本発明は、樹脂組成物の硬化剤として使用することが可能なヒドラジド化合物及びその製造方法、並びにそれを用いた硬化剤、樹脂組成物及び硬化体に関する。
電子部品等の製造において、配線、部品等の高精度の位置固定を行うために、紫外線(UV)等の光照射による一次硬化により仮固定した後、加熱による二次硬化により固定する光熱硬化型の樹脂組成物が知られている。 光熱硬化型の樹脂組成物としては、一般的に、光硬化成分として(メタ)アクリル基を有する樹脂、加熱硬化成分としてエポキシ基を有する樹脂を任意の割合で配合した組成物が用いられている。 このような光熱硬化型の樹脂組成物は、例えば液晶パネルの滴下工法に使用されている。 この方法は、液晶表示セルの製造方法として適用されているものであり、一方の基板に形成された液晶シール剤の堰の内側に液晶を滴下した後、他方の基板を張り合わせて液晶表示セルを製造する方法である。 光熱硬化型の樹脂組成物を液晶パネルの滴下工法に適用した場合、照射した光が回り込まない遮光部で硬化不足が生じ、これによりシールパス、パネルはがれ、樹脂成分溶出による液晶汚染等が生じる。 さらに近年、電子部品等は、配線等のピッチがより狭く、より精細化されたことによって、配線やレイアウト等によっては、紫外線等の光が照射されにくい遮光部が増える傾向にあり、光が照射されにくい遮光部であっても、硬化不足にならない硬化剤が求められている。 光が回り込まない遮光部の硬化不足を解消する方法として、(1)一定の比表面積を有するフィラーを添加することによって、樹脂組成物中を透過する光を散乱させる方法(例えば特許文献1)、(2)高感度の光開始剤、光増感剤を樹脂組成物に添加する方法、(3)アクリル樹脂の熱硬化剤を樹脂組成物に添加し、遮光部における一次硬化の不足を、熱による二次硬化によって改善する方法、(4)エポキシ樹脂の熱硬化剤を樹脂組成物に添加し、遮光部における一次硬化の不足を、熱による二次硬化によって改善する方法が挙げられる。 しかし、(1)フィラーの光散乱による方法では、硬化距離はギャップに依存し、開口部から0.3mm以上の遮光部の硬化が難しくなることから、設計が制限されるという問題がある。 (2)高感度の光開始剤、光増感剤を添加する方法では、硬化反応時に副生される成分によって液晶が汚染されるという問題がある。 (3)アクリル樹脂の熱硬化剤を添加する方法では、熱硬化剤として、有機過酸化物が使用されており、これらの過酸化物は、液体であるため液晶への溶出が起こりやすく、汚染原因となりやすく、ブリード現象を引き起こすという問題がある。 また、有機過酸化物は、酸素によって硬化が阻害されるため、大気雰囲気中では、硬化不良になるという問題がある。 有機過酸化物系の熱硬化剤としては、例えばケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシカーボネート等が使用されている。 (4)エポキシ樹脂の熱硬化剤を添加する方法では、熱硬化剤として、アミン化合物、酸無水物、ヒドラジド化合物等が使用されている。 これらの硬化剤中、アミン化合物は、低温硬化性を有するために、速硬化性が要求される分野で多用されている。 しかし、アミン化合物は、耐湿性や電気特性に劣り、ポットライフが短いという問題がある。 酸無水物は、透明性が高いという利点があるものの、耐湿性にやや劣るという問題がある。 ここで、アミン化合物としては、例えばジエチルトリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪酸ポリアミン、脂肪族ポリアミンにエポキシ樹脂、アクリロニトリル、酸化エチレン等を付加した変性ポリアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ポリアミン等が使用されている。 また、酸無水物としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ピロメリット酸等が使用されている。 ヒドラジド化合物としては、アジピン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等の二塩基酸ヒドラジド等が使用されている。 エポキシ樹脂の熱硬化剤の中でも、ヒドラジド化合物、特に、二塩基酸ジヒドラジド化合物は、アミン化合物や酸無水物に比べて、保存安定性に優れ、硬化温度が比較的低く、硬化時間が比較的短い等の利点を有し、熱硬化剤として多用されている。 その他に、例えば光熱硬化樹脂組成物に、熱硬化剤として、平均粒子径1〜5μmの二塩基酸ジヒドラジド化合物(アジピン酸ヒドラジド;ADH)を添加することによって、加熱硬化時に硬化剤が均一にマトリックス中に取り込まれ、遮光部における硬化不良の解消等が改善されるとの提案もなされている。 しかし、二塩基酸ヒドラジド化合物に代表されるヒドラジド化合物からなる熱硬化剤は、有機化合物の単一結晶であるため、融点付近で急激に溶解して粘度低下を引き起こし、被着体を汚染する等の問題がある。 このような問題を回避するために、低温硬化性のヒドラジド化合物を用いると、液安定性が良好ではなくポットライフに問題があり、逆にポットライフの良いヒドラジド化合物では低温硬化性に乏しい。
本発明の課題は、不飽和結合を有する樹脂に対して高い活性を有し、硬化温度の低温化及び硬化時間の短縮が可能となり、ポットライフ的にも安定である、熱硬化剤として有用なヒドラジド化合物及びその製造方法、並びにそれを用いた硬化剤、樹脂組成物及び硬化体を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、分子内に少なくとも1個のヒドラジド基を有する結晶性ヒドラジド化合物に、この結晶性ヒドラジド化合物と錯体形成可能な金属元素を反応させることによって、不飽和結合を有する樹脂に対して高い活性を有し、かつ均一に反応することが可能であり、硬化温度の低温化及び硬化時間の短縮が可能であり、ポットライフ的にも安定な硬化剤として有用なヒドラジド化合物が得られることを見出した。 すなわち、本発明は、以下のとおりである。 [1]分子内に少なくとも1個のヒドラジド基を有する結晶性ヒドラジド化合物と、該結晶性ヒドラジド化合物と錯体形成可能な金属元素とを含むヒドラジド化合物。 [2]CuKα線(波長1.541Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の5.5〜7.5°の範囲にピークを有する、前記[1]に記載のヒドラジド化合物。 [3]融点が60〜240℃である、前記[1]又は[2]に記載のヒドラジド化合物。 [4]金属元素が、アルミニウム、チタン、スズ、ジルコニウム、亜鉛、鉄、マグネシウム、コバルト、ニッケル、ビスマス、モリブデン、銅、アンチモン、バリウム、ホウ素、マンガン、インジウム、セシウム、ホルミウム、イットリウム、シリコン、カルシウム、銀、ゲルマニウム、 及び金よりなる群から選択される少なくとも1種である、前記[1]〜[3] のいずれか1つに記載のヒドラジド化合物。 [5]金属元素の含有量が、結晶性ヒドラジド化合物と金属元素との合計に対して、0.1〜20.0質量%である、前記[1]〜[4]のいずれか1つに記載のヒドラジド化合物。 [6]2種以上の結晶性ヒドラジド化合物を含む、前記[1]〜[5]のいずれか1つに記載のヒドラジド化合物。 [7]二塩基酸ヒドラジド化合物を含む、前記[1]〜[6]のいずれか1つに記載のヒドラジド化合物。 [8]2種以上の結晶性ヒドラジド化合物が、全て二塩基酸ヒドラジドである、前記[6]に記載のヒドラジド化合物。 [9]2種以上の結晶性ヒドラジド化合物の合計に対して、1種の結晶性ヒドラジド化合物の含有量が1〜99質量%である、前記[6]又は[8]のいずれか1つに記載のヒドラジド化合物。 [10]平均粒子径が0.5〜20.0μmである、前記[1]〜[9]のいずれか1つに記載のヒドラジド化合物。 [11]前記[1]〜[10]に記載のヒドラジド化合物を含む、樹脂用硬化剤。 [12]前記[11]に記載の硬化剤と、分子内に少なくとも1個の不飽和結合を有する樹脂及び/又はエポキシ樹脂とを含む、樹脂組成物。 [13]不飽和結合を有する樹脂が、分子内に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する樹脂である、前記[12]に記載の樹脂組成物。 [14]前記[12]又は[13]に記載の樹脂組成物を硬化させてなる、硬化体。 [15]分子内に少なくとも1個のヒドラジド基を有する結晶性ヒドラジド化合物と、この結晶性ヒドラジド化合物と錯形成可能な金属元素とを加熱し、混合物を得る工程と、混合物を恒温処理する工程と、 恒温処理後に混合物を冷却して固化体を得る工程とを含む、ヒドラジド化合物の製造方法。 [16]固化体を、平均粒子径が0.5〜20.0μmの粒子状に粉砕する工程を含む、前記[1 5 ]に記載の製造方法。
