新規ビフィドバクテリウム属細菌の作出方法

申请号 JP2012501772 申请日 2011-02-21 公开(公告)号 JPWO2011105335A1 公开(公告)日 2013-06-20
申请人 株式会社ヤクルト本社; 发明人 知行 左古; 知行 左古; みか 三浦; みか 三浦; 島川 康久; 康久 島川; 幸司 宮崎; 幸司 宮崎; 藤本 淳治; 淳治 藤本; 渡辺 幸一; 幸一 渡辺;
摘要 環境要因が異なる条件でも生残性に優れるビフィドバクテリウム属細菌の作出方法、本作出方法により得られる新規なビフィドバクテリウム属細菌、及びその細菌の検出方法を提供する。環境要因を異なる条件とした系で交互に継代培養保存することで、交互継代培養保存に用いた全ての条件下での生残性に優れたビフィドバクテリウム属細菌を作出する。
权利要求
  • 環境要因を異なる条件とした少なくとも2種の系で交互に継代培養保存を2回以上行うことを特徴とするビフィドバクテリウム属細菌の作出方法。
  • 環境要因が、pH、浸透圧、酸度、培養温度及び栄養因子から選ばれる1以上である請求項1記載のビフィドバクテリウム属細菌の作出方法。
  • (1)親株であるビフィドバクテリウム属細菌を環境要因Aで培養して培養液又は飲食品を得、得られた培養液又は飲食品を保存して環境要因Aの条件で生残性が改善した株を濃縮又は選択し、(2)次に該生残性改善株を環境要因Aとは異なる環境要因Bで培養して培養液又は飲食品を得、得られた培養液又は飲食品を保存して環境要因Bの条件で生残性が改善した株を濃縮又は選択し、(3)該(1)及び(2)の工程を2回以上繰り返し行い、環境要因A及びBの条件で生残性に優れたビフィドバクテリウム属細菌を取得するものである請求項1又は2記載のビフィドバクテリウム属細菌の作出方法。
  • 請求項1〜3のいずれか1項記載の方法により得られたビフィドバクテリウム属細菌。
  • ビフィドバクテリウム・ブレーベである請求項4記載のビフィドバクテリウム属細菌。
  • ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272(FERM BP−11320)である請求項5記載のビフィドバクテリウム属細菌。
  • 請求項4〜6のいずれか1項記載のビフィドバクテリウム属細菌を含有することを特徴とする飲食品。
  • 発酵飲食品である請求項7記載の飲食品。
  • 発酵乳飲食品である請求項7又は8記載の飲食品。
  • さらに、甘味料を含有するものである請求項7〜9のいずれか1項記載の飲食品。
  • 配列番号1若しくは配列番号2で表される塩基配列又は該配列に相補的な塩基配列を有するDNA断片。
  • 配列番号1若しくは配列番号2で表される塩基配列又は該配列に相補的な塩基配列を有するビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272(FERM BP−11320)用プライマー。
  • 配列番号1と配列番号2で表される2つの塩基配列の組み合わせ、又は該配列に相補的な2つの塩基配列の組み合わせを有するビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272(FERM BP−11320)用プライマーセット。
  • 請求項12又は13記載のプライマーを使用することを特徴とするビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272(FERM BP−11320)の検出方法。
  • 請求項12又は13記載のプライマーを使用することを特徴とするビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272(FERM BP−11320)の菌数の定量法。
  • 膜透過性色素で処理した被検体に対し、請求項12又は13記載のプライマーを用いたPCR反応を行うことを特徴とするビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272(FERM BP−11320)の生菌数定量法。
  • 说明书全文

    本発明は、新規ビフィドバクテリウム属細菌の作出方法、本作出方法により得られた新規なビフィドバクテリウム属細菌、及びこの細菌の検出方法に関する。

    ビフィドバクテリウム属細菌は、ヒトの腸内菌叢における主要細菌であり、便秘や下痢の改善等の整腸作用、血清コレステロール上昇抑制作用、免疫賦活作用等、ヒトの健康に対して有益な作用を有することが知られている。 このため、各種発酵飲食品や生菌製剤等の形態で多数の市販品が販売されており、特に発酵乳飲食品は、優れた嗜好性を有していることから、ビフィドバクテリウム属細菌の継続的な摂取に適している。

    ビフィドバクテリウム属細菌は偏性嫌気性菌であり、酸素や低pH、高酸度に弱く、発酵飲食品においては製造時の増殖や保存時の生残性等、取扱いに困難な点が多い。 ビフィドバクテリウム属細菌の生理効果を得るには、できるだけ多くの菌が生きたまま腸に到達する必要があると考えられており、特に飲食品中での菌の生残性、すなわち飲食後の腸への到達率を高めることが重要なファクターとされている。

    かかる問題を解決するため、製造方法の改良や各種生残性改善剤、例えばN−アセチルグルコサミン、パントテン酸、ペプチド類、ラクチュロース等の添加により、発酵飲食品レベルでの生残性改善が行われている。 しかしながら、このようなビフィドバクテリウム属細菌の生残性改善剤の添加は、製造コストの上昇を招くうえ、嗜好性の低下等の問題を引き起こすため容易には使用できない。 また、製造直後のビフィドバクテリウム属細菌含有発酵物を酸素不透過性の包剤で構成された容器に充填し、酸素との接触を完全に断つ方法も検討されている。 しかし、酸素不透過性容器に未だ完全なものはなく、成型の自由度が乏しく、さらに複合素材を用いているので廃棄物処理が複雑であり、容器自体も高価である等、その利用に当たっては多くの制約がある。

    従って、発酵飲食品等でのビフィドバクテリウム属細菌の生残性を改善する根本的な解決法は、好気的条件や低pH、高酸度の条件下でも高い生残性を有するビフィドバクテリウム属細菌を作出することにあり、このような菌株の例として、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 10001(FERM BP−8205)(特許文献1)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ SBR 3212(FERM P−11915)(特許文献2)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム YIT 4002(FERM BP−1038)(特許文献3)等が挙げられる。

    しかしながら、これらの生残性改善株は、その作出方法で用いられた環境下でしか生残性の改善効果が期待できないという問題があった。 すなわち、ビフィドバクテリウム属細菌変異株の作出においては、ビフィドバクテリウム属細菌の生育が困難な環境下で継代培養保存を行って生残株を取得する方法が一般的であり、これら菌株の作出段階で用いられた環境下では一定の生残性改善効果が期待できるものの、それ以外の環境下では生残性改善効果が期待できない。 従って、従来の方法で得られたビフィドバクテリウム属細菌は、変異株作出条件とは異なる条件で流通する飲食品には適用することができず、極めて汎用性が低いものであった。

    また、原因は不明であるものの、環境要因を悪化させた条件(例えば酸性領域pH)で継代培養保存を行って得た生残性改善菌株であっても、該菌株をより条件が穏やかな中性領域pHで適用しても生残性改善効果が発揮されないことが分かっており、このことも様々な飲食品に適用可能な汎用性が高い菌株が得られていなかった一因であった。

    WO03/040350号国際公開パンフレット

    特許第2922013号

    特公昭61−19220号公報

    従って本発明は、環境要因が異なる種々の条件でも生残性に優れるビフィドバクテリウム属細菌の作出方法、本作出方法により得られる新規なビフィドバクテリウム属細菌、及びこの細菌の検出方法を提供することを課題とする。

    本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、環境要因を異なる条件とした少なくとも2種の系で交互に継代培養保存を2回以上行うことで、交互継代培養保存に用いた全ての条件下での生残性に優れたビフィドバクテリウム属細菌が取得できることを見出した。
    そしてさらに、得られた新規ビフィドバクテリウム属細菌の特異的検出法について検討した結果、この細菌のDNA断片を特異的に増幅できるプライマーを見出し、これを用いればこの細菌が特異的に検出、定量できることを見出した。 さらに、これらのプライマーと膜透過性色素とを組み合わせれば、この細菌の生菌数が定量できることも見出した。

    すなわち、本発明は、環境要因を異なる条件とした少なくとも2種の系で交互に継代培養保存を2回以上行うことを特徴とするビフィドバクテリウム属細菌の作出方法を提供するものである。
    また、本発明は、前記作出方法により得られたビフィドバクテリウム属細菌を提供するものである。
    また、本発明は、前記ビフィドバクテリウム属細菌を含有することを特徴とする飲食品、特に発酵乳飲食品を提供するものである。

