マルエージング鋼の製造方法およびマルエージング鋼の消耗電極の製造方法

申请号 JP2015562968 申请日 2015-07-15 公开(公告)号 JPWO2016010072A1 公开(公告)日 2017-04-27
申请人 日立金属株式会社; 发明人 享彦 上村; 享彦 上村; 雄一 羽田野; 雄一 羽田野; 健太 今関; 健太 今関; 勝彦 大石; 勝彦 大石;
摘要 本発明は、一次 真空 溶解において、溶鋼にMgを添加して、溶鋼中にMgOを形成させるMg 酸化 物形成工程と、該Mg酸化物形成工程の後に、溶鋼を 凝固 させてMgOが残留する消耗電極を得る消耗電極製造工程と、この消耗電極を用いて真空アーク再溶解を行う真空アーク再溶解工程とを含むマルエージング鋼の製造方法において、一次真空溶解のリーク速度を3Pa/分以上とするマルエージング鋼の製造方法を提供する。
权利要求
  • 一次真空溶解において、溶鋼にMgを添加して、溶鋼中にMgOを形成させるMg酸化物形成工程と、
    該Mg酸化物形成工程の後に、溶鋼を凝固させてMgOが残留する消耗電極を得る消耗電極製造工程と、
    前記消耗電極を用いて真空アーク再溶解を行う真空アーク再溶解工程と、
    を含むマルエージング鋼の製造方法において、
    前記Mg酸化物形成工程において、Mg酸化物形成工程に用いる真空溶解炉のリーク速度を3Pa/分以上、かつ20Pa/分以下とするマルエージング鋼の製造方法。
  • 前記真空アーク再溶解工程で得られる鋼塊の直径がφ450mm以上である請求項1に記載のマルエージング鋼の製造方法。
  • 前記真空アーク再溶解工程後のマルエージング鋼の組成が、質量%で、C:0.1%以下、Al:0.01〜1.7%、Ti:0.2〜3.0%、Ni:8〜22%、Co:5〜20%、Mo:2〜9%、Mg:0.0030%以下を含有し、残部はFe及び不純物である請求項1または2に記載のマルエージング鋼の製造方法。
  • 真空溶解によるマルエージング鋼の消耗電極の製造方法において、
    溶鋼にMgを添加して、溶鋼中にMgOを形成させるMg酸化物形成工程と、
    該Mg酸化物形成工程の後に、溶鋼を凝固させてMgOが残留する消耗電極を得る消耗電極製造工程とを含み、
    前記Mg酸化物形成工程において、Mg酸化物形成工程に用いる真空溶解炉のリーク速度を3Pa/分以上、かつ20Pa/分以下とするマルエージング鋼の消耗電極の製造方法。
  • 说明书全文

    本発明は、マルエージング鋼の製造方法およびマルエージング鋼の消耗電極の製造方法に関するものである。

    マルエージング鋼は、2000MPa前後の非常に高い引張強さをもつため、高強度が要求される部材、例えば、ロケット用部品、遠心分離機部品、航空機部品、自動車エンジンの無段変速機用部品、金型、等種々の用途に使用されている。
    このマルエージング鋼は、通常、強化元素として、Mo、Tiを適量含んでおり、時効処理を行うことによって、Ni Mo、Ni Ti、Fe Mo等の金属間化合物を析出させて高強度を得ることのできる鋼である。 このMoやTiを含んだマルエージング鋼の代表的な組成としては、質量%でFe−18%Ni−8%Co−5%Mo−0.45%Ti−0.1%Alが挙げられる。

    しかし、マルエージング鋼は、非常に高い引張強度が得られる一方で、TiNやTiCN等といった窒化物や炭窒化物、あるいはAl やAl −MgOといった酸化物の非金属介在物(以下、介在物)が鋼中に存在し、残留する粗大な介在物を起点として疲労破壊を生じることになる。
    そのため、TiNやTiCNに対してはこれらを微細化して、疲労強度を高める提案がなされており、本出願人も例えば、特開2004−256909号公報(特許文献1)や国際公開2005/035798号(特許文献2)として、Mgを添加した消耗電極を真空アーク再溶解(以下、VAR)にて再溶解を行ってTiNやTiCN等の窒化物系介在物を微細化する方法を提案している。

