【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する分野】本発明は、自己複分解又は交差複分解させることにより置換オレフィンを製造する方法に関する。 【0002】 【従来の技術】オレフィン複分解(不均化)は、その最も簡易な形態において、炭素−炭素二重結合を破壊し、 再構成することにより、オレフィンを可逆的に金属接触アルキリデン交換反応を起こさせることである。 非環式オレフィンを複分解する場合には、例えば、オレフィンを分子量が異なる2種類のオレフィン混合物に変化させる自己複分解(例えば、プロペンをエテン及び2−ブテンに転化する)と、2種類の異なるオレフィンの反応である交差複分解又は相互複分解(例えば、プロペンを1 −ブテンと反応させて、エテン及び2−ペンテンを得る)を区別することができる。 オレフィン複分解の別の利用分野としては、環式オレフィンの開環複分解重合(POMP)及びα,ω−ジエンの非環式ジエン複分解重合(ADMET)による不飽和重合体の合成が挙げられる。 最近では、環式オレフィンと非環式オレフィンの選択開環反応に、さらにα,ω−ジエンを好ましくは出発化合物として、環の大きさが異なる不飽和環を形成し得る環化反応(RCM)に利用されている。 【0003】複分解反応に適している触媒は、主に均一及び不均一遷移金属化合物である。 【0004】例えばモリブデン、タングステン又はレニウム等の各酸化物を無機酸化物担体に担持した均一触媒は、非官能化オレフィンの反応において高活性及び再生性を示すが、オレイン酸メチル等の官能化オレフィンを用いる場合には、屡々アルキル化剤で前処理して活性を増大させなければならない。 プロトン性の官能基(例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基又はアミノ基)を含むオレフィンにより、均一触媒は自然に失活する。 【0005】本発明は、例えばアジピン酸及びその誘導体等を表すECH 2 CH=CHCH 2 E型の二官能化C 6 − 炭化水素を製造する方法に関するものであり、このC 6単位の形成に、RCH=CHCH 2 E型オレフィンの複分解反応が重要工程として行われる。 【0006】 【化2】 この種類のC6 −炭化水素は、官能化後、工業的に重要な前駆体及び中間体となる:例えばアジピン酸は、ナイロン6.6製造用前駆体の役割を担い(繊維分野)、またこれまでは主としてシクロヘキサンを酸化的開裂して製造されてきた。 近年、例えば中間体1,4−ジメトキシ−2−ブテンをカルボニル化するモンサント法及びメタノールの存在下においてブタジエンを2段階でカルボニル化するBASF法による、ブタジエンからのアジピン酸形成反応が開発されている。 【0007】この2段階のカルボニル化反応は、厳しい反応条件が必要であり、且つブタジエンを出発化合物としても、アジピン酸を適度な収量で、即ち2段階を通じて約70%でしか得られない。 【0008】そのため、上述の複分解反応は、所望の化合物へのこれに代わる可能な経路があると考えられている。 【0009】アクリル酸又はその誘導体等の電子供与オレフィンを用いる場合には、オレフィンに対する均一複分解触媒の一般的な高い活性が大幅に低下する。 Eが電子吸引基を、nが0又は1を、そしてRが水素、アルキル又はアリールを表す場合、特に、RCH=CH(CH 2 ) n型オレフィンを自己複分解反応を起こさせて、RC H=CHR及びE(CH 2 ) n CH=CH(CH 2 ) n Eを形成することは、公知の複分解触媒の存在下において問題となる。 自己複分解反応において3−ペンテン酸メチル、3−ペンテン酸又は3−ペンテノニトリル等の置換オレフィンを使用することは、活性が満足できないほど低いため、結果として文献にほとんど記載されていない。 【0010】J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1983, 262 〜263頁、 J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1981, 1081 〜1082頁及びJ. Organomet. Chem. 1985, 280, 115〜12 2頁には、SnMe 4又はSnEt 4で活性化された均一触媒Re 2 O 7 /Al 2 O 3の存在下にCH 2 =CH(C H 2 ) n CN型不飽和ニトリルを自己複分解する旨の記載がある。 