【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明はセメント組成物、特に、 押出成形用に適したセメント組成物に関する。 【0002】 【従来の技術】建築用外壁材や防音壁などの土木・建築分野で用いられる押出成形用のセメント組成物は、一般に、セメント、細骨材、補強用繊維および成形助剤などを主に含んでいる。 【0003】この種のセメント組成物は、通常、補強用繊維として石綿繊維を用いている。 ところが、石綿繊維の有害性が最近指摘されていることから、その使用を手控える必要性が高まっている。 このため、石綿繊維に代わる代替物の検討が進められており、例えば、経済的に有利な合成繊維や親水性が良好なセルロース繊維の利用が実用化されている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】合成繊維は、疎水性を有するため、セメント組成物中に均一に分散しにくい。 このため、合成繊維を含むセメント組成物による押出成形品は、強度不足の場合が多く、また、成形品の硬化後の表面平滑性が劣っている場合が多い。 【0005】一方、セルロース繊維を含むセメント組成物による押出成形品は、機械的強度が不十分な場合が多い。 また、この組成物は、メチルセルロースなどの高価な押出助剤を必要(通常、セメント100重量部に対して2〜5重量部程度)とするので、経済性の面からも改善が求められている。 【0006】本発明の目的は、石綿繊維を用いることなく、高強度で表面平滑性が良好なセメント押出成形品を安価に実現することにある。 【0007】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、親水性が良好なセルロース繊維が石綿繊維に代わる補強用繊維として有効である点に着目し、種々の検討を加えた。 その結果、融砕法により繊維化したセルロース、特に、径が0.01〜1μmでありかつ長さが1〜5mmのものを混合したセメント組成物は、押出成形性が良好であること、これにより得られた押出成形品は機械的強度が高いこと、さらに、上述のセルロースが押出助剤の代替として機能していることを見い出し本発明を完成するに至った。 【0008】すなわち、本発明に係るセメント組成物は、セメント100重量部と、細骨材50〜150重量部と、融砕法により得られかつ径が0.01〜1μm、 長さ1〜5mmの繊維化セルロース2〜10重量部とを含有するものである。 なお、繊維化セルロースは、通常、それを含む水分散液またはその脱水ケーキ状のものが用いられる。 【0009】また、本発明に係るセメント組成物の押出成形用助剤は、融砕法により得られた、径が0.01〜 1μm、長さ1〜5mmの繊維化セルロースを含んでいる。 【0010】以下、本発明を詳細に説明する。 【0011】本発明で用いられるセメントは、通常使用されるセメントであれば特に限定されない。 具体的には、ポルトランドセメント、マグネシアセメント、アルミナセメント、混合セメント、天然セメントなど、各種のセメントを使用することができる。 【0012】本発明で用いられる細骨材は、セメントに通常混合されるものであれば特に限定されない。 細骨材の具体例としては、川砂、山砂、破砂などが挙げられる。 【0013】本発明で用いられる繊維化セルロースは、 融砕法により得られたものである。 融砕法により得られる繊維化セルロースは、例えば、エゾマツ、ポプラ、ブナなどの木材パルプ、綿花などのリンターパルプ、およびケナフなどの非木材パルプなどのセルロース原料を1 〜10重量%の水分散液とし、これを融砕機(例えば、 増幸産業株式会社製の”スーパーマスコロイダー”)を用いて解繊することにより得られた繊維の水分散液、その脱水ケ−キまたは当該脱水ケーキの乾燥品である。 なお、このような繊維化セルロースは、乾燥品として取り出すと高価になるため、水分散液または脱水ケーキ状のものを用いるのが好ましい。 【0014】本発明では、上述の繊維化セルロースのうち、径が0.01〜1μmでありかつ長さが1〜5mm のものが用いられる。 径が0.01μm未満の場合は、 その製造が実質上困難である。 逆に、径が1μmを超える場合は、補強用繊維としての効果が乏しくなる。 また、長さが1mm未満の場合は、十分な強度のセメント成形品を得るのが困難である。 逆に、長さが5mmを超える場合は、天然繊維から製造することが困難になる。 