    特開2004−256909号公報

    国際公開2005/035798号

    上述した特許文献1や特許文献2で示すTiNやTiCN介在物の微細化方法は、一次真空溶解で適量のMgを積極的に添加し、消耗電極中にMgOを形成しておき、MgOを核とするTiNやTiCN等の窒化物系介在物を形成した消耗電極を作製し、その後のVARにて窒化物系介在物の熱分解の促進により、TiNやTiCN等の窒化物系介在物の微細化をはかるものである。
    この特許文献1や特許文献2で示すマルエージング鋼の製造方法は、MgOを核とするTiNやTiCNを有する消耗電極の製造と、その後のVARとの組合わせにより窒化物系介在物の微細化を行うものであり、敢えて有害な酸化物系介在物を一旦形成させて、その酸化物系介在物を利用して窒化物系介在物の微細化をはかるという技術思想に基づくものであり、新規で独創的な方法である。 この方法で得られたマルエージング鋼の窒化物系介在物のサイズは飛躍的に微細化することができた。

    しかしながら、前述のMgを添加する方法においても、MgOの核を持たない窒化物系介在物がある程度の割合で存在する場合があり、そのMgOの核を持たない窒化物系介在物は再溶解後のサイズが、MgOの核を有するものと比較して大きく成長することが分かった。 そのため、できる限り一次真空溶解で窒化物系介在物内にMgOの核を存在させる方法があれば安定して窒化物系介在物を微細化することができる。
    一方で、鋼塊重量が1トン以下の場合、再溶解工程以降における酸化物の影響を無視しえない場合がある。 酸化物はVAR工程における溶鋼プール中で浮上分離して除去されるが、鋼塊サイズが小さいと溶鋼プールの凝固速度が大きいため、酸化物の浮上分離効果が弱くなる。 また、VARによって得られた鋼塊は熱間加工・冷間加工によって酸化物の破砕が発生するが、加工代が小さくなる分、この効果も弱くなる。
    本発明の目的は、TiNやTiCN等の窒化物系介在物の大きさをより確実に微細化するために、一次溶解で確実にMgOの核を形成させ、かつ酸化物の影響を抑制することが可能なマルエージング鋼の製造方法を提供するものである。

    本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものである。
    本発明の一観点によれば、一次真空溶解において、溶鋼にMgを添加して、溶鋼中にMgOを形成させるMg酸化物形成工程と、該Mg酸化物形成工程の後に、溶鋼を凝固させてMgOが残留する消耗電極を得る消耗電極製造工程と、この消耗電極を用いて真空アーク再溶解を行う真空アーク再溶解工程とを含むマルエージング鋼の製造方法において、Mg酸化物形成工程においてMg酸化物形成工程に用いる真空溶解炉のリーク速度を3Pa/分以上、かつ20Pa/分以下とするマルエージング鋼の製造方法が提供される。
    本発明の一具体例によれば、真空アーク再溶解工程で得られる鋼塊の直径がφ450mm以上である。
    本発明の一具体例によれば、真空アーク再溶解工程後のマルエージング鋼の組成が、質量%で、C:0.1%以下、Al:0.01〜1.7%、Ti:0.2〜3.0%、Ni:8〜22%、Co:5〜20%、Mo:2〜9%、Mg:0.0030%以下を含有し、残部はFe及び不純物である。
    本発明の他の観点によれば、真空溶解によるマルエージング鋼の消耗電極の製造方法において、溶鋼にMgを添加して、溶鋼中にMgOを形成させるMg酸化物形成工程と、該Mg酸化物形成工程の後に、溶鋼を凝固させてMgOが残留する消耗電極を得る消耗電極製造工程とを含み、Mg酸化物形成工程において、Mg酸化物形成工程に用いる真空溶解炉のリーク速度を3Pa/分以上、かつ20Pa/分以下とするマルエージング鋼の消耗電極の製造方法が提供される。

    本発明によれば、TiNやTiCN等の窒化物系介在物の大きさをより確実に、かつ安定的に微細なものとすることができ、かつ酸化物の影響を抑制することができる。 そのため、本発明の製造方法で得られたマルエージング鋼は特に疲労強度に優れるものとなるため、疲労強度が求められる重要部品に好適となる。

