Method of manufacturing a liquid jet head

申请号 JP2003207933 申请日 2003-08-19 公开(公告)号 JP3654296B2 公开(公告)日 2005-06-02
申请人 セイコーエプソン株式会社; 发明人 良治 上杉; 昭治 紅林; 和重 羽毛田; 富士男 赤羽; 永光 高島;
摘要
权利要求
  • ノズルと連通して液滴が噴射される圧力を発生する圧力発生室となる凹部が少なくとも形成された第1領域を有する液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板の製法であって、
    金属板と鍛造金型を用意するステップと、
    上記第1領域と上記鍛造金型との相対位置を定める基準部を上記金属板に設けるステップと、
    上記第1領域と上記基準部の間である上記金属板の第2領域に少なくとも一つの変形吸収部を設けるステップと、
    上記鍛造金型により上記第1領域に対して少なくとも一つの塑性加工を行なって上記凹部を形成しつつ、上記塑性加工により生じた上記金属板の塑性変形を上記変形吸収部に吸収させるステップとを具備して成る液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板の製法。
  • 請求項1に記載の製法であって、
    上記変形吸収部を設けるステップは、上記金属板に貫通孔を形成するステップを含む液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板の製法。
  • 請求項1に記載の製法であって、
    上記変形吸収部を設けるステップは、上記塑性変形の条件に基づき上記変形吸収部の形状を決定するステップを含む液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板の製法。
  • 請求項2に記載の製法であって、
    上記貫通穴は上記塑性変形が伝達する方向と略直交する向きに延設されるように形成される液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板の製法。
  • 請求項1に記載の製法であって、
    上記変形吸収部を設けるステップは、上記塑性加工を行なうステップの前に行なわれる液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板の製法。
  • 請求項1に記載の製法であって、
    上記基準部を設けるステップと上記変形吸収部を設けるステップとは同時に行なわれる液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板の製法。
  • 請求項1に記載の製法であって、
    上記金属板は、最終的に複数の圧力発生室形成板に切断される連続した帯板として供給される液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板の製法。
  • 請求項1に記載の製法であって、
    上記金属板は、最終的に圧力発生室形成板となる予め切断された板として供給される液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板の製法。
  • 請求項1に記載の製法であって、
    上記基準部を設けるステップは、上記鍛造金型に設けられた基準ピンが挿入される挿通穴を形成するステップを含む液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板の製法。
  • 請求項1に記載の製法であって、
    上記凹部は一定の間隔で配列される製法。
  • 請求項10に記載の製法であって、
    上記間隔は0.3mm以下である液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板の製法。
  • ノズルと連通して液滴が噴射される圧力を発生する圧力発生室となる凹部が少なくとも形成された第1領域を有する液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板となる母金属板であって、
    少なくとも上記凹部を形成するための鍛造金型による塑性加工に供される第1の領域と、
    上記第1領域と上記鍛造金型の相対位置を決定する基準部と、
    上記第1領域と上記基準部の間である第2の領域に設けられ、上記塑性加工により生ずる上記母金属板の塑性変形を吸収可能に構成された少なくとも一つの変形吸収部とを具備して成る液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板となる母金属板。
  • 請求項12に記載の母金属板であって、
    上記変形吸収部は貫通穴である液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板となる母金属板。
  • 請求項13に記載の母金属板であって、
    上記貫通穴は、上記第2領域を横切るように延設される液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板となる母金属板。
  • 請求項14に記載の母金属板であって、
    上記延設された貫通穴の端部に弧状部が形成される液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板となる母金属板。
  • 請求項13に記載の母金属板であって、
    上記第1領域を上記圧力発生室形成基板として上記母金属板から分離するために切断される接続部を画成する複数の貫通穴が上記母金属板に形成され、
    上記貫通穴の幅は、上記接続部の幅よりも広い液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板となる母金属板。
  • 請求項12に記載の母金属板であって、
    上記母金属板は、ニッケルを含む液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板となる母金属板。
  • 請求項12に記載の母金属板であって、
    上記基準部は、上記鍛造金型に設けられた基準ピンが挿入される貫通穴である液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板となる母金属板。
  • 说明书全文

    【0001】
    【発明の属する技術分野】
    本発明は、鍛造加工が施される液体噴射ヘッドの製造方法に関するものである。
    【0002】
    【従来の技術】
    鍛造加工は種々な製品分野で活用されているが、例えば、液体噴射ヘッドの圧発生室を金属素材に鍛造で成形することが考えられる。 上記液体噴射ヘッドは、加圧された液体をノズル開口から液滴として吐出させるものであり、種々な液体を対象にしたものが知られている。 そのなかでも代表的なものとして、インクジェット式記録ヘッドをあげることができる。 そこで、従来の技術を上記インクジェット式記録ヘッドを例にとって説明する。
    【0003】
    インクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッドと称する。)は、共通インク室から圧力発生室を経てノズル開口に至る一連の流路を、ノズル開口に対応させて複数備えている。 そして、小型化の要請から各圧力発生室は、記録密度に対応した細かいピッチで形成する必要がある。 このため、隣り合う圧力発生室同士を区画する隔壁部の肉厚は極めて薄くなっている。 また、圧力発生室と共通インク室とを連通するインク供給口は、圧力発生室内のインク圧力をインク滴の吐出に効率よく使用するため、その流路幅が圧力発生室よりもさらに絞られている。 このような微細形状の圧力発生室及びインク供給口を寸法精度良く作製する観点から、従来の記録ヘッドでは、シリコン基板が好適に用いられている。 すなわち、シリコンの異方性エッチングにより結晶面を露出させ、この結晶面で圧力発生室やインク供給口を区画形成している。
    【0004】
    また、ノズル開口が形成されるノズルプレートは、加工性等の要請から金属板により作製されている。 そして、圧力発生室の容積を変化させるためのダイヤフラム部は、弾性板に形成されている。 この弾性板は、金属製の支持板上に樹脂フィルムを貼り合わせた二重構造であり、圧力発生室に対応する部分の支持板を除去することで作製されている。
    【0005】
    【特許文献1】
    特開平9−99557号公報【0006】
    【発明が解決しようとする課題】
