(機械構造用炭素鋼)に対して所定の加工条件で切削加工を行い、逃げ面摩耗幅を調べた結果を説明する図である。

    符号の説明

    10:ボールエンドミル(硬質積層被膜被覆工具) 12:工具母材(部材) 20、28:硬質積層被膜 22:下地層 22a:TiAlN層 22b:混合層 24:中間層 26:CrN層

    本発明は、エンドミルやタップ、ドリルなどの切れ刃を有する回転切削工具の表面にコーティングされる硬質積層被膜に好適に適用されるが、バイト等の非回転式の切削工具や転造工具など、種々の加工工具、或いは電子部品等の表面保護膜など加工工具以外の部材の表面にコーティングされる硬質積層被膜にも同様に適用できる。 工具母材など硬質積層被膜が設けられる部材としては、超硬合金が好適に用いられるが、高速度工具鋼などの他の金属材料であっても良い。

    本発明の硬質積層被膜の形成方法としては、アークイオンプレーティング法が好適に用いられるが、スパッタリング法等の他の物理蒸着法(PVD法)や、プラズマCVD法、熱CVD法等の化学蒸着法(CVD法)を用いることもできる。

    本発明の硬質積層被膜の全体の総膜厚は、10μmを越えると剥離し易くなるとともに、切れ刃を有する場合には刃先が丸くなって切れ味が低下するため、10μm以下とされる。 下地層の膜厚は、2μm未満であると十分な耐摩耗性や耐熱性、靱性等の被膜性能や被膜強度が得られないため、2μm以上とされ、被膜全体の総膜厚を10μm以下とする上で、下地層は8μm以下とされる。

    下地層のTiAlN層の膜厚は例えば160nm〜2000nmの範囲内が適当で、TiAlN+CrNの混合層の膜厚は10nm〜1000nmの範囲内が適当であり、TiAlN層による耐摩耗性を維持しつつ、TiAlN+CrNの混合層による欠けや剥離防止効果を得ることができる。 複数のTiAlN層、TiAlN+CrNの混合層の各膜厚はそれぞれ一定であっても良いが、1層ずつ連続的に変化させることもできるなど、種々の態様が可能である。 TiAlN層のTiとAlの混晶比は、Ti:Al=2:8〜6:4程度の範囲内が望ましい。 下地層や中間層を構成しているTiAlN+CrNの混合層のTiAlNについても同様であるが、必ずしもTiAlN層と同じ混晶比である必要はない。

    上記下地層は、TiAlN層とTiAlN+CrNの混合層とを少なくとも3層以上積層し、最下層および最上層が何れもTiAlN層となるように奇数層設けることが望ましい。 但し、TiAlN+CrNの混合層の膜厚が数十nmと極めて薄い場合など、最上層をTiAlN+CrNの混合層とすることも可能で、その場合は、同じくTiAlN+CrNの混合層から成る中間層を新たに積層して設けることもできるが、その最上層の混合層を中間層として使用することもできる。 第発明では、下地層の最上層がTiAlN層である場合に、そのTiAlN層の上に直接CrN層を積層することを想定したものであるが、下地層の最上層がTiAlN+CrNの混合層の場合に、新たに中間層を設けることなくCrN層を直接設ける場合も含む。

    中間層の膜厚は、0.1μm未満であると密着性の効果が十分に得られないため0.1μm以上とされる。 最上部のCrN層の膜厚は、0.1μm未満であると潤滑性の効果が十分に得られないため、0.1μm以上とされ、 0.5μm以上が望ましい。 被膜全体の総膜厚を10μm以下とする上で、中間層を有する場合は、その中間層およびCrN層の膜厚はそれぞれ5μm以下とされ、中間層を備えていない場合はCrN層の膜厚 8μm以下とされる。 なお、硬質積層被膜全体の総膜厚は、所定の被膜強度や被膜性能を得る上で2μm以上の膜厚の下地層を含めて中間層が無い場合は2.1μm以上、中間層が有る場合は2.2μm以上が適当であり、2.5μm以上とすることが望ましい。

    下地層の混合層および中間層は、何れもTiAlN+CrNの混合層にて構成されており、全く同じ被膜組成で形成することもできるが、TiとAlとの混晶比や、TiAlNとCrNとの混合割合、被膜形成時のアーク電流、バイアス電圧等の成膜条件などを変更することにより、両者の組成や性質を積極的に変えることもできる。

