Surface-coated cutting tool

申请号 JP2007209323 申请日 2007-08-10 公开(公告)号 JP2009039838A 公开(公告)日 2009-02-26
申请人 Mitsubishi Materials Corp; 三菱マテリアル株式会社; 发明人 MAEDA KOICHI; MORIKAWA TADANORI; MATSUOKA YUUKI; ICHINOMIYA NATSUKI;
摘要 PROBLEM TO BE SOLVED: To provide a surface-coated cutting tool which exhibits excellent chipping resistance and wear resistance under high speed cutting work such as high speed gear cutting, high speed milling and high speed drilling. SOLUTION: A surface-coated cutting tool has a hard coating layer, consisting of at least an alternative laminate structure of a thin layer A and a thin layer B, which is formed on a surface of tool substrate such as cemented carbide substrate, cermet substrate, and high speed tool steel substrate, in which the thin layer A is formed of a (Al, Cr, Si)N layer which satisfies a compositional formula: [Al X Cr Y Si Z ]N (0.2≤X≤0.45, 0.4≤Y≤0.75, 0.01≤Z≤0.2, X+Y+Z=1, in atomic ratio), and the thin layer B is formed of a (Al, Ti, Si)N layer which satisfies [Al U Ti V Si W ]N (0.05≤U≤0.75, 0.15≤V≤0.94, 0.01≤W≤0.1, U+V+W=1, in atomic ratio). COPYRIGHT: (C)2009,JPO&INPIT
权利要求
  • 工具基体表面に硬質被覆層が形成された表面被覆切削工具において、
    硬質被覆層は、少なくとも薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなり、薄層Aと薄層Bは、それぞれ0.01〜0.1μmの層厚を有し、かつ、薄層Aと薄層Bは1〜10μmの合計層厚を有し、さらに、
    (a)薄層Aは、
    組成式:[Al Cr Si ]Nで表した場合、
    0.2≦X≦0.45、0.4≦Y≦0.75、0.01≦Z≦0.2、X+Y+Z=1(ただし、X、Y、Zはいずれも原子比)を満足するAlとCrとSiの複合窒化物層、
    (b)薄層Bは、
    組成式:[Al Ti Si ]Nで表した場合、
    0.05≦U≦0.75、0.15≦V≦0.94、0.01≦W≦0.1、U+V+W=1(ただし、U、V、Wはいずれも原子比)を満足するAlとTiとSiの複合窒化物層、
    であることを特徴とする表面被覆切削工具。
  • 請求項1記載の表面被覆切削工具において、硬質被覆層は、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる上部層と、該上部層と工具基体表面との間に介在形成された下地層とからなり、該下地層は、0.5〜10μmの層厚を有し、上記薄層Aの組成式を満足する組成を有することを特徴とする請求項1記載の表面被覆切削工具。
  • 請求項1記載の表面被覆切削工具において、硬質被覆層は、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる上部層と、該上部層と工具基体表面との間に介在形成された下地層とからなり、該下地層は、0.5〜10μmの層厚を有し、上記薄層Bの組成式を満足する組成を有することを特徴とする請求項1記載の表面被覆切削工具。
  • 表面被覆切削工具が、高速度工具鋼を工具基体とする歯切工具であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
  • 表面被覆切削工具が、高速度工具鋼を工具基体とするエンドミルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
  • 表面被覆切削工具が、炭化タングステン基超硬合金を工具基体とするエンドミルまたはドリルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
  • 说明书全文

    この発明は、硬質被覆層がすぐれた高温硬さ、高温靭性、高温強度、耐熱塑性変形性を備え、例えば、高速歯切加工、高速ミーリング加工、高速ドリル加工などのような、高熱発生を伴うとともに、切刃に対して大きな衝撃的・機械的負荷がかかる切削加工に用いたような場合であっても、硬質被覆層がすぐれた耐欠損性と耐摩耗性を示し、すぐれた工具特性を長期に亘って発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。

    一般に、被覆工具として、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるエンドミル、前記被削材の歯形の歯切加工などに用いられるソリッドホブ、ピニオンカッタなどが知られている。

    また、具体的な被覆工具としては、例えば、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメット、高速度工具鋼(以下、ハイスという)で構成された工具基体の表面に、
    組成式:[Al Cr Si ]Nで表した場合、
    0.75≦X≦0.95、0.05≦Y≦0.25、X+Y+Z=1(ただし、X、Y、Zはいずれも原子比)を満足するAlとCrとSiの複合窒化物層(以下、(Al,Cr,Si)N層で示す)からなる硬質被覆層を少なくとも1層以上設けることにより、被覆工具の耐熱性及び耐摩耗性の改善を図ることが知られている。
    また、前記工具基体の表面に、
    組成式:[Al Ti Si ]Nで表した場合、
    0.05≦U≦0.75、0.01≦W≦0.10、U+V+W=1(ただし、U、V、Wはいずれも原子比)を満足するAlとTiとSiの複合窒化物層(以下、(Al,Ti,Si)N層で示す)からなる硬質被覆層を設けることにより、被覆工具の耐酸化性及び耐摩耗性の改善を図ることも知られている。

