新規ω3不飽和脂肪酸酵素およびエイコサペンタエン酸の製造方法

申请号 JP2016533668 申请日 2015-12-24 公开(公告)号 JPWO2016104607A1 公开(公告)日 2017-04-27
申请人 国立大学法人京都大学; 日清ファルマ株式会社; 发明人 順 小川; 順 小川; 晃規 安藤; 晃規 安藤; 英治 櫻谷; 英治 櫻谷; 昌 清水; 昌 清水; 茂 平本; 茂 平本; 昌卓 原田; 昌卓 原田; 有貴 竹本; 有貴 竹本;
摘要 常温下においても高い酵素活性を有するω3不飽和化酵素の提供。配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ炭素数20の 脂肪酸 に対するω3不飽和化活性を有するポリペプチド、およびその遺伝子。
权利要求
  • 配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ炭素数20の脂肪酸に対するω3不飽和化活性を有するポリペプチド。
  • 配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列が、以下のアミノ酸配列である、請求項1記載のポリペプチド:
    (A)配列番号2に示されるアミノ酸配列;
    (B)配列番号2に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;
    (C)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入および付加から選択される変異を施されたアミノ酸配列;
    (D)配列番号4に示されるアミノ酸配列;
    (E)配列番号4に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列;
    または、
    (F)配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入および付加から選択される変異を施されたアミノ酸配列。
  • 請求項1又は2記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
  • 下記に示されるヌクレオチド配列からなる請求項3記載のポリヌクレオチド:
    (a)配列番号1に示されるヌクレオチド配列;
    (b)配列番号1に示されるヌクレオチド配列と90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列;
    (c)配列番号1に示されるヌクレオチド配列において、1個または複数個のヌクレオチドの欠失、置換、挿入および付加から選択される変異を施されたヌクレオチド配列;
    (d)配列番号1に示されるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするヌクレオチド配列;
    (e)配列番号3に示されるヌクレオチド配列;
    (f)配列番号3に示されるヌクレオチド配列と90%以上の同一性を有するヌクレオチド配列;
    (g)配列番号3に示されるヌクレオチド配列において、1個または複数個のヌクレオチドの欠失、置換、挿入および付加から選択される変異を施されたヌクレオチド配列;
    (h)配列番号3に示されるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするヌクレオチド配列;または、
    (i)該(a)〜(h)に示されるヌクレオチド配列をコドン至適化したヌクレオチド配列。
  • 請求項3又は4記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
  • 請求項3又は4記載のポリヌクレオチドが導入された形質転換細胞。
  • 請求項1又は2記載のポリペプチドを発現する細胞を培養することを含む、エイコサペンタエン酸含有脂質の生産方法。
  • 請求項7記載の方法により生産されたエイコサペンタエン酸含有脂質を精製することを含む、エイコサペンタエン酸の生産方法。
  • 说明书全文

    本発明は、ω3不飽和化酵素活性を有する新規ポリペプチドおよび当該ポリペプチドをコードする遺伝子、ならびにエイコサペンタエン酸を生成するためのそれらの使用に関する。

    高度不飽和脂肪酸は、不飽和結合を2つ以上持つ脂肪酸であり、ω6不飽和脂肪酸のリノール酸(LA、18:2n−6)、γ−リノレン酸(GLA、18:3n−6)、アラキドン酸(ARA、20:4n−6)、ω3不飽和脂肪酸のα−リノレン酸(ALA、18:3n−3)、エイコサテトラエン酸(ETA、20:4n−3)、エイコサペンタエン酸(EPA、20:5n−3)、ドコサヘキサエン酸(DHA、22:6n−3)などが挙げられる。 高度不飽和脂肪酸は、生体膜の主要構成成分として膜の流動性の調節に関与するほか、生体機能性成分の前駆体としても重要である。 ARAやEPAは、高等動物内においてプロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンなどの前駆体であり、DHAは脳内に最も多量に存在する高度不飽和脂肪酸である。 EPAは、血小板凝集阻害作用、血中中性脂肪低下作用、抗動脈硬化作用、血液粘度低下作用、血圧降下作用、抗炎症作用、抗腫瘍作用等の生理作用を有し、医薬品、食品、化粧品、飼料等の様々な分野に利用されている。 また、近年では、生活習慣病予防の観点から、ω3不飽和脂肪酸の積極的な摂取が推奨され、需要の拡大が著しい脂質分子種である。

    生体のDHAやEPAは、食物から摂取される以外に、一部の生物ではALAから生合成される。 一方、ヒトはALAを生合成できないため、DHAやEPAはヒトにとって栄養学的に必須の脂肪酸である。 EPAは主にタラ、ニシン、サバ、サケ、イワシ、オキアミ等の魚油、シュワネラ・リビングストネンシス(Shewanella livingstonensis)等の海洋性低温細菌、ラビリンチュラ綱(Labyrinthulomycetes)等の藻類などに多く含まれている。 これらの生物資源からEPAを抽出または精製する方法が知られている。 最も一般的に行われているのは、魚油からのEPA精製である。 しかしながら、魚油中のEPA含量は低い上に、魚油由来のEPAは、抽出または精製の方法によっては、魚臭が残ったり、心疾患の原因とされるエルカ酸の含量が多くなったりするという問題を有している。

    近年、エネルギー問題などに関連して、細胞内に脂質を蓄積する脂質生産微生物が注目されており、種々の脂質を微生物学的に生産する方法が開発されている。 例えば、糸状菌の1種であるモルティエレラ(Mortierella)属に属する微生物を利用した高度不飽和脂肪酸の生産方法の研究が進められている。 モルティエレラ属微生物は、ω3またはω6高度不飽和脂肪酸代謝経路を有し、EPAを生産することが知られている(非特許文献1)。 特許文献1には、EPAを産生するモルティエレラ属微生物を培養してEPAを得る方法が開示されている。 特許文献2には、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)に変異処理を施した変異株を用いてARAやEPAを生産する方法が開示されている。 特許文献3には、モルティエレラ・アルピナから単離したω3不飽和化ポリペプチドの遺伝子を酵母に導入した形質転換株を用いて、EPAなどの高度不飽和脂肪酸を生産する方法が開示されている。

    しかし、モルティエレラ属微生物のω3不飽和化酵素は至適温度が低く、菌が増殖しやすい常温条件(20℃程度)下では十分に機能しない。 そのため、モルティエレラ属微生物を通常の培養温度で培養しても、EPAを効率よく生産することができない。 さらに、モルティエレラ属微生物のω3不飽和化酵素は、炭素鎖長18の脂肪酸に優先的に作用するため、上記モルティエレラ属微生物を利用する従来の方法では、炭素鎖長20のEPAを効率よく生産することは難しかった。

    したがって、炭素鎖長20の脂肪酸(例えばARA)から効率よくEPAを合成することができるω3不飽和化酵素が求められている。 特許文献4には、サプロレグニア・ディクリナ(Saprolegnia diclina)から単離したω3不飽和化酵素が、特許文献5には、フィトフトラ・ラモルム(Phytophthora ramorum)から単離したΔ17不飽和化酵素が、特許文献6には、ピシウム・アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)から単離したΔ17不飽和化酵素が記載されている。

    特開昭63−14697号公報

    特開平11−243981号公報

    特開2006−055104号公報

    特表2005−515776号公報

    特表2009−534032号公報

    特表2010−508019号公報

    Appl. Microbiol. Biotecnol. ,1989,32:1−4

    本発明は、20℃以上の常温下においても高い酵素活性を有するω3不飽和化酵素、および当該ω3不飽和化酵素を有し、EPA等のω3不飽和脂肪酸を高濃度で含有する油脂を効率よく生産することのできる脂質生産細胞を提供することに関する。 さらに本発明は、当該脂質生産細胞を利用したEPA高含有油脂の工業的生産手段を提供することに関する。

