表面被覆窒化素焼結体工具

申请号 JP2013073494 申请日 2013-03-29 公开(公告)号 JP2014195859A 公开(公告)日 2014-10-16
申请人 住友電工ハードメタル株式会社; Sumitomo Electric Hardmetal Corp; 发明人 OKAMURA KATSUMI; TSUKIHARA NOZOMI; SETOYAMA MAKOTO;
摘要 【課題】焼入鋼の加工等において、特に、低速で焼入鋼の加工等を行った場合において、前切れ刃部における境界摩耗を抑制し、被削材の面粗度を表面被覆窒化 硼 素焼結体工具の寿命判定基準とする高 精度 加工においても工具性能を向上させること。【解決手段】表面被覆窒化硼素焼結体工具は、少なくとも切れ刃部分が立方晶窒化硼素焼結体と立方晶窒化硼素焼結体の表面上に形成された被覆層とを含む。被覆層のB層は、組成の異なる2種以上の 薄膜 層が交互にそれぞれ1つ以上積層されてなる。薄膜層の1種であるB1薄膜層の厚さは、30nmよりも大きく200nm未満である。薄膜層の1種であってB1薄膜層とは異なるB2薄膜層は、組成の異なる2種以上の化合物層が交互にそれぞれ1つ以上積層されてなり、化合物層のそれぞれの厚さは、0.5nm以上30nm未満である。【選択図】図2
权利要求
  • 少なくとも切れ刃部分が立方晶窒化硼素焼結体と前記立方晶窒化硼素焼結体の表面上に形成された被覆層とを含む表面被覆窒化硼素焼結体工具であって、
    前記立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素を30体積%以上80体積%以下含み、元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素の窒化物、炭化物、硼化物、酸化物ならびにこれらの固溶体からなる群の中から選択された少なくとも1種の化合物とアルミニウム化合物と不可避不純物とを含む結合相をさらに含み、
    前記被覆層は、A層とB層とを含み、
    前記A層は、MLa za1 (Mは元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素、AlならびにSiの1種以上を表わし、LaはB、C、NおよびOの1種以上を表わし、za1は0.85以上1.0以下である)からなり、
    前記B層は、組成の異なる2種以上の薄膜層が交互にそれぞれ1つ以上積層されてなり、
    前記薄膜層のそれぞれの厚さは、30nmよりも大きく200nm未満であり、
    前記薄膜層の1種であるB1薄膜層は、(Ti 1-xb1-yb1 Si xb1 M1 yb1 )(C 1-zb1zb1 )(M1はTiを除く元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素ならびにAlの1種以上を表わし、xb1は0.01以上0.25以下であり、yb1は0以上0.7以下であり、zb1は0.4以上1以下である)からなり、
    前記薄膜層の1種であって前記B1薄膜層とは異なるB2薄膜層は、組成の異なる2種以上の化合物層が交互にそれぞれ1つ以上積層されてなり、
    前記化合物層のそれぞれの厚さは、0.5nm以上30nm未満であり、
    前記化合物層の1種であるB2a化合物層は、(Ti 1-xb2-yb2 Si xb2 M2 yb2 )(C 1-zb2zb2 )(M2はTiを除く元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素ならびにAlの1種以上を表わし、xb2は0.01以上0.25以下であり、yb2は0以上0.7以下であり、zb2は0.4以上1以下である)からなり、
    前記化合物層の1種であって前記B2a化合物層とは異なるB2b化合物層は、(Al 1-xb3 M3 xb3 )(C 1-zb3zb3 )(M3は元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素ならびにSiの1種以上を表わし、xb3は0.2以上0.77以下であり、zb3は0.4以上1以下である)からなり、
    前記A層の厚さは、0.2μm以上10μm以下であり、
    前記B層の厚さは、0.05μm以上5μm以下であり、
    前記被覆層全体の厚さは、0.25μm以上15μm以下である表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記A層は、(Ti 1-xa Ma xa )(C 1-za2za2 )(MaはTiを除く元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素、AlならびにSiの1種以上を表わし、xaは0以上0.7以下であり、za2は0以上1以下である)からなる請求項1に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記A層では、Nの組成za2が、前記立方晶窒化硼素焼結体側から当該A層の表面側へ向かってステップ状または傾斜状に変化する請求項2に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記A層は、当該A層の表面側に、前記立方晶窒化硼素焼結体側よりもCの組成の高い領域を有する請求項2または3に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記M1は、Cr、NbおよびWの少なくとも1つを表わし、
    前記M1の組成yb1は、0以上0.4以下であり、
    前記M2は、Cr、NbおよびWの少なくとも1つを表わし、
    前記M2の組成yb2は、0以上0.4以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記M2は前記M1と同一の元素を表わし、前記M2の組成yb2は前記M1の組成yb1と同一の値である請求項5に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記M3はTiおよびCrの少なくとも1つを表わし、前記M3の組成xb3は0.25以上0.5以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記B1薄膜層の平均厚さt1と前記B2薄膜層の平均厚さt2との比であるt2/t1が、0.5<t2/t1≦10.0を満たす請求項1〜7のいずれか1項に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記t2/t1は、1.5<t2/t1≦5.0を満たす請求項8に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記B層は、前記A層よりも前記立方晶窒化硼素焼結体側に設けられており、
    前記t2/t1は、前記立方晶窒化硼素焼結体側では1.5<t2/t1≦5.0を満たし、前記A層側に向かうにつれて小さくなり、前記A層側では1.2<t2/t1<2を満たす請求項8または9に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記B層全体におけるSi組成の平均値は、0.003以上0.25以下である請求項1〜10のいずれか1項に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記B層全体におけるSi組成の平均値は、0.02以上0.2以下である請求項11に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記A層は、前記B層よりも前記表面被覆窒化硼素焼結体工具の表面側に設けられている請求項1〜12のいずれか1項に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記被覆層は、前記A層と前記B層との間に設けられたC層をさらに含み、
    前記C層は、McLc zc (Mcは元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素、AlならびにSiの1種以上を表わし、LcはB、C、NおよびOの1種以上を表わし、zcは0以上0.85以下である)からなり、
    前記C層の厚さは、0.005μm以上0.5μm以下である請求項1〜13のいずれか1項に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記Lcの組成zcは0よりも大きく0.7未満である請求項14に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記C層は、前記A層および前記B層を構成する元素の少なくとも1種以上を含む請求項14または15に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記被覆層は、前記立方晶窒化硼素焼結体と前記B層との間に設けられたD層をさらに含み、
    前記D層は、MdLd zd (Mdは元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素、AlならびにSiの1種以上を表わし、LdはB、C、NおよびOの1種以上を表わし、zdは0.85以上1.0以下である)からなる請求項1〜16のいずれか1項に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記立方晶窒化硼素焼結体は、前記立方晶窒化硼素を50体積%以上65体積%以下含む請求項1〜17のいずれか1項に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記立方晶窒化硼素焼結体と前記被覆層との界面では、
    前記立方晶窒化硼素からなる粒子が前記結合相よりも前記被覆層側に突出しており、
    前記立方晶窒化硼素からなる粒子と前記結合相との段差が0.05μm以上1.0μm以下である請求項1〜18のいずれか1項に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記立方晶窒化硼素焼結体における前記立方晶窒化硼素の体積含有率は、前記立方晶窒化硼素焼結体と前記被覆層との界面から前記立方晶窒化硼素焼結体の内部に向かって高くなる請求項1〜19のいずれか1項に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 前記立方晶窒化硼素焼結体に含まれる前記立方晶窒化硼素の粒径は、前記立方晶窒化硼素焼結体と前記被覆層との界面から前記立方晶窒化硼素焼結体の内部に向かって大きくなる請求項1〜20のいずれか1項に記載の表面被覆窒化硼素焼結体工具。
  • 说明书全文

