【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、流体により潤滑作用を行わせる滑り軸受に溝を成形するための工具に関する。 【0002】 【従来の技術及び解決しようとする課題】流体により潤滑作用を行わせる滑り軸受における潤滑流体に動圧を発生させるための溝を成形する手段としては、従来例えば、特開昭54−845155号公報に示されるように鋼球とケージを用いるものや、鋼球をシャフトへ半突出状態で埋め込んだ工具を成形しようとする軸受孔内に押し込むものなどが知られている。 【0003】ところが、これらの手段では、鋼球により軸受の周面部に生ずる塑性変形によって溝を成形するので、図6に示されるように、弓形状以外の溝断面形状は得られず、而も、塑性変形によるため、溝aの両側に、 軸受の機能に対し好ましくない盛り上がりbが発生してしまう。 【0004】また、鋼球を半突出状態でシャフト等に埋め込むものの場合、径方向寸法精度を高めることが比較的困難であると共に、小径の軸受孔に溝を成形するための工具においては鋼球を埋め込む対象となるシャフト等の径が小さくなるため、鋼球を埋め込むこと自体が困難となるので、溝を設けることができる軸受孔の内径に限界を有する。 【0005】本発明は、従来技術に存した上記のような問題点に鑑み行われたものであって、その目的とするところは、溝の両側に盛り上がりを生じさせることなく、 溝の断面形状を矩形断面等の所望の好適な形状に成形することができると共に、小径の軸受孔や軸体に溝を成形するための工具を含めて、所望数の切削突部を良好な寸法精度で容易に設けることができる溝付き軸受用溝成形工具を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0006】上記目的を達成するために、本発明の溝付き軸受用溝成形工具は、軸受孔内に挿入して軸受孔との間で軸線方向及び周方向に相対動させることにより、軸受孔の内周部に溝を成形するための工具であって、軸受孔内に挿入されることにより軸線を一致させるためのガイド部が外周部に設けられると共に、軸受に設けるべき溝数と同数又はその整数分の1の数の切削突部が径方向外方に突設され、切削突部の径方向外端の外周部のうち、少なくとも溝を切削すべき向きに相対する部分に切刃を有するものとしている。 【0007】また、本発明の別の溝付き軸受用溝成形工具は、軸体に外嵌して軸体との間で軸線方向及び周方向に相対動させることにより、軸体の外周部に溝を成形するための工具であって、軸体に外嵌されることにより軸線を一致させるためのガイド部が内周部に設けられると共に、軸体に設けるべき溝数と同数又はその整数分の1 の数の切削突部が径方向内方に突設され、切削突部の径方向内端の外周部のうち、少なくとも溝を切削すべき向きに相対する部分に切刃を有するものとしている。 【0008】 【作用】軸受孔内に請求項1の工具を挿入すると、工具の外周部に設けられたガイド部によって軸受孔と工具の軸線が一致する。 【0009】工具の径方向外方に突設された切削突部は、その径方向外端の外周部のうち、少なくとも溝を切削すべき向きに相対する部分に切刃を有するので、軸受孔との間で軸線方向及び周方向に相対動させると、この切刃による切削によって、軸受孔の内周部に溝を成形することができる。 切削突部の数が軸受に設けるべき溝数の整数分の1であれば、角度を変えて切削工程をその数だけ繰り返せば、所望数の溝が得られる。 【0010】この場合の溝は切刃による切削によって成形されるので、溝の両側に盛り上がりを生じさせることなく、溝の断面形状を矩形断面等の所望の形状に成形することができる。 【0011】切削突部は、削り出しや、切削突部用棒状部材の嵌合固定等により設けることができる。 【0012】軸体に請求項2の工具を外嵌すると、工具の内周部に設けられたガイド部によって軸体と工具の軸線が一致する。 【0013】工具の径方向内方に突設された切削突部は、その径方向内端の外周部のうち、少なくとも溝を切削すべき向きに相対する部分に切刃を有するので、軸体との間で軸線方向及び周方向に相対動させると、この切刃による切削によって、軸体の外周部に溝を成形することができる。 切削突部の数が軸受に設けるべき溝数の整数分の1であれば、角度を変えて切削工程をその数だけ繰り返せば、所望数の溝が得られる。 【0014】この場合の溝は切刃による切削によって成形されるので、溝の両側に盛り上がりを生じさせることなく、溝の断面形状を矩形断面等の所望の形状に成形することができる。 【0015】切削突部は、削り出しや、切削突部用棒状部材の嵌合固定等により設けることができる。 【0016】 【実施例】本発明の実施例を、図面を参照しつつ説明する。 