    発明者らは、種々検討の結果、常温下においても、炭素数20の脂肪酸に対して高いω3不飽和化活性を有する新規なω3不飽和化酵素、およびそれをコードする遺伝子を見出した。 本発明者らはさらに、上記ω3不飽和化酵素をコードする遺伝子を導入した形質転換細胞において、常温下においてEPA等のC20のω3不飽和脂肪酸の生産性が向上することを見出した。

    すなわち本発明は、配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上同一なアミノ酸配列からなり、かつ炭素数20の脂肪酸に対するω3不飽和化活性を有するポリペプチドを提供する。
    また本発明は、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
    また本発明は、上記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
    また本発明は、上記ポリヌクレオチドが導入された形質転換細胞を提供する。
    さらに本発明は、上記ポリペプチドを発現する細胞を培養することを含む、エイコサペンタエン酸含有脂質の生産方法を提供する。
    さらに本発明は、上記方法により生産されたエイコサペンタエン酸含有脂質を精製することを含む、エイコサペンタエン酸の生産方法を提供する。

    本発明のω3不飽和化酵素は、細胞が増殖しやすい20℃以上の常温条件下において、炭素数20の脂肪酸に対して高いω3不飽和化活性を有し、EPA等のC20のω3不飽和脂肪酸の生合成に機能を発揮することができる。 したがって、本発明のω3不飽和化酵素を発現する細胞を培養すれば、当該細胞内で、EPA等のC20のω3不飽和脂肪酸を効率よく生産することが可能になる。 EPAは、医薬品、食品、化粧品、飼料等の様々な分野で使用される重要な高度不飽和脂肪酸であることから、EPAの工業規模での生産に適用し得る本発明は、当該分野で極めて有用である。

    Mortierella alpina 1S−4における脂肪酸生合成経路。

    Mortierella alpina用形質転換バイナリーベクターの例。

    実施例3および5で作製されたω3不飽和化酵素遺伝子導入Mortierella alpina株の脂肪酸生産量。 A:培養液1mL中の各脂肪酸の生産量(mg)、B:乾燥菌体1mg中の各脂肪酸の生産量(mg)、C:総脂肪酸量に対する各脂肪酸組成(%)。 ホスト株:対照、G#18およびG#22:実施例3で作製した株、C#14およびC#16:実施例5で作製した株。

    本明細書において、別途定義されない限り、アミノ酸配列またはヌクレオチド配列におけるアミノ酸またはヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入に関して使用される「1個または複数個」とは、例えば、1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜4個、なお好ましくは1〜3個、さらになお好ましくは1〜2個であり得る。 また本明細書において、アミノ酸またはヌクレオチドの「付加」には、配列の一末端および両末端への1または複数個のアミノ酸またはヌクレオチドの付加が含まれる。

    本明細書において、アミノ酸配列やヌクレオチド配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Pro.Natl.Acad.Sci.USA,1993,90:5873−5877)、またはFASTA(Methods Enzymol.,1990,183:63−98)を用いて決定することができる。 このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXとよばれるプログラムが開発されている(J.Mol.Biol.,1990,215:403−410)。 BLASTに基づいてBLASTNによってヌクレオチド配列を解析する場合には、パラメータは例えばScore=100、wordlength=12とする。 また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=50、wordlength=3とする。 BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。 これらの解析方法の具体的な手法は公知である(www.ncbi.nlm.nih.gov参照)。

    本明細書において、「ストリンジェントな条件」とは、同一性が高いヌクレオチド配列同士、例えば90%以上、95%以上、98%以上または99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列同士がハイブリダイズし、それより同一性が低いヌクレオチド配列同士がハイブリダイズしない条件をいう。 より詳細には、本明細書における「ストリンジェントな条件」とは、求める同一性の高低によって、適宜条件を変えることができる。 より高ストリンジェントな条件であるほど、より同一性の高い配列のみがハイブリダイズすることになる。 低ストリンジェントな条件の例としては、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32〜50℃程度の洗浄条件を挙げることができる。 高ストリンジェントな条件の例としては、6×SSC、0.01M EDTA、1×デンハルト液、0.5%SDS、55〜68℃程度、または5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、55℃〜68℃程度での洗浄条件を挙げることができる。 他にハイブリダイゼーションに影響する要素としてはプローブの濃度や長さ、反応時間など複数の要素が考えられる。 当業者であれば、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,3rd Ed,,Cold Spring Harbor Laboratory(2001)を参照して、上記の条件や要素を適宜選択して適切なストリンジェンシーを決定することができる。

    本明細書において、目的のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列上における、特定のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列上の特定の位置または領域に対する「対応する位置」または「対応する領域」は、目的のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と、基準となる特定の配列(参照配列)とを、各アミノ酸配列またはヌクレオチド配列中に存在する保存アミノ酸残基またはヌクレオチドに最大の相同性を与えるように整列(アラインメント)させることにより決定することができる。 アラインメントは、公知のアルゴリズムを用いて実行することができ、その手順は当業者に公知である。 例えば、アラインメントは、上述のリップマン−パーソン法等に基づいて手作業で行うこともできるが、Clustal Wマルチプルアラインメントプログラム(Thompson,J.D.et al,1994,Nucleic Acids Res.,22:4673−4680)をデフォルト設定で用いることにより行うことができる。 あるいは、Clustal Wの改訂版であるClustal W2やClustal omegaを使用することもできる。 Clustal W、Clustal W2およびClustal omegaは、例えば、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute:EBI[www.ebi.ac.uk/index.html])や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ[www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome−j.html])のウェブサイト上で利用することができる。

    本明細書において、「ω6高度不飽和脂肪酸代謝経路」とは、リノール酸(LA、18:2n−6)から、γ−リノレン酸(GLA、18:3n−6)、ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA、20:3n−6)、アラキドン酸(ARA、20:4n−6)などのω6高度不飽和脂肪酸を生産する代謝経路をいい、「ω3高度不飽和脂肪酸代謝経路」とは、α−リノレン酸(ALA、18:3n−3)から、ステアリドン酸(SDA、18:4n−3)、エイコサテトラエン酸(ETA、20:4n−3)、エイコサペンタエン酸(EPA、20:5n−3)などのω3高度不飽和脂肪酸を生産する代謝経路をいう(図1参照)。 また本明細書において、「高度不飽和脂肪酸」とは、炭素鎖長が18以上で不飽和結合数が2以上の長鎖脂肪酸をいう。 さらに本明細書において、「C20のω3不飽和脂肪酸」とは、炭素数20のω3高度不飽和脂肪酸をいい、その例としては、EPA、ETAが挙げられる。

    本明細書において、「不飽和化活性」とは、脂肪酸鎖に炭素−炭素二重結合を導入する活性をいい、「不飽和化酵素」とは、当該不飽和化活性を有するタンパク質またはポリペプチドをいう。 不飽和化活性および不飽和化酵素は、その活性により炭素−炭素二重結合が導入される脂肪酸上の位置によってさらに分類される。 例えば、「ω3不飽和化活性」とは、脂肪酸のω末端から3番目と4番目の炭素の間に二重結合を導入する活性をいい、「ω3不飽和化酵素」とは、当該活性を持ち、ω3不飽和脂肪酸を産生する酵素である。 例えば、ω3不飽和化酵素は、LA(18:2n−6)からALA(18:3n−3)への変換酵素、GLA(18:3n−6)からSDA(18:4n−3)への変換酵素、DGLA(20:3n−6)からETA(20:4n−3)への変換酵素、およびARA(20:4n−6)からEPA(20:5n−3)への変換酵素を含み得る。

    本明細書において、「Δ17不飽和化活性」とは、脂肪酸のカルボキシル末端から17番目と18番目の炭素の間に二重結合を導入する活性をいい、「Δ17不飽和化酵素」とは、当該活性を有し、Δ17不飽和脂肪酸を産生する酵素である。 例えば、Δ17不飽和化酵素は、DGLA(20:3n−6)からETA(20:4n−3)への変換酵素、およびARA(20:4n−6)からEPA(20:5n−3)への変換酵素を含み得る。

