糖ペプチド解析装置

申请号 JP2013244499 申请日 2013-11-27 公开(公告)号 JP6079587B2 公开(公告)日 2017-02-15
申请人 株式会社島津製作所; 发明人 村瀬 雅樹;
摘要
权利要求

糖タンパク質又は糖ペプチドのグリコフォーム混合物についての解析を行うための糖ペプチド解析装置であって、 a)試料から生成されたイオンを一旦捕捉するとともに捕捉したイオンを開裂させ得るイオントラップを有し、該イオントラップ自体又は該イオントラップとは別の質量分離部によりイオンを質量電荷比に応じて分離して検出するイオントラップ型質量分析部と、 b)試料から生成されたイオンを飛行空間に導入し、該飛行空間内でイオンを質量電荷比に応じて分離して検出する飛行時間型質量分析部と、 c)前記イオントラップ型質量分析部による測定結果に基づく第1のMS1スペクトルに対して特定の糖の脱離に関連するピークを検出する一方、前記飛行時間型質量分析部による測定結果に基づく第2のMS1スペクトルに対して分子イオンピークを検出し、両MS1スペクトルに共通に現れるピークから糖ペプチドイオンを求める糖ペプチド検出部と、 d)前記糖ペプチド検出部で検出された糖ペプチドイオンについて、第2のMS1スペクトルにおける相対的なピーク強度を用いてグリコフォームの相対定量を行う定量解析部と、 e)前記糖ペプチド検出部で検出された糖ペプチドイオンについて、少なくとも前記イオントラップ型質量分析部によるMSn(ここでnは2以上の整数)分析を実施した結果を用いてグリコフォームの構造解析を行う構造解析部と、 を備えることを特徴とする糖ペプチド解析装置。請求項1に記載の糖ペプチド解析装置であって、 前記イオントラップ型質量分析部はマトリクス支援レーザ脱離イオン化イオントラップ飛行時間型質量分析装置であり、前記飛行時間型質量分析部はマトリクス支援レーザ脱離イオン化リニア飛行時間型質量分析装置であることを特徴とする糖ペプチド解析装置。

说明书全文

本発明は、質量分析を用いて糖鎖修飾を受けたタンパク質又はペプチドの構造を解析する糖ペプチド解析装置に関し、さらに詳しくは、糖鎖構造の相違するグリコフォームの相対的な定量や構造解析を実行するための糖ペプチド解析装置に関する。

生体を構成するタンパク質の半分以上は糖鎖修飾を受けていると言われており、糖鎖修飾はタンパク質の構造や機能の調節に重要な役割を果たしている。また、近年の研究により、免疫疾患などの各種疾患と糖鎖構造異常や糖化異常との関連性も明らかになってきている。こうしたことから、糖タンパク質や糖ペプチドの構造解析は、生命科学や医療、医薬品開発など様々な分野において非常に重要になっている。

マトリクス支援レーザ脱離イオン化イオントラップ質量分析装置(MALDI-IT MS)又はマトリクス支援レーザ脱離イオン化イオントラップ飛行時間型質量分析装置(MALDI-IT-TOF MS)の近年の急速な進歩やこうした装置を利用した分析手法の進歩により、糖ペプチドのように物理的性質・化学的性質の異なる分子複合体(糖ペプチドであれば、糖鎖とペプチド)の構造解析も可能となっている。例えば非特許文献1には、MALDI-IT-TOF MSを利用した糖ペプチド自動分析システムが開示されている。この糖ペプチド自動分析システムでは、MS2分析及びMS3分析、デノボシーケンシングによる糖鎖構造の推定、データベース検索によるペプチドの同定(アミノ酸配列の推定)などの技術を組み合わせることで、糖ペプチドの構造解析が可能となっている。

一方、イオントラップを用いず試料から生成したイオンをすぐに飛行空間に送り込むMALDI-リニア型TOF MSでは、試料から生成されたイオンが飛行途中で分解されるポストソース分解が生じても、その分解されたイオンがそのままイオン検出器に到達するので、高感度で定量性・再現性の高い測定に好適である。また、MALDI-リニア型TOF MSはイオントラップにイオンを捕捉しないため、分析のスループットが高く測定可能な質量電荷比範囲も広いという利点を有している。こうした特徴を活かすために、 MALDI-リニア型TOF MSは糖ペプチドの定量分析によく用いられる。

