【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、シリカゾルからなる地盤注入剤の改良に関する。 【0002】 【従来の技術】 従来より、軟弱な地盤を強化したり、 地盤から地下水の湧出するのを止める目的で、これら地盤に薬液を注入し、その地盤中にこの薬液のゲルを生成させることが行われている。 このような薬液は、地盤注入剤と呼ばれ、既に種々のものが知られている。 このような地盤注入剤としては、水ガラスとその硬化剤からなる薬液が一般に使用されていたが、近年、改良された地盤注入剤も種々提案されている。 【0003】例えば、酸性液中に水ガラスを加えることにより得られた液から、この液中のアルカリを除去することにより酸性珪酸水溶液を調製し、この酸性珪酸水溶液とその硬化剤としてアルカリとからなる中性領域でゲル化する地盤注入剤が提案されている。 更に、特開昭 5 4-73407 号公報には、水ガラス水溶液からその中の殆どのアルカリ分を陽イオン交換法で除去することにより得られるシリカゾルとその硬化剤からなる地盤注入剤が開示されている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 上記水ガラス系の地盤注入剤は、固結時間が短くて、しかも固結強度が大きい利点を有するが、場合によっては、この注入剤が注入された後の地盤から多量のナトリウム塩や硬化剤として用いた酸等が周囲の土中に溶出し、その土壌を汚染したり、更にこれによって一旦強化された地盤が時間経過と共に再び緩んでくる等問題が多い。 【0005】これに対して、水ガラス中のアルカリ分を陽イオン交換法で除去することにより得られる上記シリカゾル系地盤注入剤は、そのゲル化物の強度が経時的に上昇し、そしてそのゲル化物は小さい透水係数を維持するので耐久性にも優れているが、このゲル化物中のシリカは非晶質のものであって、常温では中性の水に対して 150ppm程度の溶解度を示すから、この150ppmの濃度でこのゲル化物中のシリカは絶えず外部へ溶出することとなり、完全な耐久性を有するものではない。 【0006】本発明は、改良されたシリカゾル系地盤注入剤、特に、そのゲル化物からシリカの溶出が起こらないような十分な耐久性を有する地盤注入剤を提供しようとするものである。 【0007】 【課題を解決するための手段】本発明の地盤注入剤は、 1〜50重量%のSiO 2濃度を有する水性シリカゾルと、0. 5〜15重量%のAl 2 O 3濃度を有する水性アルミナゾルとを、当該シリカゾル中のSiO 2分 100重量部に対して当該アルミナゾル中のAl 2 O 3分 0.1〜50重量部の比率に配合することにより得られる。 【0008】水性シリカゾルとしては、従来から知られているいずれのものも使用することができるが、3〜20 nm の平均粒子径を有するコロイド状シリカをそのSiO 2 として1〜50重量%の濃度に含有する酸性又はアルカリ性の水性シリカゾルが好ましい。 特に、3〜10 nm の平均粒子径を有するコロイド状シリカをそのSiO 2として5 〜30重量%の濃度に含有し、そして9〜11のpHを有するものが好ましい。 【0009】このような水性シリカゾルは、公知の方法で容易に得ることができる。 例えば、水ガラス水溶液からその中のアルカリ分を陽イオン交換法で除去することにより、或いは酸の水溶液中に水ガラスを加えることにより得られる液からその中のアルカリを除去することにより得られる。 或いは更に、米国特許第3711419 号明細書、米国特許第3714064 号明細書、特公平 4-55127号公報などに記載の方法によっても製造することができる。 【0010】水性アルミナゾルとしても、従来から知られているいずれのものも使用することができるが、 0.5 〜15重量%のAl 2 O 3濃度を有する酸性の水性アルミナゾルが好ましい。 このような水性アルミナゾルは、例えば、酸の水溶液中に金属アルミニウムの粉末を少量ずつ攪拌しながら添加する方法により、或いはアルミナゲルの水性分散液を無機酸あるいは有機酸により解膠する方法により製造することができる。 【0011】本発明の地盤注入剤は、水性シリカゾルの SiO 2分 100重量部に対して、水性アルミナゾルのAl 2 O 3 分 0.1〜50重量部、好ましくは 0.5〜10重量部の比率に上記シリカゾルとアルミナゾルを配合することにより得られる。 この配合は、攪拌下に、上記シリカゾルとアルミナゾルを十分に混合することにより行うことができる。 【0012】本発明の地盤注入剤は、そのゲル化時間を調節したり、或いはそのゲル化物の強度を高めるための添加剤を含有することができる。 このような添加剤の例としては、塩酸、硫酸、りん酸、スルファミン酸等の無機酸;ぎ酸、酢酸、クエン酸等の有機酸;酸性硫酸ソーダ、重炭酸ソーダ、第1燐酸ソーダ等の酸性塩;硫酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム等のアンモニウム塩; 塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、 硫酸アルミニウム、アルミン酸ソーダ等の金属塩などが挙げられる。 その他、本発明の地盤注入剤としては、本発明の目的が達成される限り、任意の成分を含有することができる。 【0013】地盤注入剤中のSiO 2濃度、Al 2 O 3濃度、pH などを調節することにより、数分から数時間までのゲル化時間を有する地盤注入剤を得ることができる。 