    以下の非限定的な具体例の説明および添付の図面を参照することにより、本発明の他の利点、特徴及び詳細が明らかになるであろう。

    MgOを核にもつ窒化物系介在物の断面電子顕微鏡写真である。

    先ず、本発明のマルエージング鋼を得るには、VARに用いる消耗電極中に特定量のMgを添加することが必要である。 消耗電極製造時にMgを積極的に添加すると、溶解中に存在する酸素は、親和の高いMgと結びついてMgOを生成し、このMgOを核として持つTi系介在物が消耗電極中に形成される。 このMgOの凝集性は弱く、微細に分散するため、MgOを核に持つ窒化物系介在物も微細に分散することになる。
    上述したように、この一次真空溶解時の問題として、MgOの核を保有しない窒化物系介在物の存在がある。 Mgを添加する本発明のMg酸化物形成工程では、酸素あるいは酸化物の量が少なければ窒化物系介在物は核を保有しない確率が高まると考えられる。
    窒化物系介在物は核を保有しないと粗大し易くなり、一次真空溶解後に粗大となった窒化物系介在物は、再溶解時に更に成長してしまうことになる。 なお、核を保有しない窒化物系介在物が最も溶融しにくい理由は、核を保有した窒化物系介在物は核の分解反応と関係して溶融し易くなると推定されるためである。 この理由は明確でないが、1つの推論は、後に行うVAR中にMgOは溶鋼表面からのMg蒸発に影響されて、MgO→Mg+Oの分解反応が起きうるとするものである。 もう1つの推論は、TiNがMgO核を保有することにより格子不整合が生じ、TiNそのものの融点が変化しているとするものである。 いずれにしても、この核介在物の分解反応が真空アーク再溶解における窒化物系介在物の溶融を促進させると考えた場合、核を保有しない窒化物系介在物は溶融に対して最も不利となる。 これが核を保有しない窒化物系介在物が、真空溶解・真空アーク再溶解のプロセスにおいて最も成長し易い理由であると言える。

    上述のことから、一次真空溶解時にはMgOを確実に形成できるように、Mg酸化物形成に用いる真空溶解炉のリーク速度を3〜20Pa/分以上としてMgOを形成可能な酸素量とする。
    具体的には、真空溶解において最も重要な制御パラメータである溶解チャンバーのリーク速度を調整する。 溶解チャンバーはその内部が真空となるように製造されている。 しかし、前述のようにMgOを確実に形成させる目的で真空溶解炉をリークさせて大気を混入させる。 この大気の混入量をリーク速度として計測するが、リーク速度は100Pa以下まで排気した後、排気に係る弁を閉じ、3分間〜10分間での圧力の上昇量から求めることが好ましい。 これは、リーク速度計測時の圧力が高いと、リーク速度計測値の誤差が大きくなるためである。 また、リーク速度は溶解チャンバー内に存在する分の影響を受けやすく、特に未使用の耐火物は多く水分を含み、耐火物の使用回数はリーク速度に大きく影響する。 従って、リーク速度の計測は、耐火物の使用回数が2回以上となる溶解炉体、あるいは溶解炉体を外した状態で計測されることが好ましい。 このリーク速度が大きいことは、溶鋼と大気との接触が多いことと同義である。 リーク速度と酸化物系介在物の量は関係していることから、真空の要素が余りに良すぎると窒化物系介在物の微細化に必要な酸化物の量を確保できなくなり、窒化物系介在物は粗大化することとなる。

    本発明において、真空溶解炉内のリーク速度を3Pa/分以上とするのは、MgO形成に必要な酸素量を確保するためである。 一般的に鉄鋼の真空溶解炉の到達圧力は0.1Pa〜100Paの範囲であり、リーク速度が数Pa/分であると、わずかな排気停止時間においても顕著な真空度悪化となるため、真空設備としてのリーク速度は≦1Pa/分が好ましい。 従って、リーク速度が3Pa/分という値は真空溶解炉としてはかなり大きい値であるが、真空溶解炉内のリーク速度を3Pa/分未満ではMgOの形成が不十分となり、MgOの核を持たない窒化物系介在物量が増えてしまい、結果として粗大な窒化物系介在物が再溶解後に残留することになる。 一方、過剰なリークが有る場合、過剰な酸化物が消耗電極中に形成され、VAR工程以降も酸化物残存の問題を生じる。 あるいは、過剰な酸素によってVIM中に添加したMgが過剰に消費され、消耗電極中の酸化物形態がMgOからAl あるいはAl −MgOへと変化し、TiNの核酸化物の種類が変わる場合がある。 あるいは、過剰な窒素によって窒化物系介在物の量が増大し、MgOの核を持たない窒化物系介在物量が増えてしまい、結果として粗大な窒化物系介在物が再溶解後に残留することになる。 そのため、リーク速度の上限は20Pa/分とする。

