チーズソースおよびその製造方法

申请号 JP2016545632 申请日 2015-08-28 公开(公告)号 JPWO2016031953A1 公开(公告)日 2017-06-15
申请人 株式会社明治; 发明人 清之介 浅野; 清之介 浅野; 真樹 高石; 真樹 高石; 裕美 森川; 裕美 森川;
摘要 本発明は、スプレダビリティーおよび絞り出し易さのような作業特性と、乳化安定性とを向上させ、かつ、チーズの風味や食感も向上させ得るチーズソースおよびその製造方法を提供することを目的とする。本発明のチーズソースは、少なくとも、原料チーズ、HLBが0〜2の親油性乳化剤およびHLBが15〜20の親 水 性乳化剤からなる群から選択される少なくとも1つの乳化剤、並びに水を含有する。
权利要求

少なくとも、原料チーズ、HLBが0〜2の親油性乳化剤およびHLBが15〜20の親性乳化剤からなる群から選択される少なくとも1つの乳化剤、並びに水を含有するチーズソース。チーズソースの水分含有量が、40〜56質量%である請求項1に記載のチーズソース。10℃における硬度が0.01〜500gである、又は10℃における粘度が0.01〜750Pa・sである請求項1または請求項2に記載のチーズソース。原料チーズの全量中において、熟度指数である水溶性窒素と全窒素の質量比が16〜40%である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のチーズソース。少なくとも、原料チーズ、HLBが0〜2の親油性乳化剤およびHLBが15〜20の親水性乳化剤からなる群から選択される少なくとも1つの乳化剤、並びに水を混合して混合物を得る混合工程と、この得られた混合物を加熱・乳化する加熱乳化工程とを有するチーズソースの製造方法。加熱乳化工程後の混合物のpHを5〜6に調整する工程を含む請求項5に記載のチーズソースの製造方法。前記混合工程において、モノリン酸一ナトリウム、モノリン酸二ナトリウムおよびモノリン酸三ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1つの溶融塩を添加する請求項5または請求項6に記載のチーズソースの製造方法。チーズソースの水分含有量が、製造されるチーズソースの全量に対して40〜56質量%である請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載のチーズソースの製造方法。原料チーズの全量中において、熟度指数である水溶性窒素と全窒素の質量比が16〜40%である請求項5〜請求項8のいずれか1項に記載のチーズソースの製造方法。

说明书全文

本発明は、チーズソースおよびその製造方法に関し、更に詳しくは、流動性を有し、塗り広がり易さ(スプレダビリティー)があり、かつチーズ風味の良好なチーズソースおよびその製造方法に関する。

チーズは、乳由来のタンパク質やカルシウムなどが豊富に含まれており、栄養面で優れた食品である。とくに、成長期の子供に対する栄養補給や、骨粗鬆症を心配する女性や高齢者に対するカルシウム補給に有効である。チーズには、原料乳を凝固させホエイを排除して、必要に応じて熟成されたナチュラルチーズ、ナチュラルチーズを原料として、と溶融塩を添加して溶融・乳化したプロセスチーズ、ナチュラルチーズやプロセスチーズに食品や食品添加物を加え、チーズが51質量%以上で配合された原料を溶融・乳化したチーズフードに大別される。

一方、チーズソース(チーズスプレッド)のような半固体状のチーズは、各種の料理を調味する、野菜や果物等を浸す、製菓や製パンの生地へ練り込む等の目的で広い用途が期待される。チーズソースは、風味や食感以外にも、スプレダビリティーや絞り出し易さのような作業特性の良否が、製品価値を左右する大きな要素となっている。

例えば、特許文献1には、非熟成のフレッシュチーズと熟成させたナチュラルチーズを原料チーズ成分として用いて調製され、熟度指標が15〜22%であるチーズスプレッドが提案されている。

日本国特許第3004911号公報

しかしながら、特許文献1は、風味および食感等の官能特性と、スプレダビリティーおよび絞り出し易さのような作業特性と、乳化安定性とを同時に満足するチーズソースを提供することが困難であった。

また、これらのチーズソースに求められる固有の特性を向上させるために、様々な技術が考えられ、例えば、チーズソースを柔らかくするために、(1)水分含有量を高める、(2)溶融塩のクリーミング作用を抑制する、(3)高熟度の原料チーズを使用する等の方法が一般的に採用され得る。 しかし、(1)の方法では、原料チーズの比率が相対的に低下するため、チーズの風味が弱くなり、製品の価値を低下させる場合があり、また、(2)や(3)の方法では、乳化の状態が不安定となって、脂肪の分離を促進する場合があり、安定的な製品の製造を損なう等の問題点があった。

上記に鑑み、本発明は、チーズを主原料とするチーズ含有食品であって、流動性を有し、スプレダビリティーおよび絞り出し易さのような作業特性と、乳化安定性とを向上させ、かつ、チーズの風味や食感も向上させ得るチーズソースおよびその製造方法を提供することを課題とする。

本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、HLBが0〜2の親油性乳化剤およびHLBが15〜20の親水性乳化剤からなる群から選択される少なくとも1つの乳化剤を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。