    本発明は、少なくとも切れ刃部分が、立方晶窒化素焼結体と立方晶窒化硼素焼結体上に形成された被覆膜とを含む表面被覆窒化硼素焼結体工具に関する。

    立方晶窒化硼素焼結体の表面をセラミックス等の被覆膜で被覆した工具は、優れた耐摩耗性を発揮するため、焼入鋼の切削加工用の切削工具として用いられている。 昨今、このような切削加工においては高精度が要求されており、被削材表面の面粗度を向上させることが求められている。

    このような要求を満たすため、たとえば国際公開第2010/150335号パンフレット(特許文献1)および国際公開第2012/005275号パンフレット(特許文献2)は、立方晶窒化硼素焼結体の表面を特定のセラミックス組成の多層からなる下部層と化合物層からなる上部層とで構成される被覆膜で被覆した工具を提案している。

    また、このような多層で被覆した工具の基材としては、立方晶窒化硼素焼結体ばかりではなく、たとえば超硬合金等も用いられている(特開2008−188689号公報(特許文献3)および特表2008−534297号公報(特許文献4))。

    国際公開第2010/150335号パンフレット

    国際公開第2012/005275号パンフレット

    特開2008−188689号公報

    特表2008−534297号公報

    鋼加工を行なう切削工具として、超硬合金からなる基材の表面をセラミックス組成の多層により被覆した工具を用いると、耐摩耗性が向上することが知られている。 しかしながら、焼入鋼の加工を行なう場合、この用途に用いられる立方晶窒化硼素焼結体を基材とする切削工具の表面を、セラミックス組成の多層により被覆しても耐摩耗性を向上させることはできなかった。 また、被削材表面の面粗度のさらなる向上も要求されている。 たとえば、低速で焼入鋼の加工等を行った場合でも、被削材表面の面粗度の向上が要求されている。

    本発明は、このような状況に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、焼入鋼の加工等において、特に、低速で焼入鋼の加工等を行った場合において、少なくとも切れ刃部分が立方晶窒化硼素焼結体からなる基材を含む工具の耐摩耗性を向上させることにある。

    本発明者は、上記課題を解決するために、焼入鋼の加工を行なう場合に発生する工具の摩耗の状況を詳細に検討した。 その結果、通常のクレータ摩耗および逃げ面摩耗に加えて、摩耗部の一方端である前切れ刃の境界部において境界摩耗が発生することが明らかとなり、この境界摩耗が工具寿命に最も大きな影響を与えていることが判明した。 このような境界摩耗は低速で焼入鋼の加工等を行った場合でも発生すると考えられる。 低速で焼入鋼の加工等を行うと、前切れ刃の境界部では切り屑の厚さが無限小となるので、引張応が発生し、その結果、工具の被覆層が機械的に摩耗すると考えられるからである。

    本発明者は、この知見に基づき検討を重ねた結果、この境界摩耗を抑制するためには特定の組成の層を特定の積層態様で積層させることが最も効果的であるとのさらなる知見が得られ、この知見に基づきさらに検討を重ねることによって本発明を完成させた。

    本発明にかかる表面被覆窒化硼素焼結体工具は、少なくとも切れ刃部分が立方晶窒化硼素焼結体と前記立方晶窒化硼素焼結体の表面上に形成された被覆層とを含む。 立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素を30体積%以上80体積%以下含み、元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素の窒化物、炭化物、硼化物酸化物ならびにこれらの固溶体からなる群の中から選択された少なくとも1種の化合物とアルミニウム化合物と不可避不純物とを含む結合相をさらに含む。 被覆層は、A層とB層とを含む。 A層は、MLa za1 (Mは元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素、AlならびにSiの1種以上を表わし、LaはB、C、NおよびOの1種以上を表わし、za1は0.85以上1.0以下である)からなる。 B層は、組成の異なる2種以上の薄膜層が交互にそれぞれ1つ以上積層されてなり、薄膜層のそれぞれの厚さは、30nmよりも大きく200nm未満である。 薄膜層の1種であるB1薄膜層は、(Ti 1-xb1-yb1 Si xb1 M1 yb1 )(C 1-zb1zb1 )(M1はTiを除く元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素ならびにAlの1種以上を表わし、xb1は0.01以上0.25以下であり、yb1は0以上0.7以下であり、zb1は0.4以上1以下である)からなる。 薄膜層の1種であってB1薄膜層とは異なるB2薄膜層は、組成の異なる2種以上の化合物層が交互にそれぞれ1つ以上積層されてなる。 化合物層のそれぞれの厚さは、0.5nm以上30nm未満である。 化合物層の1種であるB2a化合物層は、(Ti 1-xb2-yb2 Si xb2 M2 yb2 )(C 1-zb2zb2 )(M2はTiを除く元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素ならびにAlの1種以上を表わし、xb2は0.01以上0.25以下であり、yb2は0以上0.7以下であり、zb2は0.4以上1以下である)からなる。 化合物層の1種であってB2a化合物層とは異なるB2b化合物層は、(Al 1-xb3 M3 xb3 )(C 1-zb3zb3 )(M3は元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素ならびにSiの1種以上を表わし、xb3は0.2以上0.77以下であり、zb3は0.4以上1以下である)からなる。 A層の厚さは、0.2μm以上10μm以下である。 B層の厚さは、0.05μm以上5μm以下である。 被覆層全体の厚さは、0.25μm以上15μm以下である。

    本発明では、焼入鋼の加工等において、特に、低速で焼入鋼の加工等を行った場合において、少なくとも切れ刃部分が立方晶窒化硼素焼結体からなる基材を含む工具の耐摩耗性を向上させることができる。

    本発明の実施例における表面被覆窒化硼素焼結体工具の構成の一例を示す断面図である。

    本発明の実施例における表面被覆窒化硼素焼結体工具の要部の構成の一例を示す断面図である。

    以下、本発明についてさらに詳細に説明する。 なお、以下の実施の形態の説明では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。

    <表面被覆窒化硼素焼結体工具の構成>
    本発明にかかる表面被覆窒化硼素焼結体工具の少なくとも切れ刃部分は、立方晶窒化硼素焼結体(以下では「cBN焼結体」と記す。「cBN」は「cubic Boron Nitride」の略語である。)と、cBN焼結体の表面上に形成された被覆層とを含む。 このような基本的構成を有する表面被覆窒化硼素焼結体工具は、焼結合金や難削鋳鉄の機械加工(たとえば切削加工)または焼入鋼の加工において特に有効に用いることができる他、これら以外の一般的な金属の各種加工においても好適に用いることができる。

