Solid milk, and a method of manufacturing the same

申请号 JP2012547773 申请日 2011-06-13 公开(公告)号 JP2013528046A 公开(公告)日 2013-07-08
申请人 株式会社明治; 发明人 満穂 柴田; 和光 大坪; 由式 佐竹; 和典 柏木;
摘要 【課題】 本発明は,好適な溶解性と高い強度とを有する固形乳及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の固形乳は,固形乳の表面部の粉末X線回折装置によるX線回折パターンにおいて,2θ=10〜15°の範囲でのメインピークが,2θ=10〜11°の範囲または2θ=12〜13°の範囲に存在する。 また,本発明の固形乳の製造方法は,粉乳を圧縮して固形状の粉乳圧縮物を得るための圧縮工程と,圧縮工程で得られた粉乳圧縮物を湿らせるための加湿工程と,加湿工程で加湿された粉乳圧縮物を乾燥させるための乾燥工程と,を有し,加湿工程および乾燥工程は,粉乳圧縮物の表面部12の非結晶乳糖の一部を結晶化する。
【選択図】図1
权利要求
  • 固形乳の表面部(12)の粉末X線回折装置によるX線回折パターンが,2θ=10〜11°の範囲または2θ=12〜13°の範囲に2θ=10〜15°の範囲でのメインピークが存在するX線回折パターンである,固形乳。
  • 前記2θ=10〜11°の範囲のピークは,乳糖無水物結晶に由来するピークであり,
    前記2θ=12〜13°の範囲のピークは,乳糖一水和物結晶に由来するピークである請求項1に記載の固形乳。
  • 前記2θ=10〜15°の範囲でのメインピークが,2θ=10.25〜10.75°の範囲または2θ=12.25〜12.75°の範囲に存在する請求項1に記載の固形乳。
  • 前記固形乳の表面部(12)の2θ=10〜11°の範囲のメインピークを中心として,当該メインピークの半値幅の2倍の幅の領域における積分強度と;2θ=12〜13°の範囲のメインピークを中心として,当該メインピークの半値幅の2倍の幅の領域における積分強度との和をIa,
    前記固形乳の中心部(11)の2θ=10〜11°の範囲のメインピークを中心として,当該メインピークの半値幅の2倍の幅の領域における積分強度と;2θ=12〜13°の範囲のメインピークを中心として,当該メインピークの半値幅の2倍の幅の領域における積分強度との和をIbとしたとき,
    Ia/Ibが2.5以上である請求項1に記載の固形乳。
  • 前記Ia/Ibが2.5以上15以下である請求項4に記載の固形乳。
  • 前記固形乳の表面部(12)に含まれる結晶乳糖類の含有量が,前記固形乳の中心部(11)に含まれる結晶乳糖類の含有量より多い請求項1に記載の固形乳。
  • 前記固形乳の表面部(12)に含まれる結晶乳糖類の含有量が,前記固形乳の中心部(11)に含まれる結晶乳糖類の含有量より,5重量%以上多い請求項1に記載の固形乳。
  • 前記固形乳の表面部(12)に含まれる結晶乳糖類と非結晶乳糖との重量比が25:75〜90:10であり,
    前記固形乳の中心部(11)には,結晶乳糖類が全く存在しないか,前記固形乳の中心部(11)に含まれる結晶乳糖類と非結晶乳糖との重量比が10:90以下である請求項1に記載の固形乳。
  • 前記固形乳は表面に露出した0.2mm以上の厚さの硬化層を有し,
    前記硬化層は,結晶乳糖類を10重量%以上含有する層である,請求項1に記載の固形乳。
  • 体積が1cm 〜50cm である請求項1に記載の固形乳。
  • 直方体形状をなす固形乳の短軸方向に荷重をかけて破断するときの力が,30N〜300Nである請求項1に記載の固形乳。
  • 粉乳のみを原料とする請求項1に記載の固形乳。
  • 請求項1に記載の固形乳であって,
    前記固形乳を水に溶解させた際の水の容積増加量が9.5mL以上10.5mL以下又は19.5mL以上20.5mL以下である固形乳。
  • 粉乳を圧縮して固形状の粉乳圧縮物を得るための圧縮工程と,
    前記圧縮工程で得られた粉乳圧縮物を湿らせるための加湿工程と,
    前記加湿工程で加湿された粉乳圧縮物を乾燥させるための乾燥工程と,を有し,
    前記加湿工程および前記乾燥工程は,前記粉乳圧縮物の表面部(12)の非結晶乳糖の一部を結晶化する固形乳の製造方法。
  • 前記固形乳は,
    表面部(12)の粉末X線回折装置によるX線回折パターンが,2θ=10〜11°の範囲または2θ=12〜13°の範囲に2θ=10〜15°の範囲でのメインピークが存在するX線回折パターンである請求項14に記載の固形乳の製造方法。
  • 前記加湿工程は,前記粉乳圧縮物を湿度60%RH〜100%RH環境下に5秒〜1時間置き,
    前記乾燥工程は,前記粉乳圧縮物を湿度0%RH〜30%RH環境下に0.2分〜2時間置く請求項14に記載の固形乳の製造方法。
  • 前記粉乳は,乳糖を30重量%以上含有する請求項14に記載の固形乳の製造方法。
  • 前記粉乳は,非結晶乳糖を20重量%以上含有する請求項14に記載の固形乳の製造方法。
  • 前記粉乳は,結晶乳糖類を全く含まないか,10重量%以下の量の結晶乳糖類を含有する請求項14に記載の固形乳の製造方法。
  • 前記粉乳は,結晶乳糖類を0.5〜10重量%含有する請求項14に記載の固形乳の製造方法。
  • 前記粉乳は,結晶乳糖類の粉末を添加したものである請求項14に記載の固形乳の製造方法。
  • 前記粉乳は,原料顆粒を加湿および乾燥することで結晶乳糖類を混在したものである請求項14に記載の固形乳の製造方法。
  • 前記粉乳は,噴霧乾燥前の濃縮乳を冷却することで結晶乳糖類を混在したものである請求項14に記載の固形乳の製造方法。
  • 说明书全文

    本発明は,温に溶かして飲用する固形乳,及びその製造方法に関する。 より詳しく説明すると,本発明は,好適な溶解性と高い強度とを有する固形乳,及びその製造方法に関する。

    粉乳は,例えば乳から生物の成育に必要な水分を取り除くことによって,保存性を高めた食品である。 水分を除去すると容積及び重量が減るので,粉乳を容易に輸送できる。 このように粉乳は,保存性及び輸送の面で利点が多い。 粉乳は,粉乳同士の間に隙間があるので,粉乳の空隙率は,一般に60%〜70%であり,温水に容易に溶ける。 しかし,粉乳は,温水に溶かす際に,その都度適量を計量しなければならない。 また,粉乳を計量する際や,粉乳を取り出す際などに,粉乳が散らかることがある。 そこで,粉乳を固形状態にした固形乳が提案されている(特許文献1,及び特許文献2参照)。 しかし,粉乳を実際に固形状態にし,強度と溶解性とを両立させることは,容易ではなかった。 つまり,粉乳を固形状態にしても,容易に壊れ,扱いにくかった。 さらに固形乳は,粉乳に比べ表面積が少ないので,温水に溶けにくかった。

    特許文献3には,粉乳を圧縮成形した後,加湿及び乾燥処理する固形乳の製造方法が開示されている。 この製造方法により製造された固形乳は,一定範囲の空隙率と遊離脂肪を有し,充分な強度と溶解性と兼ね備えるとされている。 この公報に開示された固形乳は,それ以前の固形乳と比べると,大変優れたものである。 しかしながら,この固形乳も溶解性と硬度の観点から,さらなる改良が望まれた。

    一方,医薬の分野においては,口の中で容易に溶ける「口腔内速崩壊錠」が開発されている。

    例えば,特許文献4には,製剤強度の優れた口腔内速崩壊性製剤を,通常の圧縮成形機を用い,少ない製造工程で製造するために,薬物,水溶性賦形剤および非晶質糖類を圧縮成形後,エージングする技術が開示されている。 また,特許文献5には,高湿度下でも取り扱いに困らない錠剤強度を持ち,かつ口腔内で速やかに崩壊する優れた口腔内崩壊錠並びに前記口腔内崩壊錠の容易で且つ効率的な製造法に関し,非晶質乳糖約5〜約40重量%を含有する低圧成形された錠剤を相対湿度約60〜約90%の湿度下に放置し,非晶質乳糖を結晶乳糖類に変換させる技術が開示されている。 またさらに,特許文献6には,速やかな崩壊性及び溶解性を有する成形性の低い糖類を成形性の高い糖類で造粒したものを成形することで,単に口に含むだけで,口腔内で速やかな崩壊性,溶解性並びに製造工程及び流通過程において剤型が壊れない適度の硬度を有する圧縮成形物を製造できる技術が開示されている。 成形性の低い糖類には,乳糖やマンニトールが採用され,成形性の高い糖類には,マルトースやマルチトールが採用される。