すなわち、本発明は、以下の(1)〜(9)によって達成される。 (1)少なくとも、原料チーズ、HLBが0〜2の親油性乳化剤およびHLBが15〜20の親水性乳化剤からなる群から選択される少なくとも1つの乳化剤、並びに水を含有するチーズソース。 (2)チーズソースの水分含有量が、40〜56質量%である前記(1)に記載のチーズソース。 (3)10℃における硬度が0.01〜500gである、又は10℃における粘度が0.01〜750Pa・sである前記(1)または(2)に記載のチーズソース。 (4)原料チーズの全量中において、熟度指数である水溶性窒素と全窒素の質量比が16〜40%である前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のチーズソース。 (5)少なくとも、原料チーズ、HLBが0〜2の親油性乳化剤およびHLBが15〜20の親水性乳化剤からなる群から選択される少なくとも1つの乳化剤、並びに水を混合して混合物を得る混合工程と、この得られた混合物を加熱・乳化する加熱乳化工程とを有するチーズソースの製造方法。 (6)加熱乳化工程後の混合物のpHを5〜6に調整する工程を含む前記(5)に記載のチーズソースの製造方法。 (7)前記混合工程において、モノリン酸一ナトリウム、モノリン酸二ナトリウムおよびモノリン酸三ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1つの溶融塩を添加する前記(5)または(6)に記載のチーズソースの製造方法。 (8)チーズソースの水分含有量が、製造されるチーズソースの全量に対して40〜56質量%である前記(5)〜(7)のいずれか1つに記載のチーズソースの製造方法。 (9)原料チーズの全量中において、熟度指数である水溶性窒素と全窒素の質量比が16〜40%である前記(5)〜(8)のいずれか1つに記載のチーズソースの製造方法。

本発明のチーズソースは、従来にない所望の流動性を有するので、スプレダビリティーおよび絞り出し易さのような作業特性の向上が可能であり、また同時に、乳化安定性の向上も可能となる。更に本発明のチーズソースは、水分含有量を抑制できるので、原料チーズの比率が相対的に高まり、チーズの風味や食感を格段に向上させることが可能となる。

図1(a)は、密封容器に充填したチーズソース1〜6を熱水に浸漬・保持した後の状態を示す写真図面であり、図1(b)は、図1(a)の模式図である。

図2(a)は、密封容器に充填したチーズソース7〜11を熱水に浸漬・保持した後の状態を示す写真図面であり、図2(b)は、図2(a)の模式図である。

図3は、チーズソース14〜17の流動性を示す図である。

図4は、pHの変化に伴うチーズソースの粘度変化を示す図である。

図5は、共焦点レーザー顕微鏡によるチーズソース19と比較プロセスチーズの観察写真図である。

図6は、チーズソースの粘度と硬度の関係を示すグラフである。

図7は、チーズソースの均質化圧の変化に伴う粘度の変化を示すグラフである。

図8は、チーズソース21および比較チーズソース1、2のPTA可溶性窒素(PTA)と全窒素(全N)の質量比を示すグラフである。

以下、本発明を更に詳細に説明する。 なお、本明細書において、「質量」で表される百分率や部は「重量」で表される百分率や部と同義である。

本発明のチーズソースは、少なくとも、原料チーズ、HLBが0〜2の親油性乳化剤およびHLBが15〜20の親水性乳化剤からなる群から選択される少なくとも1つの乳化剤、並びに水を含有するものである。

なお、本発明において、「チーズソース」とは、0〜80℃で流動性を有するチーズ含有食品である。「0〜80℃で流動性を有する」とは、固化することなく流動性を保持していることをいい、かかるチーズソースの流動性を示す指標として、80℃における粘度が0〜750Pa・sであるものであることが好ましい。また、10℃における硬度が500g以下であることが好ましい。上記のとおり0〜80℃での流動性を評価する代わりに、10℃における粘度、80℃における粘度又は10℃における硬度を採用することができるが、上記粘度と硬度は互いに相関関係があり、80℃における粘度と10℃における硬度も相関しており、0〜80℃におけるチーズソースの外観上の流動性と一致している。 また、本発明のチーズソースはチーズを主原料とするチーズ含有食品であって、チーズソースは、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(乳等省令)で定義されるプロセスチーズに分類される。 また、「主原料」は、全原料中において最も高い割合で存在する原料を意味し、原料チーズがチーズソースの総量に対して60質量%以上を占めることが好ましく、62質量%以上がより好ましく、63質量%以上がさらに好ましい。

本発明で使用する原料チーズは、特に制限されないが、超硬質チーズ(特別硬質チーズ)、硬質チーズおよび半硬質チーズからなる群から選ばれる少なくとも一種を含んでいることが好ましい。なお、前記チーズの分類は、チーズの国際規格(CODEX STAN A−6−1978,Rev.1−1999,Amended 2003)において、脂肪以外のチーズ重量中の水分含有量[%](MFFB)により規定されている。 超硬質チーズは、MFFBが51%未満のものを指し、例えば、パルメザンチーズやグラナチーズ等が挙げられる。 硬質チーズは、MFFBが約49〜56%のものを指し、例えば、ゴーダチーズ、エダムチーズ、エメンタールチーズ、チェダーチーズ等が挙げられる。 半硬質チーズは、MFFBが約54〜69%のものを指し、例えば、ポールデュサリュ、セントポーリン、ブリックチーズ、ロックフォールチーズ、サムソーチーズ、マリボーチーズ等が挙げられる。 また、再製チーズも使用することができる。再製チーズとは、ナチュラルチーズを既にプロセスチーズ化したものを指す。

本発明で使用する原料チーズは、作業特性、風味、食感を向上させるという観点から、原料チーズの全量中において、熟度指数(熟度(%))である水溶性窒素(水溶性N)と全窒素(全N)の質量比(水溶性N/全N(%))が16〜40%であるものが好ましく、25〜36%であるものがより好ましく、27〜33%であるものがさらに好ましい。原料チーズの全量中における熟度(水溶性N/全N)が16%以上であると、チーズソースの粘度および硬度を低減してチーズソースに流動性を付与することができ、40%以下であると、バランスが良いチーズの強い風味を得ることができるため好ましい。 なお、本明細書において、水溶性窒素とは、熟成中にタンパク質が酵素によって分解されて生成する、分子量が5,000Da以下のペプチドまたはアミノ酸に含まれる窒素のことである。これらの含有量は、原料チーズ中で、熟成の進行とともに増大する。

原料チーズの全量中における、水溶性窒素(水溶性N)と全窒素(全N)の質量比は、以下の計算方法で算出できる。 熟度(%)=水溶性N/全N(%)=水溶性窒素含有量/全窒素含有量×100