例えば非特許文献2には、MALDI-リニア型TOF MSを用いて、糖タンパク質におけるグリコフォームを定量する手法が開示されている。該文献におけるグリコフォームの定量は以下の手順に沿って実行される。 (1)糖タンパク質を精製する。 (2)酵素消化を用いて糖タンパク質を糖ペプチドへ分解する。 (3)糖ペプチドの濃縮処理を行う。 (4)逆相液体クロマトグラフにより、糖ペプチドを糖鎖結合部位が同じである糖ペプチド毎に分離する。 (5)糖鎖結合部位毎に分離されたグリコフォーム混合物をそれぞれMALDI-リニア型TOF MSを用いて質量分析(MS1分析)する。 (6)MS1分析により得られたマススペクトル上のピーク強度を用い、糖鎖結合部位毎に糖鎖構造の相違するグリコフォームを相対的に定量する。

特開2011−175897号公報

村瀬(Murase)、ほか6名、「データ-デペンデント・アクイジション・システム・フォー・エヌ-リンクド・グリコペプタイズ・ユージング・MALDI-DIT-TOF MS(Data-dependent acquisition system for N-linked glycopeptides using MALDI-DIT-TOF MS)」、インターナショナル・マス・スペクトロメトリー・コンファレンス(International Mass Spectrometry Conference)、 2012年、ポスターセッション PWe-058、[平成25年11月13日検索]、インターネット

Wada ほか、「コンパリソン・オブ・ザ・メソッズ・フォー・プロファイリング・グリコプロテイン・グリカンズ--エッチユーピーオー・ヒューマン・ディジーズ・グリコミクス/プロテオーム・イニシアティブ・マルチ-インスティテューショナル・スタディ(Comparison of the methods for profiling glycoprotein glycans--HUPO Human Disease Glycomics/Proteome Initiative multi-institutional study)、グリコバイオロジー(Glycobiology)、2007年、Vol. 17(4)、pp.411-422

上述したMALDI-IT MSやMALDI-IT-TOF MSを用いた糖ペプチドの分析においては、イオントラップにイオンを捕捉する過程で、糖ペプチドイオンから一部又は全ての糖が脱離したプロダクトイオンが生成され易い。そのため、試料中に糖鎖構造のみが異なるタンパク質アイソフォーム(グリコフォーム)混合物が含まれる場合、検出されたイオンが試料中に元々含まれていた糖ペプチドのイオンであるのか、或いは上述したような意図しない糖の脱離により生じたプロダクトイオンであるのか区別がつかない。そのため、MALDI-IT MSやMALDI-IT-TOF MSを用いる場合、試料にグリコフォーム混合物が含まれると試料中には存在しないプロダクトイオンを誤って元々試料に含まれていたものであると判断する恐れがある。これを避けるためには、グリコフォームを高い純度で以て予め精製する前処理を行う必要があり、作業が大変煩雑で面倒である。

一方、従来からグリコフォームの定量分析に用いられているMALDI-リニア型TOF MSでは、MS1スペクトル中に現れたイオンピークが糖ペプチド由来のものであるのか或いはその他の分子に由来するものであるのか判別することができない。リフレクトロン飛行時間型質量分離器と高エネルギ衝突誘起解離セルを用いたMALDI-TOF/TOF MS(例えば島津製作所製の「AXIMA Performance」など)が利用できる場合には、MS2分析を実施することによってMS2分析のプリカーサイオンが糖ペプチドイオンであるか否かを判別することは可能である。しかしながら、MS2分析実施前にMS2分析のプリカーサイオンを糖ペプチドイオンのみに絞り込んでおくことはできない。このため、本来であれば実施する必要のない無駄なMS2分析を実施してしまうことを避けることはできず、MS2分析に多大な時間を要することとなる。その上、TOF/TOF MSによるMS2分析ではコリジョンエネルギが大きく2次開裂が多く生じるために、糖鎖結合部位の同定信頼性が低下する。また、分子量が5000を超えるような糖ペプチドのMS2スペクトルからは十分な構造情報を得られない、といった欠点があり、糖ペプチドの構造解析の性能はイオントラップを利用したMALDI-IT MSやMALDI-IT-TOF MSに劣る。

本発明はこうした課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、面倒な前処理を行うことなく、精度のよいグリコフォームの定量や構造解析を効率良く行うことができる糖ペプチド解析装置を提供することである。