    また、本発明は、配列番号1若しくは配列番号2で表される塩基配列又は該配列に相補的な塩基配列を有するDNA断片を提供するものである。
    また、本発明は、配列番号1若しくは配列番号2で表される塩基配列又は該配列に相補的な塩基配列を有するビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272(FERM BP−11320)用プライマーを提供するものである。
    また本発明は、上記のプライマーを使用することを特徴とするビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272の検出方法を提供するものである。
    また本発明は、上記のプライマーを使用することを特徴とするビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272の菌数の定量法を提供するものである。
    さらに本発明は、膜透過性色素で処理した被検体に対し、上記のプライマーを用いたPCR反応を行うことを特徴とするビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272(FERM BP−11320)の生菌数定量法を提供するものである。

    本発明のビフィドバクテリウム属細菌の作出方法により、製品や流通条件等の環境要因が異なる条件でも生残性に優れるビフィドバクテリウム属細菌を得ることができる。 該菌株は様々な飲食品に適用でき、かつ、飲食品中での菌の生残性が高いため、ビフィドバクテリウム属細菌が有する生理効果を効果的に発揮させることができる。 また、抗ヘリコバクター・ピロリ作用等の特異的な生理効果を有するビフィドバクテリウム属細菌を、本発明の作出方法によって改良することで、様々な飲食品に利用可能な菌株を作出することができるため、本発明の産業上の利用性は極めて高い。

    本発明のDNA断片を用いれば、飲食品中、糞便中や腸内における前記生残性に優れたビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272を特異的に検出、定量することができる。

    ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272に特異的なRAPDバンドの塩基配列を示す。 YIT 12272特異的プライマーの配列を四で囲んだ。

    膜透過性色素処理による定量的PCRによるYIT 12272の定量値の変化を示す。

    PMA処理の最適条件を示す。

    PMA処理による糞便中の加熱処理したYIT 12272の定量値の変化を示す。

    糞便に添加した生きたYIT 12272の菌数と定量的PCR(PMA処理あり)で得られたYIT 12272の定量値の関係を示す。

    本発明において、環境要因とは、ビフィドバクテリウム属細菌の増殖や生残性に影響を及ぼすあらゆる要因を指し、培養液や飲食品におけるpH、浸透圧、酸度、培養・保存温度、培養・保存時間、溶存酸素量、光、圧分活性、共存生物、栄養因子(糖類、蛋白質、ペプチド、乳脂肪分等の脂肪類、ビタミン類、ミネラル類、無脂乳固形分、酵母エキス等のビフィドバクテリウム属細菌の増殖因子等)、抗生物質、培養方法(静置培養、攪拌培養、振とう培養、通気培養等)、殺菌方法、調合方法、充填方法、保存容器の材質等が挙げられ、特にビフィドバクテリウム属細菌の増殖や生残性に影響を及ぼす重要な環境要因であるpH、浸透圧、酸度、培養温度、栄養因子等を用いることが好ましい。 ここで、光とは可視光、非可視光のいずれも含み、酸度とは9gの試料を中和するのに必要な1/10規定水酸化ナトリウム水溶液の量(mL)を指す。

    また、「環境要因を異なる条件とした少なくとも2種の系」とは、ある特定の環境要因の質及び/又は量を変化させた少なくとも2種の系を指し、例えば、培養液や飲食品のpH、浸透圧、酸度、培養温度、栄養因子等を変化させた少なくとも2種以上の系であり、より具体的には、培養液や飲食品のpHを、例えば5から3に変化させる、浸透圧を例えば600mOsm(ミリオズモ)から950mOsmに変化させる、酸度を例えば6から20に変化させる、培養液の培養温度を例えば37℃から30℃に変化させる、培養液や飲食品中の糖類を例えば消化性糖質から難消化性糖質に変化させる、撹拌により溶存酸素濃度を例えば高める等の手段により変化させた系が挙げられる。

    ターゲットとする環境要因やその質及び/又は量の変化に特に制限はないが、本発明の方法で作出するビフィドバクテリウム属細菌を適用したい1以上の培養液や飲食品の環境要因とその条件を考慮し、ビフィドバクテリウム属細菌の増殖や生残性に影響を及ぼす環境要因とその条件を選択して、該環境要因と条件を用いて交互継代培養保存することが好ましい。 ビフィドバクテリウム属細菌の培養条件は菌種によって異なるが、一般的には、無脂乳固形分5〜30%、乳脂肪分0〜10%、浸透圧150〜1000mOsm、pH4.0〜7.0、溶存酸素濃度0〜2ppm、培養温度30〜39℃程度であり、これらの範囲内での条件変化としてもよく、あるいはこの範囲を超えた条件を設定してもよい。 また、保存条件は培養液や飲食品の種類や形態によって、例えば飲食品の保存温度であれば常温、冷蔵、冷凍といったように異なるため、適用したい培養液や飲食品の環境要因と条件を適宜選択して用いればよい。
    また、培養液にシロップ(甘味料)を添加して飲食品とする場合、各種糖を用いることとなるが、この時用いる糖の種類によって浸透圧が上昇する場合、逆に低下する場合があるので、これを変化させる条件としてもよい。
    また、飲食品を調合タンクから容器に充填する前に、調合タンク内で飲食品を一定期間保存する場合、充填する前に撹拌して均一化する必要があり、この際に調合タンクのヘッドスペースの酸素を巻き込み溶存酸素濃度が飽和濃度まで上昇する場合があるので、これを変化させる条件としてもよい。

    本発明の作出方法に用いることができるビフィドバクテリウム属細菌の種類は特に限定されないが、例えば、ビフィドバクテリウム・ブレーベ( Bifidobacterium breve )、ビフィドバクテリウム・ロンガム( B. longum )、ビフィドバクテリウム・ビフィダム( B. bifidum )、ビフィドバクテリウム・アニマーリス( B. animalis )、ビフィドバクテリウム・ズイス( B. suis )、ビフィドバクテリウム・インファンティス( B. infantis )、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス( B. adolescentis )、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム( B. catenulatum )、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム( B. pse� �docatenulatum )、ビフィドバクテリウム・ラクチス( B. lactis )、ビフィドバクテリウム・グロボサム( B. globosum )等が挙げられる。 中でも、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・ビフィダムは以前から乳製品に数多く使用され安全性等のデータが積み重ねられており、また、生残性の改善効果も高いため好ましく、特にビフィドバクテリウム・ブレーベが好ましい。

    上記のビフィドバクテリウム属細菌を親株とし、環境要因を異なる条件とした少なくとも2種の系で交互に継代培養保存を2回以上行うことにより、交互継代培養保存に用いた全ての条件下での生残性に優れたビフィドバクテリウム属細菌を取得することができる。 具体的には、(1)親株となるビフィドバクテリウム属細菌を環境要因Aで培養して培養液や飲食品を得、得られた培養液や飲食品を保存して環境要因Aの条件で生残性が改善した株を濃縮あるいは選抜する。 (2)次に該生残性改善株を環境要因Bで培養して培養液や飲食品を得、得られた培養液や飲食品を保存して環境要因Bの条件で生残性が改善した株を濃縮あるいは選抜する。 (3)かかる工程を2回以上繰り返し行うことで、環境要因A及びBでの生残性に優れたビフィドバクテリウム属細菌を取得することができる。

    交互に継代培養保存する方法としては、環境要因A及び環境要因Bで条件変化させたとき、A→B→A→B→A、A→A→B→B→A→A→B→B→A→A→B→Bといったように任意の組合せ、順序で行うことができるが、交互継代培養保存は2回以上行うことが好ましい。 好ましくは、2〜100回、より好ましくは4〜100回、特に好ましくは、4〜50回である。

    設定する環境要因の条件変化は2種以上であればよく、例えば3つの条件変化A、B、Cを設定する場合の交互継代培養保存方法としては、A→B→C→A→B→C→A→B→C、A→A→A→B→B→C→A→B→B→B→C→C→A等と任意に行うことができる。

    当該環境要因として、pH、浸透圧、酸度、培養温度、栄養因子から選ばれる1種以上、さらに2種以上、特に3種以上をAとBとで変化させるのが好ましい。 ここでこれらの条件の変化の範囲は、pHは、4.0〜7.0の間で0.1〜3の変化、浸透圧は150〜1000mOsmの間で10〜700mOsmの変化、酸度は5〜30の間で1〜20の変化、培養温度は30〜39℃の間で1〜6℃の変化とするのが好ましい。 栄養因子としては、糖の種類をパラチノースから還元麦芽糖水あめに変化させるのが好ましい。 また、乳脂肪分を0〜10%の間で0.1〜6%変化させるのが好ましい。 また、無脂乳固形分を5〜30%の間で0.1〜20%変化させるのが好ましい。