    しかしながら,これら技術は医薬品に関するものであって,本発明の固形乳とは異なる。 一般的に医薬の組成においては有効成分の割合が少ない。 つまり,口腔内速崩壊錠は,有効成分以外である添加剤を多く配合することができるので,口腔内速崩壊錠の溶解性や硬度は比較的容易に調整できる。 すなわち,単に添加剤を調整することで,硬度や溶解性に優れた口腔内速崩壊錠を得ることができる。 また,医薬品である口腔内速崩壊錠は,粉乳のように脂肪を多く含むものではない。 さらに,口腔内速崩壊錠は,一般的に体積が小さい。 したがって,「口腔内速崩壊錠」における「速崩壊」という技術をそのまま,固形乳に転用することはできない。 また,「口腔内速崩壊錠」は,口腔内のわずかな水分により,迅速に溶けなければならない。 一方,固形乳は,一般には温水に溶かし飲用するものであって,直接口にするものではない。 このため固形乳には,「口腔内速崩壊錠」程の速溶解性は必要とされない。 医薬品の分野では,製剤強度を高めるために,あらかじめ純粋な非結晶性の糖質を製造し,これを他成分に添加して達成することができる。 一方,固形乳の場合では,他の成分との配合された液体を噴霧乾燥しているため,固形乳に含まれている非結晶性乳糖は他の成分に溶けた状態(固体分散体)で顆粒中に存在している。 したがって,非結晶性乳糖だけでなく他の成分が混在している顆粒を用いて固形乳を製造しつつ,その固形乳の硬度を高めるためには,医薬品で適用されている技術よりも技術課題が高く,医薬品の技術をそのまま転用することは非常に困難である。

    実開昭49−130189号公報

    実開昭61−118280号公報

    特許第4062357号公報

    特開平11−012161号公報

    特開平11−349475号公報

    国際公開第95/20380号パンフレット

    本発明は,好適な溶解性と高い強度とを有する固形乳及びその製造方法を提供することを目的とする。

    本発明は,運搬などの取り扱いが容易である固形乳及びその製造方法を提供することを別の目的とする。

    本発明は,成分組成を栄養成分だけで制御できる固形乳及びその製造方法を提供することを別の目的とする。

    本発明は,製造工程において,トレイに粉乳が付着する事態を防止できる固形乳の製造方法を提供することを別の目的とする。

    本発明は,粉乳を製造した後,粉乳のみならず,その粉乳に基づく固形乳をも製造できる粉乳及び固形乳の製造方法を提供することを別の目的とする。

    本発明は,固形乳表面に存在する非結晶乳糖の一部を一定条件のもとで結晶乳糖類に変化させることで,固形乳の硬度が増大するとともに溶解性も向上するという知見に基づくものである。 すなわち,上記の課題のうち少なくとも一つは,以下の固形乳及び固形乳の製造方法によって解決される。

    本発明の第1の側面は,固形乳に関する。 この固形乳は,表面部12の粉末X線回折装置によるX線回折パターンが,2θ=10〜11°の範囲または2θ=12〜13°の範囲に2θ=10〜15°の範囲でのメインピークが存在する。 2θ=10〜11°の範囲のピークは,乳糖無水物結晶に由来するピークであると考えられる。 一方,2θ=12〜13°の範囲のピークは,乳糖一水和物結晶に由来するピークであると考えられる。 上記のメインピークは,2θ=10.25〜10.75°の範囲または2θ=12.25〜12.75°の範囲に存在するものであってもよい。

    すなわち,本発明の固形乳は,その表面部に結晶状態の乳糖類をあえて存在させるものである。 一般に,乳糖が完全に結晶状態となると,硬度が極めて高い替わりに,溶解性が極めて悪くなる。 本発明は,固形乳の表面部に結晶状態の乳糖類を存在させることで,硬度を高めて,却って溶解性をも高めることができるというものである。 これは,本発明の固形乳が,表面部の一部を結晶乳糖類としたことで空隙(孔)を有する硬化層が形成されたことによるものと考えられる。 本発明の固形乳は,結晶乳糖を有する硬化層により高い強度を得ることができる。 しかも,本発明の固形乳を溶解させる際には,網目状に形成された結晶乳糖を含む空隙(孔)に湯が入り込むことで,湯が速やかに内部に侵入するため,好適な溶解性も得ることができる。

    本発明の固形乳の好ましい態様は,以下の固形乳に関する。 すなわち,固形乳の表面部12の2θ=10〜11°の範囲のメインピークを中心として,当該メインピーク(2θ=10〜11°の範囲のメインピーク)の半値幅の2倍の幅の領域における積分強度と;2θ=12〜13°の範囲のメインピークを中心として,当該メインピーク(2θ=12〜13°の範囲のメインピーク)の半値幅の2倍の幅の領域における積分強度との和をIaとする。
    一方,固形乳の中心部11の2θ=10〜11°の範囲のメインピークを中心として,当該メインピーク(2θ=10〜11°の範囲のメインピーク)の半値幅の2倍の幅の領域における積分強度と;2θ=12〜13°の範囲のメインピークを中心として,当該メインピーク(2θ=12〜13°の範囲のメインピーク)の半値幅の2倍の幅の領域における積分強度との和をIbとする。 すると,この固形乳は,Ia/Ibが2.5以上である。

    すなわち,本発明の固形乳は,表面部12が中心部11よりも結晶乳糖類(乳糖無水物結晶及び乳糖一水和物結晶)を多く含むものが好ましい。 そして,この態様の固形乳は,さらに,Ia/Ibが2.5以上15以下であるものが好ましい。 もっとも,中心部は,結晶乳糖類が存在しなくてもよい。 このように,この態様の固形乳は,結晶乳糖類が固形乳の表面部に偏って存在する一方,固形乳の中心部には結晶乳糖類が少ない。 これにより,この固形乳は,優れた硬度と溶解性とを発揮できることとなる。

    上記のとおり,本発明の固形乳の好ましい態様は,表面部に含まれる結晶乳糖類の含有量が,中心部に含まれる結晶乳糖類の含有量より多い固形乳に関する。 具体的に説明すると,表面部に含まれる結晶乳糖類の含有量が,中心部に含まれる結晶乳糖類の含有量より5重量%以上多い固形乳が好ましい。 一方,表面部が全て結晶乳糖類であることは,溶解性の観点から必ずしも好ましくない。 このため,表面部に含まれる結晶乳糖類と非結晶乳糖との重量比が25:75〜90:10であることが好ましい。

    一方,固形乳の中心部は,結晶乳糖類をそれほど多く含む必要がない。 このような観点から,固形乳の中心部11には,結晶乳糖類が全く存在しないか,固形乳の中心部11に含まれる結晶乳糖類と非結晶乳糖との重量比が10:90以下(すなわち,結晶乳糖類と非結晶乳糖との重量比が1/9以下)であることが好ましい。

    本発明の固形乳は,表面部に結晶乳糖類を含有するものである。 一方,結晶乳糖類を含有する層の厚さが一定の厚み以上である場合に,固形乳の強度が高まると考えられる。 すなわち,本発明の固形乳の好ましい態様は,固形乳は表面に露出した0.2mm以上,好ましくは0.5mm以上の厚さの硬化層を有するものである。 そして,この硬化層は,結晶乳糖類を10重量%以上含有する層である。 このように,所定量以上結晶乳糖類を含む硬化層を0.2mm以上有することで,固形乳の硬度を上げることができる。

    本発明の固形乳の好ましい態様は,体積が1cm 〜50cm である。 この態様の固形乳は,従来の粉乳に比べ大きな体積を持ち,容易に適量を計量でき,又運搬にも便利である。

    本発明の固形乳の好ましい態様は,直方体形状をなす固形乳の短軸方向に荷重をかけて破断するときのが,30N〜300Nである。 この態様は,高い強度を有するので,運搬の際に壊れる事態などを防止し得る。 一方,固形乳が割線を有する場合,固形乳が上記の範囲の硬度を有するため,割線に従って固形乳を割ることができる。

    本発明の固形乳の好ましい態様は,粉乳のみを原料とする固形乳である。 本発明の固形乳は,通常乳児が摂取するものである。 このため,添加剤を極力添加せずに,固形乳を製造することが好ましい。 この態様は,固形乳の製造条件を調整することで,表面部に結晶乳糖類を生成させ,これらを適切に結着させることで,添加剤を添加しなくても,優れた硬度と溶解性を有する固形乳を得られるというものである。

