味覚、風味及び乳化安定性の良好な還元乳、及びその製造方法

申请号 JP2015551383 申请日 2014-11-28 公开(公告)号 JP6199989B2 公开(公告)日 2017-09-20
申请人 キリン株式会社; 发明人 佐藤 愛; 今田 七洋; 小泉 英樹; 出内 桂二;
摘要
权利要求

無脂乳固形分原料及び油脂分原料を用いた還元乳の製造方法において、 (1)無脂乳固形分原料を含む無脂乳固形分溶解液を調製する工程、 (2)(1)の工程とは別個に、油脂分原料を含む油脂分乳化液を調製する工程、 (3)(1)及び(2)の工程で調製された無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液をそれぞれ加熱殺菌処理する工程、 (4)加熱殺菌処理した無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液を冷却し、混合する工程、 (5)混合した無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液を油脂の凝固点以上の温度で均質化処理を行う工程、とを有することを特徴とする味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳の製造方法。無脂乳固形分原料が粉体乳原料であることを特徴とする請求項1に記載の味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳の製造方法。油脂が動物性油脂又は植物性油脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳の製造方法。動物性油脂が乳脂肪であることを特徴とする請求項3に記載の味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳の製造方法。均質化処理を行う温度が、30〜70℃であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳の製造方法。無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液の混合比は、油脂分濃度が1.5%より高く且つ6.0%未満、且つ無脂乳固形分濃度が5.0%より高く且つ14.0%未満となるように、調整されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳の製造方法。請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法によって製造された味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳を原料の全部又は一部として用いることを特徴とする加工乳、乳飲料又は乳入り飲料の製造方法。

说明书全文

本発明は、新鮮な乳様の味覚、風味を有し、乳化安定性の良好な還元乳の製造方法、特に、脱脂粉乳等の無脂乳固形分原料と、油脂分原料とを用いて還元乳を製造する方法において、製造した還元乳が有する異味、異臭を低減することにより、新鮮な牛乳様の味覚、風味を有する還元乳を製造すると共に、脱脂粉乳等の粉体の無脂乳固形分原料を原料として用いる場合に招来する還元乳の低下した乳化安定性を改善して、乳化安定性に優れた還元乳を製造する方法に関する。また、本発明は、該味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳を用いた加工乳、乳飲料又は乳入り飲料、及びその製造方法に関する。

還元乳とは、一般に「乳を原料とした食品にを加えたものであって市乳の成分と類似成分をもつものをいう」と定義され(「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(以下「乳等省令」という。)」)、生乳や牛乳を加工して得られる粉乳、濃縮乳、クリーム、バター等の乳原料を主要な原料として飲用乳の形態にしたものである。例としては、脂肪分を牛乳と比較して増減させた加工乳や乳飲料、カルシウムや鉄分などを添加した乳飲料などが挙げられる。これらの牛乳を模した還元乳は、例えば、脱脂粉乳や脱脂濃縮乳などの無脂乳固形分を多く含む乳原料と、バターやクリームなどの乳脂肪分を多く含む乳原料とを含む乳原料液を用いて、牛乳の製造と同様の設備を用いて、混合、殺菌、冷却、均質化等の製造工程を経て製造されている。

しかしながら、一般的に還元乳は牛乳と比較して「粉っぽい」、「舌や喉に被膜感が残る」、「生乳の風味が損なわれていてナチュラル感に欠ける」とされており(「日本味と匂学会誌」、vol.14、No.3、PP.471-474、2007年12月。)(非特許文献1)、その風味の改善が課題となっている。還元乳の原料の中でも、粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー等の粉体の乳原料は、長期保存が可能で、比較的安価であることから、広く使用されている。しかしながら、このような乳原料の粉末加工品は、濃縮、乾燥、殺菌等の加工処理過程で本来乳原料が持っていた乳風味が低減されるのみならず、乳風味以外の異臭が発生し、再度水溶性化しても充分な乳風味を呈さず、一般的に粉臭などと表現される異臭が生じるといった問題があった(特開平6−319448号公報:特許文献1)。特に、還元乳の製造に粉乳を用いる場合には、全脂粉乳を用いる場合と、脱脂粉乳とバターのような乳脂肪を用いる場合とがあり、例えば、脱脂粉乳を用いる場合、新鮮な牛乳のような味覚、風味の還元乳を調製することが難しいという面があるだけでなく、調製した還元乳の乳化安定性を得ることが難しいという問題がある。

還元乳の製造に際して、その風味を向上するための技術、及び、その乳化安定性を高めるための技術として各種のものが開示されている。還元乳の風味を向上させるための技術として、例えば、特開2006−180792号公報(特許文献2)には、呈味改良剤として寒天分子をゲル化能以下の流動体として存在するように添加することで、コク味や、エグ味等の呈味を改良した加工乳及び乳飲料が開示されている。特開2002−335903号公報(特許文献3)には、乳類を含む飲食物に、味質改善剤として、セロビオース、ソホロース、ラミナリビオース、ゲンチオビオース等のβ−グルコオリゴ糖を添加することで、喉越しや、舌の上、喉、口に残る被膜感や臭さが改善された加工乳等が開示されている。

還元乳の乳化安定性を向上させるための技術としては、例えば、特開2004−267147号公報(特許文献4)には、加工乳における長期保存に対して、クリーミングを生ぜず、3ヶ月以上の長期安定な乳化状態の保持と、風味を保持した加工乳を提供するために、加工乳中に含まれる油脂成分を有機酸モノグリセリドと乳蛋白質からなる複合体により乳化した脂肪球を含有させる方法が、特開2004−267223号公報(特許文献5)には、UHT殺菌を施しても、長期間の乳化安定性を保持することができる乳飲料とするために、曇点が90℃以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有させる方法が開示されている。しかしながら、上記のような呈味改善物質の添加は、異味や増粘による清涼感の欠如が生じるという問題があり、また乳化剤を添加する方法も、乳化剤の添加による異味が問題となる。

