自動車用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法

申请号 JP2012266696 申请日 2012-12-05 公开(公告)号 JP5872443B2 公开(公告)日 2016-03-01
申请人 株式会社神戸製鋼所; 发明人 堀 雅是; 稲垣 佳也;
摘要
权利要求

Si:0.7〜1.5質量%、 Fe:0.1〜0.5質量%、 Mg:0.6〜1.2質量%、 Ti:0.01〜0.1質量%および Mn:0.3〜1.0質量%を含有し、さらに Cr:0.1〜0.4質量%およびZr:0.01〜0.2質量%から選択される少なくともいずれか一つを含有し、 Cu:0.1質量%以下および Zn:0.05質量%以下に規制し、 素量:0.25ml/100gAl以下であり、 残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金から構成されるアルミニウム合金鍛造材であって、 表面からの再結晶深さが5mm以下であり、 引張強度が340MPa以上であり、 伸びが10.0%以上であり、 耐応腐食割れ性において、応力腐食割れ発生までの時間が30日以上である ことを特徴とする自動車用アルミニウム合金鍛造材。前記アルミニウム合金が、 Si:1.0〜1.3質量%、 Fe:0.2〜0.4質量%、 Mg:0.7〜1.1質量%、 Ti:0.01〜0.08質量%および Mn:0.5〜0.9質量%を含有し、さらに Cr:0.1〜0.3質量%およびZr:0.05〜0.2質量%から選択される少なくともいずれか一つを含有し、 Cu:0.1質量%以下および Zn:0.05質量%以下に規制し、 水素量:0.25ml/100gAl以下であり、 残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金であることを特徴とする請求項1に記載の自動車用アルミニウム合金鍛造材。表面からの再結晶深さが1mm未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動車用アルミニウム合金鍛造材。請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法であって、 加熱温度700〜780℃かつ鋳造速度200〜400mm/分で前記アルミニウム合金の鋳塊を鋳造する鋳造工程と、 前記鋳塊を0.5℃/分以上10℃/分未満の速度で昇温し、480〜560℃で2〜12時間均質化熱処理し、300℃以下まで1.0℃/分以上で冷却する均質化熱処理工程と、 前記均質化熱処理した鋳塊を500〜560℃で0.75〜6時間加熱する加熱工程と、 前記鋳塊を鍛造開始温度450〜560℃、鍛造終了温度360℃以上で鍛造して所定の形状の鍛造材を得る鍛造工程と、 前記鍛造材を500〜560℃で0を超え24時間以内で溶体化処理する溶体化処理工程と、 前記溶体化処理した鍛造材を75℃以下で焼入れする焼入工程と、 前記焼入れした鍛造材を140〜200℃で1〜24時間人工時効処理する人工時効処理工程、 を含むことを特徴とする自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法。前記加熱工程の後に、前記鋳塊をプリフォーム形成するプリフォーム工程を行い、その後鍛造工程を行うことを特徴とする請求項4に記載の自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法。前記均質化熱処理工程の後に、前記鋳塊を押出加工する押出加工工程を行い、その後加熱工程を行うことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法。

说明书全文

本発明は、自動車用足回り部材や構造部材等に好適に用いられるアルミニウム合金鍛造材およびその製造方法に関するものである。

従来、車両、船舶、航空機、自動二輪あるいは自動車などの輸送用車両の構造材には、JIS規格またはAA規格に規定される6000系(Al−Mg−Si系)などのアルミニウム合金(以下略して「Al合金」と表記することがある。)が使用されてきた。この6000系アルミニウム合金は、比較的耐食性にも優れており、またスクラップを6000系アルミニウム合金溶解原料として再利用できるリサイクル性の点からも優れている。

また、輸送用車両の構造材には、製造コストの低減や、複雑形状部品への加工の点から、アルミニウム合金鋳造材やアルミニウム合金鍛造材が用いられている。この内、高強度で高靱性などの機械的性質が要求される強度部材、例えば、アッパーアーム、ロアーアームなどの自動車用足回り部材には、アルミニウム合金鍛造材が主として用いられている。

これらアルミニウム合金鍛造材は、アルミニウム合金鋳造材を均質化熱処理後、メカニカル鍛造、油圧鍛造などの熱間鍛造を行い、その後溶体化処理、焼入れ処理や人工時効処理(以下、単に時効処理とも言う)などの調質処理が施されて製造される。なお、アルミニウム合金を鍛造するためには、鋳造材を均質化熱処理後、押出加工した押出材が用いられることもある。

