【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、製塩工程における製品結晶の粒径を制御する製品粒径制御装置に関する。 【0002】 【従来の技術】従来、製塩工程における晶析装置は、蒸発缶で母液やかん水を加熱・蒸発させ、濃度を飽和溶解度以上にして塩を析出成長させるものであり、蒸発速度、種晶添加速度、種晶平均粒径、結晶懸濁密度、缶内母液組成率などの晶析因子を操作する様々な操作条件に応じて晶析現象が変化し、生産される製品の結晶粒径はこの晶析現象に影響される。 【0003】また、晶析装置は、結晶粒径を大きくする成長現象と結晶粒径を小さくする核化現象とにより振動性や非線形性を有する。 このため、従来のPID制御やシーケンス制御のみでは、操作条件により変化する晶析装置の特性に充分対応できず、満足できる製品結晶粒径の制御を行うことが困難であった。 【0004】このため、晶析装置を運転する際には、晶析装置の出口において、常時、熟練オペレータが製品結晶粒径を監視し、運転状態の変動に応じて、目標結晶粒径の製品を安定して生産するために必要な操作条件を経験と勘にたよって繰り返し探索して最適操作条件を求め、晶析装置を調整することにより、一定の目標結晶粒径の製品を生産している。 【0005】また、晶析現象は、晶析装置の操作因子、 型式、規模、晶析温度、溶液の組成などにより変化し、 生産される製品の結晶粒径はこの晶析現象に影響される。 このため、少品種多量生産を目的とした従来の技術においては、まず生産する目標の製品結晶粒径を定め、 この目標値に対する晶析装置の型式、規模を設計し、それに基づく晶析装置の開発、制作を行うことにより、目標近傍の結晶粒径の製品を生産するという方法をとっている。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、夜間運転にともなって行われる蒸発速度の切り替え時のように運転状態が変動する場合、目標の結晶粒径の製品を安定して生産するために必要な最適操作条件を、熟練オペレータが試行錯誤に条件を設定して求めているが、外乱を抑えるまでに時間がかかり、制御精度が低下してしまうという問題がある。 【0007】また、晶析装置は長時間連続運転を行うため、複数の熟練オペレータが交代しながら業務をする必要がある。 このため、熟練オペレータ間で運転状態の変動や故障・異常時の対応の経験が異なり最適操作条件の探索の仕方にも差が生じ、運転状態の変動への対処の仕方が統一されず、最小のロスで、効率よく目標の結晶粒径の製品を生産できる保証が得られない。 【0008】また、熟練オペレータの製品結晶粒径の制御技術は過去の経験に対する主観と勘とによって把握しているため、時間とともに忘却したり、抜けを生じやすいという問題がある。 さらに、このような熟練オペレータの技術を継承したり、ノウハウを共有するのが困難である。 【0009】さらに、晶析装置の型式、規模により、安定して生産できる製品結晶粒径の範囲が決まってくるので、既存設備に設定されている目標の製品結晶粒径に対して大きく目標値が異なる結晶粒径の製品を生産するためには、正確な晶析装置の特性の把握、高精度な最適条件の推定が要求される。 【0010】しかし、従来の試行錯誤的な対処では上記のような要求を満たすのは困難であり、既存設備を改造して目標の結晶粒径の製品を生産しなければならないのが現状である。 このため、特に多品種少量生産を行う場合、生産コストが高くなるという問題がある。 【0011】本発明は、連続操作のもとで目標の結晶平均粒径を有する製品を安定して生産できるような製品結晶粒径の制御技術を定式化し、既存設備を改造することなく目標が異なる結晶平均粒径の製品を高精度に生産できるようにすることを課題とする。 また、製品結晶粒径の制御を自動化し、運転状態が変動する場合でも、一定の結晶平均粒径の製品を安定して生産できるようにすることを課題とする。 【0012】 【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するためになした本発明の製品結晶粒径制御装置は、製塩工程における製品結晶粒径と晶析因子のデータから晶析装置の特性をニューラルネットを用いてモデル化するモデル構築手段と、上記モデル構築手段で構築されたモデルに基づいていて目標とする製品結晶粒径から晶析因子を推論する推論手段と、を備えたことを特徴とする。 