棒材、ドリルの刃先、棒材の製造方法およびドリルの製造方法

申请号 JP2016112669 申请日 2016-06-06 公开(公告)号 JP2017217715A 公开(公告)日 2017-12-14
申请人 住友電工ハードメタル株式会社; 发明人 山川 隆洋; 山本 英司; 後藤 裕明; 澤園 善充; 内野 克哉;
摘要 【課題】耐摩耗性および耐折損性の両立を実現する。 【解決手段】棒材は、長手方向に所定の領域を占める第1棒材部と、長手方向において第1棒材部とは異なる領域を占める第2棒材部とを含む棒材であって、第1棒材部は、その組成がA質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物であり、第2棒材部は、その組成がB質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物であり、第1棒材部および第2棒材部は、コバルトの含有量が1質量%≦B
【選択図】図2
权利要求

長手方向に所定の領域を占める第1棒材部と、前記長手方向において前記第1棒材部とは異なる領域を占める第2棒材部とを含む棒材であって、 前記第1棒材部は、その組成がA質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物であり、 前記第2棒材部は、その組成がB質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物であり、 前記第1棒材部および前記第2棒材部は、コバルトの含有量が1質量%≦B 前記第1棒材部および前記第2棒材部は、それぞれクロムおよびバナジウムの少なくとも一方を0.1質量%以上含み、 前記第2棒材部は、前記長手方向において前記第1棒材部の10〜1000%の長さを有する、棒材。前記第1棒材部および前記第2棒材部は、それぞれクロムおよびバナジウムの総和が0.2〜1.5質量%である、請求項1に記載の棒材。前記棒材は、第3棒材部と第4棒材部とを含み、 前記第3棒材部は、コバルト、クロム、バナジウム、炭化タングステンおよび不可避不純物を含み、炭化タングステンの平均粒径がXμmであり、 前記第4棒材部は、コバルト、クロム、バナジウム、炭化タングステンおよび不可避不純物を含み、炭化タングステンの平均粒径がYμmであり、 前記第3棒材部および前記第4棒材部は、炭化タングステンの平均粒径がX≦Yの関係を満たし、 前記第3棒材部は、前記長手方向において、その一部または全部が前記第1棒材部と重複する領域を占め、 前記第4棒材部は、前記長手方向において、その一部または全部が前記第2棒材部と重複する領域を占め、 前記第4棒材部は、前記長手方向において前記第3棒材部の10〜1000%の長さを有する、請求項1または請求項2に記載の棒材。前記棒材は、前記長手方向において前記第1棒材部と前記第2棒材部との間で所定の領域を占める第5棒材部を含み、 前記第5棒材部は、その組成がC質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物であり、 前記第5棒材部は、コバルトの含有量がA≧CまたはC≧Bの関係を満たし、 前記第5棒材部は、クロムおよびバナジウムの少なくとも一方を0.1質量%以上含み、 前記第5棒材部は、前記長手方向において前記第3棒材部および前記第4棒材部の両方またはいずれか一方と重複する領域を占める、請求項3に記載の棒材。請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の棒材を用いたドリルの刃先であって、 前記ドリルの刃先は、長さが0.5〜15mmであり、かつ前記長手方向に対して垂直な断面における最大径が0.03〜3.175mmであり、 前記ドリルの刃先は、その先端を前記第2棒材部が占める、ドリルの刃先。前記ドリルの刃先は、前記最大径をR、前記断面における心厚の厚みをrとしたとき、0.05R≦r≦0.6Rの関係を満たす、請求項5に記載のドリルの刃先。請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の棒材を製造する棒材の製造方法であって、 組成がA質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物からなる第1粉末と、組成がB質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物からなる第2粉末とを調製する第1工程と、 前記第1粉末を金型に投入し、第1圧で押圧する第2工程と、 前記第2粉末を前記金型に投入し、前記第1圧力と同圧または前記第1圧力よりも低圧の第2圧力で押圧する第3工程とを含み、 前記第1粉末および前記第2粉末は、コバルトの含有量が1質量%≦B 前記第1粉末および前記第2粉末は、それぞれクロムおよびバナジウムの少なくとも一方を0.1質量%以上含む、棒材の製造方法。前記第1粉末および前記第2粉末は、それぞれクロムおよびバナジウムの総和が0.2〜1.5質量%である、請求項7に記載の棒材の製造方法。前記棒材の製造方法は、 組成がC質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物からなる第3粉末を調製する第4工程と、 前記第3粉末を前記金型に投入し、前記第1圧力と同圧または前記第1圧力よりも低圧、かつ前記第2圧力と同圧または前記第2圧力よりも高圧の第3圧力で押圧する第5工程とを含み、 前記第3粉末は、コバルトの含有量がA≧CまたはC≧Bの関係を満たし、 前記第3粉末は、クロムおよびバナジウムの少なくとも一方を0.1質量%以上含む、請求項7または請求項8に記載の棒材の製造方法。請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の棒材を用いてドリルを製造するドリルの製造方法であって、 前記棒材を切削して中心軸を定めるα工程と、 前記中心軸を基準にして前記棒材に溝を形成するβ工程とを含む、ドリルの製造方法。前記ドリルの製造方法は、前記α工程の前に前記棒材にシャンクを取り付けるγ工程を含む、請求項10に記載のドリルの製造方法。長手方向に所定の領域を占める第1棒材部と、前記長手方向において前記第1棒材部とは異なる領域を占める第2棒材部とを含むドリルの刃先であって、 前記第1棒材部は、その組成がA質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物であり、 前記第2棒材部は、その組成がB質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物であり、 前記第1棒材部および前記第2棒材部は、コバルトの含有量が3質量%≦B 前記第1棒材部および前記第2棒材部は、それぞれクロムおよびバナジウムの少なくとも一方を0.1質量%以上含み、かつそれぞれクロムおよびバナジウムの総和が0.4〜1.2質量%であり、 前記第2棒材部は、前記長手方向において前記第1棒材部の10〜1000%の長さを有し、 前記ドリルの刃先は、第3棒材部と第4棒材部とを含み、 前記第3棒材部は、コバルト、クロム、バナジウム、炭化タングステンおよび不可避不純物を含み、炭化タングステンの平均粒径がXμmであり、 前記第4棒材部は、コバルト、クロム、バナジウム、炭化タングステンおよび不可避不純物を含み、炭化タングステンの平均粒径がYμmであり、 前記第3棒材部および前記第4棒材部は、炭化タングステンの平均粒径がX 前記第3棒材部は、前記長手方向において、その一部または全部が前記第1棒材部と重複する領域を占め、 前記第4棒材部は、前記長手方向において、その一部または全部が前記第2棒材部と重複する領域を占め、 前記第4棒材部は、前記長手方向において前記第3棒材部の10〜1000%の長さを有し、 前記ドリルの刃先は、長さが0.5〜15mmであり、かつ前記長手方向に対して垂直な断面における最大径が0.03〜3.175mmであり、 前記ドリルの刃先は、その先端を前記第2棒材部が占め、 前記ドリルの刃先は、前記最大径をR、前記断面における心厚の厚みをrとしたとき、0.1R≦r≦0.5Rの関係を満たす、ドリルの刃先。

说明书全文

本発明は、棒材、ドリルの刃先、棒材の製造方法およびドリルの製造方法に関する。

従来より、半導体装置のプリント基板を穴あけ加工するなどの目的で、ミニチュアドリルあるいはマイクロドリルと呼ばれる小型ドリルが用いられている。特開2002−346816号公報(特許文献1)には、高速穴あけ加工で優れた耐摩耗性を発揮するとされる超硬合金製ミニチュアドリルが開示されている。さらに、特開2004−160591号公報(特許文献2)には、耐折損性および耐摩耗性を併せ持つマイクロドリルが開示されている。

