培養基材

申请号 JP2016178263 申请日 2016-09-13 公开(公告)号 JP2017055761A 公开(公告)日 2017-03-23
申请人 アイシン精機株式会社; 发明人 笹木 隆一郎; 朝生 敏裕; 塙 隆夫; 陳 鵬;
摘要 【課題】 簡便かつ低コストに培養基材を提供すること。また、生体適合性及び生体細胞親和性が高い培養基材の提供すること。幹細胞を未分化性を維持しつつ安全かつ安定に培養及び増殖できる培養基材の提供すること。幹細胞を所望の細胞に効率的に分化誘導できる培養基材を提供すること。 【解決手段】 マイクロメートルオーダーの周期微細構造2とナノメートルオーダーの周期微細構造3を同一表面に有し、幹細胞を表面にて培養する培養基材1、及び培養基材の作製方法。 【選択図】図10
权利要求

マイクロメートルオーダーの周期微細構造とナノメートルオーダーの周期微細構造を同一表面に有し、幹細胞を前記表面にて培養する培養基材。前記マイクロメートルオーダーの周期微細構造と前記ナノメートルオーダーの周期微細構造が、周期溝である請求項1に記載の培養基材。前記マイクロメートルオーダーの周期溝は、幅1〜20μm、深さ0.3〜2μm、ピッチ1〜100μmであり、前記ナノメートルオーダーの周期溝は、幅0.1〜1μm、深さ0.01〜0.5μm、ピッチ0.1〜1μmである請求項2に記載の培養基材。前記マイクロメートルオーダーの周期溝と前記ナノメートルオーダーの周期溝が平行である請求項2又は3に記載の培養基材。前記マイクロメートルオーダーの周期微細構造が、周期格子溝であり、前記ナノメートルオーダーの周期微細構造が、周期突起である請求項1に記載の培養基材。前記マイクロメートルオーダーの周期格子溝は、幅1〜20μm、深さ0.3〜2μm、ピッチ1〜100μmであり、前記ナノメートルオーダーの周期突起は、径0.1〜1 μm、高さ0.01〜0.5 μm、ピッチ0.1〜1 μmである請求項5に記載の培養基材。材質が、チタンである請求項1〜6の何れか一項に記載の培養基材。超短パルスレーザーの非熱切削によって基板表面に前記マイクロメートルオーダーの周期溝を形成する工程と、超短パルスレーザーの直線偏光によるナノ周期構造形成によって前記基板表面に前記ナノメートルオーダーの周期溝を形成する工程とを有する、請求項2〜4、及び7の何れか一項に記載の培養基材の作製方法。超短パルスレーザーの非熱切削により基板表面に前記マイクロメートルオーダーの周期格子溝を形成する工程と、超短パルスレーザーの円偏光によるナノ周期構造形成により前記基板表面に前記ナノメートルオーダーの周期突起を形成する工程とを有する、請求項5〜7の何れか一項に記載の培養基材の作製方法。

说明书全文

本発明は、培養基材に関し、特には、マイクロメートルオーダーの周期微細構造とナノメートルオーダーの周期微細構造を同一表面に有し、幹細胞を前記表面にて培養する培養基材、及び培養基材の作製方法に関する。

近年、再生医療の研究が盛んに行われ、従来医療の一翼を担うことが期待されている。再生医療とは、病気や怪我により機能障害や機能不全に陥った組織や臓器を再生し、その機能を回復させる治療法である。再生医療の実現において重要な役割を果たすのが幹細胞である。幹細胞は自己複製能と分化能とを有し、この幹細胞の分化能を利用することにより、病気や怪我の治癒に必要な組織や臓器を人工的に作り出することが可能となる。幹細胞はまた、幹細胞から分化誘導を行った生体細胞を、開発候補薬の薬理や毒性評価に用いる等の創薬スクリーニングや、発生、分化や疾患メカニズムの解明、タンパク質医薬となり得る生体機能を担っているタンパク質等の有用物質の生産技術等に利用することができる。そのため、幹細胞利用技術は、医療や創薬等の広範な技術分野への応用が期待されている。

しかしながら、移植治療や創薬スクリーニング等に利用可能なほどの組織や臓器を再生するためには,適切に幹細胞の増殖と分化を制御することが必要となる。つまり、幹細胞を再生医療に応用するためには、未分化性を維持しつつ安全かつ安定に幹細胞を培養及び増殖させ、所望の細胞に効率的に分化誘導できる培養技術の確立等、解決の必要な課題がある。

例えば、特許文献1には、N-カドヘリンが多能性幹細胞から神経細胞への分化制御因子であり、神経システム発生の重要な機能を果たしていることが記載されている。かかるN-カドヘリン又は相同性物質を培養基材表面上に固定することで、多能性幹細胞の神経細胞への選択的分化が起きることが確認されている。また、特許文献2には、インシュリン様成長因子結合タンパク質(以下、「IGFBP」と略する)が多能性幹細胞の心筋細胞への分化制御因子であり、心筋細胞への誘導を強く促進することが記載されている。かかるIGFBP又は相同性物質を培養基板表面上に固定することで心筋細胞への選択的分化が起きることが確認されている。

しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の分化制御因子は、何れも生化学活性の高い有機物である。そのため、培養基板上に固定化した後、培養を行うまでの間は滅菌環境下で保管する必要がある等、高度の知識や技術、設備を必要とする。

幹細胞の培養には、フィーダー細胞に付随する問題もある。幹細胞を培養する際には、フィーダー細胞との共培養が一般的であった。フィーダー細胞は、幹細胞の生存、増殖、及び未分化性維持のために必要な因子を提供すると共に、細胞接着のための足場を提供する。しかしながら、フィーダー細胞との共培養では、フィーダー細胞由来の成分が混入するため再生医療等の生体適用をする際には安全性に問題があり、また高品質のフィーダー細胞を安定的に供給することも容易ではなかった。上記特許文献1の技術は、フィーダー細胞を用いない幹細胞の培養系ではあるが、上記の通り、高度の知識や技術、設備を必要とするものであった。

幹細胞を培養する際に、培養基材表面の微細構造が幹細胞の生存、増殖、分裂過程、未分化性保持、及び細胞接着に及ぼす影響の検討が行われている。特許文献3には、多能性幹細胞の分化が表面微細構造によって生じる可能性が記載されている。特許文献3に記載の技術は、培養基材表面上の格子点にトポグラフィー的(円形、星形、長方形、三日月型等)な突起を設けている。

特許文献3には、幹細胞の分化に影響を与える突起の間隔及び断面直径としてそれぞれ1〜2μm及び1〜8μmを提示している。これを作成するための手法として、フォトリソグラフィー、電子ビームリソグラフィー、ホットエンボシングの他、ナノインプリント、レーザーアブレーション、化学エッチング、プラズマスプレーコーティング、吹き付け研削、エングレービング、スクラッチング、微細加工が提示されている。しかしながら、通常は集光スポットの大きさが数〜数十μmになるレーザーアブレーションにより、特許文献3に提示の形状を精密に作製するのは困難であった。してみると、実際に作製に足る手法としては、フォトリソグラフィー等の高コストな加工手段を選択せざるを得ないと考えられた。

また、特許文献4には、高強度フェムト秒レーザーパルス照射により、周囲に溝を有するマイクロメートルオーダーの半球状隆起と、該周囲の溝及び半球状隆起の表面全体に、ナノメートルオーダーの多数の微細球状突起と微細嵌凹からなる微細な表面構造を有する表面加工チタンが記載されている。チタンは、生体に埋入した際にも、免疫反応を起こすことが少ないことから人工関節や人工歯根をはじめとするインプラント材の主流となっているが、本来は生体にとって異物であるチタン表面への細胞の接着性が悪く、組織が再生され難い傾向がある等の改善すべき課題が残っていた。これに対して、特許文献4は、チタン表面の微細加工により、骨芽細胞のチタン表面への接着性を向上させるものであり、骨髄から分離した骨芽細胞の前駆細胞である骨芽細胞系細胞の増殖を促進し、骨芽細胞への分化誘導を引き起こすことが報告された。

しかしながら、特許文献4の技術は、骨芽細胞系細胞の増殖と骨芽細胞への分化を促進することが確認されているが、未分化性の高い幹細胞への適用については検討がなされていなかった。また、特許文献4には、チタン表面への800μJでフェトナム秒レーザーパルス照射により、溝に囲まれた半球状の2〜20μmの隆起が形成される共に、100〜300nmの微細球状突起と微細嵌凹からなる表面構造が形成されることが記載されており、かかる記載を鑑みるとナノメートルオーダーの微細構造はマイクロメートルオーダーの微細構造作製に付随して形成されたものであるといえる。

特開2014-82956号公報

特開2013-223446号公報

特開2014-138605号公報

特開2010-227551号公報

そこで、培養基材としては、簡便かつ低コストなものであって、生体適合性及び生体細胞親和性が高いものが求められている。また、幹細胞を、未分化性を維持しつつ安全かつ安定に培養及び増殖できるものが求められている。さらには、幹細胞を所望の細胞に効率的に分化誘導できる培養基材が求められている。

本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、培養基材において、マイクロメートルオーダーの周期微細構造とナノメートルオーダーの周期微細構造を表面に同時に形成することにより、特段の生体適合性及び生体細胞親和性の向上が認められた。また、当該培養基材上で幹細胞をその未分化性を維持しつつ安全かつ安定に増殖できることを見出した。さらに、当該培養基材上で幹細胞を所望の細胞に効率的に分化誘導でき、上記周期微細構造が幹細胞の分化誘導に寄与し得ることを見出した。これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。

即ち、本願は、上記目的を達成するため、以下の[1]〜[9]に示す発明を提供する。 [1]マイクロメートルオーダーの周期微細構造とナノメートルオーダーの周期微細構造を同一表面に有する、幹細胞を前記表面にて培養する培養基材。 [2]前記マイクロメートルオーダーの周期微細構造と前記ナノメートルオーダーの周期微細構造が、周期溝である上記[1]の培養基材。 [3]前記マイクロメートルオーダーの周期溝は、幅1〜20μm、深さ0.3〜2μm、ピッチ1〜100μmであり、前記ナノメートルオーダーの周期溝は、幅0.1〜1μm、深さ0.01〜0.5μm、ピッチ0.1〜1μmである上記[2]の培養基材。 [4]前記マイクロメートルオーダーの周期溝と前記ナノメートルオーダーの周期溝が、平行である上記[2]又は[3]の培養基材。 [5]前記マイクロメートルオーダーの周期微細構造が、周期格子溝であり、前記ナノメートルオーダーの周期微細構造が、周期突起である上記[1]の培養基材。 [6]前記マイクロメートルオーダーの周期格子溝は、幅1〜20 μm、深さ0.3〜2 μm、ピッチ1〜100 μmであり、前記ナノメートルオーダーの周期突起は、径0.1〜1 μm、高さ0.01〜0.5 μm、ピッチ0.1〜1 μmである上記[5]の培養基材。 [7]材質が、チタンである上記[1]〜[6]の何れかの培養基材。 [8]超短パルスレーザーの非熱切削によって基板表面に前記マイクロメートルオーダーの周期溝を形成する工程と、超短パルスレーザーの直線偏光によるナノ周期構造形成によって前記基板表面に前記ナノメートルオーダーの周期溝を形成する工程とを有する、上記[2]〜[4]、及び[7]の何れかの培養基材の作製方法。 [9]超短パルスレーザーの非熱切削により基板表面に前記マイクロメートルオーダーの周期格子溝を形成する工程と、超短パルスレーザーの円偏光によるナノ周期構造形成により前記基板表面に前記ナノメートルオーダーの周期突起を形成する工程とを有する、上記[5]〜[7]の何れかの培養基材の作製方法。

上記[1]の構成によれば、マイクロメートルオーダーの周期微細構造とナノメートルオーダーの周期微細構造を同一表面に有する幹細胞培養用の培養基材を提供できる。本発明の培養基材は、マイクロメートルオーダーの周期微細構造とナノメートルオーダーの周期微細構造が表面に同時に形成されており、それぞれ単独では若干の生体適合性及び生体細胞親和性の向上を示すのみであるが、両周期微細構造が共存することにより特段の生体適合性及び生体細胞親和性の向上が認められた。また、本発明の培養基材は、幹細胞を未分化性を維持した状態で効率良く増殖することができ、良質な幹細胞集団を安定して供給することが可能となる。これにより、本発明の培養基材は、多量の良質な幹細胞を必要とする再生医療や創薬スクリーニング等の幹細胞利用技術の発展に寄与することができる。

上記[2]の構成によれば、マイクロメートルオーダーの周期微細構造とナノメートルオーダーの周期微細構造を共に周期溝として形成した幹細胞培養用の培養基材を提供できる。本発明の培養基材は、マイクロメートルオーダーの周期溝とナノメートルオーダー周期溝が表面に同時に形成されており、両周期溝の共存により更なる生体適合性及び生体細胞親和性の向上を図ることができる。また、本発明の培養基材は、幹細胞を未分化性を維持した状態で効率良く増殖することができ、良質な幹細胞集団の更なる安定供給が可能となる。これにより、本発明の培養基材は、多量の良質な幹細胞を必要とする再生医療や創薬スクリーニング等の幹細胞利用技術の更なる発展に寄与することができる。