    また、紫外線やニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホン酸(EMS)等突然変異誘導剤等による処理を親株となるビフィドバクテリウム属細菌に施した後、上記の交互継代培養保存を行って、所望の性質を有する菌株を選択することもできる。

    ここで、生残性とは、培養液や飲食品の保存後にどの程度生菌が存在しているかを示すものであり、生菌数は常法に従い求めることができる。 例えば、保存に用いた培養液や飲食品を適宜希釈し、TOSプロピオン酸寒天培地に塗沫して、37℃で72時間嫌気的に培養した後の培地上のコロニーを測定することによって求めることができる。 保存に用いた培養液や飲食品の保存前の生菌数に対する保存後の生菌数の割合によって、生残率を示すことができる。

    本発明の作出方法に用いる培養液は、GAM培地、MILS培地(Iwata & Morishita,Letter in Applied Microbiology,vol 9,165−168,1989)、TOSプロピオン酸培地、豆乳、野菜汁、果汁、麦汁等のビフィドバクテリウム属細菌が生育可能な培地であればいずれの培地も用いることができるが、乳を主成分とする培地が好ましく、乳としては乳(全脂乳)及びその加工品である脱脂乳、乳由来ペプチド等が挙げられる。 使用する乳原料とその配合量により、無脂乳固形分や脂肪分を任意に設定することができ、酵母エキス等のビフィドバクテリウム属細菌の増殖因子を加えてもよい。 これら無脂乳固形分、脂肪分、ビフィドバクテリウム属細菌増殖因子等はいずれも環境要因となり得る。

    また、乳培地からなる培養液にシロップ等の任意成分を添加した発酵乳飲食品は、その環境要因が最終形態の製品に近く、最終形態の製品で高い生残性を示す菌をより効率的に濃縮することができることから、かかる育種改良には発酵乳飲食品を用いることが好ましい。 かかる発酵乳飲食品には糖類等のシロップ(甘味料)、乳化剤、増粘(安定)剤、ビタミン類、ミネラル類等の任意成分を配合することができ、これらはいずれも環境要因となり得る。 シロップとしては、グルコース、ショ糖、フルクトース、果糖ブドウ糖液糖、ブドウ糖果糖液糖、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース、麦芽糖、蜂蜜、糖蜜等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール、アスパルテーム、ソーマチン、スクラロース、アセスルファムK、ステビア等の高甘味度甘味料が挙げられる。 また、発酵乳飲食品には、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、寒天、ゼラチン、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、ペクチン、ローカストビーンガム、ジェランガム、カルボキシメチルセルロース、大豆多糖類、アルギン酸プロピレングリコール等の増粘(安定)剤を配合してもよい。 この他にも、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE類等のビタミン類、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、マンガン等のミネラル類、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸等の酸味料、クリーム、バター、サワークリーム等の乳脂肪、ヨーグルト系、ベリー系、オレンジ系、花梨系、シソ系、シトラス系、アップル系、ミント系、グレープ系、アプリコット系、ペア、カスタードクリーム、ピーチ、メロン、バナナ、トロピカル、ハーブ系、紅茶、コーヒー系等のフレーバー類、ハーブエキス、黒糖エキス等を配合することも可能である。

    培養液や発酵飲食品には、ビフィドバクテリウム属細菌以外の微生物を併用することも可能である。 このような微生物としては例えば、ラクトバチルス・カゼイ( Lactobacillus casei )、ラクトバチルス・アシドフィルス( L. acidophilus )、ラクトバチルス・プランタラム( L. plantarum )、ラクトバチルス・ブヒネリ( L. buchneri )、ラクトバチルス・ガリナラム( L. gallinarum )、ラクトバチルス・アミロボラス( L. amylovorus )、ラクトバチルス・ブレビス( L. brevis )、ラクトバチルス・ラムノーザス( L. rhamnosus )、ラクトバチルス・ケフィア( L. kefiri )、ラクトバチルス・パラカゼイ( L. paracasei )、ラクトバチルス・クルバタス( L. curvatus )、ラクトバチル� ��・ゼアエ( L. zeae )、ラクトバチルス・ヘルベティカス( L. helveticus )、ラクトバチルス・サリバリウス( L. salivarius )、ラクトバチルス・ガセリ( L. gasseri )、ラクトバチルス・ファーメンタム( L. fermentum )、ラクトバチルス・ロイテリ( L. reuteri )、ラクトバチルス・クリスパータス( L. crispatus )、ラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ. ブルガリカス( L. delbrueckii subsp. bulgaricus )、ラクトバチルス・デルブルッキィ サブスピーシーズ. デルブルッキィ( L. delbrueckii subsp. delbrueckii )、ラクトバチルス・ジョンソニー( L. johnsonii )等のラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス( Streptococcus thermophilus )等のストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ. ラクチス( Lactococcus lactis subsp. lactis )、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ. クレモリス( Lactococcus lactis subsp. cremoris )等のラクトコッカス属細菌、エンテロコッカス・フェカーリス( Enterococcus faecalis )、エンテロコッカス・フェシウム( E. faecium )等のエンテロコッカス属細菌、バチルス・ズブチリス( Bacillus subtilis )等のバチルス属細菌、サッカロマイセス・セルビシエ( Saccharomyces cerevisiae )、トルラスポラ・デルブルッキィ( Torulaspora delbrueckii )、キャンジダ・ケフィア( Candida kefyr )等のサッカロマイセス属、トルラスポラ属、キャンジダ属等に属する酵母が挙げられる。

    発酵飲食品の製造は常法に従えばよく、例えば発酵乳飲食品を製造する場合には、殺菌した乳培地に親株となるビフィドバクテリウム属細菌を単独又は他の微生物と同時に接種培養し、これを均質化処理して発酵乳を得る。 次に別途調製したシロップ溶液を添加混合し、ホモゲナイザー等で均質化し、さらにフレーバーを添加して最終製品に仕上げればよい。

    上記の方法により、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 4125(FERM BP―7813)を親株とし、環境要因が異なる条件での生残性が特に優れたビフィドバクテリウム属細菌1菌株を作出し、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272(FERM BP−11320)として、平成22年2月16日付で、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託した。 ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272は、その親株であるビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 4125と比較して、以下のような菌学的性質を有する。

    寒天添加MILS培地(Iwata & Morishita,Letter in Applied Microbiology,vol 9,165−168,1989)に各菌株を接種し、37℃、嫌気培養(アネロパック(三菱ガス化学))で単一コロニーの分離を繰り返すことにより、純化された菌株の菌形態(MILS培地で一夜培養後、グラム染色)及びコロニー性状を観察した。

    API 50CH(bioMerieux Japan製)を用いてマニュアルの方法に従い、1晩培養後の菌液を各基質に接種した。 これを37℃で7日間嫌気培養後、各基質の発酵性状を判定した。

    本発明の方法により得られたビフィドバクテリウム属細菌の利用形態は特に制限されず、凍結乾燥したものであってもよく、あるいはこれら細菌を含む培養物として利用することもできるが、いずれの形態であっても、細菌が生菌の状態であることが好ましい。

    本発明の方法により得られたビフィドバクテリウム属細菌は、固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬品製剤の形態で利用することもできる。 このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散在、カプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥製剤等が挙げられる。 これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。 上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。 また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、賦形剤等の慣用の添加剤を適宜添加することもできる。

    本発明の方法により得られたビフィドバクテリウム属細菌は、上記のような製剤とするだけでなく、飲食品に配合して使用することもできる。 飲食品に配合する場合は、そのまま、又は種々の栄養成分と共に含有せしめればよい。 具体的に本発明の方法により得られたビフィドバクテリウム属細菌を飲食品に配合する場合は、飲食品として使用可能な添加剤を適宜使用し、慣用の手段を用いて食用に適した形態、すなわち、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペースト等に成形してもよく、また種々の食品、例えば、ハム、ソーセージ等の食肉加工食品、かまぼこ、ちくわ等の水産加工食品、パン、菓子、バター、粉乳に添加して使用したり、水、果汁、牛乳、清涼飲料、茶飲料等の飲料に添加して使用してもよい。 なお、飲食品には、動物の飼料も含まれる。