また、全窒素含有量および水溶性窒素含有量は、以下の方法で測定することができる。 [全窒素含有量] ケルダール法にて測定する。 [水溶性窒素含有量] (1) 試料(チーズ)の5gに、約50℃に加温した0.05Mのクエン酸ナトリウム・二水和物溶液を60mlで加え、回転式ホモゲナイザーを用いて8000rpm、約3分間で、ホモジナイズする。 (2) ホモゲナイザーを蒸留水で洗いこみながら100gとする。 (3) スターラーで攪拌しながら、6規定の塩酸溶液でpHを4.40±0.05に調整する。 (4) 東洋ろ紙No.5Aで、ろ過し、ろ液の2mlを取り、ケルダール法により窒素を定量する。この得られた値がチーズの1gあたりの水溶性窒素含有量である。

原料チーズの配合量は、チーズソースの全量に対し60質量%以上であり、65〜77質量%が好ましく、70〜75質量%がより好ましい。原料チーズを60質量%以上含有させることで、チーズの強い風味を得ることができる。また、原料チーズを77質量%以下に配合した場合は、チーズソースを低粘度に調整しやすくなるので流動性のある、作業特性に優れたチーズソースを得ることができる。

本発明で使用される乳化剤は、HLBが0〜2の親油性乳化剤およびHLBが15〜20の親水性乳化剤からなる群から選択される少なくとも1つの乳化剤(以下、「本発明の特定乳化剤」とも言う)である。 HLBが0〜2の親油性乳化剤は、脂肪に対して、疎水性カゼインタンパクの周囲を覆うように配位させ、脂肪の安定化と、タンパク質の保護による粘度上昇を抑制するという効果をもたらすと推測される。また、HLBが15〜20の親水性乳化剤は、脂肪とその表面を覆う両親媒性カゼインタンパク質からなる複合体に対して、その表面を乳化剤が覆うことで、他の複合体との接触を阻害し、乳化安定性の向上と粘度の上昇を抑制する効果をもたらすと推測される。

乳化剤は、上記HLBの規定を満たせば、特に制限されず、従来公知のものを使用することができる。乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられ、その中からHLBが0〜2の親油性乳化剤あるいはHLBが15〜20の親水性乳化剤を選択すればよい。乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。 HLBが0〜2の親油性乳化剤としては、例えば、三菱化学フーズ株式会社製「シュガーエステルS−270」(商品名、HLB=2)、同「シュガーエステルS−170」(商品名、HLB=1)、同「シュガーエステルS−070」(商品名、HLB<1)、太陽化学株式会社製「サンソフト818R」(商品名、HLB<1)等が挙げられる。 また、HLBが15〜20の親水性乳化剤としては、例えば、三菱化学フーズ株式会社製「シュガーエステルP−1570」(商品名、HLB=15)、同「シュガーエステルP−1670」(商品名、HLB=16)、同「シュガーエステルS1670」(商品名、HLB=16)、同「モノエステルP」(商品名、HLB=19)等が挙げられる。

HLBが0〜2の親油性乳化剤およびHLBが15〜20の親水性乳化剤からなる群から選択される少なくとも1つの乳化剤の配合量は、製品の粘度や乳化安定性の観点から、原料チーズに対して、0.15〜1質量%が好ましく、0.2〜0.8質量%がより好ましく、0.25〜0.6質量%が更に好ましい。

また、本発明の特定乳化剤は、チーズソースの全量に対し、0.05〜0.8質量%となるように配合するのが好ましく、0.05〜0.4質量%がより好ましく、0.05〜0.2質量%が更に好ましい。本発明の特定乳化剤の配合量をチーズソース中0.05質量%以上となるように調整することで、チーズソースの製造時の乳化安定性を向上させ、製品の粘度や硬度の上昇を抑制することができ、0.8質量%以下に調整することで、チーズソースの製造時の乳化安定性を向上させ、製品の粘度や硬度の上昇を抑制することができる。

水は、チーズソースを所望の粘度および硬度とするために配合される。水は、食品に配合できるものであれば、特に限定されず、例えば、蒸留水、脱イオン水、水道水、上水等が挙げられる。 水は、製造されるチーズソースの水分含有量が40〜56質量%となるように配合するのが好ましく、より好ましくは42〜54質量%、さらに好ましくは44〜50質量%となるように、その配合量を調整することが好ましい。上記したように、原料チーズには水分が含まれているため、この原料チーズ中の水分を含めたチーズソースの全量に対する水分含有量を上記範囲とする。チーズソースの水分含有量が上記範囲であれば、チーズソースにおける原料チーズの比率を高くすることができるため、チーズの風味を向上させることができる。なお、水の配合量としては、例えば、16〜26質量%程度であることが好ましく、原料チーズの水分含有量を考慮して適宜調整すればよい。

なお、チーズソースの水分含有量は以下の混砂法で測定することができる。 [水分含有量] (1) ケイ砂15〜20g及び小ガラス棒を入れたアルミ製秤量皿を、102℃に設定した熱風循環式乾燥機で1時間乾燥した後、デシケーター中で約30分間放冷する。 (2) 精密秤で秤量皿の重さを秤量した後、1.5〜2.0gの試料を精秤する。 (3) ホットプレート上で加熱しながらガラス棒で静かにかき混ぜる。 (4) 乾燥してケイ砂がサラサラになったら、秤量皿を102℃に設定した熱風循環式乾燥機で2時間乾燥した後、デシケーター中で約30分間放冷する。 (5) 精密秤で秤量し、次式より水分[%]を求める。 水分[%]=(試料質量−乾燥後質量)÷試料質量×100