特開2002−346816号公報

特開2004−160591号公報

特許文献1および特許文献2でも述べられているように、半導体装置のプリント基板の穴あけ加工などに際し、高速加工に応えるドリルが要求されている。具体的には、ドリルの刃先先端部に対して十分な硬さに基づいた耐摩耗性が要求されるとともに、ドリルの刃先本体部には確かなしなやかさに基づく耐折損性(所謂靱性)が要求される。しかしながら、耐摩耗性と耐折損性とは一般に相反する物性であることが知られ、これらの物性を両立させる技術開発も進められているが、改善の余地がある。したがって、未だ望んだ耐摩耗性と耐折損性とが両立したミニチュアドリルあるいはマイクロドリルを実現することには至っておらず、その開発が切望されている。

本発明は、上記実情に鑑みてなされ、耐摩耗性および耐折損性の両立を実現した棒材、ドリルの刃先、棒材の製造方法およびドリルの製造方法を提供することを目的とする。

本発明の一態様に係る棒材は、長手方向に所定の領域を占める第1棒材部と、前記長手方向において前記第1棒材部とは異なる領域を占める第2棒材部とを含む棒材であって、前記第1棒材部は、その組成がA質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物であり、前記第2棒材部は、その組成がB質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物であり、前記第1棒材部および前記第2棒材部は、コバルトの含有量が1質量%≦B

本発明の一態様に係るドリルの刃先は、前記棒材を用いたドリルの刃先であって、前記ドリルの刃先は、長さが0.5〜15mmであり、かつ前記長手方向に対して垂直な断面における最大径が0.03〜3.175mmであり、前記ドリルの刃先は、その先端を前記第2棒材部が占める。

本発明の一態様に係る棒材の製造方法は、前記棒材を製造する棒材の製造方法であって、組成がA質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物からなる第1粉末と、組成がB質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物からなる第2粉末とを調製する第1工程と、前記第1粉末を金型に投入し、第1圧で押圧する第2工程と、前記第2粉末を前記金型に投入し、前記第1圧力と同圧または前記第1圧力よりも低圧の第2圧力で押圧する第3工程とを含み、前記第1粉末および前記第2粉末は、コバルトの含有量が1質量%≦B

本発明の一態様に係るドリルの製造方法は、前記棒材を用いて製造するドリルの製造方法であって、前記棒材を切削して中心軸を定めるα工程と、前記中心軸を基準にして前記棒材に溝を形成するβ工程とを含む。

上記によれば、耐摩耗性および耐折損性の両立を実現した棒材を提供することができる。

図1Aは、本実施形態に係る棒材の長手方向における第1棒材部〜第4棒材部が占める領域の例を模式的に示した模式図である。

図1Bは、本実施形態に係る棒材の長手方向における第1棒材部〜第4棒材部が占める領域の他の例を模式的に示した模式図である。

図1Cは、本実施形態に係る棒材の長手方向における第1棒材部〜第5棒材部が占める領域の例を模式的に示した模式図である。

図1Dは、本実施形態に係る棒材の長手方向における第1棒材部〜第5棒材部が占める領域の他の例を模式的に示した模式図である。

図2は、本実施形態に係るドリルを示す側面図である。

図3は、図2中のII−II線に沿った断面図である。

[本発明の実施形態の説明] 最初に本発明の実施態様を列記して説明する。

[1]本発明の一態様に係る棒材は、長手方向に所定の領域を占める第1棒材部と、上記長手方向において上記第1棒材部とは異なる領域を占める第2棒材部とを含む棒材であって、上記第1棒材部は、その組成がA質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物であり、上記第2棒材部は、その組成がB質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物であり、上記第1棒材部および上記第2棒材部は、コバルトの含有量が1質量%≦B

[2]上記第1棒材部および上記第2棒材部は、それぞれクロムおよびバナジウムの総和が0.2〜1.5質量%であることが好ましい。これにより、棒材をたとえばドリルの刃先に用いた場合、ドリルの刃先先端部の耐摩耗性、およびドリルの刃先本体部の耐折損性を高めることができる。

[3]上記棒材は、第3棒材部と第4棒材部とを含み、上記第3棒材部は、コバルト、クロム、バナジウム、炭化タングステンおよび不可避不純物を含み、炭化タングステンの平均粒径がXμmであり、上記第4棒材部は、コバルト、クロム、バナジウム、炭化タングステンおよび不可避不純物を含み、炭化タングステンの平均粒径がYμmであり、上記第3棒材部および上記第4棒材部は、炭化タングステンの平均粒径がX≦Yの関係を満たし、上記第3棒材部は、上記長手方向において、その一部または全部が上記第1棒材部と重複する領域を占め、上記第4棒材部は、上記長手方向において、その一部または全部が上記第2棒材部と重複する領域を占め、上記第4棒材部は、上記長手方向において上記第3棒材部の10〜1000%の長さを有することが好ましい。これにより、棒材をたとえばドリルの刃先に用いた場合、ドリルの刃先先端部の耐摩耗性をより高めることができ、かつドリルの刃先本体部の耐折損性を高めることができる。

[4]上記棒材は、上記長手方向において上記第1棒材部と上記第2棒材部との間で所定の領域を占める第5棒材部を含み、上記第5棒材部は、その組成がC質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物であり、上記第5棒材部は、コバルトの含有量がA≧CまたはC≧Bの関係を満たし、上記第5棒材部は、クロムおよびバナジウムの少なくとも一方を0.1質量%以上含み、上記第5棒材部は、上記長手方向において上記第3棒材部および上記第4棒材部の両方またはいずれか一方と重複する領域を占めることが好ましい。この特徴を備えることによっても、棒材をたとえばドリルの刃先に用いた場合、ドリルの刃先先端部の耐摩耗性およびドリルの刃先本体部の耐折損性を高めることができる。

[5]本発明の一態様に係るドリルの刃先は、上記棒材を用いたドリルの刃先であって、上記ドリルの刃先は、長さが0.5〜15mmであり、かつ上記長手方向に対して垂直な断面における最大径が0.03〜3.175mmであり、上記ドリルの刃先は、その先端を上記第2棒材部が占める。このような特徴によりドリルの刃先は、ドリルの刃先先端部に耐摩耗性を備えることができ、ドリルの刃先本体部に耐折損性を備えることができる。

[6]上記ドリルの刃先は、上記最大径をR、上記断面における心厚の厚みをrとしたとき、0.05R≦r≦0.6Rの関係を満たすことが好ましい。これにより、切りくずの排出性を良好とすることができる。

[7]本発明の一態様に係る棒材の製造方法は、上記棒材を製造する方法であって、組成がA質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物からなる第1粉末と、組成がB質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物からなる第2粉末とを調製する第1工程と、上記第1粉末を金型に投入し、第1圧力で押圧する第2工程と、上記第2粉末を上記金型に投入し、上記第1圧力と同圧または上記第1圧力よりも低圧の第2圧力で押圧する第3工程とを含み、上記第1粉末および上記第2粉末は、コバルトの含有量が1質量%≦B

[8]上記第1粉末および上記第2粉末は、それぞれクロムおよびバナジウムの総和が0.2〜1.5質量%であることが好ましい。これにより、たとえばドリルの刃先として用いた場合、ドリルの刃先先端部の耐摩耗性、およびドリルの刃先本体部の耐折損性を高めることができる棒材を製造することができる。

