ステンレス鋼材

申请号 JP2016552127 申请日 2015-09-30 公开(公告)号 JPWO2016052639A1 公开(公告)日 2017-06-15
申请人 新日鐵住金株式会社; 发明人 上仲 秀哉; 秀哉 上仲; 山本 晋也; 晋也 山本; 浩史 神尾; 浩史 神尾; 孝一 武内; 孝一 武内;
摘要 C:0.05%未満、Si:4.0〜7.0%、Mn:1.50%以下、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:10.0〜20.0%、Ni:11.0〜17.0%、Cu:0.15〜1.5%、Mo:0.15〜1.5%、Nb:0.5〜1.2%、Sol.Al:0〜0.10%、Mg:0〜0.01%、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、MgO・Al2O3系介在物の面積率が0.02%以下であるステンレス鋼材である。このステンレス鋼材は、例えば、93〜99%程度の高温高濃度の 硫酸 に対して優れた耐食性を有するとともに経済的である。
权利要求

質量%で、 C:0.05%未満、 Si:4.0〜7.0%、 Mn:1.50%以下、 P:0.030%以下、 S:0.030%以下、 Cr:10.0〜20.0%、 Ni:11.0〜17.0%、 Cu:0.15〜1.5%、 Mo:0.15〜1.5%、 Nb:0.5〜1.2%、 Sol.Al:0〜0.10%、 Mg:0〜0.01%、 残部Feおよび不純物である化学組成を有し、 MgO・Al2O3系介在物の面積率が0.02%以下である、ステンレス鋼材。前記MgO・Al2O3系介在物の平均粒径が5.0μm以下である、 請求項1に記載のステンレス鋼材。

说明书全文

本発明は、ステンレス鋼材に関する。

硫酸は、農作物の肥料の原料、鉱石からの銅分の抽出用原料、合成繊維・製紙・建材の原料など、幅広い用途に使われる、有用な基礎化学品である。硫酸の製造方法は、大別して2つある。1つは、石油精製の過程で回収される硫黄をに反応させて燃焼し、製造する方法である。もう1つは、非鉄製錬などから排出される亜硫酸ガスを水と反応させて製造する方法である。世界の生産に占める割合は、前者の方法が約3分の2であり、後者の方法が約3分の1である。

市販の精製希硫酸は、硫酸分(H2SO4)が27〜50%の範囲内にあり、また、精製濃硫酸は、硫酸分(H2SO4)が90〜100%の範囲内であり、標準品としては、精製希硫酸が34%であり、精製濃硫酸が95%および98%である(硫酸協会規格 硫酸−2010 品質)。前述の希硫酸は、93〜99%程度の高温高濃度硫酸を原料として調整されたものである。

製造工程で得られる硫酸の濃度は、93〜99%程度の高温高濃度硫酸であり、この硫酸の製造時に使用される機器には、珪素鋳鉄、レンガライニングなどが適用されてきた。しかし、珪素鋳鉄、レンガライニングなどは脆いため、取り扱い易い材料とは言えなかった。

硫酸露点腐食のように、多くの腐食事例がある環境へのステンレス鋼の適用は進んでいるが、上述のような高温高濃度の硫酸に対してステンレス鋼を適用する試みは少ない。以下、現在適用が始まっている従来技術を説明する。

特許文献1には、硫酸を濃縮し、精製するための装置に、珪素、コバルトおよびタングステンを含有するオーステナイト/フェライト系の鉄合金、ならびに、珪素、希土類、マグネシウムおよびアルミニウムを含有するオーステナイト系の鉄合金を適用することが記載されている。

特許文献2には、耐食性オーステナイト系ステンレス鋼が開示されている。特許文献2では、このオーステナイト系ステンレス鋼(14Cr−16Ni−6Si−1.0Cu−1.1Mo)は、化学組成中のNi含有量を減らすことにより、経済性に優れた耐高温高濃度硫酸鋼を提供できるとされている。

特許文献3には、所定の化学組成を有し、かつJIS G 0555(2003)付属書1「点算法による非金属介在物の顕微鏡試験方法」に記載の方法で測定したB1系介在物の合計量が0.03面積%以下であるオーステナイト系ステンレス鋼が開示されている。

これら以外の耐高温高濃度硫酸鋼として、UNS S32615鋼(17Cr−19Ni−5.4Si−2.1Cu−0.4Mo)や、UNS S30601鋼(17.5Cr−17.5Ni−5.3Si−0.2Cu)などが知られている。