本発明のヒドラジド化合物は、分子内に少なくとも1個のヒドラジド基を有する結晶性ヒドラジド化合物と、該結晶性ヒドラジド化合物と錯形成可能な金属元素を含むことによって、少なくとも一部の結晶性ヒドラジド化合物と金属元素とが錯体を形成していると推測される。 これにより、本発明のヒドラジド化合物は、不飽和結合に対して活性が高くなる。 また、本発明のヒドラジド化合物は、原料の結晶性ヒドラジド化合物よりも、融点が低くなる傾向があり、融解熱も小さくなるので、比較的低い温度で不飽和結合(例えば(メタ)アクリル基)やエポキシ基等と反応し、粘度低下や被着体の汚染を引き起こすことなく、均一に硬化し、硬化時間を短縮することができる。 このように、本発明のヒドラジド化合物は、硬化温度の低温化及び硬化時間の短縮が可能であり、不飽和結合を有する樹脂及び/又はエポキシ樹脂等の硬化剤として好適に用いることができる。 本発明のヒドラジド化合物を硬化剤として用いた樹脂組成物は、ポットライフ的にも安定しており、生産性が良好である。
本発明のヒドラジド化合物(実施例1:T1−2h)のX線回折スペクトルを示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例2:T1−5h)のX線回折スペクトルを示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例3:C3−2h)のX線回折スペクトルを示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例4:C3−2h−5Hold)のX線回折スペクトルを示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例5:E3−2h)のX線回折スペクトルを示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例6:F3−2h)のX線回折スペクトルを示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例7:G3−2h)のX線回折スペクトルを示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例8:hX3−2h)のX線回折スペクトルを示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例9:hY3−2h)のX線回折スペクトルを示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例10:hZ3−2h)のX線回折スペクトルを示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例11:S−C3−2h)のX線回折スペクトルを示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例12:DSI−111C3−2h)のX線回折スペクトルを示す。 比較例の結晶性ヒドラジド化合物(比較例1:SDH)のX線回折スペクトルを示す。 比較例の結晶性ヒドラジド化合物(比較例2:DDH)のX線回折スペクトルを示す。 比較例の結晶性ヒドラジド化合物(比較例4:N−2h−5Hold)のX線回折スペクトルを示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例1:T1−2h)のDSC曲線を示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例2:T1−5h)のDSC曲線を示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例3:C3−2h)のDSC曲線を示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例4:C3−2h−5Hold)のDSC曲線を示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例5:E3−2h)のDSC曲線を示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例6:F3−2h)のDSC曲線を示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例7:G3−2h)のDSC曲線を示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例8:hX3−2h)のDSC曲線を示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例9:hY3−2h)のDSC曲線を示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例10:hZ3−2h)のDSC曲線を示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例11:S−C3−2h)のDSC曲線を示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例12:DSI−111C3−2h)のDSC曲線を示す。 比較例の結晶性ヒドラジド化合物(比較例1:SDH)のDSC曲線を示す。 比較例の結晶性ヒドラジド化合物(比較例2:DDH)のDSC曲線を示す。 比較例の結晶性ヒドラジド化合物(比較例3:SD55)のDSC曲線を示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例13−1:C3−b12−0h)のX線回折スペクトルを示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例13−2:C3−b12−1h)のX線回折スペクトルを示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例13−3:C3−b12−2h)のX線回折スペクトルを示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例13−4:C3−b12−3h)のX線回折スペクトルを示す。 本発明のヒドラジド化合物(原料混合、T1−b5−0h 、 T1−b5−1h、T1−b5−2h、T1−b5−4h、T1−b5−5h)のFT−IRを示す。 本発明のヒドラジド化合物(実施例1:T1−2h)製造時に放出されたガスの 1 H−NMRを示す。 本発明の樹脂組成物(実施例15:硬化剤T1−2h)のDSC曲線を示す。 本発明の樹脂組成物(実施例16:硬化剤T1−5h)のDSC曲線を示す。 比較例の樹脂組成物(比較例4:硬化剤SD55)のDSC曲線を示す。 本発明の樹脂組成物(実施例17:硬化剤T1−2h)のDSC曲線を示す。 本発明の樹脂組成物(実施例18:硬化剤T1−5h)のDSC曲線を示す。 比較例の樹脂組成物(比較例5:硬化剤SD55)のDSC曲線を示す。 本発明の樹脂組成物(実施例19:硬化剤T1−2h)のDSC曲線を示す。 本発明の樹脂組成物(実施例20:硬化剤T1−5h)のDSC曲線を示す。 比較例の樹脂組成物(比較例6:硬化剤SD55)のDSC曲線を示す。
本発明のヒドラジド化合物は、分子内に少なくとも1個のヒドラジド基を有する結晶性ヒドラジド化合物と、この結晶性ヒドラジド化合物と錯体形成可能な金属元素を含む。 結晶性ヒドラジド化合物は、結晶性を有し、分子内に少なくとも1個のヒドラジド基を有するものであれば特に限定されず、分子内に1個のヒドラジド基を有する一塩基酸ヒドラジド、分子内に2個のヒドラジド基を有する二塩基酸ヒドラジド、分子内に3個のヒドラジド基を有する三塩基酸ヒドラジド、及び分子内に4個以上のヒドラジド基を有する多官能ヒドラジドを用いることができる。 中でも、耐熱性の観点から多官能ヒドラジド化合物を用いることが好ましい。 結晶性ヒドラジド化合物は、1種の結晶性ヒドラジド化合物を単独で用いてもよく、2種以上の結晶性ヒドラジド化合物を任意に組み合わせて用いてもよい。 結晶性ヒドラジド化合物の任意の組み合わせとしては、例えば1種の一塩基酸ヒドラジド化合物を単独で使用してもよく、2種以上の一塩基酸ヒドラジド化合を組み合わせて使用してもよく、1種の二塩基酸ヒドラジド化合物を単独で使用してもよく、一塩基酸ヒドラジド化合物と二塩基酸ヒドラジド化合物とを組み合わせて使用してもよく、2種以上の二塩基酸ヒドラジド化合物を組み合わせて使用してもよく、一塩基酸ヒドラジド化合物と、二塩基酸ヒドラジド化合物と、三塩基酸ヒドラジド化合物を組み合わせて使用してもよい。 中でも、2種以上の結晶性ヒドラジド化合物を組み合わせて使用することによって融点が低くなることから、単独の場合と比較し恒温処理の温度調節が行いやすい。 2種以上の結晶性ヒドラジド化合物を用いる場合は、2種以上の結晶性ヒドラジド化合物の合計量に対して、1種の結晶性ヒドラジド化合物の含有量が、好ましくは1〜99質量%、より好ましくは10〜90質量%であり、さらに好ましくは30〜70質量%である 結晶性ヒドラジド化合物として、例えば一般式(1)
