放電被覆方法およびそれに用いる圧粉体電極

申请号 JP2009552565 申请日 2009-02-04 公开(公告)号 JPWO2009099239A1 公开(公告)日 2011-06-02
申请人 スズキ株式会社; 发明人 小林 雅彦; 雅彦 小林;
摘要 加工液10中で、圧粉体電極3と被処理物表面20との間にパルス放電を発生させ、圧粉体電極3の成分を被処理物表面20に移着させて被膜21を形成する放電被覆方法であって、表面に常温空気中で通常得られる 酸化 被膜よりも厚い酸化層を有する 金属粉末 を主成分として圧縮成形した圧粉体電極3を用い、圧粉体電極3の金属成分を被処理物表面20に移着させて前記金属成分を主成分とする被膜21を形成する。導電率を低下させる炭化物に依存せず、アルミニウム材のような低融点金属に対しても、高硬度の金属を主体とした厚い被膜を形成できる。
权利要求
  • 加工液中で、圧粉体電極と被処理物表面との間にパルス放電を発生させ、前記圧粉体電極成分を前記被処理物表面に移着させて被膜を形成する放電被覆方法であって、
    表面に常温空気中で通常得られる酸化被膜よりも厚い酸化層を有する金属粉末を主成分として圧縮成形した圧粉体電極を用い、前記圧粉体電極の金属成分を前記被処理物表面に移着させて前記金属成分を主成分とする被膜を形成することを特徴とする放電被覆方法。
  • 前記金属粉末が、モリブデン、タングステン、クロム、モリブデン合金、タングステン合金およびクロム合金からなる群から選ばれる1の金属粉末であることを特徴とする請求項1に記載の放電被覆方法。
  • 前記金属粉末が、モリブデン、タングステン、クロム、モリブデン合金、タングステン合金およびクロム合金からなる群から選ばれる2以上の金属を混合した粉末であることを特徴とする請求項1に記載の放電被覆方法。
  • 前記金属粉末の前記酸化層が、前記金属粉末の5wt%〜11wt%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の放電被覆方法。
  • 前記被処理物表面が、アルミニウムまたはアルミニウム合金、マグネシウムまたはマグネシウム合金、チタンまたはチタン合金のいずれかの材料からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の放電被覆方法。
  • 加工液中で、圧粉体電極と被処理物表面との間にパルス放電を発生させ、前記圧粉体電極成分を前記被処理物表面に移着させて被膜を形成する放電被覆加工に用いる圧粉体電極であって、
    表面に常温空気中で通常得られる酸化被膜よりも厚い酸化層を有する金属粉末を主成分として圧縮成形してなることを特徴とする放電被覆加工用圧粉体電極。
  • 前記金属粉末が、モリブデン、タングステン、クロム、モリブデン合金、タングステン合金およびクロム合金からなる群から選ばれる1の金属粉末であることを特徴とする請求項6に記載の放電被覆加工用圧粉体電極。
  • 前記金属粉末が、モリブデン、タングステン、クロム、モリブデン合金、タングステン合金およびクロム合金からなる群から選ばれる2以上の金属を混合した粉末であることを特徴とする請求項6に記載の放電被覆加工用圧粉体電極。
  • 前記金属粉末の前記酸化層が、前記金属粉末の5wt%〜11wt%であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の放電被覆加工用圧粉体電極。
  • 前記金属粉末に金属石鹸を添加して圧縮成形してなることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の放電被覆加工用圧粉体電極。
  • 前記金属粉末に、前記金属粉末より導電率が高い金属粉末を、酸化処理を行なわずに添加して圧縮成形してなることを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項に記載の放電被覆加工用圧粉体電極。
  • 前記導電率が高い金属粉末が、銅粉末または銀粉末であることを特徴とする請求項11に記載の放電被覆加工用圧粉体電極。
  • 前記金属石鹸の添加量が、前記金属粉末の1wt%〜4wt%であることを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載の圧粉体電極。
  • 前記導電率が高い金属粉末の添加量が、前記金属粉末の2wt%〜4wt%であることを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載の圧粉体電極。
  • 说明书全文

    本発明は、金属粉末等の圧粉体電極を用いて被処理物にパルス放電し、該被処理物表面を被覆する放電被覆方法に関し、特に、アルミニウムなどの低融点金属に対しても硬質な厚膜被覆を可能にする放電被覆方法およびそれに用いる圧粉体電極に係わるものである。

    アルミニウムやその合金(以下、単にアルミニウム材という)は、軽量で加工性に優れる反面、耐摩耗性や耐食性が劣る欠点が有る。 そこで、従来、アルミニウム材の表面をより硬質な被膜で被覆する表面処理方法として、陽極酸化処理やPVD、CVDなどの蒸着処理が開発されている。 また、高温強度に劣るアルミニウム材を高温から遮蔽するために、めっきや溶射などの被覆処理も工業化されている。 しかし、陽極酸化処理やめっきは、電解液中の電気化学反応を利用するため、アルミニウム材を部分的に処理するのが困難であり、溶射はアルミニウム材への入熱が大きいため、アルミニウム材が熱により歪んでしまうという欠点があった。 また、PVDやCVDなどの蒸着処理は、処理炉を真空にする必要があるため、設備コストが高いという欠点があった。