近年、これら輸送用車両の強度部材においては、低燃費、低CO2排出の要求の高まりから、更なる軽量化(薄肉化)の必要性が生じてきている。従来これらの用途には、6061や6151などの6000系アルミニウム合金鍛造材が使用されてきていたが、強度や靱性の点で性能的に不十分である。

このような問題を解決するために、本発明者らは先に、特許文献1に記載されているように、Mg:0.6〜1.8%(質量%、以下同じ)、Si:0.6〜1.8%を含み、更に、Cr:0.1〜0.2%およびZr:0.1〜0.2%の一種または二種を含むとともに、Cu:0.25%以下、Mn:0.05%以下、Fe:0.30%以下、素:0.25cc/100gAl以下、に各々規制し、残部Alおよび不可避的不純物からなり、アルミニウム合金組織の粒界上に存在するMg2SiやAl−Fe−Si−(Mn、Cr、Zr)系晶析出物の平均粒径を1.2μm以下とするとともに、これら晶析出物同士の平均間隔を3.0μm以上とすることを特徴とする耐食性に優れた高強度高靱性アルミニウム合金鍛造材、を提案した。

特開2001−107168号公報

しかしながら、特許文献1に記載されたアルミニウム合金鍛造材は、耐食性は良好であるが、Mn、Cr、Zrに代表される遷移元素が少ないため、再結晶による結晶粒の粗大化が生じやすく、引張強度のばらつきが非常に大きなものとなることが判明した。特に、自動車の足回り部品用として考えたときには、信頼性の高い引張強度が要求されるため、引張強度のばらつきが大きいと設計に使用する引張強度が低下し、こうした用途への展開が困難となり、問題となっていた。

本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その課題は、良好な耐食性を維持しつつ、引張強度に優れた自動車用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法を提供しようとするものである。

そこで、本発明者らは、上記引張強度のばらつきの原因について検討を進めていった。その結果、アルミニウム合金鍛造材の引張試験を行ったときに、破断する際の亀裂の起点は基本的には表面付近から入り、部材の厚さとは直接関係がないこと、鍛造材表面付近の再結晶組織は強度が低いため亀裂が発生しやすいこと、亀裂の発生のしやすさには表面付近の再結晶組織の深さが関係していることを見出した。そして、アルミニウム合金鍛造材の表面からの再結晶組織の深さを特定の数値以下にすることにより、引張強度のばらつきが大幅に減少し、引張強度の向上につながることを見出した。

さらに、こうしたアルミニウム合金鍛造材の表面からの再結晶組織の深さを特定の数値以下にするために、アルミニウム合金を構成する元素の組成および製造条件について検討を進めた結果、特定の合金組成であって、特定の製造条件で製造することによって再現性よく引張強度の向上が図れることを見出すに至り、本発明に到達したものである。

前記課題を解決するために、本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材は、Si:0.7〜1.5質量%、Fe:0.1〜0.5質量%、Mg:0.6〜1.2質量%、Ti:0.01〜0.1質量%およびMn:0.3〜1.0質量%を含有し、さらにCr:0.1〜0.4質量%およびZr:0.01〜0.2質量%から選択される少なくともいずれか一つを含有し、Cu:0.1質量%以下およびZn:0.05質量%以下に規制し、水素量:0.25ml/100gAl以下であり、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金から構成されるアルミニウム合金鍛造材であって、表面からの再結晶深さが5mm以下であり、引張強度が340MPa以上であり、伸びが10.0%以上であり、耐応腐食割れ性において、応力腐食割れ発生までの時間が30日以上であることを特徴としている。

さらに、前記アルミニウム合金が、Si:1.0〜1.3質量%、Fe:0.2〜0.4質量%、Mg:0.7〜1.1質量%、Ti:0.01〜0.08質量%およびMn:0.5〜0.9質量%を含有し、さらにCr:0.1〜0.3質量%およびZr:0.05〜0.2質量%から選択される少なくともいずれか一つを含有し、Cu:0.1質量%以下およびZn:0.05質量%以下に規制し、水素量:0.25ml/100gAl以下であり、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金であることが好ましい。

前記構成によれば、Si、Mgを所定量、特にSiを比較的多量に含有させることによりMg2Siの析出量を増加させたこと、および遷移元素、特にMnを比較的多量に含有させたことにより、鍛造材の結晶組織が微細化され、再結晶組織の深さを少なくして、引張強度を向上させている。

