固形乳の製造方法

申请号 JP2011526340 申请日 2009-12-25 公开(公告)号 JP5675618B2 公开(公告)日 2015-02-25
申请人 株式会社明治; 发明人 活 豊田; 活 豊田; 満穂 柴田; 満穂 柴田; 和光 大坪; 和光 大坪;
摘要
权利要求
  • 固形乳の原料となる粉乳を 篩にかけて分級することによって,前記粉乳から, 前記篩上に残った所定の粒子径よりも大きい粒子径を有する粉乳を得る分級工程 であって,前記篩として,目開きが300μm以上700μm以下のものを用いる工程と,
    前記分級工程により得られた粉乳を用いて,固形乳を成形する成形工程とを含む,
    固形乳の製造方法。
  • 前記分級工程は,
    前記原料粉乳の平均粒子径が1.3倍以上3.6倍以下となるように分級する工程である,
    請求項1に記載の固形乳の製造方法。
  • 前記固形乳の原料となる粉乳は,
    遊離脂肪が全く含まれないか,又は遊離脂肪の含有量が 0.4重量%以下である,
    請求項1に記載の固形乳の製造方法。
  • 前記成型工程 は,
    前記分級工程により得られた粉乳を圧縮して固形状の粉乳圧縮物を得るための圧縮工程と,
    前記圧縮工程で得られた粉乳圧縮成形物を加湿するための加湿工程と,
    前記加湿工程で加湿された粉乳圧縮成形物を乾燥するための乾燥工程と,を含む,
    請求項1に記載の固形乳の製造方法。
  • 請求項1〜 請求項4のいずれかに記載の固形乳の製造方法によって製造された固形乳。
  • 前記分級工程を経ない以外は,同様に製造された未分級の粉乳を用いた以外は同一の条件で製造された固形乳の表面に存在する細孔面積に比べて,
    表面に存在する細孔面積が,1.6倍以上3.3倍以下であり,
    ここで,前記の細孔面積は,前記の固形乳の表面1mm四方において細孔面積の大きいものを3つ選択し,これらの細孔面積の平均値を意味する,
    請求項5に記載の固形乳。
  • 说明书全文

    本出願は日本の出願(特願2008−335155)に基づいて,優先権を主張している。 これを参照することにより,全体が本明細書に取り込まれている。

    本発明は,粒子径の大きな粉乳を用いることで,に対する溶解性に優れた固形乳を製造する方法に関する。

    特許4062357号公報(下記特許文献1)には,均質な粉乳を得た後,固形乳を製造する方法が開示されている。 具体的には,同公報では,所定量の遊離脂肪を含む粉乳を用い,篩過工程により粒径が大きな粉乳を除去し,整粒した粉乳を用いて固形乳を得ている(同公報の3.1.6.篩過工程の欄を参照)。 一方,固形乳は,粉乳と比較すると,表面積が少なく,空隙率が小さいため,固形乳は,一般的に粉乳に比べて水に対する溶解性が劣る。 また,同公報に記載の方法は,基本的には,遊離脂肪又は脂肪含有率が少ない場合には不適とされている。

    特許4062357号公報

    本発明は,硬度を維持しつつ,水に対する溶解性(速溶性)に優れた固形乳を製造する方法を提供することを目的とする。

    本発明は,特に遊離脂肪又は脂肪含有率が少なく,成型が困難な粉乳を用いても,硬度を維持しつつ,水に対する溶解性に優れた固形乳を製造する方法を提供することを目的とする。

    上記のとおり,従来技術では固形乳を均質なものとするため,篩分けによって篩いを通過した粒子径が小さいものを用いて固形乳を製造していた。 本発明は基本的に,従来技術では篩い分けされており,固形乳の製造に用いられなかった粒子径の大きな粉乳を,あえて用いることで,硬度を維持しつつ,水に対する溶解性に優れた固形乳を得ることができるという知見に基づくものである。

    本発明の第1の側面は,固形乳の製造方法に関する。 この固形乳の製造方法は,分級工程と固形乳を成形する成形工程とを含む。 分級工程は,固形乳の原料となる粉乳を分級することによって,所定の粒子径よりも大きい粒子径を有する粉乳を得るための工程である。 成型工程は,たとえば圧縮成形工程と硬化工程とを含む。 圧縮成形工程は,分級工程で得られた粉乳を圧縮成形して,粉乳圧縮成形物を得るための工程である。 また,加湿工程と乾燥工程は,圧縮成形工程で得られた粉乳圧縮成形物を加湿した後に,乾燥させることで,粉乳圧縮成形物を硬化させて,固形乳を得るための工程である。

    本発明の固形乳の製造方法の好ましい態様は,分級工程において,目開き200μm以上700μm以下の篩を用いるものである。 すなわち,本態様では,所定の大きさの目開きを有する篩を用いて,粉乳を分類し,篩上に残った粒子径の大きい粉乳を,あえて用いる。 実施例1により実証されたとおり,このような方法を採用することで,製品の収率や歩留まりは下がるけれども,硬度や溶解性に優れた固形乳を得ることができる。

    本発明の固形乳の製造方法の好ましい態様は,分級工程において,固形乳の原料となる粉乳の平均粒子径が1.3倍以上3.6倍以下となるように分級するものである。 実施例1により実証されたとおり,このような方法を採用することで,製品の収率や歩留まりは下がるけれども,硬度や溶解性に優れた固形乳を得ることができる。 なお,「平均粒子径」は,後述する試験例により定義されるとおりである。

    本発明の固形乳の製造方法の好ましい態様は,固形乳の原料となる粉乳には遊離脂肪が全く含まれないか,又は遊離脂肪の含有率が0.5重量%以下である固形乳の製造方法である。 この場合,脂肪含有率が全く含まれないか,又は5重量%以下である粉乳を用いることが好ましい。

    後述する実施例2及び実施例3により実証されたとおり,本発明の固形乳の製造方法では,特に粉乳に含まれる遊離脂肪が少ない場合において得られる固形乳の硬度や溶解性を向上させることができる。 なお,上記の各態様では,適宜組み合わせて用いることができる。