4−ペンテノニトリルは約90%までの収率で反応するが、シアン化アリルはクロトノニトリルを形成する異性化反応を除いて、生産的な複分解反応を受けることはない。 【0011】Recl. Trav. Chim. Pays-Bas 1977, 96(1 1), 86〜90頁には、均一触媒組成物WCl 6 /SnMe 4 を用いる低分子量不飽和エステルの複分解反応が記載されている。 2モル%のWCl 6 /SnMe 4の存在下に、 3−ペンテン酸メチルを95%の選択性で反応させて2 −ブテン及びデヒドロアジピン酸エステルを形成したとしても、給送中における不純物に対する触媒組成物の高い選択性は不都合である。 上述の触媒組成物を用いる場合、不飽和酸を使用する複分解反応は起こり得ない。 【0012】J. Mol. Catal. 1992, 76, 181〜187頁は、触媒組成物WCl 6 (又はWOCl 4 )/1,1, 3,3−テトラメチル−1、3−ジシラシクロブタン(DSBC)を用いる官能化オレフィンの複分解に関するものである。 WOCl 4 /DSBCを用いる最善の実験では、4−ペンテン酸メチルは、選択率94%、転化率54%で対応するC 8 −ジエステルに転化される。 同じ触媒組成物の存在下、シアン化アリルは、選択率82 %、転化率53%で、エテンを除去しながらデヒドロアジポジニトリルに転化される。 【0013】Chem. Lett. 1976, 1021〜1024頁には、W Cl 6 /Me 2 Al 2 Cl 2を用いる場合に60%の転化率で、4−ペンテン酸メチルを自己複分解する旨が記載されている。 【0014】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、一般的に利用可能で好適な触媒組成物を用いて、穏和な反応条件下に、容易に入手可能な出発材料から二官能化C 6 −炭化水素への経済的に優れた反応経路を開発することにある。 【0015】 【課題を解決するための手段】本発明者等は、この目的が式(I): E−CH 2 −CH=CH−CH 2 −E 1 (I) で表されるC 6化合物の製造方法であって、式(II) 及び/又は(III): R−CH=CH−CH 2 −E (II) R 1 −CH=CH−CH 2 −E 1 (III) [但し、E、E 1が独立して、−CHO、−COOH、 −COOR 2 、−C(O)NR 3 R 4 、−CNを表し、 R、R 1が独立して、水素、C 1-12アルキル、C 6-12アリール又はC 7-13アルキルアリールを表し、R 2 、R 3 、 R 4が独立して、水素、C 1-12アルキル、C 7-13アラルキルを表す]で表される化合物を、ルテニウム化合物又はルテニウム錯体を含む均一触媒の存在下に自己複分解又は交差複分解させて得ることを特徴とする製造方法により達成されることを見出した。 【0016】 【発明の実施の形態】従って、本発明の目的は、ECH 2 CH=CHCH 2 E型のC 6 −炭化水素形成用としての重要工程が、以下の反応式によるRCH=CHCH 2 E 型オレフィンの自己複分解反応である処理経路により達成される。 【0017】 【化3】 副生成物として、RCH=CHRを化学量論量で形成し、必要により続く反応でさらに処理することができる。 例えばCH2 =CHR型α−オレフィンは、RCH −CHRをエテノール分解(ethenolysis)して得ることができる。
【0018】上述の反応式において、Eはアルデヒド、 エステル、酸、酸アミド又はニトリル基を表す。 Rは水素又はアルキル、アリール若しくはアルキルアリール基を表す。 アルキル基Rとしては、直鎖C 1-6アルキル基(例えば、メチル又はエチル)、又は分岐点が二重結合から離れている少なくとも1種のメチレン基である分岐C 1-6アルキル基が好ましい。 【0019】相互に異なる基R、R 1及びE、E 1を有する物質を交差複分解反応させても良い。 この場合、混合状態の反応生成物が予想される。 【0020】 【化4】 EとE' 及びRとR'が同一であることが好ましい。 EとE'はエステル又はカルボキシル基であることが特に好ましい。 RとR'はメチル又はエチル基であることが好ましい。