チーズソースは通常、チューブ容器、ドレッシング容器、瓶等に充填され、その不使用時には、冷蔵室等に保存される。そして、その使用時に、冷蔵室から取り出して充填容器から移し出すが、例えば、チューブ容器に充填されている場合には、絞り出し作業が必要になる。2〜10℃付近の低温で保存されたチーズソースの絞り出しの作業性等の観点から、本発明のチーズソースは、10℃における硬度が0.01g〜500gであることが好ましく、0.01g〜400gであることがより好ましく、0.01g〜300gであることがさらに好ましく、0.01g〜100gであることがさらに一層好ましい。チーズソースの10℃における硬度が前記範囲であると、所望の流動性を有し、スプレタビリティーや絞り出し易さに代表される作業特性が改善できる。

本発明において、チーズソースは0〜80℃で所望の流動性を有していればよい。流動性は粘度計(例えば、リオン株式会社製「ビスコテスター VT−04F」)により測定でき、例えば、10℃において好ましくは0.01〜750Pa・s、より好ましくは0.01〜650Pa・s、さらに好ましくは0.01〜550Pa・sである。

また、本発明において、チーズソースの80℃における粘度は0.01〜100Pa・sであることが好ましく、0.01〜30Pa・sであることがより好ましく、0.01〜10Pa・sであることがさらに好ましい。また、チーズソースの10℃における粘度は0.01〜750Pa・sであることが好ましく、0.01〜650Pa・sであることがより好ましく、0.01〜550Pa・sであることがさらに好ましい。チーズソースの80℃における粘度および10℃における粘度が上記範囲であると、所望の流動性を有し、スプレダビリティーや絞り出し易さに代表される作業特性が改善できる。

チーズソースのpHは、実際に製造されるチーズソースの粘度および硬度や、製造中の乳化安定性、生物学的な保存性に寄与する。本発明のチーズソースに用いられるpH調整剤には、乳酸や炭酸ナトリウムなど、一般のプロセスチーズ製造に用いられているpH調整剤を用いることができる。 pH調整剤は、実際に製造されるチーズソースのpHが好ましくは5〜6、より好ましくは5.2〜5.8、さらに好ましくは5.3〜5.8となるように、その配合量を調整することが好ましい。チーズソースのpHが上記範囲であれば、低粘性で作業特性に富み、かつ乳化安定性に優れる、という効果を奏することができる。

本発明のチーズソースは、少なくとも、原料チーズ、HLBが0〜2の親油性乳化剤およびHLBが15〜20の親水性乳化剤からなる群から選択される少なくとも1つの乳化剤、並びに水、さらに必要に応じて溶融塩を混合して混合物を得る混合工程と、この得られた混合物を加熱・乳化する加熱乳化工程とを経て製造することができる。 混合工程および加熱乳化工程は、原料チーズを加熱溶融して乳化する公知の装置を用いて実施することができる。このような装置としては、例えば、ケトル型チーズ乳化釜、横型クッカー、高速剪断乳化釜、連続式熱交換機(ショックステリライザー、コンビネーター)等が挙げられる。また、該装置とホモジナイザー、インラインミキサー、コロイドミル等の乳化機を組み合わせることも可能である。

本発明では、まず、原料チーズ、HLBが0〜2の親油性乳化剤およびHLBが15〜20の親水性乳化剤からなる群から選択される少なくとも1つの乳化剤、並びに水、さらに必要に応じて溶融塩を混合して混合物を得る混合工程を行う。

溶融塩は、得られるチーズソースの流動性と分散性をさらに向上させるため、用いることが好ましい。 溶融塩としては、リン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩等の通常のプロセスチーズの製造に用いられる溶融塩を用いることができる。溶融塩は、特に限定されないが、例えば、モノリン酸一ナトリウム、モノリン酸二ナトリウム、モノリン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カルシウム等が挙げられる。溶融塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。

本発明において、溶融塩は、モノリン酸一ナトリウム、モノリン酸二ナトリウムおよびモノリン酸三ナトリウムが特に好ましく、これらを用いることでチーズソースの流動性と分散性を更にバランスよく発揮することができる。

溶融チーズの粘度や硬さはタンパク質のネットワークに由来するものであるが、本発明のチーズソースは本発明の特定乳化剤とタンパク質の作用により、タンパク質のネットワークが阻害され、その構造が脆弱化し、O/W型の乳化物となるものと推定される。タンパク質は加熱されると60〜80℃付近で重合するが、本発明の特定乳化剤がその作用の阻害に寄与するものと推測される。かかる構造の脆弱化に溶融塩の添加がさらに良好に作用する。これにより得られるチーズソースが、従来にない所望の流動性を有し、作業特性を向上させることができる。本願発明のチーズソースがO/W型の乳化物であることは、例えば共焦点レーザー顕微鏡(例えば、株式会社オリンパス製「FV1000」)で観察できる。

溶融塩の配合量は特に断りがない限り、無水物換算での配合量である。リン酸塩およびその他の溶融塩の配合量は、合計量として、原料チーズの合計量(100質量%)に対して、通常0.1〜5質量%であり、0.5〜4質量%が好ましく、1.5〜3.5質量%がより好ましく、1.5〜2.5質量%がさらに好ましい。配合量が0.1質量%未満では、乳化が良好に行われず、チーズから油が分離することがある。配合量が5質量%を超えると、溶融塩の組み合わせによっては、溶融塩由来のえぐみなどが生じ、風味へ悪影響を及ぼすことがある。

混合工程では、上記原料の他に、副原料を適宜用いてもよい。副原料としては、例えば、増粘多糖類、香料、乳素材、デンプン、ゼラチン、動物油脂、植物油脂等が挙げられる。

混合工程では、原料チーズは粉砕して混合することが好ましい。原料チーズを他の原料と混合する前に粉砕しておけば、後の加熱乳化工程での加熱溶融が容易となる。原料チーズの粉砕手段としては、通常公知の手段、例えば、チョッパー等で切断し、粉砕すればよい。

