デサチュラーゼの基質特異性を変換するための方法

申请号 JP2016540016 申请日 2014-12-17 公开(公告)号 JP2017500862A 公开(公告)日 2017-01-12
申请人 ビーエーエスエフ プラント サイエンス カンパニー ゲーエムベーハー; ビーエーエスエフ プラント サイエンス カンパニー ゲーエムベーハー; 发明人 センガー,トラルフ; ブリンテン,パトリシア; ロン リム,ツェ; ロン リム,ツェ;
摘要 提供されるのは、デルタ5及び/又はデルタ6デサチュラーゼの基質特異性を、デルタ4デサチュラーゼの基質特異性に変換するための方法、及びデルタ4デサチュラーゼの基質特異性を、デルタ5デサチュラーゼ及び/又はデルタ6デサチュラーゼの基質特異性に変換するための方法である。基質特異性を変換したデサチュラーゼもまた提供される。【選択図】なし
权利要求

a)(i)Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼ並びに(ii)Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基を特定する工程、及び b)工程a)に記載のΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼのアミノ酸配列中で、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基を、Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する対応の領域及び/又はアミノ酸残基に置き換え、それによって、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性をΔ4デサチュラーゼの基質特異性に変換する工程 を含む、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性をΔ4デサチュラーゼの基質特異性に変換するための方法。a)(i)Δ4デサチュラーゼ、並びに(ii)Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基を特定する工程、及び b)工程a)に記載のΔ4デサチュラーゼのアミノ酸配列中で、Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基を、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する対応の領域及び/又はアミノ酸残基に置き換え、それによって、Δ4デサチュラーゼの基質特異性をΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性に変換する工程 を含む、Δ4デサチュラーゼの基質特異性をΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性に変換するための方法。Δ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼが、ω3とω6の両方の基質に基質特異性を有する、請求項1又は2に記載の方法。Δ4デサチュラーゼの基質特異性が、22:5ω3及び22:4ω6にあり、Δ5デサチュラーゼの基質特異性が、20:4ω3及び20:3ω6にあり、Δ6デサチュラーゼの基質特異性が、18:3ω3及び18:2ω6にあり、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性が、20:4ω3、20:3ω6、18:3ω3及び18:2ω6にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。Δ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼが、 a)モノシガ・ブレビコリス(Monosiga brevicollis)、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)、エミリアナ・フクスレイイ(Emiliana huxleyi)、パブロバ・ルテリ(Pavlova lutheri)、パブロバ・サリナ(Pavlova salina)、スファエロフォルマ・アルクティカ(Sphaeroforma arctica)、シモフリアイゴ(Siganus canaliculatus)、タラシオシラ・スードナナ(Thalassiosira pseudonana)又はラビリンチュラ属の種(Thraustochytrium sp.)由来のΔ4デサチュラーゼ、 b)アトランティックサーモン、ピシウム・イレグラレ(Pythium irregulare)、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)、オストレオコッカス・ルシマリヌス(Ostreococcus lucimarinus)、オストレオコッカス・タウリ(Ostreococcus tauri)、シモフリアイゴ又はセイヨウユキワリソウ(Primula farinosa)由来のΔ6デサチュラーゼ、 c)ラビリンチュラ属の種、パブロバ・サリナ、モルティエレラ・アルピナ、アトランティックサーモン又はシモフリアイゴ由来のΔ5デサチュラーゼ、及び d)シモフリアイゴ又はゼブラフィッシュ由来のΔ5/Δ6デサチュラーゼ から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。Δ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼが、配列番号174のアミノ酸配列を含むシモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼ、及び配列番号172のアミノ酸配列を含むシモフリアイゴのΔ5/Δ6デサチュラーゼである、請求項5に記載の方法。Δ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基が、膜貫通ドメイン内に、好ましくは第3の膜貫通ドメイン内に局在する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基が、アミノ酸配列「YNYN」(280〜283位)を含み、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基が、アミノ酸配列「FHYQ」(278〜281位)を含む、請求項7に記載の方法。Δ4デサチュラーゼ並びにΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼのアミノ酸配列が、少なくとも40%の配列同一性を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。好ましくは請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法によって取得可能である、Δ4デサチュラーゼの基質特異性を有するΔ5及び/若しくはΔ6デサチュラーゼ、又はΔ5及び/若しくはΔ6デサチュラーゼの基質特異性を有するΔ4デサチュラーゼ。Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性が、Δ4デサチュラーゼの基質特異性に変換されており、 a)配列番号2、4、6又は8に示されるアミノ酸配列、及び b)配列番号2、4、6又は8に少なくとも50%の同一性があり、Δ4位でドコサペンタエン酸(DPA)を不飽和化することが可能なアミノ酸配列 から成る群から選択されるアミノ酸配列を含む、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼ。Δ4デサチュラーゼの基質特異性が、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性に変換されており、 a)配列番号10、12、14又は16に示されるアミノ酸配列、及び b)配列番号10、12、14又は16に少なくとも50%の同一性があり、Δ6位でアルファ-リノレン酸(ALA)を不飽和化することが可能なアミノ酸配列 から成る群から選択されるアミノ酸配列を含む、Δ4デサチュラーゼ。a)配列番号18、20、22、24又は26に示されるアミノ酸配列、及び b)配列番号18、20、22、24又は26に少なくとも50%の同一性があり、Δ4位でドコサペンタエン酸(DPA)及びΔ6位でアルファ-リノレン酸(ALA)を不飽和化することが可能なアミノ酸配列 から成る群から選択されるアミノ酸配列を含む、Δ4デサチュラーゼ及びΔ6デサチュラーゼの基質特異性を有するデサチュラーゼ。以下の一般式I [式中、 変数及び置換基は以下の通りである: R1=ヒドロキシル、コエンザイムA(チオエステル)、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルグリセロール、リゾジホスファチジルグリセロール、リゾホスファチジルセリン、リゾホスファチジルイノシトール、スフィンゴ塩基、又は式IIの基であり、 R2=素、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、又は飽和若しくは不飽和のC2〜C24-アルキルカルボニルであり、 R3=水素、飽和若しくは不飽和のC2〜C24-アルキルカルボニルであるか、又はR2及びR3は互いに独立して式Iaの基であり、 n=2、3、4、5、6、7又は9、m=2、3、4、5又は6、及びp=0又は3である] に示される構造を有する物質を生産するための方法であって、 (i)請求項10〜13のいずれか1項に記載のデサチュラーゼを発現する宿主細胞、又は(ii)請求項10〜13のいずれか1項に記載のデサチュラーゼを発現するトランスジェニック非ヒト生物を、該物質の生合成を可能にする条件下で培養することを含む、前記方法。

说明书全文

本発明は、デサチュラーゼの基質特異性を変換するための方法に関する。具体的には、本発明は、(i)デルタ(Δ)5及び/又はΔ6デサチュラーゼ並びに(ii)Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基を特定する工程、及び前述のΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼのアミノ酸配列内で、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基を、Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する対応の領域及び/又はアミノ酸残基に置き換え、それによって、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性をΔ4デサチュラーゼの基質特異性に変換する工程を含む、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性をΔ4デサチュラーゼの基質特異性に変換する方法に関する。本発明は、さらに、(i)Δ4デサチュラーゼ、並びに(ii)Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基を特定する工程、及び示したΔ4デサチュラーゼのアミノ酸配列内で、Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基を、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する対応の領域及び/又はアミノ酸残基に置き換え、それによって、Δ4デサチュラーゼの基質特異性をΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性に変換する工程を含む、Δ4デサチュラーゼの基質特異性をΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性に変換する方法に関係する。さらに、本発明は、基質特異性を変換されたデサチュラーゼを包含する。

アラキドン酸(ARA、20:4ω6)、エイコサペンタエン酸(EPA、20:5ω3)、ドコサペンタエン酸(DPA、22:5ω3)やドコサヘキサエン酸(DHA、22:6ω3)などの非常に長鎖の多価不飽和脂肪酸は、細胞膜の必須の構成成分であり、動物及びヒトでの様々な生理活性の調節に関与するホルモン様生物活性化合物(エイコサノイド及びドコサノイド)群の前駆体である。これらの脂肪酸の生合成は、脂肪酸の不飽和化及び伸長を変化させるプロセスに関与し、それらのプロセスは、脂肪酸デサチュラーゼ及びエロンガーゼによってそれぞれ媒介される。

脂肪酸デサチュラーゼは、脂肪酸の炭化素鎖から2つの水素原子を除去し、その結果、二重結合を形成することによって作用する(Shanklinら、2009、Meesapyodsuk及びQiu, 2012)。一般にコンセンサス配列H-X[3-4]-H、H-X[2-3]-H-H及びH-X[2]-H-Hを含有する保存された3つのヒスチジンボックスは、ほぼ全ての脂肪酸デサチュラーゼに見られる(Pereiraら、2003)。これらの3つのヒスチジンボックスは、デサチュラーゼの活性部位を形成し、二鉄錯体の形成に関与する(Sperlingら、2001; Shanklinら、2009)。Shanklin及びその同僚(1994)は、部位特異的突然変異誘発を使用することによって、これらのボックスの8つのヒスチジン残基のそれぞれが、ラット肝由来のステアロイル-CoAΔ9デサチュラーゼの触媒機能に必須であることを示した。さらに、Brounら(1998)は、そのヒスチジンボックスの近接近位のアミノ酸を改変して、オレイン酸12-デサチュラーゼのヒドロキシラーゼへの変換、またその逆を可能にした。同様に、麦菌(Claviceps purpurea)Δ12及び15デサチュラーゼのヒスチジンボックスに近接したアミノ酸改変もまた、酵素の触媒特性及び位置選択性に影響を及ぼす(Meesapyodsukら、2007)。

DHAなどの非常に長鎖のΔ4-不飽和脂肪酸を形成するためのいくつかの経路が示唆されてきた。DHA合成のための1つの経路は、18:3ω3を基質として使用するが、この基質は、Δ6不飽和化及びΔ6伸長を経て20:4ω3を形成し、それにΔ5不飽和化工程及びΔ5伸長が続いて22:5ω3を形成する(Napierら、2003; Napier及びSayanova、2005)。古くから、哺乳類にΔ4デサチュラーゼ活性が観察されなかったことから(Zhengら、2004)、22:5ω3から22:6ω3を生産するための主要な経路は、Δ7伸長及びΔ6不飽和化を介して進行し、24:6ω3を生産し、β酸化反応がそれに続いて、脂肪酸から2つの炭素単位を除去するものと考えられた(Sprecherら、1995; Sprecher、2000)。22:5ω3から22:6ω3を生産するためのさらに簡単な経路は、Δ4不飽和化を介し、注目すべきは、最初のΔ4デサチュラーゼが2001年に海洋原生生物のラビリンチュラ(Thraustochytrium)からクローニングされたことである(Qiuら、2001)。以来、他のいくつかのグループが、原生生物及び微細藻類からΔ4デサチュラーゼを同定してきた(Meyerら、2003; Tonon、2003; Tripodiら、2006; Zhouら、2007; Ahmannら、2011)。最近では、脊椎動物の最初のΔ4デサチュラーゼ遺伝子が、海洋硬骨魚のシモフリアイゴ[Siganus canaliculatus(S.canaliculatus)]から単離され(Liら、2010)、このことは、脊椎動物にも同様に、DHA生合成に利用可能なさらに直接的な機構が存在しうることを示唆している。

これまで、Δ5及びΔ6脂肪酸不飽和化活性を示す魚種は、アトランティックサーモン、ゼブラフィッシュ及びシモフリアイゴのみである(Hastingsら、2001; Hastingsら、2005; Zhengら、2005; Liら、2010)。アトランティックサーモンは、Δ5及びΔ6不飽和化活性をコードする別々の遺伝子を有し、一方で、ゼブラフィッシュ及びシモフリアイゴは、二機能性のΔ5/Δ6脂肪酸デサチュラーゼ遺伝子を保持する。

デサチュラーゼの構造、機能及び進化、並びに非常に長鎖の多価不飽和脂肪酸の生合成でのそれらの役割をさらによく理解することは、例えば栄養補助食品市場用のトランスジェニック油糧植物中で、これらの脂肪酸の生産を工学的に作り出すための好機を与える。多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、脊椎動物がde novoで合成することができず、そのため、日々の飲食物で得なければならない。それゆえ、多価不飽和脂肪酸を用いて食物及び食餌を強化することを可能にするために、これらの多価不飽和脂肪酸を生産するための手段及び方法が強く求められている。

本発明の基づく目的は、そのような手段及び方策を提供することである。この目的は、特許請求の範囲及び本明細書の以下に記載される実施形態によって達成される。

本発明は、それゆえ、 a)(i)デルタ(Δ)5及び/又はΔ6デサチュラーゼ、並びに(ii)Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基を特定する工程、及び b)工程a)に記載のΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼのアミノ酸配列中で、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基を、Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する対応の領域及び/又はアミノ酸残基に置き換え、それによって、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性をΔ4デサチュラーゼの基質特異性に変換する工程 を含む、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性をΔ4デサチュラーゼの基質特異性に変換する方法に関する。

本発明は、さらに、 a)(i)Δ4デサチュラーゼ、並びに(ii)Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基を特定する工程、及び b)工程a)に記載のΔ4デサチュラーゼのアミノ酸配列中で、Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基を、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する対応の領域及び/又はアミノ酸残基に置き換え、それによって、Δ4デサチュラーゼの基質特異性をΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性に変換する工程 を含む、Δ4デサチュラーゼの基質特異性をΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性に変換する方法に関連する。

VectorNTIソフトウェアによって生成した、シモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼ(GenBank受託番号:GU594278.1、配列番号174)及びΔ5/Δ6デサチュラーゼ(GenBank受託番号:EF424276.2、配列番号172)の推定アミノ酸配列のアラインメントを示す図である。非同一の残基を灰色で強調する。チトクロームb

5様のドメインを波線で下線表示する。2つの遺伝子間の機能的な多様性を決定する4つのアミノ酸残基を太字で示す。ヒスチジンボックスを点線で下線表示し、推定上の膜貫通ドメインを実線で下線表示する。

TOPCONS膜トポロジー予測ソフトウェアに基づく、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼの推定上のタンパク質のトポロジーを示す図である。膜トポロジーは、内部(細胞質)の範囲へのN末端又はC末端の領域を再染色することによって生成された。Hはヒスチジンボックスを表す。星印は、基質鎖長特異性及び位置特異性に関与する4つアミノ酸残基のおおよその場所を示す。

空のpYES2.1/V5-His-TOPOベクターを含有する酵母細胞のガスクロマトグラムを示す図である。A、脂肪酸の供給なし。B、DPAを外因的に供給。C、ALAを外因的に供給。

シモフリアイゴの野生型及び変異型のデサチュラーゼを発現する酵母細胞のガスクロマトグラムを示す図である。A、シモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼ(配列番号174)。B、シモフリアイゴのΔ5/Δ6デサチュラーゼ(配列番号172)。C、シモフリアイゴのキメラデサチュラーゼSig-3C。D、シモフリアイゴのキメラデサチュラーゼSig-4C。E、シモフリアイゴのキメラデサチュラーゼSig-5C(配列番号10)。F、シモフリアイゴのキメラデサチュラーゼSig-6C(配列番号2)。G、シモフリアイゴのキメラデサチュラーゼSig-17C(配列番号16)。H、シモフリアイゴのキメラデサチュラーゼSig-18C(配列番号8)。上部と下部のパネルは、DPA及びALAをそれぞれ供給した培養物から得た結果を示す。

関連する変換パーセンテージを付したシモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6キメラ遺伝子構築物の略図である。酵素内のドメインの置換。シモフリアイゴΔ4配列(配列番号174)を白いバー(左)で表し、シモフリアイゴΔ5/Δ6配列(配列番号172)を黒いバー(右)で表す。

関連の変換パーセンテージを付したシモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6キメラ遺伝子構築物の略図である。酵素内のドメインの置換。決定的に重要な8アミノ酸領域内の置換。各キメラ遺伝子に示されるアミノ酸残基は、ドメイン置換の始まりと終わりを表す。変換パーセンテージは、3つの別個のアッセイの平均値±SDである。シモフリアイゴΔ4配列(配列番号174)を白いバーで表し、シモフリアイゴΔ5/Δ6配列(配列番号172)を黒いバーで表す。太字のアミノ酸残基は、変えた残基を表す。変換率は、3つの別個のアッセイの平均値±SDである。

基質特異性に決定的に重要なΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼの領域内へ導入されたアミノ酸置換を示す図である。残基の付番は、Δ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼのアミノ酸配列「YNYN」及び「FHYQ」にそれぞれ基づく。Δ4デサチュラーゼ由来の残基が、Δ5/Δ6配列の対応の位置内へ置換され、逆もまた同様であった。

シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼのキメラタンパク質の構築並びに部位特異的突然変異誘発するために、本研究で使用したプライマーを示す図である。F:フォワードプライマー、R:リバースプライマー。

対応の配列番号に対するシモフリアイゴのキメラタンパク質の核酸配列及びアミノ酸配列の割り当てを表す図である。

図9に示されるシモフリアイゴのキメラタンパク質のアミノ酸配列のアラインメントを示す図である。

図10Aの続きである。

図10Bの続きである。

ω3-及びω6-デサチュラーゼは、基質の選好性及び位置特異性に関してはよく研究されているものの、Δ4、Δ5やΔ6デサチュラーゼなどの膜結合型の「フロントエンドの」長鎖脂肪酸デサチュラーゼについては、比較的あまり知られていない。例えば、脊椎動物の最初のΔ4デサチュラーゼは、最近、海洋硬骨魚のシモフリアイゴ(S.canaliculatus)で同定されたのみであり、シモフリアイゴはまた、二機能性のΔ5/Δ6デサチュラーゼを有する。シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼは、ω3とω6との両方の基質に活性がある。すなわち、Δ4デサチュラーゼは、22:5ω3及び22:4ω6に作用し、Δ5/Δ6デサチュラーゼは、18:3ω3、18:2ω6、20:4ω3及び20:3ω6に作用する(Liら、2010)。例として、シモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼは、DPAω3のΔ4位に二重結合を導入し、それによってDHAω3を生産し、一方、シモフリアイゴのΔ5/Δ6デサチュラーゼは、アルファ(α)-リノレン酸(ALA、18:3ω3)のΔ6位に二重結合を導入してステアリドン酸(SDAω3、18:4ω3)を生産する。どちらの酵素もω3脂肪酸への選好性を有することが、酵母発現系で示されている(Liら、2010)。シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼは、基質の鎖長に対する特異性及び位置選択性に関して機能的に異なるとはいえ、これらの酵素は、高度なアミノ酸同一性を共有する(83%)。

以下の実施例に示されるように、本発明者らは、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼのアミノ酸配列中で、これらの高度に類似した2つのデサチュラーゼ間の機能的な多様性の原因となる特異的な領域及びアミノ酸残基を特定することができた。これに至るために、シモフリアイゴの一連のキメラΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼが設計され、該キメラでは、Δ4遺伝子とΔ5/Δ6遺伝子との間のアミノ酸配列の比較に基づいて、一方の酵素の領域が他方の対応の領域に置き換えられている。本発明者らは、次いで、酵母にて、機能的特性解析によって、酵素の基質特異性及び位置選択性へのこれらの変異の効果を解析している。驚くべきことに、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼのキメラポリペプチドを酵母で異種発現したところ、4アミノ酸領域の置換が、Δ5/6デサチュラーゼをΔ4デサチュラーゼ活性のみを有する酵素に変換するのに充分であり、逆もまた同様であることが示された。具体的には、本発明者らは、シモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼのアミノ酸配列(配列番号174)の280〜283位に対応する「YNYN」を含有する別々のタンパク質領域と、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼの基質鎖長特異性と位置選択性の両方の原因であるシモフリアイゴのΔ5/6デサチュラーゼのアミノ酸配列(配列番号172)の278〜281位にある対応のアミノ酸残基「FHYQ」とを特定することができた。思いがけないことに、シモフリアイゴのデサチュラーゼの基質特異性及び位置選択性に影響を与えるその決定的に重要な4つのアミノ酸は、推定上の第3の膜貫通ドメインに位置することが予想されている。さらに、本発明者らは、前述の4アミノ酸領域内での単独又は二重のアミノ酸置換によって、Δ4及びΔ6の両方のデサチュラーゼ活性を有する酵素を生産することができた。

以下の実施例にさらに説明されるように、本発明によって提供されるデサチュラーゼの基質特異性を変換するための方法は、シモフリアイゴのデサチュラーゼのみに限定されず、他の任意のΔ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼ、並びに特に、本明細書に規定されるような「フロントエンド」デサチュラーゼの基質特異性の変換にも使用することができる。したがって、前記の本発明の方法は、当業者が認識するように、任意の所望のΔ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性及び位置選択性を合理的に工学的に作り出すために使用することができる。

さらに、本発明は、基質特異性、すなわち工学的に作り出された基質特異性を変換されたΔ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼを利用可能にする。好ましくは、前記デサチュラーゼは、本明細書の他の箇所に規定されるような「フロントエンド」デサチュラーゼである。そのような酵素は、非常に長鎖の多価不飽和脂肪酸(VLCPUFA)を生産するために特に適正であり、VLCPUFAとしては、例えばDHA、アラキドン酸(ARA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ガンマ-リノレン酸(GLA)及びステアリドン酸(SDA)が挙げられる。これらのVLCPUFAは、膜の構造機能への多大な効果を有し、また、ヒトで健康への重要な効果を有する。DHA及びARAは、脳及び中枢神経系の発達に極めて重要であると考えられており、DHA及びARAの欠乏は、出生前及び出生後の発達に不利に影響を及ぼす場合がある(Crawfort、2000; Rapoport、2008; Ahmannら、2011)。VLCPUFAはまた、広範な抗炎症応答を誘導し(Ahmannら、2011; Pollakら、2012)、EPA及びDHAを摂取することは、非致命的及び致命的な心血管疾患事象を低減することにつながる(Thiesら、2003)。そのため、これらの脂肪酸が与える健康効果によって、それらは栄養補助食品業及び製薬業に用いられる重要な生産物となる。

本明細書で使用されるときの「ポリペプチド」又は「タンパク質」という用語は、長さ又は翻訳後修飾、例えばグリコシル化、パルミトイル化、ミリストイル化やリン酸化などに関わらず、任意のアミノ酸鎖を指す。工学的に作り出される基質特異性を有する特異的なポリペプチドを選ぶために考慮することとしては、ポリペプチドのpH最適化、当該ポリペプチドが律速酵素であるか若しくはその構成成分であるか、使用されるポリペプチドが所望のPUFAの合成に不可欠であるか、及び/又は補因子が該ポリペプチドに必要とされるかが挙げられるが、これらに限定されない。発現されるポリペプチドは、好ましくは、宿主細胞内での位置の生化学的環境に適合するという特徴を有する。例えば、ポリペプチドは、基質(複数可)について競合せざるを得ない場合がある。問題になっているポリペプチドのKm及び特異的活性又は基質特異性の解析は、本明細書の他の箇所に参照される所与の宿主細胞でPUFA(複数可)の生産性、レベル又はプロファイルを改変するために、所与のポリペプチドの適切性を決定する際に考慮されうる。具体的な事情で使用されるポリペプチドは、典型的には、目的とする宿主細胞中に存在する状態下で機能することができるものであるが、それ以外では、本明細書に記載されるような工学的に作り出された基質特異性を具えた任意のポリペプチドであってよく、及び/又は所望のPUFA(複数可)の相対的な生産性、レベル若しくはプロファイル、又は本明細書に議論されるような他の任意の所望の特徴を改変することが可能でありうる。基質は、天然に又は組換えで宿主細胞によって生産されてもよいし、外来的に供給されてもよい。