上記課題を解決するために成された本発明は、糖タンパク質又は糖ペプチドのグリコフォーム混合物についての解析を行うための糖ペプチド解析装置であって、 a)試料から生成されたイオンを一旦捕捉するとともに捕捉したイオンを開裂させ得るイオントラップを有し、該イオントラップ自体又は該イオントラップとは別の質量分離部によりイオンを質量電荷比に応じて分離して検出するイオントラップ型質量分析部と、 b)試料から生成されたイオンを飛行空間に導入し、該飛行空間内でイオンを質量電荷比に応じて分離して検出する飛行時間型質量分析部と、 c)前記イオントラップ型質量分析部による測定結果に基づく第1のMS1スペクトルに対して特定の糖の脱離に関連するピークを検出する一方、前記飛行時間型質量分析部による測定結果に基づく第2のMS1スペクトルに対して分子イオンピークを検出し、両MS1スペクトルに共通に現れるピークから糖ペプチドイオンを求める糖ペプチド検出部と、 d)前記糖ペプチド検出部で検出された糖ペプチドイオンについて、第2のMS1スペクトルにおける相対的なピーク強度を用いてグリコフォームの相対定量を行う定量解析部と、 e)前記糖ペプチド検出部で検出された糖ペプチドイオンについて、少なくとも前記イオントラップ型質量分析部によるMSn(ここでnは2以上の整数)分析を実施した結果を用いてグリコフォームの構造解析を行う構造解析部と、 を備えることを特徴としている。

上記「イオントラップ型質量分析部」は、イオントラップ自体で質量分離を行うイオントラップ質量分析装置、イオントラップから射出したイオンを飛行時間型質量分離器で分離して検出するイオントラップ飛行時間型質量分析装置、さらには、実質的にイオントラップと同様にイオンを捕捉する機能を有するフーリエ変換型質量分析装置などを含む。他方、上記「飛行時間型質量分析部」は、典型的にはリニア型、リフレクトロン型の飛行空間を有する飛行時間型質量分析装置であるが、高エネルギ衝突誘起解離が可能なTOF/TOF型の装置も含む。また、これら質量分析部のイオン源は典型的にはMALDIイオン源であるが、これに限るものでなく、例えばSALDI(Surface Assisted Laser Desorption Ionization)法などによるイオン源を用いてもよい。

また本発明に係る糖ペプチド解析装置において、イオントラップ型質量分析部と飛行時間型質量分析部とは完全に別体であってもよいが、一部の要素が共通化されたハイブリッド型の装置でもよい。例えば特許文献1に記載の装置では、イオン源、飛行時間型質量分離器、及びイオン検出器が共通であり、イオン源と飛行時間型質量分離器との間にイオントラップが配置されている。そして、第1の動作モードでは、イオントラップの内部空間も飛行空間の一部となり、イオン源で生成され加速されたイオンがイオントラップ内を素通りして飛行時間型質量分離器による本来の飛行空間に導入され質量分析される。一方、第2の動作モードでは、イオン源で生成されイオンはイオントラップに一旦捕捉され、必要に応じてイオン選別操作や開裂操作が行われ、そのあとにイオントラップから一斉に射出されて飛行時間型質量分離器の飛行空間に導入され質量分析される。この構成では、時分割でイオントラップ型質量分析部による質量分析と飛行時間型質量分析部による質量分析とを実行することができる。

本発明に係る糖ペプチド解析装置では、イオントラップ型質量分析部と飛行時間型質量分析部とで同じ糖ペプチドを含む試料をそれぞれ質量分析し、それぞれMS1スペクトル、つまり通常のマススペクトルを作成する。同じ試料に対するマススペクトルではあるが、マススペクトルに現れるピークにはそれぞれ特徴がある。イオントラップ型質量分析部では上述したようにイオントラップでのイオン捕捉の過程で糖の一部又は全部がニュートラルロスとして脱離し易いので、第1のMS1スペクトルにはニュートラルロスによるピークが多く観測される。そこで糖ペプチド検出部は、第1のMS1スペクトルに対し例えばデノボシーケンシングを行うことにより糖のニュートラルロスを生じたイオンであると推定されるピークを検出する。一方、飛行時間型質量分析部では多くの場合、分子イオンがそのまま観測される。そこで糖ペプチド検出部は、第2のMS1スペクトルにおいて例えば信号強度が閾値以上である有意なピークを、インタクトな分子に由来するイオン(インタクトイオン)に対応するピークであると推定して検出する。