    近年、これらの欠点を一掃する表面処理方法、つまり部分処理が容易で、入熱が少ないため歪を生じず、常圧にて低コストで処理できる放電被覆方法が開発されている。 この放電被覆処理は、金属やセラミックなどの粉末を圧縮成形した圧粉体電極を用いて、有機加工液中でアルミニウム材にパルス放電することにより、圧粉体電極成分をアルミニウム材表面に移着させて硬質被膜を形成するものである(特許文献1参照)。

    この放電被覆処理の特徴は、放電エネルギーにより有機加工液が原子レベルで解離する現象を利用し、圧粉体電極成分が解離した炭素と反応して炭化物として移着する点にある。 具体的には、チタンやニオブ等の炭化しやすい金属粉末を均一に混合し圧縮成形した圧粉体電極を用い、この圧粉体電極を灯油等の有機加工液中でアルミニウム材と対峙させてパルス放電し、電極材およびその炭化物をアルミニウム材表面に移着させることにより、高硬度の炭化物を主成分とする高い耐摩耗性を有する被膜を形成可能である。

    しかし、このような放電被覆処理は、高硬度の炭化物により耐摩耗性は改善されるものの、アルミニウム材を高温から遮蔽しうるような厚い被膜が得られない問題があった。 これは、被膜の堆積が進行し、被膜表面における炭化物の割合が高くなると、被膜表面の導電率が低下するため、正常なパルス放電が発生しなくなることに起因する。 より高電圧を印加してパルス放電を発生させたとしても、高融点であるうえ反応性が乏しい被膜表面の炭化物によって、溶出した電極材の移着が妨げられ厚膜化は困難である。

    この問題に関して、アルミニウム材を処理対象としたものではないが、特許文献2は、チタンやニオブ等の炭化しやすい金属粉末に、それらよりも炭化し難いコバルト等の金属粉末を混合した圧粉体電極に用いて鉄鋼材表面に放電被覆処理を行うことで、金属のまま被膜に残る材料を増やして厚膜化を図る方法を開示している。

    しかし、上記炭化し難い金属を混合した圧粉体電極を用いた放電被覆処理は、アルミニウム材のような低融点金属では、電極材の溶出よりも、放電の熱によるアルミニウム材の溶出が多くなり、電極材およびその炭化物をアルミニウム材表面に移着させること自体が困難である。

    アルミニウム材の溶出を抑制するために、印加電圧を下げ、パルス幅を長くすれば、加工液から解離した炭素原子との反応時間が長くなるので、相対的に炭化し難い金属であっても炭化する割合が多くなり、先述した理由により厚膜化は望めない。 加えて、パルス幅が長くなれば、1回のパルス放電における圧粉体電極の溶出量が多くなり、炭化物が大きな塊となって堆積するため、欠陥を多く含む被膜性状となる。

    特開2002−24621号公報

    特開平7−197275号公報

    本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、導電率を低下させる炭化物に依存せず、アルミニウム材のような低融点金属に対しても、高硬度の金属を主体とした高品質な厚い被膜を形成することが可能な放電被覆方法およびそれに用いる圧粉体電極を提供することにある。

    上記課題を解決するために、本発明者が鋭意検討した結果、高耐熱性かつ高耐摩耗性の被膜を形成可能な高融点の金属粉末であっても、その表面に有意な酸化層が形成されていれば、金属自体の融点より低い温度で金属粒子を溶出でき、被処理物表面に大きな入熱を伴わずに被膜形成できるという知見を得て本発明に到達した。

    すなわち本発明は、
    加工液中で、圧粉体電極と被処理物表面との間にパルス放電を発生させ、前記圧粉体電極成分を前記被処理物表面に移着させて被膜を形成する放電被覆方法であって、
    表面に常温空気中で通常得られる酸化被膜よりも厚い酸化層を有する金属粉末を主成分として圧縮成形した圧粉体電極を用い、前記圧粉体電極の金属成分を前記被処理物表面に移着させて前記金属成分を主成分とする被膜を形成することを特徴とする放電被覆方法にある。

    また本発明は、
    上記放電被覆加工に用いる圧粉体電極であって、表面に常温空気中で通常得られる酸化被膜よりも厚い酸化層を有する金属粉末を主成分として圧縮成形された圧粉体電極にある。

    本発明によれば、表面に有意な厚さの酸化層を有する金属粉末を主成分として圧縮成形した圧粉体電極を用いることによって、金属自体の融点より遙かに低い温度で金属粒子を溶出でき、被処理物表面に移着させ被膜形成できる。 これにより、金属成分との炭化物を生じない短時間のパルス放電による金属成分の溶出および移着が可能となり、被処理物表面に大きな入熱を伴わずに被膜形成でき、アルミニウム材のような低融点金属に対しても、硬質な高融点金属を主成分とした高耐熱性かつ高耐摩耗性の被膜を形成できる。

    さらに、被膜性状を炭化物に依存せず、金属成分を主体として被膜を形成できるので、被膜表面における導電率の低下を招くことがなく、厚い被膜を得ることができ、しかも、厚さ方向における構成成分の変化を伴わない均一な被膜を形成できる。 また、被膜性状を炭化物に依存しないので、金属成分と反応しない絶縁性の加工液であれば、有機加工液以外の加工液を用いることができ、放電条件によらず炭化物を含まない被膜を形成することもできる。

