Solid milk and method of making the same

申请号 JP2012141493 申请日 2012-06-22 公开(公告)号 JP2012196228A 公开(公告)日 2012-10-18
申请人 Meiji Co Ltd; 株式会社明治; 发明人 SHIBATA MITSUHO;
摘要 PROBLEM TO BE SOLVED: To provide a solid milk having adequate solubility and strength, and a method for making the solid milk.SOLUTION: The solid milk having sufficient strength and solubility is produced principally by using only powdered milk as an ingredient, compression molding the powdered milk in a condition that porosity and free fat content have been controlled within respective definite ranges and subjecting the molded milk to humidifying and drying treatment. That is, there are provided the solid milk having a porosity of 30-60%; and the solid milk production method comprising a compression step to press the powdered milk and obtain a solid compression-molded powdered milk, a humidifying step to humidify the compression-molded powdered milk obtained by the compression step, and a drying step to dry the compression-molded powdered milk humidified by the humidifying step.
权利要求
  • 粉乳を圧縮して固形状の粉乳圧縮物を得るための圧縮工程と,
    前記圧縮工程で得られた粉乳圧縮物を湿らせるための加湿工程と,
    前記加湿工程で加湿された粉乳圧縮物を乾燥させるための乾燥工程とを含み,
    前記圧縮工程における圧縮力が,50KPa〜30MPaである,固形乳の製造方法。
  • 前記圧縮工程において,原料に添加剤を実質的に添加しない請求項10に記載の固形乳の製造方法。
  • 前記圧縮工程において,脂肪含有率が5重量%以上の粉乳を用いる請求項10に記載の固形乳の製造方法。
  • 粉乳圧縮物の遊離脂肪含有率が0.5重量%〜4重量%である請求項10に記載の固形乳の製造方法。
  • 前記圧縮工程において,粉乳圧縮物の空隙率を30%〜60%となるように圧縮力を制御する請求項10に記載の固形乳の製造方法。
  • 前記圧縮工程は,圧縮成形機を用いて粉乳を圧縮して固形状の粉乳圧縮物を得るものであり,前記圧縮成形機の圧縮速度が,0.1mm/s〜100mm/sである請求項10に記載の固形乳の製造方法。
  • 前記圧縮工程における圧縮停滞時間が,0.1秒〜1分間である請求項10に記載の固形乳の製造方法。
  • 前記加湿工程において,前記粉乳圧縮物に加えられる水分の量が,前記圧縮工程後の粉乳圧縮物の質量の0.5%〜3%である請求項10に記載の固形乳の製造方法。
  • 前記加湿工程における加湿時間が,5秒〜1時間である請求項10に記載の固形乳の製造方法。
  • 前記乾燥工程において,固形乳の水分含有率を,原料として用いる粉乳の水分含有率の前後1%以内に制御する請求項10に記載の固形乳の製造方法。
  • 说明书全文

    本発明は,温に溶かして飲用する固形乳,及びその製造方法に関する。 より詳しくは,本発明は,好適な溶解性と強度とを有する固形乳,及びその製造方法に関する。

    粉乳は,乳などから生物の成育に必要な水分をほとんど取り除くことによって,保存性を高めた食品である。 水分を除去すると容積及び重量が減るので,粉乳を容易に輸送できる。 このように粉乳は,保存性,輸送の面で利点が多い。 粉乳は,粉乳同士の間に隙間があるので,粉乳の空隙率は,一般に60%〜70%であり,温水に容易に溶ける。 しかし,粉乳は,温水などに溶かす際に,その都度適量を計量しなければならない。 また,粉乳を計量する際や,粉乳を取り出す際などに,粉乳が散らかることがある。 そこで,粉乳を固形状態にした固形乳が提案されている(実開昭49−130189号公報(下記特許文献1),及び実開昭61−118280号公報(下記特許文献2)参照)。 しかし,粉乳を実際に固形状態にし,強度と溶解性とを両立させることは,容易ではなかった。 つまり,粉乳を固形状態にしても,容易に壊れ,扱いにくかった。 さらに固形乳は,粉乳に比べ表面積が少ないので,温水に溶けにくかった。

    実際に粉乳に圧を加えて固形状態にする場合,粉乳が乳化物であるため,圧力により乳化状態が壊れる。 すると,粉乳から脂肪がしみ出す(この脂肪は,「遊離脂肪」と呼ばれる)。 この遊離脂肪は,酸化しやすく,粉乳の風味を損なう。 また,粉乳を温水に溶かした際に,過剰の遊離脂肪は,水面に浮き凝集するという問題がある(この現象は,「オイルオフ」と呼ばれる)。 一方,特公昭49−4948号(下記特許文献3)には,「団粒化粉乳」が開示されている。 そして,「団粒化粉乳は,その内部組織が多孔質になっているため,浸水し易く,したがって,温湯中に投入すると容易に崩壊し,分散して溶解する」点が開示されている。 しかしながら,同公報における「団粒化粉乳」は,シュガー又はグルコースとの混合物であり,「コーヒー紅茶等に添加して使用するのにも適している」というものである。 すなわち,粉乳のみを原料とするものではないし,乳幼児に母乳の代わりに与えるものでもない。 特公昭49−4948号公報では,粉乳のみを原料とする場合の遊離脂肪の問題などから,顆粒状態の粉乳と,シュガー又はグルコースとの混合物を用いて「団粒化粉乳」としたのである。 顆粒状態の粉乳であれば固形化状態に比べ表面積が広くなるので,顆粒自体の空隙率が小さくても溶解性は高い。

    特公昭45−39018号公報(下記特許文献4)には,上記特公昭49−4948号公報と同様の技術が開示されている。 すなわち,溶け易い固形乳を得るためには,空隙容積を大きくすれば良い点や,粉乳を固形化する際に遊離脂肪の問題がある点が開示されている。 しかし,同文献では,「粉乳の単一粒子の増大化には限度がある」ので(同文献第2欄第30行目),「糖類に粉乳を付着させて,造粒した後成形乾燥すること」により「遊離脂肪の少ない易溶性固形乳」を得ている(同文献第3欄第13行目〜第15行目)。 すなわち,同文献も粉乳のみを固形状態とした固形乳を得ることはできないとされている。 さらに,この公報に記載された固形乳は,糖類に粉乳を付着させて得られたものなので,芯となる糖類が存在するし,空隙率は低くなる。 また,組成が均一な固形乳を得ることはできない。

    特開昭53−59066号公報には,「固形ミルクタブレット」が開示されている。 この固形ミルクタブレットは,脂肪分を表面に浸出させ,脂肪の被膜により外気と遮断された高密度のタブレットである。 同文献の固形ミルクは,高密度のタブレットが望ましいので,その空隙率は低い。

    特許第3044635号公報には,「冷凍ミルク」が開示されている。 この冷凍ミルクは,凍らせるために水分を多く含んでおり,空隙は殆どない。

    また,スープなど食品の分野において,熱水をかけて溶かす固形状の食品が知られている(特開平11−127823号公報,特開2004−49220号公報,及び特開2004−49221号公報)。 これらは,一般に崩壊剤などが添加されている。 また,これらの原料は,粉乳ではないため,粉乳特有の遊離脂肪などの問題はない。 すなわち,固形状のスープなどが知られているが,これらの技術を単に固形乳を製造する際に転用しても,固形乳の原料である粉乳には脂肪が多いので,固形乳を得ることはできない。

    また,医薬の分野においては,口のなかで容易に溶ける様々な「口腔内速崩壊錠」が開発されている(たとえば,特開平5−271054号公報,特開平8−291051号公報,特開平09−048726号公報,特開2000−95674号公報,特開2000−44463号公報,特開2001−89398号公報,特開2004−049220号公報,及び特許第2650493号公報)。 しかしながら,一般的に医薬の組成においては有効成分が占有する重量割合が少ないことから,有効成分以外である賦形剤などの添加剤を多く配合することができ,組成設計は比較的容易である。 よって,医薬は,一般に強度が高く,空隙率を調整して溶解性を制御する必要がない。 また,医薬は,粉乳のような脂肪を多く含むものではない。 したがって,「口腔内速崩壊錠」における「速崩壊」技術をそのまま,固形乳に転用することはできない。 また,「口腔内速崩壊錠」は,口腔内のわずかな水分により,迅速に溶けなければならない。 一方,固形乳は,一般には温水に溶かし飲用するものであって,直接口にするものではないので,「口腔内速崩壊錠」程の速溶解性は必要とされない。