ただし、目的とする糖ペプチドのグリコフォーム以外に、試料には非糖鎖修飾ペプチドやその他の分子が含まれる可能性があり、それらの分子イオン由来のピークも第2のMS1スペクトルに現れる。一方、第1のMS1スペクトルには、試料中に元々存在する目的とする糖ペプチドのグリコフォーム由来のピークが観測される筈である。そこで、糖ペプチド検出部は、第1のMS1スペクトルから検出された糖のニュートラルロスに関連付けられたピークと第2のMS1スペクトルからインタクトイオン由来であると推定され検出されたピークとの質量電荷比の共通性を調べ、例えば質量電荷比差が許容誤差範囲内であるピークが目的とする糖ペプチドイオン(厳密には糖ペプチドのグリコフォームのイオン)由来のピークであると判断する。

以上のようにして複数の糖ペプチドイオンの質量電荷比が判明したならば、定量解析部は、第2のMS1スペクトルにおいてその複数の糖ペプチドイオンに対応するピークの強度の相対値を用いて、該糖ペプチドのグリコフォームの相対的な定量値を求める。また、構造解析部は、上記複数の糖ペプチドイオンをプリカーサイオンとするMSn分析を実施した結果として得られるMSnスペクトルに対するデノボシーケンシングやデータベース検索などにより、ペプチドのアミノ酸配列を推定するとともに各糖ペプチドに含まれる糖鎖の構造や組成、及び糖鎖結合部位を推定する。こうして、本発明に係る糖ペプチド解析装置では、試料に元々含まれる糖ペプチドのグリコフォームについての相対定量と構造解析が行われるので、グリコフォームの定量情報と構造情報とを併せてユーザに提供することができる。

なお、糖ペプチドの構造解析には、MS2分析だけでは情報が不足しており、通常、MS3分析又はインソース分解を利用した疑似MS3分析が必要である。飛行時間型質量分析部がTOF/TOF型の質量分析機能を有している場合には、MS2分析についてのみ飛行時間型質量分析部を利用し、nが3以上のMSn分析はイオントラップ型質量分析部を利用することができる。もちろん、nが2以上のMSn分析は全てイオントラップ型質量分析部で実施するのが一般的である。

本発明に係る糖ペプチド解析装置によれば、試料に目的とする糖ペプチドのグリコフォーム以外の様々な化合物、つまりはペプチドが相違する他の糖ペプチドや糖ペプチド以外のペプチドや翻訳後修飾を受けたペプチドなどが混在していても、目的とする糖ペプチドのグリコフォームを的確に検出し、そのグリコフォームの相対定量や構造解析を行うことができる。そのため、目的とする糖ペプチドのグリコフォーム以外の化合物を除去するような面倒な試料の前処理は必要なくなる。また、構造解析を行うために、目的とする糖ペプチド由来ではない不要なプリカーサイオンに対するMS2分析の実行を回避することができるので、グリコフォームの構造解析全体のスループットが向上する。

本発明の一実施例である糖ペプチド解析装置の要部のブロック構成図。

本実施例の糖ペプチド解析装置における糖ペプチド構造解析処理手順を示すフローチャート。

本実施例の糖ペプチド解析装置におけるイオントラップ型質量分析部及び飛行時間型質量分析部でそれぞれ得られるMS

1スペクトルの一例を示す図。

図3に示したMS

1スペクトルに基づいて検出された糖ペプチド由来イオンを示す図。

本実施例の糖ペプチド解析装置において得られるグリコフォームの強度分布及び構造解析結果を示す図。

以下、本発明の一実施例である糖ペプチド解析装置について、添付図面を参照して詳細に説明する。図1は本実施例の糖ペプチド解析装置の要部のブロック構成図である。

本実施例の糖ペプチド解析装置は、試料Sに対して分析を実行してデータを収集する分析部1と、収集されたデータを解析処理するデータ解析部2と、を備え、分析部1は、同じ化合物を含む試料Sをそれぞれ分析するイオントラップ型質量分析部11と飛行時間型質量分析部12とを含む。

