Vectors for gene mutagenesis and gene discovery by gene trapping

申请号 JP2000584047 申请日 1999-11-19 公开(公告)号 JP4541555B2 公开(公告)日 2010-09-08
申请人 レキシコン ファーマシューティカルズ インコーポレーテッド; 发明人 ティー. サンズ,アーサー; ザンブロウィッズ,ブリアン; エー. フレドリック,グレン; リルレバーグ,スタン;
摘要
权利要求
  • 遺伝子操作されたベクターであって、
    a) 機能しうる組合せで、
    1) スプライス受容部位、
    2) スプライス受容部位の3'側に位置する第1のエキソン配列、ただし、第1のエキソン 配列は該エキソン 配列を発現する細胞の同定を可能とするマーカーをコードするものであること、
    3) 第1のエキソン 配列の3'末端を規定するポリアデニル化配列、を含む5'遺伝子トラップカセット;および
    b) 該ポリアデニル化配列の3'側に位置し、機能しうる組合せで、
    1) プロモーター、
    2) 該プロモーターの3'側に位置しかつ該プロモーターにより発現される第2のエキソン配列、ただし、第2のエキソン 配列は合成的に誘導され、抗生物質耐性を付与する活性をコード するものではなくかつ該第2のエキソン配列はリポーター遺伝子ではない、
    3) 第2のエキソン 配列の3'領域を規定するスプライス供与部位配列、を含む3'遺伝子トラップカセット;
    を含んでなり、
    該ベクターは、第1のエキソン 配列の発現を仲介するプロモーターをコードしておらず、かつ該ベクターは、第2のエキソン配列によりコードされて該プロモーターにより発現されるmRNA転写産物のポリアデニル化を仲介する配列をコードしていないものである、上記ベクター。
  • 第1のエキソンが、スプライス受容部位と第1のエキソンの開始コドンとの間に機能的に配置された内部リボソームエントリー部位(IRES)をさらにコードする、請求項1に記載のベクター。
  • スプライス受容部位の上流に機能的に配置された突然変異原性のミニエキソン配列をさらに含む、請求項1に記載のベクター。
  • 前記ポリアデニル化配列とプロモーターの間の領域に、転写終結配列、3'末端エキソン、自己開裂性RNAをコードする配列、およびリーディングフレームを変更するエキソンからなる群より得られる少なくとも1つの突然変異誘発エンハンサーをさらに含む、請求項1に記載のベクター。
  • 第1のエキソンが抗生物質耐性を付与するマーカー、抗生物質感受性を付与するマーカー、酵素的マーカー、リコンビナーゼ、および蛍光検出が可能なマーカーからなる群より選択されるマーカーをコードする、請求項1に記載のベクター。
  • 前記マーカーがネオマイシン耐性をコードする、 請求項5に記載のベクター。
  • 遺伝子操作されたレトロウイルスベクターであって、
    a) 第1のプロモーターにより発現されるマーカー遺伝子;および
    b) 機能しうる組合せで、
    1) 第2のプロモーター
    2) 該第2のプロモーターの3'側に位置しかつ該第2のプロモーターにより発現されるエキソン配列、ただし、該エキソン 配列は抗生物質耐性を付与する活性をコード するものではなくかつ該エキソン配列はリポーター遺伝子ではないこと、
    3) 該エキソン 配列の3'領域を規定するスプライス供与部位配列、を含む3'遺伝子トラップカセット;
    を含んでなり、
    該エキソン配列によりコードされるmRNA転写産物のポリアデニル化を仲介する配列をコードしていない、上記ベクター。
  • 請求項1または7に記載のベクターにより作製されたゲノムを有する伝染性レトロウイルス。
  • 標的真核細胞または真核生物中の遺伝子をトラップするための 請求項8に記載のレトロウイルスの使用。
  • 標的真核細胞中の遺伝子をトラップするための 請求項1または7に記載のベクターの使用であって、該ベクターがエレクトロポレーション、ウイルス感染、レトロトランスポジション、マイクロインジェクションおよびトランスフェク ションからなる群より選択される方法で標的細胞内に導入される、上記使用。
  • 請求項1または7に記載のベクターを細胞のゲノムに組み込んでいるトランスジェニック細胞。
  • 非ヒト動物の1個以上の細胞のゲノムに 請求項1または7に記載のベクターを組み込むように遺伝子的に改変されたトランスジェニック非ヒト動物。
  • 細胞における天然の遺伝子の発現を活性化するための 請求項1または7に記載のベクターの使用。
  • 前記細胞が哺乳動物細胞である、 請求項13に記載の使用。
  • 哺乳動物細胞がヒト細胞である、 請求項14に記載の使用。
  • 说明书全文

    【0001】
    本出願は、米国仮出願第60/109,302号の優先権を主張する米国特許出願第09/276,533号の優先権を主張するものである。 これらの全てはあらゆる目的のために参考としてその全体をここに組み入れるものとする。
    【0002】
    1.0. 発明の分野
    本発明は、ベクターが宿主細胞ゲノムに組み込まれた後に、効率的に突然変異をおこすだけでなく同定され得る細胞性遺伝子の数を増加する構造エレメントを含む組換えベクターに関する。 ここに記載のベクターは、遺伝子発見、遺伝子クローニング、遺伝子突然変異誘発、遺伝子調節、ゲノム全体を通した核酸配列のシャトリング(shuttling)、ならびに遺伝子の活性化および過剰発現のための重要なツールとなる。
    【0003】
    2.0. 発明の背景
    遺伝子トラッピング(gene trapping)は同時に遺伝子に突然変異をおこし同定するための強なアプローチを提供する。 遺伝子トラップベクターは標的細胞のゲノムに非特異的に挿入することができ、それゆえに遺伝子トラップベクターを遺伝子に挿入して、その遺伝子に突然変異をおこさせた現象について選択できる遺伝子トラップベクターが構築されてきた。 細胞のスプライシング機構を利用することにより、これらのベクターの選択可能な性質は、ベクターが遺伝子に組み込まれていない挿入現象の大きなバックグラウンドを排除している。
    【0004】
    大部分の哺乳動物遺伝子はエキソンとイントロンとに分けられる。 エキソンはmRNAへとスプライス(つなぎ合わせまたは再結合)されて遺伝子のタンパク質産物をコードしている遺伝子部分である。 ゲノムDNAでは、これらのコーディングエキソンは非コーディングイントロン配列によって分断されている。 RNAポリメラーゼはイントロンとエキソンの両配列を転写するけれども、イントロン配列は、生じるmRNAがタンパク質に翻訳され得るように、転写産物から取り除かれねばならない。 したがって、全ての哺乳動物細胞と大部分の真核生物細胞は、エキソンをスプライスしてmRNAにする機構を備えている。 遺伝子トラップベクターは、細胞のスプライシング機構によりベクターコード化エキソンが細胞性mRNAへとスプライスされる様式で、イントロンまたは遺伝子に組み込まれるように設計されている。 しばしば、そのような遺伝子トラップベクターは選択マーカー配列を含む。 かかるマーカー配列の上流には強力なスプライス受容部位配列が存在し、プロモーターは存在しない。 したがって、そのようなベクターが遺伝子に組み込まれると、細胞のスプライシング機構により、トラップされた遺伝子からのエキソンが選択マーカー配列の5'末端にスプライスされる。 典型的には、そのような選択マーカー遺伝子は、該遺伝子をコードするベクターがイントロンに組み込まれたときにのみ発現され得る。 その後、結果として生じる遺伝子トラップ現象は、選択培養を生き延びることのできる細胞を選択することにより同定される。
    【0005】
    遺伝子トラッピングは多数の遺伝子に突然変異をおこすのに非常に効率のよい方法であることが立証されている。 遺伝子トラップベクターの挿入はトラップされた遺伝子に突然変異を生じさせ、また、トラップされた遺伝子の同定に利用しうる分子タグを提供する。 ROSAβgeoを使って遺伝子をトラップした場合は、生じる突然変異の少なくとも50%がマウスで試験したときに表現型をもたらす、と実証されている。 このことは、遺伝子トラップ挿入ベクターが有用な突然変異原であることを示している。 遺伝子に突然変異をおこすための強力なツールであるにもかかわらず、この方法の可能性はトラップされた遺伝子を同定することの困難性のため制限されてきた。 トラップ現象の同定に用いられる方法は、トラップした遺伝子からのエキソン配列を、遺伝子トラップベクターによりコードされる配列につなぎ合わせることで得られる融合転写産物に依っている。 これらの融合転写産物からの配列を得るのに使用された通常の遺伝子同定プロトコールとしては、5'RACE、cDNAクローニング、ベクター組込み部位を取り囲むゲノムDNAのクローニングなどがある。 しかしながら、こうした方法は多大の労力を要し、簡単には自動化できず、一般的にハイスループットには実用的でない。
    【0006】
    3.0. 発明の概要
    最近、選択マーカー遺伝子、その上流にプロモーター、その下流にポリアデニル化配列に代わるスプライス供与部位配列を含むベクターを使用する新しい遺伝子トラッピング法に基づくベクターが開発されている。 これらのベクターは、それらが遺伝子に組み込まれ、続いて、選択マーカーの発現に必要とされるポリアデニル化配列を提供する下流のエキソンをトラップしないかぎり、選択を提供しない。 かかるベクターの染色体への組込みは、結果的に、選択マーカー遺伝子を、トラップした遺伝子の3'エキソンにつなぎ合わせる。 こうしたベクターはいくつかの利点を提供する。 それらは、ベクターを組み込んだ細胞型において遺伝子が正常に発現されていようといまいと、遺伝子をトラップするのに使用することができる。 さらに、そのようなベクターを保有する細胞を3'RACEのような自動化(例えば、96ウェルプレートフォーマット)遺伝子同定アッセイを使ってスクリーニングすることができる(一般的には、Frohman, 1994, PCR Methods and Applications, 4:S40-S58を参照のこと)。 これらのベクターを使用すると、多数の突然変異を生じさせて、突然変異をおこした、すなわちトラップされた遺伝子をすみやかに同定することが可能である。 しかし、本発明以前には、この種のベクターの商業規模での利用は、そのようなベクターを用いて効率的にトラップすることのできる標的遺伝子の数が少ないため、制限されてきた。
    【0007】
    第一世代の3'遺伝子トラップベクターは比較的効率が悪いため、迅速かつ実際にトラップされ、同定され、解析され、効率的に突然変異され得る遺伝子の総数に限りがあった。 この非効率性が、より効率的な3'遺伝子トラッピング法、すなわち、標的細胞ゲノム中のより多くの遺伝子をトラップし、すみやかに(例えばDNA配列解析で)同定することを可能とする方法の開発を促進した。
    【0008】
    本発明は、高効率的に3'遺伝子トラッピングを可能とする3'遺伝子トラップカセットを含む新規ベクターの構築に関する。 ここに記載の3'遺伝子トラップカセットは、機能しうる組合せで、プロモーター領域、エキソン(典型的には、翻訳開始コドンおよびオープンリーディングフレームおよび/または内部リボソームエントリー部位を特徴とする)、スプライス供与部位配列、そして場合により、イントロン配列を含む。 スプライス供与部位(SD)配列は、3'遺伝子トラップカセットのエキソンが下流のエキソンつまり細胞コード化エキソンのスプライス受容部位(SA)につなぎ合わされるように機能的に配置される。 こうして、前記3'遺伝子トラップカセット(または該カセットを含む遺伝子トラップベクター)は、スプライス受容部位(SA)配列と、該遺伝子トラップカセットのSD配列の下流に機能的に配置されるポリアデニル化部位とを含まないだろう。 好ましい実施形態において、3'遺伝子トラップカセット(配列獲得カセットとしても働く)のエキソン成分はエキソン配列および天然で真核細胞中に存在する遺伝物質由来のスプライス供与部位配列を含むだろう。
    【0009】
    本発明の更なる実施形態は、感染した1個または複数個の標的細胞から、遺伝子トラップされたエキソンからの新規DNA配列情報を獲得するために前記ベクターを使用することである。
    【0010】
    本発明の更なる実施形態には、前記3'遺伝子トラップカセットを含むように遺伝子操作された組換えベクター、特にウイルスベクターが含まれる。 必ずしも必要ではないが、好ましくは、これらのベクターは標的細胞中のベクター配列の維持および検出を可能とする選択マーカーをさらに含むだろう。 選択マーカーは3'遺伝子トラップカセットの上流に同一方向で配置される5'遺伝子トラップカセットとして利用することができる。 場合により、選択マーカーを含む5'遺伝子トラップカセットは、とりわけ、細胞性転写産物の、5'遺伝子トラップカセットの選択マーカーへのスプライシングを促進するように機能的に配置されるベクターコード化突然変異原性ミニエキソン配列と共に使用してもよい。
    【0011】
    さらに、ベクターは1個以上の突然変異誘発エンハンサー配列を含んでいてもよく、かかるエンハンサー配列としては、自己開裂性RNAをコードする配列、転写終結因子、リーディングフレームを変更する(または1個以上の停止コドンをコードする)エキソン、および/または末端エキソン、これらの任意の混合物または組合せがあるが、これらに限らない。 これらの突然変異誘発エンハンサー配列は、開示したベクターの5'遺伝子トラップカセットと3'遺伝子トラップカセットの間に機能的に配置される。
    【0012】
    本発明の更なる実施形態は、標的細胞集団または組織においてin vitroまたはin vivoで遺伝子に突然変異をおこし、該遺伝子をトラップするために、および/または未知の遺伝子のポリヌクレオチド配列を取得する(すなわち、新遺伝子を発見する)ために、新規3'遺伝子トラップカセットまたはそれを含むベクターを使用することである。 こうして、前記3'遺伝子トラップカセットまたはそれを含むベクターを使用する遺伝子の突然変異誘発、同定、および表現型スクリーニングの一般的方法を開示する。
    【0013】
    本発明の別の実施形態は、標的細胞において遺伝子発現を活性化するために、ここに記載のベクター(例えば、ミニエキソンおよび/または3'遺伝子トラップカセットを含むウイルスベクター)を使用することである。 好ましくは、ベクターは標的細胞ゲノムに非特異的に(ウイルス組込み機構を用いて)組み込まれるレトロウイルスベクターである。 さらに、3'遺伝子トラップカセットまたはそれを含むベクターを用いて、遺伝子を活性化し、遺伝的にまたは表現型により選択し、次いでその新遺伝子を同定するためのアッセイも開示する。
    【0014】
    ここに記載の本発明の更なる実施形態には、前記ベクターを用いて(1以上の前記突然変異原性成分により)同時に突然変異をおこし、(前記3'遺伝子トラップカセットを用いて)同定された遺伝子を有する真核細胞のライブラリー、および/または前記ベクターのターゲッティング頻度と配列獲得特性を利用することにより作製されたcDNAライブラリーが含まれる。
    【0015】
    本発明の別の実施形態は、標的細胞からDNA配列情報を取得する方法である。 この方法は、3'遺伝子トラップカセット(または突然変異原性ミニエキソン)を非特異的に組み込むこと、該遺伝子トラップカセット(または突然変異原性ミニエキソン)が標的細胞の内因性スプライシング機構により標的細胞ゲノム内のコードされる内在性エキソンにつなぎ合わされる場合に産生されるキメラRNA転写産物を得ること、および標的細胞ゲノム由来の内因的にコードされたエキソンからの配列情報を取得することを含んでなる。
    【0016】
    4.0. 図面の説明
    (図面の説明については下記参照)
    【0017】
    5.0. 詳細な説明
    現代のゲノム科学の時代において、遺伝子トラッピングは、遺伝子配列を機能上のカテゴリーに分類する上でも、また新規の遺伝子を同定する上でも、強力な手法であることが証明されている。 例えば、初期の結果では、胚性幹細胞由来(従って高度に特徴付けされている)の遺伝子トラップ事象のおよそ半分が、従来のcDNAライブラリー法によっては未だ見つかっていなかった遺伝子配列を同定することを示した。
    【0018】
    遺伝子トラッピング(プロモータートラップを使用)を用いて、各種細胞型において誘導性シグナル、分化事象、または対象とする(すなわち、遺伝子探索における)表現型により誘導される遺伝子を、遺伝学的にスクリーニングした(すなわち、遺伝子発見用)。 さらに、そのようなスクリーニングを用いて、がん抑制遺伝子、細胞分化(例えば造血細胞分化および筋細胞分化等)過程により誘導される遺伝子、B細胞活性化またはアポトーシス等の細胞事象を誘導するシグナルにより誘導される遺伝子、および小分子またはその他の化合物により活性化される遺伝子を同定した。 これらの研究は、重要な細胞プロセスおよび生理学的プロセスにおけるその機能に基づいて遺伝子を分類するために、遺伝子トラッピングを用いることができることを示唆している。 しかしながら、これらのスクリーニングは、トラップされた遺伝子を同定することが困難であることによって、そのより広範な利用が制限されてきた。
    【0019】
    遺伝子トラップベクターを設計する場合、一般にいくつかの問題に取り組む必要がある。 その問題とは、すなわち、1) 所与のベクターにより効率的にトラップされ得る標的細胞ゲノムの割合(「標的とする大きさ」)、2) 標的細胞中で遺伝子に挿入した後のベクターの突然変異誘発性、および3) 突然変異させた遺伝子の、遺伝子トラップ事象により生じるキメラ転写物を配列決定することによる同定、であるが、これらに限定されない。 本発明のベクターは、例えばベクター中に存在するスプライス受容部位およびスプライス供与部位の効率を最適化する特徴を組み込むことによって、上記の考慮点に対処するように作製した。
    【0020】
    5.1. 本発明のベクターの広範な適用範囲
    本発明のベクターは、細胞のゲノム中に遺伝子トラップベクターを挿入するように操作可能な、事実上いかなるタイプの真核細胞においても使用できる。 例えば、本発明の3'遺伝子トラップカセットを組み込んだベクターを用いて、一次動物組織ならびに他の任意の真核細胞または生物(限定するものではないが、酵母、糸状菌、菌類、および植物を含む)に由来する遺伝子をトラップすること、および/または配列情報を取得することができる。 対象とする特定の植物としては、双子葉植物および単子葉植物、被子植物(ポピー、バラ、ツバキ等)、裸子植物(マツ等)、モロコシ、イネ科植物、ならびに農業上重要な植物、例えば、限定するものではないが、穀類(コメ、コムギ、トウモロコシ、アワ、オート麦等)、ナッツ、レンズマメ、ヒヨコマメ、塊茎作物(ジャガイモ、ヤマノイモ、タロイモ等)、ハーブ、ワタ、大麻、コーヒー、ココア、タバコ、ライ麦、ビート、アルファルファ、ソバ、干し草用の牧草、ダイズ、バナナ、サトウキビ、果実(柑橘類およびその他のもの)、ブドウ、野菜、および菌類(マッシュルーム、フランスショウロ等)、ヤシ、カエデ、アメリカスギ、アブラナ、ベニバナ、サフラン、ココナツ、イチイ、オーク、およびその他の落葉樹および常緑樹が挙げられる。 あるいは、本明細書に記載の従来のヌクレオチド送達方法を用いて、直鎖状にした3'遺伝子トラップカセットを標的細胞中に導入することができる。
    【0021】
    好適な動物標的細胞の更なる例としては、限定するものではないが、ヒトを含む哺乳動物または鳥類の内皮細胞、上皮細胞、島、ニューロンまたは神経組織、中皮細胞、骨細胞、リンパ球、軟骨細胞、造血細胞、免疫細胞、主たる腺または器官(例えば、、心臓、胃、膵臓、腎臓、皮膚等)の細胞、外分泌細胞および/または内分泌細胞、胚性幹細胞およびその他の全能性もしくは多能性幹細胞、線維芽細胞が挙げられ、上記細胞の培養適応種および/または形質転換種を、前記のベクターと共に用いることができる。 さらに、腫瘍化細胞系または他の細胞系を本発明のベクターにより標的化することができる。
    【0022】
    通常、本明細書に記載の特徴を組み込んだベクターは、当技術分野で公知の多種多様な方法のいずれを用いて標的細胞に導入することができる。 そのような方法の例としては、限定するものではないが、エレクトロポレーション、ウイルス感染、レトロトランスポジション、遺伝子転移、微粒子銃、マイクロインジェクション、リポフェクション、トランスフェクション、また陽イオン脂質複合体として、または非パッケージ化/複合体化もしくは「裸の」DNAとしての導入が挙げられる。
    【0023】
    本発明のベクターはまた、in vitroおよびin vivoのいずれにおいても、事実上いかなる種類の表現型的もしくは遺伝的スクリーニングプロトコールと組み合わせて使用してもよく、また本発明のベクターにより、トラップされた遺伝子のDNA配列の迅速な同定方法が可能になるという更なる利点がもたらされる。
    【0024】
    5.2. 本発明のベクターの構造的特徴
    5.2.1. マーカー遺伝子
    本発明の意図するベクターは、細胞性ゲノム中にマーカーを組み込んだ細胞の選択をもたらす選択マーカー遺伝子を含むように作製することができる。 一般に、そのような選択マーカーにより、選択マーカーによってコードされたタンパク質を含みまたそれを発現する真核細胞を同定かつ選択する容易な方法が実施可能になる。 そのような選択方法の例としては、抗生物質、比色法、酵素、および蛍光による、遺伝子トラップ事象を組み込んだ細胞の選択が挙げられる。 前記選択マーカー遺伝子の1つの例としてはβgeoが挙げられるが、数あるその他の選択マーカーのうち任意のものを利用することができる(例えば、米国特許第5,464,764号を参照のこと。これは参照により本明細書に組み入れるものとする。)。
    【0025】
    したがって、本発明の1つの実施形態は、本発明の3'遺伝子トラップカセットを組み込んだ標的細胞の追跡および同定に役立つマーカー遺伝子を含み、また場合によりそれを発現するように作製されるベクターを意図する。 そのようなマーカーとしては、限定するものではないが、抗生物質耐性遺伝子、比色マーカー遺伝子、酵素(例えば、βラクタマーゼ)、または、例えば蛍光マーカー遺伝子(緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子等)の発現を直接的もしくは間接的に媒介し、また特に米国特許第5,625,048号(参照により本明細書に組み入れるものとする)に記載されている同発現を検出するアッセイを媒介する、その他のマーカー遺伝子が挙げられる。 本発明の目的上、生物学的または生化学的文脈にて用いられる場合の用語「直接的に」とは、中間段階を必要としないプロセスの直接的因果関係を意味し、これは通常ある分子が別の分子(前者と同じ種類の分子であっても異なる種類の分子であってもよい)に接触もしくは結合することにより引き起こされる。 例えば、分子Aが分子Bに接触することによって、分子Bが生物学的経路の一部である作用Xを発揮する。 本発明の目的上、生物学的または生化学的文脈にて用いられる場合の用語「間接的に」とは、中間段階を必要とする間接的因果関係を意味し、これは通常2以上の直接的な段階により引き起こされる。 例えば、分子Aは分子Bと接触することにより作用Xを発揮させ、これが次に作用Yを引き起こす。 また本発明の目的上、用語「遺伝子」は、細胞性ゲノムの個々のコード領域のいずれか、およびその全て、ならびにそれに付随した非コード領域および調節領域を意味するか、あるいは特異的および機能的タンパク質産物もしくはその活性をコードする領域を意味するものとする。 さらに、用語「機能的に配置された」とは、調節エレメントまたは遺伝子が適切な方向および間隔配置にて存在することにより、該調節エレメントまたは遺伝子の所望のもしくは所与の機能が付与されるという事実を意味する。 さらに本発明の目的上、ある遺伝子について、細胞中の調節エレメントが該遺伝子もしくはそこに挿入された選択マーカーにコードされるmRNAの機能的および/または検出可能なレベルでの生成を媒介し、生成された該mRNAが続いてスプライシング/プロセシングされ、しかるべき場合には翻訳されて活性産物を生成し得る場合、該遺伝子は「発現される」ものとする。 ある遺伝子について、適切な調節エレメントが細胞中に存在しないか、不活性化されているか、あるいは該遺伝子もしくはそこに挿入された選択マーカーにコードされるmRNAの機能的および/または検出可能なレベルでの生成を媒介しない場合、該遺伝子は発現されない。 本発明の目的上、あるmRNAが、その対応する遺伝子座と通常関連付けられる大きさおよび活性を有しているタンパク質を翻訳時に生成するならば、該mRNAは「機能的な」レベルで生成されているものとする。
    【0026】
    マーカー遺伝子を、マーカー、該マーカーを発現するためのプロモーター、リボソーム結合/翻訳開始部位、およびポリアデニル化配列を、機能し得る組み合わせで含む自律型発現カセットとして、本発明のベクター中に組み込むことができる。 さらに、該マーカーはベクタープロモーターから発現されるようにベクター中に配置すればよく、さらに場合により、マーカーの発現を助ける非依存性リボソームエントリー部位(IRES)を機能的に含むように作製してもよい。
    【0027】
    5.2.2. 5' 遺伝子トラップカセット
    本発明のベクターは、機能的に配置されたポリアデニル化配列が後ろに続くエキソン(選択マーカー遺伝子をコードし得る)の5'末端に位置するスプライス受容部位を典型的に含む、5'遺伝子トラップカセットを組み込むように作製され得る。 通常、5'遺伝子トラップを組み込んだベクターは、5'遺伝子トラップカセット中にコードされたエキソンを発現させるプロモーターを含まず、5'遺伝子トラップカセットの該エキソンのスプライス受容部位の5'側に機能的に配置されたスプライス供与部位配列をコードしない。 したがって、該ベクターが細胞の染色体中に組み込まれた後、5'遺伝子トラップカセットは上流の遺伝子の正常なスプライシングを妨害し、末端エキソンとしてはたらく。 正味の作用は、細胞の転写が、5'遺伝子トラップカセットにより中断され、かつ有効に突然変異が誘発されることである。 5'遺伝子トラップカセットは、エキソン成分としてマーカー遺伝子を含んでいてもよく、すなわち該カセットを、第5.2.1節に記載のマーカー遺伝子に代えて、またはそれに加えて使用してよい。
    【0028】
    5'遺伝子トラップカセットの構造上の特徴はまた、5'遺伝子トラップが細胞性ゲノム中に組み込まれた位置の方へ偏って遺伝子トラップ事象を引き起こすように操作することもできる(例示目的であって限定するものではないが、以下の考察は、5'遺伝子トラップカセットのエキソンが選択マーカーをコードしていることを仮定したものとする)。 例えば、プロモーターが存在しないのであれば、5'遺伝子トラップカセット(IRESを含まないように作製されたもの)によってコードされたマーカーは、通常は、内在性遺伝子の翻訳開始部位から5'側のイントロン中に該カセットが組み込まれた場合にのみ発現され得る。 IRESが存在しないのであれば、前記5'遺伝子トラップカセットを含むベクターが内在性遺伝子の翻訳開始部位の下流にあるイントロン中に組み込まれ、該マーカーが選択マーカー活性をもたらす融合タンパク質を生成するように正しい読み枠で存在する場合にのみ、該マーカーは発現され得る。 したがって、前記5'遺伝子トラップカセットを含むベクターは、同定された遺伝子トラップされた配列が翻訳開始部の5'側の配列から始まる可能性を選択的に増大し得る。
    【0029】
    同様の効果をもたらす代替的方法においては、5'遺伝子トラップカセットのSAと選択マーカーの翻訳開始コドンとの間の領域に存在するか、もしくはその中に配置されるように作製した、入れ子状の(the nested set of)終結コドンの組み合わせを組み込んだベクターを使用するか、あるいは該終結コドンが選択マーカーをコードする領域の終端とポリアデニル化配列との間に位置していてもよい。 選択マーカーはまた、ベクターを標的細胞ゲノム中に組み込んだ位置とは全く無関係に該マーカーが発現されるように、非依存性リボソームエントリー部位(IRES)を含むように作製することができる。 一概には言えないが、通常は、IRESは前記の入れ子状の終結コドンの組み合わせと一緒には用いられない。
    【0030】
    特に好適な実施形態において、本発明のベクターは、スプライス受容部位配列が前に、ポリアデニル化(pA)配列が後ろに配置されるように選択マーカー遺伝子を含んでなる5'遺伝子トラップカセットを用いる(SAβgeopA、図2)。 それに代わるものとして、βgeo遺伝子の上流に内部リボソームエントリー部位をさらに組み込んだSAIRESβgeopAを用いてもよいし、またはSAneopA(β-gal活性を与える)を用いてもよい。 前記5'遺伝子トラップカセットは遺伝子を効率よく突然変異させることができ、またトラップされた遺伝子の発現を追跡するために用いることができる。 使用したSA配列の最適化によって、5'遺伝子トラップカセットの効率をさらに増強または調節することができる。 好適なSA配列の例としては、限定するものではないが、以下のものが含まれる。
    【0031】