上記[3]の構成によれば、マイクロメートルオーダーの周期微細構造とナノメートルオーダーの周期微細構造を共に周期溝とし、かつ両周期溝のサイズの好適化を図った幹細胞培養用の培養基材を提供できる。本発明の培養基材は、好適サイズのマイクロメートルオーダー周期溝とナノメートルオーダー周期溝が表面に同時に形成されており、特定サイズの両周期溝の共存により更なる生体適合性及び生体細胞親和性の向上を図ることができる。また、本発明の培養基材は、幹細胞を未分化性を維持した状態で効率良く増殖することができ、良質な幹細胞集団の更なる安定供給が可能となる。これにより、本発明の培養基材は、多量の良質な幹細胞を必要とする再生医療や創薬スクリーニング等の幹細胞利用技術の更なる発展に寄与することができる。

上記[4]の構成によれば、マイクロメートルオーダーの周期微細構造とナノメートルオーダーの周期微細構造を共に周期溝とし、かつ両周期溝が平行である幹細胞培養用の培養基材を提供できる。本発明の培養基材は、マイクロメートルオーダーの周期溝とナノメートルオーダー周期溝が表面に平行になるように形成したことにより、幹細胞の分化誘導への寄与が認められると共に、分化誘導因子に誘発される幹細胞の分化誘導を促進し、幹細胞を所望の細胞に効率的に分化誘導することができる。

上記[5]の構成によれば、マイクロメートルオーダーの周期微細構造として周期格子溝、ナノメートルオーダーの周期微細構造として周期突起を形成した幹細胞培養用の培養基材を提供できる。本発明の培養基材は、マイクロメートルオーダーの周期格子溝とナノメートルオーダー周期突起が表面に同時に形成されており、両周期微細構造の共存により更なる生体適合性及び生体細胞親和性の向上を図ることができる。また、本発明の培養基材は、幹細胞を未分化性を維持した状態で効率良く増殖することができ、良質な幹細胞集団の更なる安定供給が可能となる。さらに、分化誘導因子に誘発される幹細胞の分化誘導を促進し、幹細胞を所望の細胞、特には神経細胞及び脂肪細胞に効率的に分化誘導することができる。これにより、本発明の培養基材は、多量の良質な幹細胞を必要とする再生医療や創薬スクリーニング等の幹細胞利用技術の更なる発展に寄与することができる。

上記〔6〕の構成によれば、マイクロメートルオーダーの周期微細構造を周期格子溝とし、ナノメートルオーダーの周期微細構造を周期突起とし、かつ両周期微細構造のサイズの好適化を図った幹細胞培養用の培養基材を提供できる。本発明の培養基材は、好適サイズのマイクロメートルオーダー周期格子溝とナノメートルオーダー周期突起が表面に同時に形成されており、更なる生体適合性及び生体細胞親和性の向上を図ることができ、幹細胞を所望の細胞、特には神経細胞及び脂肪細胞に効率的に分化誘導することができる。

上記[7]の構成によれば、本発明の培養基材は、生体適合性及び生体細胞親和性が高いチタン材に周期微細構造を形成して作製できることから、更なる生体適合性及び生体細胞親和性の向上が期待できる。

上記〔8〕の構成によれば、本発明の培養基材の周期微細構造の形成は、例えば、基板表面を超短パルスレーザーによって走査することにより簡便に形成することができ、熱影響が少ないことから、大気中での加工が可能である等、作製への制約が少ないという利点がある。これにより、本発明の培養基材を簡便かつ低コストに作製することができる。

上記〔9〕の構成によれば、本発明の培養基材の周期微細構造の形成は、例えば、基板表面を超短パルスレーザーによって走査することにより簡便に形成することができ、熱影響が少ないことから、大気中での加工が可能である等、作製への制約が少ないという利点がある。これにより、本発明の培養基材を簡便かつ低コストに作製することができる。

培養基材の作製検討(レーザー加工条件の設定)を行った実施例2の結果を示し、マイクロ周期溝の加工表面SEM像である。

培養基材の作製検討(レーザー加工条件の設定)を行った実施例2の結果を示し、マイクロ周期溝の深さ観察結果を示す。

培養基材の作製検討(レーザー加工条件の設定)を行った実施例2の結果を示し、マイクロ周期溝の断面SEM像を示す。

培養基材の作製検討(レーザー加工条件の設定)を行った実施例2の結果を示し、ナノ周期溝の加工表面SEM像である。

培養基材の作製検討(レーザー加工条件の設定)を行った実施例2の結果を示し、ナノ周期溝の深さ観察結果を示す。

培養基材の作製検討(レーザー加工条件の設定)を行った実施例2の結果を示し、ナノ周期溝の断面SEM像を示す。

培養基材の作製検討(レーザー加工条件の設定)を行った実施例2の結果を示し、ハイブリッド周期溝の加工表面SEM像である。

培養基材の作製検討(レーザー加工条件の設定)を行った実施例2の結果を示し、ハイブリッド周期溝の深さ観察結果を示す。

培養基材の作製検討(レーザー加工条件の設定)を行った実施例2の結果を示し、ハイブリッド周期溝の断面SEM像を示す。

生体細胞親和性験(細胞密度の算出)を行った実施例3において、作製した培養基材を模式的に示した図である。

生体細胞親和性験(細胞密度の算出)を行った実施例3の結果を示すグラフである。

生体細胞親和性試験(細胞形態の観察)を行った実施例4の結果を示し、コントロール(鏡面)の培養基材での細胞形態を示す蛍光顕微鏡観察像。

生体細胞親和性試験(細胞形態の観察)を行った実施例4の結果を示し、マイクロ周期溝を形成した培養基材での細胞形態を示す蛍光顕微鏡観察像。

生体細胞親和性試験(細胞形態の観察)を行った実施例4の結果を示し、ハイブリッド周期溝を形成した培養基材での細胞形態を示す蛍光顕微鏡観察像。

生体細胞親和性試験(細胞形態の観察)を行った実施例4の結果を示し、ナノ周期を形成した培養基材での細胞形態を示す蛍光顕微鏡観察像。

培養基材上でのMSCの未分化性の確認を行った実施例5の結果を示すグラフ。

培養基材上でのMSCの分化誘導解析(分化マーカーでの確認)を行った実施例6の結果を示すグラフ。

培養基材上でのMSCの分化誘導解析(蛍光顕微鏡観察での確認)を行った実施例7の結果を示す蛍光顕微鏡観察像。

培養基材上でのMSCの分化誘導解析(抗体蛍光染色での確認)を行った実施例8の結果を示す蛍光顕微鏡観察像。

MSCの骨への分化誘導評価(アルカリフォスファターゼ活性の測定)を行った実施例9の結果を示すグラフ。

MSCの骨への分化誘導評価(石灰化能の評価)を行った実施例10の結果を示すグラフ。

培養基材の作製検討を行った実施例11の結果を示し、マイクロ周期格子溝の断面SEM像を示す。

培養基材の作製検討を行った実施例11の結果を示し、ハイブリッド周期格子溝+周期突起の断面SEM像を示す。

培養基材上でのMSCの分化誘導解析(分化マーカーでの確認)を行った実施例12の結果を示すグラフ。

以下、本願発明について詳細に説明する。

〔培養基材〕 本発明の培養基材1は、マイクロメートルオーダーの周期微細構造2とナノメートルオーダーの周期微細構造3が表面に同時に形成されている。以下、本願発明の培養基材が有するマイクロメートルオーダーの周期微細構造2とナノメートルオーダーの周期微細構造3が共存した構造を「ハイブリッド周期構造」、マイクロメートルオーダーの周期微細構造2単独を「マイクロ周期構造」、ナノメートルオーダーの周期微細構造3単独を「ナノ周期構造」と略する場合がある。

本発明の培養基材1の材質としては、化学的に安定で、生体適合性及び生体細胞親和性が良い物質を選択することが好ましい。ここで、化学的に安定とは、所要の強度や、耐久性、耐摩耗性を有することを意味する。例えば、培養基材1をインプラント材として使用する場合には、埋植される箇所に応じた学的適合性を有することが必要となる。生体適合性とは、生体、及び細胞や組織、臓器、血液等の生体由来の成分に影響を与えず、これら生体及び生体由来の成分からも影響を受けない性質であり、生体内で異物として認識され難い性質を意味する。生体細胞親和性とは、特に、生体細胞及び生体細胞由来の成分に影響を与えず、生体細胞及び生体細胞由来の成分からも影響を受けないことを意味し、生体細胞の生存や増殖等を阻害し難い性質を意味する。具体的には、生体適合性及び生体細胞親和性とは、毒性や発がん性、抗原性を有しないこと、血液凝固や溶血、代謝異常を惹起しないこと等が例示される。好ましくは、培養基材1の用途に応じて、必要とされるレベルの生体適合性及び生体細胞親和性を有する材質を選択する。

具体的には、金属材料、セラミックス材料、合成高分子材料等のうち、上記性質を有する限り公知の物質を利用することができる。金属材料としては、チタン、及びチタン合金及び酸化物、ステンレス、ニオブ、ニオブ合金及び酸化物、タンタル、タンタル合金及び酸化物、ニッケル−クロム合金、クロム−コバルト合金等を例示することができる。合金とは、複数の金属元素あるいは金属元素と非金属元素から構成される金属的性質を示すものである。例えば、チタン合金としては、チタンに、ニッケル、ニオブ、タンタル、モリブデン、ジルコニウムや白金等の1以上の他の元素を添加し組成を調節したものを利用することができる。セラミックス材料としては、アルミナ及びその酸化物、ジルコニア及びその酸化物、ハイドロキシアパタイト等を例示できる。セラミックス材料に他の添加物を含ませて成形したものや、上記の金属材料表面を溶融させたセラミックス材料をコーティングしたもの、逆にセラミックス材料を合金等の金属材料でコーティングしたものを利用することもできる。合成高分子材料としては、シリコーンやポリウレタン等を例示することができる。

本発明の培養基材1の形状や大きさには特に制限はなく、板状、立方体状、柱状、棒状、繊維状、球状、粒状、塊状等、用途に応じて適宜選択することができる。周期微細構造は、培養基材1の全ての面に形成されていてもよいし、一部の面や、面の一部分に形成されていてもよい。本発明の培養基材1をインプラントとして使用する場合には、埋植箇所や再生を所望する組織に応じて、適宜、その形状や大きさを設定することができる。

本発明の培養基材1の表面に形成される「周期微細構造」とは、基材の同一平面上に一定間隔で規則的に微細な凹凸形状を設けた構造を意味する。凹凸形状は、凹部としては溝や穴、凸部としては凸条や突起等が例示される。

溝又は凸条の形状としては、直線、曲線、又は折れ線形状等として形成でき、複数の凸条又は溝が、平行状、同心円状、格子状、螺旋状等に配列したものが例示される。凸条又は溝の、長手方向に直交する方向の断面形状としては、四形、三角形(V字形)、半円形(U字型)等が挙げられる。好ましくは、複数の直線状の凸条又は溝が連続的に一定間隔で平行に配置した周期溝構造として構成する。また、好ましくは、連続的に一定間隔で平行に配置された複数の直線状の凸条又は溝が、基盤の目のように組み合わされるように配列された周期格子構造として構成する。周期格子構造の凸条又は溝で囲まれた領域の形状は、正方形、長方形、平行四辺形、菱形、三角形等として形成でき、凸条又は溝の交差部の角度についても制限はない。

突起又は穴の形状としては、三角錐、四角錐、六角錐等の円錐状、円柱状、半球状、波形状、釣鐘状等として形成でき、突起はドットとも称することができる。複数の突起又は穴が平行状、同心円状、格子状、螺旋状、ランダム状等に配列したものが例示される。突起又は穴は、高さ方向に直交する断面の面積は、底部から頂部に向かって変化していても変化していなくてもよく、変化する場合には、次第に減少するような形状であっても、増加するような形状であっても、増減を組み合わせた形状であってもよい。

本発明の培養基材1のハイブリッド周期構造4において、マイクロ周期構造2とナノ周期構造3は、培養基材1表面に同時に形成されている限りには、何れの形状を組み合わせたものであってもよい。従って、マイクロ周期構造2及びナノ周期構造3を共に周期凸条、溝、突起又は穴として形成してもよいし、一方を周期凸条又は溝として他方を周期突起又は穴として形成してもよい。

マイクロ周期構造2とナノ周期構造3の双方を周期凸条又は溝として形成した場合、マイクロ周期構造2の上にナノ周期構造3を同一方向に延伸するように配列することができるし、異なる方向に延伸するように配列してもよい。例えば、マイクロ周期構造2が一方向に延伸して平行になるように配列された場合には、ナノ周期構造3も同一方向に延伸して平行になるように配列することができる。また、マイクロ周期構造2上にナノ周期構造3を角度をもって配列してもよい。このとき、角度は、適宜設定することができる。ここで、ハイブリッド周期構造4として、マイクロ周期構造2とナノ周期構造3の双方を平行溝に形成したものを「ハイブリッド周期溝4a」と称する場合がある。

