Method of differentiation induction to osteoblast

申请号 JP2007217174 申请日 2007-08-23 公开(公告)号 JP2008220361A 公开(公告)日 2008-09-25
申请人 Sumitomo Electric Ind Ltd; 住友電気工業株式会社; 发明人 KUSHIBIKI TOSHIHIRO; AWAZU KUNIO; INOUE SUSUMU; SUGANUMA HIROSHI; HATAYAMA HITOSHI;
摘要 PROBLEM TO BE SOLVED: To provide a technique for selectively differentiation-inducing mesenchymal stem cells, which can differentiate to cells that constitute various tissues and organs, to osteoblasts, and to provide a technique for differentiation-inducing mesenchymal stem cells to osteoblasts with a simple operation that needs only short time and that is noninvasive. SOLUTION: The inventors have found that the switch for the differentiation induction to osteoblasts is turned on by translocating biological clock-relevant factors existing in mesenchymal stem cells from the cells' cytoplasm to the cells' nucleus. The inventors have also found that the switch can be turned on by irradiating the cells for a short time with a light that is noninvasive. COPYRIGHT: (C)2008,JPO&INPIT
权利要求
  • 間葉系幹細胞の生物時計関連物質を細胞質から核へ移行させることにより、前記間葉系幹細胞を骨芽細胞へと分化誘導させる細胞の分化誘導方法。
  • 前記間葉系細胞に対して光を照射することにより、前記生物時計関連物質を細胞質から核へ移行させることを特徴とする請求項1に記載の細胞の分化誘導方法。
  • 前記光の照射は、波長350nm〜500nmの光を照射することを特徴とする請求項2に記載の細胞の分化誘導方法。
  • 前記光の照射は、レーザ光を照射することを特徴とする請求項2または3に記載の細胞の分化誘導方法。
  • 前記光の照射時間が、10分以下であることを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の細胞の分化誘導方法。
  • 前記生物時計関連物質がクリプトクロームであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の細胞の分化誘導方法。
  • 说明书全文

    本発明は、再生医療に関する。 詳しくは、間葉系幹細胞を骨芽細胞に分化誘導させる方法に関する。

    再生医療は、事故や病気によって失われた生体の細胞、組織、器官の再生や機能の回復を目的とした医療であり、21世紀の臨床医学の大きな課題の一つである。

    たとえば、従来、外傷や骨腫瘍を外科的に除去した後の骨組織の修復処置は、患者本人の大腿骨等の自家骨を採取し、患部へ移植することが行われている。 しかし、この方法は、患者に患部の治療以外に健常な大腿骨の外科的な処理が必要となり二重の負荷をかけることとなる。 さらには、医療費の負担も大きくなる。

    これに対し、最近注目されている再生医療は、生体内のありとあらゆる組織や器官へ分化することができる幹細胞に着目する医療技術である。 すなわち、幹細胞に所定の指示を外部から与えることにより、目的とする組織や器官を構築する細胞に、幹細胞を分化誘導し、最終的には失われた組織や器官を再生させる医療技術である。

    このような幹細胞は種々存在することが知られており、生体のほとんどの臓器や組織中に存在している。 とりわけ、造血幹細胞や神経幹細胞など様々の幹細胞の中で、どの種類の組織にでも分化することができ、増殖能も高いES細胞(Embryonic Stem Cell、胚性幹細胞)と呼ばれている細胞は、万能細胞として、パーキンソン病、心筋梗塞、脊椎損傷、白血病、糖尿病、肝臓病など様々な病気の治療への応用が期待されている。

    しかし、ES細胞は、ヒトでは受精後5〜7日程度、マウスでは3〜4日程度経過した初期胚(受精卵)から作られる細胞であるため、倫理的な問題もあり、再生医療での実用化には多くのハードルがある。

    このES細胞にかわり最近注目されている幹細胞として、骨髄の中にある間葉系幹細胞がある。 この細胞は、ES細胞に近い能力を秘めており、骨、軟骨、脂肪、心臓、神経、肝臓などの細胞になることが確認され、第二の万能細胞として注目を浴びている。

    この間葉系幹細胞が利用できれば、生体外で骨細胞に分化誘導し、その後患者の患部に移植することで治療できる。 そのため、再生医療の分野では、間葉系幹細胞をいかに患者の負荷を少なくして採取するか、採取した幹細胞をいかに移植できるまで増殖させるかに着目して研究されている。

    たとえば、ヒトの羊膜上皮細胞層中に骨芽細胞へ分化する細胞が存在すること、また、胎盤から羊膜を分離し細胞を生体外で培養することにより、骨芽細胞へ分化誘導できることが開示されている(特許文献1)。

    また、別の報告では、ヒトの脂肪片からコラゲナーゼ処理により脂肪片中に存在する細胞外マトリクスを消化し細胞群にした後、遠心分離により成熟脂肪細胞の集団を分離し、さらに初代培養することで骨芽細胞へ分化誘導する繊維芽細胞の分離法が開示されている(特許文献2)。

    このように細胞の分離と培養の研究がなされる一方、間葉系幹細胞の分化メカニズムを解析する研究も行われている。 たとえば、肥満細胞への分化の過程において、生物時計関連物質の一つであるビーマル1(BMAL1、Brain and Muscle Arnt−Like Protein 1)遺伝子の発現が認められたという報告がある(特許文献3)。

    特開2005−124460号公報

    特開2004−129549号公報

    特開2005−247740号公報

    しかしながら、上記特許文献1では、骨芽細胞へ分化できるとされている細胞が間葉系幹細胞との明示はなく、ヒトの羊膜から採取して得られた細胞としている。 ヒトの羊膜は、胎児由来の組織であり、母体の胎盤に付着した状態で容易に採取できると開示されている。 また、胎児由来の羊膜を利用するため、免疫寛容を示し、他人に移植しても、拒絶反応が惹起しにくいと報告されている(特許文献1の[0013])。 しかし、HLAのクラスIの発現があることから、100%免疫寛容とはならず、患者に移植後予期せぬ拒絶反応を起こす危険性がある。 また、骨芽細胞へ分化誘導できない細胞も含まれている。