    本発明の固形乳の好ましい態様は,固形乳を水に溶解させた際の水の容積増加量が9.5mL以上10.5mL以下(具体的には10mL)又は19.5mL以上20.5mL以下(具体的には20mL)である固形乳に関する。 固形乳を用いて,乳児にミルクを投与する際,通常哺乳瓶に所定量の湯(たとえば,40mL)を入れる。 そして,所定量の湯に所定個数の固形乳(たとえば,1つの固形乳)を投入して,乳児に投与する液体ミルクとする。 一方,固形乳を用いて幼児用ミルクを製造する際に,個数を誤って哺乳瓶に固形乳を先に投入することも考えられる。 このような場合に,哺乳瓶から固形乳を取り出すと,固形乳が汚染される可能性が高まる。 また,哺乳瓶から固形乳を取り出すのは煩雑である。 そこで,この態様の固形乳は,湯に溶解された際の容積増加量を考慮して,固形乳を設計したものである。 これにより,誤って哺乳瓶に固形乳を先に投入した場合も,固形乳の溶解後の容積増加量を考慮した分量まで湯を注げばよいこととなる。 すなわち,この態様の固形乳は,扱いやすい固形乳といえる。

    本発明の第2の側面は,固形乳の製造方法に関する。 そして,この製造方法は,粉乳を圧縮して固形状の粉乳圧縮物を得るための圧縮工程と,圧縮工程で得られた粉乳圧縮物を湿らせるための加湿工程と,加湿工程で加湿された粉乳圧縮物を乾燥させて固形乳を得るための乾燥工程と,を有する。 そして,加湿工程および乾燥工程は,粉乳圧縮物の表面部の非結晶乳糖の一部を結晶化する。 本発明の製造方法は,粉乳圧縮物の表面部の非結晶乳糖の一部を結晶化する。 すると,結晶乳糖類同士が結着して空隙のある硬化層を形成するため,好適な溶解性と高い強度とを有する固形乳を得ることができる。

    固形乳の製造方法の好ましい態様は,加湿工程が,粉乳圧縮物を湿度60%RH〜100%RH環境下に5秒〜1時間置くものである。 そして,固形乳の製造方法の好ましい態様は,乾燥工程が,粉乳圧縮物を湿度0%RH〜30%RH環境下に0.2分〜2時間置くものである。 固形乳の製造方法の好ましい態様は,粉乳として,乳糖を30重量%以上含有するものを用いる固形乳の製造方法に関する。 固形乳の製造方法の好ましい態様は,粉乳として,非結晶乳糖を20重量%以上含有するものを用いる固形乳の製造方法に関する。 固形乳の製造方法の好ましい態様は,粉乳が,結晶乳糖類を全く含有しないか,又は結晶乳糖類を10重量%以下含有する。 原料に,結晶化の核となる結晶乳糖類を微量含むことで,より多くの非結晶乳糖を結晶化することができる。

    固形乳の製造方法の好ましい態様は,粉乳が,結晶乳糖類を0.5〜10重量%含有するか,又は結晶乳糖類の粉末を含有する。 原料に,結晶化の核となる結晶乳糖類を微量含むことで,より多くの非結晶乳糖を結晶化することができる。

    固形乳の製造方法の好ましい態様は,粉乳は,原料顆粒を加湿および乾燥することで結晶乳糖類を混在したものである。

    固形乳の製造方法の好ましい態様は,粉乳は,噴霧乾燥前の濃縮乳を冷却することで結晶乳糖類を混在したものである。

    本発明によれば,粉乳に含まれる非結晶乳糖の一部を結晶乳糖類に変化させることにより,好適な溶解性と高い強度とを有する固形乳及びその製造方法を提供できる。
    これにより,本発明は,運搬などの取り扱いが容易である固形乳及びその製造方法を提供できる。

    本発明によれば,加湿工程および乾燥工程を経るだけで表面が固い固形乳ができるので,粉乳自体の組成を制御することで固形乳の成分組成を栄養成分だけで制御できる固形乳及びその製造方法を提供できる。

    本発明によれば,その加湿工程および乾燥工程において,粉乳に含まれる非結晶乳糖の一部を結晶乳糖類に変化させることにより,トレイに粉乳が付着する事態を防止でき,生産性の高い固形乳の製造方法を提供できる。

    本発明によれば,粉乳を製造した後,粉乳のみならず,その粉乳に基づく固形乳をも製造できる粉乳及び固形乳の製造方法を提供できる。

    固形乳の断面図を示す概念図である。

    結晶乳糖類のピークを示す粉末X線回折図である。

    非結晶乳糖の含有量による差異を示す固形乳のSEM写真である。

    結晶乳糖類の含有量による差異を示す固形乳のSEM写真である。

    実施例2における粉乳2Aを用いて製造された固形乳の粉末X線回折スペクトルである。

    実施例2における粉乳2Bを用いて製造された固形乳の粉末X線回折スペクトルである。

    表面からの距離と乳糖結晶の含有率の関係を示すグラフである。

    結晶乳糖類の添加量による付着力の差異を示すグラフである。

    添加物の種類による付着力の差異を示すグラフである。

    結晶乳糖類の添加量による差異を示すSEM写真である。

    以下,本発明を実施するための最良の形態について説明する。 しかしながら,以下説明する形態は,あくまで例示であって,当業者にとって自明な範囲で適宜修正することができる。

    1.
    固形乳 図1は固形乳の断面図を示す概念図である。 符号11は中心部,符号12は表面部である。 本発明の固形乳は,表面部に結晶乳糖類を有する。 この固形乳は,表面部12の粉末X線回折装置によるX線回折パターンが,2θ=10〜11°の範囲または2θ=12〜13°の範囲に2θ=10〜15°の範囲でのメインピークが存在するX線回折パターンである。 2θ=10〜11°の範囲のピークは,乳糖無水物結晶に由来するピークであると考えられる。 一方,2θ=12〜13°の範囲のピークは,乳糖一水和物結晶に由来するピークであると考えられる。 したがって,上記のメインピークは,2θ=10.25〜10.75°の範囲または2θ=12.25〜12.75°の範囲に存在するものであってもよい。

    本発明の固形乳の好ましい態様は,以下の固形乳に関する。 すなわち,固形乳の表面部12の2θ=10〜11°の範囲のメインピークを中心として,当該メインピーク(2θ=10〜11°の範囲のメインピーク)の半値幅の2倍の幅の領域における積分強度と;2θ=12〜13°の範囲のメインピークを中心として,当該メインピーク(2θ=12〜13°の範囲のメインピーク)の半値幅の2倍の幅の領域における積分強度との和をIaとする。

    一方,固形乳の中心部11の2θ=10〜11°の範囲のメインピークを中心として,当該メインピーク(2θ=10〜11°の範囲のメインピーク)の半値幅の2倍の幅の領域における積分強度と;2θ=12〜13°の範囲のメインピークを中心として,当該メインピーク(2θ=12〜13°の範囲のメインピーク)の半値幅の2倍の幅の領域における積分強度との和をIbとする。

    すなわち,本発明の固形乳は,表面部12が中心部11よりも結晶乳糖類(乳糖無水物結晶及び乳糖一水和物結晶)を多く含むものが好ましい。 そして,この態様の固形乳は,さらに,Ia/Ibが2.5以上15以下であるものが好ましい。 Ia/Ibの別の例は,3以上10以下であり,5以上10以下でもよい。 もっとも,固形乳の中心部は,結晶乳糖類が存在しなくてもよい。 このように,この態様の固形乳は,結晶乳糖類が固形乳の表面部に偏って存在する一方,固形乳の中心部には結晶乳糖類が少ない。 これにより,この固形乳は,優れた硬度と溶解性とを発揮できることとなる。 また,表面部では,非結晶乳糖の10〜75重量%が結晶乳糖類に変化していることが好ましい。 なお,非結晶乳糖の含有量,結晶乳糖類の含有量は,後述の試験例1により測定する。

    上記のとおり,本発明の固形乳の好ましい態様は,表面部に含まれる結晶乳糖類の含有量が,中心部に含まれる結晶乳糖類の含有量より多い固形乳に関する。 具体的に説明すると,表面部に含まれる結晶乳糖類の含有量が,中心部に含まれる結晶乳糖類の含有量より5重量%以上多い固形乳が好ましい。 実施例により実証された通り,表面部に含まれる結晶乳糖類の含有量が,中心部に含まれる結晶乳糖類の含有量より10重量%以上多いものでもよく,15重量%以上多いものでもよく,20重量%以上多いものでもよく,25重量%以上多いものでもよい。 一方,表面部が全て結晶乳糖類であることは,溶解性の観点から必ずしも好ましくない。 このため,表面部に含まれる結晶乳糖類と非結晶乳糖との重量比が25:75〜90:10であることが好ましい。 表面部における具体的な結晶乳糖類の含有量の例は,5重量%以上50重量%以下である。 表面部における具体的な結晶乳糖類の含有量は,10重量%以上40重量%以下でもよく,10重量%以上30重量%以下でもよい。