    本発明の方法により得られたビフィドバクテリウム属細菌は、環境が異なる様々な種類の飲食品に適用することが可能であり、飲食品中での菌の生残性が高いため、ビフィドバクテリウム属細菌が有する整腸作用等の一般的な生理効果を効果的に発揮させることができる。 また、ヘリコバクター・ピロリの除菌作用等の特異的な生理効果を元来有するビフィドバクテリウム属細菌を本発明の作出方法によって改良することで、該菌株を様々な飲食品に利用することが可能となり、該菌株を含有する飲食品の嗜好性が向上すると共に、消費者の選択肢の幅が広がることとなる。 さらに、該菌株の生残性が改善することで該菌株が有する生理効果を増強させることが可能となる。

    さらに飲食品としては、本発明の方法により得られたビフィドバクテリウム属細菌を生菌の状態で含有する発酵乳飲食品、発酵豆乳、発酵果汁、発酵野菜汁等の発酵飲食品が好適に用いられ、特に発酵乳飲食品の利用が好ましい。 これら発酵乳飲食品の製造は常法に従えばよく、前述の方法により製造することができる。 このようにして得られる発酵乳飲食品は、シロップ(甘味料)を含有しないプレーンタイプ、ソフトタイプ、フルーツフレーバータイプ、固形状、液状等のいずれの形態の製品とすることもできる。

    また、本発明は、本発明の方法により得られたビフィドバクテリウム属細菌を含有する飲食品、特に甘味料を含有する発酵乳飲食品に関する。 発酵乳飲食品の種類、製造法、形態としては、前記と同様のものが挙げられる。 本発明の方法により得られたビフィドバクテリウム属細菌と共にラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス属細菌から選ばれる1種以上を併用して発酵乳飲食品を製造すると高い嗜好性が得られ、継続的な飲用が可能となるため好ましい。

    また、ビフィドバクテリウム属細菌を利用した飲食品において、保存時の生残性を高める目的で、ガラスやアルミコーティング紙等の酸素不透過性の包剤で構成された容器が主に用いられてきたが、本発明の方法により得られたビフィドバクテリウム属細菌は、高い生残性を有し、厳密な嫌気状態を必要としないため、酸素透過性の高い樹脂(ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等)も容器素材として使用できる。 これらの樹脂を用いた容器は、酸素不透過性の包剤で構成された容器と比較して、コストが低く、成型の自由度が高いというメリットを有する。

    本発明のDNA断片及びプライマーは、配列番号1若しくは配列番号2で表される塩基配列、又は該配列に相補的な塩基配列を有する。 本発明のDNA断片プライマーは、数多くのビフィドバクテリウム属細菌及びその類縁菌由来のDNAに対してPCRを行い、RAPD法により検索することにより得られる。 すなわち、ビフィドバクテリウム属細菌由来のDNAに対して、多くのランダムプライマーを用いてPCRを行い、ランダムプライマー間に挟まれたDNA断片を増幅する。 得られたRAPDバンドパターンを元にクローニングし、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272に特異的なPCR増幅産物の塩基配列を決定する(配列番号3)。 当該塩基配列から、本発明のDNA断片プライマーを設計する(配列番号1及び2)。 本発明のDNA断片プライマーには、配列番号1又は2で表される塩基配列に相補的な塩基配列を有するものが含まれる。

    本発明のプライマーは、配列番号1と配列番号2で表される2つの塩基配列の組み合わせ;又は該配列に相補的な2つの塩基配列の組み合わせを用いるのがより好ましい。 さらには、配列番号1又はこれに相補的な配列を有するプライマーをフォワードプライマーとし、配列番号2又はこれに相補的な配列を有するプライマーをリバースプライマーとして用いるのが好ましい。

    本発明のプライマーは、前記ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272に特異的であり、当該ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272の検出、細菌数の定量及び生菌の定量に有用である。 本発明の検出、定量法の検体としては、前記YIT 12272を含有する飲食品、医薬品、糞便等が挙げられる。

    YIT 12272の検出、定量法としては、例えば(1)検体中のDNAを抽出する工程、(2)本発明プライマーを用いたPCR反応を行う工程、及び(3)工程(2)により増幅されたDNA断片を検出する工程が挙げられる。

    より詳細には、まず、糞便、飲食品等からDNAを抽出し、PCRのサンプルとする。 糞便等の希釈液からDNAを抽出する方法としては、定法であるMarmur法、その変法である酵素法、及びベンジルクロライド法が好ましい。 また、菌体の一部をバッファー又は滅菌水に懸濁し、95℃、15分程度加熱したものを、テンプレートとして、PCRに供することも可能である。

    抽出されたDNAに本発明のプライマーを組み合わせ、増幅反応を行うことにより、目的とするDNA断片(PCR産物)を得ることができる。 通常、PCR法等にプライマーを使用する際には、2種類のプライマーを1組として用いることが好ましい。 例えば、配列番号1及び2に係るプライマーセットを用いれば、多種類存在する細菌群のうち、前記のビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272のDNAにおいてのみ、両者のプライマー間で増幅反応が起こり、これを同定することができる。 また、PCRを行う際に、予め鋳型のDNA量を段階希釈し、検出限界を求め同様の解析を行えば、目的とする菌の定量化も可能である。

    このようにして得られたDNAを電気泳動すれば、バンドの有無から前記のビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272を同定することができる。

    また、検体を膜透過性色素で処理した後、これにPCR反応を行えば、前記ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272の生菌のみを検出、定量することができる。 用いられる膜透過性色素としては、エチジウムモノアジド(EMA)、プロピジウムモノアジド(PMA)等が挙げられるが、プロピジウムモノアジド(PMA)が特に好ましい。 検体の膜透過性色素処理は、例えば最終濃度で5〜250μMの膜透過性色素溶液を添加し、その後光照射する。 かかる処理後の検体については、前記と同様にしてPCRを行えばよい。

    以下、実施例を挙げて本発明の内容をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制約されるものではない。

    (実施例1)交互継代培養法によるビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 10001、YIT 4125の育種改良 ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 10001株(FERM BP―8205)及びビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 4125株(FERM BP−7813)を親株として交互継代濃縮を行った。

    (1)20.7%全粉乳培地を135℃、3.5秒殺菌した後、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 10001株又はYIT 4125株のシードスターター1を0.5%、ビフィドバクテリウム・ビフィダムのシードスターターを1%接種し、33℃でpH5.3まで混合培養して菌液A1(400mL)を調製した。
    (2)菌液A1に、パラチノースの終濃度が10%となるようにシロップ液Aを調合して乳製品A1(630mL)を調製した。 乳製品A1(200mL)を300mL容コルベンに分注し、綿栓をした好気的条件下、5℃、1週間撹拌(90rpm)保存(以後、好気撹拌保存と略す)した後、試験管に満杯充填してブチル栓をした嫌気条件下、10℃、1週間静置保存(以後、嫌気静置保存と略す)した。
    (3)本条件で保存した乳製品A1(1mL)をセファロシン添加ミルク培地(12%脱脂粉乳、0.1%酵母エキス、0.03%L−システイン塩酸塩、0.2%沈降性炭酸カルシウム、セファロシン5μg/mL、以後、セファロシン添加ミルク培地と略す)10mLに接種し、37℃、24時間嫌気培養してビフィドバクテリウム・ブレーベのマザースターター2とした。 マザースターター2(0.03mL)をミルク培地(12%脱脂粉乳、0.1%酵母エキス、0.03%L−システイン塩酸塩、0.2%沈降性炭酸カルシウム、以後、ミルク培地と略す)30mLに接種し、37℃、24時間嫌気培養してビフィドバクテリウム・ブレーベのシードスターター2を調製した。 シードスターター2を用いて上記と同様の操作を繰り返した。 すなわち、シードスターター2で調製した乳製品A2を好気撹拌保存後、嫌気静置保存し、ビフィドバクテリウム・ブレーベのマザースターター3、さらにシードスターター3を調製した。
    (4)次に、23.5%脱脂粉乳培地を120℃、3.5秒殺菌した後、ビフィドバクテリウム・ブレーベのシードスターター3を2%、ラクトコッカス・ラクチスのシードスターターを0.01%接種し、37℃でpH4.4まで混合培養して菌液B1(100mL)を調製した。
    (5)また、120℃、3.5秒殺菌した19.7%脱脂粉乳培地に乳ペプチドを0.08%添加した後、ストレプトコッカス・サーモフィラスのシードスターターを0.5%接種し、37℃でpH4.3まで培養して菌液C1(700mL)を調製した。 菌液B1に菌液C1を加え(混合比1:2)、さらに、還元麦芽糖水あめの終濃度が5%となるようにシロップ液Bを調合して乳製品B1(870mL)を調製した。
    (6)乳製品A1と同様に、好気撹拌保存後、嫌気静置保存した乳製品B1(1mL)をセファロシン添加ミルク培地10mLに接種し、37℃、24時間嫌気培養してビフィドバクテリウム・ブレーベのマザースターター4とした。 マザースターター4(0.03mL)をミルク培地30mLに接種し、37℃、24時間嫌気培養してビフィドバクテリウム・ブレーベのシードスターター4を調製した。 シードスターター4を用いて上記と同様の操作を繰り返した。 すなわち、シードスターター4で調製した乳製品B2を好気撹拌保存後、嫌気静置保存し、ビフィドバクテリウム・ブレーベのマザースターター5、さらにシードスターター5を調製した。