    また、特許文献2に開示された技術では、脂肪片は患者本人の脂肪組織から採取することができるため、特許文献1で問題となるような拒絶反応は防ぐことができるものの、特許文献1と同じく骨芽細胞へ分化する細胞を純粋に分離することができないという問題が生じていた。

    この特許文献1及び特許文献2に共通する問題点として、骨芽細胞に分化する細胞を純粋に分離できていないという点があげられる。 そのため、骨芽細胞へ分化誘導を生体外で行うことができたとしても、患者へは、骨芽細胞以外の細胞も移植することとなり、機能を満足した組織、器官として、無事再生できるかどうか不明である。

    さらには、別の特許文献1及び特許文献2ともに共通する問題点として、分離した細胞の前培養に数週間必要であり、次いで骨芽細胞へ分化誘導するのに、生体外で特定の分化誘導物質(アスコルビン酸塩、デキサメタゾン、β−グリセロールリン酸など)を培地に添加して、さらに数週間以上にわたり、細胞培養する必要がある点である。

    すなわち、外傷により骨除去した患者は1ヶ月以上患部に移植できないということとなり、これは患者にとってつらいことである。

    また、特許文献1及び特許文献2ともに、分化誘導のスイッチは、あくまで培地の組成を変えるのみである。 この手法を将来生体内に間葉系幹細胞のみ移植し、その後骨芽細胞へと分化させるのに利用するならば、アスコルビン酸塩、デキサメタゾン、β−グリセロールリン酸などの分化誘導物質を移植した患部に投与する必要が生じ、患者に思わぬ副作用を発生させる危険性がある。 また、間葉系幹細胞は、上述したように骨、軟骨、脂肪、心臓、神経、肝臓の細胞に分化する能力を持つため、上記分化誘導物質が生体内で別の作用を発揮し、患部で別の機能を持つ細胞に分化する危険性もある。

    さらに、特許文献3では、ビーマル1が脂肪細胞へと分化の過程で発現することが開示されているが、ビーマル1の発現を制御する技術については、細胞株に遺伝子を導入し発現を制御しているが、それはあくまで、ビーマル1の分子レベルでの発現機構の解析を行っているに過ぎない。 すなわち、間葉系幹細胞にどのような指示を与えれば脂肪細胞へと分化するかについては何ら新しい知見は開示されておらず、脂肪細胞への分化誘導は、培地にデキサメタゾンやイソブチルメチルキサンチンなどの分化誘導物質を添加させて行ったのみである。

    本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、多くの組織、器官を構成する細胞に分化可能な間葉系幹細胞を、選択的に骨芽細胞へ分化誘導させる技術を提供することを課題としている。

    また、本発明は、短時間、かつ、非侵襲な簡単な操作で、間葉系幹細胞に骨芽細胞へ分化誘導させる技術を提供することを課題としている。

    上記課題を解決するために、本発明者達は、鋭意研究を重ねた結果、間葉系幹細胞に存在する生物時計関連物質を細胞質から核に移行させることにより、骨芽細胞の分化誘導のスイッチが入ることを見いだした。

    また、骨芽細胞への分化誘導のスイッチを特定の分化誘導物質を培養液に添加するという従来の方法でなく、細胞に非侵襲な光を照射するより、分化誘導のスイッチを入れることができるという知見を見いだした。

    すなわち、本発明によれば、間葉系幹細胞の生物時計関連物質を細胞質から核へ移行させることにより、前記間葉系幹細胞を骨芽細胞へと分化誘導させる細胞の分化誘導方法が提供される。

    ここでいう、生物時計関連物質とは、生物時計、脳内時計に関連する物質という意味で用い、物質には、タンパク質、DNA、RNAを包含する意味がある。 また、サーカディアンリズムや概日周期も生物時計と同じ意味として用いる。 生体の体内時計がリズムを刻むために必要とされる分子は、前述のビーマル1(BMAL1)のほか、クロック(CLOCK)、ピリオド(PERIOD、PER)、クリプトクローム(CRYPTOCHROME、CRY)が知られている。 これらの分子は、単独でまたは複合体を形成して生物時計のリズムを刻んでおり、ビーマル1とクロックが時計調節の正のフィードバック因子であり、ピリオドとクリプトクロームは負のフィードバック因子であると知られている。

    すなわち、クリプトクロームは青色光の受容分子として同定されたタンパク質であるが、動物細胞では、生物時計を調整する分子の一つであり、ピリオドと複合体を形成し、細胞質内から核内へ移行し、クロックとビーマルがもつ転写活性化因子としての機能を阻害するとされている。 植物では、青色光の受容分子であることから、動物細胞でも、青色光によるシグナル伝達を担っている可能性がある。 すでにこのクリプトクローム遺伝子をノックアウトしたマウスは作製されており、クリプトクロームがないとリズム異常をきたすと報告されている(Cell、98巻、193−205ページ、1999年)。

    また、本発明によれば、前記間葉系細胞に対して非侵襲な手段、すなわち、光を培養容器で培養されている間葉系幹細胞へ照射することで、前記生物時計関連物質を細胞質から核へ移行させることができる細胞の分化誘導方法が提供される。

    さらには、本発明によれば、前記光は、波長350nm〜500nmの光を発光する装置であれば特に限定されないが、レーザ光による照射が例示される。 レーザ光は、焦点を調整することで、組織の表面のみならず組織内の細胞に照射することができ好適である。 また、照射する光のパワー密度も照射する部位(細胞、生体等)に応じて自由に設定できるので好ましい。 また、本発明によれば、光の照射時間が、10分以下であることを特徴とする細胞の分化誘導方法が提供される。 照射時間を短くすることで、光の照射による細胞、生体へのダメージを最小限に留めることができる。 なお、波長350nm〜500nmの光はクリプトクロームが受容する光の波長である。 この波長の光を照射することで、細胞質内に存在するクリプトクロームの核内への移行を制御することができる。

    これらにより、生体内に間葉系幹細胞を移植した後でも分化誘導を行うことができ、治療の幅ができ有用である。

    本発明によれば、多くの組織、器官を構成する細胞に分化可能な間葉系幹細胞を、選択的に骨芽細胞へ分化誘導させることができるので、骨移植が必要とされる患者に骨組織の再生を行うことができる。