また、加工乳等の風味や味覚の改善に、物理的処理を用いる方法が知られている。例えば、特開2002−51699号公報(特許文献6)には、遠心分離により乳脂肪分の一部を分離して生乳の乳脂肪分を調整した後、逆浸透(RO)膜で処理して、乳脂肪分及び無脂乳固形分を濃縮し、蛋白質分及びカルシウム分を高め、風味の優れた加工乳を得る方法が、特開2002−262769号公報(特許文献7)には、牛乳又は乳成分を含む飲料又は食品を、140℃で30〜120秒間の加熱処理を行うことにより、光誘導によるオフフレーバーの発生のない牛乳又は乳成分を含有した飲料又は食品を製造する方法が開示されている。該加工乳の調製には液体の原料が用いられているが、生乳や牛乳、生乳膜処理物のような液体の原料は、一般的に原料としての保存安定性が悪いという問題がある上に、該文献に示されたような過酷な加熱処理を施す方法によっても、乳の自然な味覚が変性してしまうという問題がある。

例えば、脱脂粉乳や脱脂濃縮乳などの無脂乳固形分を多く含む乳原料を用いた還元乳の製造には、該乳原料と、バターやクリームなどの乳脂肪分を多く含む乳原料とを、牛乳製造と同様の設備を用いて、乳原料の混合、殺菌、冷却、均質化処理という工程が採られている。該還元乳の製造における工程を工夫して、還元乳の味覚や風味を改善する方法が開示されている。例えば、特開2011−24508号公報(特許文献8)には、脱脂濃縮乳のような無脂乳固形分を主成分とする第1の乳原料液と、乳脂肪分を主成分とする第2の乳原料液を、それぞれ別々に加熱殺菌、均質化、冷却処理をした後、混合する方法が開示されている。この方法は、乳原料を混合した後に、加熱殺菌、冷却する従来の方法を改良して、乳原料を別々に加熱殺菌処理し、冷却した後、混合する方法とすることにより、乳原料を混合した後に加熱殺菌することにより発生する、異味、異臭を抑制して、新鮮な牛乳の風味に近い風味を付与した加工乳の製造を目的としたものである。

また、特表平11−505121号公報(特許文献9)には、全乳をクリームの流れと脱脂乳の流れに分離し、脱脂乳の流れを微細濾過器に通して、その微細濾過器から残留物の流れと透過液の流れを得、該透過液の流れを熱処理に付し、その後に脱脂乳の透過液の流れを高温処理されたクリーム製品の一部の流れと所望とされる量で混合する方法が開示されている。該開示の方法では、分離されたクリームの流れと脱脂乳の流れについて、それぞれ別個に加熱処理が施されている。

また、特開2011−152107号公報(特許文献10)には、ホエイ固形分、無脂乳固形分及び水を含む乳製品製造用組成物において、乳脂肪分の含有率、ホエイ固形分の含有率を調整することによって、ホエイタンパク質を含有する原料を用いた場合であっても、加熱殺菌時に凝集が生じ難く、熱安定性に優れている乳製品製造用組成物を製造する方法が開示されている。該乳製品製造用組成物の製造においては、クリーム等の乳脂肪分を別途加熱殺菌して、ホエイタンパク質の加熱凝固しない温度で混合することによって、ホエイタンパク質を強化した、乳脂肪分0.5%以上の乳製品を製造することができることが示されている。

上記のように、還元乳の製造において、その風味を向上するための技術、及び、その乳化安定性を高めるための技術として各種の方法が開示されており、該開示の方法には、脱脂濃縮乳などの無脂乳固形分や、ホエイ固形分を含む乳原料を用いた還元乳の製造工程において、乳原料の混合、殺菌、冷却、均質化処理という工程を工夫して、還元乳の味覚や風味を改善する方法も開示されている。しかし、該開示の方法を、脱脂粉乳等の粉体の無脂乳固形分原料を用いる場合に適用しても、乳化安定性にすぐれた還元乳を調製することが難しいという問題がある。

特開平6−319448号公報。

特開2006−180792号公報。

特開2002−335903号公報。

特開2004−267147号公報。

特開2004−267223号公報。

特開2002−51699号公報。

特開2002−262769号公報。

特開2011−24508号公報。

特表平11−505121号公報。

特開2011−152107号公報。

「日本味と匂学会誌」、vol.14、No.3、PP.471-474、2007年12月。

本発明の課題は、新鮮な牛乳様の味覚、風味を有し、乳化安定性の良好な還元乳を提供すること、特に、脱脂粉乳等の無脂乳固形分原料と、油脂分原料とを用いて還元乳を製造する方法において、製造した還元乳が有する異味、異臭を低減することにより、新鮮な牛乳様の味覚、風味を有する還元乳を製造すると共に、脱脂粉乳等の粉体の無脂乳固形分原料を原料として用いる場合に招来する還元乳の低下した乳化安定性を改善して、乳化安定性に優れた還元乳を製造する方法を提供することある。更に、本発明は、該味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳を用いた加工乳、乳飲料又は乳入り飲料、及びその製造方法を提供することにある。

本発明者らは、上記課題を解決すべく、無脂乳固形分原料及び油脂分原料を用いた還元乳の製造方法において、脱脂粉乳等の無脂乳固形分原料を用いて製造した還元乳が有する異臭、異味を低減すると共に、該還元乳の低下した乳化安定性を改善して、味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳を製造する方法について鋭意検討する中で、(1)脱脂粉乳などの無脂乳固形分原料を水又は湯に溶解し、該無脂乳固形分溶解液を加熱殺菌し、冷却する工程と、(2)バター等の動物性脂肪やコメ油等の植物性油脂などの油脂分原料を乳化して油脂分乳化液を調製し、加熱殺菌処理し、冷却する工程をそれぞれ別個に行い、(3)該無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液を混合した後、該無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液の混合液を油脂の凝固点以上の温度で均質化処理を行うことにより、無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液(特に乳脂肪分乳化液)を混合状態で加熱殺菌処理した場合の還元乳の異味、異臭を低減すると共に、また、無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液(特に乳脂肪分乳化液)を別個に均質化処理した場合に発生する乳化安定性の悪さを顕著に改善して、新鮮な牛乳のような味覚、風味を有するとともに、乳化安定性に優れた還元乳を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。