    本発明では,粉乳として,遊離脂肪をたとえば0.5重量%〜4重量%,好ましくは0.5重量%〜3重量%となるように含んだものを用いてもよい。 この場合,脂肪含有率として5重量%〜70重量%となるように含んだものを用いてもよい。 遊離脂肪が多い粉乳を用いることにより,粉乳中の遊離脂肪を滑沢剤や結着材として機能させることができる。

    本発明の第2の側面は,固形乳に関する。 具体的には,先に説明した,いずれかの固形乳の製造方法によって製造された固形乳に関する。

    本発明の固形乳の好ましい態様は,前記の分級工程を経ない以外は同様に製造された,未分級の粉乳を用いた以外は同一の条件で製造された固形乳の表面に存在する細孔面積に比べて,表面に存在する細孔面積が,1.6倍以上3.3倍以下である固形乳に関する。 ここで細孔面積は,前記の固形乳の表面1mm四方において細孔面積の大きいものを3つ選択し,これらの細孔面積の平均値を意味する。 実施例1により実証されたとおり,細孔面積が上記の範囲となるように固形乳を得ることで,製品の収率や歩留まりは下がるけれども,硬度や溶解性に優れた固形乳を得ることができる。

    本発明によれば,硬度を維持しつつ,水に対する溶解性に優れた固形乳を製造する方法を提供することができる。

    本発明によれば,特に遊離脂肪が少なく,成型が困難な粉乳を用いても,硬度を維持しつつ,水に対する溶解性に優れた固形乳を製造する方法を提供することができる。

    図1は,本発明の固形乳製造工程を説明するためのフローチャートである。

    図2は,粉乳製造工程を説明するためのフローチャートである。

    図3Aは,未分級の粉乳を用いて製造された固形乳の表面を示す図面に替わる写真を示す。 図3Bは,分級後の粉乳を用いて製造された固形乳の表面を示す図面に替わる写真を示す。

    図4は,篩の目開きと固形乳表面の平均細孔面積,および,篩の目開きと溶解性との関係を示す図面に替わるグラフである。

    図5は,篩の目開きと篩上の分級粉の収率との関係を示す図面に替わるグラフである。

    図6は,固形乳表面の平均細孔面積(第1試験法の結果)と溶解性との関係を示す図面に替わるグラフである。

    図7は,実施例4における溶解性試験の各種条件におけるスコアを示す図面に替わるグラフである。

    以下,本発明を実施するための最良の形態について説明する。 しかしながら,以下で説明する形態は,あくまで例示であって,当業者にとって自明な範囲で適宜修正することができる。 図1は,本発明の固形乳の製造方法を説明するためのフローチャートである。 各図中のSは,製造工程(ステップ)を示す。

    固形乳の製造方法は,概略的には,水分を含む液体状の乳・調製乳(液状乳)から固体状の粉乳を製造し,その粉乳から固形乳を製造するものである。 固形乳の製造方法の例は,図1に例示されているように,粉乳製造工程(S100)と,分級工程(S120)と,圧縮成形工程(S130)と,加湿工程(S140)と,乾燥工程(S160)とを含んでいる。

    粉乳製造工程(S100)では,液状乳から粉乳を製造する。 粉乳の原料となる液状乳は,少なくとも乳成分(たとえば乳の栄養成分)を含んでおり,たとえば液状乳の水分含有率として,40重量%〜95重量%があげられる。 一方,液状乳から調製された粉乳では,たとえば水分含有率として,1重量%〜4重量%があげられる。 粉乳に含まれる水分が多いと,保存性が悪くなり,風味の劣化や外観の変色が進行しやくなるためである。 なお,本工程の詳細については,図2を用いて後述する。

    分級工程(S120)は,粉乳を粒子径毎に分類するための工程である。 本発明においては分級することで,所定の粒子径よりも大きい粉乳を得る。 分級工程(S120)は,粉乳製造工程(S100)で得られた粉乳を粒子径毎に分類することで,この粉乳から必要な粒子径の範囲にある粉乳を抽出(選抜)する工程である。 粉乳を粒子径毎に分類するためには,たとえばすべての粉乳を目開きの異なる複数の篩に配置や通過させればよい(篩過)。 具体的には,すべての粉乳を目開きの大きい篩上に配置することで,この篩の目開きよりも小さな粒子径の粉乳は篩下に通過し,この篩の目開きよりも大きな粒子径の粉乳は篩上に残ることとなる。 このようにして,篩下に通過した小さい粉乳を取り除く。 これにより,篩上には,所定の粒子径よりも大きい粒子径を有する粉乳が残ることとなる。 したがって,粉乳の平均粒子径が分級により大きくなる。 なお,本工程において,さらに,上記の篩の目開きよりも大きい目開きの篩を用いることで,前記で得られた粉乳から,粒子径が大きすぎる粉乳(固まり粉,凝塊など)を取り除いてもよい。

    なお,本態様では,噴霧乾燥工程で得られた粉乳を分級をしたが,予め製造された粉乳(たとえば市販の粉乳)を分級してもよい。 また,分級工程(S120)の後に,必要に応じて,充填工程を行ってもよい。 この充填工程では,粉乳を袋や缶などに充填する。 これにより,粉乳の運搬が容易になる。

    圧縮成形工程(S130)は,粉乳の製造方法(S100)で製造され,分級された粉乳を比較的低い圧縮圧で圧縮成形(たとえば打錠)し,固形状の粉乳圧縮成形物を得るための工程である。 これにより,この粉乳圧縮成形物では,水(溶媒)が侵入できる多数の空隙が確保されながら,後続の工程へ移行できる程度の保形性を維持できることとなる。 すなわち,この粉乳圧縮成形物の保形性が悪ければ,後続の工程において,圧縮成形した形状を保てなくなる可能性がある。 そして,この粉乳圧縮成形物の空隙率は空隙の数と大きさによって定まり,この空隙率は固形乳の溶解性と密接に関係している。