[9]上記棒材の製造方法は、組成がC質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物からなる第3粉末を調製する第4工程と、上記第3粉末を上記金型に投入し、上記第1圧力と同圧または上記第1圧力よりも低圧、かつ上記第2圧力と同圧または上記第2圧力よりも高圧の第3圧力で押圧する第5工程とを含み、上記第3粉末は、コバルトの含有量がA≧CまたはC≧Bの関係を満たし、上記第3粉末は、クロムおよびバナジウムの少なくとも一方を0.1質量%以上含むことが好ましい。この特徴を備えることによっても、たとえばドリルの刃先に用いた場合、ドリルの刃先先端部の耐摩耗性およびドリルの刃先本体部の耐折損性を高めることができる棒材を製造することができる。

[10]本発明の一態様に係るドリルの製造方法は、上記棒材を用いてドリルを製造する方法であって、上記棒材を切削して中心軸を定めるα工程と、上記中心軸を基準にして上記棒材に溝を形成するβ工程とを含む。このような特徴により、ドリルの刃先先端部に耐摩耗性を備えることができ、ドリルの刃先本体部に耐折損性を備えることができるドリルを製造することができる。

[11]上記ドリルの製造方法は、上記α工程の前に上記棒材にシャンクを取り付けるγ工程を含むことが好ましい。このようなドリルを製造しても、ドリルの刃先先端部の耐摩耗性およびドリルの刃先本体部の耐折損性を高めることができる。

[本発明の実施形態の詳細] 以下、実施形態について説明する。以下の実施形態の説明に用いられる図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わす。

ここで、本明細書において「A〜B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。また、本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるものではない。

≪棒材≫ 本実施形態に係る棒材は、長手方向に所定の領域を占める第1棒材部と、この長手方向において第1棒材部とは異なる領域を占める第2棒材部とを含む。第1棒材部は、その組成がA質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物であり、第2棒材部は、その組成がB質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物である。特に、第1棒材部および第2棒材部は、コバルトの含有量が1質量%≦B

すなわち、本実施形態に係る棒材は、炭化タングステン(WC)を硬質相とし、コバルト(Co)を結合相として含む超硬合金などから作製される。棒材の形状は、棒状である限り特に限定されるべきではないが、後述するドリルの刃先に用いることを想定した場合、丸棒であることが好ましい。

棒材は、たとえば第2棒材部を、加工対象物に直接接触して穴あけなどする刃先先端部とし、第1棒材部をドリルの刃先先端部で生じた加工対象物の切りくずなどの排出を担う刃先本体部とするドリルの刃先に用いた場合、その刃先先端部に対して耐摩耗性を付与することができる。ドリルの刃先本体部に対しては耐折損性を付与することができる。したがって、このような棒材は、ドリルの刃先に用いた場合、耐折損性を高めるとともに耐摩耗性を高めることができるので、高速穴あけ加工においてその加工数を飛躍的に向上させることができる。

<第1棒材部および第2棒材部> 第1棒材部は、棒材の長手方向において所定の領域を占める。第1棒材部は、たとえば後述するドリルの刃先に用いた場合、図2に示すドリル1の刃先本体部22となる領域を占める。第2棒材部は、棒材の長手方向において第1棒材部とは異なる領域を占める。第2棒材部は、たとえば後述するドリルの刃先に用いた場合、図2に示すドリル1の刃先先端部21(ドリルの先端)となる領域を占める。

第1棒材部は、その組成がA質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物である。第2棒材部は、その組成がB質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物である。第1棒材部および第2棒材部は、それぞれクロムおよびバナジウムの少なくとも一方を0.1質量%以上含む。さらに、第1棒材部および第2棒材部は、それぞれクロムおよびバナジウムの総和が0.2〜1.5質量%であることが好ましい。第1棒材部および第2棒材部においてクロムの含有量は1質量%以下であり、バナジウムの含有量は0.5質量%以下である。

特に、第1棒材部および第2棒材部は、コバルトの含有量が1質量%≦B

第1棒材部の好ましい組成は、3〜20質量%のコバルト、0.2〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物である。第2棒材部の好ましい組成は、1〜15質量%のコバルト、0.2〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物である。ここで本実施形態において不可避不純物とは、棒材の製造上、その混入を避けることができない元素の総称をいう。不可避不純物として各元素の含有量はそれぞれ0〜0.1質量%であり、各元素の総和(すなわち不可避不純物の含有量)は0〜0.2質量%である。

第1棒材部の組成は、コバルトが1質量%未満となれば耐折損性が不十分となり、20質量%を超えると剛性不足となる。クロムおよびバナジウムの両方を含まない場合、焼結工程において炭化タングステンが粗大化し、耐折損性が不十分となる恐れがある。よって、第1棒材部の組成においてクロムおよびバナジウムは、少なくとも一方を0.1質量%以上含み、両方を含むことが好ましく、かつクロムおよびバナジウムの総和が0.4〜1.2質量%であることが最も好ましい。ただし、クロムが1質量%を超えるか、またはバナジウムが0.5質量%を超えると強度が著しく低下する。

第2棒材部の組成は、コバルトが1質量%未満となればチッピングによる摩耗が進行し、20質量%を超えると耐摩耗性が不十分となる。クロムおよびバナジウムの両方を含まない場合、焼結工程において炭化タングステンが粗大化し、程度によっては耐摩耗性が不十分となる恐れがある。よって、第1棒材部の組成においてクロムおよびバナジウムは、少なくとも一方を0.1質量%以上含み、両方を含むことが好ましく、かつクロムおよびバナジウムの総和が0.4〜1.2質量%であることが最も好ましい。ただし、クロムが1質量%を超えるか、またはバナジウムが0.5質量%を超えると、耐摩耗性が低下する。

さらに、第1棒材部および第2棒材部は、コバルトの含有量が3質量%≦B

ここで、棒材の第1棒材部および第2棒材部の組成は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM:Field Emission Scanning Electron Microscopy)を付帯した波長分散型X線分析装置(WDS:Wavelength Dispersive X−ray Spectroscopy)を用い、次のような測定手法により測定することができる。

まず、棒材をその長手方向に樹脂に埋め、棒材の軸中心付近が露出するように研磨し、第1棒材部の観察用研磨面および第2棒材部の観察用研磨面を作製する。さらに、これらの観察用研磨面それぞれにおいて後述する観察範囲を設定し、WDSを使用して1000倍の倍率により上記観察範囲内の任意の5か所(5視野)で組成分析を行ない、その値を求める。最後に上記5視野の値の平均値をそれぞれ求めることにより、第1棒材部および第2棒材部の組成を特定することができる。

観察範囲は、第1棒材部および第2棒材部の長手方向の長さの中間部付近を含んだ矩形領域として設定される。具体的には、第1棒材部の観察用研磨面は、第1棒材部の長手方向の一端から第1棒材部全体の30〜70%となる箇所に矩形領域が設定される。第2棒材部の観察用研磨面は、第2棒材部の長手方向の一端から第2棒材部全体の30〜70%となる箇所に矩形領域が設定される。これらの矩形領域をWDSによる観察範囲とすればよい。

たとえば、長手方向の長さが10mm、この長手方向に対して垂直方向の長さが1mmである第1棒材部の場合、長手方向に対して垂直となる方向の一端から0.4〜0.6mm内側まで研磨し、その断面を露出させる。この断面の長手方向の一端から3〜7mmとなる箇所に矩形領域を設定することにより、この矩形領域を観察範囲とすることができる。棒材を埋める樹脂には、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などを用いることができる。さらに、長手方向に沿った第1棒材部の断面および第2棒材部の断面の研磨は、従来公知の方法を用いることができる。