    ところで、上述のシリコンと金属との線膨張率の差が大きいため、シリコン基板、ノズルプレート及び弾性板の各部材を貼り合わせるにあたり、比較的低温の下で長時間をかけて接着する必要があった。 このため、生産性の向上が図り難く、製造コストが嵩む一因となっていた。 このため、塑性加工によって圧力発生室を金属製基板に形成する試みがなされているが、圧力発生室が極めて微細であること、及び、インク供給口の流路幅を圧力発生室よりも狭くする必要があること等から高精度の加工が困難であり、ヘッドの組立精度の向上も図り難いという問題点があった。
    【0007】
    このような事情のなかにあって、鍛造加工特有の問題が解決されなければならない。 それは、素材板と鍛造金型との相対位置を正確に設定しておくことであり、この相対位置がずれたりしていると、加工形状部すなわち圧力発生室となる溝状窪部等が素材板上において正しい位置とならないために、圧力発生室形成板を流路ユニットとして組立てたときの組立て精度等が低下し、極端な場合にはインク滴の吐出特性に支障を来す恐れがある。
    【0008】
    上記の素材板と鍛造金型との正しい相対位置には、上記のような重要な役割があるので、鍛造金型から起立させた基準ピンを受け入れる基準穴が素材板にあけてあり、基準穴に基準ピンが入りこむことによって、素材板と鍛造金型との相対位置が決定づけられる。
    【0009】
    しかしながら、加工形状部に塑性加工がなされるときには、素材板に塑性流動が発生し、このとき発生する素材の変位によって上記基準穴が変形したりその位置が狂ったりする恐れがある。 もし、このような変形や位置の狂いが発生すると、圧力発生室の成形位置がずれたりして流路ユニットとしての組立て品質や吐出性能に悪影響が発生することとなる。 あるいは、鍛造金型が順送り式に配列されている場合には、素材板がつぎの加工ステージの鍛造金型に移行されたときに、そこの金型に設けられた基準ピンと基準穴とが正常に合致しないという問題が発生する。
    【0010】
    本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高精度の圧力発生室形成板を鍛造で成形するに当たり、素材板の基準穴の変形を防止し、引いては素材板と鍛造金型との相対位置を狂わせないようにして、組立て精度や噴射特性の安定した液体噴射ヘッドを製造することをその主たる目的としている。
    【0011】
    【課題を解決するための手段】
    上記目的を達成するため、本発明の液体噴射ヘッドの製造方法は、ノズルと連通して液滴が噴射される圧力を発生する圧力発生室となる凹部が少なくとも形成された第1領域を有する液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板の製法であって、金属板と鍛造金型を用意するステップと、上記第1領域と上記鍛造金型との相対位置を定める基準部を上記金属板に設けるステップと、上記第1領域と上記基準部の間である上記金属板の第2領域に少なくとも一つの変形吸収部を設けるステップと、上記鍛造金型により上記第1領域に対して少なくとも一つの塑性加工を行なって上記凹部を形成しつつ、上記塑性加工により生じた上記金属板の塑性変形を上記変形吸収部に吸収させるステップとを具備して成ることを要旨とする。
    【0012】
    すなわち、上記圧力発生室形成板が成形される素材板にこの素材板と鍛造加工機の金型との相対位置を決定する基準部(例えば穴、凸部、切り欠き等)を設け、上記圧力発生室形成板の加工形状部と上記基準部とのあいだの上記素材板に変形吸収部を設け、上記加工形状部の成形の際に発生する素材の塑性流動を上記変形吸収部で吸収するものである。
    【0013】
    このため、上記加工形状部においては、溝状窪部の形状をした圧力発生室,ダミー圧力発生室,連通口,コンプライアンス部の凹部等の各種構造部分が加圧成形されるので、その際に素材板には加工形状部から遠ざかる方向に素材の塑性流動が発生する。 このような素材の塑性流動あるいはそれに伴う応力や変位は、上記基準部に伝達され変形吸収部が縮むような変形状態になって、素材の塑性流動が吸収される。 したがって、このような素材の塑性流動は基準部におよぶことがなく、基準部が変形したりその位置がずれたりするようなことが防止でき、前述のような圧力発生室の成形品質や流路ユニットの組立て品質等の問題が解決される。
    【0014】
    本発明の液体噴射ヘッドの製造方法において、上記変形吸収部を設けるステップが上記金属板に貫通穴を形成するステップを含んでいる場合には、溝状窪部をはじめとして、ダミー圧力発生室,連通口,コンプライアンス部の凹部等の各種構造部分の加工成形により、素材の塑性流動量が多く発生するのであるが、上記貫通穴の吸収機能によって、基準穴への影響が遮断される。
    【0015】
    本発明の液体噴射ヘッドの製造方法において、上記変形吸収部を設けるステップが、上記塑性変形の条件に基づき上記変形吸収部の形状を決定するステップを含む場合には、素材の塑性流動状態すなわち流動の方向や流動量に応じて貫通穴の形状を、例えば細長くしたり円弧型にしたりして、最も吸収効率のよい形状に決定するため、基準穴への影響を消滅させることができる。
    【0016】
    本発明の液体噴射ヘッドの製造方法において、上記貫通穴が、上記塑性変形が伝達する方向と略直交する向きに延設されるように形成される場合には、細長い空隙状の貫通穴はその長手方向に略直交する方向からの素材の塑性流動に対しては、ほとんど反力を呈することなく順応性のよい変形吸収を果たすことになるので、基準部への影響を遮断するのに好適である。
    また、上記空隙が上記加工形状部と上記基準部とのあいだに複数列設されている場合には、上記のようなほとんど反力を呈することのない順応性のよい変形吸収が、列設された複数の空隙で行われるので、より確実に基準部への影響を遮断できる。
    さらに、複数の上記空隙が連続的に組合されている場合には、複数の空隙を組合わせて、しかも空隙という形状面の特質を生かして、例えばT字型,L字型,ハの字型等の形態を、加工形状部の形状に最適な状態で適応させることが容易に行える。
    【0017】
    本発明の液体噴射ヘッドの製造方法において、上記変形吸収部を設けるステップが、上記塑性加工を行なうステップの前に行なわれる場合には、加工形状部から素材の塑性流動が発生するときには、すでに変形吸収部が準備されているので、素材の塑性流動が確実に変形吸収部で遮断され、基準部の変形やその位置を狂わせるような要因が確実に除去される。
    【0018】
    本発明の液体噴射ヘッドの製造方法において、上記基準部を設けるステップと上記変形吸収部を設けるステップとは同時に行なわれる場合には、加工形状部に加工が施される前に、変形吸収部と基準部が同時にあけられるので、加工形状部からの素材の塑性流動が確実に遮断されるとともに、変形吸収部と基準部をあける時間が短縮される。
    【0019】
    本発明の液体噴射ヘッドの製造方法において、上記金属板は、最終的に複数の圧力発生室形成板に切断される連続した帯板として供給される場合には、最終的に複数の圧力室形成板に切断されるまでの加工ステージの順送り方式において、各加工ステージごとに加工形状部からの素材の塑性流動が貫通穴によって抑制されるので、順次進行する後工程(後加工ステージ)においても基準部の変形が防止されるとともに正しい位置を維持でき、高い加工精度を確保できる。
    【0020】
    本発明の液体噴射ヘッドの製造方法において、上記金属板が、最終的に圧力発生室形成板となる予め切断された板として供給される場合には、1回の塑性加工のたびに生じる塑性流動を変形吸収部で吸収し、基準部の位置精度を維持できるため、複数回の塑性加工によって完了する加工形状部の形状精度や寸法精度を高精度に仕上げることができる。
    【0021】
    本発明の液体噴射ヘッドの製造方法において、上記基準部を設けるステップは、上記鍛造金型に設けられた基準ピンが挿入される挿通穴を形成するステップを含む場合には、上記基準ピンと上記挿通穴の合致が確実に行われるため高い位置決め精度が得られる。
    【0022】
    本発明の液体噴射ヘッドの製造方法において、上記空隙の幅が、上記加工形状部と上記素材板とを接続する接続部の幅よりも大きく設定されている場合には、通常狭い幅とされている接続部へ集中しようとする応力が、接続部の幅よりも大きな幅とされた空隙に集中するので、細い接続部の折損等が予防される。 また、塑性流動を十分吸収できて高い加工精度が得られる。
    【0023】
    本発明の液体噴射ヘッドの製造方法において、上記素材板は所定の大きさに設定され、この素材板に所定数量の圧力発生室形成板を成形する場合には、各圧力発生室形成板が成形される素材板ごとに基準穴の変形等が防止され、各素材板ごとに正確な位置決め機能が果たされる。
    【0024】
    本発明の液体噴射ヘッドの製造方法において、上記凹部が一定の間隔で配列される場合には、凹部を成形する雄型の突条部が所定ピッチで配列されているので、素材加圧による素材の塑性流動量が均一となり、変形吸収部における変位等の吸収負担も均一化され、所定吸収能力の変形吸収部を準備しておくことにより、各変形吸収部の吸収機能が均一にかつ十分に果たされ、基準部の変形等が確実に回避される。