すなわち、本発明は、無脂乳固形分原料及び油脂分原料を用いた還元乳の製造方法において、(1)無脂乳固形分原料を含む無脂乳固形分溶解液を調製する工程、及び、(2)上記(1)の工程とは別個に、油脂分原料を含む油脂分乳化液を調製する工程、及び、(3)上記(1)及び(2)の工程で調製された無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液をそれぞれ加熱殺菌処理する工程、及び、(4)加熱殺菌処理した無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液を冷却し、混合する工程、及び、(5)混合した無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液を油脂の凝固点以上の温度で均質化処理を行う工程、とを有する、味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳の製造方法からなる。

還元乳の製造に粉乳を用いる場合には、全脂粉乳を用いる場合と、脱脂粉乳とバターのような乳脂肪を用いる場合などがある。例えば、脱脂粉乳や脱脂濃縮乳などの無脂乳固形分を多く含む乳原料を用いる還元乳の製造には、一般に、該乳原料と、バターやクリームなどの乳脂肪分を多く含む乳原料とを、混合した後、殺菌処理を行い、冷却、均質化処理を行うという工程が採られているが、かかる一般的な製法においては、新鮮な牛乳のような味覚、風味の還元乳を調製することが難しいという問題があるだけでなく、調製した還元乳の乳化安定性を得ることが難しいという問題がある。その理由は、粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー等の粉体の乳原料を用いて還元乳の製造を行う場合、乳原料を粉末加工する過程で本来乳原料が持っていた乳風味が低減されるのみならず、乳風味以外の異臭が発生し、再度水溶性化しても充分な乳風味を呈さず、一般的に粉臭などと表現される異臭が生じるといった理由がある。また、還元乳の製造において、脱脂粉乳や脱脂濃縮乳などの無脂乳固形分を多く含む乳原料と、バターやクリームなどの乳脂肪分を多く含む乳原料とを混合した状態で、加熱処理を行うと、異味、異臭を発生して、新鮮な牛乳のような味覚、風味の還元乳を製造することが難しいという理由もある。

そこで、特開2011−24508号公報(特許文献8)の方法では、脱脂濃縮乳のような無脂乳固形分を主成分とする第1の乳原料液と、乳脂肪分を主成分とする第2の乳原料液とを用いた還元乳の製造方法において、該乳原料を別々に加熱殺菌処理する方法を採用することにより、加熱殺菌することにより発生する、異味、異臭を抑制して、新鮮な牛乳の風味に近い風味を付与した加工乳の製造方法が採られている。しかし、該方法を、脱脂粉乳等の粉体の無脂乳固形分原料を用いる場合に適用すると、乳化安定性の良好な還元乳を調製することが難しいという問題がある。

上記問題点を解消するために、本発明においては、該問題を解決するために鋭意検討した結果、無脂乳固形分溶解液と、油脂分乳化液とを、それぞれ別個に、加熱殺菌処理した後に、混合するという方法を採ることにより、無脂乳固形分溶解液と、油脂分乳化液とを混合状態で加熱殺菌することにより発生する、異味、異臭を抑制して新鮮な牛乳のような味覚、風味を得る一方、均質化処理においては、加熱殺菌した無脂乳固形分溶解液と、油脂分乳化液とを混合状態で、かつ、油脂の凝固点以上の温度で均質化処理を行うことにより、良好な乳化安定性を得ることに成功した。

本発明の還元乳の製造方法において、原料として用いられる無脂乳固形分原料及び油脂分原料としては、特に好ましく用いられる原料として、無脂乳固形分原料として脱脂粉乳等の粉体乳原料を挙げることができ、油脂分原料として、動物性油脂又は植物性油脂を、動物性油脂としてバター等の乳脂肪を挙げることができる。

本発明の還元乳の製造方法において、均質化処理を行う温度として、油脂の凝固点以上の温度を採用することができる。かかる均質化処理温度としては、30〜70℃の温度を挙げることができる。

本発明の還元乳の製造方法においては、無脂乳固形分溶解液と、油脂分乳化液を混合して還元乳の製造が行われるが、該無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液の混合比は、油脂分濃度が1.5%より高く且つ6.0%未満、且つ無脂乳固形分濃度が5.0%より高く且つ14.0%未満となるように、調整することができる。

本発明は、本発明の還元乳の製造方法によって製造された味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳自体の発明を包含する。また、本発明は、本発明の還元乳の製造方法によって製造された還元乳を原料の全部又は一部として用いる加工乳、乳飲料又は乳入り飲料の製造方法の発明を包含する。更に、本発明は、本発明の還元乳の製造方法によって製造された還元乳を原料の全部又は一部として用いて調製された加工乳、乳飲料又は乳入り飲料自体の発明を包含する。

すなわち、具体的には本発明は、 [1]無脂乳固形分原料及び油脂分原料を用いた還元乳の製造方法において、 (1)無脂乳固形分原料を含む無脂乳固形分溶解液を調製する工程、 (2)(1)の工程とは別個に、油脂分原料を含む油脂分乳化液を調製する工程、 (3)(1)及び(2)の工程で調製された無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液をそれぞれ加熱殺菌処理する工程、 (4)加熱殺菌処理した無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液を冷却し、混合する工程、 (5)混合した無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液を油脂の凝固点以上の温度で均質化処理を行う工程、とを有することを特徴とする味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳の製造方法や、 [2]無脂乳固形分原料が粉体乳原料であることを特徴とする上記[1]に記載の味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳の製造方法や、 [3]油脂が動物性油脂又は植物性油脂であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳の製造方法や、 [4]動物性油脂が乳脂肪であることを特徴とする上記[3]に記載の味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳の製造方法や、 [5]均質化処理を行う温度が、30〜70℃であることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載の味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳の製造方法や、 [6]無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液の混合比は、油脂分濃度が1.5%より高く且つ6.0%未満、且つ無脂乳固形分濃度が5.0%より高く且つ14.0%未満となるように、調整されることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかに記載の味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳の製造方法からなる。