【0021】本発明の方法は、ルテニウム化合物又はルテニウム錯体を含む均一触媒の存在下に行われる。 触媒として、ルテニウム−アルキリデン錯体を用いることが好ましい。 このルテニウム−アルキリデン錯体は、 【0022】 【化5】 [但し、Bは他の配位子L 4により安定され得るものであり、且つXが配位していないか、或いは金属中心に弱く配位しているだけのアニオンを表し、Yが単座又は多座のアニオン性配位子を表し、R及びR'が相互に独立して、それぞれ水素、置換又は非置換のC 1-20アルキル、C 6-20アリール又はC 7-20アルキルアリール基を表し、L 1 、L 2 、L 3及びL 4が相互に独立して、それぞれ非電荷電子供与体配位子を表す]で表されるA又はB、 或いは式C又はD RuX'Y'(=CH−CH
2 R”)L 1 L 2 (C) RuX'Y'(=CHR”)L 1 L 2 (D) [但し、X'、Y'が同一又は異なるアニオン性の配位子を表し、R”が水素、置換又は非置換のC 1-20アルキル基又はC 6-20アリール基を表し、L 1及びL 2が相互に独立して、それぞれ非電荷電子供与体配位子を表す]で表されるルテニウム錯体から好ましくは選択される。 【0023】非電荷電子供与体配位子は、ホスフィン、 アルシン、少なくとも2種の嵩高い基を含有するスチビン、アミン、ピリジン、π−配位オレフィン又は溶剤分子であることが好ましい。 非電荷電子供与体配位子は、 式PR a R b R c {但し、R a及びR bが相互に独立して、 それぞれフェニル基又は立体障害がある有機基を表し、 R cが水素、置換又は非置換のC 1-12アルキル基又はC 6-20アリール基を表すか、或いはR aと同義である}で表されるホスフィンから選択されることが特に好ましい。 【0024】R aとR bは、i−プロピル、tert−ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル又はメンチル(menthyl)から選択されることが好ましい。 【0025】このような錯体は、例えばWO93/20 111、WO96/04289、WO96/0618 5、WO97/03096及びDE−A1973660 9、DE−A19800934に記載されている。 【0026】カチオン性触媒組成物は、活性成分として式A (カチオン性カルビン錯体)若しくはB (カチオン性カルベン錯体) 【0027】 【化6】 [但し、Bは他の配位子L 4により安定され得るものである]で表されるカチオン性ルテニウム錯体又はこれらを含む混合物から成る。 【0028】このA及びBの構造で、X -は配位していないか、或いは金属中心に弱く配位しているだけのアニオンを表し、例えば、周期表第III〜VII主族の錯アニオンであり、例えばBR” 4 - (R”はフッ素、置換基として1個以上のフッ素原子又は過フッ化C 1-6アルキル基を有していても良いフェニル(例えば、nが1〜 5を表すC 6 H 5-n F n ))、PF 6 - 、AsF 6 - 、SbF 6 - 、ClO 4 - 、CF 3 SO 3 -又はFSO 3 -を表し、Yは単座又は多座のアニオン性配位子を表し、R及びR'は相互に独立して、それぞれ水素、置換又は非置換のC 1-20 アルキル、C 6-20アリール又はC 7-20アルキルアリール若しくはC 7-20アラルキル基を表し、L 1 、L 2 、L 3及びL 4が相互に独立して、それぞれ非電荷電子供与体配位子、好ましくは窒素供与体(例えば、アミン及びピリジン)、ホスフィン、アルシン、少なくとも2種の嵩高い基(例えば、i−プロピル、tert−ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、メンチル等)を含有するスチビン、π−配位オレフィン又は溶剤分子を表す。 