(式中、Rは、水素原子、アルキル基、或いは置換又は非置換のアリール基を示す。)で表される一塩基酸モノヒドラジドが挙げられる。 Rで示されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜12の直鎖状アルキル基、又はシクロヘキサン基等の炭素数3〜12のシクロアルキル基等が挙げられる。 アリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。 置換基としては、例えば、水酸基、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、iso−ブチル基等の炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基等が挙げられる。 一般式(1)で表される一塩基酸ヒドラジドとして、具体的には、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、ペンタン酸ヒドラジド、ラウリル酸ヒドラジド、シクロヘキサンカルボヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、p−ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド、ナフトエ酸ヒドラジド等が挙げられる。 その他の一塩基酸ヒドラジドとして、具体的には、ベンゼンスルホノヒドラジドが挙げられる。 結晶性ヒドラジド化合物として、例えば一般式(2)
(式中、Aは、置換又は非置換のアルキレン基、置換又は非置換のアリーレン基、或いはオキソ基を示し、nは0〜18の整数を示す。) で表される二塩基酸ジヒドラジドが挙げられる。 Aで示されるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基等の炭素数1〜12の直鎖状アルキレン基等が挙げられる。 アルキレン基の置換基としては、例えば、水酸基等が挙げられる。 アリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フェナントリレン基等が挙げられる。 アリーレン基の置換基としては、上記アリール基の置換基と同様のものが挙げられる。 一般式(2)で表される二塩基酸ヒドラジドとしては、具体的には、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデンカン二酸ジヒドラジド、ヘキサデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド等が挙げられる。 その他の二塩基酸ヒドラジドとして、具体的には、カルボヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド、1,4−ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4'−ビスベンゼンジヒドラジド、ハイドロキノンジグリコール酸ジヒドラジド、レゾルシノールジグリコール酸ジヒドラジド、カテコールジグリコール酸ジヒドラジド、4,4'−エチリデンビスフェノール−ジグリコール酸ジヒドラジド、4,4'−ビニリデンビスフェノール−ジグリコール酸ジヒドラジド等が挙げられる。 三塩基酸ヒドラジドとしては、例えば、1,3,5−トリス(2−ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート等の1,3,5−トリス(2−ヒドラジノカルボニルアルキル)イソシアヌレート等が挙げられる。 多官能ヒドラジドとしては、例えば、ポリアクリル酸ヒドラジド等が挙げられる。 金属元素として、好ましくは、アルミニウム、チタン、スズ、ジルコニウム、亜鉛、鉄、マグネシウム、コバルト、ニッケル、ビスマス、モリブデン、銅、アンチモン、バリウム、ホウ素、マンガン、インジウム、セシウム、ホルミウム、イットリウム、シリコン、カルシウム、銀、ゲルマニウム、及び金よりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。 金属元素として、より好ましくは、アルミニウム、チタン、スズ、ジルコニウム、亜鉛、鉄、マグネシウム、コバルト、ニッケル、ビスマス、モリブデン、銅、アンチモン、バリウム及びホウ素よりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。 金属元素は、1種又は2種以上を任意に組み合わせて用いることができる。 また、金属元素は、金属酸化物、金属水酸化物の形態のものを用いることができる。 金属元素の含有量は、結晶性ヒドラジド化合物と金属元素との合計量に対して、好ましくは0.1〜20.0質量%、より好ましくは1.0〜10.0質量%である。 金属元素の含有量が、結晶性ヒドラジド化合物と金属元素との合計に対して、0.1〜20.0質量%であると、金属元素と結晶性ヒドラジド化合物が良好な錯体を形成すると推測される。 結晶性ヒドラジド化合物の種類、数、比率と、錯体形成可能の元素の種類、数、比率は、硬化させるべき樹脂組成物の種類、用途、要求される硬化時間、硬化温度等の各種の条件に応じて適宜決定することができる。 次に、本発明のヒドラジド化合物が示す物性について説明する。 [X線回折スペクトル] 本発明のヒドラジド化合物は、結晶性ヒドラジド化合物が配位子となって、金属イオンと配位結合し、少なくとも一部の結晶性ヒドラジド化合物と金属元素が錯体を形成していると推測される。 結晶性ヒドラジド化合物と金属元素が厳密に錯体を形成しているかどうかは明らかではないが、本発明のヒドラジド化合物と、原料の1種類の結晶性ヒドラジド化合物を比較すると、CuKα線に対するX線回折スペクトルに対して、ブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の10°以下の最大強度ピークが現われる範囲が異なる。 原料の1種類の結晶性ヒドラジド化合物は、CuKα線に対するX線回折スペクトルに対して、ブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の4.0〜5.0°の範囲にピークが現われる。 一方、本発明のヒドラジド化合物は、CuKα線に対するX線回折スペクトルに対して、ブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の5.5〜7.5°の範囲にピークが現われる。 本発明のヒドラジド化合物は、原料の1種類の結晶性ヒドラジド化合物と比較して、ブラッグ角2θの10°以下の最大強度ピークが格子間距離の短くなる方向にシフトしている。 このことから、少なくとも一部の結晶性ヒドラジド化合物と金属元素は錯体を形成していると推測される。 本発明のヒドラジド化合物は、CuKα線(波長1.541Å)に対するX線回折スペクトルに対して、ブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の5.5〜7.5°の範囲にピークが現われる、結晶変態を有する化合物である。 X線回折スペクトルは、例えばX線回折装置(製品名:XRD−6100、島津製作所社製)を用いて測定を行う。 なお、金属元素を含んでいない結晶性ヒドラジド化合物も、2種類以上の結晶性ヒドラジド化合物を含むものは、1種類の結晶性ヒドラジド化合物のピークと比べて、ブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の10°以下の最大強度ピークがブラッグ角度の5.5°の方向にシフトする傾向がある。 