【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は耐炭酸化性に優れた軽量気泡コンクリートの製造方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】軽量気泡コンクリートは、不燃で耐火性に優れ、断熱性に優れ、軽量であり、施工性にも優れている等の多くの特徴を有しているため、壁、床、屋根、 間仕切り等の建築材料として広く使用されている。 軽量気泡コンクリートは、一般に珪石、ポルトランドセメント、生石灰等を主原料としたスラリーに、発泡剤や気泡剤等により気泡を導入し、硬化させた後、高温高圧蒸気養生して製造され、得られた軽量気泡コンクリートは一般的には比重が0.5程度のものが多く、この場合、約50容量%が気泡であり、約30容量%の細孔、残る約20容量%の固体部分からなる。 そして固体部分はトバモライト結晶、CSHゲル、および未反応珪石である。 【0003】このように軽量気泡コンクリートは、表面から内部まで無数に存在する細孔に気泡が連通している構造となっているため、表面から水を吸い易く、吸収された水の中へ大気中の炭酸ガスが溶解していく。 溶解した炭酸ガスは軽量気泡コンクリート中のトバモライト結晶、CSHゲルと反応して炭酸カルシウムを生成し、いわゆる炭酸化現象を起こす。 炭酸化が進行すると固体部が収縮して軽量気泡コンクリートに亀裂を生じ、その亀裂から水がさらに侵入し易くなり、さらに軽量気泡コンクリートの強度も低下することになる。 【0004】従来、この軽量気泡コンクリートの炭酸化現象を防止するために、軽量気泡コンクリートを建材として壁等に使用した場合、その表面に塗料を塗布して、 表面から水が入らないようにして使用されている。 しかしながら、塗料等で表面処理をして炭酸ガスの侵入を抑えて炭酸化の進行を遅くするにはかなり厚い塗装が必要になり、また通常は室内側はそのような塗装は行われないことから、徐々に軽量気泡コンクリートの炭酸化が進行し、長時間経過すると、炭酸化のために亀裂が発生することがあった。 【0005】このために、軽量気泡コンクリートの耐炭酸化性を向上させようとする提案がなされている。 これは特開昭57−179009号公報から特開昭57−1 79013号公報等に示されているように、軽量気泡コンクリートの原料スラリー中に有機燐酸エステルやストロンチウム化合物を添加して製造する技術である。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、有機燐酸エステルやストロンチウム化合物を軽量気泡コンクリートの原料スラリーに添加して製造する技術では、得られる耐炭酸化性の程度は十分でなく、また、これらの方法でトバモライト結晶が良く成長した軽量気泡コンクリートを得るには長時間を要する等の難点があった。 【0007】なお、高温高圧蒸気養生した製品状態の軽量気泡コンクリートに、後工程で有機燐酸エステルやストロンチウム化合物を含浸させても、軽量気泡コンクリートは耐炭酸化性を示さない。 本発明の目的は、従来技術に比べてさらに耐炭酸化性が向上した軽量気泡コンクリートを提供することにある。 【0008】 【課題を解決するための手段】本発明は、炭素数が3〜 8であるカルボン酸とイオン化ポテンシャルがカルシウム以上である金属からなり、かつ水への溶解性が3g/ 100ml以上であるカルボン酸金属塩の水溶液を含浸させることを特徴とする耐炭酸化性にすぐれた軽量気泡コンクリートの製造方法である。 【0009】本発明でいうカルボン酸金属塩を構成するカルボン酸は、炭素数が3〜8のカルボン酸である。 炭素数が多いカルボン酸の金属塩程含浸した効果は大きいが、炭素数が8より大きいと水への溶解性が低下するため、軽量気泡コンクリートに含浸させる量が低下し、本発明の目的を達することが出来なくなる。 一方、炭素数が2以下の場合は、軽量気泡コンクリートの乾燥が進んでおらず含水率が高い状態での炭酸化反応抑制効果が小さいので好ましくない。 本発明のカルボン酸金属塩として具体的には、プロピオン酸、酪酸、安息香酸等のカルボン酸の金属塩が好ましい。 【0010】次に本発明のカルボン酸金属塩を構成する金属元素は、そのイオン化ポテンシャルがカルシウム金属のそれ以上であることが必要である。 