本明細書で参照するときの「デサチュラーゼ」は、炭化水素鎖、特に脂肪アシル鎖(fatty acyl chain)から2つの水素を除去して、基質の二重結合の形成を触媒することができる、オキシゲナーゼの特別なタイプである。分子酸素を基質に直接転移する通常のオキシゲナーゼとは異なり、デサチュラーゼは、活性化分子酸素を使用して基質から水素を抜き取り、脂肪酸及び水分子中で炭素/炭素二重結合を作り出す。それらの位置選択性に従って、デサチュラーゼは、典型的には、脂肪酸のカルボキシル端から「x」とよばれる位置に二重結合を導入するデルタ(Δ)xデサチュラーゼ、又は、メチル端から「y」とよばれる位置に二重結合を導入するωyデサチュラーゼに分類される。さらに、デサチュラーゼは、追加的にν+z又はν-zデサチュラーゼとして標示することができる。ν+zデサチュラーゼは、既存の二重結合νの後に、すなわちメチル端に向かって、「z」炭素に二重結合を導入し、一方、ν-zデサチュラーゼは、既存の二重結合νの前に、すなわちカルボキシル端に向かって、「z」炭素に二重結合を導入することができる。Δxデサチュラーゼの一例は、植物由来のアシル-ACPΔ9デサチュラーゼであり、1番目のΔ9二重結合を飽和パルミトイル-ACP又はステアロイル-ACP内に導入する可溶性酵素である。線虫カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)由来の膜結合型ω3デサチュラーゼは、ω3二重結合を多価不飽和脂肪酸内に挿入するωyデサチュラーゼの一例である。ν+3デサチュラーゼの一例は、9番目の位置の既存の二重結合の3炭素後のΔ12位に二重結合を導入する選好性を有した麦角菌(Claviceps purpurea)のΔ12デサチュラーゼであり、一方、ラビリンチュラ(Thraustochytrium)由来のΔ4デサチュラーゼは、触媒としてはν-3デサチュラーゼであり、7番目の位置の既存の二重結合の3炭素前の4位に二重結合を導入することのみができる。

脂肪アシル鎖の既存の二重結合に対する二重結合挿入の位置に基づき、デサチュラーゼはまた、「フロントエンド」デサチュラーゼ又はメチルエンドデサチュラーゼとよぶこともできる。不飽和脂肪酸は、最初のde novo脂肪酸合成の結果、一般に18炭素又は16炭素の長さの飽和脂肪酸が生産される、あらゆる生物種に不可欠である。最初の二重結合は、多くの場合、脂肪酸鎖のおよそ中間位に挿入される。異なる鎖長及び二重結合の位置を有する脂肪酸は、エロンガーゼやデサチュラーゼなど様々な脂肪酸修飾酵素によって、のちに生産される。メチルエンドデサチュラーゼは、既存の二重結合とメチル端との間に二重結合を導入し、一方で、フロントエンドデサチュラーゼは、脂肪酸の既存の二重結合とカルボキシル端との間に二重結合を導入する。植物のΔ12、Δ15及びω3デサチュラーゼなど、よく見られる膜結合型ωy及びν+zデサチュラーゼは、メチル-エンドデサチュラーゼの例であり、一方で、Δ4、Δ5、Δ6及びΔ8デサチュラーゼなど、微生物で広く行き渡っているν-zデサチュラーゼは、「フロントエンド」デサチュラーゼに属する。

メチルエンドデサチュラーゼ及び「フロントエンド」デサチュラーゼは、非常に長鎖の多価不飽和脂肪酸の生合成に関係があり、生物種でのそれらの発生は、同一ではない。前者は、植物及び微生物に広範に存在し、一方で、後者は、ある特定のタイプの「フロントエンド」デサチュラーゼがルリヂシャ、エキウムや針葉樹など少数の高等植物で同定されているとはいえ、殆どの場合に動物及び微生物で発生する。ヒトを含めて高等動物は、Δ12、Δ15やω3デサチュラーゼなどのメチルエンドデサチュラーゼを欠いている。その結果、それらは、オレイン酸(OA、18:1d9)から、リノレン酸(LA、18:2d9,12又は同義として18:2Δ9,12)及びアルファ-リノレン酸(ALA、18:3d9,12,15)という食事から得なければならない2つの必須の脂肪酸を合成することができない。LA及びALAは、アラキドン酸(20:4n-6、ARA)、エイコサペンタエン酸(20:5n-3、EPA)やドコサヘキサエン酸(22:6n-3、DHA)など非常に長鎖の多価不飽和脂肪酸を生合成するための前駆体である。これらの脂肪酸を合成するために、LA及びALAは、第1のフロントエンドデサチュラーゼ、すなわちΔ6デサチュラーゼによって不飽和化され、該デサチュラーゼは、Δ6二重結合を基質に導入して、ω6経路にはガンマ-リノレン酸(GLA、18:3d6,9,12)を、ω3経路にはステアリドン酸(SDA、18:4d6,9,12,15)を、それぞれ与える。GLA及びSDAは、Δ6エロンガーゼによって、ジホモ-ガンマ-リノレン酸(DGLA、20:3d8,11,14)及びエイコサテトラエン酸(ETA、20:4d8,11,14,17)へと伸長され、次いで、第2のフロントエンドデサチュラーゼ、すなわちΔ5デサチュラーゼによって不飽和化されて、アラキドン酸(ARA、20:4d5,8,11,14)及びエイコサペンタエン酸(EPA、20:5d5,8,11,14,17)をそれぞれ与える。EPAは、ドコサペンタエン酸(DPA、22:5d7,10,13,16,19)に伸長されて、次いで、第3のフロントエンドデサチュラーゼ、すなわちΔ4デサチュラーゼによって不飽和化されて、ω3経路にドコサヘキサエン酸(DHA、22:6d4,7,10,13,16,19)を与える。しかし、ヒトを含めて哺乳動物は、Δ4デサチュラーゼを欠いている。哺乳動物でのDHAの生合成は、「逆変換経路」をとり、この経路は、2回のEPAの鎖伸長、及び伸長生産物への別のΔ6不飽和化に続いて、ペルオキシソームでΔ6不飽和化生産物のただ1つの2炭素鎖が短縮化されて、DHAを与えることを含む。Δ8デサチュラーゼは、非常に長鎖の多価不飽和脂肪酸の生合成に関与する別のフロントエンドデサチュラーゼである。このデサチュラーゼは、生合成の分岐経路に働き掛けて、伸長生産物LA又はALA、すなわち20:2d11,14又は20:3d11,14,17内にΔ8二重結合を導入し、DGLA及びETAをそれぞれ生じ、次いで、Δ5デサチュラーゼによって不飽和化されて、上記に記載されたようなARA及びEPAを与えうる(例えばMeesapyodsuk及びQiu、2012を参照されたい)。

したがって、本明細書で使用されるときの「Δ5デサチュラーゼ」という用語は、脂肪酸のカルボキシル基から5番目の位置に二重結合を作り出す、脂肪酸デサチュラーゼを表す。「Δ6デサチュラーゼ」という用語は、脂肪酸のカルボキシル基から6番目の位置で不飽和化するデサチュラーゼを意味し、「Δ4デサチュラーゼ」という用語は、脂肪酸のカルボキシル基から4番目の位置で不飽和化するデサチュラーゼを表す。本明細書で参照されるときの「Δ5及びΔ6デサチュラーゼ」という用語は、二機能性のデルタ-5/デルタ-6デサチュラーゼ、すなわち、脂肪酸のカルボキシル基から5番目の位置と6番目の位置との両方で不飽和化することが可能な酵素を指す。本明細書で参照されるときの「Δ4及びΔ6デサチュラーゼ」という用語は、二機能性のデルタ-4/デルタ-6デサチュラーゼ、すなわち、脂肪酸のカルボキシル基から4番目の位置と6番目の位置との両方で不飽和化することが可能な酵素を指す。

本願で使用されるときの「デサチュラーゼ活性」又は「デサチュラーゼの触媒活性」という用語は、1つ以上の脂肪酸の連続した炭素間の二重結合の形成を触媒して、モノ-若しくは多価不飽和脂肪酸又はその前駆体を生産することができる脂肪酸デサチュラーゼの酵素活性を指し、そのような活性としては、脂肪酸のカルボキシル基から4位(すなわちΔ4デサチュラーゼ活性)、5位(すなわちΔ5デサチュラーゼ活性)、6位(すなわちΔ6デサチュラーゼ活性)、5位及び6位(すなわちΔ5/Δ6デサチュラーゼ活性)、又は4位及び6位(すなわちΔ4/Δ6デサチュラーゼ活性)で不飽和化する酵素活性が挙げられる。デサチュラーゼの酵素又は触媒の活性(両用語は互換可能である)は、本技術分野で記載されている方法によって測定することができる。例えばHastingsら、2001; Hastingsら、2005; Zhengら、2005; Liら、2010を参照されたい。

脂肪酸デサチュラーゼは、脊椎動物や哺乳動物などの動物、植物、例えばルリヂシャ、エキウムや針葉樹などの高等植物、又は微生物に由来しうるが、そのような微生物としては、原核生物、すなわち細菌、及び古細菌、並びに原生動物、菌類、藻類及び微小植物(緑藻)を含めた様々な形態の真核生物などが挙げられる。本明細書で参照される脂肪酸デサチュラーゼが由来とすることのできるさらに別の生物は、以下の実施例に示される。本明細書で使用されるときの「に由来する」という用語は、例えば動物、植物又は微生物から、当技術分野に公知でありまた本明細書の他の箇所並びに以下の実施例に記載されるクローニング法によって、デサチュラーゼを単離することができることを意味する。あるいは、デサチュラーゼの配列は、本技術分野に公知の化学的な方法によって合成することができる。公知のデサチュラーゼ配列の配列比較、並びに/又は、Hisボックス及び/若しくはチトクロームb5様ドメインなど、保存されたデサチュラーゼのドメインの特定を使用することによって、さらに別のホモログのデサチュラーゼが、上述の方法を使用して任意の所望の種又は生物から単離されうる。デサチュラーゼ活性は、当技術分野に記載される方法によって試験することができる。前記単離又は合成されたデサチュラーゼの対応の核酸又はアミノ酸の配列は、本発明の方法によって基質特異性を工学的に作り出すために使用することができる。例として、任意の所望のデサチュラーゼの基質特異性を変換するために、異なるデサチュラーゼのキメラポリペプチドを、任意選択で突然変異誘発法と組み合わせて生産することができる。

本明細書で使用されるときの「基質」という用語は、デサチュラーゼが作用する1つ以上の脂肪酸を意味する。脂肪酸基質は、触媒作用が起こりうる前にデサチュラーゼの活性部位の中へ篏合しなければならないため、適正に設計された脂肪酸のみが、当技術分野に公知であるように、特異的なデサチュラーゼの基質としての役割を果たすことができる。上述したように、脂肪酸デサチュラーゼは、規定された鎖長の脂肪酸の特異的な位置に二重結合を導入する。問題となっているそれぞれのデサチュラーゼの基質は、文献によく記載されており(例えばMeesapyodsuk及びQiu、2007、2012; Liら、2010を参照されたい)、また、本明細書に参照される。

本明細書で使用されるときの「基質特異性」という用語は、規定される鎖長(例えばC22)の1つ以上の脂肪酸(例えばDPA)に対するデサチュラーゼ(例えばΔ4-デサチュラーゼ)の特異性を表し、該脂肪酸では、一価若しくは多価不飽和脂肪酸又はそれらの前駆体(例えばDHA)を生産するべく、特異的な位置(例えば、本明細書で規定されるような4位又はデルタ-4又はd4)で、連続した炭素間での二重結合の形成が触媒される。本明細書で使用されるときのデサチュラーゼの「位置選択性」又は「位置特異性」という用語は、脂肪アシル鎖の特異的な位置で二重結合が選択的に挿入されることを意味し、それゆえ、基質特異性の具体的な態様であるものとして考えられうる。例として、Δ4-デサチュラーゼの「位置選択性」又は「位置特異性」は、脂肪アシル鎖の4位で二重結合が選択的に挿入されることを表す。本明細書で使用されるときのデサチュラーゼの「脂肪酸基質特異性」又は「特異性」という用語は、供試した各脂肪酸基質が、異なるアッセイで個別に検討された際に、デサチュラーゼがin vivo又はin vitroの酵素アッセイにおいて最も高い活性を示す、脂肪酸のタイプを指す。本明細書で使用されるときのデサチュラーゼの「脂肪酸基質選択性」又は「選択性」は、供試した全ての脂肪酸基質が、同じアッセイで共に検討された際に、デサチュラーゼがin vivo又はin vitroの酵素アッセイにおいて最も高い活性を示す、脂肪酸のタイプを指す。デサチュラーゼの脂肪酸基質特異性及び/若しくは脂肪酸基質選択性、並びに/又は脂肪酸位置選択性及び/若しくは脂肪酸位置選択性は、本技術分野に公知の方法(例えばDomergueら、2002)によって決定することができ、以下の実施例にも示される。例として、部位特異的突然変異誘発などの突然変異誘発研究を実行して、具体的なデサチュラーゼによって提示される基質の構造的基盤及び二重結合位置特異性を決定することができる。その後、変異デサチュラーゼの機能的発現を、例えば酵母で、外因的に供給された脂肪酸の存在下で、実施することができる。不飽和脂肪酸の分析は、例えばガスクロマトグラフィーによって、実施することができる。

Δ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼは、ω3とω6との両方の脂肪酸基質に活性を有しうるか、又はω3とω6のどちらかの脂肪酸基質に好適な基質特異性を示しうる。Δ4デサチュラーゼは、例えば22:5ω3又は22:4ω6に、Δ5デサチュラーゼは、20:4ω3又は20:3ω6に、Δ6デサチュラーゼは、18:3ω3又は18:2ω6に、そしてΔ5/Δ6デサチュラーゼは、20:4ω3、20:3ω6、18:3ω3又は18:2ω6に、作用することができる。

例えば、LA及び/又はALAは、Δ6デサチュラーゼによって不飽和化されて、Δ6二重結合を基質に導入し、ω6経路にはガンマ-リノレン酸(GLA、18:3d6,9,12)を、ω3経路にはステアリドン酸(SDA、18:4d6,9,12,15)を、それぞれ与えることができる。GLA及び/又はSDAは、Δ6エロンガーゼによって、ω6経路ではジホモ-ガンマ-リノレン酸(DGLA、20:3d8,11,14)に、ω3経路ではエイコサテトラエン酸(ETA、20:4d8,11,14,17)に、それぞれ伸長することができる。DGLA及び/又はETAは、次いでΔ5デサチュラーゼによって不飽和化されて、ω6経路にはアラキドン酸(ARA、20:4d5,8,11,14)を、及び/又はω3経路にはエイコサペンタエン酸(EPA、20:5d5,8,11,14,17)を、それぞれ生じることができる。ARA及び/又はEPAは、次いで、ω6経路ではドコサテトラエン酸(DTA, 22:5d7,10,13,16)に、及び/又はω3経路ではオメガ-3ドコサペンタエン酸(DPA, 22:5d7,10,13,16,19)に、それぞれ伸長することができる。DTA及び/又はDPAは、次いでΔ4デサチュラーゼによって不飽和化されて、ω6経路にはオメガ-3ドコサペンタエン酸(DPAn-3, 22:5d4,7,10,13,16)を、及び/又はω3経路にはドコサヘキサエン酸(DHA, 22:6d4,7,10,13,16,19)を、それぞれ生じることができる。本発明の状況で特に興味深いのは、基質特異性を変換された、すなわち工学的に作り出されたポリペプチドであり、該ポリペプチドは、それぞれの基質を変換して、ガンマ-リノレン酸(GLA、18:3d6,9,12)、ステアリドン酸(SDA、18:4d6,9,12,15)、アラキドン酸(20:4n-6、ARA)、エイコサペンタエン酸(20:5n-3、EPA)及び/又はドコサヘキサエン酸(22:6n-3、DHA)など、非常に長鎖の多価不飽和脂肪酸を生産することを可能にする。

本明細書で参照される「デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基を特定する」という用語は、前記デサチュラーゼの個々の脂肪酸基質(複数可)についての特異性を媒介している、デサチュラーゼのアミノ酸配列の特異的な部分若しくは断片及び/又は特異的なアミノ酸残基を決定することを意味する。デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基の決定は、当技術分野に公知の方法によって実施することができ、例えば、キメラポリペプチドの生成、部位特異的突然変異誘発、結晶構造解析、3-Dモデリング、指向性進化実験に際してのFIND技術(Alligator Bioscience)又はDNAシャッフリング、構造に基づく網羅的タンパク質工学(Structure-Based Combinatorial Protein Engineering)(SCOPE、WO2005/118861)、ジグザグ伸長プロセス、オーバーラップ伸長PCR(「ソーイング」PCR)などが挙げられる。例えば、基質特異性の違いを決定する領域を特定するために、Δ4デサチュラーゼとΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼとの一連のキメラを生産することができ、それらのキメラでは、例として、Δ4デサチュラーゼとΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼとの間のアミノ酸配列の比較に基づき、一方の酵素の領域が他方の対応の領域に置換されている。次いで、これらの変異が酵素の基質特異性及び/又は触媒活性に及ぼす影響を、前記キメラポリペプチドの機能的特性解析によって、例えば酵母で、変異のない酵素との比較で、決定することができる。キメラのシリーズを例えば酵母で異種発現すると、例えば、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼをΔ4デサチュラーゼ活性のみを有した酵素に変換するのに充分なアミノ酸領域を特定することができ、逆もまた同様である。さらに、以下の実施例に示されるように、部位特異的突然変異誘発を実施して、具体的なデサチュラーゼの基質特異性に関連する前述の領域内に、特異的なアミノ酸残基を特定することができる。

その後、例えばΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基は、前記Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼのアミノ酸配列中で、Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する対応の領域及び/又はアミノ酸残基に置き換えられて、それによって、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を、Δ4デサチュラーゼの基質特異性に完全に、又は少なくとも部分的に変換することができる。例えば、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性をΔ4デサチュラーゼの基質特異性に「完全に変換」することは、基質特異性を制御する前述の領域及び/又はアミノ酸残基が置き換えられた後、そのような酵素がΔ4デサチュラーゼの基質特異性のみを示すことを意味する。そうすると、前記酵素は、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質をもはや不飽和化することができない。本願によって予見されるのは、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性をΔ4デサチュラーゼの基質特異性に「部分的に変換」することでもあり、このことは、基質特異性を制御する前述の領域及び/又はアミノ酸残基が置き換えられた後、そのような酵素が、Δ4デサチュラーゼの基質特異性とΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性の両方を示すことを意味する。

あるいは、Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基は、Δ4デサチュラーゼのアミノ酸配列中で、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する対応の領域及び/又はアミノ酸残基に置き換えられて、それによって、Δ4デサチュラーゼの基質特異性を、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性に変換することができる。

あるいは、Δ5デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基は、Δ5デサチュラーゼのアミノ酸配列中で、Δ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する対応の領域及び/又はアミノ酸残基に置き換えられて、それによって、Δ5デサチュラーゼの基質特異性を、Δ6デサチュラーゼの基質特異性に変換することができる。逆もまた同様に、Δ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基は、Δ6デサチュラーゼのアミノ酸配列中で、Δ5デサチュラーゼの基質特異性を制御する対応の領域及び/又はアミノ酸残基に置き換えて、それによって、Δ6デサチュラーゼの基質特異性を、Δ5デサチュラーゼの基質特異性に変換することができる。

具体的なΔ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性のこの変換の方法としては、例えばSambrookら、Molecular cloning. A Laboratory Manual(2001)又はAusubel、Current protocols in molecular biology(2003)に記載されているような、当技術分野に公知の従来のクローニング方法が挙げられる。「ソーイング」PCRなどのさらに別の方法は、以下の実施例に記載される。したがって、本明細書で使用されるような「基質特異性の変換」という用語は、連続した炭素間の二重結合の形成が特異的な位置で触媒されている、規定された鎖長を持つ1つ以上の脂肪酸に対するデサチュラーゼの基質特異性を、1つ以上の他の脂肪酸に変化させることを意味し、この1つ以上の他の脂肪酸は、例えば、連続した炭素間の二重結合の形成が他の、例えば異なる特異的な位置で触媒されている、規定された鎖長を持つ異なる脂肪酸である。基質特異性の変換は、個々の脂肪酸基質の具体的なデサチュラーゼの基質特異性、脂肪酸の特有の長さ、及び/又はデサチュラーゼの位置選択性、例えば脂肪アシル鎖の特異的な位置への選択的な二重結合の挿入が変化することに関係しうる。例えば、Δ4デサチュラーゼは、脂肪酸基質22:5ω3及び22:4ω6を4位で不飽和化し、一方、Δ5デサチュラーゼは、20:4ω3及び20:3ω6に5位で作用することができる。Δ4デサチュラーゼの基質特異性をΔ5デサチュラーゼの基質特異性に変換することは、Δ4デサチュラーゼがもはや脂肪酸基質22:5ω3及び22:4ω6を4位で不飽和化することができないものの、代わりに、脂肪酸基質20:4ω3及び20:3ω6を5位で不飽和化することができることを意味する。基質特異性を変換された前記Δ4デサチュラーゼは、依然として脂肪酸基質22:5ω3及び22:4ω6を4位で不飽和化することができるが、また、脂肪酸基質20:4ω3及び20:3ω6を5位で不飽和化することもできることもまた、本発明によって予見される。デサチュラーゼの基質特異性の変換は、当技術分野に公知の方法によって、例えば、Δ4デサチュラーゼとΔ5デサチュラーゼとの一連のキメラポリペプチドを設計することによって、適正に部位特異的突然変異誘発と組み合わせて、以下の実施例及び参考文献に記載されるように、実施することができる。例えば、Cahoonら、1997、1998を参照されたい。

本発明の方法の一態様では、デサチュラーゼは、一体型の膜型脂肪酸デサチュラーゼである。ある特定の態様では、デサチュラーゼは、ミクロソームの脂肪酸デサチュラーゼである。本発明の方法の具体的な態様では、Δ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼは、その構造ゆえに、高い位置選択性及び基質特異性を有する「フロントエンド」デサチュラーゼである(Meesapyodsuk及びQiu、2012)。例えば、ルリヂシャのフロントエンドのΔ6及びΔ8デサチュラーゼについては、膜貫通ドメイン及びカルボキシル末端が、基質特異性及び位置選択性の決定に主要な役割を果たし、それは恐らく基質結合部位の形成に寄与することによって行われる可能性があることが示された(Libischら、2000)。「フロントエンド」デサチュラーゼは、タンパク質のN末端に、チトクロームb5様ドメインを特徴として含有し、脂肪酸のカルボキシル端と既存の二重結合との間に二重結合を導入する。一般にコンセンサス配列H-X[3-4]-H、H-X[2-3]-H-H及びH-X[2]-H-Hを含有する、保存された3つのヒスチジンボックスは、ほぼ全ての脂肪酸デサチュラーゼに見られる(Pereiraら、2003)。これらの3つのヒスチジンボックスは、デサチュラーゼの活性部位を形成し、二鉄錯体の形成に関与する(Sperlingら、2001; Shanklinら、2009)。「フロントエンド」デサチュラーゼでは、第3のヒスチジンボックスの最初のヒスチジン残基が、通常はグルタミンに置き換えられる。ヒスチジンを有したルリヂシャのΔ6デサチュラーゼ中のこの位置でグルタミンを置換した結果、酵素活性が廃されたことから、このグルタミン残基は、酵素活性に不可欠であるようである(Sayanovaら、2001)。