    このように、乳製品Aの調製、好気撹拌保存、及び嫌気静置保存を2回繰り返した後、生残したビフィドバクテリウム・ブレーベを用いて、乳製品Bの調製、好気撹拌保存、及び嫌気静置保存を2回繰り返し、ビフィドバクテリウム・ブレーベの濃縮操作を行った。 本一連の工程を1サイクルとし、合計4サイクル繰り返した。 最終的に10℃、2週間嫌気静置保存した乳製品A8及び乳製品B8から、各々1mLをセファロシン5μg/mLを添加したTOSプロピオン酸寒天培地(ヤクルト薬品工業)に塗沫し、37℃でアネロパック(三菱ガス化学)で嫌気培養して単一コロニーを分離した。 本単一コロニー分離を繰り返すことにより純化し、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 10001株及びYIT 4125株由来の単一コロニーを乳製品A8から計21株、乳製品B8から計21株、合計42株を分離した。

    (実施例2)生残性確認試験 親株と分離株を用いて、実施例1の方法で乳製品A、Bを各々調製し、好気条件下、5℃、1週間撹拌保存後、嫌気条件下、10℃、2週間静置保存した。 乳製品A、B両方で生残性が良好であったビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株(YIT 4125株由来、乳製品A8より分離)を選抜した。
    YIT 12272株、対照菌(YIT 10001株、YIT 4125株)の乳製品A、Bでの生残性の結果を表3に示す。 YIT 12272株は、乳製品A、B何れにおいても、好気条件下、5℃、1週間撹拌保存後、嫌気条件下、10℃、2週間静置保存しても3×10 CFU/mL以上の生菌が生残した。 一方、対照菌で作製した乳製品A、Bのどちらか一方では3×10 CFU/mL以上の生菌が生残したが、両方の製品で良好な生残性を示さなかった。
    また、乳製品A、Bの物性を表4に示す。 菌液AにシロップAを調合して乳製品Aを調製したところ、乳製品AのpH、酸度は各々5.6、3.4であり、浸透圧は菌液Aでは550mOsmであったが、乳製品Aでは950mOsmに増加した。 一方、菌液Bに菌液CとシロップBを調合して乳製品Bを調製したところ、乳製品BのpH、酸度は各々4.4、7.5であり、浸透圧は菌液Bでは900mOsmであったが、乳製品Bでは600mOsmに減少した。

    以上より、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株は、培養温度、pH、酸度、シロップ調合による浸透圧変化、無脂乳固形分、乳脂肪分の異なる乳製品A、Bの両方で、対照菌と比べて生残性が強化されていることが明らかになった。

    (実施例3)人工胃液耐性確認試験 ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株及び対照菌(YIT 10001株、YIT 4125株)を、各々ミルク培地で37℃、一晩嫌気培養した。 本菌液0.5mLを37℃、30分間温めた人工胃液10mLに加え、速やかに混合後、37℃で保温した。 保温(人工胃液処理)0分後、120分後に1mLを分取し、適宜希釈後、TOSプロピオン酸寒天培地(ヤクルト薬品工業、37℃、嫌気培養)で生菌数を測定した。
    なお、人工胃液の調製は以下のとおり行った。 すなわち、最終濃度がプロテオースペプトン(Becton,Dickinson and Co.):5g/L、胃ムチン(和光純薬):1.5g/L、塩化ナトリウム:5g/L、炭酸水素ナトリウム:3g/L、リン酸二水素カリウム:1g/Lとなるようにイオン交換水に溶解し、3.6規定の塩酸でpH2.8に調整後、本溶液を115℃、15分間オートクレーブ滅菌して4℃で保存した。 次にペプシン(和光純薬)を400mg/Lとなるようにイオン交換水に溶解後、メンブランフィルター(DISMIC−25cs、アドバンテック、0.45μm)でろ過滅菌してペプシン溶液とした。 pHを2.8に再度調整した上記溶液180mLに対し、ペプシン溶液20mLを使用直前に加えて人工胃液とした。
    人工胃液処理0分後、120分後の生菌数を表5に示す。 ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株は、120分間人工胃液処理しても生菌数はほとんど変化しなかったが、対照菌(YIT 10001株、YIT 4125株)は、本処理により生菌数が低下した。 YIT 12272株は、対照菌と比べて人工胃液耐性も強化されたことが明らかになった。

    (実施例4)人工胃液・人工胆汁腸液連続処理耐性確認試験 ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株及び対照菌(YIT 10001株、YIT 4125株)を用い、実施例1と同様に乳製品Bを調製した。 各菌株で調製した乳製品B(200mL)を各々300mL容コルベンに分注し、綿栓をした好気条件下で5℃、1週間撹拌(90rpm)保存した後、試験管に満杯充填してブチル栓をした嫌気条件下で10℃、静置保存した。 なお、YIT 4125株で調製した乳製品Bのみ、300mL容コルベンの気相を窒素ガスで置換した後、ブチル栓をした嫌気条件下で5℃、1週間撹拌(90rpm)保存し、さらに、嫌気条件下で10℃、静置保存した。
    実施例3と同様の方法で、10℃、4日間静置保存した乳製品Bの0.5mLをpH3.3に調整した人工胃液10mLに加え、37℃、60分間、人工胃液処理した。 本試験溶液2mLに予め37℃で保温した人工胆汁1mLを加え、すばやく撹拌した。 続いて、本混合物に、37℃、30分間保温した人工腸液4mLと人工膵液1mLの混合物5mLを加え、撹拌後、37℃で保温した。 人工胃液処理0、60分後、人工胆汁腸液処理60分後に各々1mL分取し、適宜希釈後、セファロシン5μg/mLを添加したTOSプロピオン酸寒天培地(ヤクルト薬品工業、37℃、嫌気培養)で生菌数を測定した。

    なお、人工胆汁は、胆汁粉末(Oxgall、Difco)を40g/Lとなるようにイオン交換水に溶解し、3Mの炭酸ナトリウムでpHを8.0に調整した後、胆汁粉末の濃度が1%(W/V)となるようにイオン交換水で希釈して121℃、15分間オートクレーブ滅菌して用いた。 また、人工腸液は、最終濃度が塩化ナトリウム:5g/L、塩化カリウム:1g/L、炭酸水素ナトリウム:3g/Lとなるようにイオン交換水に溶解し、3Mの炭酸ナトリウムでpHを8.0に調整した後、121℃、15分間オートクレーブ滅菌して調製した。 人工膵液は、試験直前に膵臓リパーゼ(MP Biomedicals)を20g/Lとなるように人工腸液に溶解し、メンブランフィルター(DISMIC−25cs、アドバンテック、0.45μm)でろ過滅菌した後、氷中保存して用いた。

    人工胃液処理0分後、60分後、人工胆汁腸液処理60分後の生菌数を表6に示す。 保存後の乳製品B中のビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株は、対照菌(ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 10001株、YIT 4125株)と比較して、人工胃液処理後だけでなく人工胃液・人工胆汁腸液連続処理後においても生菌数が高かった。 YIT 12272株は、対照菌よりも人工胃液耐性、人工胆汁・腸液耐性ともに強化されたことが明らかになった。