    実開昭49−130189号公報

    実開昭61−118280号公報

    特公昭49−4948号公報

    特公昭45−39018号公報

    本発明は,好適な溶解性と強度とを有する固形乳及びその製造方法を提供することを目的とする。

    本発明は,運搬などの取り扱いが容易であり,計量が容易である固形乳及びその製造方法を提供することを別の目的とする。

    本発明は,風味の劣化やオイルオフなど遊離脂肪に起因する経時劣化の少ない固形乳及びその製造方法を提供することを別の目的とする。

    本発明は,成分組成を栄養成分だけで制御できる固形乳及びその製造方法を提供することを別の目的とする。 特に,本発明は,添加物を添加することなく,好適な溶解性と強度とを有する固形乳及びその製造方法を提供することを目的とする。

    本発明は,粉乳に滑沢剤などの添加剤を添加せずに,そのまま固形乳を製造できる固形乳の製造方法を提供することを別の目的とする。

    本発明は,製造工程において,圧縮成形機の杵やうすに粉乳が付着する事態を防止できる固形乳の製造方法を提供することを別の目的とする。

    本発明は,粉乳を製造した後,粉乳のみならず,その粉乳に基づく固形乳をも製造できる粉乳及び固形乳の製造方法を提供することを別の目的とする。

    本発明は,基本的には,粉乳のみを原料として空隙率及び遊離脂肪を一定範囲に制御した状態で圧縮成形した後,加湿及び乾燥処理することにより,充分な強度と溶解性とを兼ね備える固形乳を得ることができるとの知見に基づくものである。 上記の課題のうち少なくとも一つは,以下の固形乳及び固形乳の製造方法によって解決される。

    [1] 本発明の固形乳のひとつの側面は,空隙率が,30%〜60%である固形乳である。 先に説明したとおり,昭和40年代の終わり頃から,固形乳を製造しようとする提案はあった。 しかしながら,硬い固形乳は溶けにくく,溶解性の高い固形乳はもろいという問題がある。 そのため,硬度と溶解性の両方を満足する固形乳は,得られなかった。 本発明者らは,空隙率,原料中の脂肪の含有率,水分含有率,圧縮力,圧縮速度,圧縮停滞時間(最高圧縮変位を維持する時間),遊離脂肪の量,加湿条件,及び乾燥条件などの条件を制御して固形乳を製造することにより,空隙率が30%〜60%である固形乳を初めて製造したのである。 そして,このようにして製造した固形乳は,硬度と溶解性とを備えたものであった。 すなわち,本発明の固形乳は,空隙率が30%〜60%であるので,製造時において必要な硬度と、使用時において必要な溶解性とを得ることができる。

    [2] 本発明の固形乳の別の側面は,脂肪の含有率が,5重量%以上である上記[1]に記載の固形乳である。 なお,「脂肪の含有率」とは,固形乳全体の重量における脂肪の割合を意味する。 そして,脂肪の含有率の「5重量%以上」として,より具体的には後述のとおり5重量%〜70重量%などがあげられる。
    [3] 本発明の固形乳の別の側面は,脂肪として,乳化した脂肪と遊離脂肪とを含み,前記遊離脂肪の含有率(固形乳全体の重量における遊離脂肪の割合)が0.5重量%〜4重量%である上記[1]に記載の固形乳である。 後に説明するように,本発明の固形乳は,従来発生させないことが望ましいとされた遊離脂肪を積極的に含むことにより,所定の空隙を有する固形乳を得るものである。
    [4] 本発明の固形乳の別の側面は,水の含有率が,1重量%〜4重量%である上記[1]に記載の固形乳である。
    [5] 本発明の固形乳の別の側面は,体積が,1cm 〜50cm である上記[1]に記載の固形乳である。 本発明の固形乳は,固形乳であるので従来の粉乳に比べ大きな体積を持ち,容易に適量を計量でき,又運搬も便利である。
    [6] 本発明の固形乳の別の側面は,原料として粉乳を用い,固形乳の組成が均一である上記[1]に記載の固形乳である。 原料として遊離脂肪を含むなど所定の粉乳を用いるので,糖による核などを形成しなくとも,粉乳のみからなる固形乳を製造できる。
    [7] 本発明の固形乳の別の側面は,粉乳のみを原料とする上記[1]に記載の固形乳である。 粉乳のみを原料とすれば,容易に均一な組成の固形乳を得ることができる。
    [8] 本発明の固形乳の別の側面は,50℃の水100mlに固形乳を1個入れ,1.5往復/s,振幅30cmの振とう条件において,固形乳が完全になくなるまでに要する時間が5秒〜60秒である上記[1]に記載の固形乳である。 本発明の固形乳は,所定の空隙率を有するので,速溶解性を有するものであり,商品として市場の要求を満足できる。
    [9] 本発明の固形乳の別の側面は,試料の破断面の面積が最小となる方向に荷重をかけて破断するときの力が,20N〜300Nである上記[1]に記載の固形乳である。 本発明の固形乳は,ある程度の硬度を有するので,運搬の際に壊れる事態などをある程度防止し得る。 なお,本発明の固形乳の別の側面は,30%〜60%の空隙率を有し,脂肪の含有率が5重量%〜70重量%であり,遊離脂肪の含有率が固形乳全体の0.5重量%〜4重量%であり,水の含有率が,1重量%〜4重量%であり,体積が1cm 〜50cm であり,原料として粉乳のみを用いた固形乳である。 このような構成を採用する固形乳は,上記[8]で表される速溶解性や上記の硬度を有するものである。

    [10] 本発明の固形乳の製造方法のある側面は,粉乳を圧縮し固形状の粉乳圧縮物を得るための圧縮工程と,前記圧縮工程で得られた粉乳圧縮物を湿らせるための加湿工程と,前記加湿工程で加湿された粉乳圧縮物を乾燥させるための乾燥工程とを含み,前記圧縮工程における圧縮力が,50KPa〜30MPaである,固形乳の製造方法である。
    [11] 本発明の固形乳の製造方法の別の側面は,前記圧縮工程において,原料に添加剤を実質的に添加しない上記[10]に記載の固形乳の製造方法である。
    [12] 本発明の固形乳の製造方法の別の側面は,前記圧縮工程において,脂肪含有率が5重量%以上の粉乳を用いる上記[10]に記載の固形乳の製造方法である。
    [13] 本発明の固形乳の製造方法の別の側面は,粉乳圧縮物の遊離脂肪含有率が0.5重量%〜4重量%である上記[10]に記載の固形乳の製造方法である。 本発明の製造方法においては,従来発生させないことが望ましいとされた遊離脂肪を積極的に含むことにより,所定の空隙を有する固形乳を得ることができる。
    [14] 本発明の固形乳の製造方法の別の側面は,前記圧縮工程において,粉乳圧縮物の空隙率を30%〜60%となるように圧縮力を制御する上記[10]に記載の固形乳の製造方法である。
    [15] 本発明の固形乳の製造方法の別の側面は,前記圧縮工程は,圧縮成形機を用いて粉乳を圧縮して固形状の粉乳圧縮物を得るものであり,前記圧縮成形機の圧縮速度が,0.1mm/s〜100mm/sである[10]に記載の固形乳の製造方法である。 後述する実施例において実証されたとおり,圧縮成形機の圧縮速度(杵の移動速度)が小さいと,粉乳を固形化するために時間がかかることとなるが,高い空隙率を有し,しかも硬度が高く溶解性に優れた固形乳を得ることができた。 よって,上記の範囲の圧縮速度であれば,好ましい固形乳を得ることができるといえる。 後述する実施例によって示されるとおり,空隙率が大きい(たとえば50%より大きい)場合には,圧縮速度を0.1mm/s〜40mm/sとして,所定の硬度を維持しつつ,溶解性を向上させることができた。 一方,空隙率が小さい(たとえば空隙率50%以下である)場合には,圧縮速度を100mm/s程度としても,所定の硬度を維持しつつ,所定の溶解性を達成できた。
    [16] 本発明の固形乳の製造方法の別の側面は,前記圧縮工程における圧縮停滞時間(最高の圧縮変位を維持する時間)が,0.1秒〜1分間である上記[10]に記載の固形乳の製造方法である。
    [17] 本発明の固形乳の製造方法の別の側面は,前記加湿工程において,前記粉乳圧縮物に加えられる水分の量が,前記圧縮工程後の粉乳圧縮物の質量の0.5%〜3%である上記[10]に記載の固形乳の製造方法である。
    [18] 本発明の固形乳の製造方法の別の側面は,前記加湿工程における加湿時間が,5秒〜1時間である上記[10]に記載の固形乳の製造方法である。
    [19] 本発明の固形乳の製造方法の別の側面は,前記乾燥工程において,固形乳の水分含有率を原料として用いる粉乳の水分含有率の前後1%以内に制御する上記[10]に記載の固形乳の製造方法である。