    圧縮成形工程における原料として,たとえば粉乳製造工程(S100)で製造された粉乳のみを用い,添加剤を実質的に添加しないものを用いることができる。 添加剤とは,結合剤,崩壊剤,滑沢剤,膨張剤などを意味し,ここでいう添加剤から,栄養成分は除かれる。 ただし,固形乳の栄養成分に影響しない添加量として,たとえば0.5重量%程度であれば,粉乳の原料として添加剤を用いてもよい。 このような場合,粉乳に遊離脂肪として,たとえば0.5重量%〜4重量%となるように含んだものを用いてもよい。 これにより,粉乳中の遊離脂肪を滑沢剤や糊のような役割として機能させることができる。

    圧縮成形工程において,粉乳から固形状の粉乳圧縮成形物を得るためには,圧縮手段を用いる。 そのような圧縮手段として,打錠機,圧縮試験装置などの加圧成形機があげられる。 打錠機は粉乳(粉体)を入れる型となる臼と,臼に向かって打ち付け可能な杵とを備えている。 そして,臼(型)に粉乳を入れて,杵を打ち付ければ,粉乳に圧縮圧力が加わり,粉乳圧縮成形物を得ることができる。 なお,圧縮成形工程において,粉乳の圧縮作業を連続的に行うことが好ましい。

    圧縮成形工程において,環境の温度は特に限定されず,たとえば室温でも良く,具体的には,環境の温度として,10℃〜30℃があげられる。 このとき,環境の湿度として,たとえば30%RH〜50%RHがあげられる。 そして,圧縮圧力として,たとえば1MPa〜30MPa(好ましくは1MPa〜20MPa)があげられる。 本態様では,特に粉乳を固形化させる際に,圧縮圧力を1MPa〜30MPaの範囲内で調整することによって,空隙率が30%〜60%の範囲内となるように制御するとともに,粉乳圧縮成形物の硬度が6N〜22Nの範囲内となるように制御することが好ましい。 これにより,溶解性と利便性(扱いやすさ)を兼ね備えた,実用性の高い固形乳を製造することができる。 なお,粉乳圧縮成形物の硬度として,少なくとも後続の加湿工程や乾燥工程で崩れない(型崩れしない)ような硬度(たとえば4N)が確保されるべきである。

    加湿工程(S140)は,圧縮成形工程(S130)で得られた粉乳圧縮成形物を加湿するための工程である。 粉乳圧縮成形物を加湿すると,粉乳圧縮成形物の表面には,タック(べとつき)が生じる。 その結果,粉乳圧縮成形物の表面近傍の粉体粒子の一部が液状やゲル状となり,相互に架橋することとなる。 そして,この状態で乾燥すると,粉乳圧縮成形物(固形乳)の表面近傍の強度を内部の強度よりも高めることができる。 本態様では,高湿度の環境下に置く時間(加湿時間)を調整することで,架橋の程度(拡がり具合)を調整し,これにより,加湿工程前の粉乳圧縮成形物(未硬化の固形乳)の硬度(たとえば6N〜22N)を,固形乳として必要な目的の硬度(たとえば40N)にまで高めることができる。 ただし,加湿時間の調整によって高めることができる硬度の範囲(幅)は限られている。 すなわち,圧縮成形後の粉乳圧縮成形物を加湿するため,ベルトコンベアーなどで運搬する際に,粉乳圧縮成形物の硬度が十分でないと,固形乳の形状を保てなくなる。 また,圧縮成形時に粉乳圧縮成形物の硬度が十分すぎると,空隙率が小さく,溶解性に乏しい固形乳しか得られなくなる。 このため,加湿工程前の粉乳圧縮成形物(未硬化の固形乳)の硬度が十分に高くなり,かつ固形乳の溶解性を十分に保てるように,圧縮成形されることが好ましい。

    加湿工程において,粉乳圧縮成形物の加湿方法は特に限定されず,たとえば粉乳圧縮成形物を高湿度の環境下に置く方法,粉乳圧縮成形物に対して水などを直接噴霧する方法,粉乳圧縮成形物に対して蒸気を吹き付ける方法などがあげられる。 粉乳圧縮成形物を加湿するためには,加湿手段を用いるが,そのような加湿手段としては,高湿度室,スプレー,スチームなどがあげられる。

    ここで,粉乳圧縮成形物を高湿度の環境下に置く場合,環境の湿度として,たとえば60%RH〜100%RHの範囲内があげられる。 そして,加湿時間は,例えば5秒〜1時間であり,高湿度環境における温度は,たとえば30℃〜100℃である。

    加湿工程において,粉乳圧縮成形物に加えられる水分量(以下,「加湿量」ともいう)は,適宜調整すればよいが,加湿量として,圧縮成形工程後の粉乳圧縮成形物の質量の0.5重量%〜3重量%が好ましい。 加湿量を0.5重量%よりも少なくすると,固形乳に十分な硬度(錠剤硬度)を与えることができず,一方,加湿量を3重量%以上にすると,粉乳圧縮成形物が過剰に液状やゲル状となって溶解し,圧縮成形した形状から変形したり,運搬中にベルトコンベアーなどの装置へ付着したりすることとなる。

    乾燥工程(S160)は,加湿工程(S140)で加湿された粉乳圧縮成形物を乾燥させるための工程である。 これにより,粉乳圧縮成形物の表面タック(べとつき)がなくなり,固形乳を製品として扱うことができるようになる。 つまり,加湿工程と乾燥工程は,圧縮成形後の粉乳圧縮成形物(固形乳)の硬度を高めて,固形乳を製品として必要な品質に調整する工程に相当する。

    乾燥工程において,粉乳圧縮成形物の乾燥方法は特に限定されず,加湿工程を経た粉乳圧縮成形物を乾燥させることができる公知の方法を採用でき,たとえば,低湿度・高温度条件下に置く方法,乾燥空気・高温乾燥空気を接触させる方法などがあげられる。