本発明の方法のさらに具体的な態様では、「フロントエンド」デサチュラーゼは、植物、動物又は微生物を由来とする。動物は、魚類などの脊椎動物、例えばシモフリアイゴ、アトランティックサーモンやゼブラフィッシュ;ヒヒやヒトなどの哺乳動物;植物、例えば油糧穀物、ルリヂシャ、エキウムや針葉樹;又は原核生物、すなわち細菌、及び古細菌、並びに原生動物、菌類、藻類及び微小植物(緑藻)を含めた様々な形態の真核生物を含む、微生物でありうる。

例えば、Δ4デサチュラーゼは、モノシガ・ブレビコリス(Monosiga brevicollis)(WO2012/052468の配列番号129、XP_001749702.1)、ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)(WO2004/090123の配列番号2)、エミリアナ・フクスレイイ(Emiliana huxleyi)(WO2011/006948の配列番号6)、パブロバ・ルテリ(Pavlova lutheri) (AAQ98793.1)、パブロバ・サリナ(Pavlova salina)又はレベッカ・サリナ(Rebecca salina)(AAY15136.1)、スファエロフォルマ・アルクティカ(Sphaeroforma arctica)(AGN91198.1)、シモフリアイゴ(Siganus canaliculatus)(配列番号174)、タラシオシラ・スードナナ(Thalassiosira pseudonana)(WO2005/080578の配列番号13)又はラビリンチュラ属の種(Thraustochytrium sp.)(WO2002/026946の配列番号2、AAM09688.1)を由来とすることができる。

Δ6デサチュラーゼは、アトランティックサーモン(ADA56788.1、ADA56789.1、NP_001165251.1、NP_001165752.1)、ピシウム・イレグラレ(Pythium irregulare)(WO2002/026946の配列番号8、AAL13310.1)、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)(AAL73947.1)、オストレオコッカス・ルシマリヌス(Ostreococcus lucimarinus)(WO2008/040787の配列番号14、DAA34893.1)、オストレオコッカス・タウリ(Ostreococcus tauri)(WO2005/083093の配列番号90、XP_003082578.1)、シモフリアイゴ(配列番号172)又はセイヨウユキワリソウ(Primula farinose)(WO2003/072784の配列番号2)を由来とすることができる。

Δ5デサチュラーゼは、ラビリンチュラ属の種(WO2002/026946の配列番号4、AAM09687.1)、パブロバ・サリナ又はレベッカ・サリナ(ABL96295.1)、モルティエレラ・アルピナ(AAC72755.1)、アトランティックサーモン(AAL82631.2)又はシモフリアイゴ(配列番号172)を由来とすることができる。

Δ5/Δ6デサチュラーゼは、シモフリアイゴ(配列番号172)又はゼブラフィッシュ[ダニオ・レリオ(Danio rerio):Q9DEX7.1]を由来とすることができる。

さらに、本発明の方法に使用することのできる「フロントエンド」デサチュラーゼは、例えばMeesapyodsuk及びQiu、2012に記載されている。

前述のデサチュラーゼ又はその一部の核酸分子は、分子生物学の標準的な手法及び本明細書に提供される配列情報を使用して単離することができる。また、例えば相同な配列、又は保存された相同な配列領域を、比較アルゴリズムを活用してDNA又はアミノ酸レベルで特定することができる。それらは、ハイブリダイゼーションプローブ及び標準的なハイブリダイゼーション手法(例えばSambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、ニューヨーク、1989に記載のものなど)、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件で、本発明の方法に使用することのできる別の核酸配列を単離するために使用することができる。さらに、前述のデサチュラーゼの核酸分子又はその一部は、ポリメラーゼ連鎖反応によって単離することができ、該反応では、オリゴヌクレオチドプライマーはこの配列又はその一部に基づき使用される(例えば、完全配列又はその一部を含む核酸分子は、この同じ配列に基づき生成されたオリゴヌクレオチドプライマーを使用してポリメラーゼ連鎖反応によって単離することができる)。例えば、mRNAは、細胞から単離することができ[例えばChirgwinら(1979)、Biochemistry、18:5294〜5299のグアニジニウムチオシアネート抽出法を用いて]、cDNAは、逆転写酵素(例えばGibco/BRL、ベセスダ、メリーランド州から入手可能なモロニーMLV逆転写酵素又はSeikagaku America, Inc.、セントピーターズバーグ、フロリダ州から入手可能なAMV逆転写酵素)を用いて単離することができる。ポリメラーゼ連鎖反応を用いた増幅用の合成オリゴヌクレオチドプライマーは、標示された受託番号、記載、本明細書に引用された参考文献、実施例又は配列表に示された配列の1つに基づき生成することができる。核酸は、鋳型としてcDNA又は代替的にゲノムDNAと、適切なオリゴヌクレオチドプライマーとを使用して、標準的なPCR増幅手法によって増幅することができる。こうして増幅された核酸は、適切なベクター内にクローニングして、DNA配列解析によって特徴付けることができる。デサチュラーゼのヌクレオチド配列に対応するオリゴヌクレオチドは、標準的な合成法によって、例えば自動DNA合成機を使用して生成することができる。

本発明の方法の別の態様では、Δ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼは、ω3基質とω6基質の両方に、好ましくはω3基質に対する、基質特異性を有する。

本発明の方法のある特定の態様では、デサチュラーゼの基質特異性は以下の通りである。

Δ4デサチュラーゼの基質特異性は、22:5ω3及び22:4ω6に対する。基質22:5ω3がΔ4デサチュラーゼによって不飽和化された場合に、対応の生産物は、22:6ω3である。基質22:4ω6が基質としてΔ4デサチュラーゼによって使用された場合に、対応の生産物は、22:5ω6である。

Δ5デサチュラーゼの基質特異性は、20:4ω3及び20:3ω6に対する。Δ5デサチュラーゼに対する基質が20:4ω3である場合に、対応の生産物は、20:5ω3である。Δ5デサチュラーゼに対する基質が20:3ω6である場合に、対応の生産物は、20:4ω6である。

Δ6デサチュラーゼの基質特異性は、18:3ω3及び18:2ω6に対する。Δ6デサチュラーゼに対する基質が18:3ω3である場合に、対応の生産物は、18:4ω3である。Δ6デサチュラーゼに対する基質が18:2ω6である場合に、対応の生産物は、18:3ω6である。

Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性は、20:4ω3、20:3ω6、18:3ω3及び18:2ω6に対する。そのような二機能性のデサチュラーゼによって生成する対応の生産物は、Δ5デサチュラーゼ及び6デサチュラーゼのそれぞれの基質及び生産物を指定する際に、既に指示されている。

本発明の方法の具体的な態様では、Δ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼは、魚類のΔ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼであり、例えば、アトランティックサーモン、ゼブラフィッシュのダニオ・レリオ又はシモフリアイゴに由来する。さらに具体的な態様では、Δ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼは、シモフリアイゴのΔ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼである。シモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼの対応の配列は、GenBank受託番号GU594278.1に示される。さらに、シモフリアイゴのΔ5/Δ6デサチュラーゼの対応の配列は、GenBank受託番号EF424276.2に示される。シモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼのcDNAは、1831bpの長さ(ポリA尾部を除く)であり、1338bpのオープンリーディングフレーム(ORF)を含有する。推定タンパク質は、445つのアミノ酸を有し、シモフリアイゴのΔ5/Δ6デサチュラーゼと82.7%の同一性、並びにダニオ・レリオのΔ6/Δ5(AF309556)、ヒト(Homo sapiens)のΔ5(AF199596)及びΔ6(AF126799)と、それぞれ67.8 %, 57.8 %及び63.6 %の同一性がある。シモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼの推定ポリペプチド配列は、ミクロソームの脂肪アシルデサチュラーゼ(Fad)タンパク質の複数の特有の特徴を有し、そのような特徴としては、3つのヒスチジンボックス、ヘム結合モチーフを含有するN末端チトクロームb5ドメイン、及び2つの膜貫通領域が挙げられる。他の種の種々の脂肪アシルデサチュラーゼとの脂肪アシルデサチュラーゼの系統発生解析では、シモフリアイゴのデサチュラーゼが、海洋硬骨魚のΔ6脂肪アシルデサチュラーゼに最も密接な関係があり、下等真核生物のΔ4及びΔ5脂肪アシルデサチュラーゼからはより遠縁にあることを示す。Liら、2010。

本発明の方法のさらに他の態様では、Δ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基は、膜貫通ドメイン内に局在する。好ましくは、膜貫通ドメインは、第3の膜貫通ドメインである。

思いがけないことに、シモフリアイゴのΔ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基は、推定上の第3の膜貫通ドメインに局在することが予想される。

Δ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの推定上のタンパク質のトポロジーは、TMHMM、HMMTOP、MEMSAT、TOPPRED、PHD、DAS-TMfilter、Phobius、PredictProtein、SOSUI、TMPredやTOPCONS膜トポロジー予測ソフトウェアなど、本技術分野に公知の適正なソフトウェア及び/又はトポロジー予測方法によって、決定することができる。

本発明の具体的な態様では、Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基は、アミノ酸配列「YNYN」を含み、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基は、アミノ酸配列「FHYQ」を含む。

本発明の方法の具体的な態様では、Δ5デサチュラーゼ及び/又はΔ6デサチュラーゼとΔ4デサチュラーゼのアミノ酸配列は、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも83%、少なくとも85%、又はさらに少なくとも90%の配列同一性を有する。

無脊椎動物源からいくつかのΔ4及びΔ6デサチュラーゼが、ラビリンチュラの種、パブロバ・ルテリ、タラシオシラ・スードナナ及びユーグレナ・グラシリス由来の酵素を含めて、最近同定されている(Qiuら、2001; Meyerら、2003; Tononら、2003; Bowlerら、2008)。しかし、これらの「フロントエンド」デサチュラーゼ間のアミノ酸配列の類似性は、低い傾向にある。例えば、アミノ酸配列で、ラビリンチュラの種のΔ4(AF489589)及びΔ5(AF489588)デサチュラーゼは、19%の同一性を共有するに過ぎず、モルティエレラ・アルピナのΔ5(AF054824)及びΔ6デサチュラーゼ(AF110510)は、23%の同一性を共有するに過ぎない。そのため、デサチュラーゼ、好ましくは、低い配列類似性しか示さない「フロントエンド」デサチュラーゼのアミノ酸配列中で、基質特異性(位置特異性を含む)に影響を及ぼす領域の場所を突き止めるために、結晶構造及び3-Dモデリングの解析が、基質との相互作用及び基質の不飽和化に必要な決定的に重要な領域及び/又はアミノ酸残基の場所を突き止めるのに必要とされうる。鎖長の認識及び脂肪酸内への二重結合の位置的配置についての分子基盤を理解するために、相同なデサチュラーゼのアミノ酸配列の比較、又はさらに解析されるデサチュラーゼの結晶構造からの三次元情報に基づいて、キメラ及び/又は変異体酵素を設計することができる。より密接に関連する酵素については、以下の実施例に示されるように、キメラ又は変異体タンパク質の構築が、おそらくは部位特異的突然変異誘発と組み合わせて充分でありうる。その点、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼに例示される脂肪酸デサチュラーゼの基質及び位置特異性は、特異的なアミノ酸残基の置き換えによって、改変することができることが示されている。

本発明はまた、基質特異性が別のデサチュラーゼの基質特異性に変換されているΔ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ又はΔ5/Δ6デサチュラーゼ(すなわち二機能性デサチュラーゼ)に関する。さらに具体的には、本発明は、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性がΔ4デサチュラーゼの基質特異性に変換されているΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼに関係する。さらに、本発明は、Δ4デサチュラーゼの基質特異性がΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性に変換されているΔ4デサチュラーゼに関する。例えば、Δ4デサチュラーゼの基質特異性がΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性に変換されているΔ4デサチュラーゼを生成するために、Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基が、本明細書の他の箇所に記載の方法によって、最初に特定される。さらに、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基が決定される。続いて、Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基が、Δ4デサチュラーゼのアミノ酸配列中、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する対応の領域及び/又はアミノ酸残基に置き換えられる。この置き換えは、例えば組換えDNA技術又は化学合成によって実施されうる。それによって、Δ4デサチュラーゼの基質特異性は、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性に変換することができる。この戦略を使用することによって、任意の所望のΔ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼ、好ましくは「フロントエンド」のΔ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの、基質特異性及び位置選択性を合理的に工学的に作り出すことが可能である。

問題となっているデサチュラーゼの基質特異性の変換は、完全又は少なくとも部分的でありうる。例として、Δ4デサチュラーゼの基質特異性がΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性に完全に変換されることは、基質特異性を制御する対応の領域及び/又はアミノ酸残基が置き換えられた後、そのような酵素が、5及び/又はΔ6デサチュラーゼのみの基質特異性を示すことを意味しうる。そうすると、そのような酵素は、Δ4デサチュラーゼの基質をもはや不飽和化することができず、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼ活性のみを示し、すなわち、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質を不飽和化する。本願によって予見されるのはまた、Δ4デサチュラーゼの基質特異性をΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性に部分的に変換することである。このことは、基質特異性を制御する前述の領域及び/又はアミノ酸残基が置き換えられた後、そのような酵素が、Δ4デサチュラーゼの基質特異性とΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性の両方を示すことを意味する。

ある特定の態様では、本発明の基質特異性を変換されたデサチュラーゼは、本発明の方法によって、得ることが可能であるか、又は得られる。

以下の実施例に示されるように、本発明者らは、4アミノ酸領域の置換が、Δ5/6デサチュラーゼからΔ4デサチュラーゼへの変換及び逆の変換に充分であったことを見出している。シモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼのアミノ酸配列(配列番号174)中280〜283位に相当する4つのアミノ酸残基「YNYN」を含有する、別々のタンパク質領域は、前記Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御することが見出されている。シモフリアイゴのΔ5/6デサチュラーゼのアミノ酸配列(配列番号172)中278〜281位にある対応のアミノ酸残基「FHYQ」は、シモフリアイゴのΔ5/6デサチュラーゼの基質鎖長特異性と位置選択性の両方、すなわち基質特異性を調節する。同じ場所でΔ4デサチュラーゼのアミノ酸配列の「YNYN」をΔ5/Δ6デサチュラーゼ配列の「FHYQ」に置換することによって(Sig-17C、配列番号16、図6の左段)、基質特異性がΔ4デサチュラーゼからΔ5/Δ6デサチュラーゼに、DPAω3からALAに変化した(12.5±0.8%)。同様に、シモフリアイゴのΔ5/Δ6デサチュラーゼ配列を「FHYQ」から対応の「YNYN」配列に変化させた結果(Sig-18C、配列番号8、図6の右段)、Δ5/Δ6デサチュラーゼ活性が失われたものの、Δ4デサチュラーゼの活性を獲得した(0.5±0.1%、DPAω3)。そのため、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼの基質特異性を調節する4つのアミノ酸は、「YNYN」及び対応の配列「FHYQ」である。実施例2を参照されたい。配列アラインメント及びトポロジー予測に基づいて、基質特異性を制御する対応のアミノ酸領域は、他の生物のΔ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼ中にも同様に、実施例3に説明されるように特定されうる。前記実施例に示される基質特異性を調節する対応のアミノ酸領域を交換することによって、基質特異性はまた、前記Δ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼ中で切り替えることができ、このことは、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/6デサチュラーゼからの教示を、他の「フロントエンド」デサチュラーゼに容易に移し換えうることを示す。具体的には、このことは、オストレオコッカス・タウリ及びピシウム・イレグラレのΔ6デサチュラーゼ、並びにラビリンチュラ属の種のデルタ-5デサチュラーゼについて例示されている。

一態様では、本発明は、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性がΔ4デサチュラーゼの基質特異性に変換されており、 a)配列番号2、4、6又は8に示されるアミノ酸配列、及び b)配列番号2、4、6又は8に少なくとも50%の同一性があり、Δ4位でドコサペンタエン酸(DPA)を不飽和化することが可能なアミノ酸配列 からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼに関係する。

別の態様では、b)に参照されるアミノ酸配列は、配列番号2、4、6又は8のアミノ酸配列と少なくとも50%、少なくとも60%、及び好ましくは、少なくとも70%、80%又は90%、及びさらに好ましくは、少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上の配列同一性を有し、Δ4位でドコサペンタエン酸(DPA)を不飽和化することが可能である。

さらに別の態様では、本発明は、Δ4デサチュラーゼの基質特異性がΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性に変換されており、 a)配列番号10、12、14又は16に示されるアミノ酸配列、及び b)配列番号10、12、14又は16に少なくとも50%の同一性があり、Δ6位でアルファ-リノレン酸(ALA)を不飽和化することが可能なアミノ酸配列 からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、Δ4デサチュラーゼに関する。

一態様では、b)に参照されるアミノ酸配列は、配列番号10、12、14又は16のアミノ酸配列と少なくとも50%、少なくとも60%、及びさらに好ましくは、少なくとも70%、80%又は90%、及び最も好ましくは、少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上の配列同一性を有し、Δ6位でアルファ-リノレン酸(ALA)を不飽和化することが可能である。

具体的な態様では、基質特異性を変換されたデサチュラーゼは、キメラポリペプチドである。好ましくは、前記キメラポリペプチドは、人工であって、天然には見られない。

基質特異性をΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性に変換されたΔ4デサチュラーゼは、Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基を除いて、Δ4デサチュラーゼの完全な又は部分的なアミノ酸配列を含み得、該領域及び/又はアミノ酸残基は、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する対応の領域及び/又はアミノ酸残基に置き換えられている。あるいは、基質特異性をΔ4デサチュラーゼの基質特異性に変換されたΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼは、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基を除いて、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼのアミノ酸配列を含み、該領域及び/又はアミノ酸残基は、Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する対応の領域及び/又はアミノ酸残基に置き換えられている。したがって、基質特異性を変換されたデサチュラーゼは、上記に述べられた少なくとも2つ、3つ又はさらにそれ以上の種々の脂肪酸デサチュラーゼ、例えば、Δ4デサチュラーゼ及びΔ5デサチュラーゼ、Δ4デサチュラーゼ及びΔ6デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ及びΔ6デサチュラーゼ、又はΔ5/Δ6(二機能性)デサチュラーゼ及びΔ4デサチュラーゼのアミノ酸配列が含まれるという点で、キメラポリペプチドである。この戦略を使用することによって、任意の所望のΔ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼ、好ましくは「フロントエンド」のΔ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの、基質特異性及び位置選択性を合理的に工学的に作り出すことが可能である。

本発明のキメラポリペプチドを生成するために使用することのできるデサチュラーゼは、本明細書の他の箇所に記載される。前記脂肪酸デサチュラーゼは、同じ生物又は遺伝的に異なる生物を起源とし得、例えば、脂肪酸デサチュラーゼは、同じ種又は異なる種を由来としうる。例として、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼ及びΔ4デサチュラーゼは、シモフリアイゴなど、同じ種を起源としうる。あるいは、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼ及びΔ4デサチュラーゼは、異なる種を由来とし得、例えば、Δ4デサチュラーゼは、シモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼであり得、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼは、ゼブラフィッシュのΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼでありうる。問題となっているデサチュラーゼのアミノ酸配列は、完全なアミノ酸配列(基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基を除く)又はその一部でありうる。その一部は、少なくとも20個、25個、30個、35個、40個、45個、50個、60個、70個、80個、90個、100個、150個、200個、250個若しくはさらにそれ以上のアミノ酸残基の断片を含む。

基質特異性を制御する領域(複数可)及び/又はアミノ酸残基(複数可)は、少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、20個、25個、30個、35個、40個、45個、50個、60個、70個、80個、90個、100個、150個、200個、250個若しくはさらにそれ以上のアミノ酸残基を含むか、又はそれらからなる。例として、4つのアミノ酸残基は、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼの基質特異性を調節する。実施例2を参照されたい。当業者に認識されているように、前記4つのアミノ酸は、さらに長い断片にも含まれうる。基質特異性を制御する前記領域(複数可)及び/又はアミノ酸残基(複数可)を特定するための方法は、本明細書の他の箇所に記載される。

例えば、前記Δ4デサチュラーゼの基質特異性がΔ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性に変換されたΔ4デサチュラーゼのキメラポリペプチドを生成するために、Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基が、本明細書の他の箇所に記載の方法によってまず特定されている。さらに、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基が決定される。続いて、Δ4デサチュラーゼの基質特異性を制御する領域及び/又はアミノ酸残基が、Δ4デサチュラーゼのアミノ酸配列中で、例えば組換えDNA技術又は化学合成によって、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する対応の領域及び/又はアミノ酸残基に置き換えられる。それによって、Δ4デサチュラーゼの基質特異性が、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの基質特異性に変換される。このプロセスは、逆もまた同様に実施することができる。この戦略を使用することによって、任意の所望のΔ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼ、好ましくは「フロントエンド」のデサチュラーゼの基質特異性及び位置選択性を、合理的に工学的に作り出すことが可能である。

さらに別の態様では、本発明は、 a)配列番号18、20、22、24又は26に示されるアミノ酸配列、及び b)配列番号18、20、22、24又は26に少なくとも50%の同一性があり、Δ4位でドコサペンタエン酸(DPA)を、及びΔ6位でアルファ-リノレン酸(ALA)を不飽和化することが可能なアミノ酸配列 からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、Δ4デサチュラーゼ及びΔ6デサチュラーゼの基質特異性を有するキメラポリペプチドに関する。

一態様では、b)に参照されるアミノ酸配列は、配列番号18、20、22、24又は26のアミノ酸配列と少なくとも60%、及びさらに好ましくは、少なくとも70%、80%又は90%、及び最も好ましくは、少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上の配列同一性を有し、Δ4位でドコサペンタエン酸(DPA)を不飽和化することが可能であり、Δ6位でアルファ-リノレン酸(ALA)を不飽和化することが可能である。

驚くべきことに、Δ4デサチュラーゼ及びΔ6デサチュラーゼの基質特異性を有する二機能性のキメラポリペプチドは、以下の実施例及び図6(キメラ構築物Sig-22C及びSig-26Cを参照されたい)に示されるように、本発明の方法によって生成されうる。前記二機能性デサチュラーゼは、基質ALAω3及びDPAω3を不飽和化して、SDAω3及びDHAω3をそれぞれ生産することができる。

具体的な態様では、キメラポリペプチドは、少なくとも基質ALAω3及びDPAω3を変換することができる。Δ4デサチュラーゼ及びΔ6デサチュラーゼの基質特異性を有する本発明の新規のデサチュラーゼによりこれらの基質を不飽和化することによって、SDAω3及びDHAω3が生産される。

