Multi-blade end mill

申请号 JP2012109085 申请日 2012-05-11 公开(公告)号 JP5188638B2 公开(公告)日 2013-04-24
申请人 日立ツール株式会社; 株式会社日立製作所; 发明人 誠 馬場; 純一 平井;
摘要 [Problem] To improve removal of chips generated when performing high feed processing of thin-walled materials such as impellers using a multi-edge endmill. [Solution] In a multi-edge endmill (1) having a cutting edge part (3) provided with multiple cutting edges and flutes (8) formed between cutting edges that are adjacent in the direction of rotation around the tool axis (O), the rake face of the cutting edge is configured from: the rake face (6a) of an end cutting edge (6) from the tool axis (O) to the outer circumference of the shank (2); the adjacent rake face (5a) of a corner R edge (5) that forms a surface different from the rake face (6a) of the end cutting edge (6); and the adjacent rake face (4a) of a peripheral cutting edge (4) that forms a surface different from the rake face (5a) of the corner R edge (5). Between the rake face (6a) of an end cutting edge (6) and the flank (6b) of the end cutting edge (6) that is adjacent on the forward side thereof in the direction of rotation (R), a gash (7), which configures a space that is continuous with the flute (8), is formed, and one surface that configures the gash (7) also serves as the rake face (6a) of the end cutting edge (6).
权利要求
  • シャンク部の先端部側に形成され、工具軸側から前記シャンク部の半径方向外周側へかけて底刃と、底刃に連続するコーナR刃と、コーナR刃に連続する外周刃とから構成される複数枚の切刃を備えた切刃部と、前記工具軸回りの回転方向に隣接する前記切刃間に形成された刃溝を有する多刃エンドミルであって、
    前記切刃のすくい面は、前記工具軸側から前記シャンク部の外周側へかけて前記底刃のすくい面と、前記底刃のすくい面に隣接し、前記底刃のすくい面と異なる面を形成する前記コーナR刃のすくい面と、前記コーナR刃のすくい面に隣接し、前記コーナR刃のすくい面と異なる面を形成する前記外周刃のすくい面から構成され、
    前記外周刃のすくい面は前記コーナR刃側の端部において前記コーナR刃のすくい面に隣接すると共に、前記刃溝を構成する一方の刃溝面を兼ね、前記コーナR刃のすくい面は前記工具軸側の端部において前記底刃のすくい面に隣接し、
    前記底刃のすくい面と、その底刃に回転方向前方側に隣接する底刃の逃げ面との間には、前記刃溝に連続する空間を構成するギャッシュが形成され、前記底刃のすくい面は前記ギャッシュを構成する一方の面を兼ねており、
    前記半径方向に連続する前記底刃と前記コーナR刃をなす凸の稜線上の、前記底刃の逃げ面と前記コーナR刃の逃げ面との間の境界 から、もしくはその境界付近から、前記コーナR刃のすくい面と前記底刃のすくい面との境界線となる凸の稜線が前記刃溝面側へ分岐しながら、前記半径方向工具軸O側へ入り込み、
    この刃溝面側へ分岐した凸の稜線を含む前記コーナR刃のすくい面は前記半径方向に前記底刃の逃げ面と前記コーナR刃の逃げ面とに跨りながら、前記底刃のすくい面と前記外周刃のすくい面の間に位置すると共に、前記外周刃のすくい面と前記コーナR刃の逃げ面との間に位置していることを特徴とする多刃エンドミル。
  • 前記底刃と前記コーナR刃をなす前記凸の稜線から前記刃溝面側へ分岐し、前記半径方向工具軸O側へ入り込んだ凸の稜線の前記工具軸O側の先端に、前記ギャッシュと前記刃溝との境界線と、前記刃溝面と前記外周刃のすくい面との境界線、及び前記外周刃のすくい面と前記コーナR刃のすくい面との境界線の各先端が交わっていることを特徴とする請求項1に記載の多刃エンドミル。
  • 前記ギャッシュを構成する底刃のすくい面とそれに回転方向前方側に対向するギャッシュ面は、前記工具軸に直交する断面S1における前記工具軸を通り、互いに交わる半径方向の直線を含み、互いに前記工具軸上で回転方向に角度ψをなして交わる面をなし、
    少なくとも前記ギャッシュ面は前記工具軸を通る前記一方の半径方向の直線を含む平面に対し、前記シャンク部の先端側から中間部側へかけて回転方向後方側へ傾斜した面をなしていることを特徴とする請求項1 、もしくは請求項2に記載の多刃エンドミル。
  • 前記刃溝は一方の刃溝面を兼ねる前記外周刃のすくい面と、その外周刃のすくい面に前記回転方向前方側に対向する刃溝面とから構成され、
    前記外周刃のすくい面に対向する刃溝面は前記ギャッシュ面に対し、前記切刃部の半径方向内周側から半径方向外周側へかけて前記回転方向前方側へ傾斜すると共に、前記切刃部の先端部側から中間部側へかけて前記回転方向後方側へ傾斜していることを特徴とする請求項 に記載の多刃エンドミル。
  • 前記刃溝の一方の刃溝面を兼ねる前記外周刃のすくい面は前記底刃のすくい面に対し、半径方向外周側、もしくは内周側が回転方向後方側へ傾斜角度ηをなすように傾斜した面をなしていることを特徴とする請求項 に記載の多刃エンドミル。
  • 前記ギャッシュは前記シャンク部を前記工具軸O方向に見たとき、中心角を持った扇形の形状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項 のいずれかに記載の多刃エンドミル。
  • 说明书全文

    本発明は、例えばタービンや過給機等の回転機械装置に使用される薄肉のインペラーやブレード等を、3軸又は5軸制御の工作機械を用いて切削加工して製造するときに、この工作機械に装着して、インペラー等の素材に対して高送り加工を行うことができるように改善した多数の切刃を備えた多刃エンドミルに関するものである。

    タービン、過給機等の回転機械装置に使用される薄肉のインペラー(羽根車)、ブレード等は、例えばインコネル(登録商標)718等のNi基耐熱合金、ステンレス鋼又はチタン合金製の難削性合金素材(難削材)を工作機械の回転軸上に固定した状態で、エンドミル等の切削工具を回転させながら多軸制御を行い、この難削材に対し、荒加工、中仕上げ加工、及び仕上げ加工等、複数の切削加工を施すことにより製造されている。

    この仕上げ加工においては、難削材の素材表面を湾曲した曲面状に仕上げ加工する必要があるため、従来からボールエンドミル、テーパボールエンドミル、あるいは外周刃とコーナ刃と底刃とから構成される刃部を備えたラジアスエンドミルが使用されている。 更に、近年においては、多数の刃部を備えた多刃のラジアスエンドミル(以下、「多刃エンドミル」ともいう)が次第に使用されるようになっている。

    なお、以下の説明において、本発明の多刃エンドミルが切削加工を行う対象物(被削材)であって、薄肉でその表面が湾曲した曲面を有するインペラー、ブレード、ベーン等の薄肉湾曲部材のことを、「インペラー」という名称に統一して説明する。

    工作機械にテーパボールエンドミルやラジアスエンドミル等を装着してインペラーの切削加工を行う従来技術に関し、特許文献1には、大型インペラーに対し、その薄い羽根部に欠けを発生させることなく、精度良く加工する工具(テーパボールエンドミル)を用いた切削方法の発明が提案されている。 この特許文献1の段落0013には、インペラーの素材を回転軸上に固定し、回転するテーパボールエンドミルを3軸制御して、羽根部の表面に沿って数値制御して羽根部を切削加工することが記載されているが、工具自体に加工のための工夫がある訳ではない。

    特許文献2には、複雑な3次元曲面形状を有する車発電装置のランナーベーン等の加工対象物に対し切削加工を行ったのちに、切削加工面に基づいた研削加工を行うことにより精度良く加工を行うことができる3次元曲面加工装置及び3次元曲面加工方法に関する発明が提案されている。 しかしながら、この発明は工具(ボールエンドミル)自体の発明ではない。

    他方、多刃エンドミルに関する従来技術としては、例えば、特許文献3に記載の考案が提案されている。 特許文献3に記載の多刃エンドミルは図2、図4、図8に示されているように、多数の切刃(図4では刃数が16枚)の外周刃を工具軸方向に傾斜させると共に、軸方向に工具先端側から中間部側へかけ、切屑排出のための溝を回転方向前方側から後方側へ向かって傾斜させている。

    特許文献4には、溝切削等の重切削に適するラジアスエンドミルの発明が提案されている。 特許文献4の図7及び図8に示されているラジアスエンドミルは、外周にねじれた外周切れ刃を、底刃の外周側に円弧刃(コーナR刃)をそれぞれ有し、このねじれた外周切れ刃に対し直方向の断面における刃溝面形状が、すくい面から刃底、背面を経て隣接する外周切れ刃の三番面に至る形状曲線が略U字形をなすことにより切屑の排出性を高めている。 また、円弧刃のすくい面を外周切れ刃端から底刃の端部に至るまで円弧刃の切れ刃に沿って連続した凸面とすることにより損傷に対して補強している。

    特許文献5には、工具本体の先端部に伸開線(involute、またはinvolute of circle)の法線(normal)状に形成された多数の切刃を備えたエンドミルが提案されている。 この特許文献5の多刃エンドミルは、切屑の排出性を良好にするために、工具本体の先端部において、外周部からエンドミルの回転中心方向に向けて多数の切刃を中心から外周に向けて回転方向後方側へ傾斜させている。 この多数の切刃はクーラント(又は潤滑)液を供給する供給孔部の外周壁と接するように、工具本体の径方向と角度αをなす向きになるように形成されている。 隣接する切刃の間には、切屑の排出を良好にするための窪み部となるradial clearance surface (39)とchip room (45)が設けられている(FIG.2参照)。

    特許文献6には、高速切削加工を行うために、工具本体の先端部に回転中心軸方向に向かう多数の切刃(cutting teeth)と、この先端部に続く外周部に螺旋状に形成した多数の切刃を形成したエンドミル(MULTI−FLUTED MILLING CUTTER)が提案されている。 この多数エンドミルは、刃数を少なくとも20以上形成した多刃とすることが記載されている(FIG.2参照)。

    WEBページである下記の非特許文献1には、難削材であるチタン合金等の航空機用部材を高能率で切削加工するための多刃エンドミル(Milling Cutter)に係る情報が記載されている。 この多刃エンドミルは、同WEBページに記載されているように、工具本体の先端部と先端部に続く外周面に多数の切刃を形成したものである。

    特開2002−36020号公報

    特開2009−226562号公報

    DE 20 2009 013 808 U1号公報

    特開2003−159610号公報

    WO2010/104453(A1)号公報

    GB2364007(A)号公報

    Technicut 社 WEBページ:Technicut/Optimised Tooling Solutions,2008(http://www.technicut.ltd.uk/aerospace-aeroengine.html)

    特許文献1及び2においては、インペラーを切削加工する工具としてボールエンドミルを使用することが記載されているが、ボールエンドミルの切刃の刃数は一般に「2〜4」に設定されているので、本発明の目的とする高送り加工は実現できていない。

    特許文献3に記載されている多刃のラジアスエンドミルは、インペラーの湾曲した曲面を切削加工するために、工具本体の先端部に設けた複数のクーラント孔の配置や向きを改善した技術に係るものである。 同文献のFIG.4、FIG.8には、多数設けた底刃において、隣接する底刃間に溝部を形成して切屑を外部に排出する構成としたことが示されているが、同特許文献には高送り加工を実施して切屑の排出を良好に行うために、ラジアスエンドミルの底刃、コーナR刃、外周刃、及びこれら切刃のすくい面や逃げ面、更にチップポケットの構成等については具体的に何ら記載されていない。

    特許文献4に開示されているラジアスエンドミルは、溝の切削を行ったときの底刃による切屑の排出性を改善するために、刃溝面を凹曲面状に形成しているが、コーナR刃を使用して切削加工したときの切屑の排出性を改善するためのエンドミルではない。

    また、特許文献4に開示されているラジアスエンドミルの切刃の刃数は4枚の場合だけであり、切刃を6枚以上の多刃にして高送りの切削加工を行う場合に、切刃の構成を如何にするかについては何ら開示されていない。 更に、特許文献4に記載のエンドミルは図2中のすくい面4、刃底5、背面6から隣接する切れ刃の三番面7までU字形の凹曲面状に滑らかに研削されている。 しかし、この凹曲面状部分は、後述する通り、本発明のエンドミルにおける刃溝8及び刃溝面8aに相当する部分であるから本発明のエンドミルとは構造が異なる。 すなわち、特許文献4に記載のエンドミルにおける凹曲面状部分は、本発明のエンドミルにおけるV字状等の空間を構成するギャッシュ7及びギャッシュ面7aではないから、構造上は本発明のエンドミルと相違する。 このため、本発明の目的とする高送り加工を実現することはできない。

    特許文献5には、切屑の排出性を良好にするために、工具本体の先端部において、外周部からエンドミルの回転中心方向に向けて多数の切刃(底刃)を放射状に形成するとともに、隣接する切刃の間に、窪み部(radial clearance surface (39)とchip room (45))を設けたことが開示されている。 しかしながら、この窪み部の具体的な構成、例えば、高送り加工を実施するための底刃、コーナR刃、外周刃及びこれら切刃のすくい面や逃げ面、更にチップポケットの構成等については具体的に何ら記載されていない。