    低湿度・高温度の条件下に置く場合,湿度として,たとえば0%RH〜30%RHがあげられる。 このように,できるだけ湿度を低く設定することが好ましい。 このとき,温度として,たとえば20℃〜150℃があげられる。 そして,乾燥時間として,たとえば0.2分〜2時間があげられる。

    ところで,固形乳に含まれる水分が多いと,保存性が悪くなり,風味の劣化や外観の変色が進行しやすくなる。 したがって,乾燥工程において,乾燥温度や乾燥時間などの条件を制御することによって,固形乳の水分含有率を,原料として用いる粉乳の水分含有率の前後1%以内に制御(調整)することが好ましい。

    このようにして製造された固形乳は一般的に,温水に溶かして,飲用に供される。 具体的には,蓋のできる容器に,温水を注いだ後に,固形乳を必要な個数で投入するか,固形乳を投入した後に温水を注ぐ。 そして,好ましくは容器を軽く振ることにより,固形乳を速く溶解させ,適温の状態で飲用する。 また,好ましくは1個〜数個の固形乳(より好ましくは1個の固形乳)を温水に溶かせば,1回の飲用に必要な分量の液状乳となるように,固形乳の体積として,たとえば1cm 3 〜50cm 3となるように調整しても良い。 なお,圧縮成形工程で用いる粉乳の分量を変更することで,固形乳の体積を調整できる。

    ここで,固形乳の詳細について説明する。 固形乳の成分は基本的には,原料となる粉乳の成分と同様である。 固形乳の成分として,脂肪,たん白質,糖質,ミネラル,ビタミン,水分などがあげられる。

    固形乳には,空隙(たとえば細孔)が多数存在している。 これら複数の空隙は,固形乳において一様に分散(分布)していることが好ましく,これにより,固形乳を偏りなく溶解させることができ,固形乳の溶解性を高めることができる。 ここで,空隙が大きい(広い)ほど,水などの溶媒の侵入が容易となるため,固形乳を速く溶解させることができる。 一方,空隙が大きすぎると,固形乳の硬度が弱くなるか,固形乳の表面が粗くなる。 そこで,各空隙の寸法(大きさ)として,たとえば10μm〜500μmがあげられる。 なお,各空隙の寸法(大きさ)や多数の空隙の分布は,たとえば固形乳の表面及び断面を,走査型電子顕微鏡を用いて観察することなど公知の手段により測定することができる。 このような測定によって,固形乳の空隙率を定めることができる。

    本態様において製造される固形乳の空隙率として,たとえば30%〜60%があげられる。 空隙率が大きいほど,溶解性は高まるが,硬度(強度)が弱くなる。 また,空隙率が小さいと,溶解性が悪くなる。 なお,固形乳の空隙率は,たとえば圧縮成形工程において,圧縮圧力を調整することによって制御することができる。 具体的には,圧縮圧力を小さくすることで,固形乳の空隙率は大きくなり,圧縮圧力を大きくすることで,固形乳の空隙率は小さくなる。 このように固形乳の空隙率を制御できるため,固形乳の空隙率は,30%〜60%の範囲内に限られることはなく,その用途などに応じて適宜調整される。 これらのような空隙率の範囲に調整すれば,後述のとおり,オイルオフなどの問題を解決した良好な固形乳を得ることができる。

    固形乳の形状は,圧縮成形に用いる型(打錠機の臼)の形状によって定まるが,ある程度の寸法(大きさ)をもつ形状であれば,特に限定されない。 固形乳の形状として,円柱状,楕円柱状,立方体状,直方体状,板状,球状,多柱状,多角錐状,多角錐台状,及び多面体状などがあげられ,成形の簡便さや運搬の便利さなどの観点から,円柱状,楕円柱状,直方体状が好ましい。 なお,固形乳では,運搬する際などで壊れる事態を防止するため,角部分に面取りされていることが好ましい。

    固形乳は,水などの溶媒に対して,ある程度の溶解性を持っている必要がある。 ここで,溶解性として,たとえば溶質としての固形乳と,溶媒としての水とを所定の濃度となるように用意したときに,固形乳が完全に溶けるまでの時間や,所定時間における溶け残りの量(実施例で後述する溶解残渣の質量)で評価することができる。

    また,固形乳では,運搬する際などに壊れる事態を極力避けるため,ある程度の硬度(強度)を持つ必要がある。 このとき,固形乳の硬度として,好ましくは31N以上,より好ましくは40N以上である。 一方,固形乳では,硬度が高すぎると,溶解性が悪くなるので,硬度の上限として,たとえば300Nであり,好ましくは60Nである。 なお,硬度は公知の方法で測定すればよい。

    本発明の固形乳の好ましいものは,分級工程を経ない以外は同様に製造された,未分級の粉乳を用いた以外は同一の条件で製造された固形乳の表面に存在する細孔面積に比べて,表面に存在する細孔面積が,1.2倍以上2.5倍以下(好ましくは1.8倍以上2.5倍以下,または2倍以上2.5倍以下)である固形乳である。 実施例1により実証されたとおり,細孔面積が上記の範囲となるように固形乳を得ることで,製品の収率や歩留まりは下がるけれども,硬度や溶解性に優れた固形乳を得ることができる。

    続いて,粉乳製造工程について詳細に説明する。 図2は,図1のS100に示す粉乳製造工程を詳細に説明するためのフローチャートである。 粉乳製造工程は,本発明の粉乳の製造方法に対応するものであり,概略的には,水分を含む液状乳(原料乳)を調製し,この液状乳を濃縮して,乾燥させることで,上記の圧縮成形工程(S130)で用いる粉乳を製造するものである。 粉乳製造工程は,図2に例示されているように,原料乳調製工程(S102)と,清澄化工程(S104)と,殺菌工程(S106)と,均質化工程(S108)と,濃縮工程(S110)と,気体分散工程(S112)と,噴霧乾燥工程(S114)と,を含む。

