【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、擬岩用組成物に関するものである。 【0002】 【従来の技術】公園,動物園,遊園地などのレジャー施設において自然景観を確保したい場合や、展示会場などにおいて自然景観としての装飾的効果を発揮させたい場合などに、天然岩石と同様な形状,色彩を有する擬岩が用いられている。 【0003】この種の擬岩の製造材料としては、コンクリート以外に、耐久性を考慮してガラス繊維強化プラスチックス(GFRP)や、ガラス繊維をコンクリートやモルタルに混入したガラス繊維補強コンクリートまたはモルタル(GFRC)などが用いられ、これらの製造材料を吹付けたり、型枠に流し込むことなどにより擬岩を製作していた。 【0004】しかしながら、このような組成からなる擬岩を寒冷地などの気象条件の厳しい地域で、屋外において長期間使用すると、以下に説明するような技術的な課題があった。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】すなわち、GFRPの場合には、紫外線に晒されることで、ガラス繊維が劣化して、強度低下を招くだけでなく、擬岩表面に変色が現れて美観を損なう。 また、GFRCの場合には、ガラス繊維がセメント成分のアルカリにより劣化して、強度が低下する。 【0006】さらに、特に、前述した擬岩用組成物を吹付ける場合には、大きな気泡(エントラップエアー)が混入し、凍結融解の要因となり、より一層劣化を誘発し易くなるという問題があった。 【0007】本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、アルカリおよび紫外線などに対する耐候性が向上する擬岩用組成物を提供することにある。 【0008】また、別の目的として、凍結融解に対する抵抗性が増す擬岩用組成物を提供することにある。 【0009】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明は、モルタルと補強繊維およびポリマーとを含む擬岩用組成物において、前記モルタルの水セメント比を25〜35%、同砂セメント比を50〜120%とし、前記ポリマーを前記モルタル中のセメント重量に対して、3〜7%添加し、前記補強繊維に高分子系の短繊維を用いるようにした。 このように構成した擬岩用組成物によれば、補強繊維に高分子系の短繊維を用いるので、ガラス繊維のようにセメント成分のアルカリによる劣化がなく、また、紫外線に対する耐候性も高い。 また、本発明の擬岩用組成物では、モルタルの水セメント比が25〜35%となっていて、通常のコンクリートに比べて小さいので、硬化後の強度が増加するとともに、 単位水量が少ないため、硬化後の収縮も小さくなり、ひび割れの発生が低下する。 本発明の擬岩用組成物には、 必要に応じて空気連行剤を添加することができ、空気連行剤を添加すると、組成物に含まれる気泡が微細になって、凍結融解に対する抵抗性が増す。 本発明の高分子系の補強繊維は、ビニロン繊維を用いることができ、この繊維を前記モルタル中のセメント重量に対して、2〜8 %添加することが望ましい。 ビニロン繊維の添加量が2 %未満の場合には、繊維を加えることによる強度の補強効果が不十分になり、添加量が8%を越えると、混練などに障害が発生し、経済的な不利益も大きくなるので、 この範囲内に設定することが望ましい。 【0010】 【発明の実施の形態】以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。 図1 は、本発明にかかる擬岩用組成物を用いて、擬岩パネル10を作成し、この擬岩パネル10に対して、材料の室内試験(品質試験,凍結融解抵抗性試験,乾燥収縮性試験)と寒冷地用暴露試験とを施した供試体の説明図である。 【0011】擬岩パネル10は、型枠内に後述する表1 に示した組成物を充填して、これを硬化させることで、 厚みが約40mmで、大きさが1800×700mmの曲面状に形成した。 