【0029】これらの基は、それぞれ以下の意味を有することが好ましい:X -がBR” 4 - (R”はフッ素又はC 6 H 3 (m−CF 3 ) 2を表す)を表し、Yがハロゲン、 好ましくは塩素を表すか、或いはOR(RはC 1-6アルキル、C 6-12アリール、好ましくはフェノキシドを表す)を表し、Rが水素を表し、R'がC 1-6アルキル、 C 6-12アリール、C 7-20アラルキル、好ましくはメチル又はベンジルを表し、L 1 、L 2が少なくとも2種の嵩高い基を含有するホスフィンを表し、L 3 、L 4が環式若しくは非環式エーテル、又は第3級アミン(例えば、NM e 2フェニル、NMe 3 、NEt 3 )を表す。 【0030】活性成分A及び/又はB又はこれら活性成分を含む混合物の合成は、多くの有機金属化合物を出発材料として、例えば以下のようにして行うことができる:RuClH(H 2 )L 1 L 2を末端アルキンHC=C Rと反応させることにより合成することができるRuY (H)(=C=CHR)L 1 L 2型のヒドリド(ビニリデン)錯体を、R + X - (X -は非配位アニオン又は弱く配位しているアニオンを表す)と反応させることにより行うことができる。 RuClH(H 2 )L 2は、文献に記載の方法、例えばLの存在下に水素雰囲気下で、重合性ルテニウム前駆体[RuCl 2 (COD)] x (COD=シクロオクタジエン)のi−プロパノール溶液から(Wern er et al., Organometallics 1996, 15, 1960〜1962 頁)、或いはL及び第3級アミン(NEt 3 )の存在下に水素雰囲気下で、同じ出発材料のsec−ブタノール溶液から出発して(Grubbs et al., Organometallics 1 997, 16, 3867〜3869頁)製造することができる。 さらにRuClH(H 2 )L 2は、RuCl 3・H 2 OのTHF 溶液を出発材料として、活性化マグネシウムの存在下に水素雰囲気下でLと反応させることにより得られ(BA SF AG、先の優先権を有するが、先行文献ではないDE−A19800934)、また1−アルキンとその場で反応させて対応するヒドリド(クロロ)ビニリデン錯体RuClH(=C=CHR)L 2を得ることが好ましい。 後者の場合、単離するか、或いはその場でH + X - (X -は非配位アニオンを表す)と反応させて、本発明に使用される活性成分A及び/又はBを得ることができる。 【0031】RuYY'(=CHR)L 1 L 2型の化合物(YはY'と同義であっても良い)を、R + X - (X -は非配位アニオン又は弱く配位しているアニオンを表す) と反応させて行うことができる。 混合アニオン性のアルキリデン錯体RuXY(=CHCH 2 R)L 2は、DE− A19800934に記載されているようにRuXH (=C=CHR)L 2を出発材料として得られる。 【0032】配位子L 3の存在下に、RuYY'(=C HR)L 1 L 2型の化合物を、アニオン引抜き金属塩M + X -又はBF 3若しくはAlCl 3等のルイス酸と反応させることにより行うことができ、且つこのX -は非配位アニオン又は弱く配位しているアニオンを表し、アニオン性配位子Y及びY'は同一でも又は異なっていても良い。 MXは、例えばAgPF 4 、AgB(C 6 F 5 ) 4 、A gPF 6又はAgSbF 6を表していても良い。 【0033】R + X - 、M + X -及び対応するルイス酸は、 有機金属出発材料に対するモル比を1:10〜100 0:1で使用することが好ましい。 【0034】活性成分A及び/又はBを形成する反応は、不活性ガス雰囲気下に有機溶剤中で、特に配位により不飽和金属中心を安定させることができる溶剤中で行うことが好ましく、この有機溶剤の例としては脂肪族若しくは環式エーテル(例えば、ジオキサン、THF)、 アミン、DMSO、ニトリル、ホスフィン、アリシン、 スチビン、水、オレフィン又は他の2電子供与体が挙げられる。 反応は、−100〜100℃、好ましくは−8 0〜−40℃の温度、1ミリバール〜100バール、 0.5〜5バールの圧力でTHF中にて行うことが好ましい。 