特開平11−314906号公報

特開2007−284799号公報

国際公開第2013/018629号

コバルトおよびタングステンは高価かつ希少な元素であり、特許文献1の鉄合金には経済性の観点で問題がある。また、希土類、マグネシウムおよびアルミニウムを含有するオーステナイト系の鉄合金は、製鋼過程で希土類、マグネシウムおよびアルミニウムが脱酸剤的作用を奏するために製造が困難である。さらに、環境によっては、使用に先立って95〜100%硝酸による表面不働態化処理を行う必要がある。

特許文献2により開示されたオーステナイト系ステンレス鋼は、高価なMoを多量に含有しており、低Ni化による経済性向上効果が減殺される。

特許文献3の発明は、耐食性の悪化の原因であるAl2O3などの酸化物系のB1系介在物を制御するものである。しかし、B1系介在物の種類については具体的に示されていない。

UNS S32615鋼(17Cr−19Ni−5.4Si−2.1Cu−0.4Mo)は、Ni含有量が多いため、コストが高い。加えて、SiおよびCuの含有量が多いため、熱間加工における脆化の問題があり、製造プロセスが制約される。例えば、圧延前加熱温度の上限が制約されることから多ヒートの圧延が必要になる等などである。その結果、製造コストが上昇する。また、製品を使ってプラントを組み立てる際には、溶接時の割れ感受性が高い等の施工上の問題もある。

UNS S30601鋼(17.5Cr−17.5Ni−5.3Si−0.2Cu)は、耐高温高濃度硫酸性を担う元素がSiに限定されており、93%の濃硫酸環境における耐食性が、UNS S32615鋼等と比較して悪い。

以上のように、硫酸露点腐食のように、多くの腐食事例がある環境へのステンレス鋼の適用は進んではいるものの、高温高濃度の硫酸に対してステンレス鋼を適用する試みはこれまで少なかった。

本発明の目的は、例えば、93〜99%程度の高温高濃度の硫酸に対して優れた耐食性を有するとともに経済的であるステンレス鋼材を提供することにある。

本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、下記の知見(A)〜(D)を得て、本発明を完成した。

(A)NiおよびMoの含有量を少なくしてコスト低減を図るため、Ni含有量の上限は17%(以下、化学成分に関する「%」は特に断りがない限り「質量%」を意味する)とし、Mo含有量の上限は1.5%、望ましくは1.0%とする。

(B)Nbの微量添加は、高Si含有ステンレス鋼材の課題である、溶接時の割れ感受性を改善できるとともに、溶接部の耐食性の劣化も改善できる。

(C)高Si含有ステンレス鋼材の、93〜98%硫酸環境における腐食起点は、MgO・Al2O3系介在物であることが判明した。一般的に、Al2O3系介在物とMgO・Al2O3系介在物はB1介在物として同列に扱われている(特許文献3参照)。しかし、MgO−Al2O3系介在物は、MgOが高濃度硫酸に溶解するために、表面の露出面積が大きくなる。その結果、Al2O3系介在物に比較して耐食性がさらに劣化する。このため、MgO−Al2O3系介在物の析出量を適切に制御することが重要となる。すなわち、MgO・Al2O3系介在物の露出量を減らし、連なった状態で介在物を析出させないこと、すなわち、介在物の析出物を小さく、かつ分散させることによって、耐高温高濃度硫酸性を高めることができる。

(D)上記(A)および(B)に示す化学組成の適正化と、上記(C)に示すMgO・Al2O3系介在物の析出物の分散度(露出量)の適正化(または更に析出物の大きさの適正化)とを組み合わせることにより、従来のステンレス鋼材よりも、耐高温高濃度硫酸性を顕著に高めることができる。

本発明は、以下に列記の通りである。 (1)質量%で、 C:0.05%未満、 Si:4.0〜7.0%、 Mn:1.50%以下、 P:0.030%以下、 S:0.030%以下、 Cr:10.0〜20.0%、 Ni:11.0〜17.0%、 Cu:0.15〜1.5%、 Mo:0.15〜1.5%、 Nb:0.5〜1.2%、 Sol.Al:0〜0.10%、 Mg:0〜0.01%、 残部Feおよび不純物である化学組成を有し、 MgO・Al2O3系介在物の面積率が0.02%以下である、ステンレス鋼材。