    本明細書において「空隙率」とは,粉体の嵩体積中空隙が占める体積の割合を意味し(たとえば,宮嶋孝一郎編集「医薬品の開発」(第15巻)廣川書店平成元年(1989年)発行,第240頁参照),より具体的には後述の試験例における「固形乳の空隙率測定」により測定される値を意味する。

    本明細書において「粉乳」とは,乳脂肪及び植脂などの脂溶性成分と;水,糖類,たん白質(ペプチドやアミノ酸も含む)及びミネラルなどの水溶性成分とを,混合したものを乾燥して粉末状にした調製乳などを意味する。 また,粉乳の例として,全脂粉乳,調製粉乳,及びクリーミーパウダーなどがあげられる。

    本明細書において「固形乳」とは,常温にて固形状態に調製した乳類を意味する。 固形乳は,より具体的には,粉乳を所定の大きさ,重量に成形したものであり,水に溶かすと,粉乳を水に溶かしたものと同様なものになるものを意味する。

    本明細書において「組成が均一」とは,固形乳の全ての部位において,その組成が実質的に同様であることを意味する。 なお,固形化や溶解性の付与を目的としていない成分を添加・混合してから圧縮成型する場合なども「組成が均一」であるとする。 ただし,たとえば,特許文献3,又は特許文献4のように,粒径の大きな糖類などを核として、粒径の小さい粉乳を付着させた状態は,ここでいう「組成が均一」とはいえない。 ただし,固形乳を製造した後,表面にコーティング層を設けた場合は,そのコーティング層の内部が固形乳であり,その固形乳の「組成が均一」といえる。

    本明細書において「添加剤」とは,結合剤,崩壊剤,滑沢剤及び膨張剤などの栄養成分以外の剤を意味する。

    本明細書において「添加剤を実質的に添加しない」とは,原料として基本的に粉乳のみを用いることを意味し,添加剤が固形乳の栄養成分に影響を与えない量,例えば0.5重量%以下(好ましくは,0.1重量%以下)である場合を意味する。 なお,本発明において,原料として粉乳のみを用い,粉乳以外の添加剤を用いないことが好ましい。

    本発明によれば,固形乳の空隙率を制御することにより,好適な溶解性と強度とを有する固形乳及びその製造方法を提供できる。

    本発明によれば,所定の形状や大きさを有する固形乳を提供できるので,運搬などの取り扱いが容易であり,計量が容易である固形乳及びその製造方法を提供できる。

    本発明によれば,粉乳の保存中に脂質が酸化劣化して起こる風味低下の原因とされていた遊離脂肪を,支障のない範囲で意図的に発生させる。 そして,遊離脂肪を滑沢剤などとして有効に活用することで添加剤を加えることなく,遊離脂肪に起因する経時劣化の少ない固形乳及びその製造方法を提供できる。

    本発明によれば,粉乳をそのまま固形乳にできるので,粉乳自体の組成を制御することで固形乳の成分組成を栄養成分だけで制御できる固形乳及びその製造方法を提供できる。

    本発明によれば,その圧縮工程において,粉乳の遊離脂肪率,粉乳の空隙率及び水分量(特に遊離脂肪率)を適切な範囲に制御することにより,圧縮成形機の杵やうすに粉乳が付着する事態を防止でき,生産性の高い固形乳の製造方法を提供できる。

    本発明によれば,上記のとおり,遊離脂肪を添加剤の代わりとして有効に活用できるので,粉乳に滑沢剤などの添加剤を添加せずに,そのまま固形乳とすることができる固形乳の製造方法を提供できる。

    本発明によれば,粉乳を製造した後,粉乳のみならず,その粉乳に基づく固形乳をも製造できる粉乳及び固形乳の製造方法を提供できる。

    1. 固形乳本発明の固形乳は,空隙率が30%〜60%(30%以上60%以下)の固形乳である。 空隙率が大きいほど,溶解性が高くなるが,強度が弱くなる。 また,空隙率が小さいと,溶解性が低くなる。 この空隙率は,おもに圧縮工程の圧縮力によって制御される。 なお,本発明において,好ましい空隙率は,35%〜50%でもよいが,空隙率をその用途などに応じて調整し30%〜35%,30%〜45%,40%〜45%,又は40%〜50%としてもよい。 また,後述する実施例により実証されたように,空隙率,原料中の脂肪の含有率,水分含有率,圧縮率,圧縮速度,圧縮停滞時間(最高圧縮変位を維持する時間),遊離脂肪の量,加湿条件,及び乾燥条件などを適宜調整することで,高い空隙率を有する固形乳であっても,優れた溶解性と硬度を有するものを得ることができる。 よって,本発明における好ましい固形乳の空隙率として,50%より大きく65%以下のものがあげられ,50%より大きく60%以下でもよく,50%より大きく60%未満でもよく,50%より大きく58%以下でもよく,50%より大きく55%以下でもよい。 また,空隙率が55%〜65%でもよく,55%〜60%でもよく,55%〜58%でもよい。 これらのような空隙率の範囲となるように調整すれば,後述のとおり,オイルオフなどの問題を解決した良好な固形乳を得ることができる。

    それぞれの空隙は,固形乳に複数存在することが好ましい。 各空隙(孔)は、好ましくは均一に分散している。 空隙が固形乳でほぼ一様に分布するので,より高い溶解性を得ることができる。 空隙が大きいほど水の侵入が容易であり速溶解性を得ることができる。 一方,空隙の大きさが大きすぎると強度が弱くなるか,又は固形乳の表面が粗くなる。 そこで,空隙の大きさは,10μm〜500μmがあげられ,好ましくは50μm〜300μmである。 この空隙の大きさは,公知の手段,例えば固形乳の表面及び断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察することにより測定できる。

    固形乳の成分は,水分量を除く他,基本的には原料となる粉乳の成分と同様である。 固形乳の成分として,脂肪,糖質,たん白質,ミネラル,及び水分があげられる。

    固形乳の脂肪含有率は,例えば5重量%〜70重量%があげられ,好ましくは5重量%〜50重量%であり,より好ましくは10重量%〜45重量%である。

    本発明の固形乳は,脂肪として,乳化した脂肪と遊離脂肪とを含んでいてもよい。 すなわち,従来の粉乳や固形乳においては,遊離脂肪が風味を損ねる・温水に溶解した際に水に浮く(オイルオフ)などの問題があり積極的に排除されてきた。 本発明の固形乳は,好ましくはこの遊離脂肪を積極的に含有する。 そして,この遊離脂肪を,滑沢剤などの代わりに有効活用する。 これにより,本発明は添加剤を用いなくても良好な固形乳を製造できる。 ただし,遊離脂肪が多すぎるとオイルオフの問題が生ずる。 そこで,本発明の固形乳において遊離脂肪の含有率は,0.5重量%〜4重量%があげられ,好ましくは0.7重量%〜3重量%であり,より好ましくは1重量%〜2.5重量%である。 これらの範囲であれば,後述の実施例において示されるとおり,好適な硬度,溶解性,及び過度なオイルオフを抑制できるからである。 なお,オイルオフが問題となる遊離脂肪の量は,原料として用いる粉乳中の脂肪組成,及び脂肪球径などの物性により異なるので,固形乳に含まれる遊離脂肪の量は,上記の範囲内で適宜修正すればよい。 なお,固形乳を製造する際に,同じ原料を用いても,たとえば圧縮工程における圧縮速度(圧縮成形機の杵の移動速度,圧縮変位を圧縮時間で除したもの)を遅くすると高い空隙率を有しつつ,ある程度の硬度を有した固形乳を得ることができる。 そして,そのようにして固形乳を製造した場合,遊離脂肪が多くなる傾向がある。 したがって,本発明では,遊離脂肪が通常の固形乳より多く含まれるものであってもよい。

    固形乳に含まれる水分が多いと保存性が悪くなり,水分が少ないともろくなる。 したがって,固形乳の水分含有率として,1重量%〜4重量%があげられ,好ましくは2重量%〜3.5重量%である。