本発明のヒドラジド化合物は、CuKα線(波長1.541Å)に対するX線回ペクトルに対して、ブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の20.0〜25.0°の範囲に、原料の1種類の結晶性ヒドラジド化合物と比較して、ブロードなピークが現われる。 この結果から、本発明のヒドラジド化合物は、金属元素と結晶性ヒドラジド化合物の一部が錯体を形成すると共に、非結晶状態と結晶状態が混在している部分結晶化合物であると考えられる。 [融点] 本発明のヒドラジド化合物は、好ましくは60〜260℃、より好ましくは60〜230℃、さらに好ましくは60〜220℃の範囲に融点を有する。 ヒドラジド化合物の融点は、例えば示差走査熱量測定装置(Pyris6DSC、パーキンエルマー社製、以下、「DSC」と称する。)を用いて、融解による吸熱の最大ピーク温度を融点として求める。 本発明のヒドラジド化合物は、金属元素を含んでいない原料の結晶性ヒドラジド化合物と比較して、融点が低くなる傾向がある。 [融解熱] さらに本発明のヒドラジド化合物は、金属元素を含んでいない原料の結晶性ヒドラジド化合物と比較して、融解熱が15%以上、小さくなる。 本発明のヒドラジド化合物は、融解熱が原料の結晶性ヒドラジド化合物よりも小さくなるため、このヒドラジド化合物を不飽和結合を有する樹脂(例えば(メタ)アクリル樹脂)やエポキシ樹脂等の熱硬化剤として用いた場合に、硬化温度を低温化し、硬化時間の短縮化することができる。 なお、融解熱は、融点を測定した装置と同様の装置を用いて、融解による吸熱ピークのピーク面積を融解熱(J/g)として求める。 [ヒドラジド化合物の形態] 本発明のヒドラジド化合物は、粉砕した粒子状の形態を有することが好ましい。 例えば、ヒドラジド化合物を粉砕して、粒子状の形態にすることによって、このヒドラジド化合物を熱硬化剤として用いた場合に、樹脂との反応性をより高めて、硬化時間をより短縮することが可能である。 ヒドラジド化合物の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、本発明のヒドラジド化合物を樹脂用硬化剤として用いる場合は、平均粒子径が、好ましくは0.5〜20.0μmであり、より好ましくは1.0〜10.0μmの粒子状である。 ヒドラジド化合物の平均粒子径が0.5μm未満では、保存安定性が低下する可能性があり、ヒドラジド化合物を熱硬化剤として含む樹脂組成物の粘度が高くなるので好ましくない。 また、平均粒子径が20.0μmを超えると、反応性が低くなり、熱硬化剤として用いた場合に、不均一な硬化状態となるので、硬化体の耐熱性、耐湿性が低下する場合があり好ましくない。 なお、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置によって求めることができ、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定における質量平均値D 50 (D 50は累積質量が50%になるときの粒子径、すなわちメジアン径)として測定した値である。 <硬化剤> 本発明のヒドラジド化合物は、少なくとも一部の結晶性ヒドラジド化合物と金属元素が錯体を形成していると推測されるため、不飽和結合を有する樹脂に対して高い活性を有する。 したがって、本発明のヒドラジド化合物は、不飽和結合を有する樹脂に対して優先的に反応する。 また、本発明のヒドラジド化合物は、原料の結晶性ヒドラジド化合物と比較して、融点が低下する傾向にあり、融解熱が小さくなるため、比較的低い温度で不飽和結合を有する樹脂、エポキシ樹脂とも反応し、粘度低下、被着体への汚染、ブリード現象等を引き起こすことなく、短い硬化時間で均一に硬化させることができる。 このように本発明のヒドラジド化合物は、不飽和結合を有する樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化剤として好適に用いることができ、硬化温度の低温化及び硬化時間の短縮化が可能であり、液安定性も高いため、ポットライフ的に安定であり、生産性が高い。 本発明のヒドラジド化合物を樹脂用硬化剤として用いる場合は、1種又は2種以上を混合して用いてもよい。 本発明のヒドラジド化合物を樹脂硬化剤として用いる場合は、特に限定されない(目的によって異なる)が、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜80質量部、より好ましくは1〜50質量部である。 <樹脂組成物> 樹脂組成物は、本発明のヒドラジド化合物を含む硬化剤と、分子内に少なくとも1個の不飽和結合を有する樹脂及び/又はエポキシ樹脂を含むものであり、例えば、分子内に少なくとも1個の不飽和結合を有する樹脂又はエポキシ樹脂の1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよく、不飽和結合含有エポキシ樹脂であってもよい。 エポキシ樹脂としては、公知のものを使用することができ、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪属エポキシ樹脂、グリシジルエステル系樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂等が挙げられる。 これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等を用いることが好ましい。 グリシジル基を有する樹脂を(メタ)アクリル酸で変性したエポキシ(メタ)アクリル酸を用いてもよい。 樹脂組成物は、分子内に少なくとも1個の不飽和結合を有する樹脂を含むことが好ましい。 分子内に少なくとも1個の不飽和結合を有する樹脂としては、例えば、スチレン誘導体、エチレン誘導体、マレイミド誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体等が挙げられる。 中でも、分子内に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有するアクリル酸誘導体を用いることが好ましい。 アクリル酸誘導体としては、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−4−ヒドロキシブチル等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシルのような脂環式アルコールの(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。 ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸の両方を意味する。 エポキシ樹脂と、分子内に少なくとも1個の不飽和結合を有する樹脂との配合量は、組成物を硬化させた硬化体の目的に応じて適宜決定することが可能である。 分子内に少なくとも1個の不飽和結合を有する樹脂が、分子内に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有するアクリル酸誘導体である場合は、エポキシ基1当量に対して、(メタ)アクリロイル基が0.1〜9.0当量になるように配合することが好ましく、(メタ)アクリロイル基が0.3〜4.0当量になるように配合することがより好ましい。 樹脂組成物には、上記樹脂以外に必要に応じて、シリコーン樹脂、ウレア樹脂、イミド樹脂、ガラス等を含有してもよい。 また、樹脂組成物には、必要に応じて各種添加剤として、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、塗面改良剤、熱重合禁止剤、レベリング剤、界面活性剤、着色剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、フィラー、無機粒子、老化防止剤、濡れ性改良剤、帯電防止剤等を配合してもよい。 本発明のヒドラジド化合物を硬化剤として含む樹脂組成物は、樹脂組成物の液体安定性も良好であり、25℃での1週間の粘度の変化率(液安定性)が小さくなり、ポットライフ的にも安定である。 液安定性の測定方法としては、例えばRE−105U型粘度計(東機産業社製)を用いて、この粘度計に3°×R7.7コーンロータを取り付け、測定対象となる樹脂組成物0.1mlを該粘度計にセットし、2.5rpmにて測定を行い、測定対象を25℃で1週間静置した後、再び粘度を測定して、1週間静置前後の粘度の変化率を算出する方法が挙げられる。 <硬化体> 本発明の樹脂組成物を硬化させた硬化体は、硬化温度の低温化、硬化時間の短縮化、及びポットライフ的に安定であるので、生産性が良好である。 次に、本発明のヒドラジド化合物の製造方法について説明する。 