    また、本発明ではCrN層が被膜の最上部に設けられているが、第1発明の中間層はCrNを含んでいるため、CrN層を設けることなくその中間層を最上部の被膜としても、ある程度の潤滑性の向上効果が期待できる。

    TiAlN層やTiAlN+CrNの混合層(中間層を含む)、CrN層は、硬質積層被膜として要求される耐摩耗性や靱性、密着性、耐熱性、耐溶着性等に関して所定の効果が得られる範囲で、言い換えればそれ等の性能を大きく損なわない範囲で、不可避的不純物の他に炭素等の他の元素を含んでいても良い。 例えば、CrNは、クロムの純粋な窒化物の他に、C(炭素)を含む炭窒化物CrCNを採用することもできるし、TiAlNは、TiAlNの純粋な窒化物の他に、C(炭素)を含む炭窒化物TiAlCNを採用することもできる。

    以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
    図1は、本発明が適用された硬質積層被膜被覆回転切削工具の一例であるボールエンドミル10を説明する図で、(a) は軸心と直角方向から見た正面図、(b) は先端側(図の右方向)から見た拡大底面図であり、超硬合金にて構成されている工具母材12にはシャンクおよび刃部14が一体に設けられている。 刃部14には、切れ刃として一対の外周刃16およびボール刃18が軸心に対して対称的に設けられており、軸心まわりに回転駆動されることによりそれ等の外周刃16およびボール刃18によって切削加工が行われるとともに、その刃部14の表面には硬質積層被膜20がコーティングされている。 図1(a) 、(b) の斜線部は硬質積層被膜20を表しており、図1の(c) は、硬質積層被膜20がコーティングされた刃部14の表層部分の断面図である。 ボールエンドミル10は硬質積層被膜被覆工具に相当し、工具母材12は硬質積層被膜20が設けられる所定の部材に相当する。

    図1(c) から明らかなように、硬質積層被膜20は下地層22、中間層24、および表面を構成する最上部のCrN層26にて構成されており、硬質積層被膜20の全体の総膜厚は2.2μm〜10μmの範囲内とされている。 下地層22は、TiAlN層22aとTiAlN+CrNの混合層22bとを交互に3層以上積層したもので、この下地層22の膜厚は2μm〜8μmの範囲内である。 TiAlN層22aの平均膜厚は160nm〜2000nmの範囲内で、混合層22bの平均膜厚は10nm〜1000nmの範囲内であり、それぞれ一定の膜厚で繰り返し積層されている。 混合層22bは、TiAlNとCrNとが所定の割合で混ざり合っているもので、TiAlN層22aおよび混合層22bのTiAlNのTiとAlとの混晶比は、Ti:Al=2:8〜6:4の範囲内で、本実施例ではTi:Al=4:6である。 また、硬質積層被膜20の最下層および最上層は何れもTiAlN層22aによって構成されており、TiAlN層22aおよび混合層22bの合計の層数は3以上の奇数である。

    上記TiAlNの硬さ(Hv)は2300〜3000程度であるのに対し、CrNの硬さ(Hv)は1800〜2300程度であり、このようなCrNとTiAlNとの混合層22bは、TiAlNのみから成るTiAlN層22aに比較して硬度が低下する。 したがって、高硬度のTiAlN層22aと比較的硬度が低い混合層22bとを交互に積層した下地層22は、高硬度のTiAlN層22aにより優れた耐摩耗性が得られるとともに、低硬度の混合層22bの存在により靱性が高くなり、チッピング状の欠けや剥離が生じ難くなる。 TiAlN層22aの平均膜厚は160nm〜2000nmの範囲内で、混合層22bの平均膜厚は10nm〜1000nmの範囲内で、下地層22の全体の膜厚は2μm〜8μmの範囲内であるため、TiAlN層22aによる耐摩耗性を維持しつつ、混合層22bによる欠けや剥離防止効果が十分に得られる。

    前記中間層24は、TiAlNとCrNとが混ざり合っている混合層で、本実施例では前記混合層22bと同じ組成である。 この中間層24は、下地層22の上、具体的には下地層22の最上層のTiAlN層22aの上に連続して設けられているとともに、その膜厚は0.1μm〜5μmの範囲内である。 このようにCrN層26に先立って下地層24の上、すなわち最上層のTiAlN層22aの上にTiAlN+CrNの中間層24が設けられることにより、下地層22に対するCrN層26の密着性が向上する。 中間層24におけるTiAlNのTiとAlとの混晶比は、Ti:Al=2:8〜6:4の範囲内で、本実施例ではTi:Al=4:6である。