【0013】 【作用】本発明の製品結晶粒径制御装置において、モデル構築手段は、製塩工程における製品結晶粒径と晶析因子のデータから晶析装置の特性をニューラルネットワークを用いてモデル化する。 また、推論手段と、上記モデル構築手段で構築されたモデルに基づいていて目標とする製品結晶粒径から晶析因子を推論する。 【0014】製塩工程における製品結晶粒径のデータは、製塩工程の晶析現象の振動性や非線形性のために時間的に幅のあるデータとなる。 このような幅のあるデータに基づいて晶析装置の特性をニューラルネットワークを用いてモデル化すると、ニューラルネットワークの学習機能により、適正なモデルを構築することができ、また、モデルの精度を高めることができ、晶析因子として適正な値を推論することができる。 【0015】 【実施例】図1は本発明実施例の製品結晶粒径制御装置とこれを適用した製塩工程の晶析システムを示す図であり、この実施例の製品結晶粒径制御装置10は、パーソナルコンピュータで構成された製品結晶粒径制御器1とパーソナルコンピュータで構成された計装制御器2で構成されている。 【0016】晶析システム20は、母液を収容する晶析装置a、晶析装置aに種晶を添加する種晶添加器b、晶析装置aの母液を加熱する熱交換器c、母液を循環させる循環ポンプd、熱交換器cに供給する蒸気の量を調整する蒸気バルブe、晶析装置aにおける結晶の懸濁密度を調整する排出バルブfを備えている。 【0017】晶析装置a内の母液は循環ポンプdにより熱交換器cを介して循環され、熱交換器cで加熱されて晶析装置aで水分が蒸発し、塩が析出する。 この析出した塩は排出バルブfを介してスラリーとして取り出され、このスラリーから製品結晶粒径である塩の粒径が測定される。 【0018】また、晶析装置aにおける晶析現象は、晶析装置aにおける蒸発速度、結晶懸濁密度、缶内母液組成率(NaCl)、種晶添加器bにおける種晶添加速度および種晶平均粒径等の晶析因子によって変化し、これに応じて析出する塩の粒径が変化する。 【0019】これらの晶析因子のうち、蒸発速度、結晶懸濁密度および種晶添加速度は制御するのが容易であり、この晶析因子を計装制御器2によって制御するために、晶析システム20には、熱交換器cに供給する蒸気量を測定する蒸気量測定センサ3と、晶析装置aの缶内の圧力差を検出する差圧計の差圧データから結晶懸濁密度を測定する懸濁密度測定センサ4が配設されている。 【0020】すなわち、計装制御器2は種晶添加器bにおける種晶添加速度[kg/hr]は直接制御するが、 晶析装置aにおける蒸発速度[kg/hr]は熱交換器cに供給する蒸気の量に対応しており、計装制御器2は蒸気量測定センサ3で得られる測定データに基づいて蒸気バルブeを調整して蒸発速度を制御する。 また、懸濁密度測定センサ4で得られる結晶懸濁密度のデータに基づいて排出バルブfを調整して晶析装置aにおける結晶懸濁密度[%]を制御する。 【0021】なお、晶析装置aにおける缶内母液組成率(NaCl)は図示しない前段の装置からの母液の供給等によって制御し、種晶添加器bにおける種晶平均粒径は予め設定された粒径の種晶を使用して、一定に保っている。 【0022】計装制御器2は、制御プログラムによって得られる目標値データ保持機能部21、測定値データ入力機能部22、制御計算機能部23および操作量データ出力機能部24で構成されている。 【0023】目標値データ保持機能部21は製品結晶粒径制御器1から設定される晶析因子の目標値データを記憶し、目標値データを制御計算機能部23に出力するとともにモニタ25に出力して目標値の表示を行う。 【0024】測定値データ入力機能部22は、蒸気量測定センサ3で得られる測定データおよび懸濁密度測定センサ4で得られる結晶懸濁密度の測定データを入力し、 入力データを制御計算機能部23と製品結晶粒径制御器1とに出力するとともに、モニタ25に出力して測定データの表示を行う。 【0025】制御計算機能部23は、FF制御、FB制御、シーケンス制御等により、目標値データ保持機能部21から入力される晶析因子の目標値データと測定値データ入力機能部22から入力される測定データに基づいて、種晶添加速度、蒸発速度および結晶懸濁密度がそれぞれ目標値になるような種晶添加速度の操作量、蒸気バルブeの操作量および排出バルブfの操作量を演算する。 【0026】操作量データ出力機能部24は、制御計算機能部23で演算された操作量に基づいて、種晶添加器b、蒸気バルブeおよび排出バルブfに操作量データを出力する。 