【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、フライスカッタに係り、詳しくは、被切削材の切削時において耐摩耗性を向上させることができるフライスカッタに関する。 【0002】 【従来の技術】従来、被切削材の切削を行うフライスカッタとして、例えば、図4に示すような平フライス(外周フライス)や図6に示すようなエンドミルが知られている。 ここで、図4は従来の平フライスの斜視図であり、図6は従来のエンドミルの斜視図である。 図4に示すように、外周フライスの一種である平フライス110 は取付孔115を回転中心とした本体117を備え、この本体117は円柱形状の基部111と、この基部11 1から外周方向へ突出する複数の刃体112とによって構成されている。 この刃体112の各々の先端には、回転方向(図4中の矢印120方向)側に硬質チップ11 3が、例えばろう付けによって接合されている。 そして、硬質チップ113の外周部113aの概ね全域によって被切削材の切削が行われ、隣合う刃体間に形成される溝部114から、被切削材の切削により生じる切り屑が排出される。 【0003】一方、図6に示すように、このエンドミル130はシャンク(軸部)135を回転中心とした本体137を備え、この本体137は円柱形状の基部131 と、この基部131から外周方向へ突出する複数の刃体132とによって構成されている。 この刃体132の各々の先端には、回転方向(図6中の矢印140方向)側に硬質チップ133が、例えばろう付けによって接合されている。 そして、硬質チップ133の反シャンク側の側端部133dによって被切削材の切削が行われ、隣合う刃体間に形成される溝部134から、被切削材の切削により生じる切り屑が排出される。 なお、一般に、硬質チップ113,133は超硬合金や多結晶ダイヤモンド焼結体等からなり、基部111,131や刃体112, 132は、硬質チップ113,133よりも硬度が低い工具鋼等の鋼材によって構成されている。 【0004】ところで、上記従来の平フライス110やエンドミル130が装着された加工機を用いて、比較的硬質の被切削材、例えば、木毛セメント板、ロックウール板、窯業系建材、ベークライト等の硬質樹脂、ガラス繊維含有樹脂材などを切削(粉砕を含む)する場合がある。 平フライス110を用いて切削を行う場合には、硬質チップ113の外周部113aによって加工を行うため、図5に示すように本体117の外周逃げ面119a のヒール部118近傍あるいは溝部114を構成する溝部構成面119bが部分的に著しく摩耗するという問題がある。 一方、エンドミル130を用いて切削を行う場合には、硬質チップ133の反シャンク側の側端部13 3dによって加工を行うため、図7に示すように本体1 37の外周逃げ面139aのヒール部138近傍、または溝部を構成する溝部構成面139b、これらのうち特に被切削材側が局部的に摩耗するという問題がある。 これは、平フライス110やエンドミル130を用いて比較的硬質の被切削材を切削や粉砕する際に、刃体11 2,132の外周部に位置する硬質チップ113,13 3によって切り屑が発生し、この切り屑が流出する過程で切り屑よりも硬度が低い本体117,137の表面が部分的に擦り減り、局部的に摩耗することによるものである。 このため、本体117,137の剛性が低下し、 平フライス110やエンドミル130自体を使用できなくなることがあった。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、比較的硬質の被切削材を切削する際に発生する本体の表面の局部的な摩耗を抑えることができれば、平フライス110 やエンドミル130の寿命を延ばすことができる等のメリットが大きいことから、本発明者らは刃体に硬質チップを有するフライスカッタについて鋭意検討した。 その結果、本発明者らは、従来の平フライス110やエンドミル130を改良することで、比較的硬質の被切削材を切削する場合でも本体の表面が局部的に摩耗するのを極力抑えることができる事を見出すことに成功した。 【0006】そこで、本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、被切削材を切削する場合の耐摩耗性を向上させることができるフライスカッタを提供することである。 【0007】 【課題を解決するための手段】前記課題を解決するために、本発明のフライスカッタは請求項1〜3に記載の通りに構成されている。 ここで、各請求項および発明の詳細な説明に記載した用語については、特に限定的要件を加えない限り以下のように解釈する。 (1)「切削」には、被切削材を削り出す加工以外に、 切削用チップによって被切削材を粉砕する加工も含む。 