本発明のヒドラジド化合物の製造方法は、分子内に少なくとも1個のヒドラジド基を有する結晶性ヒドラジド化合物と、この結晶性ヒドラジド化合物と錯形成可能な金属元素とを加熱し、混合物を得る工程と、混合物を恒温処理する工程と、混合物を冷却して固化体を得る工程とを含む。 溶融混合物を得る工程として、まず、分子内に少なくとも1個のヒドラジド基を有する結晶性ヒドラジド化合物と、この結晶性ヒドラジド化合物と錯体形成可能な金属元素とを加熱し、ほぼ液体の状態となるように、結晶性ヒドラジド化合物を溶解して、混合物を得る。 結晶性ヒドラジド化合物を加熱する温度は、特に限定されないが、結晶性ヒドラジド化合物がほぼ液体の状態となる温度であることが好ましい。 結晶性ヒドラジド化合物がほぼ液体の状態となる温度としては、結晶性ヒドラジド化合物の融点付近の温度、例えば結晶性ヒドラジド化合物の融点よりも10℃程度低い温度から該融点よりも10℃程度高い温度であることが好ましい。 次に、混合物を恒温処理する工程として、混合物を、一定時間、一定の温度で恒温処理を行う。 ここで、恒温処理とは、混合物を一定の温度(誤差範囲±10℃)で一定の時間保持することを意味する。 恒温処理する温度は、特に限定されないが、好ましくは100〜280℃、より好ましくは130〜250℃である。 恒温処理する温度が高すぎると(例えば280℃を超える温度)、錯体形成が急激に進み、制御し難くなる。 一方、恒温処理する温度が低すぎると(例えば100℃未満の温度)、恒温処理時間が長くなり、生産効率が低くなってしまうため好ましくない。 恒温処理する時間は、特に限定されないが、好ましくは0.01〜10時間である。 恒温処理する時間は、恒温処理する温度によって異なり、温度が高ければ処理時間は短くなり、温度が低ければ処理時間が長くなるので、硬化剤として使用する際の使用目的等に合わせて最適な処理時間を選択することが可能である。 その後、混合物を冷却して固化体を得る。 固化体を得る工程において、冷却速度は、好ましくは0.01℃/分〜200℃/分、より好ましくは0.1℃/分〜100℃/分である。 また、冷却は多段階で行ってもよく、例えば1段階目で混合物を約200℃まで冷却し、この温度で結晶を成長させた後、2段階目で室温まで冷却してもよい。 さらに本発明のヒドラジド化合物の製造方法は、冷却して得られた固化体を粉砕し、平均粒子径が0.5〜20.0μmの粒子状に粉砕する工程を含むことが好ましい。 粉砕する方法としては、固化体は、例えば高圧粉砕機を使用して粉砕することが好ましい。 高圧粉砕機としては、例えばクロスジェットミル(栗源鉄工所社製)、カウンタージェットミル(ホソカワミクロン社製)、ナノジェットマイザー(アイシンナノテクノロジーズ社製)等が挙げられる。 本発明の製造方法によって製造したヒドラジド化合物について、FT−IR測定装置(例えばSpectrum one、パーキンエルマー社製)でFT−IRのチャートを測定すると、恒温処理時間が長くなるほど、波長3300cm −1付近のNH伸縮に由来するピークは小さくなる。 一方、波長2800〜3000cm −1の範囲のCH伸縮に由来するピークは、ほとんど変化が見られない。 また、ヒドラジド化合物の製造時には、ガスが発生する。 このガスを捕集し、 1 H−NMR測定装置(例えばJNM−ECA600、日本電子社製)で1 H−NMRを測定すると、2.9592ppmにピークが現れる。 このピークは、水(H 2 O)を表すピークである。 本発明のヒドラジド化合物は、FT−IRにより、NH伸縮に由来するピークの大きさが減少し、さらに1 H−NMRにより、ヒドラジド化合物の製造時に放出されるガス中に水(H 2 O)が発生していることが確認できるため、少なくとも一部の結晶性ヒドラジド化合物と金属元素とが錯体を形成していると推測できる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。 <2種類の結晶性ヒドラジド化合物及び金属元素> 〔実施例1〕 セバシン酸ジヒドラジド(SDH、大塚化学社製)500重量部と、ドデカン二酸ジヒドラジド(DDH、大塚化学社製)500重量部と、酸化チタン(AEROXIDE P25、日本アエロジル社製)20重量部(チタンの含有量が1.2質量%)を5000mlのセパラブルフラスコに入れ、200℃で加熱し、2種の結晶性ヒドラジド化合物をほぼ液体の状態となるように溶解させた混合物を得た。 この混合物を200℃で2時間恒温処理を行った。 その後、混合物を200℃に予備加熱したパイレックス(登録商標)製のガラストレーに移し、200℃のオーブンにセットした。 そして、混合物を、オーブン中で、1.0℃/分程度の冷却速度で室温まで冷却して、固化体を得た。 室温まで完全に冷却した固化体をカッターミル(オリエント社製)で粗粉砕し、目開き500μmふるいにかけて通過したものを、最終的に高圧粉砕機(商品名:ナノジェットマイザー、アイシンナノテクノロジース社製)で粉砕し、平均粒子径2.8μmのヒドラジド化合物(以下、実施例1のヒドラジド化合物を「T1−2h」と称する。)を製造した。 〔実施例2〕 セバシン酸ジヒドラジド(SDH、大塚化学社製)500重量部と、ドデカン二酸ジヒドラジド(DDH、大塚化学社製)500重量部と、酸化チタン(AEROXIDE P25、日本アエロジル社製)20重量部(チタンの含有量が1.2質量%)を5000mlのセパラブルフラスコに入れ、200℃で加熱し、2種の結晶性ヒドラジド化合物をほぼ液体の状態となるように溶解させた混合物を得た。 この混合物を200℃で5時間恒温処理を行った。 その後、混合物を200℃に予備加熱したパイレックス(登録商標)製のガラストレーに移し、200℃のオーブンにセットした。 そして、溶融混合物を、オーブン中で、1.0℃/分程度の冷却速度で室温まで冷却して、固化体を得た。 室温まで完全に冷却した固化体をカッターミル(オリエント社製)で粗粉砕し、最終的に高圧粉砕機(商品名:ナノジェットマイザー、アイシンナノテクノロジース社製)で粉砕し、平均粒子径3.4μmのヒドラジド化合物(以下、実施例2のヒドラジド化合物を「T1−5h」と称する。)を製造した。 〔実施例3〕 セバシン酸ジヒドラジド(SDH、大塚化学社製)500重量部と、ドデカン二酸ジヒドラジド(DDH、大塚化学社製)500重量部と、酸化アルミニウム(AEROXIDE AluC、日本アエロジル社製)50重量部(アルミニウムの含有量が2.5質量%)を5000mlのセパラブルフラスコに入れ、200℃で加熱し、2種の結晶性ヒドラジド化合物をほぼ液体の状態となるように溶解させた混合物を得た。 この混合物を200℃で2時間恒温処理を行った。 その後、混合物を200℃に予備加熱したパイレックス(登録商標)製のガラストレーに移し、200℃のオーブンにセットした。 そして、溶融混合物を、オーブン中で、1.0℃/分程度の冷却速度で室温まで冷却して、固化体を得た。 室温まで完全に冷却した固化体をカッターミル(オリエント社製)で粗粉砕し、最終的に高圧粉砕機(商品名:ナノジェットマイザー、アイシンナノテクノロジース社製)で粉砕し、平均粒子径2.5μmのヒドラジド化合物(以下、実施例3のヒドラジド化合物を「C3−2h」と称する。)を製造した。 〔実施例4〕 セバシン酸ジヒドラジド(SDH、大塚化学社製)500重量部と、ドデカン二酸ジヒドラジド(DDH、大塚化学社製)500重量部と、酸化アルミニウム(AEROXIDE AluC、日本アエロジル社製)50重量部(アルミニウムの含有量が2.5質量%)を5000mlのセパラブルフラスコに入れ、200℃で加熱し、2種の結晶性ヒドラジド化合物をほぼ液体の状態となるように溶解させた混合物を得た。 この混合物を200℃で2時間恒温処理を行った。 その後、混合物を200℃に予備加熱したパイレックス(登録商標)製のガラストレーに移し、200℃のオーブンにセットした。 そして、溶融混合物を、オーブン中で、200〜180℃まで1.0℃/分程度の冷却速度で冷却し、180℃で5時間、結晶を成長させた。 さらに、室温まで1.0℃/分の冷却速度で冷却して、固化体を得た。 室温まで完全に冷却した固化体をカッターミル(オリエント社製)で粗粉砕し、最終的に高圧粉砕機(商品名:ナノジェットマイザー、アイシンナノテクノロジース社製)で粉砕し、平均粒子径2.3μmのヒドラジド化合物(以下、実施例4のヒドラジド化合物を「C3−2h−5Hold」と称する。)を製造した。 