【0027】以上のように、計装制御器2は、晶析システム20における晶析因子が製品結晶粒径制御器1から設定される目標値となるように制御する。 すなわち、晶析システム20が製品結晶粒径制御器1で設定された条件で運転されるようにローカルな制御を行う。 【0028】製品結晶粒径制御器1は制御プログラムによって得られるモデル構築機能部11とモデル推定機能部12で構成されており、モデル構築機能部11は、晶析システム20におけるセンサからの測定データとキーボード13から入力されるバッチ測定データを用いて、 学習機能を持つニューラルネットにより製品結晶平均粒径Yと前記の5つの晶析因子との相関を表現した製品結晶粒径制御モデルを構築する機能を備えている。 【0029】また、モデル推定機能部12は、モデル構築機能部11で構築されたモデルを用いて次のような3 つの推定機能を備えている。 製品結晶粒径の推定機能 晶析因子の定常値変化に対する製品結晶粒径を推定する機能。 目標結晶粒径の操作条件推定機能 目標結晶粒径の製品を高精度に生産するために必要な最適操作条件を推定する機能。 外乱補償の操作条件推定機能 既知外乱としての晶析因子の定常値が変化する場合に安定して一定の製品結晶粒径を生産するために必要な最適操作条件を推定する機能。 【0030】図2はモデル構築機能部11の構成を概念的に示す図であり、パターン入力部111は説明変数x 1〜x5として入力される5種類の晶析因子の入力データを記憶する記憶手段で構成されている。 【0031】NNモデル構成機能部112は、並列な3 つの集合演算部NN * ,NN,NN *から構成されており、各集合演算部NN * ,NN,NN *は、各々3つの並列な非線形演算部NN1 * ,NN2 * ,NN3 *またはNN1,NN2,NN3またはNN1 * ,NN2 * , NN3 *から構成されている。 【0032】各集合演算部NN * ,NN,NN *の各非線形演算部NN1 * ,NN2 * ,NN3 * ,NN1,N N2,NN3,NN1 * ,NN2 * ,NN3 *は図3に示したように階層構造型ニューラルネットを構成しており、入力層である第1層以降の中間層と出力層である第M層は、それぞれ図4のような多入力−出力素子を演算プログラムで構成したニューロンN iを並列に接続して構成されている。 【0033】すなわち、ニューロンN iは、5つの入力値O n (n=1〜5)に対して、各入力値O nに対応する結合係数W ni 、閾値θ iおよび図5のようなシグモイド函数f(i)により、次式のような演算を行って演算値O iを出力するように構成されている。 【数1】 【0034】以上のように構成された、各非線形演算部NN1 * …には、図2に示したように入力パターン部1 11から入力される5種類の晶析因子のデータがそれぞれ入力され、各晶析因子のデータは各非線形演算部NN 1 * …において、図3に示した入力層にそれぞれ入力される。 【0035】そして、学習演算制御部113は、この入力データに対する出力層(第M層)の出力値である出力パターンを、予め入力されたデータである教師パターンと比較し、誤差が小さくなるようにニューロンN iの結合係数を修正することにより、各非線形演算部NN1 * …の学習を行う。 なお、結合係数の初期値は乱数で設定される。 【0036】なお、教師パターンとしては、入力する晶析因子のデータに対応する操作条件によって晶析システム20を運転したときに実際に析出された製品の製品結晶粒径の平均値を用いる。 また、このような学習のためのアルゴリズムは、Rumelhartによる誤差逆伝搬法(Back−Propagation法)により構成されている。 【0037】ここで、実際に析出された製品の製品結晶粒径の平均値はサンプリング毎に値の大きなものから小さなものまである分布をもっており、その分布の最大値の平均値、最も分布が密になっている部分に対応する代表平均値、および、最小値の平均値の3種類の値を用い、集合演算部NN *の非線形演算部NN1 * ,NN2 * ,NN3 *の学習に最大値を、集合演算部NNの非線形演算部NN1,NN2,NN3の学習に代表平均値を、また、集合演算部NN *の非線形演算部NN1 * , NN2 * ,NN3 *の学習に最小値を用いている。 