本実施形態に係る棒材において第2棒材部は、長手方向において第1棒材部の10〜1000%の長さを有する。上述のようにドリルの刃先に用いた場合、第2棒材部は、ドリルの先端(図2においてドリル1の刃先先端部21)を占める。このため第2棒材部は、長手方向において第1棒材部よりも短くする(100%未満)ことにより、ドリルの刃先全体の耐折損性を高めることができる。その一方で、第2棒材部は、長手方向において第1棒材部よりも長くする(100%超)ことにより、ドリルの刃先全体の剛性を高め、穴あけ加工において穴位精度を向上させることができる。さらに、第2棒材部の大きさを上記の範囲で適宜変更することにより、適用可能な加工対象物などの種類を大幅に広げることもできる。第2棒材部は、長手方向において第1棒材部の50〜200%の長さを有することが好ましい。上述した効果が顕著に現れるからである。

<第3棒材部および第4棒材部> 本実施形態に係る棒材は、第3棒材部と第4棒材部とを含むことが好ましい。第3棒材部は、コバルト、クロム、バナジウム、炭化タングステンおよび不可避不純物を含み、炭化タングステンの平均粒径がXμmであり、第4棒材部は、コバルト、クロム、バナジウム、炭化タングステンおよび不可避不純物を含み、炭化タングステンの平均粒径がYμmである。第3棒材部は、長手方向において、その一部または全部が第1棒材部と重複する領域を占め、第4棒材部は、長手方向において、その一部または全部が第2棒材部と重複する領域を占める。特に第4棒材部は、棒材を後述するドリルの刃先に用いた場合、ドリル1の刃先先端部21の領域を占める第2棒材部と、刃先先端部21の先端側において少なくとも重複する領域を占めるものとする。

さらに、第3棒材部の組成は、その一部または全部の領域が重複する第1棒材部と、重複する一部または全部の領域において同じである。第4棒材部の組成は、その一部または全部の領域が重複する第2棒材部と、重複する一部または全部の領域において同じである。

第3棒材部および第4棒材部は、炭化タングステンの平均粒径がX≦Yの関係を満たす。X≦Yの関係とは、後述するドリルの刃先に用いた場合、図2に示すドリル1の刃先本体部22の炭化タングステンの平均粒径(X)は、ドリル1の刃先先端部21の炭化タングステンの平均粒径(Y)よりも小さいかまたは同じであることを意味する。本発明者らは、ドリル1の刃先先端部21の炭化タングステンの平均粒径を大きくすることにより、加工時の摩擦で発生する脱粒を防ぐ効果が現れることを見出した。脱粒が抑制されることにより、ドリル1の刃先先端部21の耐摩耗性が高まることとなる。したがって、優れた耐摩耗性をドリル1の刃先先端部21に付与することができる。さらに、ドリル1の刃先本体部22の炭化タングステンの平均粒径を小さくすることにより、耐折損性が高まることとなる。したがって、優れた耐折損性をドリル1の刃先本体部22に付与することができる。炭化タングステンの平均粒径は具体的には、0.1〜2μmであることが好ましい。この範囲において、Xは0.1〜0.8μmであることが好ましく、Yは0.2〜2μmであることが好ましい。

第3棒材部および第4棒材部は、炭化タングステンの平均粒径がX

Yの関係となると脱粒が抑制される効果を得ることが困難となり、耐折損性も低下するので好ましくない。

第3棒材部および第4棒材部の炭化タングステンの平均粒径は、電解放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)と、市販の画像解析ソフトとを用いることにより、次のような測定手法により測定することができる。

まず、棒材の組成の測定方法と同じ方法により、第1棒材部の観察用研磨面および第2棒材部の観察用研磨面を作製する。ここで、第1棒材部の観察用研磨面は同時に第3棒材部の観察用研磨面となり、第2棒材部の観察用研磨面は同時に第4棒材部の観察用研磨面となるものとする。なぜなら、上述のとおり第3棒材部は、その一部または全部が第1棒材部と重複する領域を占め、第4棒材部は、その一部または全部が第2棒材部と重複する領域を占めるため、上記のような観察用研磨面を用いることにより、炭化タングステンの平均粒径を求めることが可能となるからである。

さらに、これらの観察用研磨面において棒材の組成の測定方法で用いたのと同じ観察範囲をそれぞれ設定し、FE−SEMを使用して20000倍の倍率により、上記観察範囲内の任意の5か所(5視野)を撮影し、第1棒材部の観察用研磨面と第2棒材部の観察用研磨面とで顕微鏡画像を5枚ずつ得る。

続いて、上記顕微鏡画像を上記画像解析ソフトによりそれぞれ解析し、これらの顕微鏡画像に現れている炭化タングステン粒子を円近似し、その直径を求める。顕微鏡画像には1視野あたり、3000個以下の炭化タングステン粒子が現れるが、これらすべての粒子の直径を求める。最後に、求めた粒子の直径の平均値をそれぞれ算出することにより、第3棒材部および第4棒材部の炭化タングステンの平均粒径を特定することができる。

本実施形態に係る棒材において第4棒材部は、長手方向において第3棒材部の10〜1000%の長さを有する。上述のように棒材をドリルの刃先に用いた場合、第4棒材部は、ドリルの先端(図2においてドリル1の刃先先端部21)を占める。このため第4棒材部は、長手方向において第3棒材部よりも短くする(100%未満)ことにより、ドリルの刃先全体の耐折損性を高めることができる。その一方で、第4棒材部は、長手方向において第3棒材部よりも長くする(100%超)ことにより、ドリルの先端の耐摩耗性を高めることができる。さらに、第4棒材部の大きさを上記の範囲で適宜変更することにより、適用可能な加工対象物などの種類を大幅に広げることもできる。第4棒材部は、長手方向において第3棒材部の50〜200%の長さを有することが好ましい。上述した効果が顕著に現れるからである。

<第5棒材部> 本実施形態に係る棒材は、長手方向において第1棒材部と第2棒材部との間で所定の領域を占める第5棒材部を含んでいてもよい。第5棒材部は、長手方向において第3棒材部および第4棒材部の両方またはいずれか一方と重複する領域を占める。すなわち、後述する実施例などで説明するように、棒材の長手方向に対して垂直なコバルトの含有量が異なる境界となる境界面と、棒材の長手方向に対して垂直な炭化タングステンの平均粒径が異なる境界となる境界面との位置が相違する(一致しない)棒材を製造する場合に、その棒材に第5棒材部は含まれることとなる。

第5棒材部は、その組成がC質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物である。第5棒材部は、第1棒材部のコバルトの含有量であるA質量%および第2棒材部のコバルトの含有量であるB質量%との関係において、コバルトの含有量がA≧CまたはC≧Bの関係を満たす。さらに第5棒材部は、クロムおよびバナジウムの少なくとも一方を0.1質量%以上含む。

具体的には、第5棒材部のコバルトの含有量であるC質量%は、1〜20質量%であり、好ましくはA≧CまたはC≧Bの関係を満たす範囲で2〜18質量%となる。クロムおよびバナジウムの含有量は、第1棒状部および第2棒状部におけるクロムおよびバナジウムの含有量に依存して決定され、それぞれクロムが0〜1質量%の範囲内、バナジウムが0〜0.5質量%の範囲内の含有量となる。

第5棒材部の組成は、コバルトが1質量%未満となれば耐折損性が不十分となり、20質量%を超えると剛性不足となる。クロムおよびバナジウムの両方を含まない場合、焼結工程において炭化タングステンが粗大化し、耐折損性が不十分となる恐れがある。よって、第1棒材部の組成においてクロムおよびバナジウムは、少なくとも一方を0.1質量%以上含み、両方を含むことが好ましく、かつクロムおよびバナジウムの総和が0.4〜1.2質量%であることが最も好ましい。ただし、クロムが1質量%を超えるか、またはバナジウムが0.5質量%を超えると強度が著しく低下する。