【0015】本発明のセメント組成物は、上述のセメント100重量部に対して上述の細骨材および上述の繊維化セルロースをそれぞれ50〜150重量部および2〜 10重量部含んでいる。 なお、繊維化セルロースの含有量は、固形分換算の値である。 細骨材の含有量が50重量部未満の場合は、成形体の強度が弱くなる。 逆に、1 50重量部を超える場合は、成形体が脆くなる欠点が生じる。 一方、繊維化セルロースの含有量が2重量部未満の場合は、十分な強度のセメント押出成形品が得られない。 また、押出成形品の表面平滑性が不十分な場合がある。 逆に、10重量部を超える場合は、実用上経済的に不利である。 【0016】本発明のセメント組成物は、上述の各種必須成分の他に、必要により、例えばセメント成形品の物性改良等の種々の目的を達成するために各種の添加物を含んでいてもよい。 添加物としては、例えば、パーライト、シラスバルーン、シリカフラワー、バーミキュライト、籾殻粉末などが例示できる。 また、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、 ヒドロキシメチルセルロースなどの押出助剤を含んでいてもよい。 【0017】本発明のセメント組成物は、セメントと細骨材とをヘンシェルミキサーなどの混合機を用いて混合した後にニーダーに移し、上述の繊維化セルロースおよび必要量の水を加えて混練すると得られる。 ここで添加する水の量は、繊維化セルロースの形態、即ち、水分散液、脱水ケーキ、またはその乾燥品のいずれの形態のものを用いるかで異なるが、通常は、セメント組成物の全固形分に対して10〜70重量%が好ましい。 ここでの水の量は、水分散液または脱水ケーキ状の繊維化セルロースを用いる場合、その繊維化セルロースに含まれる水の量も含む値である。 【0018】なお、添加する水の量が10重量%未満の場合は、セメント組成物の粘度が高くなり過ぎるので、 円滑な押出成形が困難になる。 逆に、70重量%を超える場合は、組成物が柔らかくなり過ぎるので、押出時の成形品の保形性が低下する。 【0019】このようにして調製されたセメント組成物から押出成形品を製造する場合は、例えば、セメント組成物をスクリュー型押出機を用いて希望する形状に押出成形し、次いでそれを水中養生、気中養生あるいは高温・高圧養生した後に乾燥する。 【0020】このようにして得られた本発明のセメント組成物による押出成形品は、繊維化セルロースが3次元的に複雑に分布し、また、細骨材(通常は粒径が数百μ m〜数mm)と繊維化セルロースとが十分に絡み合うため、従来のような通常のセルロース繊維を補強繊維として用いた組成物からなる成形品に比べて強度が高まる。 【0021】また、セメント組成物に含まれる繊維化セルロースは、その微細さ故に水と接触すると糊状を呈するので、従来の組成物に含まれていた押出助剤の水溶液または水分散液と同様の作用を発揮し、成形品の表面平滑性を高める。 したがって、本発明のセメント組成物によれば、メチルセルロース等の高価な押出助剤を用いなくても、表面平滑性が良好な押出成形品を安価に実現できることになる。 【0022】本発明に係るセメント組成物の押出成形用助剤は、融砕法により得られた、径が0.01〜1μ m、長さ1〜5mmの繊維化セルロースであり、上述の本発明に係るセメント組成物に含まれる繊維化セルロースと同様のものである。 このような繊維化セルロースからなる本発明の助剤は、水分散液、その脱水ケーキまたはその乾燥品の各種形態で用いられる。 但し、このような繊維化セルロースは、乾燥品にすると高価になるので、通常は水分散液またはその脱水ケーキ状のものを用いるのが好ましい。 【0023】このような本発明に係るセメント組成物の押出成形用助剤は、従来の押出助剤、即ち、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースあるいはヒドロキシメチルセルロースなどに代えて従来から利用されているセメント組成物に添加される。 セメント組成物に添加された本発明の助剤は、上述のように水と接触すると糊状を呈して従来の押出助剤と同様の作用を発揮し、押出成形品の表面平滑性を高め得る。 また、本発明の押出成形用助剤は、従来の押出成形用助剤に比べて安価に提供することができる。 【0024】 【実施例】以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。 【0025】 製造例1 5cm以下に切断した木材パルプ5kgと水95kgとを200リットルの容器に投入して混合し、分散液を調製した。 