【0038】以上のような学習を行うことにより、入力される5種類一組の晶析因子のデータに対して、集合演算部NN *の非線形演算部NN1 * ,NN2 * ,NN3 *は晶析因子に対応する製品結晶粒径の最大値の値を出力し、集合演算部NNの非線形演算部NN1,NN2, NN3は晶析因子に対応する製品結晶粒径の代表平均値の値を出力し、集合演算部NN *の非線形演算部NN1 * ,NN2 * ,NN3 *は晶析因子に対応する製品結晶粒径の最小値の値を出力するようになる。 【0039】なお、各集合演算部NN * ,NN,NN * は、それぞれ3つの非線形演算部NN1 * …の出力値を平均し、5種類一組の晶析因子のデータに対して、集合演算部NN *からは製品結晶粒径の一つの最大値[NN * ]が、集合演算部NNからは製品結晶粒径の一つの代表平均値[NN]が、集合演算部NN *からは製品結晶粒径の一つの最小値[NN * ]が出力される。 【0040】このように、各集合演算部NN * …において、3つの非線形演算部により平均をとるようにしているので、学習結果の誤差が抑えられる。 すなわち、非線形演算部では結合係数の初期値として乱数が用いられるので、一つの非線形演算部では、データ数が少ない場合に推定区間に誤差が生じるが、3つの平均をとることによりこの誤差が緩和される。 【0041】以上のようなNNモデル構成機能部112 の学習機能により晶析システム20の製品結晶粒径制御モデルが構築される。 そして、このモデルは、6次元の仮想空間において、5種類の晶析因子に対する製品結晶粒径の最大値[NN * ]、代表平均値[NN]および最小値[NN * ]の3つの曲面(5次元曲面)によって表現され、最大値[NN * ]の曲面と最小値[NN * ]の曲面によって代表平均値[NN]の曲面および製品結晶粒径が略包含される。 【0042】図2のモデル評価機能部114は、上記3 つの曲面を用いて図6に示したようにモデルの有効範囲を求める。 なお、図6では曲面を線として表現してある。 すなわち、代表平均値[NN]の曲面が最大値[N N * ]の曲面と最小値[NN * ]の曲面とで包含されている領域([NN * ]<[NN]<[NN * ]となる領域)の端点A,Bを求め、点Aから点Cを定め、点Bから点Dを定める。 【0043】さらに、これらの点A,B,C,Dから、 多角形型の可能性分布μ Mxp ( x p ) 、μ MYp ( y p ) を推定し、晶析因子と製品結晶粒径の両者の帰属度が低い範囲(μ Mxp ( x p ) の範囲E〜F、μ MYp ( y p ) の範囲I〜J)では、対象に対するモデルの信頼性は低いと判定する。 また、逆に帰属度が高い範囲(μ Mxp ( x p ) の範囲F〜G、μ MYp ( y p ) の範囲H〜I)では信頼性が高いと判定し、最終的に獲得したモデルの有効範囲(μ Mxp ( x p ) の範囲E〜G、μ MYp ( y p ) の範囲H〜J)を定める。 【0044】そして、モデル評価機能部114は、晶析因子の未知データに対する製品結晶粒径の推定値および製品結晶粒径の未知データに対する晶析因子の推定値について、その有効性を判定する。 【0045】NNモデル構成機能部112における製品結晶粒径制御モデルの構築ロジックは、基本モデル構築ロジックと、実用モデル構築ロジックの2つのロジックから構成されている。 基本モデル構築ロジックは、図7 に示したように試験データによる基本となるモデルを構築するロジックであり、実用モデル構築ロジックは、図8に示したように基本モデルを晶析システム20の工程に適用しながら実際にモデル推定を行い、推定誤差が大きい場合などは、そのデータを追加学習して、逐次、モデルの精度を上げていくロジックである。 【0046】図7の基本モデル構築ロジックでは、まず、ステップS11で目的変数Yを製品結晶平均粒径[μm]として基本モデル構築を開始し、ステップS1 2で各晶析因子の試験水準に対し、その値や組合せを代えてデータ収集を行う。 なお、実験では、このステップS12で目標とする製品結晶平均粒径400[μm]を生産するために46試験データの収集を行った。 【0047】次に、ステップS13で、製品結晶粒径Y に対して相関が高い晶析因子をモデル構築のための説明変数xとして決定する。 なお、この実施例では、説明変数xとして以下の晶析因子を用いている。 (説明変数) x1:蒸発速度[kg/hr] x2:種晶添加速度[kg/hr] x3:種晶平均粒径[μm] x4:結晶懸濁密度[%] x5:缶内母液組成率(NaCl)[%] 【0048】次に、ステップS14で、モデルのパラメータを設定し、ステップS15に進む。 なお、実験では、試行錯誤により、以下のようにパラメータを設定した。 