    次に本発明を実施するための最良の形態について説明する。
    1. 間葉系幹細胞 本発明では、間葉系幹細胞は、ヒトをはじめとする動物の骨髄や、脂肪組織から分離したものを利用できるが、すでに樹立された間葉系細胞株も好適に利用できる。 たとえば、KUSA−A1株、KUSA−O株はC3H/Heマウスの骨髄由来の樹立された間葉系幹細胞であり、それぞれ理研セルバンクにてRCB2081、RCB1991と登録されており、理研セルバンクに申し込むと容易に入手可能な細胞である。

    KUSA−A1細胞及びKUSA−O細胞は、通常の10%の胎児血清(FBS)が入ったDMEM培地で培養可能であり、しかも継代培養も容易な細胞である。 また、培地中に、アスコルビン酸塩、デキサメタゾン、β−グリセロールリン酸などの分化誘導物質を添加し培養することで、骨芽細胞への分化の指標となる、アルカリホスファターゼ活性の上昇と、アリザリンレッドSの染色によりカルシウムの蓄積が確認できる。

    2. 光照射 次に本発明で用いる光の波長域としては、可視光域のやや短波長側の領域、すなわち、350nm〜500nmの領域の光が好適で、これらの波長域の光を発振する装置が好適に使用できる。 たとえば、488nmの波長のレーザ光を発振するアルゴンレーザや405nmの波長のレーザ光を発振するGaN系レーザ、442nmの波長のレーザ光を発振するヘリウム−カドミウムレーザ等である。 上記の波長域のレーザ光を発振し、パワー密度を変化させることができるものであれば、細胞への照射量を調節できるので、より好適である。

    光の照射は、培養容器の底面または上面から照射することができるが、間葉系幹細胞株は、培養容器の底面に接着して増殖する接着性の細胞であるため、培養容器の底面から照射する方が、培養容器、培養液などの干渉を受けないため効率がよい。

    照射する光のパワー密度は、大きければ大きいほど骨芽細胞への分化誘導活性が高くなり、カルシウムの蓄積が進行するので好ましい。 しかし、パワー密度を大きくすればするほど細胞に与えるダメージが大きくなるので、照射時間を短くする必要がある。 この現象は、使用する光の波長が変わっても傾向に差はない。

    たとえば、405nmのレーザ光を連続発振するGaN系のレーザを用いた場合は、300mW/cm のパワー密度で、10分以上の照射を行うと、約1/3の細胞にストレスを与えることになる。 このレーザの場合、200mW/cm 以下のパワー密度で、照射時間が5分以下であれば、細胞へ与えるストレスが低減されるので好適である。

    3. 細胞障害 細胞障害したかどうかを判定する方法は、既存の細胞障害活性の測定方法が利用できる。 たとえば、間葉系幹細胞をあらかじめ51 Crのような放射性同位元素やユーロピウムのような蛍光物質でラベルしておき、光の照射により細胞の細胞膜が傷害し、細胞内から漏れ出た51 Crの量やユーロピウムを測定することで求めることができる。 また、培地中にテトラゾリウム塩化合物であるMTTを添加し、細胞が生存しているならば、ミトコンドリア内にある脱素酵素により青色の色素( ホルマザン) に還元される原理を利用したMTTアッセイにより算出することも可能である。 その他、最近では細胞中のATP量をルシフェラーゼ発光法にて測定することで、細胞障害活性を測定することもできる。 この方法では、ルシフェラーゼによる化学発光を測定するので少量の細胞でも測定が可能である点が、利点である。

    また、細胞障害を、細胞がストレスを受けたときに発現するタンパク質であるHSP70(Heat Shock Protein)の蓄積度でも測定することができる。 HSP70の蓄積度の測定は、たとえば、HSP70遺伝子プロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子を導入した発現系を構築し、細胞に遺伝子導入(トランスフェクション)した細胞を用いて測定することができる。 当該遺伝子導入細胞が、レーザ光のようなストレスを受けると、HSP70のプロモーターによりルシフェラーゼが発現する。 このルシフェラーゼ活性を測定することで、細胞障害活性を測定できる。 このような細胞は、たとえばJCRB細胞バンクにJCRB0136.2で登録されているCHO (pMAM−HSluc)が好適に使用できる。

    4. 細胞の前処理 KUSA−A1細胞及びKUSA−O細胞などの間葉系幹細胞を、デキサメタゾンを含む培地に一旦交換すると生物時計関連物質の遺伝子の発現がリセットされ、新たに誘導される(Science、289巻、2344−2347ページ、2000年)。 従って、生物時計関連物質の発現と骨芽細胞への分化誘導の関係を調べるには、光を照射する前に、間葉系幹細胞をあらかじめデキサメタゾン含有培地で培養することが望ましい。

    5. 細胞分化の指標 骨芽細胞への分化誘導の確認は、アルカリホスファターゼの測定、アリザリンレッドS染色、オステオカルシン免疫染色、von Kossa染色にて確認できる。 また、脂肪細胞への分化誘導の有無に関しては、オイルレッドO染色で確認できる。 以下、個々の方法について説明する。

    5−1. アルカリホスファターゼの測定 アルカリホスファターゼは、細胞を染色する方法や細胞抽出物を用いた酵素反応の測定から求めることが可能である。 このアルカリホスファターゼは、間葉系幹細胞が骨芽細胞への分化の過程の初期に生成されるタンパク質であり、このタンパク質が生成されることを確認すると分化が始まったことがわかる。 細胞染色は、分化誘導した細胞をパラホルムアルデヒド等で固定し、その後細胞に沈着する水に不溶性の物質である、ニトロブルーテトラゾリウム塩(NBT)などを酵素の基質として用いて染色する方法である。 基質となる色素は現在多数市販されており、いずれも好適に利用できる。 一方、酵素反応の測定を行うには、細胞に各種溶解液を加えホモジナイズし、そのホモジナイズした細胞抽出液と基質となる水溶性のパラニトロフェニルリン酸を混合する。 細胞抽出液中にアルカリホスファターゼが存在するとパラニトロフェニルリン酸がパラニトロフェノールへと脱リン酸化される。 この生成したパラニトロフェノールの吸収を計測すれば、細胞内のアルカリホスファターゼの量を定量的に測定できる。