    一方,固形乳の中心部は,結晶乳糖類をそれほど多く含む必要がない。 また,固形乳の中心部は,非結晶乳糖類を含むことが好ましい。 換言すると,固形乳の中心部の主成分は,非結晶乳糖類であることが好ましい。 このような観点から,固形乳の中心部11には,結晶乳糖類が全く存在しないか,固形乳の中心部11に含まれる結晶乳糖類と非結晶乳糖との重量比が10:90以下(すなわち,結晶乳糖類と非結晶乳糖との重量比が1/9以下)であることが好ましい。 中心部における具体的な結晶乳糖類の含有量は,0重量%以上10重量%以下である。 中心部における具体的な結晶乳糖類の含有量は,5重量%以下でもよく,4重量%以下でもよい。

    本発明の固形乳は,表面部に結晶乳糖類を含有するものである。 一方,結晶乳糖類を含有する層の厚さが一定の厚み以上である場合に,固形乳の強度が高まると考えられる。 すなわち,本発明の固形乳の好ましい態様は,固形乳は表面に露出した0.2mm以上(より好ましいものは0.5mm以上)の厚さの硬化層を有するものである。 そして,この硬化層は,結晶乳糖類を10重量%以上含有する層である。 このように,所定量以上結晶乳糖類を含む硬化層を0.2mm以上有することで,固形乳の硬度を上げることができる。 一方,先に説明した通り,固形乳の中心部を含む領域は,硬化層でないことが好ましい。 よって,硬化層の厚さの例は,0.2mm以上,2mm以下,及び0.5mm以上2mm以下である。 硬化層の厚さは,0.3mm以上1.8mm以下,又は0.5mm以上1.8mm以下が好ましく,0.7mm以上1.5mm以下でもよい。

    本発明の固形乳の好ましい態様は,体積が1cm 〜50cm である。 この態様の固形乳は,従来の粉乳に比べ大きな体積を持ち,容易に適量を計量でき,又運搬にも便利である。

    本発明の固形乳の好ましい態様は,直方体形状をなす固形乳の短軸方向に荷重をかけて破断するときの力が,30N〜300Nである。 この態様は,高い強度を有するので,運搬の際に壊れる事態などを防止し得る。 一方,固形乳が割線を有する場合,固形乳が上記の範囲の硬度を有するため,割線に従って固形乳を割ることができる。

    本発明の固形乳の好ましい態様は,粉乳のみを原料とする固形乳である。

    本発明の固形乳の好ましい態様は,固形乳を水に溶解させた際の水の容積増加量が9.5mL以上10.5mL以下(具体的には10mL)又は19.5mL以上20.5mL以下(具体的には20mL)である固形乳に関する。

    本明細書において「固形乳」とは,常温にて固形状態に調製した乳類を意味する。 固形乳は,より具体的には,粉乳を所定の大きさ,重量に成形したものであり,水に溶かすと,粉乳を水に溶かしたものと同様なものになるものを意味する。 固形乳の例は,タブレット状(固体状態)のミルクである。 固形乳は,通常溶解させて乳児に投与するためのものである。 このため,固形乳を溶解させたミルクは,母乳に近い風味であることが好ましい。 よって,固形乳に含まれる乳糖以外の糖分の例は,10重量%以下であり,6重量%以下が好ましい。

    本明細書において「結晶乳糖類」とは,乳糖一水和物結晶および乳糖無水物結晶を意味する。 結晶乳糖類の例は,α型・乳糖一水和物結晶,α型・乳糖無水物結晶,及びβ型・乳糖無水物結晶がある。 一方,一般に粉乳や固形乳からα型・乳糖無水物結晶は検出されない。 このため,結晶乳糖類は,実質的にはα型・乳糖一水和物結晶,及びβ型・乳糖無水物結晶を意味する。

    本明細書において「メインピーク」とは,所定の範囲の粉末X線回折パターンにおいて最も強度の強いピークを意味する。

    本明細書において「表面部」とは,固形乳(または粉乳圧縮物)の表面のうち,底面を除く面を意味する。 たとえば,直方体状の固形乳においては,上面および側面に相当する5つの面が表面部である。 これは,後述の加湿工程および乾燥工程をトレイ等に載せて行った場合には底面は加湿および乾燥されにくいためである。

    本明細書において「中心部」とは,固形乳の重心部分を含む領域を意味する。 そこで,中心部の結晶状態を分析するためには,重心部分から上下左右に20%の範囲を含む部分を中心部として扱う。 このように定義した中心部が露出するよう固形乳を切断するか或いは,中心点だけを抽出するかしてX線回折による分析を行えばよい。 重心部分から上下左右に20%の範囲とは,固形乳(または粉乳圧縮物)の厚み,幅,奥行きに対する割合を意味する。

    本明細書において「硬化層」とは,結晶乳糖類の含有率が10重量%以上の層を意味する。 硬化層は,例えば,粉乳圧縮物の表面を加湿工程および乾燥工程を経て硬化させることで形成される。 また,硬化層は,例えば,硬化前の粉乳圧縮物と比して硬度が高い,付着力(粘着性)が低い,含有する結晶乳糖類が結着しているという特徴を有する。

    本明細書において「A〜B」とは,A以上B以下を意味する。

    本明細書において「空隙率」とは,粉体の嵩体積中空隙が占める体積の割合を意味し(例えば,宮嶋孝一郎編集「医薬品の開発」(第15巻)廣川書店平成元年(1989年)発行,第240頁参照),より具体的には後述の試験例における「固形乳の空隙率測定」により測定される値を意味する。

    本明細書において「粉乳」とは,乳脂肪及び植脂などの脂溶性成分と;水,糖類,たん白質(ペプチドやアミノ酸も含む)及びミネラルなどの水溶性成分とを,混合したものを乾燥して粉末状にした調製乳などを意味する。 粉乳の例は,全脂粉乳,調製粉乳,及びクリーミーパウダーである。

    本明細書において「添加剤」とは,結合剤,崩壊剤,滑沢剤及び膨張剤などの栄養成分以外の剤を意味する。

    本明細書において「添加剤を実質的に添加しない」とは,原料として基本的に粉乳のみを用いることを意味し,添加剤が固形乳の栄養成分に影響を与えない量,例えば0.5重量%以下(好ましくは,0.1重量%以下)である場合を意味する。 なお,本発明において,原料として粉乳のみを用い,粉乳以外の添加剤を用いないことが好ましい。

    本発明の固形乳は,結晶乳糖類が結着した網状の硬化層を有することが好ましい。 これにより,本発明の固形乳は,好適な硬度を実現できる。 本発明は,結晶乳糖類が固形乳の表面部に存在することによって,固形乳の強度と同様に,溶解性をも高めることができる。 更に,本発明の固形乳は,湯で溶解させる際には硬化層の空隙(孔)から湯が染み込むため,好適な速溶解性を有する。 さらに,本発明の固形乳は,表面に硬化層を有したことで,固形乳の表面タック(べとつき)がなくなり,製品として保管や運搬などの取り扱いが容易である。

    硬化層は,結晶乳糖類が網目状に結着したものである。 しかしながら,網目状に結着した結晶乳糖類は,固形乳の表面近傍の非結晶乳糖が,特定の条件下における加湿工程および乾燥工程を経ることで架橋し,結晶化することで形成される。 すなわち,結晶乳糖類を単に原料粉乳に添加しても,網目状の結晶乳糖類を得ることはできない。 本発明は,粉乳を圧縮した後,加湿工程により表面近傍に存在する非結晶乳糖を一度溶解して,乾燥工程により溶解した非結晶乳糖を結着させつつ結晶化することで,網目状に形成された結晶乳糖類を得ることができる。 また,非結晶乳糖中に予め結晶化の核となる微量の結晶乳糖類を混在させておくと,非結晶乳糖の結晶化を促進できる。 したがって,本発明の固形乳は,原料となる粉乳中に所定の量の結晶乳糖類を混在させることで,非結晶乳糖から結晶乳糖類への変化を制御し,好適な表面状態(硬化層が厚い,細孔が多い,粘着性が少ないなど)を得ることができる。

    本発明の固形乳は,硬化層を特定の箇所に設けることもできる。 例えば,固形乳の特定の面の周辺だけを硬化層としたり,特定の辺の周辺だけを硬化層としたり,特定のの周辺だけを硬化層としたりすることができる。 また,固形乳の表面に格子状に硬化層を設けたり,市松模様状に硬化層を設けたりすることもできる。

    本発明の固形乳は,表面に多くの空隙(孔)を有することが好ましい。 本発明の固形乳の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)写真により観察すると,表面近傍で硬化層が殻状に観察され,硬化層の内部で粉乳がクルミ状に観察される。 また,硬化層には小さな空隙(孔)が多数存在し,硬化層の内部には大きな空隙(孔)が存在することが観察される。 本発明の固形乳の表面をSEM写真により観察すると,硬化層の凹凸が海島状に観察され,空隙(孔)が多数存在することが観察される。 本発明の固形乳は白色または淡黄色であることが好ましい。 本発明の固形乳は無臭もしくは微臭であることが好ましい。