最大値の集合演算部NN * 、代表平均値の集合演算部NN、最小値の集合演算部NN *の非線形演算部は全て3つで構成 全ての非線形演算部は3層構造 入力層は5ユニット(説明変数の数) 中間層は25ユニット 出力層は1ユニット(目的変数の数) 誤差逆伝搬法における安定化定数は0.9 誤差逆伝搬法における学習係数ηは0.25 初期荷重(結合係数)は±0・5 ただし、収集したデータは目的変数、説明変数の最大値、最小値を考慮し、全データを正規化して用いる。 【0049】次に、ステップS15でニューラルネットを用いて学習を行い、ステップS16に進む。 なお、この実施例では、46データを1セットとして10000 回学習する。 ステップS16では46データに対する学習誤差Eを計算し、ステップS17で閾値E 0に対する学習誤差Eによる学習精度の判定を行う。 なお、実験では、計70000(10000×7)回学習を行って、 E≦E 0の条件を満足した。 以上のように条件を満足するとステップS18で基本モデル構築ロジックを終了する。 【0050】図8の実用モデル構築ロジックでは、まず、ステップS21で実用モデル構築を開始し、ステップS22で、モデル推定機能により後述説明する製品結晶粒径の推定機能、目標結晶粒径の操作条件推定機能および外乱補償の操作条件推定機能から選択された機能によるモデル推定を行い、製品結晶平均粒径の平均時間の推定値、あるいは製品結晶平均粒径の平均時間の値を推定する。 なお、ここではモデル推定機能として製品結晶粒径の推定機能について考え、この機能を用いて、以下の晶析条件xにおける製品結晶平均粒径の平均時間の推定値Y' を推定する。 x1:蒸発速度80.0[kg/hr] x2:種晶添加速度4.8[kg/hr] x3:種晶平均粒径202[μm] x4:結晶懸濁密度7.0[%] x5:缶内母液組成率(NaCl)22.624[%] 推定結果:製品結晶平均粒径の平均時間の推定値Y' =463[μm] 【0051】次に、ステップS23で、この晶析条件に対して実際の工程(晶析システム20)で製品結晶を生産し、ステップS24に進む。 なお、実験の結果、生産された塩の製品結晶平均粒径の平均時間の測定値Yは、 Y=470[μm]であった。 【0052】ステップS24では、閾値e 0に対する推定精度の判定を行い、推定値Y' と測定値Yに対して推定誤差が閾値e 0より小さい場合は終了とし、大きい場合はステップS25以降で追加学習を行う。 【0053】ステップS25では、新しく発生したデータについて再現性の判定を行う。 すなわち、推定誤差の原因の一つとして測定誤差があるので、測定誤差が多く含まれているデータを追加学習すると構築されるモデルの精度が低下する。 そこで、これを避けるために、新しく発生したデータを過去のデータと比較して再現性の判定を行う。 【0054】そして、再現性があるデータに対してのみステップS26で追加学習を行い、再現性のないデータはステップS29で異常データとして棄却して処理を終了する。 なお、上記の再現性の確認は、散布図、統計的な検定などにより推定誤差が大きい場合のみ行う。 また、この実施例では、ステップS26において、47データを1セットとして10000回学習する。 【0055】ステップS27では47データに対する学習誤差Eを計算し、ステップS28で閾値E 0に対する学習誤差Eによる学習精度の判定を行う。 なお、実験では、計70000(10000×7)回学習を行って、 E≦E 0の条件を満足した。 以上のように条件を満足するとステップS201で実用モデル構築ロジックを終了する。 なお、上記のような実用モデル構築ロジックを繰り返し行うことによりモデルの精度が上がる。 【0056】製塩結晶粒径の推定機能は、図9に示したように、構築した製品結晶粒径制御モデルを用いて、熟練オペレータが行っている晶析因子の定常値変化(蒸発速度の切り替え等)に対する製品結晶平均粒径の平均時間の推定を高精度に行い、晶析装置の特性の解析や製品結晶粒径の推定を行うための機能である。 【0057】図9の製品結晶粒径の推定ロジックでは、 まず、ステップS31で晶析因子の定常値変化後の操作条件U1に対する製品結晶平均粒径の平均時間の推定値Y1' の推定を開始し、ステップS32で晶析因子の定常値変化後の操作条件U1を設定する。 【0058】次に、ステップS33で、晶析因子の定常値変化後の晶析条件U1に対してモデルの有効範囲による判定を行い、有効範囲であればステップS34で定常値変化後の晶析条件U1に対して製品結晶平均粒径の平均時間の推定値Y1' を推定し、ステップS35で処理を終了する。 