    【0025】
    本発明の液体噴射ヘッドの製造方法において、上記間隔は0.3mm以下である場合には、精密な微細部品であるインクジェット式記録ヘッドの圧力発生室を加工するようなときに、きわめて精巧な鍛造加工が可能となり、その際の素材板の位置を基準部で正しく設定することができる。
    上記目的を達成するため、本発明の液体噴射ヘッドの圧力発生室となる母金属板において、ノズルと連通して液滴が噴射される圧力を発生する圧力発生室となる凹部が少なくとも形成された第1領域を有する液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板となる母金属板であって、少なくとも上記凹部を形成するための鍛造金型による塑性加工に供される第1の領域と、上記第1領域と上記鍛造金型の相対位置を決定する基準部と、上記第1領域と上記基準部の間である第2の領域に設けられ、上記塑性加工により生ずる上記母金属板の塑性変形を吸収可能に構成された少なくとも一つの変形吸収部とを具備して成ることを要旨とする。
    すなわち、上記圧力発生室形成板が成形される素材板にこの素材板と鍛造加工機の金型との相対位置を決定する基準部(例えば穴、凸部、切り欠き等)を設け、上記圧力発生室形成板の加工形状部と上記基準部とのあいだの上記素材板に変形吸収部を設け、上記加工形状部の成形の際に発生する素材の塑性流動を上記変形吸収部で吸収するものである。
    【0026】
    このため、上記加工形状部においては、溝状窪部の形状をした圧力発生室,ダミー圧力発生室,連通口,コンプライアンス部の凹部等の各種構造部分が加圧成形されるので、その際に素材板には加工形状部から遠ざかる方向に素材の塑性流動が発生する。 このような素材の塑性流動あるいはそれに伴う応力や変位は、上記基準部に伝達され変形吸収部が縮むような変形状態になって、素材の塑性流動が吸収される。 したがって、このような素材の塑性流動は基準部におよぶことがなく、基準部が変形したりその位置がずれたりするようなことが防止でき、前述のような圧力発生室の成形品質や流路ユニットの組立て品質等の問題が解決される。
    【0027】
    本発明の液体噴射ヘッドの圧力発生室となる母金属板において、上記変形吸収部は貫通穴である場合には、溝状窪部をはじめとして、ダミー圧力発生室,連通口,コンプライアンス部の凹部等の各種構造部分の加工成形により、素材の塑性流動量が多く発生するのであるが、上記貫通穴の吸収機能によって、基準部への影響が遮断される。
    【0028】
    本発明の液体噴射ヘッドの圧力発生室となる母金属板において、上記貫通穴は、上記第2領域を横切るように延設される場合には、細長い空隙状の貫通穴はその長手方向に略直交する方向からの素材の塑性流動に対しては、ほとんど反力を呈することなく順応性のよい変形吸収を果たすことになるので、基準部への影響を遮断するのに好適である。
    また、上記空隙が上記加工形状部と上記基準部とのあいだに複数列設されている場合には、上記のようなほとんど反力を呈することのない順応性のよい変形吸収が、列設された複数の空隙で行われるので、より確実に基準部への影響を遮断できる。
    さらに、複数の上記空隙が連続的に組合されている場合には、複数の空隙を合わせて、しかも空隙という形状面の特質を生かして、例えばT字型,L字型,ハの字型等の形態を、加工形状部の形状に最適な状態で適応させることが容易に行える。
    【0029】
    本発明の液体噴射ヘッドの圧力発生室となる母金属板において、上記延設された貫通穴の端部に弧状部が形成される場合には、貫通穴端部への応力集中を緩和することができる。 すなわち、加工形状部からの素材の塑性流動により、貫通穴の幅は縮まったり復元したりするので、貫通穴の端部には応力集中が繰返して作用し、この繰返し回数が過度になると貫通穴の端部に亀裂が入り、最悪の場合には切断して加工ができなくなる恐れがある。 上記の弧状部は、このような応力の集中を緩和しているので、亀裂発生等の問題が完全に解消する。
    【0030】
    本発明の液体噴射ヘッドの圧力発生室となる母金属板において、上記第1領域を上記圧力発生室形成基板として上記母金属板から分離するために切断される接続部を画成する複数の貫通穴が上記母金属板に形成され、上記貫通穴の幅は、上記接続部の幅よりも広い場合には、通常狭い幅とされている接続部へ集中しようとする応力が、接続部の幅よりも大きな幅とされた貫通穴に集中するので、細い接続部の折損等が予防される。 また、塑性流動を十分吸収できて高い加工精度が得られる。
    【0031】
    本発明の液体噴射ヘッドの圧力発生室となる母金属板において、上記母金属板は、ニッケルを含む場合には、ニッケル自体の線膨張係数が低く熱伸縮の現象が他の部品と同調して良好に果たされ、また、防錆性にすぐれ、さらに鍛造加工で重要視される展性に富んでいる等、良好な効果がえられる。
    【0032】
    本発明の液体噴射ヘッドの圧力発生室となる母金属板において、上記基準部が、上記鍛造金型に設けられた基準ピンが挿入される貫通穴である場合には、 上記基準部を設けるステップは、上記鍛造金型に設けられた基準ピンが挿入される挿通穴を形成するステップを含む場合には、上記基準ピンと上記挿通穴の合致が確実に行われるため高い位置決め精度が得られる。
    【0033】
    【発明の実施の形態】
    以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
    【0034】
    本発明の液体噴射ヘッドの製造方法は、液体噴射ヘッドの圧力発生室形成板の製造に好適に活用することができるので、図示の実施の形態においては液体噴射ヘッドの代表的な事例として、インクジェット式記録ヘッドの部品製造に適用した例を示している。
    【0035】
    図1及び図2に示すように、記録ヘッド1は、ケース2と、このケース2内に収納される振動子ユニット3と、ケース2の先端面に接合される流路ユニット4と、先端面とは反対側のケース2の取付面上に配置される接続基板5と、ケース2の取付面側に取り付けられる供給針ユニット6等から概略構成されている。
    【0036】
    上記の振動子ユニット3は、図3に示すように、圧電振動子群7と、この圧電振動子群7が接合される固定板8と、圧電振動子群7に駆動信号を供給するためのフレキシブルケーブル9とから概略構成される。
    【0037】
    圧電振動子群7は、列状に形成された複数の圧電振動子10…を備える。 各圧電振動子10…は、圧力発生素子の一種であり、電気機械変換素子の一種でもある。 これらの各圧電振動子10…は、列の両端に位置する一対のダミー振動子10a,10aと、これらのダミー振動子10a,10aの間に配置された複数の駆動振動子10b…とから構成されている。 そして、各駆動振動子10b…は、例えば、50μm〜100μm程度の極めて細い幅の櫛歯状に切り分けられ、180本設けられる。 また、ダミー振動子10aは、駆動振動子10bよりも十分広い幅であり、駆動振動子10bを衝撃等から保護する保護機能と、振動子ユニット3を所定位置に位置付けるためのガイド機能とを有する。
    【0038】
    各圧電振動子10…は、固定端部を固定板8上に接合することにより、自由端部を固定板8の先端面よりも外側に突出させている。 すなわち、各圧電振動子10…は、いわゆる片持ち梁の状態で固定板8上に支持されている。 そして、各圧電振動子10…の自由端部は、圧電体と内部電極とを交互に積層して構成されており、対向する電極間に電位差を与えることで素子長手方向に伸縮する。
    【0039】
    フレキシブルケーブル9は、固定板8とは反対側となる固定端部の側面で圧電振動子10と電気的に接続されている。 そして、このフレキシブルケーブル9の表面には、圧電振動子10の駆動等を制御するための制御用IC11が実装されている。 また、各圧電振動子10…を支持する固定板8は、圧電振動子10からの反力を受け止め得る剛性を備えた板状部材であり、ステンレス板等の金属板が好適に用いられる。
    【0040】
    上記のケース2は、例えば、エポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂で成型されたブロック状部材である。 ここで、ケース2を熱硬化性樹脂で成型しているのは、この熱硬化性樹脂は、一般的な樹脂よりも高い機械的強度を有しており、線膨張係数が一般的な樹脂よりも小さく、周囲の温度変化による変形が小さいからである。 そして、このケース2の内部には、振動子ユニット3を収納可能な収納空部12と、インクの流路の一部を構成するインク供給路13とが形成されている。 また、ケース2の先端面には、共通インク室(リザーバ)14となる先端凹部15が形成されている。
    【0041】