    (実施例5)発酵乳飲食品の製造 全粉乳124gを水506gに溶解し、135℃で3秒間殺菌した後、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株を0.5%、ビフィドバクテリウム・ビフィダムを1%、ラクトバチルス・アシドフィルスを0.001%接種し、33℃でpH5.3まで培養し、15MPaで均質化して、菌液630gを得た。 一方、パラチノース98g、ニンジンジュース8g、DHA含有油2.5g、乳化カルシルム7g、ラクトフェリン0.1g、ビタミンD0.02g、香料1gを水に溶解し、水を加えて全量を370gとした後、120℃で3秒間殺菌してシロップ液を得た。 菌液、シロップ液を混合し、テトラブリック容器に充填して、pH;5.6、酸度;3.4、無脂乳固形分;8.7%、乳脂肪分;3.2%の発酵乳を得た(ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株の初発菌数は9.5×10 CFU/mL)。
    この発酵乳を10℃で14日間保存したところ、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株の生残率は30%であり、風味も良好であった。

    (実施例6)発酵乳飲食品の製造 脱脂粉乳25gを水90gに溶解し、120℃で3.5秒間殺菌した後、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株を2%、ラクトコッカス・ラクチスを0.01%接種し、37℃でpH4.4まで培養し、15MPaで均質化して、菌液A 115gを得た。 また、脱脂粉乳60g、乳ぺプチド0.25gを水に溶解して、水を加えて全量を330gとし、120℃で3.5秒間殺菌した後、ストレプトコッカス・サーモフィルスを0.5%接種し、37℃でpH4.3になるまで培養し、15MPaで均質化して菌液B 330gを得た。 一方、マルチトール47g、ポリデキストロース29g、ガラクトオリゴ糖液糖14g、乳化鉄3.5g、ペクチン3g、コラーゲンペプチド1g、ビタミンBミックス0.3g、アスパルテーム0.1gを水に溶解し、香料1g、ビタミンE油1gを加え、さらに水を加えて全量を555gとした後、120℃で3秒間殺菌してシロップ液を得た。 菌液A、菌液B、シロップ液を混合しテトラブリック容器に充填して、pH;4.4、酸度;7.5、無脂乳固形分;8.1%、乳脂肪分;0.1%の発酵乳を得た(ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株の初発菌数は8.8×10 CFU/mL)。
    この発酵乳を10℃で16日間保存した結果、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株の生残率は34%であり、風味も良好であった。

    (実施例7)発酵乳飲食品の製造 脱脂粉乳58gを水198gに溶解し、120℃で3.5秒間殺菌した後、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株を1%、ラクトコッカス・ラクチスを0.2%、ストレプトコッカス・サーモフィルスを0.01%接種し、37℃でpH4.5まで培養し、15MPaで均質化して、菌液256gを得た。 一方、ガラクトオリゴ糖液糖25g、ラクチトール16g、パラチノース16g、ペクチン3g、スクラロース0.05gを水に溶解し、香料1gを加え、さらに水を加えて全量を744gとした後、120℃で3秒間殺菌してシロップ液を得た。 菌液、シロップ液を混合し、テトラブリック容器に充填してpH;4.4、酸度;5.3、無脂乳固形分;5.5%、乳脂肪分;0.1%の乳酸菌飲料を得た(ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株の初発菌数は1.3×10 CFU/mL)。
    この乳酸菌飲料を10℃で23日間保存した結果、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株の生残率は41%であり、風味も良好であった。

    (実施例8)発酵乳飲食品の製造全粉乳58gと脱脂粉乳42g、乳ペプチド0.02gを水487gに溶解し、135℃で3秒間殺菌した後、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株とラクトバチルス・アシドフィルスのスターターをそれぞれ0.5%と1.0%接種し、33℃でpH5.3まで培養し、15MPaで均質化して、菌液587gを得た。
    一方、パラチノース98g、ニンジンジュース8g、香料1gを水に溶解し、水を加えて全量を413gとした後、120℃で3秒間殺菌してシロップ液を得た。
    菌液、シロップ液を混合し、テトラブリック容器に充填して、pH;5.6、酸度;2.9、無脂乳固形分;8.1%、乳脂肪分;1.4%の発酵乳を得た(ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株の初発菌数は9.5×10 CFU/mL)。
    この発酵乳を10℃で14日間保存したところ、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株の生残率は30%であり、風味も良好であった。

    (実施例9)錠剤の製造 下記の処方で各種成分を混合して造粒・乾燥・整粒した後に、打錠して錠剤を製造した。
    (処方) (mg)
    本発明の細菌菌体の乾燥物1) 20
    微結晶セルロース 100
    乳糖 80
    ステアリン酸マグネシウム 0.5
    メチルセルロース 12
    1)ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株の生菌体を凍結乾燥して製造した。

    (実施例10)清涼飲料の製造 下記処方により、常法に従って各成分を配合し、均質化して清涼飲料を得た。 得られた清涼飲料は褐色瓶に充填後、アルミキャップにて封印し、加熱処理を施した。 得られた清涼飲料は外観・風味ともに良好で、保存安定性も良好であった。
    (処方) (g)
    本発明の細菌菌体の乾燥物1)
    香料 0.8
    水 100
    還元澱粉糖化物 24
    果糖 18
    1)ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272株の生菌体を凍結乾燥して製造した。

    (実施例11)Random amplified polymorphic DNA(RAPD)法を用いた菌株特異的プライマーの作製 ビフィドバクテリウム・ブレーベに属する細菌62菌株を用い、以下の手順に従い、菌体からDNAを抽出し、PCRを行うことでRAPD法を行い、YIT 12272に特異的な配列を検索した。
    (1)菌体からのDNAの抽出 GAM培地(日水製薬)に1%グルコースを添加した液体培地を用いて、37℃で24時間嫌気培養したビフィドバクテリウム・ブレーベに属する細菌62菌株( Bifidobacterium breve YIT 4014 ,YIT 4015,YIT 4023,YIT 4024,YIT 4043,YIT 4049,YIT 4063,YIT 4064,YIT 12272、他53株)を用いた。 0.5mLの菌液を遠心して、上清を取り除いたのちDNA抽出バッファー(100mM Tris−HCl、40mM EDTA pH9.0)を0.25mL、10%SDSを0.05mL、TE飽和フェノールを0.5mL、ガラスビーズ(φ0.1mm)を0.7g加え、激しく振とうし、菌体を破砕した。 3M 酢酸ナトリウムを0.15mL加えた後に遠心し、上清を別のチューブに移した。 イソプロパノール沈殿、70%エタノールでの洗浄を行い、風乾して最後に0.1mLのTEバッファー(10mM Tris−HCl(pH8.0)、1mM EDTA)に溶解した。

    (2)RAPD法 27種類のランダムプライマー(表7)を用いて行った。 総量を20μLとし、10mM Tris−HCl(pH8.3)、50mM KCl、1.5mM MgCl 、200μM dNTP mixture、1.5μM ランダムプライマー、1.5U Taq DNAポリメラーゼ(タカラ社製)、10ngの鋳型DNAを含む反応液でDNAサーマルサイクラーPTC200(MJ Research社)により、94℃120秒、(94℃20秒、36℃30秒、72℃90秒)を6サイクル、(94℃20秒、36℃30秒、72℃90秒)を30サイクル、72℃180秒のPCR反応を行った。 増幅産物は1.5%アガロースゲルを用いて50Vで電気泳動を行い、エチジウムブロミド染色後、UVを照射下で確認した。

    (3)クローニング ビフィドバクテリウム・ブレーベに属する細菌62株のRAPDバンドパターンを比較してYIT 12272に特異的であったPCR増幅産物をTAクローニングキット(invitrogen社製)を用いて付属のマニュアル通りにクローニングを行った。 すなわちpCR2.1ベクターにPCR増幅産物を挿入後、大腸菌に導入して形質転換させた。 その後、X−gal含む50μg/mLのアンピシリン添加LB(Luria Bertani)寒天培地に形質転換した大腸菌を塗抹して培養後、形成した白色コロニーをLB液体培地で増菌後、DNAを抽出してクローンDNAを得た。 定法にしたがい、ダイターミナーター法を用いてクローニングしたPCR増幅産物のDNA塩基配列を決定した(図1)。