またCuの含有量を特定の数値以下に規制すること、および遷移元素を積極的に含有させて鍛造材の結晶組織を微細化させることにより、粒界腐食感受性が鈍くなり、耐食性能の保持が可能となっている。さらにFeの含有量を比較的少量とし、水素量を所定量以下とすることにより靱性、疲労特性の低下を抑えている。

このような組成を有するアルミニウム合金を使用したアルミニウム合金鍛造材であって、表面からの再結晶深さを5mm以下に制御することにより、良好な耐食性を維持しつつ、鍛造材としての引張強度の向上を図ることが可能となる。さらに、表面からの再結晶深さを1mm未満に制御することにより、良好な耐食性を維持しつつ、鍛造材としての引張強度のより一層の向上を図ることが可能となる。

また、本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法は、加熱温度700〜780℃かつ鋳造速度200〜400mm/分で前記アルミニウム合金の鋳塊を鋳造する鋳造工程と、前記鋳塊を0.5℃/分以上10℃/分未満の速度で昇温し、480〜560℃で2〜12時間均質化熱処理し、300℃以下まで1.0℃/分以上で冷却する均質化熱処理工程と、前記均質化熱処理した鋳塊を500〜560℃で0.75〜6時間加熱する加熱工程と、前記加熱した鋳塊を鍛造開始温度450〜560℃、鍛造終了温度360℃以上で鍛造して所定の形状の鍛造材を得る鍛造工程と、前記鍛造材を500〜560℃で0を超え24時間以内で溶体化処理する溶体化処理工程と、前記溶体化処理した鍛造材を75℃以下で焼入れする焼入工程と、前記焼入れした鍛造材を140〜200℃で1〜24時間人工時効処理する人工時効処理工程、を含むものである。

さらに、本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法としては、加熱工程の後に、鋳塊をプリフォーム形成するプリフォーム工程を行い、その後鍛造工程を行うことが可能である。また、均質化熱処理工程の後に、鋳塊を押出加工する押出加工工程を行い、その後加熱工程を行うことも可能である。

特に、前記手順において、均質化熱処理後に500〜560℃で0.75〜6時間加熱する加熱工程を設けること、均質化熱処理工程の熱処理温度や冷却速度を所定の範囲に制御すること、鍛造工程の開始温度・終了温度を所定の範囲に制御すること、溶体化処理工程の温度と時間として所定の条件を採用すること、等の複数の工程における条件を厳密に制御することにより、最終製品であるアルミニウム合金鍛造材の表面からの再結晶深さを5mm以下に制御することを可能とするものである。

本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材は、引張強度のばらつきが少なく、耐応力腐食割れ性、引張強度、0.2%耐力および伸びに優れたものである。また本発明の製造方法によれば、耐食性を維持しつつ、引張強度に優れた自動車用アルミニウム合金鍛造材を製造することができる。

本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法の工程を示すフローチャートである。

実施例・比較例記載の自動車用アルミニウム合金鍛造材試料の製造工程を示す模式図である。

実施例・比較例記載の評価用試験片の採取位置および再結晶深さの測定位置を示す図である。

実施例・比較例記載の耐応力腐食割れ性評価用試験片(SCC試験用Cリング)の寸法を示す図である。(a)は平面図、(b)は側面図であり、(b)は(a)の矢印の方向から見た図である。

(a)L型および(b)I型の自動車足回り部材形状のアルミニウム合金鍛造材における再結晶深さの測定位置を示す図である。

アルミニウム合金鍛造材断面のマクロ組織観察による再結晶部位を示す図である。

図5(a)の自動車足回り部材形状のアルミニウム合金鍛造材の切断面においてマクロ組織観察による再結晶部位を模式的に示した図である。

以下、本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法について詳細に説明する。まず、本発明のアルミニウム合金について説明する。

本発明のアルミニウム合金は、Si:0.7〜1.5質量%、Fe:0.1〜0.5質量%、Mg:0.6〜1.2質量%、Ti:0.01〜0.1質量%およびMn:0.3〜1.0質量%を含有し、さらにCr:0.1〜0.4質量%およびZr:0.01〜0.2質量%から選択される少なくともいずれか一つを含有し、Cu:0.1質量%以下およびZn:0.05質量%以下に規制し、水素量:0.25ml/100gAl以下であり、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金である。 本発明のアルミニウム合金を構成する各元素の含有量について、以下に説明する。