    なお、リーク速度の低下は、一般的にはバルブやフランジ、パッキンの清掃や交換といったメンテナンスによってなされる。 リーク速度を増加させる場合は、空いているフランジ等に適当なリーク孔を設けることによって可能である。
    なお、Mg添加後には、真空溶解炉内はArガス等の不活性ガスで復圧されていることが望ましい。 例えば、Mg添加後の雰囲気の圧力を1kPa〜60kPaとしておけば良い。 Mgは添加後、速やかに溶鋼表面から蒸発しようとするが、真空溶解炉内の圧力が低いと、Mgは溶鋼表面からのみならず、気泡となってボイルしながら、溶鋼内部からも蒸発する。 このボイル現象が発生すると、溶鋼の表面積が拡大して、Mgの蒸発速度が著しく速くなる。 したがって、ボイル現象が発生しない3kPa以上真空溶解炉内は復圧されていることが望ましい。
    上記の条件で一次真空溶解を行って得られた電極の酸素量を3〜15ppmとなるのが好ましい。 電極の酸素量が3ppm未満であると、酸化物の生成が不十分であるおそれがあり、15ppmを超えると酸化物系介在物が大きく成長するおそれがある。

    本発明では前述のMg酸化物形成工程でMgOを生成させた溶鋼を鋳造して消耗電極とする消耗電極製造工程を行って、更に前記消耗電極を用いてVARを行う。
    前述の本発明の消耗電極に対してVARを適用すると、高温領で揮発性元素であるMgの蒸発が起こり、MgOをはじめとする酸化物系介在物が分解され、酸素の気相および液相への拡散が起こる。 つまり、MgOの分解により、酸化物の低減が促進される。 TiNやTiCN等の窒化物系介在物もMgOを核として消耗電極中に存在するため、再溶解中にTi系の窒化物系介在物の熱分解が促進され、結果としてTi系介在物の微細化が達成されることになる。
    この場合、本発明の製造方法で製造された消耗電極中には、MgOの核を有する窒化物系介在物の量が多くなっているため、より確実に熱分解が促進されて窒化物系介在物の微細化がはかれることになる。 このVAR時の雰囲気は、0.6kPaよりも減圧とすることが好ましい。 より好ましくは0.06kPa以下とするのが良い。 0.6kPaを超えるような圧力では、MgOの分解反応の進行が遅くなるためである。
    また、前記のVARで製造する鋼塊径はφ450mm以上であることが好ましい。 これは、2トン以上の大型鋼塊とするのに好適なサイズであり、2トン以上の鋼塊においては酸化物の浮上分離効果が大きくなるためである。

    ここでVAR鋼塊サイズにおける、浮上分離効果によって除去可能な介在物(酸化物)の最小サイズ(これ以上のサイズのものが除去可能となる)の直径を表1に示す。 この除去可能な介在物(酸化物)の最小サイズは、VAR溶鋼プール深さと各鋼塊径における介在物浮上分離時間を用いて、ストークスの式より求めたものである。 VAR溶鋼プール深さは、凝固解析を用いて、実溶解において安定したVAR溶解のできる溶解速度・条件として、VARが定常状態となった際の値を使用した。 介在物浮上分離時間は、上記条件におけるVAR溶鋼プール深さを鋼塊の成長速度で割って求めたものである。 表1に示されるように、鋼塊径が小さいと除去可能な介在物(酸化物)のサイズが大きくなる。 また、実際にはVAR溶解以降における熱間加工、冷間加工工程による酸化物の破砕効果も、鋼塊径が大きい方が有利となる。 鋼塊径は、窒化物・炭窒化物のサイズが許容できる範囲で大きいことが望ましく、本発明におけるφ450mm以上の鋼塊径では確実に酸化物サイズが15μm以下となることがわかる。 そのため、酸化物系介在物の除去は、鋼塊径が大きい方が有利である。

    上述のMgOを形成するためには、消耗電極中にMgを2ppm以上含有させるのが良い。 これは、Mgが2ppm未満ではMg添加による介在物の低減と微細化の効果が顕著に現れないためである。 望ましくは5ppm以上含有させるのが良い。
    なお、消耗電極でのMg濃度の上限は、再溶解後の鋼塊または製品の靭性を考慮すると300ppm以下であり、5〜250ppmであれば上記の効果がより確実に得られるので上限は250ppmとするのが好ましい。
    但し、揮発性の強いMgの添加は歩留が低く経済的でなく、またMgは真空再溶解で激しく蒸発し、操業を害するだけでなく鋼塊肌を悪くする場合があることからMg濃度の好ましい上限は200ppmとすると良い。 より好ましい範囲は10〜150ppmの範囲である。 なお、Mgは真空アーク再溶解工程中にMgOは酸素とMgガスとに解離して、Mgの含有量が低下し、真空アーク再溶解工程後には30ppm以下となる。
    また、MgO形成に必要なMg添加は、Ni−Mg、Fe−MgをはじめとするMg合金や金属Mgを溶鋼へ直接添加する方法があるが、中でも取り扱いが容易で成分調整しやすいNi−Mg合金を用いるのが好ましい。