    本発明において、前記金属粉末は、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン合金、タングステン合金およびクロム合金からなる群から選ばれる1の金属粉末であることが好適である。 また、前記金属粉末は、モリブデン、タングステン、クロム、モリブデン合金、タングステン合金およびクロム合金からなる群から選ばれる2以上の金属を混合した粉末であっても良い。 これら、周期表第6族の金属およびその合金は、いずれも金属単体で高耐熱性かつ高耐摩耗性の被膜を形成できる。

    さらに、本発明の圧粉体電極は、前記金属粉末に金属石鹸を添加して圧縮成形されていることが好適である。 金属石鹸の添加により、圧粉体電極の成形性が向上することは勿論であるが、放電被覆加工時における金属成分の溶出が促進され、短時間のパルス放電により被処理物表面への入熱を抑制して被膜形成するうえで有利である。

    また、本発明の圧粉体電極は、前記金属粉末に銅粉末または銀粉末を添加して圧縮成形されていることが好適である。 銅粉末または銀粉末の添加により、ポーラスな圧粉体電極の導電性が均一化され、電極と被処理物表面との間に発生するパルス放電が均一化されるので、局所的な放電による被膜の欠陥を防止するうえで有利である。

    本発明に係る放電被覆方法を実施する放電被覆装置の概略を示す図である。

    金属粉末の酸化量と被膜厚さの関係を示すグラフである。

    本発明第1実施例の被膜(A)を示すSEM断面写真である。

    比較例の被膜を示すSEM断面写真である。

    従来の方法による被膜を示すSEM断面写真である。

    金属石鹸(ステアリン酸亜鉛)の添加量と被膜厚さの関係を示すグラフである。

    本発明第2実施例の被膜(A2)を示すSEM断面写真である。

    本発明第2実施例の被膜(A2)のX線回折結果を示すグラフである。

    (a)は被膜の欠陥付近のSEM写真であり、(b)は同領域のEDS分析による炭素の分布を、(c)は酸素の分布を示す図である。

    本発明第3実施例の被膜(A3)を示すSEM断面写真である。

    (a)は図10を縮小したSEM断面写真であり、(b)は同領域のEDS分析による炭素の分布、(c)は酸素の分布、(d)はアルミニウムの分布、(e)は銅の分布、(f)はモリブデンの分布を示す図である。

    本発明第3実施例の被膜(A3)の各測定地点におけるビッカース硬さを示すグラフである。

    モリブデン粉末とクロム粉末の混合粉末の酸化量とマグネ材表面での被膜厚さの関係を示すグラフである。

    本発明第4実施例の被膜(A4)を示すSEM断面写真である。

    比較例の被膜を示すSEM断面写真である。

    金属石鹸(ステアリン酸亜鉛)の添加量と被膜厚さの関係を示すグラフである。

    本発明第5実施例の被膜(A5)を示すSEM断面写真である。

    モリブデン粉末とクロム粉末の混合粉末の酸化量とチタン材表面での被膜厚さの関係を示すグラフである。

    本発明第6実施例の被膜(A6)を示すSEM断面写真である。

    比較例の被膜を示すSEM断面写真である。

    金属石鹸(ステアリン酸亜鉛)の添加量と被膜厚さの関係を示すグラフである。

    本発明第7実施例の被膜(A7)を示すSEM断面写真である。

    1 処理槽 2 被処理物 3 圧粉体電極 4 電源装置 5 支持体5
    10 加工液 20 被処理表面 21 被膜 30 放電面 31 軸部

    以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
    図1は、本発明方法を実施する放電被覆装置の概略を示している。 図において、放電被覆装置は、加工液10を貯留する処理槽1、前記加工液10に浸漬した状態で収容される被処理物2に対向して配設される圧粉体電極3、被処理物2と圧粉体電極3との間に電圧パルスを印加する電源装置4および電線などで構成されており、電源装置4の正極に被処理物2が接続され、負極に圧粉体電極3が接続される。

    圧粉体電極3は、例えば、銅などの良導体からなる軸部31の先端に導電性接着剤を介して接着固定されており、軸部31の基部(上端部)において、支持体5のチャック51に着脱可能に保持される。 なお、図示を省略するが、支持体5は、少なくとも上下1軸方向の移動および位置決め機構を備え、より好適には、上下1軸を含む直交3軸の移動および位置決め機構とその制御装置を備えており、被処理物2の任意の被処理表面20に対して、圧粉体電極3の先端の放電面30を自在に位置決めできるように構成される。

    上記圧粉体電極3の製造に際しては、予め原料となる金属粉末を大気中で加熱し、常温で通常得られる酸化被膜よりも厚い酸化層を形成しておき、このような表面酸化処理を施した金属粉末を主成分として型内で圧縮成形する。 原料の金属粉末としては、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)など、単体で高耐熱性かつ高耐摩耗性の被膜を形成可能な硬質かつ高融点の周期表第6族の金属の粉末が好適である。

    これらは、いずれかを単体で用いても良いし、2以上を均一に混合して用いても良い。 また、上記金属を主成分とする合金、すなわち、モリブデン合金、タングステン合金、クロム合金などの合金の粉末を、単体あるいは混合して用いることもできる。 上記酸化処理は、金属の融点に比べて充分に低い温度でなされるので、金属粉末の混合は、酸化処理の前後どちらに行なっても良い。