【0059】図10は上記製品結晶粒径の推定ロジックに基づいて行った実験の一例を説明する図であり、この例では、晶析条件x、製品結晶平均粒径の平均時間の測定値Y1は次のような場合である。 (変化前の晶析条件) x1:蒸発速度設定値[kg/hr] 80.0 x2:種晶添加速度設定値[kg/hr] 4.8 x3:種晶平均粒径測定値[μm] 202 x4:結晶懸濁密度設定値[%] 7.0 x5:缶内母液組成率(NaCl)測定値[%] 22.624 (変化前の製品結晶平均粒径の平均時間の測定値) Y1:製品結晶平均粒径の平均時間の測定値[μm] 432 【0060】晶析因子である蒸発速度x1の定常値は図10の(h)のように、蒸発速度設定値[kg/hr] 80.0が100.0に変化させるようにし、ステップS32で、変化後の蒸発速度設定値x1=100.0を定常値変化後の操作条件U1=100.0[kg/h r]として設定する。 【0061】そして、ステップS34で、種晶添加速度設定値4.8に対する製品結晶粒径の推定すると、この推定の過程は次のようになる。 すなわち、図10の(a)に示したように、製品結晶平均粒径の平均時間の推定値の推定区間F〜Gとその代表点Bに対応して、区間H〜Iと点Cよりモデルの製品結晶平均粒径の平均時間の推定値Y1' は421[μm]、463[μm]、 493[μm]であり、晶析因子の定常値変化後の実際の製品結晶平均粒径の平均時間の推定値Y1' は463 [μm]であった。 【0062】ここで、モデルの有効範囲は図10の(b)、(c)のような可能性分布を示し、点Bに対して点D、点Eは帰属度1.0を示すため、このモデルの推定値はモデルの有効範囲に対して有効性があると判定された。 なお、図10の(e)はこの条件における製品結晶平均粒径の時間的平均推定値Y1' の可能性分布を示している。 また、図10の(f)は、製品結晶平均粒径測定値の時間変化を示している。 【0063】以上のように、製品結晶粒径の推定を行った結果、図10の(f)に示したように晶析因子の定常値変化後の製品結晶平均粒径の平均時間の測定値Y1は以下のようになった。 この測定値はモデルの推定における最大値と最小値に対して有効な値をとっており、その区間の代表平均値に略一致していることから、この製塩結晶粒径推定機能の有効性が確認された。 Y1′:製品結晶平均粒径の平均時間の推定値[μm] 463 Y1:製品結晶平均粒径の平均時間の測定値[μm]4 70 【0064】目標結晶粒径の操作条件推定機能は、図1 1に示したように、構築した製品結晶粒径制御モデルを用いて、目標結晶平均粒径の製品を生産するために必要な最適条件の推定を短時間で、高精度に行い、目標結晶平均粒径の製品を制作するための制御を行うための機能である。 【0065】図11の目標結晶粒径の操作条件推定ロジックでは、まず、ステップS41で処理を開始し、ステップS42で製品結晶平均粒径の平均時間の目標値Y 2' 'を設定し、ステップS43で、製品結晶平均粒径の平均時間の目標値Y2' ' に対してモデルの有効範囲による判定を行い、有効範囲であればステップS44に進み、有効範囲でなければステップS47に進む。 【0066】ステップS44では、結晶平均粒径の平均時間の目標値Y2' ' の製品を生産するために必要な晶析操作条件U2' を推定し、ステップS45で推定値に対する熟練オペレータによる評価の処理を行う。 評価の結果、推定された晶析操作条件U2' が有効であれば、 ステップS46でその晶析操作条件U2' を計装制御器11に設定してステップS48で処理を処理を終了する。 【0067】なお、モデルの有効範囲の判定や熟練オペレータによる評価で無効であった場合は、熟練オペレータが経験と勘により晶析操作条件U2' を推定し、ステップS47でこの推定値を設定する。 【0068】図12は上記目標結晶粒径の操作条件推定ロジックに基づいて行った実験の一例を説明する図であり、この例では、晶析条件x、製品結晶平均粒径の平均時間の測定値Y2が次のような場合である。 (変化前の晶析条件) x1:蒸発速度設定値[kg/hr] 100.0 x2:種晶添加速度設定値[kg/hr] 5.2 x3:種晶平均粒径測定値[μm] 198 x4:結晶懸濁密度設定値[%] 7.0 x5:缶内母液組成率(NaCl)測定値[%] 22.624 (変化前の製品結晶平均粒径の平均時間の測定値) Y2:製品結晶平均粒径測定値の平均時間の測定値[μm] 470 【0069】ステップS42では、製品結晶平均粒径の平均時間の目標値Y2' ' を400[μm]に設定し、 ステップS43で晶析操作条件U2' として晶析因子である種晶添加速度x2の最適設定値を推定すると、この推定の過程は次のようになる。 すなわち、図12の(a)に示したように、製品結晶平均粒径の平均時間の目標値Y2' ' が400(A点)に対応して、種晶添加速度の推定区間F〜Gとその代表点Bに対応して、区間H〜Iと点Cよりモデルの種晶添加速度推定値U2' は5.4[kg/hr]、9.6[kg/hr]、16. 7[kg/hr]であり、実際の種晶添加速度推定値U 2' は9.6[kg/hr]であった。 【0070】ここで、モデルの有効範囲は図12の(b)、(c)のような可能性分布を示し、点Bに対して点D、点Eは帰属度1.0を示すため、このモデルの推定値はモデルの有効範囲に対して有効性があると判定された。 なお、図12の(d)はこの条件における種晶添加速度推定値U2' の可能性分布を示している。 また、図12の(f)は、製品結晶平均粒径測定値の時間変化を示している。 【0071】以上のように、目標結晶粒径の操作条件推定を行った結果、図12の(f)に示したように操作条件設定後の製品結晶平均粒径の平均時間の測定値Y2は以下のようになった。 この測定値はモデルの推定における最大値と最小値に対して有効な値をとっており、その区間の代表平均値に略一致していることから、この目標結晶粒径の操作条件推定機能の有効性が確認された。 Y2' ' :製品結晶平均粒径の平均時間の目標値[μ m]400 Y2:製品結晶平均粒径の平均時間の測定値[μm]3 90 【0072】外乱補償の操作条件推定機能は、図13に示したように、構築した製品結晶粒径制御モデルを用いて、既知外乱を抑えるために必要な最適操作条件の推定を高精度に行い、晶析装置の特性の解析や製品結晶粒径の推定を行うための機能である。 【0073】図13の外乱補償の操作条件推定ロジックでは、まず、ステップS51で処理を開始し、ステップS52で晶析因子の定常値変化後の操作条件U1' を設定し、ステップS53で、操作条件U1' に対してモデルの有効範囲による判定を行い、有効範囲であればステップS54に進み、有効範囲でなければステップS57 に進む。 【0074】ステップS54では、安定して一定の結晶平均粒径の製品を生産するために必要な晶析操作条件U 2' を推定し、ステップS55で推定値に対する熟練オペレータによる評価の処理を行う。 評価の結果、推定された晶析操作条件U2' が有効であれば、ステップS5 6で、予め測定しておいたむだ時間によりむだ時間補償を行い、推定した晶析操作条件U2' 所定のタイミングで計装制御器11に設定してステップS58で処理を処理を終了する。 【0075】なお、モデルの有効範囲の判定や熟練オペレータによる評価で無効であった場合は、熟練オペレータが経験と勘により晶析操作条件U2' を推定し、ステップS57でこの推定値を設定する。 【0076】図14は上記外乱補償の操作条件推定ロジックに基づいて行った実験の一例を説明する図であり、 この例では、晶析条件x、製品結晶平均粒径の平均時間の測定値Yが次のような場合である。 【0077】 (変化前の晶析条件) x1:蒸発速度設定値[kg/hr] 80.0 x2:種晶添加速度設定値[kg/hr] 4.8 x3:種晶平均粒径測定値[μm] 203 x4:結晶懸濁密度設定値[%] 7.0 x5:缶内母液組成率(NaCl)測定値[%] 22.624 (変化前の製品結晶平均粒径の平均時間の測定値) Y' :製品結晶平均粒径の平均時間の測定値[μm] 454 【0078】既知外乱として晶析因子である蒸発速度x 1の定常値は図14の(h)のように、蒸発速度設定値[kg/hr]80.0が100.0に変化させるようにし、ステップS52で、変化後の蒸発速度設定値x1 =100.0を定常値変化後の操作条件U1' =10 0.0[kg/hr]として設定する。 【0079】そして、ステップS53で、安定して一定の結晶平均粒径の製品を生産するために必要な晶析操作条件U2' として、他の晶析因子である種晶添加速度x 2の最適設定値を推定すると、この推定の過程は次のようになる。 【0080】いま、図14の(a)に示したように、一定とする製品結晶平均粒径を439[μm](A点)とすると、この439(A点)に対応して、種晶添加速度の推定区間F〜Gとその代表点Bに対応して、区間H〜 Iと点Cよりモデルの種晶添加速度推定値U2' は4. 