【0008】請求項1に記載のフライスカッタは、本体のうちの少なくとも被切削材に対向する面、すなわち、 被切削材と相対的に回転する面(例えば、最も摩耗が懸念される範囲)に、溶射によって形成された被覆層を備えている。 そして、この被覆層は本体よりも硬質となるように構成されている。 従って、請求項1に記載のフライスカッタによれば、溶射被覆層を設けることで、被切削材を切削する際に発生する切り屑によって本体が局部的に摩耗するのを極力抑えることができる。 【0009】また、請求項2に記載のフライスカッタは、本体のうちの少なくとも外周逃げ面あるいは溝部構成面に被覆層が形成されている。 切削用チップの回転後方側の外周逃げ面と、刃体間の溝部を構成する溝部構成面は、いずれも被切削材に対向する面に形成されている。 すなわち、被覆層は、本体外周の切削用チップで被切削材の切削を行う際に発生する切り屑によって最も摩耗され易い箇所(外周逃げ面や溝部構成面)を被覆している。 従って、請求項2に記載のフライスカッタによれば、本体の外周逃げ面や溝部構成面が摩耗し易いフライスカッタ、例えば切削用チップの外周部で切削を行うタイプの平フライスにおいて、被切削材を切削する際に発生する切り屑によって本体が局部的に摩耗するのを極力抑えることができる。 【0010】また、請求項3に記載のフライスカッタは、切削用チップの側端部によって被切削材の切削を行うように構成されている。 そして、本体のうちの少なくとも外周逃げ面あるいは溝部構成面に加え、更に、被切削材側の刃体側面にも被覆層が形成されている。 すなわち、被覆層は、外周逃げ面あるいは溝部構成面以外に、 被切削材側の刃体側面も被覆している。 ここで、本構成は、切削用チップの側端部によって被切削材の切削を行うタイプのフライスカッタ、例えばエンドミルや正面フライスに用いられるのが好ましい。 エンドミルや正面フライスにおいては、本体の外周逃げ面あるいは溝部構成面に加え、切削時に被切削材に当接する刃体側面にも局部的な摩耗が発生し易い。 そこで、本体の外周逃げ面あるいは溝部構成面に加え、被切削材側の刃体側面にも被覆層を形成することで、切削用チップの側端部によって被切削材の切削を行うタイプのフライスカッタに対応することができる。 従って、請求項3に記載のフライスカッタによれば、切削用チップの側端部で被切削材の切削を行うタイプのフライスカッタ、例えばエンドミルや正面フライスにおいて、被切削材を切削する際に発生する切り屑によって本体が局部的に摩耗するのをより確実に抑えることができる。 【0011】 【発明の実施の形態】以下に、本発明のフライスカッタの実施の形態(第1および第2実施の形態)を図面を参照しながら説明する。 〔第1実施の形態〕まず、第1実施の形態は、本発明を外周フライスの一種である、いわゆる平フライスに適用したものであって、この平フライスの構成を図1および図2を参照しながら説明する。 なお、第1実施の形態では、切削用チップの外周部で切削を行うタイプの外周フライスのうち、特に平フライスについて説明する。 ここで、図1は平フライスの斜視図であり、図2は図1中のII−II線断面矢視図である。 【0012】図1に示すように、本発明におけるフライスカッタとしての平フライス10は、取付孔15を回転中心とした本体17を備えている。 この本体17は円柱形状の基部11と、この基部11から外周方向へ突出する複数(本実施の形態では4つ)の刃体12とによって構成されている。 この刃体12の各々の先端には、刃体12の回転方向(図1中の矢印20方向)側に硬質チップ13が、例えばろう付けによって接合されている。 また、硬質チップ13の外周部13aは刃体12の刃頂よりも若干外周側へ、硬質チップ13の側端部13bは刃体12の側端部よりも若干外側へ突出しており、硬質チップ13の内周端部13cは刃体12の刃底よりも若干外周側へずれている。 この硬質チップ13は超硬合金や多結晶ダイヤモンド焼結体等によって構成され、また本体17及び刃体12は、硬質チップ13よりも硬度が低い工具鋼等の鋼材によって構成されている。 そして、硬質チップ13の外周部13aの概ね全域によって被切削材の切削が行われ、隣合う刃体間に形成される溝部14 から、被切削材の切削により生じる切り屑が排出される。 なお、硬質チップ13が本発明における切削用チップに対応している。 【0013】本体17の外周(被切削材に対向する面) には、硬質チップ13の回転後方側の外周逃げ面19a と、刃体12間の溝部14を構成する溝部構成面19b とが形成されている。 そして、図1及び図2に示すように、本体17の外周表面の一部に、例えば、高速フレーム溶射法によって形成された被覆層16が設けられている。 被覆層16は、本体17のうちの少なくとも摩耗が最も懸念される箇所、本実施の形態では、外周逃げ面1 9aのヒール部18近傍および溝部構成面19bの両方(図1中の斜線で示す範囲)に形成されている。 