    5−2. アリザリンレッドSによる染色 アリザリンレッドSはアリザリン分子の水酸基に隣接した水素をスルホン基に置換したナトリウムである。 この色素は、金属イオンと結合する性質により生体内のカルシウム塩沈着部を染色するため、骨芽細胞形成の際に認められるカルシウムの沈着を調べるのに好適である。

    5−3. オステオカルシンの免疫染色 オステオカルシンは、分化が進んだ骨芽細胞が生成するタンパク質であるため、骨芽細胞への分化が順調に進んでいることを確認するのに適したマーカーとなる。 オステオカルシンは骨芽細胞で生成された後、ビタミンK依存性カルボキシラーゼによりγ-カルボキシグルタミン酸化(Gla化)される。 このGla化オステオカルシンは、骨のハイドロキシアパタイトと結合して骨基質中に蓄積され骨形成に関与するため、Gla化したオステオカルシンを測定することは、骨形成の指標となり有用である。 なお、オステオカルシンに対する抗体は各種市販されており、Gla化オステオカルシンに特異的なモノクローナル抗体を用いれば、骨芽細胞の分化度を確認することができる。

    5−4. von Kossa染色 von Kossa染色は、骨芽細胞の分化の過程で生成する細胞外の基質に沈着するカルシウムの中で、リン酸カルシウムの沈着を検出する染色法である。 骨形成に用いられるカルシウム成分はリン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)である。 アリザリンレッドSによる染色は、カルシウムの沈着を検出することができるが、骨形成につながるカルシウムかどうかを判定するには、von Kossa染色が好適である。

    5−5. オイルレッドO染色 間葉系幹細胞は、骨芽細胞以外にも脂肪細胞にも分化することが知られている。 脂肪細胞への分化が進んだかどうかは、オイルレッドO染色を行うことで判定できる。 オイルレッドO染色は、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化を確認する方法の一つに用いている。 オイルレッドOは、アゾ色素の1種で、無極性・脂溶性であるため、脂肪細胞に触れると細胞内脂質(トリグリセリド)の溶媒に溶け込むことで、脂肪細胞が染色される。

    6. 生物時計関連物質の細胞質内から核内への移動の確認 生物時計関連物質の一つであるクリプトクロームを例に生物時計関連物質の細胞質内から核内への移動の確認の手法について説明する。 クリプトクロームの局在性の確認は、免疫染色で行うことができる。 すなわち、一次抗体としてクリプトクロームに特異的な抗体を用い、二次抗体に蛍光物質が標識された抗体を用いることで、細胞内のクリプトクロームが蛍光標識され、それを蛍光顕微鏡で調べることができる。 蛍光標識物質としては、細胞核の染色と対比するため、細胞核の染色と異なる蛍光を発するものが好ましい。 たとえば、細胞核をDAPI(diamidino―2―phenylindole)で染色すると、この色素は細胞核内のDNAに特異的に結合して紫外線照射によりと青色の蛍光を発するので、クリプトクロームは赤色の蛍光を発する、ローダミン、テキサスレッド、フィコエリスリン、Cy3等の色素で標識するのが好適である。

    このように、細胞核をDAPIで染色し、クリプトクロームを特異的な抗体で染色するという細胞の二重染色法で細胞質内から核内への移行を確認することができる。 なお、ここでは、クリプトクロームを例に説明したが、ピリオド、ビーマル1、クロック等の他の生物時計関連物質にも適用できる。 すなわち、各生物時計関連物質に特異的な抗体を用いると確認できる。

    7. RNA干渉 生物時計関連物質の発現の有無はRNA干渉を用いて検証することができる。 すなわち、クリプトクロームなどの生物時計関連物質をコードするDNAから転写されるmRNAとsiRNAが結合することにより、タンパク質への翻訳を阻害する手法である。 この手法を用いることにより、翻訳阻害を受け、細胞内にタンパク質がない状況下での骨芽細胞への分化誘導を調べ、両者の関係を明らかにすることができる。 siRNAの配列は、発現抑制したいmRNAの開始コドンから、75塩基以上下流の最初のAAを見つけ、このAAに続く19塩基までとすることで設計することができる。 なお、設計したsiRNAの配列が特異的な配列かどうかを確認するには、たとえば、NCBI( http://www.ncbi.nlm.nih.gov/) のBLAST−SEARCHを利用し、配列が目的遺伝子に対して特異的であることを確認することができる。

    8. リアルタイムPCR
    また、クリプトクロームは、細胞質から細胞核内に移行すると、負のフィードバックが働き、細胞質内のmRNAの発現が抑制されることが知られている。 この現象は、細胞質内RNA量を比較することで確認できる。 すなわち、細胞質に存在するトータルRNAをフェノール/クロロホルム抽出、プロテアーゼ処理、アルコール沈殿のステップで抽出する古典的な手法を用いても良いし、RNAqueous(登録商標)kit(Ambion製)のような市販のトータルRNA精製キットを用いて、細胞質内のRNAを抽出しても良い。 細胞質内のRNAを抽出した後、DNAの混入によるエラーを防止するため、DNAを分解し、その後設計したプライマーとのリアルタイムPCRを行うことで、細胞質内の目的とする物質のmRNAの量を測定することができる。

    リアルタイムPCRは、市販の試薬(例えば、SYBR ExScript RT−RCRキット、タカラバイオ)と市販の装置(例えば、Smart Cycler、タカラバイオ)を用いることで容易に実施することができる。

    9. レーザ光照射による間葉系幹細胞の分化誘導 以上、本発明の実施の形態を説明するのに必要な、項目について説明してきたが、実際に間葉系幹細胞を分化誘導するには、以下のようなステップを行えばよい。

    まず、KUSA−A1細胞、KUSA−O細胞などの間葉系幹細胞を、前日にマルチプレートで培養する。 なお、マルチプレートはレーザ光の照射スポットの大きさにも関与するが、分化誘導を調べるのであれば、96ウェルのマルチプレートで十分である。 マルチプレートに加える細胞数は、検査対象となる細胞の増殖時間や、大きさで異なるが、通常1×10 個/ウェル程度の細胞を加えればよい。 一日経過後、デキサメタゾンを含む培地に一旦交換する。 交換は、レーザ照射30分〜60分前が、mRNAへの転写、タンパク質への翻訳等の観点から好ましい。