    本発明の固形乳は,表面部および中心部の空隙率が,30%〜50%であることが好ましい。 空隙率が大きいほど,溶解性が高くなるが,強度が弱くなる。 また,空隙率が小さいと,溶解性が低くなる。 この空隙率は,おもに圧縮工程の圧縮力によって制御される。 なお,本発明において,好ましい空隙率は,35%〜50%であるが,空隙率をその用途などに応じて調整し30%〜35%,30%〜45%,40%〜45%,又は40%〜50%としてもよい。 これらのような空隙率の範囲となるように調整すれば,後述のとおり,オイルオフなどの問題を解決した良好な固形乳を得ることができる。

    それぞれの空隙は,固形乳に複数存在することが好ましい。 各空隙(孔)は,好ましくは均一に分散している。 空隙が固形乳でほぼ一様に分布するので,より高い溶解性を得ることができる。 空隙が大きいほど水の侵入が容易であり速溶解性を得ることができる。 一方,空隙の大きさが大きすぎると強度が弱くなるか,又は固形乳の表面が粗くなる。 そこで,空隙の大きさは,10μm〜500μmがあげられ,好ましくは50μm〜300μmである。 この空隙の大きさは,公知の手段,例えば固形乳の表面及び断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察することにより測定できる。

    固形乳の成分は,水分量を除く他,基本的には原料となる粉乳の成分と同様である。 固形乳の成分として,脂肪,糖質,たん白質,ミネラル,及び水分があげられる。 固形乳の脂肪含有率は,例えば5重量%〜70重量%があげられ,好ましくは5重量%〜50重量%であり,より好ましくは10重量%〜45重量%である。

    本発明の固形乳は,脂肪として,乳化した脂肪と遊離脂肪とを含んでいてもよい。 すなわち,従来の粉乳や固形乳においては,遊離脂肪が風味を損ねる・温水に溶解した際に水に浮く(オイルオフ)などの問題があり積極的に排除されてきた。 本発明の固形乳は,好ましくはこの遊離脂肪を積極的に含有する。 そして,この遊離脂肪を,滑沢剤などの代わりに有効活用する。 これにより,本発明は添加剤を用いなくても良好な固形乳を製造できる。 ただし,遊離脂肪が多すぎるとオイルオフの問題が生ずる。 そこで,本発明の固形乳において遊離脂肪の含有率は,0.5重量%〜4重量%があげられ,好ましくは0.7重量%〜3重量%であり,より好ましくは1重量%〜2.5重量%である。 これらの範囲であれば,後述の実施例において示されるとおり,好適な硬度,溶解性,及び過度なオイルオフを抑制できるからである。 なお,オイルオフが問題となる遊離脂肪の量は,原料として用いる粉乳中の脂肪組成,及び脂肪球径などの物性により異なるので,固形乳に含まれる遊離脂肪の量は,上記の範囲内で適宜修正すればよい。

    固形乳に含まれる水分が多いと保存性が悪くなり,水分が少ないともろくなる。 したがって,固形乳の水分含有率として,1重量%〜4重量%があげられ,好ましくは2重量%〜3.5重量%である。

    本発明の固形乳の形状は,ある程度の大きさをもつものであれば,特に限定されない。 固形乳の形状として,円柱状,楕円柱状,立方体状,直方体状,板状,球状,多角柱状,多角錐状,多角錐台状,及び多面体状のものがあげられ,持ち運びの便利さなどの観点から円柱状又は四角柱状が好ましい。 なお,固形乳が壊れる事態を防止するため,好ましくは角部分に面取りが施されている。

    本発明の固形乳は,1個〜数個の固形乳(好ましくは1個の固形乳)を温水に溶解すれば,飲用する際の1回分の乳となるものが好ましい。 したがって,固形乳の体積は,1cm 〜50cm があげられ,好ましくは2cm 〜30cm であり,より好ましくは4cm 〜20cm である。

    本発明の固形乳は,ある程度の溶解性を持っている必要がある。 本発明の固形乳は,後述の溶解性測定条件で,溶解残渣が10g以下のものがあげられ,好ましくは8g以下であり,より好ましくは4g以下である。

    本発明の固形乳は,運搬する際に壊れる事態を極力さけるため,高い強度を持つ必要がある。 本発明の固形乳は,後述の(硬度の評価)で,40N以上の硬度を有するものが好ましい。 より好ましくは50N以上である。 一方,溶解性の観点から,300N以下の硬度のものが好ましい。

    本発明の固形乳は,加湿工程および乾燥工程を経たのちにトレイへの付着をさけるため,また付着したとしても容易に剥がすことができるため,付着力が10N未満であることが好ましい。 付着力を低くすることで製造の手間を軽減し,単位時間当たりの製造効率を高めることができる。

    2. 製造工程 本発明の固形乳の製造方法は,粉乳を圧縮し固形状の粉乳圧縮物を得るための圧縮工程と,圧縮工程で得られた粉乳圧縮物を湿らせるための加湿工程と,加湿工程で加湿された粉乳圧縮物を乾燥させるための乾燥工程とを含む。
    そして,加湿工程および乾燥工程は,粉乳圧縮物の表面部の非結晶乳糖の一部を結晶化する。

    2.1. 圧縮工程 圧縮工程は,粉乳を圧縮し固形状の粉乳圧縮物を得るための工程である。 圧縮工程では,粉乳を次工程へ移行できる程度の比較的低い圧力で粉乳を打錠することにより,水が侵入するための空隙を確保した粉乳圧縮物を得る。 圧縮工程では,適切な空隙を設けた保形性のある粉乳圧縮物を製造するという要件を満たすように粉乳を圧縮する。 すなわち,この圧縮工程での空隙率が,固形乳の空隙率と密接に関連する。 また,粉乳圧縮物の潤滑性が乏しければ,打錠機などの装置に粉乳圧縮物の一部が付着するという打錠障害の問題を生ずる。 さらに,粉乳圧縮物の保形性が悪ければ,固形乳を製造する過程において,形状を保てないものができるという問題を生ずる。

    圧縮工程における原料として,好ましくは粉乳のみを用い,添加剤を実質的に添加しない。 粉乳は,市販のものを購入しても良いし,公知の製造方法(例えば,特開平10−262553号公報,特開平11−178506号公報,特開2000−41576号公報,特開2001−128615号公報,特開2003−180244号公報及び特開2003−245039号公報に記載の製造方法など)により製造したものを用いても良い。 粉乳の組成は,上記の固形乳と同様のものがあげられる。 なお,圧縮工程の原料に,脂肪を添加しても良い。 ただし,脂肪を添加すると,この脂肪はオイルオフのもととなる。 そして,添加された脂肪は,粉乳の表面に付着するので,臼への充填精度が下がることとなる。 したがって,圧縮工程において,好ましくは目標となる遊離脂肪量を含むように製造した粉乳を用いる。

    粉乳の脂肪含有率が大きい場合は,圧縮力が小さくてすむ。 一方,粉乳の脂肪含有率が小さい場合は,圧縮力を大きくしなければならない。 よって,脂肪含有率が大きい粉乳を用いるほど,適切な空隙を設ける,保形性のある粉乳圧縮物を製造するという要件を満たすことができる。 このような観点から,粉乳の脂肪含有率は,例えば5重量%〜70重量%があげられ,好ましくは5重量%〜50重量%であり,より好ましくは10重量%〜45重量%である。

    粉乳は,上記のとおり遊離脂肪を含んでいるものが好ましい。 本発明では,この遊離脂肪を,滑沢剤などの代わりに有効活用する。 これにより,本発明は添加剤を添加しなくても良好な固形乳を製造できる。 本発明の固形乳において遊離脂肪の含有率は,0.5重量%〜3重量%があげられ,好ましくは0.7重量%〜2.4重量%であり,より好ましくは1重量%〜2重量%である。

    粉乳に含まれる水分が多いと保存性が悪くなり,水分が少ないともろくなる(保形性が悪くなる)。 したがって,粉乳の水分含有率として,1重量%〜4重量%があげられ,好ましくは2重量%〜3.5重量%である。

    圧縮工程では,粉乳を圧縮し固形状の粉乳圧縮物を得るための圧縮手段により粉乳圧縮物を製造する。 圧縮手段は,粉乳を圧縮し固形状の粉乳圧縮物を得ることができるものであれば特に限定されない。 圧縮手段として,公知の打錠機,圧縮試験装置などの加圧成形機があげられ,好ましくは打錠機である。 なお,打錠機として,例えば,特公昭33−9237号公報,特開昭53−59066号公報,特開平6−218028号公報,特開2000−95674号公報,及び特許第2650493号公報に記載のものがあげられる。