5[kg/hr]、6.4[kg/hr]、8.8[k g/hr]であり、実際の種晶添加速度推定値U2' は6.4[kg/hr]であった。 【0081】ここで、モデルの有効範囲は図14の(b)、(c)のような可能性分布を示し、点Bに対して点D、点Eは帰属度1.0を示すため、このモデルの推定値はモデルの有効範囲に対して有効性があると判定された。 なお、図14の(d)はこの条件における種晶添加速度推定値U2' の可能性分布を示している。 また、図14の(f)は、製品結晶平均粒径測定値の時間変化を示している。 【0082】なお、この条件における製品結晶平均粒径の平均時間の推定の推定区間J〜Kとその代表点Bに対応して、区間L〜Mと点Aよりモデルの製品結晶平均粒径の平均時間の推定値Y' は406[μm]、437 [μm]、470[μm]である。 【0083】以上のように、外乱補償の操作条件推定を行った結果、図14の(f)に示したように操作条件設定後の製品結晶平均粒径の平均時間の測定値Yは以下のようになった。 この測定値はモデルの推定における最大値と最小値に対して有効な値をとっており、晶析因子の定常値変化の影響を他の晶析因子の定常値を変ることで抑えられていることが判明し、この外乱補償の操作条件推定機能の有効性が確認された。 Y:変化前の製品結晶平均粒径の平均時間の測定値[μ m]454 Y:変化後の製品結晶平均粒径の平均時間の測定値[μ m]456 【0084】 【発明の効果】以上説明したように本発明の製品結晶粒径制御装置によれば、製塩工程の晶析システムにおいて振動性で非線形性を示す晶析装置の特性を、製品結晶粒径という幅のある測定データによりニューラルネットを用いてモデル化するとともに、この構築したモデルに基づいていて目標とする製品結晶粒径から、この目標値となるような、晶析因子を推論するようにしたので、連続操作のもとで目標の結晶平均粒径を有する製品を安定して生産できるような製品結晶粒径の制御技術を定式化することができる。 また、既存設備を改造することなく目標が異なる結晶平均粒径の製品を高精度に生産することができる。 さらに、運転状態が変動する場合でも、運転状態の変動の要因となった晶析因子の他の晶析因子について、目標の結晶平均粒径に対する晶析操作条件を求めることができるので、一定の結晶平均粒径の製品を安定して生産することができる。 【0085】また、実施例によれば、製品結晶粒径の代表値が最大値と最小値との間に包含される領域を有効範囲として設定し、この有効範囲に基づいて推論値の有効性の判定を行って推論を行うようにしたので、推論値の有効性を高めることができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明実施例の製品結晶粒径制御装置とこれを適用した製塩工程の晶析システムを示す図である。 【図2】実施例におけるモデル構築機能部の構成を概念的に示す図である。 【図3】実施例における非線形演算部の構成を示す図である。 【図4】実施例におけるニューロンを示す図である。 【図5】実施例におけるシグモイド函数を示す図である。 【図6】実施例におけるモデル評価機能部を説明する図である。 【図7】実施例における基本モデル構築ロジックのフローチャートである。 【図8】実施例における実用モデル構築ロジックのフローチャートである。 【図9】実施例における製品結晶粒径の推定ロジックのフローチャートである。 【図10】実施例における製品結晶粒径の推定ロジックに基づいて行った実験の一例を説明する図である。 【図11】実施例における目標結晶粒径の操作条件推定ロジックのフローチャートである。 【図12】実施例における目標結晶粒径の操作条件推定ロジックに基づいて行った実験の一例を説明する図である。 【図13】実施例における外乱補償の操作条件推定ロジックのフローチャートである。 【図14】実施例における外乱補償の操作条件推定ロジックに基づいて行った実験の一例を説明する図である。 【符号の説明】 1…製品結晶粒径制御器、2…計装制御器、10…製品結晶粒径制御装置、11…モデル構築機能部、12…モデル推定機能部。 ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 長谷川 正巳 神奈川県小田原市酒匂4丁目13番20号 日 本たばこ産業株式会社海水総合研究所内 |