    上記のSA配列はいずれも、例えばSAneopAまたはSAIRESneopAと共に使用することができる。


    【0032】


    5'遺伝子トラップカセットと共に用いることができるポリアデニル化(ポリAまたはpA)部位としては、限定するものではないが、合成/共通ポリアデニル化部位、ウサギβ-グロビンポリAの誘導体、SV40三倍(triple)ポリA、ウシ成長ホルモンポリA、および同様の機能を与える配列が挙げられる。 好適な実施形態においては、ポリA部位は、転写終結機能、および好ましくは5'遺伝子トラップカセット中の選択マーカー配列に対して機能的に配置された一方向性(両方向性に対する用語)転写ターミネーターを組み込んだものとする。


    【0033】


    場合により、5'遺伝子トラップカセットは好適なリコンビナーゼ部位(例えばlox P、frt等)に隣接させてもよい。 そのような実施形態の1つとしては、リコンビナーゼ部位に隣接した5'遺伝子トラップカセットを、第2の5'遺伝子トラップカセット(3'リコンビナーゼ部位の下流に存在する)と共に使用する。 この第2の5'遺伝子トラップカセットは、検出可能マーカー、別の選択マーカー、または酵素マーカー(例えば、限定するものではないが、緑色蛍光タンパク質、βラクタマーゼ、TK、ブラストサイジン、HPRT等)をコードし、また第1の5'遺伝子トラップカセットと同一のリコンビナーゼ部位には隣接していないことが好ましい。 5'遺伝子トラップカセットがいずれも(選択的スプライシングを経て)十分なレベルで発現されない場合、第2の5'遺伝子トラップカセット(検出可能マーカーをコードしている)をin vitroまたはin vivoでの好適なリコンビナーゼ活性(すなわち、cre、flp等)を用いて「活性化」して、第1の(リコンビナーゼ部位に隣接した)5'遺伝子トラップカセットを除去することができる。


    【0034】


    5.2.3.

    突然変異誘発エンハンサー


    突然変異原性5'遺伝子トラップカセット内にコードされるエキソンのスプライシングおよび発現をさらに増強するために、記載のベクターにさらなる特徴を付与してよい。 例えば、突然変異原性ミニエキソン(図4参照)(天然に存在するものの場合もある)を、機能しうる形で5'遺伝子トラップカセットの上流に配置してよい。 この突然変異原性ミニエキソンは、機能しうる組合せで、スプライス受容(SA)部位、一続きのエキソン配列、およびスプライス供与(SD)部位を最低限含む。 機能的なポリアデニル化部位は突然変異原性ミニエキソンには直接連結していない。 なぜならば、該エキソンは終結3'エキソンとして作用することを意図していないからである。 突然変異原性ミニエキソンは、5'遺伝子トラップ/選択マーカーのSA部位の上流の領域および該SA部位の近傍の領域で、細胞性に起こる転写のスプライシングを阻害することにより機能する。 この領域に細胞性スプライシング機構を利用することにより、特に効果的に突然変異原性および5'遺伝子トラップカセットの発現を増強する5'遺伝子トラップカセットのSAは、より容易に認識され、使用される。


    【0035】


    突然変異原性ミニエキソンを5'遺伝子トラップカセットと連結させて用いても、またはそのようにして用いなくても、3N+1個または3N+2個の塩基を有することが、あらゆる元のままの遺伝子またはエキソンのリーディングフレームをスプライスを受けた形に改変または変更するためには好ましい。 あるいはまた、3種全てのリーディングフレームにおいて、突然変異原性ミニエキソンに終結コドンを組み込んで、該エキソンが3N個のヌクレオチドを含まないという制約を取り除くこともできるが、前述の方が好ましい。 フレームシフト突然変異(即ち、突然変異原性ミニエキソンのSA-SD領域にわたる3N+/-1個の塩基を有するインサート)を導入することにより、細胞性転写による、組込まれた遺伝子トラップ構築物の「周囲のスプライシング(splicing around)」および機能性タンパク質産物の産生を、妨害または阻止することも可能である。 このような場合、突然変異原性ミニエキソンのSAおよび/またはSD配列が変化することにより、スプライシングの介入の効率に上記変化に対応する変化(即ち、効率的な突然変異誘発)がもたらされるであろう。 このように、本発明の突然変異原性ミニエキソンは、細胞または動物における遺伝子発現を制御するための効果的な機構も提供する。 記載のベクターの突然変異原性または調節性の全ての特徴と実質的に同様に、記載の突然変異原性ミニエキソンをリコンビナーゼ部位で適切に挟むことにより、都合よく、また場合によっては組織特異的に、突然変異原性ミニエキソン配列を除去することが可能となる。


    【0036】


    また、上記と同様の組成上および構造上の制限を、細胞性遺伝子発現を活性化する3'遺伝子トラップカセット(後述)に連結して使用するためのミニエキソンを設計するために用いてもよい。


    【0037】


    場合によっては、突然変異原性ミニエキソンを、記載の5'および3'遺伝子トラップカセットの代わりに、または該カセットに加えて作用する連結された突然変異原性遺伝子トラップカセットおよび配列獲得組成物として、用いてもよい。 かかる構築物では、突然変異原性ミニエキソンのSAはプロモーターエレメントによって置換されて、該突然変異原性ミニエキソンは、トラップされた遺伝子の内因性発現とは独立して(即ち、3'遺伝子トラップカセットの代わりに、または該カセットに加えて)機能する配列獲得組成物として作用しうる。 さらに、突然変異原性ミニエキソンをリコンビナーゼ部位で挟むことにより、突然変異原性ミニエキソンの選択的または条件的削除を可能にすることができる。