    そして、上記従来の被覆工具は、例えば図2に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置に上記の工具基体を装入し、装置内を、例えば500℃の温度に加熱した状態で、蒸着形成する硬質被覆層の種類に応じた成分組成を有するカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に、例えば電流:90Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とし、一方、上記工具基体には、例えば−100Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記工具基体の表面に、上記硬質被覆層を蒸着形成することにより製造されることも知られている。

    特開2006−175569号公報

    特許第2793773号明細書

    近年の切削加工装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工はますます高速化の傾向にあるが、上記従来の被覆工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の切削条件での切削加工に用いた場合には、特段の問題は生じないが、これを、例えば、高速歯切加工、高速ミーリング加工、高速ドリル加工などのような、高熱発生を伴い、しかも、切刃に対して大きな衝撃的・機械的負荷がかかる切削加工に用いた場合には、硬質被覆層の靭性不足、あるいは、熱塑性変形による偏摩耗の発生等により、チッピング、欠損の発生を抑制することができず、また、摩耗進行も促進されるため、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。

    そこで、本発明者等は、上述のような観点から、高速歯切加工、高速ミーリング加工、高速ドリル加工などのような、高熱発生を伴い、しかも、切刃に対して大きな衝撃的・機械的負荷がかかる切削加工条件下で、硬質被覆層がすぐれた耐欠損性と耐摩耗性を発揮する被覆工具を開発すべく、上記従来の被覆工具の硬質被覆層を構成する層形成材料およびその構造に着目し研究を行った結果、以下のような知見を得た。

    (a)上記従来の被覆工具(特許文献1参照)の硬質被覆層を構成する(Al,Cr,Si)N層におけるAl成分には高温硬さ、同Cr成分には高温靭性、高温強度を向上させると共に、AlおよびCrが共存含有した状態で高温耐酸化性を向上させ、さらに同Si成分には耐熱塑性変形性を向上させる作用があるが、高熱発生を伴い、しかも、切刃に対して大きな衝撃的・機械的負荷がかかる高速歯切加工、高速ミーリング加工、高速ドリル加工等の厳しい切削条件下においては、高温靭性、高温強度が充分であるとはいえないため、これがチッピング、欠損等の発生原因となりやすく、逆に、Cr含有割合を増加して高温靭性、高温強度の改善を図ろうとしても、相対的なAl含有割合の減少によって、耐摩耗性が劣化してしまうため、(Al,Cr,Si)N層からなる硬質被覆層における耐チッピング性、耐欠損性の抑制・向上には限界があること。

    (b)一方、上記従来の被覆工具(特許文献2参照)の硬質被覆層を構成する(Al,Ti,Si)N層におけるAl成分、Si成分には前記と同様な作用があり、そして、Ti成分には、高温靭性、高温強度を一段と向上させる作用があるため、前記高速歯切加工、高速ミーリング加工、高速ドリル加工等の厳しい切削条件下でも、前記(Al,Ti,Si)N層からなる硬質被覆層は、すぐれた耐チッピング性、耐欠損性を発揮するが、その一方で、高温硬さ、耐熱塑性変形性が不足するために、耐摩耗性が劣るものであること。

    (c)そこで、所定組成かつ所定層厚の上記(a)の(Al,Cr,Si)N層からなる薄層Aと、同じく、所定組成かつ所定層厚の上記(b)の(Al,Ti,Si)N層からなる薄層Bとを交互に積層して硬質被覆層を構成したところ、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる硬質被覆層は、各薄層を所定の組成範囲のものとし、かつ、薄層の層厚を所定範囲に定めることにより、硬質被覆層全体として、薄層Aの有するすぐれた耐摩耗性を損なうことなく薄層Bの有するすぐれた高温靭性・高温強度を相兼ね備えるようになるため、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる硬質被覆層を形成した被覆工具は、高熱発生を伴い、しかも、切刃に対して大きな衝撃的・機械的負荷がかかる高速歯切加工、高速ミーリング加工、高速ドリル加工等の厳しい切削条件下の切削加工に用いた場合であっても、すぐれた耐チッピング性、耐欠損性および耐摩耗性を示すこと。