    「ω3不飽和化酵素」と「Δ17不飽和化酵素」は、炭素数20の脂肪酸に対して、同じ位置(ω末端から3番目と4番目の炭素間=カルボキシル末端から17番目と18番目の炭素間)に不飽和結合を導入する。 したがって、本明細書において、「炭素数20の脂肪酸に対するω3不飽和化活性」は、「Δ17不飽和化活性」と言い換えることができる。

    本明細書において、「常温下で酵素活性を有する」とは、酵素活性の至適温度が20℃以上、好ましくは20〜40℃であるか、または20℃において至適温度での活性の70%以上、好ましくは80%以上の活性を有することをいう。 例えば、本明細書において、酵素が「常温下で炭素数20の脂肪酸に対するω3不飽和化活性を有する」とは、該酵素の炭素数20の脂肪酸に対するω3不飽和化活性の至適温度が20〜40℃であること、あるいは、20℃における該酵素の炭素数20の脂肪酸に対するω3不飽和化活性が、該酵素の至適温度での炭素数20の脂肪酸に対するω3不飽和化活性に対して、70%以上、好ましくは80%以上であることを意味する。

    本明細書において、微生物の機能や性状、形質に対して使用する用語「本来」とは、当該機能や性状、形質が当該微生物の野生型に存在していることを表すために使用される。 対照的に、用語「外来」とは、当該微生物に元から存在するのではなく、外部から導入された機能や性状、形質を表すために使用される。 例えば、ある微生物に外部から導入された遺伝子は、外来遺伝子である。 外来遺伝子は、それが導入された微生物と同種の微生物由来の遺伝子であっても、異種の生物由来の遺伝子であってもよい。

    本発明により提供されるω3不飽和化酵素は、配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ常温下で炭素数20の脂肪酸に対するω3不飽和化活性を有するポリペプチドである。 当該ポリペプチドの例としては、以下のアミノ酸配列からなり、かつ常温下で炭素数20の脂肪酸に対するω3不飽和化活性を有するポリペプチドが挙げられる。
    (A)配列番号2に示されるアミノ酸配列;
    (B)配列番号2で示されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列;
    (C)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入および付加から選択される変異を施されたアミノ酸配列。
    (D)配列番号4に示されるアミノ酸配列;
    (E)配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列;
    (F)配列番号4に示されるアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入および付加から選択される変異を施されたアミノ酸配列。
    上記アミノ酸配列におけるアミノ酸の欠失、置換、挿入および付加の位置は、変異後のポリペプチドに常温下での炭素数20の脂肪酸に対するω3不飽和化活性が保持される限り、特に限定されない。

    さらに、本発明のω3不飽和化酵素としては、上述した(A)〜(F)で示されるアミノ酸配列において、各アミノ酸が、性質の類似するアミノ酸の群に属するアミノ酸と置換されていてもよいタンパク質が挙げられる。 類似するアミノ酸による置換の位置および数は、置換後のポリペプチドに常温下での炭素数20の脂肪酸に対するω3不飽和化活性が保持される限り、特に限定されない。 性質の類似するアミノ酸としては、例えば、グリシンとアラニン、バリンとロイシンとイソロイシン、セリンとトレオニン、アスパラギン酸とグルタミン酸、アスパラギンとグルタミン、リシンとアルギニン、システインとメチオニン、フェニルアラニンとチロシン等が挙げられる。

    好ましくは、本発明のω3不飽和化酵素は、常温下、好ましくは20℃〜40℃の温度下で、炭素数20の脂肪酸に対して特異的に作用するω3不飽和化酵素である。

    配列番号2および配列番号4に示されるω3不飽和化酵素は、いずれも、鞭毛菌の1種であるプレクトスピラ・ミリアンドラ(Plectospira myriandra)に由来する酵素である。 BLAST解析の結果、配列番号2および配列番号4に示されるω3不飽和化酵素は、互いに約98.9%という高いアミノ酸配列同一性を有するが、一方で、公知のタンパク質と極めて異なるアミノ酸配列を有する新規なポリペプチドであることが明らかになった。 配列番号2および配列番号4に示されるω3不飽和化酵素のアミノ酸配列と、サプロレグニア等に由来する公知のω3不飽和化酵素(例えば、特許文献4〜6に開示されるω3不飽和化酵素)のアミノ酸配列との配列同一性は、最大70%である。

    本発明者らは、プレクトスピラ・ミリアンドラのゲノムをもとに、ω3不飽和化酵素をコードする推定ORFからなるポリヌクレオチドを構築した。 このポリヌクレオチドは、配列番号1で示されるヌクレオチド配列からなる、配列番号2に示される本発明のω3不飽和化酵素をコードするポリヌクレオチドである。 また本発明者らは、プレクトスピラ・ミリアンドラmRNAを標的とした逆転写反応により、配列番号3で示されるヌクレオチド配列からなるcDNAを得た。 これは、配列番号4に示される本発明のω3不飽和化酵素をコードするポリヌクレオチドである。 したがって、配列番号1または配列番号3で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドはいずれも、イントロン配列を含まないポリヌクレオチドであり、プレクトスピラ・ミリアンドラ細胞内に存在するゲノムDNAとは異なるポリヌクレオチドである。

    したがって本発明はまた、本発明のω3不飽和化酵素をコードするポリヌクレオチド(以下、本発明のω3不飽和化酵素遺伝子とも称する)を提供する。 本発明のω3不飽和化酵素遺伝子の例としては、以下に示されるヌクレオチド配列からなる、常温下で炭素数20の脂肪酸に対するω3不飽和化活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、またはその相補鎖が挙げられる。
    (a)配列番号1に示されるヌクレオチド配列;
    (b)配列番号1に示されるヌクレオチド配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列;
    (c)配列番号1に示されるヌクレオチド配列において、1個または複数個のヌクレオチドの欠失、置換、挿入および付加から選択される変異を施されたヌクレオチド配列;
    (d)配列番号1に示されるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするヌクレオチド配列;
    (e)配列番号3に示されるヌクレオチド配列;
    (f)配列番号3に示されるヌクレオチド配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性を有するヌクレオチド配列;
    (g)配列番号3に示されるヌクレオチド配列において、1個または複数個のヌクレオチドの欠失、置換、挿入および付加から選択される変異を施されたヌクレオチド配列;
    または、
    (h)配列番号3に示されるヌクレオチド配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするヌクレオチド配列。
    上記ヌクレオチド配列におけるヌクレオチドの欠失、置換、挿入および付加の位置は、変異後のポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドが常温下で炭素数20の脂肪酸に対するω3不飽和化活性を保持する限り、特に限定されない。

    本発明のω3不飽和化酵素は、公知の方法に従って、好ましくは化学合成法または生物学的合成法によって、製造することができる。 化学合成法の例としては、常法により、側鎖官能基を保護した各アミノ酸を逐次結合し、ペプチド鎖を伸張する方法を挙げることができる。 生物学的合成法の例としては、本発明のω3不飽和化酵素遺伝子から本発明のω3不飽和化酵素を発現させた後、生成した酵素を単離、必要に応じてさらに精製する方法を挙げることができる。

    以下に、本発明のω3不飽和化酵素の生物学的合成法についてさらに詳しく説明する。 まず、本発明のω3不飽和化酵素遺伝子を調製する。 当該遺伝子は、本発明のω3不飽和化酵素のアミノ酸配列や、プレクトスピラ・ミリアンドラ等の微生物のゲノムDNAの配列情報に基づいて、公知の方法に従い化学合成法によって製造してもよく、または上述したプレクトスピラ・ミリアンドラ等の微生物から単離してもよい。 本発明のω3不飽和化酵素遺伝子を微生物から単離する場合、例えば、当該微生物の全RNAからcDNAライブラリーを作製し、当該cDNAライブラリーからのスクリーニングにより目的とする本発明の遺伝子のcDNAを単離することができる。 スクリーニングの際には、本発明の遺伝子のヌクレオチド配列に基づいてプローブまたはプライマーを設計し、当該プローブまたはプライマーとストリンジェントな条件でハイブリダイズするcDNAを選択すればよい。 あるいは、当該微生物の全RNAから、配列特異的な逆転写反応により、目的のcDNAを選択的に合成することができる。 選択されたcDNAは、PCR等の公知の方法により増幅することができる。