    【0038】


    さらなる構造の改変を利用して、記載の遺伝子トラップベクターの突然変異原性の効率を増強できる。 かかる改変は、限定する意味ではないが、1)分岐点の配列および5'遺伝子トラップカセットのSA部位の隣接領域の配列、またはこれらに隣接する配列を、所与の標的細胞による5'遺伝子トラップカセットのスプライシングを促進するように改変/最適化すること(理想的には、該SA領域は、標的細胞に天然に存在するか、または共通のSA領域である);2)終結3'エキソン(SA-エキソン-ポリA/転写ターミネーター、天然に存在するものが好ましい)を、3'遺伝子トラップカセットの上流(場合によっては、記載の5'および3'遺伝子トラップカセットの間)に機能しうる形で配置すること;3)非間接的転写ターミネーター配列を、3'遺伝子トラップカセットの上流(場合によっては、記載の5'および3'遺伝子トラップカセットの間、および好ましくは、終結3'エキソンの下流)に機能しうる形で配置すること、および;4)自己開裂性RNA配列を、機能的な方向で、ベクター内の3'遺伝子トラップカセットの上流(および好ましくは、5'遺伝子トラップカセットの下流、ならびに場合によっては、天然に存在する終結3'エキソンまたは記載の遺伝子トラップカセット構築物のうちの一つに存在しうる非間接的転写ターミネーターのどちらかの側に)に組込み、細胞性に起こる転写が遺伝子トラップエレメントをコードするベクターの「周囲をスプライシングする(splice-around)」可能性をさらに除外すること、を含む。


    【0039】


    外因性に導入された遺伝子トラップカセットまたは突然変異原性ミニエキソンカセットのスプライシング効率を増大させるように遺伝子操作しておいた、小さな核RNAおよび/または小さな核リボ核タンパク質をコードするカセットを組み込むことにより、外因性に導入されたエキソンまたは外来性エキソンの細胞性スプライシングを増強することもできる。


    【0040】


    上記の特徴のうちのいくつか(例えば、3'終結エキソンおよび転写ターミネーターなど)は、3'遺伝子トラップカセットの発現を妨害しうるランオン(run-on)転写/プロモーターの干渉を阻止することにより、3'遺伝子トラップカセットによる配列獲得の効率をも増強する。 さらに、特にレトロウイルスベクターを用いる場合において、もし、複数の構造エレメントがレトロウイルスRNAゲノムの発現およびパッケージングを、阻止できなくとも妨害するならば、上記のいくつかの特徴の適応が特に重要である。


    【0041】


    本発明の他の実施形態は、リコンビナーゼ部位を1つ以上の突然変異誘発エンハンサー領域、あるいは記載のベクターの他のいずれかの遺伝子トラップもしくは他のカセットまたはその一部分を、挟んで配置することを考慮する。 この配置を用いる場合、このような構築物を含有する細胞を対応するリコンビナーゼ活性に曝すことにより、実質的に、リコンビナーゼ部位に挟まれたベクターのあらゆる部分を、条件的に活性化または不活性化できる。 場合によっては、突然変異原性ミニエキソンカセット、転写ターミネーター、および自己開裂性RNAカセットなどの種々の突然変異誘発エンハンサー領域を、異なるリコンビナーゼ部位で挟んで、これらの組成の1つもしくは2つが独立に調節または機能させることが可能である。 5'遺伝子トラップカセットの下流の突然変異原性エンハンサー配列と連結してこのような配置を用いる場合、5'遺伝子トラップが、突然変異原性エンハンサー配列をリコンビナーゼの介在により除去することによって「活性化」される。


    【0042】


    所与の組込まれた遺伝子座によって細胞が効率的に所与の5'遺伝子トラップカセットの「周囲のスプライシング」ができるかどうかを検出する迅速な手段として、異なる選択マーカー、または酵素的もしくは蛍光的検出が可能なマーカーを組込んだ第2の5'遺伝子トラップカセットを、第1の5'遺伝子トラップカセットの下流に直列に並べて組込んでよい。 第1および第2の5'遺伝子トラップカセットの両方の発現についてスクリーニングまたは選択することにより、そのようなベクターを組込んだ細胞が第1の5'遺伝子トラップカセットの「周囲のスプライシング」が可能な程度を迅速に判定できる。 突然変異誘発エンハンサー配列の効果を決定するためには、第2の5'遺伝子トラップカセットは、所与のベクター内に存在するどの突然変異誘発エンハンサー配列の上流、またはその下流に位置してもよい。


    【0043】


    あるいはまた、第2の5'遺伝子トラップカセットのエキソンは、例えば、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子などをコードしてもよい。 かかる構築物を使用する場合、例えば、FIAUを用いて、第1の5'遺伝子トラップカセットまたは「突然変異原性」の5'遺伝子トラップカセットの「周囲でスプライシングする」細胞について選択できる。 一般に、第2の5'遺伝子トラップカセットは、ベクター内の突然変異誘発エンハンサー配列の下流でかつ3'遺伝子トラップカセットの上流に組込まれる。 場合によっては、2つの直列につながった5'遺伝子トラップカセットの一つを5'遺伝子トラップカセットを後に特異的に切除できる、適切に適応させたリコンビナーゼ部位で挟んでもよい。 このような方策を用いると、第1の5'遺伝子トラップエキソン(例えば、ネオマイシン耐性をコードする)を適切なリコンビナーゼ活性を用いて除去でき、第2の5'遺伝子トラップカセットのスプライシングおよび発現を効果的に「活性化」できる。 該第2の5'遺伝子トラップカセットを使用して(特に、β-gal、緑色蛍光タンパク質などの適切なマーカー/シグナル活性をコードする場合)、確立された方法により組織内および細胞内ならびに組織サンプル内のトラップされた遺伝子の発現を追跡できる。


    【0044】


    別の実施形態において、本発明の遺伝子トラップベクターは、選択マーカーを有する5'遺伝子トラップカセットおよび3'遺伝子トラップカセットを含有しうる。 かかるベクターを使用して、該ベクターを導入した細胞を5'遺伝子トラップカセット内のマーカーの存在および発現に対して選択する条件下で増殖させることにより、「周囲のスプライシング」について選択できる。


    【0045】


    5.2.4.

    トランスに作用する突然変異原性エレメント


    本発明の他の実施形態は、アンチセンスまたはリボザイムの切断によって、変化していない対応する対立遺伝子の機能または発現を低減する産物をコードおよび発現するように遺伝子操作されたベクターを含む。 例えば、かかるベクターは、標的細胞のゲノム内の組込まれたベクターに隣接する部分を読み込んだアンチセンス転写産物を指令するプロモーターエレメント、好ましくは誘導性または条件的なプロモーターエレメントを含みうる。 例えば、このような誘導性プロモーターを、レトロウイルスLTRのR領域の3'領域および3'末端の逆方向反復配列の5'領域内に組込まれたプロウイルスに存在するように、遺伝子操作しうる(例えば、末端の逆方向反復配列75塩基内に位置するNheI部位で、LTR内の該制限部位および他の制限部位を改変して、特有の、または希少頻度の制限部位を挿入することもできる)。 あるいはまた、このようなプロモーターはリコンビナーゼ部位で挟んでもよく、また(LTRに対して)逆向きに位置して、後に、適切なリコンビナーゼ活性を用いて(リコンビナーゼが仲介する「フリッピング」により)活性化することもできる。 一般に、アンチセンスの方策、または米国特許第5,679,523号(これは、参照により本明細書中に組込むものである)に記載されている方策と同様の特徴は、本明細書に記載のベクターに組込むことができる。 リボザイムまたは触媒性RNAの使用を考える場合は、リボザイムを遺伝子操作して、該リボザイムが転写され、細胞においてコードされる転写産物に付与され(スプライシングまたは同時転写により)、好ましくは該転写産物を標的とするようにする。 リボザイム法は上記のリコンビナーゼの方法にも適応可能である。


    【0046】


    機能的にホモ接合性(homozygous)突然変異細胞を作製する他の方法としては、記載の突然変異原性ベクターを、従来の突然変異誘発の方法論(即ち、放射線照射、化学的突然変異誘発、UV線、大型の付加生成物(bulky addition product)、欠失突然変異誘発、挿入突然変異誘発、フレームシフト突然変異誘発、ならびに転移および置換突然変異原など)と組み合わせて利用してもよい。 適切に突然変異した細胞、例えば欠失を受けた染色体DNAの大部分の領域(好ましくは重複する領域)を含む一連の標的細胞は、上記ベクターにより得られる所与の突然変異事象自体がホモ接合性のノックアウト事象として事実上現れる可能性を増加させる。


    【0047】


    5.2.5.

    3'

    遺伝子トラップカセット


    本発明の3'遺伝子トラップカセットは、機能しうる組合わせで、エキソンの発現を仲介するプロモーター領域、およびエキソンの3'末端を規定する機能的なスプライス供与部位(SD)配列を含有する。 標的細胞染色体に組込まれた後、3'遺伝子トラッププロモーターにより発現する転写産物は、組込まれた3'遺伝子トラップカセットの下流に位置するトラップされた細胞のエキソンのスプライス受容部位(SA)配列につながれる。


    【0048】


    上述のように、3'遺伝子トラップカセットは、1つ以上のエキソン(場合によっては、1つ以上のオープンリーディングフレームをコードする)の発現を指令するプロモーターを含有しており、該プロモーターは、下流にスプライス供与部位配列を有する(図1)。 何個の転写プロモーターおよびエンハンサーが3'遺伝子トラップカセットに組込まれていてもよく、該プロモーターおよびエンハンサーは、限定はされないが、細胞または組織特異的プロモーター、単純ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター/エンハンサー、SV40プロモーター、PGKプロモーター、制御可能なプロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、トリ(即ち、ニワトリなど)βグロビンプロモーター、ヒストンプロモーター(例えば、マウスヒストンH3-614など)、βアクチンプロモーター(好ましくはニワトリのもの)、メタロチオネインプロモーター(好ましくは、マウスメタロチオネインIおよびIIのもの)など、ならびにこれらの置換型およびこれらの変異型(これらは確立された分子生物学的手法を用いて作製できる(一般的には、Sambrookら、(1989) Molecular Cloning I-III巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、および、Current Protocols in Molecular Biology (1989)、John Wiley & Sons、全巻、ならびにこれらの継続的な更新版を参照のこと、これらは参照として本明細書中に組込むものである)である。プロモーター/エンハンサー領域を、組織特異的発現をもたらすように選択することも可能である。


    【0049】


    3'遺伝子トラップカセットのエキソンは、遺伝子の第1エキソンをその第1エキソンの機能に関して模倣するように設計することが好ましい。 特定の実施形態では、遺伝子の第1エキソンを模倣した3'遺伝子トラップカセットを、細胞のスプライシング機構が、少なくとも第1エキソンと同等に十分認識することが好ましい。 特定の実施形態では、本発明の3'遺伝子トラップカセットに適切なエキソンは、終結コドンを含有しないことが好ましい。 また、特定の実施形態では、エキソンは小さいことが好ましい。 即ち、エキソンは、その細胞種内で発現される遺伝子の第1エキソンの平均的なサイズにほぼ等しく、また好ましくはその長さの半分または4分の1以下ではなく、かつその長さの2倍、3倍、または4倍以下であることが好ましい。


    【0050】


    一般には、エキソン(および、特定の実施形態ではエキソンに続くイントロンの一部)およびスプライス供与部位配列は、天然に存在する遺伝子に由来するが、天然に存在するエキソンに似るように設計した合成エキソンを用いてもよい。 合成エキソンは、天然に存在するエキソンとは異なる配列を有する。 天然由来のエキソン配列は、自然界に存在するエキソン配列である。 合成エキソンは、1種以上の方法で、de novoにまたは存在するエキソンを改変することによって設計および構築できる。 本発明のベクターに有用な合成エキソンは、例えば、高性能または共通のリボゾーム結合部位、もしくは、オープンリーディングフレームもしくはエキソンの翻訳開始コドンの5'側にあるIRES配列を含みうる。 または、例えば、オープンリーディングフレームを作製すること、コドンの使用を最適化すること、オープンリーディングフレームにコードされるアミノ酸配列を変更しないで1つ以上の制限部位を遺伝子操作すること、またはエキソン中に他のもしくは共通のスプライス供与部位配列を遺伝子操作により組込むことも可能である。 典型的には、このような合成により得られるエキソン配列は、天然には存在せず、またさらに典型的には、かかるエキソン配列は、天然に存在するDNA配列からは得られないであろう。


    【0051】


    本発明のベクターの特定の実施形態における特に重要な特徴は、3'遺伝子トラップカセットに抗生物質耐性活性または他の選択マーカー活性(例えば、抗生物質耐性遺伝子)をコードしないエキソンを利用することである。 すでに報告されている遺伝子トラッピングベクターは選択マーカー配列を用いている。


    【0052】


    本明細書に記述するように、非真核生物起源の選択マーカー配列のオープンリーディングフレームを組込んだ3'遺伝子トラップカセットは、典型的には、明らかに3'エキソンをトラップする効率の低減を示す。 したがって、このようなマーカー配列を含まない本発明の3'遺伝子トラップカセットを用いるベクターにより、トラップされて、遺伝子トラップ配列にタグを付けることにより迅速に同定されうる標的遺伝子の数が大幅に増大する。


    【0053】


    特定の実施形態によれば、3'遺伝子トラップカセットのエキソン(SD部位を含む)は、好ましくは、真核細胞に天然に存在するヌクレオチド配列に類似または相同的であることが好ましい。 該エキソンは、動物ウイルスもしくは植物ウイルスに認められる配列に類似または相同的であってもよく、あるいは標的細胞に天然に存在する、または標的細胞に関係する種、もしくは標的細胞の種に関連する分類学上の属、目、網、門、または界に由来する細胞のゲノムに天然に存在する配列に類似または相同的であってもよい。 本発明の目的では、相同配列は、高ストリンジェンシー条件下で標的配列に結合できる核酸配列と定義する。 高ストリンジェンシー条件とは、例えば、0.5M NaHPO

    4 、7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、1mM EDTA中、65℃でのフィルターに結合したDNAへのハイブリダイゼーションおよび0.1xSSC/0.1% SDS中68℃での洗浄(Ausubel. FMら編、1989、Current Protocols in Molecular Biology I巻、Green Publishing Associates, Inc.、およびJohn Wiley & sons, Inc., New York, p. 2.10.3)などである。 または、例えば、0.2xSSC/0.1%SDS中42℃での洗浄(Ausubelら、1989、上述)のような中程度のストリンジェンシー条件などの、もっとストリンジェンシーの低い条件下でもよい。 場合によっては、該エキソンは、標的細胞ゲノム中の配列に対する同質遺伝子である。


    【0054】


    標的細胞ゲノムが3'遺伝子トラップカセットのエキソンと同一の(または該エキソンに相当する)遺伝子を含む場合、特定の実施形態においては、天然に存在する遺伝子が、標的細胞内のトラップされたエキソン配列の増幅および配列決定を実質的に妨害するまたは阻止するようなレベルで、標的細胞によって発現されないことが好ましい。 本発明の目的において、「増幅および配列決定を実質的に妨害する」という語句は、天然に存在するエキソンの内因性発現が、トラップされたエキソン配列の3'RACE法による、また場合によっては従来法のクローニングおよび配列決定による、増幅および配列決定の効率を低減しうる(完全に阻止するわけではない)ことをさす。 この潜在的な問題を回避する他の方法は、3'遺伝子トラップカセットの天然に存在する別のエキソン内に、PCR開始部位として使用できる特有の配列を組込むこと、または、標的細胞ゲノム内に天然に存在しないエキソンを含有する3'遺伝子トラップカセットを利用すること含む。


    【0055】


    本発明の3'遺伝子トラップカセットのエキソンは、翻訳開始部位および/またはオープンリーディングフレームを含んでも含まなくてもよい。 場合によっては、該エキソン内に存在しうる任意のオープンリーディングフレームを遺伝子操作して、宿主細胞の好ましいコドン使用を反映するように最適化したコドンを組込むことも可能である。


    【0056】


    本明細書に記載の3'遺伝子トラップカセットのエキソンが好ましくは真核細胞、より好ましくは哺乳動物細胞に天然にある配列を含むならば、該エキソンは典型的には、原核細胞起源の配列を構成しない。 また、該エキソンは典型的には、抗生物質耐性活性を有するタンパク質(例えば、neo、amp、βラクタマーゼ、tet、kan、など)、または他の選択可能な薬剤耐性もしくは薬剤感受性を宿主に付与するタンパク質をコードするマーカーを構成しない(しかし場合によっては、このようなマーカーは、例えば、該エキソンの5'領域に付加してもよい)。 本発明の目的において、ある遺伝子が、抗生物質耐性遺伝子を発現する原核または真核細胞に、適切な濃度の対応する抗生物質を含有する培地中での有利な選択的増殖をもたらす活性を有する遺伝子産物をコードする場合、遺伝子または遺伝子産物は抗生物質耐性を「付与する」ことができる。


    【0057】


    あるいはまた、該エキソンは一般に、周知の従来の発色アッセイまたは蛍光アッセイ(例えば、βガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、または西洋ワサビペルオキシダーゼ)による選択的検出を仲介する、標的細胞(好ましくは、哺乳動物細胞である)に天然に存在しない酵素活性またはリポーター遺伝子をコードしない。 さらに、本発明のベクターは、記載の3'遺伝子トラップカセットに隣接する標的となるDNA配列の領域を含まない(即ち、3'遺伝子トラップカセットの、相同組換えによる特異的遺伝子座への遺伝子ターゲティングを指令するため)。


    【0058】


    さらに、スプライス供与効率がスプライス供与部位の下流のイントロン配列によって影響されうる場合は、本発明の3'遺伝子トラップカセットを、約1塩基から約数千塩基までのスプライス供与部位配列の3'側に隣接するイントロン配列を含むように遺伝子操作することもできる。


    【0059】


    本発明のさらなる実施形態は、合成により得られるエキソンを含む3'遺伝子トラップカセットの遺伝子操作に関する。 典型的には、かかるエキソン配列は、合成により構築された共通スプライス供与領域および合成「エキソン」配列の上流領域(即ち、天然に存在するエキソン配列に由来しない領域)を組込んでいる。 かかる合成エキソンの例としては、限定はされないが、エピトープタグ、または本明細書に記載のミニエキソン配列の適切な誘導体(即ち、スプライス受容部位を組込んでいない誘導体)が挙げられる。 かかる合成エキソン配列の望ましい特徴は、スプライス供与機能に不利な影響を与えうる終結コドンをコードしないように遺伝子操作を施すことである。 かかるエキソン配列の例は図5に示している。 図5は、3'隣接「イントロン」配列(普通の字体で示す)と共に、スプライス供与部位のAGGTで終わる合成エキソン(太字)を示している。 図5は、記載の3'遺伝子トラップカセットのエキソンの望ましい特徴の多くを一般的に組込んだ合成エキソンも示す。 例えば、一般の合成エキソンは、翻訳開始コドンを含んでも含まなくてもよく、該エキソンは様々な長さになるように遺伝子操作を施してよく、また、合成エキソンは、終結コドンを含まないことが好ましい。 スプライス供与部位の下流の、3'隣接イントロン配列は、合成して得られるものでもよく、または天然に存在する真核生物起源、好ましくは哺乳動物起源からのイントロン配列に由来してよい。


    【0060】


    5.3.