【0012】この擬岩パネル10の内部には、予めセパレータ12の装着用インサートを40cm間隔に埋め込み設置した。 擬岩パネル10は、セパレータ12と内部鋼材14により支持し、擬岩パネル10の背面側に設けた基板16との間に後打ちコンクリート18を充填し、 全体の厚みが最も薄い部分で500mmになるようにした。 【0013】各セパレータ12の外周面には、後打ちコンクリート18との間の縁を切るために緩衝材を巻付け、セパレータ12による拘束を小さくした。 また、擬岩パネル10の背面には、縁切材としてウレタン樹脂を厚さ2mm程度塗布し、この樹脂に硅砂を1kg/m 2 程度散布して、後打ちコンクリート18による拘束を低減させた。 【0014】以下の表1には、擬岩パネル10に用いた擬岩用組成物の材料および配合例を示している。 【0015】 【表1】 【0016】ここで、本発明の擬岩用組成物の配合について詳述すると、モルタルと補強繊維およびポリマーとを含む擬岩用組成物においては、まず、モルタルの水セメント比を25〜35%の範囲内に設定する必要がある。 【0017】その理由は、水セメント比が25%未満の場合には、モルタルの流動性が低下し、水セメント比が35%を越えると、所要の強度が得られないので、この範囲内に設定する。 【0018】また、モルタルの水セメント比を25〜3 5%にすると、通常のコンクリートに比べて水セメント比が小さいので、硬化後の強度が増加するとともに、単位水量が少なくなり、硬化後の収縮も小さくなり、ひび割れの発生が低下する。 【0019】一方、モルタルの砂セメント比は、50〜 120%の範囲内に設定する必要がある。 【0020】その理由は、砂セメント比が50%未満の場合には、単位水量が多く、硬化後の収縮が大きくなり、砂セメント比が120%を越えると、流動性が低下するので、この範囲内に設定する。 【0021】さらに、ポリマーをモルタル中のセメント重量に対して、3〜7%添加の範囲内で添加する必要がある。 その理由は、3%未満の場合には、所要の強度が得られず、7%を越えると、粘性が高くなるので、この範囲内に設定する。 【0022】そして、補強繊維には、例えば、ビニロン,ケブラーなどの高分子系の短繊維を用いる必要がある。 補強繊維に高分子系の短繊維を用いると、ガラス繊維のようにセメント成分のアルカリによる劣化が少ない。 【0023】補強繊維にビニロン繊維を用いた場合には、ビニロン繊維をモルタル中のセメント重量に対して、2〜8%添加することが望ましい。 ビニロン繊維の添加量が2%未満の場合には、繊維を加えることによる強度の補強効果が不十分になり、添加量が8%を越えると、混練などに障害が発生し、経済的な不利益も大きくなるので、この範囲内に設定することが望ましい。 【0024】また、本発明の擬岩用組成物には、必要に応じて空気連行剤(AE剤)を添加することができ、空気連行剤を添加すると、組成物に含まれる気泡が微細になって、凍結融解に対する抵抗性が増す。 【0025】以下の表2には、表1に示した擬岩用組成物のモルタルの品質試験の結果を示している。 【0026】 【表2】 【0027】擬岩用組成物の品質試験は、フレッシュ性状におけるフロー,空気量と、材齢28日における圧縮および曲げ強度とした。 表2に示した結果から明らかなように、フローおよび空気量は、吹付けに適したフレッシュ性状であった。 【0028】また、材齢28日における圧縮および曲げ強度も要求性能を満足するものであった。 【0029】擬岩パネル10の凍結融解抵抗性の試験は、「コンクリートの凍結融解試験方法」(土木学会基準JSCE−G501−1986) に準拠して行った。 【0030】図2は、凍結融解抵抗性試験の相対動弾性係数(凍結融解を受けたコンクリート強度の初期強度に対する割合を示す指標)の試験結果である。 この試験結果では、600サイクルでの相対動弾性係数は、100 %以上であり、優れた凍結融解抵抗性を備えていることが確認された。 【0031】なお、通常配合の普通コンクリート,繊維強化コンクリートの場合には、相対動弾性係数は、一般的に60〜80%程度になる。 