    またあるいは、本発明のω3不飽和化酵素遺伝子は、上記の手順で単離または合成された遺伝子に対して、紫外線照射や部位特異的変異導入のような公知の突然変異導入法により突然変異を導入することによって、作製することができる。 例えば、配列番号1または配列番号3に示されるポリヌクレオチドに対して公知の方法で突然変異導入し、変異ポリヌクレオチドを得る。 当該変異ポリヌクレオチドから発現したポリペプチドのω3不飽和化活性を調べて所望の活性を有するポリペプチドをコードするものを選択することによって、本発明のω3不飽和化酵素遺伝子を取得することができる。

    さらに、上記の手順で調製された本発明のω3不飽和化酵素遺伝子は、当該遺伝子を導入して発現させる細胞におけるコドン使用頻度にあわせて、コドンを至適化されることが好ましい。 各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database(www.kazusa.or.jp/codon/)から入手可能である。 例えば、配列番号1および配列番号3で示されるω3不飽和化酵素遺伝子をモルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)のコドン使用頻度(www.kazusa.or.jp/codon/cgi−bin/showcodon.cgi?species=64518)にあわせてコドン至適化した場合、それぞれ、配列番号5および配列番号6で示されるポリヌクレオチドとなる。 したがって、本発明のω3不飽和化酵素遺伝子としては、上記(a)〜(h)に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを基に、各種生物のコドン使用頻度にあわせてコドンを至適化されたポリヌクレオチドが挙げられる。

    次に、調製された本発明のω3不飽和化酵素遺伝子から、本発明のω3不飽和化酵素を発現させる。 当該酵素は無細胞系で発現させてもよいが、本発明のω3不飽和化酵素遺伝子を宿主細胞に導入して形質転換細胞を得、当該形質転換細胞に本発明のω3不飽和化酵素を発現させてもよい。

    本発明のω3不飽和化酵素遺伝子を導入する宿主細胞としては、細菌、真菌、藻類などの微生物の細胞が好ましいが、特に限定されない。 宿主細胞への遺伝子の導入には、本発明のω3不飽和化酵素遺伝子を含むベクターを用いることができる。 導入に使用されるベクターの種類は、宿主細胞の種類や、クローニングの方法、遺伝子発現の方法等に応じて適宜選択することができる。 例えば、細胞のゲノム外に存在するベクター上の遺伝子から直接本発明のω3不飽和化酵素を発現させる場合、発現ベクターが好ましく用いられる。 適切なベクターに本発明のω3不飽和化酵素遺伝子を組み込み、得られた本発明のω3不飽和化酵素遺伝子を含むベクターを、宿主細胞へ導入する。 細胞へのベクターの導入には、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)法、コンピテント細胞法、プロトプラスト法、リン酸カルシウム共沈法、Agrobacterium tumefaciens−mediated transformation(ATMT)法およびその改変法(Appl.Environ.Microbiol.,2009,75:5529−5535)などの公知の方法を使用することができる。 このとき、ベクターに適切なマーカー遺伝子を組み込んでおけば、マーカーの発現を指標に、本発明の遺伝子を含むベクターが導入された形質転換細胞を選別することができる。

    上記形質転換細胞により、本発明のω3不飽和化酵素が発現される。 発現された本発明のω3不飽和化酵素は、公知のタンパク質の単離または精製法によって単離、および必要に応じて精製することができる。

    本発明のω3不飽和化酵素は、細胞が増殖しやすい常温、例えば20℃以上の温度条件下において高いω3不飽和化活性を有し、EPA等のC20のω3不飽和脂肪酸の生合成に機能を発揮することができる。 したがって、本発明のω3不飽和化酵素を発現する細胞を常温で培養すれば、当該細胞が容易に増殖するとともに、その増殖した細胞内で発現した本発明のω3不飽和化酵素によりC20のω3不飽和脂肪酸の生合成が行われるので、EPA等のC20のω3不飽和脂肪酸を効率よく生産することが可能になる。

    したがって、本発明は、本発明のω3不飽和化酵素を発現する細胞を培養することを含む、C20のω3不飽和脂肪酸の生産方法を提供する。 C20のω3不飽和脂肪酸としては、ETAおよびEPAが挙げられ、好ましくはEPAである。 本発明はまた、本発明のω3不飽和化酵素を発現する細胞を培養することを含む、EPA含有脂質の生産方法を提供する。 さらに本発明は、上記本発明のEPA含有脂質の生産方法により生産されたEPA含有脂質を精製することを含む、EPAの生産方法を提供する。

    上記本発明のω3不飽和化酵素を発現する細胞としては、当該酵素を本来発現する細胞であってもよく、または当該酵素を発現するように改変された細胞であってもよい。 本発明のω3不飽和化酵素を本来発現する細胞としては、プレクトスピラ・ミリアンドラが挙げられる。 本発明のω3不飽和化酵素を発現するように改変された細胞としては、上述したような、本発明のω3不飽和化酵素遺伝子の導入により本発明のω3不飽和化酵素の発現能を獲得した形質転換細胞が挙げられる。 当該形質転換細胞は、植物、細菌、真菌、藻類などに由来する任意の細胞であり得るが、細菌、真菌、藻類などの微生物の細胞であることが好ましい。 あるいは、上記プレクトスピラ・ミリアンドラを、本発明のω3不飽和化酵素の発現が向上するように改変して、本発明のEPA含有脂質の生産方法に用いることができる。

    本発明のEPA含有脂質の生産方法において、上記本発明のω3不飽和化酵素を発現する細胞は、本発明のω3不飽和化酵素の働きによってEPAを生産する。 したがって、当該細胞は、本発明のω3不飽和化酵素の発現能を有することに加えて、当該酵素の基質となるアラキドン酸(ARA)を生産する能を本来有するか、またはARAを生産することができるように改変されている。 好ましくは、当該細胞は、ω6高度不飽和脂肪酸代謝経路を本来有するか、または当該経路を有するように改変されている。 より好ましくは、当該細胞は、ω6高度不飽和脂肪酸代謝経路およびω3高度不飽和脂肪酸代謝経路を本来有するか、または当該両経路を有するように改変されている。 図1に示すように、ω6高度不飽和脂肪酸代謝経路により生成されたARAは、ω3不飽和化酵素の働きによりEPAへと変換される。 あるいは、DGLA等の炭素数20のω6高度不飽和脂肪酸は、ω3不飽和化酵素の働きによりETA等の炭素数20のω3高度不飽和脂肪酸へと変換され、そしてこれらのω3高度不飽和脂肪酸から、ω3高度不飽和脂肪酸代謝経路によりEPAが生成される。

    したがって、本発明のEPA含有脂質の生産方法に使用される細胞の好適な例としては、本発明のω3不飽和化酵素を発現する能力を有し、かつω6高度不飽和脂肪酸代謝経路を有しアラキドン酸を産生することができる脂質生産微生物(oleaginous microorganisms)が挙げられる。 より好ましくは、当該脂質生産微生物は、さらにω3高度不飽和脂肪酸代謝経路を有する。 そのような脂質生産微生物の例としては、上述したプレクトスピラ・ミリアンドラ、およびω6高度不飽和脂肪酸代謝経路によりアラキドン酸産生する能力を有する脂質生産微生物であって、好ましくはさらにω3高度不飽和脂肪酸代謝経路を有し、かつ本発明のω3不飽和化酵素を発現するように改変されたものが挙げられる。