    本発明ベクターの適用


    本発明の3'遺伝子トラップカセットを組み込んだベクターは、3'遺伝子トラッピングの効率が著しく改善される点で特徴を有する。 このように、本発明の別の実施形態は、3'遺伝子トラップカセットおよび該カセットを組み込んだベクターであり、これらは、同様の状態下のSAβgeo 5'遺伝子トラップカセット(またはSAneo 5'遺伝子トラップカセット)が5'エキソンをトラップする効率の少なくとも約15%、好ましくは少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約40%、より好ましくは少なくとも約60%、最も好ましくは少なくとも約85%の効率で、3'エキソンをトラップすることが可能であるという特徴を有する。 本発明の目的において、同様の状態下の遺伝子トラップカセットとは、同様のベクター内で同様の配向で存在するカセットということである。 あるいはまた、同様の状態下の遺伝子トラップカセットが両方とも、同じベクターに存在しうる。


    【0061】


    当業者には任意の様々な定量測定が使用可能であり、3'および5'遺伝子トラップカセットのそれぞれの相対的効率、ならびに効率的にトラップできる遺伝子の数の計算に使用できる。 例えば、本明細書に記載の3'遺伝子トラップカセットにより同定される標的遺伝子の割合を、5'遺伝子トラップ(例えばSAβgeoまたはSAneo)により同定され、例えば抗生物質G418を使用して選択された標的遺伝子の割合と比較して測定できる。 あるいはまた、同定可能な3'遺伝子トラップ事象の割合を、SAβgeo媒介の5'遺伝子トラップ事象により抗生物質耐性に強いられた、または色素形成により同定可能になる標的細胞の割合と比較できる。


    【0062】


    本明細書に記載の3'遺伝子トラップカセットの機能的効率はまた、ベクターを用いて特徴づけられる個々の遺伝子トラップ事象の絶対数により定量できる。 一般的に、本明細書に記載のベクターは、少なくとも約1〜約数百の遺伝子の適切なトラッピングを可能にする。 さらに典型的に少なくとも約1,000の異なる遺伝子、より典型的に少なくとも約3,000、好ましくは少なくとも約10,000の遺伝子、より好ましくは少なくとも約25,000の遺伝子、より好ましくは少なくとも約50,000の遺伝子、さらに少なくとも約55,000の遺伝子から、所定の細胞または細胞型に存在する最大数の遺伝子までが最も好ましい。 例えば、マウス細胞は、約60,000〜100,000、またはそれ以上の遺伝子をコードすると考えられている。


    【0063】


    遺伝子トラッピング効率の別の測定値として、トラップできる異なる細胞性エキソンの数がある。 典型的に、本明細書に記載の3'遺伝子トラップカセットは、少なくとも約10,000の異なる3'遺伝子トラップ細胞性エキソン(通常、約7,500〜9,500の異なる遺伝子を表す、数が概して少ないのは異なる組込み事象が同じ遺伝子内の異なるイントロン/エキソンで生じうるためである)の容易な検出、スクリーニングおよび同定を可能にするのに十分な効率で、細胞性3'エキソンをトラップする。 さらに少なくとも約15,000の異なる3'遺伝子トラップ細胞性エキソンが好ましく、また少なくとも25,000の異なる3'遺伝子トラップ細胞性エキソンがより好ましく、哺乳動物ゲノムに存在する遺伝子の約70%〜約100%までの少なくとも約50,000の異なる3'遺伝子トラップ細胞性エキソンが最も好ましい。


    【0064】


    5.3.1.

    細胞の遺伝子トラップライブラリー


    本発明のベクターを用いて迅速に特徴づけることができる所定の遺伝子の数により、本発明のさらなる実施形態は、本明細書に記載の3'遺伝子トラップカセットを安定に組み込む培養動物細胞の遺伝子トラップライブラリーを含む。 本明細書に記載のライブラリーは、細胞集団を処理して(すなわち、感染、トランスフェクト、レトロトランスポゾン化、またはポリヌクレオチドを細胞に導入する実質上その他の任意の方法)、3'遺伝子トラップカセットを含むベクターを安定して組み込むステップ、安定に形質導入した細胞を同定、さもなければ選択するステップ、およびトラップした3'細胞性エキソンを同定するステップを含む方法により作成されうる。 好ましい実施形態では、動物細胞ライブラリーが、哺乳動物細胞を含み、特に好ましい実施形態では、哺乳動物細胞は胚性幹(ES)細胞であることである。 好ましくは、このようなライブラリーは、ライブラリー中の各突然変異細胞が単一の同定可能な3'遺伝子トラップベクター/事象を含むように構築される(しかし複数の遺伝子トラップベクターを含む突然変異細胞もまた本発明が意図するところである)。


    【0065】


    本発明の別の実施形態では、ライブラリー中の個々の突然変異細胞が分離され、クローン化により拡大される。 次いで、単離およびクローン化により拡大された突然変異細胞を分析して、挿入により突然変異された宿主遺伝子のDNA配列または部分DNA配列を確かめる。 従って、本発明は、ライブラリー中の突然変異された全遺伝子の少なくとも一部の配列決定をさらに提供する。 得られる配列データベースは、その後のライブラリーの指標として機能する。 基本的に、ライブラリー中のクローン化により拡大された細胞の全ての集団が、部分配列情報を用いて個々に分類される。 得られる配列は、突然変異遺伝子に特異的である。 なぜなら本方法は、3'遺伝子トラップカセットにスプライスされたエキソン由来の配列情報を得るように設計されているからである。 得られる配列データベースを用いて、目的の突然変異遺伝子を同定できるか、あるいはまた、新規遺伝子を同定するための有効なツールとなる。 同定された後、対応する突然変異細胞を、ライブラリーから取り出し、以下に記載するようにさらに研究してもよい。


    【0066】


    一般的に、本明細書に記載の3'遺伝子トラップカセットを組み込んだベクターを用いて突然変異された単離細胞、または個々の細胞型(例えば、ES細胞)の指標付けしたライブラリーは、少なくとも約50の異なる単離した突然変異細胞培養系の集合を含み、さらに典型的に少なくとも約100、より典型的に少なくとも約500、好ましくは少なくとも約1,000、より好ましくは少なくとも約5,000、より好ましくは少なくとも約10,000、より好ましくは少なくとも約25,000、そしてさらにより好ましくは少なくとも約40,000から、100,000〜500,000まで、またはそれ以上の異なる単離および特徴づけられた突然変異細胞培養系の集合を含む。 所定のライブラリーに存在する異なる突然変異細胞培養物のゲノムは、挿入される遺伝子トラップカセットの位置、または該カセットを組み込んだベクター以外は本質的に同一(例えば、共通の由来源または近交系に由来するもの)であることが好ましい。


    【0067】


    理論上、突然変異誘発の範囲は、標的細胞系におけるトラップできる遺伝子セット全体である。 ライブラリーの重複性を高めることにより、得られる配列データベースは、理論上、標的細胞におけるトラップできる遺伝子の本質的に完全な表示を含む。 本発明の目的において、「本質的に完全な表示」という用語は、統計的な条件を指す。 該統計的条件とは、ライブラリーを構築するために使用された細胞のゲノムが、集合的に、標的細胞ゲノムにおいてトラップできる遺伝子の少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約85%、最も好ましくは標準ポアソン分布により決定(かつ所定のベクターがゲノムに非特異的に組み込まれると推定)されたトラップできる遺伝子の少なくとも約95%において、安定に挿入された3'遺伝子トラップカセットを含む可能性が一般に少なくとも約80〜95%である統計的な条件である。


    【0068】


    また、本発明のベクターがもたらすゲノムの広い適用範囲が、標的細胞ゲノムの大規模な突然変異誘発も可能にする。 典型的に、このような突然変異標的細胞のライブラリーは、標的細胞ゲノムに存在する各染色体において少なくとも1つの3'遺伝子トラップ突然変異(本明細書に記載の3'遺伝子トラップカセットまたは該カセットを含むベクターにより媒介されたもの)を集合的に表す突然変異細胞の集合またはその単離培養物を含む。 好ましくは、1染色体あたり少なくとも約2〜3の個々の遺伝子トラップ突然変異がライブラリー中で集合的に示される。 より好ましくは、1染色体あたり少なくとも約10の個々の遺伝子トラップ突然変異体が示される。 最も好ましくは、1常染色体(性染色体を抜いたもの)あたり少なくとも約500の個々の遺伝子トラップ突然変異、および/またはゲノム中の遺伝子の約70〜90%まで、またはさらに本質的に完全な表示がライブラリーにおいて集合的に示される。


    【0069】


    本明細書に記載の発明は、本明細書に記載のベクターで形質導入できる任意の生物/細胞のゲノム、または任意の生物/細胞のために存在する培養細胞系のゲノムの大規模な遺伝子分析を可能にする。 従って、本明細書に記載のライブラリーは、標準的方法でトランスフェクトできるか、または本明細書に記載の3'遺伝子トラップカセットを含む組換えベクターでトランスフェクトできる任意の種類の細胞から構築できる。 このことから、本明細書に記載の突然変異動物細胞のライブラリーを作成、組織化および指標付ける方法は、また遺伝子操作および培養増殖できる実質的にいかなる真核細胞にも広範に適用できる。


    【0070】


    マウスES細胞(好ましくは初期継代ES細胞)を、ライブラリーの構築のために使用した場合、ライブラリーは、マウスゲノムの総合的な機能研究のための遺伝子ツールとなる。 ES細胞は、胚盤胞に注射により戻して正常発生(最終的には生殖細胞系)に組み込むことができるため、ライブラリーの突然変異ES細胞は、突然変異形質転換マウス系の集合に有効性を表す(1995年11月7日に発行され、参照により本明細書に組み入れる米国特許第5,464,764号を全体的に参照のこと)。


    【0071】


    同様の方法論を使用して、実質的にはあらゆる非ヒト形質転換動物(もしくは形質転換可能な動物)、または形質転換植物を構築できる。 このような非ヒト形質転換動物としては、例えば、形質転換ブタ、形質転換ラット、形質転換ウサギ、形質転換ウシ、形質転換ヤギ、および当該分野で公知のその他の形質転換動物種、特に哺乳動物種が挙げられる。 さらに、ウシ、ヒツジおよびブタ種、げっ歯類ファミリーの他のメンバー(例えば、ラット、ウサギ、モルモット)、ならびに非ヒト霊長類(例えば、チンパンジー)を使用して本発明を実施してもよい。


    【0072】


    本明細書に記載のライブラリーおよび/またはベクターを用いて作成された形質転換動物および細胞は、基礎的な生物学的プロセスの研究、ならびに老化、癌、自己免疫疾患、免疫不全、脱毛症、腺障害、炎症性障害、毛細管拡張性運動失調、糖尿病、関節炎、高血圧、アテローム硬化、心血管疾患、肺疾患、神経系もしくは骨格系の変性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、喘息、発育障害もしくは発育異常、不妊症、上皮潰瘍、ウイルス性もしくは細菌性病因、および感染性疾患(このような病原体関連の総合的な概説は、特に、Mandellら、1990, 「Principles and Practice of Infectious Disease」第3版, Churchill Livingstone Inc., New York, NY 10036に記載されており、参照により本明細書に組み入れる)を含む疾患(ただしこれらに限定されない)の治療および診断の開発に有用である。 このことから、本明細書に記載の動物および細胞は、機能的ゲノム学の実施のために特に有用である(同様のライブラリー、該ライブラリーを作成およびスクリーニングするための方法は、1997年10月2日に出願され、その開示全体を参照により本明細書に組み入れている、米国特許出願第08/942,806号に記載されている)。


    【0073】


    5.3.2.

    DNA

    配列情報の獲得


    cDNAライブラリーの配列決定により、何十万種もの発現配列タグ(EST)が得られている。 一般に、これらの配列タグによって、遺伝子またはDNAのコード部分が同定されると考えられる。 遺伝子は、全てではなくてもほとんどの可能性のある薬剤標的をコードしていると考えられるため、全ての哺乳動物遺伝子を同定するESTを得る必要性が急増してきた。 しかし、これまでに作成された豊富な配列データにも関わらず、多くの遺伝子が、確立されたcDNA方法での同定が困難であることが分かっている。 なぜなら、多くの遺伝子は発現されていないか、非常に低いレベルで発現されているか、特定の細胞型でのみ発現されるか、一時的にしか発現されないからである。 遺伝子トラッピングにより遺伝子をそれらの内因性発現レベルとは無関係に同定できることから、遺伝子トラッピングは、(前記ベクターを使用して多数の新規配列が同定されていることから実証されているように)遺伝子発見のための重要なツールである。 EST技法と同様に、5'遺伝子トラップベクター(5'エキソンをトラップするように設計されたベクター)の潜在的な限界の1つは、発現された遺伝子しか一般にトラップされないことである。 従って、特に遺伝子発見の目的のためには、ES細胞が特に好ましい標的細胞である。 なぜならES細胞は、ほとんどの遺伝子の発現に関して概して無差別(promiscuous)であると考えられているからである。 この無差別性により、ほとんどの遺伝子を、本明細書に記載のベクターを使用してES細胞中でトラップすることができた。 ES細胞で発現されて検出できる遺伝子のパーセンテージを調べるために、GenBank dbestデータベースから23のESTをランダムに選択し、PCRにより遺伝子を同定するためのプライマーを合成した。 これらのプライマーをES細胞RNAを用いたRT-PCRアッセイに用いた場合、23組のプライマー全てが生成物を生成した。 これは、23の遺伝子全ての転写産物がES細胞中に検出できたことを示している。 スクリーニングされた23のESTはランダムに選択されたことから、それらESTは遺伝子一般をほぼ代表するものであり、従来のcDNAライブラリーの配列決定により同定されていた、他の細胞型において十分に高いレベルで発現される遺伝子の大部分が、ES細胞でも発現され、従って、SA選択マーカーポリA(5'遺伝子トラップ)ベクターを用いておそらく同定可能であることを示していると思われる。


    【0074】


    しかし、遺伝子が発現されないか、十分に発現されないかのいずれかの場合、3'遺伝子トラップカセットを利用して、遺伝子をトラップし、かつ同定することが好ましい。 さらに、3'遺伝子トラップカセットは、自動化手段により、トラップ遺伝子からDNA配列データを迅速に取得することを可能にする。


    【0075】


    3'エキソンをトラップするように設計されたベクターは、多数の突然変異を生成し、突然変異された遺伝子を迅速に同定することを可能にした。 しかし、このようなベクターの初期バージョンの限界は、3'遺伝子トラップに使用する選択マーカー遺伝子が、ほとんどの真核細胞のスプライシング機構によって効率よく利用されないことである。 その結果、抗生物質耐性を付与する活性をコードするエキソンを用いる3'遺伝子トラップカセットを用いたベクターは、通常、ゲノム中の比較的少ない割合の遺伝子について容易かつ効率的な遺伝子トラッピングおよび同定(3'RACEを使用)を可能にするだけである。 さらに、トラップされた3'エキソンの選択が本来的に非効率的であることにより、通常、このような方法を用いて分析できる遺伝子の合計数には限界がある。 その結果、本発明以前には、細胞性ゲノムのうちのごく一部だけが、抗生物質選択媒介型3'エキソントラッピングの使用により効率的にトラップ/突然変異誘発されていた。


    【0076】


    本明細書に記載するベクターは、典型的に、選択マーカー活性をコードするエキソンを利用する初期の3'遺伝子トラップベクターと比較して数倍から数桁もの多い数の遺伝子をエキソン配列によりトラップおよび同定することを可能にする、3'遺伝子トラップカセットを含む。


    【0077】


    本明細書に記載のベクターはまた、遺伝子のオープンリーディングフレームの5'末端を同定する確率が上がるように作製された3'および/または5'遺伝子トラップカセットを含むことができる。 これは、遺伝子の5'末端が、分泌タンパク質および膜貫通タンパク質にみとめられるシグナル配列をコードすることが多いために重要である。 この遺伝子グループを、可能性のあるタンパク質治療および薬剤標的のために高度に富化する。 5'非コード配列の平均の長さが約100bpであり、遺伝子トラップ配列の平均の長さが約500bpであることから、本明細書に記載のベクターを使用して生成された遺伝子トラップ配列は、典型的に、タグ化オープンリーディングフレームの5'側部分を同定する。 これは、高GC含量、二次構造、および逆転写酵素のプロセッシビティが低いことなどの複雑な要因により遺伝子の5'末端を得るのは難しいために特に有益である。