マイクロ周期構造2を周期凸条又は溝として、ナノ周期構造3を周期突起又は穴として形成した場合、マイクロ周期構造2上にナノ周期構造3を、縦方向及び横方向に配列することができる。縦方向、横方向の間隔は同一でもよいし、異なっていてもよい。好ましくは、マイクロ周期構造2を周期格子溝2bとして、ナノ周期構造3を周期突起3bとして形成することができる。ここで、ハイブリッド周期構造4として、マイクロ周期構造2を周期格子溝2bとして、ナノ周期構造3を周期突起3bとして形成したものを「ハイブリッド周期格子溝+周期突起4b」と称する場合がある。

ここで、マイクロメートルオーダーの周期微細構造2とは、μm単位で表示することが妥当な程度の寸法で形成された周期微細構造を意味し、周期的な構造を人為的に制御可能な程度の寸法の微細構造を意味する。ここでは、周期微細構造が周期凸条又は溝の場合には、その幅、高さ又は深さ、及びピッチがマイクロメートルオーダーの寸法で形成されていることを意味する。具体的には、その幅及びピッチが1〜100μm、高さ又は深さが0.1〜10μm程度の寸法であることを意味する。また、周期微細構造が矩形の周期突起又は穴の場合には、その1辺の長さ、高さ又は深さ、及びピッチ、円形の周期突起又は穴の場合には、その直径、高さ又は深さ、及びピッチ等の寸法がマイクロメートルオーダーの寸法で形成されていることを意味する。具体的には、その一辺の長さ又は直径、及びピッチ幅が1〜100μm、高さ又は深さが0.1〜10μm程度の寸法であることを意味する。

ナノメートルオーダーの周期微細構造3とは、nm単位で表示することが妥当な程度の寸法で形成された周期微細構造を意味し、例えばレーザー照射等により構造形成が現象としてとらえることができる程度の寸法の微細構造を意味する。具体的には10〜1000nmである。ここでは、周期微細構造が周期凸条又は溝の場合には、その幅、高さ又は深さ、及びピッチがナノメートルオーダーの寸法で形成されていることを意味する。また、周期微細構造が矩形の周期突起又は穴の場合には、その1辺の長さ、高さ又は深さ、及びピッチ、円形の周期突起又は穴の場合には、その直径、高さ又は深さ、及びピッチ等の寸法がナノメートルオーダーの寸法で形成されていることを意味する。

本発明の培養基材1の周期微細構造を、マイクロメートルオーダーの周期溝2aとナノメートルオーダーの周期溝3aを、同一方向に延伸して平行になるように配列して形成した場合には、好ましくは、マイクロメートルオーダーの周期溝2aを、溝の幅1〜20μm、特に好ましくは5〜10μm、深さ0.3〜2μm、特に好ましくは0.6〜1μm、ピッチ1〜100μm、特に好ましくは10〜20μmに設定し、ナノメートルオーダーの周期溝3aを、溝の幅0.1〜0.5μm(100〜500nm)、深さ0.01〜0.5μm(10〜500 nm)、ピッチ0.1〜1μm(100〜1000nm)に設定する。具体的には、マイクロメートルオーダーの周期溝2aを、溝の幅6μm、深さ0.6μm又は1μm、ピッチ12μmに設定し、ナノメートルオーダーの周期溝3aを、溝の幅0.3μm(300nm)、深さ0.2μm(200 nm)、ピッチ0.5〜0.8μm(500〜800nm)、特に好ましくは0.7μm(700nm)に設定する。

本発明の培養基材1の周期微細構造を、マイクロメートルオーダーの周期溝2aとナノメートルオーダーの矩形又は円形の周期突起3bとして形成した場合には、マイクロメートルオーダーの周期溝2aは、好ましくは、溝の幅1〜20μm、深さ0.3〜2μm、ピッチ1〜100μmに設定し、ナノメートルオーダーの周期突起は、好ましくは、突起の径0.1〜1μm(100〜1000nm)、高さ0.01〜0.5μm(10〜500 nm)、ピッチ0.1〜1μm(100〜1000nm)に設定する。

本発明の培養基材1の周期微細構造を、マイクロメートルオーダーの周期格子溝2bとナノメートルオーダーの周期突起3bを配列して形成した場合には、好ましくは、マイクロメートルオーダーの周期格子溝2bを、溝の幅1〜20 μm、特に好ましくは5〜10 μm、深さ0.3〜2 μm、特に好ましくは0.6〜1 μm、ピッチ1〜100 μm、特に好ましくは10〜20 μmに設定し、ナノメートルオーダーの周期突起3bを、突起の径0.1〜1 μm(100〜1000 nm)、高さ0.01〜0.5 μm(10〜500 nm)、ピッチ0.1〜1 μm(100〜1000 nm)に設定する。具体的には、マイクロメートルオーダーの周期格子溝2bを、溝の幅6μm、深さ0.6μm、ピッチ12μmに設定し、ナノメートルオーダーの周期突起3bを、径0.6 μm(600 nm)、高さ0.2 μm(200 nm)、ピッチ0.5〜0.8 μm(500〜800 nm)、特に好ましくは0.7 μm(700 nm)に設定する。ナノ周期突起の密度は、好ましくは、1cm2当たり100万〜300万個、特に好ましくは200万弱個程度とする。

ここで、溝の幅とは、溝の端から端までの距離を意味し、溝の長手方向に直交する方向における距離である。当該距離が溝の高さ方向に向かって変化する場合においても、培養基材1表面上の距離を意味する。溝の高さとは、溝の最底面の平均高から最上面の平均高までの距離を意味する。溝のピッチとは、最近接する溝の間隔を意味し、溝の長手方向に直交する方向における最近接する溝の間隔であり、溝の長手方向に直交する方向における凹凸の一周期分の距離となる。格子溝の場合のピッチは、例えば、溝で囲まれた領域の形状が矩形の場合には、溝に囲まれた領域における最近接する対向溝の間隔となる。

突起の径は、突起の端から端までの距離を意味し、矩形の突起の場合その1辺の距離であり、円形の突起の場合には直径の距離である。当該距離が突起の高さ方向に向かって変化する場合においても、培養基材1表面上の距離を意味する。突起の高さとは、突起の最底面の平均高から最上面の平均高までの距離を意味する。突起のピッチとは、最近接する突起との間隔を意味し、培養基板1表面上の凹凸の一周期分の距離となる。突起の寸法は、一定領域内、例えば1 mm2の領域に存在する突起の径や高さ、ピッチ等の測定値の平均として算出することが好ましい。

本発明の培養基材1における周期微細構造の方向性についても、制限はなく、等方性であっても異方性であってもよい。ここで、等方性とは、周期微細構造の配列が方向に依存しないことを意味し、異方性とは、方向に依存することを意味する。例えば、ハイブリッド周期溝4aは異方性であり、ハイブリッド周期格子溝+周期突起4bは等方性であるといえる。

本発明の培養基材1におけるマイクロ周期構造2とナノ周期構造3の形成の順序には制限はないが、好ましくは、マイクロ周期構造2を形成した後、ナノ周期構造3を上書き形成することが好ましい。従って、ナノ周期構造3は、マイクロ周期構造2上に形成される。

例えば、溝の幅6μm、深さ0.9μm、ピッチ12μmのマイクロメートルオーダーの周期溝2aに、溝の幅0.3μm、深さ0.2μm、ピッチ0.5〜0.8μmのナノメートルオーダーの周期溝3aを上書きすることにより、溝の幅6μm、深さ0.6μm、ピッチ12μmのマイクロメートルオーダーの周期溝2aと、溝の幅0.3μm(300nm)、深さ0.2μm(200 nm)、ピッチ0.5〜0.8μm(500〜800nm)のナノメートルオーダーの周期溝3aが共存したハイブリッド周期溝4aを形成することができる。ハイブリッド周期格子溝+周期突起4bについても、マイクロメートルオーダーの周期格子溝2b上にナノメートルオーダーの周期突起3bを同様に上書きすることで形成することができる。

周期微細構造は、公知の方法によって形成することができる。例えば、本発明のマイクロ周期構造2及びナノ周期構造3は、数フェムト秒〜数ピコ秒のパルス幅をもつ超短パルスレーザーを利用することにより形成することができる。超短パルスレーザーとしては、波長800nm〜1500nmの近赤外線領域、パルス時間幅10ps以下、出力1W以上の加工用レーザー装置が好適で、特にフェムト秒パルスレーザーが好ましい。フェムト秒パルスレーザーとしては、イムラアメリカ社製のFCPA μJewel D-1000を好ましく利用することができる。マイクロ周期構造2は、機械的加工によっても形成することができる。

マイクロ周期構造2の場合には、例えば、超短パルスレーザーの非熱切削により形成することができる。チタン材料に周期溝として形成する場合には、好ましくは、波長800〜1500nm、フルエンス0.1〜1.5J/cm2、パルス線密度100〜1000パルス/mm、走査回数1〜50回、偏光を円偏光又は直線偏光とする。特に好ましくは、フルエンス0.7J/cm2、パルス線密度300パルス/mm、走査回数20回、偏光を円偏光とする。ナノ周期構造3の場合には、例えば、超短パルスレーザーの直線偏光により偏光方向と垂直な方向に周期的な溝構造を形成することができ、円偏光により粒状構造、楕円偏光により畝状構造を形成することができる。チタン材に周期溝として形成する場合には、好ましくは、波長800〜1500nm、フルエンス 0.5〜1.5J/cm2、パルス線密度100〜1000パルス/mm、走査回数1〜10回とする。特に好ましくは、フルエンス0.8J/cm2、パルス線密度200パルス/mm、走査回数1回、偏光を直線偏光とする。チタン材に周期突起として形成する場合には、上記条件において偏光を円偏光とする。

周期微細構造は、レーザー光が基板表面で所望の形状を描画するように、レーザー光を照射することにより形成される。レーザー光の走査は、ラスタースキャン、ベクタースキャン、スポットスキャン等の方式の何れも利用することができるが、ラスタースキャン方式が好ましい。

〔本発明の培養基材1を用いた細胞の培養〕 本発明の培養基材1は、幹細胞の培養のための基材であり、ハイブリッド周期構造4が形成された面を培養面として幹細胞を培養する。再生医療の実現において、幹細胞は未分化性を維持した状態で増殖され(以下、「未分化増殖段階」と称する場合がある)、続いて、増殖された幹細胞を分化誘導して目的の細胞に分化させる(以下、「分化誘導段階」と称する場合がある)。移植治療が可能なほどの組織や臓器を再生するためには、非常に膨大な細胞数の幹細胞が必要であり、これを目的とする細胞に効率的に分化誘導することが必要となるが、本発明の培養基材1によれば、幹細胞の増殖と分化を適切に制御することが可能となる。

幹細胞は、分化能と自己複製能を有する未分化な細胞である。ここで、分化能とは、組織や臓器を構成する特定の機能を持ったさまざまな細胞に変化する能力を意味する。つまり、体内に存在する細胞は一定の機能や形を有するが、幹細胞がある一定の機能や形を有する細胞に変化する能力を意味する。分化能の観点から幹細胞は、体内に存在する全ての細胞に変化することができる多分化能を有するものであってもよいし、一部の細胞にのみに分化することができるものであってもよい。ここで、未分化とは、特定の機能や形を有する体細胞や生殖細胞に分化していない状態を意味する。自己複製能とは、細胞が細胞分裂を繰り返しながら自分と同じ細胞を作る能力を意味する。

