【発明の詳細な説明】 【0001】ハイドロスルフィネーション(hydrosulfin ation)、すなわちオレフィンへの二酸化イオウおよび水素の付加は、今日までほとんど注目されなかった合成法である。 【0002】たとえばクラブツリーらは、強いUV照射下で、毒性の高い水銀系増感剤によるオレフィン、水素および二酸化イオウの反応を記載している。 生成物混合物を過蟻酸で酸化して、スルホン酸が得られる(クラブツリー、ファーガソン(RHCrabtree,RRFerguson),J. Org.Chem.,56,1991,5503)。 【0003】スルフィン酸、スルホン酸およびそれらの誘導体を簡単に合成するための、オレフィンにSO 2およびH 2を付加する接触法は知られていない。 【0004】従って本発明の目的は、オレフィンのハイドロスルフィネーションのための接触法を開発することである。 【0005】本発明は、パラジウム触媒の存在下に、S O 2 /オレフィンコポリマー系のシーリング温度(ceilin g temperature)(T ceil )(J.Polymer Sci.26(1957)351) を越える温度ないし最高160℃の温度でハイドロスルフィネーションを実施することを含む、オレフィンのハイドロスルフィネーション方法に関するものである。 【0006】本発明方法に適したオレフィンは、C 3 − C 18 −アルケン、好ましくはC 3 −C 8 −アルケン、C 3 −C 6 −アルケニル−C 6 −C 10 −アリール、およびC 5 −C 8 −シクロアルケンである。 アルケンは分枝鎖もしくは直鎖、モノ−もしくはポリ不飽和であってもよく、 および/またはα−位に基OR(R=C 1 −C 6 −アルキル、C 6 −C 10 −アリール)を備えていてもよく、またはCOOR、CORもしくはCNなど、二重結合を活性化する基を備えていてもよい。 共役二重結合を有するアルケンは不適切である。 モノ−またはポリ不飽和アルケンの例は、プロペン、イソブテン、n−ヘキセン、ドデセン、1,9−デカジエンおよび1,5−ヘキサジエンである。 シクロアルケンの例は、シクロヘキセンおよびシクロペンテンである。 アルケニルアリールの例としては、アリルベンゼンが挙げられる。 活性化された二重結合を有するアルケンの例は、α,β−不飽和カルボニル化合物およびカルボン酸エステル、特にメチルビニルケトンおよびアクリル酸エステルである。 【0007】本発明方法に特に好ましいオレフィンはプロペン、ブテンおよびイソブテンである。 【0008】SO 2 /オレフィンコポリマー系のT ceil は、連鎖の生長と連鎖の崩壊が平衡状態にある温度を意味すると解される。 T ceilを越える温度では重合が起こらず、すなわちモノマーオレフィンおよびSO 2が存在する。 ハイドロスルフィネーションは好ましくは80− 120℃の温度で実施される。 【0009】キレート形成性リガンド、たとえばビス(ジ−C 6 −C 10 −アリールホスフィノ)−C 1 −C 6 − アルキル、およびビス(ジ−C 1 −C 12 −アルキルホスフィノ)−C 1 −C 6 −アルキルを有するPd(II)塩を触媒として使用することが好ましい。 ビス(ジフェニルホスフィノ)−C 2 −C 4 −アルキル−、およびビス(ジ−C 1 −C 4 −アルキルホスフィノ)−C 2 −C 4 −アルキルパラジウム(II)塩が特に好ましい。 触媒の量は0.033mmol/l−0.33mol/l、好ましくは0.333mmol/l−0.033mol/lである。 オレフィン/SO 2のモル比は1:10−10:1、好ましくは1:5−5:1、特に1:1である。 オレフィン/H 2のモル比は1:10−10:1、好ましくは1:2− 1:3である。 【0010】適切な触媒を合成するためには、等モル量のPd(II)塩、たとえばPdCl 2またはPdBr 2 、および式R 2 P(CH 2 ) n PR 2 (R=Me、Et、Pr、i-Pr、 Ph、p-Tol、2−MeOPh、Cy、t-Bu、n=1− 6)のリガンドを不活性溶剤(たとえばDMSO)中で、Pd塩がすべて反応するまで撹拌する。 溶剤を留去すると、生成したパラジウム錯体が定量的収率で単離される。 このパラジウム錯体を少量の不活性溶剤に懸濁し、2倍モル量の式MXの塩(X=非配位性アニオン、 たとえば:BF 4 - 、B(C 6 H 5 ) 4 - 、B(C 6 F 5 ) 4 - 、PF 6 - 、SbF 6 - 、M=Ag、Tl)を配位性の弱い極性溶剤(たとえばアセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド)に溶解したものを添加する。 