    被処理物2を構成する金属は、特に限定されるものではなく、各種金属材料に実施可能であるが、従来、厚い硬質被膜の形成が困難であったアルミニウムまたはアルミニウム合金材、あるいは、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、チタン合金からなる材料表面の被膜形成に特に好適である。 また、加工液10としては、従来の処理と同様に、鉱物油などの有機加工液を用いることができるが、金属成分と反応しない絶縁性の加工液であれば、有機加工液以外の加工液を用いることもできる。

    放電被覆加工に際しては、加工液10に浸漬された圧粉体電極3と被処理物2との間に電源装置4により電圧パルスを印加すれば、圧粉体電極3の放電面30と被処理表面20との間にパルス放電を生じる。 この放電エネルギーによって圧粉体電極3を構成する金属粒子が溶出し、被処理表面20に移着して被膜21を形成する。

    放電条件としては、溶出した金属成分が加工液中の炭素と反応しないような短いパルス幅が選択される。 表面に酸化層を有する金属粉末を主成分とする圧粉体電極3を用いることによって、圧粉体電極3を構成する金属粒子の接触面の少なくとも一部に酸化物が介在し、それにより、金属粒子間の結合が弱められ、かつ、金属粒子の接触面における電気抵抗が増大し局所的な発熱が大きくなり、短時間のパルス放電による金属成分の溶出および移着が可能となる。 さらに、モリブデン、タングステン、または、それらの合金の場合、表面の酸化層によって金属粒子の表層部が低融点化され、金属自体の融点より低い温度で金属粒子を溶出でき、これも短時間のパルス放電による金属成分の移着に寄与する。

    このように、短時間のパルス放電により金属成分を溶出させて被処理表面20に移着させることにより、被処理表面20に大きな入熱を伴わずに被膜21を形成できる。 これにより、アルミニウム材のような低融点金属の被処理表面20に対しても、被処理表面20の融解を抑制しつつ、硬質な高融点金属を主成分とした高耐熱性かつ高耐摩耗性の被膜21を形成できる。 しかも、金属成分の炭化物を生じない短時間のパルス放電により、金属成分を主体とした被膜21が形成されるので、被膜表面における導電率の低下を招くことがなく、短時間の処理で厚く均質な被膜21を得ることができる。

    圧粉体電極3を構成する金属粉末の表面に形成する酸化層の割合は、金属粉末の平均粒径により多少異なるものの、金属粉末の4wt%〜14wt%が好適である。 酸化層が4wt%に満たない場合には厚膜化への寄与が見られない。 一般に、原料となる金属粉末は、常温で酸化して表面に安定的な不動態の酸化皮膜を有しているが、このような酸化皮膜は非常に薄いため厚膜化に寄与しない。

    酸化層が金属粉末の4wt%以上で厚膜化に対して顕著な効果が見られるが、酸化層の割合が多すぎる場合には、被膜内に欠陥を多く含むようになり、良質な被膜が得られなくなる。 したがって、良質かつ厚い被膜の形成には、酸化層の割合が金属粉末の5wt%〜11wt%の範囲で調整されることが好適である。

    上述した金属粉末表面の酸化層の膜厚に対する影響を検証するために、圧粉体電極の形成条件および放電条件は変えずに、金属粉末の酸化量だけを変化させて、アルミニウム材表面、マグネシウム材表面、チタニウム材表面にそれぞれ放電被覆加工を行ない、その際の膜厚の変化を調べる実験を行なった。

    アルミニウム材表面への実験では、金属粉末として、平均粒径が2μmのモリブデン粉末を用い、大気中250℃で酸化処理を行って酸化量を3wt%〜14wt%の範囲で変化させ、それぞれ400MPaの成形圧にて直径13.8mmの円柱状の圧粉体を作製し、それらを負電極として、ピーク電流値20A、パルス幅50μsec、デューティー比18%の放電条件で、加工液(新日本石油株式会社EDF−K)中にてアルミニウム合金(A2017)表面に各2分間の放電被覆処理を行ない、得られた被膜の膜厚を測定した。 また、比較例として、常温空気中で通常得られる酸化皮膜のみを有する酸素含有量が0.4wt%のモリブデン粉末を用い、同条件で実験を行ない、得られた被膜の膜厚を測定した。

    図2は、上記実験結果を示すグラフであり、この結果によれば、モリブデン粉末の酸化量が4wt%未満では殆ど厚膜化への影響が見られないが、酸化量が4wt%を越えると膜厚が急激に増加し、酸化量11wt%でピークを迎え膜厚は1100μm以上に達した。 以後、膜厚は減少する傾向が見られるものの依然として通常より厚い被膜が得られた。 しかし、酸化量14wt%以上では、被膜内に多くの欠陥を含むことが確認された。

    金属粉末としてタングステンおよびクロムの粉末を用いて同様の実験を行なったところ、これらにおいても、酸化量を5wt%〜11wt%の範囲で調整することにより、欠陥の少ない厚膜が得られた。 この結果から、本発明の放電被覆方法によれば、一般的に使用される酸化量の少ない高純度の高価な金属粉末を用いなくても処理が可能であり、コスト面でも有利である。 また、酸化処理を金属粉末の製造工程で行なうこともできる。

    図3は、上記実験における酸化量11wt%のモリブデン粉末の圧粉体電極を用いて2分間放電被覆処理した被膜(本発明第1実施例の被膜Aという)を示す断面写真である。 膜厚は少なくとも1100μm、厚い箇所では1200μm以上に達しており、しかも、厚さ方向に均一な性状の被膜が形成されていることが確認できる。