また、本発明は、[7]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法によって製造された味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳からなる。

さらに、本発明は、[8]上記[7]に記載の還元乳を原料の全部又は一部として用いることを特徴とする加工乳、乳飲料又は乳入り飲料の製造方法や、[9]上記[8]に記載の加工乳、乳飲料又は乳入り飲料の製造方法により製造された加工乳、乳飲料又は乳入り飲料からなる。

本発明は、新鮮な牛乳様の味覚、風味を有し、乳化安定性の良好な還元乳を提供する。特に、脱脂粉乳等の無脂乳固形分原料と、油脂分原料とを用いて還元乳を製造する場合において、製造した還元乳が有する異味、異臭を低減することにより、新鮮な牛乳様の味覚、風味を有する還元乳を製造すると共に、脱脂粉乳等の粉体の無脂乳固形分原料を原料として用いる場合に招来する還元乳の低下した乳化安定性を改善して、乳化安定性に優れた還元乳を製造する方法を提供する。本発明の新鮮な牛乳様の味覚、風味と、乳化安定性に優れた還元乳は、加工乳、乳飲料及び乳入り飲料を調製するための乳原料として、好適に用いることができる。

図1は、本発明の実施例における還元乳実施例1の調製工程を示す図である。

図2は、本発明の実施例における還元乳比較例1の調製工程を示す図である。

図3は、本発明の実施例における還元乳比較例2の調製工程を示す図である。

図4は、本発明の実施例における還元乳比較例3の調製工程を示す図である。

図5は、本発明の実施例における還元乳実施例2の調製工程を示す図である。

図6は、本発明の実施例における還元乳比較例4の調製工程を示す図である。

図7は、本発明の実施例における還元乳実施例3の調製工程を示す図である。

図8は、本発明の実施例における還元乳実施例4の調製工程を示す図である。

図9は、本発明の実施例における還元乳比較例5の調製工程を示す図である。

図10は、本発明の実施例における還元乳比較例6の調製工程を示す図である。

本発明は、無脂乳固形分原料及び油脂分原料を用いた還元乳の製造方法において、(1)無脂乳固形分原料を含む無脂乳固形分溶解液を調製する工程、及び、(2)上記(1)の工程とは別個に、油脂分原料を含む油脂分乳化液を調製する工程、及び、(3)上記(1)及び(2)の工程で調製された無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液をそれぞれ加熱殺菌処理する工程、及び、(4)加熱殺菌処理した無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液を冷却し、混合する工程、及び、(5)混合した無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液を油脂の凝固点以上の温度で均質化処理を行う工程、とを有する、味覚、風味及び乳化安定性に優れた還元乳の製造方法(以下、「本発明の還元乳の製造方法」とも表示する。)からなる。該製造方法により、無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液を混合状態で加熱殺菌処理した場合の還元乳の異味、異臭を低減すると共に、また、無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液を別個に均質化処理した場合に発生する乳化安定性の悪さを顕著に改善して、新鮮な牛乳のような味覚、風味を有するとともに、乳化安定性に優れた還元乳を製造することからなる。

「還元乳」とは、生乳や牛乳を原料として製造された乳製品を還元して製造される飲用乳、及びこれに必要に応じて乳原料以外の原料を添加した飲料と定義されている。「還元乳」は、「乳等省令」における「加工乳」のすべて、及び「乳飲料」の一部を含む概念である。ここで、「生乳」とは、搾乳したままの牛の乳のことをいい、「牛乳」とは、生乳を飲用又は加工用に殺菌を施した牛の乳のことをいう。また、還元乳の原料として用いられる「乳製品」とは、「乳等省令」において乳製品と分類されているものを含み、具体的には、脱脂粉乳、全粉乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、クリームパウダー、クリーム、バター、バターオイル、濃縮ホエイ、ホエイパウダー、タンパク質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳などが挙げられる。本発明は、上記「還元乳」において、脱脂粉乳のような粉体の無脂乳固形分原料と、油脂分原料とを用いた還元乳及び該還元乳の製造方法を対象とし、より好適には、油脂分原料として、バターのような乳脂肪分原料を用いた還元乳及び該還元乳の製造方法を対象とする。

また、本発明において「味覚、風味に優れた還元乳」とは、脱脂粉乳等の乳原料を用いて一般的な製法により製造した還元乳が有する異臭(粉臭)、異味を低減して、新鮮な牛乳のような味覚、風味に改善された還元乳を意味し、より具体的には、同種、同量の原料を用いて同量の還元乳を一般的な製法(特に、無脂乳固形分と油脂分が混合された状態で加熱殺菌処理する工程を含む製法)で製造した場合と比較して、異臭(粉臭)、異味が低減されており、新鮮な牛乳のような味覚、風味に改善された還元乳が含まれる。また、本発明において「乳化安定性が改善された還元乳」或いは「乳化安定性に優れた還元乳」とは、脱脂粉乳等の粉体の乳原料を用いて一般的な製法(特に、無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液の加熱殺菌処理は別々であるものの、均質化処理後に無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液を混合する工程を含む製法)により還元乳を製造する場合に招来する乳化安定性の低下が改善され、乳化安定性に優れた還元乳を意味し、より具体的には、同種、同量の原料を用いて同量の還元乳を一般的な製法で製造した場合と比較して、乳化安定性の低下が改善され、乳化安定性に優れた還元乳が含まれる。

本発明の還元乳の製造方法においては、(1)無脂乳固形分原料を含む無脂乳固形分溶解液を調製する工程、及び、(2)上記(1)の工程とは別個に、油脂分原料を含む油脂分乳化液を調製する工程、及び、(3)上記(1)及び(2)の工程で調製された無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液をそれぞれ加熱殺菌処理する工程、及び、(4)加熱殺菌処理した無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液を冷却し、混合する工程、及び、(5)混合した無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液を油脂の凝固点以上の温度で均質化処理を行う工程、とを有する製造工程により、還元乳の製造が行われる。本発明における還元乳の製造方法において、各工程の順序、組合せの点を除いて、各工程における処理条件等は、通常、還元乳の製造において用いられている処理条件を用いることができる。