    次いで、レーザ光を96ウェルのマルチプレートの底面より照射する。 たとえば、405nmのレーザ光を発するGaN系レーザ発振装置を用いて、200mW/cm のパワー密度で、3分間照射する。 レーザ照射が終わると、マルチプレートの培地を交換し、骨芽細胞分化誘導用の培地に交換し、培養を続ける。

    骨芽細胞分化誘導用の培地で、培養5日後に細胞を取り出し、アルカリホスファターゼの測定、アリザリンレッドS染色、オステオカルシン免疫染色、von Kossa染色にて確認できる。 また、脂肪細胞への分化誘導の有無に関しては、オイルレッドO染色することで確認する。

    クリプトクローム等特定の生物時計関連物質の関与を調べるときは、骨芽細胞分化誘導用の培地にsiRNAをさらに加えて培養し、siRNA無添加の細胞との比較を行うことで調べることができる。

    以下に具体例を挙げて説明するが、本発明の細胞の分化誘導方法は具体例の細胞株に限定されるものではなく、また、光を照射する装置もこれに限定されるわけではない。 さらには、生体外に細胞を取り出して骨芽細胞の分化状態を確認する手法としては実施例の方法に限定されない。

    (実験例1)骨芽細胞への分化誘導1. 細胞の調製間葉系幹細胞株のKUSA−A1細胞は、10%の牛胎児血清(FBS)が入ったDMEM培地で75cm の培養フラスコで培養した。 対数増殖期の細胞を、レーザ照射の前日に回収した。 回収は、0.25%トリプシンで培養フラスコ底面からKUSA−A1細胞を浮遊させ、血球算定盤を用いて細胞数を計数し、10%FBS入りのDMEM培地を用いて1×10 個/mLに調製し細胞浮遊液を得た。 この細胞浮遊液を、96ウェルマルチプレート(ファルコン、日本BD製)に、100μL/ウェル分注し、37℃、5%CO 環境下のCO インキュベータで一晩培養した。

    2. レーザ照射 レーザ照射の30分前に、前日にKUSA−A1細胞を分注した96ウェルマルチプレートをCO インキュベータから取り出し、200nMのデキサメタゾン(和光純薬製、カタログ番号047−18863)を含有した10%FBS入りDMEM培地を100μL/ウェル添加し、デキサメタゾン濃度を100nMに調整し、生物時計関連遺伝子の発現をリセットした。 30分後、GaN系レーザ照射装置(住友電気工業株式会社製VLM500)を用いて、パワー密度を100mW/cm 、200mW/cm 、300mW/cm にし、おのおの24ウェルずつ、3分間照射した。 なお、コントロールとして、24ウェルは、レーザ光を照射しなかった。 なお、100mW/cm で出力されるレーザ光のビーム径とプロファイルを図1に示す。 レーザ光のビーム径は552μmで、そのプロファイルはガウシアン分布であることを確認した。

    3. 細胞培養 レーザ光照射終了後、各ウェルに入っているデキサメタゾン入りの培地をキャピラリーで吸引除去し、骨芽細胞分化誘導培地(10%FBS入りDMEM培地に10nMのデキサメタゾン、2mMのβ―グリセロールリン酸、50μg/mLのアスコルビン酸を添加したもの)を200μL/ウェル分注し、37℃、5%CO 環境下で5日間培養した。

    4. アリザリンレッドS染色 コントロール及びレーザ光のパワー密度を100mW/cm 、200mW/cm 、300mW/cm で照射したウェルおのおの3ウェルにつき、アリザリンレッドS染色を行った。 5日培養したマルチプレートの培地を除去し、PBSで洗浄後、4%パラホルムアルデヒド−PBSで50μL/ウェル添加し、5分間静置することで細胞を固定した。 次いで、アリザリンレッド染色液(コスモバイオ製)を50μL/ウェル加え、さらに5分間放置後、PBSで洗浄した。 ついで、50倍の倒立型顕微鏡で観察し、アリザリンレッドSの沈着を測定した結果が、図2である。 図2の円形状の黒色部がレーザ光照射部分であり、照射されたスポットのKUSA−A1細胞から産生されたカルシウムが、アリザリンレッドSで赤褐色(図では黒色)に染色された。 なお、染色の強度は、100mW/cm での照射に比べて200mW/cm 、300mW/cm での照射の方が強かった。

    5. von Kossa染色 コントロール及びレーザ光のパワー密度を100mW/cm 、200mW/cm 、300mW/cm で照射したウェルおのおの3ウェルにつき、von Kossa染色を行った。 5日培養したマルチプレートの培地を除去し、PBSで洗浄後、4%パラホルムアルデヒド−PBSで50μL/ウェル添加し、5分間静置することで細胞を固定した。 次いで、染色液(シグマ製)を50μL/ウェル加え、さらに5分間放置後、蒸留水で洗浄した。 次いで写真用現像液(5%チオ硫酸ナトリウム水溶液)を作用させ、濃黒褐色を呈する金属銀に還元発色させた。 ついで、50倍の倒立型顕微鏡で観察し、リン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)の沈着を測定した結果が、図3である。 図3の円形状の黒色部がレーザ光照射部分であり、照射されたスポットのKUSA−A1細胞から、産生したリン酸カルシウムが沈着した部分が銀で染色された(図3では黒色)。 なお、染色の強度は、100mW/cm での照射に比べて200mW/cm 、300mW/cm での照射の方が強かった。

    6. アルカリホスファターゼ染色 コントロール及びレーザ光のパワー密度を100mW/cm 、200mW/cm 、300mW/cm で照射したウェルおのおの3ウェルにつき、アルカリホスファターゼ染色を行った。 5日培養したマルチプレートの培地を除去し、PBSで洗浄後、4%パラホルムアルデヒド−PBSで50μL/ウェル添加し、5分間静置することで細胞を固定した。 次いで、Vector(R)−Black Alkaine Phosphatase Substrate Kit II(製番SK−5200、フナコシ製)を50μL/ウェル加え、さらに5分間放置後、PBSで洗浄した。 ついで、50倍の倒立型顕微鏡で観察し、アルカリホスファターゼの作用により生じた黒色色素の沈着を測定した結果が、図4である。 図4の円形状の黒色部がレーザ光照射部分であり、照射されたスポットのKUSA−A1細胞はアルカリホスファターゼの作用により、赤黒色の色素が沈着した。 なお、染色の強度は、100mW/cm での照射に比べて200mW/cm 、300mW/cm での照射の方が強かった。