    特許文献6には、工具本体の先端部と、この先端部に続く外周部に、少なくとも20枚以上の多数の切刃を形成したエンドミルが開示されているが、高送り加工を実施するための底刃、コーナR刃、外周刃及びこれら切刃のすくい面や逃げ面、更にチップポケットの具体的な構成等については記載されていない。

    非特許文献1には、難削材であるチタン合金等の航空機用部材を高能率で切削加工するための多刃エンドミルの写真図が開示されているが、多刃とした各切刃を構成する底刃、コーナR刃、外周刃及びこれら切刃のすくい面や逃げ面、更にチップポケットの具体的な構成等については示されていない。

    従って、上記従来技術の問題点を解決すべく、本発明の目的は、高送りの切削加工を行っても、高精度の切削面が得られるとともに、切屑の排出性を顕著に向上させて高効率加工を実現した、多刃のエンドミルを提供することにある。 そして、特に、Ni基超耐熱合金などの難削性合金素材の薄肉の部材からなり、湾曲した曲面から構成されるインペラーの表面を、3軸や5軸のNC工作機械を用いて、例えば軸方向切込み量を1mm以上とするような高送りの仕上げの切削加工を行うことを可能とし、更に、このような高送りの切削加工を行っても、発生する切屑を良好に排出することができる多刃のエンドミルを提供することにある。

    なお、上記した「多刃のエンドミル」とは、工具本体の外周面に形成された外周刃と、この外周刃の一端部に連続し、工具本体の端部外周部に形成されたコーナR刃と、コーナR刃の他の端部に連続し、工具本体の端面(先端)部において工具軸方向に形成された底刃とを1単位の切刃(1枚の刃数)とした場合に、この切刃の刃数(枚数)が6枚以上から構成されたラジアスエンドミルをいう。

    上記した課題を解決するために、請求項1に記載の発明の多刃エンドミルは、シャンク部の先端部側に形成され、工具軸側から前記シャンク部の半径方向外周側へかけて底刃と、前記底刃に連続するコーナR刃と、前記コーナR刃に連続する外周刃とから構成される複数枚の切刃を備えた切刃部と、前記工具軸回りの回転方向に隣接する前記切刃間に形成された刃溝を有する多刃エンドミルであって、
    前記切刃のすくい面が、前記工具軸側から前記シャンク部の外周側へかけて前記底刃のすくい面と、前記底刃のすくい面に隣接し、前記底刃のすくい面と異なる面を形成する前記コーナR刃のすくい面と、前記コーナR刃のすくい面に隣接し、前記コーナR刃のすくい面と異なる面を形成する前記外周刃のすくい面から構成され、
    前記外周刃のすくい面は前記コーナR刃側の端部において前記コーナR刃のすくい面に隣接すると共に、前記刃溝を構成する一方の刃溝面を兼ね、前記コーナR刃のすくい面は前記工具軸側の端部において前記底刃のすくい面に隣接し、
    前記底刃のすくい面と、その底刃に回転方向前方側に隣接する底刃の逃げ面との間には、前記刃溝に連続する空間を構成するギャッシュが形成され、前記底刃のすくい面は前記ギャッシュを構成する一方の面を兼ねており、
    前記半径方向に連続する前記底刃と前記コーナR刃をなす凸の稜線上の、前記底刃の逃げ面と前記コーナR刃の逃げ面との間の境界から、もしくはその境界付近から、前記コーナR刃のすくい面と前記底刃のすくい面との境界線となる凸の稜線が前記刃溝面側へ分岐しながら、前記半径方向工具軸O側へ入り込み、
    この刃溝面側へ分岐した凸の稜線を含む前記コーナR刃のすくい面は前記半径方向に前記底刃の逃げ面と前記コーナR刃の逃げ面とに跨りながら、前記底刃のすくい面と前記外周刃のすくい面の間に位置すると共に、前記外周刃のすくい面と前記コーナR刃の逃げ面との間に位置していることを特徴とする。
    請求項2に記載の発明は請求項1に記載の発明において、前記底刃と前記コーナR刃をなす前記凸の稜線から前記刃溝面側へ分岐し、前記半径方向工具軸O側へ入り込んだ凸の稜線の前記工具軸O側の先端に、前記ギャッシュと前記刃溝との境界線と、前記刃溝面と前記外周刃のすくい面との境界線、及び前記外周刃のすくい面と前記コーナR刃のすくい面との境界線の各先端が交わっていることを特徴とする。

    本発明の望ましい形態としては請求項に記載の通り、シャンク部へのギャッシュと刃溝の形成の様子を模式的に示す図17のように、ギャッシュを構成する底刃のすくい面とそれに回転方向前方側に対向するギャッシュ面が、工具軸に直交する断面S1における工具軸を通り、互いに交わる半径方向の直線AB、AEを含み、互いに工具軸上で回転方向に角度ψをなして交わる面(平面と曲面を含む)をなし、少なくともギャッシュ面が工具軸Oを通る前記一方の半径方向の直線ABを含む平面ABCDに対し、シャンク部の先端側から中間部側へかけて回転方向後方側へ傾斜した面(ねじれ面を含む)ABC'D'をなした状態で、底刃のすくい面(AEFDを含む面)と交わっていることである。 これにより、ギャッシュ7を構成する底刃のすくい面とギャッシュ面が互いに交差する状態になる。

    請求項に記載の発明の望ましい形態としては請求項に記載の通り、前記刃溝が一方の刃溝面を兼ねる前記外周刃のすくい面と、その外周刃のすくい面に前記回転方向前方側に対向する刃溝面とから構成され、前記外周刃のすくい面に対向する刃溝面が前記ギャッシュ面に対し、前記切刃部の半径方向内周側から半径方向外周側へかけて前記回転方向前方側へ傾斜すると共に、前記切刃部の先端部側から中間部側へかけて前記回転方向後方側へ傾斜していることに特徴を有する。
    このことを換言すれば、前記刃溝は一方の刃溝面を兼ねる前記外周刃のすくい面と、その外周刃のすくい面に回転方向前方側に対向する刃溝面とから構成され、刃溝面が、工具軸を通る前記一方の半径方向の直線ABを含む前記傾斜した面ABC'D'をなす請求項におけるギャッシュ面に対し、半径方向外周側、もしくは内周側が回転方向後方側へ傾斜角度ζをなすように傾斜した面(GIKL)をなすことである。 これにより、ギャッシュ7から刃溝8へ送り込まれる(排出される)切屑を刃溝8内で回転方向R後方側へ回り込ませるように作用させることが可能である。

    更に請求項に記載の通り、刃溝面8aの一方の刃溝面を兼ねる外周刃のすくい面4aが底刃のすくい面6a(AEFDを含む面)に対し、半径方向外周側、もしくは内周側が回転方向R後方側へ傾斜角度ηをなすように傾斜した面(GMNH)をなしている場合には、外周刃のすくい面4a(GMNH)が、シャンク部2の外周面より工具軸O側に位置する点Gから外周側の点Mへかけて回転方向R前方側から後方側へ向かう面をなす。 このため、切屑を刃溝8内で回転方向R後方側へ回り込ませるように作用し、切屑の排出性が向上する。
    請求項に記載の発明は請求項1乃至請求項のいずれかに記載の発明において前記ギャッシュが前記シャンク部を前記工具軸O方向に見たとき、中心角を持った扇形の形状に形成されていることを特徴とする。

    前記刃溝と前記ギャッシュの体積の和(チップポケットの体積)は、前記外周刃の形成開始点における多刃エンドミルの刃径が10mm〜30mm、切刃の刃数が6枚〜30枚のときに、25mm 〜120mm の範囲にあることが適切である。

    前記外周刃は図2に示すように、前記シャンク部の工具軸方向に多刃エンドミルの先端部側から中間部側へかけて回転方向後方側へ向かう傾斜(下り傾斜)をなすように形成されて前記コーナR刃に連続すると共に、前記傾斜の工具軸に対する傾斜角度αが5°以上10°以下の範囲に設定されていることが適切である。

    外周刃の形成開始点における多刃エンドミルの刃径が10mm〜30mm、前記切刃の刃数が6枚〜30枚のときに、前記刃溝と前記ギャッシュの体積の和が25mm 〜120mm の範囲にあり、前記外周刃が前記シャンク部の工具軸方向に多刃エンドミルの先端部側から中間部側へかけて回転方向後方側へ向かう傾斜をなすように形成されて前記コーナR刃に連続し、前記傾斜の工具軸に対する傾斜角度αが5°以上10°以下の範囲に設定されていることが適切である。

    図4に示すように、前記底刃のすくい面と、その底刃に回転方向前方側に隣接する底刃の逃げ面との間に形成されているギャッシュの溝と、前記工具軸に直交する断面とのなすギャッシュの角度βは15°以上45°以下の範囲に設定されていることが適切である。 「ギャッシュの溝」は前記のようにギャッシュ7を構成する2面(図2に示す底刃のすくい面6aとギャッシュ面7a)がシャンク部2の軸方向中間部側で交わって形成される溝(交線)であり、シャンク部2の中心側から外周側へかけてシャンク部2の軸方向先端側から中間部側へ向かう傾斜(ギャッシュの角度β)が付いている。

    また図3に示すように、切刃部を多刃エンドミルの先端部側から前記工具軸方向に見たときに、前記底刃と、該底刃の逃げ面における前記シャンク部の回転方向後方側の稜線とがなす角度を底刃の逃げ面の幅の角度aとし、該底刃の逃げ面における前記回転方向後方側の前記稜線と、該底刃に対し前記回転方向後方側に隣接する底刃とがなす角度をギャッシュの開き角度bとしたとき、前記角度bが前記角度aの1.5倍以上3倍以下の範囲となるように前記底刃が配置されていることが適切である。

    更に図5に示すように前記外周刃と前記コーナR刃の繋ぎ部における軸直角断面のすくい角が3°以上10°以下の範囲に設定されていることが適切であり、図6乃至図8に示すように、前記底刃と、前記コーナR刃と、前記外周刃のそれぞれの接線と直交する方向の断面における逃げ角が、前記底刃、前記コーナR刃、前記外周刃ごとに一定に設定されていることが適切である。

    加えて図2に示すように、前記切刃部に形成されている前記切刃の刃長が、外周刃の形成開始点における多刃エンドミルの刃径の30%以上60%以下の範囲に設定されていることが適切であり、図4に示すように前記コーナR刃のR形状部の曲率半径が、外周刃の形成開始点における多刃エンドミルの刃径の10%以上20%以下の範囲に設定されていることが適切である。

    本発明の多刃エンドミルにおいては、少なくとも前記切刃部の表面、好ましくは全表面に、あるいは前記切刃部を含む前記エンドミルの全表面にAlCr系の硬質皮膜が被覆されていることが適切である。

    切刃のすくい面を構成する底刃のすくい面と外周刃のすくい面との間に、両すくい面に隣接し、それぞれの面と異なる面を形成するコーナR刃のすくい面を設けた。 このことで、コーナR刃のすくい面が、ギャッシュを構成する底刃のすくい面と刃溝を構成する外周刃のすくい面との間の段差を緩和し、ギャッシュに入り込んだ切屑の刃溝への排出を誘導する導入部分として作用させることができる。

    またコーナR刃のすくい面は外周刃のすくい面とコーナR刃の逃げ面との間で両面間の段差を緩和することで、外周刃のすくい面が構成する刃溝の空間の容積(体積)を増加させ、刃溝内での切屑の滞留(溜まり)を生じにくくする。 この結果、切屑をギャッシュから刃溝へ排出する効果を促す作用も果たすため、切削加工時に発生する切屑の排出性を良好にすることができる。

    本発明において、ギャッシュを構成する底刃のすくい面とそれに回転方向前方側に対向するギャッシュ面を互いに交差する面となるようにそれぞれの面を形成すれば、剛性を損なわずにギャッシュの空間を大きく稼ぐことが可能になる。 このことにより、ギャッシュから刃溝へかけての切屑の排出性をさらに向上させることができ、難削性合金素材を被削材として、従来に比べて切込み量を深くして高送りの切削加工を行った場合でも、高精度でかつ安定した高送り加工を長寿命にわたり行うことができる。

    本発明の多刃エンドミルの一実施形態を示す側面図である。

    図1に示す多刃エンドミルの切刃部の部分拡大図である。

    図2に示す多刃エンドミルの切刃部を端面側から工具軸方向に見た様子を示した端面図である。

    図2に示す多刃エンドミルの切刃部に形成されている1枚の切刃を構成する底刃とコーナR刃及び外周刃の関係を示した断面図である。

    図4の繋ぎ部P2におけるすくい角P2sと逃げ角P2nの関係を示したC−C線断面図である。

    図4におけるA−A線断面図である。

    図4のコーナR刃における逃げ角5nとすくい角5sの関係を示したB−B線断面図である。

    図4の外周刃における逃げ角4nとすくい角4sの関係を示したD−D線断面図である。

    切刃が10枚の場合の本発明の多刃エンドミルの切刃部を端面側から工具軸方向に見た様子を示した端面図である。

    切刃が15枚の場合の本発明の多刃エンドミルの切刃部を端面側から工具軸方向に見た様子を示した端面図である。

    本発明の多刃エンドミルの切刃部を先端部側からシャンク部側へ見た様子を示す斜視図である。

    本発明例1の多刃エンドミルと比較例1の多刃エンドミルに対し、実験例1による切削加工実験を実施した後の、切刃の逃げ面の摩耗状況を示す写真である。

    本発明例1の多刃エンドミルと比較例1の多刃エンドミルに対し、実験例1による切削加工実験を実施した後の、切刃のすくい面の摩耗状況を示す写真である。

    本発明例2の多刃エンドミルと比較例2の多刃エンドミルに対し、実験例2による切削加工実験を実施した後の、切刃の逃げ面の摩耗状況を示す写真である。

    本発明例2の多刃エンドミルと比較例2の多刃エンドミルに対し、実験例2による切削加工実験を実施した後の、切刃のすくい面の摩耗状況を示す写真である。

    外周刃が工具軸方向にほぼ平行に形成されている場合の本発明の多刃エンドミルの他の実施形態を示す側面図の拡大図である。

    本発明の多刃エンドミルのギャッシュを構成する底刃のすくい面とギャッシュ面、並びに刃溝を構成する外周刃のすくい面と刃溝面の形成の様子を模式的に示したモデル図である。