    上記本発明のω3不飽和化酵素を発現するように改変された脂質生産微生物は、ω6高度不飽和脂肪酸代謝経路を有しアラキドン酸を産生する能力を有し、好ましくはさらにω3高度不飽和脂肪酸代謝経路を有する脂質生産微生物に、本発明のω3不飽和化酵素遺伝子を導入することにより得ることができる。 当該脂質生産微生物への本発明のω3不飽和化酵素遺伝子の導入は、宿主細胞への遺伝子導入に関して上述した手順に従って行うことができるが、以下により具体的な手順を説明する。

    本発明のω3不飽和化酵素遺伝子を導入されるべき脂質生産微生物の例としては、プレクトスピラ属菌、酵母菌、およびモルティエレラ(Mortierella)属、ムコール(Mucor)属、ウンベロプシス(Umbelopsis)属等の糸状菌などが挙げられるが、これらに限定されない。 酵母菌としては、子嚢菌酵母、担子菌酵母、分裂酵母、出芽酵母などが挙げられる。 上記のうち、好ましい例としては、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina、以下の本明細書においてM.alpinaということがある)、モルティエレラ・クラミドスポラ(Mortierella chlamydospora)、モルティエレラ・エロンガタ(Mortierella elongata)、モルティエレラ・エキシグア(Mortierella exigua)、モルティエレラ・フィグロフィラ(Mortierella hygrophila)、モルティエレラ・エピガマ(Mortierella epigama)、モルティエレラ・アクロトナ(Mortierella acrotona)、モルティエレラ・ミヌティシマ(Mortierella minutissima� �、モルティエレラ・リギコラ(Mortierella lignicola)、モルティエレラ・クロノシスティス(Mortierella clonocystis)、モルティエレラ・ナナ(Mortierella nana)、モルティエレラ・フミコラ(Mortierella humicola)、モルティエレラ・バイニエリ(Mortierella bainieri)、モルティエレラ・ヒアリン(Mortierella hyaline)、モルティエレラ・グロバルピナ(Mortierella globalpina)、ウンベロプシス・ナナ(Umbelopsis nana)、ウンベロプシス・イサベリナ(Umbelopsis isabellina)等のモルティエレラ属微生物が挙げられ、より好ま しくは、モルティエレラ・アルピナ(M.alpina)、モルティエレラ・クロノシスティス、モルティエレラ・ナナ、モルティエレラ・フミコラ、モルティエレラ・バイニエリ、モルティエレラ・ヒアリン、モルティエレラ・グロバルピナなどが挙げられる。

    さらに、上記本発明の遺伝子を導入されるべき脂質生産微生物は、ω6高度不飽和脂肪酸代謝経路を有しアラキドン酸を産生する能力を有する限りにおいて、上述したプレクトスピラ属、酵母、およびモルティエレラ属、ムコール属、ウンベロプシス属等の微生物の変異株であってもよい。 当該変異株は、本発明のω3不飽和化酵素以外のω3不飽和化酵素を発現する必要はないので、当該微生物が本来有するω3不飽和化酵素を欠く欠損株であってもよい。 このような変異株や欠損株の例としては、M. alpina 1S−4(Agric.Biol.Chem.,1987,51(3):785−790)、M. alpina ST1358(Biosci.Biotechnol.Biochem.,2010,74:908−917)などが挙げられる。

    上記脂質生産微生物の変異株や欠損株は、常法、例えば、メタンスルホン酸エチル(EMS)、メタンスルホン酸メチル(MMS)、N−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(J.Gen.Microbiol.,1992,138:997−1002)、5−ブロモデオキシウリジン(BrdU)、シスプラチン、マイトマイシンC等の変異原による処理や、放射線照射、紫外線照射、高熱処理等による突然変異誘発、またはRNAiによる遺伝子発現抑制などによって得ることができる。

    本発明のω3不飽和化酵素遺伝子は、上記微生物のゲノム内に導入されてもよく、または発現ベクターに組み込まれた状態でゲノム外に導入されてもよい。 いずれの場合も、本発明のω3不飽和化酵素遺伝子は、当該遺伝子を含むベクターとともに導入することが好ましい。 遺伝子導入に用いるベクターは、遺伝子が導入される微生物の種類や、クローニングの方法、遺伝子発現の方法等に応じて、当業者が適宜選択することができる。 例えば、モルティエレラ属微生物に対するゲノム外への遺伝子導入に用いるベクターとしては、pD4ベクター(Appl.Environ.Microbiol.,2000,66(11):4655−4661)、pDZeoベクター(J.Biosci.Bioeng.,2005,100(6):617−622)、pDura5ベクター(Appl.Microbiol.Biotechnol.,2004,65(4):419−425)、pDXベクター(Curr.Genet.,2009,55(3):349−356)、pBIG3ura5(Appl.Environ.Microbiol.,2009,75:5529−5535)などが挙げられる。

    さらに、上記ベクターには、組み込まれた本発明の遺伝子を発現させるためのプロモーター配列もしくは転写終結シグナル配列、または目的遺伝子が導入された形質転換体を選択するための選択マーカー遺伝子が含まれていることが好ましい。 プロモーターとしては高発現プロモーターが好ましい。 例えば、モルティエレラ属微生物用の好ましい高発現プロモーターとしては、M. alpina由来のPP3プロモーターおよびSSA2プロモーター、ならびにこれらのプロモーターの配列に置換、欠失、付加等を加えて改変したプロモーターが挙げられるが、導入した遺伝子を高発現させることができれば、これらに限定されない。 選択マーカー遺伝子としては、例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ストレプトマイシン耐性遺伝子、カルボキシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子、ロイシン、ヒスチジン、メチオニン、アルギニン、トリプトファン、リジン等のアミノ酸要求変異を相補する遺伝子、ウラシル、アデニン等の核酸塩基要求性変異を相補する遺伝子などを挙げることができる。 好ましい選択マーカー遺伝子の例としては、ウラシル要求性変異を相補する遺伝子が挙げられる。 例えば、M. alpinaのウラシル要求性変異株(Biosci.Biotechnol.Biochem.,2004,68:277−285)が開発されている。 このようなウラシル要求株に対しては、選択マーカー遺伝子としてオロチジン−5'−リン酸デカルボキシラーゼ遺伝子(ura3遺伝子)、またはオロチジル酸ピロホスホリラーゼ遺伝子(ura5遺伝子)を使用することができる。 ベクターを構築するための手順や使用する試薬類、例えば制限酵素またはライゲーション酵素等の種類については、特に限定されるものではない。 当業者は、通常の知識に従って、または市販品を適宜用いてベクターを構築することができる。

    M. alpinaへの本発明のω3不飽和化酵素遺伝子の導入に使用することができる形質転換バイナリーベクターの例を、図2に示す。 当該ベクターにおいては、恒常的高発現プロモーターであるSSA2プロモーターの下流に、本発明のω3不飽和化酵素をコードするポリヌクレオチド(PmD17XXmod)が連結されており、さらにターミネーターとしてsdhBターミネーター、形質転換体の選択マーカーとしてura5遺伝子が組み込まれている。

    本発明のω3不飽和化酵素遺伝子を微生物のゲノム内に直接導入する方法としては、相同組換え法が挙げられる。 本発明の遺伝子とともに導入先とするゲノムの相補配列を含むベクターを準備し、そのベクターを微生物に導入すれば、相同組換えにより当該微生物のゲノム上の標的とする位置に本発明のω3不飽和化酵素遺伝子が組み込まれる。 当該ベクターには、必要に応じて、上述したプロモーター配列、転写終結シグナル配列または選択マーカー遺伝子が一緒に組み込まれていてもよい。

    微生物へのベクターの導入手段は、微生物やベクターの種類に応じて当業者が適宜選択すればよい。 例えば、モルティエレラ属微生物等の真菌類への導入の場合、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)法、ATMT法およびその改変法(Appl.Environ.Microbiol.,2009,75:5529−5535)などが挙げられ、ATMT法およびその改変法が好ましいが、目的の形質を安定して保持する形質転換体を得ることができれば、遺伝子導入法はこれらの方法に限定されない。