イオン化ポテンシャルがカルシウムイオンより小さい金属のカルボン酸塩では炭酸化反応抑制効果は認められない。 カルボン酸金属塩にした場合の水への溶解性等を考慮すると、金属としてはマグネシウム、亜鉛、カドミウム、コバルト等が好ましい。 【0011】本発明のカルボン酸金属塩は水への溶解性が3g/100ml以上である。 溶解性がこの値未満であると、カルボン酸金属塩水溶液を軽量気泡コンクリートに含浸させる場合、長時間水溶液中に浸漬したり、または塗装の回数をふやさないと目的の効果がえられないからである。 このようなカルボン酸金属塩水溶液を含浸させる方法は、例えばカルボン酸金属塩の水溶液中に軽量気泡コンクリートを浸漬する方法や、軽量気泡コンクリートにスプレーして含浸させる方法等がある。 カルボン酸金属塩水溶液の濃度を高くしたり、水溶液に浸漬する時間を長くすることや、またはスプレーする時間を長くすることによって、カルボン酸金属塩の含有量をかえることができる。 このようにしてカルボン酸金属塩水溶液を含浸させた軽量気泡コンクリートは、使用する前になるべく乾燥しておくのが好ましい。 【0012】なお、本発明でいう軽量気泡コンクリートとは、水熱反応により生成されたトバモライト結晶やC SHゲル等の珪酸カルシウム水和物および未反応珪石を固体成分とし、金属アルミニウム等の発泡剤や、気泡剤により導入された気泡を有する成形体で、105℃で乾燥後の嵩比重が0.3〜0.7のものをいう。 これらは、籠状の鉄筋やラス網等の補強材を内在させた製品とされるのが一般的であり、その製品の形状もパネル状であるのが一般的である。 しかし、その他の形状の製品、 例えば無筋のブロック状の製品でも本発明の対象とする軽量気泡コンクリートの製品である。 なお、鉄筋等の補強筋を使用する場合は、軽量気泡コンクリートは中心部まで吸水するので防錆処理をする必要がある。 【0013】このように、カルボン酸金属塩水溶液を軽量気泡コンクリートに含浸させると、軽量気泡コンクリートが表面から内部まで無数に存在する細孔に気泡が連続している構造となっているにもかかわらず、耐炭酸化性が向上する。 この原因は明かではないが、気泡や細孔の表面にカルボン酸金属塩が存在することによって、トバモライト結晶等の表面から水中へのカルシウムの溶解が抑えられ、その後の炭酸ガスとトバモライト結晶等との反応を阻害するため、またはカルボン酸の炭化水素基によって気泡や細孔の表面が疏水性化し、細孔中の水との接触が妨げられる為ではないかと想像される。 【0014】以下実施例に基づいて本発明をさらに説明するが、実施例中の促進炭酸化試験および炭酸化度の測定を次のようにして行った。 炭酸化試験(I) <供試体>20×40×160mmの大きさの供試体を、20℃、RH(相対湿度)60%の条件で恒量になるまで乾燥した後、炭酸化促進試験に用いた。 <炭酸化条件>温度20℃、相対湿度60%、炭酸ガス濃度10%に設定されたプラスチック製チャンバー内で所定時間反応させた。 【0015】促進炭酸化試験(II) <供試体>20×40×160mmの大きさの供試体を、乾燥することなく炭酸化促進試験に用いた。 <炭酸化条件>温度20℃、相対湿度90%、炭酸ガス濃度10%に設定されたプラスチック製チャンバー内で所定時間反応させた。 【0016】含水率 20×40×160mmの大きさの供試体の重量(W) を測定した後、105℃の条件で恒量になるまで乾燥し、重量(w)を測定した。 次の式を用いて含水率を求めた。 含水率={(W−w)/w}×100(%) 炭酸化度測定 供試体を105℃で24時間乾燥後粉砕し、100〜5 00mgを精秤した。 5規定の塩酸水溶液で分解し、発生する炭酸ガス量を測定して供試体1グラム当たりのガス発生量(v)を求めた。 【0017】一方、供試体の一部を粉砕した後温度20 ℃,相対湿度100%、炭酸ガス2kgf/cm 2の条件下7日間で炭酸化させた。 105℃で24時間乾燥させた後、100〜500mgを精秤し、5規定の塩酸水溶液で分解し、発生する炭酸ガス量を測定して供試体1 グラム当たりのガス発生量(V)を求めた。 炭酸化度は次の式を用いて求めた。 