    本発明の多刃エンドミルの先端部をシャンク部側から見た様子を示した斜視図である。

    従来の多刃エンドミルの切刃部に形成されている1枚の切刃を構成する底刃とコーナR刃及び外周刃の関係を示した断面図である。

    特許文献3に記載のエンドミルの先端部をシャンク部側から見た様子を示した斜視図である。

    特許文献3に記載のエンドミルの先端部を先端部側からシャンク部側へ見た様子を示す斜視図である。

    本発明の多刃エンドミルのギャッシュを、工具軸に平行で、かつ回転方向に沿って隣り合ったギャッシュ面と底刃のすくい面の2面に交わる平面で切断したときの断面図である。

    特許文献3に記載のエンドミルのギャッシュを、工具軸に平行で、かつ回転方向に沿って向かい合ったギャッシュ面と底刃のすくい面の2面に交わる平面で切断したときの断面図である。

    従来は、例えば湾曲した曲面から構成されるインペラーの難削性合金素材の表面を3軸や5軸のNC工作機械を用いて高送りの切削加工を行う場合、切削加工を開始すると非常に短時間で発生した切屑の排出が困難になり、高送り加工ができなかった。 この問題を解決すべく、本発明では、切屑を良好に排出させるために、ラジアスエンドミルの切刃部3の構造に着目し、切刃部3として、新規でかつ独創的な構造を採用したものである。 具体的には切刃部3を構成する底刃6、コーナR刃5及び外周刃4から構成される各切刃の形状を改善したことにより、隣り合う切刃の間に形成されるギャッシュ7や刃溝8の空間部から構成される1刃当たりのチップポケットCPの体積を大きく確保することを可能にし、もって従来困難であった高送り加工を実現した。

    特に限定されないが、例えばNi基耐熱合金製素材を被削材とする場合、「高速度加工」とは、一般的に、好ましくは切削速度Vcが60〜80mm/minの加工をいう。 切削速度Vcが60mm/min未満であれば、切削性が下がる。 このため、切削抵抗が過大となる。 切削速度Vcが80mm/minを超えれば、切削温度が非常に高くなる。 このため、エンドミル1の磨耗の促進や、溶着が発生する。 更に被削材とエンドミルの擦過が過大となるため、特に逃げ面の磨耗が多くなる。 このことから、例えばNi基耐熱合金製素材を被削材とする場合においては、切削速度Vcのより好ましい範囲は65〜80mm/minであり、更に好ましい範囲は70〜80mm/minとなる。

    特に限定されないが、例えばNi基耐熱合金製素材を被削材とする場合、「高送り加工」とは、一般的に、好ましくは送り速度Vfが1000〜3000mm/minの加工をいう。 送り速度Vfが1000mm/min未満であれば、能率が低くなる。 一方、送り速度Vfが3000mm/minを超えれば、切屑の発生量が過大となるため、切屑詰まりが発生し易くなる。 送り速度Vfのより好ましい範囲は1500〜3000mm/minであり、更に好ましい範囲は1800〜3000mm/minである。

    また、1枚当たりの切れ刃にて実現可能となる実質的な切削の能率は、送り速度、回転数及び刃数から導き出される1刃当りの送り量fz[mm/t]と、径方向切込み量ae[mm]と、軸方向切込み量ap[mm]とで決定される。 従来の多刃エンドミルでは、1刃当りの送り量fzが0.03〜0.06mm/t、径方向切込み量aeが0.4〜0.6mm、軸方向切込み量apが0.4〜0.6mm程度の能率でしか実用上の切削寿命(インペラーの仕上げ加工を、工具の取替えを行わずに完了するために必要となる寿命)を確保することができない。 しかし、本発明の多刃エンドミルでは、1刃当りの送り量fzが0.08〜0.3mm/t、径方向切込み量aeが1〜10mm、軸方向切込み量apが0.8〜2.0mmというような非常に高能率な切削条件にて切削加工が可能である。 そのため、上記のような非常に高能率な切削条件においても実用上の切削寿命を確保できることが本発明を使用する際の大きな利点となる。

    前記したように、高送りで高能率な切削加工を行うための本発明の多刃エンドミル1が備えている構成上の主要な特徴は、下記の特徴1と特徴2にある。
    (特徴1):切刃のすくい面が、底刃6のすくい面6aと、すくい面6aに連続したコーナR刃のすくい面5aと、すくい面5aに連続した外周刃のすくい面4aから構成されるようにしていること。
    (特徴2):底刃6のすくい面6aと、その底刃6に回転方向前方側に隣接する底刃6の逃げ面6bとの間に、前記刃溝8に連続する空間を構成するギャッシュ7が形成されていること。
    これら2つの特徴1と特徴2により、主として切削加工時に用いられるコーナR刃5より発生する切屑を、隣り合う切刃の間に成形されたギャッシュ7と、このギャッシュ7と連通する刃溝8を介して容易に外部に排出することが可能になる。 このため、高送りの切削加工を実施しても切屑詰りを防止することが可能になる。 その結果として切刃に損傷の発生が防止できることになる。

    以下、本発明の多刃エンドミル1の実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。
    図1〜図3は、本発明の一実施形態を示す多刃エンドミル1の構成を説明するための図である。 図1は本発明の多刃エンドミル1の一実施形態を示す側面図である。 図2は図1に示す多刃エンドミル1の切刃部3の部分拡大図である。 図3は図2に示す多刃エンドミル1の切刃部3を端面側から工具軸O方向に見た様子を示した端面図である。

    図1に示すように、本発明の一実施形態を示す多刃エンドミル1は、工具軸(回転中心軸)O方向に所定の長さを有する円柱状をなすシャンク部2と、シャンク部2の一方の端部(多刃エンドミルの先端部1a側)に形成した切刃部3を備えている。 切刃部3には、図2に示すように、外周刃4と、外周刃4の一方の端部であって多刃エンドミルの先端部1a側の端部に連続し、略円弧もしくは凸曲線状(R形状)に形状されたコーナR刃5と、コーナR刃5の他方の端部に連続した底刃6とから構成される切刃を1単位(1枚)として、複数枚の切刃が形成されている。 なお本発明において、多刃エンドミル1の先端部1aは、本発明の多刃エンドミル1において切刃部3が設けられた方の先端部を示す。

    コーナR刃5は、先端部1a側の周辺部にR形状(round shape)(曲線状、あるいは曲面状)をなす切刃として配置されている。 底刃6は、コーナR刃5の他方の端部に連続し、工具軸O近傍まで直線状に形成されている。 従って、多刃エンドミル1はラジアスエンドミルの一種とみなすことができる。 なお本発明の多刃エンドミル1において、先端部1a側に対向する側の端部は工作機械に把持される部分になる。

    図4は図2に示す多刃エンドミル1の切刃部3に形成されている1枚の切刃を構成する底刃6とコーナR刃5及び外周刃4の関係を示した断面図である。 本発明の多刃エンドミル1における切刃のすくい面は、工具軸O側からシャンク部2の外周へかけて底刃6のすくい面6aと、底刃6のすくい面6aに隣接し、底刃6のすくい面6aと異なる面を形成するコーナR刃5のすくい面5aと、コーナR刃5のすくい面5aに隣接し、コーナR刃5のすくい面5aと異なる面を形成する外周刃4のすくい面4aから構成される。

    図11は本発明の多刃エンドミル1の切刃部3を先端部1a側からシャンク部2側へ見た様子を示す斜視図である。 図4及び図11に示すように、外周刃4のすくい面4aはコーナR刃5側の端部においてコーナR刃5のすくい面5aに隣接すると共に、刃溝8を構成する一方の刃溝面を兼ねる。 コーナR刃5のすくい面5aは工具軸O側の端部において底刃6のすくい面6aに隣接する。 底刃6のすくい面6aと、その底刃6に回転方向R前方側に隣接する底刃6の逃げ面6bとの間には、刃溝8に連続するギャッシュ7が形成され、底刃6のすくい面6aはギャッシュ7を構成する一方の面を兼ねている。 また、図11に示すように切刃を回転方向R(シャンク部2の周方向)に見たときには、コーナR刃5のすくい面5aは外周刃4のすくい面4aとコーナR刃5の逃げ面5bとの間に位置する。 刃溝8は外周刃4のすくい面4aとそれに回転方向R前方側に対向する刃溝面8aとから構成される。

    続いて、切刃部3の構成を図2及び図3に基づいて詳細に説明する。 外周刃4は、多刃エンドミル1の先端部1a側であって、外周刃4のシャンク部2側の端縁であるP1点(図2参照)から多刃エンドミルの先端部1a側方向に、工具軸Oに対する角度α(図2参照)をなして下り傾斜するように(P1点を通る外周刃4の接線と工具軸Oとのなす角度がαとなるように)形成されている。 P1点は、外周刃4を多刃エンドミル1(シャンク部2)の外周面から先端部1a側方向に形成した、形成の開始点(以下、「形成開始点」という)になる。 以下の説明において、P1点のことを「外周刃の形成開始点P1」と記載する。

    外周刃4の形成開始点P1から傾斜角度αで下り傾斜している外周刃4は、図2に示すように、その端部(P1点を通る外周刃4の接線の端部)となるP2点においてコーナR刃5に連続している。 従って、P2点は、外周刃4とコーナR刃5とを繋ぐ繋ぎ点(以下の説明において、外周刃とコーナR刃との繋ぎ部P2と記載する。)となる。 コーナR刃5は、多刃エンドミル1を周方向に見たとき、図4に示すように外周刃とコーナR刃との繋ぎ部P2から先端部1a側方向に向かって所定の曲率半径(コーナR刃5のR形状部の曲率半径r1)を有するR形状、又は凸状の曲線をなすように形成されている。

    外周刃4の切刃となる稜線部は、図2に示すように直線状、もしくは凸形状をなすように形成され、工具軸Oに対し、傾斜角度αをなして傾斜し、外周刃4とコーナR刃5との繋ぎ部P2においてコーナR刃5に連続している。 また、外周刃4は工具軸Oに対し、例えば20°のねじれ角θをもってねじれている。 コーナR刃5に連続した底刃6は、図2、図4に示すように先端部1a側における外周部近傍から工具軸O方向に向かって、工具軸Oの近傍まで直線状に形成されている。 なお、図2においてギャッシュ面7aはギャッシュ7を構成する一方の面、刃溝8は工具軸回りの回転方向に隣接する前記切刃間に形成された空間である刃溝、刃溝面8aは刃溝8を構成する一方の面を示している。

    本発明の多刃エンドミル1は、上記したように、外周刃4と、外周刃4に連続したコーナR刃5と、コーナR刃5に連続した底刃6とを一つの切刃とし、更に、これら切刃ごとにすくい面4a、5a、6a及び逃げ面4b、5b、6bを備えている。 そして、これら連続した外周刃4とコーナR刃5と底刃6を一つ(1枚)の切刃の単位として、少なくとも6枚以上30枚以下の多刃からなる切刃を備えていることに特徴がある。 なお、この切刃の枚数は、切削加工時の効率向上と超硬合金製の多刃エンドミル1を製造するときの容易性等を考慮すると、最大20枚程度に設定することがより好ましい。

    本発明の多刃エンドミル1は、上記したように多刃の切刃から構成された切刃部3を備えており、3軸や5軸のNC工作機械を用いて、難削性合金製等のインペラーをコーナR刃5を用いて高送りで仕上げの切削加工を行っても、コーナR刃5の耐摩耗性の向上とチッピング等の欠損発生の抑制、及び切屑が良好に排出されるように、切刃部3に種々の改善を施したことに特徴がある。

    以下、本発明の多刃エンドミル1が備えている特徴について詳しく説明する。
    この特徴の一つは、コーナR刃5にすくい面5aを設けたことにある。 図19は従来の多刃エンドミルの切刃部に形成されている1枚の切刃を構成する底刃とコーナR刃及び外周刃の関係を示した断面図である。 従来、インペラーの切削加工に用いられるエンドミルにおいては、図19に示すように、コーナR刃5にはすくい面を設けることなく、底刃6のすくい面6aを外周刃4のすくい面4aに連続した構成とされていた。 このような構成ではインペラーの切削加工において、主に用いられるコーナR刃5の外周部分の角部が鋭角になり易く、折損し易いため、本発明が目的としているような高能率での高送りの切削加工を行った場合に、コーナR刃5の欠損が発生してしまう可能性が高い。