本発明の方法に関して提示される定義及び実施形態は、本発明の基質特異性を変換されたデサチュラーゼに準用され、逆もまた同様である。

さらに、本発明は、本発明によって提供される、基質特異性を変換されたデサチュラーゼのアミノ酸配列をコードする核酸配列に関する。本発明によってさらに包含されるのは、本発明の基質特異性を変換されたデサチュラーゼをコードする核酸配列と少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、好ましくは少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性又は相同性を有する、前記核酸配列の誘導体である。そのような誘導体は、配列からの/配列内へのヌクレオチドの欠失、挿入又は置換によって得ることができる機能的なバリアントをも含みうる。しかし、前記バリアントは、コードされたポリペプチドの所望の(すなわち工学的に作り出された)基質特異性を維持する。そのようなバリアントは、当技術分野に公知の突然変異誘発法(例えば、先に示した箇所にあるSambrook;Ausubelを参照されたい)によって生成することができる。

「ホモログ」とは、細菌、菌類、植物又は動物のホモログであり、本明細書の他の箇所に示されるように、切断配列、コードDNA配列又は非コードDNA配列の1本鎖DNA又はRNA及びそれらの誘導体を意味する。相同性(=2つのアミノ酸配列又は核酸配列の配列同一性)のパーセンテージを決定するため、配列は、最適比較のために一方が他方の下に書き表される(例えば、他方のタンパク質又は他方の核酸との最適なアラインメントを生成するために、ギャップをタンパク質又は核酸の配列中に導入する場合がある)。次いで、対応のアミノ酸位置又はヌクレオチド位置のアミノ酸残基又はヌクレオチドが比較される。一方の配列中の位置が、他方の配列中の対応の位置と同じアミノ酸残基又は同じヌクレオチドによって占められている場合、そうすると分子は、この位置にて相同であり、すなわち、本願の状況で使用されるときのアミノ酸又は核酸の「相同性」は、アミノ酸又は核酸の「同一性」に相当する。2つの配列間の相同性又は配列同一性のパーセンテージは、配列が共有する位置の数の関数である(例えば、パーセント相同性=同一の位置の数/位置の総数×100)。「相同性」及び「配列同一性」という用語は、それゆえ同義語であるものと考えられる。

相同性又は配列同一性は、好ましくは、全アミノ酸又は全核酸配列領域にわたって算出される。当業者は、様々な配列を比較するための様々なアルゴリズムに基づく一連の入手可能なプログラムを有する。ここでは、Needleman及びWunsch又はSmith及びWatermanのアルゴリズムが、特に信頼性のある結果を与える。GCGソフトウェアパケット[Genetics Computer Group、575 Science Drive、Madison, Wisconsin、USA 53711(1991)]の一部である、プログラムPileUp(J. Mol. Evolution.、25、351〜360、1987、Higginsら、CABIOS、5、1989: 151〜153)、又はプログラムGap及びBestFit [Needleman及びWunsch(J. Mol. Biol.、48、443〜453(1970)並びにSmith及びWaterman (Adv. Appl. Math.、2、482〜489(1981)]を、配列アラインメントに使用することができる。パーセンテージとして上記に示した配列相同性の値は、プログラムGAP及び以下の設定、すなわちGap Weight: 50、Length Weight: 3、Average Match: 10.000及びAverage Mismatch: 0.000を使用して、全配列領域にわたって決定することができる。これらの設定は、配列アラインメントに用いる標準の設定として使用することができる。

本発明によって提供される、基質特異性を変換したデサチュラーゼをコードする本発明の核酸配列は、微生物、動物や植物などの生物中で核酸を発現することを可能にする発現カセット内へ好都合に導入される。

それゆえ、本発明の別の態様では、1つ以上の調節配列と動作可能に連結された、本発明の基質特異性が変換されたデサチュラーゼをコードする核酸配列を含む、遺伝子構築物が提供される。

発現カセットでは、基質特異性を変換されたデサチュラーゼをコードする核酸配列は、好都合に遺伝子発現を増強するために、1つ以上の調節配列に動作可能に連結される。これらの調節配列は、遺伝子及びタンパク質の特異的な発現を可能にするよう意図されている。宿主生物に応じて、このことは例えば、誘導が行われた後にのみ遺伝子が発現及び/若しくは過剰発現されるか、又は直ちに発現及び/若しくは過剰発現されることを意味しうる。例えば、これらの調節配列は、インデューサー又はサプレッサーが結合してそれゆえ核酸の発現を制御する、配列の形態をとる。これらの新規の調節配列に加えて、又はこれらの配列の代わりに、事実上の構造遺伝子の前にこれらの配列の天然の調節エレメントが依然として存在していてもよく、適正であれば、天然の調節を排除して遺伝子の発現を増強するように遺伝子改変されてもよい。しかし、発現カセット(=発現構築物=遺伝子構築物)はまた、構築の点でさらに簡単にすることができ、すなわち、核酸配列又はその誘導体の前には追加の調節シグナルを何も挿入せず、天然のプロモーターをその調節と共に除去されない。代わりに、天然の調節配列は、調節がもはや行われないように及び/又は遺伝子発現が増強されるように変異している。これらの改変プロモーターはまた、活性を増強させるために、それ自体の上に、部分配列(=本発明に従って使用される、核酸配列の一部を伴うプロモーター)の形態で、天然の遺伝子の前に位置させることができる。さらに、遺伝子構築物はまた、動作可能にプロモーターと連結されたエンハンサー配列として公知である、1つ以上のものを好都合に含み得、それは、核酸配列の発現を増強することを可能にする。さらに別の調節エレメントやターミネーター配列などの追加の好都合な配列もまた、DNA配列の3'端に挿入してもよい。遺伝子は、1つ以上のコピーの発現カセット(=遺伝子構築物)に存在しうる。好ましくは、1コピーのみの遺伝子が、各発現カセットに存在する。この遺伝子構築物又は複数の遺伝子構築物は、宿主生物中で共に発現することができる。この状況では、遺伝子構築物(複数可)は、1つ以上のベクターに挿入され得、遊離の形態で細胞中に存在しうるか、又はゲノムに挿入されうる。ゲノムにさらに遺伝子を挿入するためには、発現される遺伝子が1つの遺伝子構築物に共存する場合が好都合である。

この状況では、調節配列又は因子は、上記に記載されるように、好ましくは、導入した遺伝子の遺伝子発現への正の効果を有し、それゆえそれを増強させることができる。そのため、調節エレメントの増強は、好都合には、転写レベルでは、プロモーター及び/又はエンハンサーなどの強な転写シグナルを使用することによって行われることがある。しかしながら、さらに、転写を増強させることも、例えばmRNAの安定性を向上させることによって可能である。

調節配列は、具体的には、プロモーターやターミネーター配列などの植物配列を含む。構築物は、微生物中で、具体的には大腸菌(E.coli)及びアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)中で、選択条件下で好都合に安定に殖やすことができ、植物又は微生物内への異種DNAの移入を可能にする。有用な調節配列は、例えば、cos、tac、trp、tet、trp-tet、lpp、lac、lpp-lac、lacIq、T7、T5、T3、gal、trc、ara、SP6、λ-PRやλ-PLのプロモーターなどのプロモーターに存在し、グラム陰性細菌に好都合に採り入れられる。さらに好都合な調節配列は、例えば、グラム陽性のプロモーターであるamy及びSPO2、酵母又は菌類のプロモーターであるADC1、MFα、AC、P-60、CYC1、GAPDH、TEF、rp28、ADH、又は植物のプロモーターであるCaMV/35S[Franckら、Cell、21(1980)、285〜294]、PRP1[Wardら、Plant. Mol. Biol.、22(1993)]、SSU、OCS、lib4、usp、STLS1、B33、nos又はユビキチン若しくはファゼオリンのプロモーターに存在する。この状況で好都合であるのはまた、欧州特許出願第0388186号(ベンゼンスルホンアミド誘導性)、Plant J. 2、1992:397〜404(Gatzら、テトラサイクリン誘導性)、欧州特許出願第0335528(アブシジン酸誘導性)又はWO93/21334(エタノール若しくはシクロヘキサノール誘導性)のプロモーターに記載のプロモーターなどの誘導性プロモーターである。さらに適切な植物のプロモーターは、ジャガイモのサイトゾルFBPアーゼプロモーター若しくはST-LSIプロモーター(Stockhausら、EMBO J.、8、1989、2445)、ダイズ(glycine max)ホスホリボシルピロホスフェートアミドトランスフェラーゼプロモーター(Genbank受託番号U87999)、又は欧州特許出願第0249676号に記載の節特異的プロモーターである。特に好都合なプロモーターは、脂肪酸の生合成に関与する組織で発現することを可能にするプロモーターである。いっそう特に好都合なのは、記載されるようなUSPプロモーターのみではなくLeB4、DC3、ファゼオリンやナピンのプロモーターなどの他のプロモーターなどもある、種子特異的プロモーターである。さらに特に好都合なプロモーターは、単子葉植物又は双子葉植物に使用することができる種子特異的プロモーターであり、それらは、米国特許第5,608,152号(ナタネのナピンプロモーター)、WO98/45461[アラビドプシス属(Alabidopsis)のオレオシンプロモーター]、米国特許第5,504,200号[インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)のファゼオリンプロモーター]、WO91/13980[アブラナ属(Brassica)のBce4プロモーター]、Baeumleinら、Plant J.、2、2、1992:233〜239によるもの(マメ由来のLeB4プロモーター)に記載されており、これらのプロモーターは双子葉植物に適する。単子葉植物に適したプロモーターの例は、オオムギのlpt-2又はlpt-1プロモーター(WO95/15389及びWO95/23230)、オオムギのホルデインプロモーター、及びWO99/16890に記載の他の適切なプロモーターである。

原理上は、あらゆる天然のプロモーターを、例えば上記に述べたようなものなど、その調節配列と共に使用することが可能である。また、合成プロモーターを追加又は単独のどちらかで、具体的にはWO99/16890に記載されているものなど、種子特異的発現を媒介する際に、使用することも可能でありかつ好都合である。

特に高い不飽和脂肪酸含量を、特に形質転換植物で達成するために、本発明の基質特異性を変換されたデサチュラーゼをコードする核酸配列は、好都合には、油糧穀物で、種子特異的な方式で発現されるべきである。この目的で、種子特異的プロモーター、又は胚及び/若しくは胚乳で活性があるプロモーターが使用されうる。原理上、種子特異的プロモーターは、双子葉植物と単子葉植物の両方から単離されうる。好適なプロモーターを以下に列挙する。USP[=未知の種子タンパク質(unknown seed protein)]及びビシリン[ソラマメ(Vicia faba)][Baumleinら、Mol. Gen Genet.、1991、225(3)]、ナピン(ナタネ)(米国特許第5,608,152号)、アシル担体タンパク質(ナタネ)(米国特許第5,315,001号及びWO92/18634)、オレオシン[シロイヌナズナ(Alabidopsis thaliana)](WO98/45461及びWO93/20216)、ファゼオリン(インゲンマメ)(米国特許第5,504,200号)、Bce4(WO91/13980)、レギュミン(legumine)B4(LegB4プロモーター)(Baumleinら、Plant J.、2、2、1992)、Lpt2及びlpt1(オオムギ)(WO95/15389及びWO95/23230)、イネ、トウモロコシ及びコムギ由来の種子特異的プロモーター(WO99/16890)、Amy32b、Amy6-6及びアリューレイン(米国特許第5,677,474号)、Bce4(ナタネ)(米国特許第5,530,149号)、グリシニン(ダイズ)(欧州特許出願公開第571741号)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ダイズ)(JP06/62870)、ADR12-2(ダイズ)(WO98/08962)、イソクエン酸リアーゼ(ナタネ)(米国特許第5,689,040号)又はα-アミラーゼ(オオムギ)(欧州特許出願公開第781849号)である。

植物遺伝子発現はまた、化学的に誘導可能なプロモーターを介して促進することができる(Gatz、1997、Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol.、48:89〜108の概説を参照されたい)。化学的に誘導可能なプロモーターは、遺伝子発現が時間特異的な方式で行われることが望ましい際に、特に適する。そのようなプロモーターの例は、サリチル酸誘導性プロモーター(WO95/19443)、テトラサイクリン誘導性プロモーター[Gatzら(1992)、Plant J.、2、397〜404]、及びエタノール誘導性プロモーターである。

複数の世代にわたるトランスジェニック植物への遺伝子の安定的な組込みを促進するために、基質特異性を変換されたデサチュラーゼを、任意選択でΔ12デサチュラーゼ、ω3デサチュラーゼ、Δ9エロンガーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ6エロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ5エロンガーゼ及び/又はΔ4デサチュラーゼと組み合わせてコードし、かつプロセスに使用されるそれぞれの核酸は、別々のプロモーター、好ましくは他方のプロモーターとは異なるプロモーターの制御下で発現されるべきであり、それは、繰り返し配列モチーフが、T-DNAの不安定化、又は組換え事象につながりうるためである。この状況では、発現カセットは、好都合には、プロモーターの後ろに、発現される核酸を挿入するのに適した好都合にはポリリンカー中にある切断部位が続くように、また適正であれば、ターミネーター配列がポリリンカーの後ろに配置されるように構築される。この配列は、何回か、好ましくは3回、4回又は5回繰り返され、その結果、5つまでの遺伝子を1つの構築物に組み合せて、発現させるためにトランスジェニック植物に導入することができる。好都合には、配列は3回まで繰り返される。核酸配列を発現させるために、後者は、適切な切断部位、例えばポリリンカー内にある切断部位を介してプロモーターの後ろに挿入される。好都合には、それぞれの核酸配列は、自前のプロモーターを有し、適正であれば、自前のターミネーター配列を有する。そのような好都合な構築物は、例えば、ドイツ特許出願公開第10102337号又はドイツ特許出願公開第10102338号に開示されている。しかし、複数の核酸配列をプロモーターの後ろに、適正であればターミネーター配列の前に、挿入することも可能である。ここで、発現カセット中の挿入された核酸の挿入部位又は配列は、決定的に重要ではなく、換言すれば、核酸配列は、カセットの最初の位置でも最後の位置でも、それによってその発現に実質的に影響を与えることなく挿入することができる。好都合には、異なるプロモーター、例えばUSP、LegB4又はDC3プロモーターなどと、異なるターミネーター配列とを、発現カセットに使用することができる。しかし、1つのみのタイプのプロモーターをカセット中で使用することも可能である。しかし、このことは、望まない組換え事象につながることがある。

上記に記載されるように、導入されている遺伝子の転写は、導入されている生合成遺伝子の3'端にある適切なターミネーター配列(終止コドンの後ろ)によって、好都合には終結されるべきである。この状況で使用することができる配列の例は、OCS1ターミネーター配列である。プロモーターの場合がそうであるように、異なるターミネーター配列を、各遺伝子に使用するべきである。

本発明の遺伝子構築物はまた、アシルCoAデヒドロゲナーゼ、アシル-ACP(=アシル担体タンパク質)デサチュラーゼ、アシル-ACPチオエステラーゼ、脂肪アシルトランスフェラーゼ、アシル-CoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ、脂肪酸シンターゼ、脂肪酸ヒドロキシラーゼ、アセチル補酵素Aカルボキシラーゼ、アシル補酵素Aオキシダーゼ、脂肪酸デサチュラーゼ、脂肪酸アセチレナーゼ、リポキシゲナーゼ、トリアシルグリセロールリパーゼ、アレンオキシドシンターゼ、ヒドロペルオキシドリアーゼ又は脂肪酸エロンガーゼ、及びΔ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼやΔ6エロンガーゼなどのデサチュラーゼの群から選択される、脂肪酸又は脂質の代謝の生合成遺伝子を含んでもよい。

これらの追加の核酸又は遺伝子は、発現カセット内へクローニングすることができ、次いで該カセットは、アグロバクテリウムなどのベクターを活用して、植物を形質転換するために使用される。

ここで、調節配列又は因子は、上記に記載されたように、好ましくは、導入された発現遺伝子への正の効果を有し、それゆえ増強することができる。そのため、制御エレメントの増強は、プロモーター及び/又はエンハンサーなどの強力な転写シグナルを使用することによって、好都合には転写レベルで行うことができる。しかし、翻訳を増強することもまた、例えばmRNAの安定性を向上させることによって可能である。原理上、発現カセットは、植物内へ導入するために直接的に使用するか、あるいはベクター内に導入することができる。

それゆえ、本発明のさらに別の態様では、上記に記載の本発明の任意の態様にある、基質特異性を変換されたデサチュラーゼをコードする核酸又は遺伝子構築物を含むベクターが提供される。

一実施形態では、ベクターはクローニングベクターであってもよい。

本発明の基質特異性を変換されたデサチュラーゼをコードする核酸配列は、単独で、又は好ましくは発現カセット(核酸構築物)と組み合わせて、生物へ導入されてもよい。核酸を導入するために、後者は、好都合には、公知の方式で増幅されてライゲーションされる。好ましくは、Pfu DNAポリメラーゼ又はPfu/Taq DNAポリメラーゼ混合物のプロトコールに従う手順を辿る。プライマーは、増幅される配列を考慮して選択される。プライマーは、好都合には、開始コドンから終止コドンまでのコード化された全配列を増幅物が含むように選ばれるべきである。増幅後に、増幅物は、便宜上分析される。例えば、ゲル電気泳動分離を実施して、続いて定量分析及び定性分析を行うことができる。その後、増幅物は、標準的なプロトコール(例えばQiagen)に従って精製することができる。精製された増幅物のアリコートは、次いで、それに続くクローニング工程に利用可能である。

適切なクローニングベクターは、当業者に一般的に公知である。これらには、具体的には、微生物系で複製することのできるベクター、換言すれば、主に、酵母又は菌類で効率良いクローニングを促進し、植物で安定な形質転換を可能にするベクターが挙げられる。具体的に述べなければならないものは、T-DNA媒介性形質転換に適した様々なバイナリー又は共組込み型のベクター系である。そのようなベクター系は、通例、アグロバクテリウム媒介性形質転換及びT-DNA区切り配列(T-DNA境界)に必要とされるvir遺伝子を少なくとも含むことを特徴とする。これらのベクター系はまた、好都合に、プロモーターやターミネーター配列などのcis調節領域、及び/又は適切に形質転換された生物を同定することのできる選択マーカーをさらに含む。共組込み型ベクター系の場合では、vir遺伝子及びT-DNA配列が同じベクター上に整列されるが、一方、バイナリー系は、少なくとも2つのベクターに基づいており、うち1つはvir遺伝子を有するがT-DNAを持たないのに対し、第2のものはT-DNAを有するがvir遺伝子を持たない。この事実のために、最後に述べたベクターは、比較的小さく、操作と、大腸菌及びアグロバクテリウムの両方での複製とが容易である。これらのバイナリーベクターとしては、シリーズpBIB-HYG、pPZP、pBecks、pGreen由来のベクターが挙げられる。本発明に従って、Bin19、pBI101、pBinAR、pGPTV及びpCAMBIAが随意に使用される。バイナリーベクター及びその使用の概要は、Hellensら、Trends in Plant Science(2000)、5、446〜451に見られる。ベクターを調製するために、ベクターをまず、制限エンドヌクレアーゼ(複数可)を用いて線状化し、次いで適切な方式で酵素を用いて修飾することができる。その後、ベクターを精製して、アリコートをクローニング工程に利用する。クローニング工程では、酵素で切断され、かつ適正であれば精製された増幅産物を、調製されているベクター断片に、リガーゼを使用して同様の方式でクローニングする。この状況では、具体的な核酸構築物、又はベクター若しくはプラスミド構築物は、1つあるいは1つを超えるコード化された遺伝子セグメントを有しうる。これらの構築物中のコード化された遺伝子セグメントは、好ましくは調節配列と動作可能に連結される。制御配列は、具体的に、上記に記載のプロモーターやターミネーター配列などの植物配列を含む。構築物は、好都合には、微生物中、具体的には大腸菌及びアグロバクテリウム・ツメファシエンス中で、選択条件下で安定的に殖えることができ、異種DNAを植物内又は微生物内に移入することを可能にする。

プロセスで使用される核酸、すなわち本発明の核酸及び核酸構築物は、微生物や好都合には植物などの生物内に、好都合にはベクターを使用して導入され得、それゆえPlant Molecular Biology and Biotechnology(CRC Press、ボカラトン、フロリダ州)、第6/7章、71〜119頁(1993); F.F. White、Vectors for Gene Transfer in Higher Plants、Transgenic Plants内、第1巻、Engineering and Utilization、Kung及びR. Wu編、Academic Press、1993、15〜38; B. Jenesら、Techniques for Gene Transfer、Transgenic Plants内、第1巻、Engineering and Utilization、Kung及びR. Wu編、Academic Press(1993)、128〜143; Potrykus、Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Molec. Biol.、42(1991)、205〜225に公開及び引用されたものなどの植物の形質転換に使用されうる。そのため、核酸、すなわち、プロセスで使用される本発明の核酸及び核酸構築物並びに/又はベクターは、広範な生物の、好都合には植物の組換え改変に使用することができ、その結果、後者は、本明細書に参照されるように、さらに効率の良い及び/又は高い不飽和脂肪酸の生産体となってゆく。

基質特異性が変換されたデサチュラーゼの改変を可能にする一連の機構が存在し、その結果、この改変されたデサチュラーゼタンパク質のために、植物で、好ましくは油糧穀物植物又は微生物で、好都合な不飽和脂肪酸の収量、生産性及び/又は生産効率が、直接的に影響を受けうる。タンパク質又は遺伝子の数又は活性は、さらに多量の遺伝子産物が、結局は本明細書に参照されるようなさらに多量の不飽和脂肪酸が生産されるように、増加されうる。対応の遺伝子(複数可)を導入する前では脂肪酸を生合成する活性及び能力を欠いていた生物で、de novo合成することも可能である。このことは、類似的に、さらに別のデサチュラーゼ又はエロンガーゼ又は脂肪酸及び脂質の代謝のさらに別の酵素との組合せに当て嵌る。様々な多様な配列、すなわちDNA配列レベルで異なる配列を使用することもまた、この状況では好都合である場合があり、あるいは、例えば種子又は油脂貯蔵組織の成熟度の関数として、異なる遺伝子の発現を時間経過中に可能にする、遺伝子発現用のプロモーターを使用することも好都合でありうる。

基質特異性が変換されたデサチュラーゼをコードする遺伝子又は核酸を、生物へ単独で、又は細胞中の他の遺伝子と組み合わせて導入することによって、最終生産物へと向かう生合成の流れを増すことが可能であるばかりでなく、対応のトリアシルグリセロール組成物を増加させるか若しくはde novoで作り出すことも可能である。同じように、1つ以上の脂肪酸、油脂、極性及び/若しくは中性の脂質の生合成に必要な養分の移送に関与する他の遺伝子の数又は活性を、増加させることができ、その結果、細胞内又は貯蔵区画内のこれらの前駆体、補因子又は中間体の濃度が増加し、それによって、細胞が下記に記載されるような不飽和脂肪酸を生産する能力は、いっそう増強される。これらの化合物の生合成に関与する1つ以上の遺伝子の活性を最適化するか若しくはその数を増加させることによって、又は、これらの化合物の分解に関与する1つ以上の遺伝子の活性を破壊することによって、生物で、好都合には植物で、脂肪酸及び脂質分子の収量、生産性及び/又は生産効率を増強させることが可能になる。