    <cBN焼結体>
    cBN焼結体は、表面被覆窒化硼素焼結体工具の切れ刃部分のうち当該工具の基材を構成するものであり、30体積%以上80体積%以下の立方晶窒化硼素(以下では「cBN」と記す)を含み、結合相をさらに含む。 ここで、結合相は、元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素の窒化物、炭化物、硼化物、酸化物ならびにこれらの固溶体からなる群の中から選択された少なくとも1種の化合物とアルミニウム化合物と不可避不純物とを含み、cBN同士を互いに結合する。 cBN焼結体が30体積%以上のcBNを含んでいれば、表面被覆窒化硼素焼結体工具の基材の耐摩耗性の低下を防止できる。 また、cBN焼結体が80体積%以下のcBNを含んでいれば、cBN焼結体においてcBNを分散させることができるので、結合相によるcBN同士の接合強度を確保することができる。 本明細書では、cBNの含有体積率は次に示す方法にしたがって求められたものである。 cBN焼結体を鏡面研磨し、任意の領域のcBN焼結体組織の反射電子像を電子顕微鏡にて2000倍で写真撮影する。 このとき、cBNからなる粒子(以下では「cBN粒子」と記す。)は黒色領域となり、結合相は灰色領域または白色領域となる。 撮影されたcBN焼結体組織の写真からcBN焼結体領域と結合相領域とを画像処理により2値化し、cBN粒子の占有面積を求める。 求められたcBN粒子の占有面積を以下に示す式に代入すれば、cBNの含有体積率が求まる。
    (cBNの含有体積率)=(cBN粒子の占有面積)÷(撮影されたcBN焼結体組織の面積)×100。

    好ましくは、cBN焼結体が50体積%以上65体積%以下のcBNを含むことである。 cBN焼結体が50体積%以上のcBNを含んでいれば、耐摩耗性と耐欠損性とのバランスに優れた表面被覆窒化硼素焼結体工具の基材を提供することができる。 また、cBN焼結体が65体積%以下のcBNを含んでいれば、結合相によるcBN同士の接合強度を高めることができる。

    好ましくは、cBN焼結体と被覆層との界面では、cBN粒子が結合相よりも被覆層側に突出していることである。 これにより、cBN焼結体と被覆層との密着性を高めることができる。 より好ましくは、cBN粒子と結合相との段差が0.05μm以上1.0μm以下であることである。 この段差が0.05μm以上であれば、アンカー効果を得ることができる。 また、この段差が1.0μm以下であれば、cBN粒子がcBN焼結体から脱落することを防止できる。 さらに好ましくは、cBN粒子と結合相との段差が0.1μm以上0.5μm以下であることである。 この段差が0.1μm以上であれば、アンカー効果を有効に得ることができる。 また、この段差が0.5μm以下であれば、cBN粒子がcBN焼結体から脱落することをさらに防止できる。 本明細書では、上記段差は、後述する被覆層の全体の厚さなどの測定方法と同一の方法にしたがって測定されたものである。

    好ましくは、cBN焼結体におけるcBNの体積含有率は、cBN焼結体と被覆層との界面からcBN焼結体の内側へ向かうにつれて高くなることである。 これにより、cBN焼結体と被覆層との界面では、結合相の体積含有率がcBNの体積含有率よりも高いので、cBN焼結体と被覆層との密着性を高めることができる。 一方、cBN焼結体の内部では、cBNの体積含有率の方が結合相の体積含有率よりも高いので、cBN焼結体の耐欠損性を向上させることができる。 たとえば、cBNの体積含有率は、被覆層との界面側(cBN焼結体と被覆層との界面からcBN焼結体の内側へ向かって0μm以上20μm以下離れた領域)では40体積%であり、cBN焼結体の厚さ方向中央付近(cBN焼結体と被覆層との界面からcBN焼結体の内側へ向かって20μmを超えて100μm以下離れた領域)では60体積%である。

    好ましくは、cBN焼結体に含まれるcBN粒子の粒径は、cBN焼結体と被覆層との界面からcBN焼結体の内側へ向かうにつれて大きくなることである。 これにより、cBN焼結体と被覆層との界面では、cBN粒子の粒径は小さいので、cBN焼結体と被覆層との密着性を高めることができる。 一方、cBN焼結体の内部では、cBN粒子の粒径は大きいので、靱性を高めることができる。 たとえば、cBN粒子の粒径は、cBN焼結体と被覆層との界面からcBN焼結体の内側へ向かって0μm以上20μm以下離れた領域では0.1μm以上1μm以下であり、cBN焼結体と被覆層との界面からcBN焼結体の内側へ向かって20μmを超えて300μm以下離れた領域では2μm以上10μm以下である。 本明細書では、cBN粒子の粒径は次に示す方法にしたがって求められたものである。 cBNの含有体積率を求めるさいに得られたcBN焼結体組織の反射電子像におけるcBN粒子に外接する面の直径を測定し、測定された直径をcBN粒子の粒径としている。

    なお、cBN焼結体は、表面被覆窒化硼素焼結体工具の切れ刃部分に設けられていればよい。 そのため、表面被覆窒化硼素焼結体工具の基材は、cBN焼結体からなる切れ刃部分と、cBN焼結体とは異なる材料(たとえば超硬合金)からなる基材本体とを含んでいてもよい。 この場合、cBN焼結体からなる切れ刃部分はロウ材等を介して基材本体に接着されていることが好ましく、ロウ材の材料としては、接合強度または融点を考慮して選定することができる。 また、cBN焼結体は、表面被覆窒化硼素焼結体工具の基材全体を構成していてもよい。

    <被覆層>
    被覆層は、A層とB層とを含む。 本発明の被覆層は、A層とB層とを含む限り、A層およびB層以外に他の層を含んでいても差し支えない。 このような他の層としては、たとえば後述のようなA層とB層との間に設けられるC層または最下層であるD層などを挙げることができるが、これらのみに限られるものではない。

    被覆層の厚さは、0.25μm以上15μm以下である。 被覆層の厚さが0.25μm以上であれば、被覆層の厚さが薄いことに起因する表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐摩耗性の低下を防止することができる。 被覆層の厚さが15μm以下であれば、切削初期における被覆層の耐チッピング性を高めることができる。 好ましくは、被覆層の厚さが0.7μm以上4μm以下である。

    本明細書では、被覆層の全体の厚さおよび後述の各層の厚さならびに積層数は、いずれも表面被覆窒化硼素焼結体工具を切断し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)またはTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて観察することにより求められたものである。 また、被覆層を構成する後述のような各層の組成は、SEMまたはTEM付帯のEDX分析器(エネルギー分散型X線分析器)を用いて測定されたものである。

    被覆層は、表面被覆窒化硼素焼結体工具の切れ刃部分にのみ設けられていればよいが、表面被覆窒化硼素焼結体工具の基材の表面全面を被覆していてもよいし、切れ刃部分とは異なる部分の一部において設けられていなくてもよい。 また、切れ刃部分とは異なる部分では、被覆層の一部の積層構成が部分的に異なっていてもよい。

    <A層>
    A層は、MLa za1 (Mは元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素、AlならびにSiの1種以上を表わし、LaはB、C、NおよびOの1種以上を表わし、za1は0.85以上1.0以下である)からなる。 これにより、A層は、滑らかに摩耗する。 別の言い方をすると、A層は、剥離、割れ、または、チッピングなどを伴うことなく摩耗する。 よって、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐クレータ摩耗性または耐逃げ面摩耗性などを高めることができる。