    また、前記CrN層26は、中間層24の上に連続して設けられているとともに、その膜厚は0.1μm〜5μmの範囲内である。 このCrN層26を構成しているCrNは、TiAlNに比較して摩擦係数が小さく、表面を構成するように最上部にCrN層26が設けられることにより、被加工物との間の潤滑性すなわち耐溶着性が向上する。

    図4は、JISのR1613に規定されている試験方法と同様なボールオンディスク法によりCrNおよびTiAlNの摩擦係数を調べた結果を説明する図で、(a) は試験条件、(b) は試験結果である。 (b) の摩擦係数曲線は、初期の摩擦係数の変化を表しており、TiAlNは約0.5〜0.7の範囲内に収束し、CrNは約0.3前後に収束する。 また、図4の(c) は、高温下(400℃)で調べた摩擦係数で、TiAlNは約0.7であるのに対し、CrNは約0.25であり、(b) の室温(25℃)の場合と略同様の結果であった。 図4の(c) は、温度が400℃である点を除いて、他の試験条件は(a) と同じである。

    なお、上記硬質積層被膜20は中間層24を備えているが、図2の硬質積層被膜28のように、中間層24を省略して下地層22の上に直接CrN層26を積層することもできる。 この場合、下地層22は、前記硬質積層被膜20と同様に構成されるが、CrN層26は、中間層24が無い分だけ厚くすることが可能で、その膜厚は0.1μm〜8μmの範囲内で定められる。

    また、前記下地層22のTiAlN層22aや混合層22b、中間層24におけるTiAlNは、何れも炭素を含まないTiAlNの純粋な窒化物であるが、硬度や密着性等を損なわない範囲で炭素を導入して炭窒化物TiAlCNとすることもできる。 下地層22の混合層22b、中間層24、CrN層26におけるCrNについても、クロムの純粋な窒化物であるが、潤滑性や耐熱性等を損なわない範囲で炭素を導入して炭窒化物CrCNとすることができる。

    一方、図3は、このような硬質積層被膜20または28を形成する際に好適に用いられるアークイオンプレーティング装置30を説明する概略構成図(模式図)で、多数のワークすなわち硬質積層被膜20、28を被覆する前の切れ刃16、18等が形成された工具母材12を保持しているワーク保持具32、そのワーク保持具32を略垂直な回転中心まわりに回転駆動する回転装置34、工具母材12に負のバイアス電圧を印加するバイアス電源36、工具母材12などを内部に収容している処理容器としてのチャンバ38、チャンバ38内に所定の反応ガスを供給する反応ガス供給装置40、チャンバ38内の気体を真空ポンプなどで排出して減圧する排気装置42、第1アーク電源44、第2アーク電源46等を備えている。 ワーク保持具32は、上記回転中心を中心とする円筒形状或いは多角柱形状を成しており、刃部14が略平に外側へ突き出す姿勢で多数の工具母材12を放射状に保持している。 また、反応ガス供給装置40は窒素ガス(N 2 )のタンクを備えており、窒素ガスをチャンバ38内に供給することによりTiAlおよびCrの窒化物を形成する。 なお、それ等の炭窒化物を形成する場合には、炭化水素ガス(CH 4 、C 22など)のタンクを設け、窒素ガスと共にその炭化水素ガスを供給するようにすれば良い。

    第1アーク電源44は、前記TiAlN層22aおよび混合層22bのTiAlNを構成しているTiAl合金から成る第1蒸発源(ターゲット)48をカソードとして、アノード50との間に所定のアーク電流を通電してアーク放電させることにより、第1蒸発源48からTiAlを蒸発させるもので、蒸発したTiAlは正(+)の金属イオンになって負(−)のバイアス電圧が印加されている工具母材12に付着する。 また、第2アーク電源46は、前記混合層22b、中間層24、およびCrN層26のCrNを構成しているCrから成る第2蒸発源(ターゲット)52をカソードとして、アノード54との間に所定のアーク電流を通電してアーク放電させることにより、第2蒸発源52からCrを蒸発させるもので、蒸発したCrは正(+)の金属イオンになって負(−)のバイアス電圧が印加されている工具母材12に付着する。 上記第1蒸発源48および第2蒸発源52は、ワーク保持具32を挟んで略水平方向の対称位置に配置されている。