    原料乳調製工程(S102)は,粉乳の原料となる液状乳を調製する工程である。 したがって,粉乳の原料として,少なくとも乳成分(たとえば牛乳の成分)が含まれ,たとえば水分含有率として,40重量%〜95重量%があげられる。 粉乳として調製粉乳を製造する場合,上記の液状乳には,粉乳の原料として,後述する栄養成分が添加されている。 なお,粉乳の原料として,生乳(全脂乳),脱脂乳,クリームなどの乳成分のみであってもよく,この場合,必要に応じて,原料乳調製工程を省略してもよい。

    上記の粉乳の原料となる乳成分として,生乳由来のものがあげられ,具体的には,牛(ホルスタイン,ジャージー種その他),山羊,羊,水牛などの乳由来のものがあげられる。 なお,これらの乳には,脂肪分が含まれている。 そこで,本工程において,乳の脂肪分の一部又は全部を遠心分離等などにより取り除いてもよい。 これにより,原料乳(液状乳)の脂肪含有率を調節することができる。

    上記粉乳の原料となる栄養成分としては,脂肪,たん白質,糖質,ミネラル,ビタミンなどがあげられ,これらのうちの一種以上,好ましくは二種以上,より好ましくは全成分が用いられる。 これにより,栄養の補給や強化に優れた粉乳や固形乳を製造することができる。

    粉乳の原料となり得るたん白質として,乳たん白質及び乳たん白質分画物,動物性たん白質,植物性たん白質,それらのたん白質を酵素などにより種々の鎖長に分解したペプチド,アミノ酸などがあげられ,これらのうちの一種以上が用いられる。 ここで,乳たん白質として,カゼイン,乳清たん白質(α−ラクトアルブミン,β−ラクトグロブリンなど),乳清たん白質濃縮物(WPC),乳清たん白質分離物(WPI)などがあげられる。 動物性たん白質として,卵たん白質があげられる。 植物性たん白質として,大豆たん白質や小麦たん白質があげられる。 アミノ酸として,タウリン,シスチン,システィン,アルギニン,グルタミンなどがあげられる。

    粉乳の原料となり得る油脂として,動物性油脂,植物性油脂,それらの分別油,水素添加油,及びエステル交換油があげられ,これらのうちの一種以上が用いられる。 ここで,動物性油脂として,乳脂肪,ラード,牛脂,魚油などがあげられる。 植物性油脂として,大豆油,ナタネ油,コーン油,ヤシ油,パーム油,パーム核油,サフラワー油,綿実油,アマニ油,MCTなどがあげられる。

    粉乳の原料となり得る糖質として,オリゴ糖,単糖類,多糖類,人工甘味料などがあげられ,これらのうちの一種以上が用いられる。 ここで,オリゴ糖として,乳糖,ショ糖,麦芽糖,ガラクトオリゴ糖,フルクトオリゴ糖,ラクチュロースなどがあげられる。 単糖類として,ブドウ糖,果糖,ガラクトースなどがあげられる。 多糖類としては,デンプン,可溶性多糖類,デキストリンなどがあげられる。

    粉乳の原料となり得るミネラル類として,ナトリウム,カリウム,カルシウム,マグネシウム,鉄,銅,亜鉛,リン,塩素などがあげられ,これらのうちの一種以上が用いられる。

    清澄化工程(S104)は,液状乳に含まれる微細な異物を除去するための工程である。 この異物を除去するためには,たとえば遠心分離機やフィルターなどを用いればよい。

    殺菌工程(S106)は,液状乳の水や乳成分などに含まれている生物を死滅させるための工程である。 液状乳の種類によって,実際に含まれていると考えられる生物が変わるため,殺菌条件(殺菌温度や保持時間)は,生物に応じて適宜設定される。

    均質化工程(S108)は,液状乳を均質化するため工程である。 具体的には,液状乳に含まれている脂肪球などの固形成分の粒子径を小さくして,それらを液状乳に一様に分散させる。 液状乳の固形成分の粒子径を小さくするためには,たとえば液状乳を加圧しながら狭い間隙を通過させればよい。

    濃縮工程(S110)は,後述の噴霧乾燥工程に先立って,液状乳を濃縮するための工程である。 濃縮条件は,液状乳の成分が過剰に変質しない範囲内で適宜設定される。 これにより,液状乳から濃縮乳を得ることができる。 このとき,濃縮乳の水分含有率として,たとえば,35重量%〜60重量%があげられ,好ましくは,40重量%〜60重量%であり,より好ましくは40重量%〜55重量%である。 このような濃縮乳を用いて,噴霧乾燥することで,固形乳を製造する際に,好ましい特質を有する粉乳を得ることができる。 なお,液状乳の水分が少ない場合や噴霧乾燥工程の対象となる液状乳の処理量が少ない場合には,本工程を省略してもよい。

    気体分散工程(S112)は,液状乳に気体を分散させるための工程である。 気体を分散させた液状乳を用いて粉乳を作成し,その粉乳を用いることにより,圧縮工程(S130)において小さな圧縮力で,粉乳を固まらせる(一体化する)ことができ,これにより,製造工程において十分な硬度を有する固形乳を得ることができる。 なお,液状乳の水分が少ない場合や噴霧乾燥工程の対象となる液状乳の処理量が少ない場合には,本工程を省略してもよい。

    噴霧乾燥工程(S114)は,液状乳中の水分を蒸発させて,粉乳(粉体)を得るための工程である。 噴霧乾燥工程も公知の工程を採用すればよい。

    上述したような工程を経ることにより,粉乳を製造することができる。 このようにして製造された粉乳は,固形乳を製造するのに適したものである。 具体的には,本発明においては,利便性(扱いやすさ)を兼ね備えた,実用性の高い粉乳圧縮成形物や固形乳を製造することができる粉乳である。 この優れた圧縮成形性を利用して,上述した圧縮成形工程(S130)において圧縮圧力を調整すれば,そこから製造される粉乳圧縮成形物や固形乳の空隙率の制御と,硬度の調整とが可能となる。 より具体的には,このような粉乳を圧縮成形して,粉乳圧縮成形物や固形乳を製造すると,粉乳圧縮成形物や固形乳の空隙率が高くなる。 このように空隙率の高い粉乳圧縮成形物や固形乳では,溶媒が入り込みやすいため,溶解性に優れている。 なお,圧縮成形時の圧縮圧力は,固形乳が実用的な硬度(たとえば31N〜60N)となるようにするか,又はその後の加湿工程及び乾燥工程で固形乳が実用的な硬度(たとえば,31N〜60N)となる程度にまで粉乳圧縮成形物の硬度を高めておくべきである。