    収納空部12は、振動子ユニット3を収納可能な大きさの空部である。 この収納空部12の先端側部分はケース内壁が側方に向けて部分的に突出しており、この突出部分の上面が固定板当接面として機能する。 そして、振動子ユニット3は、各圧電振動子10の先端が開口から臨む状態で収納空部12内に収納される。 この収納状態において、固定板8の先端面は固定板当接面に当接した状態で接着されている。
    【0042】
    先端凹部15は、ケース2の先端面を部分的に窪ませることにより作製されている。 本実施形態の先端凹部15は、収納空部12よりも左右外側に形成された略台形状の凹部であり、収納空部12側に台形の下底が位置するように形成されている。
    【0043】
    インク供給路13は、ケース2の高さ方向を貫通するように形成され、先端が先端凹部15に連通している。 また、インク供給路13における取付面側の端部は、取付面から突設した接続口16内に形成されている。
    【0044】
    上記の接続基板5は、記録ヘッド1に供給する各種信号用の電気配線が形成されると共に、信号ケーブルを接続可能なコネクタ17が取り付けられた配線基板である。 そして、この接続基板5は、ケース2における取付面上に配置され、フレキシブルケーブル9の電気配線が半田付け等によって接続される。 また、コネクタ17には、制御装置(図示せず)からの信号ケーブルの先端が挿入される。
    【0045】
    上記の供給針ユニット6は、インクカートリッジ(図示せず)が接続される部分であり、針ホルダ18と、インク供給針19と、フィルタ20とから概略構成される。
    【0046】
    インク供給針19は、インクカートリッジ内に挿入される部分であり、インクカートリッジ内に貯留されたインクを導入する。 このインク供給針19の先端部は円錐状に尖っており、インクカートリッジ内に挿入し易くなっている。 また、この先端部には、インク供給針19の内外を連通するインク導入孔が複数穿設されている。 そして、本実施形態の記録ヘッド1は2種類のインクを吐出可能であるため、このインク供給針19を2本備えている。
    【0047】
    針ホルダ18は、インク供給針19を取り付けるための部材であり、その表面にはインク供給針19の根本部分を止着するための台座21を2本分横並びに形成している。 この台座21は、インク供給針19の底面形状に合わせた円形状に作製されている。 また、台座底面の略中心には、針ホルダ18の板厚方向を貫通するインク排出口22を形成している。 また、この針ホルダ18には、フランジ部を側方に延出している。
    【0048】
    フィルタ20は、埃や成型時のバリ等のインク内の異物の通過を阻止する部材であり、例えば、目の細かな金属網によって構成される。 このフィルタ20は、台座21内に形成されたフィルタ保持溝に接着されている。
    【0049】
    そして、この供給針ユニット6は、図2に示すように、ケース2の取付面上に配設される。 この配設状態において、供給針ユニット6のインク排出口22とケース2の接続口16とは、パッキン23を介して液密状態で連通する。
    【0050】
    次に、上記の流路ユニット4について説明する。 この流路ユニット4は、圧力発生室形成板30の一方の面にノズルプレート31を、圧力発生室形成板30の他方の面に弾性板32を接合した構成である。
    【0051】
    圧力発生室形成板30は、図4に示すように、溝状窪部33と、連通口34と、逃げ凹部35とを形成した金属製の板状部材である。 本実施形態では、この圧力発生室形成板30を、厚さ0.35mmのニッケル製の基板を加工することで作製している。
    【0052】
    ここで、基板としてニッケルを選定した理由について説明する。 第1の理由は、このニッケルの線膨張係数が、ノズルプレート31や弾性板32の主要部を構成する金属(本実施形態では後述するようにステンレス)の線膨張係数と略等しいからである。 すなわち、流路ユニット4を構成する圧力発生室形成板30、弾性板32及びノズルプレート31の線膨張係数が揃うと、これらの各部材を加熱接着した際において、各部材は均等に膨張する。 このため、膨張率の相違に起因する反り等の機械的ストレスが発生し難い。 その結果、接着温度を高温に設定しても各部材を支障なく接着することができる。 また、記録ヘッド1の作動時に圧電振動子10が発熱し、この熱によって流路ユニット4が加熱されたとしても、流路ユニット4を構成する各部材30,31,32が均等に膨張する。 このため、記録ヘッド1の作動に伴う加熱と作動停止に伴う冷却とが繰り返し行われても、流路ユニット4を構成する各部材30,31,32に剥離等の不具合は生じ難い。
    【0053】
    第2の理由は、防錆性に優れているからである。 すなわち、この種の記録ヘッド1では性インクが好適に用いられているので、長期間に亘って水が接触しても錆び等の変質が生じないことが肝要である。 その点、ニッケルは、ステンレスと同様に防錆性に優れており、錆び等の変質が生じ難い。
    【0054】
    第3の理由は、展性に富んでいるからである。 すなわち、圧力発生室形成板30を作製するにあたり、本実施形態では後述するように塑性加工(例えば、鍛造加工)で行っている。 そして、圧力発生室形成板30に形成される溝状窪部33や連通口34は、極めて微細な形状であり、且つ、高い寸法精度が要求される。 そして、基板にニッケルを用いると、展性に富んでいることから塑性加工であっても溝状窪部33や連通口34を高い寸法精度で形成することができる。
    【0055】
    なお、圧力発生室形成板30に関し、上記した各要件、すなわち、線膨張係数の要件、防錆性の要件、及び、展性の要件を満たすならば、ニッケル以外の金属で構成してもよい。
    【0056】
    溝状窪部33は、圧力発生室29となる溝状の窪部であり、図5に拡大して示すように、直線状の溝によって構成されている。 本実施形態では、幅約0.1mm,長さ約1.5mm,深さ約0.1mmの溝を溝幅方向に180個列設している。 この溝状窪部33の底面は、深さ方向(すなわち、奥側)に進むに連れて縮幅されてV字状に窪んでいる。 底面をV字状に窪ませたのは、隣り合う圧力発生室29,29同士を区画する隔壁部28の剛性を高めるためである。 すなわち、底面をV字状に窪ませることにより、隔壁部28の根本部分(底面側の部分)の肉厚が厚くなって隔壁部28の剛性が高まる。 そして、隔壁部28の剛性が高くなると、隣の圧力発生室29からの圧力変動の影響を受け難くなる。 すなわち、隣の圧力発生室29からのインク圧力の変動が伝わり難くなる。 また、底面をV字状に窪ませることにより、溝状窪部33を塑性加工によって寸法精度よく形成することもできる(後述する)。 そして、このV字の度は、加工条件によって規定されるが、例えば90度前後である。 さらに、隔壁部28における先端部分の肉厚が極く薄いことから、各圧力発生室29…を密に形成しても必要な容積を確保することができる。
    【0057】
    また、本実施形態における溝状窪部33に関し、その長手方向両端部は、奥側に進むにつれて内側に下り傾斜している。 すなわち、溝状窪部33の長手方向両端部は、面取形状に形成されている。 このように構成したのも、溝状窪部33を塑性加工によって寸法精度よく形成するためである。
    【0058】
    さらに、両端部の溝状窪部33,33に隣接させてこの溝状窪部33よりも幅広なダミー窪部36を1つずつ形成している。 このダミー窪部36は、インク滴の吐出に関与しないダミー圧力発生室となる溝状の窪部である。 本実施形態のダミー窪部36は、幅約0.2mm,長さ約1.5mm,深さ約0.1mmの溝によって構成されている。 そして、このダミー窪部36の底面は、W字状に窪んでいる。 これも、隔壁部28の剛性を高めるため、及び、ダミー窪部36を塑性加工によって寸法精度よく形成するためである。
    【0059】
    そして、各溝状窪部33…及び一対のダミー窪部36,36によって窪部列が構成される。 本実施形態では、この窪部列を横並びに2列形成している。
    【0060】
    連通口34は、溝状窪部33の一端から板厚方向を貫通する貫通孔として形成している。 この連通口34は、溝状窪部33毎に形成されており、1つの窪部列に180個形成されている。 本実施形態の連通口34は、開口形状が矩形状であり、圧力発生室形成板30における溝状窪部33側から板厚方向の途中まで形成した第1連通口37と、溝状窪部33とは反対側の表面から板厚方向の途中まで形成した第2連通口38とから構成されている。
    【0061】