〔実施例5〕 セバシン酸ジヒドラジド(SDH、大塚化学社製)500重量部と、ドデカン二酸ジヒドラジド(DDH、大塚化学社製)500重量部と、酸化亜鉛(ZnO、シーアイ化成社製)50重量部(亜鉛の含有量が3.8質量%)を5000mlのセパラブルフラスコに入れ、200℃で加熱し、2種の結晶性ヒドラジド化合物をほぼ液体の状態となるように溶解させた混合物を得た。 この混合物を200℃で2時間恒温処理を行った。 その後、混合物を200℃に予備加熱したパイレックス(登録商標)製のガラストレーに移し、200℃のオーブンにセットした。 そして、溶融混合物を、オーブン中で、1.0℃/分程度の冷却速度で室温まで冷却して、固化体を得た。 室温まで完全に冷却した固化体をカッターミル(オリエント社製)で粗粉砕し、最終的に高圧粉砕機(商品名:ナノジェットマイザー、アイシンナノテクノロジース社製)で粉砕し、平均粒子径4.3μmのヒドラジド化合物(以下、実施例5のヒドラジド化合物を「E3−2h」と称する。)を製造した。 〔実施例6〕 セバシン酸ジヒドラジド(SDH、大塚化学社製)500重量部と、ドデカン二酸ジヒドラジド(DDH、大塚化学社製)500重量部と、酸化スズ(SnO 2 、シーアイ化成社製)50重量部(スズの含有量が3.7質量%)を5000mlのセパラブルフラスコに入れ、200℃で加熱し、2種の結晶性ヒドラジド化合物をほぼ液体の状態となるように溶解させた混合物を得た。 この混合物を200℃で2時間恒温処理を行った。 その後、混合物を200℃に予備加熱したパイレックス(登録商標)製のガラストレーに移し、200℃のオーブンにセットした。 そして、溶融混合物を、オーブン中で、1.0℃/分程度の冷却速度で室温まで冷却して、固化体を得た。 室温まで完全に冷却した固化体をカッターミル(オリエント社製)で粗粉砕し、最終的に高圧粉砕機(商品名:ナノジェットマイザー、アイシンナノテクノロジース社製)で粉砕し、平均粒子径3.5μmのヒドラジド化合物(以下、実施例6のヒドラジド化合物を「F3−2h」と称する。)を製造した。 〔実施例7〕 セバシン酸ジヒドラジド(SDH、大塚化学社製)500重量部と、ドデカン二酸ジヒドラジド(DDH、大塚化学社製)500重量部と、酸化ビスマス(酸化ビスマスA、新日本金属社製)50重量部(ビスマスの含有量が4.3質量%)を5000mlのセパラブルフラスコに入れ、200℃で加熱し、2種の結晶性ヒドラジド化合物をほぼ液体の状態となるように溶解させた混合物を得た。 この混合物を200℃で2時間恒温処理を行った。 その後、混合物を200℃に予備加熱したパイレックス(登録商標)製のガラストレーに移し、200℃のオーブンにセットした。 そして、溶融混合物を、オーブン中で、1.0℃/分程度の冷却速度で室温まで冷却して、固化体を得た。 室温まで完全に冷却した固化体をカッターミル(オリエント社製)で粗粉砕し、最終的に高圧粉砕機(商品名:ナノジェットマイザー、アイシンナノテクノロジース社製)で粉砕し、平均粒子径2.6μmのヒドラジド化合物(以下、実施例7のヒドラジド化合物を「G3−2h」と称する。)を製造した。 〔実施例8〕 セバシン酸ジヒドラジド(SDH、大塚化学社製)500重量部と、ドデカン二酸ジヒドラジド(DDH、大塚化学社製)500重量部と、水酸化コバルト(田中化学研究所社製)50重量部(コバルトの含有量が2.0質量%)を5000mlのセパラブルフラスコに入れ、200℃で加熱し、2種の結晶性ヒドラジド化合物をほぼ液体の状態となるように溶解させた混合物を得た。 この混合物を200℃で2時間恒温処理を行った。 その後、混合物を200℃に予備加熱したパイレックス(登録商標)製のガラストレーに移し、200℃のオーブンにセットした。 そして、溶融混合物を、オーブン中で、1.0℃/分程度の冷却速度で室温まで冷却して、固化体を得た。 室温まで完全に冷却した固化体をカッターミル(オリエント社製)で粗粉砕し、最終的に高圧粉砕機(商品名:ナノジェットマイザー、アイシンナノテクノロジース社製)で粉砕し、平均粒子径3.3μmのヒドラジド化合物(以下、実施例8のヒドラジド化合物を「hX3−2h」と称する。)を製造した。 〔実施例9〕 セバシン酸ジヒドラジド(SDH、大塚化学社製)500重量部と、ドデカン二酸ジヒドラジド(DDH、大塚化学社製)500重量部と、水酸化ニッケル(田中化学研究所社製)50重量部(ニッケルの含有量が2.2質量%)を5000mlのセパラブルフラスコに入れ、200℃で加熱し、2種の結晶性ヒドラジド化合物をほぼ液体の状態となるように溶解させた混合物を得た。 この混合物を200℃で2時間恒温処理を行った。 その後、混合物を200℃に予備加熱したパイレックス(登録商標)製のガラストレーに移し、200℃のオーブンにセットした。 そして、溶融混合物を、オーブン中で、1.0℃/分程度の冷却速度で室温まで冷却して、固化体を得た。 室温まで完全に冷却した固化体をカッターミル(オリエント社製)で粗粉砕し、最終的に高圧粉砕機(商品名:ナノジェットマイザー、アイシンナノテクノロジース社製)で粉砕し、平均粒子径2.6μmのヒドラジド化合物(以下、実施例9のヒドラジド化合物を「hY3−2h」と称する。)を製造した。 〔実施例10〕 セバシン酸ジヒドラジド(SDH、大塚化学社製)500重量部と、ドデカン二酸ジヒドラジド(DDH、大塚化学社製)500重量部と、水酸化ジルコニウム(水酸化ジルコニウム999−D、新日本金属社製)50重量部(ジルコニウムの含有量が2.6質量%)を5000mlのセパラブルフラスコに入れ、200℃で加熱し、2種の結晶性ヒドラジド化合物をほぼ液体の状態となるように溶解させた混合物を得た。 この混合物を200℃で2時間恒温処理を行った。 その後、混合物を200℃に予備加熱したパイレックス(登録商標)製のガラストレーに移し、200℃のオーブンにセットした。 そして、溶融混合物を、オーブン中で、1.0℃/分程度の冷却速度で室温まで冷却して、固化体を得た。 室温まで完全に冷却した固化体をカッターミル(オリエント社製)で粗粉砕し、最終的に高圧粉砕機(商品名:ナノジェットマイザー、アイシンナノテクノロジース社製)で粉砕し、平均粒子径2.9μmのヒドラジド化合物(以下、実施例10のヒドラジド化合物を「hZ3−2h」と称する。)を製造した。 <1種類の結晶性ヒドラジド化合物及び金属元素> 〔実施例11〕 セバシン酸ジヒドラジド(SDH、大塚化学社製)1000重量部と、酸化アルミニウム(AEROXIDE AluC、日本アエロジル社製)50重量部(アルミニウムの含有量が2.5質量%)を5000mlのセパラブルフラスコに入れ、200℃で加熱し、2種の結晶性ヒドラジド化合物をほぼ液体の状態となるように溶解させた混合物を得た。 この混合物を200℃で2時間恒温処理を行った。 その後、混合物を200℃に予備加熱したパイレックス(登録商標)製のガラストレーに移し、200℃のオーブンにセットした。 そして、溶融混合物を、オーブン中で、1.0℃/分程度の冷却速度で室温まで冷却して、固化体を得た。 室温まで完全に冷却した固化体をカッターミル(オリエント社製)で粗粉砕し、最終的に高圧粉砕機(商品名:ナノジェットマイザー、アイシンナノテクノロジース社製)で粉砕し、平均粒子径3.4μmのヒドラジド化合物(以下、実施例11のヒドラジド化合物を「S−C3−2h」と称する。)を製造した。 <3種類の結晶性ヒドラジド化合物及び金属元素> 〔実施例12〕 セバシン酸ジヒドラジド(SDH、大塚化学社製)300重量部と、ドデカン二酸ジヒドラジド(DDH、大塚化学社製)300重量部と、イソフタル酸ジヒドラジド(IDH、大塚化学社製)300重量部と、酸化アルミニウム(AEROXIDE AluC、日本アエロジル社製)45重量部(アルミニウムの含有量が2.5質量%)を5000mlのセパラブルフラスコに入れ、200℃で加熱し、3種類の結晶性ヒドラジド化合物をほぼ液体の状態となるように溶解させた混合物を得た。 この混合物を200℃で2時間恒温処理を行った。 その後、混合物を200℃に予備加熱したパイレックス(登録商標)製のガラストレーに移し、200℃のオーブンにセットした。 そして、溶融混合物を、オーブン中で、1.0℃/分程度の冷却速度で室温まで冷却して、固化体を得た。 室温まで完全に冷却した固化体をカッターミル(オリエント社製)で粗粉砕し、最終的に高圧粉砕機(商品名:ナノジェットマイザー、アイシンナノテクノロジース社製)で粉砕し、平均粒子径3.0μmのヒドラジド化合物(以下、実施例12のヒドラジド化合物を「DSI−111C3−2h」と称する。)を製造した。 〔比較例1〕 市販のセバシン酸ジヒドラジド(SDH、大塚化学社製)を比較例1とした。 〔比較例2〕 市販のドデカン二酸ジヒドラジド(DDH、大塚化学社製)を比較例2とした。 