反応が完了した時点で、沈殿した塩(MCl、MBr)を濾別する。 パラジウム触媒は単離するか、または溶液としてそのまま用いることができる。 【0011】ハイドロスルフィネーション反応は撹拌装置を備えたオートクレーブ内において、好ましくは不活性ガス雰囲気で実施することができる。 触媒溶液を最初に添加する。 次いでSO 2およびオレフィンを導入し、 次いで水素を送入する。 オレフィンとSO 2の導入順序は用いるオレフィンの沸点に依存し、すなわちSO 2より低い分圧を有するオレフィンはSO 2の前に送入される。 【0012】液状オレフィン(たとえば1−ヘキセン) および他の液状添加物は、触媒溶液の後に直接に添加される。 次いでSO 2および水素を送入する。 固体状オレフィンおよび他の固体状添加物は溶剤に溶解し、この溶液をオートクレーブに添加する。 次いでガスを送入する。 冷却後にオートクレーブを秤量し、最終圧力を読み取る。 この時点で慎重に放圧し、溶剤に溶存しているガスを比較的長期間にわたって撹拌駆出したのち、オートクレーブを再び秤量する。 オートクレーブを解放し、反応生成物を取り出す。 次いで溶剤を除去し、残留する生成物を分析する。 【0013】純粋な化合物は慣用される分離法(蒸留、 抽出、クロマトグラフィー)により単離される。 本発明方法においては、上記の条件下でチオスルホン酸およびスルホン酸が1:1のモル比で生成する。 ハイドロスルフィネーション反応をアルコールおよび/または水の存在下で実施すると、水が実際の溶剤と混和しうる場合には本発明方法によりスルフィン酸および/またはスルフィン酸の誘導体が得られる。 適切なアルコールはC 1 − C 6アルカノール、好ましくはメタノールおよびエタノールである。 触媒対アルカノールおよび/または水のモル比は1:100−1:5000、好ましくは1:50 0−1:1000である。 オレフィンとして活性二重結合を有するアルケンをハイドロスルフィネーション反応に用いた場合、対応するスルフィン酸が中間に生成し、 過剰のオレフィンとさらに反応して対応するスルホンを生じる。 【0014】1−アルケン、および活性二重結合を有するアルケンをハイドロスルフィネーション反応に用いた場合、1−アルケンから生成したスルフィン酸が活性二重結合を有するアルケンと反応して対応するγ−ケト− スルホンを生じる。 【0015】本発明方法により得られるスルフィン酸および/またはスルホン酸の誘導体は、植物保護剤および薬剤の有効化合物または有効化合物前駆物質として用いられる。 それらは反応性染料の中間生成物としても使用しうる。 【0016】実施例で用いた触媒の合成法を以下に記載する: パラジウム[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン](ジクロリド)の製造 パラジウム[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン](ジクロリド)を製造するためには、2.25 gのdppp(5.5mmol)をDMSO中の0.98g の塩化パラジウム(5.5mmol)に添加し、混合物を撹拌しながら、PdCl 2が完全に溶解するまで加熱する。 冷却すると、緑色を帯びたパラジウム[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン](ジクロリド)が黄橙色の溶液から沈殿した。 収率は2.79g=理論値の86.4%であった。 【0017】実施例1 チオスルホン酸エステルおよびスルホン酸 0.01mmolの(1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン)パラジウムクロリドを30mlのCH 2 Cl 2に溶解し、0.5mlのアセトニトリルに溶解した0. 02mmolのAgBF 4を添加した。 10分間撹拌したのち完全に沈殿したAgClを濾去し、溶液を磁気撹拌機付きの150mlハステロイ製オートクレーブに移した。 次いでSO 2を3.5barの圧力になるまで送入したのち、プロペンを8barの圧力になるまで送入し、水素を25bar の圧力になるまで送入した。 オートクレーブを100℃ に予熱した油浴に移した。 17時間後にオートクレーブをまず室温に冷却し、次いで停止した。 反応混合物から溶剤を留去した。 異性体プロパンチオスルホン酸エステルとスルホン酸の混合物2gが得られた。 後者は粗製混合物から水で抽出することにより得られ、 1 H−および 13 C−NMRスペクトル分析により解明された。 