    図4は、上記実験における酸化量14wt%のモリブデン粉末の圧粉体電極を用いて2分間放電被覆処理した被膜(以下、被膜Bという)を示す断面写真である。 膜厚は500μm程度で、従来の放電被覆処理に比べれば充分に厚い被膜と言えるが、内部欠陥が増加していることが確認できる。

    図5は、比較例として上記実験で用いた酸素含有量が0.4wt%のモリブデン粉末の圧粉体電極で放電被覆処理した被膜(以下、被膜Cという)を示す断面写真である。 膜厚は80μm程度にとどまっており、しかも、被膜A、Bに比較して、被膜とアルミニウム材との界面が多少乱れている。 これは、モリブデン粉末の表面に酸化層がある場合に比べて、モリブデンが高い温度でアルミニウム材表面に到達し、その熱でアルミニウム材表面が融解または熱変形したことによるものと思われる。

    次に、圧粉体電極の原料となる金属粉末に金属石鹸を添加して圧縮成形した場合における膜厚に対する影響を調べる実験を以下のように行なった。

    金属石鹸としてはステアリン酸亜鉛を用いた。 金属粉末としては、上記実験で最も厚い被膜(被膜A)が得られた酸化量11wt%のモリブデン粉末を使用し、ステアリン酸亜鉛の添加量を0wt%〜6wt%の範囲で変化させて添加し、それぞれ混合粉が均一になるようにV型混合器を用いて60分間混合した。 このような混合粉を圧縮成形して圧粉体電極を作製し、それぞれの場合について上記実験と同条件で2分間の放電被覆処理を行い、得られた被膜の膜厚を測定した。 その結果を図6に示す。

    図6のグラフに示されるように、膜厚は、ステアリン酸亜鉛1wt%の添加で大きく向上し、2wt%の添加で最大(2100μm)となった。 それ以上でも無添加の場合に比べれば膜厚の向上は見られたが、5wt%以上では圧粉体電極の消耗量が多くなることが確認された。 これは、ステアリン酸亜鉛の添加により成形性は向上するものの、金属粒子の結合が過度に弱まり、金属粒子が充分に溶融しないまま電極から放出され、被膜成分に取込まれなかったことによるものと思われる。

    タングステンとクロムで同様の実験を行なったところ、ステアリン酸亜鉛を2wt%添加した時の膜厚が最大となり、6wt%以上添加した場合には、圧粉体電極の消耗が激しくなるのが確認された。 以上のことから、金属石鹸の添加量は1wt%〜4wt%が好適であるが、1wt%以下でも厚膜化に寄与するものと思われる。

    図7は、上記実験で最も厚い被膜が得られたステアリン酸亜鉛2wt%添加による被膜(以下、本発明第2実施例の被膜A2という)を示す断面写真である。 内部に微細な欠陥を含んでいるが、無添加の場合に比べて2倍近い厚膜化を達成している。 また、図8は、上記被膜A2のX線回折(XRD)結果を示すグラフである。 図8によれば、第2実施例の被膜A2の主成分はモリブデン(Mo)であり、その炭化物(Mo C)は、ごく僅かであることが確認できる。

    なお、金属石鹸としては、ステアリン酸亜鉛以外の金属塩によるステアリン酸石鹸を始め、12−ヒドロキシステアリン酸石鹸、モンタン酸石鹸、ベヘン酸石鹸、ラウリン酸石鹸など、各種金属石鹸を用いることができる。 これらはいずれも低融点であり、放電により金属粒子が溶出する際に気化などにより消滅し、被膜性状への影響は少ない。

    上述したように、表面に有意な酸化層を有する金属粉末による圧粉体電極による放電被覆処理で1000μm以上の厚膜化を達成でき、さらに、金属石鹸の添加により2000μm以上の厚膜化を達成できた。 その一方で、特に、金属粉末の酸化量や金属石鹸の添加量が多いサンプルでは、被膜内部に欠陥を残す場合があることは既に述べた。

    そこで、この原因を探るべく、ステアリン酸亜鉛4wt%添加による被膜(以下、被膜A2′という)における欠陥付近の元素を、エネルギー分散型X線元素分析(EDS分析)により同定した。 図9にそのEDS分析結果を示す。

    図9(a)は、欠陥付近のSEM写真であり、図9(b)は、同領域における炭素の分布を示し、図9(c)は、酸素の分布を示している。 図9(b)に示されるように、欠陥付近では多くの炭素が検出された。 多少条件は異なるが、図8に示した被膜A2のXRD結果を考慮すると、この炭素はモリブデンの炭化物とは考え難く、有機加工液由来の炭素が異常なパルス放電により遊離したまま被膜に取り込まれたものと推察される。 このような異常なパルス放電は、被膜表面の導電率が不均一になることから発生する。

    したがって、圧粉体電極の主成分となる金属粉末に導電率に優れる金属粉末、例えば銅粉末を添加することにより、被膜表面の導電率を均一化させ、パルス放電を安定化させれば、被膜内の欠陥が防止され被膜性状を向上することが可能となる。