    なお,打錠機を用いて粉状物を圧縮する場合,粉状物を臼に入れ,杵を打ち付けることにより粉状物に圧縮力を付加し,固形状とする。 なお,この際に粉状物が,潤滑性に乏しければ,杵の表面に粉状物が付着する事態が生ずる。 これは,製品の品質を悪くするだけではなく,杵の表面を清掃しなければならなくなり,歩留まりが低下する。 そこで,滑沢剤を添加することが,特に医薬を製造する際に行われている。 しかし,滑沢剤は,水に溶けにくいワックスである。 したがって,固形乳のように,温水に溶かした状態で飲用するものについては,滑沢剤を添加することは望ましくない。 これは,固形乳を製造困難にさせていた理由のひとつである。 本発明は,上記のとおり,これまでできるだけ発生させないことが望ましいとされていた遊離脂肪を滑沢剤として適量用い,これにより粉乳が杵に付着する事態を防止したものである。 さらには,上記のとおり,適切な空隙率をもつ粉乳圧縮物を得ることで,溶解しやすく,保形性に優れた固形乳を得ることができたものである。 また,崩壊剤を添加すると沈殿物が生ずるなどの事態が起きるが,本発明の固形乳の製造方法では,崩壊剤が不要であるので,このような事態を有効に回避できる。

    圧縮工程における環境温度は,特に限定されず室温にて行うことができる。 より具体的には,圧縮工程における環境温度として,10℃〜30℃があげられる。 圧縮工程における湿度は,例えば30%RH〜50%RHがあげられる。 圧縮工程において好ましくは,粉乳の圧縮作業を連続的に行う。

    2.2. 加湿工程 加湿工程は,圧縮工程で得られた粉乳圧縮物をトレイ等に載せ,湿度60%RH〜100%RH環境下に5秒〜1時間置くなどして,湿らせるための工程である。 粉乳圧縮物を湿らせることにより,粉乳圧縮物の表面近傍の粒子,特に非結晶乳糖の一部が溶解し,架橋する。 このとき,粉乳圧縮物の内部までは湿気が届かないので,加湿の効果は粉乳圧縮物の表面近傍に限定される。 すなわち,表面部では非結晶乳糖の一部が溶解し,中心部では非結晶乳糖の溶解はほとんど起こらず,表面部と中心部とで構造に差異を生じることとなる。

    加湿工程では,粉乳圧縮物を湿らせるための加湿手段により粉乳圧縮物を湿らせることができる。 加湿手段として,高湿度室,スプレー,及びスチームなど公知の加湿手段があげられる。 また,加湿方法として,高湿度環境下に置く方法,スプレーにより水を噴霧する方法,蒸気を吹き付ける方法など公知の加湿方法を採用できる。 なお,高湿度環境における湿度として,60%RH〜100%RHがあげられ,好ましくは80%RH〜100%RHであり,より好ましくは90%RH〜100%RHである。 また,高湿度環境下に置く時間として,5秒〜1時間があげられ,好ましくは10秒〜20分であり,より好ましくは15秒〜15分である。 高湿度環境下に置く方法における温度として,たとえば30℃〜100℃があげられ,好ましくは40℃〜80℃である。 なお,加湿の効果を粉乳圧縮物の表面近傍の適切な範囲に限定するために,粉乳圧縮物の大きさや形に合わせて,適宜加湿環境,加湿時間,加湿温度などを調整することが好ましい。 たとえば,粉乳圧縮物が,1辺が1cm以上の体積1cm 〜50cm の直方体状であれば,60%RH〜100%RH,5秒〜1時間,30℃〜100℃が好ましい。

    加湿工程で,粉乳圧縮物に加えられる水分の量(以下,「加湿量」ともいう。)は,適宜調整すればよい。 しかし,本発明では,基本的には,原料として粉乳のみを用いているので,加湿量として,以下の範囲が望ましい。 すなわち,加湿量を0.5%とすると,錠剤硬度が増大し,加湿量を1%とすると錠剤硬度が約2倍となる。 このように,加湿量が増えるにつれ錠剤硬度も大きくなる傾向にある。 一方,加湿量が,2.5%以上で,錠剤硬度の増加は止まった。 また,加湿量が3%以上では,粉乳圧縮物が溶解し,変形するものや,移送中に装置に付着するものがでた。 そこで,粉乳圧縮物に加えられる水分の量として,粉乳圧縮物の質量の0.5%〜3%が好ましく,1%〜2.5%がより好ましい。

    2.3. 乾燥工程 乾燥工程は,加湿工程で加湿された粉乳圧縮物をトレイ等に載せ,乾燥させるための工程である。 乾燥工程により,加湿工程で加湿された粉乳圧縮物が乾燥する。 この際,表面近傍の溶解した非結晶乳糖が乾燥する際に,結晶化する。 この際に,乾燥条件を調整することで,網目状に結晶乳糖が結着して硬化層を得ることができる。 これにより,粉乳圧縮物の表面近傍の強度が増大することとなる。

    上記のようにして製造された硬化層は,網目状の結晶乳糖類による多数の空隙(孔)を有する。 したがって,この固形乳を湯に溶解させた際に,空隙(孔)から湯が染み込んで好適な速溶解性を発揮する。 このように,本発明の固形乳の製造方法によれば,高い強度と好適な溶解性とを兼ね備える固形乳を製造することができる。 また,表面に結晶乳糖類の硬化層が存在することで,固形乳の表面タック(べとつき)がなくなり,製品として保管や運搬などの取り扱いが容易になる。 特に,従来は乾燥工程終了時にトレイに貼り付いてしまう固形乳が存在していたが,本発明の製造方法によればそのようなことはほとんどなく,仮に貼り付くことがあっても容易に剥がすことができる。

    乾燥工程における乾燥方法として,加湿工程で加湿された粉乳圧縮物を乾燥させることができる公知の方法を採用でき,例えば,低湿度・高温度条件下に置く方法,乾燥空気・高温乾燥空気を接触させる方法などがあげられる。

    低湿度・高温度条件下に置く方法における「湿度」として,0%RH〜30%RHがあげられ,好ましくは0%RH〜25%RHであり,より好ましくは0%RH〜20%RHである。 このように,湿度はできるだけ低く設定することが好ましい。 低湿度・高温度条件下に置く方法における「温度」として,20℃〜150℃があげられ,好ましくは30℃〜100℃であり,より好ましくは40℃〜80℃である。 低湿度・高温度条件下に置く方法における「乾燥時間」として,0.2分〜2時間があげられ,好ましくは0.5分〜1時間であり,より好ましくは1分〜30分である。

    先に説明したとおり,固形乳に含まれる水分が多いと保存性が悪くなり,水分が少ないともろくなる。 したがって,乾燥工程においては,乾燥温度や乾燥時間などの条件を制御することによって,固形乳の水分含有率を原料として用いる粉乳の水分含有率の前後1%以内(好ましくは前後0.5%以内)に制御することが好ましい。

    以上のように,加湿工程および乾燥工程を経ることにより,粉乳圧縮物の表面近傍の非結晶乳糖の一部を結晶化することができる。
    単に粉乳に結晶乳糖類を加えるのではなく,非結晶乳糖の一部を加湿工程および乾燥工程を経て結晶化することで,結晶乳糖類同士が架橋により一体化した状態となり高い強度を実現できる。 また,粉乳圧縮物の空隙(孔)を利用し,粉乳圧縮物の内部に溶解しやすい非結晶乳糖を多く含む粉乳を配置することで,好適な溶解性を維持することができる。 以上により,高い強度と好適な溶解性とを兼ね備える固形乳を製造することができる。

    原料となる粉乳は,乳糖を30重量%以上含有することが好ましい。 より好ましくは40重量%以上である。 そして,粉乳は,非結晶乳糖を20重量%以上含有することが好ましい。 より好ましくは30重量%以上,さらに好ましくは40重量%以上である。 粉乳中の乳糖が30重量%未満であったり,非結晶乳糖が20重量%未満であったりすると,加湿工程および乾燥工程を経ても溶解する非結晶乳糖が少ないので,後の乾燥工程によって形成される結晶乳糖類の硬化層が充分な厚さとならず,固形乳の強度が充分でなくなるおそれがある。

    また,原料となる粉乳は,結晶乳糖類を0.5〜10重量%含有することが好ましい。 微量の結晶乳糖類が混在していることで結晶化の核となり,非結晶乳糖の結晶化を促進し,固形乳の表面に細孔が増加し,粘着力を低減できるからである。 結晶乳糖類が0.5重量%未満であると,結晶化の核として充分な量でないので硬化層について充分な厚みを得ることができず,固形乳の強度が充分でなくなるおそれがある。 結晶乳糖類が10重量%を超えると,結晶乳糖類の量が増えすぎて溶解性が充分でなくなるおそれがある。

    原料である粉乳中に結晶乳糖類を含有させるには,(1)粉乳に結晶乳糖類の粉末を添加する方法,(2)粉乳の原料顆粒を加湿および乾燥することで粉乳中に結晶乳糖類を混在させる方法,(3)粉乳の製造工程である噴霧乾燥工程の前に濃縮乳を冷却することで,粉乳中に結晶乳糖類を混在させる方法などが考えられる。