【0035】1モル当量以上のR + X -を用いて反応を行っても良い。 過剰量のR + X -を用いる場合に形成するL 1-3 RXは反応に悪影響を与えない。 得られた活性成分 A及び/又はB含有組成物を、高活性複分解触媒組成物としてその場で用いるか、或いは不活性ガス雰囲気下において低温で貯蔵することができる。 必要によりさらに活性成分A及び/又はBを単離形態で用いることができる。 【0036】一般に、1秒〜10時間、好ましくは3秒〜1時間後に反応は完結する。 一般に適当な反応容器は、必要によりセラミックで接合されていても良いガラス又はスチール容器である。 【0037】式(C): RuX'Y'(=CH−CH 2 R”)L 1 L 2 (C) [但し、X'、Y'が同一又は異なるアニオン性配位子を表し、R”が水素、置換又は非置換のC 1-20アルキル基又はC 6-20アリール基を表し、L 1及びL 2が相互に独立して、それぞれ非電荷電子供与体配位子を表す]で表されるルテニウム錯体の製造は、(a)RuX 3をL 1及びL 2と、不活性溶剤中で還元剤及び水素の存在下に、 そして式IV: R”−C≡CH (IV) [但し、R”は上記と同義である]で表される化合物と水の存在下又は不存在下に反応させて、式V: RuX'H(=C=CHR”)L 1 L 2 (V) [但し、X'、R”、L 1 、L 2は上記と同義である]で表される化合物を得、(b)式Vの化合物を反応混合物から分離し、次いでそれを不活性溶剤中、HY'、(H L 1 )Y'又は(HL 2 )Y'と、そして水の存在下又は不存在下に式IV: R”−C≡CH (IV) [但し、R”は上記と同義である]で表される化合物と反応させ、(c)次いで、生成物をHY'、[HL 1 ] Y'又は[HL 2 ]Y'と反応させることにより行うことが好ましい。 【0038】上述のルテニウム錯体は、RuX' 3 、好ましくはRuCl 3・3(H 2 O)から、還元剤の存在下、中間体を単離することなく、配位子L 1及びL 2 、水素並びに式IVの末端アルキンとの簡易な反応により、 極めて高い収率で直接得ることができる。 こららのルテニウム錯体は、カルベン炭素原子にビニル性の置換基が含まれていない。 この出発材料は安価に製造することができ、容易に入手することができる。 【0039】式(C)で表される混合アニオン性錯体を製造するために、式Vの中間体を得又は単離し、次いでさらに反応させる。 これにより、異なる配位子X'及びY'を導入することができる。 【0040】合成の第1段階において、不活性溶剤中、 RuX' 3と配位子L 1及びL 2との還元剤及び水素の存在下における反応を行う。 使用可能な溶剤は、芳香族化合物、ヘテロ芳香族化合物、環式又は非環式エーテルである。 トルエン、NMP、テトラヒドロフラン、ジアルキルエーテル、グリコールエーテル及びジオキサンが好ましい溶剤である。 テトラヒドロフランが特に好ましい。 【0041】還元剤として、反応条件下にRu(II I)をRu(II)に還元する還元剤はどんなものでも用いることができる。 この還元は、金属性又は非金属性の還元剤の存在下、好ましくは金属形態であり及び/又は担体に施すことができるアルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属(例えば、パラジウム、亜鉛)の存在下に水素を用いて行うことが好ましい。 アルカリ土類金属、好ましくはマグネシウムを活性化状態で用いることが好ましい。 例えば、塩素含有有機溶剤と接触させることにより活性化させることができる。 例えば、不活性ガス雰囲気下での単一容器反応において、マグネシウムを反応容器中の希薄な塩素含有有機溶剤、例えばジクロロエタンに導入することができ、導入して1秒〜10時間、好ましくは1分〜1時間後、水素雰囲気下に溶剤、 RuX' 3並びに配位子L 1及びL 2と反応させる。 この反応工程(a)における温度は、好ましくは0〜100 ℃、特に好ましくは20〜80℃、極めて好ましくは4 0〜60℃である。 圧力は、好ましくは0.1〜100 バール、特に好ましくは0.5〜5バール、極めて好ましくは0.8〜1.5バールである。 