    本発明のマルエージング鋼の製造方法は、前述のようにTiNやTiCN等の窒化物系介在物の微細化に効果を発揮するものである。 そのため、本発明が対象とするマルエージング鋼は、Tiを積極添加するマルエージング鋼に対して特に有効である。 好ましい具体的な組成は以下の通りである。 なお、含有量は質量%として記す。
    Tiは、時効処理により微細な金属間化合物を形成し、析出することによって強化に寄与する必要不可欠な元素であり、望ましくは0.2%以上を含有させるとよい。 しかし、その含有量が3.0%を超えて含有させると延性、靱性が劣化するため、Tiの含有量を3.0%以下にするとよい。
    Niは、靱性の高い母相組織を形成させるためには不可欠な元素である。 しかし、8%未満では靱性が劣化する。 一方、22%を超えるとオーステナイトが安定し、マルテンサイト組織を形成し難くなることから、Niは8〜22%とするとよい。
    Coは、マトリックスであるマルテンサイト組織を安定性に大きく影響することなく、Moの固溶度を低下させることによってMoが微細な金属間化合物を形成して析出するのを促進することによって析出強化に寄与する元素である。 しかし、その含有量が5%未満では必ずしも十分効果が得られず、また20%を越えると脆化する傾向がみられることから、Coの含有量は5〜20%にするとよい。

    Moは、時効処理により、微細な金属間化合物を形成し、マトリックスに析出することによって強化に寄与する元素である。 しかし、その含有量が2%未満の場合その効果が少なく、また9%を越えて含有すると延性、靱性を劣化させる粗大析出物を形成しやすくなるため、Moの含有量を2〜9%にするとよい。
    Alは、時効析出した強化に寄与するだけでなく、脱酸作用を持っているため、0.01%以上を含有する。 しかし、Alを1.7%を越えて含有させると靱性が劣化することから、その含有量を1.7%以下とするとよい。
    C(炭素)は、炭化物や炭窒化物を形成し、金属間化合物の析出量を減少させて疲労強度を低下させるため、Cの上限を0.1%以下にするとよい。
    上記の元素以外は実質的にFeでよいが、例えばBは、結晶粒を微細化するのに有効な元素であるため、靱性が劣化させない程度の0.01%以下の範囲で含有させてもよい。
    また、不可避的に含有される不純物元素は許容される。
    O(酸素)は、酸化物を形成し、製品の疲労強度を低下させる元素である一方で、上述のように、電極時点における窒化物・炭窒化物の核となるMgOの不足分を補う元素である。 MgOを形成させるMg酸化物形成工程中には、十分な酸素が必要となるため、電極中の酸素量はやや高めの3〜15ppm程度となる。 また、VAR後に過度に酸素が残留するようでは、疲労強度を低下させる酸化物の形成が心配されることからVAR後の鋼塊の酸素量は5ppm以下とするのが良い。
    N(窒素)は、窒化物や炭窒化物を形成し、疲労強度を低下させるため、極力低いことが好ましく、Nの上限は20ppm以下にすると良い。

    以上、説明するマルエージング鋼は、例えば、約0.2mm以下の薄帯として、自動車の動力伝達用ベルトに好適である。 このようにマルエージング鋼の厚さが最終的に0.5mm以下となるような用途においては、例えば15μmを超えるような大きさの酸化物は高サイクル疲労破壊の起点となる危険性が高く、素材中の酸化物は概ね15μm以下とするのが好ましいからである。
    また、Tiを含むマルエージング鋼の内部には、一般的にTiNが存在する。 このTiNは形状が矩形であり、応力集中が生じやすいことや、ダークエリアと呼ばれる水素脆化領域を形成することなどから、酸化物よりも高サイクル疲労破壊に対する感受性が高く、素材中のTiNは概ね10μm以下とする必要があると言われている。 そのため、本発明の製造方法に適するのに好適な用途の一つである。