代替の実施形態では、ベクターは、核酸を発現して本明細書に参照される不飽和脂肪酸を合成する生物を、形質転換するように設計された発現ベクターであってもよい。

これらの好都合なベクター、好ましくは発現ベクターは、基質特異性を変換されたデサチュラーゼをコードする核酸を含む。

本願の状況で使用されるとき、「ベクター」という用語は、それが結合する別の核酸に輸送することが可能な核酸分子を指す。ベクターの1つのタイプは「プラスミド」であり、追加のDNAセグメントをその内部でライゲーションすることのできる環状2本鎖DNAループである。さらに別のタイプのベクターは、ウイルスベクターであり、追加のDNAセグメントをウイルスゲノム内にライゲーションすることが可能である。ある特定のベクターは、それらが導入されている宿主細胞内で自律的に複製することが可能である(例えば細菌の複製起点を有する細菌ベクター)。他のベクターは、宿主細胞内に導入された際に、宿主細胞のゲノム内に好都合に組み込まれ、それゆえ宿主ゲノムと共に複製される。さらに、ある特定のベクターは、動作可能な連結にある遺伝子の発現を支配することができる。これらのベクターは、本願の状況では、「発現ベクター」とよばれる。通常は、DNA組換え手法に適した発現ベクターは、プラスミドの形態をとる。

本発明の記載であって「プラスミド」という用語が使用される記載では、プラスミドは、ウイルスベクターなど、同様の機能を発揮する他のタイプの発現ベクターに置換することができることを理解されたい。さらに、「ベクター」という用語はまた、ファージ、SV40、CMV、TMVなどのウイルス、トランスポゾン、ISエレメント、ファスミド、ファージミド、コスミド、線状又は環状のDNAなど、当業者に馴染みのある他のベクターを含むことを意図されている。

PUFAを生産するプロセスに好都合に使用される組換え発現ベクターは、本発明の核酸又は遺伝子構築物を、宿主細胞で使用される核酸を発現するのに適した形態で含み、このことは、組換え発現ベクターが、発現に使用される宿主細胞に基づき選択された1つ以上の調節配列を含むことを意味し、該調節配列(複数可)は、発現される核酸配列に動作可能に連結されている。組換え発現ベクターで「動作可能に連結」とは、目的のヌクレオチド配列が、そのヌクレオチド配列の発現が可能になるように調節配列(複数可)に結合されていることを意味しており、双方が、その配列に帰する予想される機能を実施するように(例えばin vitro転写/翻訳系で、又はベクターが宿主細胞内に導入される場合は宿主細胞で)、それらは互いに結合している。「制御配列」という用語は、プロモーター、エンハンサー及び他の発現制御エレメント(例えばポリアデニル化シグナル)を含むことを意図されている。これらの調節配列は、例えばGoeddel:Gene Expression Technology:Methods in Enzymology、185、Academic Press、サンディエゴ、カリフォルニア州(1990)に記載されており、又はGruber及びCrosby、Methods in Plant Molecular Biology and Biotechnolgy内、CRC Press、ボカラトン、フロリダ州、Glick及びThompson編、第7章、89〜108を、その中に引用された参考文献を含めて参照されたい。調節配列は、多くのタイプの宿主細胞でヌクレオチド配列の恒常的な発現を支配するもの、及び特有の状況下の特有の宿主細胞でのみヌクレオチド配列の直接的な発現を支配するものを含む。当業者は、発現ベクターの設計が、形質転換される宿主細胞の選択、タンパク質の所望の発現レベルなどの要因に依存しうることを理解している。

使用される組換え発現ベクターは、原核又は真核細胞で、本発明の基質特異性が変換されたデサチュラーゼを発現するために、設計することができる。このことは好都合であり、それは、ベクター構築の中間工程は、簡便のため往々にして微生物中で実施されるためである。例えば、本発明の基質特異性が変換されたデサチュラーゼをコードする遺伝子又は核酸は、WO 98/01572に記載されるような形質転換法でベクターを使用して、細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを使用して)、酵母及び他の菌類細胞[Romanos, M.A.ら(1992)、「Foreign gene expression in yeast: a review」、Yeast、8:423〜488; van den Hondel, C.A.M.J.J.ら(1991)、「Heterologous gene expression in filamentous fungi」、More Gene Manipulations in Fungi内、J.W. Bennet及びL.L. Lasure編、396〜428頁:Academic Press:サンディエゴ;並びにvan den Hondel, C.A.M.J.J.及びPunt, P.J.(1991)、「Gene transfer systems and vector development for filamentous fungi」、Applied Molecular Genetics of Fungi内、Peberdy, J.F.ら編、1〜28頁、Cambridge University Press:ケンブリッジを参照されたい]、藻類(Falciatoreら、1999、Marine Biotechnology.、1、3:239〜251)、繊毛虫類のタイプ:コガネ属(Holotrichia)、緑毛類(Peritrichia)、旋毛網(Spirotrichia)、吸管虫亜網(Suctoria)、テトラヒメナ属(Tetrahymena)、ゾウリムシ属(Paramecium)、コルピディウム属(Colpidium)、グラウコマ属(Glaucoma)、プラティオフリア属(Platyophrya)、ポトマクス属(Potomacus)、デサチュラーゼウドコニレンバス属(Desaturaseudocohnilembus)、ユープロテス属(Euplotes)、エンゲルマニエラ属(Engelmaniella)及びスティロニキア属(Stylonychia)であって、具体的にはスティロニキア・レムナエ(Stylonychia lemnae)の属で発現することができ、好ましくは多細胞植物の細胞で発現することができる[Schmidt, R.及びWillmitzer, L. (1988)、「High efficiency Agrobacterium tumefaciens-mediated transformation of Arabidopsis thaliana leaf and cotyledon explants」、Plant Cell Rep.:583〜586; Plant Molecular Biology and Biotechnology、C Press、ボカラトン、フロリダ州、第6/7章、71〜119 (1993); F.F. White, B. Jenesら、Techniques for Gene Transfer、Transgenic Plants内、第1巻、Engineering and Utilization、Kung及びR. Wu編、Academic Press(1993)、128〜43; Potrykus、Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Molec. Biol.、42 (1991)、205〜225 (及びそれらの中で引用されている参考文献)を参照されたい]。適切な宿主細胞は、Goeddel、Gene Expression Technology:Methods in Enzymology、185、Academic Press、サンディエゴ、カリフォルニア州(1990)にさらに議論されている。代替として、組換え発現ベクターをin vitroで、例えばT7プロモーター調節配列及びT7-ポリメラーゼを使用して、転写し翻訳することができる。

殆どの場合、原核細胞でのタンパク質の発現は、融合又は非融合のタンパク質の発現を支配する恒常型又は誘導性のプロモーターを含むベクターの使用を含む。典型的な融合発現ベクターは、とりわけ、pGEX[Pharmacia Biotech Inc、Smith, D.B.及びJohnson, K.S.(1988)、Gene、67:31〜40]、pMAL (New England Biolabs、ビバリー、マサチューセッツ州)及びpRIT5(Pharmacia、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)であり、これらでは、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース-E結合タンパク質及びプロテインAがそれぞれ、組換え標的タンパク質に融合されている。

適切な非融合の誘導性大腸菌発現ベクターの例は、とりわけ、pTrc[Amannら(1988)、Gene、69:301〜315]及びpET 11d[Studierら、Gene Expression Technology:Methods in Enzymology、185、Academic Press、サンディエゴ、カリフォルニア州(1990)、60〜89]である。pTrcベクターからの標的遺伝子発現は、宿主のRNAポリメラーゼによるハイブリッドtrp-lac融合プロモーターからの転写に基づく。ベクターpET 11dからの標的遺伝子発現は、T7-gn10-lac融合プロモーターの転写に基づき、該プロモーターは、共発現されるウイルスRNAポリメラーゼ(T7 gn1)によって媒介される。このウイルスポリメラーゼは、lacUV 5プロモーターの転写制御下で、T7 gn1遺伝子を具える常在性λ-プロファージ由来の宿主株BL21 (DE3)又はHMS174 (DE3)によって提供される。

原核生物に適した他のベクターは、当業者に公知であり、これらのベクターは、例えば大腸菌pLG338、pACYC184、pBR322などのpBRシリーズ、pUC18やpUC19などのpUCシリーズ、M113mpシリーズ、pKC30、pRep4、pHS1、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN-III113-B1、λgt11又はpBdCI、ストレプトマイセス(Streptomyces)pIJ101ではpIJ364、pIJ702又はpIJ361、バチルス(Bacillus)pUB110ではpC194又はpBD214、コリネバクテリウム(Corynebacterium)ではpSA77又はpAJ667である。

さらに別の態様では、発現ベクターは酵母発現ベクターである。酵母サッカロマイセス・セレビシエで発現するためのベクターの例は、pYeDesaturasec1[Baldariら(1987)、Embo J.、6:229〜234]、pMFa[Kurjan及びHerskowitz(1982)、Cell、30:933〜943]、pJRY88[Schultzら(1987)、Gene、54:113〜123]及びpYES2(Invitrogen Corporation、サンディエゴ、カリフォルニア州)を含む。糸状菌など、他の菌類での使用に適したベクターを構築するためのベクター及びプロセスは、van den Hondel, C.A.M.J.J.及びPunt, P.J.(1991)、「Gene transfer systems and vector development for filamentous fungi」、Applied Molecular Genetics of fungi内、J.F. Peberdyら編、1〜28頁、Cambridge University Press:Cambridgeに、又はMore Gene Manipulations in Fungi(J.W. Bennet及びL.L. Lasure編、396〜428頁:Academic Press:サンディエゴ)に、詳細を記載されているものを含む。さらに別の適切な酵母ベクターは、例えば、pAG-1、YEp6、YEp13又はpEMBLYe23である。

代替として、本発明の基質特異性を変換されたデサチュラーゼは、バキュロウイルスベクターを使用して昆虫細胞で発現させることができる。培養昆虫細胞(例えばSf9細胞)でタンパク質を発現させるために利用可能なバキュロウイルス発現ベクターは、pAcシリーズ[Smithら(1983)、Mol. Cell Biol.、3:2156〜2165]、及びpVLシリーズ(Lucklow及びSummers(1989)、Virology、170:31〜39)を含む。

上述のベクターは、可能性のある適切なベクターのうちのほんの少しの概要にすぎない。さらに別のプラスミドが当業者に公知であり、例えば、Cloning Vectors(Pouwels, P.H.ら編、Elsevier、Amsterdam-New York-Oxford、1985、ISBN 0 444 904018)に記載されている。原核及び真核細胞に用いるさらに別の適切な発現系については、Sambrook, J.、Fritsch, E.F.及びManiatis, T.、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、ニューヨーク、1989の第16章及び第17章を参照されたい。

プロセスのさらに別の実施形態では、本発明の基質特異性を変換されたデサチュラーゼは、単細胞植物の細胞(例えば藻類)、すなわちFalciatoreら、1999、Marine Biotechnology、1(3):239〜251及びその中で引用された参考文献に参照されるもの、並びに高等植物由来の植物細胞(例えば耕作に適した穀物などの種子植物)で発現することができる。植物発現ベクターの例は、Becker, D.、Kemper, E.、Schell, J.及びMasterson, R.(1992)「New plant binary vectors with selectable markers located proximal to the left border」、Plant Mol. Biol.、20:1195〜1197、及びBevan, M.W. (1984)、「Binary Agrobacterium vectors for plant transformation」、Nucl. Acids Res.、12:8711〜8721; Vectors for Gene Transfer in Higher Plants、Transgenic Plants内、第1巻、Engineering and Utilization、Kung及びR. Wu編、Academic Press、1993、15〜38頁に詳細を記載されているものを含む。

植物の発現カセットは、植物細胞での遺伝子の発現を支配することが可能であり、かつ転写終結などその機能を各配列が果たすことができるように動作可能に連結されている、制御配列を好ましくは含み、そのような配列としては、例えばポリアデニル化シグナルがある。好適なポリアデニル化シグナルは、オクトピンシンターゼとして公知のTiプラスミドpTiACH5の遺伝子3 (Gielenら、EMBO J.、3(1984)、835以下)など、アグロバクテリウム・ツメファシエンスT-DNA由来のもの、又はその機能的な等価物であるが、植物で機能的な活性がある他の全てのターミネーター配列もまた適する。

植物遺伝子発現は、転写レベルには制限されない場合が非常に多いことから、植物発現カセットは、好ましくは、動作可能に連結された翻訳エンハンサーなどの他の配列を含み、翻訳エンハンサーとしては、例えば、タンパク質/RNA比を増加させるタバコモザイクウイルス5'非翻訳リーダー配列を増強する、オーバードライブ配列がある[Gallieら、1987、Nucl. Acids Research、15:8693〜8711]。

上記に記載されたように、植物遺伝子発現は、正しいタイミングで、又は細胞若しくは組織特異的な方式で遺伝子発現を引き起こすように、適切なプロモーターに動作可能に連結されなければならない。利用可能なプロモーターは、恒常的プロモーター[Benfeyら、EMBO J.、8(1989)、2195〜2202]であり、例えば、35S CaMV[Franckら、Cell、21(1980)、285〜294]、19S CaMV(米国特許第5352605号及びWO84/02913も参照されたい)などの植物ウイルス由来のものや、米国特許第4,962,028号に記載のRubiscoサブユニットのプロモーターなどの植物プロモーターなどがある。

植物遺伝子発現カセット中の動作可能な連結に使用される別の好適な配列は、ターゲティング配列であり、該配列は、遺伝子産物を対応の細胞区画内へ[Kermode、Crit. Rev. Plant Sci.、15、4(1996)、285〜423の概説及びその中で引用された参考文献を参照されたい]、例えば液胞内へ、核内へ、アミロプラスト、葉緑体、有色体、細胞外間隙、ミトコンドリア、小胞体、エライオプラスト、ペルオキシソームなどのあらゆるタイプのプラスチド、及び植物細胞の他の区画へ、取りするために必要である。

上記に示されるように、植物遺伝子発現はまた、化学誘導性プロモーターを介して達成することもできる(Gatz、1997、Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol.、48:89〜108の概説を参照されたい)。化学誘導性プロモーターは、遺伝子発現が時間特異的な方式で行われることが望ましい際に、特に適する。そのようなプロモーターの例は、サリチル酸誘導性プロモーター(WO95/19443)、テトラサイクリン誘導性プロモーター[Gatzら(1992)、Plant J.、2、397〜404]及びエタノール誘導性プロモーターである。

生物又は非生物のストレス条件に応答するプロモーターもまた適しており、例えば、病原体誘導性PRP1遺伝子プロモーター[Wardら、Plant. Mol. Biol.、22(1993)、361〜366]、トマトの熱誘導性hsp80プロモーター(米国特許第5,187,267号)、ジャガイモの寒冷誘導性アルファ-アミラーゼプロモーター(WO 96/12814)又は損傷誘導性pinIIプロモーター(欧州特許出願公開第0375091号)がある。

特に好適であるのは、脂肪酸、脂質及び油脂の生合成が行われる組織及び器官に遺伝子発現をもたらす、内胚乳や発生中の胚の細胞など種子細胞中のプロモーターである。適切なプロモーターは、ナタネのナピンプロモーター(米国特許第5,608,152号)、ソラマメUSPプロモーター(Baeumleinら、Mol Gen Genet、1991、225(3):459〜67)、アラビドプシス属のオレオシンプロモーター(WO98/45461)、インゲンマメのファゼオリンプロモーター(米国特許第5,504,200号)、アブラナ属のBce4プロモーター(WO91/13980)又はレギュミンB4プロモーター(LeB4、Baeumleinら、1992、Plant Journal、2 (2):233-9)、トウモロコシ、オオムギ、コムギ、ライムギ、コメなどの単子葉植物に種子特異的な発現をもたらすプロモーターである。注目すべき適切なプロモーターは、オオムギのlpt2若しくはlpt1遺伝子プロモーター(WO95/15389及びWO95/23230)、又はWO99/16890に記載のオオムギのホルデイン遺伝子、イネのグルテリン遺伝子、イネのオリジン(oryzin)遺伝子、イネのプロラミン遺伝子、コムギのグリアジン遺伝子、コムギのグルテリン遺伝子、トウモロコシのゼイン(zeine)遺伝子、オートムギのグルテリン遺伝子、モロコシのカシリン(kasirin)遺伝子若しくはライムギのセカリン(secalin)遺伝子由来のプロモーターである。

同じように特に適する他のプロモーターは、プラスチド特異的な発現をもたらすものであり、それは、プラスチドが、脂質生合成の前駆体及びいくつかの最終生成物が合成される区画を構成するためである。ウイルスRNAポリメラーゼプロモーターなど、適切なプロモーターは、WO95/16783及びWO97/06250に記載され、アラビドプシス属由来のclpPプロモーターは、WO99/46394に記載されている。

ベクターDNAは、従来の形質転換又は形質移入の手法を介して、原核又は真核細胞内へ導入することができる。本願の状況で使用されるときの「形質転換」及び「形質移入」という用語、接合及び形質導入は、外来性核酸(例えばDNA)を宿主細胞内に導入するために用いる、先行技術分野で公知の多数の方法を含むことが意図されており、そのような方法としては、リン酸カルシウム若しくは塩化カルシウム共沈法、DEAE-デキストランの媒介による形質移入、リポフェクション、天然の受容性、化学的な媒介による移入、電気穿孔や粒子衝撃が挙げられる。植物細胞を含めた宿主細胞の形質転換又は形質移入に適した方法は、Sambrookら(Molecular Cloning: A Laboratory Manual.、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、ニューヨーク、1989)、及びMethods in Molecular Biology、1995、第44巻、Agrobacterium protocols、Gartland及びDavey編、Humana Press、トトワ、ニュージャージー州などの他の実習教科書に見ることができる。

本発明のさらに別の態様では、本発明の前出の態様による少なくとも1つの核酸、遺伝子構築物又はベクターを含む、トランスジェニック非ヒト生物が提供される。

トランスジェニック非ヒト生物は、微生物、非ヒト動物又は植物でありうる。

本発明の基質特異性を変換されたデサチュラーゼをコードする核酸、本発明による遺伝子産物、又は本発明によるベクターを取り込むために、原理上、適した宿主細胞は、あらゆる原核又は真核生物である。好都合に使用される宿主生物は、菌類や酵母などの微生物、又は植物細胞、好ましくは植物体又はその一部である。菌類、酵母又は植物が、好ましくは使用され、特に植物、例えば、ナタネ、マツヨイグサ、アサ、アザミ、ピーナッツ、キャノーラ、アマニ、ダイズ、ベニバナ、ヒマワリ、ルリヂシャなどの脂質化合物の高い油糧穀物などの植物、又は、トウモロコシ、コムギ、ライムギ、オートムギ、ライコムギ、イネ、オオムギ、ワタ、キャッサバ、コショウ、センジュギク属(Tagete)、ジャガイモ、タバコ、ナスやトマトなどのナス科(Solanacea)植物、ソラマメ属(Vicia)の種、マメ、アルファルファ、低木植物(コーヒー、カカオ、チャ)、ヤナギ属(Salix)の種、樹木(アブラヤシ、ココナッツ)、並びに多年草及び飼料穀物などの植物が、好ましくは使用される。本発明による特に好適な植物は、ダイズ、ピーナッツ、ナタネ、キャノーラ、アマニ、アサ、マツヨイグサ、ヒマワリ、ベニバナ、樹木(アブラヤシ、ココナッツ)などの油糧穀物である。

上述の基質特異性を変換されたデサチュラーゼをコードする核酸、及び本発明によって提供される基質特異性を変換されたデサチュラーゼは、トランスジェニック生物で、好都合には植物で、例えば、トウモロコシ、コムギ、ライムギ、オートムギ、ライコムギ、イネ、オオムギ、ダイズ、ピーナッツ、ワタ、アマニやアマなどのアマ属(Linum)の種、ナタネ、キャノーラやカブナなどのアブラナ属の種、コショウ、ヒマワリ、ルリヂシャ、マツヨイグサ、センジュギク属、ジャガイモ、タバコ、ナスやトマトなどのナス科植物、ソラマメ属の種、マメ、キャッサバ、アルファルファ、低木植物(コーヒー、カカオ、チャ)、ヤナギ属の種、樹木(アブラヤシ、ココナッツ)、並びに多年草及び飼料穀物などで、Δ4、Δ5、及び/又はΔ6の不飽和脂肪酸の生産を整調するためのプロセスに使用することができ、直接的に使用されうるか(例えば、脂肪酸生合成タンパク質の過剰発現又は最適化によって、改変生物由来の脂肪酸の収量、生産及び/若しくは生産効率への直接的な効果が奏される場合)、間接的でありながらもΔ4、Δ5、及び/若しくはΔ6の不飽和脂肪酸の収量、生産及び/若しくは生産効率の増強、又は望まない化合物の低減を引き起こす効果を有しうるか(例えば、脂質及び脂肪酸の代謝、補因子及び酵素を整調することが、収量、生産及び/若しくは生産効率、又は細胞内の所望の化合物の組成を改変し、次には、本明細書に参照されるような1つ以上の脂肪酸の生産に影響を及ぼしうることにつながる場合)のどちらか又はその両方である。

Δ4、Δ5、及び/又はΔ6の不飽和脂肪酸は、トリアシルグリセロールのみではなく、膜脂質へも組み込まれることから、様々な前駆体分子と生合成酵素との組合せは、脂質組成への決定的な効果を有する、様々な脂肪酸分子の生産につながる。

アブラナ科(Brassicaceae)、ムラサキ科(Boraginaceae)、サクラソウ科(Primulaceae)又はアマ科(Linaceae)が、PUFA、例えばステアリドン酸、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸の生産に特に適する。アマニ[アマ(Linum usitatissimum)]は、本発明による基質特異性を変換されたデサチュラーゼをコードする核酸配列を用いたPUFAの生産に特に好都合に適し、好都合には、記載されるように、さらに別のデサチュラーゼ及びエロンガーゼと組み合わせた際に適する。

脂質合成は、2つの区分に分けることができる。すなわち、脂肪酸の合成及びそれらのsn-グリセロール-3-リン酸への結合と、極性頭部基の添加又は修飾である。膜で使用される通常の脂質は、リン脂質、糖脂質、スフィンゴ脂質及びホスホグリセリドを含む。脂肪酸合成は、アセチル-CoAがアセチル-CoAカルボキシラーゼによってマロニル-CoAへ、又はアセチルトランスアシラーゼによってアセチル-ACPへ変換されることで始まる。縮合反応の後、これらの2つの生産物分子は、共にアセトアセチル-ACPを形成し、アセトアセチル-ACPは、一連の縮合、還元及び脱水和(dehydratization)反応を介して変換され、その結果、所望の鎖長を有する飽和脂肪酸分子が得られる。これらの分子からの不飽和脂肪酸の生産は、生物的に分子酸素を用いるか又は非生物的にかのどちらかで、特異的なデサチュラーゼによって触媒される[微生物での脂肪酸合成に関してはF.C. Neidhardtら(1996)、E. coli and Salmonella.、ASM Press:ワシントンD.C.、612〜636頁及びその中に引用されている参考文献; Lengelerら編(1999)、Biology of Procaryotes. Thieme: Stuttgart、ニューヨーク州及びその中の参考文献、並びにMagnuson, K.ら(1993) Microbiological Reviews、57:522〜542及びその中の参考文献を参照されたい]。さらに進んだ伸長工程を経るために、得られたリン脂質結合型脂肪酸を、脂肪酸CoAエステルプールに戻さなければならない。これは、アシル-CoA:リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼによって可能になる。さらに、これらの酵素は、伸長された脂肪酸をCoAエステルからリン脂質に戻して転移することが可能である。適正であれば、この反応配列は、繰り返し辿られうる。