この分散液を、増幸産業株式会社製の融砕機” スーパーマスコロイダー 10−15J型”に定量ポンプを用いて100kg/時の速度で送りこんだ。これにより得られた分散液を3回同様に操作を繰返して処理し、径が0.3μm、長さが3mmに繊維化された繊維化セルロース水分散液を得た。 【0026】 製造例2製造例1で得られた繊維化セルロース水分散液をフイルタープレスを用いて圧縮濾過し、繊維化セルロース(固形分)が100重量部、水分が200重量部の割合よりなる繊維化セルロースの脱水ケーキを得た。 【0027】 実施例1ポルトランドセメント100kgと細骨材としての川砂80kgとをヘンシェルミキサーを用いて十分に混合し、ニーダーに仕込んだ。 これに、製造例2で得られた繊維化セルロースの脱水ケーキ15kgと水45.5k gとを添加して混合し、混練セメント組成物を得た。 【0028】次に、この混練セメント組成物を本田鉄工株式会社製の押出成形機”DE−50型”を用いて23 kgf/cm 2の圧力で押出し成形し、断面が12×6 0mmの板状セメント成形品を得た。 【0029】 実施例2ポルトランドセメント100kgと細骨材としての川砂60kgとをヘンシェルミキサーを用いて十分に混合し、ニーダーに仕込んだ。 これに、製造例1で得られた繊維化セルロース水分散液30kg(固形分=5重量%)と水10kgとを添加して混合し、混練セメント組成物を得た。 この組成物から、実施例1の場合と同様にして板状セメント成形品を得た。 【0030】 実施例3ポルトランドセメント100kgと細骨材としての川砂60kgとをヘンシェルミキサーを用いて混合する際に籾殻粉末5kgをさらに添加した点を除いて実施例2と同様に処理し、板状セメント成形品を得た。 【0031】 実施例4ポルトランドセメント100kgと細骨材としての川砂60kgとをヘンシェルミキサーを用いて混合する際に、押出助剤としてのメチルセルロース2kgをさらに添加した点を除いて実施例2と同様に処理し、板状セメント成形品を得た。 【0032】 比較例1繊維化セルロースの脱水ケーキ15kgと水45.5k gとに代えて、メチルセルロース3kgと水55.5k gとをニーダーに添加し、実施例1と同様にして板状セメント成形品を得た。 【0033】 比較例2ポルトランドセメント100kgと細骨材としての川砂80kgとをヘンシェルミキサーを用いて混合する際に、径が10μmで長さが3mmのパルプ繊維5kgを追加した点を除き、比較例1と同様にして板状セメント成形品を得た。 【0034】 比較例3ポルトランドセメント100kg、細骨材としての川砂60kg、押出助剤としてのメチルセルロース2kgおよび径が0.3μmで長さが40μmの繊維化セルロース3kgをヘンシェルミキサーを用いて十分に混合し、 ニーダーに仕込んだ。 これに水37kgを添加して混合し、混練セメント組成物を得た。 この組成物から実施例1と同様にして板状セメント成形品を得た。 【0035】 評価実施例1〜4および比較例1〜3で得られた板状セメント成形品について、曲げ強度、押出成形性および表面平滑性を評価した。 評価の方法は下記の通りである。 結果を表1に示す。 【0036】(曲げ強度)板状セメント成形品を湿潤状態で1日静置した後に20℃の水中で27日間養生して硬化させた。 この硬化体について、株式会社島津製作所製のオートグラフ”IS−10T”を用い、スパン15 0mm、載荷速度毎分1mmの中央集中載荷により曲げ強度を測定した。 【0037】(押出成形性)押出成形時の押出速度(c m/分)を比較した。 押出速度が大きい程良好な成形性であることを示している。 【0038】(表面平滑性)板状セメント成形品を硬化させ、その表面粗さ(mm)を粗さ試験器を用いて測定した。 評価の基準は、次の通りである。 ○:表面粗さが0.2mm未満。 △:表面粗さが0.2〜0.4mm。 【0039】 【表1】 【0040】 【発明の効果】本発明に係るセメント組成物は、融砕法により得られた、径が0.01〜1μmでありかつ長さが1〜5mmの繊維化セルロースを含んでいるので、石綿繊維を用いることなく、高強度で表面平滑性が良好なセメント押出成形品を安価に実現することができる。 【0041】また、本発明に係るセメント組成物の押出成形用助剤は、上述のような繊維化セルロースからなるので、従来の押出成形用助剤に比べて安価に提供でき、 しかも表面平滑性が良好なセメント押出成形品を実現することができる。 |