    本発明の多刃エンドミル1の先端部1aをシャンク部2側から見た様子を示す図18と、特許文献3のエンドミルをシャンク部側から見た様子を示す図20との対比から分かるように、コーナR刃5のすくい面5aが形成されていない場合、外周刃4のすくい面4aとコーナR刃5の逃げ面5bとの境界に形成されるコーナR刃5の角度(外周刃のすくい面4aとコーナR刃の逃げ面5bのなす角度)が小さい(鋭角に近い)ため、高送り加工を行うと、コーナR刃5が切削時の応により短寿命で破損(破断)し易い。

    それに対し、図4、図18に示す本発明の多刃エンドミルのように外周刃のすくい面4aとコーナR刃の逃げ面5bとの間にコーナR刃のすくい面5aが形成されている場合には、回転方向Rに隣接する2面、すなわち外周刃のすくい面4aとコーナR刃のすくい面5a、及びコーナR刃のすくい面5aとコーナR刃の逃げ面5bのなす角度が大きくなる(角部が鈍角になる)。 このため、高送り加工を行うと、コーナR刃のすくい面5aがない場合よりコーナR刃5の破損(破断)が抑制され、長寿命になる。

    コーナR刃5のすくい面5aは更に、外周刃4のすくい面4aとコーナR刃5の逃げ面5bとの間で両面間の段差を緩和することで、外周刃のすくい面4aが構成する刃溝8の空間の容積(体積)を増加させることにも寄与し、刃溝8内での切屑の滞留(溜まり)を生じにくくし、刃溝8への排出効果を促す作用も果たす。

    また、コーナR刃5のすくい面5aは底刃6のすくい面6aと外周刃4のすくい面4aの間に位置することで、ギャッシュ7を構成する底刃6のすくい面6aと刃溝8を構成する外周刃4のすくい面4aとの間の段差を緩和し、ギャッシュ7に入り込んだ切屑の刃溝8への排出を誘導する導入部分として作用する。 コーナR刃5のすくい面5aはまた、外周刃4のすくい面4aとコーナR刃5の逃げ面5bとの間に位置することで、刃溝8を構成する外周刃4のすくい面4aとコーナR刃5の逃げ面5bとの間の段差を緩和すると共に、コーナR刃5がインペラー(被削材)の切削時にインペラー(被削材)から受ける過度の応力を緩和させ、コーナR刃5の破損を防止する働きをする。

    図3は、本発明の多刃エンドミル1を、工具軸O方向からみたときの切刃部3の先端部側の構成を示す図でもあって、多刃エンドミル1に12枚の切刃を設けた例を示している。 また図3は、外周刃4の逃げ面4b、コーナR刃5、コーナR刃の逃げ面5b、底刃6、底刃6の逃げ面6b、ギャッシュ7(ギャッシュ面7a)、及び刃溝8(刃溝面8a)の配置を平面図で示している。 なお、図3に示す符号「R」は、切削加工を行うときの多刃エンドミル1の回転方向を示す。

    なお、図2、図3、図11、図18等では半径方向に隣接する底刃6の逃げ面6bとコーナR刃5の逃げ面5bとの間、及びコーナR刃5の逃げ面5bと外周刃4の逃げ面4bとの間に境界を示す線が入れられているが、実際にはこの線は肉眼では見えないこともある。 例えば隣接する底刃6の逃げ面6bとコーナR刃5の逃げ面5b、及びコーナR刃5の逃げ面5bと外周刃4の逃げ面4bが面内方向(周方向)に見たときのクロソイド曲線のように隣接する曲面(平面を含む)曲率が次第に変化するような場合には境界の線は見えない。 しかし、曲率が変化する部分には線が見えることになる。

    図3に示す、12枚の切刃を構成するそれぞれの外周刃4、コーナR刃5、底刃6は、工具軸Oを中心にして等間隔に形成されている。 更に、ある底刃6のすくい面6aと、前記底刃6とは回転方向Rに対して隣り合っている別の底刃6の逃げ面6bとの間にはギャッシュ7が形成されている。 ギャッシュ7は底刃6の逃げ面6bの、回転方向R後方に連続し、底刃6の逃げ面6bと異なる面を形成するギャッシュ面7aと、その底刃6に回転方向R前方に隣接する底刃6のすくい面6aとによって形成される。 なお、ギャッシュ7を構成する底刃6のすくい面6aとギャッシュ面7aは共に、回転方向Rに対して所定の角度ほど後退した平面、すなわち多刃エンドミル1の工具軸Oに直交する断面で見たとき、ある工具軸Oに直交する断面から軸方向へ移動した他の工具軸Oに直交する断面にかけて、半径方向から回転方向R後方側へ向かう傾斜をなすように形成されている。

    図18は本発明の多刃エンドミル1の先端部1aをシャンク部2側から見た様子を示した斜視図である。 図11及び図18に示すように、本発明の多刃エンドミル1では、底刃のすくい面6aとギャッシュ面7aが共に、ある工具軸Oに直交する断面から軸方向へ移動した他の工具軸Oに直交する断面にかけて、半径方向の直線上から回転方向R後方側へ移動した半径方向に平行な直線へ向かう傾斜をなし、それぞれの面が異なる面(平面、もしくは曲面)をなすことで、それらの2面が交わる交線がギャッシュ7の最深部になる。

    図20は特許文献3に記載のエンドミルの先端部をシャンク部側から見た様子を示した斜視図である。 図21は特許文献3に記載のエンドミルの先端部を先端部側からシャンク部側へ見た様子を示す斜視図である。 図20及び図21に示す特許文献3に記載のエンドミル13におけるギャッシュ7のように、底刃6のすくい面6aとギャッシュ面7aが平行になるようにギャッシュ7が形成されているとすれば、底刃のすくい面6aとギャッシュ面7aは交わることがなく、交線は形成されない。 このため、2面とは別の平面であるギャッシュ底面14がギャッシュ7の底(最深部)になる。 以上のように本発明と特許文献3に記載のエンドミルはギャッシュ7を形成する面の構造が明確に異なる。

    図3ではギャッシュ面7aは工具軸Oの近傍から外周方向に向かって、その幅が徐々に拡張する平面のように見えるが、実際には底刃6の逃げ面6bの端部から隣り(回転方向Rと逆方向)の底刃6のすくい面6aの下端部に向かって回転方向R後方に例えば45°傾斜させた平面状に形成されている。 このギャッシュ面7aと、底刃のすくい面6aとにより形成される空間部は、切屑を排出するためのギャッシュ7を形成しており、このギャッシュ7は刃溝8に連通している。 ギャッシュ面7aと底刃6のすくい面6aの交線は工具軸Oから半径方向外周側へ向かい、先端部1a側からシャンク部2側へ傾斜する。

    ギャッシュ7に連続する刃溝8は前記のように外周刃4のすくい面4a(図11参照)とそれに回転方向R前方側に対向する面(刃溝面8a)とで構成される。 外周刃4のすくい面4aと刃溝面8aはそれぞれギャッシュ7を構成する底刃6のすくい面6aとギャッシュ面7aと連続する面、あるいは曲率が連続的に変化する面をなすこともあるが、ギャッシュ7と刃溝8が互いに不連続な面をなすことで、多刃エンドミル1(シャンク部2)の回転による切屑の刃溝8への排出性を高めることが可能である。

    刃溝8の空間とギャッシュ7の空間を合わせた空間部は、後述のように「チップポケットCP」と呼ばれる。 このチップポケットCPの容積(体積)はシャンク部2の径と刃数が一定であれば、大きい方が切屑の排出効果が高いため、切屑の排出上はギャッシュ7の空間と刃溝8の空間の少なくともいずれかを大きく確保することが望ましい。 そこで、例えばギャッシュ7を構成する底刃6のすくい面6aとそれに回転方向R前方側に対向するギャッシュ面7aが互いに交差するようにそれぞれの面を形成すれば、剛性を損なわずにギャッシュ7の空間を大きく稼ぐことが可能になる。

    このように、ギャッシュ面7aと底刃6のすくい面6aとにより形成される空間部であるギャッシュ7を形成することにより、高能率で高送りの切削加工を行った場合においても、底刃6の剛性不足による欠損やチッピングの発生を防止できる。 更に、底刃6により形成される切屑を効率良く刃溝8に運ぶことが可能となるので、ギャッシュ7の空間部における切屑の詰まりを防止することができる。

    前記ギャッシュ7の断面形状はV字状またはU字状に形成することが好ましい。 この構成により、後述するチップポケットCPの体積を増大させることが可能となり、高送りの切削加工により発生した多量の切屑の排出性を顕著に改善することができる。 このため、難削性合金素材を被削材とした場合に、従来困難であった高送り加工を実現することができる。

    図22はギャッシュ7を、工具軸Oに平行で、かつ回転方向に沿って隣り合ったギャッシュ面7aと底刃6のすくい面6aの2面に交わる平面で切断したときの断面図である。 図22における斜線は断面線を示す。 図22(a)に示すように、本発明のエンドミルにおいて、ギャッシュ面7aと底刃6のすくい面6aとにより形成される空間部であるギャッシュ7の断面形状は、理想的にはV字状、もしくはそれに近い形状であることが望ましい。

    しかしながら、工業生産上、図22(b)に示すように、ギャッシュ7の最深部には微小なギャッシュ底面の幅w1を有するギャッシュ底面14が形成されており、略V字状のギャッシュ7が許容される。

    本発明の多刃エンドミルのギャッシュ7の変形例として、曲面で構成されたU字状のギャッシュ7に加え、図22(c)に示すように、緩やかな曲面状のギャッシュ面7aと緩やかな曲面状の底刃6のすくい面6aとにより形成されるほぼU字状のギャッシュ7の最深部に微小な幅w1を有するギャッシュ底面14を形成した略U字状のものが許容される。 つまり、本発明の多刃エンドミル1における底刃6のすくい面6a及びギャッシュ面7aの形状には、厳密な平面で構成される場合と、緩やかな曲面で構成される場合が含まれる。

    以下、本発明の多刃エンドミル1において、上記のV字状、U字状、略V字状及び略U字状のギャッシュ7をいずれも一同に「V字状のギャッシュ」と呼ぶこととする。 また、図22(b)及び図22(c)には、ギャッシュ底面14が平面状に形成されたギャッシュ7を示したが、図22(d)に示すように、ギャッシュ底面14が微少な曲率半径を有する曲面状に形成された場合にも、本発明におけるギャッシュ7とする。

    図22(a)、図22(b)及び図22(c)の場合については、実験結果から、本発明の有利な効果を奏するために、微小なギャッシュ底面14の円周方向の幅であるギャッシュ底面の幅w1は、0.6mm以下であることが好ましく、0.4mm以下であることが更に好ましいことが分かった。 ギャッシュ底面14の幅w1が0.6mm超ではギャッシュ底面14の幅w1の増大と共に、底刃6による切屑の排出性が低下するため、高送りの切削加工ができるという、従来のエンドミルに対する優位性が損なわれるからである。

    図23は特許文献3に記載のエンドミルのギャッシュを、工具軸に平行で、かつ回転方向に沿って向かい合ったギャッシュ面7aと底刃6のすくい面6aの2面に交わる平面で切断したときの断面図である。 図23における斜線は断面線を示す。 図23に示すように、従来のエンドミルである特許文献3に記載のエンドミルの場合、本発明の多刃エンドミルとは異なり、向かい合うように配置されたギャッシュ面7aと底刃のすくい面6aとを有するギャッシュ7の最深部には、広いギャッシュ底面の幅w2を有するギャッシュ底面14が形成されている。 特許文献3に記載のエンドミルにおいては、一端が開口した断面矩形状のギャッシュ7の最深部のギャッシュ底面の幅w2は0.9mmであり、本発明の多刃エンドミルにおけるギャッシュ底面の幅w1よりはるかに大きかった。

    続いて、本発明の多刃エンドミル1の特徴の一つである、底刃6のすくい面6aと、コーナR刃5のすくい面5aと、外周刃4のすくい面4aとの位置関係を、図4を参照して説明する。 図4では、1枚の切刃を構成する底刃6とコーナR刃5及び外周刃4の関係を示した断面図を示している。

    図4に示すように、底刃6には、その切刃稜線が回転方向Rに向かう面には、工具軸O近傍から外周刃4がある方向に向かって底刃のすくい面6aが形成されている。 図4では底刃6のすくい面6aは平面状に形成され、前記したように、回転方向Rに対して所定の角度ほど後退した、すなわち多刃エンドミル1の端面からシャンク部2へかけて回転方向R前方側から後方側へ向かって傾斜した平面状をなすように形成しているので、前記したチップポケットCPの体積(V)が大きく確保されている。

    コーナR刃5の切刃稜線が回転方向Rに向く面には、緩やかな凸状の曲面をなすコーナR刃5のすくい面5aが形成されている。 凸状の曲面をなすコーナR刃5のすくい面5aは、コーナR刃5の切刃稜線に向けて若干、下り傾斜をなすように湾曲させて形成されている。 また、底刃6のすくい面6aの外周刃4側の端部の一部は、このコーナR刃5のすくい面5aに連続している。 このように凸状の曲面をなしているすくい面5aを備えたコーナR刃5は、図19に示すコーナR刃5にコーナR刃のすくい面5aを設けていない従来のエンドミルと比較して、角部の鋭角の度合いが緩和されるため、コーナR刃5の摩耗やチッピング発生を抑制することができるようになる。 コーナR刃のすくい面5aは例えば多刃エンドミル1をNC研削盤に固定した状態で、ダイヤモンド砥石の側面をコーナR刃5に当てることにより形成される。