(Si:0.7〜1.5質量%) Siは、人工時効処理によりMgとともに、Mg2Si(β’相)として析出して、最終製品であるアルミニウム合金鍛造材の使用時に高強度(耐力)を付与するために必須の元素である。Siの含有量が0.7質量%未満では人工時効で十分な強度が得られない。一方、Siの含有量が1.5質量%を超えると、鋳造時および溶体化処理後の焼き入れ途中で、粗大な単体Si粒子が晶出および析出して、耐食性と靱性を低下させる。また、Siが過剰になると、粒界上に存在するMg2SiやAl−Fe−Si−(Mn、Cr、Zr)系晶析出物の平均粒径が小さくならず、これら晶析出物同士の平均間隔を大きくすることができない。

その結果、後述するMgの場合と同様に、アルミニウム合金鍛造材の耐食性と靱性を低下させる。更にアルミニウム合金鍛造材の伸びが低くなるなど、加工性も阻害する。目安としては、Mg2SiやAl−Fe−Si−(Mn、Cr)系晶析出物の平均粒径は1.2μm以下、晶析出物同士の平均間隔は3.0μm以上とすることが望ましい。ここで、Al−Fe−Si−(Mn、Cr)系晶析出物の平均粒径と平均間隔に関する知見は、本出願人の出願に係る特開2001—107168号公報に記載されている。Siの含有量は、好ましくは0.9〜1.4質量%の範囲であり、さらに好ましくは1.0〜1.3質量%の範囲である。

(Fe:0.1〜0.5質量%) Feは、Al7Cu2Fe、Al12(Fe,Mn)3Cu2、(Fe,Mn)Al6など、Al−Fe−Si−(Mn、Cr)系の晶析出物を生成させる。これらの晶析出物は、前記した通り、破壊靱性および疲労特性などを劣化させる。特に、Feの含有量が0.5質量%、より厳密には0.3質量%を超えると、Al−Fe−Si−(Mn、Cr)系晶析出物の合計の面積率を、単位面積当たり1.5%以下、好ましくは1.0%以下とすることが困難となり、輸送用車両の構造材などに要求される、より高強度で高靱性を有するアルミニウム合金鍛造材を得ることができない。ここで、Al−Fe−Si−(Mn、Cr)系晶析出物の面積率に関する知見は、本出願人の出願に係る特開2008−163445号公報に記載されている。Feの含有量は、好ましくは0.2〜0.4質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.2〜0.3質量%の範囲である。

(Mg:0.6〜1.2質量%) Mgは、人工時効処理によりSiとともに、Mg2Si(β’相)として析出して、最終製品であるアルミニウム合金鍛造材の使用時に高強度(耐力)を付与するために必須の元素である。Mgの含有量が0.6質量%未満では時効硬化量が低下する。一方、Mgの含有量が1.2質量%を超えると、強度(耐力)が高くなりすぎ、鋳塊の鍛造性を阻害する。また、溶体化処理後の焼き入れ途中に多量のMg2Siが析出しやすくなり、粒界上に存在するMg2SiやAl−Fe−Si−(Mn、Cr)系晶析出物の平均粒径が小さくならず、これら晶析出物同士の平均間隔を大きくすることができない。目安としては、Mg2SiやAl−Fe−Si−(Mn、Cr)系晶析出物の平均粒径は1.2μm以下、晶析出物同士の平均間隔は3.0μm以上とすることが望ましい。Mgの含有量は、好ましくは0.7〜1.1質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.8〜1.0質量%の範囲である。

(Ti:0.01〜0.1質量%) Tiは、鋳塊の結晶粒を微細化し、押出、圧延、鍛造時の加工性を向上させるために添加する元素である。しかし、Tiの0.01質量%未満の含有では、結晶粒の微細化が不十分なため、加工性向上の効果が得られず、一方、Tiが0.1質量%を超えて含有されると、粗大な晶析出物を形成し、前記加工性を低下させ易い。Tiの含有量は、好ましくは0.01〜0.08質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.02〜0.05質量%の範囲である。

(Mn:0.3〜1.0質量%) (Cr:0.1〜0.4質量%およびZr:0.01〜0.2質量%から選択される少なくともいずれか一つ) これらの元素は均質化熱処理時およびその後の熱間鍛造時に、Al6MnやAl12Mg2Cr、Al−Cr系、Al−Zr系などの金属間化合物の分散粒子(分散相)を生成する。これらの分散粒子は、再結晶後の粒界移動を妨げる効果があるため、微細な結晶粒や亜結晶粒を得ることができる。そのため、これらの元素のうち、Mnの含有量は0.3〜1.0質量%であることが必要である。CrとZrの含有量については、Crは0.1〜0.4質量%、Zrは0.01〜0.2質量%のうちの少なくともいずれか一方を満足することが必要である。 但し、CrまたはZrあるいはCrとZrを含む、いずれの場合であっても、Crは0.4質量%、Zrは0.2質量%のそれぞれの上限を超えないことが必要である。