    好ましくは、A層は、(Ti 1-xa Ma xa )(C 1-za2za2 )(MaはTiを除く元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素、AlならびにSiの1種以上を表わし、xaは0以上0.7以下であり、za2は0以上1以下である)からなることである。 A層がTiを含んでいれば、摩耗時におけるA層の剥離、割れ、または、チッピングなどをさらに防止することができる。 より好ましくは、Maの組成xaが0以上0.3以下であることである。 これにより、摩耗時におけるA層の剥離、割れ、または、チッピングなどをさらに防止することができる。 なお、A層が(Ti 1-xa(1)- xa(2) Ma(1) xa(1) Ma(2) xa(2) )(C 1-za2za2 )からなる場合には、xa(1)とxa(2)との和は、0以上0.7以下であることが好ましく、0以上0.3以下であることがより好ましい。 このことは、以下に示すB層、C層およびD層においても言える。

    好ましくは、A層では、Nの組成は、cBN焼結体側から当該A層の表面側へ向かってステップ状または傾斜状に変化することである。 たとえばA層のcBN焼結体側においてNの組成が大きければ、耐欠損性および耐剥離性を高めることができる。 また、A層の表面側においてNの組成が小さければ、摩耗時におけるA層の剥離、割れ、または、チッピング等をさらに防止することができる。 ここで、「Nの組成がcBN焼結体側からA層の表面側へ向かってステップ状に変化する」とは、Nの組成がcBN焼結体側からA層の表面側へ向かって不連続に減少または増加することを意味し、たとえばNの組成が互いに異なる2以上の層を積層することにより得られる構成である。 また、「Nの組成がcBN焼結体側からA層の表面側へ向かって傾斜状に変化する」とは、Nの組成がcBN焼結体側からA層の表面側へ向かって連続に減少または増加することを意味し、たとえばNの原料ガスとCの原料ガスとの流量比を連続的に変化させて形成することにより得られる構成である。

    好ましくは、A層は、当該A層の表面側に、cBN焼結体側よりもCの組成の高い領域を有することである。 これによっても、A層のcBN焼結体側では耐欠損性および耐剥離性を高めることができ、A層の表面側では摩耗時におけるA層の剥離、割れ、または、チッピングなどをさらに防止することができる。 ここで、A層のcBN焼結体側とは、cBN焼結体の最も近くに位置するA層の面からA層の内部へ向かって0μm以上0.1μm以下離れた領域を意味する。 また、A層の表面側とは、A層のcBN焼結体側とは反対側を意味し、cBN焼結体とは最も離れて位置するA層の面からA層の内部へ向かって0μm以上0.1μm以下離れた領域を意味する。

    A層の厚さは、0.2μm以上10μm以下である。 A層の厚さが0.2μm以上であれば、耐クレータ摩耗性または耐逃げ面摩耗性などに優れた表面被覆窒化硼素焼結体工具を提供することができる。 一方、A層の厚さが10μmを超えると、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐クレータ摩耗性または耐逃げ面摩耗性などをさらに向上させることが難しいことがある。

    好ましくは、A層がB層よりも表面被覆窒化硼素焼結体工具の表面側に設けられていることである。 これにより、A層が滑らかに摩耗してクラックの発生を防止することができる。 クラックが発生した場合であっても、B層が、発生したクラックの基材側への伝搬を防止することができる。

    <B層>
    B層は、組成の異なる2種以上の薄膜層が交互にそれぞれ1つ以上積層されてなる。 以下では、B層として、B1薄膜層とB2薄膜層とが交互にそれぞれ1つ以上積層されて構成されたものを挙げるが、本発明のB層は、B1薄膜層とB2薄膜層とを含む限り、B1薄膜層およびB2薄膜層以外に他の層を含んでいても差し支えない。 B層の厚さは、0.05μm以上5μm以下である。

    好ましくは、B層全体におけるSi組成の平均値が0.003以上0.25以下であることである。 これにより、B層の耐剥離性を高めることができるので、酸素がB層とA層または基材との界面に侵入することを防止することができる。 B層全体におけるSi組成の平均値は、より好ましくは0.005以上0.2以下であり、さらに好ましくは0.005以上0.15以下である。 本明細書では、B層全体におけるSi組成の平均値は、次の計算式を用いて求められたものである。
    (B層全体におけるSi組成の平均値)={(B層を構成する各層のSi組成)×(当該各層の厚さ)の総和}÷(B層全体の厚さ)。

    B1薄膜層は、(Ti 1-xb1-yb1 Si xb1 M1 yb1 )(C 1-zb1zb1 )(M1はTiを除く元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素ならびにAlの1種以上を表わし、xb1は0.01以上0.25以下であり、yb1は0以上0.7以下であり、zb1は0.4以上1以下である)からなる。 好ましくは、M1がCr、NbおよびWの少なくとも1種以上を表わすことである。 M1の組成yb1は、好ましくは0以上0.4以下であり、より好ましくは0.05以上0.15以下である。 B1薄膜層の厚さは、30nmよりも大きく200nm未満である。

    B2薄膜層は、組成の異なる2種以上の化合物層が交互にそれぞれ1つ以上積層されてなる。 以下では、B2薄膜層として、B2a化合物層とB2b化合物層とが交互にそれぞれ1つ以上積層されて構成されたものを挙げるが、本発明のB2薄膜層は、B2a化合物層とB2b化合物層とを含む限り、B2a化合物層およびB2b化合物層以外に他の層を含んでいても差し支えない。 B2薄膜層の厚さは、30nmよりも大きく200nm未満である。

    B2a化合物層は、(Ti 1-xb2-yb2 Si xb2 M2 yb2 )(C 1-zb2zb2 )(M2はTiを除く元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素ならびにAlの1種以上を表わし、xb2は0.01以上0.25以下であり、yb2は0以上0.7以下であり、zb2は0.4以上1以下である)からなる。 M2は、好ましくはCr、NbおよびWの少なくとも1種以上を表わすことであり、より好ましくはM1と同じ元素を表わすことである。 M2の組成yb2は、好ましくは0以上0.4以下であり、より好ましくは0.05以上0.15以下である。 さらに好ましくはM1の組成yb1と同じ値を示すことである。 B2a化合物層の厚さは、0.5nm以上30nm未満である。

    B2b化合物層は、(Al 1-xb3 M3 xb3 )(C 1-zb3zb3 )(M3は元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素ならびにSiの1種以上を表わし、xb3は0.2以上0.77以下であり、zb3は0.4以上1以下である)からなる。 好ましくは、M3がTiおよびCrの少なくとも1つを表わすことである。 M3の組成xb3は、好ましくは0.25以上0.5以下であり、より好ましくは0.25以上0.4以下である。 B2b化合物層の厚さは、0.5nm以上30nm未満である。

    なお、B層の最下層は、B1薄膜層であってもよいし、B2薄膜層であってもよい。 B層の最上層は、B1薄膜層であってもよいし、B2薄膜層であってもよい。 B2薄膜層の最下層は、B2a化合物層であってもよいし、B2b化合物層であってもよい。 B2薄膜層の最上層は、B2a化合物層であってもよいし、B2b化合物層であってもよい。

    好ましくは、B1薄膜層の平均厚さt1とB2薄膜層の平均厚さt2との比であるt2/t1が0.5<t2/t1≦10.0を満たすことである。 これにより、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐境界摩耗性など(特に低速切削時における表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐境界摩耗性など)をより向上させることができる。 本明細書では、B1薄膜層の平均厚さt1は、次の計算式を用いて求められたものである。 B2薄膜層の平均厚さt2も同様である。
    (B1薄膜層の平均厚さt1)=(B1薄膜層の厚さの合計)÷(B1薄膜層の層数)。