水性シリカゾルと、塩基性塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダなど溶解度の大きいアルミニウム化合物を混合すると、不均一ゲルが生ずるので、このような混合によって得られる薬液は、地盤注入剤として使用することができない。 【0014】アルミナゾルの表面には、活性の高いアルミニウムイオンが存在しているが、中性付近のpHでは、 アルミニウムイオンの溶解度は極めて低いので、シリカゾルとアルミナゾルとは均一に混合することができる。 上記のような水性シリカゾルと水性アルミナゾルとを混合して中性付近のpHを示す薬液を調製すると、この薬液は均一にゲル化する地盤注入剤として使用することができる。 【0015】この混合によって得られた薬液中では、アルミナ粒子の表面からごく僅かのアルミニウムイオンが液中に放出されて、シリカゾルの電気バランスを崩し、 シリカゾルにゲル化を起こさせると共に、この僅かのアルミニウムイオンが、シリカ粒子と結合してこのシリカ粒子表面に安定なアロフェンが生成すると考えられる。 アロフェンで覆われたシリカ粒子は、最早、シリカを溶出しないから、この混合によって得られた薬液のゲル化物は耐久性を示す。 【0016】水性シリカゾルのSiO 2分 100重量部に対して、水性アルミナゾルのAl 2 O 3分を0.1 重量部以下の比率に、シリカゾルとアルミナゾルを混合すると、上記のようなシリカの溶出防止効果が十分でない。 この混合でのAl 2 O 3 /SiO 2重量比が高い程、上記シリカ溶出は早期に且つ完全に防止できるが、50以上のAl 2 O 3 /SiO 2重量比に高めても、それに相当する効果が得られない。 【0017】 【発明の実施の形態】上記水性シリカゾルと水性アルミナゾルの配合の際には、その混合の前に、これらゾルに無機酸、有機酸などを添加することにより、それらゾルのpHを4〜9に調節しておくのが好ましく、そのように調節されたゾルの混合によって得られた地盤注入剤は、 均一なゲル化物を生成させる。 地盤注入剤中のSiO 2濃度も10〜30重量%が好ましく、この濃度が1%以下では、 地盤の強度、透水防止等を十分に高めることができず、 そしてこの濃度を30%以上に高めても、それに相当する効果が得られない。 【0018】 【実施例】使用される水性シリカゾルとして、9.5 のpH と4〜6nmの粒子径を有する市販の水性シリカゾルに、 5容量%の硫酸を加えることにより、15重量%のSiO 2濃度と6.0 のpHを有する水性シリカゾル(S 1 )を調製した。 使用される水性アルミナゾルとして、10重量%のAl 2 O 3 濃度を有する市販の酸性の水性アルミナゾルを水で希釈することにより、3.5 重量%のAl 2 O 3濃度を有する酸性の水性アルミナゾル(A 1 )を調製した。 【0019】別途、使用される水性アルミナゾルとして、ベーマイト構造を有するアルミナ粉末を、0.5 重量%の塩酸中で解膠することにより、10.4重量%のAl 2 O 3 濃度を有する酸性の水性アルミナゾル(A 2 )を調製した。 実施例1 上記シリカゾル(S 1 )の90 ml とアルミナゾル(A 1 )の10 m l とを混合することにより地盤注入剤(G 1 )を調製した。 この注入剤(G 1 )は、0.024 のAl 2 O 3 /SiO 2重量比を有し、 6分のゲル化時間を示した。 【0020】そのゲル化物は、そのまま密封容器中23℃ で7日間養生した後、内容積200mlのボリスチレン製の瓶に移し、この瓶に50 ml のイオン交換水加えることにより、このゲル化物全体をこのイオン交換水に浸した。 次いで、この瓶を密封して、このゲル化物を23℃で7日間水中養生した。 瓶を開封して、瓶から水を採取し、そしてこの水を濾紙で濾過した後、誘導結合型プラズマ発光分光分析装置を使用して、この水中の溶解シリカ濃度を測定したところ、54ppm であった。 【0021】実施例2 上記シリカゾル(S 1 )の67mlをA液とし、上記アルミナゾル(A 2 )の1mlと水17mlと50重量%硫酸マグネシウム水溶液15mlとの混合溶液をB液として、これらA液とB液とを混合することにより地盤注入剤(G 2 )を調製した。 この注入剤(G 2 )は、0.01のAl 2 O 3 /SiO 2重量比を有し、80分のゲル化時間を示した。 【0022】実施例1と同様にして、そのゲル化物を浸した水中の溶解シリカ濃度を測定したところ、65ppm であった。 比較例1 上記シリカゾル(S 1 )の67mlと、50重量%硫酸マグネシウム水溶液の10mlとを混合することにより、地盤注入剤(G 3 )を調製した。 この注入剤(G 3 )は、30分のゲル化時間を示した。 実施例1と同様にして、そのゲル化物を浸した水中の溶解シリカ濃度を測定したところ、153ppmであった。 【0023】比較例2 上記シリカゾル(S 1 )の67mlと、塩化カリウム20重量%塩化カリウム水溶液の33mlとを混合することにより、地盤注入剤(G 4 )を調製した。 この注入剤(G 4 )は、10分のゲル化時間を示した。 実施例1と同様にして、そのゲル化物を浸した水中の溶解シリカ濃度を測定したところ、1530 0ppmであった。 【0024】 【発明の効果】本発明の地盤注入剤は、粘土質地盤、砂地盤、礫質地盤など従来から施工対象とされている地盤に、従来と同様の施工方法を採用して注入することができる。 本発明の地盤注入剤のゲル化物からの溶出シリカ量は極めて小さいので、この注入剤を用いることにより、極めて耐久姓に優れた地盤改良を行うことができる。 そしてこの地盤注入剤によれば、これを注入した地盤の周りの土壌が、酸、アルカリ、塩等によって汚染されることがない。 |