チオスルホン酸エステルは蒸留によって(沸点1.3 101 ℃)、またはシリカゲルカラム上でのカラムクロマトグラフィーによって(溶剤:酢酸エチル/ヘキサン1: 9)、純粋な形で得られ、 1 H−および13 C−NMRスペクトル分析により解明された。 直鎖と分枝鎖の比率は、質量スペクトル分析を伴うガスクロマトグラフィー分析により測定された。 プロパンチオスルホン酸プロピルエステルの異性体分布はn/n77.4%、n/i+ i/n20.3%、i/i2.3%であった。 【0018】実施例2 スルフィン酸の単離 0.1mmolの(1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ) プロパン)パラジウムクロリドを30mlのCH 2 Cl 2に溶解し、0.5mlのアセトニトリルに溶解した0.2mm olのAgBF 4を添加した。 10分間撹拌したのち完全に沈殿したAgClを濾去し、溶液を磁気撹拌機付きの15 0mlハステロイ製オートクレーブに移した。 2gのメタノールをオートクレーブに導入し、次いでSO 2を3. 5barの圧力になるまで送入したのち、プロペンを8bar の圧力になるまで送入し、水素を25barの圧力になるまで送入した。 オートクレーブを100℃に予熱した油浴に移した。 17時間後にオートクレーブをまず室温に冷却し、次いで停止した。 反応混合物から真空中で室温において塩化メチレンおよびメタノールを留去した。 2.1gの粗製反応混合物が得られ、そのうち80重量%は異性体プロパンスルフィン酸であり、20重量%は異性体プロパンスルフィン酸メチルエステルであった( 1 H−NMR)。 スルフィン酸は粗製混合物から水で抽出することによって純粋な形で得られた。 スルフィン酸混合物は、プロパンスルフィン酸エステルと同様に85 重量%の直鎖生成物および15重量%の分枝鎖生成物からなっていた。 【0019】実施例3 スルホンの単離 0.1mmolの(1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ) プロパン)パラジウムクロリドを30mlのCH 2 Cl 2に溶解し、0.5mlのアセトニトリルに溶解した0.2mm olのAgBF 4を添加した。 10分間撹拌したのち完全に沈殿したAgClを濾去し、溶液を磁気撹拌機付きの15 0mlハステロイ製オートクレーブに移した。 5mlのメチルビニルケトンをオートクレーブに導入し、次いでSO 2を3.5barの圧力になるまで送入したのち、水素を2 5barの圧力になるまで送入した。 オートクレーブを8 0℃に予熱した油浴に移した。 18時間後にオートクレーブをまず室温に冷却し、次いで停止した。 反応混合物から塩化メチレンを留去した。 0.8gのビス(ブタン−3−オン)スルホンが得られた。 ( 1 H−NMR(pp m):2.25(s,3H),3.02(t,7Hz, 2H),3.30(t,7Hz,2H), 13 C−NMR (ppm):29.85,35.32,47.75,20 3.86,IR(cm -1 ):1713.7,1239. 8,1136.4)。 【0020】実施例4 γ−ケトスルホンの単離 0.13mmolの(1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン)パラジウムクロリドを30mlのCH 2 Cl 2に溶解し、0.26mmolのAgBF 4を添加した。 10 分間撹拌したのち完全に沈殿したAgClを濾去し、溶液を磁気撹拌機付きの150mlハステロイ製オートクレーブに移した。 4gのメチルビニルケトンをオートクレーブに導入し、次いでSO 2を3.5barの圧力になるまで送入したのち、プロペンを8barの圧力になるまで送入し、水素を25barの圧力になるまで送入した。 オートクレーブを80℃に予熱した油浴に移し、16.5時間後に室温に冷却し、そして停止した。 反応混合物から塩化メチレンおよびアセトニトリルを留去した。 5.0g の4−(プロピルスルホニル)−2−ブタノンが得られた。 生成物は、85重量%の直鎖生成物および15重量%の分枝鎖生成物の混合物であった。 ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl. 6識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 C07C 315/06 317/24 7419−4H 381/04 7106−4H // C07B 61/00 300 |