    より好ましくは、t2/t1が1.5<t2/t1≦5.0を満たすことである。 これにより、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐境界摩耗性など(特に低速切削時における表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐境界摩耗性など)をさらに向上させることができる。 よって、繰り返される衝撃または振動などに対して優れた耐摩耗性を有する表面被覆窒化硼素焼結体工具を提供することができる。 さらに好ましくは、t2/t1が2.0<t2/t1≦4.5を満たすことである。

    さらに好ましくは、A層がB層よりも表面側に設けられている場合には、t2/t1は、cBN焼結体側では1.5<t2/t1≦5.0を満たし、A層側に向かうにつれて小さくなり、A層側では1.2<t2/t1<2を満たすことである。 これにより、B層のA層側では、クラックの発生を防止することができ、B層のcBN焼結体側では、クラックがcBN焼結体側へ伝搬することを防止することができる。 ここで、B層のA層側とは、A層の最も近くに位置するB1薄膜層およびB2薄膜層を意味する。 また、B層のcBN焼結体側とは、cBN焼結体の最も近くに位置するB1薄膜層およびB2薄膜層を意味する。

    <C層>
    好ましくは、被覆層がA層とB層との間に設けられたC層をさらに含むことであり、C層がMcLc zc (Mcは元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素、AlならびにSiの1種以上を表わし、LcはB、C、NおよびOの1種以上を表わし、zcは0以上0.85以下である)からなることである。 これにより、A層とB層との密着性を高めることができる。 また、A層がB層よりも表面側に設けられている場合には、A層で発生したクラックの基材側への伝搬をC層で止めることができる。

    より好ましくは、C層の厚さが0.005μm以上0.5μm以下であることである。 C層の厚さが0.005μm以上であれば、C層を設けたことにより得られる効果を十分に得ることができる。 C層の厚さが0.5μm以下であれば、C層を設けたことにより被覆層の厚さが大きくなりすぎることを防止することができる。 さらに好ましくは、C層の厚さが0.01μm以上0.2μm以下であることである。

    より好ましくは、C層を構成するMcLc zcでは、Lcの組成zcが0よりも大きく0.7未満であることである。 Lcの組成zcが0よりも大きければ、C層の耐熱性および化学的な耐摩耗性を高めることができるので、A層で発生したクラックの基材側への伝搬をC層で有効に止めることができる。 さらに好ましくは、Lcの組成zcが0.2以上0.5以下であることである。

    より好ましくは、C層は、A層およびB層を構成する元素の少なくとも1種以上を含むことである。 C層がA層を構成する元素の少なくとも1種以上を含むのであれば、A層とC層との密着性を高めることができる。 C層がB層を構成する元素の少なくとも1種以上を含むのであれば、B層とC層との密着性を高めることができる。 さらに好ましくは、C層は、A層およびB層のそれぞれのうちC層側に位置する部分を構成する元素の少なくとも1種以上を含むことである。

    <D層>
    好ましくは、被覆層が基材とB層との間に設けられたD層をさらに含むことであり、D層がMdLd zd (Mdは元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素、AlならびにSiの1種以上を表わし、LdはB、C、NおよびOの1種以上を表わし、zdは0.85以上1.0以下である)からなることである。 このようなD層はcBN焼結体との密着性に優れる。 よって、被覆層がD層をさらに含むのであれば、cBN焼結体と被覆層との密着性を高めることができる。 より好ましくは、D層を構成するMdLd zdでは、LdがNであることである。

    より好ましくは、D層が(Al 1-xd Md2 xd )Ld zd (Md2は、元素の周期表の第4族元素、第5族元素および第6族元素ならびにSiの1種以上を表わし、xdは0.25以上0.45以下である)からなることである。 D層がAlを含んでいれば、BN焼結体と被覆層との密着性をより高めることができる。 さらに好ましくは、D層を構成する(Al 1-xd Md2 xd )Ld zdでは、Md2がTi、CrおよびVの少なくとも1種以上であることである。

    より好ましくは、D層の厚さが0.05μm以上1.0μm以下である。 D層の厚さが0.05μm以上であれば、D層を設けたことにより得られる効果を十分に得ることができる。 D層の厚さが1.0μm以下であれば、D層を設けたことにより被覆層の厚さが大きくなりすぎることを防止することができる。 さらに好ましくは、D層の厚さが0.1μm以上0.5μm以下であることである。

    <表面被覆窒化硼素焼結体工具の製造方法>
    本発明にかかる表面被覆窒化硼素焼結体工具の製造方法は、たとえば、cBN焼結体を少なくとも切れ刃部分に有する基材を準備する工程と、少なくともcBN焼結体上に被覆層を形成する工程とを含む。 基材を準備する工程は、cBN焼結体を形成する工程を含むことが好ましく、cBN焼結体を形成する工程は、cBN粒子と結合相の原料粉末との混合物を高温高圧下で焼結させる工程を含むことが好ましい。 基材を準備する方法は、所定の形状を有する基材本体にcBN焼結体を接合させる工程をさらに含むことがより好ましい。

    被覆層を形成する工程は、アークイオンプレーティング法(真空アーク放電を利用して固体材料を蒸発させるイオンプレーティング法)またはスパッタ法により被覆層を形成する工程を含むことが好ましい。 アークイオンプレーティング法では、被覆層を構成することになる金属種を含む金属蒸発源とCH 4 、N 2またはO 2などの反応ガスとを用いて、被覆層を形成することができる。 被覆層を形成する条件としては、公知の条件を採用することができる。 また、スパッタ法では、被覆層を構成することになる金属種を含む金属蒸発源とCH 4 、N 2またはO 2などの反応ガスとAr、KrまたはXeなどのスバッタガスとを用いて、被覆層を形成することができる。 被覆層を形成する条件としては、公知の条件を採用することができる。

    以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。

    <表面被覆窒化硼素焼結体工具の製造>
    図1は、実施例における表面被覆窒化硼素焼結体工具の構成の一例を示す断面図である。 図2は、実施例における表面被覆窒化硼素焼結体工具の要部の構成の一例を示す断面図である。

    <試料1の製造>
    <cBN焼結体Aの形成>
    まず、原子比でTi:N=1:0.6となるように、平均粒子径が1μmのTiN粉末と平均粒子径が3μmのTi粉末とを混合した。 得られた混合物を真空中で1200℃で30分間、熱処理してから、粉砕した。 これにより、TiN 0.6からなる金属間化合物粉末を得た。

    次に、質量比でTiN 0.6 :Al=90:10となるように、TiN 0.6からなる金属間化合物粉末と平均粒子径が4μmのAl粉末とを混合した。 得られた混合物を真空中で1000℃で30分間、熱処理した。 熱処理により得られた化合物を、直径が6mmの超硬合金製ボールメディアを用いて、ボールミル粉砕法により均一に粉砕した。 これにより、結合相の原料粉末を得た。

    続いて、cBN焼結体におけるcBNの含有率が30体積%となるように平均粒径が1.5μmのcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合し、直径が3mmの窒化硼素製ボールメディアを用いてボールミル混合法により均一に混合した。 得られた混合粉末を超硬合金製支持板に積層してからMo製カプセルに充填した。 そののち、超高圧装置を用いて、圧力5.5GPaで温度1300℃で30分間焼結した。 これにより、cBN焼結体Aを得た。