本発明の還元乳の製造方法に用いられる無脂乳固形分原料としては、脱脂粉乳、全粉乳、加糖粉乳、調製粉乳、脱脂濃縮乳、乳タンパク質パウダー、乳タンパク質濃縮物などが挙げられるが、本発明の効果(還元乳で問題となる異味、異臭を低減する効果や、脱脂粉乳等の粉体の無脂乳固形分原料を用いた還元乳で特に問題となる、低下した乳化安定性を改善する効果)をより多く享受する観点から、脱脂粉乳、全粉乳、加糖粉乳、調製粉乳、乳タンパク質パウダー、乳タンパク質濃縮物等の粉体の乳原料が好ましく挙げられ、中でも脱脂粉乳がより好ましく挙げられる。かかる粉体の無脂乳固形分原料の使用割合としては、本発明における無脂乳固形分溶解液における無脂乳固形分のうち、25%以上、好ましくは50%以上とすることが好ましい。なお、用いる無脂乳固形分原料は1種であってもよいし、2種以上であってもよい。

本発明の還元乳の製造方法における、無脂乳固形分原料を含む無脂乳固形分溶解液を「調製する工程」には、無脂乳固形分原料を水または湯に溶解し、無脂乳固形分溶解液を調製することのほか、無脂乳固形分原料が水または湯に既に溶解しているもの(脱脂粉乳が水または湯に既に溶解しているものや、脱脂濃縮乳など)をそのまま本発明における無脂乳固形分溶解液として用いることや、無脂乳固形分原料が水または湯に既に溶解しているものに、水若しくは湯及び/又は無脂乳固形分原料等をさらに添加して無脂乳固形分溶解液を調製することなどが含まれる。無脂乳固形分溶解液における無脂乳固形分や油脂分(好ましくは乳脂肪分)の濃度としては、例えば、液中の無脂乳固形分の濃度が5〜50%の範囲内、好ましくは8〜40%の範囲内であって、かつ、油脂分(好ましくは乳脂肪分)の合計濃度が2%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下である液体を挙げることができる。溶解には、特殊な機器は必要なく、通常のタービン型・カイ型等の攪拌機で行うことができる。

本発明の還元乳の製造方法に用いられる油脂分原料としては、動物性油脂及び植物性油脂のような食用油脂が挙げられ、該動物性油脂としては、哺乳動物(好ましくは牛)の乳由来の乳脂肪、牛脂、豚脂、魚油、鶏油等が挙げられ、中でも、牛乳由来の乳脂肪が特に好ましい例として挙げられ、植物性油脂としては、コメ油、ゴマ油、ヤシ油、パーム油、コーン油、菜種油、大豆油、オリーブ油、ヒマワリ油、綿実油等が挙げられ、また、動物性油脂を原料に含む場合がある油脂として、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド等が挙げられる。上記乳脂肪としては、バター、クリーム、バターオイル、バターミルクパウダー、クリームパウダーなど、乳脂肪分を多く含む乳脂肪分原料を用いることができ、特に、得られる還元乳の風味面から、バター、クリームのような乳脂肪分原料を用いることが好ましい。なお、用いる油脂分原料は1種であってもよいし、2種以上であってもよい。また、低下した乳化安定性を改善するという本発明の効果をより多く享受する観点から、既に乳化(水中油滴型乳化)がなされているクリームなどの油脂分原料(特に乳脂肪分原料)よりも、そのような乳化がなされていないバター、バターオイル、バターミルクパウダー、クリームパウダーなどの油脂分原料(特に乳脂肪分原料)が好ましく挙げられ、油脂分原料が乳脂肪分原料である場合は、これらの中でもバターがより好ましく挙げられる。このような、乳化(水中油滴型乳化)がなされていない油脂分原料(特に乳脂肪分原料)の使用割合としては、本発明における油脂分乳化液における油脂分のうち、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上とすることができる。

本発明の還元乳の製造方法における、油脂分原料を含む油脂分乳化液を調製する工程には、油脂分原料に、必要に応じて、食品用乳化剤等の乳化作用を有する物質及び/又は水若しくは湯などを添加し、攪拌するなどして油脂分乳化液を調製することのほか、用いる油脂分原料が既に油脂分乳化液として用い得る場合(油脂分原料が、例えばクリームのように既に乳化(水中油滴型乳化)がなされている場合など)は、かかる油脂分原料をそのまま本発明における油脂分乳化液として用いること、あるいは、かかる油脂分原料に水若しくは湯及び/又は油脂分原料等をさらに添加して油脂分乳化液を調製することなどが含まれている。油脂分乳化液における油脂分や無脂乳固形分の濃度としては、例えば、油脂分乳化液中の油脂分(好ましくは乳脂肪分)の合計濃度が3〜50%の範囲内、好ましくは5〜30%の範囲内であって、かつ、無脂乳固形分の濃度が10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下である濃度を挙げることができる。

本発明の還元乳の製造方法においては、それぞれ調製された無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液を、加熱殺菌処理工程においてそれぞれ加熱殺菌する。該加熱殺菌の方法は、UHT法、LTLT法、HTST法を挙げることができる。特に、好ましい加熱殺菌の方法として、UHT法による加熱殺菌を挙げることができる。UHT法を用いることで、製造した還元乳の賞味期限までの期間を十分に長くすることが可能となる。UHT法を用いる場合は、直接加熱法及び間接加熱法のいずれをも用いることができる。

それぞれの加熱殺菌方法における加熱条件としては、UHT法では、通常120〜150℃で1秒間以上5秒間以内(例えば130℃2秒間)、LTLT法では、63℃で30分間、HTST法では、72〜75℃で15秒間又は同等の効果が得られる条件を使用することができる。加熱殺菌の前に加温保持を行ってもよい。加温保持の条件は、通常用いられている条件であれば良く、加熱殺菌方法に応じて選択される。UHT法による加熱殺菌を行う場合には、通常70〜85℃程度で加温保持することができる。