幹細胞は、最終的に分化していない細胞であり、分化能と自己複製能を有する全ての細胞が含まれる。従って、幹細胞が最終分化するまでの過程で発生する分化能を有する細胞も、分化能と自己複製能を有する限り幹細胞に含むものとする。幹細胞としては、人工多能性幹細胞(以下、「iPS細胞」と略する)、胚性幹細胞(以下、「ES細胞」と略する)、核移植胚性幹細胞(以下、「ntES細胞」と略する)、体性幹細胞、臍帯血幹細胞等が例示されるが、これらに限定するものではない。幹細胞には階層性があり、上位にあるiPS細胞やES細胞は自己複製能が高く様々な細胞系列に分化することができるが、体性幹細胞等のように下位になるに従い自己複製性は失われていき、特定の細胞系列にしか分化できないようになる。

iPS細胞は、本来、分化能を喪失している体細胞に特定の遺伝子を導入することによって人為的に誘導される多能性幹細胞である。ES細胞は、受精卵の胚盤胞の段階の胚の中の内部細胞塊を培養した多能性幹細胞であり、ntES細胞は、核を除いた卵子に体細胞の核を入れて胚を作り、ES細胞と同様に胚の中の内部細胞塊を培養した多能性幹細胞である。iPS細胞は、Takahashi K.他著,”Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors.”, Cell, 126(4),663-676 (2006)、Takahashi K.他著、Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors. Cell, 131(5), 861-872 (2007)、Yu J.他著、” Induced Pluripotent Stem Cell Lines Derived from Human Somatic Cells”、Science, 318(5858), 1917-1920 (2007)、“Generation of induced pluripotent stem cells without Myc from mouse and human fibroblasts”、Nakagawa M.他著、Nat Biotechnol., 26(1), 101-106, (2008)等に記載の方法に基づいて取得することができる。ES細胞は、M. J. Evans他著、”Establishment in culture of pluripotential cells from mouse embryos”, Nature, 292, 154-156 (1981)、Thomson JA他著,”Embryonic stem cell lines derived from human blastocysts.”, Science, 282(5391), 1145-1147 (1988) , Amit, M., 他著、”Clonally derived human embryonic stem cell lines maintain pluripotency and proliferative potential for prolonged periods of culture.”, Dev. Biol. 227(2), 271-278 (2000)等の記載に基づき取得することができる。また、iPS細胞及びES細胞は、市販品や細胞バンクから得たものであってもよい。

iPS細胞及びES細胞は、外胚葉、中胚葉、内胚葉の三胚葉、そして、三胚葉が分化して生み出される全ての種類の細胞に分化する能力を有する多能性幹細胞である。多能性幹細胞は胎盤と羊膜を除く全ての組織や臓器を構成する細胞に分化することができる。例えば、外胚葉は、神経系の神経細胞、軸索、髄鞘、消化器系の口腔上皮、舌、歯エナメル質、感覚器系の皮膚、角膜、網膜、内、外耳等に分化し、中胚葉は、骨、軟骨等の骨格系、心臓、血管内皮細胞、白血球、血小板、赤血球等の血液細胞、脾臓、骨髄等の循環器系、神経系の神経小膠細胞、泌尿器系の腎臓、尿管、生殖器系の卵巣、子宮、精巣、結合組織等に分化し、内胚葉は、消化器系の食道上皮、胃上皮、肝臓、膵臓、内分泌系の甲状腺、胸腺、感覚器系の耳管、鼓室、呼吸器系の扁桃、咽頭上皮、喉頭上皮、気管上皮、等に分化する。

体性幹細胞は、生体内に存在する最終分化していない細胞であり、間葉系幹細胞(以下、「MSC」と略する場合がある)、神経幹細胞、造血幹細胞、肝幹細胞、血管内皮幹細胞、上皮幹細胞等のいろいろな種類がある。また、体性幹細胞は、iPS細胞やES細胞が最終分化する過程で生み出すこともできる。体性幹細胞は、多能性幹細胞とは異なり、特定の組織、臓器を構成する細胞にのみに分化することができる。

MSCは、体性幹細胞の一種であり、中胚葉由来の間質細胞(骨髄)、骨芽細胞(骨細胞)、軟骨芽細胞(軟骨細胞)、筋細胞、脂肪細胞、繊維芽細胞(、靭帯)、血管内皮細胞等に分化する能力を有する他、胚葉の差をこえて、外肺葉系細胞の神経細胞、内胚葉系細胞の肝細胞、膵臓細胞に分化する能力を有することも報告されている。

MSCは、骨髄、脂肪組織や筋肉等の種々の組織から得ることができるが、好ましくは骨髄から骨髄間葉系幹細胞を得ることができる。骨髄間葉系幹細胞は骨髄間質細胞の中に含まれ、例えば、骨髄穿刺により採取した骨髄液をシャーレ上に播種し、シャーレ底面に沈降して増殖する線維芽様細胞を継代培養によって増殖させることによって取得することができる。また、MSCは、iPS細胞及びES細胞等の多能性幹細胞から分化誘導することもでき、例えばES細胞をレチノイン酸存在下で培養しSOX1陽性の細胞を選別することによりMSCを取得できること、及び、ES細胞を培養し、ストロマ細胞様形態であり、PDGFRα陽性かつFLK1陰性あり、Mesp2を発現しない細胞を選別することによりMSCを取得できることが報告されている(特開2005-304443号公報、国際公開2004/106502号公報を参照のこと)。MSCは、市販品や細胞バンクから得たものであってもよい。

本発明の培養基材1で培養される細胞の由来は問わない。従って、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類、鳥類、爬虫類由来の細胞であってもよく、好ましくは哺乳類由来の細胞の培養に使用することができる。

未分化増殖段階における幹細胞の培養は、本発明の培養基材1のハイブリッド構造4が形成された面上で行う。分化誘導を行わない未分化増殖段階では、本発明の培養基材1を用いて培養することで、自発的な分化等による分化細胞の出現を抑制し、幹細胞は未分化性を維持したままで増殖することができる。つまり、本発明の培養基材1上では、幹細胞は分化誘導しない限り何れの細胞への分化を行わず、核型異常も伴わない。一方で、幹細胞は、自己と同じ性質を持つ細胞を複製する自己複製能を十分に発揮することができる。これにより、幹細胞を、未分化性を維持した状態で効率よく増殖することができ、良質な幹細胞集団を安定して提供することが可能となる。これにより、再生医療や創薬スクリーニング等に利用可能な十分な量の分化細胞を提供することが可能な量の幹細胞を提供することが可能となる。

未分化増殖段階における幹細胞の培養は、幹細胞が維持できる限り特に限定されない。従って、当該分野で公知の方法に基づいて行うことができ、初代培養用の液体培地に細胞を播種し、適当な条件下で培養することができる。液体培地の交換や継代も、公知の方法と同様に行なうことができる。

具体的には、iPS細胞及びES細胞の培養において、培地及び培養養条件等は、iPS細胞及びES細胞が維持できる限り特に限定されず、公知の培地及び培養条件に基づいて行うことができる。培地は、通常のiPS細胞及びES細胞の培養に用いる公知の培地を使用できる。例えば、無血清培地に、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)等の細胞増殖因子を添加した培地等を用いることができ、培養する細胞に合せて適宜選択することができる。また、市販のiPS細胞及びES細胞培養用の培地を使用することができ、例えば、StemPro(登録商標)hESC(Life technologies)、ReproFF2(Reprocell)等を利用することができる。

MSCの培養において、培地及び培養養条件等は、MSCが維持できる限り特に限定されず、公知の培地及び培養条件に基づいて行うことができる。培地としては、通常MSCの培養に用いる培地を用いることができる。MEM培地、DMEM培地等が例示されるが、培養する細胞に合せて適宜選択することができる。また、市販のMSC増殖培地やキットを使用することができ、例えば、MSCGMTM BulletKitTM(Lonza、カタログ番号PT-3001)を使用することができる。

培養条件についても培養する細胞に合せて適宜選択することができる。例えば、初期蒔種密度は、5000〜6000細胞/cm2とし、37℃、5% CO2に設定したインキュベーター内にて培養することができる。

幹細胞が分化能を維持しているか否かの確認は、細胞形態の観察、分化能の確認、及び未分化性マーカーの確認等により行うことができる。未分化性マーカーとしては、未分化の幹細胞に特異的に発現し、分化能の発現に非常に重要な働きをする分子であり、かかる分子の発現、若しくは発現レベルは、公知の方法によって検出することができる。例えば、マーカー遺伝子の発現の検出には、Real time RT-PCR等を利用することができ、タンパク質マーカーの発現の検出には、マーカー特異的なポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を利用した免疫染色法や酵素活性測定法等を利用することができる。抗体を利用した免疫染色法としては、抗体蛍光染色法を好ましく利用することができる。ここで、抗体蛍光染色法は、抗原抗体反応を利用し、蛍光色素で標識した抗体を試料に取り込ませて染色を行う方法であり、抗原となる物質(未分化マーカー)に対して高い特異性で染色を行うことができる。

未分化性マーカーとしては、iPS細胞及びES細胞等の多能性幹細胞の場合には、Nanog、SRY (sex determining region Y)-box 2(SOX2)、SSEA-1、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、OCT3/4等が例示される。MSCの場合には、CD29、CD44、CD71、CD73 (SH3/4)、CD90 (Thy-1)、CD105 (SH2)、CD106,CD166、Stro-1等が例示される。陰性マーカーも利用でき、MSCの陰性マーカーとして、CD11b、CD14、CD19、CD31、CD18、CD34、CD45、CD56、CD79α、HLA-DR等が例示される。

分化誘導段階における幹細胞の分化誘導は、本発明の培養基材1のハイブリッド周期構造4が形成された面上で行う。分化誘導段階では、本発明の培養基材1を用いて分化誘導することで、本発明の培養基材1上で、幹細胞は未分化性を維持する幹細胞の発生を抑制しつつ、効率的に目的の細胞に分化させることができる。

分化誘導のための方法は、幹細胞を目的の細胞へ分化させることができる限り、当該分野で公知の方法の何れをも用いることができる。例えば、分化誘導因子を含む分化誘導培地を用いて本発明の培養基材1上で細胞を培養することによって行うことができ、上記した本発明の培養基材1での未分化増殖段階の後、培地を分化誘導培地に切り替えることで目的とする分化細胞を得ることができる。また、未分化増殖段階又は分化誘導段階の一方のみを、本発明の培養基材1を利用して行うこともできる。

分化誘導因子は、分化を所望する細胞の種類や、分化させる幹細胞の分化階層等に応じて適宜選択することができる。分化誘導因子との接触時間等の誘導条件についても、目的細胞への分化誘導が起きる限りにおいて、限定されない。また、市販の分化誘導用試薬やキットを利用することができる。

例えば、iPS細胞及びES細胞等の多能性幹細胞の場合には、分化誘導因子を特定の時期、順序及び濃度で接触させることにより、胚葉を経由して特定系統の細胞に分化させていくことができる。例えば、多能性幹細胞に、アクチビン及び塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加することにより 中内胚葉、内胚葉を、骨形成タンパク質(BMP)を添加することにより中胚葉を分化できる。

MSCから脂肪細胞への分化誘導には、インシュリン、デキサメサゾン、3-イソブチル-1-メチルキサンチン(IBMX)、インドメタシン、3,3,5-トリヨードサイロニン(T3)等を用いることができる。骨細胞への分化には、デキサメタゾン、L-グルタミン、アスコルビン酸、β-グルセロリン酸等を用いることができる。軟骨細胞への分化には、デキサメサゾン、アスコルビン酸、ITS(インシュリン、トランスフェリン、セレニウム)等を用いることができる。神経細胞への分化には、β−メルカプトエタノール及びジメチルスルホキシド(DMSO)、フォルスコリンとbFGF等を用いることができる。骨格筋細胞への分化には、5-アザシチジン等を用いることができる。肝細胞への分化には、ITS、デキサメサゾン、肝細胞増殖因子(HGF)、オンコスタチン等を用いることができる。心筋細胞への分化には、Dickkoph-1(Dkk1)、インスリン様増殖因子結合タンパク質4(IGFBP-4)等を用いることができる。

具体的には、MSCから脂肪細胞への分化誘導を行う場合には、MSCが好ましくは80〜90%コンフルエントとなった時点で分化誘導を開始することができる。脂肪細胞分化誘導培地は、hMSC-BulletKitTM-脂肪細胞分化用 (Lonza、カタログ番号PT-3004)を使用し、製造業者の指示に従って脂肪細胞への分化誘導を行うことができる。このキットは、基本培地(Basal medium)、L-グルタミン、間葉系細胞増殖サプリメント(Mesenchymal cell growth supplement (MCGS))、デキサメタゾン、インドメタシン、3-イソブチル-1-メチル-キサンチン(IBMX )、GA-1000(ゲンタマイシン、アンホテリシンB)を含んで構成される。初期細胞蒔種密度は2.1×104細胞/cm2であることが好ましい。

MSCから軟骨細胞への分化を行う場合には、MSCが好ましくは100%コンフルエントとなった時点で分化誘導を開始することができる。軟骨細胞分化誘導培地は、hMSC-BulletKitTM-軟骨分化用 (Lonza、カタログ番号PT-3003)を使用し、製造業者の指示に従って軟骨細胞への分化誘導を行うことができる。このキットは、基本培地、L-グルタミン、デキサメタゾン、アスコルビン酸、ITS + supplement、ピルビン酸ナトリウム、プロリン、GA-1000(ゲンタマイシン、アンホテリシンB)を含んで構成される。初期細胞蒔種密度は5×105細胞/cm2であることが好ましい。

MSCから骨細胞への分化を行う場合には、MSCが好ましくは100%コンフルエントとなった時点で分化誘導を開始することができる。骨細胞分化誘導培地は、hMSC-BulletKitTM-骨芽分化用 (Lonza、カタログ番号PT-3002)を使用し、製造業者の指示に従って骨細胞への分化誘導を行うことができる。このキットは、基本培地、L-グルタミン、デキサメタゾン、アスコルビン酸、ITS + supplement、ピルビン酸ナトリウム、プロリン、間葉系細胞増殖サプリメント(MCGS)、β-グリセロホスフェート、ペニシリン/ストレプトマイシンを含んで構成される。初期細胞蒔種密度は3.1×105細胞/cm2であることが好ましい。