    また,本態様によって製造された粉乳は,所定の粒子径よりも大きい粒子径を有する。 後述する実施例により実証されたとおり,粒子径が大きい粉乳を用いるほど,そこから製造される固形乳の細孔の寸法が大きくなる傾向にある。 そして,細孔の寸法が大きいほど,溶媒である水が固形乳に細孔に進入して固形乳全体に浸透しやすくなる。 したがって,本態様のように,全ての粉乳から所定の粒子径よりも大きい粒子径を有する粉乳を得ることで,そこから製造される固形乳の溶解性を高めることができる。

    以下,本発明について実施例を用いて具体的に説明する。 しかしながら,本発明は,以下の実施例に限定されるものではなく,当業者にとって自明な範囲で適宜修正して用いることができ,そのような発明も本発明に含まれる。

    評価・試験方法 実施例において用いられる粉乳や固形乳の物性を評価する試験方法について説明する。

    試験例1(粒子径の評価)
    粉乳の平均粒子径[μm]は,篩い分け法により,目開きが710μm,500μm,355μm,250μm,180μm,150μm,106μm,75μmの篩の各画分の重量を測定し,全重量に対する各画分の重量の割合を用いて算出した。 すなわち,本明細書においては,「平均粒子径」とは,75μm以上710μm以下の複数の篩を用いて粒子を分類し,全重量に対する各画分の重量の割合を用いて算出される粒子径を意味する。

    試験例2(空隙率の評価)
    固形乳の空隙率は以下のようにして求めた。
    空隙率[%]=[1−(W/PV)]×100
    上記の数式において,Wは固形乳や粉乳圧縮成形物の重量[g]を示し,Pはベックマン空気式密度計を用いて測定した固形分や粉乳圧縮成形物の密度[g/cm 3 ]を示し,Vはマイクロメーターで測定した厚みと,型(臼)の形状(幅及び奥行き)とから算出した固形乳や粉乳圧縮成形物の体積[cm 3 ]を示す。

    試験例3(硬度の評価)
    固形乳や粉乳圧縮成形物(未硬化の固形乳)の硬度は,岡田精工株式会社製のロードセル式錠剤硬度計(岡田精工(株)製)を用いて測定した。 この硬度計の破断端子(幅1mm)で,直方体形状をなす固形乳や粉乳圧縮成形物の短軸方向に0.5mm/sの一定速度で押し,固形乳や粉乳圧縮成形物が破断したときの荷重[N]を求めて測定した。 つまり,前述のようにして求めた荷重を,固形乳や粉乳圧縮成形物の硬度(錠剤硬度)[N]とした。

    試験例4(溶解性の評価)
    固形乳の溶解性は,以下の2種類の第1試験方法と第2試験方法とで調べて両者の結果から総合的に評価した。

    第1試験方法は,固形乳の溶解性を視覚的に調べるものである。 具体的には,1個が5.6gの固形乳を1個又は複数個で,ほ乳瓶に投入し,続いて,所定量の50℃の湯水(試験液)をほ乳瓶に注ぎ,この状態のまま所定の時間で静置した。 ここで,ほ乳瓶に投入する固形乳の数と,ほ乳瓶に注ぐ湯水の重量を調整することで,ほ乳瓶の内容物における固形乳の濃度(以下,「溶質濃度」ともいう)を調整した。 本実施例では,溶質濃度を変更したり,溶質濃度が同じであっても,ほ乳瓶に投入する固形乳の個数やほ乳瓶に注ぐ湯水の重量を変更したりすることで,複数種類の試験方法で固形乳の溶解性を調べた。

    その後,ほ乳瓶に蓋をして,ほ乳瓶を所定の振騰時間で振騰した。 そして,振騰した直後に,ほ乳瓶の内容物の全量を全て角型バットにあけた。 続いて,角型バットにあけた内容物における不溶塊の有無を,目視により判断した。 また,不溶塊がある場合には,不溶塊の個数と大きさ(最も長い部分の寸法)を計測するとともに,各不溶塊を切断して,不溶塊の内部に水が染み込んでいるかどうかを,目視により判断した。 なお,不溶塊とは,試験で用意した固形乳が試験液に溶けきらなかった部分(溶け残り部分)をさす。

    そして,第1試験方法で調べた結果を以下に示す6つの場合に区分けし,区分けした6つの場合に対して,それぞれ,スコア「0」〜「5」を割り当てる。 ここで,スコアとは,固形乳の溶解性の程度を示す指標であり,スコアの数値が小さいほど,固形乳の溶解性が優れていたことを示している。

    スコア「0」:不溶塊が1つもなかった場合 スコア「1」:不溶塊が1つ以上あった場合であって,各不溶塊の大きさが5mm以下であり,かつ,その内部に水が染み込んでいた場合(各不溶塊がスラリー状又は一部が溶解状態となっている場合)
    スコア「2」:不溶塊が1つ以上あった場合であって,各不溶塊の大きさが5mm以下であり,かつ,不溶塊のうち少なくとも1つの不溶塊の内部に水が染み込んでいなかった場合 スコア「3」:不溶塊が1つ以上あった場合であって,大きさが5mmを超え10mm以下であり,かつ,内部に水が染み込んでいなかった不溶塊が少なくとも1つあった場合 スコア「4」:不溶塊が1つ以上あった場合であって,大きさが10mmを超え20mm以下であり,かつ,内部に水が染み込んでいなかった不溶塊が少なくとも1つあった場合 スコア「5」:大きさが20mm以上の不溶塊が少なくとも1つあった場合