(2)前記MgO・Al2O3系介在物の平均粒径が5.0μm以下である、 上記(1)に記載の、ステンレス鋼材。

本発明における「面積率」および「平均粒径」は、以下のようにして求めることができる。 1)対象となる鋼材について、表面が観察面になるよう20mm×10mmの面積を埋め込み、試験片を作製する(腐食は接液する表面から進行するため、板表面の観察とする。)。 2)前記試験片を、エメリー研磨紙を用いて表面研磨して、♯1200での仕上げ研磨を行う。3)仕上げ研磨を行った試験片をEPMAでAl、MgおよびOのマッピング分析を行う。 4)得られたマッピング像において、Al、MgおよびOが同時に検出される箇所に存在する介在物がMgO・Al2O3系介在物であるものとする。 5) 面積率は、採取した試験体の断面0.5mm2を100倍の倍率で観察したマッピング視野に画像処理解析を施し、二値化後画像処理解析システムにて算出した介在物の面積率である。なお観察視野数は30視野以上とする。 6)「平均粒径」は、二値化後の画像処理解析によって求めた介在物の円相当径を平均粒径とする。

本発明により、耐濃厚硫酸性に優れるステンレス鋼材が得られる。このステンレス鋼材は、例えば93〜99%程度の高温高濃度の硫酸に対して優れた耐食性を有するとともに経済的である。よって、このステンレス鋼材は、例えば、高温高濃度硫酸を製造する機器、または、これらを基礎原料として得られる化学薬品、肥料、繊維などを製造するプラント設備を構成するのに好適である。

図1は、98%−55℃硫酸に96時間浸漬した本発明に係る鋼材(実施例における本発明例1)の腐食発生部位の表面SEM像である。

図2は、98%−55℃硫酸に96時間浸漬した本発明に係る鋼材(本発明例1)のEPMA元素マッピング図である。左上が二次電子像(SL)、右上が反射電子像(CP)、左下がFe、右下がCrである。

図3は、98%−55℃硫酸に96時間浸漬した本発明に係る鋼材(本発明例1)のEPMA元素マッピング図である。左上がNi、右上がNb、左下がAl、右下がSiである。

図4は、98%−55℃硫酸に96時間浸漬した本発明に係る鋼材(本発明例1)のEPMA元素マッピング図である。左上がCa、右上がMg、左下がOである。

図5は、腐食試験片を示す説明図である。

以下に、本発明の原理(発明完成の基礎的知見)、化学成分、MgO・Al2O3系介在物、製造法を順次説明する。

1.本発明の原理 本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意検討を重ね、下記の知見(A)〜(D)を得た。90%を超える高濃度硫酸で生じる腐食は、希硫酸で生じる腐食とは発生メカニズムが全く異なる。得られた知見は以下である。

(A)高濃度硫酸における定常反応は、ステンレス鋼を構成する金属元素種をMとすると、下記I式およびII式により示される。

(皮膜生成):mM+nH2SO4→MmOn+nSO2+nH2O ・・・(I) (皮膜溶解):MmOn+nH2SO4→Mm(SO4)n+nH2O ・・(II) I式の反応により生じるMmOnが高濃度硫酸中で安定であれば、耐食性が良好であると推測される。

90%を超える硫酸濃度の硫酸は、強い酸化を有するため、ステンレス鋼では過不働態腐食が発生することがある。すなわち、一般的にステンレス鋼の耐食性を担保するCrの不働態皮膜は、高濃度硫酸においては溶解してしまう(II式の反応が進行)。

(B)Feは、硫酸鉄として皮膜を形成して材料を保護する作用を有する(すなわち、炭素鋼は流速を持たない高濃度硫酸環境で耐食的である)が、流速を有する濃硫酸環境ではFeSO4皮膜が溶出して十分な保護機能を有さない。

Siは、強い酸化力を有する濃硫酸環境ではSi−O酸化膜として表面を保護する機能を有し、90%を超える硫酸環境では耐食性を向上させる機能を有する。しかしながら、Siは、ステンレス鋼の熱間加工性を低下させたり、鋭敏化を起こし易くする元素である。

(C)Siを添加することによって鋭敏化し易くなるが、微量のNbの添加により、鋭敏化を抑制する効果が認められる。Nbを微量添加することにより微細なNbCの析出が認められる。NbがCを固定することにより鋭敏化の原因となるCr欠乏層の生成を抑制できる可能性がある。なお、NbCそのものは耐高濃度硫酸性を有する。

(D)Siを添加して耐高濃度硫酸性を高めた材料であっても、ピット状の腐食が発生する。このピット状の腐食部位からは、Mg,Al,Oが必ず検出される。すなわち、鋼中に存在するMgO・Al2O3系介在物が腐食の起点となる。耐高濃度硫酸性を高めるためには、このMgO・Al2O3系介在物の存在形態、量などを制御することが有効である。

2.化学組成 [C:0.05%未満] Cは、固溶強化元素であって強度向上に寄与する。しかし、Cを過剰に含有すると、製造過程で炭化物が生成して、加工性や耐食性が劣化するおそれがある。このため、C含有量は0.05%未満とする。上記の効果を得るためには0.01%以上含有させることが好ましい。