    <基材の形成>
    形状がISO規格のDNGA150408であり、超硬合金材料(K10相当)からなる基材本体を準備した。 準備した基材本体の刃先(コーナ部分)に上記cBN焼結体A(形状:頂が55°であり当該頂角を挟む両辺がそれぞれ2mmである二等辺三角形を底面とし、厚さが2mmの三角柱状のもの)を接合した。 接合には、Ti−Zr−Cuからなる口ウ材を用いた。 接合体の外周面、上面および下面を研削し、刃先にネガランド形状(ネガランド幅が150μmであり、ネガランド角が25°)を形成した。 このようにして、切れ刃部分がcBN焼結体Aからなる基材3を得た。

    得られた基材3を成膜装置内に入れて真空引きを行なった。 そののち、500℃に加熱してからArガスを導入し(圧力1Pa)、基材3にバイアス電圧(−500V)をかけて、Arイオンによりエッチングを行なった。 そののち、成膜装置内からArガスを排気した。

    <被覆層の形成>
    <D層の形成>
    上記成膜装置内でD層20を基材3上に形成した。 具体的には、以下に示す条件で、厚さが0.5μmであるD層を蒸着により形成した。
    ターゲット:Alを66原子%、Crを34原子%含む導入ガス:N 2
    成膜圧力:5Pa
    アーク放電電流:150A
    基板バイアス電圧:−35V
    テーブル回転速度:3rpm。

    <B層の形成>
    上記成膜装置内でB層30をD層20上に形成した。 具体的には、まず、以下に示す条件で、全体の厚さが35nmであるB1薄膜層31を蒸着により形成した。
    ターゲットB1:Tiを90原子%、Siを10原子%含む導入ガス:N 2
    成膜圧力:3Pa
    アーク放電電流:150A
    基板バイアス電圧:−40V
    テーブル回転速度:4rpm。

    次に、以下に示す条件で、全体の厚さが165nmであるB2薄膜層32を蒸着により形成した。 このとき、B2a化合物層32Aの厚さが2.5nmとなるように、且つ、B2b化合物層32Bの厚さが3nmとなるように、ターゲットB2a、B2bのアーク電流と基材をセットした回転テーブルの回転速度とを調整した。
    ターゲットB2a:Tiを90原子%、Siを10原子%含むターゲットB2b:Alを66原子%、Crを34原子%含む導入ガス:N 2
    成膜圧力:3Pa
    基板バイアス電圧:−50V。

    そして、B1薄膜層31とB2薄膜層32とを交互に積層し、それぞれを5層ずつ形成した。 このようにして、全体の厚さが1μmであるB層30を形成した。

    <A層の形成>
    上記成膜装置内でA層50をC層40上に形成した。 具体的には、以下に示す条件で、厚さが0.1μmであるA層を蒸着により形成した。
    ターゲット:Ti
    導入ガス:N 2 、CH 4 (形成する膜が原子比でC:N=1:4となるように流量を調整)
    成膜圧力:1Pa
    アーク放電電流:160A
    基板バイアス電圧:−400V
    テーブル回転速度:3rpm。

    このようにして、基材3の上には、D層20とB層30とA層50とが順に積層されてなる被覆層10が形成され、よって、試料1が製造された。

    <試料2〜7の製造>
    A層の厚さを表1に示す数値となるように変更したことを除いては上記試料1の製造方法にしたがって、試料2〜7を製造した。

    <試料8の製造>
    cBN焼結体におけるcBNの含有率が表3に示す数値となるようにcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Aの形成方法にしたがって、cBN焼結体Dを得た。 得られたcBN焼結体Dを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料8の基材を形成した。

    次に、以下に示す条件で、厚さが0.02μmであるD層を蒸着により形成した。
    ターゲット:Alを60原子%、Crを40原子%含む導入ガス:N 2
    成膜圧力:0.7Pa
    アーク放電電流:130A
    基板バイアス電圧:−35V
    テーブル回転速度:3rpm。

    続いて、上記試料1の製造方法にしたがってB層を形成した。 このとき、B2a化合物層およびB2b化合物層のそれぞれの厚さが1.5nmとなるようにターゲットB2a、B2bのアーク電流と基材をセットした回転テーブルの回転速度とを調整し、全体の厚さが12nmであるB2薄膜層を蒸着により形成した。

    続いて、以下に示す条件で、形成する膜の組成がTiC 0.40.6となるようにN 2の流量とCH 4の流量とを調整し、厚さが0.1μmであるA層を蒸着により形成した。 このようにして試料8を製造した。
    ターゲット:Ti
    導入ガス:N 2 、CH 4
    成膜圧力:2Pa
    アーク放電電流:140A
    基板バイアス電圧:−600V
    テーブル回転速度:4rpm。

    <試料9〜10の製造>
    B2a化合物層およびB2b化合物層のそれぞれの層数を変更し、且つ、B1薄膜層およびB2薄膜層のそれぞれの層数を変更して、B層の全体の厚さを変更したこと、および、A層の厚さを表1に示す厚さとしたことを除いては上記試料8の製造方法にしたがって、試料9〜10を製造した。

    <試料11〜14の製造>
    B2a化合物層およびB2b化合物層のそれぞれの層数を変更し、且つ、B1薄膜層およびB2薄膜層のそれぞれの層数を変更して、B層の全体の厚さを変更したこと、および、以下に示す条件でA層を形成したことを除いては上記試料8の製造方法にしたがって、試料11を製造した。 具体的には、A層の形成開始時からA層の厚さが1μmとなるまでの間は、N 2のみを導入して成膜圧力を2Paとした。 そののち、CH 4を徐々に増やしながらN 2を徐々に減らして、A層をさらに0.6μm形成した。 このとき、組成がTiC 0.40.6となるまで、CH 4を徐々に増やしながらN 2を徐々に減らした。 このようにして試料11を製造した。 試料12〜14も同様に製造した。
    ターゲット:Ti
    導入ガス:N 2 、CH 4
    アーク放電電流:140A
    基板バイアス電圧:−600V
    テーブル回転速度:4rpm。

    なお、試料を製造するさい、表1〜表2に示す組成からなる層が得られるように、ターゲットを調製し、導入ガスの種類およびその供給量を調整した。 導入ガスとしては、Ar、N 2またはCH 4などを適宜用いた。 成膜圧力を0.1Pa〜7Paの範囲内で適宜、調整し、アーク放電電流を60A〜200Aの範囲内で適宜、調整し、基板バイアス電圧を−25V〜−700Vの範囲内で適宜、調整し、テーブル回転速度を0.5〜10rpmの範囲内で適宜、調整した。 以下に示す試料15〜56においても同様とした。

    <試料15の製造>
    cBN焼結体におけるcBNの含有率が表3に示す数値となるようにcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Aの形成方法にしたがって、cBN焼結体Bを得た。 得られたcBN焼結体Bを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料15〜20の基材を形成した。

    次に、上記試料1、11の製造方法にしたがって、D層、B層およびA層を順に形成した。 このようにして試料15を製造した。

    <試料16〜20の製造>
    以下に示す方法にしたがってC層を形成したことを除いては上記試料15の製造方法にしたがって、試料16〜20を製造した。
    ターゲット:Ti
    導入ガス:Ar
    成膜圧力:2Pa
    アーク放電電流:150A
    基板バイアス電圧:−70V
    テーブル回転速度:3rpm。