合成されたΔ4、Δ5、及び/又はΔ6の不飽和脂肪酸は、遊離脂肪酸の形態で、又はそれらのエステルの形態で、例えばそれらのグリセリドの形態で得ることができる。

「グリセリド」という用語は、1個、2個又は3個のカルボキシル基(モノ、ジ、又はトリグリセリド)を用いてエステル化されたグリセロールを意味するものとして理解される。「グリセリド」はまた、様々なグリセリドの混合物を意味するものとして理解される。グリセリド又はグリセリド混合物は、さらに添加物を、例えば遊離脂肪酸、抗酸化物質、タンパク質、炭水化物、ビタミン及び/又は他の物質を含んでいてもよい。

本発明の目的のために、「グリセリド」はさらに、グリセロール誘導体を意味するものとして理解される。上記に記載の脂肪酸グリセリドに加えて、これらはまた、グリセロリン脂質及びグリセロ糖脂質を含む。この状況で述べられうる好適な例は、レシチン(lecithin)(ホスファチジルコリン)などのグリセロリン脂質、カルディオリピン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン及びアルキルアシルグリセロリン脂質である。

さらに、脂肪酸は、続いて、様々な修飾部位に転位して、トリアシルグリセロール貯蔵脂質内に組み込まれなければならない。脂質合成のさらに重要な工程は、極性頭部基への脂肪酸の転移であり、例えばグリセロール脂肪アシルトランスフェラーゼによる[Frentzen、1998、Lipid、100(4-5):161〜166を参照されたい]。

植物の脂肪酸生合成に関して、並びに不飽和化、脂質代謝及び脂質化合物の膜輸送に関して、ベータ酸化、脂肪酸の修飾及び補因子、トリアシルグリセロールの貯蔵及びトリアシルグリセロールのアセンブリに関する刊行物は、その中にある参考文献も含めて、以下の資料、すなわちKinney、1997、Genetic Engeneering、JK Setlow編、19:149〜166; Ohlrogge及びBrowse、1995、Plant Cell、7:957〜970; Shanklin及びCahoon、1998、Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol.、49:611〜641; Voelker、1996、Genetic Engeneering、JK Setlow編、18:111〜13; Gerhardt、1992、Prog. Lipid R.、31:397〜417; Guhnemann-Schafer及びKindl、1995、Biochim. Biophys Acta、1256:181〜186;Kunauら、1995、Prog. Lipid Res.、34:267〜342; Stymneら、1993、Biochemistry and Molecular Biology of Membrane and Storage Lipids of Plants、Murata及びSomerville編、Rockville、American Society of Plant Physiologists、150〜158、Murphy及びRoss、1998、Plant Journal.、13(1):1〜16を参照されたい。

本発明の目的のためのリン脂質は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール及び/又はホスファチジルイノシトール、好都合にはホスファチジルコリンを意味するものと理解される。「生産」又は「生産性」という用語は、当技術分野に公知であり、特定の期間内に特定の発酵体積で形成される発酵生産物の濃度(例えばリットル当たりの時間当たりの生産物のkg)を含む。それはまた、植物細胞又は植物体内の生産性を含み、換言すれば、この細胞又は植物体中の全脂肪酸含量に対する、プロセスで生産された所望の脂肪酸の含量である。「生産効率」という用語は、特定の生産の量を得るために必要な時間(例えば、精製化学品のある特定のスループット率を確立するために細胞によって必要とされる時間)を含む。収量又は生産物/炭素収量という用語は、当技術分野に公知であり、炭素源を生産物(すなわち精製化学品)に変換する効率を含む。これは、通常は、例えば炭素源のkg当たりの生産物のkgとして表現される。化合物の収量又は生産が増加することによって、この化合物の得られた分子の量、又は指定された期間にわたって特定の培養量中に得られたこの化合物の適切な分子の量が増加する。生合成又は生合成経路という用語は、当技術分野に公知であり、細胞によって中間体から化合物を、好ましくは有機化合物を、例えば多工程かつ強力に調節されたプロセスでの合成を含む。「異化」又は「異化経路」という用語は、当技術分野に公知であり、細胞によって化合物を、好ましくは有機化合物を、例えば多工程かつ強力に調節されたプロセスで、切断して異化物(より一般的な用語では、より小さいか複雑性の低い分子)を得ることを含む。「代謝」という用語は、当技術分野に公知であり、生物中で行われる生化学反応の全体を含む。ある特定の化合物の代謝(例えば脂肪酸の代謝)は、それゆえこの化合物に関連する細胞におけるこの化合物の生合成経路、修飾経路及び異化経路の全体を含む。

本発明は、さらに、以下の一般式Iに示される構造を有する物質を生産するための方法であって、

[式中、 変数及び置換基は以下の通りである: R1=ヒドロキシル、コエンザイムA(チオエステル)、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルグリセロール、リゾジホスファチジルグリセロール、リゾホスファチジルセリン、リゾホスファチジルイノシトール、スフィンゴ塩基、又は式IIの基であり、

R2=水素、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、又は飽和若しくは不飽和のC2〜C24-アルキルカルボニルであり、 R3=水素、飽和若しくは不飽和のC2〜C24-アルキルカルボニルであるか、又はR2及びR3は互いに独立して式Iaの基であり、

n=2、3、4、5、6、7又は9、m=2、3、4、5又は6、及びp=0又は3である] (i)本発明の基質特異性を変換された少なくとも1つのデサチュラーゼを発現する宿主細胞、又は(ii)本発明の基質特異性を変換された少なくとも1つのデサチュラーゼを発現するトランスジェニック非ヒト生物を、該物質の生合成を可能にする条件下で培養することを含む、方法に関する。好ましくは、宿主細胞又はトランスジェニック生物中の総脂質含量に基づき、上述の物質は、少なくとも1重量%の量で提供される。さらに、本発明のこの方法で使用される宿主細胞又はトランスジェニック非ヒト生物は、本発明の基質特異性を変換された2個、3個、4個、5個、6個又はそれ以上のデサチュラーゼを発現しうる。

述べられうる好適なアルキル基R2は、置換又は非置換の、飽和又は不飽和のC2〜C24-アルキルカルボニル鎖であり、例えばエチルカルボニル、n-プロピルカルボニル、n-ブチルカルボニル、n-ペンチルカルボニル、n-ヘキシルカルボニル、n-ヘプチルカルボニル、n-オクチルカルボニル、n-ノニルカルボニル、n-デシルカルボニル、n-ウンデシルカルボニル、n-ドデシルカルボニル、n-トリデシルカルボニル、n-テトラデシルカルボニル、n-ペンタデシルカルボニル、n-ヘキサデシルカルボニル、n-ヘプタデシルカルボニル、n-オクタデシルカルボニル、n-ノナデシルカルボニル、n-エイコシルカルボニル、n-ドコサニルカルボニルやn-テトラコサニルカルボニルなどであり、それらは1つ以上の二重結合を含む。n-デシルカルボニル、n-ウンデシルカルボニル、n-ドデシルカルボニル、n-トリデシルカルボニル、n-テトラデシルカルボニル、n-ペンタデシルカルボニル、n-ヘキサデシルカルボニル、n-ヘプタデシルカルボニル、n-オクタデシルカルボニル、n-ノナデシルカルボニル、n-エイコシルカルボニル、n-ドコサニルカルボニルやn-テトラコサニルカルボニルなどの飽和又は不飽和のC10-C22-アルキルカルボニル基であり、1つ以上の二重結合を含むものが好適である。特に好適であるのは、飽和及び/又は不飽和のC10〜C22-アルキルカルボニル基であり、例えばC10-アルキルカルボニル、C11-アルキルカルボニル、C12-アルキルカルボニル、C13-アルキルカルボニル、C14-アルキルカルボニル、C16-アルキルカルボニル、C18-アルキルカルボニル、C20-アルキルカルボニル又はC22-アルキルカルボニルの基であり、それらは1つ以上の二重結合を含む。いっそう特に好適であるのは、飽和又は不飽和のC16〜C22-アルキルカルボニル基であり、C16-アルキルカルボニル、C18-アルキルカルボニル、C20-アルキルカルボニル又はC22-アルキルカルボニルの基であり、それらは1つ以上の二重結合を含む。これらの好適な基は、2個、3個、4個、5個又は6個の二重結合を含みうる。脂肪酸鎖に20個又は22個の炭素原子を有する特に好適な基は、6個までの二重結合、好ましくは3個、4個、5個又は6個、特に好ましくは5個又は6個の二重結合を含む。上述の全ての基は、対応の脂肪酸に由来する。

述べられうる好適なアルキル基R3は、置換又は非置換の、飽和又は不飽和のC2〜C24-アルキルカルボニル鎖であり、例えばエチルカルボニル、n-プロピルカルボニル、n-ブチルカルボニル、n-ペンチルカルボニル、n-ヘキシルカルボニル、n-ヘプチルカルボニル、n-オクチルカルボニル、n-ノニルカルボニル、n-デシルカルボニル、n-ウンデシルカルボニル、n-ドデシルカルボニル、n-トリデシルカルボニル、n-テトラデシルカルボニル、n-ペンタデシルカルボニル、n-ヘキサデシルカルボニル、n-ヘプタデシルカルボニル、n-オクタデシルカルボニル、n-ノナデシルカルボニル、n-エイコシルカルボニル、n-ドコサニルカルボニルやn-テトラコサニルカルボニルなどであり、それらは1つ以上の二重結合を含む。n-デシルカルボニル、n-ウンデシルカルボニル、n-ドデシルカルボニル、n-トリデシルカルボニル、n-テトラデシルカルボニル、n-ペンタデシルカルボニル、n-ヘキサデシルカルボニル、n-ヘプタデシルカルボニル、n-オクタデシルカルボニル、n-ノナデシルカルボニル、n-エイコシルカルボニル、n-ドコサニルカルボニルやn-テトラコサニルカルボニルなどの飽和又は不飽和のC10〜C22-アルキルカルボニル基であり、1つ以上の二重結合を含むものが好適である。特に好適であるのは、飽和及び/又は不飽和のC10〜C22-アルキルカルボニル基であり、例えばC10-アルキルカルボニル、C11-アルキルカルボニル、C12-アルキルカルボニル、C13-アルキルカルボニル、C14-アルキルカルボニル、C16-アルキルカルボニル、C18-アルキルカルボニル、C20-アルキルカルボニル又はC22-アルキルカルボニルの基であり、それらは1つ以上の二重結合を含む。いっそう特に好適であるのは、飽和又は不飽和のC16-C22-アルキルカルボニル基であり、C16-アルキルカルボニル、C18-アルキルカルボニル、C20-アルキルカルボニル又はC22-アルキルカルボニルの基であり、それらは1つ以上の二重結合を含む。これらの好適な基は、2個、3個、4個、5個又は6個の二重結合を含みうる。脂肪酸鎖に20個又は22個の炭素原子を有する特に好適な基は、6個までの二重結合、好ましくは3個、4個、5個又は6個、特に好ましくは5個又は6個の二重結合を含む。上述の全ての基は、対応の脂肪酸に由来する。

上述のR1、R2及びR3の基は、水酸基及び/若しくはエポキシ基によって置換されうるか、及び/又は三重結合を含みうる。

本発明による方法で生産される多価不飽和脂肪酸は、好都合には少なくとも2個、好都合には3個、4個、5個又は6個の二重結合を含む。脂肪酸は、特に好都合には、4個、5個又は6個の二重結合を含む。本方法で生産された脂肪酸は、好都合には、18、20、22個のC原子を脂肪酸鎖に有する。そして、脂肪酸は、好ましくは、20個又は22個の炭素原子を脂肪酸鎖に含む。飽和脂肪酸は、好都合には、本方法に使用される核酸と僅かな程度に反応するか、又は全く反応しない。僅かな程度にとは、飽和脂肪酸が、多価不飽和脂肪酸に比べて、活性の5%未満、好都合には3%未満、特に好都合には2%未満、いっそう特に好都合には1、0.5、0.25又は0.125%未満で反応することを意味するものとして理解されよう。生産されているこれらの脂肪酸は、本方法で単独の生産物として生産されるか、又は脂肪酸混合物中に存在しうる。

一般式II中の基R2又はR3は、同一の又は同一ではないR2及びR3であり得、好ましくは飽和又は不飽和のC18〜C22-アルキルカルボニル、特に好ましくは少なくとも2つの二重結合を有する不飽和のC18-、C20-又はC22-アルキルカルボニルである。

本方法で生産される多価不飽和脂肪酸は、好都合には、膜脂質及び/又はトリアシルグリセリドであるのみでなく、生物中に遊離脂肪酸として発生することがあるか、或いは他の脂肪酸エステルの形態で結合する。この状況では、それらは「純粋な生産物」として、或いは好都合には様々な脂肪酸の混合物又は異なるグリセリドの混合物の形態で存在しうる。トリアシルグリセリドに結合している様々な脂肪酸は、4から6個のC原子を有する短鎖脂肪酸、8から12個のC原子を有する中位鎖脂肪酸、又は14から24個のC原子を有する長鎖脂肪酸を由来としうる。そして、好適なのは、長鎖脂肪酸であり、さらに好ましくは、C18、C20及び/又はC22脂肪酸である長鎖脂肪酸LCPUFAである。

本発明による方法は、脂肪酸エステル中に少なくとも2個の二重結合を、好都合には脂肪酸エステルに少なくとも3個、4個、5個又は6個の二重結合を、特に好都合には脂肪酸エステルに少なくとも5個又は6個の二重結合を具える、多価不飽和化されたC18、C20及び/又はC22脂肪酸分子を有する脂肪酸エステルを好都合に産生し、リノレン酸(=LA、C18:2Δ9,12)、γ-リノレン酸(=GLA、C18:3Δ6,9,12)、ステアリドン酸(=SDA、C18:4Δ6,9,12,15)、ジホモ-γ-リノレン酸(=DGLA、20:3Δ8,11,14)、ω3-エイコサテトラエン酸(=ETA、C20:4Δ5,8,11,14)、アラキドン酸(ARA、C20:4Δ5,8,11,14)、エイコサペンタエン酸(EPA、C20:5Δ5,8,11,14,17)、ω6-ドコサペンタエン酸(C22:5Δ4,7,10,13,16)、ω6-ドコサテトラエン酸(C22:4Δ,7,10,13,16)、ω3-ドコサペンタエン酸(=DPA、C22:5Δ7,10,13,16,19)、ドコサヘキサエン酸(=DHA、C22:6Δ4,7,10,13,16,19)又はこれらの混合物、好ましくはARA、EPA及び/又はDHAの合成を好都合に導く。EPA及び/又はDHAなどのω3-脂肪酸が、いっそう特に好ましく生産される。

多価不飽和化されたC18、C20及び/又はC22脂肪酸分子を有する脂肪酸エステルは、油脂又は脂質の形態で、例えば、スフィンゴ脂質、ホスホグリセリド、脂質、スフィンゴ糖脂質などの糖脂質、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール又はジホスファチジルグリセロールなどのリン脂質、モノアシルグリセリド、ジアシルグリセリド、トリアシルグリセリド、又は少なくとも2個、3個、4個、5個又は6個、好ましくは5個又は6個の二重結合を有する多価不飽和脂肪酸を含むアシル-コエンザイムAエステルなどの他の脂肪酸エステルなどの形態で、脂肪酸エステルの調製に使用される生物から単離することができる。そして、好都合には、それらのジアシルグリセリド、トリアシルグリセリドの形態で、及び/又はホスファチジルコリンの形態で、特に好ましくはトリアシルグリセリドの形態で、単離される。これらのエステルに加えて、多価不飽和化脂肪酸もまた、生物に、好都合には植物に、遊離脂肪酸として存在するか、又は他の化合物に結合している。その結果、様々な上述の化合物(脂肪酸エステル及び遊離脂肪酸)は、80から90重量%のトリグリセリド、2から5重量%のジグリセリド、5から10重量%のモノグリセリド、1から5重量%の遊離脂肪酸、2から8重量%のリン脂質、総計100重量%に達する様々な化合物というおおよその分布で、生物中に存在する。

本発明による方法は、トランスジェニック生物中の、好都合にはトランスジェニック植物中の総脂肪酸に基づいて、少なくとも3重量%、好都合には少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも8重量%、特に好ましくは少なくとも10重量%、最も好ましくは少なくとも15重量%の含量で生産されるLCPUFAを産生する。この状況では、宿主生物中に少なくとも10%まで、好都合には少なくとも20%まで、特に好都合には少なくとも30%まで、最も好都合には少なくとも40%まで存在するC18及び/又はC20脂肪酸を変換して、DPAやDHAなど、2例を挙げるだけでも、対応の生産物を与えることが好都合である。脂肪酸は、好都合には、結合形態で生産される。これらの不飽和脂肪酸は、本発明による方法に使用される核酸を活用して、好都合に生産されたトリグリセリドのsn1位、sn2位及び/又はsn3位に位置しうる。本発明による方法では、開始化合物であるリノール酸(C18:2)及びリノレン酸(C18:3)によって、複数の反応工程が実施されることから、方法の最終生産物、例えばアラキドン酸(ARA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ω6-ドコサペンタエン酸やDHAなどは、絶対的に純粋な生産物としては得られない。すなわち、ごく少ない痕跡量の前駆体が、常に最終生産物中に存在する。例えば、リノール酸とリノレン酸の両方が、開始生物及び開始植物の中に存在する場合には、ARA、EPA又はDHAなどの最終生産物が、混合物として存在する。前駆体は、問題となっている最終生産物の量に基づき、好都合には、20重量%超に、好ましくは15重量%超に、特に好ましくは10重量%超に、最も好ましくは5重量%超に総計で達するべきではない。好都合には、ARAとEPAのみ又はDHAのみが、結合しているか又は遊離酸として、本発明による方法で最終生産物として、トランスジェニック植物にて生産される。化合物ARA、EPA及びDHAが同時に生産される場合に、それらは好都合には、少なくとも3:2:1(EPA:ARA:DHA)の比率で生産される。

本発明による方法によって生産される脂肪酸エステル又は脂肪酸の混合物は、好都合には、それぞれの場合に100%に基づきかつ生物の総脂肪酸含量に基づいて、6から15%のパルミチン酸、1から6%のステアリン酸、7〜85%のオレイン酸、0.5から8%のバクセン酸、0.1から1%のアラキジン酸、7から25%の不飽和脂肪酸、8から85%のモノ不飽和脂肪酸、及び60から85%の多価不飽和脂肪酸を含む。脂肪酸エステル又は脂肪酸の混合物に存在する好都合な多価不飽和脂肪酸は、好ましくはエイコサペンタエン酸である。さらに、本発明の方法によって生産される脂肪酸エステル又は脂肪酸の混合物は、好都合には、エルカ酸(13-ドコサエン酸)、ステルクリン酸(9,10-メチレンオクタデク-9-エン酸)、マルバル酸(8,9-メチレンヘプタデク-8-エン酸)、チャウルムーグリン酸(シクロペンテンドデカン酸),フラン脂肪酸(9,12-エポキシオクタデカ-9,11-ジエン酸),ベルノル酸(9,10-エポキシオクタデク-12-エン酸)、タリン酸(6-オクタデシン酸)、6-ノナデシン酸、サンタルビン酸(t11-オクタデセン-9-イン酸)、6,9-オクタデセニン酸、ピルリ酸(pyrulic acid)(t10-ヘプタデセン-8-イン酸)、クレペニン酸(9-オクタデセン-12-イン酸)、13,14-ジヒドロオロフェ酸、オクタデセン-13-エン-9,11-ジイン酸、ペトロセリン酸(cis-6-オクタデセン酸)、9c,12t-オクタデカジエン酸、カレンジュラ酸(8t10t12c-オクタデカトリエン酸,カタルプ酸(9t11t13c-オクタデカトリエン酸)、エレオステアリン酸(9c11t13t-オクタデカトリエン酸)、ジャカル酸(8c10t12c-オクタデカトリエン酸)、プニク酸(9c11t13c-オクタデカトリエン酸)、パリナリン酸(9c11t13t15c-オクタデカテトラエン酸)、ピノレン酸(all-cis-5,9,12-オクタデカトリエン酸)、ラバレン酸(5,6-オクタデカジエンアレン酸)、リシノール酸(12-ヒドロキシオレイン酸)及び/又はコリオール酸(13-ヒドロキシ-9c,11t-オクタデカジエン酸)の群から選択される脂肪酸を含む。上述の脂肪酸は、通例、好都合には、本発明による方法によって生産される脂肪酸エステル又は脂肪酸の混合物に、痕跡で認められるにすぎず、換言すれば、全脂肪酸に基づくと、それらは30%未満、好ましくは25%、24%、23%、22%又は21%未満、特に好ましくは20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%又は5%未満、いっそう特に好ましくは4%、3%、2%又は1%未満で発生する。本発明による方法によって生産される脂肪酸エステル又は脂肪酸の混合物は、好都合には、全脂肪酸に基づいて0.1%未満を含むか、又はブチル酸、コレステロール、クリパノドン酸(=ドコサヘキサエン酸、C22:5Δ4,8,12,15,21)及びニシン酸(テトラコサヘキサエン酸、C23:6Δ3,8,12,15,18,21)を含まない。

化学的に純粋な多価不飽和脂肪酸又は脂肪酸組成物もまた、上記に記載の方法によって調製することができる。この目的のために、脂肪酸又は脂肪酸組成物は、微生物や植物などの生物、又は生物が中で若しくは上で成長している培養培地から、又は生物並びに培養培地から、既知の方式で、例えば抽出、蒸留、結晶化、クロマトグラフィー又はこれらの方法の組合せを介して、単離される。これらの化学的に純粋な脂肪酸又は脂肪酸組成物は、食品業種、化粧品業種、及び特に製薬業種での適用のために好都合である。

モノ又は多価不飽和脂肪酸に富んだ野菜油は、ヒトの栄養に重要であり、工業用化学品の再生可能な供給源として使用することができる。本発明の基質特異性を変換されたデサチュラーゼによってモノ又は多価不飽和脂肪酸の炭素鎖長及び二重結合の位置を操作できることは、従来の植物油の物理的特性(例えば融点)及び商業的使用を変える手法を好都合に与える。したがって、本発明は、PUFA含量を向上又は変化させたトランスジェニック植物などのトランスジェニック生物を作製するための方法及び組成物を提供する。本明細書で使用されるときのPUFAは、PUFAs、LCPUFA又はLCPUFAsともよばれる多価不飽和脂肪酸を意味する(多価不飽和脂肪酸、PUFA、長鎖多価不飽和脂肪酸LCPUFA)。植物などの生物の脂肪酸含量の改変は、栄養の向上及び健康上の利益を含めて多くの利点を有する。脂肪酸含量の改変は、植物体、植物体の一部、及び植物種子油を含めた植物生産物で、所望のPUFAのプロファイルの有益なレベルを達成するのに使用することができる。例えば、所望のPUFAが植物の種子組織に生産される際に、油脂は、種子から単離され、典型的にはその結果、所望のPUFAが高い油脂か又は所望の脂肪酸含量若しくはプロファイルを有する油脂を生じ、そのような油脂は、次には、食材及び他の生産物に有益な特徴を提供するために使用されうる。本発明の方法によって生成及び/又は本発明によって提供された、Δ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの工学的に作り出された基質特異性を有するデサチュラーゼは、好都合には、細胞のPUFA含量を改変、例えば、植物細胞又は植物細胞(複数)のPUFA含量を改変するために、使用することができる。