[Si:4.0〜7.0%] 上述のI式の反応により生成するSi酸化物皮膜が高濃度硫酸に不溶性であることから、Siは、耐食性を担保する元素である。この効果を得るためにSi含有量は4.0%以上とする。十分な効果を得るには4.5%以上であることが好ましい。一方、Siは、熱間加工性を劣化させたり、鋭敏化を発生し易くする。このため、Si含有量の上限は、7.0%であり、望ましい上限は6.0%である。

[Mn:1.50%以下] Mnは、オーステナイト化を促進する元素であり、Niの代替元素としてコスト低減に寄与する。しかし、Mn含有量が、1.50%を超えると、高濃度硫酸耐性が低下する。そこで、Mn含有量は1.50%以下とする。Mnの好ましい下限は、0.10%である。ステンレスの原料として活用されるスクラップにはMnが含まれている。その含有量を0.10%未満とするには、スクラップ量が制限され、低Mn含有原料の使用が必要になるなど、逆にコストをアップすることがある。

[P:0.030%以下、S:0.030%以下] PおよびSは、いずれも、耐食性および溶接性に有害な元素であり、特にSは熱間加工性にも有害な元素であるため、いずれの含有量も低いほど好ましい。PおよびSは、いずれも、その含有量が0.030%を超えるとその有害性が顕著になる。このため、PおよびS含有量は、いずれも0.030%以下とする。

[Cr:10.0〜20.0%] Crは、ステンレス鋼の耐食性を確保するための基本元素であり、硫酸濃度が低下した際の耐食性を担保する。Cr含有量が10.0%未満では十分な耐食性を確保できない。そこで、Cr含有量は、10.0%以上とする。好ましくは14.0%以上である。一方、Cr含有量が過剰になると、Si等との共存によりフェライトが析出した二相組織となって加工性や耐衝撃性などの低下を招くことから、Cr含有量の上限は20.0%とする。

[Ni:11.0〜17.0%] Niは、オーステナイト相の安定化元素である。Ni含有量が11.0%未満では、オーステナイト単相になるには不十分である。このため、Ni含有量は、11.0%以上とする。好ましくは13.0%以上とする。一方、Niを過剰に含有すると経済性を損ねるため、Ni含有量の上限は17.0%とする。Ni含有量の上限は、好ましくは15.5%である。

[Cu:0.15〜1.5%] Cuは、オーステナイト化を促進する元素であるとともに、希硫酸環境では活性溶解電流密度を下げ、耐食性を向上させる元素である。高濃度硫酸環境に供する材料であっても、常に硫酸濃度が一定であることはなく、90%以下となり酸化力が低下する状況下にあることも想定される。このような環境に至った際の耐食性を確保するためにCuを含有することが有効である。この効果を得るために、Cu含有量は、0.15%以上とし、0.3%以上とすることが好ましい。一方、Cuは、過剰に含有すると、熱間製造過程において粒界に偏析して熱間加工性を顕著に劣化させ、製造を困難にする。このため、Cu含有量の上限は、1.5%とし、望ましくは1.0%である。

[Mo:0.15〜1.5%] Moは、Cuとの相乗効果で積層欠陥エネルギーを上昇させてオーステナイト母相中の歪みの蓄積を抑制する元素である。したがって、過度な加工硬化を抑制して成形性を向上するために、Mo含有量を0.15%以上とする。また、Moは、Cuと同様に、希硫酸環境では活性溶解電流密度を下げて耐食性を向上させる元素である。高濃度硫酸環境に供する材料であっても、常に硫酸濃度が一定であることはなく90%以下となり酸化力が低下する状況下にあることも想定される。このような環境に至った際の耐食性を確保するためにMoを含有することは有効である。この効果を得るために、Mo含有量は、0.15%以上とし、0.3%以上とすることが好ましい。一方で、Moは、高価な元素であり多量に含有すると経済性を低下させる。このため、Moの含有量の上限は、1.5%とし、1.0%であることが望ましい。

[Nb:0.5〜1.2%] Nbは、炭化物、窒化物を生成し、ピン留め効果により結晶粒の粒成長を抑制して結晶粒を微細化し、成形性を改善する効果を有する。また、適切な含有量の範囲において、CまたはNを固定してCr欠乏層の生成原因となるCr炭窒化物の生成を抑え、母材および溶接熱影響部における鋭敏化を抑制する。また、本発明の化学成分系では、溶接割れ感受性を低下する効果が認められる。このような効果を得るためにNbを0.5%以上含有する。しかし、Nbを過剰に含有すると、G相と呼ばれる異相が析出して腐食の起点となる可能性があるため、Nbの含有量の上限は、1.2%とし、1.0%とすることが好ましい。