    本発明の固形乳の形状は,ある程度の大きさをもつものであれば,特に眼定されない。 固形乳の形状として,円柱状,楕円柱状,立方体状,直方体状,板状,球状,多柱状,多角錐状,多角錐台状,及び多面体状のものがあげられ,持ち運びの便利さなどの観点から円柱状又は四角柱状が好ましい。 なお,固形乳が壊れる事態を防止するため,好ましくは角部分に面取りが施されている。

    本発明の固形乳は,1個〜数個の固形乳(好ましくは1個の固形乳)を温水に溶解すれば,飲用する際の1回分の乳となるものが好ましい。 したがって,固形乳の体積は,1cm 〜50cm があげられ,好ましくは2cm 〜30cm であり,より好ましくは4cm 〜20cm である。

    本発明の固形乳は,ある程度の溶解性を持っている必要がある。 本発明の固形乳は,後述の溶解性測定条件で,60秒以下の溶解性のものがあげられ,好ましくは45秒以下であり,より好ましくは30秒以下である。 ただし,時間が短すぎると,均一な液体が得られないため,5秒以上の溶解性のものが好ましい。

    本発明の固形乳は,運搬する際に壊れる事態を極力さけるため,ある程度の強度を持つ必要がある。 本発明の固形乳は,後述の錠剤硬度測定条件で,20N以上の硬度を有するものが好ましい。 一方,溶解性の観点から,300N以下の硬度のものが好ましい。 なお,固形乳の硬度として,30N以上200N以下でもよいし,50N以上100N以下でもよい。 本明細書において,硬度とは,後述するように錠剤硬度の測定条件における硬度を意味する。

    2. 製造工程 本発明の固形乳の製造方法は,粉乳を圧縮し固形状の粉乳圧縮物を得るための圧縮工程と,圧縮工程で得られた粉乳圧縮物を湿らせるための加湿工程と,加湿工程で加湿された粉乳圧縮物を乾燥させるための乾燥工程とを含む。

    2.1. 圧縮工程 圧縮工程は,粉乳を圧縮し固形状の粉乳圧縮物を得るための工程である。 圧縮工程では,粉乳を次工程へ移行できる程度の比較的低い圧力で粉乳を打錠することにより,水が侵入するための空隙を確保した粉乳圧縮物を得る。 圧縮工程では,適切な空隙を設けた保形性のある粉乳圧縮物を製造するという要件を満たすように粉乳を圧縮する。 すなわち,この圧縮工程での空隙率が,固形乳の空隙率と密接に関連する。 また,粉乳圧縮物の潤滑性が乏しければ,打錠機などの装置に粉乳圧縮物の一部が付着するという打錠障害の問題を生ずる。 さらに,粉乳圧縮物の保形性が悪ければ,固形乳を製造する過程において,形状を保てないものができるという問題を生ずる。

    圧縮工程における原料として,好ましくは粉乳のみを用い,添加剤を実質的に添加しない。 粉乳は,市販のものを購入しても良いし,公知の製造方法(例えば,特開平10−262553号公報,特開平11−178506号公報,特開2000−41576号公報,特開2001−128615号公報,特開2003−180244号公報及び特開2003−245039号公報に記載の製造方法など)により製造したものを用いても良い。 粉乳の組成は,上記の固形乳と同様のものがあげられる。 なお,圧縮工程の原料に,脂肪を添加しても良い。 ただし,脂肪を添加すると,この脂肪はオイルオフのもととなる。 そして,添加された脂肪は,粉乳の表面に付着するので,臼への充填精度が下がることとなる。 したがって,圧縮工程において,好ましくは目標となる遊離脂肪量を含むように製造した粉乳を用いる。

    粉乳の脂肪の含有率が大きい場合は,圧縮力が小さくてすむ。 一方,粉乳の脂肪の含有率が小さい場合は,圧縮力を大きくしなければならない。 よって,脂肪の含有率が大きい粉乳を用いるほど,適切な空隙を設ける,保形性のある粉乳圧縮物を製造するという要件を満たすことができる。 このような観点から,粉乳の脂肪の含有率は,たとえば5重量%〜70重量%があげられ,好ましくは5重量%〜50重量%であり,より好ましくは10重量%〜45重量%である。

    粉乳は,上記のとおり遊離脂肪を含んでいるものが好ましい。 本発明では,この遊離脂肪を,滑沢剤などの代わりに有効活用する。 これにより,本発明は添加剤を添加しなくても良好な固形乳を製造できる。 本発明の固形乳において遊離脂肪の含有率は,0.5重量%〜3重量%があげられ,好ましくは0.7重量%〜2.4重量%であり,より好ましくは1重量%〜2重量%である。

    粉乳に含まれる水分が多いと保存性が悪くなり,水分が少ないともろくなる(保形性が悪くなる)。 したがって,粉乳の水分含有率として,1重量%〜4重量%があげられ,好ましくは2重量%〜3.5重量%である。

    圧縮工程では,粉乳を圧縮し固形状の粉乳圧縮物を得るための圧縮手段により粉乳圧縮物を製造する。 圧縮手段は,粉乳を圧縮し固形状の粉乳圧縮物を得ることができるものであれば特に限定されない。 圧縮手段として,公知の打錠機,圧縮試験装置などの加圧成形機があげられ,好ましくは打錠機である。 なお,打錠機として,例えば,特公昭33−9237号公報,特開昭53−59066号公報,特開平6−218028号公報,特開2000−95674号公報,及び特許第2650493号公報に記載のものがあげられる。

    なお,圧縮成形機を用いて粉状物を圧縮する場合,たとえば,粉状物を臼に入れ,杵を打ち付けることにより粉状物に圧縮力を付加し,固形状とする。 なお,この際に粉状物が,潤滑性に乏しければ,杵の表面に粉状物が付着する事態が生ずる。 これは,製品の品質を悪くするだけではなく,杵の表面を清掃しなければならなくなり,歩留まりが低下する。 そこで,滑沢剤を添加することが,特に医薬を製造する際に行われている。 しかし,滑沢剤は,水に溶けにくいワックスである。 したがって,固形乳のように,温水に溶かした状態で飲用するものについては,滑沢剤を添加することは望ましくない。 これは,固形乳を製造困難にさせていた理由のひとつである。 本発明は,上記のとおり,これまでできるだけ発生させないことが望ましいとされていた遊離脂肪を滑沢剤として適量用い,これにより粉乳が杵に付着する事態を防止したものである。 さらには,上記のとおり,適切な空隙率をもつ粉乳圧縮物を得ることで,溶解しやすく,保形性に優れた固形乳を得ることができたものである。 また,崩壊剤を添加すると沈殿物が生ずるなどの事態が起きるが,本発明の固形乳の製造方法では,崩壊剤が不要であるので,このような事態を有効に回避できる。

    圧縮工程における環境温度は,特に限定されず,たとえば室温にて行うことができる。 より具体的には,圧縮工程における環境温度として,10℃〜30℃があげられる。 圧縮工程における湿度は,例えば30%RH〜50%RHがあげられる。 圧縮工程において好ましくは,粉乳の圧縮作業を連続的に行う。

    後述する実施例により確認されたとおり,圧縮工程における圧縮速度(圧縮成形機の杵の移動速度)を遅くすると,粉乳を固形化するために時間がかかることとなるが,高い空隙率を有しつつ,ある程度の硬度を有した固形乳を得ることができる。 一方,圧縮速度を速くすると,粉乳を固形化するための製造能力は高くなるが,硬さを維持した固形乳を得ることが困難となる。 このような観点から,打錠剤の圧縮速度として,0.1mm/s〜100mm/sがあげられ,好ましくは0.5mm/s〜40mm/sであり,より好ましくは2mm/s〜20mm/sであり,さらに好ましくは3mm/s〜10mm/sである。 空隙率が大きい(たとえば空隙率50%より大きい)場合には,圧縮速度を0.1mm/s〜40mm/sとして,所定の硬度を維持しつつ,溶解性を向上させることができた。 一方,空隙率が小さい(たとえば空隙率50%以下である)場合には,圧縮速度を100mm/s程度としても,所定の硬度を維持しつつ,所定の溶解性を達成できた。 圧縮速度が遅いと,固形乳を製造する際に多くの時間がかかることとなるが,先に説明したとおり,高い空隙率を有しつつ高度を維持した固形乳を得ることができるので,好ましい。 圧縮成形機の圧縮力として,50KPa〜30MPaがあげられ,好ましくは0.1MPa〜10MPaであり,より好ましくは0.1MPa〜8MPaであり,更に好ましくは0.1MPa〜5MPaであり,更に好ましくは0.1MPa〜3MPaであり,特に好ましくは0.1MPa〜1MPaである。 なお,製造時間を短くする観点から,圧縮力を1MPa以上としてもよく,2MPa以上としてもよい。 なお,圧縮力とは,最高圧縮変位において粉体層に加わる単位面積当たりの圧力を意味し,市販のロードセルなどにより測定することができる。 特に限定されないが,圧縮変位として2mm〜4mmがあげられ,圧縮時間として0.3s〜1sがあげられる。