図1は、本発明の1実施例としての溝付き軸受用溝成形工具の要部正面図である。 【0017】この工具10は、超硬合金製であり、上部は、溝成形の際に工作機械等によって保持される大径の柄部12、下部は、軸受孔内に挿入される小径の略円柱形状の挿入部14である。 【0018】挿入部14は、その下端から上方に向かって、先細部16、第1ガイド部18、切削突部設定部2 0及び第2ガイド部22を有する。 【0019】先細部16は、軸受孔に対する挿入部14 の挿入を円滑化するために、下方に向かって縮径する円錐台形状に形成されている。 【0020】第1ガイド部18及び第2ガイド部22 は、軸受孔内に挿入されることにより、軸受孔と工具1 0の軸線が一致するよう案内するものであって、軸受孔の内径にほぼ等しい(厳密には僅かに小さい)一定の外径を有する。 【0021】切削突部設定部20の上下中間に位置する円周上の一定中心角(この実施例では45度)毎に、軸受に設けるべき溝数(この実施例では8)と同数の切削突部24が径方向外方に突設されている。 切削突部設定部20の残部の外径は、第1ガイド部18及び第2ガイド部22の外径よりもやや小さい。 そのため、その残部の外周面の仕上げは、精密である必要はない。 【0022】切削突部24の断面形状は、軸線に対する各辺の角度が55度である菱形が採用されており、その切削突部24の径方向外端における下側の2辺に、それぞれ切刃26・27が設けられている。 【0023】このような切削突部24は、切削突部設定部20の外径を予め第1ガイド部18及び第2ガイド部22の外径よりも大きくしておき、図1における2点鎖線で示される切削経路28のように、軸線に対し溝の傾きと同一角度、実施例では55度の角度で菱形部分を残して切削すれば、比較的容易に設けることができる。 切削突部24をこのようにして削り出しにより設ければ、 小径の軸受孔を成形するための工具10を含めて、所望数の切削突部24を良好な寸法精度で比較的容易に設けることができる。 【0024】なお、工具10の材料としては、少なくとも切削突部24の切刃の部分を、高硬度材料により形成する必要があるが、具体的には、超硬合金のほか、セラミックス、サーメット等を適宜採用し得る。 【0025】図2は、この工具10を用いてヘリングボーン溝30が成形された軸受32の要部についての模式的断面図である。 軸受孔34のうち溝を成形すべき部分、すなわち溝成形部36の内径は、第1ガイド部18 及び第2ガイド部22の外径にほぼ等しく、他の部分の内径よりもやや小さい。 【0026】この工具10を用いて軸受32にヘリングボーン溝30を成形するには、例えば次のように行うことができる。 【0027】先ず、工具10の柄部12を工作機械により保持し、軸受32も他の装置により保持する。 そして工具10と軸受32の軸線を合わせ、工具10が軸線に対し溝成形角度(55度の角度)で螺旋を描くように下方送りと反時計回り回転(上方から見下ろした場合)を同期させつつ、先細部16から順に軸受孔34に挿入部14を挿入する。 【0028】第1ガイド部18が溝成形部36に挿入されると、軸受孔34と工具10の軸線が一致する。 そして切削突部24が溝成形部36にさしかかると、各切削突部24の右下の切刃27が、下方に向かって反時計回り螺旋状に溝を切削する。 切削突部24が溝成形部36 の上下中央位置に達した際に、工具10の回転方向を反転させ、工具10が軸線に対し溝成形角度(55度の角度)で螺旋を描くように下方送りと時計回り回転(上方から見下ろした場合)を同期させるようにすると、各切削突部24の左下の切刃26が、下方に向かって時計回り螺旋状に溝を切削することとなる。 この際、第2ガイド部22が溝成形部36に挿入され、軸受孔34と工具10の軸線の一致が維持される。 切削突部24の切削によるため、溝30の両側に盛り上がりを生じさせることなく、溝30の断面形状を、弓形よりも動圧発生効率の良い矩形断面に成形することができる。 切削突部24が溝成形部36の下方に達した後、工具10を逆送り及び逆回転させて同経路を逆に移動させれば、工具10が軸受孔34から離脱する。 【0029】このようにして、軸線に対し溝成形角度(55度の角度)で螺旋を描き、上下中央位置において反転する45度中心角毎の8本の溝からなるヘリングボーン溝30が得られる。 勿論、送りや回転は、工具10 及び軸受32のうち何れについて行っても良い。 【0030】なお、上記実施例では、8個の切削突部2 4を用いて8本のヘリングボーン溝を成形しているが、 成形しようとする溝数と同数あるいは整数分の1の切削突部24を設けることにより、任意の数の溝を成形できる。 