[Sol.Al:0〜0.10%] 酸可溶Al(所謂「Sol.Al」)は、MgO・Al2O3系介在物を構成する元素であるため、その含有量は低いことが好ましい。このため、Sol.Alは、0.10%とする。Sol.Alは限りなく少なくするのが好ましく、下限は特に定めない。

[Mg:0〜0.010%] Mgも、MgO・Al2O3系介在物を構成する元素であるため、その含有量は低いことが好ましい。このため、Mgは、0.010%とする。なお、Mgは、耐火煉瓦由来の成分であるため、0.001%未満に制限することは製造コストを上昇させるので、その含有量は、0.001%以上とすることが好ましい。

上記以外の残部はFeおよび不純物である。ステンレス鋼の製造では、リサイクル推進の観点から、スクラップ原料を使用することが多い。このため、ステンレス鋼には、種々の不純物元素が不可避的に混入する。このため、不純物元素の含有量を一義的に定めることは困難である。したがって、本発明における不純物とは、本発明の作用効果を阻害しない量で含有される元素を意味する。

3.MgO・Al2O3系介在物 (3−1)面積率:0.02%以下 本発明では、MgO・Al2O3系介在物の面積率を規定する。

図1は、98%−55℃硫酸に96時間浸漬した本発明に係る鋼材(後述する実施例における本発明例1)の腐食発生部位の表面SEM像である。

本発明に係る鋼材は、図1に示すように、浸漬後であっても表面研磨傷が残存することからも理解されるようにマトリックスの大部分は耐食的であるものの、ピット状の孔食痕が散在している。このピット状痕跡部を、SEM−EPMAのマッピング分析した。

図2は、図2は、98%−55℃硫酸に96時間浸漬した本発明に係る鋼材(上述の本発明例1)のEPMA元素マッピング図である。

図2に示すように、Mg、AlおよびOが高い強度を有することから、ピット状痕跡部は、MgO・Al2O3系介在物であることがわかる。

本発明者らは、MgO・Al2O3系介在物が腐食の起点になることから、MgO・Al2O3系介在物の面積率と腐食速度との関係を調査した。

下記の方法によって算出したMgO・Al2O3系介在物の面積率が0.02%以下であると優れた高濃度硫酸耐性を有することが判明した。

つまり、MgO・Al2O3系介在物の面積率を0.02%以下にすることによって、腐食発生起点を減らすことが可能になり、これにより、93%以上の硫酸濃度において0.125(mm/年)以下の腐食速度が実現される。

なお、MgO・Al2O3系介在物は、高濃度硫酸溶液中で溶解し、本発明に係る鋼材のマトリックス部分が露出すれば腐食の進行が止まる。MgO・Al2O3系介在物の面積率は、0.015%以下とすることが好ましい。MgO・Al2O3系介在物の面積率の下限は特に定めないが、コストの観点から0.010%とするのがよい。

(3−2)平均粒径:5.0μm以下 優れた耐食性を得るために、MgO・Al2O3系介在物の形状は、平均粒径が5.0μm以下であることが望ましい。

平均粒径が5.0μm以下の場合は、MgO・Al2O3系介在物は、高濃度硫酸溶液中で溶解し母材が露出し、さらに露出した母材の腐食が進行し、母材中に含有されるSiが母材表面に酸化物として濃化するために腐食の進行が停止する。しかし、5.0μmを超える平均粒径のMgO・Al2O3系介在物が存在した場合、板厚にもよるが、ピット状の腐食深さが大きくなり、場合によっては貫通孔が発生する可能性があるため好ましくない。

よって、MgO・Al2O3系介在物の平均粒径が、5.0μm以下であると、優れた高濃度硫酸耐性を維持できるので、好ましい。より好ましい平均粒径は、3.0μm以下である。平均粒径の下限は特に定めないが、1.0μmとするのがよい。

本発明における「面積率」および「平均粒径」は、以下のようにして求めることができる。 1)対象となる鋼材について、表面が観察面になるよう20mm×10mmの面積を埋め込み、試験片を作製する(腐食は接液する表面から進行するため、板表面の観察とする。)。 2)前記試験片を、エメリー研磨紙を用いて表面研磨して、♯1200での仕上げ研磨を行う。3)仕上げ研磨を行った試験片をEPMAでAl、MgおよびOのマッピング分析を行う。 4)得られたマッピング像において、Al、MgおよびOが同時に検出される箇所に存在する介在物がMgO・Al2O3系介在物であるものとする。 5) 面積率は、採取した試験体の断面0.5mm2を100倍の倍率で観察したマッピング視野に画像処理解析を施し、二値化後画像処理解析システムにて算出した介在物の面積率である。なお観察視野数は30視野以上とする。 6)「平均粒径」は、二値化後の画像処理解析によって求めた介在物の円相当径を平均粒径とする。