    この発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
    「(1) 工具基体表面に硬質被覆層が形成された表面被覆切削工具において、
    硬質被覆層は、少なくとも薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなり、薄層Aと薄層Bは、それぞれ0.01〜0.1μmの層厚を有し、かつ、薄層Aと薄層Bは1〜10μmの合計層厚を有し、さらに、
    (a)薄層Aは、
    組成式:[Al Cr Si ]Nで表した場合、
    0.2≦X≦0.45、0.4≦Y≦0.75、0.01≦Z≦0.2、X+Y+Z=1(ただし、X、Y、Zはいずれも原子比)を満足するAlとCrとSiの複合窒化物層((Al,Cr,Si)N層)、
    (b)薄層Bは、
    組成式:[Al Ti Si ]Nで表した場合、
    0.05≦U≦0.75、0.15≦V≦0.94、0.01≦W≦0.1、U+V+W=1(ただし、U、V、Wはいずれも原子比)を満足するAlとTiとSiの複合窒化物層((Al,Ti,Si)N層)、
    であることを特徴とする表面被覆切削工具(被覆工具)。
    (2) 前記(1)記載の表面被覆切削工具(被覆工具)において、硬質被覆層は、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる上部層と、該上部層と工具基体表面との間に介在形成された下地層とからなり、該下地層は、0.5〜10μmの層厚を有し、上記薄層Aの組成式を満足する組成を有することを特徴とする前記(1)記載の表面被覆切削工具(被覆工具)。
    (3) 前記(1)記載の表面被覆切削工具(被覆工具)において、硬質被覆層は、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる上部層と、該上部層と工具基体表面との間に介在形成された下地層とからなり、該下地層は、0.5〜10μmの層厚を有し、上記薄層Bの組成式を満足する組成を有することを特徴とする前記(1)記載の表面被覆切削工具(被覆工具)。
    (4) 表面被覆切削工具(被覆工具)が、高速度工具鋼を工具基体とする歯切工具であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具(被覆工具)。
    (5) 表面被覆切削工具(被覆工具)が、高速度工具鋼を工具基体とするエンドミルであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具(被覆工具)。
    (6) 表面被覆切削工具(被覆工具)が、炭化タングステン基超硬合金を工具基体とするエンドミルまたはドリルであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具(被覆工具)。 」

    つぎに、この発明の被覆工具の硬質被覆層に関し、上記の通りに数値限定した理由を説明する。

    (a)薄層A
    (Al,Cr,Si)N層からなる薄層AにおけるAl成分には高温硬さ、同Cr成分には高温靭性、高温強度を向上させると共に、AlおよびCrが共存含有した状態で高温耐酸化性を向上させ、さらに同Si成分には耐熱塑性変形性を向上させる作用がある。 そして、Alの含有割合を示すX値(原子比)がCrとSiの合量に占める割合で0.2未満では、最低限の高温硬さおよび高温耐酸化性を確保することができず、摩耗促進の原因となり、一方同X値が0.45を超えると、高温靭性、高温強度が低下するようになり、チッピング・欠損発生の原因となることから、X値を0.2〜0.45と定めた。 また、Crの含有割合を示すY値(原子比)がAlとSiの合量に占める割合で0.4未満では、最低限必要とされる高温靭性、高温強度を確保することができないため、チッピング・欠損の発生を抑制することができず、一方同Y値が0.75を超えると、相対的なAl含有割合の減少により、摩耗進行が促進することから、Y値を0.4〜0.75と定めた。 さらに、Siの含有割合を示すZ値(原子比)がAlとCrの合量に占める割合で0.01未満では、耐熱塑性変形性の改善による耐摩耗性向上を期待することはできず、一方同Z値が0.2を越えると、耐摩耗性向上効果に低下傾向がみられるようになることから、Z値を0.01〜0.2と定めた。
    なお、上記X、Y、Zについて、特に望ましい範囲は、0.35≦X≦0.45、0.4≦Y≦0.55、0.03≦Z≦0.10である。

    (b)薄層B
    薄層Aとの交互積層構造を構成する(Al,Ti,Si)N層からなる薄層Bは、わば、薄層Aに不足する特性(高温靭性および高温強度)を補完するために設けた層である。
    すでに述べたように、薄層Aは、特に、Al成分、Si成分を含有することによりすぐれた耐摩耗性を備え、さらに、Cr成分を含有することに所定の耐チッピング性、耐欠損性を保持しているが、高熱発生を伴い、しかも、高速歯切加工、高速ミーリング加工、高速ドリル加工等の切刃に対して大きな衝撃的・機械的負荷がかかる厳しい切削条件下での使用に耐えるためには、薄層Aにはさらに一段とすぐれた高温靭性、高温強度が求められ、これを確保するためには薄層Aにより多くのCrを含有させる必要があるが、そうすると、薄層AにおけるAl、Siの含有割合は、少なくならざるを得ず、その場合には、薄層Aは高温硬さおよび高温耐酸化性が不十分となり、ひいては、耐摩耗性の低下につながることから、薄層AにおいてCr含有割合の更なる増加を図ることは不可能である。
    そこで、この発明では、(Al,Ti,Si)N層からなる薄層Bを、上記薄層Aと交互に積層し、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる硬質被覆層を形成することにより、薄層Aの有するすぐれた高温硬さ、耐熱塑性変形性を損なうことなしに、薄層Aに不足する高温靭性、高温強度を、隣接する薄層Bの備えるすぐれた高温靭性、高温強度によって補い、もって、硬質被覆層全体として、すぐれた耐チッピング性、耐欠損性、耐摩耗性を発揮せしめるのである。
    薄層Bの組成式におけるAl成分、Si成分の作用効果は、薄層Aの場合と同様であるが、Alの含有割合を示すU値(原子比)が0.05未満、或いは、Siの割合を示すW値(原子比)が0.01未満では、最低限必要とされる所定の高温硬さ、高温耐酸化性、耐熱塑性変形性を確保することができなくなるため、耐摩耗性低下の原因となり、またU値が0.75を超えた場合は、相対的なTi成分含有割合の減少により、Ti成分添加による高温靭性、高温強度改善効果が期待できず、また、W値が0.1を超えると、耐摩耗性向上作用に低下傾向がみられるようになる。 したがって、Alの含有割合示すU値は、0.05〜0.75、また、Siの含有割合を示すW値は、0.01〜0.1と定めた。 また、Tiの含有割合を示すV値(原子比)が0.15未満の場合には、より一段とすぐれた高温靭性、高温強度の向上効果を期待できず、一方、V値が0.94を超えるような場合には、相対的なAl成分、Si成分の含有割合の減少により、最低限必要とされる高温硬さおよび高温耐酸化性を確保することができなくなることから、Ti成分の含有割合を示すV値を、0.15〜0.94と定めた。
    なお、上記U、V、Wについて、特に望ましい範囲は、0.45≦U≦0.55、0.4≦V≦0.5、0.03≦W≦0.07である。