本発明の還元乳の製造方法においては、それぞれ加熱殺菌処理工程において加熱殺菌を行った無脂乳固形分溶解液及び乳脂肪分乳化液を冷却し、両液を混合する工程に付す。

本発明の還元乳の製造方法においては、加熱殺菌処理工程において加熱殺菌を行った無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液を冷却し、両液を混合する工程に付す。無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液の混合比は、還元乳の油脂分(好ましくは乳脂肪分)濃度が1.5%より高く且つ6.0%未満、且つ無脂乳固形分濃度が5.0%より高く且つ14.0%未満となるように、調整することが好ましい。

本発明の還元乳の製造方法においては、混合した無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液を、油脂の凝固点以上の温度で、均質化処理を行う工程に付す。本発明の還元乳の製造方法における油脂の凝固点は、該製造方法に用いる油脂分原料中の油脂の種類に応じて適宜特定することができる。各種の油脂の凝固点を例示すると、乳脂肪は「20〜40℃」程度、牛脂は「45〜48℃」程度、豚脂は「28〜48℃」程度、コメ油は「−10〜−5℃」程度、ゴマ油は「−6〜−3℃」程度、ヤシ油は「14〜25℃」程度、パーム油は「27〜50℃」程度、コーン油は「10〜15℃」程度、菜種油は「−12〜0℃」程度、大豆油は「−8〜−7℃」程度、オリーブ油は「0〜6℃」程度、ヒマワリ油は「−18〜−16℃」程度、綿実油は「−6〜4℃」程度である。なお、ある油脂の凝固点の温度に幅がある場合、その凝固点の温度範囲の下限値の温度を本発明における凝固点としてもよいが、該温度範囲の中央の温度を本発明における凝固点とすることが好ましく、該温度範囲の上限の温度を本発明における凝固点とすることがより好ましい。本発明における「油脂の凝固点以上の温度」としては、油脂の凝固点以上の温度であれば特に制限されないが、油脂の凝固点の温度範囲の下限又は中央又は上限の温度より5℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上高い温度であって、かつ、10℃〜70℃の範囲内の温度を好ましく挙げることができ、油脂として乳脂肪を用いる場合の好ましい「油脂の凝固点以上の温度」として例えば、30℃以上、好ましくは30〜70℃、より好ましくは50〜70℃、さらに好ましくは50〜60℃の温度を挙げることができる。

混合した無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液の均質化は、高圧ホモジナイザーなどの均質機を用いて行うことができる。均質化する際の圧は、特に制限されず、例えば10MPa以上50MPa未満の圧力や、15MPa以上40MPa以下の圧力であってもよく、また、通常の牛乳や還元乳の製造工程に用いられる15MPa以上25MPa以下の圧力で行うこともできるが、味覚、風味及び乳化安定性により優れた還元乳を得る観点から、通常より高い均質化圧力を採用することもできる。

本発明においては、本発明の還元乳の製造方法により製造される味覚、風味及び乳化安定性の改善された還元乳を原料の全部又は一部として用いて、優れた還元乳食品材料として、加工乳、乳飲料、乳入り飲料の製造に用いることができる。該「加工乳、乳飲料、乳入り飲料」には、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示を付した食品、又は病者用食品のような分類に包含される飲料も含まれる。

本発明の還元乳を使用して、「容器詰の加工乳」を製造する場合は、無脂乳固形分や乳脂肪等の乳原料と、水以外を含めることはできないため、還元乳製造原料には乳原料と水以外の成分を含めないことが好ましい。他方、本発明の還元乳を使用して、「容器詰の乳飲料、乳入り飲料」を製造する場合は、乳原料と、水以外の原料として任意成分を用いることができる。任意成分としては、例えば、コーヒー、茶、果汁、野菜汁などの食品素材、植物等の天然物やその抽出物、精製物、濃縮物、加工物、甘味料、栄養補助剤、pH調整剤、乳化剤、増粘剤、香料、起泡剤、消泡剤等の添加物が挙げられる。本発明において、「乳入り飲料」及び「乳飲料」には、本発明における還元乳を含んでいる飲料である限り、特に区別なく用いられ、例えば、乳入り紅茶、乳入りコーヒー、乳入りココア、コーヒー牛乳、フルーツ牛乳、イチゴ牛乳、酸乳飲料などを挙げることができる。

以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。

後述の還元乳実施例及び比較例においては、無脂乳固形分原料としていずれも脱脂粉乳(フォンテラ社製)を用いた。また、油脂分原料としては、実施例1〜2及び比較例1〜4においては、動物性油脂であるバター(フォンテラ社製)を用い、実施例3〜4及び比較例5〜6においては、植物性油脂であるコメ油を用いた。前述の脱脂粉乳及びバターの成分は、表1に示すとおりである。

後述の還元乳実施例及び比較例を調製する際の、無脂乳固形分溶解液や油脂分乳化液の殺菌処理には、チューブ式熱交換方式のUHT殺菌装置を、均質化処理にはイズミフードマシナリ社製の高圧ホモジナイザーを用いた。

[実施例1] 図1に示す工程に従い、還元乳実施例1を調製した。具体的には以下のような方法で調製した。脱脂粉乳688.8gを55〜65℃の湯に溶解させて、無脂乳固形分溶解液4000g(無脂乳固形分16.6%、乳脂肪分0.17%)を得た。また、55〜65℃の液温の乳化剤P−1670(三菱化学フーズ社製)溶解液に、55〜65℃に加温して融解させたバター352gを少しずつ添加した後、5分間高速で攪拌し、湯を添加して4000gにメスアップすることで、油脂分乳化液(動物性油脂分乳化液)(乳脂肪分7.3%、無脂乳固形分0.14%、P−1670 2000ppm)を得た。無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液は、それぞれ別々に、130℃で2秒間加熱殺菌した。その後、別々のまま液温60℃まで冷却した両液を1000gずつ混合し、混合液をすみやかに20MPaの圧力で均質化した後、10℃まで冷却して還元乳実施例1(乳脂肪分3.74%、無脂乳固形分8.37%)を調製した。