    (1),(2)の方法では0.5〜2重量%,(3)の方法では0.5〜10重量%結晶乳糖類が混在することが好ましい。 方法によって結晶乳糖類の量に差があるのは結晶乳糖の粒子表面での局在化の有無(均一性の違い)によるものである。

    なお,本発明の固形乳の製造方法において,得られた固形乳の表面部に含まれる結晶乳糖類の含有量を分析して,表面部に所定量の結晶乳糖類が含まれている固形乳のみを最終製品として選択してもよい。

    3. 粉乳及び固形乳の製造方法 本発明の粉乳及び固形乳の製造方法は,粉乳を製造する工程と,その粉乳を原料として固形乳を製造する工程とを含む。 なお,粉乳を製造する工程で製造された粉乳の一部を,そのまま粉乳として容器に充填し,製品としても良い。 このようにすることにより,粉乳及び固形乳を得ることができる。

    3.1. 粉乳の製造方法 粉乳の製造工程は全粉乳,脱脂粉乳,育児用粉乳に代表される調製粉乳など製品の種類によって詳細は異なる。 しかし,基本的には,「原料(調整)→清澄化→殺菌→濃縮→(均質化)→噴霧乾燥→篩過→充填」の工程により,粉乳を製造できる。 なお,噴霧乾燥後の粉乳の大きさは,5μm〜150μm程度であり,粉乳の造粒物の大きさは,100μm〜500μm程度である。 また,粉乳とその造粒物とが混ざり合った状態では,その空隙は5μm〜150μm程度である。

    粉乳の原料として,乳があげられる。 乳として,生乳があげられ,より具体的には,牛(ホルスタイン,ジャージー種その他),山羊,羊,水牛などの乳があげられる。 これらを遠心分離等の方法により,脂肪分の一部を取り除くことにより脂肪含量を調節することができる。 また,下記の栄養成分などを添加することもできる。 一方,調製粉乳を製造する場合は,水に下記の栄養成分を加え,混合して用いる。

    上記の原料液を公知の製造方法である「清澄化」,「殺菌」,「均質化」,「濃縮」,「噴霧乾燥」,「篩過」,及び「充填」の工程で処理することにより粉乳を製造することができる。

    粉乳の原料となるたん白質として,カゼイン,乳清たん白質(α−ラクトアルブミン,β−ラクトグロブリンなど),乳清たん白質濃縮物(WPC),乳清たん白質分離物(WPI)などの乳たん白質及び乳たん白質分画物;卵たん白質などの動物性たん白質;大豆たん白質,小麦たん白質などの植物性たん白質;これらのたん白質を酵素などにより種々の鎖長に分解したペプチド;及びさらにタウリン,シスチン,システィン,アルギニン及びグルタミンなどのアミノ酸;を単独又は混合して用いることができる。

    粉乳の原料となる油脂として,乳脂肪,ラード,牛脂および魚油などの動物性油脂や大豆油,ナタネ油,コーン油,ヤシ油,パーム油,パーム核油,サフラワー油,綿実油,アマニ油,MCTなどの植物性油脂,又は,これらの分別油,水素添加油及びエステル交換油を単独又は混合してできる。

    粉乳の原料となる糖質として,乳糖,ショ糖,ブドウ糖,麦芽糖やガラクトオリゴ糖,フルクトオリゴ糖,ラクチュロースなどのオリゴ糖,デンプン,可溶性多糖類,デキストリンなどの多糖類,また,人工甘味料などを単独又は混合して使用できる。
    その他,水溶性,脂溶性のビタミン類,ミネラル類や香料,矯味料などを粉乳の原料として添加することができる。

    3.1.1. 清澄化工程 清澄化工程は,遠心分離機またはフィルターなど公知の手段によって,牛乳などに含まれる微細な異物を除去するための工程である。

    3.1.2. 殺菌工程 殺菌工程は,牛乳などに含まれる細菌などの微生物を死滅させるための工程である。 殺菌工程での殺菌温度と保持時間は,粉乳の種類によって様々であり,公知の殺菌処理に関する条件を採用できる。

    3.1.3. 濃縮工程 濃縮工程は,後述の噴霧乾燥工程の前に牛乳などを予備的に濃縮するための任意の工程であり,真空蒸発缶など公知の手段と条件を採用できる。

    3.1.4. 均質化工程 均質化工程は,牛乳などに分散している脂肪球などの固形成分を一定以下の大きさに均質化するための任意の工程であり,処理液に高圧を加えて狭い間隙を通過させるなど公知の手段と条件を採用できる。

    3.1.5. 噴霧乾燥工程 噴霧乾燥工程は,濃縮乳中の水分を蒸発させて粉体を得るための工程であり噴霧乾燥機など公知の手段や,公知の条件を採用できる。

    3.1.6. 篩過工程 篩過工程は,噴霧乾燥工程で得られた粉体を篩に通すことで,固まり粉など粒径が大きなものを除去し,整粒するための工程である。

    3.1.7. 充填工程 充填工程は,粉乳を袋や缶などに充填するための工程である。
    本発明の粉乳及び固形乳の製造方法では,上記のとおり粉乳を製造した後,上記の固形乳製造方法を採用できる。 すなわち,上記の篩過工程を経た粉乳を原料として,上記の圧縮工程を行えばよい。

    4. 固形乳の利用方法 本発明の固形乳は,一般的には温水に溶かして,飲用する。 より具体的には,蓋のできる容器に,温水を入れた後,本発明の固形乳を必要個数投入する。 そして,好ましくは容器を軽く振ることにより固形乳を早く溶かし,適温の状態で飲用する。

    以下に,実施例を示し,本発明の特徴を説明するが,本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 以下では,まず実施例における各評価項目の評価方法について説明した後に,参考例及び実施例を説明する。

    [試験例1(結晶乳糖類,非結晶乳糖の含有量)]
    1. 試料中の総乳糖の定量高速液体クロマトグラフィー法により試料中の総乳糖の定量を行った。 測定条件として,カラム(Shodex NH2P−50 内径4mm,長さ250mm)を使用し,移動相75%アセトニトリル(流速:1mL/min)により展開し,示差屈折計にて検出した。 既知濃度の乳糖水溶液と試料水溶液中の乳糖のピーク面積の比較により,試料中の総乳糖を算出した。

    2. 試料中の結晶乳糖類の定量2−1. 標準の調製(既知量の結晶乳糖類と粉乳との物理混合物)
    結晶性のない粉乳と,α型・乳糖一水和物結晶(和光純薬工業製,試薬特級)またはβ型・乳糖無水物結晶(SIGMA製,99%以上)を表1に示した重量で,ステンレス製ビーカー内に秤りとった。 粉末を擦り潰さないように注意して,スパーテルでよく混合した後,16メッシュ(mesh:目開き1000μm)の篩を通過させた。 この篩を通過させる操作を10回繰り返して均一性を高めて,5,10,20,40%の結晶乳糖類の標準(物理混合物)を得た。 なお,粉乳や固形乳からはα型・乳糖無水物結晶は検出されないことを確認した。

    2−2. 粉末X線回折標準および試料の粉末をアルミニウム試料板(直径25mm,深さ1mm)にとり試料台に取り付け,粉末X線回折装置(株式会社島津製作所製 XRD−6100型),X線源(Cu管球,CuKα線,40kV−30mA,湾曲グラファイトモノクロメータ使用)を使用して回折パターンを得た。 なお,固形乳はそのまま試料台に取り付けて測定した。 代表的な測定条件として,走査条件(連続走査2°/分,0.02°刻み,走査角度5〜40°),スリット条件(Divergence slite:1°,Scatter slite:1°,Receving slite :0.3mm)があげられる。

    2−3. 回折ピークの解析結晶乳糖類の標準(α型・乳糖一水和物結晶,β型・乳糖無水物結晶)の回折像を図2(a)および図2(b)に示した。
    回折像の内,2θ=12.5°のピーク(α型・乳糖一水和物結晶由来)および2θ=10.5°のピーク(β型・乳糖無水物結晶由来)について,平滑化とベース部分を差し引く処理を行った後,ピークの半値幅の2倍の幅の領域における積分強度を求めた。
    ピークの半値幅の2倍の幅の範囲とは,ピークの位置を中央として,両側に半値幅分ずつ幅をとり,その幅全体の範囲である。 それぞれの回折角のピークについて,結晶乳糖類の含有率と積分強度との間の相関性が認められた。
    試料についても同様に操作し,それぞれの回折角のピークについて積分強度を求めた。 標準と試料の積分強度の比から,試料中のα型・乳糖一水和物結晶とβ型・乳糖無水物結晶の含有率を算出した。
    なお,これらの測定についての積分強度は,各ピーク下の測定面積を基準とする。 あるいは,積分強度の粗い比較を行うために,ピークの高さを使用することができ,ピークの幅が比較的均一であるために,ピーク高さの比は比較される2つのピークの積分強度の比にほぼ等しい。