    (c)層厚 薄層A、薄層Bそれぞれの層厚が0.01μm未満では、それぞれの薄層を所定組成のものとして明確に形成することが困難であるばかりか、薄層Aによる耐摩耗性向上効果、薄層Bによる高温靭性改善効果が十分発揮されず、一方、薄層A、薄層Bそれぞれの層厚が0.1μmを超えた場合には、それぞれの薄層がもつ欠点、すなわち薄層Aであれば靭性不足、強度不足が、また、薄層Bであれば耐摩耗性不足が層内に局部的に現れ、硬質被覆層全体としての特性低下を招く恐れがあるので、薄層A、薄層Bそれぞれの層厚を0.01〜0.1μmと定めた。
    すなわち、薄層Bは、薄層Aの有する特性のうちの不十分な特性を補うために設けたものであるが、薄層A、薄層Bそれぞれの層厚が0.01〜0.1μmの範囲内であれば、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる硬質被覆層は、すぐれた高温硬さ、高温耐酸化性、耐熱塑性変形性を損なうことなく、すぐれた高温靭性、高温強度を具備したあたかも一つの層であるかのように作用するが、薄層A、薄層Bの層厚が0.1μmを超えると、薄層Aの靭性不足、強度不足が、また、薄層Bの耐摩耗性不足が顕在化する。
    また、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる層(上部層)は、その合計層厚が1μm未満ではすぐれた特性を発揮することはできず、また、合計層厚が10μmを超えると、チッピング、 欠損を発生しやすくなるので、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる層(上部層)の合計層厚は、1〜10μm、望ましくは、1〜5μmと定めた。

    (d)下地層 工具基体表面上に直接、薄層A、薄層Bを交互に、例えば、物理蒸着で積層形成すると、層内には残留圧縮応力が発生し、このような硬質被覆層を設けた被覆工具を一段と厳しい切削加工条件下で使用すると、この圧縮残留応力によって、工具基体−硬質被覆層間の密着力が不安定になる。 そこで、このような場合には、工具基体表面と、交互積層構造の硬質被覆層との間の付着強度をより高めておく必要があるが、そのための手段としては、工具基体表面に下地層を形成し、付着強度を高めることが有効である。 特に、請求項2、3にかかるこの発明では、硬質被覆層を、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる上部層と、該上部層と工具基体表面との間に介在形成された下地層とから形成し、かつ、下地層を、0.5〜10μmの層厚を有し、薄層A或いは薄層Bと同様な組成のものとして形成することによって、工具基体−硬質被覆層間の密着力が改善され、一段と厳しい切削条件下で使用された場合であっても、硬質被覆層の剥離、欠落を生じることなく、安定した切削を行えることを確認している。
    なお、下地層の層厚が0.5μm未満では、密着力向上効果が得られず、一方、層厚が10μmを超えると、残留圧縮応力の蓄積により、クラックが発生しやすくなり安定した密着力を確保できなくなることから、下地層の層厚は、0.5〜10μm、望ましくは、2〜6μmと定めた。

    (e)工具基体被覆工具の工具基体としては、WC基超硬合金、TiCN基サーメット、高速度工具鋼(ハイス)等、従来から知られている各種の基体を用いることができる。
    このような各種工具基体に、例えば、物理蒸着で硬質被覆層を形成するが、基体−硬質被覆層間での密着強度をより高めるためには、工具基体の表面粗度を、JISRz1.6μm以下としておくことが望ましい。
    なお、この発明では、被覆工具の最表面に、使用、未使用等の識別を目的として、例えば、TiN層(金色)等の色付け層を設けることもできるが、その厚さは0.5μm以下で十分である。

    この発明の表面被覆切削工具は、硬質被覆層が、少なくとも、(Al,Cr,Si)N層からなる薄層Aと、(Al,Ti,Si)N層からなる薄層Bの交互積層構造として構成されていることによって、すぐれた高温硬さ、高温靭性、高温強度、耐熱塑性変形性を備え、あるいは、下部層として、薄層Aあるいは薄層Bと同様な組成の下地層をさらに設けることによって、付着強度も向上することから、特に高熱発生を伴い、かつ、切刃に対して大きな衝撃的・機械的負荷がかかる高速歯切加工、高速ミーリング加工、高速ドリル加工でも、硬質被覆層がすぐれた高温硬さ、高温靭性、高温強度、耐熱塑性変形性を発揮し、この結果、チッピング、欠損、偏摩耗、剥離の発生はなく、すぐれた耐欠損性およびすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するものである。

    つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。

    材質がJIS・SKH51および同SKH55の高速度工具鋼からなる直径:90mm×長さ:130mmの寸法をもった素材から、機械加工にて外径:85mm×長さ:100mmの全体寸法をもち、かつ4条左捩れ×16溝の形状をもった図3に概略斜視図で示されるハイス歯切工具本体基体(ソリッドホブ)を製造した。

    (a)ついで、上記の2種の材質のハイス歯切工具本体基体(ソリッドホブ)のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図1に示されるアークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、一方側のカソード電極(蒸発源)として、それぞれ表1に示される目標組成に対応した成分組成をもった薄層A形成用Al−Cr−Si合金、他方側のカソード電極(蒸発源)として、同じくそれぞれ表1に示される目標組成に対応した成分組成をもった薄層B形成用Al−Ti−Si合金を前記回転テーブルを挟んで対向配置する(2種のカソード電極の場合には、薄層A或いは薄層B形成用カソード電極の一方を、下地層形成用カソード電極として兼用することができる。なお、下地層形成用の専用カソード電極として、3番目の電極を別途も受けることも勿論可能である)。
    (b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を400℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する歯切工具本体基体に−800Vの直流バイアス電圧を印加し、かつボンバード洗浄用電極(例えば、薄層A形成用Al−Cr−Si合金)とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって歯切工具本体基体表面をボンバード洗浄する。
    (c)装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する歯切工具本体基体に−35〜−45Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記薄層A形成用Al−Cr−Si合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記ハイス歯切工具本体基体の表面に、表1に示される目標組成および目標層厚の下地層(例えば、薄層A、薄層Bのいずれかと同様な組成であっても可)を蒸着形成する。 なお、下地層を形成しない場合には、上記(c)の工程は当然不要となる。
    (d)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する歯切工具本体基体に−25〜−35Vの直流バイアス電圧を印加した状態で、薄層B形成用Al−Ti−Si合金のカソード電極とアノード電極との間に50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記歯切工具本体基体上の下地層上に所定層厚の薄層Bを形成し、前記薄層B形成後、アーク放電を停止し、代って前記薄層A形成用Al−Cr−Si合金のカソード電極とアノード電極間に同じく50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、所定層厚の薄層Aを形成した後、アーク放電を停止し(下地層が薄層Bと同様な組成の層であれば、薄層Aの形成から開始してもよい)、再び前記薄層B形成用Al−Ti−Si合金のカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Bの形成と、前記薄層A形成用Al−Cr−Si合金のカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Aの形成を交互に繰り返し行う。
    上記(a)〜(d)の手順により、前記ハイス歯切工具本体基体の表面に、層厚方向に沿って表1に示される目標組成および目標層厚の下地層、同じく表1に示される目標組成および目標層厚の薄層Aと薄層Bの交互積層からなる上部層を蒸着形成することにより、本発明被覆ハイス歯切工具1〜8をそれぞれ製造した。
    なお、本発明被覆ハイス歯切工具1、5については、下地層を設けていない。

    また、比較の目的で、上記の2種類の材質のハイス歯切工具本体基体を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、それぞれ図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、カソード電極(蒸発源)として、それぞれ表2に示される目標組成に対応した成分組成をもったAl−Cr−Si合金(Al−Ti−Si合金)を装着し、まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を400℃に加熱した後、前記歯切工具本体基体に−800Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記Al−Cr−Si合金(あるいはAl−Ti−Si合金)とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって歯切工具本体基体表面を前記Al−Cr−Si合金(あるいはAl−Ti−Si合金)でボンバード洗浄し、ついで装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記歯切工具本体基体に印加するバイアス電圧を−35〜−45Vに下げて、前記Al−Cr−Si合金(あるいはAl−Ti−Si合金)のカソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、もって前記ハイス歯切工具本体基体の表面に、表2に示される目標組成および目標層厚の単一相構造を有する(Al,Cr,Si)N層からなる硬質被覆層(或いは、表2に示される目標組成および目標層厚の単一相構造を有する(Al,Ti,Si)N層)からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、被覆ハイス歯切工具1〜8(以下、比較被覆ハイス歯切工具1〜8と云う)をそれぞれ製造した。

    つぎに、上記の本発明被覆ハイス歯切工具1〜8および比較被覆ハイス歯切工具1〜8を用いて、材質がJIS・SCr420Hの被削材に対して、
    モジュール:1.75、 圧力:17.5度、 歯数:48、 ねじれ角:25度左捩れ、 歯幅:50mmの寸法および形状をもった歯車の加工を、
    切削速度(回転速度): 250 m/min、
    送り: 2.5 mm/rev、
    加工形態:クライム、シフトなし、ドライ(エアーブロー)、
    の条件で高速歯切加工(なお、上記被削材からなる歯車の加工の場合の切削速度は、通常200m/min)で行い、
    逃げ面摩耗幅が 0.2 mmに至るまでの歯車加工数を測定した。
    この測定結果を表1,2それぞれに示した。