【0018】炭酸化度=(v−V)×100(%) 【0019】 【実施例】 【0020】 【比較例1】珪石45重量部、普通ポルトランドセメント44重量部、生石灰11重量部に成形水70重量部を加え攪拌混合し、これにアルミニウム粉末0.07重量部を加えたモルタルを60℃の養生槽にて発泡・硬化させ、所定の硬度に達したモルタルブロックをオートクレーブ養生(180℃、10時間)して軽量気泡コンクリートを得た。 得られた軽量気泡コンクリートの中心部から20×40×160mmの大きさの供試体を切り出し、20℃、RH60%の条件で恒量になるまで乾燥した後、促進炭酸化試験(I)に用いた。 【0021】促進炭酸化試験結果を表1に示した。 【0022】 【実施例1】比較例1と同様な方法で作製し、20℃、 RH60%の条件で恒量になるまで乾燥した20×40 ×160mmの大きさの軽量気泡コンクリートをプロピオン酸亜鉛の5%水溶液中に1分間浸漬した後、20 ℃、RH60%の条件で恒量になるまで乾燥し、促進炭酸化試験(I)に用いた。 【0023】促進炭酸化試験結果を表1に示した。 【0024】 【実施例2】プロピオン酸亜鉛の代わりに酪酸マグネシウムを用いた以外は実施例1と同様な方法で供試体を作成し、促進炭酸化試験(I)をおこなった。 促進炭酸化試験結果を表1に示した。 【0025】 【実施例3】プロピオン酸亜鉛の代わりに安息香酸マグネシウムを用いた以外は実施例1と同様な方法で供試体を作成し、促進炭酸化試験(I)をおこなった。 促進炭酸化試験結果を表1に示した。 【0026】 【実施例4】プロピオン酸鉛をプロピオン酸亜鉛の代わりに用いた以外は実施例1と同様な方法で供試体を作成し、促進炭酸化試験(I)をおこなった。 促進炭酸化試験結果を表1に示した。 【0027】 【実施例5】プロピオン酸ニッケルをプロピオン酸亜鉛の代わりに用いた以外は実施例1と同様な方法で供試体を作成し、促進炭酸化試験(I)をおこなった。 促進炭酸化試験結果を表1に示した。 【0028】 【比較例2】プロピオン酸ナトリウムをプロピオン酸亜鉛の代わりに用いた以外は実施例1と同様な方法で供試体を作成し、促進炭酸化試験(I)をおこなった。 促進炭酸化試験結果を表1に示した。 【0029】 【比較例3】プロピオン酸銀の飽和水溶液をプロピオン酸亜鉛水溶液の代わりに用いた以外は実施例1と同様な方法で供試体を作成し、促進炭酸化試験(I)をおこなった。 促進炭酸化試験結果を表1に示した。 【0030】 【比較例4】珪石45重量部、普通ポルトランドセメント44重量部、生石灰11重量部に成形水70重量部を加え攪拌混合し、これにアルミニウム粉末0.07重量部を加えたモルタルを60℃の養生槽にて発泡・硬化させ、所定の硬度に達したモルタルブロックをオートクレーブ養生(180℃、10時間)して軽量気泡コンクリートを得た。 得られた軽量気泡コンクリートの中心部から20×40×160mmの大きさの供試体を切り出し、促進炭酸化試験(II)に用いた。 【0031】促進炭酸化試験結果を表2に示した。 【0032】 【実施例6】比較例4と同様な方法で作製した20×4 0×160mmの大きさの軽量気泡コンクリートを、プロピオン酸亜鉛の5%水溶液中に2分間浸漬した後、促進炭酸化試験(II)に用いた。 促進炭酸化試験結果を表2に示した。 【0033】 【比較例5】比較例4と同様な方法で作製した20×4 0×160mmの大きさの軽量気泡コンクリートを、酢酸マグネシウムの5%水溶液中に2分間浸漬した後、促進炭酸化試験(II)に用いた。 促進炭酸化試験結果を表2に示した。 【0034】表1の結果から明らかな様に、本発明の実施例1〜5は比較例1に比べて炭酸化の進行が遅くなっている。 一方、カルボン酸金属塩でもイオン化ポテンシャルの小さいナトリウムを用いた比較例2では、比較例1に比べて炭酸化の進行は速い。 プロピオン酸銀を用いた比較例3の炭酸化の進行は、比較例1とほとんど変わらなかった。 【0035】含水率の高い状態での炭酸化反応では(表2)、炭素数3のカルボン酸金属塩の場合は顕著な効果を示すが(実施例6)、炭素数2のカルボン酸金属塩では示さなかった。 【0036】 【表1】 【0037】 【表2】 【0038】 【発明の効果】以上述べたとおり本発明の方法によれば、軽量気泡コンクリートの炭酸化反応速度が大幅に減少する。 炭酸化の進行が遅くなることによって、炭酸化収縮による亀裂の発生が起こりにくくなり、耐久性に優れた軽量気泡コンクリートとなる。 |