    (4)菌株特異的プライマーの作製と特異性の確認 クローニングにより得られたYIT 12272特異的なPCR増幅産物のDNA塩基配列の中から、YIT 12272に最も特異的で、PCRの反応性が高い配列を選択して、YIT 12272特異的プライマーを作製した。 その配列を表8に示した。 このYIT 12272特異的プライマーを用いてビフィドバクテリウム・ブレーベに属する細菌62菌株とヒト腸管からよく分離される12属78種82菌株(表9)、あわせて144菌株から抽出したDNAに対してPCRを行い、特異性を確認した。 PCRは、総量を20μLとし、10mM Tris−HCl(pH8.3)、50mM KCl、1.5mM MgCl 、200μM dNTP mixture、0.3μM プライマー、0.5U Taq DNAポリメラーゼ、10ngの鋳型DNAを含む反応液で、94℃120秒、(94℃20秒、60℃10秒、72℃20秒)を32サイクル、72℃180秒のPCR反応を行った。 増幅産物は1.5%アガロースゲルを用いて100Vで電気泳動を行い、エチジウムブロミド染色後、UVを照射下で確認した。 その結果、作製したYIT 12272特異的プライマーがビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272に特異的であることが確認された。

    (実施例12)生きているYIT 12272のPCR法による検出(1)膜透過性色素の最適化 膜透過性色素であるエチジウムモノアジド(EMA)とプロピジウムモノアジド(PMA)をビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT 12272に対して使用した。 GAM+1%グルコース添加液体培地を用いて、24時間37℃嫌気条件下で培養したYIT 12272をそのまま(生菌)もしくは80℃10分間加熱して得られた死菌体、10日間37℃で培養し続けて得られた死菌体に対して、最終濃度として240μM EMA又は50μM PMAとなるように色素をそれぞれ添加して、5分間室温で保温した後、2つの500Wのハロゲンランプを用いてランプの下20cmの距離で2分間光を照射した。 その後、それらの菌体からDNAを抽出してYIT 12272特異的プライマーを使用した定量的PCRを用いてYIT 12272の定量を行った(定量的PCRの方法は、International Journal of Food Microbiology(2008)Vol.126,p210−215 に記載した方法を用いた)。 その結果、EMA及びPMAともに死菌体のPCR増幅を抑制したが、EMAでは生菌からのPCR増幅も抑制した。 PMAはYIT 12272の生菌のPCR増幅を抑制することなく、死菌のPCR増幅を抑制したことから生きたYIT 12272の定量的PCRを用いた検出定量にはPMAが適していることが分かった(図2)。

    PMA処理の最適化を図るため、PMAの濃度(5μM,50μM,150μM)及び光照射時間(1,2,5分間)を変化させ、YIT 12272の生菌及び加熱死菌体を処理し、YIT 12272特異的プライマーを使用した定量的PCRを行った。 その結果、光照射時間はPMA処理に影響を与えず、低濃度(5μM)及び高濃度(150μM)のPMA処理は、50μMのPMA処理に比べて、加熱死菌体からのPCR増幅の抑制効果が弱いことが分かった(図3)。 したがって、YIT 12272に対するPMA処理は、50μM PMA、2分間光照射が適していることが分かった。

    (2)糞便中の生きているYIT 12272の検出・定量 YIT 12272が存在しないことを選択培地及びYIT 12272特異的プライマーを使用した定量的PCRで確かめた糞便に、YIT 12272の加熱死菌体を添加してPMA処理(50μM PMA、2分間光照射)を行った。 その結果、糞便中のYIT 12272の加熱死菌体からのPCR増幅は抑制され、YIT 12272の死菌の定量値は約20,000分の1に減少することが分かった(図4)。 一方、24時間培養後の生きたYIT 12272を糞便に添加してPMA処理を行い、YIT 12272特異的プライマーを使用した定量的PCRを用いてYIT 12272を定量したところ、PMA処理がYIT 12272のPCR増幅を阻害することなく、YIT 12272が糞便1gあたり10 以上存在した場合、正確に定量可能であることが示された(図5)。 ここで、以下の式3により、YIT 12272の生菌数を算出することが可能である。

    (記号)
    PMA非処理時のYIT 12272のPCR定量値:X cells/g
    PMA処理時のYIT 12272のPCR定量値:Y cells/g
    サンプル中のYIT 12272の生菌数:L cells/g
    サンプル中のYIT 12272の死菌数:D cells/g

    糞便からのDNA抽出は以下の方法を用いた。 嫌気の希釈液(表10)を用いて糞便の10倍希釈液0.2mLを遠心後、上清を取り除き、1.0mLのPBSバッファーに再懸濁する洗浄操作を3度繰り返した。 その後、糞便ペレットは核酸を抽出するまで、−80℃で保存した。 凍結保存していた糞便ペレットを解凍後、0.6mLのASLバッファー(キアゲン社)を添加し、70℃5分間加熱後、TE飽和フェノールを0.5mL、φ0.1mmガラスビーズを0.7g加え、FastPrep FP120(Bio101社)を用いて6.5m/sで30秒激しく振とうした。 3M酢酸ナトリウムを0.1mL添加後、遠心して上清を得た。 上清0.7mLにASLバッファー0.7mLとInhibitEX錠(キアゲン)加え、よく混ぜたのち、遠心して上清を得た。 上清0.55mLにALバッファー(キアゲン)0.55mLと100%エタノール0.55mLを加え、撹拌した後、QIAmpスピンカラム(キアゲン)に全量通過させ、DNAをカラムに吸着させた。 カラムを洗浄後、AEバッファー(キアゲン)0.1mLを加え、遠心してDNAを回収した。

    (3)YIT 12272飲用試験における糞便中の生きたYIT 12272の検出、定量 健康成人に対して、生菌を含む食品を3週間摂取禁止した後、実施例6の発酵乳(YIT 12272を10 10.5 /本含む)を1日1本(100mL)10日間連続飲用する試験を実施した。

    (3−1)選択培地とYIT 12272特異的プライマーを組み合わせた生きたYIT 12272の検出 YIT 12272を含む実施例6の発酵乳の飲用前後の糞便を希釈バッファー(PBS)を用いて10倍段階希釈を行い、その100μLをYIT 12272選択培地(T−CBPC、表11)に塗抹し、37℃嫌気で72時間、培養してコロニーを形成させた。 得られたコロニーを1%グルコースを添加したGAM液体培地(日水製薬)で37℃嫌気で24時間培養して菌体を得た。 菌体からDNAを抽出し、それを鋳型としてYIT 12272特異的プライマーを用いてPCRを行った。 また、一部の菌株に対してはRAPD試験による菌株識別を行った。 その結果、両者によるYIT 12272識別の結果はすべて一致した。 これまで、選択培地上に形成したコロニーをYIT 12272と確定するには時間や手間のかかるRAPD試験やYIT 12272特異的なモノクローナル抗体を用いたELISA(Enzyme−Linked−ImmunoSorbent Assay)試験が必要であったが、YIT 12272特異的プライマーを用いることで迅速・簡便に行えることが示された。

    (3−2)糞便中の生きたYIT 12272の定量 YIT 12272を含む実施例6の発酵乳の飲用前後の糞便中の生きたYIT 12272を検出するため、溶解した糞便ペレットを0.5mLのPBSに懸濁し、20mMのPMA溶液を1.4μL添加して(最終濃度50μM)やさしく攪拌後、5分間暗所に保管した。 その後、ハロゲンランプを用いて2分間強光を照射して遠心後、上清を取り除いた。 PMA処理後の糞便からDNAを抽出し、YIT 12272特異的プライマーを使用した定量的PCRを組み合わせて糞便中の生きたYIT 12272を定量した。 また、PMA処理を行わずに死菌も含めた糞便中のYIT 12272の全菌数も同時に定量した。 その結果をT−CBPC寒天選択培地を用いて得られたYIT 12272のCFUと合わせて表12に示す。 YIT 12272を含む発酵乳の飲用前の糞便中には培養法及び、YIT 12272特異的プライマーを使用した定量的PCRのどちらにおいてもYIT 12272は検出されなかった。 一方、飲用終了後の糞便1グラム中、PMA処理せず、定量的PCRにより検出されたYIT 12272の総数(生菌及び死菌)が10 8.1 ± 0.8 cellsであり、PMA処理し、定量的PCRにより検出された生きたYIT 12272が10 7.5 ± 1.0 cellsであり、菌株特的な選択培地により検出されたYIT 12272は10 6.9 ± 1.5 CFU であった。 また、PMA処理時の死菌体のPCRによる定量値は十分に少ないため、式3で計算したYIT 12272の生菌数は、PMA処理時の定量的PCRの菌数(表12)と等しかった。 従って、PMA処理と定量的PCRを用いることで糞便中のYIT 12272の生菌数を測定可能であることが確認できた。