    【0078】


    公知の遺伝子における多数の遺伝子トラップを、前記ベクターを使用して実施および同定した場合、GenBankのcDNA配列と一致する遺伝子トラップ配列タグの93%が、同じまたは追加の5'配列を含んでいた。 これは、前記3'遺伝子トラップカセットを、遺伝子の5'末端を同定および特徴決定するために使用できることを裏付ける。 実際、本発明の遺伝子トラップ法は、これまでに記載されてきた他の方法よりも良好にまたはそれらと同等に遺伝子の5'末端を同定する。


    【0079】


    ゲノム科学の分野において残されている主要な課題の1つは、全ての遺伝子について完全長cDNAを単離およびクローニングすることである。 今日まで、これは、多様な種類の組織からのcDNAの作製、そしてその後の個々のcDNAの配列決定を必要とした。 上述したように、このような方法を使用すると、cDNAの5'末端を得るのが非常に難しくなりうる。 さらに、cDNAの完全なレパートリーを得るためには、個々のcDNAライブラリーを、本質的に、全ての分化細胞型から全ての発生上の時点において作製しなければならない(なぜなら、ESTとしてクローン化されるためには、遺伝子は発現されていないければならないからである)という問題がある。


    【0080】


    上述したように、本明細書に記載するベクターは、cDNAライブラリーの作製のために使用できる。 培養中の細胞に導入された場合、3'遺伝子トラップカセットは、遺伝子がその細胞型において正常に発現されているか否かとは無関係に、遺伝子の転写産物を生成する。 様々なトラップされた遺伝子の発現レベルは、挿入されたプロモーターにより標準化され、そのため非常に低いレベルでのみ発現されている遺伝子でさえも同定される。 本明細書に記載の方法およびベクターを使用すれば、複数の条件下で培養された複数の細胞型から複数のcDNAライブラリーを個別に作製することなく、単一のライブラリーから標的細胞ゲノムを広範囲にカバーするだけのcDNAを得られる。


    【0081】


    本明細書に記載の3'遺伝子トラップカセットは、例えば、組織培養細胞のゲノム中に挿入でき、トラップされた遺伝子から作製されるcDNAのみをcDNAライブラリーにサブクローン化する方法(例えば、PCR)を用いることができる。 これらの方法は、生成されるcDNAの対応領域を拡げ、同時に、ライブラリーを作製するのにかかる手間を実質的に軽減する。 上述したように、本明細書に記載の方法はまた、遺伝子の5'末端を得るために特に有用であり、従って、完全長cDNAを得る可能性を最適化する。 前記ベクターを用いて作製されるトラップされたcDNAの種類および数を変更するために使用できる変数の例としては、感染多重度の調節、および外来的に導入された選択マーカーを含みかつ発現している細胞について選択するための一定時間の選択的培養に供されていない感染した標的細胞からcDNAを作製することが挙げられる(ただし、これに限定されない)。 得られる遺伝子トラップcDNAライブラリーを配列決定して、遺伝子の多数の遺伝子トラップコード領域を生成し、これを、生物情報科学、in situおよびin vitroの両方での遺伝子発現研究(すなわち、ハイブリダイゼーション研究、(トラップされた遺伝子配列に対応するオリゴヌクレオチド配列も使用できる)遺伝子チップなど)、ならびに様々な動物および植物から遺伝子トラップ配列データベースを作製するために使用できる。 これらの遺伝子トラップ配列は、直接プローブとして利用でき、または遺伝子トラップ配列に対応するオリゴヌクレオチド配列を、ハイブリダイゼーションもしくはPCRでライブラリーをスクリーニングするために使用できる。 また、開示したベクターを使用して同定される遺伝子トラップ配列は、遺伝子トラップ配列の発現を誘導するクローニングベクターに組み込むことができる。 本発明の趣旨において、このような遺伝子トラップ配列(もしくはそこから誘導されるオリゴヌクレオチド配列)を有するか、含むか、または組み込むかした単離ポリヌクレオチド配列は、このような単離ポリヌクレオチドまたはベクター中に存在する遺伝子トラップ配列に隣接した、任意の追加の天然型配列または組換え型配列を含んだcDNA遺伝子トラップ配列(もしくはそこから誘導されるオリゴヌクレオチド配列)の連続配列を最小限に組み込むかまたは含む、任意および全ての単離ポリヌクレオチドまたはベクターを指す。


    【0082】


    記載の方法およびベクターを用いてDNA(および対応するアミノ酸)配列情報を得られる速度および効率から、任意の細胞(一次細胞および二次細胞を含む)またはスプライシング機構およびイントロンを含む遺伝子を有する細胞系において、遺伝子スクリーニングを行うための重要なツールが提供されることが明白である。 本明細書に記載の遺伝子トラップベクターは、特に重要な技術躍進に該当する。 なぜなら、本発明の3'遺伝子トラップカセットは、抗生物質選択により検出される遺伝子トラッピングに依存する従来の3'遺伝子トラップベクターを用いて効率的に得られるもののおおよそ13倍(実験的に決定)も多くの遺伝子の迅速な同定を可能にするからである。 新規遺伝子配列を得る頻度と合わせ、同定可能な遺伝子トラップ標的の増加が認められることにより、多数の新規遺伝子および遺伝子配列についての配列情報がもたらされるであろう。 さらに、ES細胞が標的とされる場合、これらの新規の配列はそれぞれ、新規に同定される遺伝子(および可能性のある薬剤または薬剤標的)、ならびに「ノックアウト」細胞および可能性のある「ノックアウト」胚または動物のどちらにも対応する。


    【0083】


    本明細書に記載の方法、ライブラリー、細胞および動物の迅速な配列取得の特徴は、疾患、ならびに遺伝子で決まる利点(例えば、寿命の延長、低コレスレロール、低血圧、癌への抵抗力、低い糖尿病発症率、肥満でないこと、または全ての炎症性障害(限定するものではないが、冠状動脈疾患、多発硬化症、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデスおよび炎症性腸疾患(bowl disease))の軽減もしくは予防)の分子的/遺伝学的基礎を迅速に同定するのに非常に適している。 多数の標的遺伝子により得られる対応領域が広いことから、記載の技術の特に有用な適用として、コード領域単一ヌクレオチド多型(cSNP)の特徴決定および分析が含まれる。


    【0084】


    5.4.

    導入方法


    本明細書に記載の3'遺伝子トラップカセットは、特異的または非特異的に標的細胞ゲノムに挿入できる広範なベクターのうちの任意のものの構造成分として標的細胞に導入されることが好ましい(リコンビナーゼ系も3'遺伝子トラップカセットを挿入するために使用できる)。 本明細書に開示する特徴配列と共に使用できる適切なベクターとしては、単純ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、仮性狂犬病ウイルス、αヘルペスウイルスベクターなどが挙げられるがこれらに限定されない。 ウイルスベクター、特に非複製細胞を改変するのに適したウイルスベクターについての徹底した総論、ならびにこのようなベクターを目的のポリヌクレオチドの発現と合わせて使用する方法は、文献、Viral Vectors: Gene Therapy and Neuroscience Applications Ed. Caplitt and Loewy, Academic Press, San Diego(1995)に記載されている。


    【0085】


    レトロウイルスベクターを使用して、本明細書に記載の3'遺伝子トラップカセットを送達する場合、レトロウイルスベクターは、1995年9月12日に発行された米国特許第5,449,614号(「'614特許」)(参照により本明細書に援用する)に記載されているようなレトロウイルスパッケージング細胞系と共に使用できる。 非マウス動物細胞を、記載のライブラリーを作製するための標的として使用する場合、両種向性エンベロープを有するレトロウイルスを生成するパッケージング細胞を通常利用して、広範な宿主細胞の感染を可能にする。 あるいはまた、細胞系293/GPG(Oryら, 1996, Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 93:11400-11406、および米国特許出願第08/651,050号、参照によりこれらを本明細書に援用する)(これに限定されない)などの汎向性(pantropic)パッケージング細胞系を使用して、前記ベクターをパッケージングしたり、適切なウイルス(例えば、レトロウイルス)受容体遺伝子を、非マウス(例えば、ヒト)標的細胞中にトランスフェクトしたりすることができる。


    【0086】


    さらに、前記レトロウイルスベクターは、米国特許出願第08/907,598号(参照により本明細書に援用する)に記載されるようにキメラインテグラーゼ分子と共にパッケージングできる。 一般に、パッケージング細胞系の構築の際に使用するLTRは、自己不活性性である。 すなわち、エンハンサーエレメントを、3'U3配列から除去して、感染により生じるプロウイルスがどちらのLTRにもエンハンサーを有さないようにする。 さもなければ、プロウイルス中のエンハンサーは、突然変異させた遺伝子またはその付近の遺伝子の転写を生じる。 典型的に、前記レトロウイルスベクターの遺伝子トラップカセットは、レトロウイルスLTRの正常な機能的配向と反対の配向で存在する。


    【0087】


    特に3'遺伝子トラップカセットを組み込んだ組換えウイルスベクターを送達するためにウイルス(特にレトロウイルス)感染を使用(例えば、生物学的方法)するさらなる利点は、ウイルス感染が、遺伝物質を標的細胞に送達するための標準的な非生物学的方法よりもより効率的であることである。 組換え遺伝物質がレトロウイルス感染により送達される場合、レトロウイルスの組換えRNAゲノムが標的細胞内で逆転写され、その後、感染ウイルス内でパッケージングされたレトロウイルスインテグラーゼがベクター(および3'遺伝子トラップカセット)の標的細胞ゲノムへの本質的にランダムな組込みを媒介する。 従って、本発明の別の実施形態は、標的細胞に外来的に追加される、すなわち標的細胞に天然に存在しないインテグラーゼまたはリコンビナーゼ活性により媒介される、前記3'遺伝子トラップカセットを組み込んだ組換えベクターを挿入する方法を含む。


    【0088】


    本明細書に記載の3'遺伝子トラップカセットを組み込むように改変し得る代表的なレトロウイルスベクターは、特に、米国特許第5,521,076号、および1997年10月2日に出願された米国特許出願第08/942,806号、ならびに1997年8月8日に出願された同第08/907,598号(特異的遺伝子トラップ事象について生化学的または表現型によりアッセイするのに使用できるスクリーニングプロトコールをさらに開示している)に記載されている。 これらの開示は、参照により本明細書に援用される。


    【0089】


    典型的には、レトロウイルスベクターに組み込まれた遺伝子トラップカセットの配向は、正常なレトロウイルス転写の配向の反対である。 ただし、正常レトロウイルス転写と同じ配向で1つ以上の遺伝子トラップカセットが組み込まれているレトロウイルスベクターも包含する。 典型的には、遺伝子トラップカセットを、LTRに対して反対配向で配置する理由は、ポリアデニル化シグナル、スプライス部位およびプロモーターなどの遺伝子工学的に作製された調節エレメントの存在が、パッケージング細胞系中でのレトロウイルスゲノムの適切な転写を妨げて、その結果レトロウイルス力価を低減しうるからである。


    【0090】


    さらに、「隠れた(cryptic)」スプライス供与部位配列が逆方向LTRにおいて認められるため、このスプライス供与部位を部位特異的突然変異誘発により除去して、トラッピングに関連するスプライシング事象に悪影響を与えないようにできる。 任意に、プロモーターおよび/またはエンハンサー配列の全体または一部を欠失させることにより、LTRプロモーターおよび/またはエンハンサー機能を不活性化できる。


    【0091】


    5.5.

    分子遺伝学的応用


    5.5.1.

    遺伝子活性化


    本発明の別の実施形態は、3'遺伝子トラップカセットを、動物(例えば、マウス)および培養細胞における機能の獲得および喪失の両方についてスクリーニングするために使用することである。 翻訳開始部位を欠くエキソンを有する3'遺伝子トラップを組み込んだベクターを使用する場合、所与の標的遺伝子は、遺伝子内のベクターが組み込まれた位置に応じて、過剰発現されるかまたは挿入により不活性化(突然変異)され得る。 ベクターが、翻訳開始部より前のイントロン内に配置される場合、細胞性タンパク質をコードする完全なオープンリーディングフレームの過剰発現を生じうる。 これらの種類のトラッピング事象を使用して、遺伝子の過剰発現に基づいた遺伝子スクリーニングを行うことができる。 上記スクリーニングは、例えば、疾患の進行に重要な役割を果たす遺伝子を発見するために、細胞培養物またはマウスにおいて行うことができる。 例えば、上記スクリーニングは、3'遺伝子トラップカセットを一次胚性線維芽細胞中に導入し、軟性寒天中で増殖する能力について選択することによって、癌遺伝子を同定するために使用できる。 あるいはまた、細胞性老化を回避可能な細胞についてアッセイすることによっても、可能性のある癌遺伝子の同定が可能である。


    【0092】


    本ベクターが、遺伝子発現(または過剰発現)をもたらすトラッピング事象を選択するのに使用できることを実証するために、実験を行って、ES細胞分化を促す因子が発現されるように遺伝子をトラップできるか否かを確認した。 多数の遺伝子が、組織培養プレート上の細胞培養物においてトラップされた。 複数のプレートを並行して感染させ、その結果のプレートをES細胞分化について観察した。 一部のプレートは、ほとんど全く分化を示さなかったが、一部のプレートは100%の分化ES細胞を有していた。 この分化は、分化因子であるか、または、ES細胞に分化因子を産生させてそれが培地に供給されるようにし、その結果、ディッシュ上の全ての細胞の分化を生じさせるか、のいずれかである遺伝子の発現の結果と思われる。 重要なことに、これはまた、3'遺伝子トラップ系を使用して遺伝子トラッププールの上清を調べることによって、特異的な生物学的応答を生ずる分泌型分子について活性化およびスクリーニングすることができることを実証する。 ES細胞分化因子についてのスクリーニングは、この技術を、目的とする任意の細胞性応答に関与する分泌型分子を同定するために使用できるという一例である。 例えば、アポトーシスまたは造血細胞分化を誘導する分泌型分子についてスクリーニングできる。


    【0093】


    本明細書に記載の3'遺伝子トラップカセットによりもたらされる増強された発現を考えると、本明細書に記載の3'遺伝子トラップカセットのさらなる用途としては、遺伝子活性化がある。 例えば、適切な動物細胞を、記載の3'遺伝子トラップカセットを組み込んだベクターで処理または感染させた後、他の場合は静止状態の遺伝子の5'側イントロンにベクターが組み込まれれば、該遺伝子を、調節エレメント(例えば、3'遺伝子トラップカセットに組み込まれたエンハンサー/プロモーターエレメント)により「活性化」および過剰発現することができる。 このような非標的化、非特異的、または偏った非特異的な(米国特許出願第08/907,598号を参照)遺伝子活性化を用いて、様々な天然細胞性生成物のうちの任意のものを過剰発現する改変型動物細胞(ヒト細胞を含む)を作製できる。


    【0094】


    このような適用に特に有用と考えられている生成物としては、エリスロポエチン(epo)、tPA、サイトカイン、インターロイキン、癌抑制因子、ケモカイン、分泌型分子、G-CSF、GM-CSF、神経成長因子(NGF)、毛様体神経因子(CNTF)、脳由来神経向性因子(BDNF)、インターロイキン1〜2および1〜4、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、αもしくはγインターフェロンなど、レプチン、ならびに因子VIIIおよびIX(ただしこれらに限定されない)などの通常分泌される分子またはホルモンが挙げられる。


    【0095】


    3'遺伝子トラップカセットによる静止遺伝子の活性化、過剰発現、または遺伝子の異常発現はまた、生体内の遺伝子機能を研究するためにも使用できる。 遺伝子過剰発現を使用して、遺伝子機能を研究することが可能であり、3'側カセットで遺伝子をトラッピングすることで生体内で遺伝子を過剰発現させることができる。 過剰発現は、遺伝子の機能の解明に役に立つ表現型を生体に生じうる。 例えば、特に記載するレトロウイルスベクターは、いたるところで発現されるPGKプロモーターを含む。 ES細胞にて遺伝子をトラップし、その後該ES細胞を使用してマウスを作製する場合、該マウスはいたるところでトラップされた遺伝子を過剰発現する。 例えば、PGKプロモーターではなく組織特異的なプロモーターを使用するようにさらなる改変を行い、トラップされた遺伝子を組織特異的に過剰発現させることができる。 アルブミンプロモーターを使用して、肝臓特異的に過剰発現をさせることができる。 さらに、シグナル配列を3'トラッピングカセットに付加して、トラップされた遺伝子のタンパク質産物を細胞から細胞外空間、血流へと分泌させ、または乳腺排出(mammary excretion)させることができる。 これにより、遺伝子機能の解明が促進されうる。


    【0096】


    過剰発現は3'遺伝子トラップカセットを用いた遺伝子トラップ事象の生じ得る結果の1つであるため、3'トラップ/過剰発現成分を除去するのに有用であることが分かる。 これは、3'トラップカセットの任意の不可欠な成分(不可欠な成分としては、プロモーター、エキソン、スプライス供与部位、イントロン配列、またはカセット全体が挙げられる)を、flpまたはcreリコンビナーゼにより認識されるようなリコンビナーゼ部位に隣接させることによって達成することができる。 このようにして、細胞内または生体内における対応するリコンビナーゼの追加により、所望のとおりに過剰発現を条件付きで逆にしたり除去したりできる。