    なお,上記の圧縮速度を達成するために,圧縮成形機として単発式打錠機のような単軸往復式の打錠機を用いた場合は,往復する杵の移動速度を調整すればよい。 また,圧縮成形機としてロータリー式の打錠機を用いた場合は,回転数を調整することにより杵の移動速度を調整してもよい。

    なお,圧縮工程において圧縮停滞時間(最高の圧縮変位を維持する時間)を設けるものは,本発明の好ましい実施態様である。 後述する実施例により実証されたとおり,この圧縮停滞時間がないものに比べ,わずかであってもあえて所定時間の圧縮停滞時間を設けることで,得られる固形乳の空隙率が減少し,硬度が高まることがわかった。 よって,高い硬度を有する固形乳を得るために,たとえば0.1秒〜1分間,好ましくは0.1秒〜30秒,より好ましくは0.1秒〜5秒,更に好ましくは0.1秒〜2秒の圧縮停滞時間を設けることがあげられる。 圧縮停滞時間が長いと,固形乳を製造する際に多くの時間がかかることとなるが,先に説明したとおり,適度な空隙率を有しつつ硬度を維持した固形乳を得ることができるので,好ましい。

    2.2. 加湿工程 加湿工程は,圧縮工程で得られた粉乳圧縮物を湿らせるための工程である。 粉乳圧縮物を湿らせることにより,粉乳圧縮物の表面近傍の粒子が一部溶解し,架橋する。 これにより,粉乳圧縮物の表面近傍の強度が増大することとなる。

    加湿工程では,粉乳圧縮物を湿らせるための加湿手段により粉乳圧縮物を湿らせることができる。 加湿手段として,高湿度室,スプレー,及びスチームなど公知の加湿手段があげられる。 また,加湿方法として,高湿度環境下に置く方法,スプレーにより水を噴霧する方法,蒸気を吹き付ける方法など公知の加湿方法を採用できる。 なお,高湿度環境における湿度として,たとえば60%RH〜100%RHがあげられ,好ましくは80%RH〜100%RHであり,より好ましくは90%RH〜100%RHである。 また,高湿度環境下に置く時間として,例えば5秒〜1時間があげられ,好ましくは10秒〜20分であり,より好ましくは15秒〜15分である。 ただし,加湿時間は,湿度,温度,および要求される固形乳の物性などに応じて適宜調整すればよく,加湿時間は,たとえば,1分〜15分でもよく,1分〜5分でも,5分〜15分でも,5分〜10分でもよい。 高湿度環境下に置く方法における温度として,たとえば30℃〜100℃があげられ,好ましくは40℃〜80℃である。 加湿工程では,高温高湿の条件であるほど短時間の処理でよい。 なお,後述する実施例によって実証されたとおり,加湿時間を一定範囲とすることで,得られる固形乳の硬度を向上させることができる。

    加湿工程で,粉乳圧縮物に加えられる水分の量(以下,「加湿量」ともいう。)は,適宜調整すればよい。 しかし,本発明では,基本的には,原料として粉乳のみを用いるので,後述の実施例(実施例5)及び図3により示されるとおり,加湿量として,以下の範囲が望ましい。 すなわち,加湿量を0.5%とすると,硬度が増大し,加湿量を1%とすると硬度が約2倍となる。 このように,加湿量が増えるにつれ硬度も大きくなる傾向にある。 一方,加湿量が,2.5%以上で,硬度の増加は止まった。 また,加湿量が3%を越えると,粉乳圧縮物が溶解し,変形するものや,移送中に装置に付着するものがでた。 そこで,粉乳圧縮物に加えられる水分の量として,粉乳圧縮物の質量の0.5%〜3%が好ましく,1%〜2.5%がより好ましい。

    2.3. 乾燥工程 乾燥工程は,加湿工程で加湿された粉乳圧縮物を乾燥させるための工程である。 乾燥工程により,加湿工程で加湿された粉乳圧縮物が乾燥するので,表面タック(べとつき)がなくなり,固形乳を製品として扱うことができるようになる。 乾燥工程における乾燥方法として,加湿工程で加湿された粉乳圧縮物を乾燥させることができる公知の方法を採用でき,たとえば,低湿度・高温度条件下に置く方法,乾燥空気・高温乾燥空気を接触させる方法などがあげられる。

    低湿度・高温度条件下に置く方法おける「湿度」として,0%RH〜30%RHがあげられ,好ましくは0%RH〜25%RHであり,より好ましくは0%RH〜20%RHである。 このように,湿度はできるだけ低く設定することが好ましい。 低湿度・高温度条件下に置く方法おける「温度」として,20℃〜150℃があげられ,好ましくは30℃〜100℃であり,より好ましくは40℃〜80℃である。 低湿度・高温度条件下に置く方法おける「乾燥時間」として,0.2分〜2時間があげられ,好ましくは0.5分〜1時間であり,より好ましくは1分〜30分である。

    先に説明したとおり,固形乳に含まれる水分が多いと保存性が悪くなり,水分が少ないともろくなる。 したがって,乾燥工程においては,乾燥温度や乾燥時間などの条件を制御することによって,固形乳の水分含有率を原料として用いる粉乳の水分含有率の前後1%以内(好ましくは前後0.5%以内)に制御することが好ましい。

    3. 粉乳及び固形乳の製造方法 本発明の粉乳及び固形乳の製造方法は,粉乳を製造する工程と,その粉乳を原料として固形乳を製造する工程とを含む。 なお,粉乳を製造する工程で製造された粉乳の一部を,そのまま粉乳として容器に充填し,製品としても良い。 このようにすることにより,粉乳及び固形乳を得ることができる。

    3.1. 粉乳の製造方法 粉乳の製造工程は全粉乳、脱脂粉乳、育児用粉乳に代表される調製粉乳など製品の種類によって詳細は異なる。 しかし,基本的には,「原料(調整)→ 清澄化 → 殺菌 → 濃縮→(均質化)→ 噴霧乾燥 → 篩過 → 充填」の工程により,粉乳を製造できる。 なお,噴霧乾燥後の粉乳の大きさは,5μm〜150μm程度であり,粉乳の造粒物の大きさは,100μm〜500μm程度である。 また,粉乳とその造粒物とが混ざり合った状態では,その空隙は5μm〜150μm程度である。

    粉乳の原料として,乳があげられる。 乳として,生乳があげられ,より具体的には,牛(ホルスタイン,ジャージー種その他),山羊,羊,水牛などの乳があげられる。 これらを遠心分離等の方法により,脂肪分の一部を取り除くことにより脂肪の含有量を調節することができる。 また,下記の栄養成分などを添加することもできる。 一方,調製粉乳を製造する場合は,水に下記の栄養成分を加え,混合して用いる。
    上記の原料液を公知の製造方法である「清澄化」,「殺菌」,「均質化」,「濃縮」,「噴霧乾燥」,「篩過」,及び「充填」の工程で処理することにより粉乳を製造することができる。

    粉乳の原料となるたん白質として,カゼイン,乳清たん白質(α−ラクトアルブミン,β−ラクトグロブリンなど),乳清たん白質濃縮物(WPC),乳清たん白質分離物(WPI)などの乳たん白質及び乳たん白質分画物;卵たん白質などの動物性たん白質;大豆たん白質,小麦たん白質などの植物性たん白質;これらのたん白質を酵素などにより種々の鎖長に分解したペプチド;及びさらにタウリン,シスチン,システィン,アルギニン及びグルタミンなどのアミノ酸;を単独又は混合して用いることができる。

    粉乳の原料となる油脂として,乳脂肪,ラード,牛脂および魚油などの動物性油脂や大豆油,ナタネ油,コーン油,ヤシ油,パーム油,パーム核油,サフラワー油,綿実油,アマニ油,MCTなどの植物性油脂,又は,これらの分別油,水素添加油及びエステル交換油を単独又は混合してできる。