    一次真空溶解により消耗電極を製造し、その消耗電極を用いてVARを行い、マルエージング鋼の2トン鋼塊を製造した。 No. 1〜No. 3が本発明の実施例であり、一次真空溶解時にNi−Mg合金を用いてMgを添加した後、鋳造前に溶解炉および鋳型を内部に保有したチャンバー内をArガスを導入して鋳造を行ったものである。 なお、真空溶解は、炉内のリーク速度をNo. 1において5.0Pa/分、No. 2において5.7Pa/分、No. 3において7.0Pa/分に設定して行った。 比較例No. 11、No. 12はいずれもリーク速度0.3Pa/分となるものである。
    前記の消耗電極を用いて、VARを行った。 VARの鋳型はそれぞれ同一のものを用い、真空度は1.3Pa、投入電流は鋼塊の定常部で6.5kAで溶解した。 VARで得られた鋼塊はφ500mmであり、粗大な酸化物系介在物の除去効率を高めた。 化学組成を表2に示す。

    VAR後の鋼塊を1250℃×20時間のソーキングを行なった後、これら材料に熱間圧延、820℃×1時間の溶体化処理、冷間圧延、820℃×1時間の溶体化処理と480℃×5時間の時効処理を行ない、厚み0.5mmのマルエージング鋼帯を製造した。
    本発明の実施例No. 1〜No. 3及び比較例のNo. 11、No. 12のマルエージング鋼帯の両端部から横断試料を5g採取し、有機溶剤洗浄にて表面の汚れを除去し、塩酸+硝酸+水を1:1:2で混合した溶液にて溶解後、ろ過径3μmのフィルターでろ過を行って、窒化物・炭窒化物の抽出を行った。 このフィルターろ過面について、走査型電子顕微鏡(SEM)でランダムに20視野(1視野面積約0.04mm )の観察を行い、各視野における最大窒化物・炭窒化物のサイズを記録した。
    これら最大窒化物・炭窒化物の長辺と短辺の長さより面積を求めて円相当径を算出し、これら20点の円相当径に対して極値統計処理を行い、1つのコイルにおける最大窒化物・炭窒化物サイズを決定した。 前記の円相当径の算出については、画像処理にて求めても良い。 この結果を表3に示す。
    また、No. 1の電極から採取したTi系の窒化物系介在物の代表的な断面電子顕微鏡写真を図1に示す。 図1に示すように、TiN中にMgOの核を有することがわかる。

    表3に示されるように、本発明の製造方法を適用して得られた薄板における窒化物系介在物の最大サイズは8μm以下の微細なものなっていることが分かる。 また、10μmを超える比較例のマルエージング鋼と比べても明らかに本発明で規定する製造方法を適用したものは微細となっていることが分かる。 また、No. 1〜No. 3の酸化物系介在物の大きさをSEMで調査した結果、最大の大きさが5.3μmであり、鋼塊径を大きくした効果が表れた結果となった。

    また、上述の窒化物・炭窒化物の抽出方法をVAR前の電極から採取した試料に対して行い、抽出後のフィルターに対して、電子線マイクロアナライザ(EPMA)で分析を行い、フィルター上に残った窒化物・炭窒化物の内部のMg核の有無を調査した。 調査は、EPMAのエックス線分析装置を用いて、加速電圧を15kVとして窒化物・炭窒化物の分析を行った。 MgO核の有無はMgピークが検出されるかどうかで評価した。 窒化物・炭窒化物にMgピークが検出されたもの、あるいは窒化物・炭窒化物の表面に酸化物が剥落した穴が見えたものの個数の合計を、視野中の全窒化物・炭窒化物個数で割った値をMgO核保有率と見做した。 その結果を表4に示す。 本発明で規定する電極の製造方法を適用したものは、明らかにMgO核保有率が高くなっていることが判る。

    表4の結果から、本発明で規定する製造方法を適用したものは、明らかにMgO核保有率が高く、45%以上のMgO核を保有していることがわかる。 また、その大きさも7μm以下の微細なものとなっている。 また、表3に示すVAR前の電極における窒化物系介在物最大サイズについて、比較例ではVAR後に窒化物系介在物最大サイズが大幅に大きくなっていることに対して、本発明ではサイズが殆ど変化していないことが判る。

    以上の結果から、本発明で規定する製造方法を適用することにより、TiNやTiCN等の窒化物系介在物の大きさをより確実に微細化でき、かつ粗大な酸化物を抑制することは明らかである。

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