    そして、第1連通口37と第2連通口38とは断面積が異なっており、第2連通口38の内寸法が第1連通口37の内寸法よりも僅かに小さく設定されている。 これは、連通口34をプレス加工によって作製していることに起因する。 すなわち、この圧力発生室形成板30は、厚さ0.35mmのニッケル板を加工することで作製しているため、連通口34の長さは、溝状窪部33の深さを差し引いても0.25mm以上となる。 そして、連通口34の幅は、溝状窪部33の溝幅よりも狭くする必要があるので、0.1mm未満に設定される。 このため、連通口34を1回の加工で打ち抜こうとすると、アスペクト比の関係で雄型(ポンチ)が座屈するなどしてしまう。 そこで、本実施形態では、加工を2回に分け、1回目の加工では第1連通口37を板厚方向の途中まで形成し、2回目の加工で第2連通口38を形成している。 なお、この連通口34の加工手順については、後で説明する。
    【0062】
    また、ダミー窪部36にはダミー連通口39が形成されている。 このダミー連通口39は、上記の連通口34と同様に、第1ダミー連通口40と第2ダミー連通口41とから構成されており、第2ダミー連通口41の内寸法が第1ダミー連通口40の内寸法よりも小さく設定されている。
    【0063】
    なお、本実施形態では、上記の連通口34及びダミー連通口39に関し、開口形状が矩形状の貫通孔によって構成されたものを例示したが、この形状に限定されるものではない。 例えば、円形に開口した貫通孔によって構成してもよい。
    【0064】
    逃げ凹部35は、共通インク室14におけるコンプライアンス部46の作動用空間を形成する。 本実施形態では、ケース2の先端凹部15と略同じ形状であって、深さが溝状窪部33と等しい台形状の凹部によって構成している。
    【0065】
    次に、上記の弾性板32について説明する。 この弾性板32は、封止板の一種であり、例えば、支持板42上に弾性体膜43を積層した二重構造の複合材(本発明の金属材の一種)によって作製される。 本実施形態では、支持板42としてステンレス板を用い、弾性体膜43としてPPS(ポリフェニレンサルファイド)を用いている。
    【0066】
    図6に示すように、弾性板32には、ダイヤフラム部44と、インク供給口45と、コンプライアンス部46とを形成している。
    【0067】
    ダイヤフラム部44は、圧力発生室29の一部を区画する部分である。 すなわち、ダイヤフラム部44は溝状窪部33の開口面を封止し、この溝状窪部33と共に圧力発生室29を区画形成する。 このダイヤフラム部44は、図7(a)に示すように、溝状窪部33に対応した細長い形状であり、溝状窪部33を封止する封止領域に対し、各溝状窪部33…毎に形成されている。 具体的には、ダイヤフラム部44の幅は溝状窪部33の溝幅と略等しく設定され、ダイヤフラム部44の長さは溝状窪部33の長さよりも多少短く設定されている。 長さに関し、本実施形態では、溝状窪部33の長さの約2/3に設定されている。 そして、形成位置に関し、図2に示すように、ダイヤフラム部44の一端を、溝状窪部33の一端(連通口34側の端部)に揃えている。
    【0068】
    このダイヤフラム部44は、図7(b)に示すように、溝状窪部33に対応する部分の支持板42をエッチング等によって環状に除去して弾性体膜43のみとすることで作製され、この環内には島部47を形成している。 この島部47は、圧電振動子10の先端面が接合される部分である。
    【0069】
    インク供給口45は、圧力発生室29と共通インク室14とを連通するための孔であり、弾性板32の板厚方向を貫通している。 このインク供給口45も、ダイヤフラム部44と同様に、溝状窪部33に対応する位置に各溝状窪部33…毎に形成されている。 このインク供給口45は、図2に示すように、連通口34とは反対側の溝状窪部33の他端に対応する位置に穿設されている。 また、このインク供給口45の直径は、溝状窪部33の溝幅よりも十分に小さく設定されている。 本実施形態では、23ミクロンの微細な貫通孔によって構成している。
    【0070】
    このようにインク供給口45を微細な貫通孔にした理由は、圧力発生室29と共通インク室14との間に流路抵抗を付与するためである。 すなわち、この記録ヘッド1では、圧力発生室29内のインクに付与した圧力変動を利用してインク滴を吐出させている。 このため、インク滴を効率よく吐出させるためには、圧力発生室29内のインク圧力をできるだけ共通インク室14側に逃がさないようにすることが肝要である。 この観点から本実施形態では、インク供給口45を微細な貫通孔によって構成している。
    【0071】
    そして、本実施形態のように、インク供給口45を貫通孔によって構成すると、加工が容易であり、高い寸法精度が得られるという利点がある。 すなわち、このインク供給口45は貫通孔であるため、レーザー加工による作製が可能である。 従って、微細な直径であっても高い寸法精度で作製でき、作業も容易である。
    【0072】
    コンプライアンス部46は、共通インク室14の一部を区画する部分である。 すなわち、コンプライアンス部46と先端凹部15とで共通インク室14を区画形成する。 このコンプライアンス部46は、先端凹部15の開口形状と略同じ台形状であり、支持板42の部分をエッチング等によって除去し、弾性体膜43だけにすることで作製される。
    【0073】
    なお、弾性板32を構成する支持板42及び弾性体膜43は、この例に限定されるものではない。 例えば、弾性体膜43としてポリイミドを用いてもよい。 また、この弾性板32を、ダイヤフラム部44になる厚肉部及び該厚肉部周辺の薄肉部と、コンプライアンス部46になる薄肉部とを設けた金属板で構成してもよい。
    【0074】
    次に、上記のノズルプレート31について説明する。 ノズルプレート31は、ノズル開口48を列設した金属製の板状部材である。 本実施形態ではステンレス板を用い、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル開口48…を開設している。 本実施形態では、合計180個のノズル開口48…を列設してノズル列を構成し、このノズル列を2列横並びに形成している。 そして、このノズルプレート31を圧力発生室形成板30の他方の表面、すなわち、弾性板32とは反対側の表面に接合すると、対応する連通口34に各ノズル開口48…が臨む。
    【0075】
    そして、上記の弾性板32を、圧力発生室形成板30の一方の表面、すなわち、溝状窪部33の形成面に接合すると、ダイヤフラム部44が溝状窪部33の開口面を封止して圧力発生室29が区画形成される。 同様に、ダミー窪部36の開口面も封止されてダミー圧力発生室が区画形成される。 また、上記のノズルプレート31を圧力発生室形成板30の他方の表面に接合するとノズル開口48が対応する連通口34に臨む。 この状態で島部47に接合した圧電振動子10を伸縮すると、島部周辺の弾性体膜43が変形し、島部47が溝状窪部33側に押されたり、溝状窪部33側から離隔する方向に引かれたりする。 この弾性体膜43の変形により、圧力発生室29が膨張したり収縮したりして圧力発生室29内のインクに圧力変動が付与される。
    【0076】
    さらに、弾性板32(すなわち、流路ユニット4)をケース2に接合すると、コンプライアンス部46が先端凹部15を封止する。 このコンプライアンス部46は、共通インク室14に貯留されたインクの圧力変動を吸収する。 すなわち、貯留されたインクの圧力に応じて弾性体膜43が膨張したり収縮したりして変形する。 そして、上記の逃げ凹部35は、弾性体膜43の膨張時において、弾性体膜43が膨らむための空間を形成する。
    【0077】
    上記構成の記録ヘッド1は、インク供給針19から共通インク室14までの共通インク流路と、共通インク室14から圧力発生室29を通って各ノズル開口48…に至る個別インク流路とを有する。 そして、インクカートリッジに貯留されたインクは、インク供給針19から導入されて共通インク流路を通って共通インク室14に貯留される。 この共通インク室14に貯留されたインクは、個別インク流路を通じてノズル開口48から吐出される。
    【0078】
    例えば、圧電振動子10を収縮させると、ダイヤフラム部44が振動子ユニット3側に引っ張られて圧力発生室29が膨張する。 この膨張により圧力発生室29内が負圧化されるので、共通インク室14内のインクがインク供給口45を通って各圧力発生室29に流入する。 その後、圧電振動子10を伸張させると、ダイヤフラム部44が圧力発生室形成板30側に押されて圧力発生室29が収縮する。 この収縮により、圧力発生室29内のインク圧力が上昇し、対応するノズル開口48からインク滴が吐出される。
    【0079】
    そして、この記録ヘッド1では、圧力発生室29(溝状窪部33)の底面がV字状に窪んでいる。 このため、隣り合う圧力発生室29,29同士を区画する隔壁部28は、その根本部分の肉厚が先端部分の肉厚よりも厚く形成される。 これにより、隔壁部28の剛性を従来よりも高めることができる。 従って、インク滴の吐出時において、圧力発生室29内にインク圧力の変動が生じたとしても、その圧力変動を隣の圧力発生室29に伝わり難くすることができる。 その結果、所謂隣接クロストークを防止でき、インク滴の吐出を安定化できる。