また、切削突部24の径方向外端における4辺にそれぞれ切刃を設ければ、上記のように工具10を下方に送って溝を切削した後、工具10を22.5度回転させ、工具10を上記と逆に送りつつ逆に回転させれば、 工具10を上方へ戻す際に上側の2つの切刃により更に8本の溝を切削して22.5度中心角毎の16本の溝を得ることが可能となる(但し、この場合は、切削突部2 4のサイズを適切なものとする必要があることは云うまでもない。 )。 【0031】一方、上記のように一方(下方)の送りのみにより溝を切削する場合は、右下及び左下の切刃を有しているのであれば切削突部の断面形状は必ずしも菱形にすることを要しない。 また、一方向のみのスパイラル溝(例えば下方に向かって反時計回り螺旋状)を設けるものであれば、切刃は、溝を切削すべき向きに相対する一か所(例えば、上記切削突部24における切刃27のみ)でもよい。 【0032】図3は、本発明の別の実施例としての溝付き軸受用溝成形工具の要部正面図である。 【0033】この工具40は、前記実施例の工具10における切削突部24の断面形状を円形に変え、その切削突部42の径方向外端における全周に、切刃を設けたものである。 このように構成すると、切削すべき溝の方向が限定されず、使用上の制約が少ない。 また、断面形状を円形に近付けて方向性をできるだけ排除する意味で、 切削突部の断面形状を正8角形等の多角形とし、その切削突部の径方向外端における全辺に切刃を設けることもできる。 【0034】図4は、本発明の更に別の実施例としての溝付き軸受用溝成形工具の破砕平面図、図5は、この工具50を用いてヘリングボーン溝60が成形された軸体62の要部についての模式的正面図である。 軸体62のうち溝を成形すべき部分、すなわち溝成形部64の外径は、他の部分の外径よりもやや大きい。 【0035】この工具50は、溝成形部64の外径にほぼ等しい(厳密には僅かに大きい)一定の内径を有する円筒体52における一定円周部に、45度中心角毎に径方向の嵌合孔54を設け、各嵌合孔54に円柱形状の切削部材56(切削突部用棒状部材)を嵌合固定することによって、円筒体52の内方に突出した各切削部材56 の内端を切削突部58とするものであり、各切削突部5 8の径方向内端における全周に切刃が設けられている。 切削部材56が設けられた環状部分以外の円筒体52の内周部がガイド部であり、軸体62の溝成形部64にガイド部が外嵌されることにより、軸体60と工具50の軸線が一致する。 切削突部58は、円柱形状の切削部材56の嵌合固定等により設けることができるので、小径の軸体に溝を成形するための工具を含めて、所望数の切削突部を良好な寸法精度で比較的容易に設けることができる。 【0036】工具50を工作機械により保持し、軸体6 0も他の装置により保持して工具50と軸体60の軸線を合わせ、工具50が軸線に対し溝成形角度で螺旋を描くように時計回りに回転(上方から見下ろした場合)させつつ下方に送り、溝成形部64の上下中央位置にて回転方向を逆転させると、図5に示されるようなヘリングボーン溝60が成形される。 【0037】なお、以上の実施例についての記述における上下位置関係は、単に図に基づいた説明の便宜のためのものであって、実際の使用状態等を限定するものではない。 【0038】 【発明の効果】本発明の溝付き軸受用溝成形工具では、 切刃による切削によって溝が成形されるので、従来のように半突出状態の鋼球を利用した塑性変形により溝を成形するのと異なり、溝の両側に盛り上がりを生じさせることなく、溝の断面形状を矩形断面等の所望の好適な形状に成形することができる。 【0039】切削突部は、削り出しや、切削突部用棒状部材の嵌合固定等により設けることができるので、従来の、鋼球を半突出状態で埋め込む場合における径方向寸法精度を高めることの困難性や、小径の軸受孔に溝を成形するための小径の工具に鋼球を埋め込むことの困難性が回避される。 そのため、小径の軸受孔や軸体に溝を成形するための工具を含めて、所望数の切削突部を良好な寸法精度で比較的容易に設けることができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】溝付き軸受用溝成形工具の要部正面図である。 【図2】ヘリングボーン溝が成形された軸受の要部についての模式的断面図である。 【図3】別の実施例の溝付き軸受用溝成形工具の要部正面図である。 【図4】更に別の実施例としての溝付き軸受用溝成形工具の破砕平面図である。 【図5】ヘリングボーン溝が成形された軸体の要部についての模式的正面図である。 【図6】従来の溝部の要部断面図である。 【符合の説明】 12 柄部 34 軸受孔 14 挿入部 18 第1ガイド部 22 第2ガイド部 34 軸受孔 10 工具 20 切削突部設定部 32 軸受 24 切削突部 26 切刃 27 切刃 |