すなわち、MgO・Al2O3系介在物は、面積率が0.02%以下であると、93%以上の硫酸濃度において0.1(mm/年)以下の腐食速度が実現される。さらに、MgO・Al2O3系介在物の析出物サイズを5.0μm以下と小さくすることによって、さらに腐食速度の抑制させることができる。

4.製造方法 上述した化学成分およびMgO・Al2O3系介在物を満足すれば、本発明に係るステンレス鋼材は、如何なる製造方法によって製造されても構わないが、上述した面積率、さらに好ましくは平均粒径を有するMgO・Al2O3系介在物を得るために好適な製造方法を説明する。

(4−1)製鋼工程 本発明に係る高Si含有ステンレス鋼の製鋼工程において、Al脱酸により取鍋の耐火物であるMgO系レンガが解離され、ここで溶出したMgと、溶存酸素と、脱酸生成物であるAl2O3とが下記(1)式および(2)式に示すように反応してMgO・Al2O3介在物が生成すると考えられる。

3MgO+2Al=3Mg+Al2O3 (1) Mg+Al2O3+O=MgO・Al2O3 (2) MgO・Al2O3の生成を抑制するためには、製鋼工程において、AOD工程(アルゴン・酸素脱ガス工程)において脱酸目的とするAlの投入量を必要最低限に抑え、Alの投入量を抑制する場合には、Fe−Si母合金を用いて還元作用を促進させることが有効である。用いるFe−Si母合金には、低Al含有量のものを使用する。望ましくは、Al含有量が0.5%以下のグレード品を使用する。AOD工程において、ガス吹き込みによる撹拌をおこない、MgO・Al2O3系介在物を凝集させ溶鋼中を浮上させて、滓に取り込ませる。これは、後の除滓によってMgO・Al2O3系介在物を系外に排出するためである。

還元後のスラグにはアルミナが含まれている。このスラグ中のアルミナが以降の工程で還元されて鋼中にAlとして含まれ、上述の(1),(2)式の反応を促進させないために、AOD還元処理後の除滓を徹底することにより、スラグ中のアルミナを系外に排出する。

AOD工程後、VOD法において低炭素化を目的として溶鋼中の炭素をCOガスとして脱炭する。その後、所定のSi含有量に調整するためFe−Si母合金の投入を行う。この際にも、低Al、望ましくはAl含有量が0.5%以下のグレード品を使用する。添加の際には、スラグとの接触を避けるために、シュノーケルを用いて滓切りを実施して直接溶鋼へ投入する。

(連続鋳造工程) この後、連続鋳造装置を用いて連続鋳造を行うが、MgO・Al2O3系介在物の低減のため、精錬後から鋳込み開始までの時間を確保して介在物の浮上促進/分離を図る。また、電磁攪拌による介在物の凝集粗大化等による浮上分離を図る。

以上のように、AOD時の撹拌および連続鋳造時の電磁撹拌の相乗効果によって、上述した範囲のMgO・Al2O3介在物の面積率および平均粒径を有する高濃度硫酸耐食性に優れるステンレス鋼材を製造することができる。

以下に記載の試験を行って、本発明例のステンレス鋼材の高濃度硫酸耐食性を、比較例および従来例のステンレス鋼材の高濃度硫酸耐食性と比較しながら評価した。

(1)化学組成 本発明例1〜14、比較例1〜7、従来例1〜5それぞれの供試材の化学組成を、表1にまとめて示す。

(2)供試材の製造方法 (2−1)実施例1 実施例1として、化学組成の影響を検討した。検討を進めるにあたり、試験炉を使ったラボ溶解を、以下に示す手順で行った。

(i)30kg/chの真空雰囲気高周波誘導溶解炉に17kg/chの原料を投入し、丸型のインゴットケースに鋳込みを行った。

(ii)1180℃×2時間加熱後に熱間鍛造により、50mm厚×120mm幅×L長の鍛造材を作り、その後、機械加工によって45mm厚×120mm幅×150mm長の熱間圧延母材を2片作成した。

(iii)その後,2片の熱間圧延母材を1180℃×90分で加熱して、900℃を下限で再加熱として、1枚を5.5mm厚×120mm幅×L長とし、残り1枚を11mm厚×120mm幅×L長とした。