    外周刃4の切刃稜線が回転方向Rに向く面には、すくい面4aが形成される。 この外周刃4のすくい面4aは、緩やかな凸状の曲面をなすように形成されることが望ましい。 図4、図11に示すように、外周刃4のすくい面4aの底刃6側の端部は、コーナR刃5のすくい面5aに連続し、工具軸O側の端部は底刃6のすくい面6aに連続している。 外周刃4のすくい面4aは、外周刃4の形成開始点P1を越え、シャンク部2の外周部まで半径方向の工具軸O側へ切り込むように形成されている。 シャンク部2の外周部まで形成されたすくい面4aは、前記のように刃溝8を構成する少なくとも2枚の刃溝面の内の一方の刃溝面を兼ねている。 図4に示す符号「9」は、底刃6のすくい面6aとギャッシュ面7a(図2参照)との境界線を示している。 この境界線9は、工具軸O近傍から外周方向に向かい、先端部1a側からシャンク部2へ傾斜している。

    前記したように、ギャッシュ面7aと底刃6のすくい面6aとの間にV字状のギャッシュ7が形成され、このV字状のギャッシュ7と刃溝8とが、切屑を円滑に排出するためのチップポケットCPを形成している。 底刃6のすくい面とギャッシュ面7aとの境界線9は、工具軸O近傍から外周方向に向かって傾斜しているため、1刃当たりのチップポケットCPの体積(V)を大きくする効果を奏している。

    本発明の多刃エンドミル1においては、上記したように、底刃6のすくい面6aは平面状、もしくは曲面状をなすように形成される。 コーナR刃5のすくい面5a及び外周刃4のすくい面4aも平面状、もしくは緩やかな曲面状をなすように形成される。 図4に示すようにコーナR刃5のすくい面5aと外周刃4のすくい面4aは共に、底刃6のすくい面6aに対し、回転方向R後方側に位置するように段差部10を介してすくい面6aに連続する。

    例えばコーナR刃5のすくい面5aと外周刃4のすくい面4aが、底刃6のすくい面6aと平行か、回転方向R前方側に位置するように形成されると、コーナR刃5もしくは底刃6が切削した切屑が底刃6のすくい面6a側へ向かい、工具軸O近傍に切屑が集まり、切屑の噛み込み、切刃のチッピングを発生させる可能性がある。 これに対し、コーナR刃5のすくい面5aと外周刃4のすくい面4aが底刃6のすくい面6aに対し、回転方向R後方側に位置することで、切屑が工具軸O側から半径方向外周側へ排出される傾向になるため、チップポケットCPから刃溝8方向への排出の流れが円滑に生じ易くなる。

    本発明における「底刃6のすくい面6aに隣接し、底刃6のすくい面6aと異なる面を形成するコーナR刃5のすくい面5a」とは、コーナR刃5のすくい面5aが底刃6のすくい面6aに連続した曲面を形成することと、連続した曲面ではなく、互いに異なる平面、もしくは曲面を形成しながら、隣接する面をなすことを言う。 「コーナR刃5のすくい面5aに隣接し、コーナR刃5のすくい面5aと異なる面を形成する外周刃4のすくい面4a」も同様のことをいう。 コーナR刃5のすくい面5aは底刃6のすくい面6aと外周刃4のすくい面4aの双方に隣接することで、シャンク部2の半径方向に見たとき、あるいはシャンク部2の周面に沿った軸方向に見たとき、底刃6のすくい面6aと外周刃4のすくい面4aの間に位置する。

    なお、外周刃4は必ずしも図2に示すように「外周刃4の形成開始点P1」を通る外周刃4の接線と工具軸Oとが角度αをなすように形成されている(外周刃4が工具軸O方向に傾斜角度αを持って下り傾斜している)必要はなく、図16に示すように外周刃4が工具軸O方向にほぼ平行に形成されている場合もある。 図16は図2に示す外周刃4の傾斜角度αを「0°」、すなわち外周刃4を工具軸Oに対して平行になるように形成した場合である。

    図16に示すように外周刃4の傾斜角度αを「0°」とした場合、外周刃4の形成開始点における多刃エンドミル1の刃径はL1になる。 この多刃エンドミル1を、5軸のNC工作機械で把持させてインペラーの切削加工を行う際には、多刃エンドミル1の傾き制御と、インペラー自体の傾き制御とをNC制御により実施することが必要になるので、この制御により外周刃4のインペラー加工面への食い込み制御も行うことができる。 これにより、外周刃4の傾斜角度αを「0°」とした多刃エンドミル1においても、図2に示す外周刃4の傾斜角度αを設定(αは5°以上10°以下)した多刃エンドミル1と同様の効果を得ることができる。

    図17は本発明の多刃エンドミル1のギャッシュ7を構成する底刃6のすくい面6aとギャッシュ面7a、並びに刃溝8を構成する外周刃4のすくい面4aと刃溝面8aの形成の様子を模式的に示したモデル図である。 本発明の多刃エンドミル1においては、図17に破線で示す、底刃6のすくい面6aとギャッシュ面7aが交わる線(交線)がギャッシュ7の底(最深部)である。 このギャッシュ7の底は工具軸Oから半径方向外周側へかけて多刃エンドミル1の先端部1a側から中間部側へ向かう傾斜が付く。

    図17に示すように、ギャッシュ7を構成する底刃6のすくい面6aとそれに回転方向前方側に対向するギャッシュ面7aが共に、工具軸Oに直交する断面S1における工具軸Oを通る半径方向の直線AB、AEを含み、互いに工具軸O上で回転方向に角度ψをなして交わる面(平面と曲面を含む)をなす。 更に図17において、少なくともギャッシュ面7aが工具軸Oを通る半径方向の直線ABを含む平面ABCDに対し、シャンク部2の先端1a側から中間部側へかけて回転方向後方側へ傾斜した面(ねじれ面を含む)ABC'D'をなした状態で、底刃6のすくい面6a(AEFDを含む面)と交わっていることで、ギャッシュ7を構成する底刃6のすくい面6aとギャッシュ面7aが互いに交差する状態になる。

    角度ψは10°〜35°にするのが好ましく、15°〜30°にするのがより好ましい。 角度ψが10°未満では切屑の排出性が低下する傾向が認められ、35°超では切削加工条件の選択の幅が狭くなる傾向が認められる。

    前記した「少なくともギャッシュ面7a」とは、ギャッシュ7を構成するもう一方の面である「底刃6のすくい面6a」も工具軸Oを通る半径方向の直線ABを含む平面ABCDに対し、シャンク部2の先端部1a側から中間部側へかけて回転方向R後方側へ傾斜した面(ねじれ面を含む)をなしていることもある、という意味である。

    この場合、図17や図22(a)、(d)等に示すように、ギャッシュ7を構成する2面(底刃6のすくい面6aとギャッシュ面7a)がシャンク部2の軸方向(工具軸O方向)に見たときに工具軸O上で交差することで、ギャッシュ7が中心角を持った扇形の形状に形成される。 このため、周方向(回転方向R)に隣接する切刃間に軸方向の中心部に近い部分(領域)からギャッシュ7を形成することが可能になり、ギャッシュ7を軸方向で見たときの平面積(投影面積)を最大限に確保することが可能である。

    またギャッシュ7を構成する2面(底刃のすくい面6aとギャッシュ面7a)がシャンク部2の軸方向中間部側で交わることで、2面がなす(交わる)直線、もしくは曲線(溝)がシャンク部2の中心側から外周側へかけてシャンク部2の軸方向先端側から中間部側へ向かう傾斜が付く。 このため、ギャッシュ7の溝(谷)から刃溝8への切屑の排出(誘導)効果が顕著に向上し、同時に回転方向R後方側に隣接する切刃(底刃6とコーナR刃5)側への切屑の回り込みが抑制される。 図17中、破線で示す「ギャッシュ7の溝」が底刃のすくい面6aとギャッシュ面7aの交線を示している。

    ギャッシュ7を構成する2面(底刃6のすくい面6aとギャッシュ面7a)が中心角を持った扇形の形状に形成されることで、図4に示す通り、ギャッシュ7の工具軸O側の端部が集合する工具軸O側の断面上の中心部を除き、ギャッシュ7の形成によって残される底刃6を多刃エンドミル1の先端部1aの半径方向のほぼ全長に亘って形成することができる。 この結果、図21に示す従来技術との対比では、本発明の方が底刃6における切削長さが大きくなるため、底刃6による切削の領域が拡大し、底刃6における切削の区間の選択等、切削の自由度が増す利点がある。 本発明の多刃エンドミル1では、底刃6の逃げ面6bの幅がシャンク部2の外周面から工具軸O側へかけて次第に減少するが、逃げ面6bは半径方向ほぼ全長に亘って回転方向Rに幅を持つ。

    これに対し、図21に示すように、特許文献3に記載のエンドミルの例ではギャッシュ7の幅が回転方向Rにほぼ一定であるため、底刃6を多刃エンドミル1の先端部1aの半径方向のほぼ全長に亘って形成することができず、底刃6における切削長さが短くなっており、底刃6による切削の領域が狭く、切削の自由度も限られている。

    本発明のさらに望ましい形態としては図17に示すように、刃溝8を一方の刃溝面を兼ねる外周刃4のすくい面4aと、その外周刃4のすくい面4aに回転方向R前方側に対向する刃溝面8aとから構成し、刃溝面8aが、工具軸Oを通る半径方向の直線ABを含む平面ABC'D'をなすギャッシュ面7aに対し、半径方向外周側、もしくは内周側が回転方向後方側へ傾斜角度ζをなすように傾斜した面(GIKL)をなすように、ギャッシュ面7aと刃溝面8aを形成することが考えられる。 これにより、ギャッシュ7から刃溝8へ送り込まれる(排出される)切屑を刃溝8内で回転方向R後方側へ回り込ませるように作用させることが可能である。

    前記の傾斜角度ζは、5°〜45°にするのが好ましく、10°〜35°にするのがより好ましい。 角度ζが5°未満では切屑をギャッシュ7から刃溝8へ送り込む効果が低下する傾向が認められ、45°超ではコーナR刃5の剛性が低下する傾向が認められる。

    図17におけるギャッシュ面7aに対し、半径方向外周側、もしくは内周側が回転方向R後方側へ傾斜角度ζをなすように傾斜した面(GIKL)は工具軸Oを通る半径方向の直線ABを通る平面ABCDを含む面(ABCDの延長面)に対し、半径方向外周側、もしくは内周側が回転方向R後方側へ傾斜角度ζをなすように傾斜した面(GIJH)が更に工具軸O方向中間部側(図17の下側)が回転方向R後方側へ傾斜した面(GIKL)をなすことと同じである。 図17に示すように、工具軸Oを通る半径方向の直線ABを通る平面ABCDを含む面(ABCDの延長面)に対し、半径方向外周側、もしくは内周側が回転方向R後方側へ傾斜角度ζをなすように傾斜した面はGIJHになり、この面GIJHの工具軸O方向中間部側が回転方向R後方側へ傾斜した面がGIKLになる。

    更に刃溝8の一方の刃溝面を兼ねる外周刃4のすくい面4aが底刃6のすくい面6a(AEFDを含む面)に対し、半径方向外周側、もしくは内周側が回転方向R後方側へ傾斜角度ηをなすように傾斜した面(GMNH)をなしている場合には、外周刃4のすくい面4a(GMNH)が、シャンク部2の外周面より工具軸O側に位置する点Gから外周側の点Mへかけて回転方向R前方側から後方側へ向かう面をなす。 このため、切屑を刃溝8内で回転方向R後方側へ回り込ませるように作用し、切屑の排出性が向上する。

    前記の傾斜角度ηは、0.5°〜20°にするのが好ましく、3°〜10°にするのがより好ましい。 角度ηが0.5°未満では刃溝8からの切屑の排出性が低下する傾向が認められ、20°超では外周刃とコーナR刃のつなぎ部P2の剛性が低下する傾向となる。

    以下の本発明の多刃エンドミルの説明において、上記したギャッシュ面7aと底刃6のすくい面6aとにより形成されるV字状のギャッシュ7、すなわち、隣り合う前記切刃の間に成形された空間部であるギャッシュ7と、この切刃の間に成形されたギャッシュ7と連通している刃溝8とを加えた空間部のことを、1刃当たりの「チップポケット(CP)」と記載する。 このチップポケット(CP)は、例えば、多刃エンドミル1の切刃部3の斜視図を示す図11において、斜線で示される空間部を示す。 なお、図11では1刃当たりのチップポケットCPの箇所は斜線で示される1ケ所のみ示しているが、1刃当たりのチップポケットCPに相当する箇所は切刃の刃数と同じ数が存在することになる。

    本発明の多刃エンドミル1においては、この1刃当たりのチップポケットCPの体積(V)を、図2に示す外周刃4の形成開始点における多刃エンドミルの刃径L1(シャンク部2の直径)が10mm〜30mmで、切刃の刃数が6枚〜30枚のときに、25mm 以上120mm 以下の範囲に設定していることにその特徴の一つがある。 チップポケットCPの体積(V)はギャッシュ7と刃溝8を形成する前の無垢の多刃エンドミル1に対し、ギャッシュ7と刃溝8の形成によって除去された材料の体積(容積)を意味する。