    <試料21〜26の製造>
    cBN焼結体におけるcBNの含有率が表3に示す数値となるようにcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Aの形成方法にしたがって、cBN焼結体Cを得た。 得られたcBN焼結体Cを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料21〜26の基材を形成した。

    次に、上記試料1、11の製造方法にしたがって、D層、B層およびA層を順に形成した。 これにより、試料21〜26を製造した。

    <試料27〜31の製造>
    cBN焼結体におけるcBNの含有率が表3に示す数値となるようにcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Aの形成方法にしたがって、cBN焼結体Eを得た。 得られたcBN焼結体Eを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料27の基材を形成した。

    次に、上記試料1、16の製造方法にしたがって、D層、B層、C層およびA層を順に形成した。 これにより、試料27〜31を製造した。

    <試料32〜36の製造>
    平均粒径が0.5μmのcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Dの形成方法にしたがって、cBN焼結体Fを得た。 得られたcBN焼結体Fを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料32〜36の基材を形成した。 次に、上記試料1の製造方法にしたがって、D層、B層およびA層を順に形成した。 これにより、試料32〜36を製造した。

    <試料37〜40の製造>
    平均粒径が3μmのcBN粒子と結合相の原料粉末とを配合したことを除いては上記cBN焼結体Dの形成方法にしたがって、cBN焼結体Gを得た。 得られたcBN焼結体Gを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料37〜40の基材を形成した。

    次に、上記試料1、11、16の製造方法にしたがって、D層、B層、C層およびA層を順に形成した。 これにより、試料37〜40を製造した。

    <試料41〜45の製造>
    まず、原子比でTi:C:N=1:0.3:0.3となるように、平均粒子径が1μmのTiCN粉末と平均粒子径が3μmのTi粉末とを混合した。 得られた混合物を真空中で1200℃で30分間、熱処理してから、粉砕した。 これにより、TiC 0.30.3からなる金属間化合物粉末を得た。

    次に、質量比でTiC 0.30.3 :Al=90:10となるように、TiC 0.30.3からなる金属間化合物粉末と平均粒子径が4μmのAl粉末とを混合した。 得られた混合物を真空中で1000℃で30分間、熱処理した。 熱処理により得られた化合物を、直径が6mmの超硬合金製ボールメディアを用いて、ボールミル粉砕法により均一に粉砕した。 これにより、結合相の原料粉末を得た。 そののちは、上記cBN焼結体Dの形成方法にしたがって、cBN焼結体Hを得た。 得られたcBN焼結体Hを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料41〜45の基材を形成した。

    次に、上記試料1、16の製造方法にしたがって、D層、B層、C層およびA層を順に形成した。 これにより、試料41〜45を製造した。

    <試料46〜53の製造>
    表1に示すcBN焼結体を用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料46〜53の基材を形成した。 次に、上記試料1、11、16の製造方法にしたがって、D層、B層、C層およびA層を順に形成した。 これにより、試料46〜53を製造した。

    <試料54の製造>
    まず、原子比でTi:C=1:0.6となるように、平均粒子径が1μmのTiC粉末と平均粒子径が3μmのTi粉末とを混合した。 得られた混合物を真空中で1200℃で30分間、熱処理してから、粉砕した。 これにより、TiC 0.6からなる金属間化合物粉末を得た。

    次に、質量比でTiC 0.6 :Al=90:10となるように、TiC 0.6からなる金属間化合物粉末と平均粒子径が4μmのAl粉末とを混合した。 得られた混合物を真空中で1000℃で30分間、熱処理した。 熱処理により得られた化合物を、直径が6mmの超硬合金製ボールメディアを用いて、ボールミル粉砕法により均一に粉砕した。 これにより、結合相の原料粉末を得た。 そののちは、上記cBN焼結体Dの形成方法にしたがって、cBN焼結体Iを得た。 得られたcBN焼結体Iを用いて、上記試料1の基材の製造方法にしたがって、試料54の基材を形成した。

    続いて、試料46〜53の製造方法にしたがって、D層、B層、C層およびA層を順に形成した。 これにより、試料54を製造した。

    <試料55の製造>
    B層、C層およびD層を形成しなかったことを除いては上記試料1の製造方法にしたがって、試料55を製造した。

    <試料56の製造>
    A層およびC層を形成しなかったことを除いては上記試料1の製造方法にしたがって、試料56を製造した。

    表1におけるTiCN *01 〜TiCN *08については、表4に示すとおりである。 また、表2において、層数*21は、B2a化合物層の層数とB2b化合物層の層数との合計であり、層数*22は、B1薄膜層の層数とB2薄膜層の層数との合計である。

    <逃げ面摩耗量VBおよび面粗度Rzの測定>
    製造された試料1〜56を用いて、以下に示す切削条件にしたがって切削加工(切削距離:4km)を行った。 そののち、光学顕微鏡を用いて逃げ面摩耗量VBを測定し、JIS規格にしたがって被削材表面の面粗度Rzを測定した。 逃げ面摩耗量VBの測定結果を表5の「VB(mm)」の欄に示し、被削材表面の面粗度Rzの測定結果を表5の「Rz(μm)」の欄に示す。 VBが小さいほど、表面被覆窒化硼素焼結体工具は耐逃げ面摩耗性に優れる。 Rzが小さいほど、表面被覆窒化硼素焼結体工具は耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性に優れる。 本実施例では、Rzが3μm以下であれば良好であるとしている。

    (切削条件)
    被削材:高硬度鋼(SCM415H/HRC60)
    切削速度:100m/min(低速)
    送り:f=0.1mm/rev
    切り込み:ap=0.1mm
    切削油:エマルジョン(日本フルードシステム学会製造の商品名「システムカット96」)を20倍希釈したもの(wet状態)。

    <工具寿命の測定>
    製造された試料1〜56を用いて、上記切削条件にしたがって切削加工を行った。 具体的には、一定の切削間隔だけ切削加工を行った後に表面粗さ計を用いて被削材の面粗度Rzを測定するということを繰り返し行った。 被削材の面粗度Rzが3.2μmを超えると、切削加工を停止し、そのときの切削距離{(一定の切削間隔)×(被削材の面粗度Rzが3.2μmを超えたときの切削回数n)}を求めた。 また、被削材の面粗度Rzが3.2μmを超える直前の切削距離{(一定の切削間隔)×(n−1)}も求めた。 そして、被削材の面粗度Rzが3.2μmを超えたときの被削材の面粗度Rzの具体的な数値およびそのときの切削距離と、被削材の面粗度Rzが3.2μmを超える直前の被削材の面粗度Rzの具体的な数値およびそのときの切削距離とを用い、切削距離と被削材の面粗度Rzとの関係を直線で近似して、被削材の面粗度Rzが3.2μmとなった時点の切削距離を測定した。 その結果を表5の「切削距離」の欄に示す。 切削距離が長いほど、表面被覆窒化硼素焼結体工具は耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性に優れる。 本実施例では、切削距離が7km以上であれば良好であるとしている。

    <結果と考察>

    試料2〜6、9〜13、15〜20、22〜25、28〜30、33〜35、38、39、42〜44および46〜54では、VBが小さく、Rzが3μm以下であり、切削距離は7km以上であった。 よって、これらの試料は低速切削時において耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性に優れることが分かった。