    7. オステオカルシン免疫染色 コントロール及びレーザ光のパワー密度を100mW/cm 、200mW/cm 、300mW/cm で照射したウェルおのおの3ウェルにつき、オステオカルシン免疫染色を行った。 5日培養したマルチプレートの培地を除去し、PBSで洗浄後、4%パラホルムアルデヒド−PBSで50μL/ウェル添加し、5分間静置することで細胞を固定した。 固定した細胞を蒸留水で4倍に希釈したブロックエース溶液(大日本製薬製)を100μL/ウェル分注し、室温で1時間ブロッキングした。 0.1%のTween20が入ったPBSで固定細胞を3回洗浄したのち、Gla化オステオカルシンに特異的な抗体(ウサギ由来、anti−mouse osteocalcin、LSL社製LB−4005)を50μL/ウェル分注し、室温で1時間反応させた。 0.1%のTween20が入ったPBSで固定細胞を3回洗浄後、Cy3化抗ウサギ抗体(シグマ製)を50μL/ウェル分注し、さらに室温で1時間反応させた。 0.1%のTween20が入ったPBSで固定細胞を3回洗浄したのち、50倍の蛍光倒立型顕微鏡で観察し、オステオカルシンを蛍光染色した結果が、図5である。 図5の円形状の赤色部がレーザ光照射部分であり、照射されたスポットのKUSA−A1細胞はオステオカルシンの発現が認められ赤色に染色された。 なお、染色の強度は、100mW/cm での照射に比べて200mW/cm 、300mW/cm での照射の方が強かった。

    8. オイルレッドO染色 コントロール及びレーザ光のパワー密度を100mW/cm 、200mW/cm 、300mW/cm で照射したウェルおのおの3ウェルにつき、オイルレッドO染色を行った。 5日培養したマルチプレートの培地を除去し、PBSで洗浄後、4%パラホルムアルデヒド−PBSで50μL/ウェル添加し、5分間静置することで細胞を固定した。 次いで、オイルレッドO染色液(0.5gのオイルレッドOを100mLのイソプロピルアルコールに溶解した液)を50μL/ウェル分注し、染色した。 30分染色後、PBSで洗浄した。 ついで、50倍の倒立型顕微鏡で観察し、オイルレッドO色素の沈着を測定した結果が、図6である。 図6においても、図2〜5と同じような円形状の部分にレーザ光を照射したが、照射されたウェルと照射されていないウェルのKUSA−A1細胞ともに、オイルレッドOの沈着が認められず、青色レーザ光は、脂肪細胞への分化誘導のスイッチをいれないことがわかった。

    (実験例2)細胞障害活性の測定1. 細胞へのレーザ光照射 細胞障害活性は、以下のようにして求めた。 すなわち、75cm の培養フラスコで培養したCHO(pMAM−HSluc)細胞を、0.25%トリプシン処理により浮遊させ、10%FBS入りのDMEM培地を用いて1×10 個/mLに調製し細胞浮遊液を調製した。 この細胞浮遊液を、96ウェルマルチプレート(ファルコン、日本BD製)に、100μL/ウェル分注し、37℃、5%CO 環境下で一晩培養した。 ついで、GaN系レーザ照射装置(住友電気工業株式会社製VLM500)を用いて、レーザ光のパワー密度を50mW/cm 、100mW/cm 、200mW/cm 、300mW/cm 、400mW/cm にし、照射した。 また照射時間は、1分間、3分間、5分間及び10分間と時間も変えて照射した。 なお、各条件3ウェルずつ行い、コントロールとしてレーザ光を照射しないウェルも3ウェル作った。 その後、37℃、5%CO 環境下で一晩培養した。

    2. 細胞障害活性測定 翌日、ルシフェラーゼ定量システム(ホモジニアス高感度タイプ)(プロメガ製)により、ルシフェラーゼ活性を測定した。 その結果が、図7である。 図7に示すように、50mW/cm 、100mW/cm 、150mW/cm のパワー密度でレーザ光を照射する場合は、化学発光の強度が、500,000RTU以下となり、ルシフェラーゼ活性がコントロールと同程度であり、HSP70の発現が少なく、細胞にストレスがかかっておらず、細胞障害が認められなかった。 しかし、300mW/cm のパワー密度のレーザ光を10分間照射した場合や400mW/cm のパワー密度のレーザ光を5分間以上照射した場合は、1,500,000RTU程度の強度となり、HSP70の強い発現が認められ、細胞に強いストレスがかかり、細胞障害が認められた。

    (実験例3)クリプトクロームの発現抑制1. siRNA設計 青色レーザ光でスイッチが入る分子がクリプトクロームであるかどうかを調べるため、クリプトクロームのsiRNAを用いて検証した。 siRNAの配列はクリプトクロームのmRNAの配列を元に配列番号1の5'-GCAGACUGAAUAUUGAAAGTT-3'及び配列番号2の5'-GGCACUUACACGUUUGGAATT-3'をセンス鎖とする2種類のsiRNAを設計し、配列番号1及び配列番号2それぞれのセンス鎖、アンチセンス鎖及びそのアニーリングをAmbion inc. へ外注依頼した。

    2. siRNAのトランスフェクション 細胞の調製及びトランスフェクションは、以下の方法で行った。 すなわち、75cm2の培養フラスコで培養したKUSA−A1細胞を、0.25%トリプシン処理により浮遊させ、10%FBS入りのDMEM培地を用いて1x10 個/mLに調製し細胞浮遊液を調製した。 この細胞浮遊液を、96ウェルマルチプレート(ファルコン、日本BD製)に、100μL/ウェル分注し、37℃、5%CO 環境下で一晩培養した。 翌日、培地を吸引除去し、DME培地で1回洗浄した後、100μL/ウェルDME培地を添加した。 次に、前処理したsiRNAを20μMに調製し、DMEM培地で100倍希釈したものを90μL用意した。 別途、トランスフェクション用のオリゴフェクタミン(Oligofectamine、Invitrogen社)3μLをDME培地で10μLに希釈し、室温で10分間静置した後、siRNAと軽く混合し、さらに室温で20分間静置することで、siRNAトランスフェクション溶液を調製した。 20分後、各ウェルにsiRNAトランスフェクション溶液を1μL/ウェル分注し、37℃、5%CO 環境下で4時間静置し、その後FBSを10μL/ウェル加え、細胞へのトランスフェクションを完了した。