    本発明の多刃エンドミル1は少なくとも6枚の切刃を備え、3軸又は5軸のNC工作機により、湾曲した表面を有するインペラーを高速度で、かつ高送りで切削加工するためのエンドミルとして好適な、上記した特有の切刃部3の構造を持つ。 切刃の枚数の上限は、外周刃4の形成開始点における刃径L1が30mmとした多刃エンドミル1では、30枚程度にすることが望ましい。 本発明の多刃エンドミル1において、切刃の枚数を6枚以上30枚以下の範囲に設定することが望ましい理由は、次の通りである。

    インペラーに、本発明の多刃エンドミル1を用いて切込み量ae、apを上げた高送り加工を行うことができるが、更に高能率加工を実施するためには送り速度Vfを上げる必要がある。 そこで、送り速度Vfを上げるためには、1刃当りの送り量fz[mm/t]を上げるか、切削速度Vc[m/min]を上げる必要がある。 しかし、インコネル(登録商標)718のような難削性合金素材の切削加工を行う場合、切削時に発生する温度上昇が問題となる。 この切削温度は主軸の回転数(工具の切削速度Vc)が速くなるほど高くなり、切削温度の上昇はエンドミル表面に被覆された硬質皮膜にダメージを与え、エンドミルの寿命も短くなる。 このため、それほど切削速度を上げることができない。 例えば、Ni基耐熱合金製素材の場合にはVc=80m/min程度が限界となる。

    また、1刃当りの送り量fzを上げすぎるとエンドミルの刃先に掛かる負担が大きくなるため、1刃当りの送り量fzをあまり大きくすることができない。 特に、1刃当りの送り量fzを0.3mm/tを超えると、刃先の負担が顕著となる。 よって、高能率加工を実現させるためには切刃の刃数を増やす必要が有り、少なくとも6枚以上の刃数を有するエンドミルを使用しないと、従来の2枚刃、あるいは4枚刃のエンドミルと比較して、高能率加工を実施することは難しい。 また、刃数が30枚を超えるような多刃エンドミルを使用する場合には、チップポケットCPが小さくなり過ぎるため、切屑が工具軸O付近やギャッシュ7内に詰まり易くなり、この詰まった切屑を噛み込んで切刃にチッピングが発生してしまう。

    Ni基超耐熱合金等からなるインペラーを、本発明の多刃エンドミル1のコーナR刃5を用いて3軸又は5軸NC加工機により高送りで切削加工するとき、例えば高能率な切削加工を行うためにその切削条件として軸方向切込み量apを0.8mm〜2.0mm(望ましくは1.0〜1.5mm)、径方向切込み量aeを1〜10mm(望ましくは1〜5mm)の大きな値に設定する。 更に、1刃当りの送り量fzを0.08〜0.3mm/t程度(望ましくは0.1〜0.2mm/t)に設定し、多刃エンドミル1の刃数を増やすことにより、インペラーの仕上げ加工の完了までの全体的な切削加工能率を従来よりも顕著に向上させることが可能となる。
    以上のことから、本発明の多刃エンドミル1においては、切刃の刃数は少なくとも6枚以上とし、その上限は30枚以下にすることが望ましい。 なお、前記の軸方向切込み量ap、径方向切込み量ae及び1刃当りの送り量fzの特定範囲未満では従来の高送り加工との優位差が認められない。 また、前記の軸方向切込み量ap、径方向切込み量ae及び1刃当りの送り量fzの特定範囲を超えると工具寿命の低下が顕著になり実用的でない。

    図9は切刃が10枚の場合の、いわゆる10枚刃の本発明の多刃エンドミル11の切刃部3を端面側から工具軸O方向に見た様子を示し、図10は切刃が15枚の場合の、いわゆる15枚刃の本発明の多刃エンドミル12の切刃部3を端面側から工具軸O方向に見た様子を示している。 切刃が10枚の場合と15枚の場合のいずれも、前記した本発明の有利な効果を奏する。

    また、本発明の多刃エンドミル1(11、12)を3軸又は5軸NC加工機に装着して、インペラー等の湾曲した曲面部を高能率で仕上げ加工を行うためには、外周刃4の形成開始点における刃径L1は10mm〜30mmの範囲に設定することが望ましい。 この理由は次の通りである。

    すなわち、刃径L1が10〜30mmであれば、高能率での切削加工を行うために、刃数を6枚以上30枚以下の多刃にした場合でも、チップポケットCPの体積(V)を25mm 以上120mm 以下にすることが可能となる。 しかし、刃径L1を10mm未満にし、更に、切刃を多くすると、25mm 以上のチップポケットCPの体積(V)の確保が困難となる。 また、刃径L1が30mmを超えた場合では、チップポケットCPの体積(V)を25mm 以上120mm 以下に設定しようとしたときに、ギャッシュの開き角度bが非常に狭くなってしまい、切屑の排出が妨げられてしまう可能性がある。
    本発明の多刃エンドミル1において、前記刃径L1のより望ましい範囲は15mm〜25mmである。

    本発明の多刃エンドミル1を用いたインペラーの高送りで高能率な切削加工において、チップポケットCPの体積(V)を上記した25mm 以上120mm 以下の範囲に設定することにより、前記した高送りで高能率な加工を行った場合においても発生した切屑を円滑に排出することが可能になる。 この理由は、次の通りである。

    すなわち、チップポケットCPの体積(V)が25mm 未満では、高能率な切削加工を行った際に、主にコーナR刃5により形成される切屑が円滑に排出されず、切屑詰まりにより切刃の欠損やチッピングが発生する。 一方、チップポケットCPの体積(V)が120mm を超えると、刃数を増やし多刃とした際に、工具としての全体的な体積が減ることから剛性の確保が困難となり、切削時の衝撃により欠損やチッピングが発生するからである。 また、刃数を減らし、工具としての全体的な体積の低下を防止した場合においては、仕上げ加工完了までの総合的な送り速度Vf[mm/min]は低下してしまうため、本発明が目的としている高能率な切削加工は実現できなくなってしまう。
    本発明において、チップポケットCPの体積(V)の望ましい範囲は35mm 〜100mm であり、更に、チップポケットCPの体積(V)のより望ましい範囲は45mm 〜70mm である。

    1刃当たりのチップポケットCPの体積(V)を25mm 以上120mm 以下に設定するに当っては、コーナR刃5の回転方向R前方側に存在するギャッシュ7及び刃溝8が極力大きくなるようにチップポケットCPを形成することになる。 具体的には、図3に示すギャッシュ7の開き角度bを、剛性を損なわない程度に極力大きく設定するか、外周刃4のすくい面4aの径方向長さが極力大きくなるように形成することになる。 「外周刃4のすくい面4aの径方向長さ」とは、図4に示す外周刃4のすくい面4aを、工具軸Oに対し、垂直な方向で測定したときの長さ(図4において段差部10とコーナR刃5のすくい面5aの交点と、外周刃4の形成開始点P1のそれぞれを通り、工具軸O方向に平行に引いた直線間を工具の径方向(半径方向)に結ぶ長さ)と言い換えられる。 この長さは外周刃の形成開始点における多刃エンドミルの刃径L1の15%〜35%にすることが望ましい。

    外周刃4のすくい面4aの径方向長さが前記刃径L1の15%未満では刃溝8における切屑詰まりが発生しやすくなる傾向が認められ、前記刃径L1の35%超ではコーナR刃5にチッピングが発生しやすくなる傾向が認められる。 これにより、コーナR刃5の近傍の空間が大きくなり、高能率な切削加工を行った場合にも、切屑をより安定して刃溝8に運ぶことが可能となる。

    また、刃数が多いほど外周刃のすくい面4aの径方向長さを大きくすることが更に望ましい。 具体的な数値を例示すると、刃数が10枚の場合は前記刃径L1の15%〜20%にする。 刃数が12枚の場合は前記刃径L1の20%〜25%にする。 刃数が15枚の場合は前記刃径L1の25%〜30%にする。

    本発明の多刃エンドミル1のチップポケットCPの体積(V)は、下記の方法により求められた。 非接触式3次元計測システム(商品名:RexcanIII、Solutionix製)を用い、試作した多刃エンドミル1の表面部(切刃部も含む)の3次元計測を順次実施して本発明の多刃エンドミルの3次元CADモデルを作成した。 続いて、この3次元CADモデルから、隣り合う切刃の間に成形されたギャッシュ7と、このギャッシュ7に連続した刃溝8とを加えた空間部の体積を、1刃当たりのチップポケットCPの体積(V)として求めた。

    以下、本発明の多刃エンドミル1が備えている構成上の他の特徴を説明する。
    図2に示す本発明の多刃エンドミル1の実施形態においては、外周刃4を工具軸O方向に下り傾斜をなすように、すなわち多刃エンドミル1の端面(先端部1a)側からシャンク部2側へかけて回転方向R前方側から後方へ向かう傾斜を付けた例を示している。 この外周刃4の傾斜角度α(図2参照)は、5°以上10°以下の範囲に設定することが望ましい。 傾斜角度αをこのような角度範囲に設定することが望ましい理由は、次の通りである。

    湾曲した表面を有しているインペラーを、多刃エンドミル1の工具軸Oを傾けながら3軸又は5軸のNC工作機械で加工する際に、特にインペラーの表面の凹部面を切削加工する際には、NC工作機械に把持された多刃エンドミル1の傾きを制御しながらの加工が行われる。 ここで、外周刃4の傾斜角度αを5°未満に設定した場合には、多刃エンドミル1の傾きによっては外周刃4とインペラーとの干渉が発生して、インペラーの表面部に外周刃4の食い込み(削りすぎ)が生じる可能性が生じる。
    一方、傾斜角度αが10°を超えると、多刃エンドミル1の先端部1a側における切刃部3の径が小さくなるので、コーナR刃5、底刃6等の切刃の長さが短くなる。 これにより、これら切刃の刃先強度が低下する。 更に、前記した1刃当たりのチップポケットCPの体積(V)が小さくなるので、高送りの切削加工を行った場合には、切屑詰まりが発生し易く、切刃のチッピングや切屑の噛み込みが発生する危険性が生じる。 よって、外周刃4の傾斜角度αは、5°以上10°以下の範囲に設定することが望ましい。

    このように、外周刃4を工具軸Oに対して先端部1a側方向に向かって下り傾斜する傾斜角度αを5°以上10°以下の範囲に設定した多刃エンドミル1は、図2に示すように、外周刃4とコーナR刃5との繋ぎ部における刃径L2は、外周刃4の形成開始点における刃径L1より小さくなっている。

    前記したように、底刃6のすくい面6aとギャッシュ面7aは工具軸Oの近傍から切刃部3の外周方向に形成されたギャッシュ7を構成する。 図4に示すように、本発明の多刃エンドミル1においては、工具軸Oと直交する直線と、上記した底刃6のすくい面6aとギャッシュ面7aとの境界線9とがなす角度であるギャッシュ7の角度βは15°以上45°以下の範囲に設定されることが望ましい。

    本発明の多刃エンドミル1の特徴の一つとして、上記したギャッシュ7の角度βを15°以上45°以下の範囲に設定することが望ましい理由は、次の通りである。
    従来からNi基超耐熱合金等の難削性合金素材の切削加工においては、切屑の排出が困難なことを予め回避するために、一般に刃数が4枚以下のエンドミルが用いられていた。 この事実は、従来においては高送りの切削加工中に発生した多量の切屑の排出が円滑に行えず、高送りの切削加工が行えなかった未解決の問題の存在を示唆するものといえる。 この問題に対し、単にエンドミルの刃数を6枚以上にして、送り速度Vfを早くした場合、刃数の増加に伴って切屑を貯めるチップポケットの体積(容積)が小さくなるので、切屑詰りを起こすといった不具合が生じる。 特に、インペラーの仕上げ加工においては、エンドミルの工具軸Oを傾けて切削加工を行うため、切削加工の箇所においては切屑が底刃6の工具軸O近傍に溜まることが考えられる。

    このような事情により、上記したインペラーの仕上げ切削加工において、ギャッシュ7の角度βを15°未満に設定した場合には、チップポケットCPの体積(V)が小さくなり、多刃エンドミル1の工具軸O近傍に流れた切屑が噛み込みを起こして、切刃のチッピングが発生し易くなる。 そのため、ギャッシュ7の角度βを15°以上に設定することが望ましい。
    また、ギャッシュ7の角度βが45°を超えた場合には、チップポケットCPの体積(V)は十分に確保されるが、コーナR刃5の強度が不足するため、高送り加工した場合の切削抵抗に耐えきれずにコーナR刃5にチッピングが発生し易くなる。 従って、ギャッシュ7の角度βを45°以下に設定することが望ましく、結局、ギャッシュ7の角度βを15°以上45°以下の範囲に設定することが望ましい。

    続いて、更に本発明の多刃エンドミル1が備えている他の特徴を、図3を参照して説明する。
    図3に示すように、多刃エンドミル1を先端部1a側から工具軸O方向に見たときに、底刃6と、底刃6の逃げ面6bにおける回転方向R後方側の稜線(ギャッシュ面7aと底刃6の逃げ面6bの境界線)とがなす角度を底刃6の逃げ面6bの幅の角度aとする。 また底刃6の逃げ面6bにおける回転方向R後方側の稜線とこの底刃6の回転方向R後方側に隣接する底刃6の回転方向R前方側の稜線とがなす角度をギャッシュ7の開き角度bとしたとき、ギャッシュ7の開き角度bは底刃6の逃げ面6bの幅の角度aの1.5倍以上3倍以下の範囲となるように、各底刃6と底刃6の逃げ面6bを形成して配置することが望ましい。