反応は、好ましくは10分〜100時間、特に好ましくは1時間〜10時間に亘り行う。 配位子L 1及びL 2まとめての使用されるルテニウム塩に対するモル比は、好ましくは2〜20: 1、特に好ましくは2〜5:1である。 工程(a)での反応後、1−アルキンとの反応混合物は、好ましくは− 80〜100℃、特に好ましくは−40〜50℃、極めて好ましくは−30〜20℃の範囲内の温度である。 ここでは、最初に使用されるルテニウム塩の1−アルキンに対するモル比が、好ましくは1:1〜1:10である。 反応は、0.1〜10バール、好ましくは0.8〜 1.5バール、特に好ましくは1〜1.4バールの圧力で、30秒〜10時間、特に好ましくは1分〜1時間に亘り行うことが好ましい。 【0042】式(C)で表されるルテニウム錯体において、X'は単座のアニオン性配位子、例えばハロゲン、 ハロゲノイド、カルボキシラート、ジケトネート(dike tonate)を表す。 X'は、好ましくはハロゲン、特に好ましくは臭素又は塩素、極めて好ましくは塩素を表す。 反応は、RuCl 3・3(H 2 O)を用いて行うことが特に好ましい。 【0043】式(C)で表されるルテニウム錯体において、Y'はX'と同じ配位子を表しても良い。 X'とは異なるハロゲン、又は重合体若しくは担体に結合するカルボキシル基(触媒を担体に固定することが可能となる)が好ましい。 式Vで表される中間体の配位子X' を、塩複分解してMY'{Mはアルカリ金属又はアンモニウム、好ましくはカリウムを表す}で置き代えても良い。 これにより、生成物混合物を得ることも可能となる。 【0044】上述のL 1及びL 2は、非電荷電子供与体配位子である。 基Rは水素、置換又は非置換のC 1-20 −、 好ましくはC 1-6アルキル基又はC 6-20 −、好ましくはC 6-8アリール基である。 式(C)で表されるルテニウム錯体は、RuCl 2 (=CH−CH 3 )(PCy 3 ) 2及びRuCl 2 (=CH−CH 2 −Ph)(PCy 3 ) 2 {C yはシクロヘキシル基、Phはフェニル基を表す}が特に好ましい。 【0045】式: RuX' 2 (=CH−CH 2 R”)L 1 L 2 [但し、X'がアニオン性配位子を表し、R”が水素、 置換又は非置換のC 1-20アルキル基又はC 6-20アリール基を表し、L 1及びL 2が相互に独立して、それぞれ非電荷電子供与体配位子を表す]で表されるルテニウム錯体は、(a)RuX' 3をジエンと、1種以上の脂肪族第2級アルコールを基礎とする溶剤中、還元助剤の存在下又は不存在下に反応させ、次いでL 1及びL 2と、少なくとも1種の配位弱塩基及び水素の存在下に、中間体を単離することなく反応させ、(b)次いで生成物を、式: R”−C≡CH [但し、R”は上記と同義である]で表される化合物と、可溶性塩素源の存在下に反応させることにより得られる。 【0046】従来技術に記載された触媒組成物と比較して、本発明に用いられるルテニウム錯体は、特に選択性を高くすると共に触媒作用寿命を比較的長くすることを、穏和な反応条件下(温度0〜200℃、圧力1バール(絶対圧))に触媒濃度が極めて低い(100ppm 〜1%)場合でさえ可能にした。 【0047】RがMe又はEtを表す内部オレフィンR CH=CHCH 2 Eを用いる場合には、エチレンの導入が必要であるし、或いは以下の反応式による転化率を増大させるために少なくとも有用であろう。 この場合、エチレンをストリッピングガスとして用いることができる。 【0048】 【化7】 例えばペンタン、アセトン、エーテル及びトルエン等の溶剤を添加することは、上述の反応において必要ないが、反応に悪影響を与えるわけでもない。 【0049】反応は、0〜200℃及び0.01〜10 0バールの圧力で行われ、一般に10分〜100時間後に完結する。 【0050】反応は、ガラス反応器、反応槽、管状反応器又は循環反応器等の反応器のおいて連続的に又はバッチ式で行うことができる。 反応は平衡反応であるから、 転化率を極めて高くするためにできるだけ早くこの平衡から処理生成物を取り除くことが有利である。 