    粉乳の原料となる糖質として,乳糖,ショ糖,ブドウ糖,麦芽糖やガラクトオリゴ糖,フルクトオリゴ糖,ラクチュロースなどのオリゴ糖,デンプン,可溶性多糖類,デキストリンなどの多糖類,また,人工甘味料などを単独又は混合して使用できる。

    その他,水溶性,脂溶性のビタミン類,ミネラル類や香料,矯味料などを粉乳の原料として添加することができる。

    3.1.1. 清澄化工程 清澄化工程は,遠心分離機またはフィルターなど公知の手段によって,牛乳などに含まれる微細な異物を除去するための工程である。

    3.1.2. 殺菌工程 殺菌工程は,牛乳などに含まれる細菌などの微生物を死滅させるための工程である。 殺菌工程での殺菌温度と保持時間は,粉乳の種類によって様々であり,公知の殺菌処理に関する条件を採用できる。

    3.1.3. 濃縮工程 濃縮工程は,後述の噴霧乾燥工程の前に牛乳などを予備的に濃縮するための任意の工程であり,真空蒸発缶など公知の手段と条件を採用できる。

    3.1.4. 均質化工程 均質化工程は,牛乳などに分散している脂肪球などの固形成分を一定以下の大きさに均質化するための任意の工程であり,処理液に高圧を加えて狭い間隙を通過させるなど公知の手段と条件を採用できる。

    3.1.5. 噴霧乾燥工程 噴霧乾燥工程は,濃縮乳中の水分を蒸発させて粉体を得るための工程であり噴霧乾燥機など公知の手段や,公知の条件を採用できる。

    3.1.6. 篩過工程 篩過工程は,噴霧乾燥工程で得られた粉体を篩に通すことで,固まり粉など粒径が大きなものを除去し,整粒するための工程である。

    3.1.7. 充填工程 充填工程は,粉乳を袋や缶などに充填するための工程である。

    本発明の粉乳及び固形乳の製造方法では,上記のとおり粉乳を製造した後,上記の固形乳製造方法を採用できる。 すなわち,上記の篩過工程を経た粉乳を原料として,上記の圧縮工程を行えばよい。

    4. 固形乳の利用方法 本発明の固形乳は,一般的には温水に溶かして,飲用する。 より具体的には,蓋のできる容器に,温水を入れた後,本発明の固形乳を必要個数投入する。 そして,好ましくは容器を軽く振ることにより固形乳を早く溶かし,適温の状態で飲用する。

    以下に,実施例を示し,本発明の特徴を説明するが,本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 以下では,まず実施例における各評価項目の評価方法について説明した後に,参考例及び実施例を説明する。

    [試験例1(固形乳の空隙率測定)]
    固形乳の空隙率は,次式により求めた。
    空隙率(%)=(1−W/PV)×100
    W:固形物の重量(g)
    P:ベックマン空気式密度計を用いて測定した固形物の密度(g/cm
    V:固形物の直径,厚みをマイクロメーターで測定して算出した体積(cm

    [試験例2(遊離脂肪の含有率測定)]
    遊離脂肪の含有率は,以下のようにして測定した。 まず,固形乳をすり潰さないように留意しながらカッターで細かくし粉砕した(粉砕工程)。 その後,32メッシュ篩に粉砕された固形乳を通過させた(篩工程)。 篩工程を経たものを試料とし,'Determination of Free Fat on the Surface of Milk Powder Particles',Analytical Method for Dry Milk Products,A/S NIRO ATOMIZER(1978)に記載された方法にしたがって遊離脂肪の含有率を測定した。 なお,この方法によれば,遊離脂肪の含有率は,一定速度,一定時間の振とうにより有機溶媒(たとえば,n−ヘキサンや四塩化炭素)で抽出された脂肪の重量%で示される。

    [試験例3(硬度測定)]
    固形乳の硬度(錠剤硬度)は,岡田精工社製のハードネステスターを使用して測定した。 すなわち,試料の破断面の面積が最小となる方向に荷重をかけ,破断したときの荷重を測定した。

    [試験例4(溶解性測定)]
    固形乳の溶解性は,以下のようにして測定した。 まず,200mlの蓋付きのガラス容器に水100ml入れ50℃とした。 この水に固形乳を1個入れ,直ちに振とうし,固形乳が完全になくなるまでに要した時間を測定した。 なお,振とう条件は,1.5往復/s,振幅30cmとした。

    [試験例5(浮遊オイル測定)]
    浮遊オイル(オイルオフ)は,以下のようにして測定した。 まず,100mlのビーカーに,50℃の水50mlを用意した。 その水に固形乳1個を入れ,完全に溶かした。 2時間静置後に,油滴の有無を目視により判定した。

    [試験例6(過酸化物価の測定)]
    過酸化物価は,以下のようにして測定した。 試料に60〜70℃の熱湯を加え,よく混合して溶解し乳化液とする。 これにノニオン界面活性剤(ポリオキシオクチルフェノールエーテル)及びトリポリリン酸ナトリウムの水溶液を加え,乳化を破壊した後,遠心分離により油層と水層に分ける。 油層をとり,ヨウ素滴定法(日本油脂化学協会,基準油脂分析試験法,過酸化物価(クロロホルム法))を用いて測定する。 本法の測定値は,試料にヨウ化カリウムを加えた場合に遊離されるヨウ素を試料1kgに対するミリ当量数で表したものであり,脂質の酸化劣化の指標に用いられる。

    [試験例7(風味試験)]
    風味試験は,試料を14重量%の濃度となるように50℃の水に溶かし,パネラー10名に飲んでもらい,美味しさの観点で1〜7の7段階(4が中央値で普通の味)に点数をつけてもらい,その平均値で評価した。

    [参考例1 (粉乳の製造)]
    水に脂肪,糖質,たん白質,乳及びミネラル類を加えて混合した液を,均質化,濃縮,噴霧乾燥の工程の順で処理することにより,様々な成分を含む粉乳を製造した。

    (圧縮力と空隙率,溶解性,硬度の関係)
    参考例の製造法により得た粉乳(脂肪25重量%,糖質58.3重量%,たん白質11.7重量%,その他ミネラル,及び水分を含む)を万能試験機オートグラフ(島津製作所製)にて圧縮力0.5MPa〜30MPa,杵の降下速度10mm/minの条件で圧縮成形した。 その後,恒温恒湿器(TABAIESPEC製)に40℃・95%RHの条件で5分間放置した。 その後,エアーオーブン(ヤマト科学製)により,40℃で30分間乾燥した。 このようにして,直径25mm,重量約5gの固形乳を得た。 原料に使用した粉乳及びここで得た固形乳を試験例1〜5により評価した。 その結果を表1に示す。 また,表1のうち,空隙率と溶解時間の関係を図1に示す。 表1のうち,圧縮力と遊離脂肪の関係を図2に示す。

    図1から,空隙率と溶解時間とが相関していることがわかる。 また,図1から,空隙率30%付近で溶解時間が急激に変化することがわかる。 溶解して飲用する固形乳の実用的な溶解時間として,120秒以内が好ましく,更に60秒以内が好ましい。 表1に示されるように空隙率が25.7%(圧縮力20MPa)の固形乳は,溶解するのに278秒(約4.6分)を要した。 したがって,この固形乳は,実用的ではない。 空隙率が30.1%(圧縮力15MPa)の固形乳は,110秒で溶解した。 また空隙率31.8%(圧縮力10MPa)の固形乳は,50秒で溶解した。 したがって,溶解性の観点からは,空隙率30%以上,圧縮力15MPa以下が好ましいことがわかる。

    また,表1から圧縮力が20MPaを超えると,油滴が水面に観察されオイルオフの問題があることがわかった。 圧縮力15MPa以下であれば,オイルオフは実用上問題とならない程度であることがわかった。 すなわち,オイルオフの観点からも空隙率30%以上,圧縮力15MPa以下が好ましいことがわかる。 なお,図2から,圧縮力と発生する遊離脂肪の量とは相関しており,圧縮力を制御することにより遊離脂肪の量を制御できることがわかる。

    圧縮成形物も加湿,乾燥工程により,硬度は増大した。 流通,利用者での取扱に必要な硬度は20N程度であり,圧縮力1MPaで成形し,加湿,乾燥処理することで達成された。