    また、ハイス歯切工具本体として、同じく材質がJIS・SKH51および同SKH55の高速度工具鋼からなる外径:105mm×厚さ:22mmの寸法をもった素材から、機械加工にてピッチ円直径:100mm×厚さ:18mmの全体寸法をもち、かつカッタ歯数:50の形状をもった図4に概略斜視図で示されるディスク型ピニオンカッタ本体基体(JIS・B・4356記載の100形)を製造した。

    ついで、上記のハイス歯切工具本体(ピニオンカッタ)基体の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、層厚方向に沿って表1に示される目標組成および目標層厚の下地層、同じく表1に示される目標組成および目標層厚の薄層Aと薄層Bの交互積層からなる上部層を蒸着形成することにより、本発明被覆ハイス歯切工具9〜16をそれぞれ製造した。
    なお、本発明被覆ハイス歯切工具9、13については、下地層を設けていない。

    また、比較の目的で、上記のハイス歯切工具本体(ピニオンカッタ)基体の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、層厚方向に沿って表2に示される目標組成および目標層厚の単一相構造を有する(Al,Cr,Si)N層からなる硬質被覆層(或いは、表2に示される目標組成および目標層厚の単一相構造を有する(Al,Ti,Si)N層)を蒸着することにより、被覆歯切工具9〜16(以下、比較被覆ハイス歯切工具9〜16と云う)をそれぞれ製造した。

    つぎに、上記の本発明被覆ハイス歯切工具9〜16および比較被覆ハイス歯切工具9〜16を用いて、材質がJIS・SCr420Hの被削材に対して、
    モジュール: 2、 圧力角: 20度、 歯数: 15、 歯幅: 22.5mmの寸法および形状をもった歯車の加工を、
    ストローク数: 1200 ストローク/min、
    円周送り: 0.3 mm/ストローク、
    半径送り: 0.03 mm/ストローク、
    の条件で高速歯切加工(なお、上記被削材からなる歯車の加工の場合のストローク数は、通常800ストローク/min)で行い、
    逃げ面摩耗幅が0.2mmに至るまでの歯車加工数を測定した。
    この測定結果を表1,2にそれぞれ示した。
    なお、表1、2、4〜9では、目標組成として、Al成分、Cr成分、Ti成分およびSi成分についての含有割合を原子比で示している。

    本発明被覆ハイス歯切工具1〜16の硬質被覆層を構成する下地層、薄層Aおよび薄層B、さらに、比較被覆ハイス歯切工具1〜16の硬質被覆層の組成を、透過型電子顕微鏡を用いてのエネルギー分散型X線分析法により測定したところ、それぞれ目標組成と実質的に同じ組成を示した。
    また、上記の硬質被覆層の各構成層の層厚を透過型電子顕微鏡により断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。

    表1,2に示される結果から、本発明被覆ハイス歯切工具の硬質被覆層は、薄層Aと薄層Bの交互積層あるいはさらに下地層とで構成され、硬質被覆層がすぐれた高温硬さ、耐熱塑性変形性とともに、すぐれた高温靭性、高温強度を兼ね備えたものであるので、高い発熱を伴い、かつ、大きな衝撃的・機械的負荷がかかる高速歯切加工条件で行なった場合にも、チッピング・欠損の発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、硬質被覆層が単一相構造の(Al,Cr,Si)N層、あるいは、(Al,Ti,Si)N層からなる比較被覆ハイス歯切工具は、前記高速歯切加工条件では、特に靭性不足で欠損、チッピングが発生したり、あるいは、耐摩耗性が劣るため、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。

    原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr 32粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C[質量比で、TiC/WC=50/50]粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表3に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が8mm、13mm、および26mmの3種の超硬基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、表3に示される組合せで、切刃部の直径×長さがそれぞれ6mm×13mm、10mm×22mm、および20mm×45mmの寸法、並びにいずれもねじれ角30度の4枚刃スクエア形状をもったWC基超硬合金製の超硬エンドミル1〜11をそれぞれ製造した。

    ついで、これらの超硬エンドミル1〜8の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、表4に示される目標組成および目標層厚の下部層と、同じく層厚方向に沿って表4に示される目標組成および目標層厚の薄層Aと薄層Bの交互積層からなる上部層を蒸着形成することにより、本発明表面被覆切削工具としての本発明表面被覆超硬製エンドミル(以下、本発明被覆超硬エンドミルと云う)1〜11を製造した。
    なお、本発明被覆超硬エンドミル1、5、9については、下地層を設けていない。

    また、比較の目的で、上記の超硬エンドミル1〜8の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、同じく表5に示される目標組成および目標層厚の単一相構造を有する硬質被覆層を蒸着することにより、比較表面被覆超硬製エンドミル(以下、比較被覆超硬エンドミルと云う)1〜11を製造した。