    そこで、第2実施例の被膜A2の形成に使用した混合粉末(酸化量11wt%のモリブデン粉末にステアリン酸亜鉛を2wt%添加)に、さらに銅粉末を添加した混合粉末で作製した圧粉体電極を用い、上記実験と同条件で放電被覆処理した場合における銅添加量(0〜20wt%)と被膜内欠陥および膜厚の変化を調べたところ、銅粉末を2wt%〜4wt%添加した場合に欠陥の少ない良好な被膜が得られた。 しかし、銅粉末を4wt%以上添加した場合には、欠陥は防止できるものの膜厚は大幅な減少が認められた。 なお、タングステンおよびクロムで同様の実験を行なったところ、これらについても銅粉末を2wt%〜4wt%添加した場合に良好な被膜が得られることが確認できた。

    図10は、酸化量11wt%のモリブデン粉末にステアリン酸亜鉛を2wt%添加し、さらに銅粉末を4wt%添加して均一に混合した混合粉による圧粉体電極を用い、上記各実験と同条件で放電被覆処理した被膜(以下、本発明第3実施例の被膜A3という)を示す断面写真である。 この写真から、第3実施例の被膜A3は、銅を添加しない圧粉体電極で得られた第2実施例の被膜A2に比べて被膜性状が均質で緻密であることが確認できる。

    また、第3実施例の被膜A3の図10と同じ領域のEDS分析結果を図11(a)〜(f)に示す。 図11(a)は図10を縮小した同領域のSEM断面写真であり、以下、同領域における炭素(b)、酸素(c)、アルミニウム(d)、銅(e)、モリブデン(f)の分布を示している。 これらより、上記被膜A3は、炭素を含めて断面方向で成分の変化が殆どないことが確認できる。

    次に、上記第3実施例の被膜A3の硬さを検証するためにビッカース硬度計を用いて硬さ試験を行なった。 硬さ試験では、被膜A3を、アルミニウム材(A2017)との界面から200μm、800μm、1700μmの各厚さまで研削し、荷重50gfのビッカース硬さを測定した。 試験結果を図12に示す。 なお、図中における左端の測定地点はアルミニウム材自体の硬さを示している。

    図12に示されるように、第3実施例の被膜A3の硬さは450〜470HVに達しており、非常に硬質な被膜が得られたことが確認できる。 さらに、本発明の放電被覆方法による被膜が厚さ方向に一様な成分分布であることは既に述べたが、成分分布と同様に硬度分布も断面方向で殆ど変化しないことが確認できる。

    次に、マグネシウム材表面への実験では、金属粉末として、平均粒径が2μmのモリブデン粉末と平均粒径が10μmのクロム粉末を用い、両粉末を大気中250℃で酸化処理を行って酸化量を3wt%〜14wt%の範囲で変化させた後、モリブデン粉末とクロム粉末の割合をクロム粉末が17wt%になるように混合した。 上記混合金属粉末を用いて、アルミニウム材表面への実験と同様に圧粉体を作製し、アルミニウム材表面と同様の放電条件で、マグネシウム合金(AZ91)表面に各2分間の放電被覆処理を行ない、得られた被膜の膜厚を測定した。

    図13は、上記実験結果を示すグラフであり、この結果によれば、上記混合金属粉末の酸化量が4wt%未満では殆ど厚膜化への影響が見られないが、酸化量が4wt%を越えると膜厚が急激に増加し、酸化量11wt%でピークを迎え膜厚は1300μm以上に達した。 以後、膜厚は均一性に欠けるものの依然として通常より厚い被膜が得られた。 しかし、酸化量14wt%以上では、被膜内に多くの欠陥を含むことが確認された。

    圧粉体原料粉末としてタングステンおよびクロムの粉末を用いて同様の実験を行なったところ、これらにおいても、酸化量を5wt%〜11wt%の範囲で調整することにより、欠陥の少ない厚膜が得られた。 この結果から、本発明の放電被覆方法によれば、一般的に使用される酸化量の少ない高純度の高価な金属粉末を用いなくても処理が可能であり、コスト面でも有利である。 また、酸化処理を金属粉末の製造工程で行なうこともできる。

    図14は、上記実験における酸化量11wt%の上記混合金属粉末の圧粉体電極を用いて2分間放電被覆処理した被膜(本発明第4実施例の被膜A4という)を示す断面写真である。 膜厚は少なくとも1200μm、厚い箇所では1300μm以上に達しており、しかも、厚さ方向に均一な性状の被膜が形成されていることが確認できる。

    図15は、上記実験における酸化量14wt%の上記混合粉末の圧粉体電極を用いて2分間放電被覆処理した被膜(以下、被膜B4という)を示す断面写真である。 膜厚は1000μmから1500μm程度で、従来の放電被覆処理に比べれば充分に厚い被膜と言えるが、内部欠陥が増加していることが確認できる。

    次に、圧粉体電極の原料となる上記混合金属粉末に金属石鹸を添加して圧縮成形した場合における膜厚に対する影響を調べる実験を以下のように行なった。

    金属石鹸としてはステアリン酸亜鉛を用いた。 金属粉末としては、上記実験で最も厚い被膜(被膜A4)が得られた酸化量11wt%の上記混合金属粉末を使用し、ステアリン酸亜鉛の添加量を0wt%〜6wt%の範囲で変化させて添加し、それぞれ混合粉が均一になるようにV型混合器を用いて60分間混合した。 このような混合粉を圧縮成形して圧粉体電極を作製し、それぞれの場合について上記実験と同条件で2分間の放電被覆処理を行い、得られた被膜の膜厚を測定した。 その結果を図16に示す。