    溶解性,加湿・乾燥前後の錠剤硬度及びオイルオフの評価項目において,空隙率30%〜55%,圧縮力1MPa〜15MPaの圧縮条件が適していることがわかる。

    (脂肪の含有量の異なる,粉末,顆粒の粉乳使用)
    脂肪の含有量が5重量%〜40重量%の粉乳を,圧縮力5MPaで成形した他は,実施例1と同じ工程,条件により直径25mm,重量約5gの固形乳を得た。 これらを試験例1〜5により評価した。 この結果を表2に示す。 なお,オイルオフの評価項目は,実施例1と同様である。

    脂肪の含有量が5重量%の粉乳を用いたものは,加湿・乾燥処理前の圧縮成形物(遊離脂肪0.11%)の硬度が低いものもあり,次工程への移行が幾らか困難であった。 脂肪の含有量が10重量%以上の粉乳を用いたものは,顆粒化の有無を問わず良好な性能を有した圧縮成形物が得られた。

    このように,ある程度の脂肪を含んだ粉乳は,本発明で限定した圧縮力,空隙率,遊離脂肪の量に調整することで,特別な添加剤を加えることなく,硬さと速溶邂性の相反する要素を兼ね備えた圧縮成形物を得ることができる。

    (遊離脂肪の効果)
    実施例2において,脂肪の含有量が5重量%の粉乳を用いたものは,加湿・乾燥処理前の圧縮成形物の硬度が低いものもあった。 この脂肪を5重量%を含んだ粉乳にバター油(Corman製)をそれぞれ,(i)0.5重量%,(ii)1.0重量%,及び(iii)2.0重量%加えてよく混合した後,実施例2に示した条件で圧縮成形することにより,遊離脂肪の硬度増強効果を調べた。 その結果を表3に示す。

    バター油を加えた直後に圧縮成形したものは,何れも硬度が著しく低いが,2日経過した後に圧縮成形したものは約7Nの硬度が得られた。 バター油を添加していないものは放置時間に関係なく硬度が著しく低い結果となった。 これらの圧縮成形物の空隙率に大きな差がないことから,油脂の添加が保形性の増強に働いたことがわかる。

    上記の結果から,単に脂肪を添加すれば硬度増大に寄与するのではなく,時間の経過とともに粉乳粒子の表面から内部に入り込んだ状態で存在する脂肪が硬度増強に働くものと推測される。 なお,室温で液体であるバター油の替わりに,室温でロウ状の固体脂(パーム硬化油,融点58℃,太陽油脂製)を添加したものでは硬度増大の効果は得られなかった。

    一般的に固体脂(ワックス)は,圧縮成形時の摩擦を低減する滑沢作用を有していることが知られており,この目的で広く使用されている。 しかし,本発明のように空隙を確保するために低圧力での圧縮成形が要求される場合,滑沢・潤滑の付与と保形性増強の両方の作用を有するものが有用である。 これには室温で液体の脂肪の添加が有効であるが,添加する工程が増えること及び液体の脂肪を添加した粉は流動性が低下し,臼への充填精度が低くなることから,元々粉乳が有している脂肪を圧縮成形の際に必要な量だけ乳化物から遊離させることは極めて合理的な方法である。

    (生産性の確認)
    参考例の製造法により得た粉乳(脂肪25%,糖質58.3%,たん白質11.7%,その他ミネラル,水分)を単発式打錠機(岡田精工製)にて圧縮力5MPa,20個/min(1200個/h)の条件で1時間連続して圧縮成形した。 その後,恒温恒湿器(TABAI ESPEC製)に40℃・95%RHの条件で5分間放置し,エアーオーブン(ヤマト科学製)にて40℃で30分間乾燥することにより直径25mm,重量約4.2gの固形乳を得た。

    連続打錠1時間で,粉が杵臼に付着して起こる打錠障害は認められなく,運転を中断するようなことはなかった。 連続打錠実験の結果を表4に示す。 圧縮成形物は10Nの硬度を有しており,加湿工程への移行の際,形が壊れるなどのトラブルはなかった。 乾燥工程を得て製造された乳固形物の溶解性は30秒以内で,92.5Nの充分な錠剤硬度を有していた。 また,オイルオフは認めらなく,風味についても原料に使用した粉乳と差がなかった。 なお,この乳固形物の空隙率は36.3%,遊離脂肪は0.54%であった。

    (加湿条件の検討)
    粉乳(脂肪25%,糖質58.3%,たん白質11.7%,ミネラル,水分)を万能試験機オートグラフ(島津製作所製)にて,圧縮力5MPa,圧縮速度10mm/minの条件で得た圧縮成形物(直径27mm,重量約7g)を試料に用いて加湿の条件について調べた。
    試料を80℃・100%RH(コンビオーブン,フジマック製)または40℃・95%RH(恒温恒湿器,TABAIESPEC製)に一定時間置き,加湿前後の重量を測定することにより,加湿により増えた水分重量を求めた。 その後,エアーオーブン(ヤマト科学)にて40℃で30分間乾燥し,硬度を測定した。 また,実施例5における加湿時間と硬度との関係を図3に示し,実施例5における加湿水分量と錠剤硬度との関係を図4に示す。 また,80℃・100%RH(コンビオーブン),及び40℃・95%RH(恒温恒湿器)における加湿時間,加湿重量(%),及び乾燥後の硬度(N)の関係を,それぞれ表5−1,及び表5−2に示す。

    図3によれば,高温で処理する方が,短時間で高い硬度を有する固形乳を得ることができることがわかる。 また,図4によれば,0.5重量%の加湿で,硬度の増大効果があることがわかる。 また,約1重量%の加湿で硬度は約2倍となり,加湿重量の増加とともに硬度は大きくなる傾向にあった。 加湿重量が2.5重量%を超えると硬度の増加は止まった。

    (長期保存性)
    実施例1の5MPaの圧縮力で製造した固形乳、及び原料として用いた粉乳をアルミ製の袋に入れ,30℃の条件下での3ヶ月間保存し,溶解時間,硬度,遊離脂肪,過酸化物価,オイルオフ,風味の項目を試験例に従って調べた。 この結果を表6に示す。 表6から,溶解時間,硬度,遊離脂肪,オイルオフ,風味の項目は,製造時の初期値と差がないことがわかる。 過酸化物価は,原料に用いた粉乳と同程度の値を示した。 以上より,本発明の製造方法で得られた乳固形物は長期保存性に優れていることがわかる。

    (打錠機による固形乳の物性の検証)
    後述する原料を用いて,圧縮工程における圧縮率や,加湿工程における加湿時間が得られる固形乳の物性(特に空隙率と硬度や溶解時間との関係)に与える影響を検証した。 原料の組成は,脂肪25.9%,タンパク質11.8%,炭水化物57.2%,灰分2.3%,及び水分2.8%であった。 なお,製造する固形乳は,その直径が30mmの円柱状であり,ひとつあたりの重量は5gとなるようにした。 また,圧縮成形機として単発打錠機(岡田精工社製)を用い,圧縮速度を10mm/sとした。 特に断らない限り,加湿工程は,60℃,96%RHで3分間とした。 なお,一部加湿時間を4分又は5分とした。 また,乾燥工程は80℃で5分間とした。 その結果を表7に示す。 表7から,圧縮力が小さいほど,遊離脂肪が減少し,得られる固形乳の硬度が下がるが,空隙率は大きくなることがわかる。 そして,低い圧縮力(たとえば,0.14MPa〜4.95MPa,特に0.14MPa〜1.34MPa)で固形乳を製造すると,高い空隙率を有するにもかかわらず,ある程度の硬度を維持した固形乳を得ることができることがわかる。 また,空隙率が大きくなると,溶解時間が短くなることがわかる。 さらに,加湿時間を所定範囲とすれば,得られる固形乳の硬度が大きくなることがわかる。 実施例7では,固形乳の溶解時間は目標空隙率が30%のときに60秒,目標空隙率が40%のときに20秒,目標空隙率ガ50%以上のときに10秒となり,圧縮速度を,たとえば10mm/s以下とすることにより固形乳の溶解時間が著しく短縮できた。 なお,実施例7の条件の下で,空隙率が50%より大きく60%より小さい固形乳を得るためには,たとえば,圧縮力を0.1MPa〜0.3MPa程度に制御すればよいと考えられる。