MSCから神経細胞への分化を行う場合には、MSCが好ましくは80〜90%コンフルエントとなった時点で分化誘導を開始することができる。神経細胞分化誘導培地は、間葉系幹細胞神経細胞分化培地(Mesenchymal Stem Cell Neurogenic Differentiation Medium、PromoCell、カタログ番号C-28015)を使用し、製造業者の指示に従って神経細胞への分化誘導を行うことができる。このキットは、基本培地、Supplement Mix((C-39815, PromoCell、カタログ番号(C-39815))を含んで構成される。初期細胞蒔種密度は5000細胞/cm2であることが好ましい。

幹細胞の目的とする細胞に分化したか否かは、細胞の形態の観察や、目的とする分化細胞に特有な分化確認用の分化マーカーの発現を確認することにより行うことができる。分化マーカーの発現確認は、当該技術分野で公知の方法を利用することができる。例えば、マーカー遺伝子の発現の検出には、Real time RT-PCR等を利用することができ、タンパク質マーカーの発現の検出には、マーカー特異的なポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を利用した免疫染色法や酵素活性測定法等を利用することができる。抗体を利用した免疫染色法としては、抗体蛍光染色法を好ましく利用することができる。ここで、抗体蛍光染色法は、抗原抗体反応を利用し、蛍光色素で標識した抗体を試料に取り込ませて染色を行う方法であり、抗原となる物質(分化マーカー)に対して高い特異性で染色を行うことができる。

具体的には、脂肪細胞への分化の確認はペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γ(PPARγ、(NR1C3、PPARGとも称する))、CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β (C/EBPβ)、脂肪酸結合タンパク質(FABP(aP2とも称する))、リポタンパクリパーゼ(LPL)等を利用することができる。軟骨細胞への分化の確認はSex determining region Y-type high mobility group box protein 9(SOX9)、アグリカン(Aggrecan)等を利用することができる。骨細胞への分化の確認は分泌性リン酸タンパク質1(SPP1、(オステオポンチン:OPNとも称する))、骨シアロタンパク質(BSP)、オステオカルシン(OCN)、アルカリフォスファターゼ(ALP)及び石灰能等を利用することができる。神経細胞への分化の確認は微小管関連タンパク質2(MAP2)、ネスチン、クラスIII βチューブリン(βIII-tubulin)等を利用することができる。

ここで、PPARγは、核内受容体スーパーファミリーに属するタンパク質であり、転写因子としても機能し、主に脂肪組織に分布して、前駆脂肪細胞からの脂肪細胞分化誘導に関与する。SOX9 は、未分化の間葉系細胞の凝集及びその後の軟骨細胞の分化過程において必須的な役割を果たしている。一方、SOX5及びSOX6は、SOX9により誘導され、三者は強調してII型コラーゲン等の軟骨特異的遺伝子の転写を誘導し、軟骨細胞への分化を決定づける。SPP1は、石灰化した骨マトリックスへの破骨細胞の付着に関与しており、骨芽細胞分化の前、中期に発現量が増加する。MAP2は、脊椎動物のニューロンに豊富に存在する微小管結合タンパク質である。MAP2は神経前駆細胞から分化すると発現し始め、成熟したニューロンでは軸索には殆ど存在せず樹状突起と細胞体にほぼ特異的に局在する。

本発明の培養基材1は、マイクロ周期構造2とナノ周期構造3からなるハイブリッド構造4が表面に同時に形成されており、それぞれ単独では若干の生体適合性及び生体細胞親和性の向上を示すのみであるが、両周期微細構造が共存することにより特段の生体適合性及び生体細胞親和性の向上が認められた。また、本発明の培養基材1は、幹細胞を、未分化性を維持した状態で効率よく増殖することができ、良質な幹細胞集団を安定して提供することが可能となる。また、本発明の培養基材1は、幹細胞の分化誘導への寄与が認められると共に、分化誘導因子に誘発される幹細胞の分化誘導を促進し、培養基材1の表面に形成されている周期微細構造と幹細胞の分化誘導方向が密接に関連していることから、幹細胞を所望の細胞に分化誘導することができる。

本発明の培養基材1の周期微細構造の形成は、例えば、超短パルスレーザーの走査により簡便に形成することができ、熱影響が少ないことから、大気中での加工が可能である等、作製への制約が少ないとの利点がある。これにより、本発明の培養基材1を簡便かつ低コストに作製することができる。また、本発明の培養基材1は、生体適合性及び生体細胞親和性が高いチタン材に周期微細構造を形成して作製できることから、更なる生体適合性及び生体細胞親和性の向上が期待できる。

このような特性を有する本発明の培養基材1は、幹細胞を利用する技術分野に好適に利用することができる。例えば、本発明の培養基材1上で幹細胞を培養することにより作り出された細胞、組織、器官を、開発候補薬の薬効評価や、薬物動態評価、安全性評価等の薬理試験や創薬スクリーニング、発生や分化や疾患メカニズムの解明、損なわれた臓器や器官の機能を回復させる再生医療や細胞治療に応用する等、創薬、生命科学や医療への貢献が期待される。再生医療の分野においては、例えば、軟骨細胞への分化は変形性関節症等に、腱細胞への分化は靭帯断裂症、骨細胞への分化は難治性骨折、人工関節、人工歯根等のインプラント、脂肪細胞は乳房の再形成、心筋細胞は狭心症、心筋梗塞等に利用することができる等、オーダーメード医療の発展に貢献することができる。

また、本発明の培養基材1に形成した周期微細構造が分化誘導に寄与することが認められたことから、培養基材1上に形成する周期微細構造パターンを適切に制御することにより、複数の細胞を同時に分化誘導することが可能となり、複数種の細胞が組織的に配列、構築され、高い機能性を有する臓器や器官の再生に本発明の培養基材1を応用することも可能となる。

以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例1〜10では、マイクロ周期構造2としてマイクロメートルオーダーの周期溝2aを形成し、その上にナノ周期構造3としてナノメートルオーダーの周期溝3aを上書き形成したハイブリッド周期溝4a構造を有する異方性の培養基材1を作製し、間葉系幹細胞を用いて骨細胞及び軟骨細胞への分化誘導を行った例を開示する(I)。実施例11〜12では、マイクロ周期構造2としてマイクロメートルオーダーの周期格子溝2bを形成し、その上にナノ周期構造としてナノメートルオーダーの周期突起3bを上書き形成したハイブリッド周期格子溝+周期突起4b構造を有する等方性の培養基材1を作製し、間葉系幹細胞を用いて骨細胞、軟骨細胞、神経細胞、及び脂肪細胞への分化誘導を行った例を開示する(II)。しかしながら、本発明は、これに限定するものではない。

I.ハイブリッド周期溝4aを形成した培養基材1での検討 〔実施例1〕培養基材1の作製検討(予備検討) 1.概要 本実施例では、生体適合性向上を示す培養基材を構築するため、周期微細構造を表面に形成した培養基材の作製について検討した。

チタンは、生体に埋入した際にも、免疫反応を起こすことが少ないことから人工関節や人工歯根をはじめとするインプラント材として汎用されている。しかしながら、チタン材料の軟組織への適合性は未だに検討が進んでいない分野であり、不適合によるインプラントの摘出等が生じること等が報告されている。そこで、本実施例では、周期微細構造形成による生体適合性向上の可能性を探るべく、レーザー加工により周期微細構造を表面に形成した培養基材の作製について検討した。本実施例では予備検討を行った。

具体的には、幅5〜10μm、深さ1μm、ピッチ10〜20μmのマイクロメートルオーダーの溝を周期的に配列させた構造(以下、「マイクロ周期溝」と称する場合がある)、幅(成り行き)、深さ(成り行き)、ピッチ(<1μm)をナノメートルオーダーに形成した溝を周期的に配列させた構造(以下、「ナノ周期溝」と称する場合がある)、上記マイクロ周期溝とナノ周期溝を複合させた構造(以下、「ハイブリッド周期溝」と称する場合がある)をチタン板表面に形成することを検討した。

2.材料及び方法 2−1.基板 培養基材作製のための基板として、鏡面研磨したJIS2種チタン板(φ14mm×1mm、又はφ8×1mmの片面研磨品)を用いた。チタン素材は株式会社ティ・ディ・シー(宮城県宮城郡利府町飯土井長者前24-15)からグレード2の純チタン丸棒より切り出し鏡面としたものを購入した。

2−2.レーザー 基板表面に周期微細構造を形成するためのレーザーとして、フェムト秒レーザーを使用した。フェムト秒レーザーとして、イムラアメリカ社製のFCPA μJewel D-1000、(以下、「D-1000」と称する)若しくはFCPA μJewel 試験レーザー(以下、「試験レーザー」と称する)を用いた。各レーザーの詳細を下記表1に要約する。

3.結果 チタン板に、D-1000フルパワーのシングルパルスを入力した結果、加工痕が、直径2μm程度の略円形で周囲に飛散してゆくようなバリが生じているように見受けられた。同じ照射条件でステージの移動速度を下げ、パルスが重なるようにしたところ、加工痕が、融液の液面が叩かれて飛散したような形状を呈した。これらの結果より1.2Wの入力では非熱加工が成立しておらず、少なくとも10μs程度の間は融液のような状態で存在していると考えられた。同様な傾向がナノ周期溝構造の形成に際しても認められたことから、チタンに対する非熱加工が成立する閾値の検討を行った。

試験レーザー(SHG)のフルエンスをパラメーターとして加工状態を比較した(1.00J/cm2、0.64J/cm2、0.32J/cm2、0.16J/cm2)。個々の加工痕を分離するためガルバノスキャナによるシングルスキャン加工によるものであるが、上限〜0.32J/cm2までは溶けかけたような構造形成が認められた。一方、0.16J/cm2では加工痕は表面の皮膜が部分的に剥離したような状態を示していた。

試験レーザー(SHG)の0.16J/cm2で非熱加工が成立しているかを確認するため、同一箇所の繰返し掃引を試みた。その結果、V字の溝と壁面へのナノ周期溝の構造形成が認められ、構造に溶融した際に見られるダレ等が認められなかった。これは一般的な非熱加工の特徴を示している。このことから、非熱加工の成立する閾値は存在するが極めて低いフルエンスで飽和し熱加工モードに移行すると考えられた。

これらの結果を鑑みると、マイクロ周期溝構造の加工を行うためには極めて小さい入力で掃引加工を行い、所定深さになる回数を見極める必要があると考えられた。また、試験レーザー(SHG)での閾値は0.20J/cm2程度と考えられた。

ナノ周期溝の形成条件について、D-1000(基本波)、及び試験レーザー(SHG)で検討した。試験レーザー(SHG)による形成では、一般論としてナノ周期溝構造の周期は波長の7〜8割として想定されているのに対し、波長の約1/3である概ね150nmで形成された。熱影響が排除できる程度までフルエンスを低下させると、一回のスキャンで加工できる幅が1μm程度と狭く、入力範囲内に形成できている部分と形成されていない部分が共存している等、安定条件とするには課題が多いことが判明した。

基本波による閾値検討をSHGと同様に行った結果、閾値として1.50J/cm2を得た。SHGと値が異なるのは、チタンに対する線形吸収率の差により、基本波では熱に転化するエネルギー量が小さいことが理由であると推定する。D-1000(基本波)による形成では、入力波長の7〜8割のナノ周期溝状の構造が形成され、形成範囲も広く安定していた。

以上の予備検討の結果より、波長520nmのレーザーによっては、チタン材料への安定的な加工は現段階では困難であると判断し、以下の実施例においては波長1040nmの基本波のレーザーを使用することとした。

〔実施例2〕培養基材の作製検討(レーザー加工条件の設定) 1.概要 本実施例では、実施例1の予備検討の結果を受け、加工の閾値検討を形状調整と共に行い、レーザー加工条件を設定した。

2.加工条件の設定 加工条件設定後のパラメーターを下記表2に示す。上記実施例1の予備検討結果を受け、基本波のレーザーでの条件設定を行った。

3.結果 上記加工条件での加工表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像、レーザー顕微鏡による深さ観察結果、断面のSEM像を図1〜9に示す。

図1〜3は、それぞれマイクロ周期溝の加工表面SEM像、深さ観察結果、断面SEM像を示す。マイクロ周期溝の作製条件で、光学素子としてλ/4波長板を使用した理由は、加工面へのナノ周期構造形成による異方性が生じるのを防ぐためで、直線偏光の畝状のナノ周期構造が図1の加工面底部のような突起状のナノ周期構造に変化する。しかしながら傾斜面への入力に際しては円偏光が楕円化して異方性を生じることが防げないため、加工エッジ部分に畝状の構造が生じてしまっている。回折光学素子(DOE)を使用したのはガウシアンビームのピーク強度を非熱加工閾値以下に抑えつつ加工幅を稼ぐことが困難であるため、ビーム強度を面全体で平均化した。加工結果としては幅、深さ、ピッチ共に要求を満たすものを提供することができた。しかしながら、DOEを使用した関係で焦点から外れた位置ではトップハットの形状が変わるため注意が必要である。