    【0097】


    遺伝子活性化のために、標的細胞に天然に存在するか、または標的細胞と生物学的性質に適合するエキソンを組み込んだ一般的な3'遺伝子トラップカセットを利用することができ、または公知の遺伝子由来の特異的なエキソンおよびスプライス供与部位を利用して特異的な3'遺伝子トラップカセットを構築できる。 任意には、3'遺伝子トラップを使用する遺伝子活性化が、典型的に、ベクターが活性化遺伝子の翻訳開始部位の上流(5'側)に組み込まれるか、または挿入されることを必要とすることから、遺伝子活性化エキソンが、機能的翻訳開始部位(IRESまたはKozak配列)を含まないか、または二次的なレベルの翻訳活性のみを媒介し得る名目上機能的な(または隠れた)翻訳開始部位だけを組み込むことが好ましい。 あるいはまた、内部リボソームエントリー部位のエキソンへの組み込みは、3'遺伝子トラップされたかまたは活性化された遺伝子の過剰発現を生じうる。


    【0098】


    3'遺伝子トラップエキソンと下流の細胞コード化エキソン(例えば、「活性化」された遺伝子のタンパク質産物の特定のドメインのみをコードするもの)との間の融合産物が望ましい場合、遺伝子トラップベクターは、典型的に、機能的翻訳開始部位、または内部リボソームエントリー部位および翻訳開始部位を含む。


    【0099】


    あるいはまた、記載のベクターを翻訳開始部位の下流に組み込む場合、遺伝子を突然変異させて、このような機能の喪失を検出するためのスクリーニングを用いてもよい。 このアプローチの例としては、例えば、本発明のベクターで線維芽細胞を突然変異させ、軟性寒天中で増殖可能なものについてスクリーニングすることが挙げられる。 このようにして、癌抑制因子をコードする遺伝子を同定できる。 通常、2つの対立遺伝子のうちの1つのみがトラップされるが、培養中の細胞のゲノムは不安定であることが多く、選択を経て第2の対立遺伝子が失われる場合もある。 これにより、劣性表現型についてもスクリーニングすることが可能になる。


    【0100】


    本発明の別の態様は、記載のベクターを使用して、標的化していない、特異的遺伝子の活性化を引き起こすことを含む。 このような方法では、所望の遺伝子の第1のエキソンを、例えばレトロウイルスベクターの3'遺伝子トラップカセット中に組み込む。 次に、このようなレトロウイルスベクターを用いて、非特異的/非標的化の手法で宿主細胞ゲノム全体にわたりベクターが組み込まれるように標的細胞を感染させる。 感染細胞を選択培地で培養して、ベクターを組み込んだ細胞集団を富化し、これらの細胞を、好ましくは高スループット法およびアッセイを使用してスクリーニングし、活性形態の所望の産物(すなわち、第1のエキソンを得た由来の遺伝子にコードされた産物)を発現する細胞を検出することができる。


    【0101】


    5.5.2.

    機能に基づいた遺伝子の発見


    本発明のベクターの遺伝子活性化能はさらに選択的遺伝子発見に適用できる。 例えば増殖欠損細胞(例えば癌抑制もしくはDNA修復ノックアウト細胞)に本発明の遺伝子活性化ベクターを用いて感染させることができる。 次いで感染細胞について、部分的に、もしくは完全に修正された増殖表現型を示す細胞/コロニーをスクリーニングすることができる。 修正された表現型を示す細胞が同定されれば、増殖欠損表現型の修正に関与している「活性化された」遺伝子を、例えば、3' RACEなどを用いるDNAシークエンシングによって迅速に同定することができる。 典型的には、DNA修復変異(変異は動物およびヒトではしばしば癌と関係している)を部分的にもしくは完全に修正する遺伝子は、癌抑制遺伝子(もしくは癌遺伝子の可能性もある)の活性をコードするものである可能性が高い(概説として、Seltenら, 1985, EMBO J. 4(7):1793-1798を参照のこと)。


    【0102】


    逆に、癌細胞もしくは形質転換細胞(もしくは細胞系)に本発明の遺伝子活性化ベクターを感染させ、次いで増殖している、もしくは急速に増殖している細胞に対して毒性を有する種々の細胞傷害剤にさらすことができる(概説として、Wilsonら, 1986, Cell, 44:477-487; Stephensonら, 1973, J. Virol., 11:218-222; Sacksら, 1979, Virology, 97:231-240; Inoueら, 1983, Virology, 125:242-245; Nortonら, 1984, J. Virol., 50:439-444; Choら, 1976, Science, 194:951-953; Steinbergら, 1978, Cell, 13:19-32; Maruyamaら, 1981, J. Virol., 37:1028-1043; Varmusら, 1981, Cell, 25:23-26; Varmusら, 1981, Virology, 108:28-46; Mathey-Prevotら, 1984, J. Virol., 50:325-334; およびRyanら, 1985, Mol. Cell. Biol., 5:3477-3582を参照のこと)。 好ましくは、非形質転換表現型へと復帰した細胞が接触阻止され、培地中に存在する細胞傷害剤に対しての感受性がより低くなる条件下で、感染細胞を細胞傷害剤もしくは化学療法剤に対して暴露させる。 このことはさらに、急速に増殖している細胞、もしくは形質転換された細胞の選択的な排除、および数サイクルの後に癌性でない表現型もしくは形質転換されていない表現型に部分的にもしくは完全に復帰した細胞が最終的に単離されることに寄与する。 形質転換された表現型の修正、もしくは腫瘍原性表現型の抑制に関与している「活性化された」遺伝子は、ここに記載の3' RACE プロトコールを用いてDNAシークエンシングによって迅速に同定することができる。


    【0103】


    本発明の方法はまた、癌の遺伝的な基盤を同定するためにも有用である。 本発明の方法を用いて研究することのできる、および治療できる可能性のある癌としては、限定するものではないが、次のものが挙げられる:心臓: 肉腫(血管肉腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫)、粘液腫、横紋筋種、線維腫、脂肪種、および奇形腫;肺:気管支原生癌(扁平上皮細胞、未分化小細胞、未分化大細胞、腺癌)、肺胞(気管支)癌、気管支腺腫、肉腫、リンパ腫、軟骨腫様過誤腫、中皮腫;胃腸:食道(扁平上皮細胞癌、腺腫、平滑筋肉腫、リンパ腫)、胃(癌、リンパ腫、平滑筋肉腫)、膵臓(腺管腺腫、膵島細胞腺腫、グルカゴン産生腫瘍、ガストリン産生腫瘍、カルチノイド腫瘍、ビポーマ)、小腸(腺腫、リンパ腫、カルチノイド腫瘍、カポジ肉腫、平滑筋腫、血管腫、脂肪腫、神経線維腫、線維腫)、大腸(腺腫、管状腺腫、絨毛腺腫、過誤腫、平滑筋腫);尿生殖器:腎臓(腺腫、ウィルムス腫瘍[腎芽細胞腫]、リンパ腫、白血病)、膀胱および子宮(扁平上皮癌、移行上皮癌、腺腫)、前立腺(腺腫、肉腫)、精巣(精上皮腫、胚性癌腫、奇形癌腫、絨毛癌、肉腫、間質細胞癌、線維腫、線維腺腫、腺腫様腫瘍、脂肪腫);肝臓:肝臓癌(肝細胞癌)、胆管癌、肝芽腫、血管肉腫、肝細胞腺腫、血管腫;骨:骨原生肉腫(骨肉腫)、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性リンパ腫(細網細胞肉腫)、多発性骨髄腫、悪性巨細胞腫瘍、脊索腫、軟骨骨腫(骨軟骨性外骨腫)、良性軟骨腫、軟骨芽細胞腫、軟骨粘液線維腫、類骨腫および巨細胞腫瘍;神経系:頭蓋(骨腫、血管腫、肉芽腫、黄色腫、変形性骨炎)、髄膜(髄膜腫、髄膜肉腫、神経膠腫症)、脳(星細胞腫、髄芽腫、神経膠腫、上衣細胞腫、胚細胞腫[松果体腫]、多型性神経膠芽腫、乏突起細胞腫、シュワン細胞腫、網膜芽細胞腫、先天性腫瘍)、脊髄(神経線維腫、髄膜腫、神経膠腫、肉腫);婦人科領域:子宮(子宮体癌)、子宮頸部(子宮頸部癌、腫瘍前子宮頸部異形成)、卵巣(卵巣癌[漿液性嚢胞腺癌、粘液性嚢胞腺癌、子宮内膜様腫瘍、腹芽細胞腫(celioblastoma)、明細胞癌、未分類癌]、顆粒膜−包膜細胞腫瘍、セルトリ−ライディヒ細胞腫瘍、未分化胚細胞腫、悪性奇形腫)、外陰部(扁平上皮癌、上皮内癌、腺腫、線維肉腫、悪性黒色腫)、膣(明細胞癌、扁平上皮癌、ブドウ状肉腫[胚性横紋筋肉腫]、輸卵管(癌);血液系:血液(骨髄性白血病[急性および慢性]、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ球性白血病、骨髄増殖性疾患、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群)、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(悪性リンパ腫);皮膚:悪性黒色腫、基底細胞癌、扁平上皮癌、カポジ肉腫、ほくろ、異形成性母斑、脂肪腫、血管腫、皮膚線維腫、ケロイド、乾癬;乳房:癌および肉腫、ならびに副腎:神経芽腫。


    【0104】


    上記の研究に対しての改変としては、レトロウイルス遺伝子トラッピングベクターを、特異的な制御配列もしくは転写因子によって調節される遺伝子へのレトロウイルス組込みを標的とする、もしくはバイアスするキメラインテグラーゼと共に用いることが含まれる。 例えば、本発明のレトロウイルス遺伝子活性化ベクターはp53−キメラインテグラーゼが組み込まれたウイルス中にパッケージングすることができ(米国特許出願第08/907,598号に記載のとおり)、そのインテグラーゼは、この既知の癌抑制活性によって調節される遺伝子に対して、ベクターが介在する遺伝子活性化を選択的にターゲッティングする。


    【0105】


    適切に修飾されたものであれば、本発明のベクターはさらに、標的細胞ゲノム全体にわたって任意のDNA配列を配置して、そのベクターがどこに組み込まれているかを迅速に同定するための運搬体を提供する。 ゲノム全体にわたって配置したいと思うDNA配列の数は増加しており、すでに同定されている。 そのような配列の例としては、flpリコンビナーゼによって同定されるfrt部位、もしくはcreリコンビナーゼによって同定されるlox P部位などの組換え部位が挙げられる。 これらの部位は相同的組換えもしくはその他の形質転換法によってゲノム全体にわたって配置することもできるが、本発明の方法では自動化した方法を用いて組込み部位の迅速な同定およびカタログ化を可能としている。 これらの組換え部位は特定のDNA挿入、もしくはその他の位置での挿入と共に、用いることができ、逆位、欠失、および転座などの染色体の再構成の創出に用いることができる。 このように、本発明のベクターは染色体再構成を通じて遺伝子の機能を調べるために特に有用である。 ゲノム全体にわたって配置したいと考えられるその他の遺伝子としては、限定するものではないが、tet、ecdysone、またはエストロゲン受容体DNA結合部位もしくは応答エレメントが挙げられる。 これらの部位は遺伝子発現の誘導もしくは抑制のために一般的に用いられ、これらの部位をゲノム全体にわたって、好ましくは何千何万という異なる遺伝子中に、配置することによって遺伝子発現の条件的もしくは組織特異的調節をもたらす機会を提供するだろう。


    【0106】


    本発明の突然変異誘発法の別の特徴は、ベクターによってコードされる配列および構造的特徴を、組み込まれた遺伝子トラップ構築物に直接的に隣接したゲノムDNAの迅速な同定が可能となるように用いることができることである。 このアプローチは、その中に構築物が組み込まれている遺伝子を同定するエキソン配列は、3'遺伝子トラップカセットの配列獲得能力によってアクセス可能であるという事実を利用している。 適切に(バイオインフォーマティクスによって)同定された細胞性エキソンとハイブリダイズするオリゴヌクレオチドは、ベクターがコードする配列とハイブリダイズするオリゴヌクレオチドと共にPCR反応に用いることができ、このPCRによって組込み部位を同定するためにクローン化しうる、もしくは直接に配列決定しうる鋳型が得られる。 PCRが十分に適切なものではない場合には、比較的まれなカッター制限酵素切断部位(例えば、Sfi I)を組み込むように遺伝子操作されたベクターを用いてPCR反応を増強することができる。 そのような制限酵素切断部位はPCR産物、もしくはベクターに隣接するゲノム配列をも、適切なクローニングベクター中にもしくはそのライブラリー中にサブクローン化することができ、そのサブクローン化したものを、例えば確立された方法、例えばPCR、long-range PCR、サイクルシークエンシングその他の方法でベクターの組込み部位を同定するために用いることができる。


    【0107】


    本発明の別の1態様では、リコンビナーゼ活性をコードする遺伝子(例えば、flpもしくはcreその他;米国特許第5,654,182号および第4,959,317号を参照のこと。それらは本明細書に参考として含めるものとする)を上述の3'遺伝子トラップカセットを含むベクター中に配置する。 リコンビナーゼ遺伝子はマーカー遺伝子の発現について記載した方法と同様な方法で発現させることができる。 簡潔に記せば、リコンビナーゼは独立した発現カセットから発現させることができるし、5'遺伝子トラップ中に組み込むことができるし、また、ベクタープロモーターから発現させることができる。 リコンビナーゼを発現させるために用いる戦略の如何によって、リコンビナーゼは別の構築物上に存在するようにしても、ベクター中の3'遺伝子トラップカセットの5'側もしくは3'側のどちらかに存在するようにしてもよい。 上述の遺伝子トラップベクター中にリコンビナーゼ遺伝子を組み込むことによって、種々のトラップされた遺伝子と本質的に同様なパターンでリコンビナーゼを発現する変異細胞のコレクションまたはライブラリーを得ることができる。 上述の議論は、ベクターが標的細胞ゲノム中に組み込まれている場所の迅速な同定を可能とするやり方で、上述のベクターを用いてゲノム全体にわたって任意のDNA配列を如何に突き止めるか、ほんの2、3の例を述べたにすぎない。 当業者であれば、上述のベクターは真核生物の分子遺伝学の分野における幅広い応用技術を構成することが理解されるであろう。 このように種々のベクターおよび遺伝学的応用のいずれもが本開示の範囲内にあると考えられる。 例えば、レトロウイルスベクターは、上述のその他の特徴、またはは変異原性ミニエキソンおよび/もしくは転写終結因子および/もしくは自己開裂性RNA配列の下流のものを含ませることなく、3'遺伝子トラップカセットを含むように設計することができる。 さらに、3'遺伝子トラップを、タンデムプロモーター(それらのプロモーターのうちの1つが誘導可能なものである)と共存するように設計することができる。 あるいはまた、ハイブリッド遺伝子トラップは、上述の5'遺伝子トラップからのSAneoを、好ましくはインフレームで、上述の3'遺伝子トラップカセットのエキソン(すなわちpAおよびプロモーター配列を欠失させて)に融合させたものも考えられる。 そのような構築物は、上述の遺伝子トラップカセットの増強されたSAおよびSDの機能の双方を利用しており、この構築物によって所定の標的細胞中に発現される遺伝子の自動化された同定が可能となり、そのような構築物は、場合により、上流の変異原性ミニエキソンと共に用いられる。


    【0108】


    5.5.3.