    第2試験方法は,固形乳の溶解性を,溶解度のように定量的に調べるものである。 具体的には,固形乳を2個(11.2g),ほ乳瓶に投入し,続いて,80g(80mL)の50℃の湯水(試験液)を,ほ乳瓶に注いで,溶質濃度を14重量%とし,この状態のまま10秒間で静置した。

    その後,手で円を描くように,ほ乳瓶を比較的穏やかに(具体的には,1秒あたり4回で)回転させながら,5秒間で振騰した。 そして,5秒が経過した直後に,ほ乳瓶の内容物の全量を,質量が既知の篩に配置した。 篩としては,目開きが500μm(32メッシュ)のものを用いた。 そして,篩上にある溶解残渣の質量[g]を計測した。 具体的には,篩上の溶解残渣が篩から脱落しないように,溶解残渣と篩いの表面をふき取った後,篩と溶解残渣の総質量を計測し,この計測した総質量と,篩の質量との差を算出することで,篩上の溶解残渣の質量を求めた。 なお,この第2試験方法では,溶解残渣の質量が小さいほど,固形乳の溶解性が優れていたことを示している。

    試験例5(細孔面積の評価)
    固形乳の表面にある多数の細孔を観察するために,デジタル顕微鏡(オムロン(株)製,「FZ2シリーズ」)を用いた。 多数の細孔は,それぞれに,さまざまな形状を有することが分かった。 ここで,固形乳の表面にある細孔面積の測定について以下の2通りの試験を実施した。 第1試験法は,観察領域(1視野)800×800pixel,距離換算100pixel=0.136mmとし,シャッタースピード1/1000秒により得られた画像について,固形乳の表面にある細孔が明瞭に認識されるよう画像処理として細孔部の色範囲の指定と明度の調整を行った上で,観察領域中の細孔部に相当する画像領域の面積と細孔の個数を計測した。 視野領域内の細孔の総面積を個数で除して細孔面積の平均値を算出した。 この操作を50視野について実施し,細孔が占める総面積を画像処理により算出した。 第2試験法は,画像処理条件は第1試験法と同様の条件で,観察領域中の細孔につき,細孔面積が上位3個の細孔を選択し,これらの細孔面積の平均値を表面の細孔面積とした。

    [参考例]
    固形乳を製造するにあたり,まず粉乳を製造した。 具体的には,乳成分,たん白質,糖質,ミネラル類,ビタミン類を水に加えて混合し,さらに,必要に応じて脂肪を加えて混合することにより,粉乳の原料となる液状乳を調整した(S102)。 続いて,清澄化,殺菌,均質化,濃縮,気体分散,噴霧乾燥の各工程を経ることにより(S104〜S114),調製した液状乳から粉乳を得た。 このようにして得られた粉乳100gの成分を分析をしたところ,脂質18g,たん白質15g,糖質60g,その他7gであった。 なお,このとき(分級しない状態)の粉乳の平均粒子径は273μmであった。

    参考例で得た粉乳を各種の目開きの篩(篩目開き150,180,250,355,425,500及び600μm)を用いて分級し,その“篩上の分級粉”又は“分級していない粉乳そのもの(未分級粉)”を原料として,固形乳を製造した。

    具体的に説明すると,単発打錠機(岡田精工(株)製,「N−30E」)を用いて,参考例で得た粉乳を,外形で幅2.4cm,奥行き3.1cmの直方体となるように圧縮成形した(S130)。 ここで,粉乳の使用量は,加湿工程及び乾燥工程を経た後に得られる固形乳の質量が5.6gとなるように調整した。 このとき,圧縮成形時の圧縮圧力を,圧縮成形後に得られる粉乳圧縮成形物の空隙率が46%〜47%となるように調整したところ,粉乳圧縮成形物の厚みは約1.3cmとなった。

    加湿工程(S140)では,コンビオーブン(Combi oven,(株)フジマック製,「FCCM6」)を加湿機として用いた。 このとき,加湿機内の室温を65℃,湿度を100%RHに維持し,それらの条件下に,粉乳圧縮成形物を45秒間(加湿時間)で放置した。 乾燥工程(S160)では,空気恒温槽(ヤマト科学(株)製,「DK600」)を乾燥機として用いて,当該粉乳圧縮成形物を95℃,5分間で乾燥した。 このようにして,固形乳を得て,それらの固形乳を試験例1〜5により評価した。 その結果を表1に示す。

    図3Aは,未分級の粉乳を用いて製造された固形乳の表面を示す図面に替わる写真を示す。 図3Bは,分級後の粉乳を用いて製造された固形乳の表面を示す図面に替わる写真を示す。 図4は,篩の目開きと固形乳表面の平均細孔面積,および,篩の目開きと溶解性との関係(固形乳の2個を15秒間で溶解させた際のスコア)を示す。 図5は,篩の目開きと篩上の分級粉の収率との関係を示す。 図6は,固形乳の表面の平均細孔面積と溶解性との関係(固形乳の2個を15秒間で溶解させた際のスコア)を示す。

    図3Aと図3Bとを比較すると,分級することで細孔が大きな固形乳を得ることがわかった。 表1から,分級の程度にかかわらず,固形乳の空隙率はほぼ一定であることが分かった。 また,表1と図4から,目開きの拡大とともに,固形乳表面の平均細孔面積が増大し,これに合わせて溶解性も向上することが分かった。 また,表1から,固形乳表面の平均細孔面積は,第1試験法で目開きの拡大とともに1.2倍〜2.5倍に増大し,第2試験法では1.6倍〜3.3倍に増大することが分かった。 一方,表1から,目開きを変化させても,得られた固形乳の硬度にはほとんど影響しないことが分かった。 さらに,表1から,空隙率が一定であっても,目開きの違い(粒子径の違い)で溶解性に大きな変化が生じうることが分かった。