第5棒材部の組成は、第1棒材部および第2棒材部の組成の測定方法と同様な方法により測定することができる。具体的には、棒材の軸中心付近が露出するように研磨し、この露出した第5棒材部の断面の長手方向の一端から30〜70%となる箇所を矩形領域に設定する。これを観察範囲としてWDSを使用して1000倍の倍率により上記観察範囲内の任意の5か所(5視野)において組成分析を行なう。これにより、第5棒材部の組成を特定することができる。

ここで、本実施形態に係る棒材の長手方向における第1棒材部〜第5棒材部がそれぞれ占める領域の例を図1A〜図1Dに模式的に示す。これらの図において棒材の長手方向に対して垂直な断面であって、各棒材部の境界となる境界面は、実線、破線または一点鎖線で示される。実線は、コバルト含有量および炭化タングステンの平均粒径が異なる境界となる境界面を示す。破線は、コバルト含有量または炭化タングステンの平均粒径が同じとなる境界面を示す。一点鎖線は、各棒材部がその領域を重複して占めていることを、観念的にその領域を上下に分断することによって示すものである。

図1Aに示す棒材10において、第3棒材部13はその全部が第1棒材部11と重複する領域を占める。第4棒材部14はその全部が第2棒材部12と重複する領域を占める。コバルト含有量はA>Bの関係を満たし、炭化タングステンの平均粒径はX=Yの関係を満たす。したがって、図1Aに示す棒材10においてコバルト含有量が異なる境界となる境界面は、第1棒材部11と第2棒材部12との境界に存在する。炭化タングステンの平均粒径が異なる境界となる境界面は存在しない。

図1Bに示す棒材10において、第3棒材部13はその全部が第1棒材部11と重複する領域を占める。第4棒材部14はその全部が第2棒材部12と重複する領域を占める。コバルト含有量はA>Bの関係を満たし、炭化タングステンの平均粒径はX

図1Cに示す棒材10において、第3棒材部13はその一部が第1棒材部11と重複する領域を占める。第4棒材部14はその全部が第2棒材部12と重複する領域を占める。第5棒材部15は、長手方向において第1棒材部11と第2棒材部12との間の領域であって、第3棒材部13と重複する領域を占める。コバルト含有量はA>C=Bの関係を満たし、炭化タングステンの平均粒径はX

図1Dに示す棒材10において、第3棒材部13はその全部が第1棒材部11と重複する領域を占める。第4棒材部14はその一部が第2棒材部12と重複する領域を占める。第5棒材部15は、長手方向において第1棒材部11と第2棒材部12との間の領域であって、第4棒材部14と重複する領域を占める。コバルト含有量はA=C>Bの関係を満たし、炭化タングステンの平均粒径はX

本実施形態に係る棒材は、コバルトの含有量が異なる境界となる境界面と、炭化タングステンの平均粒径が異なる境界となる境界面との位置が一致する場合であっても、第5棒状部を含むことができる。さらに、本実施形態に係る棒材は、第5棒状部を含み、たとえばコバルトの含有量が異なる境界となる境界面が2つ形成され、コバルトの含有量がB

(不可避不純物) 本実施形態に係る棒材は、耐摩耗性および耐折損性の両立が実現するという作用効果に影響を及ぼさない限り、周期律表の第4族元素(Ti、Zr、Hfなど)、第5族元素(Nb、Taなど)、第6族元素(Mo、Wなど)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)などの金属、素(B)などの半金属、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、塩素(Cl)などの非金属からなる群より選択される少なくとも1種の不可避不純物を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。上述のとおり、不可避不純物として各元素の含有量はそれぞれ0〜0.1質量%であり、各元素の総和(すなわち不可避不純物の含有量)は0〜0.2質量%である。

≪ドリルの刃先≫ 本実施形態に係るドリルの刃先は、上記棒材を用いたドリルの刃先である。ドリルの刃先は、上記棒材を用いているため、炭化タングステンを硬質相とし、コバルトを結合相として含む超硬合金からなる。ドリルの刃先は、長さが0.5〜15mmであり、かつ長手方向に対して垂直な断面における最大径が0.03〜3.175mmである。さらにドリルの刃先は、その先端を第2棒材部が占める。第4棒材部も上述のとおりであるので、第2棒材部が占めるドリルの刃先の先端の先端側を少なくとも占めている。本実施形態において、ドリルの刃先のうち第2棒材部が占める領域をドリルの刃先先端部という。ドリルの刃先のうち第1棒材部が占める領域をドリルの刃先本体部という。

したがって、ドリルの刃先の刃先先端部は、コバルト含有量(B質量%)がドリルの刃先本体部のコバルト含有量(A質量%)よりも少ない。さらに、ドリルの刃先先端部は、炭化タングステンの平均粒径(Yμm)が、ドリルの刃先本体部の炭化タングステンの平均粒径(Xμm)よりも大きい傾向にある。これにより、ドリルの刃先先端部に耐摩耗性を備えさせることができる。ドリルの刃先本体部は、コバルト含有量(A質量%)が大きく、炭化タングステンの平均粒径(Xμm)が小さいために耐折損性を備えることができる。

<刃先形状(長手方向)> 図2に示すように、本実施形態においてドリル1の刃先とは、ドリル1に回転力を与える機構に把持されるシャンク3と、該シャンク3に連設される切刃部2とからなるドリルの構造における切刃部2を指す。ドリル1の刃先(切刃部2)には、長手方向に沿ってらせん状に溝が刻まれ、該溝の縁に刃が形成される。ドリル1の刃先は、加工対象物に直接接触して穴あけなどする刃先先端部21と、この刃先先端部21で生じた加工対象物の切りくずなどを上記溝を通じて排出する刃先本体部22とを含む。本実施形態においてドリル1は、別体のシャンク3を溶接などにより切刃部2(ドリルの刃先)と一体化してなる構造を有していてもよく、単一の棒材からシャンク3と切刃部2(ドリルの刃先)とを削り出した一体ものの構造を有していてもよい。

本実施形態に係るドリル1の刃先は、その長さが0.5〜15mmであり、かつ長手方向に対して垂直な断面における最大径が0.03〜3.175mmである。ドリル1の刃先の長さとは、刃先先端部21と刃先本体部22とを含む長手方向の長さであって、長手方向に沿ったらせん状の溝が刻まれている範囲をいう。よってドリル1の刃先の長さにシャンク3の長さは含まれない。ドリル1の刃先の長手方向に対して垂直な断面における最大径とは、刃先先端部21および刃先本体部22の長手方向に対する垂直な断面のうち、その外接円が最大となる箇所での径をいう。ドリル1の刃先の長さおよびその最大径は、用途に応じて上記の範囲内から適宜決定される。

ドリルの刃先の長さが0.5mm未満となるドリルは、その用途および目的が非常に限定されるため好ましくない。長さが15mmを超えるドリルは、耐折損性が低いので好ましくない。ドリルの刃先の最大径が0.03mm未満となるドリルは作製が困難であり、最大径が3.175mmを超えるドリルは、シャンクより径が大きくなる場合が多く、製造上の工数が増えたり、品質が不安定になったりする傾向があるので好ましくない。

ドリル1の刃先は上述のとおり、刃先先端部21の領域を第2棒材部が占め、この第2棒材部と重複して第4棒材部が刃先先端部21の先端側の領域を少なくとも占める。さらにドリル1の刃先本体部22の領域を第1棒材部が占め、この第1棒材部と一部または全部が重複する領域を占める第3棒材部が、その重複する範囲で刃先本体部22を占めている。