なお、 この箇所が本発明の請求項2における「本体のうちの少なくとも外周逃げ面あるいは刃体間の溝部構成面」に対応している。 また、被覆層16を形成する箇所は、本体17の摩耗状況等必要に応じて種々設定することができる。 第1実施の形態では、本体17の外周側において、 外周逃げ面19aおよび溝部構成面19bの両方を被覆層16で被覆するように構成したが、例えば外周逃げ面19aと溝部構成面19bのうち、摩耗し難い側の被覆層を省略することもできる。 【0014】この被覆層16の溶射材料としては、例えば、化学組成がWC12Co(炭化タングステン+12 %コバルト)の超硬合金粉末(例えば、粒子径が11〜 40μm)が用いられている。 この硬質チップ13のろう付け強度、本体17の硬さや歪みについては、溶射時の熱によって特に不具合が生じないことは本発明者らが確認済みである。 なお、この高速フレーム溶射を行うための装置や方法等は既知の技術であるので詳細な説明は省略する。 【0015】また、本発明者らは、被覆層16を形成した平フライス10の耐摩耗性をより具体的にすべく、試験用フライス(平フライス10)及び比較用フライスの耐摩耗性試験を実施した。 本試験例では、被切削材としてガラス繊維混入樹脂材を、試験用フライスあるいは比較用フライスを装着した加工機によって削り出し(切削し)、各フライスの摩耗状態を比較した。 なお、比較用フライスとしては、試験用フライスの被覆層16と同一の箇所に、電着層(砥粒を電着して形成した砥粒層)を形成したものを用いた。 その結果、比較用フライスには溶射ほど本体に強固に付着した層が得られず、本実施の形態における被覆層16を備えた試験用フライス(平フライス10)に比べて十分な耐摩耗性は得られなかった。 これにより、本体に被覆層16を有していない比較用フライスに比べ、試験用フライス(平フライス10) の方が耐摩耗性が格段に高いことが確認された。 【0016】以上のように構成した第1実施の形態の平フライス10によれば、溶射によって被覆層16を設けることで被覆層を強固に付着させることができ、本体1 7の耐摩耗性を向上させ、被切削材を切削する際に発生する切り屑によって本体17が局部的に摩耗するのを極力抑えることができる。 特に、最も摩耗され易い外周逃げ面19aのヒール部18近傍および刃体間の溝部14 を構成する溝部構成面19bに被覆層16を形成したため、硬質チップ13の外周部13aで切削を行う平フライス10において、本体17の局部的な摩耗を防止するのに特に有効である。 【0017】〔第2実施の形態〕次に、第2実施の形態について説明する。 第2実施の形態は、本発明をいわゆるエンドミルに適用したものであって、このエンドミルの構成を図3を参照しながら説明する。 ここで、図3は本発明の第2実施の形態のエンドミルの斜視図である。 【0018】図3に示すように、本発明におけるフライスカッタとしてのエンドミル30は、シャンク(軸部) 35を回転中心とした本体37を備えている。 この本体37は円柱形状の基部31と、この基部31から外周方向へ突出する複数(本実施の形態では4つ)の刃体32 とによって構成されている。 この刃体32の各々の先端には、刃体32の回転方向(図3中の矢印40方向)側に硬質チップ33が、例えばろう付けによって接合されている。 また、硬質チップ33の外周部33aは刃体3 2の刃頂よりも若干外周側へ、硬質チップ33の側端部33bは刃体32の側端部よりも若干外側へ突出しており、硬質チップ33の内周端部33cは刃体32の刃底よりも若干外周側へずれている。 この硬質チップ33は超硬合金や多結晶ダイヤモンド焼結体等によって構成され、また本体37及び刃体32は、硬質チップ33よりも硬度が低い工具鋼等の鋼材によって構成されている。 そして、硬質チップ33の反シャンク側の側端部33d によって被切削材の切削が行われ、隣合う刃体間に形成される溝部34から、被切削材の切削により生じる切り屑が排出される。 なお、硬質チップ33が本発明における切削用チップに対応している。 【0019】本体37の外周には、硬質チップ13の回転後方側の外周逃げ面39aと、刃体32間の溝部34 を構成する溝部構成面39bが形成されている。 そして、図3に示すように、本体37の外周表面の一部に、 第1実施の形態の被覆層16と同様の高速フレーム溶射法によって形成された被覆層36が設けられている。 被覆層36は、本体37のうちの少なくとも摩耗が最も懸念される箇所、本実施の形態では、外周逃げ面39aのヒール部38近傍と、被切削材の刃体側面39c(被切削材に対向する面)の両方(図3中の斜線で示す範囲) に形成されている。 なお、この箇所が本発明の請求項3 でいう「本体のうちの少なくとも外周逃げ面あるいは溝部構成面、更に被切削材側の刃体側面」に対応している。 