    条件突然変異誘発


    本発明の別の1態様は、細胞中、または生物体もしくは動物中で時間に応じて、および場所に応じてスイッチオンおよびスイッチオフしうる突然変異をもたらすことができることである。 特定の場所でのみ、もしくは特定の時点でのみ、ある遺伝子に突然変異をおこし得ることは遺伝子の機能を理解するために重要な意味がある。 例えば、あるイントロン中のSAβgeoの方向性は、トラップした遺伝子によって産生される正常な転写産物をトラップし、したがって突然変異をおこすその能力を調節している。 適切に方向づけたfrtリコンビナーゼ部位を、flpリコンビナーゼと共に用いて、上記のゲノム再構成を行なうことができる(すなわち、遺伝子トラップカセットを「フリップ」(付けかえる)、もしくは除去さえし、ひいては突然変異のスイッチの「オン」もしくは「オフ」を行なう)。 あるいはまた、cre/lox系は、例えば、所定の変異原性構築物がcreリコンビナーゼを発現している組織もしくは細胞内でのみ選択的に改変(置換、フリップ、欠失その他)されうる条件突然変異をもたらすためにも用いることができる。


    【0109】


    上述のコンセプトの有効性を確認するために、2カ所の逆方向のlox部位内にSAβgeoカセットを配置したベクターを構築した。 これらの部位はcreリコンビナーゼによって認識されるが、それは2カ所のlox部位間に位置するDNA配列を効果的にフリップすることができる。 逆方向のlox部位が隣接しているSAβgeoを含むレトロウイルスベクターをHPRT遺伝子のイントロン中に相同的組換えによって組み込んだ。 SAβgeoがフォワード方向で存在する場合には、6-チオグアニンの存在下での細胞の生存で示されるとおり、HPRT機能は失われた。 しかし、creリコンビナーゼがこれらの細胞中で発現されている場合には、SAβgeoの方向は逆向きに付けかえられ、HAT含有培地中での細胞の増殖で示されるようにHPRT機能の再獲得が起こった。 このように、HPRT遺伝子はSAβgeoの方向を付けかえることによって効果的にスイッチオンもしくはスイッチオフされた。 したがって、本発明の別の1実施形態では遺伝子発現の選択的および可逆的調節を可能とするベクターが得られる。 同様の方法論を用いて、リコンビナーゼの発現、それゆえにSAβgeoのフリッピングを種々の刺激/制御エレメントにリンクすることによって、遺伝子トラップ変異を条件的もしくは組織特異的なものとすることもできる。 また、リコンビナーゼが媒介する戦略を用いて対立遺伝子系列を遺伝子操作して、多かれ少なかれ変異原性の種々の構築物(適切にloxもしくはfrt部位に隣接されたもの)のいかなるものも「スワップ」(交換)インまたはアウトする、すなわち、遺伝子操作することが可能である。


    【0110】


    本発明のベクターを組織特異的もしくは調節可能な発現のために用いるための別の戦略は、frtもしくはlox部位などの特異的DNA結合部位をLTRの内部に配置することである。 LTR内にlox部位があると、ひとたび挿入が行われ同定されれば、例えばcreリコンビナーゼを添加して、単一のfrtもしくはlox部位を含有している1個のLTRを除くインサート全体を除去するために用いることができる。 さらに、調節可能な遺伝子発現ができるようにするDNA応答エレメントの全てもしくは一部を、リコンビナーゼ部位と共に組み込むことができる。 リコンビナーゼ活性によってベクターもしくは遺伝子トラップインサートが除去されれば、単一のLTRの産生をもたらす同一の組換え現象がまた機能的なDNA応答エレメントをもたらすこととなろう。 この単一のLTRは遺伝子機能を妨害しないが、そのDNAエレメントは遺伝子発現を調節するために用いることができる。 真核生物の遺伝子発現の調節に用いられる典型的なDNAエレメントもしくはオペレーターとしては、tet、ecdysone、もしくはエストロゲンDNA結合部位が挙げられる。 tetオペレーターがtetリプレッサータンパク質と組み合わされて存在すれば、遺伝子の発現を増える方向および減る方向へと調節することができるであろう。 このことはマウスにおいてはLTRの挿入を有しているマウスの系統を、tetリプレッサーを体内であまねく、もしくは特定の組織のみで発現しているマウスの系統と交配することにより行うことができる。


    【0111】


    本発明の別の1実施形態は、例えばfrtが隣接する組み込まれたベクター配列と、外因性に添加されたfrtが隣接する配列との置換を、flpリコンビナーゼが媒介することができる、との事実に基づくものである。 したがって、ひとたび適切に構築されたベクター(隣接するリコンビナーゼ部位が組み込まれている)が標的細胞ゲノムの所定の領域中に組み込まれれば、同じ隣接するリコンビナーゼ部位を組み込んでいる種々のDNA配列(すなわち、プロモーター、エンハンサー、IRES、応答エレメント、その他)のいかなるものでも、適切なリコンビナーゼタンパク質を用いることによって、そのベクター中へもしくはそのベクターから交換することができる。


    【0112】


    5.5.4.

    生物学的アッセイ


    明白なことであるが、本発明の3'遺伝子トラップカセットを組み込んでいるベクター、特にレトロウイルスベクターは、広範囲の真核生物標的細胞中の内在性遺伝子の突然変異誘発、活性化、もしくはその発現の制御のために用いることができる。 それゆえに、本発明のベクターは分子遺伝学的技法を植物ならびに鳥類、魚類、哺乳類などの高等真核生物で用いるために特に有用である。 そのような分子遺伝学的技法の例としては、遺伝子活性化、突然変異、および調節をin vitroおよびin vivoの双方でスクリーニングすることが挙げられる。


    【0113】


    例えば、CD4陽性のヒトT細胞にin vitroで本発明のベクターを感染させ、次いでヒト免疫不全ウイルス(HIV)の細胞病理株を感染させることができる。 HIV感染に対して生存可能な細胞を単離し、HIV抵抗性に関係する遺伝子変異の迅速なスクリーニングをすることができる。


    【0114】


    また別のin vitroで行いうるスクリーニング法は、形質転換細胞を本発明の遺伝子トラップベクターで変異させ、形質転換細胞の迅速な増殖を妨げる変異をスクリーニングすることである。 この方法は癌遺伝子もしくは癌抑制遺伝子を同定するために用いることができる。 細胞を変異させた後、細胞増殖において役割を果たしている遺伝子内の挿入物および形質転換表現型の選択のために、種々の化学物質を用いて急速に分裂する細胞を殺すことができる。 急速に増殖する細胞を殺す化学物質の1例はブロモデオキシウリジン(BrdU)である(PestovとLau, 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91(26):12549-12553)。 BrdUは急速に分裂している細胞のDNA中に優先的にインターカレートし、Hoechst 33258の添加後に蛍光で処理すると、急速に分裂している細胞に対して陰性選択をするが、同時に遅く増殖する細胞は選択される。


    【0115】


    上述のベクターで形質導入された細胞の別の応用例は、異型接合体細胞を用いて行われる細胞ベースのin vitro表現型スクリーニング、もしくはそのようなスクリーニングアッセイに先立って(例えば、使用可能な遺伝子トラップベクター中に組み込まれた対応する選択マーカー遺伝子の同型接合提示を選択するような高濃度の抗生物質を用いて)同型接合体となるように培養もしくは操作された細胞を用いて行われる細胞ベースのin vitro表現型スクリーニングである。


    【0116】


    本発明で意図しているin vivoアッセイには、in vivoでの動物の突然変異誘発およびスクリーニングのために3'遺伝子トラップカセットを用いるベクターの使用が含まれる。 これらのアッセイにおいては本発明のベクターは、古典的な化学的突然変異原、例えば、ENU(概説として、Vitaternaら, 1994, Science, 264:719-725を参照のこと)などに代えて、もしくは追加して用いられる。 例えば、供試動物を種々の部位で、および本発明のウイルスベクターの種々の濃度で感染させることができる。 投与経路として好ましいものは、経口、鼻腔内、直腸内、局所、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、真皮下、頭蓋内、鞘内、および類似の方法が挙げられる。 このような突然変異原性の刺激の結果生じた異常な細胞性表現型は同定、単離、およびスクリーニングすることができる。 腫瘍細胞が観察され、単離された場合には、腫瘍原性表現型に関連した突然変異を迅速に同定するために3'RACEを用いることができ、それによって癌抑制遺伝子もしくは癌遺伝子の候補を同定することができる。


    【0117】


    本発明のベクターの別のin vivoでの応用例としては、感染症に関係した病原体による感染に対して異常に抵抗性もしくは感受性である変異体トランスジェニックの、および体細胞トランスジェニックの細胞、動物、および植物の作製が含まれる。


    【0118】


    本発明のまた別の強力な1応用例は、変異体非ヒトトランスジェニック動物の大規模生産である。 そのような非ヒトトランスジェニック動物としては例えば、トランスジェニックブタ、トランスジェニックラット、トランスジェニックウサギ、トランスジェニックウシ、トランスジェニックヤギ、およびその他の鳥類および魚類などのトランスジェニック動物種を挙げることができ、特に当業界で既知の哺乳動物種を挙げることができる。 さらに、ウシ、ヒツジ、およびブタ、げっ歯類のその他のメンバー、例えばラット、ならびにウサギおよびモルモット、ならびにチンパンジーなどの非ヒト霊長類を本発明の実施のために用いることができる。 特に好ましい動物はラット、ウサギ、モルモットで、最も好ましいのはマウスである。 体細胞トランスジェニック動物(上記参照)、および生殖細胞トランスジェニック動物の双方とも特に本発明は意図している。 さらに、そのような動物は、培養細胞を用いる遺伝子トラッピング研究をさらに行うための組織および細胞の供給源となる。


    【0119】


    マウス胚性幹細胞における相同的組換えによる突然変異の作製は十分に確立されたものであり、哺乳類の系において遺伝子機能を研究するために有用であることが証明されている。 しかし、相同遺伝子ターゲティングにはいくつかの制限がある。 そのような制限の1つは、ゲノム配列のエキソン/イントロン構造を決定するために、既知でかつマッピングされた遺伝子が必要であるという点がある。 遺伝子およびその構造が既知の場合でも、変異させようとする遺伝子個々についてターゲティングベクターを作らなければならない。 このような制限によって相同的組換えにより非常に多数の遺伝子を変異させることのできるスピードが遅くなる。 本発明の非相同的もしくは非特異的な3'遺伝子トラッピングおよび突然変異誘発は上記の制限を受けない。 一般的には、非特異的に挿入された、もしくは標的を狙うようには作られていないベクターは、相同的組換えのために設計されたベクターとは次の点で区別することができる。 すなわち、前者のベクターには相同的組換えによって配列を挿入するように設計されたDNAベクターには典型的である相同ターゲティング配列の隣接領域が(しばしば広範囲に)欠けているという点である(例えば、米国特許第5,733,761号を参照のこと、この特許は本明細書中に参考として含めるものとする)。


    【0120】


    その他の方法もマウスに突然変異をおこすために用いることができる。 そのようなものとしては化学物質もしくは放射線で誘発させた突然変異があり、それは変異させようとする遺伝子についての事前の知識がなくともその遺伝子を変異させるために用いることができる。 それらの変異は大規模におこすことができるが、その変異させた遺伝子を例えば、ポジショナルクローニングなどによって同定するには、しばしば時間がかかり、複雑なプロセスを必要とする。 さらに、そのような変異は表現型についてのスクリーニングを多数のマウスについて行った後にのみ同定される。 これには大きなマウス集団、その集団を維持するための莫大な経費、および動物を交配させるための時間が必要となる。 対象の遺伝子についての事前の知識の有無に関わらず、その遺伝子を迅速に変異させ、それによってその遺伝子を容易に同定することのできる方法が必要とされている。 本発明で述べている遺伝子トラッピングは、多数の遺伝子を変異させ、細胞が未だ胚性幹細胞のステージにある間に変異を(ほぼ)同時に同定することができる。 これによって大規模なマウス生産の費用を背負い込むことなく多くの分析ができるようになり、上述のとおり、強力な遺伝子発見用の構成成分が提供される。 マウスは、選択された遺伝子中に遺伝子トラップ変異を含んでいるES細胞から作出することができ、その結果生じる表現型は迅速に同定し特徴を調べることができる。 この結果得られたノックアウトマウスは次いで、その他のマウス系統と交配させることができ、戻し交配してコンジェニックもしくは組換えコンジェニック動物を作製することができ、かかる動物は異なる遺伝的背景における遺伝子トラップ変異の評価を可能とする。 本発明の上記の態様を実施するために用いることのできる種々の系統および遺伝的操作の代表的なリスト(ES細胞ライブラリーをも含む)は、"Genetic Variants and Strains of the Laboratory Mouse"第3版、第1,2巻, 1996, Lyonら編、Oxford University Press, NY, 米国ニューヨーク州、の中に述べられており、本明細書にその全体を参考として含めるものとする。


    【0121】


    改変された細胞性表現型を本発明の遺伝子トラッピングおよび活性化の方法に関連付けることができるので、本発明のまた別の1態様は、改変された細胞性および動物表現型の検出のためのスクリーニングアッセイの使用である。 改変された表現型はまた、変異細胞および動物を外因性物質および化合物に暴露させることで検出することもできる。 さらに、変異体表現型に関与する遺伝子/タンパク質は単離し、さらに生化学的分析にかけて、そのタンパク質の正常な機能を変化させ、置換させ、それと相互作用し、阻害し、もしくは増大させる医薬品の候補を同定することができる。


    【0122】


    本発明はさらに下記の実施例で説明されるが、それらの実施例はいかなる方法であっても限定することを意図したものではない。


    【0123】


    6.0.

    実施例


    SAβgeo(5'エキソントラップとして)およびPGKpuroSD(3'エキソントラップとして)の双方を含んでいるベクターを調べたところ、puro耐性コロニーと比較して13倍もの数のG418耐性コロニーが得られることが判った。 このことは多くの場合、SAβgeoが遺伝子をトラップすると遺伝子トラップベクターのpuro SD 部分は同じ遺伝子の3'部分を効率的にトラップすることができなくなったことを示している(標的細胞へピューロマイシン耐性を与えることができないことによって証明されるとおり)。 さらに、G418耐性のコロニーを単離し3'RACEにかけて、puroが下流のエキソン中にスプライスされて入っているがpuro選択が行えるほどには高いレベルではないのかどうかを調べたところ、約10%のコロニーのみが3'RACE産物を産生したにすぎなかった。 さらに、配列データは大部分の場合でスプライシングが起こっていないことを示していた。 これらのデータはPGKpuroSD 3'遺伝子トラップカセットは限定的な効率で遺伝子の下流エキソンにスプライスして、それをトラップするにすぎないことを示している。 puroに加えてその他の種々の選択マーカーを用いても同様の非効率性が観察されている。 このことは大多数の選択マーカーが微生物由来のものであるという事実によるものであろう。 例えば、puro遺伝子はStreptomyces alboniger由来であり、従って哺乳類細胞で典型的に用いられているものとは別のコドン使用頻度が組み込まれている。


    【0124】


    ここで観察されたスプライシングの非効率性の原因がコドン使用頻度であるのか否かを調べるために、最適な哺乳類のコドン使用頻度を組み込んだpuro遺伝子を合成した。 しかし、この改変されたpuroエキソンを組み込んだ3'遺伝子トラップカセットは効率的にはスプライスされなかった。 不十分なスプライシングが起こる理由として別の考えうることは、ピューロマイシンマーカーは700bpの長さであるのに対して第1エキソンの長さの平均は約100bpであることである。 従って、選択マーカー遺伝子をプロモーターの隣に置くことによって、スプライシング機構によるpuroエキソンおよびスプライス供与部位配列の最適な認識が妨害されている可能性がさらに考えられる。


    【0125】


    細胞性RNAスプライシング機構がpuro遺伝子エキソンを限定的な効率でプロセシングするにすぎないという重要な発見は、天然に存在する哺乳類エキソンを組み込んでいる3'遺伝子トラップカセットが著しく増強されたスプライシング、およびその後のトラッピングの効率性を示すということを理由づけるものである。 この仮説を調べるために、3'遺伝子トラップカセットを遺伝子操作してpuroエキソンおよびスプライス供与部位を、天然のスプライス供与部位配列ならびにそのスプライス供与部位の後に天然に存在するイントロン性の配列を有する天然のマウスエキソンと置換した(マウスbtk遺伝子の第1エキソン、GenBamk受託番号MMU58105のヌクレオチド40,043から40,250)。 次いでこのカセットをウイルス遺伝子トラップベクター中のSAβgeo遺伝子の3'側に挿入した。 マウスbtk遺伝子の第1エキソンが選ばれた理由は、それが平均的な哺乳類第1エキソンのサイズにほぼ等しく、また、重要なことには、これがマウスゲノム中に天然に存在しているものではあるが、btk遺伝子はマウスES細胞中で発現されていないことがあらかじめ判明していたからである。 この特徴は、btk遺伝子がもしES細胞中で発現されているとするならば、3'RACE産物には常に内在性遺伝子からのbtk配列が混入し、トラップされた遺伝子を同定する能力が妨害されてしまうので、重要である。 従って、3'遺伝子トラップカセットエキソンの好ましい特徴としては、それが標的細胞では正常な状態では発現されないか、もしくは外部からの刺激もしくは操作がなければ発現されないような天然に存在する遺伝子から由来するものであることである。


    【0126】


    本発明の3'遺伝子トラップカセット中に組み込むことのできるエキソンは、広範囲の真核細胞(例えば、酵母、昆虫、植物、鳥類、は虫類、魚類その他)のどのようなものでも、動物細胞、特に哺乳類細胞が好ましいとはいえ、その中に天然に存在する配列から取り出すかもしくは由来するものとすることができる。 あるいはまた、エキソンはそれが効率的にかつ機能的に標的真核細胞のmRNAプロセシング機構によってプロセシング(例えば、スプライシング、キャッピング、ポリアデニル化、輸送、および分解)されうるように設計し合成する(例えば、「コンセンサス」エキソン)ことができる。


    【0127】


    btkの第1エキソンは本明細書で特に例示してはいるが、本発明はこのエキソンに限定されるものではない。 事実上、天然に存在する真核細胞のいかなるエキソンであっても、もしくは1個以上の真核生物の遺伝子からの一連のエキソン、コンセンサスエキソン、または合成エキソン(例えば前述のミニエキソン、もしくは適切に改変させた配列、すなわち翻訳を防ぐために、標的細胞によって効率的にスプライシングされることが知られている、米国特許第5,652,128号中に概説的に述べられているエピトープタグに対応しており、この特許は本明細書に参考として含めるものとする)、または標的細胞のRNAプロセシングおよび発現機構によって容易に認識されかつ効率的にプロセシングされるようなエキソンは、本発明の3'遺伝子トラップカセット中に組み込むことができる。 典型的には、第1エキソンはその長さが約1000bp未満で、より好ましくは約700bp未満、さらにより好ましくは約500bp未満、最も好ましくは約300bp未満である。 そのような第1エキソンは例えばGenBankに見出すことができ、そのようなものとしては、限定するものではないが、ヒト成長ホルモン、エリスロポエチン、hprt、メタロチオネインIおよびII、トウモロコシ、コムギ、もしくは大豆のリブロース1,5-ビスホスフェートカルボキシラーゼ、ラット(もしくはヒト、イヌ、ウサギ、ブタ、マウス、その他)プレプロインスリンその他からの第1エキソンが挙げられる。


    【0128】


    典型的な抗生物質耐性マーカーは動物細胞もしくは哺乳類細胞にもともとあるものではないので、哺乳類の標的細胞に抗生物質耐性もしくは感受性(ヘルペスチミジンキナーゼ)を与えるマーカーは通常は本発明の3'遺伝子トラップカセット中に組み込むものとしては好ましくない。 同様に遺伝子トラップ現象の検出および選択のための色素生産性アッセイで用いることのできる典型的で利用可能な酵素マーカー(例えばβ−ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、細菌性アルカリホスファターゼ、その他)もまた哺乳類ゲノムにもともとあるものではないので、そのような遺伝子は本発明の実施に好ましくはない。 しかし、上述の選択可能な酵素マーカーをコードする転写産物が哺乳類細胞でプロセシングされ発現される効率を増加させるような適切な遺伝子操作が見出された場合には、そのようなマーカーを本発明の実施に用いることができる。 上述の選択マーカーおよび酵素リポーターは好ましくは本発明の3'遺伝子トラップカセットの一部でないが、それらは5'遺伝子トラップの成分として本発明の3'遺伝子トラップカセットと組み合わせて用いることができる。


    【0129】


    6.1.