図4〜6は、それぞれナノ周期溝の加工表面SEM像、深さ観察結果、断面SEM像を示す。ナノ周期溝の作製条件で、光学素子としてλ/2波長板を使用している理由は、ハイブリッド周期溝を作製する際にナノ周期溝の畝の向きをマイクロ周期溝の向きと揃える必要があるためである。加工結果としては溝ピッチ平均0.7μm程度のものが提供できた。

図7〜9は、それぞれハイブリッド周期溝の加工表面SEM像、深さ観察結果、断面SEM像を示す。ハイブリット周期溝の形成は、マイクロ周期溝形成後に、ナノ周期溝を上書きする手順で行った。加工結果としては、マイクロ周期溝とナノ周期溝の特徴が両立するものとなっており、マイクロ周期溝とナノ周期溝の方向も概ね一致したものを形成できた。溝深さについてのみ、マイクロ周期溝のものより浅くなっており、ナノ周期溝形成過程で緩みがでたものと考えられる。

〔実施例3〕生体細胞親和性験(細胞密度の算出) 1.概要 本実施例では、上記実施例2で設定した加工条件を基に周期微細構造を表面に形成した培養基材について、生体細胞親和性試験を行った。本実施例では、生体細胞親和性は細胞密度の観点から評価した。

2.材料及び方法 2−1.培養基材 実施例1及び2と同様、片側鏡面研磨した医療用チタン板(φ8mm×1mm)を基板として用いて、上記実施例2で設定した条件に基づいてフェムト秒レーザーD-1000によりマイクロ周期溝2a、ナノ周期溝3a、及びハイブリッド周期溝4aを基板表面に形成した培養基材1を作製した。本実施例で作製した培養基材1を図10に模式的に示す。

2−1−1.マイクロ周期溝を基板表面に形成した培養基材 マイクロ周期溝を、フェムト秒レーザー光を上記医療用チタン板表面に照射しつつ走査することで、形成した(フルエンス:1.4J/cm2、走査速度:300mm/秒、走査回数:14回、偏光:円偏光)。この結果、幅6μm、深さ1μm、ピッチ12μmのマイクロ周期溝を形成した。ここで、ピッチとは、溝の長手方向に直交する方向における凹凸の一周期分の長さを意味し、溝幅6μmであるので、未加工部の幅は6μmとなる。

2−1−2.ナノ周期溝を基板表面に形成した培養基材 ナノ周期溝を、フェムト秒レーザー光を上記医療用チタン板表面に照射しつつ走査することで、形成した(フルエンス:3.2J/cm2、走査速度:500mm/秒、走査回数:1回、偏光:直線偏光)。この結果、深さ0.2μm、ピッチ0.5〜0.8μmのナノ周期溝を形成した。

2−1−3.ハイブリッド周期溝4aを基板表面に形成した培養基材1 マイクロ周期溝2aとナノ周期溝3aを共存させたハイブリッド周期溝4aを、フェムト秒レーザー光を上記医療用チタン板表面に照射しつつ走査することで、形成した。走査回数を20回にする以外は上記2−1−1.に記載の手順でマイクロ周期溝2aを形成した後に、上記2−1−2.に記載の手順でナノ周期溝3aを上書きした。ナノ周期溝は、偏光方位を走査方向に直交させた。この結果、溝の幅6μm、深さ1μm、ピッチ12μmのマイクロ周期溝2a上に、深さ0.2μm、ピッチ0.5〜0.8μmのナノ周期溝3aが形成されたハイブリッド周期溝4aを有する培養基材1が作製された。

2−1−4.コントロール コントロールとして、鏡面研磨した医療用チタン板にレーザー加工を施さずにそのまま使用した(以下、「鏡面」と称する場合もある)。

2−2.細胞 ヒトMSC(hMSC 間葉系幹細胞、Lonza、カタログ番号PT-2501)を用いた。

3.試験方法 上記各培養基材を70%エタノール中に20分間浸漬し滅菌した後、蒸留にて3回洗浄を行った。洗浄後、培養基材を12ウェル細胞培養プレートのウェル底面に静置し、培地を添加し培養基材を培地中に浸漬した。培地中に浸漬した各培養基材に、MSCを播種し6時間培養した。

このとき、細胞の初期蒔種密度は、5000/cm2であった。培地は、MSCGMTM BulletKitTM(Lonza、カタログ番号PT-3001)を使用した。このキットは、間葉系幹細胞基本培地にSingleQuotsTM 増殖サプリメントを加えたもの(Mesenchymal stem cell basal medium plus Single QuotsTM of growth supplements)であり、基本培地(Basal medium、Lonza、カタログ番号PT-3238)、間葉系細胞増殖サプリメント(Mesenchymal cell growth supplement (MCGS)、Lonza、カタログ番号PT-4105)、L-グルタミン、GA-1000(ゲンタマイシン、アンホテリシンB)を含んで構成される。

培養後、各培養基材から細胞を剥離し、細胞を収集し、細胞数をCell Counting Kit-8(CCK-8)を用いて測定した。具体的には、CCK-8溶液での呈色反応後、マイクロプレートリーダーを用いて450 nm(参照波長:630 nm)の吸光度を測定し、各培養基材に付着した細胞数を算出した。

4.結果 結果を図11のグラフに示す。コントロール(鏡面)の培養基材、マイクロ周期溝を形成した培養基材、ナノ周期溝を形成した培養基材、マイクロ周期溝2aとナノ周期溝3aが共存したハイブリッド周期溝4aを形成した培養基材1の、何れの培養基材を用いた場合においても培養基材に付着した細胞密度の相違は観察されなかった。

〔実施例4〕生体細胞親和性試験(細胞形態の観察) 1.概要 本実施例では、上記実施例2で設定した加工条件を基に実施例3にて作製した周期微細構造を表面に形成した各培養基材について、生体細胞親和性試験を行った。本実施例では、生体細胞親和性は細胞形態の観点から評価した。

2.試験方法 上記実施例3と同様にして、各培養基材にMSCを播種し6時間培養した。培養終了後、培地から取り出した培養基材をホルマリン処理して固定化した。続いて、免疫蛍光染色を行い、細胞の形態を蛍光顕微鏡で観察を行った。

免疫蛍光染色は、以下の手法で行った。 a.細胞骨格の染色 細胞骨格は、ローダミン標識したファロチジン(phalloidin-rhodamine)によるF-アクチン染色により観察した。ここで、アクチンは、螺旋状の多量体を形成してマイクロフィラメントの1種であるアクチンフィラメントを形作る。アクチンフィラメントは、細胞内部で3次元の繊維状構造を作る3つの細胞骨格であるアクチンフィラメント、微小管、中間径フィラメントの中では最も細く、細胞の形を決定していることから、アクチンを染色することにより細胞骨格の構造を確認することができる。

b.細胞核の染色 細胞核は、4′,6-ジアミジノ-2-フェニリンドール・ジヒドロクロライド(DAPI)で染色し観察した。

c.接着斑の染色 接着斑は、ビンキュリンの染色により観察した。接着斑は、細胞が他の細胞や基質接着に接着する構造の1種で、細胞結合の大枠の中の1つの接着装置に分類される。

d.マージ 上記a〜cの染色を併せたものである。

3.結果 結果を図12〜15に示す。図12はコントロール(鏡面)の培養基材、図13はマイクロ周期溝を形成した培養基材、図14はマイクロ周期溝2aとナノ周期溝3aが共存したハイブリッド周期溝4aを形成した培養基材1、図15はナノ周期溝を形成した培養基材での結果を示す。コントロールでは、MSCの細胞形態は特に方向性を有しなかったが、マイクロ周期溝を形成した培養基材、ナノ周期溝を形成した培養基材及びハイブリッド周期溝4aを形成した培養基材1では方向性を有して伸張が認められる結果が得られた。特に、ハイブリッド周期溝4aを形成した培養基材1では、特異的に1方向への長い伸張が認められるとの結果が得られた。かかる結果より、ハイブリッド周期溝4aを形成した培養基材1上ではMSCは生物活性が高い状態で維持され、生体細胞親和性が他の培養基材よりも高いことが理解できる。この理由としては、本発明の培養基材1の微細構造が、細胞骨格分子が形成する仮足に好適に適合し、細胞接着の際の好適な足場を提供しているものと考えられる。

〔実施例5〕培養基材上でのMSCの未分化性の確認 1.概要 本実施例では、上記実施例2で設定した加工条件を基に実施例3にて作製した周期微細構造を表面に形成した培養基材上に播種したMSCが未分化状態のMSCとして維持されていることを確認した。再生医療や創薬スクリーニング等に利用可能な十分な量の分化細胞を提供するためには、良質な幹細胞集団を安定して提供することが必要である。そのためには幹細胞を未分化性を維持した状態で効率よく増殖できることが要求される。

培養基材上に播種したMSCが未分化状態でMSCとして維持されていることの確認は、MSCの細胞形態、MSC特異表面抗原の発現、及び分化能(例えば、骨細胞や軟骨芽細胞等への分化)を確認することにより行うことができる。本実施例は、MSC特異表面抗原の発現をもって確認した。

2.試験方法 上記各培養基材上で培養したMSCが、未分化状態を維持している否かをMSC特異表現抗原の発現をもって確認した。MSCは、CD44陽性(CD44+)、CD73陽性(CD73+)、CD90陽性(CD90+)、CD105陽性(CD105+)、CD34陰性(CD34-)、及びCD45陰性(CD45-)の表現型を示す。そこで、各培養基材上で培養したMSCが、上記表現型を有するか否かを確認した。TCPSについても同様に処理し、特異表面抗原の表現型を確認した。

実施例3と同様にして、各培養基材にMSCを播種し48時間培養した。培養終了後、細胞表面抗原CD44、CD73、CD90、CD105、CD34、及びCD45の発現を解析した。このとき、MSCが未分化性を維持したままであることが確認されている組織培養用ポリスチレン(TCPS)上で培養したものについて、同様に上記細胞表面抗原の発現を解析した。

細胞表面抗原の発現解析は、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(Real time RT-PCR)遺伝子解析法で行った。具体的には、培養終了後の細胞からtotal RNAを抽出し、逆転写反応によりRNAからcDNAを合成した。続いて、合成したcDNAを鋳型としてRCRを行った。本方法は、実験の目的に応じて最適な逆転写用プライマーを選択し、合成したcDNAからPCRにより複数種類の遺伝子を検出できる。また、逆転写反応には、遺伝子特異的プライマーを用いるため、特定遺伝子を高感度に検出することができる。

ここでは、遺伝子特異的プライマーを、アメリカハーバード大学メディカルスクールのプライマーバンク(http://pga.mgh.harvard.edu/primerbank/)を利用し、デザインした。デザインしたプライマーをグライナー社bio-oneに依頼し作成した。表3に、本実施例で使用した遺伝子特異的プライマーの配列情報を要約する。また、コントロールとしてGAPDHの発現量を測定し、GAPDHの発現量を指標として各表現型の発現量を算出した。

3.結果 結果を図16のグラフに示す。コントロール(鏡面)の培養基材、マイクロ周期溝を形成した培養基材、ナノ周期溝を形成した培養基材、マイクロ周期溝2aとナノ周期溝3aが共存したハイブリッド周期溝4aを形成した培養基材1上で培養したMSCは、TCPSと同様、何れもCD44+、CD73+、CD90+、CD105+、CD34-、及びCD45-のMSCの特有の表現型を示すことが確認された。何れの培養基材においても、MSCは未分化状態を維持していることが理解できる。

〔実施例6〕培養基材上でのMSCの分化誘導解析(分化マーカーでの確認) 1.概要 本実施例では、上記実施例2で設定した加工条件を基に実施例3にて作製した周期微細構造を表面に形成した培養基材上でのMSCの分化誘導について検討した。本実施例では、MSCの骨細胞、軟骨細胞への分化誘導について検討し、分化マーカーをもって分化誘導状態を確認した。

2.試験方法 2−1.分化誘導 上記各培養基材上で培養したMSCを、72時間(上記した所望のコンフルエント(骨細胞、軟骨細胞への分化の場合には100%コンフルエント)となるまで)増殖培地で培養した後、72時間分化誘導培地で培養することにより分化誘導をした。ここで、増殖培地としては実施例3の培地を使用し、4継代目のMSCを分化誘導した。分化誘導方法の詳細は以下の通りである。

2−1−1.骨細胞への分化誘導 骨細胞への分化を行う場合には、MSCが好ましくは100%コンフルエントとなった時点で分化誘導を開始する。骨細胞分化誘導培地は、hMSC-BulletKitTM-骨芽分化用 (Lonza、カタログ番号PT-3002)を使用し、製造業者の指示に従って骨細胞への分化誘導を行うことができる。このキットは、基本培地、L-グルタミン、デキサメタゾン、アスコルビン酸、ITS + supplement(hMSC-BulletKitTM-軟骨分化用 (Lonza、カタログ番号PT-3003)に含まれる)、ピルビン酸ナトリウム、プロリン、間葉系細胞増殖サプリメント(MCGS)、β-グリセロホスフェート、ペニシリン/ストレプトマイシンを含んで構成される。初期細胞蒔種密度は3.1×105細胞/cm2であることが好ましい。