(iv)5.5mm厚鋼材を1130℃×15分間保持後水冷して固溶体化処理し、11mm厚材を1130℃×30分間保持後水冷して固溶体化処理した。

(v)得られた5.5mm厚鋼材から機械加工によって、図3に示す腐食試験片を採取し、耐食性の調査に供した。11mm厚鋼材は同じく機械加工によって10mm厚×110mm幅×200mmの試験片を2枚採取し、JIS Z 3155に規定されたFISCO試験(C型治具拘束突き合わせ割れ溶接試験)に供した。

(2−2)実施例2 実施例2として、MgO・Al2O3介在物の影響を調査、検討した。

表1における本発明例1の化学組成を有する素材を、電気炉−AOD−VOD−取鍋精錬により200mm厚のスラブとし、所定の大きさの鋳片に切断後、1180℃加熱多ヒート熱間圧延によって6mm厚の熱延板とした。熱間圧延後1130℃×15分間保持後水冷を行った。鋳造時の各種条件を表2に示す。AOD工程におけるガス吹き込みによる攪拌は、150tonの取鍋容積にAr吹き込み量75000Nm3/分で7分間のAr撹拌とした。

その後、表面を酸洗によりスケールを除去した後に、介在物の面積調査、介在物サイズ調査そして腐食試験に供した。

種々の介在物の存在状態をつくりだすために、表2に示すように、脱酸用のAl投入の有無、Al含有量が異なるフェロシリコン2号の使用、精錬→CC操業条件等の変更を行った。

(3)高濃度硫酸耐食性調査 図3に示した腐食試験片を、93%−60℃、95%−60℃および98%−90℃の硫酸に96時間浸漬し、腐食減量から腐食速度を算出した。

(4)溶接時の割れ感受性試験 溶接時の割れ感受性は、JIS Z 3155に規定されたC形ジグ拘束突き合わせ溶接割れ試験方法を行って、評価した。

(4−1)試験片形状 10mm厚×110mm幅×200mmの試験片を各材につき2枚準備した。開先形状はI型とした。試験板のルート間隔gは2mmとした。

(4−2)使用した溶接材料 C:0.019%、Si:4.55%、Mn:1.02%、Ni:14.02%、Cr:17.87%の化学組成を有する直径3.2mmの皮覆アーク溶接棒を用いた。

(4−3)溶接条件 90〜110Aの電流量に制御して溶接施工を実施した。

(5)MgO・Al2O3系介在物のサイズの調査 試作した鋼材について、表面が観察面になるよう20mm×10mmの面積を埋め込み(腐食は接液する表面から進行するため、板表面の観察とした)、その後エメリー研磨紙を用いて表面研磨して、♯1200まで仕上げ研磨を行った。

仕上げ研磨後の被調査材をEPMAでAl、MgおよびOのマッピング分析を行った。

分析機器は、日本電子株式会社製のJXA−8100であり、分析条件は、加速電圧20kV、倍率×100等とした。

得られたマッピング像のAl、MgおよびOが同時に検出される部分はMgO・Al2O3と考えられることから、この検出部をMgO・Al2O3系介在物として面積率を算出した。なお、この面積率は、マッピング視野を二値化後の画像処理解析システムにて算出した介在物の面積率である。本実施例では40視野の平均値を使った。また、「平均粒径」は、二値化後の画像処理解析によって介在物の円相当径(40視野の平均)を求め、この相当径を平均粒径とした。

面積率および平均粒径は、NITRECO社製LUZEX APを用いて算出した。

また、マッピング像からMgO・Al2O3系介在物の平均粒径を見積もった。

(6)試験結果 実施例1についての試験結果を表3にまとめて示す。

表3に示すように、本発明例1〜14のステンレス鋼材は、高濃度硫酸において優れた耐食性を示す。93〜98%の高濃度硫酸溶液における腐食速度が0.125(mm/年)以下である。

表3に示すように、本発明例1〜14は、従来例1〜5に対して同等以上の耐食性を有し、かつ耐溶接割れ性の観点で優れた特性を有する。以下、実施例1,2の結果を説明する。

(6−1)実施例1 介在物による影響を排除するため、ラボ溶解で清浄な供試材を試作し、その耐食性および耐溶接割れ性について評価した。

表3に示すように、本発明例の特長の一つは、従来例1〜5と比較して、溶接割れ感受性が低く、本発明例1〜14全てがフィスコ割れ1%以下である。

本発明例1〜4と、比較例4と対比することにより、Nbの効果が理解される。すなわち、Nbは、炭化物、窒化物を生成し、ピン留め効果により結晶粒の粒成長を抑制して結晶粒を微細化し、成形性を改善する効果を有する。また、適切な含有量の範囲においてCやNを固定してCr欠乏層生成の原因となるCr炭窒化物の生成を抑え、母材および溶接熱影響部における鋭敏化を抑制する。