    上記した底刃6の逃げ面6bの幅の角度aは、工具軸Oからの底刃6の逃げ面6bの平面視における幅の角度を示し、底刃6の逃げ面6bの幅の角度aは多刃エンドミル1の刃径や切刃の刃数(枚数)に応じて適宜設定される。 例えば、底刃6の逃げ面6bの幅の角度aは刃数が8枚の場合には10°〜30°に、刃数が10枚の場合には8°〜24°に、刃数が12枚の場合には6°〜20°にそれぞれ設定されることが適切である。

    ギャッシュ7の開き角度bは、前記したギャッシュ7の工具軸Oからの開き角度を示し、360°を刃数で割った数値より、上記した底刃の逃げ面の幅の角度aの値を引くことにより求められる。 ギャッシュ7の開き角度bは、例えば、刃数が8枚の場合には35°〜15°に、刃数が10枚の場合には28°〜12°に、刃数が12枚の場合は24°〜10°に設定されることが望ましい。 切刃、特に底刃6、コーナR刃5の剛性を損なわない範囲でV字状のギャッシュ7の回転方向Rで測定したときの広さを確保できるように設定することが重要である。
    なお、本発明の多刃エンドミル1において、例えば、刃径が30mm、切刃の刃数を10とした場合、底刃6の逃げ面6bの幅の角度aは12°、ギャッシュ7の開き角度bは24°程度に設定される。

    上記したようにギャッシュ7の開き角度bを、底刃6の逃げ面6bの幅の角度aの1.5倍以上3倍以下に設定することが望ましい理由は、次の通りである。
    ギャッシュ7の開き角度bを底刃6の逃げ面6bの幅の角度aの1.5倍未満に設定した場合には、各切刃の刃先剛性を向上させることができるが、切込みや送り速度を上げた高能率加工を実施した際には、チップポケットCPが小さくなる。 すなわち、ギャッシュの開き角度bが小さくなるので、切屑を効率良く刃溝8に運ぶことができなくなり、切屑の噛み込みを発生させる。 このため、ギャッシュ7の開き角度bは底刃6の逃げ面6bの幅の角度aの1.5倍以上であることが望ましい。
    また、ギャッシュ7の開き角度bが底刃6の逃げ面6bの幅の角度aの3倍を超えた場合には、底刃6やコーナR刃5の刃先強度が不足して、特に、インペラーの加工において主な切刃となるコーナR刃5にチッピングが発生する。 このため、ギャッシュの開き角度bは底刃の逃げ面の幅の角度aの3倍以下に設定することが望ましい。 よって、ギャッシュの開き角度bを、底刃の逃げ面の幅の角度aの1.5倍以上3倍以下に設定することが望ましい。

    続いて、更に本発明の多刃エンドミル1が備えている他の特徴を、図5を参照して説明する。 図5は図4の繋ぎ部P2におけるすくい角P2sと逃げ角P2nの関係を示したC−C線断面図である。 なお、C−C線断面は外周刃4とコーナR刃5との繋ぎ部P2における軸直角断面となる。 軸直角断面とは、工具軸Oに垂直な方向に切断したときの断面を示す。 図5において、P2sは外周刃4とコーナR刃5との繋ぎ部P2におけるすくい角の角度、P2nは外周刃4とコーナR刃5との繋ぎ部P2における逃げ角の角度を示している。 本発明の多刃エンドミル1においては、この外周刃4とコーナR刃5との繋ぎ部P2における軸直角断面のすくい角P2sを3°以上10°以下の範囲となるように設定することが望ましい。

    外周刃4とコーナR刃5との繋ぎ部P2における軸直角断面のすくい角P2sを3°以上10°以下の範囲となるように設定することが望ましい理由は、次の通りである。

    外周刃4とコーナR刃5との繋ぎ部P2における軸直角断面のすくい角P2sを3°未満にした場合には、切れ味不足により切刃の刃先に溶着が発生し、次のコーナR刃5で被削材を切削加工した際に噛み込みを起こすためチッピングが多く発生してしまう。 このため、前記すくい角P2sを3°以上に設定することが望ましい。
    また、前記すくい角P2sが10°を超えると、切れ味は十分であるが、刃先の強度が不足してチッピングが発生しやすくなる。 このため、前記すくい角P2sは10°以下に設定することが望ましい。 よって、前記すくい角P2sは、3°以上10°以下の範囲に設定することが望ましい。

    続いて、本発明の多刃エンドミル1が更に備えている他の特徴を説明する。 この特徴は、底刃6、コーナR刃5、及び外周刃4上の任意の点におけるそれぞれの接線と直交する方向の断面(刃直断面)における逃げ角を、前記底刃6、前記コーナR刃5、前記外周刃4ごとに一定となるように設定することにある。 上記した刃直断面とは、それぞれの切刃上の任意の点において、この任意の点を通る接線を引いたときに、その接線と垂直となる方向に切断したときの断面をいう。

    図6は図4におけるA−A線断面図である。 図6は、底刃6上における接線と直交する方向の断面(図4に示すA−A線断面)で見たときの底刃6の刃直断面における逃げ角6nを示している。 図7は図4のコーナR刃5における逃げ角5nとすくい角5sの関係を示したB−B線断面図である。 図7は、コーナR刃5上の任意の点における接線と直交する方向の断面(図4に示すB−B線断面)で見たときのコーナR刃5の刃直断面における逃げ角5nとコーナR刃の刃直断面におけるすくい角5sを示している。 図8は図4の外周刃における逃げ角4nとすくい角4sの関係を示したD−D線断面図である。 図8は、外周刃4上の任意の点における接線と直交する方向の断面(図4に示すD−D線断面)で見たときの外周刃4の刃直断面における逃げ角4nと外周刃の刃直断面におけるすくい角4sを示している。 本発明の多刃エンドミル1においては、これら逃げ角4n、5n、6nの値をそれぞれ一定に設定している。 例えば、逃げ角4n、5n、6nは、全て同一の6°に設定する。

    上記した逃げ角に係る特徴、すなわち、外周刃4、コーナR刃5及び底刃6上の任意の点におけるそれぞれの接線と直交する方向の断面(刃直断面)における逃げ角4n、5n、6nを、全て一定となるように設定する理由は、次の通りである。

    インペラーの仕上げ加工を3軸又は5軸のNC工作機械で行う場合には、エンドミルの工具軸Oや被削材が同時に動くようにNCプログラムにより制御して加工効率の向上を図るために、コーナR刃5を主切刃として、底刃6や外周刃4も使用される。 その際に、底刃6とコーナR刃5の繋ぎ部、また、コーナR刃5と外周刃4の逃げ角が変化していると、そこに段差が生じて、被削材の仕上げ面に悪影響を及ぼすことが考えられる。 このため、外周刃4、コーナR刃5、底刃6の刃直断面の逃げ角4n、5n、6nを、全て一定にしておくことが望ましい。

    続いて、更に本発明の多刃エンドミル1が備えている他の特徴を説明する。 この特徴は、図1や図2に示す多刃エンドミル1の先端部1a側から、工具軸O方向へ形成されている切刃の長さ、すなわち、切刃部3の前記先端部1a側から外周刃の形成開始点P1までの工具軸O方向に対する長さである刃長L3を、外周刃4の形成開始点における刃径L1の30%以上60%以下の範囲に設定することにある。

    上記した特徴において、刃長L3を、外周刃4の形成開始点における刃径L1の30%以上60%以下に設定することが望ましい理由は、次の通りである。

    湾曲した表面を有するインペラーを3軸又は5軸のNC加工機により仕上げ加工を行う場合には、多刃エンドミル1の工具軸Oや被削材を同時に動かすNC制御を行う。 このため、外周刃4に被削材と干渉する部分が発生する危険性が生じる。 また、インペラーの仕上げ加工においては、主に多刃エンドミル1のコーナR刃5を使用する切削加工となる。 その場合、刃長L3が外周刃4の形成開始点における刃径L1の30%未満であると、刃長L3の長さが短くなるので、切刃が形成されていないシャンク部2が被削材と干渉を起こす場合がある。 このため、刃長L3は刃径L1の30%以上に設定することが望ましい。

    一方、刃長L3が外周刃4の形成開始点における刃径L1の60%を超えると、シャンク部2と比較して、ギャッシュ7やこのギャッシュ7と連通する刃溝8等を形成している切刃部3はチップポケットCPが大きくなり過ぎるので、切刃部3の剛性が低くなり、高送りの切削加工を行うとビビリが発生するという不具合が生じる。 このため、刃長L3は前記刃径L1の60%以下に設定することが望ましい。

    続いて、更に、本発明の多刃エンドミル1が備えている他の特徴を説明する。 この特徴は、コーナR刃のR形状部の曲率半径r1(図4参照)を、外周刃4の形成開始点における刃径L1の10%以上20%以下の範囲に設定することにある。 前記曲率半径r1の範囲を、このように設定することが望ましい理由は、次の通りである。

    インペラーを3軸又は5軸のNC工作機械により仕上げの切削加工を行う場合には、主にコーナR刃5を使用することになる。 更に、高能率、すなわち、高速度で高送りの切削加工を行うためにはコーナR刃5の刃先強度が課題となる。 コーナR刃5のR形状部の曲率半径r1を大きくしたほうが、コーナR刃5の刃先強度が高く、更に、高い切込みでの切削加工が可能となる。 前記曲率半径r1が、外周刃4の形成開始点における刃径L1の10%未満に設定されると、高い切込みでの加工を実施した際には、刃先強度が不足するためにコーナR刃5にチッピングを発生させてしまう。

    一方、コーナR刃のR形状部の曲率半径r1が外周刃4の形成開始点における刃径L1の20%を超えた場合には、コーナR刃5のR形状が大きくなり過ぎる。 このため、被削材を切削するときにコーナR刃5が被削材と接触する切刃の長さが大きくなって切削抵抗が増大して、切刃にチッピングを起こしてしまう。 よって、曲率半径r1は、刃径L1の10%以上20%以下の範囲に設定されることが望ましい。

    図2、図3等に示す本発明の多刃エンドミル1には、被削材の切削加工中にクーラント(液)を供給するためのクーラント孔を図示していないが、先端部1a側に1つ又は複数のクーラント孔を設けることが望ましい。 クーラントは、切削加工中において切刃を冷却する目的と、切削加工により生成された切屑を切刃と切刃の間に形成されているギャッシュ7から刃溝8を介して外部に円滑に排出する目的と、切屑が切刃に付着(溶着)することを防止する目的のために供給される。

    インペラーを高送りで切削加工する上では、切刃の冷却と生成された切屑の良好な排出性が重要であるため、多刃エンドミル1の先端部1a側に、少なくとも3個のクーラント孔を設けることが望ましい。 クーラント孔を設ける位置は、例えば、図3に示すギャッシュ面7a、あるいは、底刃6の逃げ面6bか、その付近が適切である。 クーラントは切削加工中において、3軸又は5軸NC加工機から供給され、シャンク部2の内部の工具軸O方向に穿孔したクーラント孔を通じて表面に露出した複数のクーラント孔から噴出させられる。

    (多刃エンドミルの製造方法の概要)
    続いて、本発明の多刃エンドミル1の製造方法の概要を説明する。 本発明の多刃エンドミル1は、WC(炭化タングステン)を主成分とした超硬合金の粉末から、公知の製造方法により製造されたソリッド型のエンドミルである。 なお、前記粉末を成形して得られた多刃エンドミル1の成形体は、焼結炉内に装入して所定の温度に加熱する焼結処理を行う。 得られた多刃エンドミル1の焼結体は、その切刃部3に所定の数の切刃、すなわち、外周刃4、コーナR刃5、底刃6と、それぞれの切刃のすくい面4a、5a、6a、逃げ面4b、5b、6b、及びギャッシュ面7、刃溝8を、ダイヤモンド砥石等を用いた研削加工装置により研削して形成する。 また、多刃エンドミル1(シャンク部2)の内部の工具軸O方向にクーラント孔を穿孔して、先端部1a側に複数のクーラント孔を設ける。

    研削加工装置により切刃部3に外周刃4、コーナR刃5、底刃6等の加工処理等が完了した多刃エンドミル1には、少なくとも切刃部3の全表面に、厚さ3μm程度の硬質皮膜を、例えばPVD法により被覆する。 本発明の多刃エンドミル1に施す硬質皮膜としては、AlCrN膜などのAlCr系硬質皮膜が適している。 この理由は次の通りである。

    一般に、難削性合金の素材(被削材)を切削加工するときには、切屑の切刃への溶着等が大きな問題になる。 切削加工により発生した切屑が切刃等に溶着しないようにするためには、できるだけ摩擦係数の低い硬質皮膜を切刃等に被覆する必要がある。 かかる難削性合金の素材は、通常の合金鋼より高い切削熱が発生するために、耐熱性に優れた硬質皮膜を被覆する必要がある。 更に、インペラーの切削加工は断続切削であるため、衝撃に強い硬質皮膜を被覆する必要がある。

    エンドミルへ施す硬質皮膜としては、従来からTiAl系の硬質皮膜が採用されている。 しかし、TiAl系の硬質皮膜は耐熱性が低く、摩耗係数も高いため、安定性に乏しく、耐熱性は問題ないが摩擦係数が高い。 このため、切屑が溶着しやすいという問題点があった。 これに対し、AlCr系の硬質皮膜は耐熱性もあり、摩擦係数も低いため、安定した切削加工が可能になる。 従って、本発明の多刃エンドミル1には、少なくとも切刃部3の全表面にAlCr系の硬質皮膜、例えば、AlCrSiNからなる硬質皮膜を厚さ3μm程度被覆するとよい。