    一方、試料1、7、8、14、21、26、27、31、32、36、37、40、41、45、55および56では、Rzが3μmよりも大きく、切削距離は3〜4km程度であった。 よって、これらの試料は低速切削時において耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性に優れないことが分かった。

    <試料11、55、56>
    まず、試料11と試料56とについて考察する。 B層の組成、B層の厚さ、D層の組成およびD層の厚さは、試料11と試料56とで互いに酷似しているが、A層は、試料11では設けられているのに対して試料56では設けられていない。 そして、試料11では、Rzは3μm以下であり切削距離は9km以上であるのに対し、試料56では、VBは試料11の2倍超でありRzは3μmよりも大きく切削距離は3km未満であった。

    次に、試料55について考察する。 試料55では、A層は設けられているが、B層は設けられていない。 そして、試料55では、Rzは3μmよりも大きく、切削距離は3km程度であった。

    以上のことから、A層およびB層のどちらか一方を備えていない表面被覆窒化硼素焼結体工具は、低速切削時、耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性に優れないことが分かった。 しかしながら、A層およびB層の両方を備える表面被覆窒化硼素焼結体工具は、驚くべきことに、低速切削時、耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性のすべてに優れることが分かった。 これは、本発明者らによって初めて見出されたことである。

    <試料1〜7>
    試料1〜7では、A層の厚さが互いに異なる。 試料1、7では、Rzは3μmよりも大きく、切削距離は3km程度であった。 一方、試料2〜6では、Rzは3μm以下であり、切削距離は7km以上であった。 これらのことから、A層の厚さが0.2μm以上10μm以下であれば、低速切削時、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性が高まることが分かった。

    また、試料3〜5では、Rzは2.6μm以下であり、切削距離は7.5km以上であった。 試料4、5では、切削距離は8km以上であった。 これらのことから、A層の厚さは、0.5μm以上5μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下であることがより好ましいことも分かった。

    <試料8〜14>
    試料8〜14では、A層の厚さおよびB層全体の厚さのそれぞれが互いに異なるので、被覆層の厚さが互いに異なる。 試料8、14では、Rzは3μmよりも大きく、切削距離は3km程度であった。 一方、試料9〜13では、Rzは3μm以下であり、切削距離は8km以上であった。 これらのことから、被覆層の厚さが0.25μm以上15μm以下であれば、低速切削時、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性が高まることが分かった。

    また、試料9〜12では、Rzは2.5μm以下であり、切削距離は8.5km以上であった。 試料9〜11では、切削距離は9km程度であった。 よって、被覆層の厚さは、0.5μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5μm以下であることがより好ましいということも分かった。

    <試料15〜20>
    試料15〜20では、C層の厚さが互いに異なるが、Rzは3μm以下であり、切削距離は8km以上であった。 また、試料16〜19では、Rzは2.5μm以下であり、切削距離は8.5km以上であった。 これらのことから、C層の厚さは、0.005μm以上0.5μm以下であることが好ましく、0.01μm以上0.5μm以下であることがより好ましく、0.01μm以上0.2μm以下であることがさらに好ましいということが分かった。

    <試料21〜26>
    試料21〜26では、B1薄膜層およびB2a化合物層のそれぞれの組成が互いに異なる。 試料21、26では、Rzは3μmよりも大きく、切削距離は3〜4km程度であった。 一方、試料22〜25では、Rzは2.7μm以下であり、切削距離は7.5km以上であった。 これらのことから、B1薄膜層およびB2a化合物層のそれぞれでは、Si組成が0.01以上0.25以下であれば、低速切削時、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性が高まることが分かった。

    また、試料23〜25では、Rzは2.5μm程度であり、切削距離は8km程度であった。 よって、B1薄膜層およびB2a化合物層のそれぞれでは、Si組成は、0.05以上0.25以下であることが好ましく、0.05以上0.2以下であることがより好ましいことも分かった。

    <試料27〜31>
    試料27〜31では、B1薄膜層およびB2薄膜層のそれぞれの厚さが互いに異なる。 試料27、31では、Rzは3μmよりも大きく、切削距離は3〜3.5km程度であった。 一方、試料28〜30では、Rzは3μm以下であり、切削距離は7.5km以上であった。 これらのことから、B1薄膜層およびB2薄膜層のそれぞれの厚さが30nmよりも大きく200nm未満であれば、低速切削時、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性が高まることが分かった。

    また、試料28、29では、Rzは2.5μm程度であり、切削距離は8km程度であった。 よって、B1薄膜層およびB2薄膜層のそれぞれの厚さは、40nm以上180nm以下であることが好ましく、40nm以上180nm以下であることがより好ましいということも分かった。

    <試料32〜36>
    試料32〜36では、B2a化合物層の厚さが互いに異なる。 試料32、36では、Rzは3μmよりも大きく、切削距離は3.5kmであった。 一方、試料33〜35では、Rzは3μm以下であり、切削距離は7.5km以上であった。 これらのことから、B2a化合物層の厚さが0.5nm以上30nm未満であれば、低速切削時、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性が高まることが分かった。

    また、試料33、34では、Rzは2.7μm以下であり、切削距離は8km以上であった。 よって、B2a化合物層は、1nm以上25nm以下であることが好ましく、1nm以上20nm以下であることがより好ましく、1nm以上10nm以下であることがさらに好ましいということも分かった。

    <試料37〜40>
    試料37〜40では、B2b化合物層の組成が互いに異なる。 試料37、40では、Rzは4μm程度であり、切削距離は3km程度であった。 一方、試料38、39では、Rzは2.6μm以下であり、切削距離は8km以上であった。 これらのことから、B2b化合物層のAl組成が0.23以上0.8以下であれば、低速切削時、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性が高まることが分かった。

    また、試料38では、切削距離は8.5kmであった。 よって、B2b化合物層のAl組成は、0.5以上0.75以下であることが好ましく、0.6以上0.75以下であることがより好ましいことも分かった。

    <試料41〜45>
    試料41〜45では、B2b化合物層の厚さが互いに異なる。 試料41、45では、Rzは3.5μmよりも大きく、切削距離は3km程度であった。 一方、試料42〜44では、Rzは2.5μm以下であり、切削距離は8km以上であった。 これらのことから、B2b化合物層の厚さが0.5nm以上30nm未満であれば、低速切削時、表面被覆窒化硼素焼結体工具の耐逃げ面摩耗性、耐クレータ摩耗性および耐境界摩耗性が高まることが分かった。

    また、試料43では、切削距離は9km程度であった。 よって、B2b化合物層の厚さは、1nm以上25nm以下であることが好ましく、3nm以上20nm以下であることがより好ましく、5nm以上20nm以下であることがさらに好ましいということも分かった。

    <試料46〜54>
    試料46〜54では、cBN焼結体の組成が互いに異なるが、Rzは3μm以下であり、切削距離は7km以上であった。 また、試料48〜54では、Rzは2.4μm以下であり、切削距離は9km程度であった。 これらのことから、立方晶窒化硼素焼結体における立方晶窒化硼素の体積含有率は、30体積%以上85体積%以下であることが好ましく、50体積%以上65体積%以下であることがより好ましいということが分かった。

    今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。 本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

    3 基材、10 被覆層、20 D層、30 B層、31 B1薄膜層、32 B2薄膜層、32A B2a化合物層、32B B2b化合物層、40 C層、50 A層。

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