なお、図2の元素マッピング図において、Nbの濃度が高い部位(Nbと推定される)は腐食起点となっていないため、NbCは高濃度硫酸耐性を劣化させる作用を有さないと考えられる。また、本発明の化学成分系では、溶接割れ感受性を下げる効果が認められる。

本発明例1〜4および比較例4の結果から、Nb含有量が増加するとフィスコ割れ感受性が下がる傾向が認められる。この効果を得るためには、Nb含有量を0.5%以上とする必要があることがわかる。

次に、本発明例5および6と、比較例2とを対比することにより、Siの効果が理解される。すなわち、Si酸化物皮膜が、高濃度硫酸に不溶性で耐食性を担保する元素である。Si含有量が4.0%未満である比較例2は、93%硫酸環境における耐食性が不芳である。これに対し、Si含有量が4.0%以上である本発明例5および6では、93%硫酸環境においても0.1(mm/年)以下の腐食速度であり、耐食的である。

次に、本発明例7と、比較例1とを対比することにより、Crの効果が理解される。Crは、ステンレス鋼の表面において不働態皮膜となり耐食性を担う元素であるが、強い酸化作用を有する高濃度硫酸では、過不働態溶解を起こす。この現象から耐食性の向上にあまり寄与しないとも考えられるが、本発明例7および比較例1から、98%ほど酸化力が強くない93%硫酸においては、Crが耐食性を向上させる効果を有することが分かる。

次に、本発明例8と、比較例3とを対比することにより、Niの効果が理解される。すなわち、Niは、耐食性を得るためには有用な元素ではあるが、比較例3のフィスコ割れが1%超であることから、Niを多量に含有すると溶接割れ感受性が低下することが分かる。

次に、本発明例9〜11と比較例5とを対比することにより、Cuの効果が理解される。すなわち、Cuは、98%硫酸ほど酸化力が強くない93%硫酸においては、耐食性を向上させる効果を有する。しかし、Cuは熱間加工性を低下させる問題がある。また、比較例5のフィスコ割れが1%超であることから、Cuを多量に含有すると、溶接割れ感受性を低下させることが分かる。

次に、本発明例12〜14と、比較例6とを対比することにより、Moは、98%硫酸ほど酸化力が強くない93%硫酸においては、耐食性を向上させる効果が確認される。しかし、比較例6のフィスコ割れが1%超であることから、Moを多量に含有すると、溶接割れ感受性を低下させることが分かる。

以上説明した実施例1の結果から、本発明の化学組成を満足することにより、93〜98%の高濃度硫酸溶液における腐食速度は0.1(mm/年)以下になるとともにフィスコ割れが1%以下になることが確認された。

これに対し、従来例1〜5では、耐食性および溶接割れ感受性を両立できないことが分かる。

(6−2)実施例2 実施例1では、ラボ溶解材を用いてMgO・Al2O3系介在物の面積率およびサイズが小さい場合について実験検証した。これに対し、実施例2では、実機製造した場合のMgO・Al2O3系介在物の面積率およびサイズの影響について、200mm厚の連続鋳造スラブ鋳込み材を使って調査を行った。多くの組成について調査実施をすることは困難であるため、本発明例1の化学組成の供試材を用いて調査を行った。結果を前掲の表2にまとめて示す。

表2の本発明例A〜Dに示すように、MgO・Al2O3系介在物の面積率が0.02%以下であるとともに、MgO・Al2O3系介在物の平均粒径が5.0μm以下であると、93%〜98%高濃度硫酸に対する腐食速度が0.1(mm/年)以下の腐食速度が実現される。

また、表2の本発明例Eに示すように、MgO・Al2O3系介在物の面積率が0.02%以下であると、93〜98%高濃度硫酸に対する腐食速度は0.125(mm/年)以下の腐食速度が実現される。

以上の結果から、実施例1によって実証された本発明の化学組成を有するステンレス鋼材は、MgO・Al2O3介在物の面積率さらには平均粒径を適切な範囲とすることにより、優れた高濃度硫酸耐食性を得られることが明らかである。

以上のように、本発明に係るステンレス鋼材は、高濃度硫酸において優れた耐食性(93〜98%の高濃度硫酸溶液における腐食速度:0.125(mm/年)以下)を示す。また、本発明に係るステンレス鋼材は、従来のステンレス鋼材に対して、同等以上の耐食性を有し、かつ耐溶接割れ性の観点で優れた特性を有する。

このため、本発明により、高温高濃度硫酸を製造する機器、または、これらを基礎原料として得られる化学薬品、肥料、繊維などを製造するプラント設備を構成する耐濃厚硫酸性に優れるステンレス鋼材を提供することができる。

QQ群二维码
意见反馈