これらの元素は、その含有量が少なすぎるとこれらの効果が期待できず、一方、含有量が過剰であると、溶解、鋳造時に粗大なAl−Fe−Si−(Mn、Cr)系の金属間化合物や晶析出物を生成しやすく、破壊の起点となり、靱性や疲労特性を低下させる原因となる。その場合には、Al−Fe−Si−(Mn、Cr)系晶析出物の合計の面積率を、単位面積当たり1.5%以下、好ましくは1.0%以下とすることができず、高靱性や高疲労特性を得ることができない。

Mnの含有量は、好ましくは0.5〜0.9質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.6〜0.8質量%の範囲である。 Crの含有量は、好ましくは0.1〜0.3質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.2〜0.3質量%の範囲である。 Zrの含有量は、好ましくは0.05〜0.2質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.1〜0.2質量%の範囲である。

(Cu:0.1質量%以下) Cuは、アルミニウム合金鍛造材の組織の応力腐食割れや粒界腐食の感受性を著しく高め、アルミニウム合金鍛造材の耐食性や耐久性を低下させる。この観点から本発明では、Cuの含有量をできるだけ少なく規制する。しかし、操業上0.1質量%程度の混入は避けられず、影響が軽微であることから、Cuの含有量は0.1質量%以下に規制する。

(Zn:0.05質量%以下) Znが存在することにより、人工時効処理時において、MgZn2を微細かつ高密度に析出させることができれば高い引張強度を実現することができる。しかし、Znは製品の腐食電位を大きく低下させるため、耐食性が悪くなってしまう。またMgと化合して析出することからMg2Si析出量を低下させ、結果として引張強度を低下させる。そのため、Znの含有量は、0.05質量%以下に規制することが必要である。

(水素:0.25ml/100gAl以下) 水素(H2)は、特に、アルミニウム合金鍛造材の加工度が小さくなる場合、水素に起因する気泡等の鍛造欠陥を生じさせやすく、破壊の起点となるため、靱性や疲労特性を低下させやすい。特に、高強度化した輸送用車両の構造材などにおいては、水素の影響が大きい。従って、水素の含有量は0.25ml/100gAl以下にすることが必要である。

(不可避的不純物) 不可避的不純物としては、C、Ni、Na、Ca、V等の元素が想定し得るが、いずれも本発明の特徴を阻害しないレベルで含有することは許容される。具体的には、これら不可避的不純物の元素は、個々の元素毎の含有量がそれぞれ0.3質量%以下であり、合計の含有量が1.0質量%以下であることが必要である。

(再結晶深さ) 本発明のアルミニウム合金鍛造材の表面からの再結晶深さは5mm以下である。 ここで言う再結晶とは、結晶粒成長を伴う現象であり鍛造後の結晶粒より大きくなることである。図6は、一例として、アルミニウム合金鍛造材断面のマクロ組織観察による再結晶部位を示したものである。図6のマクロ組織観察において、白く見えるところを再結晶部位とする。

本発明における再結晶深さは、アルミニウム合金鍛造材の引張強度に関係する。金型との摩擦と冷却のために、アルミニウム合金鍛造材の表面部は内部よりも再結晶しやすくなる。再結晶組織となった部位は未再結晶組織と比較して引張強度が低くなる傾向がある。そのため、引張による破壊の起点となる亀裂は再結晶組織において発生し易い。表面からの再結晶組織の深さが大きくなると、亀裂が進展しやすくなり、引張強度のばらつきが大きくなり、結果として設計時の引張強度の大幅な低下につながる。この観点から、アルミニウム合金鍛造材において優れた引張強度を実現するためには、アルミニウム合金鍛造材の表面からの再結晶深さを5mm以下に抑えることが必要となる。再結晶深さは、3mm以下が好ましく、1mm未満がより好ましい。