    3. siRNAトランスフェクション細胞のレーザ光照射 トランスフェクション後の細胞が入ったマルチプレートを37℃、5%CO 環境下のCO インキュベータから取り出し、レーザ照射の30分前に、200nMのデキサメタゾン(和光純薬製、カタログ番号047−18863)を含有した10%FBS入りDMEM培地を100μL/ウェル添加し、デキサメタゾン濃度を100nMに調整し、生物時計関連遺伝子の発現をリセットした。 30分後、GaN系レーザ照射装置(住友電気工業株式会社製VLM500)を用いて、パワー密度を100mW/cm 、200mW/cm 、300mW/cm にし、3分間照射した。

    4. 細胞培養 レーザ光照射のあとの細胞培養は、実験例1と同様に行った。 すなわち、レーザ光照射終了後、各ウェルに入っているデキサメタゾン入りの培地をキャピラリーで吸引除去し、骨芽細胞分化誘導培地(10%FBS入りDMEM培地に10nMのデキサメタゾン、2mMのβ―グリセロールリン酸、50μg/mlのアスコルビン酸を添加したもの)を200μL/ウェル分注し、37℃、5%CO 環境下で、5日間培養した。

    5. アリザリンレッドS染色 コントロール及びレーザ光のパワー密度を100mW/cm 、200mW/cm 、300mW/cm で照射したウェルおのおの3ウェルにつき、アリザリンレッドS染色を行った。 5日培養したマルチプレートの培地を除去し、PBSで洗浄後、4%パラホルムアルデヒド−PBSで50μL/ウェル添加し、5分間静置することで細胞を固定した。 次いで、アリザリンレッド染色液(コスモバイオ製)を50μL/ウェル加え、さらに5分間放置後、PBSで洗浄した。 ついで、50倍の倒立型顕微鏡で観察し、アリザリンレッドSの沈着を測定した結果が、図8である。 図8にあるように、クリプトクロームの発現を抑制するsiRNAを添加することで、レーザ光が照射された円形状の部分のKUSA−A1細胞であってもアリザリンレッドSで染色されなかった。

    (実験例4)クリプトクロームの細胞内局在性1. 細胞の調製 間葉系幹細胞株のKUSA−A1細胞は、10%の牛胎児血清(FBS)が入ったDMEM培地で75cm の培養フラスコで培養した。 対数増殖期の細胞を、レーザ照射の前日に回収した。 回収は、0.25%トリプシンで培養フラスコ底面からKUSA−A1細胞を浮遊させ、血球算定盤を用いて細胞数を計数し、10%FBS入りのDMEM培地を用いて1x10 個/mLに調製し細胞浮遊液を得た。 この細胞浮遊液を、96ウェルマルチプレート(ファルコン、日本BD製)に、100μL/ウェル分注し、37℃、5%CO 環境下のCO インキュベータで一晩培養した。

    2. レーザ照射 レーザ照射の30分前に、前日にKUSA−A1細胞を分注した96ウェルマルチプレートをCO インキュベータから取り出し、200nMのデキサメタゾン(和光純薬製、カタログ番号047−18863)を含有した10%FBS入りDMEM培地を100μL/ウェル添加し、デキサメタゾン濃度を100nMに調整し、生物時計関連遺伝子の発現をリセットした。 30分後、GaN系レーザ照射装置(住友電気工業株式会社製VLM500)を用いて、パワー密度を100mW/cm 、200mW/cm 、300mW/cm にし、おのおの3ウェルずつ、3分間照射した。

    3. 細胞培養 レーザ光照射終了後、各ウェルに入っているデキサメタゾン入りの培地をキャピラリーで吸引除去し、骨芽細胞分化誘導培地(10%FBS入りDMEM培地に10nMのデキサメタゾン、2mMのβ―グリセロールリン酸、50μg/mLのアスコルビン酸を添加したもの)を200μL/ウェル分注し、37℃、5%CO 環境下で5日間培養した。

    4. 骨芽細胞へと分化誘導した細胞におけるクリプトクローム免疫染色と細胞核染色 5日培養したマルチプレートの培地を除去し、PBSで洗浄後、4%パラホルムアルデヒド−PBSで50μL/ウェル添加し、5分間静置することで細胞を固定した。 固定した細胞を蒸留水で4倍に希釈したブロックエース溶液(大日本製薬製)を100μL/ウェル分注し、室温で1時間ブロッキングした。 0.1%のTween20が入ったPBSで固定細胞を3回洗浄したのち、クリプトクロームに特異的な抗体(ウサギ由来、anti mouse cryptochrome1、Alpha Diagnostic社製cry11−A)を50μL/ウェル分注し、室温で1時間反応させた。 0.1%のTween20が入ったPBSで固定細胞を3回洗浄後、Cy3化抗ウサギ抗体(フナコシ製)を50μL/ウェル分注し、さらに室温で1時間反応させた。 0.1%のTween20が入ったPBSで固定細胞を3回洗浄し、クリプトクロームを蛍光染色した。 次に、細胞核をDAPIで染色した。 なお、DAPIは、メタノールで2mg/mLに調製した液を、PBSで1000倍希釈したものを細胞に適量のせ、5分間静置した。

    二重染色した細胞を、200倍の蛍光倒立型顕微鏡で観察した。 その結果が、図9であり、レーザ光を照射しなかった細胞では、DAPIで染色された青色の核とクリプトクロームの発現が認められる赤色部が重なり合わないことから細胞質内に局在していた。 一方パワー密度100mW/cm 、200mW/cm 、300mW/cm のレーザ光を照射することで、DAPIで染色された青色の核とクリプトクロームの発現が認められる赤色部が重なり、核に移行したことを確認した。