2−1−2.軟骨細胞への分化誘導 軟骨細胞への分化を行う場合には、MSCが好ましくは100%コンフルエントとなった時点で分化誘導を開始する。軟骨細胞分化誘導培地は、hMSC-BulletKitTM-軟骨分化用 (Lonza、カタログ番号PT-3003)を使用し、製造業者の指示に従って軟骨細胞への分化誘導を行うことができる。このキットは、基本培地、L-グルタミン、デキサメタゾン、アスコルビン酸、ITS + supplement、ピルビン酸ナトリウム、プロリン、GA-1000(ゲンタマイシン、アンホテリシンB)を含んで構成される。初期細胞蒔種密度は5×105細胞/cm2であることが好ましい。

2−2.分化誘導の確認 培養後、MSCでは発現せず、骨細胞、軟骨細胞特異的に発現する分化マーカーを解析することにより、分化誘導を確認した。分化マーカーとしては、骨細胞への分化の確認はSPP1を、軟骨細胞への分化の確認はSOX9を用いた。実験はN=3で行った。

細胞の分化マーカーの発現解析は、実施例5と同様に、Real time RT-PCR遺伝子解析法で行った。具体的には、分化誘導後の細胞からtotal RNAを抽出し、逆転写反応によりRNAからcDNAを合成した。続いて、合成したcDNAを鋳型としてRCRを行った。

ここでは、遺伝子特異的プライマーを、アメリカメリカハーバード大学メディカルスクールのプライマーバンク(http://pga.mgh.harvard.edu/primerbank/)を利用し、デザインした。デザインしたプライマーをグライナー社bio-oneに依頼し作成した。表4に、本実施例で使用した遺伝子特異的プライマーの配列情報を要約する。また、コントロールとして、実施例5と同様にGAPDHの発現量を測定した。

3.結果 結果を図17のグラフに示す。その結果、ハイブリッド周期溝4aを形成した培養基材1では、MSCの骨細胞及び軟骨細胞への分化が、コントロール、他のマイクロ周期溝を形成した培養基材及びナノ周期溝を形成した培養基材に比べて分化マーカーの発現レベルが高かった。このことから、ハイブリッド周期溝4aは、MSCの骨細胞分化能及び軟骨細胞分化能を促進することが理解できる。

〔実施例7〕培養基材上でのMSCの分化誘導(蛍光顕微鏡観察での確認) 1.概要 本実施例では、実施例6に続き、上記実施例2で設定した加工条件を基に実施例3にて作製した周期微細構造を表面に形成した培養基材上でのMSCの分化誘導について検討した。本実施例では、MSCの骨細胞及び軟骨細胞への分化誘導について検討し、細胞形態の蛍光顕微鏡観察により分化誘導状態を確認した。

2.試験方法 2−1.分化誘導 上記各培養基材上で培養したMSCを、72時間(上記した所望のコンフルエント(骨細胞、軟骨細胞への分化の場合には100%コンフルエント)となるまで)増殖培地で培養した後、48時間分化誘導培地で培養することにより、実施例6と同様にして分化誘導をした。

2−2.分化誘導の確認 培養後、細胞形態を蛍光顕微鏡で観察することにより、分化誘導を確認した。分化誘導を行わない増殖培地のみで培養した細胞についても、同様に細胞形態を蛍光顕微鏡で観察した。

3.結果 結果を図18に示す。増殖培地のみの場合との比較で、骨細胞分化誘導培地で培養した場合及び軟骨細胞分化誘導培地で培養した場合に、コントロール、マイクロ周期溝を形成した培養基材、ナノ周期溝を形成した培養基材に比べて、ハイブリッド周期溝4aを形成した培養基材1の、何れの培養基材においても細胞形態の変化が認められた。これにより、MSCが分化誘導されていることが理解できる。

〔実施例8〕培養基材上でのMSCの分化誘導解析(抗体蛍光染色での確認) 1.概要 本実施例では、実施例6及び7に続き、上記実施例2で設定した加工条件を基に実施例3にて作製した周期微細構造を表面に形成した培養基材上でのMSCの分化誘導について検討した。本実施例では、MSCの骨細胞及び軟骨細胞への分化誘導について検討し、分化マーカーを利用した細胞の抗体蛍光染色により確認した。

2.試験方法 2−1.分化誘導 上記各培養基材上で培養したMSCを、72時間72時間(上記した所望のコンフルエント(骨細胞、軟骨細胞への分化の場合には100%コンフルエント)となるまで)増殖培地で培養した後、所定時間分化誘導培地で培養することにより、実施例5と同様にして分化誘導をした。骨細胞への分化は上記骨細胞分化誘導培地中で14〜21日間培養することにより、軟骨細胞への分化は上記軟骨細胞分化誘導培地中で17〜21日間培養することにより行った。

2−2.分化誘導の確認 培養後、MSCでは発現せず、骨細胞、軟骨細胞にそれぞれ特異的に発現する分化マーカーを抗体蛍光染色法により解析することにより、分化誘導を確認した。骨細胞への分化は抗オステオポンチン抗体、軟骨細胞への分化は抗アグリカン抗体を用いた。抗体の検出は、二次抗体を用いた蛍光免疫染色により行った。

蛍光試薬としては以下のものを使用した。 a.一次抗体 a−1.骨芽胞に対する抗体 Anti-Osteocalcin antibody(GNT ジーンテックス (GENETEX, Inc.)、カタログ番号GTX39512) a−2.軟骨細胞に対する抗体 Anti-Aggrecan, Rabbit-Poly <Anti-ACAN>(GNT ジーンテックス (GENETEX, Inc.)、カタログ番号GTX113122) b.二次抗体 Alexa Fluor(登録商標)488 goat-anti-mouse lgG(Alexa Fluor、カタログ番号A11001)

検出手法は、具体的には、サンプルの培養基材上の細胞に、十分量の一次抗体染色溶液を添加して覆い、1時間室温でインキュベートを行った。反応後、サンプルから一次抗体染色溶液を除去し、PBSで3回洗浄を行った。続いて、十分量の二次抗体染色溶液をサンプルに添加して覆い、30分〜1時間室温でインキュベートを行った。反応後、PBSで3回洗浄し、蛍光顕微鏡で細胞の観察を行った。

分化誘導を行わない増殖培地のみで培養した細胞についても、同様に蛍光染色を行い、蛍光顕微鏡で観察した。

3.結果 結果を図19に示す。コントロール、マイクロ周期溝を形成した培養基材、ナノ周期溝を形成した培養基材、ハイブリッド周期溝4aを形成した培養基材1の、何れの培養基材においても、増殖培地のみの場合との比較で、骨細胞分化誘導培地で培養した場合及び軟骨細胞分化誘導培地で培養した場合に、骨細胞及び軟骨細胞由来の蛍光を観察できた。特にハイブリッド周期溝4aを形成した培養基材1で培養すると、誘導細胞の増殖が特に認められた。

〔実施例9〕MSCの骨への分化誘導評価(アルカリフォスファターゼ活性の測定) 1.概要 本実施例では、実施例6〜8の結果を受け、MSCの骨への分化誘導について詳細に検討した。MSCは、前駆細胞を経て骨芽細胞に分化するが、この分化過程において、初期にはアルカリフォスファターゼ(以下、「ALP」と称する)が発現し、引き続いて骨に特異的なオステオカルシン等の発現みられるようになる。本実施例では、前駆細胞から骨芽細胞への分化の初期に発現するALP活性を測定することで、MSCの骨への分化誘導を評価した。

2.試験方法 上記各培養基材上で培養したMSCを、72時間(上記した所望のコンフルエント(骨細胞への分化の場合には100%コンフルエント)となるまで)増殖培地で培養した後、10日間分化誘導培地で培養することにより、実施例5と同様にしてMSCを骨に分化誘導をした(N=2)。ALP活性の測定は、LabAssayTMALPキット(和光純薬工業株式会社、カタログ番号PT-2501)を用いて行った。

測定原理について簡単に説明すると、p-ニトロフェニルりん酸を含む炭酸塩緩衝液(pH9.8)中で検体を作用させると、検体中のALPにより p-ニトロフェニルりん酸はp-ニトロフェノールとりん酸に分解され、生成した p-ニトロフェノールはアルカリ性側で黄色を呈する。この 405nm の吸光度を測定することにより、検体中 のALP活性値を求めることができる。

具体的には、分化誘導後、細胞培養プレートのウェル内の培養培地を吸引し、PBSで2回洗浄を行った。500μlの氷冷PBS中で細胞を掻き集め、微量遠心チューブに移し、遠心分離(3000×gで15分間)により細胞を回収した。上清を慎重に取り除き、細胞を氷冷した超音波破砕用50 mM Tris-HCl溶液に再懸濁し細胞懸濁液を得て、これを10分間氷冷した。続いて、細胞懸濁液を氷冷したまま10秒間超音波処理し、20秒間冷却する操作を10回程度繰り返した。超音波処理後、遠心分離(20,000×gで20分間)により細胞残屑を沈殿させ、可溶性部分をALP活性の測定のサンプルとした。

可溶性部分20 μLを96ウェルプレートのウェル内に移し、基質緩衝液(キットに含まれる)を100 μLずつ分注した。続いて、96 ウェルプレートを約1分間攪拌し、直ちに37℃で15分間インキュベートした。インキュベート後、直ちに反応停止液(キットに含まれる)を各ウェルに80 μLずつ分注し、96ウェルプレートを1分間攪拌した。405 nmの吸光度をマイクロプレートリーダーにより測定した。

ALP活性の算出は、pH9.8 37℃で、1 分間に 1 nmolの p-ニトロフェノールを生成する酵素活性を 1ユニット として、下記数式に基づいて計算した。

〔数1〕 活性 (ユニット/μL) = C/15×a C: 標準曲線から得られる吸光度(A テスト−A ブランク)に対するp-ニトロ フェノール濃度。(mmol/L = nmol/μL) 15: 反応時間(分) a: 検体の希釈倍数

TCPSについても同様に処理し、ALP活性を測定した。

3.結果 結果を図20のグラフに示す。 コントロール、マイクロ周期溝を形成した培養基材、ナノ周期溝を形成した培養基材に比べて、ハイブリッド周期溝4aを形成した培養基材1上で分化させた細胞の方が、ALP活性が高かった。従って、ハイブリッド周期溝4aを形成した培養基材1は、MSCの骨細胞への分化誘導を促進する可能性があると理解できる。

〔実施例10〕MSCの骨への分化誘導評価(石灰化能の評価) 1.概要 本実施例では、実施例9に続き、MSCの骨への分化誘導について詳細に検討した。実施例7はALP活性により分化誘導評価を行ったが、ALPは、上記の通り前駆細胞から骨芽細胞への分化の初期に高く発現するものである。骨芽細胞、それに続く骨細胞への分化が進行している場合にはALP活性が低くなる。実施例10においては、石灰化能による評価も行った。骨芽細胞は骨形成を担う細胞であり、骨基質蛋白合成と基質小胞を介した石灰化を誘導する。一方、骨芽細胞は自ら産生した骨基質に埋まり骨細胞へと分化を成し遂げる。

2.試験方法 上記各培養基材上で培養したMSCを72時間(上記した所望のコンフルエント(骨細胞への分化の場合には100%コンフルエント)となるまで)増殖培地で培養した後、10日間分化誘導培地で培養することにより、実施例5と同様にしてMSCを骨に分化誘導をした(N=2)。石灰化能の評価はカルシウム量を測定することによって行なった。

カルシウム量の測定は、Calcium Colorimetric Assay Kit(BioVision Inc.、カタログ番号K380-250)により行った。具体的には、分化誘導後、細胞培養プレートのウェル内の培養培地を吸引し、PBSで2回洗浄を行った。500μlの氷冷PBS中で細胞を掻き集め、微量遠心チューブに移し、遠心分離(3000×gで15分間)により細胞を回収した。上清を慎重に取り除き、細胞を氷冷した超音波破砕用50 mM Tris-HCl溶液に再懸濁し細胞懸濁液を得て、これを10分間氷冷した。続いて、細胞懸濁液を氷冷したまま10秒間超音波処理し、20秒間冷却する操作を10回程度繰り返した。超音波処理後、遠心分離(20,000×gで20分間)により細胞残屑を沈殿させ、可溶性部分をカルシウム量測定のサンプルとした。

可溶性部分50 μLを96ウェルプレートのウェル内に移し、Chromogenic Reagent(キットに含まれる)を90 μLずつ分注し、96 ウェルプレートを攪拌した。続いて、Calcium Assay Buffer(キットに含まれる)を60 μLずつ分注し、96 ウェルプレートを攪拌した。遮光し、室温で10 分間インキュベートを行った後、575 nmの吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。