本発明では、続いて、上記混合工程により得られた混合物を加熱・乳化する加熱乳化工程を行う。

加熱乳化工程では、粉砕された原料チーズ、本発明の乳化剤、溶融塩、水、および必要により副原料が添加された混合物を高速剪断乳化釜に投入し、撹拌しながら加熱溶融する。溶融終了後は均質化し(均質化工程)、充填する(充填工程)。

加熱乳化工程における加熱乳化温度は、80〜100℃の範囲が好ましく、85〜90℃の範囲がより好ましい。加熱乳化温度が前記範囲であると、良好な乳化安定性が得られ、粘度の上昇と風味の低下を抑制できるため好ましい。加熱乳化時間は、5〜10分間の範囲が好ましく、5〜8分間の範囲がより好ましい。加熱乳化時間が前記範囲であると、良好な乳化安定性が得られ、粘度の上昇と風味の低下を抑制できるため好ましい。加熱乳化は通常撹拌しながら行われる。

均質化工程における均質化圧は5MPa未満が好ましく、2MPa以下が更に好ましい。均質化圧が前記範囲であると、製造時の粘度上昇が抑制できるため好ましい。 均質化工程後は、適宜冷却操作を施し、本発明のチーズソースが得られる。

本発明のチーズソースは、原料チーズを60質量%以上含むことができ、そのため、得られたチーズソースのみでバランスの良いチーズ風味を有することができる。よって、フレーバーや調味料等の添加剤を必要とするものではないが、所望によりこれらの他の添加剤を、製造の任意の段階で配合(添加)してもよい。この任意の成分は、特に限定されないが、例えば、甘味類、フルーツ加工品、野菜加工品、乳製品、チョコレート、調味料等が挙げられる。具体的には、甘味類としては、液糖、水あめ、砂糖、蜂蜜、メープルシロップ等が、フルーツ加工品としては、ジャム、マーマレード、フルーツソース、果汁等が、野菜加工品としては、野菜ペースト、野菜汁、餡等が、乳製品としては、クリーム、発酵乳等が、調味料としては、食塩、マヨネーズ等が挙げられる。

なお、本発明は、少なくとも、原料チーズ、HLBが0〜2の親油性乳化剤およびHLBが15〜20の親水性乳化剤からなる群から選択される少なくとも1つの乳化剤、並びに水、さらに必要に応じて溶融塩を混合して混合物を得る混合工程と、この得られた混合物を加熱・乳化する加熱乳化工程とを有することを特徴とする、チーズソースにおけるスプレダビリティーの向上方法(改良方法)、絞り出し易さの向上方法、乳化安定性の向上方法、風味の向上方法、食感の向上方法でもある。

本発明のチーズソースは、使用用途に特に制限はなく、例えば、パン、クラッカー等に塗り広げて使用したり、野菜、果物等を浸して使用したり、各種料理のトッピングやソースとして使用したりすることができる。また、本発明のチーズソースを製菓や製パンの生地へ練り込んだり、ドレッシング、パスタソース、オムレツ、ドリア等の加工食品、飲料食品等に加えたりして、チーズソース含有食品とすることができる。

以下、本発明を実施例により更に説明するが、本発明は、下記例に制限されるものではない。

<実施例1:乳化剤のHLBの変化に伴う、チーズソースの乳化安定性への影響> (チーズソース1〜9の作製) ストロングチェダー(フォンテラ社製)を223g、グラニュラーK(チェダー、フォンテラ社製)を66g、パルメザン(フォンテラ社製)を33gで量り取り、各原料チーズを粉砕装置(株式会社なんつね製「ミートチョッパーMD−22K」)でミンチ状に粉砕し、混合装置内でこれらを均一になるまで混合した。原料チーズの熟度は28%であった。 続いて、原料チーズをケトル型の卓上釜に移し、モノリン酸一ナトリウムを9.4g、表1に示す各種の乳化剤のいずれかを1.7g添加し、さらに、実際に製造されるチーズソースの水分含有量が47質量%となるように、水を加え、乳酸を用いて、溶融後のpHが約5.5となるように調整して、各種の混合物を得た。

続いて、上記で得られた各種の混合物を100rpm、1分間の条件で撹拌した後に、200rpm、89℃、8分間の条件で加熱溶融して乳化させた。次に、乳化機(プライミクス株式会社製「TKホモミキサー」)を用いて、10000rpm、90秒間の条件で均質化してからチーズソース1〜9を得た。

(チーズソース10、11の作製) 上記チーズソース2において、溶融塩としてのモノリン酸一ナトリウムの配合量が、チーズソースの全体の重量に対して1.5%、1.0%となるようにした以外は同様にして、チーズソース10、11を得た。

得られたチーズソース1〜11をそれぞれ密封容器に充填し、80℃の熱水中に40分間の条件で浸漬・保持した。

熱水保持後の状態を観察した。また、溶融直後(80℃)の粘度、10℃冷却時の粘度および10℃冷却時の硬度を測定し、表2に示した。 なお、粘度は、粘度計(リオン株式会社製「ビスコテスター VT−04F」)により測定した。89℃に達温したチーズ乳化物をステンレス製カップ(3号カップ、リオン株式会社製)に9分目まで充填し、粘度計でそれぞれ測定した。ローターには、1号ローター(リオン株式会社製)を使用した。 硬度は、株式会社不動工業製「レオメーター」(プランジャー:φ10mm球、貫入速度:5cm/分、貫入距離:5mm)により測定した。