    (圧縮速度の固形乳の硬度への影響,四角柱上の固形乳)
    圧縮速度が得られる固形乳に与える影響を調べるため,圧縮速度を変えて固形乳を製造した。 すなわち,単発打錠機(岡田精工社製)を用いて圧縮速度を変えた条件で,四角柱状の固形乳(22mm×35mm×10mm)を得た。 原料の組成は,脂肪25.9%,タンパク質11.8%,炭水化物57.2%,灰分2.3%,及び水分2.8%であった。 なお,得られる固形乳を,その空隙率が45%,50%及び55%となるように調整した。

    図5は,実施例8で得られた固形乳の物性を示すグラフである。 図5(a)は,圧縮速度と得られる固形乳の硬度との関係を示すグラフであり,図5(b)は,圧縮速度と遊離脂肪との関係を示すグラフである。 図5(c)は,固形乳の硬度と遊離脂肪との関係を示すグラフである。 図5(a)から,空隙率が同じであっても圧縮速度が小さいほど,硬度の高い固形乳を得ることができることがわかる。 図5(b)から,圧縮速度を制御することで,遊離脂肪の量を制御できることがわかる。 図5(c)から,硬度と遊離脂肪に相関関係があることがわかる。 これらより,同じ空隙率の固形乳であっても硬度を高くするには圧縮速度を遅くし,意図的に遊離脂肪を発生させることが有効であるといえる。 具体的に説明すると,固形乳の硬度を増大させるためには,圧縮速度を,たとえば0.1mm/s〜100mm/s,好ましくは1mm/s〜80mm/s,より好ましくは2mm/s〜60mm/sとすればよいことがわかる。 さらに,本発明の固形乳では遊離脂肪の量を制御することが重要な要素のひとつといえるが,特に空隙率が50%以下の固形乳では,圧縮速度をたとえば40mm/s以下と制御することで,遊離脂肪の量を効果的に増加させることができることがわかる。

    (圧縮速度の固形乳の硬度への影響,円柱状の固形乳)
    圧縮速度が得られる固形乳に与える影響を調べるため,圧縮速度を変えて固形乳を製造した。 すなわち,単発打錠機(岡田精工社製)を用いて圧縮速度を変えた条件で,円柱状の固形乳(直径30mm×10mm)を得た。 原料の組成は,脂肪18%,タンパク質15%,炭水化物60.1%,灰分4.1%,及び水分2.8%であった。 なお,得られる固形乳は,その空隙率が45%,50%及び55%となるように調整した。

    図6は,実施例9で得られた固形乳の物性を示すグラフである。 図6(a)は,圧縮速度と得られる固形乳の硬度との関係を示すグラフであり,図6(b)は,圧縮速度と遊離脂肪との関係を示すグラフである。 図6(a)から,空隙率が同じであっても圧縮速度が小さいほど,硬度の高い固形乳を得ることができることがわかる。 図6(b)から,圧縮速度を制御することで,遊離脂肪の量を制御できることがわかる。 これらより,同じ空隙率の固形乳であっても硬度を高くするには圧縮速度を遅くし,意図的に遊離脂肪を発生させることが有効であるといえる。 具体的に説明すると,固形乳の硬度を増大させるためには,圧縮速度を,たとえば0.1mm/s〜100mm/s,好ましくは1mm/s〜80mm/s,より好ましくは2mm/s〜60mm/sとすればよいことがわかる。 実施例9の条件では,特に空隙率が45%以下の場合(具体的には空隙率が40%の場合),圧縮速度を10mm/s〜30mm/sとすることで飛躍的に硬度が高くなることがわかる。 さらに,本発明の固形乳では遊離脂肪の量を制御することが重要な要素のひとつといえるが,特に空隙率が50%以下の固形乳では,圧縮速度をたとえば40mm/s以下と制御することで,遊離脂肪の量を効果的に増加させることができることがわかる。

    本実施例では,ロータリー式打錠機(菊水製作所製)を用いて,圧縮速度と得られる固形乳の硬度の関係を検証した。 原料の組成は,脂肪25.9%,タンパク質11.8%,炭水化物57.2%,灰分2.3%,及び水分2.8%であった。 ロータリー式打錠機の回転数を変化させて圧縮速度を調整した。 固形乳の空隙率を43%としたときの圧縮速度と固形乳の硬度の関係を図7に示す。 図7から,実施例8,実施例9と同様にロータリー式打錠機においても圧縮速度が小さいほど,硬度の高い固形乳が得られることがわかる。 ロータリー式打錠機で圧縮速度を小さくするには,回転数を小さくする必要があり,生産能力が低下する。 そこで,ロータリー式打錠機の上下の杵用の加圧ロールを取り外し,そこに上下杵を挟み込むように長さ15cmの直線の軌道(加圧レイル)を設け,下杵側のレイルに0.82°の傾斜をもたせた。 この間を下杵が通過する間で,下杵が2mm上昇することにより,ゆっくりと圧縮形成される構造にした。 この加圧レイルを用いることにより回転数を小さくすることなく,圧縮速度を遅くすることが可能となり,固形乳の硬度を増すことができた。 この加圧レイルを用いて,回転数を30rpm,40rpmとして固形乳を製造した。 この加圧レイルを用いて得られた固形乳の圧縮速度と硬度との関係は,図7における丸で囲った領域内の2点として示されている。

    (圧縮速度と圧縮停滞時間の固形乳の空隙率や硬度への影響)
    本実施例では,圧縮速度,圧縮停滞時間(最高圧縮変位を維持する時間)と,得られる固形乳の空隙率や硬度について検証した。 原料の組成は,脂肪25.9%,タンパク質11.8%,炭水化物57.2%,灰分2.3%,及び水分2.8%であった。 なお,製造する固形乳は,四角柱状(22mm×35mm×12mm)であり,ひとつあたりの重量は5.5gとなるようにした。 また,用いた圧縮成形機は,油圧シリンダー駆動式,上下杵の変位の設定可能,圧縮速度の可変可能,圧縮停滞時間の設定可能などの特徴を有している。 圧縮工程では,臼に所定の原料を入れ,上杵で予備圧縮した後に,下杵の変位を4mmに固定し圧縮成形し,上杵の変位で空隙率を調整した。 加湿工程では,60℃,96RHの3分間保持で処理した。 乾燥工程では,80℃の5分間保持で処理した。 これらの結果を表8に示す。 表8中,合計時間とは,圧縮時間と保持時間を加算したものである。 圧縮停滞時間がない場合,圧縮速度が小さくなるに従い,固形乳の硬度が大きくなることがわかる。 圧縮停滞時間を設定する場合,いずれの圧縮速度においても,圧縮停滞時間が大きくなるに従い,固形乳の空隙率は小さくなり,硬度が大きくなった。 これらを硬化処理したものは,いずれも所定の硬度と溶解時間を達成していた。 これらのことから,圧縮速度と圧縮停滞時間とを適切に組み合わせることにより,圧縮成形に必要な合計時間と,固形乳の空隙率や硬度とを制御できることがわかる。

    (固形乳の体積と硬度や溶解時間の関係)
    本実施例では,単発打錠機(岡田精工社製)により体積を変えた固形乳を製造した。 固形乳の形状,体積,硬度,溶解時間の関係を表9に示す。 原料の組成は,脂肪18%,タンパク質15%,炭水化物60.1%,灰分4.1%,及び水分2.8%とした。 表9から,本発明の空隙率を有する固形乳は,形状や体積が異なっても,所定の硬度や溶解時間を達成できることがわかる。

    本発明の固形乳を実際に製造したところ,商品として製造・販売できることが分ったので,本発明の固形乳及びその製造方法は,粉乳の代替品及びその製造方法などとして食品産業において利用されうる。

    図1は,実施例1における,空隙率と溶解時間の関係を示すグラフである。

    図2は,実施例1における,圧縮力と遊離脂肪の関係を示すグラフである。

    図3は,実施例5における加湿時間と硬度との関係を示すグラフである。

    図4は,実施例5における加湿水分量と硬度との関係を示すグラフである。

    図5は,実施例8で得られた固形乳の物性を示すグラフである。 図5(a) は,圧縮速度と得られる固形乳の硬度との関係を示すグラフであり,図5(b)は, 圧縮速度と遊離脂肪との関係を示すグラフである。 図5(c)は,固形乳の硬度と遊 離脂肪との関係を示すグラフである。

    図6は,実施例9で得られた固形乳の物性を示すグラフである。 図6(a) は,圧縮速度と得られる固形乳の硬度との関係を示すグラフであり,図6(b)は, 圧縮速度と遊離脂肪との関係を示すグラフである。

    図7は,実施例10で得られた固形乳の物性を示すグラフである。

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