本特許出願に引用されたあらゆる参考文献、特許出願、特許及び公開された特許出願の内容は、ここで参照によりそれぞれの具体的な開示に組み込まれる。

本発明を以下の実施例によって説明するが、該実施例は、本発明の範囲を限定するものと解されないものとする。

[実施例1] 酵母発現に用いる成長培地及び誘導培地は、MP Biologicals(ソロン、オハイオ州)から購入した。脂肪酸(DPAω3及びALA)基質は、Nu-Chek Prep Inc(エリジアン、ミネソタ州)から購入した。Phusion high fidelity DNAポリメラーゼは、New England Biolabs(イプスウィッチ、マサチューセッツ州)からである。TaqポリメラーゼはInvitrogen(バーリントン、オンタリオ州)からである。全てのHPLCグレードの溶媒は、EMD Inc.(ミシサガ、オンタリオ州)及びFisher Scientific(オタワ、オンタリオ州)から購入した。全ての化学品は、別段に述べられていなければ、Sigma-Aldrich(オークビル、オンタリオ州)から購入した。

1.1 シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼ シモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼ(GenBank受託番号:GU594278.1、配列番号173に示される核酸配列及び配列番号174に示されるアミノ酸配列)及びΔ5/Δ6デサチュラーゼ(GenBank受託番号:EF424276.2、配列番号171に示される核酸配列及び配列番号172に示されるアミノ酸配列)をコードする配列は、GeneBankデータベースの配列に基づき、Life Technologies Corporation (バーリントン、オンタリオ州)によって合成された。合成遺伝子をpYES2.1/V5-His-TOPO (Invitrogen)にクローニングして配列解析した後、さらに別の実験に使用した。

1.2 ベクターの構築 Δ4及びΔ5/Δ6脂肪酸デサチュラーゼからキメラ酵素を、該デサチュラーゼのオープンリーディングフレーム(ORF)中の領域を標的としたオーバーラップ伸長PCR(「ソーイング」PCR)によって構築した。置換に用いる位置は、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼをアラインメントして、アミノ酸組成中の差異を伴う範囲を探すことによって、合理的に選んだ。目的の領域を特定した後、異なる遺伝子部分由来の断片が増幅され、次いで共に「縫合され」て、キメラ遺伝子、又は特異的な部位特異的変異を含有する遺伝子を形成するように、オーバーラップ合成プライマーを設計した。合成されたシモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼ(Life Technologies)をPCRのDNA鋳型として使用して、初めのキメラ遺伝子を構築した。それに続くキメラ遺伝子は、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼと本研究で構築されたキメラ遺伝子とのどちらかを使用して構築した。オーバーラップ伸長PCRは、平滑端化されたDNA産物を生産する校正型ポリメラーゼであるPhusion high fidelity DNAポリメラーゼを使用して実施した。PCRパラメーターは以下の通りである。すなわち、98℃で2分間の初めの変性に続いて、98℃の変性を30秒間、60℃のアニーリングを30秒間、及び72℃の伸長を90秒間からなる30サイクルである。増幅後、PCR産物を0.8%アガロースゲル上で電気泳動に供した。適正なサイズを有するDNAバンドをゲルから切り取り、EZ-10 Spin Column DNA Gel Extraction Kit(Bio Basic Inc.、マーカム、オンタリオ州)を使用して、製造業者の使用説明書に従って精製した。精製したDNA産物をpYES2.1/V5-His-TOPO酵母発現ベクター(Invitrogen)にクローニングする前に、Taqポリメラーゼを使用して、追加の増幅後工程を実施した。この工程は、pYES2.1/V5-His-TOPOベクターへのTAクローニングに必要な3'Aオーバーハングを、増幅DNAに添加する。3'Aオーバーハングの添加は、20μLのゲル精製DNA、2.5μLの10×Mg2+不含PCR緩衝液、1.5μLの50mM MgCl2、0.2mM dNTP及び2.5単位のTaqポリメラーゼを添加し、続いて72℃で10分間インキュベーションすることによって実施された。増幅されたDNA断片を、製造業者の使用説明書に従ってpYES2.1/V5-His-TOPOベクターにクローニングし、EZ-10 spin column plasmid DNA miniprep Kit(Bio Basic Inc.)を使用して、プラスミドDNAを単離した。配列分析の後、EasyComp transformation kit (Invitrogen)を使用して、プラスミドをサッカロマイセス・セレビシエ酵母株INVSc1 (Invitrogen)内へ形質転換した。

1.3 酵母での発現 デサチュラーゼの機能的発現のため、2%グルコースを含有するDOB-URA(ウラシル不含の酵母合成完全培地)中の酵母培養物を30℃で一晩成長させた。酵母の一晩培養物のOD600を測定して、試料間で標準化した。2%ガラクトースを含有するDOB-URAを用いて試料を洗浄し、同じ培地を用いて発現を誘導した。外因的に供給された脂肪酸の存在下(酵母の構築物に応じて250μM DPAω3又はALA)、20℃で、発現を3日間実施した。

1.4 脂肪酸の分析 外因的に供給された脂肪酸の存在下で3日間成長させた後、酵母細胞を、2,800rpmで3分間遠心分離することによって採集し、誘導緩衝液(2%ガラクトース)を用いて一回洗浄して、滅菌蒸留水を用いて再度洗浄した。2mLの3N-メタノールHClを各試料に添加して、試料を80℃で40分間加熱し、室温に冷まして、1mLの0.9%NaCl及び2mLのヘキサンを添加することによって、脂肪酸メチルエステルを含有するヘキサン相を水相から分画し、続いて、遠心分離した。ヘキサン相をガラスバイアルに移し入れ、緩やかな液体窒素ガス流下で風乾して、100μLのヘキサンに再懸濁した後、Agilent Technologies Inc.(型式:6890N、積算ピークをAgilent ChemStation Softwareによって算出した)からのガスクロマトグラフィー(GC)によって分析した。不飽和化のパーセントは、 100/[生産物/(基質+生産物)] として計算した。

[実施例2] 2.1 シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼは、同様の配列及び構造を有する シモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼ(配列番号174)及びΔ5/Δ6デサチュラーゼ(配列番号174)の推定タンパク質は、それぞれ445つのアミノ酸及び443つのアミノ酸を有し、それらのアミノ酸には、アラインメントのN末端領域に2アミノ酸のギャップが位置する(図1)。膜トポロジー解析(TOPCONS、細胞質範囲の内側にN末端及びC末端を拘束している、図2)に基づくと、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6遺伝子はどちらも、2つのリンカー領域を具えた4つの予測される膜貫通ドメインを有する。どちらのデサチュラーゼも、3つの保存されたヒスチジンボックス及びN末端チトクロームb5様ドメインを有し、それらは、ミクロソームのフロントエンドデサチュラーゼの特有の特徴である(Liら、2010)。2つのデサチュラーゼ間のアミノ酸配列に高い類似性があるため、本発明者らは、シモフリアイゴ遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)のアラインメントに基づき(図1)、キメラを生産するためのプライマーを合理的に設計することができた。特異的な対応の領域を選択し、2つのデサチュラーゼ間で交換してキメラタンパク質を形成した。より低く保存された領域だけでなく、非常に高く保存された領域も置換した。

図8には、特異的なアミノ酸残基の役割を特定すべく、キメラを構築するために、及び部位特異的突然変異誘発を実施するために、使用されたプライマー及び対応の配列番号が列挙されている。このプライマーのセットによって、図2に示されたトポロジー解析に基づき、発明者らは、疎水性膜貫通ドメイン、C末端及びN末端領域、並びに膜貫通ドメイン間のリンカーに分布されたドメインの置換を実施することが可能になる。

2.2 シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼ内の4アミノ酸領域は、基質の長さ及び位置特異性を制御する シモフリアイゴのどちらのデサチュラーゼも、ω3脂肪酸への選好性を示す(Liら, 2010)。そのため、ω3脂肪酸であり、生来のΔ4-及びΔ5/Δ6デサチュラーゼのそれぞれの基質であるDPA及びALAを、本研究を通じて使用した。陰性対照として、サッカロマイセス・セレビシエのINVSc1細胞を、空のpYES2.1/V5-His-TOPOベクターを用いて形質転換した。対照に観察された脂肪酸としては、14:0、16:0、16:1ω7、18:0及び18:1ω9及び26:0が挙げられるが、Δ4活性もDPAω3活性も観察されなかった(図3)。シモフリアイゴの野生型Δ4 (配列番号174)及びΔ5/Δ6デサチュラーゼ(配列番号172)を酵母で発現すると、それぞれ12.0±0.5%(DPAω3)及び22.7±2.5%(ALA)のデサチュラーゼ活性を示した(図4及び図5、表1)。Δ5/Δ6デサチュラーゼは、DPAω3との活性を示さず、Δ4デサチュラーゼも、ALAとの活性を示さなかった(図4及び図5、表1)。

酵素の末尾のおよそ10分の1を表す、シモフリアイゴのアミノ酸配列「MPRH」以降のΔ4デサチュラーゼ配列を、Δ5/Δ6配列に置き換えると、該酵素は、同じ基質特異性を維持したものの、変換レベルはおよそ40%低下した(Sig-1C、図5左段)。逆の構築物(Sig-2C、図5右段)は、Δ5/Δ6酵素の基質特異性を維持したが、脂肪酸変換は、およそ30%減少した。酵素の末尾の10分の1は、基質特異性に寄与するように思われなかったことから、酵素の末尾のおよそ3分の1を表すアミノ酸位置「PVYG」以降をドメインスワッピングしたキメラタンパク質を構築した(Sig-3C、図5左段及びSig-4C、図5右段)。2つのキメラの間で基質特異性には変化が観察されなかったが、Sig-3C及び4Cの酵素活性は、野生型に比べてそれぞれおよそ30%及び45%減少した(表1も参照されたい)。

コード領域の末尾のおよそ40%を表す「LIPV」以降の領域を、対応のキメラ構築物Sig-5C(配列番号10、図5左段)及びSig-6C(配列番号2、図5右段)に交換した。「LIPV」でのΔ4からΔ5/Δ6配列への切り替えによって、Sig-5CはΔ4活性を喪失したが、Δ6活性を獲得し、ALAにおよそ23%の変換レベルを示した(Sig-5C、図5左段、表1)。反対に、その逆の構築物は、Δ6活性を喪失したが、DPAとの活性を獲得した(Sig-6C、配列番号2、図5右段、表1)。そのため、図3Aに示されるように、基質特異性を担う領域は、これらの酵素の「LIPV」領域と「PVYG」領域との間(アミノ酸残基位置:Δ4、275〜316;Δ5/Δ6、273〜314)に位置するようである。

「LIPV」から「PVYG」の間の残基のみが基質特異性を担っていたことを確認するため、この領域のみを置換した1対のキメラ遺伝子(Sig-7C、配列番号12、図5左段、及びSig-8C、配列番号4、図5右段)を、PCRによって構築した。この範囲のΔ5/Δ6デサチュラーゼ配列と、構築物の残部にわたるΔ4デサチュラーゼ配列とを含有する遺伝子は、ALAのみを不飽和化し(11.5±1.2%)、一方で、その逆の構築物は、DPAのみとの活性を有しており(3.8±0.2%)、このことは、アミノ酸「LIPV」と「PVYG」との間の領域が、基質特異性を制御することを実証している。この範囲は、予測される第3及び第4の膜貫通ドメインの部分をリンカー領域と共に含む(図2)。

さらにこの領域を詳細に調べるために、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼの「LIPV」と「PVYG」との間の領域を3つの画分に分割したキメラ遺伝子を構築した(第4の膜貫通ドメインへのリンカー端:「WAMT/WCLS」から「PVYG」、第3と第4の膜貫通ドメインの間のリンカー領域:「TMI/IMI」から「WAMT/WCLS」、及び第3の膜貫通ドメインからリンカー領域の始め:「LIPVF」から「TMI/IMI」)。

酵母細胞で発現される際に、Sig-9C、すなわち、対応のΔ5/Δ6デサチュラーゼ配列に置換された「WCLS」から「PVYG」のアミノ酸をコードする領域を有したシモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼ遺伝子(図5左段)は、4.0±0.5%のDPAω3をDHAω3に変換し、一方、その逆の構築物(Sig-10C、図5右段)は、ALAをSDAへ14.9±1.4%のレベルで変換したが、このことは、第4の膜貫通ドメインが基質特異性には関与しないものの、酵素の触媒活性への効果を有することを示す。

さらに、第3及び第4の膜貫通ドメインのリンカー領域間(「TMI/IMI」から「WAMT/WCLS」の配列)で交換配列を有するSig-11C(図5左段)及びその逆の遺伝子構築物(Sig-12C、図5右段)もまた、酵素活性がそれぞれの野生型遺伝子の約半分に減少したとはいえ、本来の基質特異性を保持した(図5)。これらのデータでは、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼ上の第3と第4の膜貫通ドメインの間のリンカー領域(「TMI/IMI」から「WAMT/WCLS」)は、これらの領域中の配列の切り替えによって触媒活性が大きく減少したものの、基質特異性には決定的に重要な領域ではないということが示唆されている。

しかし、「LIPV」から「IMI/TMI」までの配列(Sig-13C、配列番号14、図5左段、及びSig-14C、配列番号6、図5右段)を含む、第3の膜貫通ドメインとリンカー領域の始めとの間の領域を置換した際に、基質特異性にシフトがあった。シモフリアイゴの変異型Δ4(Sig-13C、配列番号14、図5左段)は、ALAのみを不飽和化したが(13.1±1.8%)、DPAω3をもはや不飽和化しなかった。したがって、この変異は、遺伝子がΔ5/Δ6活性を獲得することを可能にしたが、Δ4活性を完全に廃した。これに対して、その逆の構築物(Sig-14C、配列番号6、図5右段)は、DPAω3不飽和化(3.4±0.2%)によって実証されたようにΔ4活性を獲得したが、本来のΔ5/Δ6活性を完全に喪失した。このように、第3の膜貫通ドメイン内にあると思われる領域は、基質特異性に決定的な影響を及ぼす。

「LIPVF」と「TMI/IMI」の領域間の8つのアミノ酸(シモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼ:LIPVFYNYNIMMTMI、シモフリアイゴのΔ5/Δ6デサチュラーゼ:LIPVFFHYQLLKIMI)が基質特異性に全て必要とされるのか否か、又は特異的なアミノ酸のみが決定的に重要であるのかを検討するため、発明者らは、該8アミノ酸領域を2つの部分に分割することによってこの領域を変化させた構築物を作製した。シモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼ遺伝子の「IMMT」アミノ酸配列を「LLKI」へ変化させること(Sig-15C、図6左段)によって、Δ4デサチュラーゼ遺伝子の基質特異性は変化せず、その際にDPAω3を不飽和化して(2.9±0.3%)DHAω3を生成し、ALAに活性を持たなかった。同様に、シモフリアイゴのΔ5/Δ6デサチュラーゼを「LLKI」から「IMMT」(シモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼ中の対応の残基)へ変化させた、逆の遺伝子構築物(Sig-16C、図6右段)は、基質特異性に影響を及ぼさなかった(16.3±1.1%、ALA)。しかし、Δ4デサチュラーゼのアミノ酸配列「YNYN」を同じ場所でΔ5/Δ6デサチュラーゼ配列「FHYQ」に置換することによって(Sig-17C、配列番号16、図6左段、表1)、基質特異性がDPAω3からALAに変わった(12.5±0.8%)。同じように、シモフリアイゴのΔ5/Δ6デサチュラーゼ配列を「FHYQ」から対応の「YNYN」配列に変化させた結果(Sig-18C、配列番号8、図6右段、表1)、Δ5/Δ6デサチュラーゼ活性が失われたが、Δ4デサチュラーゼ活性が獲得された(0.5±0.1%、DPAω3)。ゆえに、シモフリアイゴΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼの基質特異性を制御する4つのアミノ酸は、「YNYN」及び対応の配列「FHYQ」である。

2.3 4アミノ酸領域内のアミノ酸の置換は、Δ4とΔ6の両方のデサチュラーゼ活性を有する酵素を生産する この4アミノ酸領域が基質特異性を担うことを決定した後に、個々のアミノ酸の置換を実施した(図7)。決定的に重要な領域の4位のアミノ酸置換(図7)は、Δ4(Sig-19C、図6左段)とΔ5/Δ6デサチュラーゼ(Sig-20C、図6右段)のどちらにも基質特異性への効果を示さなかった。しかし、基質変換レベルの低下(Sig-19CについてDPAω3は10.0±0.4%、及びSig-20CについてはALA 15.6±0.9%)が観察された。2位で単独のアミノ酸を置換した際に(NからH又はその逆)、点変異したΔ4デサチュラーゼ(Sig-21C、図6左段)の基質特異性は同じまま(DPAω3)であったが、酵素活性は3.5±0.2%に減少し、野生型に比べると活性で約71%の減少であった。決定的に重要な領域の2位にアミノ酸置換を有するΔ5/Δ6デサチュラーゼ(Sig-22C、配列番号22、図6右段)は、ALAを不飽和化するだけではなく(13.6±5.0%)、低いレベルでDHAω3を生産する(0.5±0.04%)。決定的に重要な領域の1位の対応の残基にアミノ酸置換を有するSig-23C(Δ4デサチュラーゼ、配列番号18、図6左段)及びSig-24C(Δ5/Δ6デサチュラーゼ、配列番号24、図6右段)は、DPAω3とALAのどちらも不飽和化することができた。1位から2位は、基質特異性にさらに重要な役割を果たすように思われることから、本発明者らは、2アミノ酸置換をこの領域に有するデサチュラーゼを、合理的に工学的に作り出した(Sig-25C、配列番号20、図6左段、及びSig-26C、配列番号26、図6右段)。興味深いことに、これら両方のアミノ酸の部位特異的変異によって、DPAω3及びALAを不飽和化する酵素が同時に生成する(Sig-25C、配列番号20、図6左段、及びSig-26C、配列番号26、図6右段)。さらに、酵母発現によって実証されたように、4番目の位置の単独の変異が基質特異性に直接的に影響を及ぼさなかったにも関わらず(Sig-19C、図6左段、及びSig-20C、図6右段)、1位、2位及び4位にアミノ酸を含む変異(Sig-17C、配列番号16、図6左段、及びSig-18C、配列番号8、図6右段)によって、特異性が回復した。このことは、これら3つのアミノ酸の間にあるいくつかのタイプの相互作用が、ここで研究された酵素の基質特異性に必要とされることを示唆している。

2.4 4つのアミノ酸残基は、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/6デサチュラーゼの基質の鎖長及び位置選択性を決定する シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼとの間のアミノ酸組成での並外れた高い類似性(83%)は、基質特異性及び位置選択性に関与する個々の領域又は残基を位置付けする上で、本発明者らに利点をもたらした。彼らは、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼの基質の鎖長特異性と位置選択性の両方を担う、ちょうど4つのアミノ酸残基(シモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼの280-283位である「YNYN」、及びシモフリアイゴのΔ5/Δ6デサチュラーゼの278-281位にある対応のアミノ酸「FHYQ」)を含有する別個のタンパク質領域を同定した(図6)。膜結合型デサチュラーゼの結晶構造がないために、ここで観察される位置選択性及び基質特異性での変化を構造的に解明することが困難であった。しかし、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼは、膜結合型酵素であり、以前の研究に基づくと、ヒスチジンボックス、酵素のN末端及びC末端は、膜の細胞質側に位置することが予測されている。これらの制約を前提として、膜タンパク質トポロジー予測ソフトウェア(TOPCONS、Bernselら、2009)によって、これら2つのシモフリアイゴのデサチュラーゼのそれぞれが、6及び17つのアミノ酸からなる2つの細胞形質外領域に連結された4つの膜貫通ドメイン(Δ4デサチュラーゼについてはアミノ酸残基132〜152、159〜179、265〜285、303〜323、Δ5/Δ6デサチュラーゼについては対応の残基)を有することが予測されている(図1)。これらの高度に類似したデサチュラーゼは、共通した膜トポロジーと、恐らくは共通した構造的フォールディングとを共有していることが予想される。

シモフリアイゴのデサチュラーゼの基質特異性及び位置選択性に影響を与える決定的に重要な4つのアミノ酸残基は、推定上の第3の膜貫通ドメインに位置することが予想されている(図2)。この4つのアミノ酸残基のブロックは、ヒスチジンに富んだ活性部位からいくらか離れており、このことは、変異アミノ酸残基と基質との直接的な相互作用が、位置特異性及び基質特異性に観察された変化には必要とされないことを示唆している(Cahoonら、1997)。しかし、これら4つのアミノ酸残基は、基質の鎖長に制約を与える疎水性基質結合ポケットの部分を形成している可能性がある。疎水性基質結合ポケットの改変に起因する影響は、リポキシゲナーゼ及び可溶性脂肪酸デサチュラーゼに観察され(Cahoonら, 1997; Borngraberら, 1999)、著者らは、この疎水性結合ポケットのサイズ及び幾何学的形状が、基質特異性と二重結合位置の挿入とを担うことを示唆している。シモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼの決定的に重要な領域のアミノ酸残基「YNYN」は、シモフリアイゴのΔ5/Δ6デサチュラーゼのそれぞれの「FHYQ」残基よりも、いくぶん嵩が低く、このことは、疎水性基質結合ポケットがDPAω3(22:5ω3)などのさらに大きな基質を収容することを可能にする可能性があるが、一方で、より嵩高い残基の存在は、より小さな基質ALA(18:2)に有利になるよう、基質結合ポケットにさらに大きな制約を与えることがある。あるいは、芳香族アミノ酸に隣接したヒスチジン残基の存在は、芳香族アミノ酸間にπ-π積層相互作用をもたらし、該相互作用は、パッキング効果に影響を与えることができ、それゆえ基質の選択に影響を及ぼすことができる(Liaoら、2013)。

本発明者らはまた、決定的に重要な領域の1位及び2位の1つ又は2つのみアミノ酸を変化させることによって(図7)、Δ4及びΔ6活性を有する新規のデサチュラーゼ(Sig-22C/配列番号22、Sig-23C/配列番号18、Sig-24C/配列番号24、Sig-25C/配列番号20、Sig-26C/配列番号26、図6)を生成した。変異体の二通りの酵素活性は予想されなかったが、両残基を変異させることによって、1位のアミノ酸残基のみを変異させるのと比べて、2.4倍から3.3倍に酵素活性が増加した。4位で単独のアミノ酸残基を変異させた結果(図7)、Δ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼにさらに低い触媒能がもたらされるが、基質又は二重結合位置の特異性に影響されない。しかし、この変異が、1位及び2位での二重アミノ酸変異と組み合わされた際には(図7)、Δ4デサチュラーゼは、Δ5/Δ6デサチュラーゼの活性及び基質特異性を有する酵素に変換され、逆もまた同様である。このことは、シモフリアイゴのデサチュラーゼの基質特異性及び位置選択性が、単独のアミノ酸残基に限られないことを示す。実際は、4つ全てのアミノ酸残基(Δ4:「YNYN」及びΔ5/Δ6:「FHYQ」)の間のある程度の相互作用は、酵素の基質特異性及び位置選択性を担うようである。興味深いことに、同様の結果が、Yuanら、1995によって得られた。チオエステラーゼ中、それ自体で単独のアミノ酸変化(T231K)によって、基質特異性は影響されなかったが、この変異を、2つの変異(M197R/R199H)を有し12:0及び14:0に等しく選好性を有する酵素に添加した際には、三重変異体は、14:0にのみ活性であった。ここで、4位での単独の変異(図7)は、1位及び2位での二重変異体に非相加的な組合せ効果を示しており、このことは、いくつかのタイプの相互作用がこれらのアミノ酸間で起こっているということを示唆している(Sandberg及びTerwillinger、1993; Yuanら、1995)。