また、乳化安定性(熱水保持後の状態)と風味を下記基準により評価し、同じく表2に示した。更に、溶融直後の各チーズソースの密封容器内の状態を図1および図2に示した。 〔熱水保持後の状態評価〕 専門パネルの5名により、目視にて密封容器内のチーズソースの外観を確認し、下記の基準にて総合的に判断した。5名の評価点の平均点で評価した。 5:脂肪の分離が認められない状態 4:所々に脂肪の斑点が視認できる状態 3:明確に脂肪が分離し、局所的に滲みや黄変が生じている状態 2:激しく脂肪が分離し、組織全体が黄変した状態 1:チーズ組織と脂肪が完全に分離した状態 〔風味評価〕 専門パネルの5名により、チーズソースを試食し、下記基準にて総合的に判断した。5名の評価点の平均点で評価した。 5:チーズ由来の脂肪分解臭が鼻に抜けるように強く生じ、後味に旨味、コク味や甘味が強く感じられる 4:チーズ由来の脂肪分解臭が弱く感じられるが、後味にはっきりと旨味、コク味や甘味が残る 3:チーズ由来の脂肪分解臭、後味の旨味、コク味や甘味が弱い 2:全体として、塩味が際立ち、香り、旨味、コク味や甘味が弱く、スッキリしている 1:チーズの風味が弱く、塩味や加熱臭が強く感じられる

図1(a)および図1(b)並びに図2(a)および図2(b)から分かるように、チーズソース1〜3、7〜10では、熱水保持後に、外観が変化しなかったのに対し、チーズソース4〜6では、熱水保持時に、脂肪が溶けだし、外観がクリーム色から淡黄色へと変化した。なお、チーズソース11は若干の脂肪の分離が見られたが、総合評価として製品上問題になるレベルではない。 また、表2、図1(a)、図1(b)および図2(a)、図2(b)の結果から明らかなように、チーズソース1〜3、7〜10では、熱水保持後に、脂肪の分離は認められず、チーズソース4〜6に比べて、乳化安定性が優れていた。つまり、HLBが0〜2の親油性乳化剤またはHLBが15〜20の親水性乳化剤を用いることで、脂肪の分離(オイルオフ)を抑制して、乳化安定性に優れたチーズソースを製造できることが分かった。 なお、チーズソース1〜3および7〜11では、チーズ本来の風味および食感が十分に生かされた良好なものが得られた。

<実施例2:乳化剤の配合量の変化に伴う、チーズの流動性(硬度)への影響> チェダー(株式会社明治製)を5.2kg、グラニュラーK(チェダー、フォンテラ社製)を1.5kg、パルメザン(フォンテラ社製)を0.7kgで量り取り、各原料チーズを粉砕装置(株式会社なんつね製「ミートチョッパーMD−22K」)でミンチ状に粉砕し、混合装置内でこれらを均一になるまで混合した。原料チーズの熟度は28%であった。 続いて、上記原料チーズ、モノリン酸一ナトリウムを0.2kg、再製チーズ(原料チーズ中の5質量%となる量)および親油性乳化剤(三菱化学フーズ株式会社製「シュガーエステル P−170」、HLB=1)を表3に示す量(チーズソースの全体に対する質量%)で、該混合装置に入れ、さらに、チーズソースの水分含有量が約47質量%となるように、水を加え、乳酸を用いて、溶融後のpHが約5.5となるように調整して、各種の混合物を得た。 続いて、上記で得られた各種の混合物を、乳化釜(ステファン社製「ステファンクッカー」)を用いて、750rpm、1分間の条件で撹拌した後に、1500rpm、85℃、8分間の条件で加熱溶融して乳化させてチーズソース12、13を得た。

得られたチーズソース12、13をそれぞれ密封容器に充填し、80℃の熱水中に40分間の条件で浸漬・保持した。 実施例1と同様にして、この溶融直後(80℃)の粘度、10℃冷却時の粘度および10℃冷却時の硬度を測定し、表3に示した。 また、実施例1と同様に、乳化安定性(熱水保持後の状態)と風味を評価し、同じく表3に示した。

表3の結果から明らかなように、チーズソース12、13では、いずれも乳化安定性に優れ、硬度の上昇を抑制して、流動性に優れた、風味および食感の良好なチーズソースを製造できることが分かった。

<実施例3:溶融塩の種類の変更に伴う、チーズソースの流動性への影響> ストロングチェダー(フォンテラ社製)を246g、グラニュラーK(チェダー、フォンテラ社製)を70g、パルメザン(フォンテラ社製)を35gで量り取り、各原料チーズを粉砕装置(株式会社なんつね製「ミートチョッパーMD−22K」)でミンチ状に粉砕し、混合装置内でこれらを均一になるまで混合した。原料チーズの熟度は28%であった。 続いて、原料チーズをケトル型の卓上釜に移し、表4に示す各種の溶融塩を9.6gで添加し、さらに、実際に製造されるチーズソースの水分含有量が約47質量%となるように、水を加え、乳酸を用いて、溶融後のpHが約5.5となるように調整して、各種の混合物を得た。

続いて、上記で得られた各種の混合物を100rpm、1分間の条件で撹拌した後に、200rpm、85℃、8分間の条件で加熱溶融して乳化させた。次に、乳化機(プライミクス株式会社製「TKホモミキサー」)を用いて、10000rpm、90秒間の条件で均質化を行って各種チーズソースを得た。

この溶融直後のチーズソース14〜17の粘度を測定し、図3に示した。粘度は、粘度計(リオン株式会社製「ビスコテスター VT−04F」)により測定した。85℃に達温したチーズソースをステンレス製カップ(3号カップ、リオン株式会社製)に9分目まで充填し、粘度計で測定した。ローターには、1号ローター(リオン株式会社製)を使用した。

図3の結果から明らかなように、チーズソース14では、チーズソース15〜17に比べて著しく粘度が低下した。よって、モノリン酸二ナトリウムが粘度の上昇を効果的に抑制できることがわかった。