    図16のグラフに示されるように、膜厚は、ステアリン酸亜鉛1wt%の添加で大きく向上し、2wt%の添加で最大(2600μm)となった。 それ以上でも無添加の場合に比べれば膜厚の向上は見られたが、5wt%以上では圧粉体電極の消耗量が多くなることが確認された。 これは、ステアリン酸亜鉛の添加により成形性は向上するものの、金属粒子の結合が過度に弱まり、金属粒子が充分に溶融しないまま電極から放出され、被膜成分に取込まれなかったことによるものと思われる。

    タングステンとクロムで同様の実験を行なったところ、ステアリン酸亜鉛を2wt%添加した時の膜厚が最大となり、6wt%以上添加した場合には、圧粉体電極の消耗が激しくなるのが確認された。 以上のことから、金属石鹸の添加量は1wt%〜4wt%が好適であるが、1wt%以下でも厚膜化に寄与するものと思われる。

    なお、金属石鹸としては、ステアリン酸亜鉛以外の金属塩によるステアリン酸石鹸を始め、12−ヒドロキシステアリン酸石鹸、モンタン酸石鹸、ベヘン酸石鹸、ラウリン酸石鹸など、各種金属石鹸を用いることができる。 これらはいずれも低融点であり、放電により金属粒子が溶出する際に気化などにより消滅し、被膜性状への影響は少ない。

    次に上記実験で最も厚い被膜が得られた混合粉末(酸化量11wt%の上記混合金属粉末にステアリン酸亜鉛を2wt%添加)に、さらに銀粉末を添加した混合粉末で作製した圧粉体電極を用い、上記実験と同条件で放電被覆処理した場合における銀添加量(0〜20wt%)と被膜内欠陥および膜厚の変化を調べたところ、銀粉末を2wt%〜4wt%添加した場合に欠陥の少ない良好な被膜が得られた。 しかし、銀粉末を4wt%以上添加した場合には、欠陥は防止できるものの膜厚は大幅な減少が認められた。 なお、タングステンおよびクロムで同様の実験を行なったところ、これらについても銀粉末を2wt%〜4wt%添加した場合に良好な被膜が得られることが確認できた。

    図17は、酸化量11wt%の上記混合金属粉末にステアリン酸亜鉛を2wt%添加し、さらに銀粉末を4wt%添加して均一に混合した混合粉による圧粉体電極を用い、上記各実験と同条件で放電被覆処理した被膜(以下、本発明第5実施例の被膜A5という)を示す断面写真である。 この写真から、被膜性状が均質で緻密であることが確認できる。

    次に、チタニウム材表面への実験では、金属粉末として、平均粒径が2μmのモリブデン粉末と平均粒径が10μmのクロム粉末を用い、両粉末を大気中250℃で酸化処理を行って酸化量を3wt%〜14wt%の範囲で変化させた後、モリブデン粉末とクロム粉末の割合をクロム粉末が17wt%になるように混合した。 上記混合金属粉末を用いて、アルミニウム材表面への実験と同様に圧粉体を作製し、アルミニウム材表面と同様の放電条件で、純チタン材表面に各2分間の放電被覆処理を行ない、得られた被膜の膜厚を測定した。

    図18は、上記実験結果を示すグラフであり、この結果によれば、上記混合金属粉末の酸化量が4wt%未満では殆ど厚膜化への影響が見られないが、酸化量が4wt%を越えると膜厚が急激に増加し、酸化量11wt%でピークを迎え膜厚は1300μm以上に達した。 以後、依然として通常より厚い被膜が得られた。 しかし、酸化量14wt%以上では、被膜内に多くの欠陥を含むことが確認された。

    圧粉体原料粉末としてタングステンおよびクロムの粉末を用いて同様の実験を行なったところ、これらにおいても、酸化量を5wt%〜11wt%の範囲で調整することにより、欠陥の少ない厚膜が得られた。 この結果から、本発明の放電被覆方法によれば、一般的に使用される酸化量の少ない高純度の高価な金属粉末を用いなくても処理が可能であり、コスト面でも有利である。 また、酸化処理を金属粉末の製造工程で行なうこともできる。

    図19は、上記実験における酸化量11wt%の上記混合金属粉末の圧粉体電極を用いて2分間放電被覆処理した被膜(本発明第6実施例の被膜A6という)を示す断面写真である。 膜厚は少なくとも1200μm、厚い箇所では1300μm以上に達しており、しかも、厚さ方向に均一な性状の被膜が形成されていることが確認できる。

    図20は、上記実験における酸化量14wt%の上記混合粉末の圧粉体電極を用いて2分間放電被覆処理した被膜(以下、被膜B6という)を示す断面写真である。 膜厚は1000μmから1500μm程度で、従来の放電被覆処理に比べれば充分に厚い被膜と言えるが、内部欠陥が増加していることが確認できる。

    次に、圧粉体電極の原料となる上記混合金属粉末に金属石鹸を添加して圧縮成形した場合における膜厚に対する影響を調べる実験を以下のように行なった。

    金属石鹸としてはステアリン酸亜鉛を用いた。 金属粉末としては、上記実験で最も厚い被膜(被膜A6)が得られた酸化量11wt%の上記混合金属粉末を使用し、ステアリン酸亜鉛の添加量を0wt%〜6wt%の範囲で変化させて添加し、それぞれ混合粉が均一になるようにV型混合器を用いて60分間混合した。 このような混合粉を圧縮成形して圧粉体電極を作製し、それぞれの場合について上記実験と同条件で2分間の放電被覆処理を行い、得られた被膜の膜厚を測定した。 その結果を図21に示す。