これは、 エテン、2−ブテン又はプロペン等の低沸点物質が副生成物として形成する反応に特に有用である。 【0051】処理生成物を単離するために、この生成物に溶解又は懸濁させた触媒を含んでいても良い反応混合物を、蒸留して後処理し、そして精製蒸留後に処理生成物を単離することができる。 触媒含有塔底蒸留生成物を反応に戻しても良い。 触媒は、高沸点溶剤中で再利用することができる。 転化率が最大となるように形成する低沸点成分を平衡からその場で除去するために、本発明の方法を反応性蒸留装置で行うことも考えられる。 【0052】複分解反応に出発材料として使用するRC H=CHCH 2 E型(R及びEは前記を参照)の化合物は、例えばジエン(例えば、ブタジエン)等の容易に入手可能な出発材料を、ヒドロホルミル化、カルボニル化又はヒドロシアン化することにより高収率で得ることができる。 【0053】複分解生成物に存在する二官能化C 6 −炭化水素を、特に水素化、ヒドロホルミル化、還元性のアミノ化、酸化又は環化することによりさらに処理しても良い。 【0054】 【実施例】以下の実施例に本発明を詳述する。 【0055】実施例1:デヒドロアジピン酸メチルの合成(C 6 −ジエステル) シュレンク管で、100g(0.88モル)の3−ペンテン酸メチル(3−MP)を、677mg(0.9ミリモル)のRuCl 2 (=CHMe)(PCy 3 ) 2と種々の温度にて、常圧下で反応させた。 数分以内に、溶液の紫色から暗赤色への特徴的な変色が観察された。 この実験を通じて、反応空間は密閉されていたので、形成した低沸点副生成物は排出できなかった。 試料を種々の反応時間後に取り出し、ガスクロマトグラフィーによる解析を行った。 結果を以下の表に示す。 【0056】 【表1】 【表2】 【表3】 【0057】実施例2:デヒドロアジピン酸の合成(C 6 −二酸) シュレンク管で、100g(1.0モル)の3−ペンテン酸を、760mg(1.0ミリモル)のRuCl 2 (=CHMe)(PCy 3 ) 2と80℃にて常圧下で反応させた。 この実験を通じて、反応空間は密閉されていたので、形成した低沸点副生成物は排出できなかった。 数分以内に、溶液の紫色から暗赤色への特徴的な変色が観察された。 5時間後、反応混合物をガスクロマトグラフィーにより解析した。 【0058】転化率(3−ペンテン酸)=23% 選択率(C 6 −二酸)=98% 【0059】実施例3:エチレンの存在下におけるデヒドロアジピン酸メチル(C 6 −ジエステル)の合成 ガス導入口を装備したシュレンク管で、100g(0. 88mol)の3−ペンテン酸メチルを、677mg (0.9ミリモル)のRuCl 2 (=CHMe)(PC y 3 ) 2と室温で反応させ、この溶液に穏やかなエチレン流を通した。 数分以内に、溶液の紫色から暗赤色への特徴的な変色が観察された。 形成したプロピレンを、1時間エチレン流を続けて導入することにより溶液から取り除いた。 次いで、反応混合物をガスクロマトグラフィーにより解析した。 【0060】転化率(3−ペンテン酸)=45% 選択率(C 6 −ジエステル)=98% 【0061】実施例4:デヒドロアジピン酸メチル(C 6 −ジエステル)の100ミリバールでの合成 滴下漏斗を装備した丸底フラスコで、100g(0.8 8モル)の3−ペンテン酸メチルを677mg(0.9 ミリモル)のRuCl 2 (=CHMe)(PCy 3 ) 2と40℃で混合し、さらに400g(3.51モル)の3 −ペンテン酸メチルを、100ミリバールの減圧下、1 時間に亘って徐々に添加し、形成した2−ブテンを取り除いた。 反応混合物を40℃でさらに1時間撹拌し、最後に蒸留して後処理した。 【0062】収量(C 6 −ジエステル)=211g(単離状態、理論量の56%) フロントページの続き (51)Int.Cl. 7識別記号 FI テーマコート゛(参考) C07C 69/593 C07C 69/593 231/12 231/12 253/30 253/30 // C07B 61/00 300 C07B 61/00 300 C07C 6/04 C07C 6/04 C07F 15/00 C07F 15/00 A |