【0032】擬岩パネル10の乾燥収縮試験は、JIS A 1129−1993「モルタルおよびコンクリートの長さ変化試験方法」に準じ、4cm×4cm×16 cmの角柱供試体を温度20℃、湿度60%の条件で養生した時の材齢1日に対する長さ変化率を測定した。 図3は、この乾燥収縮試験の測定結果を示している。 【0033】同図に示したように、12周の長さ変化率を見ると、−0.14%と比較的大きな値を示しているが、4周以降からの変化率が小さくなっている。 このことから、擬岩の製作から設置まで約4週間程度の養生期間を設ければ、擬岩パネル10の乾燥収縮によるひび割れは、防止できるものと考えられる。 【0034】以下に示した表3は、擬岩パネル10の線膨張係数の測定結果を示している。 【0035】線膨張係数の測定は、10cm×10cm ×40cmの供試体に埋め込み型ひずみ計を埋設し、− 20℃〜+60℃まで温度を変化させて、ひずみ量を測定した。 コンクリートの線膨張係数は、一般的には、1 0μ/℃程度であり、これよりも線膨張係数が大きかった。 【0036】 【表3】 【0037】図4は、擬岩パネル10の背面に施した縁切り材の材料試験の測定結果である。 この材料試験は、 縁切り材の接着力と伸び能力とを確認するために行ったものであって、直径が10cmの擬岩パネル10に前述したウレタン樹脂と硅砂との縁切り材を設け、その上にモルタルを打ち継いで直接引張試験を行った。 【0038】図4は、この試験結果を引張応力−変位の関係で示したものであって、得られた結果から明らかなように、変形量が大きく、2mm程度の変形まで付着力を保持していて、擬岩パネル10と後打ちコンクリート18との間の変位を吸収して、パネル10の剥離を防止するに十分な性能を備えていることを確認した。 【0039】擬岩パネル10の寒冷地暴露試験は、東京都町田市にて、後打ちコンクリート18を打設した擬岩パネル10を北海道日高町に送り、そこで暴露試験を実施した。 【0040】暴露状態は、南の方向に擬岩パネル10を向け、暴露期間は、75日とし、期間中の最高温度3 0.5℃、最低温度−22.1℃であった。 また、暴露1ヶ月後にジェットヒーターによる表面加熱試験を行った。 【0041】図5は、暴露試験終了後の擬岩パネル10 の表面状態を示したものであって、ひび割れ発生は、軽微であり、ひび割れの幅は、ほとんどが0.1mm以下であって、有害なひび割れは認められなかった。 【0042】これは、パネル10の背面に施したウレタン樹脂の拘束解除効果が有効に発揮されたものと考えられる。 【0043】 【発明の効果】以上実施例で詳細に説明したように、本発明にかかる擬岩用組成物によれば、アルカリおよび紫外線などに対する耐候性が向上するとともに、凍結融解に対する抵抗性も増す。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明にかかる擬岩用組成物により作成した擬岩パネルの供試体の説明図である。 【図2】図1に示した供試体の凍結融解抵抗性試験の試験結果を示すグラフである。 【図3】図1に示した供試体の乾燥収縮試験の試験結果を示すグラフである。 【図4】図1に示した供試体の縁切り材の引張試験の試験結果を示すグラフである。 【図5】図1に示した供試体の寒冷地暴露試験のひび割れ発生状況の説明図である。 【符号の説明】 10 擬岩材 12 セパレータ 18 後打ちコンクリート ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 新村 亮 東京都千代田区神田司町2−3 株式会社 大林組東京本社内 (72)発明者 浦野 知子 東京都千代田区神田司町2−3 株式会社 大林組東京本社内 (72)発明者 澤田 豊興 東京都豊島区東池袋4−25−12 池袋今泉 ビル8F 株式会社プラントーク内 (72)発明者 今井 章 東京都豊島区東池袋4−25−12 池袋今泉 ビル8F 株式会社プラントーク内 Fターム(参考) 4G012 PA04 PB28 |