    さらに、本発明のEPA含有脂質の生産方法に使用される、本発明のω3不飽和化酵素を発現する細胞は、そのω6高度不飽和脂肪酸代謝経路を活性化させるような改変を施されていてもよい。 例えば、当該細胞に、Δ12不飽和化酵素をコードする遺伝子を導入して当該酵素を高発現させることによって、当該細胞内でのオレイン酸からリノール酸への変換が促進されて、ω6高度不飽和脂肪酸代謝経路を活性化させることができる。 当該経路の活性化は、本発明の酵素の基質となるω6高度不飽和脂肪酸量を増加させるので、結果としてEPAの産生が促進される。 あるいは、本発明のω3不飽和化酵素を発現する細胞に、Δ15不飽和化酵素をコードする遺伝子を導入して当該酵素を高発現させることによって、LAからALA、またはGLAからSDAへの変換を促進してω3高度不飽和脂肪酸代謝経路を活性化させることができる。 さらに、本発明のω3不飽和化酵素を発現する細胞には、Δ12不飽和化酵素をコードする遺伝子およびΔ15不飽和化酵素をコードする遺伝子の両方を導入してもよい。

    本発明のEPA含有脂質の生産方法において、以上の手順で得られた本発明のω3不飽和化酵素を発現する細胞は、液体培地または固体培地に接種され、培養される。 培養の条件は、細胞の種類に応じて当業者が最適化することができる。 例えば、当該細胞が真菌の場合、菌株の胞子、菌糸、または予め培養して得られた前培養液を、上記培地に接種して培養することができる。 培地の炭素源としてはグルコース、フルクトース、キシロース、サッカロース、マルトース、可溶性デンプン、コーンスターチ、グリセロール、マンニトール、脂質、アルカン、アルケン等が挙げられるが、これらに限定されない。 窒素源としてはペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、カザミノ酸、コーンスティープリカー、大豆タンパク、脱脂ダイズ、綿実カス、小麦フスマ等の天然窒素源の他に、尿素等の有機窒素源、ならびに、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等の無機窒素源が挙げられるが、これらに限定されない。 さらに、大豆油、ココナッツ油、コーン油等の脂質を添加してもよい。 添加する脂質は、大豆油、コーン油等のリノール酸を多く含む油脂が好ましく、大豆油がより好ましい。 また、微量栄養源として、リン酸塩、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅等の無機塩、またはビタミン等も適宜添加することができる。 これらの培地成分は、培養する微生物の生育を害しない濃度であれば特に制限されない。 例えば、炭素源は培地中0.1〜40質量%、好ましくは1〜25質量%、窒素源は0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜10質量%の濃度とすることができる。 M. alpinaまたはその変異株を培養する場合、後述のCzapek培地、Czapek−dox培地、グルコース・酵母エキス(以下、「GY」ともいう)培地、SC培地等を好適に使用することができる。 あるいは、モルティエレラ属微生物用の培地については、公知の文献(例えば国際公開第98/29558号)を参考にすることもできる。 培地のpHは4〜10、好ましくは6〜9であり得る。 培養は、通気撹拌培養、振盪培養または静置培養であり得る。

    上記細胞の増殖を促してEPAの収量を増加させるためには、当該細胞の培養は至適生育温度で行われることが好ましい。 例えば、当該細胞は、約5〜60℃、好ましくは約10〜50℃、より好ましくは約10〜40℃、さらに好ましくは約20〜40℃、なお好ましくは約20〜30℃で培養され得る。 例えば、細胞がM. alpinaまたはその変異株の場合、約10〜40℃、好ましくは約20〜40℃、より好ましくは約20〜30℃で培養するのがよい。 当該細胞の培養期間は、例えば2〜20日間、好ましくは2〜14日間であり得る。 なお、モルティエレラ属微生物の培養法については、公知の文献(例えば、特開平6−153970号公報)を参考にすることもできる。

    上記手順で本発明のω3不飽和化酵素を発現する細胞を培養することによって、当該細胞内にEPAを高含有する脂質が生産される。 培養終了後、培養液を遠心分離、ろ過等の常用の手段にかけ、細胞を分離する。 例えば、培養液を遠心分離またはろ過して液体分を除き、分離された細胞を洗浄後、凍結乾燥、風乾等により乾燥させ、乾燥細胞を得る。 当該細胞から、有機溶媒抽出等の公知の手法により、目的とする脂質を抽出することができる。 有機溶媒としてはヘキサン、エーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、クロロホルム、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の、高度不飽和脂肪酸の溶解性が高く、かつと分離可能な溶媒が挙げられる。 または、これらの有機溶媒を組み合わせて使用することもできる。 抽出物から減圧等で有機溶媒を留去することにより、目的の脂質を抽出することができる。 あるいは、細胞を乾燥させずに、湿細胞から脂質の抽出を行うこともできる。 得られた脂質は、脱ガム、脱酸、脱臭、脱色、カラム処理、蒸留等一般的な方法を適宜用いてさらに精製されてもよい。

    上記抽出した脂質の中には、本発明の方法の目的物であるEPA以外に、夾雑物となる各種脂肪酸が含まれている。 したがって、上記脂質をさらに精製してより純度の高いEPAを取得することができる。 EPAは、脂質から直接分離することもできるが、一旦脂質中の脂肪酸を低級アルコールとのエステル誘導体に変換した後に、目的とするEPAのエステル誘導体を分離することが好ましい。 エステル誘導体は、炭素数、二重結合の数、位置の違い等に応じて、各種分離精製操作を用いることによって分離することができるため、容易に目的の脂肪酸のエステル誘導体を得ることができる。 しかしながら、EPAと炭素数が同一で二重結合数が一つ異なるアラキドン酸は、EPAとの分離が難しいため、EPAを含有する脂質中にアラキドン酸は少ないことが好ましい。 エステル誘導体は、エチルエステル誘導体が好ましい。 エステル化には、塩酸、硫酸、BF3等の酸触媒、またはナトリウムメトキシド、水酸化カリウム等の塩基触媒を含む低級アルコールを使用することができる。 得られたエステル誘導体から、銀錯体法(例えば、特許第2786748号、特許第2895258号、特許第2935555号、特許第3001954号)、カラムクロマトグラフィー、低温結晶化法、尿素付加分別法等を単独または組み合わせて、目的とするEPAのエステル誘導体を分離することができる。 分離したEPAのエステル誘導体を、アルカリで加水分解した後、エーテル、酢酸エチル等の有機溶媒で抽出することにより、EPAを精製することができる。 EPAは塩の形態で精製されてもよい。

    本発明によるEPAを高含有する脂質の生産を工業的な規模で行う場合、例えば、本発明のω3不飽和化酵素を発現する脂質生産微生物をタンク中等で大規模培養し、フィルタープレス等でろ過し、細胞を回収して乾燥後、ボールミル等で細胞を破砕し、有機溶媒で脂質を抽出することができる。 また、工業規模で微生物中の成分を抽出して利用する方法や、脂質からEPAを精製する方法は数多く知られており、これらを適宜改変して本発明の方法に利用することもできる。

    本発明のω3不飽和化酵素を用いてETAを生産するためには、好ましくは、上述した本発明のω3不飽和化酵素を発現する細胞においてΔ5不飽和化酵素の活性を低下させる。 これによって、該細胞はEPAの代わりにETAを主に生産する。 細胞のΔ5不飽和化酵素活性の低下は、例えば、Δ5不飽和化酵素欠損株に本発明の酵素を発現させるか、またはRNAiによって細胞におけるΔ5不飽和化酵素の発現を阻害することによって達成することができる。 細胞の培養、細胞からのETA含有脂質の抽出、ETAの精製の手順は、上述したEPAの場合と同様である。

    本発明で得られたEPA、ETAまたはそれらの塩は、ヒトまたは非ヒト動物用の医薬品、化粧料、食品、飼料等の製造に使用することができる。 当該医薬品の剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤等の経口剤;注腸剤、坐剤等の経腸製剤;点滴剤;注射剤;外用剤;経皮、経粘膜、経鼻剤;吸入薬;貼布剤等が挙げられる。 また当該化粧料の形態としては、クリーム、乳液、ローション、懸濁液、ジェル、パウダー、パック、シート、パッチ、スティック、ケーキ等、化粧品が通常とり得る任意の形態が挙げられる。