<刃先形状(長手方向に対する垂直な断面)> ドリル1の刃先は、上記最大径をR、上記断面における心厚の厚みをrとしたとき、0.05R≦r≦0.6Rの関係を満たすことが好ましい。心厚とは、ドリル1の刃先の長手方向に対する垂直な断面において、らせん状に溝が刻まれても残存する中心部のことをいう。したがって心厚は、溝の最深部を仮想線でつないで形成される仮想円、すなわち図3において実線で示すような仮想円で表され、この仮想円の径を心厚の厚みrとして表すことができる。

ドリルの刃先は、0.05R≦r≦0.6Rの関係を満たすことにより、従来のドリルの刃先に比べ溝の深さが深いということができる。これによりドリルの刃先は、刃先本体部22において切りくずの排出性が良好となる。本実施形態では、上記棒材を用いることによりドリル1の刃先本体部22に十分な耐折損性を備えさせたため、より深い溝の形成が可能となり、上記関係を満たすことができる。最大径Rと心厚の厚みrとの関係は、排出性と強度との観点から0.1R≦r≦0.5Rの関係を満たすことがより好ましい。

ここで、心厚の厚みrはSEMにより観察し、測定することにより算出することができる。具体的には、SEMの視野となる観察面とドリルの長手方向に対する垂直な断面とを平行にし、SEMの焦点をドリルの刃先先端に合わせた上で、その刃先の溝の最深部を仮想線でつなげて仮想円を作成し、この仮想円の径を測定することにより、心厚の厚みrを算出する。心厚の厚みrは、ドリルを5つ以上準備し、これらから算出された値の平均値として表すことが好ましい。最大径Rについては従来公知の方法を用いて測定すればよい。

<作用> 以上から、本実施形態に係るドリルの刃先は、たとえば、半導体装置のプリント基板の穴あけ加工などに際し、高速加工の要求に応えることができる。具体的には、ドリルの刃先先端部に耐摩耗性を備え、ドリルの刃先本体部に耐折損性を備えることにより、上記要求を満たすことができる。したがって、本実施形態に係るドリルの刃先は、耐摩耗性および耐折損性の両立を実現することができる。

≪棒材の製造方法≫ 本実施形態に係る棒材の製造方法は、上記棒材を製造する方法であって、組成がA質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物からなる第1粉末と、組成がB質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物からなる第2粉末とを調製する第1工程を含む。さらに、第1粉末を金型に投入し、第1圧力で押圧する第2工程と、第2粉末を金型に投入し、第1圧力と同圧または第1圧力よりも低圧の第2圧力で押圧する第3工程とを含む。

<第1工程> 第1工程では、組成がA質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物からなる第1粉末と、組成がB質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物からなる第2粉末とを調製する。

第1粉末は、上記棒材の第1棒材部の原料となり、第2粉末は、上記棒材の第2棒材部の原料となる。したがって、第1粉末は第3棒状部の一部または全部の原料ともなり、第2粉末は第4棒状部の一部または全部の原料ともなる。さらに第1粉末および第2粉末は、コバルト含有量が1質量%≦B

(原料粉末配合工程) まず原料粉末配合工程において、従来公知の方法を用いて第1棒材部および第2棒材部に含まれる各元素および化合物を配合する。換言すれば、従来公知の配合方法により、第1粉末の上記組成を満たすように、ならびに第2粉末の上記組成を満たすように各元素および化合物をそれぞれ所定の割合で配合する。その際、コバルト含有量は上述のとおり、1質量%≦B

(湿式混合工程) 続いて、湿式混合工程において、所定の割合で各元素および化合物が配合された第1粉末用の配合物および第2粉末用の配合物を、それぞれ湿式混合する。湿式混合についても従来公知の方法を用いることができる。具体的には第1粉末用の配合物および第2粉末用の配合物を、従来公知の方法により5〜20時間以上混合することにより、第1粉末および第2粉末を調製することができる。たとえば、第1粉末用の配合物および第2粉末用の配合物を、市販されている湿式アトライタ装置を用いて15時間程度かけて湿式混合することにより、各元素および化合物の濃度が局所的に偏りのない第1粉末および第2粉末を調製することができる。

<第2工程> 第2工程では、第1粉末を金型に投入し、第1圧力で押圧する。まず、直径0.03〜3.175mmの棒材(たとえば、丸棒)を得るための金型を準備し、この金型に第1粉末を投入し、49〜200MPaの圧力でプレス成型する。その際、後述する焼結工程において第1粉末の成型体が焼結により収縮して第1棒材部が形成されることとなるため、この収縮の程度を考慮した直径の金型を準備することが好ましい。

<第3工程> 第3工程では、第2粉末を上記金型に投入し、第1圧力と同圧または第1圧力よりも低圧の第2圧力で押圧する。具体的には、第1粉末が成型体となって奥部に残存している金型へ第2粉末を投入し、49〜200MPaであって第1圧力と同圧または第1圧力よりも低圧となる圧力でプレス成型する。

上述のように、第2粉末を押圧する第2圧力は、第1粉末を押圧する第1圧力よりも低圧である場合を含む。なぜなら、第1粉末の成型体と第2粉末の成型体の収縮率を同程度とすることにより、内部が緻密で、かつ表面に凹凸のない平滑な棒材を製造する必要があることに基づく。第1粉末に含まれる炭化タングステンと第2粉末に含まれる炭化タングステンとで平均粒径が異なる場合、第1圧力と第2圧力とを同じ圧力値とすると、後述する焼結工程において焼結により収縮する成型体の収縮率が、第1粉末の成型体と第2粉末の成型体とで異なってしまう。これにより、内部が緻密で、かつ表面に凹凸のない平滑な棒材を製造することが困難となるからである。

すなわち、上述のとおり炭化タングステンの平均粒径はX≦Yの関係を満たす。このため第1粉末は炭化タングステンの平均粒径がXμmであるので、所謂微粒の炭化タングステンが含まれ、第2粉末は炭化タングステンの平均粒径がYμmであるので、所謂粗粒の炭化タングステンが含まれることとなる。第1粉末は、炭化タングステンが微粒であるので粒子間に多数の空隙が含まれ、単位質量あたりの体積が炭化タングステンが粗粒である第2粉末よりも大きい(すなわち、第2粉末よりも嵩高となる)。したがって第1圧力と第2圧力とを同じ圧力値とすると、第1粉末は第2粉末よりも嵩高の状態のまま成型体となる(すなわち、緻密さに欠ける成型体となる)。一方で、焼結工程を経て作製された棒材は、所定のサイズのものとなる(すなわち、第1粉末の成型体と第2粉末の成型体とで収縮率が異なってしまう)ため、第1棒材部において内部が緻密で、かつ表面に凹凸のない平滑な棒材が製造される恐れが生じるのである。

(焼結工程) 焼結工程では、上記第2工程および第3工程により得られた第1粉末の成型体と第2粉末の成型体とが一体となった状態の成型体を焼結する。この焼結は、従来公知の方法を用いることができる。すなわち上記成型体を、従来公知の方法により1350〜1450℃で焼結することにより、第1粉末と第2粉末とを含む焼結体を作製することができる。たとえば上記成型体を、市販されている焼結装置を用いて1380℃程度、1時間程度の条件で焼結することにより、内部が緻密で、かつ表面に凹凸のない平滑な焼結体を作製することができる。

<その他の工程> 本実施形態に係る棒材の製造方法では、上記焼結体に対し、熱間静圧プレス法(HIP法)を用いて仕上げを行なうことが好ましい。具体的には1350℃程度、1時間の条件で熱間静水圧プレス法を行なうことにより、本実施形態に係る棒材を製造することができる。これにより内部が緻密で、かつ表面に凹凸のない平滑な棒材を確実に得ることができる。