    そして、このようなアークイオンプレーティング装置30を用いて工具母材12の刃部14の表面に硬質積層被膜20または28を形成する際には、先ず、排気装置42で排気しながらチャンバ38内が所定の圧(例えば1.33×5×10 -1 Pa〜1.33×40×10 -1 Pa程度)に保持されるように反応ガス供給装置40から所定の反応ガスを供給しつつ、バイアス電源36により工具母材12に所定のバイアス電圧(例えば−50V〜−150V程度)を印加する。 そして、回転装置34によりワーク保持具32を所定の回転速度(例えば3min -1程度)で回転させながら、第1アーク電源44および第2アーク電源46をそれぞれON(通電)、OFF(非通電)することにより硬質積層被膜20または28を形成する。

    すなわち、第2アーク電源46をOFF(非通電)した状態で第1アーク電源44によりアーク電流をON(通電)してアーク放電させると、第1蒸発源48からTiAlの金属イオンが放出され、窒素ガスと反応することによりTiAlNが形成されて工具母材12の表面に付着する。 これにより、前記TiAlN層22aを形成できる。 通電時間およびアーク電流の電流値は、形成すべきTiAlN層22aの膜厚に応じて定められる。

    また、第1アーク電源44をOFF(非通電)した状態で第2アーク電源46によりアーク電流をON(通電)してアーク放電させると、第2蒸発源52からCrの金属イオンが放出され、窒素ガスと反応することによりCrNが形成されて工具母材12の表面に付着する。 これにより、前記CrN層26を形成できる。 通電時間およびアーク電流の電流値は、形成すべきCrN層26の膜厚に応じて定められる。

    また、第1アーク電源44によりアーク電流をON(通電)してアーク放電させるとともに、第2アーク電源46によりアーク電流をON(通電)してアーク放電させると、第1蒸発源48からTiAlの金属イオンが放出されるとともに、第2蒸発源52からCrの金属イオンが放出され、それぞれ窒素ガスと反応することによりTiAlN、CrNが形成されて工具母材12の表面に付着する。 第1蒸発源48および第2蒸発源52は、ワーク保持具32を挟んで反対側に配置されているため、ワーク保持具32が回転駆動されるのに伴ってTiAlNおよびCrNが交互に工具母材12の表面に付着させられる。 これにより、TiAlNとCrNとが混ざり合っている前記混合層22bおよび中間層24を形成することができる。 各アーク電源44、46の通電時間は形成すべき混合層22bや中間層24の膜厚に応じて定められ、アーク電源44、46のアーク電流の電流値は、形成すべき混合層22bや中間層24の膜厚およびTiAlNとCrNとの混合割合等に応じて定められる。

    このように、第1アーク電源44および第2アーク電源46の通電状態(ON、OFF)を切り換えることにより、TiAlN層22aとTiAlN+CrNの混合層22bとを交互に積層した下地層22、TiAlN+CrNの混合層から成る中間層24、およびCrN層26を連続的に形成することが可能で、前記硬質積層被膜20や28を工具母材12の表面に設けることができる。 第1アーク電源44および第2アーク電源46の通電状態(ON、OFF)の切り換えを含む硬質積層被膜20、28の形成作業は、コンピュータを含む制御装置によって自動的に行われるようにすることができる。

    ここで、本実施例の硬質積層被膜20、28は、TiAlN層22aとTiAlN+CrNの混合層22bとが交互に積層された下地層22により、優れた耐摩耗性および靱性が得られるとともに、最上部に設けられて表面を構成するCrN層26は摩擦係数が小さいため、潤滑性すなわち耐溶着性が向上する。 また、CrN層26の酸化開始温度は約700℃と高いため、高温環境下でも優れた被膜特性が安定して維持される。

    したがって、このような硬質積層被膜20または28で被覆されたボールエンドミル10によれば、硬さが低くて溶着し易い鉄系或いは銅合金等の非鉄系の被加工物から50HRC程度の硬さを有する調質鋼等の高硬度材まで、広範囲に亘って優れた切削性能および耐久性能が得られるようになる。 具体的には、CrN層26の存在によりすくい面摩耗が抑制され、すくい角が切削後期で負側へ変化することが抑制されるため、切れ味が長期間に亘って良好に維持され、耐久性の向上と被削面性状の安定化を実現できる。 また、ボールエンドミル10の先端の回転中心付近ではボール刃18の切れ味が悪くて被加工物が溶着し易いが、CrN層26の存在により溶着が抑制されるため、切削性能や耐久性が良好に維持される。 一方、高温環境下でも優れた被膜特性が安定して得られるため、摩擦熱等で高温となる高能率加工などの厳しい切削条件下での加工が可能となる。