図示しないが、イオントラップ型質量分析部11は、MALDIイオン源と、3次元四重極型のイオントラップと、飛行時間型質量分離器と、イオン検出器とを、含む、MSn分析(nは2以上の任意の整数)が可能な質量分析装置(MALDI-IT-TOF MS)である。即ち、イオントラップ型質量分析部11では、MALDIイオン源において試料にレーザ光を照射することで試料中の化合物をイオン化し、生成された各種イオンをイオントラップに一旦捕捉する。イオントラップにおいては、必要に応じて、特定の質量電荷比を有するイオンをプリカーサイオンとして選別したあとに該プリカーサイオンを衝突誘起解離(CID)により開裂させ、生成したプロダクトイオンをイオントラップ内に捕捉する。そして、所定のタイミングでイオントラップからイオンを一斉に射出し、飛行時間型質量分離部の飛行空間を飛行させることでイオンを質量電荷比に応じて分離し、分離されたイオンをイオン検出器により順次検出する。

なお、イオントラップ型質量分析部11は、飛行時間型質量分離器を備えず、イオントラップ自体の機能を利用して質量電荷比に応じたイオンの分離を行う質量分析装置(MALDI-IT MS)であってもよい。また、静電場及び磁場を利用してイオンを捕捉する機能を有するフーリエ変換型質量分析装置を用いることもできる。

他方、飛行時間型質量分析部12は、MALDIイオン源と、該イオン源で生成されるとともに加速されたイオンを飛行させる飛行空間と、該飛行空間を飛行してきたイオンを検出するイオン検出器と、を含む。典型的には、飛行空間が直線状であるリニア飛行時間型質量分析装置であるが、リフレクトロン型のTOF/TOF質量分析機能を有していてもよい。

飛行時間型質量分析部12では、MALDIイオン源において試料にレーザ光を照射することで試料中の化合物をイオン化し、生成された各種イオンを生成直後に加速して飛行空間に導入する。そして、所定長さの飛行空間を飛行させることでイオンを質量電荷比に応じて分離し、分離されたイオンをイオン検出器により順次検出する。

データ解析部2は、イオントラップ型質量分析部11及び飛行時間型質量分析部12においてそれぞれ得られるデータに基づいてマススペクトル(MSnスペクトルを含む)を作成するマススペクトル作成部21、22と、マススペクトルに基づいて目的とする糖ペプチド由来のイオンを検出する糖ペプチド検出部23と、検出された糖ペプチドについてグリコフォームの相対的な定量を行う定量解析部24と、ペプチドのアミノ酸配列推定、糖鎖組成推定、糖鎖結合部位の特定などを行って糖ペプチドの構造を解析する構造解析部25と、を機能ブロックとして備える。なお、イオントラップ型質量分析部11と飛行時間型質量分析部12とにおいてそれぞれ得られるデータに基づくマススペクトルを必ずしも同時並行的に作成する必要はないから、マススペクトル作成部を1つのみ備える構成であってもよい。

分析制御部3はイオントラップ型質量分析部11及び飛行時間型質量分析部12における分析動作を制御するものであって、特にイオントラップ型質量分析部11に対しては構造解析部25の処理の過程で得られた情報に基づいてプリカーサイオンを設定しMSn分析を実行するよう制御を行う。主制御部4は装置全体を統括的に制御するとともに、接続された操作部5や表示部6を通したユーザインターフェイスを担う。 なお、主制御部4、分析制御部3、及びデータ解析部2の少なくとも一部は、パーソナルコンピュータをハードウエア資源とし、該コンピュータに予めインストールされた専用の制御及び処理ソフトウエアを動作させることでそれぞれの機能を達成する構成とすることができる。

本実施例の糖ペプチド解析装置を用いた解析動作の一例を、実測例を参照しつつ説明する。 ユーザはMALDI用に調製された同じ目的化合物(糖ペプチド)を含む試料Sをイオントラップ型質量分析部11及び飛行時間型質量分析部12にそれぞれセットし、操作部5で所定の操作を行うことで各種分析条件を設定したあとに分析開始を指示する。この指示を受けて分析制御部3はイオントラップ型質量分析部11及び飛行時間型質量分析部12をそれぞれ動作させ、セットされた試料Sに対する質量分析を実施する。このとき、イオントラップ型質量分析部11ではまず、イオントラップに捕捉したイオンに対するCID操作を行わずに、通常の質量分析、つまりMS1分析を実行する。