上記の実施例1の風味及び乳化安定性を評価するために、以下の比較例1〜3を調製した。

[比較例1] 図2に示す工程に従い、還元乳比較例1を調製した。具体的には以下のような方法で調製した。無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液は実施例1と同じ条件で調製した。無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液は、それぞれ別々に、130℃で2秒間加熱殺菌した。その後、両液をそれぞれ別々に液温60℃まで冷却し、すみやかに20MPaの圧力でそれぞれを均質化した後、別々のまま10℃まで冷却した。冷却した無脂乳固形分溶解液500gと、冷却した油脂分乳化液500gを混合して還元乳比較例1を調製した。

[比較例2] 図3に示す工程に従い、還元乳比較例2を調製した。具体的には以下のような方法で調製した。無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液は実施例1と同じ条件で調製した。無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液を2000gずつ混合した後、混合液を130℃で2秒間加熱殺菌した。その後、混合液を液温60℃まで冷却し、すみやかに20MPaの圧力で均質化した後、10℃まで冷却して還元乳比較例2を調製した。

[比較例3] 図4に示す工程に従い、還元乳比較例3を調製した。具体的には以下のような方法で調製した。脱脂粉乳344.4gを55〜65℃の湯3200gに添加して攪拌・溶解した。その溶液に55〜65℃に加温して融解させたバター176gを少しずつ添加した後、5分間高速攪拌し、湯を添加して4000gにメスアップした。無脂乳固形分と乳化された油脂分(乳脂肪分)とが含まれているこの液体を130℃で2秒間加熱殺菌した後、液温60℃まで冷却し、すみやかに20MPaの圧力で均質化した。均質化処理後、10℃まで冷却して還元乳比較例3を調製した。

<風味の官能評価方法> 上記の実施例及び比較例で製造した還元乳の風味の官能評価を行った。評価は、市販の還元乳及び牛乳の飲用習慣のある、訓練された官能パネラー5名により実施した。それぞれの還元乳の製造方法は伏せて官能評価を実施し、表2の基準に従って評価を行った。

また、上記の実施例1及び比較例1〜3の各還元乳の乳化安定性について、以下の方法により評価を行った。

<乳化安定性評価方法> 各還元乳10mlを、高さ140mmで直径10mmのサンプル管にアプライして密封し、5℃の環境下で静置保存した。保存開始から、油水分離が初めて観察されるまでの日数を測定し、還元乳の乳化安定性の指標として評価した。

<実施例1及び比較例1〜3の官能評価及び乳化安定性評価の結果> 実施例1及び比較例1〜3の各還元乳について行った官能評価の結果と乳化安定性評価の結果を表3に示す。

無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液を混合した後で加熱殺菌を行った比較例2及び3と比較して、無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液を別々に加熱殺菌した実施例1及び比較例1のほうが、より良好な風味を有していると評価された。これらの結果から、無脂乳固形分溶解液と、油脂分乳化液を、別々に加熱殺菌する事で、風味のより良好な還元乳を製造できる事が確認された。

また、無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液を、それぞれ均質化した後で両液を混合した比較例1の乳化安定性は悪く、保存開始からわずか2日で油水分離が観察された。一方、無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液を混合した後で均質化処理を行った、実施例1の乳化安定性は良好で、保存開始から22日間油水分離が観察されなかった。油滴を微細にする均質化処理工程は、還元乳の乳化安定性を向上させるのに必須の工程であるが、無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液を、それぞれ均質化した後で混合するのではなく、混合させた後で均質化する事で、還元乳の乳化安定性を顕著に向上させることが可能である事が、これらの結果により示された。

次に無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液を混合させた後に行う均質化処理における、混合液の温度による影響を検討するため、実施例2及び比較例4を調製した。

[実施例2] 図5に示す工程に従い、還元乳実施例2を調製した。具体的には以下のような方法で調製した。無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液は実施例1と同じ条件で調製した。無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液は、それぞれ別々に、130℃で2秒間加熱殺菌した。その後、別々のまま液温60℃まで冷却した両液を1000gずつ混合し、混合液を30℃まで冷却した後、すみやかに20MPaの圧力で均質化した。均質化処理後、10℃まで冷却して還元乳実施例2を調製した。

[比較例4] 図6に示す工程に従い、還元乳比較例4を調製した。具体的には以下のような方法で調製した。無脂乳固形分溶解液及び油脂分乳化液は実施例1と同じ条件で調製した。無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液は、それぞれ別々に、130℃で2秒間加熱殺菌した。その後、別々のまま液温60℃まで冷却した両液を1000gずつ混合し、混合液を10℃まで冷却した後、すみやかに20MPaの圧力で均質化した。均質化処理後、10℃まで冷却して還元乳比較例4を調製した。なお、比較例4の調製法は、両液を混合した後の冷却温度が30℃ではなく、10℃である点のみが、実施例2の調製法と異なっている。

<実施例2及び比較例4の官能評価及び乳化安定性評価の結果> 上記の実施例2及び比較例4の各還元乳について、風味の官能評価及び乳化安定性の評価を行った。各評価は、前述の方法で行った。実施例2及び比較例4についての官能評価の結果と乳化安定性評価の結果を表4に示す。

殺菌後の無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液を混合し、混合液を液温30℃まで冷却した後で均質化処理した実施例2は、良好な風味を有していた。また、乳化安定性も良好で、保存開始から22日間油水分離が観察されなかった。一方、殺菌後の無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液を混合し、混合液を液温10℃まで冷却した後で均質化処理した比較例4は、乳化安定性が非常に悪く、保存開始からわずか1日で油水分離が観察された。前述したように、実施例2の調製法と比較例4の調製法の相違は、両液を混合した後の冷却温度が30℃(実施例2)であるか、10℃(比較例4)であるかのみである。油脂分乳化液における油脂分原料として使用しているバターは、凝固点が30℃前後とされており、30℃以上の温度であれば90%以上が液体脂の状態となる事が知られている。実施例2及び比較例4を用いた実験結果から、無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液を混合した後に行う均質化処理を、油脂分乳化液における油脂分原料であるバターの凝固点よりも低い液温で行うと十分な均質化処理を行うことができず、かかる均質化処理は、油脂分乳化液における油脂分原料であるバターの凝固点以上の液温で行う事が必要であることが示された。