    (a)つぎに、上記本発明被覆超硬エンドミル1〜11および比較被覆超硬エンドミル1〜11のうち、
    (a1)本発明被覆超硬エンドミル1〜4および比較被覆超硬エンドミル1〜4については、
    被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SKD61の板材、
    切削速度: 150 m/min. 、
    溝深さ(切り込み): 1.0 mm、
    テーブル送り: 1000 mm/分、
    の条件での、金型鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は120m/min.)を行い、
    (a2)本発明被覆超硬エンドミル5〜8および比較被覆超硬エンドミル5〜8については、
    被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SCM440の板材、
    切削速度: 160 m/min. 、
    溝深さ(切り込み): 1.0 mm、
    テーブル送り: 1200 mm/分、
    の条件での、合金鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は100m/min.)を行い、
    (a3)本発明被覆超硬エンドミル9〜11および比較被覆超硬エンドミル9〜11については、
    被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SKD11の板材、
    切削速度: 100 m/min. 、
    溝深さ(切り込み): 1.0 mm、
    テーブル送り: 600 mm/分、
    の条件での、冷間金型用鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は50m/min.)を行い、
    上記(a1)〜(a3)のいずれの溝切削加工試験でも、切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定し、その測定結果を表4、表5にそれぞれ示した。

    直径が8mm、13mm、および26mmの3種の寸法の高速度工具鋼(JIS・SKH55)素材を用意し、この素材から、機械加工にて、切刃部の直径×長さがそれぞれ6mm×13mm、10mm×22mm、および20mm×45mmの寸法、並びにいずれもねじれ角30度の4枚刃スクエア形状をもったハイスエンドミル1〜9をそれぞれ製造した。
    なお、ハイスエンドミル1〜3、4〜6、7〜9の寸法・形状は、それぞれ、実施例3に記載の前記超硬エンドミル1〜4、5〜8、9〜11のそれと同じである。

    ついで、これらのハイスエンドミル1〜9の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、表6に示される目標組成および目標層厚の下部層と、同じく層厚方向に沿って表6に示される目標組成および目標層厚の薄層Aと薄層Bの交互積層からなる上部層を蒸着形成することにより、本発明表面被覆切削工具としての本発明表面被覆ハイス製エンドミル(以下、本発明被覆ハイスエンドミルと云う)1〜9をそれぞれ製造した。
    なお、本発明被覆ハイスエンドミル1、4、7については、下地層を設けていない。

    また、比較の目的で、上記のハイスエンドミル1〜9の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、同じく表7に示される目標組成および目標層厚の単一相構造を有する硬質被覆層を蒸着することにより、比較表面被覆ハイスエンドミル(以下、比較被覆ハイスエンドミルと云う)1〜9をそれぞれ製造した。

    (b)つぎに、本発明被覆ハイスエンドミル1〜9および比較被覆ハイスエンドミル1〜9のうち、
    (b1)本発明被覆ハイスエンドミル1〜3および比較被覆ハイスエンドミル1〜3については、
    被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・S55Cの板材、
    切削速度: 60 m/min. 、
    溝深さ(切り込み): 6 mm、
    テーブル送り: 400 mm/分、
    の条件での、炭素鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は、30m/min.)を行い、
    (b2)本発明被覆ハイスエンドミル4〜6および比較被覆ハイスエンドミル4〜6については、
    被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SKD61の板材、
    切削速度: 50 m/min. 、
    溝深さ(切り込み): 10 mm、
    テーブル送り: 400 mm/分、
    の条件での、金型鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は、25m/min.)を行い、
    (b3)本発明被覆ハイスエンドミル7〜9および比較被覆ハイスエンドミル7〜9については、
    被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SCM440の板材、
    切削速度: 50 m/min. 、
    溝深さ(切り込み): 20 mm、
    テーブル送り: 350 mm/分、
    の条件での、合金鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は、25m/min.)を行い、
    上記(b1)〜(b3)のいずれの溝切削加工試験でも、切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定し、その測定結果を表6、表7にそれぞれ示した。

    実施例3、実施例4における本発明被覆超硬エンドミル1〜11、本発明被覆ハイスエンドミル1〜9の硬質被覆層を構成する薄層Aおよび薄層Bの交互積層構造からなる上部層あるいはさらに下地層、さらに、比較被覆超硬エンドミル1〜11、比較被覆ハイスエンドミル1〜9の硬質被覆層の組成を、透過型電子顕微鏡を用いてのエネルギー分散型X線分析法により測定したところ、それぞれ目標組成と実質的に同じ組成を示した。
    また、上記の硬質被覆層の各構成層の層厚を透過型電子顕微鏡により断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。

    表4〜7に示される結果から、本発明被覆超硬エンドミル、本発明被覆ハイスエンドミルの硬質被覆層は、薄層Aと薄層Bの交互積層構造あるいはさらに下地層とで構成され、硬質被覆層がすぐれた高温硬さ、耐熱塑性変形性とともに、すぐれた高温靭性、高温強度を兼ね備えたものであるので、高い発熱を伴い、かつ、大きな衝撃的・機械的負荷がかかる高速ミーリング加工でも、チッピング・欠損の発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、硬質被覆層が単一相構造の(Al,Cr,Si)N層、あるいは、(Al,Ti,Si)N層からなる比較被覆超硬エンドミル、比較被覆ハイスエンドミルは、前記高速ミーリング加工条件では、特に靭性不足で欠損、チッピングが発生したり、あるいは、耐摩耗性が劣るため、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。