また、被覆層36を形成する箇所は、本体37の摩耗状況等必要に応じて種々設定することができる。 第2 実施の形態では、本体37の外周側において、外周逃げ面39aのヒール部38近傍のみを被覆層36で被覆するように構成したが、例えば溝部34間を構成する溝部構成面が更に摩耗する場合には、この溝部構成面も被覆層36で被覆するように構成することもできる。 【0020】以上のように構成した第2実施の形態のエンドミル30によれば、溶射によって被覆層36を設けることで被覆層を強固に付着させることができ、本体3 7の耐摩耗性を向上させ、被切削材を切削する際に発生する切り屑によって本体37が局部的に摩耗するのを極力抑えることができる。 特に、最も摩耗され易い外周逃げ面39aのヒール部38近傍と、被切削材側の刃体側面39cに被覆層36を形成したため、硬質チップ33 の反シャンク側の側端部33dで切削を行うエンドミル30において、本体37の局部的な摩耗を防止するのに特に有効である。 【0021】〔他の実施の形態〕なお、本発明は上記の実施の形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。 例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。 (A)上記した第1実施の形態では、外周逃げ面19a のヒール部18近傍および溝部構成面19bに被覆層1 6を形成し、第2実施の形態では、ヒール部38近傍と、刃体側面39cに被覆層36を形成する場合について記載したが、被覆層16,36を形成する箇所、被覆層16,36の形状(例えば、厚みや大きさ)等は、フライスカッタの構成、本体の摩耗状況、被複層の形成コスト等必要に応じて種々変更可能である。 例えば、外周逃げ面および溝部構成面を含む本体の外周全域に被覆層を設けることもできる。 【0022】(B)また、上記した本実施の形態では、 被切削材としてガラス繊維混入樹脂材を切削する場合について記載したが、その他各種の材料、例えば、ロックウール板、木毛セメント板、ベークライト等の硬質樹脂、窯業系建材等の切削あるいは粉砕を行う場合に本発明を適用することができる。 また、第1実施の形態では、平フライス10(フライスカッタ)を装着した加工機によって被切削材を削り出す場合について記載したが、被切削材を粉砕する場合に本発明のフライスカッタを適用することもできる。 【0023】(C)また、上記した本実施の形態では、 溶射材料として超硬合金を用いて被覆層16,36を形成する場合について記載したが、溶射材料は限定されない。 例えば、鉄基合金、ニッケル基合金、コバルト基合金、自溶合金等耐摩耗性を有する各種の溶射材料を用いることができる。 【0024】(D)また、上記した本実施の形態では、 被覆層16,36を高速フレーム溶射法によって形成する場合について記載したが、その他各種の溶射法、例えば爆発溶射法、プラズマ溶射法、アーク溶射法等によって被覆層16,36を形成することもできる。 【0025】(E)また、上記した第1実施の形態では、切削用チップの外周部で切削を行うタイプの外周フライスとして、平フライス10について記載したが、他の外周フライス、例えば総形フライス等に本発明を適用することができる。 また、上記した第2実施の形態では、切削用チップの側端部で切削を行うタイプのフライスカッタとして、エンドミル30について記載したが、 これ以外のフライスカッタ、例えばルータビット、正面フライス、ホールカッタ等に本発明を適用することができる。 【0026】 【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、 被切削材を切削する場合の耐摩耗性を向上させることができるフライスカッタを実現することができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の第1実施の形態の平フライスの斜視図である。 【図2】図1中のII−II線断面矢視図である。 【図3】本発明の第2実施の形態のエンドミルの斜視図である。 【図4】従来の平フライスの斜視図である。 【図5】従来の平フライスの斜視図であって、本体の表面が摩耗した状態を示している。 【図6】従来のエンドミルの斜視図である。 【図7】従来のエンドミルの斜視図であって、本体の表面が摩耗した状態を示している。 【符号の説明】 10…平フライス(外周フライス) 11,31…基部 12,32…刃体 13,33…硬質チップ 13a,33a…外周部 14,34…溝部 16,36…被覆層 17,37…本体 18,38…ヒール部 19a,39a…外周逃げ面 19b,39b…溝部構成面 30…エンドミル 33d…側端部 39c…刃体側面 |