上記分析によりイオントラップ型質量分析部11及び飛行時間型質量分析部12ではそれぞれ、所定の飛行時間範囲に亘るイオン強度信号が得られる。マススペクトル作成部21、22は、入されたイオン強度データの飛行時間を質量電荷比に換算する処理等を実行しマススペクトルを作成する。この2つのマススペクトルが糖ペプチド検出部23に与えられる。以下、2つのマススペクトルを区別するために、イオントラップ型質量分析部11で得られた検出信号に基づくマススペクトルをITマススペクトルといい、飛行時間型質量分析部12で得られた検出信号に基づくマススペクトルをTOFマススペクトルということとする。

イオントラップ型質量分析部11では、イオントラップにイオンが捕捉される際にイオンが持つエネルギを減少させるべくクーリングが行われる。クーリングはイオントラップ内にアルゴンなどの所定のクーリングガスを導入し、振動しているイオンをクーリングガスに接触させることで行われる。その際に、ペプチドに結合している糖鎖のうち脱離し易い物質、例えばシアル酸などが脱離してしまう。そのため、ITマススペクトルには、中性である糖の脱離、つまりニュートラルロスに関連付けることができるピークが多く観測される。糖ペプチドにおいて脱離し易い物質は既知であるから、糖ペプチド検出部23はITマススペクトルに対してデノボシーケンシングを適用することで、既知である糖のニュートラルロスに関連付けられたイオンピーク群を検出する。具体的には、ITマススペクトルにおいてピークを検出して各ピークの質量電荷比を求め、隣接するピークの質量電荷比差が既知の糖のニュートラルロス(例えばシアル酸)の質量に該当するか否かを調べる。そして、隣接ピーク間の質量電荷比差が既知の糖のニュートラルロスの質量に該当したピークを抽出する。

一方、上述したような糖ペプチドイオンからの糖の一部の脱離は、飛行時間型質量分析部12では起こりにくい。そのため、TOFマススペクトルには、糖ペプチドの構造がそのまま残った、即ち、糖ペプチドのインタクトイオンに対応するピークが高い強度で観測される。そこで、糖ペプチド検出部23はTOFマススペクトル上で例えばピーク強度が所定の閾値以上であるピークを、インタクトイオンによる可能性が高いピークとして検出する。そして糖ペプチド検出部23は、ITマススペクトルから抽出したイオンの質量電荷比とTOFマススペクトルから抽出したイオンの質量電荷比とを比較し、両マススペクトルで共通に検出されたイオンを糖ペプチドイオンとして検出する。

上述したようにイオントラップ型質量分析部11では分析の過程で糖の一部の脱離が起こるため、ITマススペクトルにはそうした脱離によって生成された不完全な糖ペプチドイオンと、元々試料Sに含まれていた、ペプチドは同じで糖鎖の構造が相違する糖ペプチド(つまりはグリコフォーム)のイオンとが混在して現れる。前者イオンと後者イオンとはITマススペクトルのみからは判別できない。これに対し、TOFマススペクトルには元々試料Sに含まれていた糖ペプチドのインタクトイオンが現れる筈であるから、ITマススペクトルとTOFマススペクトルとに共通に現れるイオンが、元々試料Sに含まれていたペプチドが同一である糖ペプチド、つまりグリコフォームのインタクトイオンであると、高い確度で推定することができる。

図3(a)はヒトトランスフェリン由来の二分岐糖ペプチドについて実測により得られたITマススペクトル、図3(b)は同じ試料について実測により得られたTOFマススペクトルである。図3(a)中に○印で示したピークは、デノボシーケンシングにより糖のニュートラルロスに関連付けられたイオンのピークである。これらピークの中でいずれがグリコフォームに対応するイオンであるのかを区別することはできない。一方、図3(b)中に○印で示したピークは、糖ペプチドのインタクトイオンであるとして検出されたピークである。ただし、目的とする糖ペプチド以外の糖ペプチドや別のペプチドのインタクトイオンが含まれていても区別はできない。

図3(a)及び(b)に示したマススペクトルでそれぞれ検出されたピークについて、一定の許容質量電荷比範囲内に共通に現れるピークを探索した結果を図4に示す。この例では、図4に示すマススペクトルにおいて○印で示した、m/z 1679、m/z 3389、m/z 3680の3本のピークが糖ペプチドイオンとして検出された。これらは、ペプチドのアミノ酸配列は同一であって結合している糖鎖の構造のみが相違するグリコフォームであると推測できる。換言すれば、図4において○印が付されていないピークは、目的とする糖ペプチドのグリコフォームではないインタクトイオンであると考えられる。