<実施例4:pHの変化に伴う、チーズソースの流動性への影響> チェダー(株式会社 明治製)を5.2kg、グラニュラーK(フォンテラ社製)を1.5kg、パルメザン(フォンテラ社製)を0.7kgで量り取り、各原料チーズを粉砕装置(株式会社なんつね製「ミートチョッパーMD−22K」)でミンチ状に粉砕し、混合装置内でこれらを均一になるまで混合した。原料チーズの熟度は28%であった。 続いて、上記原料チーズ、モノリン酸一ナトリウムを0.2kg、親油性乳化剤(三菱化学フーズ株式会社製「シュガーエステル P−170」、HLB=1)を0.02kgで、該混合装置に入れ、さらに、チーズソースの水分含有量が約47質量%となるように、水を加えた。乳酸を用いて、溶融後のpHが表5となる様に調整して、各種の混合物を得た。

続いて、上記で得られた各種の混合物を100rpm、1分間の条件で撹拌した後に、200rpm、85℃、8分間の条件で加熱溶融して乳化させてチーズソース18〜20を得た。この溶融直後のチーズソース18〜20の粘度を測定し、表5および図4に示した。89℃に達温したチーズソースをステンレス製カップ(3号カップ、リオン株式会社製)に9分目まで充填し、粘度計で測定した。ローターには、1号ローター(リオン株式会社製)を使用した。

表5および図4の結果から明らかなように、pHの低下に伴いチーズソースの粘度が低下することがわかった。pHが5.78(チーズソース18)では、粘度が上昇し流動性が低下する傾向が認められた。 なお、pHが5.3の場合(チーズソース20)は、低pHによる酸味がわずかに感じられたが問題のない風味であった。以上のことから、pHが5.3〜5.8の範囲であれば、流動性を確保するとともに、風味、物性ともに良好なチーズソースを製造できることがわかった。

<実施例5:共焦点レーザー顕微鏡による組織構造の比較> 上記実施例4で調製したチーズソース19を密閉容器に充填し、冷蔵庫で1晩静置した。その後、水分活性測定用プラスチックシャーレの8分目までサンプリングした。 比較として、プロセスチーズ(株式会社明治製「明治北海道十勝スマートチーズうまみ濃厚チェダーブレンド」)を用い、縦5mm×横5mm×厚み2mm程度に切り出して、水分活性測定用プラスチックシャーレに載せた。

サンプリングしたチーズソース19および比較プロセスチーズに対し、それぞれ蛍光染色液を50〜100μl滴下し、冷蔵庫内で30分間静置した。静置後、比較プロセスチーズにおいては余分な染色液を蒸留水でリンスした。各試料(チーズソース)の表面にカバーガラスを乗せ、軽く押し当てて表面を平らにした。なお、蛍光染色液はNile Red(脂肪染色;励起波長488nm)の0.02g、およびNile Blue(タンパク質染色;励起波長633nm)の0.01gを取り、1,2−propanediolで1Lにメスアップしたものを用いた。

染色した試料に対し、共焦点レーザー顕微鏡(株式会社オリンパス製「FV1000」)を用いて、タンパク質と脂肪の分布を観察した。なお、観察時の測定色素は、Nile Redは「FITC」、Nile Blueは「Alexa Fluor633」を選択した。結果を図5に示す。

図5の結果より、比較プロセスチーズの組織は、タンパク質のネットワークの中に脂肪が点在していた。一方、チーズソース19の組織は比較プロセスチーズと大きく異なり、脂肪がネットワークの主体として分布し、タンパク質の周囲が脂肪で覆われているような構造であった。そのため、タンパク質同士の重合が阻害され、製造時に粘度が増加しないものと考えられる。また同様の理由により、タンパク質がゲルを生成できず、冷蔵下でも流動性が向上したものと推察される。なお、チーズソース19はW/O型に類似した分布を示しているが、電気を流すと通電し、かつ油脂に溶解しないため、通常のプロセスチーズと同様のO/W型であることがわかった。

<実施例6:チーズソースの粘度と硬度の相関関係> チェダー(株式会社 明治製)を5.2kg、グラニュラーK(フォンテラ社製)を1.5kg、パルメザン(フォンテラ社製)を0.7kgで量り取り、各原料チーズを粉砕装置(株式会社なんつね製「ミートチョッパーMD−22K」)でミンチ状に粉砕し、混合装置内でこれらを均一になるまで混合した。原料チーズの熟度は28%であった。 続いて、上記原料チーズ、モノリン酸一ナトリウムを0.2kg、親油性乳化剤(三菱化学フーズ株式会社製「シュガーエステル P−170」、HLB=1)を0.02kgで、該混合装置に入れ、さらに、チーズソースの水分含有量が約47質量%となるように、水を加えた。乳酸を用いて、溶融後のpHが5.5となる様に調整して、各種の混合物を得た。

上記で得られた混合物を、乳化釜(ステファン社製「ステファンクッカー」)を用いて、750rpm、1分間の条件で撹拌した後に、1500rpm、85℃、8分間の条件で加熱溶融して乳化させて各種チーズソースを得た。次に、4Lのステンレス製バットに移し、80℃の恒温槽において20rpmの回転速度で撹拌保持を行い、適宜粘度を測定した。粘度は、粘度計(リオン株式会社製「ビスコテスター VT−04F」)により測定した。チーズソースをステンレス製カップ(3号カップ、リオン株式会社製)に9分目まで充填し、粘度計で測定した。ローターには、1号ローター(リオン株式会社製)を使用した。

粘度測定を行ったチーズソースは密閉容器の充填し、4℃の冷蔵庫内で冷却した。ガラスビーカー(50mL容)に、一晩静置したチーズソースを50gで採取し、乾燥しないように密封し、10℃、4時間以上の条件で静置してから冷却した。以下の装置を用いて、この得られた冷却後のチーズソースの流動性(硬度)を測定し、結果を図6に示した。 〔流動性(硬度)測定装置〕 ・株式会社不動工業製「レオメーター」 ・プランジャー:φ10mm球、貫入速度:5cm/分、貫入距離:5mm 粘度と硬度の測定結果を図6に示した。