さらに、本実施形態に係る棒材の製造方法は、組成がC質量%のコバルト、0〜1質量%のクロム、0〜0.5質量%のバナジウムを含み、残部が炭化タングステンおよび不可避不純物からなる第3粉末を調製する第4工程と、第3粉末を上記金型に投入し、第1圧力と同圧または第1圧力よりも低圧、かつ第2圧力と同圧または第2圧力よりも高圧の第3圧力で押圧する第5工程とを含んでいてもよい。第3粉末は、上記棒材の第5棒材部の原料となるため、第1粉末および第2粉末との関係において、コバルトの含有量がA≧CまたはC≧Bの関係を満たす。さらに第3粉末は、それぞれクロムおよびバナジウムの少なくとも一方を0.1質量%以上含む。第3粉末においてクロムの含有量は1質量%以下であり、バナジウムの含有量は0.5質量%以下である。

(第4工程) 第4工程では、第1工程における第1粉末および第2粉末を調製する工程と同様な方法を用いることにより、上記組成を満たす第3粉末を調製することができる。換言すれば、上記原料粉末配合工程および上記湿式混合工程を経ることにより、上記組成を満たす第3粉末を調製することができる。

(第5工程) さらに、第5工程は、上記第2工程の後であって上記第3工程の前のタイミングで行なうことができる。まず、第2工程の後に第1粉末が成型体となって奥部に残存している金型へ第3粉末を投入し、49〜200MPaであって、第1圧力と同圧または第1圧力よりも低圧となる圧力(第3圧力)でプレス成型する。その後、第3工程として、第1粉末の成型体および第3粉末の成型体が奥部に残存している金型へ第2粉末を投入し、第1圧力と同圧または第1圧力よりも低圧となり、かつ第3圧力と同圧または第3圧力よりも低圧となる第2圧力により押圧すればよい。第2工程、第5工程、第3工程の順でプレス成型を行なう理由は、上記のとおり第3粉末が第5棒材部の原料であり、この第5棒材部が棒材における第1棒材部と第2棒材部との間の所定の領域を占めるからである。さらにプレス成型時の圧力を上述のように制御する理由は、焼結工程における各種の成型体の収縮率を同程度とするためである。

第5工程において、第3粉末を押圧する第3圧力は、第1圧力と同圧とする場合、第2圧力よりも高圧とすればよい。さらに、第3粉末を押圧する第3圧力は、第2圧力と同圧とする場合、第1圧力よりも低圧とすればよい。これにより、焼結工程における各種の成型体の収縮率を同程度としながら、コバルトの含有量および炭化タングステンの平均粒径が異なる境界となる境界面がそれぞれ所望の位置に形成される棒材を製造することができる。

以上により、本実施形態に係る棒材の製造方法は、たとえば第2棒材部を、加工対象物に直接接触して穴あけなどする刃先先端部とし、第1棒材部をドリルの刃先先端部で生じた加工対象物の切りくずなどの排出を担う刃先本体部とするドリルの刃先に用いた場合、その刃先先端部に対して耐摩耗性を付与し、ドリルの刃先本体部に対して耐折損性を付与する棒材を製造することができる。

≪ドリルの製造方法≫ 本実施形態に係るドリルの製造方法は、上記棒材を用いてドリルを製造する方法であって、上記棒材を切削して中心軸を定めるα工程と、上記中心軸を基準にして上記棒材に溝を形成するβ工程とを含む。

<α工程> α工程では、上記棒材を切削して中心軸を定める。ここで中心軸とは、ドリルの長手方向に対して垂直となる断面の中心を、ドリルの長手方向に沿って貫く軸をいう。中心軸を定めることにより、ドリルの回転時に刃先がぶれることがなくなるため、加工する穴の位置精度を高めることができる。棒材に対してドリルの中心軸を定める方法は、従来公知の方法を用いることができる。

<β工程> β工程では、α工程により定められた中心軸を基準にして棒材に溝を形成する。棒材に溝を形成する方法についても、従来公知の方法を用いることができる。このときドリルの刃先の最大径をR、心厚の厚みをrとしたとき、0.05R≦r≦0.6Rの関係を満たすことが好ましい。さらに、所望の溝が形成されたか否かの評価についても、従来公知の方法を用いて行なうことができる。

<γ工程> さらに、本実施形態に係るドリルの製造方法では、α工程の前に棒材にシャンクを取り付けるγ工程を含むことが好ましい。γ工程を行なうことにより、ドリルが別体のシャンクを切刃部(ドリルの刃先)に取り付けて一体化してなる構造を有する場合に、γ工程の後に行なうα工程およびβ工程を効率よく進めることができる。α工程およびβ工程においてシャンクを回転力を与える機構に把持させることができるからである。

γ工程では、α工程の前に棒材にシャンクを取り付ける。γ工程をα工程の前に行なう理由は、シャンクの取り付けによって、α工程において定める棒材の中心軸に影響が及ぶからである。棒材にシャンクを取り付ける方法は、上述した溶接による方法のほか、従来公知の方法を用いることができる。シャンクが確実に棒材に取り付けられたか否かの評価についても、従来公知の方法を用いて行なうことができる。

以上により、本実施形態に係るドリルの製造方法は、上記棒材を用いて製造するため、ドリルの刃先先端部に耐摩耗性を備え、ドリルの刃先本体部に耐折損性を備えたドリルを製造することができる。

以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。

ここで本実施例において、第1棒材部〜第5棒材部の組成は、FE−SEMを付帯したWDS(商品名:「Inca Wave」、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用い、上述した測定方法により求めた。さらに、炭化タングステンの平均粒径は、FE−SEMと、市販の画像解析ソフト(商品名:「Mac−View」、株式会社マウンテック製)とを用い、上述した測定方法により求めた。

さらに本実施例では、表1に示すように試料No.1〜14と名付けた14種のドリルを製造し、その刃先の耐摩耗性および耐折損性を評価した。試料No.1〜14のドリルは、心厚の厚みrなどの測定および評価試験で平均値に基づいて評価するため、それぞれ必要な複数個を製造することとした。以下、詳細に説明する。

≪棒材の製造≫ <試料No.1> (第1工程) 第1工程では、試料No.1のドリルに用いる棒材としての丸棒(以下、「試料No.Xのドリルに用いる棒材としての丸棒」を「試料No.Xの丸棒」と記すことがある)を製造するため、表1に示すとおりの組成、炭化タングステンの平均粒径となる第1粉末および第2粉末とを調製して準備した。特に、この第1粉末および第2粉末について、表1に示すドリル形状(長さ、最大径R、および長手方向における第1棒材部の長さに対する第2棒材部の長さ[第2棒材部長さ/第1棒材部長さ(%)])を満たす必要量を少なくとも準備した。表1において第1粉末は、棒材の第1棒材部の原料であって、第1粉末および第1棒材部の組成は同一であるので、第1棒材部の組成として表している。同じように第2粉末は、棒材の第2棒材部の原料であって、第2粉末および第2棒材部の組成は同一であるので、第2棒材部の組成として表している。

第1粉末および第2粉末の調製では、まず従来公知の配合方法により、第1粉末の表1に示す組成を満たすように、ならびに第2粉末の表1に示す組成を満たすように各元素および化合物をそれぞれ所定の割合で配合した(原料粉末配合工程)。続いて、第1粉末用の配合物および第2粉末用の配合物を、湿式アトライタ装置を用いて15時間かけて湿式混合することにより(湿式混合工程)、各元素および化合物の濃度が局所的に偏りのない第1粉末および第2粉末を調製した。

(第2工程) 第2工程では、焼結により収縮する前の直径が1.25mmとなる丸棒を得るための金型を準備し、この金型に第1粉末を必要量投入し、98MPaの圧力(第1圧力)でプレス成型した。