次に、バターを油脂分原料とする油脂分乳化液(動物性油脂分乳化液)の代わりに、植物油脂を油脂分原料とした植物性油脂分乳化液を用いて、実施例3〜4及び比較例5〜6を調製した。

[実施例3] 図7に示す工程に従い、還元乳実施例3を調製した。具体的には以下のような方法で調製した。無脂乳固形分溶解液は実施例1と同じ条件で調製した。また、55〜65℃の液温の乳化剤P−1670溶解液に、55〜65℃に加温したコメ油292gを少しずつ添加した後、5分間高速で攪拌し、湯を添加して4000gにメスアップすることで、油脂分乳化液(植物性油脂分乳化液)(油脂分7.3%、P−1670 2000ppm)を得た。無脂乳固形分溶解液と油脂分乳化液は、それぞれ別々に、130℃で2秒間加熱殺菌した。その後、別々のまま液温50℃まで冷却した両液を1000gずつ混合し、混合液をすみやかに20MPaの圧力で均質化した後、10℃まで冷却して還元乳実施例3を調製した。

[実施例4] 図8に示す工程に従い、還元乳実施例4を調製した。具体的には以下のような方法で調製した。無脂乳固形分溶解液は実施例1と同じ条件で調製し、植物性油脂分乳化液は実施例3と同じ条件で調製した。無脂乳固形分溶解液と植物性油脂分乳化液は、それぞれ別々に、130℃で2秒間加熱殺菌した。その後、別々のまま液温50℃まで冷却した両液を1000gずつ混合し、混合液を10℃まで冷却した後、すみやかに20MPaの圧力で均質化した。均質化処理後、10℃まで冷却して還元乳実施例4を調製した。

[比較例5] 図9に示す工程に従い、還元乳比較例5を調製した。具体的には以下のような方法で調製した。無脂乳固形分溶解液は実施例1と同じ条件で調製し、植物性油脂分乳化液は実施例3と同じ条件で調製した。無脂乳固形分溶解液と植物性油脂分乳化液を2000gずつ混合した後、混合液を130℃で2秒間加熱殺菌した。その後、混合液を液温50℃まで冷却し、すみやかに20MPaの圧力で均質化した後、10℃まで冷却して還元乳比較例5を調製した。

[比較例6] 図10に示す工程に従い、還元乳比較例6を調製した。具体的には以下のような方法で調製した。無脂乳固形分溶解液は実施例1と同じ条件で調製し、植物性油脂分乳化液は実施例3と同じ条件で調製した。無脂乳固形分溶解液と植物性油脂分乳化液は、それぞれ別々に、130℃で2秒間加熱殺菌した。その後、両液をそれぞれ別々に液温50℃まで冷却し、すみやかに20MPaの圧力でそれぞれを均質化した後、別々のまま10℃まで冷却した。冷却した無脂乳固形分溶解液500gと、冷却した植物性油脂分乳化液500gを混合して還元乳比較例6を調製した。

上記の実施例3〜4及び比較例5〜6の各還元乳について、風味の官能評価及び乳化安定性の評価を行った。各評価は、前述の方法で行った。実施例3〜4及び比較例5〜6についての官能評価の結果と乳化安定性評価の結果を表5に示す。

無脂乳固形分溶解液と植物性油脂分乳化液を別々に加熱殺菌した後で混合し、混合液の均質化処理を行った実施例3は異臭が少なく、良好な風味であった。また、乳化安定性も良好で、保存開始から22日間油水分離が観察されなかった。一方、無脂乳固形分溶解液と植物性油脂分乳化液を混合した後で加熱殺菌を行った比較例5は、異臭が強く風味が悪かった。また、無脂乳固形分溶解液と植物性油脂分乳化液をそれぞれ均質化処理した後で混合した比較例6は、極めて乳化安定性が悪く、保存開始からわずか1日で油水分離が観察された。これらの結果から、バターの代わりに植物性油脂を用いて還元乳を調製する場合においても、無脂乳固形分溶解液と植物性油脂分乳化液を別々に殺菌し、殺菌後の両液を混合した後で均質化処理を行う製法を用いる事で、風味と乳化安定性が良好な還元乳が製造可能である事が示された。

また、無脂乳固形分溶解液と植物性油脂分乳化液を別々に加熱殺菌した後で混合し、混合液の液温が10℃の状態で均質化処理を行った実施例4も、実施例3と同様に良好な風味であり、乳化安定性も良好であった。植物性油脂分乳化液の油脂分原料として使用しているコメ油の凝固点は、バター等の動物性脂肪の凝固点よりも低く、−5〜−10℃である事が知られているところ、10℃という液温でも、コメ油の凝固点よりも高い液温に相当し、十分な均質化処理が行われたと考えられる。

実施例3及び4の実験結果を、前述の実施例2及び比較例4の実験結果と併せ考慮すると、無脂乳固形分溶解液と、油脂分乳化液(動物性油脂分乳化液又は植物性油脂分乳化液)とを混合した後に行う均質化処理は、油脂分乳化液の油脂分原料である動物性油脂や植物性油脂の凝固点以上の液温で行う事が必要であることが示された。

本発明は、新鮮な牛乳様の味覚、風味を有し、乳化安定性の良好な還元乳を提供する。特に、脱脂粉乳等の無脂乳固形分原料と、油脂分原料とを用いて還元乳を製造する場合において、製造した還元乳が有する異味、異臭を低減することにより、新鮮な牛乳様の味覚、風味を有する還元乳を製造すると共に、脱脂粉乳等の粉体の無脂乳固形分原料を原料として用いる場合に招来する還元乳の低下した乳化安定性を改善して、乳化安定性に優れた還元乳を製造する方法を提供する。本発明の新鮮な牛乳様の味覚、風味と、乳化安定性に優れた還元乳は、加工乳、乳飲料及び乳入り飲料を調製するための乳原料として、好適に用いることができる。

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