定量解析部24は、糖ペプチド検出部23で検出された糖ペプチドイオンについて、マススペクトル作成部22で得られたTOFマススペクトル中のピーク強度を取得し、そのピーク強度の相対値を用いてグリコフォームの相対的な定量を行う。即ち、図4に示したマススペクトルにおいて○印で示された3本のピークの相対強度から各グリコフォームの相対的な定量値を計算する。このときに用いるピーク強度としては、ピークの高さのほかに、ピークの面積を用いてもよい。

一方、構造解析部25は、糖ペプチド検出部23で検出された糖ペプチドイオンについて、分析制御部3による制御の下でのMSn分析をイオントラップ型質量分析部11で実行しつつ、糖ペプチドの構造解析を実行する。この構造解析の手順を図2に示したフローチャートを参照して説明する。

まず、構造解析部25は上記のように検出された糖ペプチドイオンの情報を分析制御部3に送り、分析制御部3はこれをプリカーサイオンとして試料Sに対するMS2分析を実行するようにイオントラップ型質量分析部11の動作を制御する。マススペクトル作成部21はこのMS2分析によって得られた検出信号に基づいてMS2スペクトルを作成する(ステップS1)。なお、マススペクトルから検出された糖ペプチドイオンが シアル酸(Sia)を含有すると推定される場合には、インソース分解等によりシアル酸が全て脱離したイオンをプリカーサイオンに選定してMS2分析を実行するとよい。

構造解析部25は、得られたMS2スペクトルにおいて、N-結合型糖ペプチドのMSnスペクトルに特徴的に現れるトリプレットピーク(質量電荷比間隔が低質量電荷比側から83Da及び120Daで並ぶ3本のピーク)を探索する。そして、トリプレットピークが検出されたならば、そのトリプレットピークの中の質量電荷比が最大であるピークを開始点、MS2分析のプリカーサイオンの質量電荷比を終了点として、隣接する2本のピークの質量電荷比差が糖鎖のニュートラルロスの質量に相当するようなイオンピーク列をデノボシーケンシングにより推定し、該当するピーク情報を糖鎖(翻訳後修飾)情報として収集する(ステップS2)。なお、MS2スペクトルにおいてトリプレットピークが検出されなかった場合には、O-結合型糖ペプチドである可能性が高いが、該糖ペプチドの糖鎖組成を推定したい場合には、プリカーサイオンから質量電荷比が低くなる方向に向かってデノボシーケンシングを行うことにより糖鎖組成推定を実行すればよい。

次いで糖構造解析部25は、ステップS2で検出されたトリプレットピークに対応する3種のイオンを、低質量電荷比側より、全ての糖鎖が脱離したペプチド由来のプロダクトイオン、1個の糖鎖が付加したHexNAc環開裂断片による修飾を受けたペプチド由来のプロダクトイオン、及び、HexNAcによる修飾を受けたペプチド由来のプロダクトイオンであるとみなし、それぞれをMS3分析のプリカーサイオンとして、又は少なくともHexNAcによる修飾を受けたペプチド由来のプロダクトイオンをMS3分析のプリカーサイオンとして定め、その情報を分析制御部3に送る。分析制御部3はこの情報に基づきMS3分析のプリカーサイオンを設定する。また糖構造解析部25は、ITマススペクトルにおいて、上記トリプレットピークに対する一定の許容質量電荷比範囲内に同様のトリプレットピークの存在が確認できた場合には、ITマススペクトル(つまりはMS1スペクトル)におけるトリプレットピークをMS2分析のプリカーサイオンとして設定する(ステップS3)。ITマススペクトルに上記特徴的なトリプレットピークが見つかった場合には、MALDIイオン源におけるインソース分解により糖ペプチドイオンが実質的に開裂を生じたと判断することができる。この場合、ITマススペクトルは実質的にはMS2スペクトルであるが、意図的なCID操作を行った結果ではないので通常のMS2スペクトルと区別するために疑似MS2スペクトルということとする。また、このときの分析を疑似MS2分析ということとする。