カルシウム量は、標準曲線(標準曲線作成のための試薬はキットに含まれる)から得られる吸光度(A テスト−A ブランク)に対するカルシウム量(μg/μL)として算出した。

TCPSについても同様に処理し、カルシウム量を測定した。

3.結果 結果を図21のグラフに示す。コントロール、マイクロ周期溝を形成した培養基材に比べて、ナノ周期溝を形成した培養基材、及びハイブリッド周期溝4aを形成した培養基材1上で分化させた細胞の方がカルシウム量が高かった。従って、ハイブリッド周期溝4aを形成した培養基材1及びナノ周期溝を形成した培養基材は、石灰化を促進しMSCの骨細胞への分化誘導を促進する可能性があることが理解できる。

II.ハイブリッド周期格子溝+周期突起4bを形成した培養基材1での検討 〔実施例11〕培養基材1の作製検討 1.概要 本実施例では、MSCの分化誘導効果と培養基材1の表面微細構造との関係性をさらに検討するため上記Iの項の実施例1〜10で検討した培養基材1とは異なる周期微細構造を表面に形成した培養基材1の作製について検討した。

2.材料及び方法 2−1.培養基材 片面鏡面研磨した医療用チタン材(φ14mm×1mm)を基板として用いてフェムト秒レーザーD-1000を用いて、以下で説明する周期微細構造を基板表面に形成した培養基材1を作製した。ここで、用いたフェムト秒レーザーD-1000は、実施例1で用いたものであり、出力1.2 W、パルス幅400 fs、繰り返し周波数100 kHzのものを用いた。

2−1−1.マイクロメートルオーダーの周期格子溝(等方性)を基板表面に形成した培養基材(比較例) マイクロメートルオーダーの周期格子溝(以下、「マイクロ周期格子溝」と称する場合がある)を、フェムト秒レーザー光を上記医療用チタン板表面に照射しつつ縦横にそれぞれ走査することで、形成した(フルエンス:0.7 J/cm2、走査速度:300 mm/秒、走査回数:14回、偏光:円偏光)。この結果、幅6 μm、深さ0.6 μm、ピッチ12 μmの周期格子溝を形成した(1)。作製されたマイクロ周期格子溝を基板表面に形成した培養基材の加工表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図22に示す。なお、格子溝に囲まれた領域に認められ粗面はレーザー加工の際に発生したデブリであり、加工痕でない。

2−1−2.マイクロ周期溝(異方性)を基板表面に形成した培養基材(比較例) マイクロ周期溝を、フェムト秒レーザー光を上記医療用チタン板表面に照射しつつ走査することで、形成した(フルエンス:0.7 J/cm2、走査速度:300 mm/秒、走査回数:14回、偏光:円偏光)。この結果、幅6 μm、深さ0.6 μm、ピッチ12 μmの周期溝を形成した(2)。

2−1−3.ナノ周期溝(異方性)を基板表面に形成した培養基材(比較例) ナノ周期溝を、フェムト秒レーザー光を上記医療用チタン板表面に照射しつつ走査することで、形成した(フルエンス:0.8J/cm2、走査速度:500 mm/秒、走査回数:1回、偏光:直線偏光)。この結果、深さ0.2 μm、ピッチ0.7 μmの周期溝を形成した(3)。

2−1−4.ハイブリッド周期格子溝+周期突起4b(等方性)を基板表面に形成した培養基材1(実施例) 当該培養基材1は、マイクロ周期格子溝2bとナノメートルオーダーの周期突起3b(以下、「ナノ周期突起」と称する場合がある)とを共存させたハイブリッド周期格子溝+周期突起4bを基板表面に形成した培養基材1であり、フェムト秒レーザー光を上記医療用チタン板表面に照射しつつ走査することで、形成した。走査回数を20回にする以外は上記2−1−1.に記載の手順でマイクロ周期格子溝2bを形成した後に、ナノ周期突起3bを上書きした。ナノ周期突起3bは、フルエンス0.8 J/cm2、走査速度:500 mm/秒、走査回数:1回、偏光:円偏光にて行った。この結果、溝の幅6 μm、深さ0.6 μm、ピッチ12μmのマイクロ周期格子溝2bと、径0.6 μm、高さ0.2 μm、ピッチ0.7 μmのナノ周期突起3bが形成されたハイブリッド周期格子溝+周期溝4bを有する培養基材1が作製された(4)。作製されたハイブリッド周期格子溝+周期溝4bを基板表面に形成した培養基材の加工表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図23に示す。

2−1−5.ハイブリッド周期溝4a(マイクロ周期溝2a+ナノ周期溝3a:異方性)を基板表面に形成した培養基材1(実施例) 当該培養基材は、上記Iの項で説明したマイクロ周期溝とナノ周期溝とを共存させたハイブリッド周期溝4aを基板表面に形成した培養基材(図7〜10)であり、フェムト秒レーザー光を上記医療用チタン板表面に照射しつつ走査することで、形成した。走査回数を20回にする以外は上記2−1−2.に記載の手順でマイクロ周期溝2aを形成した後に、上記2−1−3.に記載の手順でナノ周期溝3aを上書きした。ナノ周期溝3aは、偏光方位を走査方向に直交させた。この結果、溝の幅6 μm、深さ0.6 μm、ピッチ12 μmのマイクロ周期溝2a上に、深さ0.2 μm、ピッチ0.7 μmのナノ周期溝3aが形成されたハイブリッド周期溝4aを有する培養基材1が作製された(5)。

〔実施例12〕培養基材上でのMSCの分化誘導解析(分化マーカーでの確認) 1.概要 本実施例では、上記実施例11にて作製した周期微細構造を表面に形成した培養基材上でのMSCの分化誘導について検討した。本実施例では、MSCの骨細胞、軟骨細胞、神経細胞、及び脂肪細胞への分化誘導について検討し、分化マーカーをもって分化誘導状態を確認した。

2.材料及び試験方法 2−1.培養基材 上記実施例11の2−1−1.〜2−1−5.で作製した比較例及び実施例の培養基材を使用した。鏡面研磨した医療用チタン板にレーザー加工を施さずにそのまま使用したものをコントロールとした(6)。

2−2.細胞 ヒトMSC(hMSC 間葉系幹細胞、Lonza、カタログ番号PT-2501)を用いた。

2−3.分化誘導 上記各培養基材を70%エタノール中に20分間浸漬し滅菌した後、蒸留水にて3回洗浄を行った。洗浄後、培養基材を12ウェル細胞培養プレートのウェル底面に静置し、培地を添加し培養基材を培地中に浸漬した。培地中に浸漬した各培養基材に、MSCを播種し6時間培養した。

このとき、細胞の初期蒔種密度は、5000/cm2であった。培地は、使用調製済みのMSCGMTM BulletKitTM(Lonza、カタログ番号PT-3001)を使用した。

上記各培養基材上で培養したMSCを、72時間(上記した所望のコンフルエント(骨細胞、軟骨細胞への分化の場合には100%コンフルエント、神経細胞、脂肪細胞への分化の場合には80〜90%コンフルエント)となるまで)増殖培地で培養した後、72時間分化誘導培地で培養することにより分化誘導をした。ここで、増殖培地としては実施例3の培地を使用し、4継代目のMSCを分化誘導した。分化誘導方法の詳細は以下の通りである。

2−1−1.骨細胞への分化誘導 骨細胞への分化は、実施例6の方法に基づいて行った。

2−1−2.軟骨細胞への分化誘導 軟骨細胞への分化は、実施例6の方法に基づいて行った。

2−1−3.神経細胞への分化 神経細胞への分化を行う場合には、MSCが好ましくは80〜90%コンフルエントとなった時点で分化誘導を開始することができる。神経細胞分化誘導培地は、間葉系幹細胞神経細胞分化培地(Mesenchymal Stem Cell Neurogenic Differentiation Medium、PromoCell、カタログ番号C-28015)を使用し、製造業者の指示に従って神経細胞への分化誘導を行うことができる。このキットは、基本培地、Supplement Mix((C-39815, PromoCell、カタログ番号(C-39815))を含んで構成される。初期細胞蒔種密度は5000細胞/cm2であることが好ましい。

2−1−4.脂肪細胞への分化 脂肪細胞への分化誘導を行う場合には、MSCが好ましくは80〜90%コンフルエントとなった時点で分化誘導を開始することができる。脂肪細胞分化誘導培地は、hMSC-BulletKitTM-脂肪細胞分化用 (Lonza、カタログ番号PT-3004)を使用し、製造業者の指示に従って脂肪細胞への分化誘導を行うことができる。このキットは、基本培地(Basal medium)、L-グルタミン、間葉系細胞増殖サプリメント(Mesenchymal cell growth supplement (MCGS))、デキサメタゾン、インドメタシン、3-イソブチル-1-メチル-キサンチン(IBMX )、GA-1000(ゲンタマイシン、アンホテリシンB)を含んで構成される。初期細胞蒔種密度は2.1×104細胞/cm2であることが好ましい。

2−2.分化誘導の確認 培養後、MSCでは発現せず、骨細胞、軟骨細胞、神経細胞、脂肪細胞特異的に発現する分化マーカーを解析することにより、分化誘導を確認した。分化マーカーとしては、骨細胞への分化の確認はSPP1を、軟骨細胞への分化の確認はSOX9を、神経細胞への分化の確認はMAP2を、脂肪細胞への分化の確認はPPARGを用いた。実験はN=7で行った。

細胞の分化マーカーの発現解析は、Real time RT-PCR遺伝子解析法で行った。具体的には、分化誘導後の細胞からtotal RNAを抽出し、逆転写反応によりRNAからcDNAを合成した。続いて、合成したcDNAを鋳型としてRCRを行った。同様にしてGAPDHの発現量を測定し、GAPDHに対する相対発現量を算出した。また、組織培養用ポリスチレン(TCPS(7))についても同様にして各細胞への分化誘導の確認を行った。表5に、本実施例で使用した遺伝子特異的プライマーの配列情報を要約する。なお、骨細胞への分化の確認のためのSPP1、軟骨細胞への分化の確認のためのSOX9、及びGAPDHに対する遺伝子特異的プライマーは実施例6の表4に記載のものを使用した。

3.結果 結果を図24のグラフに示す。図中(1)は比較例のマイクロ周期格子溝を基板表面に形成した培養基材、(2)は比較例のマイクロ周期溝を基板表面に形成した培養基材、(3)は比較例のナノ周期溝を基板表面に形成した培養基材、(4)は実施例(II)のハイブリッド周期格子溝+周期突起4bを基板表面に形成した培養基材、(5)は実施例(I)のハイブリッド周期溝4aを基板表面に形成した培養基材、(6)はコントロール(鏡面)、(7)はTCPSである。

ハイブリッド周期格子溝+周期突起4bを基板表面に形成した培養基材1では、脂肪細胞の分化マーカーの発現レベルが高く、脂肪細胞への分化誘導に対して高い加速効果を示した(4)。ハイブリッド周期格子溝+周期突起4bを基板表面に形成した培養基材1では、神経細胞へ分化誘導に対しても加速効果を示した(4)。一方、ハイブリッド周期溝4aを基板表面に形成した培養基材1は、上記Iの項で確認した通り、骨細胞及び軟骨細胞への分化誘導に対して高い加速効果が認められた(5)。マイクロ周期格子溝、マイクロ周期溝及びナノ周期溝を単独で基板表面に形成した場合、並びにコントロールでは、分化の度合いは基板のない環境で培養した場合と有意差が認められず、分化誘導加速効果があるとはいえなかった(1、2、3、6、7)。

この結果より、ハイブリッド周期溝4aは、骨及び軟骨細胞への分化誘導に対して有意な加速効果を奏することができるものであるのに対して、ハイブリッド周期格子溝+周期突起4bは、脂肪及び神経細胞への分化誘導に対して有意な加速効果を奏することができるものであることが理解できる。これにより、基板表面に形成される周期微細構造と分化誘導方向が密接に関連していることが理解できる。

本発明は、培養基材1に関し、特に幹細胞の培養が要求されるあらゆる分野、特に、創薬、生命科学、及び医療等の産業分野において利用可能である。例えば、開発候補薬の薬効評価や、薬物動態評価、安全性評価等の薬理試験や創薬スクリーニング、発生や分化や疾患メカニズムの解明、損なわれた臓器や器官の機能を回復させる再生医療や細胞治療に応用が可能となる。

1 培養基材 2 マイクロメートルオーダーの周期微細構造(マイクロ周期構造) 2a マイクロメートルオーダーの周期溝(マイクロ周期溝) 2b マイクロメートルオーダーの周期格子溝(マイクロ周期格子溝) 3 ナノメートルオーダーの周期微細構造(ナノ周期構造) 3a ナノメートルオーダーの周期溝(ナノ周期溝) 3b ナノメートルオーダーの周期突起(ナノ周期突起) 4 ハイブリッド周期微細構造(ハイブリッド周期構造) 4a ハイブリッド周期溝 4b ハイブリッド周期格子溝+周期突起

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