    (実験例5)クリプトクロームの負のフィードバック制御1. 細胞の調製 間葉系幹細胞株のKUSA−A1細胞は、10%の牛胎児血清(FBS)が入ったDMEM培地で75cm の培養フラスコで培養した。 対数増殖期の細胞を、レーザ照射の前日に回収した。 回収は、0.25%トリプシンで培養フラスコ底面からKUSA−A1細胞を浮遊させ、血球算定盤を用いて細胞数を計数し、10%FBS入りのDMEM培地を用いて1x10 個/mLに調製し細胞浮遊液を得た。 この細胞浮遊液を、96ウェルマルチプレート(ファルコン、日本BD製)に、100μL/ウェル分注し、37℃、5%CO 環境下のCO インキュベータで一晩培養した。

    2. レーザ照射 レーザ照射の30分前に、前日にKUSA−A1細胞を分注した96ウェルマルチプレートをCO インキュベータから取り出し、200nMのデキサメタゾン(和光純薬製、カタログ番号047−18863)を含有した10%FBS入りDMEM培地を100μL/ウェル添加し、デキサメタゾン濃度を100nMに調整し、生物時計関連遺伝子の発現をリセットした。 30分後、GaN系レーザ照射装置(住友電気工業株式会社製VLM500)を用いて、パワー密度を100mW/cm にし、3分間照射した。

    3. 細胞培養 レーザ光照射終了後、各ウェルのデキサメタゾン入りの培地をキャピラリーで吸引除去し、骨芽細胞分化誘導培地(10%FBS入りDMEM培地に10nMのデキサメタゾン、2mMのβ―グリセロールリン酸、50μg/mLのアスコルビン酸を添加したもの)を200μL/ウェル分注し、37℃、5%CO 環境下で24時間培養した。

    4. トータルRNAの抽出 レーザ照射終了後24時間培養した細胞を回収し、RNAqueous(登録商標)キット(カタログ番号AM1912、Ambion製)を用いて、付属のインストラクション・マニュアルに従いトータルRNAを抽出した。 また、比較対照として、レーザ未照射の細胞からも同様にトータルRNAを抽出した。 なお、レーザ照射細胞から抽出したトータルRNA及びレーザ未照射の細胞から抽出したトータルRNAいずれにおいても、抽出物に混在するDNAを取り除くために、DNA分解酵素(DNaseI、タカラバイオ製、カタログ番号2215A)処理を行った。

    5. リアルタイムPCR
    リアルタイムPCR装置として、Smart Cycler II(タカラバイオ、SC200N)、PCRキットとして、SYBR ExScript RT−RCRキット(タカラバイオ製、カタログ番号RR053A)を用いてリアルタイムPCRを行った。 PCRは、専用のチューブに、上記SYBR ExScript RT−RCRキット、配列番号1のクリプトクロームのsiRNAを加えて行った。 なお、PCR開始前に15分間95℃に保持し、Taq DNAポリメラーゼを活性化した。 PCRのヒートサイクルは、94℃で15秒→56℃で30秒→72℃で30秒を40回繰り返し行い、各サイクルの伸長反応後の蛍光色素の量を測定することでPCR産物の量を測定した。 なお、レーザ照射と未照射の細胞のクリプトクロームのmRNAを正確に比較するため、各々の細胞のトータルRNA中の18Sリボゾーム蛋白質のmRNA量を求めて補正した。 さらに、レーザ照射と未照射の細胞のクリプトクロームのmRNA量は、上記補正の後、スチューデントのt検定により有意水準1%で有意差検定を行った。 その結果、図10に示されるように、レーザ照射した細胞の細胞質内のクリプトクロームのmRNAは、レーザ未照射の細胞の細胞質内のクリプトクロームのmRNAの量に比べて有意に低いことがわかり、クリプトクロームの細胞質から細胞核内への移行による負のフィードバック制御が働いていることを確認した。

    本発明の、細胞の分化誘導方法を用いることにより、間葉系幹細胞を選択的に骨芽細胞へ分化誘導させることができるので、骨移植が必要とされる患者に骨組織の再生を効率よく行うことができる。 しかも、患者にとり非侵襲な光の照射により骨芽細胞への分化誘導のスイッチを入れることができるので、患者に間葉系幹細胞を移植した後でも分化誘導を行うことができるため患者の負荷を低減できる。 この技術により、患部に効率よく光を照射する医療装置の開発にもつながり医療機器産業の発展が期待される。

    本発明で用いたレーザ光照射装置の100mW/cm

    のパワー密度で照射されるレーザ光のビーム径(a)とプロファイル(b)。

    レーザ光を照射したKUSA−A1細胞と照射しなかったKUSA−A1細胞の骨芽細胞分化誘導後におけるアリザリンレッドS染色によるカルシウムの沈着を測定した顕微鏡観察の結果である。

    レーザ光を照射したKUSA−A1細胞と照射しなかったKUSA−A1細胞の骨芽細胞分化誘導後におけるvon Kossa染色によるリン酸カルシウムの沈着を測定した顕微鏡観察の結果である。

    レーザ光を照射したKUSA−A1細胞と照射しなかったKUSA−A1細胞の骨芽細胞分化誘導後におけるアルカリホスファターゼ活性を測定した顕微鏡観察の結果である。

    レーザ光を照射したKUSA−A1細胞と照射しなかったKUSA−A1細胞の骨芽細胞分化誘導後におけるオステオカルシンの発現を測定した顕微鏡観察の結果である。

    レーザ光を照射したKUSA−A1細胞と照射しなかったKUSA−A1細胞の骨芽細胞分化誘導後における脂肪細胞へ分化した細胞数をオイルレッドO染色で測定した顕微鏡観察の結果である。

    CHO (pMAM−HSluc)細胞に種々のパワー密度のレーザ光を照射したときのルシフェラーゼ量を測定した結果である。

    レーザ光を照射したKUSA−A1細胞と照射しなかったKUSA−A1細胞において、クリプトクロームに対するsiRNA添加による、骨芽細胞分化誘導後におけるカルシウムの沈着をアリザリンレッドS染色により測定した顕微鏡観察の結果である。

    レーザ光を照射したKUSA−A1細胞と照射しなかったKUSA−A1細胞の骨芽細胞分化誘導後におけるクリプトクロームの細胞内局在性を免疫染色と核染色による二重染色法で測定した顕微鏡観察の結果である。

    レーザ照射した細胞の細胞質内のクリプトクロームのmRNAとレーザ未照射の細胞の細胞質内のクリプトクロームのmRNAの量の比較した結果を表すグラフである。

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