〔比較例3〕 セバシン酸ジヒドラジド(SDH、大塚化学社製)500重量部と、ドデカン二酸ジヒドラジド(DDH、大塚化学社製)500重量部とを混合したもの(以下、「SD55」と称する。)を比較例3とした。 〔比較例4〕 比較例3の混合物を200℃まで加熱し、混合物を液状に融解した後、実施例4と同様にして、比較例4のヒドラジド化合物を得た。 実施例1〜12及び比較例1〜2、4のヒドラジド化合物のX線回折スペクトル、実施例1〜12及び比較例1〜3のDSC曲線、実施例1〜12の液安定性を次の方法で測定した。 また、実施例1〜12及び比較例1〜3の測定結果を液安定性、融点、融解熱を表1に示す。 [X線回折スペクトル] X線回折装置(製品名:XRD−6100、島津製作所社製)を用いて、X線出力電圧:40.0KV、X線出力電流:40.0mA、スキャンステップ幅:0.02度で測定した。 [示差走査熱量測定(DSC)] 示差走査熱量測定装置(Pyris6DSC、パーキンエルマー社製)を用いて、測定試料であるヒドラジド化合物をアルミ製の容器に封入して、融解による吸熱の最大ピーク温度を融点として求めた。 また、吸熱のピーク面積を融解熱として求めた。 [液安定性] 実施例1〜12のヒドラジド化合物を熱硬化剤として用いて、このヒドラジド化合物15重量部と、ビスフェノールA型エポキシアクリル樹脂(KR−850CRP、KSM社製)100重量部とを配合し、樹脂組成物を製造した。 なお、ビスフェノールA型エポキシアクリル樹脂は、エポキシ基1当量に対して、アクリロイル基が1当量であった。 この樹脂組成物が25℃となるように恒温処理し、RE−105U型粘度計(東機産業社製)に3°×R7.7コーンロータを取り付け、対象となる樹脂組成物0.15mlをコーンロータ内にセットし、2.5rpmで25℃の樹脂組成物の粘度を測定した。 測定対象とした樹脂組成物を25℃で1週間静置し、1週間後の該樹脂組成物の粘度を上記方法で測定し、初期の粘度から1週間後の粘度の変化率(%/week)を算出した。 測定レンジオーバーした場合は、測定不可とした。 なお、測定レンジオーバーの基準は、1,200,000mPa・sである。
図1〜12に示すように、実施例1〜12のヒドラジド化合物は、CuKα線(波長1.541Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の5.5〜7.5°の範囲にピークが現れた。 一方、図13、14に示すように、比較例1、2の原料の1種類の結晶性ヒドラジド化合物は、ブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の10°以下の最大強度ピークが、ブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の4.0〜5.0°の範囲に現われた。 実施例1〜12のヒドラジド化合物は、1種類の結晶性ヒドラジド化合物と比較して、ブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の10°以下の最大強度ピークが、格子間距離の短いブラッグ角5.5〜7.5°の範囲にシフトしている。 なお、図10においてブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の2°付近に現われているピークは散乱光であり、X線回折由来のピークではない。 図1〜12及び表1に示す結果から、実施例1〜12のヒドラジド化合物は、少なくとも一部の結晶性ヒドラジド化合物と金属元素が錯体を形成していると推測される。 また、実施例1〜12のヒドラジド化合物は、比較例1、2の原料の1種類の結晶性ヒドラジド化合物と比較して、ブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の5.5〜7.5°の範囲に現われるピークの強度が小さくなっており、全体的に非晶質の割合が多くなっていると推測される。 さらに、実施例1〜12のヒドラジド化合物は、ブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の20.0〜25.0°の範囲に現われるピークが、比較例1、2の原料の1種類の結晶性ヒドラジド化合物のピークと比較して、ブロードになっている。 この結果から、実施例1〜12のヒドラジド化合物は、少なくとも一部が錯体を形成すると共に、非晶状態と結晶状態が混在している部分結晶化合物であると考えられる。 なお、図15に示すように、比較例4の2種類の結晶性ヒドラジド化合物は、ブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の10°以下の最大強度ピークが、5.5°の方向にシフトしていたが、金属元素を含んでいないので、ヒドラジド化合物と金属元素の錯体形成に由来するピークではない。 また、図16〜図30のDSC曲線及び表1に示すように、実施例1、2、 3、5 〜7、9、10、12のヒドラジド化合物は、比較例1〜3のヒドラジド化合物と比較して融点が低くなっていた。 また、実施例1〜12のヒドラジド化合物は、比較例1〜3のヒドラジド化合物と比較して、いずれも融解熱が45%以上小さくなった。 この結果から、実施例1〜12のヒドラジド化合物を熱硬化剤として用いた場合は、硬化温度の低温化及び硬化時間の短縮化が可能である。 また、実施例1〜12のヒドラジド化合物は、恒温処理の条件(時間、温度等)を変化させることにより、液安定性の数値も変化させることが可能である。 なお、比較例4の融解熱(J/g)は、同一の恒温処理を行った実施例4よりも液安定性が向上していなかった。 ヒドラジド化合物を熱硬化剤として用いる場合は、硬化させる樹脂等によって、恒温処理の条件を変化させることにより、好適な熱硬化剤として使用し得るヒドラジド化合物を形成することが可能である。 ヒドラジド化合物を熱硬化剤として用いる場合は、液安定性が、好ましくは80%/week以下、より好ましくは50%/week以下、さらに好ましくは30%/weekとなるように、ヒドラジド化合物を形成する。 <恒温処理時間の異なるヒドラジド化合物> 〔実施例13〕 セバシン酸ジヒドラジド(SDH、大塚化学社製)500重量部と、ドデカン二酸ジヒドラジド(DDH、大塚化学社製)500重量部と、酸化アルミニウム(AEROXIDE AluC、日本アエロジル社製)50重量部(アルミニウムの含有量が2.5質量%)を5000mlのセパラブルフラスコに入れ、200℃に加熱した。 2種の結晶性ヒドラジド化合物が完全に溶融したのを確認し、溶融混合物を得た。 この溶融混合物を200℃で0〜3時間恒温処理を行い、0、1、2、3時間ごとにサンプリングし、自然冷却を行い、ヒドラジド化合物を得た。 各ヒドラジド化合物を、それぞれ、実施例1 3 −1(C3−b12−0h、図31)実施例1 3 −2(C3−b12−1h、図32)、実施例1 3 −3(C3−b12−2h、図33)、実施例1 3 −4(C3−b12−3h、図34)と称する。 〔実施例14〕 セバシン酸ジヒドラジド(SDH、大塚化学社製)500重量部と、ドデカン二酸ジヒドラジド(DDH、大塚化学社製)500重量部と、酸化チタン(AEROXIDE AluC、日本アエロジル社製)20重量部(チタンの含有量が1.2質量%)を5000mlのセパラブルフラスコに入れ、200℃に加熱した。 2種の結晶性ヒドラジド化合物が完全に溶融したのを確認し、溶融混合物を得た。 この溶融混合物を200℃で0〜5時間恒温処理を行い、0、1、2、4、5時間ごとにサンプリングし、自然冷却を行い、ヒドラジド化合物を得た。 各ヒドラジド化合物を、それぞれ、「T1−b5S−0h」、「T1−b5S−1h」、「T1−b5S−2h」、「T1−b5S−4h」、「T1−b5S−5h」と称する。 実施例13の各ヒドラジド化合物のX線回折スペクトルを上記の方法で測定した。 結果を図31〜34に示す。 実施例1 4の各ヒドラジド化合物のFT−IRを次の方法で測定した。 結果を図35に示す。 また、実施例1について、恒温処理中に発生したガスを捕集し、ガスの成分を1 H−NMRで測定した。 結果を図36に示す。 また、図示を省略したが、実施例13及び14のDSC曲線も測定した。 [FT−IR] Spectrum One(パーキンエルマー社製)を用いて、FT−IRを測定した。 [ 1 H−NMR] 1 H−NMRはJNM−ECA600(日本電子社製)を用いて、サンプル50μlをアセトン−d6(重水素化率99.9%以上)500μlに溶かしたものを25℃で測定した。 