    好ましくは、上記医薬品または化粧料は、血小板凝集阻害、血中中性脂肪低下、抗動脈硬化、血液粘度低下、血圧降下、抗炎症、抗腫瘍のための医薬品または化粧料であり得る。 上記医薬品または化粧料は、EPA、ETAまたはそれらの塩を有効成分として含有する。 上記医薬品または化粧料はまた、医薬として許容される担体または化粧料として許容される担体、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、pH調整剤、分散剤、乳化剤、防腐剤、酸化防止剤、着色剤、アルコール、水、水溶性高分子、香料、甘味料、矯味剤、酸味料等を含有していてもよく、さらに必要に応じて他の有効成分、例えば薬効成分、化粧成分等を含有していてもよい。 上記医薬または化粧料は、EPA、ETAまたはそれらの塩に、上記担体や他の有効成分を剤型に応じて配合し、常法に従って調製することにより、製造することができる。 上記医薬または化粧料におけるEPAまたはETAの含有量は、その剤型により異なるが、通常は、0.1〜99質量%、好ましくは1〜80質量%の範囲である。

    上記飲食品または飼料は、EPA、ETAまたはそれらの塩を有効成分として含有する。 これらの飲食品または飼料は、血小板凝集阻害作用、血中中性脂肪低下作用、抗動脈硬化作用、血液粘度低下作用、血圧降下作用、抗炎症作用、抗腫瘍作用等の効果を企図して、その旨を表示した健康食品、機能性飲食品、特定保健用飲食品、病者用飲食品、家畜、競走馬、鑑賞動物等のための飼料、ペットフード等であり得る。

    上記飲食品または飼料の形態は特に制限されず、EPA、ETAまたはそれらの塩を配合できる全ての形態が含まれる。 例えば、当該飲食品の形態としては、固形、半固形または液状であり得、あるいは、錠剤、チュアブル錠、粉剤、カプセル、顆粒、ドリンク、ゲル、シロップ、経管経腸栄養用流動食等の各種形態が挙げられる。 具体的な飲食品の形態の例としては、緑茶、ウーロン茶や紅茶等の茶飲料、コーヒー飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、乳飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料、発酵乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、アルコール飲料、精製水などの飲料、バター、ジャム、マーガリンなどのスプレッド類、ふりかけ、マヨネーズ、ショートニング、カスタードクリーム、ドレッシング類、パン類、米飯類、麺類、パスタ、味噌汁、豆腐乳、ヨーグルト、スープまたはソース類、菓子(例えばビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム、タブレット)などが挙げられる。 上記飼料は、飲食品とほぼ同様の組成や形態で利用できることから、本明細書における飲食品に関する記載は、飼料についても同様に当てはめることが出来る。

    上記飲食品または飼料は、EPA、ETAまたはそれらの塩、ならびに飲食品や飼料の製造に用いられる他の飲食品素材、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸、各種油脂、種々の添加剤(例えば呈味成分、甘味料、有機酸等の酸味料、界面活性剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、色素、フレーバー)等を配合して、常法に従って調製することにより製造することができる。 あるいは、通常食されている飲食品または飼料にEPA、ETAまたはそれらの塩を配合することにより、本発明に係る飲食品または飼料を製造することができる。 上記飲食品または飼料におけるEPAまたはETAの含有量は、食品の形態により異なるが、通常は、0.01〜80質量%、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは1〜30質量%の範囲である。

    以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。

    (培地)
    GY培地:2%(w/v)グルコース、1%酵母エキス。
    Czapek−Dox寒天培地:3%スクロース、0.2%NaNO 3 、0.1%KH 2 PO 4 、0.05%KCl、0.05%MgSO 4・7H 2 O、0.001%FeSO 4・7H 2 O、2%寒天、pH6.0。
    YPD培地:ポリペプトン20g、酵母抽出物10g、アデニン0.4g、寒天20gおよびグルコース20gを1000mLの水に希釈。
    LB−Mg寒天培地:1%トリプトン、0.5%酵母エキス、85mM NaCl、0.5mM MgSO 4・7H 2 O、0.5mM NaOH、1.5%寒天、pH7.0。
    最少培地(MM):10mM K 2 HPO 4 、10mM KH 2 PO 4 、2.5mM NaCl、2mM MgSO4・7H 2 O、0.7mM CaCl 2 、9μM FeSO 4・7H 2 O、4mM (NH 42 SO 4 、10mMグルコース、pH7.0。
    誘導培地(IM):MMに0.5%(w/v)グリセロール、200μMアセトシリンゴン、40mM 2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)を加えて、pH5.3に調製。
    SC培地:5.0g Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate(Difco)、1.7g (NH 42 SO 4 、20gグルコース、20g寒天、20mgアデニン、30mgチロシン、1.0mgメチオニン、2.0mgアルギニン、2.0mgヒスチジン、4.0mgリジン、4.0mgトリプトファン、5.0mgスレオニン、6.0mgイソロイシン、6.0mgロイシン、6.0mg Lフェニルアラニン。

    実施例1 ω3不飽和化酵素の同定 プレクトスピラ・ミリアンドラをGY培地10mL中にて28℃で5日間振とう培養し、菌体を回収した。 集菌した菌体を2mLチューブに入れ、ビーズショッカー(Yasui Kikai)を用いて1700rpm、10秒×2回の条件にて破壊した。 破壊した菌体から、ISOGEN(Bio−Rad)を用いて、製品プロトコールに従いmRNAを抽出した。 抽出したmRNAを、Prime Script TM II High Fidelity RT−PCR Kit(TaKaRa)およびプライマー〔5'−GAAATGGCCGACGTGAACACCTCCTCGC−3'(配列番号7)、および5'−CTATGCGCGCTTGGTGAGCACCTCGC−3'(配列番号8)〕を用いて逆転写し、配列番号3で示されるcDNAを調製した。 このcDNAは、配列番号4で示されるアミノ酸配列のポリペプチドをコードしていた。

    次いで、配列番号3の配列から、プレクトスピラ・ミリアンドラのゲノムDNA検索を行い、相当するゲノムDNA配列を同定した。 さらに当該ゲノムDNA配列からイントロンを除去したポリヌクレオチドを設計し、これをもとにDNAを化学合成した。 設計したポリヌクレオチドは、配列番号1のヌクレオチド配列からなり、配列番号2で示されるアミノ酸配列のポリペプチドをコードしていた。 配列番号2と配列番号4とでは、全アミノ酸配列355残基中、4つのアミノ酸が異なっていた(アミノ酸配列同一性約98.9%)。

    上記で調製したcDNA(配列番号3)を、酵母発現用ベクターpYE22m(Biosci.Biotech.Biochem.,1995,59:1221−1228)に組み込み、このベクターをサッカロマイセス・セレビシエInvSc1株(トリプトファン要求性の油性酵母)にエレクトロポレーション法により導入し、形質転換した。 上記で調製した合成DNA(配列番号1)についても、同様にベクターを構築し、形質転換株を作製した。 各形質転換株をYPD培地にて28℃で1日間培養し、組み込んだcDNAからポリペプチドを発現させた。 なお、この培養条件では当該油性酵母本来のω3不飽和化酵素は発現しない。 次いで、培地に各種ω6不飽和脂肪酸:リノール酸(LA、18:2n−6)、γ−リノレン酸(GLA、18:3n−6)、ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA、20:3n−6)、またはアラキドン酸(ARA、20:4n−6)を添加して28℃で2日間培養し、その後ω3不飽和化によって生成する対応するω3不飽和脂肪酸:α−リノレン酸(ALA、18:3n−3)、ステアドリン酸(SDA、18:4n−3)、エイコサテトラエン酸(ETA、20:4n−3)、またはエイコサペンタエン酸(EPA、20:5n−3)の量をガス液体クロマトグラフィー(GLC)により測定した。