ステップS2においてトリプレットピークが見つからなかった場合には、MS2スペクトルに対するデノボシーケンシングにより最も低い質量電荷比側において帰属が決定されたイオンをMS3分析のプリカーサイオンとして選定するとよい。また、このMS3分析のプリカーサイオンがITマススペクトル中に見つかった場合には、これを疑似MS3分析のプリカーサイオンとして決定するとよい。

ステップS3で設定されたプリカーサイオンの情報は分析制御部3に送られ、分析制御部3は同じ試料Sに対するMS3分析又はMS2分析(疑似MS3分析)を実行するようにイオントラップ型質量分析部11の動作を制御する。マススペクトル作成部21はこのMS3分析又は疑似MS3分析によって得られた検出信号に基づいてMS3スペクトル又は疑似MS3スペクトルを作成する(ステップS4)。

構造解析部25は、作成されたMS3スペクトル又は擬似MS3スペクトルから、ノイズピーク等を除去した有意なピークの情報を収集してピークリストを作成する。そして、このピークリストとステップS2において推定された糖鎖(翻訳後修飾)情報とに基づき、ペプチド同定のためのデータベース検索の検索条件を設定する(ステップS5)。具体的には、ステップS2の処理により特定の糖又は糖の開裂断片による修飾が存在することが判明していれば、それを翻訳後修飾条件として検索条件に加えればよい。そのあと、構造解析部25は、設定された検索条件に従って、図示しないデータベースに収録されているペプチドのアミノ酸配列のピークパターンとの照合によるデータベース検索を実行する(ステップS6)。

データベース検索エンジンとして米国マトリクスサイエンス社が提供しているマスコットMascotに含まれるMS/MSイオンサーチを利用する場合、既知のペプチドとのピークパターンの一致度を示す指標(スコア)が計算されるから、そのスコアが高く、且つ、指定した修飾を受けているものを、アミノ酸配列候補として例えばスコア順にリストアップする。また、ステップS2においてデノボシーケンシングにより推定された糖鎖組成の候補もリストアップする。そして、そのリストアップされたものを同定結果として表示部6の画面上に表示して分析者に提示する(ステップS7)。

ただし、マススペクトルから検出された糖ペプチドについての構造推定手法は上記説明したアルゴリズムに限るものではなく、上記アルゴリズムに適宜の変更を加えたり、別のアプローチを利用したりしてもよい。もちろん、いずれにしても適宜のプリカーサイオンの選定及びMSn分析は必要であり、最低限、n=3までのMSn分析は必要である。飛行時間型質量分析部12がリフレクトロン型のTOF/TOF質量分析機能を有している場合には、この機能を利用してMS2分析を実行してもよいが、n=3以上のMSn分析についてはイオントラップ型質量分析部11を利用する。

図5は図4に示した糖ペプチドイオンについて上述のフローに従った構造解析を行った結果をマススペクトル上に重ねた、最終的な分析結果の表示の一例である。3つの糖ペプチドイオンに対応するピークにそれぞれの糖ペプチドの構造が関連付けて表示されている。また、ピーク強度が大きいが目的とする糖ペプチドのグリコフォームでないピークにはその旨が表記されている。このような表示によれば、同じ試料に含まれるグリコフォームの構造を一目で把握することができる。また、この例では相対強度はピーク強度の比から明らかであるが、このマススペクトル上にグリコフォームの相対定量値を数値で示してもよい。また、ピーク強度比の算出には、ピークの高さ以外にピーク面積を用いてもよい。

なお、上記実施例の糖ペプチド解析装置では、イオントラップ型質量分析部11と飛行時間型質量分析部12とが全く別体として設けられているが、同時に測定を行う必要があるわけではないから、イオントラップに一旦イオンを捕捉する質量分析とイオン源から引き出されたイオンをそのまま飛行空間に導入する質量分析とを1台の装置で切り替えて実行可能なハイブリッド型の装置を用いてもよい。具体的には、例えば特許文献1に記載されているような質量分析装置を利用することができる。当然のことながら、こうしたハイブリッド型の質量分析装置では、上記実施例の装置において2つ設けられていたマススペクトル作成部21、22は1つに集約された構成とすることができる。

また、上記実施例は本発明の一例にすぎず、上記記載の変形例以外でも、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。

1…分析部 11…イオントラップ型質量分析部 12…飛行時間型質量分析部 2…データ解析部 21、22…マススペクトル作成部 23…糖ペプチド検出部 24…定量解析部 25…構造解析部 3…分析制御部 4…主制御部 5…操作部 6…表示部

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