    以下、本発明を実施例により説明するが、下記の実施例により本発明が限定されるものではない。

    本発明の超硬合金製の多刃エンドミルを試作して、被削材に対して切削加工を実施し、加工後におけるこの多刃エンドミルの切刃の摩耗やチッピングの発生状況を確認するための2種の切削加工実験(実験例1と実験例2)を行った。 以下、この切削加工の実験を行った実施結果を説明する。

    (実験例1)
    前記したように、本発明の多刃エンドミル1の特徴の一つとして、コーナR刃5に凸状の曲面をなすコーナR刃5のすくい面5aを設けたことにある。 実験例1では、コーナR刃5にすくい面5aを設けた本発明例(本発明例1)のエンドミルを試作して、Ni基耐熱合金であるインコネル(登録商標)718のブロック材(時効処理済)を傾斜角度が10°になるように縦型3軸マシニングセンタに取り付けて、このブロック材の傾斜面(傾斜角10°)に対して引上げ加工を行った。 切削加工距離の累計が45mに達したときに、切刃の摩耗状況を目視で観察した。

    なお、前記したように本発明例1において、コーナR刃5のすくい面5a及び外周刃4のすくい面4aは、緩やかな凸状の曲面をなすように形成され、すくい面5aとすくい面4aは、底刃6のすくい面6aに対して回転方向R後方側で、先端部1aよりシャンク部2側に位置するように段差部10を介してすくい面6aと連続している(図4参照)。 この本発明例のエンドミルと比較するために、図19に示すようにコーナR刃5にすくい面5aを設けることなく、外周刃4のすくい面4aをコーナR刃5のすくい面5aとした超硬合金製のエンドミル(比較例1)を試作した。

    実験例1を実施するために試作した本発明例1と比較例1のエンドミルの寸法は、工具軸O方向の全長を125mm、外周刃4とコーナR刃5との繋ぎ部における多刃エンドミルの刃径L2を19mm、シャンク径(外周刃の形成開始点における多刃エンドミルの刃径L1)を20mmとした。 また、試作した本発明例1と比較例1のエンドミルの切刃部3の全表面に、Al−Cr−Si−Nからなる厚さ3μmの硬質皮膜をPVD法により被覆した。

    試作した本発明例1と比較例1のエンドミルの寸法(硬質皮膜以外)の仕様を表1に示す。 なお、表1に示す溝長hとは、図4に示すように、多刃エンドミル1の先端部1a側から刃溝8の端部までの長さを、工具軸Oと平行な方向で測定したときの長さをいう。 全刃溝8の溝長hは同一になる。 また、試作した本発明例1と比較例1の多刃エンドミルには、クーラント孔を設けず、水溶性クーラント液を外部から供給した。




















    縦型3軸マシニングセンタを用いた被削材の高送りの切削加工において、設定した切削条件は、本発明例1及び比較例1のエンドミルともに、次の通りとした。
    ・切削速度Vc :80m/min
    ・送り速度Vf :1880mm/min
    ・1刃当りの送り量fz:0.14mm/t
    ・軸方向切込み量ap :1.0mm
    ・径方向切込み量ae :1.8mm
    ・工具突き出し量 :60mm
    ・切削加工時の冷却方法:水溶性クーラント液を外部から供給

    実験例1による切削加工実験の結果を図12及び図13に示す。 図12は本発明例1の多刃エンドミル1と比較例1の多刃エンドミルに対し、実験例1による切削加工実験を実施した後の、切刃の逃げ面の摩耗状況を示す写真である。 図13は本発明例1の多刃エンドミルと比較例1の多刃エンドミルに対し、実験例1による切削加工実験を実施した後の、切刃のすくい面の摩耗状況を示す写真である。
    図12において、本発明例1と比較例1の逃げ面の写真は、底刃6の逃げ面6b側から撮影した写真である。 図13において、本発明例1と比較例1のすくい面の写真は、本発明例におけるコーナR刃のすくい面5a側から撮影した写真である。 また、各写真の右下側に表示している数値「0.25mm/div」等は、この写真のスケール(1目盛当たりの長さ)を示している。

    図12、図13から明らかなように、コーナR刃5にすくい面5aを設けた本発明例1においては、コーナR刃5の逃げ面5b及びすくい面5aの平均摩耗幅(VB値)は0.056mmであり、加工精度に影響を与える摩耗は認められなかった。
    一方、比較例1の多刃エンドミルにおいては、図12に示すようにコーナR刃5の逃げ面5bにチッピングの発生が認められた。 上記した実験例1による結果から、多刃エンドミルのコーナR刃5にすくい面5aを形成すると、被削材に対する切れ味が向上し、かつ、切刃へのチッピングの発生を抑制できることが確認できた。

    (実験例2)
    続いて、刃数と、底刃6の逃げ面6bの幅の角度aと、ギャッシュ7の開き角度bが異なる多刃エンドミル、すなわち、1刃当たりのチップポケットCPの体積(V)が異なる本発明例2と比較例2の超硬合金製の多刃エンドミルを試作した。 そして、試作した多刃エンドミルを縦型3軸マシニングセンタに取り付けて高送りの切削加工を行い、切刃の摩耗状況とチッピングの発生状況を確認する切削加工実験を行った。 この実験例2に用いた本発明例2と比較例2の多刃エンドミルの仕様を表2に示す。 なお、比較例2は特許文献3に開示されている多刃エンドミルに類似した切刃構成を有するエンドミルである。 また、試作した本発明例2と比較例2の多刃エンドミルにはクーラント孔を設けず、水溶性クーラント液を外部から供給した。

    表2に示すように、本発明例2の多刃エンドミル1においては、切刃の刃数を12枚、1刃当たりのチップポケットCPの体積(V)を45mm になるように設定した。 一方、比較例2においては、特許文献3の図4に開示されている多刃エンドミルに類似した切刃構成とした。 このため、切刃の刃数は15枚と本発明例2より多く、また、1刃当たりのチップポケットCPの体積(V)は、本発明例2より少ない23mm であった。 なお、このチップポケットCPの体積(V)は、多刃エンドミルごとに、上記した通り、底刃6の逃げ面6bの幅の角度aとギャッシュ7の開き角度bの値を変えること等の手段により変化させることができる。

    また、表2に示すように、本発明例2のV字状のギャッシュ7の最深部にあるギャッシュ底面14におけるギャッシュ底面の幅w1は0.35mmであり、十分に小さかった。 これに対し、比較例2の矩形のギャッシュ7の最深部にあるギャッシュ底面14におけるギャッシュ底面の幅w2は0.9mmであり、大きかった。
    なお、比較例2における角度ψに関しては、図21に示すように、底刃のすくい面6aとギャッシュ面7aが平行になるようにギャッシュ7が形成されていたため、角度ψを測定することができなかった。



















    実験例2に用いた被削材は、実験例1と同様に、Ni基超耐熱合金のブロック材(時効処理済)を傾斜角度が10°になるように縦型3軸マシニングセンタに取り付けて、このブロック材の傾斜面(傾斜角10°)の引上げ加工を行った。 そして、本発明例2においては切削加工距離の累計が5.5mに達したときに、比較例2においては切削加工距離の累計が4mに達したときに、切刃の摩耗状況等を観察した。 なお、縦型3軸マシニングセンタを用いた被削材の切削加工において、設定した切削条件は、本発明例2の送り速度は1608mm/min(1刃当りの送り量fzは0.1mm/t)、比較例2の送り速度を2010mm/min(1刃当りの送り量fzは0.1mm/t)に設定した以外は、実験例1と同じ条件に設定した。
    実験例2において、比較例2の送り速度を本発明例2よりも高く設定した理由は、比較例2の多刃エンドミルの刃数は15枚と本発明例2より多く設定したので、1刃当りの送り量fzを等しく設定した切削加工を行ったときの切刃の摩耗状況を観察するためである。

    実験例2に用いた多刃エンドミル1の寸法は、本発明例2と比較例2のいずれにおいても、全長が125mm、外周刃4とコーナR刃5との繋ぎ部における刃径L2が19mm、シャンク径(外周刃の形成開始点における刃径L1)が20mmと実験例1と同一にし、硬質皮膜も実験例1と同一にした。

    実験例2による切削加工実験の結果を図14及び図15に示す。 図14は本発明例2の多刃エンドミルと比較例2の多刃エンドミルに対し、実験例2による切削加工実験を実施した後の、切刃の逃げ面の摩耗状況を示す写真である。 図15は本発明例2の多刃エンドミルと比較例2の多刃エンドミルに対し、実験例2による切削加工実験を実施した後の、切刃のすくい面の摩耗状況を示す写真である。
    図14において、本発明例2と比較例2の逃げ面の写真は、底刃の逃げ面6b側から撮影した写真である。 図15において、本発明例2と比較例2のすくい面の写真は、本発明例におけるコーナR刃のすくい面5a側から撮影した写真である。 また、各写真の右下側に表示している数値「0.250mm/div」等は、この写真のスケール(1目盛当たりの長さ)を示している。

    図14、図15に示す状況から明らかなように、コーナR刃5にすくい面5aを設け、更に、1刃当たりのチップポケットCPの体積(V)を45mm と従来例2より大きく設定した本発明例2は、コーナR刃5のすくい面5aは安定した摩耗状態を示していた。
    これに対し、比較例2の多刃エンドミルでは、図14及び図15に示すように、コーナR刃5(欠損により無くなっている。)において、切屑の噛み込みが原因と考えられる欠損の発生が認められた。 この欠損により、比較例2の多刃エンドミルにおけるコーナR刃5はほぼ全て無くなっており、本発明例2の多刃エンドミルに比べて非常に短寿命であることが分かった。

    上記した実験例2の結果から、次のことが判明した。
    特許文献3の多刃エンドミルに類似した構成とした比較例2は、刃数を15枚と本発明例2より多く、更に、1刃当たりのチップポケットCPの体積(V)も本発明例2より大きく設定して、本発明例2により高い送り速度Vfの切削加工を行ったことが原因と推定される、切屑の噛み込みと考えられる欠損が発生した。 比較例2において、このような欠損の発生は、下記の(1)及び(2)に記載した事項によるものと推測することができる。

    (1)通常、エンドミルの1刃の切削負荷が同等となるように、本発明例2と比較例2において、軸方向切込み量apを同一とした場合に、刃数を増やすと更に送り速度を上げて加工することが理論上は可能となる。 しかし、実験例2においては、比較例2のエンドミルのギャッシュの角度βを7°という、本発明例2より非常に小さい値に設定したため1刃当たりのチップポケットCPの体積が小さくなった。 このため、比較例2においては、加工の際に発生した切屑が溜まり易く、切屑が外周側へ排出される前に、切屑の噛み込みが発生して、コーナR刃5にチッピング等の欠損が加工直後から発生したものと推測される。

    (2)上記(1)から明らかなように、本発明の多刃エンドミル1は、その刃数に応じて、底刃の逃げ面の幅の角度aとギャッシュの開き角度b、及びギャッシュの角度βの値を上記した範囲内になるように適切に設定し、1刃当たりのチップポケットCPの体積(V)を上記した適切な範囲内に設定したものである。 従って、高送りの切削加工を行っても、コーナR刃5にチッピングや欠損が発生することが抑制され、安定した切削加工を実現することができた。

    上記実施例ではNi基耐熱合金製素材を被削材(インペラー)として高送りの切削加工をする場合を記載したが、特に限定されない。 例えば、チタン合金またはステンレス鋼等の難削性合金製素材を高送り加工する場合に、本発明のエンドミルは有利な効果を奏する。 更に、合金鋼、工具鋼または炭素鋼等を被削材として高送り加工を行う場合にも、本発明のエンドミルは有利な効果を奏することができる。

    1:多刃エンドミル 1a:多刃エンドミルの先端部 2:シャンク部 3:切刃部 4:外周刃 4a:外周刃のすくい面 4b:外周刃の逃げ面 4n:外周刃の刃直断面における逃げ角 4s:外周刃の刃直断面におけるすくい角 5:コーナR刃 5a:コーナR刃のすくい面 5b:コーナR刃の逃げ面 5n:コーナR刃の刃直断面における逃げ角 5s:コーナR刃の刃直断面におけるすくい角 6:底刃 6a:底刃のすくい面 6b:底刃の逃げ面 6n:底刃の刃直断面における逃げ角 7:ギャッシュ 7a:ギャッシュ面 8:刃溝 8a:刃溝面、
    9:底刃のすくい面とギャッシュ面との境界線10:段差部、
    11:10枚刃の多刃エンドミル12:15枚刃の多刃エンドミル13:特許文献3に記載のエンドミル14:ギャッシュ底面 O:工具軸(回転軸心)
    R:回転方向CP:チップポケット a:底刃の逃げ面の幅の角度 b:ギャッシュの開き角度 h:溝長r1:コーナR刃のR形状部の曲率半径L1:外周刃の形成開始点における多刃エンドミルの刃径L2:外周刃とコーナR刃との繋ぎ部における多刃エンドミルの刃径L3:刃長P1:外周刃の形成開始点P2:外周刃とコーナR刃との繋ぎ部P2n:繋ぎ部P2における軸直角断面の逃げ角P2s:繋ぎ部P2における軸直角断面のすくい角 w1、w2:ギャッシュ底面の幅 α:傾斜角度 β:ギャッシュの角度 θ:ねじれ角

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