[実施例3] 実施例2で得られた結果及びさらに別の配列アラインメント及びトポロジー予測に基づき、他の生物のΔ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼで同様に、基質特異性を制御する対応のアミノ酸領域を同定することができた。基質特異性を調節する対応のアミノ酸領域を交換することによって、前記Δ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼ中で、基質特異性を切り替えることもできるが、このことは、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/6デサチュラーゼからの教示を、他の「フロントエンド」デサチュラーゼに容易に移し換えうることを示す。具体的には、このことは、オストレオコッカス・タウリ及びピシウム・イレグラレのΔ6デサチュラーゼ、並びにラビリンチュラ属の種のデルタ-5デサチュラーゼについて、以下に例示されている。本実施例に参照されているΔ4、Δ5及び/又はΔ6デサチュラーゼの受託番号及び/又は配列識別番号は、既に本記載に示されている。

3.1 オストレオコッカス・タウリのΔ6デサチュラーゼ 以下のデータは、Δ4デサチュラーゼ[ユーグレナ・グラシリス、エミリアナ・フクスレイイ、パブロバ・ルテリ、パブロバ・サリナ、シガヌス・アルクティカ(Siganus arctica)、シモフリアイゴ]とΔ6デサチュラーゼ(オストレオコッカス・ルシマリヌス、オストレオコッカス・タウリ、シモフリアイゴ)とのアラインメントに基づく。

3.1.1 オストレオコッカス・タウリのΔ6デサチュラーゼでは、アミノ酸残基(AA)「MFFL」(283〜286位)は、実施例2に提示された研究で同定された4つの重要なアミノ酸残基に対応する(シモフリアイゴΔ4デサチュラーゼ:「YNYN」及びΔ5/6デサチュラーゼ:「FHYQ」)。1位、2位及び4位のアミノ酸残基は、シモフリアイゴでの基質特異性に有意な影響を与えることが示されている。オストレオコッカス・ルシマリヌスのΔ6デサチュラーゼは、1位、2位及び4位に、オストレオコッカス・タウリのΔ6デサチュラーゼと同じアミノ酸残基(「FWMFFLH」)を有する。パブロバ・サリナ及びパブロバ・ルテリ上の対応のアミノ酸残基は、「FKLLFLD」である。

オストレオコッカス・タウリのΔ6デサチュラーゼ由来のこの重要な領域を、パブロバ・サリナ及びパブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼとアラインメントする場合に、アミノ酸残基の違いは、オストレオコッカス・タウリのΔ6デサチュラーゼが「FWMFFLH」、及びパブロバ・ルテリ/パブロバ・サリナのΔ4デサチュラーゼが「FKLLFLD」である。そのため、これらの違いに基づいてアミノ酸残基の置換を実施することは相応である(Betts及びRussell、2003)。

疎水性:オストレオコッカス・タウリのΔ6デサチュラーゼのアミノ酸残基「W」及び「F」は、比較的非極性かつ疎水性である芳香族アミノ酸である。「WMF」から「KLL」に変えることは、対応の領域の疎水性を低減することになる。同様に、実施例2に提示されたシモフリアイゴのΔ4デサチュラーゼ及びΔ5/6デサチュラーゼの研究から、本発明者らは、Δ5/Δ6デサチュラーゼが、4アミノ酸領域中でさらに多くの芳香族アミノ酸残基を含有し、それゆえΔ4デサチュラーゼよりも疎水性を有することを知った。

上記に基づく全ての変異を以下に示す。

オストレオコッカス・タウリのΔ6デサチュラーゼ:281 FWMFFLH 287/配列番号71 パブロバ・ルテリ及びパブロバ・サリナのΔ4デサチュラーゼ:256/259 FKLLFLD262/265/配列番号72 オストレオコッカス・タウリのΔ6デサチュラーゼ:278 VLLFWMFFLHPSKALK 293/配列番号73 変異1:278 VLLFKLLFLHPSKALK 293/配列番号74 変異2:278 VLLFKLLFLDPSKALK 293/配列番号75 変異3:278 VLLFKLFFLHPSKALK 293/配列番号76 変異4:278 VLLFKLFFLDPSKALK 293/配列番号77 変異5:278 VLLFKMLFLHPSKALK 293/配列番号78 変異6:278 VLLFKMLFLDPSKALK 293/配列番号:79 変異7:278 VLLFWLFFLHPSKALK 293/配列番号80 変異8:278 VLLFWLFFLDPSKALK 293/配列番号81 変異9:278 VLLFWMLFLHPSKALK 293/配列番号82 変異10:278 VLLFWMLFLDPSKALK 293/配列番号83 変異11:278 VLLFWLLFLHPSKALK 293/配列番号84 変異12:278 VLLFWLLFLDPSKALK 293/配列番号85 変異13:278 VLLFKMFFLHPSKALK 293/配列番号86 変異14:278 VLLFWMFFLDPSKALK 293/配列番号87

3.1.2 シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼの第3の膜貫通(TM)ドメインは、実施例2に実証されるように、目的の領域を含有する。トポロジー予測(TOPCONS)を使用して、300〜320位由来のオストレオコッカス・タウリのΔ6デサチュラーゼの第3の膜貫通ドメインを特定した。この領域とパブロバ・サリナ、シガヌス・アルティカ又はパブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼとのアラインメントによって、オストレオコッカス・タウリの第3の膜貫通領域を置き換えるために使用することができる相同性を有した領域が特定される。すなわち、太字の(下線の)オストレオコッカス・タウリのΔ6デサチュラーゼ領域は、Δ4デサチュラーゼ遺伝子の太字の(下線の)領域に置き換えることができ、該太字の(下線の)領域は、結果として、Δ6デサチュラーゼの基質特異性をΔ4デサチュラーゼの基質特異性に変える。配列識別番号は、太字の(下線の)刻字の区分のみを指す。

オストレオコッカス・タウリのΔ6デサチュラーゼ: 290 KALKGGKYEELVWMLAAHVIRTWTIKAVTGFTAMQSYGLFL 330/配列番号88 パブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼ: 274 EKISPLARALFAPAVACKLGFWARFVALPLWLQPTVHTALCIC 316/配列番号89 シガヌス・アルティカのΔ4デサチュラーゼ: 277 EKLPESYR-KERNIAIGLRVFFFIRKFVVPFALHFSWYTLLCTY 319/配列番号90 パブロバ・サリナのΔ4デサチュラーゼ: 280 SKLAGYLFMPSLLLKLTFWARFVALPLYLAPSVHTAVCIA 319/配列番号91

3.1.3 オストレオコッカス・タウリのΔ6デサチュラーゼの第3の膜貫通ドメイン(300〜320位、太字(下線))は、TOPCONSトポロジー予測ソフトウェアに基づいて、Δ4デサチュラーゼの対応の第3の膜貫通ドメイン(太字(下線))に置き換えることができる。

オストレオコッカス・タウリのΔ6デサチュラーゼ:(配列識別番号は、太字(下線)で刻字された区分のみを指す) 290 KALKGGKYEELVWMLAAHVIRTWTIKAVTGFTAMQSYGLFL 330/配列番号88

a)パブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼを用いた置換(281〜301): RALFAPAVACKLGFWARFVAL/配列番号92 b)パブロバ・サリナのΔ4デサチュラーゼを用いた置換(291〜311): LLLKLTFWARFVALPLYLAPS/配列番号93 c)シガヌス・アルクティカのΔ4デサチュラーゼを用いた置換(293〜313): LRVFFFIRKFVVPFALHFSWY/配列番号94

3.1.4 配列アラインメントに基づき、オストレオコッカス・タウリのΔ6デサチュラーゼの「LIPV」から「PVYG」までに対応する全領域(278〜321位)を、それぞれのΔ4デサチュラーゼのドメインに置換した。実施例2に示されるように、この領域は、シモフリアイゴのデサチュラーゼ配列で重要であることが示された。

オストレオコッカス・タウリのΔ6デサチュラーゼ(278〜321位): VLLFWMFFLHPSKALKGGKYEELVWMLAAHVIRTWTIKAVTGFT/配列番号95

a)パブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼ(265〜307): ELLAWRWEGEKISPLARALFAPAVACKLGFWARFVALPLWLQP/配列番号96 b)パブロバ・サリナのΔ4デサチュラーゼ(268〜310): ELVMWRWEGEPISKLAGYLFMPSLLLKLTFWARFVALPLYLAP/配列番号97 c)シガヌス・アルティカのΔ4デサチュラーゼ(268-310): DLIEMKYKGEKLPESYRKERNIAIGLRVFFFIRKFVVPFALHF/配列番号98 に置換した。

3.1.5 実施例2で特定されたシモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼの4アミノ酸領域は、膜のE面(exoplasmic face of the membrane)に近接した第3の膜貫通ドメイン端に位置する(それぞれ280〜283及び278〜281位)。そのため、トポロジー予測に基づくと、オストレオコッカス・タウリのΔ6デサチュラーゼの第3の膜貫通ドメイン上の相当するアミノ酸残基は、「KAVT」(315〜318位)である。前記アミノ酸残基を同じトポロジーの場所に由来するΔ4デサチュラーゼのアミノ残残基に置換することによって、基質特異性及び位置選択性に影響を与えることができる。

オストレオコッカス・タウリ(315〜318位)の「KAVT」/配列番号99を パブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼ(296〜299位):「ARFV」/配列番号100 又はパブロバ・サリナのΔ4デサチュラーゼ(306〜309位):「LYLA」/配列番号101 又はシガヌス・アルティカのΔ4デサチュラーゼ(308〜311位):「LHFS」/配列番号102 に置き換える。

3.2 ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼ 以下のデータは、Δ4デサチュラーゼ(パブロバ・ルテリ、パブロバ・サリナ、シガヌス・アルティカ、ラビリンチュラ属の種、シモフリアイゴ)とΔ5デサチュラーゼ(ラビリンチュラ属の種、パブロバ・サリナ、シモフリアイゴ)との配列アラインメントに基づく。

3.2.1 ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼでは、シモフリアイゴに特定された領域に対応するアミノ酸残基は、「TLYL」(270〜273位)であり、パブロバ・サリナのΔ5デサチュラーゼに保存された2位、3位及び4位を伴う。Δ4デサチュラーゼを変換するために、太字の(下線の)領域で置換する(配列識別番号は、太字の(下線の)刻字の区分のみを指す)。

ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼ: 265 IGLGWTLYLHPR 276 /配列番号103

パブロバ・ルテリΔ4デサチュラーゼ:265 ELLAWRWEGEKI 276/配列番号104 パブロバ・サリナΔ4デサチュラーゼ:268 ELVMWRWEGEPI 279/配列番号105 シガヌス・アルティカΔ4デサチュラーゼ:268 DLIEMKYKGEKL 279/配列番号106

a)1回に1アミノ酸残基を置換する。太字(下線):置換されたアミノ酸残基/配列番号。

「RWEG」(パブロバ・サリナ及びパブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼの対応の領域)に置き換える。

変異1:ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼ:265 IGLGWRLYLHPR 276/配列番号107 変異2:ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼ:265 IGLGWRWYLHPR 276/配列番号108 変異3:ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼ:265 IGLGWRWELHPR 276/配列番号109 変異4:ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼ:265 IGLGWRWYGHPR 276/配列番号110 変異5:ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼ:265 IGLGWRLYGHPR 276/配列番号111 変異6:ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼ:265 IGLGWRLELHPR 276/配列番号112

b)「KYKG」(シガヌス・アルティカΔ4デサチュラーゼの対応の領域)に置き換える。太字(下線):置換されたアミノ酸残基/配列番号。

ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼ:265 IGLGWTLYLHPR 276 /配列番号113

変異1:265 IGLGWKLYLHPR 276/配列番号114 変異2:265 IGLGWKYYLHPR 276/配列番号115 変異3:265 IGLGWKYKLHPR 276 /配列番号116 変異4:265 IGLGWKLKLHPR 276/配列番号117 変異5:265 IGLGWKLYGHPR 276/配列番号118 変異6:265 IGLGWKLKGHPR 276/配列番号119 変異7:265 IGLGWTYYLHPR 276 /配列番号120 変異8:265 IGLGWTYKLHPR 276 /配列番号121 変異9:265 IGLGWTYKGHPR 276 /配列番号122 変異10:265 IGLGWTLKLHPR 276 /配列番号123 変異11:265 IGLGWTLKGHPR 276 /配列番号124

3.2.2 配列アラインメントに基づくと、パブロバ・ルテリ及びパブロバ・サリナのΔ4デサチュラーゼの間で保存された重要な領域の近傍に5つのアミノ酸残基がある。これらの5つアミノ酸残基を置き換える結果、デサチュラーゼの特異性を変えることができる(配列識別番号は、太字の(下線の)刻字の区分のみを指す)。

ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼ:265 IGLGWTLYLHPR 276/配列番号125

パブロバ・ルテリΔ4デサチュラーゼ:265 ELLAWRWEGEKI 276/配列番号126 パブロバ・サリナΔ4デサチュラーゼ:268 ELVMWRWEGEPI 279/配列番号127

置換後は、 ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼ:265 IGLGWRWEGEPR 276/配列番号128 。

3.2.3 配列アラインメントに基づくと、実施例2で特定された「LIPV」から「PVYG」までに対応する領域は、ラビリンチュラ属の種のアミノ酸配列中の265〜307位由来である。パブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼからのアミノ酸残基の置換を下記に示す。

ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼ: 265 IGLGWTLYLHPRYMLRTKRHMEFVWIFARYIGWFSLMGALGYS 307/配列番号129

パブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼ: 265 ELLAWRWEGEKISPLARALFAPAVACKLGFWARFVALPLWLQP307/配列番号130

3.2.4 タンパク質トポロジー予測ソフトウェア(TOPCONS)に基づくと、ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼは、4つの膜貫通ドメイン及び2つの疎水性ストレッチを有する。ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼの第3の膜貫通ドメインは、287〜307位から位置する。相同性に基づく第3の膜貫通ドメインの対応のドメインへの置換を下記に示す。

ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼ、第3の膜貫通ドメイン: 287 FVWIFARYIGWFSLMGALGYS 307/配列番号131

パブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼ:287 AVACKLGFWARFVALPLWLQP 307/配列番号132 又はパブロバ・サリナのΔ4デサチュラーゼ:290 SLLLKLTFWARFVALPLYLAP 310 /配列番号133 又はシガヌス・アルティカのΔ4デサチュラーゼ:290 AIGLRVFFFIRKFVVPFALHF 310/配列番号134 に置き換える。

トポロジー予測(TOPCONS)に厳密に基づき、本発明者らは、ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼの第3の膜貫通ドメインを、他のΔ4デサチュラーゼの第3の膜貫通ドメインに置換することができた。

ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼ、第3の膜貫通ドメイン: 287 FVWIFARYIGWFSLMGALGYS 307(配列番号131)

パブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼ、第3のTM:281 RALFAPAVACKLGFWARFVAL 301/配列番号135 又はパブロバ・サリナのΔ4デサチュラーゼ、第3のTM:291 LLLKLTFWARFVALPLYLAPS 311/配列番号136 又はシガヌス・アルクティカのΔ4デサチュラーゼ、第3のTM:293 LRVFFFIRKFVVPFALHFSWY 313/配列番号137 に置き換える。

3.2.5 実施例2に示された研究に基づくと、基質特異性に影響を与える4つのアミノ酸残基は、細胞形質外面に近接した第3の膜貫通ドメイン端に位置する。該4つのアミノ酸残基は、シモフリアイゴのΔ4及びΔ5/Δ6デサチュラーゼの第3の膜貫通ドメインの少なくとも6つのアミノ酸残基中に位置する。ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼでは、302〜305位は、トポロジー予測(第3の膜貫通ドメイン中の少なくとも6つのアミノ酸残基で開始する)に基づいて同じ位置を表す。

a)以下のような配列アラインメントに基づく、ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼの302〜305位(「GALG」/配列番号138)に対応するアミノ酸残基の置換

i)パブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼ:302-305「PLWL」/配列番号139 ii)パブロバ・サリナのΔ4デサチュラーゼ:305-308「PLYL」/配列番号140 iii)シガヌス・アルティカのΔ4デサチュラーゼ:305-308「PFAL」/配列番号141

b)以下のようなトポロジー予測に基づく、ラビリンチュラ属の種のΔ5デサチュラーゼの302〜305(「GALG」/配列番号138)に対応するアミノ酸残基の置換

i)パブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼ:296〜299「ARFV」/配列番号142 ii)パブロバ・サリナのΔ4デサチュラーゼ:306〜309「LYLA」/配列番号143 iii)シガヌス・アルティカのΔ4デサチュラーゼ:308〜311「LHFS」/配列番号144

3.3 ピシウム・イレグラレのΔ6デサチュラーゼ 以下のデータは、ピシウム・イレグラレのΔ6デサチュラーゼと、他のΔ6デサチュラーゼ(シモフリアイゴ、セイヨウユキワリソウ)及びΔ4デサチュラーゼ(エミリアナ・フクスレイイ、モノシガ・ブレビコリス、パブロバ・ルテリ、パブロバ・サリナ、シガヌス・アルティカ、タラシオシラ・スードナナ、シモフリアイゴ、ラビリンチュラ属の種)との配列アラインメントに基づく。

3.3.1 実施例2でシモフリアイゴに特定された領域に対応する、ピシウム・イレグラレのΔ6デサチュラーゼ中のアミノ酸残基は、「AQSF」である(284〜287位)。これらの残基は、いくつかのΔ6デサチュラーゼの間で保存されている(ピシウム・イレグラレ、セイヨウユキワリソウ)。配列アラインメントに基づいて、これらのアミノ酸残基を、Δ4デサチュラーゼ由来のアミノ酸残基に置換することができた(配列識別番号は、太字の(下線の)刻印の区分のみを指す)。

ピシウム・イレグラレのΔ6デサチュラーゼ:280 LSWLAQSFFYV 290/配列番号145

パブロバ・サリナのΔ4デサチュラーゼ:259 FKLLFLDISEL 269/配列番号146 パブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼ:256 FKLLFLDALEL 266/配列番号147 シガヌス・アルクティカのΔ4デサチュラーゼ:259 FQWVFLGLHDL 269/配列番号148 モノシガ・ブレビコリスのΔ4デサチュラーゼ:241 AKVIIGDWYNL 251/配列番号149 エミリアナ・フクスレイイのΔ4デサチュラーゼ:234 FVFAFTIRKYA 244/配列番号150 タラシオシラ・スードナナのΔ4デサチュラーゼ:315 LAKVFQQDFEV 325/配列番号151 ラビリンチュラ属の種のΔ4デサチュラーゼ:290 INKVVTQDVGV 300/配列番号152 由来のアミノ酸残基に置き換える。

単独のアミノ酸残基の置換もまた、上記に記載されるように実施することができた。

3.3.2 トポロジー予測(TOPCONS)に基づくと、ピシウム・イレグラレのΔ6デサチュラーゼは、4つの膜貫通ドメイン及び2つの疎水性ストレッチを含有する。そして、第3の膜貫通ドメインは、310〜330位の間に位置する。実施例2から、目的のアミノ酸残基は、第3の膜貫通ドメインにあることが判明した。配列アラインメントに基づき、本発明者らは、ピシウム・イレグラレのΔ6デサチュラーゼの第3の膜貫通ドメインを、Δ4デサチュラーゼ由来の対応の領域に置換することができた。

第3のTMピシウム・イレグラレのΔ6デサチュラーゼ: 310 AGLIVHYIWQLAIPYFCNMSL 330/配列番号153

パブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼ:288 VACKLGFWARFVALPLWLQPT 308/配列番号154 又はパブロバ・サリナのΔ4デサチュラーゼ:291 LLLKLTFWARFVALPLYLAPS 311/配列番号155 又はシガヌス・アルティカのΔ4デサチュラーゼ:291 IGLRVFFFIRKFVVPFALHFS 311/配列番号156 又はラビリンチュラ属の種のΔ4デサチュラーゼ:325 WIMKALTVLYMVALPCYMQGP 345/配列番号157 又はモノシガ・ブレビコリスのΔ4デサチュラーゼ:274 VLARICWLVRLVAIPVYLHGW 294/配列番号158 に置き換える。

3.3.3 トポロジー予測に基づき、ピシウム・イレグラレのΔ6デサチュラーゼの第3の膜貫通ドメインを他のΔ4デサチュラーゼの第3の膜貫通ドメインに置換する。

第3のTMピシウム・イレグラレのΔ6デサチュラーゼ: 310 AGLIVHYIWQLAIPYFCNMSL 330(配列番号153)

パブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼ、第3のTM: 281 RALFAPAVACKLGFWARFVAL 301/配列番号159 又はパブロバ・サリナのΔ4デサチュラーゼ、第3のTM: 291 LLLKLTFWARFVALPLYLAPS 311/配列番号160 又はシガヌス・アルクティカのΔ4デサチュラーゼ、第3のTM: 293 LRVFFFIRKFVVPFALHFSWY 313/配列番号161 に置き換える。

3.3.4 実施例2に示される研究に基づくと、細胞形質外膜面に近接した第3の膜貫通ドメイン端には、基質特異性に影響を与える4つのアミノ酸残基が位置する。ピシウム・イレグラレのΔ6デサチュラーゼでは、トポロジー予測に基づくと、325〜328位(「FCNM」)が同じ場所を表す。この領域は、下記に略述するように置き換えることができる。

a)配列アラインメントに基づき、ピシウム・イレグラレのΔ6デサチュラーゼの325〜328位(「FCNM」/配列番号162)に対応するアミノ酸残基に置換する。

i)パブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼ:303〜306「LWLQ」/配列番号163 ii)パブロバ・サリナのΔ4デサチュラーゼ:306〜309「LYLA」/配列番号164 iii)シガヌス・アルティカのΔ4デサチュラーゼ:306〜309「FALH」/配列番号165 iv)ラビリンチュラ属の種のΔ4デサチュラーゼ:340〜343「CYMQ」/配列番号166

b)トポロジー予測に基づき、ピシウム・イレグラレのΔ6デサチュラーゼの325〜328位(「FCNM」/配列番号162)に対応するアミノ酸残基に置換する。

i)パブロバ・ルテリのΔ4デサチュラーゼ:296〜299「ARFV」/配列番号167 ii)パブロバ・サリナのΔ4デサチュラーゼ:306〜309「LYLA」/配列番号168 iii)シガヌス・アルティカのΔ4デサチュラーゼ:308〜311「LHFS」/配列番号169 iv)ラビリンチュラ属の種のΔ4デサチュラーゼ:337〜340「ALPC」/配列番号170

参考文献

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