    その結果、炭素数20のDGLAおよびARAは、いずれも対応するω3不飽和脂肪酸へと変換されたが、炭素数18のLAおよびGLAは対応するω3不飽和脂肪酸へと変換されなかった。 このことから、上記合成DNA(配列番号1)にコードされるポリペプチド(配列番号2)および上記cDNA(配列番号3)にコードされるポリペプチド(配列番号4)が、いずれも、常温下で炭素数20の脂肪酸に対して基質特異的に作用するω3不飽和化酵素(すなわち、Δ17不飽和化酵素)であることが確認された(表1)。

    実施例2 ω3不飽和化酵素遺伝子導入用ベクターの作製 配列番号1のヌクレオチド配列を、M. alpinaにあわせてコドン至適化し、配列番号5で示されるポリヌクレオチドを得た。 この配列番号5で示されるポリヌクレオチドのCDSの上流および下流にSpeIおよびBamHIサイトを構築し、SpMA−RQ(ampR)プラスミドにクローニングした。 調製したプラスミドを、SpeIおよびBamHI制限酵素で処理し、得られた遺伝子の断片を、恒常的高発現プロモーターであるSSA2プロモーターを含むプラスミドpBIG35(京都府立大学から提供されたpBIG2RHPH2を改変、Appl.Environ.Microbiol.,2009,75:5529−5535に記載)に連結し、発現カセットを構築した。 当該発現カセットを、さらに、ウラシル要求性のマーカー遺伝子(ura5)とタンデムに連結させ、形質転換用バイナリーベクター、pBIGSSA2pPmD17genome−intron modを構築した(図2)。

    実施例3 ω3不飽和化酵素遺伝子導入株の作製 M. alpina(ウラシル要求性株)を0.05mg/mLウラシル含有Czapek−Dox寒天培地で培養し、培養物を集菌し、次いでMiracloth(Calbiochem)でろ過することで、M. alpinaの胞子懸濁液を調製した。 当該M. alpina(ウラシル要求性株)に、実施例2で構築したpBIGSSA2pPmD17genome−intron modベクターを以下に説明するATMT法(Appl.Environ.Microbiol.,2009,75:5529−5535)により導入し、ω3不飽和化酵素導入株を作製した。

    アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens C58C1、京都府立大学から提供)に、上記バイナリーベクターpBIGSSA2pPmD17genome−intron modをエレクトロポレーションにて導入し、LB−Mg寒天培地にて28℃で48時間培養した。 PCR法で当該ベクターを含むアグロバクテリウムを選別した。 当該ベクターを有するアグロバクテリウムを最小培地(MM)で2日間培養し、5,800×gで遠心分離し、新鮮な誘導培地(IM)を加えて懸濁液を調製した。 当該懸濁液を、8〜12時間、28℃でOD 660が0.4から3.7になるまでロータリーシェーカーで誘導培養した。 培養後の菌懸濁液100μLを、等量の上記M. alpina懸濁液(10 8 mL -1 )と混合し、ニトロセルロース膜(直径70mm;hardened low−ash grade 50、Whatman)を載せた共培養培地(IMと同様の組成、ただし、10mMグルコースの代わりに5mMグルコースおよび1.5%寒天を含む)上に塗布し、23℃で2〜5日間培養した。 共培養後、当該膜をウラシルフリー、50g/mLセフォタキシムおよび50g/mLスペクチノマイシン、0.03%Nile blue A(Sigma)を含むSC培地に移し、28℃で5日間培養した。 可視可能な真菌コロニーからの菌糸を、新鮮なウラシルフリーSC培地に移した。 ウラシルフリーSC培地で増殖することができるが、5−フルオロオロチン酸(5−FOA)を含むGY培地では増殖できない菌体を、形質を安定して保持するω3不飽和化酵素遺伝子導入株と判断した。 形質を安定して保持する形質転換体を選抜するために当該作業を3回行った。

    実施例4 ω3不飽和化酵素遺伝子導入用ベクターの作製 配列番号3のヌクレオチド配列を、M. alpinaにあわせてコドン至適化し、配列番号6で示されるポリヌクレオチドを得た。 この配列番号6で示されるポリヌクレオチドを用いた以外は、実施例2と同様にして、形質転換用バイナリーベクターpBIGSSA2pPmD17cDNAmodを構築した(図2)。

    実施例5 ω3不飽和化酵素遺伝子導入株の作製 遺伝子導入用ベクターとしてpBIGSSA2pPmD17cDNAmodを用いた以外は、実施例3と同様の手順でω3不飽和化酵素導入株を作製した。

    実施例6 ω3不飽和化酵素遺伝子導入株によるω3不飽和脂肪酸の生産 実施例3および5で得られたω3不飽和化酵素遺伝子導入M. alpina株を、それぞれ4mLのGY培地にて、28℃で3、7、および10日間、120rpmで好気的に培養した。 対照として、当該ω3不飽和化酵素遺伝子を導入していないM. alpina株を同様に培養した。 各培養液から吸引ろ過にて菌体を回収し、120℃で3時間乾燥した。 乾燥菌体に、0.5mg/mLの内部標準(M.alpinaが生合成できない炭素数23の飽和脂肪酸)を含むジクロロメタン溶液1mLおよび塩酸メタノール2mLを加え、55℃、2時間の温浴にて脂肪酸をメチルエステル化した。 反応液に蒸留水1mLとヘキサン4mLを加えてヘキサン層を抽出し、減圧遠心して脂肪酸メチルエステルを回収した。
    回収したサンプルをクロロホルムに溶解し、ガス液体クロマトグラフィー(GLC)にてサンプル中の脂肪酸組成を測定した。 GLCは、島津社製GC−2010を用い、GLサイエンス社製キャピラリーカラムTC70(0.25mm×60m)を用い、カラム温度180℃、気化室温度250℃、検出器温度250℃、キャリアガスHe、メイクアップガスN 2 、H 2流量40mL/min、Air流量400mL/min、スプリット比50、分析時間30minの条件にて行った。 抽出された各脂肪酸の量を、GLCのチャートのピーク面積値から内部標準の脂肪酸量を基準として定量し、培養液1mL当たりおよび乾燥菌体1mgあたりの各脂肪酸の量を算出した。 さらに、総脂肪酸量に対する各脂肪酸の割合を求めた。
    その結果、実施例3および実施例5のω3不飽和化酵素遺伝子導入株では、それぞれ、最大40.8%および39.6%のEPAの蓄積がみられた(図3)。 一方、対照株ではEPAは産生されなかった(蓄積を測定できず)。

    実施例7 ω3不飽和化酵素活性の比較 本発明のω3不飽和化酵素を保有するプレクトスピラ・ミリアンドラと、Δ17不飽和化酵素を保有することが報告されているサプロレグニア・ディクリナ(例えば、特許文献4)との間で、炭素数20の脂肪酸に対するω3不飽和化活性を比較した。 さらに、他の8種のサプロレグニア・ディクリナ類縁菌についてもω3不飽和化活性を調べた。
    表2に記載のプレクトスピラ・ミリアンドラ(NBRC No.32548)、サプロレグニア・ディクリナ(NBRC No.32710)、および他の8種の菌株を、それぞれ5mLのGY培地にて、28℃で7日間培養し、培養後の培地における、ω3不飽和化酵素の産物であるEPA(20:5n−3)と、その基質となるARA(20:4n−6)の量を、ガス液体クロマトグラフィー(GLC)により測定した。
    その結果、表2に示すとおり、プレクトスピラ・ミリアンドラでは、サプロレグニア・ディクリナおよびその類縁菌と比べて、ARAに対するEPAの含有比が高かった。 これらの結果から、プレクトスピラ・ミリアンドラのω3不飽和化酵素が、ARAからEPAへの変換効率が高く、効率よくEPAを産生することができる酵素であることが示唆された。

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