(第3工程) 第3工程では、第1粉末が成型体となって奥部に残存している上記金型へ第2粉末を必要量投入し、上記第1圧力と同圧となる98MPaの圧力(第2圧力)でプレス成型した。

(焼結工程) 焼結工程では、上記第2工程および第3工程により得られた第1粉末の成型体と第2粉末の成型体とが一体となった状態の成型体を、焼結装置を用いて1380℃、1時間の条件で焼結し、焼結体を得た。

(その他の工程:HIP法を用いた仕上げ工程) 上記焼結体に対し、1350℃、1時間の条件でHIP法を行なうことにより、試料No.1の丸棒を製造した。

<試料No.2、3、10、13、14> 試料No.2、3、10、13、14の丸棒は、第1粉末および第2粉末の組成を表1に示すとおりに変更したこと以外については、試料No.1の丸棒の製造と同じ方法により製造した。

<試料No.4、5、6、8、9、11、12> 試料No.4、5、6、8、9、11、12の丸棒は、第1粉末および第2粉末の組成を表1に示すとおりに変更したこと、ならびに下記のような第3工程を行なったこと以外については、試料No.1の丸棒の製造と同じ方法により製造した。

具体的には、試料No.4、5、6、8、9、11、12の丸棒の製造では第3工程において、第1粉末が成型体となって奥部に残存している金型へ第2粉末を必要量投入し、上記第1圧力より低圧となる69MPaの圧力(第2圧力)でプレス成型した。

<試料No.7> 試料No.7の丸棒は、第1粉末および第2粉末の組成を表1に示すとおりに変更したこと、組成を表1に示すとおりに調製して第3粉末を準備したこと、ならびに第2工程に続いて第5工程および第3工程を下記のように行なったこと以外については、試料No.1の丸棒の製造と同じ方法により製造した。表1において第3粉末は、棒材の第5棒材部の原料であって、第3粉末および第5棒材部の組成は同一であるので、第5棒材部の組成として表している。

すなわち、試料No.7の丸棒の製造では、まず第3粉末を調製して準備した(第4工程)。その調製方法は、試料No.1の丸棒の製造と同じ方法を用いた。さらに、第2工程に続いて第5工程を行ない、その後に第3工程を行なった。第5工程では、第1粉末が成型体となって奥部に残存している金型へ第3粉末を必要量投入し、上記第1圧力より低圧となる69MPaの圧力(第3圧力)でプレス成型した。その後の第3工程では、第1粉末の成型体および第3粉末の成型体が奥部に残存している金型へ第2粉末を投入し、上記第3圧力と同圧となる69MPaの圧力(第2圧力)でプレス成型した。

≪ドリルの製造≫ <試料No.1〜14> (γ工程) γ工程では試料No.1〜14の丸棒について、長手方向において第1棒材部が占めている側(刃先本体部側)の端部に直径3.175mmのシャンクを溶接によりそれぞれ取り付けた。

(α工程) α工程では、試料No.1〜14の丸棒を切削して中心軸を定めた。具体的には、試料No.1〜14の丸棒に取り付けたシャンクを回転力を与える機構に把持させ、該機構により棒材を回転させながら、棒材の表面をピーリングすることによりドリルの中心軸を定めた。

<β工程> β工程では、α工程により定められた中心軸を基準にして棒材に溝を形成した。具体的には、試料No.1〜14の丸棒に取り付けたシャンクを回転力を与える機構に把持させ、該機構により棒材を回転させながら、切削工具の刃が中心軸の長手方向およびこの長手方向に対して垂直な方向に対し、それぞれ所定の度で当接するようにして該切削工具で回転する棒材を切削することにより溝を形成した。さらに、ドリル表面を従来公知の方法で仕上げ、ドリルの最大径Rが0.3mm、心厚の厚みrが0.08mmとなるようにした。最大径R、心厚の厚みrの算出方法は、上述したとおりである。

以上より、試料No.1〜14のドリルを製造した。試料No.1〜14のドリル形状(長さ、最大径R、心厚の厚みr、および長手方向における第1棒材部の長さに対する第2棒材部の長さ[第2棒材部長さ/第1棒材部長さ(%)])は、表1に示すとおりである。表1には、試料No.7の丸棒について長手方向における第3棒材部の長さに対する第4棒材部の長さ[第3棒材部長さ/第4棒材部長さ(%)]も表した。

≪評価試験≫ 評価試験では、試料No.1〜14のドリルが備える耐摩耗性および耐折損性を評価した。

基材となるガラスクロス(組成:54質量%のSiO2、15質量%のAl2O3、17質量%のCaO、5質量%のMgO、8質量%のB2O3、0.6質量%のアルカリ金属酸化物(R2O)、0.4質量%の不純物)にエポキシ樹脂層を含浸させ、銅箔を積層し接着して形成された厚み1.6mmのプリント基板を準備した。このプリント基板を2枚重ねとして試料No.1〜14のドリルで高速穴あけ加工を行なった。高速穴あけ加工時の試料No.1〜14のドリルの回転数は120000rpm、送り速度は5μm/revとした。

耐折損性の評価としては、上記試験において各試料のドリルが折損に至るまでの穴あけ加工数(「折損時穴あけ加工数[個])を測定した。さらに、耐摩耗性の評価としては、上記試験において穴あけ加工数が3000個に至った時にドリルの刃先の摩耗量[穴あけ加工前後の刃先先端部の直径の減少率(%)]を「摩耗割合(%)」として測定した。これらの評価は、試料No.1〜14についてそれぞれ5個のドリルの平均値として算出した。その結果を、表1に示す。

<考察> 第1棒材部および第2棒状部が所定の組成を有し、かつコバルトの含有量について所定の関係を満たし、第2棒材部が長手方向において第1棒材部に対して所定の長さを有する試料No.1〜試料No.9のドリルは、良好な穴あけ加工数(7200個以上)およびドリルの刃先の摩耗量(6%以下)を示し、耐摩耗性および耐折損性の両立を実現していた。

特に、試料No.1〜3の評価からコバルト含有量は1〜20質量%の範囲内において10質量%前後であることが良好な結果をもたらすことが分かった。試料No.1〜3および試料No.4〜6の評価から、第2棒材部(刃先先端部)に含まれる炭化タングステンの平均粒径を粗大(0.8μm)とすることで、摩耗量が抑えられることが分かった。

試料No.7の評価から、コバルトの含有量が異なる境界となる境界面と、炭化タングステンの平均粒径が異なる境界となる境界面の位置が相違するドリルであっても、耐摩耗性および耐折損性の両立を実現することができることが分かった。試料No.8および試料No.9の評価からは、第1棒状部と第2棒状部との長さの比に適切な値(少なくとも10%以上817%未満の範囲)があることが分かった。

一方で、試料No.10〜試料No.14のドリルは、穴あけ加工数およびドリルの刃先の摩耗量の少なくともいずれかで良好な結果を得ることができず、耐摩耗性および耐折損性の両立を実現するとはいえなかった。

試料No.10は、第1棒材部および第2棒状部のコバルト含有量および炭化タングステンの平均粒径が同一であるため、耐摩耗性で十分な評価を得ることができなかった。試料No.11、12は、第1棒状部と第2棒状部との長さの比が適切ではなく、耐摩耗性および耐折損性の両面で十分な評価を得ることができなかった。試料No.13、14は、第1棒材部および第2棒状部のコバルト含有量が適切ではなく、耐摩耗性および耐折損性の両面で十分な評価を得ることができなかった。

以上のように本発明の実施形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態および各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。

今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

1 ドリル、2 切刃部、21 刃先先端部、 22 刃先本体部、3 シャンク、10 棒材、11 第1棒材部、12 第2棒材部、13 第3棒材部、14 第4棒材部、15 第5棒材部。

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