    【0080】
    また、本実施形態では、共通インク室14と圧力発生室29とを連通するインク供給口45を、弾性板32の板厚方向を貫通する微細孔によって構成したので、レーザー加工等によって高い寸法精度が容易に得られる。 これにより、各圧力発生室29…へのインクの流入特性(流入速度や流入量等)を高いレベルで揃えることができる。 さらに、レーザー光線によって加工を行った場合には、加工も容易である。
    【0081】
    また、本実施形態では、列端部の圧力発生室29,29に隣接させてインク滴の吐出に関与しないダミー圧力発生室(すなわち、ダミー窪部36と弾性板32とによって区画される空部)を設けたので、これらの両端の圧力発生室29,29に関し、片側には隣りの圧力発生室29が形成され、反対側にはダミー圧力発生室が形成されることになる。 これにより、列端部の圧力発生室29,29に関し、その圧力発生室29を区画する隔壁の剛性を、列途中の他の圧力発生室29…における隔壁の剛性に揃えることができる。 その結果、一列全ての圧力発生室29のインク滴吐出特性を揃えることができる。
    【0082】
    さらに、このダミー圧力発生室に関し、列設方向側の幅を各圧力発生室29…の幅よりも広くしている。 換言すれば、ダミー窪部36の幅を溝状窪部33の幅よりも広くしている。 これにより、列端部の圧力発生室29と列途中の圧力発生室29の吐出特性をより高い精度で揃えることができる。
    【0083】
    さらに、本実施形態では、ケース2の先端面を部分的に窪ませて先端凹部15を形成し、この先端凹部15と弾性板32とにより共通インク室14を区画形成しているので、共通インク室14を形成するための専用部材が不要であり、構成の簡素化が図れる。 また、このケース2は樹脂成型によって作製されているので、先端凹部15の作製も比較的容易である。
    【0084】
    次に、上記記録ヘッド1の製造方法について説明する。 なお、この製造方法では、上記の圧力発生室形成板30の製造工程に特徴を有しているので、圧力発生室形成板30の製造工程を中心に説明することにする。 なお、この圧力発生室形成板30は、順送り型による鍛造加工によって作製される。 また、圧力発生室形成板30の素材として使用する帯板は、上記したようにニッケル製である。
    【0085】
    圧力発生室形成板30の製造工程は、溝状窪部33を形成する溝状窪部形成工程と、連通口34を形成する連通口形成工程とからなり、順送り型によって行われる。
    【0086】
    溝状窪部形成工程では、図8に示す雄型51と図9に示す雌型52とを用いる。 この雄型51は、溝状窪部33を形成するための金型である。 この雄型には、溝状窪部33を形成するための突条部53を、溝状窪部33と同じ数だけ列設してある。 また、列設方向両端部の突条部53に隣接させてダミー窪部36を形成するためのダミー突条部(図示せず)も設ける。 突条部53の先端部分53aは先細りした山形とされており、例えば図8(b)に示すように、幅方向の中心から45度程度の角度で面取りされている。 すなわち、突条部53の先端に形成した山形の斜面により楔状の先端部分53aが形成されている。 これにより、長手方向から見てV字状に尖っている。 また、先端部分53aにおける長手方向の両端は、図8(a)に示すように、45度程度の角度で面取りしてある。 このため、突条部53の先端部分53aは、三角柱の両端を面取りした形状となっている。
    【0087】
    また、雌型52には、その上面に筋状突起54が複数形成されている。 この筋状突起54は、隣り合う圧力発生室29,29同士を区画する隔壁の形成を補助するものであり、溝状窪部33,33同士の間に位置する。 この筋状突起54は四角柱状であり、その幅は、隣り合う圧力発生室29,29同士の間隔(隔壁の厚み)よりも若干狭く設定されており、高さは幅と同程度である。 また、筋状突起54の長さは溝状窪部33(突条部53)の長さと同程度に設定されている。
    【0088】
    そして、溝状窪部形成工程では、まず、図10(a)に示すように、雌型52の上面に素材であるとともに圧力発生室形成板である帯板55を載置し、帯板55の上方に雄型51を配置する。 次に、図10(b)に示すように、雄型51を下降させて突条部53の先端部を帯板55内に押し込む。 このとき、突条部53の先端部分53aをV字状に尖らせているので、突条部53を座屈させることなく先端部分53aを帯板55内に確実に押し込むことができる。 この突条部53の押し込みは、図10(c)に示すように、帯板55の板厚方向の途中まで行う。
    【0089】
    突条部53の押し込みにより、帯板55の一部分が流動し、溝状窪部33が形成される。 ここで、突条部53の先端部分53aがV字状に尖っているので、微細な形状の溝状窪部33であっても、高い寸法精度で作製することができる。 すなわち、先端部分53aで押された部分が円滑に流れるので、形成される溝状窪部33は突条部53の形状に倣った形状に形成される。 このときに、先端部分53aで押し分けられるようにして流動した素材は、突条部53のあいだに設けられた空隙部53b内に流入し隔壁部28が成形される。 さらに、先端部分53aにおける長手方向の両端も面取りしてあるので、当該部分で押圧された帯板55も円滑に流れる。 従って、溝状窪部33の長手方向両端部についても高い寸法精度で作製できる。
    【0090】
    また、突条部53の押し込みを板厚方向の途中で止めているので、貫通孔として形成する場合よりも厚い帯板55を用いることができる。 これにより、圧力発生室形成板30の剛性を高めることができ、インク滴の吐出特性の向上が図れる。 また、圧力発生室形成板30の取り扱いも容易になる。
    【0091】
    また、突条部53で押圧されたことにより、帯板55の一部は隣り合う突条部53,53の空間内に隆起する。 ここで、雌型52に設けた筋状突起54は、突条部53,53同士の間に対応する位置に配置されているので、この空間内への帯板55の流れを補助する。 これにより、突条部53間の空間に対して効率よく帯板55を導入することができ、隆起部を高く形成できる。
    【0092】
    上記溝状窪部33等の成形は、上述のとおりであるが、そのような成形工程においては、前述のように素材板55の位置決めが重要になってくる。 すなわち、素材板55に鍛造加工を行って圧力発生室形成板30を成形するときには、素材板と鍛造金型との相対位置を正確に設定しておかなければならない。 この相対位置がずれたりしていると、加工形状部すなわち圧力発生室29となる溝状窪部33が素材板上において正しい位置とならないために、圧力発生室形成板30を流路ユニット4として組立てたときの組立て精度が低下し、極端な場合にはインク滴の吐出特性に支障を来す恐れがある。
    【0093】
    上記の素材板55と鍛造金型との正しい相対位置を確定するために、鍛造金型から起立させた基準ピンを受け入れる基準穴が素材板にあけてあり、基準穴に基準ピンが入りこむことによって、素材板の加工形状部と鍛造金型との相対位置が決定づけられる。 この場合においては、加工形状部に塑性加工がなされるときに、素材板に素材の塑性流動が発生し、この変位によって上記基準穴が変形したりその位置が狂ったりする恐れがある。
    【0094】
    これらの基準穴の変形や位置ずれの問題は、すでに述べたが、この問題に重点をおいた実施の形態を以下のとおり説明する。
    【0095】
    なお、前述の雄型51および雌型52により帯板(素材)55に塑性加工を行うときには、常温の温度条件下であり、また、以下に説明する塑性加工においても同様に常温の温度条件で塑性加工を行っている。
    【0096】
    図11〜図15は、上記の素材の塑性流動を素材板55にあけた貫通穴で抑制するものの実施の形態を示す。 なお、すでに説明された部位と同じ機能を果たす部位については、同一の符号を図中に記載してある。
    【0097】
    図11(B)は、順送りされる帯状の素材板55がフープ63から繰り出されて鍛造加工機64に供給され、同加工機64内で順次加工されて行く状態を簡略的に示している。 なお、上記フープ63は回転支持装置(リワインド装置)65に支持され、所定の加工ステージを経て加工が完了した圧力発生室形成板30は部品受け箱66に入れられる。
    【0098】
    鍛造加工機64は、上下方向に往復動作をするスライダ67に複数の雄型68が装備されている。 また、静止している基台69には上記雄型68と対をなす雌型70が配置されている。 鍛造加工機64には(B)の左から順に、加工ステージS1,S2,S3,S4,S5が配列され、前述の図8,図9に示した雄型51や雌型52は、加工ステージS4またはS5に配置されている。
    【0099】