    これまでは、糞便中のYIT 12272を検出定量する方法は選択培地にコロニーを形成させることで行われていたが、コロニーがYIT 12272であることを確かめる確定検査に多大な手間と時間が必要であった。 また、選択培地には高濃度の抗生物質が使用されていることから、損傷菌などが分裂できずに、生きたYIT 12272が過少評価されている可能性が指摘されている。 本発明のYIT 12272特異的プライマーを使用した定量的PCRでは生菌死菌を問わず、糞便中のすべてのYIT 12272を定量することが可能となった。 さらに、膜透過性色素であるPMAと組み合わせることで糞便中の生きたYIT 12272のみを迅速簡便に定量可能となった。

    (実施例13)飲用菌の回収性試験 20代〜50代の健常成人19名をランダムに2群に割付け、7日間の観察後(観察期)、実施例6に記載した方法に準じ、YIT 12272株で作製した発酵乳(試験飲料)、または、YIT 12272株の代わりにYIT 10001株で作製した発酵乳(対照飲料)を1本(100mL)/日、7日間摂取させた(摂取期1)。 10日間の休止後(休止期)、試験飲料と対照飲料を摂取する被験者をクロスオーバーし、さらに7日間摂取させた(摂取期2)。 観察期、各摂取期、休止期の最終日の翌日に便を採取した。 なお、試験期間中、試験飲料または対照飲料以外の乳製品やプロバイオティクス製品の摂取を禁じた。 また、試験飲料と対照飲料のビフィズス菌数は、各々、6.8〜8.9×10 CFU/mL、2.9〜4.2×10 CFU/mLであった。

    実施例12に準じ、T−CBPC寒天選択培地を用いて糞便中の飲用菌(YIT 12272株またはYIT 10001株)のCFUを求めた。 RAPD法または表8のYIT 12272株特異的プライマーを用いて菌株の定性試験を行った。

    飲用前には何れの被験者からも飲用菌は糞便から検出されなかったが、飲用後、試験飲料群、対照飲料群で検出された飲用菌の菌数は、各々、7.3±0.8 Log CFU/g、5.9±1.1 Log CFU/gであり、対照飲料群と比べて、試験飲料群では有意に高値であった(表13)。 なお、試験期間中、試験飲料や対照飲料の飲用に伴う有害事象は認められなかった。

    本発酵乳の飲用により、発酵乳中のYIT 12272株、YIT 10001株は何れも生きた状態で糞便から回収されるが、その菌数はYIT 12272株の方が有意に多いことが明らかになった。 この結果は、YIT 12272株が製品中での生残性が良好であるとともに、人工胃液耐性や人工胆汁・腸液耐性が強化されていることを反映しているものと考えられた。

    (実施例14)整腸作用試験1
    年齢が63歳以上の便秘または便秘傾向者57名(排便回数が3〜5回/週、便の水分含量が70%未満、男性27名、女性30名、平均年齢68.7±5.4歳)を対象に、2週間の観察後、実施例8に記載した発酵乳を1本(100mL)/日、4週間飲用させるオープン試験を実施し、観察期と飲用期の最終週に排便状況、便性状(ブリストール便性スケール)を調べた。 なお、試験期間中、本発酵乳以外の乳製品やプロバイオティクス製品の摂取を禁じた。 本発酵乳のビフィズス菌数は、1×10 CFU/mL以上であった。

    飲用前と比べて、飲用後では排便回数、排便日数、排便量が有意に増加し、また、便性状スコアが有意に改善し、硬めの便が正常化した(表14)。 なお、試験期間中、本発酵乳の飲用に伴う有害事象は認められなかった。 本結果より、本発酵乳は整腸作用を有することが確認された。

    (実施例15)整腸作用試験2
    便秘傾向の女子学生75名(18〜23歳、排便回数が5回以下/週)を対象に、4週間の観察後、実施例6の発酵乳(試験群)またはプラセボ飲料(菌、ガラクトオリゴ糖およびポリデキストロースを含まない未発酵乳、プラセボ群)を1本(100mL)/日、4週間飲用させるプラセボ対照二重盲験並行群間試験を実施し、観察期と飲用期の最終週に排便状況、便性状(ブリストール便性スケール)を調べた。 なお、試験期間中、本発酵乳またはプラセボ飲料以外の乳製品やプロバイオティクス製品の摂取を禁じた。 本発酵乳のビフィズス菌数は、1×10 CFU/mL以上であった。

    便の水分含量が70%未満の被験者44名について解析した(表15)ところ、排便回数は飲用期において、プラセボ群と比べて試験群では多い傾向(p=0.081)を示した。 排便日数は、観察期と比べて飲用期では、プラセボ群では変化しなかったが、試験群で有意に増加し、飲用期においてプラセボ群と比べて試験群では有意に多かった。 便性状スコアは、観察期と比べて飲用期では、プラセボ群では変化しなかったが、試験群で有意に高くなり、便性状が改善した。 また、飲用期においてプラセボ群と比べて試験群では高値傾向(p=0.070)を示した。 なお、試験期間中、本発酵乳やプラセボ飲料の飲用に伴う有害事象は認められなかった。 本結果より、本発酵乳は整腸作用を有することが確認された。

    (実施例16)腐敗産物産生抑制作用試験 20代から70代の健常女性39名を年齢、身長、体重、BMIが均等になるように2群に割付て、4週間の前観察後、実施例6の発酵乳(試験群)またはプラセボ飲料(菌、ガラクトオリゴ糖およびポリデキストロースを含まない未発酵乳、プラセボ群)を1本(100mL)/日、4週間飲用させるプラセボ対照二重盲験並行群間試験を実施し、観察期と飲用期の最終週に腕から採血した。 なお、試験期間中、本発酵乳またはプラセボ飲料以外の乳製品やプロバイオティクス製品の摂取を禁じた。 また、本発酵乳のビフィズス菌数は、1×10 CFU/mL以上であった。

    採取した血液から定法に従って血清を調製し、−80℃で凍結保存した。 血清25μL、ミリQ水475μL、塩酸200μL、内部標準液(4−クロロフェノール(東京化成)を酢酸エチル(シグマ社)で300倍希釈)10μLを撹拌・混合した後、密栓した試験管中で100℃、60分間加熱した。 冷却後、ジエチルエーテルを2mL添加し、撹拌後、ジエチルエーテル層を1mL採取し、0.05N水酸化ナトリウム含有メタノール1mLと混合した。 本混液を遠心エバポレーターで乾固後、酢酸エチル200μLに溶解し、0.45μmのフィルター(ウルトラフリーMC、ミリポア社)でろ過してHPLC試料とした。 また、パラクレゾール(ナカライテスク社)を酢酸エチルで0〜0.01%に希釈した溶液25μL、酢酸エチル675μL、上記内部標準液10μLを混合し、標準溶液とした。 以下の条件でパラクレゾールのHPLC分析を行った。

    HPLCシステム:Alliance2695(ウォーターズ社)
    検出器:蛍光検出器 Ex260nm,Ev305nm(UV検出器270nm併用)
    カラム:L−column4.6×150mm、粒子径5μm(CERI社)
    カラム温度:40℃
    溶離液:%A;0.1%リン酸、%B;アセトニトリル、%A/%B=80/20(アイソクラティック)
    流量:1.0mL/min
    注入量:10μL
    試料室温度:10℃
    測定時間:30分間

    飲用後の血中パラクレゾール濃度は、飲用前と比べてプラセボ群では変化しなかったが、試験群では有意に低下し、プラセボ群と比べて試験群では有意に低値であった(表16)。 なお、試験期間中、本発酵乳やプラセボ飲料の飲用に伴う有害事象は認められなかった。

    以上の結果より、本発酵乳の飲用により、腸内細菌により産生され、生体に対して毒性を示す腸内腐敗産物(パラクレゾール)の血中濃度を低下させることが明らかとなり、これは腸内環境改善作用による腸内でのパラクレゾール産生抑制の結果と考えられた。 すなわち、本発酵乳は腸内環境改善作用を有するものと考えられた。

    本発明のビフィドバクテリウム属細菌の作出方法により、環境要因が異なる条件でも生残性に優れるビフィドバクテリウム属細菌を得ることができる。 該菌株は様々な飲食品に適用でき、かつ、飲食品中での菌の生残性が高いため、ビフィドバクテリウム属細菌が有する生理効果を効果的に発揮させることができる。 また、抗ヘリコバクター・ピロリ作用等の特異的な生理効果を有するビフィドバクテリウム属細菌を、本発明の作出方法によって改良することで、様々な飲食品に利用可能な菌株を作出することができるため、本発明の産業上の利用性は極めて高い。

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