図31〜34に示すように、実施例1 3のヒドラジド化合物は、恒温処理0時間では、ブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の5.0°付近にあったピークが、恒温処理の時間が長くなるほど、ブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の5.5〜7.5°の範囲の面格子間隔の狭い方にシフトしていく傾向が確認できた。 この結果から、実施例1 3のヒドラジド化合物は、恒温処理の時間が長くなる程、結晶性ヒドラジド化合物と金属元素が錯体を形成する割合が多くなると推測される。 また、恒温処理の時間が長くなるほど、ブラッグ角度2θ(誤差2θ±0.2°)の23.0〜24.0°の範囲に現われるピーク強度が減少した。 図示を省略したが、実施例13及び14のヒドラジド化合物のDSC曲線を測定したところ、実施例13及び14のヒドラジド化合物の融解熱は、比較例1〜3の原料の結晶性ヒドラジド化合物(SDH、DDH、SD55)の融解熱と比較して、70%以下と小さくなっていた。 また、実施例13及び14のヒドラジド化合物の融解熱は、恒温処理時間が長くなるほど、融解熱が小さくなる傾向が見られた。 さらに、実施例13及び14のヒドラジド化合物の曲線パターンが恒温処理時間が長くなるほど、ブロードになる傾向があるため、全体的に非晶質の割合が多くなっていると推測される。 図35に示すように、実施例14のヒドラジド化合物は、恒温処理の時間が長くなるほど、波長3300cm −1付近のNH伸縮振動に由来するピークは小さくなる。 一方、波長2800〜3000cm −1の範囲のCH伸縮振動に由来するピークの変化はほとんど見られない。 図36に示すように、ヒドラジド化合物の製造時に発生したガスの1 H−NMRのチャートは、2.9592ppmにピークが現れる。 このピークは、水(H 2 O))を表すピークである。 図35及び図36に示す結果からも、実施例のヒドラジド化合物は、少なくとも一部の原料の結晶性ヒドラジド化合物と金属元素とが錯体を形成していると推測できる。 <樹脂組成物> 〔実施例15〕 実施例1のヒドラジド化合物(T1−2h)を熱硬化剤として用いて、このヒドラジド化合物15重量部と、ビスフェノールA型エポキシアクリル樹脂(KR−850CRP、KSM社製)100重量部とを配合し、樹脂組成物を製造した。 〔実施例16〕 実施例2のヒドラジド化合物(T1−5h)を熱硬化剤として用いたこと以外は、実施例15と同様にして、樹脂組成物を製造した。 〔比較例5〕 比較例3の2種の結晶性ヒドラジド化合物から得られたヒドラジド化合物(SD55)を硬化剤として用いたこと以外は、実施例15と同様にして、樹脂組成物を製造した。 〔実施例17〕 実施例1のヒドラジド化合物(T1−2h)を熱硬化剤として用いて、このヒドラジド化合物30重量部と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(850S、DIC社製)100重量部とを配合し、樹脂組成物を製造した。 〔実施例18〕 実施例2のヒドラジド化合物(T1−5h)を熱硬化剤として用いたこと以外は、実施例17と同様にして、樹脂組成物を製造した。 〔比較例6〕 比較例3の2種の結晶性ヒドラジド化合物から得られたヒドラジド化合物(SD55)を硬化剤として用いたこと以外は、実施例17と同様にして、樹脂組成物を製造した。 〔実施例19〕 実施例1のヒドラジド化合物(T1−2h)を熱硬化剤として用いて、このヒドラジド化合物15重量部と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(850S、DIC社製)をアクリル酸で100%変性したエポキシアクリル樹脂100重量部とを配合し、樹脂組成物を製造した。 〔実施例20〕 実施例2のヒドラジド化合物(T1−5h)を熱硬化剤として用いたこと以外は、実施例19と同様にして、樹脂組成物を製造した。 〔比較例7〕 比較例3の2種の結晶性ヒドラジド化合物から得られたヒドラジド化合物(SD55)を硬化剤として用いたこと以外は、実施例19と同様にして、樹脂組成物を製造した。 実施例15〜20及び比較例4〜6の樹脂組成物の硬化開始温度を、示差走査熱量測定装置(Pyris6DSC パーキンエルマー社製)を用いて測定した。 測定方法は上記と同様である。 結果を図37〜45に示す。 実施例15〜20及び比較例5,6の樹脂組成物の硬化開始温度を、示差走査熱量測定装置(Pyris6DSC パーキンエルマー社製)を用いて測定した。 測定方法は上記と同様である。 結果を図37〜45に示す。 図37に示すように、実施例15の樹脂組成物は105℃付近から硬化が開始し、図38に示すように、実施例16の樹脂組成物は90℃付近から硬化が開始している。 一方、図39に示すように、比較例5の樹脂組成物は、150℃付近から硬化が開始している。 実施例15、16の樹脂組成物は、硬化温度が、比較例5の樹脂組成物と比較して30℃以上の低温化し、反応性が向上していることが確認できた。 図40に示すように、実施例17の樹脂組成物は120℃付近から硬化が開始している。 また、図41に示すように、実施例18の樹脂組成物は108℃付近から硬化が開始している。 一方、図42に示すように、比較例5の樹脂組成物は、160℃付近から硬化が開始している。 実施例17、18の樹脂組成物は、硬化温度が、比較例6の樹脂組成物と比較して30℃以上の低温化し、反応性が向上していることが確認できた。 図43に示すように、実施例19の樹脂組成物は80℃付近から硬化が開始し、図44に示すように、実施例20の樹脂組成物は80℃付近から硬化が開始し、図45に示すように、比較例7の樹脂組成物は110℃付近から硬化が開始している。 実施例19、20の樹脂組成物は、硬化温度が、比較例7の樹脂組成物と比較して30℃以上の低温化し、反応性が向上していることが確認できた。 本発明のヒドラジド化合物は、恒温処理時間を変化させることによって、目的に応じて好適な液体安定性を発揮する硬化剤として使用することが可能である。 恒温処理時間によって、液体安定性の異なる効果を以下のように確認した。 〔比較例8〕 比較例3の混合物を200℃まで加熱し、混合物を液状に融解した後、恒温処理することなく、オーブン中で、1.0℃/分程度の冷却速度で室温まで冷却して、固化体を得た。 この固化体を実施例1と同様にして、比較例7のヒドラジド化合物を得た。 実施例1〜4及び比較例4、8の各ヒドラジド化合物について、融解熱と(J/g)と、比較例3(SD55:原料混合物)のヒドラジド化合物の融解熱に対する各ヒドラジド化合物の融解熱の低下率を、表2に示す。
表2に示すように、実施例1〜4のヒドラジド化合物は、金属元素の種類に関わらず、恒温処理時間が長くなるほど、融解熱が低下し、融解熱の低下率も大きくなった。 一方、比較例のヒドラジド化合物は、恒温処理時間を長くしても、実施例のヒドラジド化合物ほど、融解熱の低下率が大きくならなかった。 即ち、実施例1〜4のヒドラジド化合物は、比較例3(原料)のヒドラジド化合物と比べて、融解熱の低下率が57.3〜3〜83.5%と大きくなった。 なお、比較例4、8についても、恒温処理時間が長くなるほど、融解熱、融解熱の低下率が小さくなる傾向が見られが、同一の恒温処理時間の実施例4と比較例4を比べると、実施例4の融解熱の低下率は83.5%であるのに対して、比較例4の融解熱の低下率は57.9%と小さかった。 また、本発明のヒドラジド化合物は、恒温処理時間が長くなるほど、本発明のヒドラジド化合物を硬化剤として用いた樹脂組成物の液安定性は向上する。 同種の金属元素を用いた実施例1及び2、実施例3及び4の液体安定性を比較すると、実施例1に対して、実施例2は液体安定性が92.8%向上した。 また、実施例3に対して、実施例4は液体安定性が98.3%向上した。 一方、比較例4、8を比較すると、恒温処理時間の長い比較例4に対して、恒温処理時間の短い比較例8の方が却って、液体安定性が低下しており、実施例とは逆の傾向が見られた。 この結果から、本発明のヒドラジド化合物は、ヒドラジド化合物と錯体を形成する金属元素の種類、恒温処理時間、恒温処理温度等によって、好適な硬化剤を形成することが可能であることが確認できた。
本発明のヒドラジド化合物は、不飽和結合を有する樹脂に対して高い活性を有し、かつ安定的に反応することが可能であり、硬化温度の低温化及び硬化時間の短縮が可能であり、ポットライフ的にも安定であるため、熱硬化剤として有用である。 そのため、本発明のヒドラジド化合物は、例えば液晶表示装置等の電子部品のシール材や封止剤として用いる樹脂組成物の熱硬化剤として好適に使用できる。 |