    3. 試料中の非結晶乳糖の定量 「試料中の非結晶乳糖 = 総乳糖 − 結晶乳糖類 (α型・乳糖一水和物結晶+β型・乳糖無水物結晶)」の算出式から求めた。

    [試験例2(硬度の評価)]
    固形乳や粉乳圧縮成形物(未硬化の固形乳)の硬度は,岡田精工株式会社製のロードセル式錠剤硬度計(岡田精工(株)製)を用いて測定した。 この硬度計の破断端子(幅1mm)で,直方体形状をなす固形乳や粉乳圧縮成形物の短軸方向に0.5mm/sの一定速度で押し,固形乳や粉乳圧縮成形物が破断したときの荷重[N]を求めて測定した。 つまり,前述のようにして求めた荷重を,固形乳や粉乳圧縮成形物の硬度(錠剤硬度)[N]とした。

    [試験例3(溶解性の評価)]
    固形乳の溶解性を,溶解度のように定量的に調べるものである。 具体的には,固形乳を2個(11.2g),ほ乳瓶に投入し,続いて,80g(80mL)の50℃の湯水(試験液)を,ほ乳瓶に注いで,溶質濃度を14重量%とし,この状態のまま10秒間で静置した。
    その後,手で円を描くように,ほ乳瓶を比較的穏やかに(具体的には,1秒あたり4回で)回転させながら,5秒間で振騰した。 そして,5秒が経過した直後に,ほ乳瓶の内容物の全量を,質量が既知の篩に配置した。 篩としては,32メッシュ(mesh:目開き500μm)のものを用いた。 そして,篩上にある溶解残渣の質量[g]を計測した。 具体的には,篩上の溶解残渣が篩から脱落しないように,溶解残渣と篩いの表面をふき取った後,篩と溶解残渣の総質量を計測し,この計測した総質量と,篩の質量との差を算出することで,篩上の溶解残渣の質量を求めた。 なお,この試験方法では,溶解残渣の質量が小さいほど,固形乳の溶解性が優れていたことを示している。

    [試験例4(空隙率の評価)]
    固形乳の空隙率は以下のようにして求めた。
    空隙率[%]=[1−(W/PV)]×100
    上記の数式において,Wは固形乳や粉乳圧縮成形物の重量[g]を示し,Pはベックマン空気式密度計を用いて測定した固形分や粉乳圧縮成形物の密度[g/cm ]を示し,Vはマイクロメーターで測定した厚みと,型(臼)の形状(幅及び奥行き)とから算出した固形乳や粉乳圧縮成形物の体積[cm ]を示す。

    [試験例5(付着力の評価)]
    トレイ上で加湿および乾燥した直後の固形乳について,日本電産シンポ株式会社製デジタルフォースゲージ(FGP−5)を用いて,トレイから剥離するのに要した力を測定した。

    [参考例1(粉乳の製造)]
    表2に示すように,水に脂肪,糖質,たん白質,乳及びミネラル類を加えて混合した液を,均質化,濃縮,噴霧乾燥の工程の順で処理することにより,様々な成分を含む粉乳を製造した。

    [参考例2(固形乳の製造)]
    参考例1で得た粉乳を原料として,圧縮成形し,加湿および乾燥することにより固形乳を製造した。
    加湿工程では,コンビオーブン(Combi oven,株式会社フジマック製,「FCCM6」)を加湿機として用いた。 このとき,加湿機内の室温を65℃,湿度を100%RHに維持し,それらの条件下に,粉乳圧縮成形物を45秒間(加湿時間)で放置した。 乾燥工程では,空気恒温槽(ヤマト科学(株)製,「DK600」)を乾燥機として用いて,当該粉乳圧縮成形物を95℃,湿度10%RH,5分間で乾燥した。 このようにして,固形乳を得た。

    (原料の粉乳中の非結晶乳糖の効果)
    粉乳1の組成(総乳糖43%)で,非結晶乳糖の含量が異なる粉乳(加湿法)から固形乳を製造した。 これらの固形乳の空隙率と溶解性はほぼ同等であったが,非結晶乳糖が15.5%の粉乳で製造した固形乳の硬度は8Nと低く,非結晶乳糖が43.0%の粉乳で製造した固形乳の硬度は43Nと大きく異なっていた(表3)。 走査型電子顕微鏡(SEM)で固形乳表面を観察した結果から,粒子同士の架橋形成の程度が大きく異なっていた。 一般的に非結晶体は結晶体より溶解性が高いことが知られており,蒸気で粉乳の圧縮成形物の表面近傍の非結晶乳糖が一旦,溶解して粒子同士の架橋を形成させ,硬度が増大したと考えられる。 以上より,溶解性確保の目的で高空隙率とした固形乳の場合,原料粉乳中に非結晶乳糖を含有することで,固形乳の硬度の増大に効果があることがわかった(図3)。

    (結晶乳糖類の混在による硬化:表面の改質,硬度増大)
    粉乳2の組成(総乳糖51%)で,結晶乳糖類の含量が異なる粉乳(粉乳製造過程で結晶乳糖類析出),粉乳2Aおよび粉乳2Bから固形乳を製造した(表4)。 これらの固形乳の空隙率と溶解性はほぼ同等であったが,硬度と製造直後の付着力の評価(粘着性)は大きく異なった。 また,固形乳表面の結晶乳糖類の含量や表面状態(SEM)も異なっていた(図4)。 図5は,粉乳2Aを用いて製造された固形乳の粉末X線回折スペクトルである。 図6は,粉乳2Bを用いて製造された固形乳の粉末X線回折スペクトルである。 図5及び図6とも,上から表面部分,表面から0.2mm,0.5mm,0.7mm,及び1.5mmにおける粉末X線回折スペクトルを示す。

    また,この粉乳2Aおよび粉乳2Bで製造した固形乳の中心部と表面部(表面から0.5mm内部までの間)とでの結晶乳糖類の含有量を測定した。 図7は,表面からの距離と乳糖結晶の含有率の関係を示すグラフである。 図7に示される通り,粉乳2Bを用いて製造されたものも表面部分には,結晶乳糖が10重量%以上存在した。 一方,図7に示される通り,この粉乳2Bを用いて製造された固形乳は,表面から0.2mmの位置において結晶乳糖の含有量が5重量%以下であった。 一方,図7に示される通り,粉乳2Aを用いて製造された固形乳は,表面から1.5mm以上の厚さで硬化層が形成されていた。 粉乳2Bで製造した固形乳は硬度が34Nと低く,固形乳表面における結晶乳糖類の量も少なく硬化層が薄かった。 一方,結晶乳糖類が3%の粉乳2Aで製造した固形乳は,固形乳表面での結晶乳糖類の量も多く,硬化層が厚く形成され,固形乳の硬度も61Nと高かった。 つまり,固形乳表面部の結晶乳糖類の量(厳密には結晶乳糖類の増加分:非結晶乳糖が一旦溶解し,結晶化した乳糖の量で,粒子同士の架橋形成に寄与する)は硬度と相関していた。 これは,原料粉乳中の結晶乳糖類が結晶化の核となって硬化工程において非結晶乳糖が結晶化することを促進したことによると考えられる。

    (結晶乳糖類の混在の効果2:表面改質の機作)
    粉乳1(総乳糖43%,結晶乳糖類0%,非結晶乳糖43%)に結晶乳糖類(α型・乳糖一水和物結晶)を0%,0.5%,2%を添加して固形乳を製造した(空隙率はいずれも47%)。 また,粉乳1に結晶乳糖類,ブドウ糖,デキストリン,炭酸カルシウムをそれぞれ1%添加し,固形乳を製造した(空隙率はいずれも47%)。
    図8は,粉乳1に異なった量の結晶乳糖類を添加して製造した固形乳の粘着性を示す。 原材料である粉乳1に結晶乳糖類を添加しない(=結晶乳糖類0%添加した)粉乳で製造した固形乳では,付着力(粘着性)が約14.5Nと高く,トレイから固形乳をはがしにくい状態であった。 さらに,固形乳表面の状態も,架橋と細孔バランスが悪いものであった(図10)。 一方,粉乳1に結晶乳糖類を添加した固形乳では,粘着性が低減され(図8),固形乳の表面も架橋と細孔が認められた(図10)。 また,粉乳1に乳糖を添加するかわりに,ブドウ糖,デキストリン,炭酸カルシウムを添加して製造した固形乳の粘着性では,乳糖以外の添加物では付着性は低減されなかった(図9)。
    このことから,原材料である粉乳に結晶乳糖類を0.5%以上存在させることで,硬化工程で結晶化が促進され,固形乳の表面に細孔が増し,粘着性を低減できることが明らかとなった。

    本発明の固形乳を実際に製造したところ,商品として製造・販売できることが分ったので,本発明の固形乳及びその製造方法は,粉乳の代替品及びその製造方法などとして食品産業において利用されうる。

    11 中心部12 表面部

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