    上記の実施例3で製造した直径が6mm(超硬エンドミル用原料粉末の基体記号イ〜ハ)、10mm(超硬エンドミル用原料粉末の基体記号ニ〜ヘ)、および20mm(超硬エンドミル用原料粉末の基体記号ト、チ)の3種の丸棒焼結体を用い、この3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、いずれもねじれ角30度の4枚刃形状をもち、かつ、溝形成部の直径×長さがそれぞれ4mm×13mmのWC基超硬合金製の超硬ドリル1〜4、8mm×22mmのWC基超硬合金製の超硬ドリル5〜8、および16mm×45mmのWC基超硬合金製の超硬ドリル9〜11をそれぞれ製造した。

    ついで、これらの超硬ドリル1〜11の切刃に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、表8に示される目標組成および目標層厚の下部層と、同じく層厚方向に沿って表8に示される目標組成および目標層厚の薄層Aと薄層Bの交互積層からなる上部層を蒸着形成することにより、本発明表面被覆超硬製ドリル(以下、本発明被覆超硬ドリルと云う)1〜11をそれぞれ製造した。
    なお、本発明被覆超硬ドリル1、5、9については、下地層を設けていない。

    また、比較の目的で、上記の超硬ドリル1〜11の表面に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、同じく表9に示される目標組成および目標層厚の単一相構造を有する硬質被覆層を蒸着することにより、比較表面被覆超硬製ドリル(以下、比較被覆超硬ドリルと云う)1〜11をそれぞれ製造した。

    (c)つぎに、上記本発明被覆超硬ドリル1〜11および比較被覆超硬ドリル1〜11のうち、
    (c1)本発明被覆超硬ドリル1〜4および比較被覆超硬ドリル1〜4については、
    被削材−平面:100mm×250、厚さ:50mmの寸法のJIS・SKD61の板材 切削速度: 50 m/min. 、
    送り: 0.18 mm/rev、
    穴深さ: 10 mm、
    の条件での、熱間金型用合金工具鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は、35m/min.)を行い、
    (c2)本発明被覆超硬ドリル5〜8および比較被覆超硬ドリル5〜8については、
    被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SCM440の板材、
    切削速度: 85 m/min. 、
    送り: 0.3 mm/rev、
    穴深さ: 20 mm、
    の条件での、クロムモリブデン鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は、60m/min.)を行い、
    (c3)本発明被覆超硬ドリル9〜11および比較被覆超硬ドリル9〜11については、
    被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・S55Cの板材、
    切削速度: 110 m/min. 、
    送り: 0.3 mm/rev、
    穴深さ: 40 mm、
    の条件での、機械構造用炭素鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は、80m/min.)を行い、
    上記(c1)〜(c3)のいずれの湿式高速穴あけ切削加工試験(溶性切削油使用)でも、先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定し、その測定結果を表8、表9にそれぞれ示した。

    この結果得られた本発明被覆超硬ドリル1〜11の硬質被覆層を構成する薄層Aおよび薄層Bの交互積層構造からなる上部層あるいはさらに下地層、さらに、比較被覆超硬ドリル1〜11の硬質被覆層の組成を、透過型電子顕微鏡を用いてのエネルギー分散型X線分析法により測定したところ、それぞれ目標組成と実質的に同じ組成を示した。
    また、上記の硬質被覆層の各構成層の層厚を透過型電子顕微鏡により断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。

    表8、表9に示される結果から、本発明被覆超硬ドリルの硬質被覆層は、薄層Aと薄層Bの交互積層構造あるいはさらに下地層とで構成され、硬質被覆層がすぐれた高温硬さ、耐熱塑性変形性とともに、すぐれた高温靭性、高温強度を兼ね備えたものであるので、高い発熱を伴い、かつ、大きな衝撃的・機械的負荷がかかる高速ドリル加工でも、チッピング・欠損の発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、硬質被覆層が単一相構造の(Al,Cr,Si)N層、あるいは、(Al,Ti,Si)N層からなる比較被覆超硬ドリルは、前記高速ドリル加工条件では、特に靭性不足で欠損、チッピングが発生したり、あるいは、耐摩耗性が劣るため、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。

    上記実施例1〜実施例5からも明らかなように、この発明の表面被覆切削工具(例えば、本発明被覆ハイス歯切工具、本発明被覆超硬エンドミル、本発明被覆ハイスエンドミル、本発明被覆超硬ドリル)は、各種の鋼や鋳鉄などの通常の切削条件での切削加工は勿論のこと、特に高い発熱を伴い、かつ、大きな衝撃的・機械的負荷がかかる高速歯切加工、高速ミーリング加工、高速ドリル加工でも、すぐれた耐欠損性、耐摩耗性を発揮し、長期に亘ってすぐれた切削性能を示すものであるから、切削加工装置の高性能化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。

    本発明の被覆工具の硬質被覆層を形成するのに用いたアークイオンプレーティング装置を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略正面図である。

    通常のアークイオンプレーティング装置の概略説明図である。

    ソリッドホブの概略斜視図である。

    ディスク型ピニオンカッタの概略斜視図である。

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