    固形乳の2個を15秒間で溶解させた際のスコアについて,目開きが250μmの篩上の分級粉を用いて固形乳を得たものの溶解性のスコアは「1」であり,未分級粉のスコアの「2」と比較すると,溶解性が改善されることが分かった。 一方,目開きが180μmの篩によれば,その溶解性のスコアは未分級粉と同等であった。 したがって,粉乳を目開きが200μm以上の篩により分級して,その篩上の分級粉を固形乳の原料として用いることにより,固形乳で所定の硬度を保ちつつ,溶解性を向上させることができると考えられる。 一方,目開きが600μmの篩いでは,篩上の残留する粉乳の収率が2%となる。 このため,目開きを大きくすると,歩留まりが低下する。 よって,目開きが200μm以上700μm以下の篩を用いて分級することが好ましく,目開きが300μm以上500μm以下の篩や,目開きが300μm以上400μm以下の篩を用いて分級してもよいといえる。

    換言すれば,未分級粉に比較して,平均粒子径が1.3倍以上3.6倍以下(好ましくは,1.5倍以上3.0倍以下)となるように分級した粉乳を用いて,固形乳を得ることで,硬度や溶解性に優れた固形乳を得ることができるといえる。

    また,表1から,未分級粉,目開きが150μm及び目開きが180μmの篩上の分級粉を原料とする固形乳の間には,表面の細孔面積の平均値において,差はほとんどないことが分かった。 さらに,使用する篩の目開きを拡大することで,表面の細孔面積の平均値が拡大することが分かった。 すなわち,表1から,未分級粉を用いて製造した固形乳に比較して,固形乳の表面の細孔面積の平均値が1.2倍以上2.5倍以下(好ましくは1.5倍以上2.2倍以下)となるように,粉乳を分級することで,硬度や溶解性に優れた固形乳を得ることができるといえる。

    なお,表1から,未分級粉を用いて製造した固形乳の不溶物は,内部に水が浸入しない状態の塊であった。 これは,表面から内部への水の浸入速度が遅く,固形乳の崩壊が円滑でないためと推測される。

    実施例2では,遊離脂肪,脂肪含量の異なる粉乳を用いて製造した固形乳について実験した。 粉乳A及び粉乳Bの組成も含めて,その結果を表2に示す。

    分級には目開きが355μmの篩を用いた。 表2に示すとおり,たとえば粉乳Aにおいては,未分級粉を用いて製造した固形乳の溶解性試験の溶解残渣は5.9gであるのに対して,分級した粉乳を用いて製造した固形乳の溶解残渣は3.4gであった。 さらに,溶解性試験では,たとえば50℃の120mlの水に,固形乳を5個溶解した場合,15秒間静置した後のスコアは,未分級粉を用いて製造した固形乳が「3」であるのに対して,分級した粉乳を用いて製造した固形乳が「2」であった。 このように,粉乳Aでは,未分級粉を用いて固形乳を製造した場合に比較して,分級した粉乳を用いた固形乳を製造した場合に,溶解性が極めて向上することが分かった。

    また,粉乳Bでは,未分級粉を用いて固形乳を製造しても,比較的良好な溶解性を示していた。 すなわち,本実施例によれば,遊離脂肪が1重量%以下である場合や,たん白質,特にカゼインたん白質が7重量%以上の場合に,本発明の固形乳の製造方法を好ましく用いることができることが分かった。

    実施例3では,実施例2の粉乳Aや粉乳Bに比較して,脂肪及び遊離脂肪の含有量が少なく,たん白質,特にカゼインたん白質の含有量が多い粉乳を用いて,本発明の製造方法の有効性を評価した。 その結果を表3に示す。

    表3に示すとおり,50℃の80mlの水に,固形乳の2個を溶解させた場合,120秒後のスコアは,未分級粉を用いた固形乳が「2」であるのに対して,分級した粉乳を用いた固形乳が「0」であった。 このように,脂肪及び遊離脂肪の含有量が少なく,たん白質,特にカゼインたん白質の含有量が多い粉乳を用いた場合,本発明の製造方法を用いることによる効果が顕著になることが分かった。

    すなわち,本実施例によれば,遊離脂肪が0.1重量%以下である場合(好ましくは,遊離脂肪を実質的に含まない場合)や,カゼインたん白質が12重量%以上の場合に,本発明の固形乳の製造方法を好ましく用いることができることが分かった。 ところで,特許第4062357号公報(特許文献1)では,遊離脂肪が潤滑剤や糊のような役割を果たして,固形乳の圧縮成形性を向上させている。 そして,脂肪及び遊離脂肪が少ない粉乳を用いて固形乳を製造する場合,硬度を保ちつつ溶解性を高めることは困難であると考えられていた。 しかしながら,本発明によれば,このように固形乳を製造することが困難であると考えられていた粉乳を用いても,良好な硬度と良好な溶解性を有する固形乳を得ることができた。

    実施例4では,粒子径が小さい紛乳を用いて,固形乳を製造する場合にも,分級することで溶解性の向上に効果があることを実証した。 参考例の粉乳を目開きが250μmの篩を用いて分級し,その“篩上の分級粉”又は“分級していない粉乳そのもの(未分級粉)”を原料として,実施例1と同様の方法で固形乳を製造した。 原料に使用した粉乳と,ここで製造した固形乳を試験例1〜4により評価した。 その結果を表4に示す。 また,表4のうち,溶解性試験の各種条件のスコアを図7に示す。

    表4と図7とから,篩上の分級粉を固形乳の原料に用いると,未分級粉の場合と比較して,溶解性が向上することが分かった。 ここで使用した未分級粉の平均粒子径は196μmであり,実施例1の未分級粉の平均粒子径273μmと比較して,77μm小さい。 このように小粒子径である粉乳を用いて,固形乳を製造する場合にも,分級した粉乳を固形乳の原料とすることで,所定の硬度を保ちつつ,溶解性を向上させることができるといえる。

    本発明は,食品産業において利用されうる。

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