    ベクターの構築


    マウスホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)遺伝子から得たプロモーターを、天然に存在するマウスbtk遺伝子の第1エキソン(マウスbtk遺伝子のヌクレオチド40,043から40,250)の上流に置いた。 btk遺伝子の第1エキソンは翻訳開始部位および該コード配列の5'領域を示す開始コドンを含んでいないが、これらの特徴は所望によりそのエキソン中に操作して含ませることができる。 第1エキソンのコード領域の3'末端はスプライス供与部位配列によってマークされる。 スプライス供与部位認識配列がイントロン配列中に伸長できるので、btk第1エキソンの末端の後にイントロンDNAの103個の塩基を保持した。 PGKbtkSDカセットは3'ポリアデニル化シグナルを欠いている。 従って、このカセットによって産生されるいかなる転写産物も適切にはプロセシングすることができず、従って、その転写産物がポリアデニル化されうる3'エキソンにスプライスされない限りは、3'RACEによって同定されない。


    【0130】


    上述の3'遺伝子トラップカセットは、3'遺伝子トラップカセットのPGKプロモーターの5'側にポリアデニル化部位を組み込んだレトロウイルスベクター中に(隣接するLTR領域に対して逆の方向に)置かれ、neo遺伝子はポリアデニル化部位の5'側に置かれ、スプライス受容部位(SA)はneoコード領域の5'側に置かれて機能性のSAneopA、もしくは任意でSAIRESneopA 5'遺伝子トラップカセットをもたらす。 このベクターはまたPGKbtkSDカセットに隣接する1対のリコンビナーゼ認識部位を機能しうる形で組み合わされて組み込んでいる(図2参照)。 このベクターは典型的には標的細胞がトラップされた遺伝子を天然で発現することを要求するが、この要求性は選択マーカーの発現を独立に制御するプロモーターを加えることによって克服できる。 図2はさらに、突然変異原性ミニエキソンおよび1個以上の突然変異誘発性エンハンサー領域などの、任意に加えうる特徴の好ましい位置をも示している。


    【0131】


    6.2.

    遺伝子トラッピング


    btkベクターを胚性幹細胞中に標準的な技法を用いて挿入した。 簡潔に述べれば、GP+Eパッケージング細胞の上清を約2 x 10

    個の胚性幹細胞に16時間添加し(標的細胞1個あたり約0.1個のウイルスの添加比率で)、次いでその細胞をG418を用いて10日間選択した。 次いでG418耐性細胞を単離し、96ウエルのプレート上で増殖させ、遺伝子がトラップされた配列を得るために自動RNA単離、逆転写、PCR、および配列決定プロトコールにかけた。


    【0132】


    50mMリン酸ナトリウムバッファーpH8.6中で5'−アミノ(dT)

    42 (GenoSys Biotechnologies)で処理したDNA結合プレート上でRNAの単離を行い、室温で一晩静置した。 使用直前にそのプレートをPBSで3回、TEで2回洗った。 細胞をPBSで洗い、100mM Tris-HCl、500mM LiCl、10mM EDTA、1% LiDS、および5mM DTTをDEPC中に含む溶液で溶解させ、mRNAが捕捉されているDNA結合プレートに移した。 15分間インキュベートした後、RNAを10mM Tris-HCl、150mM LiCl、1mM EDTA、0.1% LiDSをDEPC水中に含む溶液で2回洗った。 次いでRNAを同じ溶液からLiDSを除いた溶液で3回洗った。 DEPC水中に2mMのEDTAを含有する溶出バッファーを添加し、プレートを70℃で5分間加熱した。 2X First Strand バッファー、100mM Tris-HCl pH8.3、150mM KCl、6mM MgCl2、2mM dNTPs、RNAGuard(1反応あたり1.5ユニット、Pharmacia)、20mM DTT、QTプライマー(1反応あたり3ピコモル、GenoSys Biotechnologies、配列:5'CCAGTGAGCAGAGTGACGAGGACTCGAGCTCAAGCTTTTTTTTTTTTTTTTT3' 配列番号 )およびSuperscript II酵素(1反応あたり200ユニット、Life Technologies)を含有するRTプレミックスを添加した。 プレートをRT反応をさせるためにサーマルサイクラーに移した(37℃5分間、42℃30分間、および55℃10分間)。


    【0133】


    任意で適切な制限酵素切断部位、すなわち、SFI aもしくはb、その他をこのベクター中に入れることができ(例えば、3'遺伝子トラップカセット中へ)、その結果得られたRT反応生成物は適切なクローニングベクターもしくは発現ベクター中にクローン化することができる。


    【0134】


    6.2.1.

    PCR

    産物の生成


    cDNAは2ラウンドのPCRを用いて増幅した。 PCRプレミックスは次のものを含有する:1.1X MGBIIバッファー(74mM Tris pH8.8、18.3mM 硫酸アンモニウム、7.4mM MgCl

    、5.5mM 2ME、0.011% ゼラチン)、11.1% DMSO(Sigma)、1.67mM dNTPS、Taq(1反応あたり5ユニット)、水およびプライマー。 第1ラウンドのプライマーの配列は:P

    o 5'AAGCCCGGTGCCTGACTAGCTAG3' 配列番号 ;BTK

    o 5'GAATATGTCTCCAGGTCCAGAG3' 配列番号 ;およびQ

    o 5'CCAGTGAGCAGAGTGACGAGGAC3' 配列番号 (1反応あたりピコモル)である。 第2ラウンドのプライマーの配列はP

    5'CTAGCTAGGGAGCTCGTC3' 配列番号 、BTK

    5'CCAGAGTCTTCAGAGATCAAGTC3' 配列番号 、Q

    5'GAGGACTCGAGCTCAAGC3' 配列番号 (1反応あたり50ピコモル)である。 outerプレミックスをcDNAのアリコートに添加し、17サイクル行った(95℃1分間、94℃30秒間、58℃30秒間、65℃3.5分間)。 この産物のアリコートをinnerプレミックスに添加し、同一の各温度で40サイクルかけた。


    【0135】


    nested 3'RACE産物を96ウエルのマイクロタイタープレートフォーマットで2ステッププロトコールを用いて下記のとおり精製した。 各PCR産物の25μLを、あらかじめSTEバッファー(150mM NaCl、10mM Tris-HCl、1mM EDTA pH8.0)で平衡化したSephacryl(登録商標) S-300(Pharmacia Biotech AB, Uppsala, スウェーデン)の0.25mLのベッドにアプライした。 それらの産物を1200 xgで5分間遠心して回収した。 このステップで組み込まれていないヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、およびプライマー−2量体が除去される。 次いで、その産物を、MilliQ H

    Oで平衡化したSephadex(登録商標) G-50(DNAグレード、Pharmacia Biotech AB)の0.25mLのベッドにアプライし、前述の方法と同様に遠心して回収した。 精製PCR産物をPicoGreen(Molecular Probes, Inc., Eugene, 米国オレゴン州)を製造者の使用説明書に従って用いて蛍光で定量した。


    【0136】


    AmpliTaq(登録商標)FS DNAポリメラーゼ(Perkin Elmer Applied Biosystems, Foster City, 米国カリフォルニア州)を用い、ダイ・ターミネーター・サイクルシークエンス反応を、7モルのプライマー(オリゴヌクレオチド OBS; 5'CTGTAAAACGACGGCCAGTC3' 配列番号 )および約30-120ngの3'RACE産物を用いて行った。 サイクルの構成は95℃で10秒間、55℃で30秒間、および60℃で2分間を35サイクルとした。 組み込まれなかったダイ・ターミネータは完了したシークエンシング反応生成物から前述のとおりG-50カラムを用いて除去した。 反応生成物を真空下で乾燥し、ローディングバッファー中に再懸濁し、6% Long Ranger アクリルアミドゲル(FMC Bioproducts, Rockland, 米国メリーランド州)をABI Prism(登録商標) 377 with XL upgrade上で製造者の使用説明書に従って電気泳動した。


    【0137】


    配列を得るために自動96ウエルフォーマットを用い、データはコロニーの70%から得た。 調べた結果、btkの第1エキソンからの配列が同定され、その後btk スプライス部位が同定された。 そのスプライス部位の後に個別の遺伝子トラップ現象各々からユニークな配列が認められた。 これらの配列は長さが平均500bpで高品質でありしばしば長いオープンリーディングフレームを含有していた。 さらに、blast検索を用いると、これらの配列の80%はGenBankデータベース中に見出される配列とマッチさせることができ、このことは転写されたエキソン性の配列が同定されたことを示している。 これらの遺伝子トラップ配列タグは、従来の遺伝子トラップ設計で産生されたものと比べ、はるかに良好な長さおよび品質を有している。 これらの新たなタグは長さおよび品質の双方で改善されており、80%のタグがGenBank配列とマッチしたという事実はそれらが効率的に遺伝子をトラップすることを示唆している。


    【0138】


    これらのデータは、このスプライシング機構が、下流のエキソンにスプライスされている場合にはプロモーターに隣接してまたは比較的近傍に存在するエキソン型の配列をよりよく認識することができることを示している。 これらのデータはまた、G418耐性コロニーの過半数が遺伝子トラップ配列タグを用いて同定できることを示している。 PGKpuroSD 3'遺伝子トラップカセットを組み込んでいるベクターをpuro選択と共に用い、それによってトラップされる約7000の異なる遺伝子を示すDNA配列データが既に得られていた。 そのようなベクターが典型的にはpuroコロニーよりG418耐性コロニーを13倍多く産生させるということは既に確立されているので、本発明の3'遺伝子トラップカセットを組み込んでいるベクターは非常に大きな標的サイズを有しており、おそらくは70,000個をはるかに超える遺伝子であろう。 この標的はさらにSAβgeoでなくSAneopA融合を用いることによって抗生物質での選択の感受性を増大させて標的数を増加させることができ、その他のいかなる選択可能な、そうでなければ同定可能な、マーカーもneoの替わりに5'遺伝子トラップカセット中に用いうる。 IRESneoの使用によってG418耐性コロニー数がpuro耐性コロニー数より15倍以上増加したが、このことはその(カセットの)感受性の増大を示している。 その他の5'トラッピングマーカーとして可能性のあるものとしては、限定はされないが、抗生物質耐性遺伝子(例えば、β−ラクタマーゼ)、比色マーカー遺伝子、リコンビナーゼ活性をコードする遺伝子(例えば、flpもしくはcre、その他)、酵素、緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子などの蛍光マーカー遺伝子(例えば、細胞性蛍光を直接的もしくは間接的に媒介する活性をコードする遺伝子)があり、それらを検出するアッセイはとりわけ米国特許第5,625,048号中に述べられており、この特許は本明細書に参考として含めるものとする。


    【0139】


    典型的には、選択マーカーの感受性が高まるほどトラップされうる標的遺伝子の数が多くなる。 G418耐性コロニーの3'エキソンから遺伝子トラップタグを得るためにbtk第1エキソンを用いる能力によって、従来のベクターを用いて変異させ迅速に配列を調べた細胞よりも約13倍多い変異細胞が産生され、このことは遺伝子トラップ技術の顕著な改善を示している。


    【0140】


    上記の結果から、これまでに報告された3'遺伝子トラップカセットのいかなるものよりも1けた改善されたという驚くべきかつ予期せざる特性が、我々が確立した遺伝子トラッピングのための選択マーカーパラダイムを用いることによってのみ実現しうるものであることは明白である。


    【0141】


    6.3.

    ファーマコジェノミクス


    上記のとおり、本発明のベクターおよび構築物の標的サイズを増大させる別の方法は、選択を全く省き、他の、すなわち分子遺伝学的な方法をトラップされたエキソンの単離に用いることである。 そのようなアプローチを用いると遺伝子配列情報の迅速な作製と分析が可能となる。 配列の獲得のスピードに関して明瞭な利点をもたらすことに加え、遺伝子トラップされたライブラリーのシークエンシングによって従来のcDNAライブラリーと比べて配列の重複の比率が減少するので大きなコスト削減が可能となる。 本発明の配列獲得システムに固有の経済性によって個体のゲノム、もしくは個体のゲノムのコレクションについて、遺伝的多型性、とりわけSNPおよびcSNP、それらは疾患に関与するものであるが(探査した個体群のある部分が共通の疾患の特徴もしくは症状を現す場合には)、それらを同定するための広範に基礎づけられた探査を迅速に行うことが実際的なものとなる。 さらに、同様な方法を、ヒトおよびヒト以外の動物の双方での挙動特質、薬剤応答性、薬剤感受性、薬剤アレルギーその他の遺伝的基礎を同定するための広範に基礎づけられたアッセイで用いることができる。


    【0142】


    そのような方法においては、本発明の3'遺伝子トラップカセットを含む高濃度から飽和濃度の構築物を、一次ヒトもしくは非ヒト細胞(例えば、白血球およびリンパ球その他などの一次有核血液細胞)を含む適切な標的細胞中に、確立された方法を用いて導入させることができる。 3'配列獲得カセットを標的細胞ゲノム内に組み込んだ後に、RNAをその標的細胞から単離し、cDNAを作製し(および任意で上述のとおりPCR増幅をすることができる)、cDNAライブラリーを構築する。 次いでこのライブラリーの配列を決定し、対照のライブラリーならびにその他の「実験的」ライブラリーに対してカタログ化/比較する。 SNP、cSNP、もしくはその他のより大きな多型性を持つものは、「実験的」もしくは「疾患」群に関連するものと同定されるので、多遺伝子座分析を提供するだけでなく、特定の疾患と相関するもしくは将来の研究および分析の根拠となりうるゲノムの領域を強調するような遺伝的多型性のカタログが開発されるであろう。 そのような情報は、薬剤の有効性(もしくは薬剤の副作用)ならびに診断アッセイの設計に関係した遺伝的多型性の同定のためにも価値があるとわかるだろう。


    【0143】


    7.0.

    微生物寄託についての参照


    下記のプラスミドはAmerican Type Culture Collection(ATCC), Manassas, 米国バーモント州に、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約のもとに寄託され、そこで維持され、ブダペスト条約の条項に従って利用可能となった。 そのプラスミドの入手可能性は、いかなる政府でもその政府がその特許法に従って与えた権利に違反した本発明の実施の許諾とみなされるべきではない。


    【0144】


    寄託したプラスミドはATCC受託番号が割り当てられている。


    【0145】


    プラスミド

    ATCC

    番号


    pbtK 209712


    上述の明細書中に述べた刊行物および特許は参考として本明細書に含めるものとする。 当業者であればここに記載した本発明への種々の改変および変更は本発明の範囲および精神から逸脱することなく明白であろう。 本発明は特定の実施形態に関連して記述したが、特許請求の範囲で示した本発明がそのような特定の実施形態に限定されるべきでないことは理解されるべきである。 事実、本発明を実施するための上述の方法への種々の改変は、動物遺伝学および分子生物学もしくは関連分野の当業者であれば明白なものであるが、それらは下記の特許請求の範囲の示す範囲内にあることを意図するものである。



    【図面の簡単な説明】


    【図1】 図1は、本発明の3'遺伝子トラップカセットが標的とする細胞性ゲノム中に組み込まれた後で、該カセットがどのようにスプライシングを受けて細胞性エキソンとなるかを図式的に示す。


    【図2】 図2は、5'トラップ中に選択マーカーを、および本発明の3'遺伝子トラップを組み込んだ二重(5'および3')遺伝子トラップベクターを示す。 図2はまた、リコンビナーゼ認識部位、例えばfrtまたはlox部位(例えば、3'遺伝子トラップカセットのプロモーターの5'側、および3'遺伝子トラップカセットのSDの3'側に位置し得る)、さらに、例えば5'遺伝子トラップカセットの上流に存在するベクターにコードされた突然変異原性ミニエキソン、ならびに一方向性転写終結配列、突然変異誘発性末端エキソンおよび自己開裂性RNAコード領域等の突然変異誘発エンハンサーカセットのような任意の特徴の好ましい位置を、示している。 表示した特徴は、隣接するLTRに対して逆の方向に存在する。


    【図3】 図3aおよび3bは、突然変異誘発エンハンサーとして用いられ得る2種の自己開裂性RNAの配列を示す。


    【図4】 図4は、本発明のベクターと共に用いられ得る突然変異原性ミニエキソン配列の代表例を示す。


    【図5】 図5は、本発明の3'遺伝子トラップカセットと共に用いられ得る様々な合成エキソン配列を示す。

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