    また、本実施例では下地層22の最下層および最上層が共にTiAlN層22aであるため、最下層のTiAlN層22aにより工具母材12に対して優れた密着性が得られるとともに、最上層のTiAlN層22aにより優れた耐摩耗性が得られる。 最上層のTiAlN層22aの上には、CrN層26が直接または中間層24を介して設けられるため、高硬度のTiAlN層22aが直接被加工物等に接触することはないが、TiAlN層22aによってCrN層26の変形が抑制されて、そのCrN層26の耐摩耗性が向上するのである。

    また、図1の硬質積層被膜20の場合には、下地層22とCrN層26との間に、CrNを含むTiAlN+CrNの混合層から成る中間層24が設けられているため、最上層にTiAlN層22aが位置している下地層22に対してCrN層26が高い密着性で積層され、そのCrN層26の欠けや剥離が一層好適に抑制される。

    また、本実施例の硬質積層被膜20、28は、全体の総膜厚が10μm以下であるため、工具母材12に対する剥離が抑制されて優れた密着性が得られるとともに、外周刃16やボール刃18の刃先が丸くなって切れ味が低下することが防止される一方、2.2μm以上であるため所定の被膜強度や被膜性能が得られる。 すなわち、下地層22の膜厚は2μm以上であるため、耐摩耗性や耐熱性、靱性等の下地層22に要求される被膜性能や被膜強度が十分に得られるとともに、中間層24、CrN層26の膜厚はそれぞれ0.1μm以上であるため、密着性や潤滑性能等の被膜性能が十分に得られる。

    因みに、図5は、前記ボール刃18の半径Rが1.5mmのボールエンドミル10に対して(b) に示す種々の被膜をコーティングしたものを用意し、(a) に示す加工条件でC1100(JIS:銅)に対して400m切削加工を行った後に、VB摩耗幅(逃げ面摩耗幅)を調べた結果を示す図で、本発明品のVB摩耗幅は0.035μm〜0.049μmであり、比較品に比べて耐摩耗性が向上し、銅のような溶着し易い被加工物に対しても優れた耐久性が得られることが分かる。 例えば多層構造の下地層22のみから成る比較品(従来品)のVB摩耗幅は0.093μmであるため、本発明品は、それに比べて耐久性が約2倍以上になる。 なお、TiAlN層22aとTiAlN+CrNの混合層22bとを交互に積層した多層構造の下地層22は、本発明品、比較品共に最上層および最下層が何れもTiAlN層22aとされている。

    図6は、前記ボール刃18の半径Rが3mmのボールエンドミル10に対して(b) に示す種々の被膜をコーティングしたものを用意し、(a) に示す加工条件でS50C(JIS:機械構造用炭素鋼)に対して56m切削加工を行った後に、VB摩耗幅(逃げ面摩耗幅)を調べた結果を示す図で、本発明品のVB摩耗幅は0.063μm〜0.078μmであり、比較品に比べて耐摩耗性が向上し、炭素鋼のような高硬度の被加工物に対しても優れた耐久性が得られることが分かる。 例えば多層構造の下地層22のみから成る比較品(従来品)のVB摩耗幅は0.091μmであるため、本発明品は、それよりも更に耐久性が10%以上向上する。 なお、TiAlN層22aとTiAlN+CrNの混合層22bとを交互に積層した多層構造の下地層22は、本発明品、比較品共に最上層および最下層が何れもTiAlN層22aとされている。

    以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。

    本発明の硬質積層被膜は、耐摩耗性および耐溶着性を有するため、回転切削工具等の工具母材の表面に設けられることにより、硬さが低くて溶着し易い銅合金等から調質鋼等の高硬度材まで広範囲に亘って優れた切削性能および耐久性能が得られるようになる。 したがって、ボールエンドミル等の切削工具の表面にコーティングされる硬質被膜として好適に用いられるが、電子部品の保護膜など加工工具以外の部材にコーティングされる被膜にも利用できる。

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