図6より、高温時の粘度と冷却後のチーズソースの硬度には高い相関が認められた。本検討商品の流動性や絞り出し易さの評価基準は硬度を指標としているが、図6の結果より、粘度の測定結果から冷蔵後の流動性の推測が可能と考えられる。

<実施例7:均質化圧の変更に伴う、チーズソースの流動性への影響> チェダー(株式会社 明治製)を5.2kg、グラニュラーK(フォンテラ社製)を1.5kg、パルメザン(フォンテラ社製)を0.7kgで量り取り、各原料チーズを粉砕装置(株式会社なんつね製「ミートチョッパーMD−22K」)でミンチ状に粉砕し、混合装置内でこれらを均一になるまで混合した。原料チーズの熟度は28%であった。 続いて、上記原料チーズ、モノリン酸一ナトリウムを0.2kg、親油性乳化剤(三菱化学フーズ株式会社製「シュガーエステル P−170」、HLB=1)を0.02kgで、該混合装置に入れ、さらに、チーズソースの水分含有量が約47質量%となるように、水を加えた。乳酸を用いて、溶融後のpHが5.5となる様に調整して、混合物を得た。

続いて、上記で得られた混合物を750rpm、1分間の条件で撹拌した後に、1500rpm、85℃、8分間の条件で加熱溶融して乳化させた。 得られた乳化物に対し、乳化機(三和エンジニアリング株式会社製「ホモゲナイザー HA4733」)を用いて、0MPa、2MPaおよび5MPaの3水準で、均質化を行って各種チーズソースを得た。均質化を行ったチーズソースを4Lのステンレス製バットに2kgほどサンプリングし、80℃恒温槽で保温しながら20rpmの速度で撹拌保持を行った。1時間おきに粘度を測定し、結果を図7に示した。粘度は、粘度計(リオン株式会社製「ビスコテスター VT−04F」)により測定した。チーズソースをステンレス製カップ(3号カップ、リオン株式会社製)に9分目まで充填し、粘度計で測定した。ローターには、1号ローター(リオン株式会社製)を使用した。

図7より、粘度の上昇速度は均質化圧に依存する傾向が認められた。また、均質化圧を低減しても脂肪分離などは発生せず、乳化は良好であった。従来、均質化圧を10MPa程度とすることで良好な組織を得ることが知られているが、本発明では均質化圧を低減することでより低粘度で良好な組織が得られることがわかった。

<実施例8:旨味指標の測定> チェダー(株式会社明治製)を5.2kg、グラニュラーK(チェダー、フォンテラ社製)を1.5kg、パルメザン(フォンテラ社製)を0.7kgで量り取り、各原料チーズを粉砕装置(株式会社なんつね製「ミートチョッパーMD−22K」)でミンチ状に粉砕し、混合装置内でこれらを均一になるまで混合した。原料チーズの熟度は28%であった。 続いて、上記原料チーズ、モノリン酸一ナトリウムを0.2kg、親油性乳化剤(三菱化学フーズ株式会社製「シュガーエステル P−170」、HLB=1)を0.02kgで、該混合装置に入れ、さらに、チーズソースの水分含有量が約47質量%となるように、水を加えた。乳酸を用いて、溶融後のpHが5.5となる様に調整して混合物を得た。得られた混合物を、乳化釜(ステファン社製「ステファンクッカー」)を用いて、750rpm、1分間の条件で撹拌した後に、1500rpm、85℃、8分間の条件で加熱溶融して乳化させてチーズソース21を得た。

比較チーズソース1として、ニュージーランド産チェダーチーズ(10ヶ月熟成)を用い、比較チーズソース2として、オーストラリア産チェダーチーズ(5.5ヶ月熟成)を用いた。

各チーズソースに対し、旨味の指標としてPTA可溶性窒素画分の測定を行った。チーズの風味の生成と関係の深い小ペプチドやアミノ酸はリンタングステン酸(PTA)可溶性画分として確認することができる。PTA可溶性窒素は、ナチュラルチーズの熟成中にタンパク質が酵素によって分解されて生成するため、旨味などのチーズ風味に関してはチーズ中のPTA可溶性窒素が指標として適している。 測定方法は以下の通りである。 測定方法 [PTA可溶性窒素含有量] (1) 試料(チーズ)の5gに、約50℃に加温した0.05Mのクエン酸ナトリウム・二水和物溶液を60mlで加え、回転式ホモゲナイザーを用いて8000rpm、約3分間で、ホモジナイズする。 (2) ホモゲナイザーを蒸留水で洗いこみながら100gとする。 (3) スターラーで攪拌しながら、6規定の塩酸溶液でpHを4.40±0.05に調整する。 (4) 東洋ろ紙No.5Aで、ろ過し、共栓付試験管にろ液の10mlを取り、25%硫酸の6ml、25%PTAの4mlを添加し、室温で一晩静置する。 (5) 東洋ろ紙No.5Aで、ろ過し、ろ液の4mlを取り、ケルダール法により窒素を定量する。この得られた値がチーズの1gあたりのPTA可溶性窒素画分である。

PTA可溶性窒素(PTA)と全窒素(全N)の質量比(PTA/全N(%))を旨味指標として、各チーズソースで比較した。なお、原料チーズの全量中における、PTA可溶性窒素(PTA)と全窒素(全N)の質量比は、以下の計算方法で算出できる。 PTA/全N(%)=PTA可溶性窒素含有量/全窒素含有量×100 PTA可溶性窒素(PTA)と全窒素(全N)の質量比を図8に示す。

図8より、チーズソース21のPTA/全Nは一般的なナチュラルチーズ(比較チーズソース1、2)に比べて高い値を示すことがわかった。そのため、本発明のチーズソースはチーズ由来の旨味が強く、少量添加で良好な風味を付与できることが推察された。

本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2014年8月29日出願の日本特許出願(特願2014−176643)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。

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