    各加工ステージS1〜S5に順次送られてきた素材板55の位置を決めて、加工形状部71((A)参照)と雄型68や雌型70との相対位置を設定するために、基準ピン72が雌型70に起立させてある。 この基準ピン72は、図示していないが各加工ステージS1〜S5ごとに2本1組として配置され、各組の基準ピン72は素材板55の順送り方向に直交する方向に向かい合わせて配置されている。 したがって、(A)に示す基準穴73は、各加工ステージに対応した加工形状部71ごとに左右に一対設けられている。 なお、基準ピン72の断面は円形であり、また、基準穴73も円形である。
    【0100】
    素材板55を順次つぎの加工ステージに送るフィーディング機構は、一般的に採用されているスクエアーモーションをする機構により行われ、素材板55がリフトアップされて基準ピン72から離脱しているときに、つぎの加工ステージへ送られてリフトダウンをすると、つぎの基準ピン72が素材板55の基準穴73に相対的に進入してつぎの加工のための位置決めが行われる。 このような順送りに伴う基準ピン72と基準穴73との合致は、各加工ステージS1〜S5において一斉に行われる。
    【0101】
    なお、符号74はスライダ67の最終加工として行われるカッタであり、このカッティングにより、1つの部品としての圧力発生室形成板30が完成する。
    【0102】
    上記加工形状部71は、上記溝状窪部33,逃げ凹部35,連通口34等であり、これらの加工において素材の塑性流動が加工形状部71から遠ざかる方向に発生する。 このような素材の塑性流動による応力が基準穴73に伝達されると、基準穴73が変形を来す恐れがでてくる。 もし、このような応力で基準穴73が変形して楕円形になったりすると、基準ピン72から抜けにくくなるとともに、つぎの加工ステージでは逆に基準ピン72と基準穴73とが合致しにくくなる。 さらに、上記の素材の塑性流動により基準穴73の位置が加工形状部71から遠ざかる方向に変位することもある。
    【0103】
    上記のような問題とされる現象を防止するために、加工形状部71と基準穴73のあいだの素材板55に貫通穴75があけられている。 図11(A)の場合は、貫通穴75が細長い空隙76とされ、この空隙76の長手方向の向きは、加工形状部71と基準穴73のあいだを横切るように設定されている。
    【0104】
    上記加工形状部71においては、溝状窪部33の形状をした圧力発生室29,ダミー圧力発生室36,連通口34,コンプライアンス部46の凹部35等の各種構造部分が加圧成形されるので、その際に素材板55には加工形状部71から遠ざかる方向に素材55の塑性流動が発生する。 このような素材の塑性流動あるいはそれに伴う応力や変位は、上記貫通穴75に伝達され貫通穴75が縮むような変形状態になって、素材55の塑性流動が吸収される。 したがって、このような素材の塑性流動は基準穴73におよぶことがなく、基準穴73が変形したりその位置がずれたりするようなことが防止でき、前述のような圧力発生室29の成形品質や流路ユニット4の組立て品質等の問題が解決される。
    【0105】
    また、素材55の塑性流動の量という面から見ると、溝状窪部33をはじめとして、ダミー圧力発生室36,連通口34,コンプライアンス部46の凹部35等の各種構造部分の加工成形により、素材55の塑性流動量が多く発生するのであるが、上記空隙76の吸収機能によって、基準穴73への影響が遮断される。
    【0106】
    上記貫通穴75は、細長い空隙76の形状であるが、この空隙76の長手方向の向きは、加工形状部71と基準穴73のあいだを横切るように設定されているので、細長い空隙状の貫通穴75はその長手方向に略直交する方向からの素材55の塑性流動に対しては、ほとんど反力を呈することなく順応性のよい変形吸収を果たすことになるので、基準穴73への影響を遮断するのに好適である。
    【0107】
    図12に示す空隙76の配置の例は、加工形状部71と基準穴73とのあいだに3本、左右で6本配置されている。 加工形状部71の直ぐ横に2本縦方向に並べ、さらに、その横に1本縦方向に配列してある。 したがって、上記のようなほとんど反力を呈することのない順応性のよい変形吸収が、列設された複数の空隙76で行われるので、より確実に基準穴73への影響を遮断できる。
    【0108】
    図11(B)のような連続加工式の鍛造加工機64においては、各部の加工順序が、例えば加工ステージS1において基準穴73と空隙76が同時にあけられ、その後、加工ステージS2において溝状窪部33の予備成形がなされ、さらに、加工ステージS3において溝状窪部33の仕上げ成形が行われるという順序で最終工程まで進行して行く。 すなわち、加工形状部71は加工ステージS1,S2,S3・・・が順次進行して行くのにともなって、加工が順次進行して行くのである。 なお、前述の雄型51,雌型52は加工ステージS2またはS3の箇所に取付けられている。
    【0109】
    このような加工ステージS1,S2,S3・・・の順送り方式において、各加工ステージごとに加工形状部71からの素材55の塑性流動が空隙76によって抑制されるので、順次進行する後工程(後加工ステージ)においても基準穴73の変形が防止されるとともに正しい位置を維持できる。
    【0110】
    上記加工形状部71は、複数回の塑性加工によって加工を完了するので、1回の塑性加工のたびに生じる塑性流動を空隙76で吸収し、基準穴73の位置精度を維持できるため、複数回の塑性加工によって完了する加工形状部71すなわち圧力発生室29や凹部35等の形状精度や寸法精度を高精度に仕上げることができる。
    【0111】
    各部の加工成形は、図11(B)のような連続加工式の鍛造加工機64によって進行するのであるが、図13は各加工ステージに配置されている各種金型を1箇所に集約して図示してある。 基準穴73をあけるパンチ77と空隙76をあけるパンチ78が加工ステージS1に装着され、雄型51と雌型52が予備成形用として加工ステージS2に仕上げ成形用として加工ステージS3に装着されている。
    【0112】
    空隙76があけられるタイミングは、加工形状部71が成形される前である。 こうすることにより、加工形状部71から素材55の塑性流動が発生するときには、すでに空隙76が準備されているので、素材55の塑性流動が確実に空隙76で遮断され、基準穴73の変形やその位置を狂わせるような要因が確実に除去される。 また、空隙76は少なくとも基準穴73と同時にあけられるので、加工形状部71に加工が施される前に、空隙76と基準穴73が同時にあけられるので、加工形状部71からの素材55の塑性流動が確実に遮断されるとともに、空隙76と基準穴73をあける時間が短縮される。
    【0113】
    図14は、帯状の素材板55に対して順次加工が進行して行く状況を示す。 言い換えると、図11(B)の鍛造加工機64から素材板55を外して、各加工段階の進行を示している。 図14(A)は、基準穴73と空隙76がパンチ77,78により打抜かれた状態である。 (B)は、略L字型のトリミング用の開口79が4箇所に打抜かれて製品部になる圧力発生室形成板30の素材領域が設定された状態である。 (C)は、上記逃げ凹部35の窪部成形と研磨面積減少のための打抜き穴80が成形された状態である。 (D)は、溝状窪部33からなる圧力発生室29が成形され、これら圧力発生室29はその幅方向に列設され、そのような圧力発生室29の列が2列成形されている。 また、各圧力発生室29の列の端部には、ダミー圧力発生室36が成形されている。 (E)は、トリミングされて部品としての圧力発生室形成板30が完成した状態を示す。
    【0114】
    図14に示す空隙76は、複数の空隙76が組合されているもので、ここでは横T字型の形状とされている。 このような空隙形状とするのは、加工形状部71の形状によって発生する素材の塑性流動に適応させるためである。 縦方向の長部76Aが主として基準穴73への影響を遮断する機能を果たしているのであるが、それを補うために横向きの短部76Bが配置してある。 すなわち、長部76Aだけの変形だけでは不十分なので短部76Bを付加し、空隙76A,76B全体としての変形性を増大させている。
    【0115】
    上記のような横T字型の空隙76A,76Bは、上下に配置されている開口79を成形するときの応力が上下方向の成分として作用するので、長部76Aと短部76Bが交わる箇所に空隙76の変形性を付与している。
    【0116】
    つまり、上記の横T字型の空隙76A,76Bは、加工形状部71の形状によって発生する素材の塑性流動状態すなわち流動の方向や流動量に応じて空隙76の形状を適宜選定しているのである。 したがって、最も吸収効率のよい空隙形状とし、基準穴73への影響を消滅させることができる。 また、加工形状部71からの素材55の塑性流動や応力の状態により、貫通穴75を長円形,楕円形,円弧形等にして、最適の貫通穴形状として良好な吸収変形を起させることができる。