    図21のグラフに示されるように、膜厚は、ステアリン酸亜鉛1wt%の添加で大きく向上し、2wt%の添加で最大(2350μm)となった。 それ以上でも無添加の場合に比べれば膜厚の向上は見られたが、5wt%以上では圧粉体電極の消耗量が多くなることが確認された。 これは、ステアリン酸亜鉛の添加により成形性は向上するものの、金属粒子の結合が過度に弱まり、金属粒子が充分に溶融しないまま電極から放出され、被膜成分に取込まれなかったことによるものと思われる。

    タングステンとクロムで同様の実験を行なったところ、ステアリン酸亜鉛を2wt%添加した時の膜厚が最大となり、6wt%以上添加した場合には、圧粉体電極の消耗が激しくなるのが確認された。 以上のことから、金属石鹸の添加量は1wt%〜4wt%が好適であるが、1wt%以下でも厚膜化に寄与するものと思われる。

    なお、金属石鹸としては、ステアリン酸亜鉛以外の金属塩によるステアリン酸石鹸を始め、12−ヒドロキシステアリン酸石鹸、モンタン酸石鹸、ベヘン酸石鹸、ラウリン酸石鹸など、各種金属石鹸を用いることができる。 これらはいずれも低融点であり、放電により金属粒子が溶出する際に気化などにより消滅し、被膜性状への影響は少ない。

    次に上記実験で最も厚い被膜が得られた混合粉末(酸化量11wt%の上記混合金属粉末にステアリン酸亜鉛を2wt%添加)に、さらに銀粉末を添加した混合粉末で作製した圧粉体電極を用い、上記実験と同条件で放電被覆処理した場合における銀添加量(0〜20wt%)と被膜内欠陥および膜厚の変化を調べたところ、銀粉末を2wt%〜4wt%添加した場合に欠陥の少ない良好な被膜が得られた。 しかし、銀粉末を4wt%以上添加した場合には、欠陥は防止できるものの膜厚は大幅な減少が認められた。 なお、タングステンおよびクロムで同様の実験を行なったところ、これらについても銀粉末を2wt%〜4wt%添加した場合に良好な被膜が得られることが確認できた。

    図22は、酸化量11wt%の上記混合金属粉末にステアリン酸亜鉛を2wt%添加し、さらに銀粉末を4wt%添加して均一に混合した混合粉による圧粉体電極を用い、上記各実験と同条件で放電被覆処理した被膜(以下、本発明第7実施例の被膜A7という)を示す断面写真である。 この写真から、被膜性状が均質で緻密であることが確認できる。

    なお、上記各実施例では、被処理物2が、アルミニウム合金、マグネシウム合金、純チタニウムの場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、アルミニウムやマグネシウム、あるいはチタン合金に実施可能であることは勿論、これら以外の各種金属表面にも実施可能である。

    以上述べたように、本発明の放電被覆方法によれば、アルミニウム材のような低融点金属の表面に、硬質な高融点金属の厚い被膜を短時間で形成可能である。 上記第2、第3実施例では、僅か2分間の放電被覆処理で厚さ1600μm〜2000μmという厚い被膜を形成でき、従来と比較して10倍〜100倍という顕著な厚膜化を達成している。 しかも、成膜速度は800μm/分〜1000μm/分に達しており、厚膜化と同時に処理時間の大幅な短縮、高速処理を可能にしている。

    このような顕著な厚膜化に加えて、従来の炭化物やセラミックなどに依存した放電被覆と異なり、本発明の放電被覆処理による被膜は、構成成分や硬さが被膜の厚さ方向に一様であるので、研削などの二次的な加工を行なっても被膜の表面性状が変化せず、かつ、このような加工に耐えうる充分な膜厚が確保されている。

    上記のような特長により、例えば、従来、アルミニウム合金製シリンダーヘッドに圧入されていたバルブシートを、本発明の放電被覆処理による被膜で代替することにより、エンジンの吸排気ポートの形状や燃焼室形状に対する制約が少なくなり、スワールやタンブルなどの筒内撹拌流を発生させる形状設計に有利である。

    さらに、本発明の放電被覆処理による被膜は、アルミニウム材と冶金的に密着しているので、被膜とアルミニウム材の界面での熱伝達損失が少なく、吸排気バルブからの受熱を効率良くアルミニウム合金製シリンダーヘッドに伝達でき、燃焼室内面のバルブ面における局所的過熱が抑制され、その結果としてエンジンの圧縮限界を向上できる。 また、成分や硬さが厚さ方向に一様であるので、バルブシート面に研削など二次的な加工を施しても表面の硬さや摺動特性などが変化しない利点がある。

    したがって、本発明の放電被覆処理による被膜は、シリンダーヘッドのバルブシート代替被膜としては勿論、シリンダーブロックの鋳鉄スリーブの代替被膜など、耐摩耗性や耐熱性が要求される各種金属表面の被覆や代替被膜として実施可能であり、部分処理によるマスキングが不要であるため、工業化に有利である。

    以上、本発明のいくつかの実施形態および実施例について述べたが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能であることを付言する。

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