    【0117】
    図15(A)は、空隙76の幅が加工形状部71と素材板55とを接続する接続部81の幅よりも大きくされている場合である。 (A)において、T1は空隙76の幅をT2は接続部81の幅を示しており、T1>T2とされている。 こうすることにより、通常狭い幅とされている接続部81へ集中しようとする応力が、接続部81の幅よりも大きな幅とされた空隙76に集中するので、細い接続部81の折損等が予防される。
    【0118】
    図15(B)に示した空隙76には、その長部76Aの端部にアール部82が成形してある。 ここでは、(B)に示すように応力が集中しやすい側に片寄せて円弧状に打抜いた形状とされている。 すなわち、加工形状部71からの素材55の塑性流動により、空隙76の幅は縮まったり復元したりするので、空隙76の端部には応力集中が繰返して作用し、この繰返し回数が過度になると空隙76の端部に亀裂が入り、最悪の場合には切断して加工ができなくなる恐れがある。 上記のアール部82は、このような応力の集中を緩和しているので、亀裂発生等の問題が完全に解消する。
    【0119】
    上記素材板55は所定の大きさに設定され、この素材板55に所定数量の圧力発生室形成板30を成形することにより、各圧力発生室形成板30が成形される素材板55ごとに基準穴73の変形等が防止され、各素材板55ごとに正確な位置決め機能が果たされる。
    【0120】
    上記溝状窪部33は、所定ピッチで列設されている。 溝状窪部33を成形する雄型51の突条部53が所定ピッチで配列されているので、素材加圧による素材55の塑性流動量が均一となり、空隙76における変位等の吸収負担も均一化され、所定吸収能力の空隙76を準備しておくことにより、各空隙76の吸収機能が均一にかつ十分に果たされ、基準穴73の変形等が確実に回避される。
    【0121】
    上記溝状窪部33のピッチ寸法は0.14mmであり、この鍛造加工で精密な微細部品であるインクジェット式記録ヘッドの圧力発生室29を加工するようなときに、きわめて精巧な鍛造加工が可能となる。 図示の実施の形態は、溝状窪部33のピッチは0.14mmであるが、このピッチについては、0.3mm以下とすることにより、液体噴射ヘッド等の部品加工等においてより好適な仕上げとなる。 このピッチは好ましくは0.2mm以下,より好ましくは0.15mm以下である。
    【0122】
    上記素材板55をニッケル板で構成することにより、ニッケル自体の線膨張係数が低く熱伸縮の現象が他の部品と同調して良好に果たされ、また、防錆性にすぐれ、さらに鍛造加工で重要視される展性に富んでいる等、良好な効果がえられる。 さらに、このような微細な構造の加工成形としては、一般に、異方性エッチングの手法が採用されるのであるが、このような手法は加工工数が多大なものとなるので、製造原価の面で不利である。 それに対して、上記の鍛造加工方法をニッケル等の素材に使用すれば、加工工数が大幅に削減され、原価的にも極めて有利である。
    【0123】
    図16に例示した記録ヘッド1´は、本発明を適用することのできる事例であり、圧力発生素子として発熱素子61を用いたものである。 この例では、上記の弾性板32に代えて、コンプライアンス部46とインク供給口45とを設けた封止基板62を用い、この封止基板62によって圧力発生室形成板30における溝状窪部33側を封止している。 また、この例では、圧力発生室29内における封止基板62の表面に発熱素子61を取り付けている。 この発熱素子61は電気配線を通じて給電されて発熱する。 なお、圧力発生室形成板30やノズルプレート31等、その他の構成は上記実施形態と同様であるので、その説明は省略する。
    【0124】
    この記録ヘッド1´では、発熱素子61への給電により、圧力発生室29内のインクが突沸し、この突沸によって生じた気泡が圧力発生室29内のインクを加圧する。 この加圧により、ノズル開口48からインク滴が吐出される。 そして、この記録ヘッド1´でも、圧力発生室形成板30を金属の塑性加工で作製しているので、上記した実施形態と同様の作用効果を奏する。
    【0125】
    また、連通口34に関し、上記実施形態では、溝状窪部33の一端部に設けた例を説明したが、これに限らない。 例えば、連通口34を溝状窪部33における長手方向略中央に形成して、溝状窪部33の長手方向両端にインク供給口45及びそれと連通する共通インク室14を配置してもよい。 このようにすることによりインク供給口45から連通口34に至る圧力発生室29内におけるインクの淀みを防止できるので、好ましい。
    【0126】
    上述の実施の形態は、インクジェット式記録装置に使用される記録ヘッドであるが、本発明における液体噴射ヘッドは、インクジェット式記録装置用のインクだけを対象にするのではなく、グルー,マニキュア,導電性液体(液体金属)等を噴射することができる。
    【0127】
    【発明の効果】
    以上のように、本発明の液体噴射ヘッドの製造方法によれば、上記加工形状部においては、溝状窪部の形状をした圧力発生室,ダミー圧力発生室,連通口,コンプライアンス部の凹部等の各種構造部分が加圧成形されるので、その際に素材板には加工形状部から遠ざかる方向に素材の塑性流動が発生する。 このような素材の塑性流動あるいはそれに伴う応力は、上記貫通穴に伝達され貫通穴が縮むような変形状態になって、素材の塑性流動が吸収される。 したがって、このような素材の塑性流動は基準穴におよぶことがなく、基準穴が変形したりその位置がずれたりするようなことが防止でき、前述のような圧力発生室の成形品質や流路ユニットの組立て品質等の問題が解決される。
    【図面の簡単な説明】
    【図1】 インクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。
    【図2】 インクジェット式記録ヘッドの断面図である。
    【図3】 (A)及び(B)は、振動子ユニットを説明する図である。
    【図4】 圧力発生室形成板の平面図である。
    【図5】 圧力発生室形成板の説明図であり、(a)は図4におけるX部分の拡大図、(b)は(a)におけるA−A断面図、(c)は(a)におけるB−B断面図である。
    【図6】 弾性板の平面図である。
    【図7】 弾性板の説明図であり、(a)は図6におけるY部分の拡大図、(b)は(a)におけるC−C断面図である。
    【図8】 (a)及び(b)は、溝状窪部の形成に用いる雄型を説明する図である。
    【図9】 (a)及び(b)は、溝状窪部の形成に用いる雌型を説明する図である。
    【図10】 (a)〜(c)は、溝状窪部の形成を説明する模式図である。
    【図11】 (A)は帯状の素材板に加工形状部等が成形された状態を示す平面図、(B)は鍛造加工機の側面図である。
    【図12】 素材板に加工形状部等が成形された状態を示す平面図である。
    【図13】 素材板と各種金型との位置関係を示す斜視図である。
    【図14】 順次進行する加工ステージが形成された素材板の平面図である。
    【図15】 空隙の形状を示す部分的な平面図である。
    【図16】 変形例のインクジェット式記録ヘッドを説明する断面図である。
    【符号の説明】
    1 インクジェット式記録ヘッド1´ インクジェット式記録ヘッド2 ケース3 振動子ユニット4 流路ユニット5 接続基板6 供給針ユニット7 圧電振動子群8 固定板9 フレキシブルケーブル10 圧電振動子10a ダミー振動子10b 駆動振動子11 制御用IC
    12 収納空部13 インク供給路14 共通インク室15 先端凹部16 接続口17 コネクタ18 針ホルダ19 インク供給針20 フィルタ21 台座22 インク排出口23 パッキン28 隔壁部29 圧力発生室30 圧力発生室形成板31 ノズルプレート32 弾性板33 溝状窪部34 連通口35 逃げ凹部36 ダミー窪部,ダミー圧力発生室37 第1連通口38 第2連通口39 ダミー連通口40 第1ダミー連通口41 第2ダミー連通口42 支持板43 弾性体膜44 ダイヤフラム部45 インク供給口46 コンプライアンス部47 島部48 ノズル開口51 雄型52 雌型53 突条部53a 先端部分53b 空隙部54 筋状突起55 帯板,素材,金属素材板,(圧力発生室形成板)
    61 発熱素子62 封止基板63 フープ64 鍛造加工機65 回転支持装置66 部品受け箱67 スライダ68 雄型69 基台70 雌型71 加工形状部72 基準ピン73 基準穴74 カッタ75 貫通穴76 空隙76A 長部76B 短部77 パンチ78 パンチ79 開口80 打抜き穴81 接続部82 アール部

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