アルミニウム合金鍛造材の表面からの再結晶深さを5mm以下に制御するためには、アルミニウム合金の組成においては、特に、Si、Fe、Mnの含有量を所定の範囲に管理することが必要である。また、後述するアルミニウム合金鍛造材の製造方法においては、均質化熱処理後に500〜560℃で0.75時間以上加熱する加熱工程を設けること、均質化熱処理工程の熱処理温度や冷却速度を所定の範囲に制御すること、鍛造工程の開始温度・終了温度を所定の範囲に制御すること、溶体化処理工程の温度と時間として所定の条件を採用すること、等の複数の工程における条件を厳密に制御することが必要である。

ここで、再結晶深さは、以下の方法で測定することができる。アルミニウム合金鍛造材のパーティングライン(PL)を垂直に跨ぐ断面であって、断面積が最小となる、あるいは極力小さくなる位置で切断する。ここで、パーティングラインとは、鍛造加工時に鋳塊を上型と下型とで挟む際に生じる鍛造材表面の境界線を意味する(図2参照)。その切断面をペーパー研磨した後、塩化第II銅水溶液でエッチングする。その後硝酸に付けて水洗いしエアーブロー乾燥した後、切断部の断面のマクロ組織観察を行う。切断部の断面において、再結晶部位の表面からの距離を測定して、最大となる位置における距離をもって、再結晶深さ(mm)とする。

次に、本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法について説明する。図1は、本発明のアルミニウム合金鍛造材の製造方法の工程Sを示すフローチャートである。

図1に示すように、本発明の製造方法Sは、鋳造工程S1、均質化熱処理工程S2、加熱工程S4、鍛造工程S6、溶体化処理工程S7、焼入工程S8および人工時効処理工程S9を含むものである。さらに、均質化熱処理工程S2の後に、鋳塊を押出加工する押出加工工程S3を行い、その後加熱工程S4を行ってもよい。また、加熱工程S4の後に、鋳塊をプリフォーム形成するプリフォーム工程S5を行い、その後鍛造工程S6を行ってもよい。本発明の優れた引張強度と耐食性を有した自動車用アルミニウム合金鍛造材を得るためには、前述のアルミニウム合金の組成だけでなく、製造方法についても所定の条件を採用することが必要となる。

本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法では、以下に特に記載した以外の工程や条件については、常法により製造することが可能である。以下に、各工程の条件について説明する。

(鋳造工程) 鋳造工程S1は、前記アルミニウム合金の化学成分組成に溶解調整された溶湯を鋳造して鋳塊とする工程である。そして、連続鋳造法(例えば、ホットトップ鋳造法)や半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。なお、鋳塊の形状は、丸棒などのインゴットやスラブ形状などがあり、特に制限されるものではない。

鋳造工程S1においては、加熱温度は700〜780℃とすることが必要である。加熱温度が700℃未満であると、凝固温度より低下しやすくなり、タンディッシュ内で溶湯が凝固しやすくなり、更に、鋳造ノズル詰まりになり、鋳造不可能になる。加熱温度が780℃を超えると、凝固しづらくなり、連続鋳造時に、凝固シェルが破れるいわゆるブリードが発生し、これも連続鋳造が不可能となる。

さらに、鋳造速度は、200〜400mm/分とすることが必要である。200mm/分未満であると、タンディッシュ内で溶湯が凝固しやすくなり、更に、鋳造ノズル詰まりになり、鋳造不可能になる。また凝固組織に粗大な晶出物ができ、引張強度、ばらつきに悪影響を及ぼす。400mm/分を超えると、凝固シェルが破れるいわゆるブリードが発生しやすくなり、これも連続鋳造が不可能となる。

また、鋳塊の結晶粒を微細化し、かつ、粒界上に存在するAl−Fe−Si−(Mn、Cr)系晶析出物の平均粒径を小さくし、晶析出物同士の平均間隔を大きくするためには、溶湯を、10℃/sec以上の冷却速度で冷却して鋳塊とすることが望ましい。冷却速度が遅いと、粒界上に存在するAl−Fe−Si−(Mn、Cr)系晶析出物の平均粒径を小さくすることができず、晶析出物同士の平均間隔を大きくすることができない。

(均質化熱処理工程) 均質化熱処理工程S2は、前記鋳塊に所定の均質化熱処理を施す工程である。前記鋳塊を0.5℃/分以上10℃/分未満の速度で昇温し、480〜560℃で2〜12時間均質化熱処理し、300℃以下まで1.0℃/分以上で冷却することが必要である。ここで、本発明の均質化熱処理工程における昇温速度および冷却速度の数値は、平均値としての数値を示している。 昇温速度は、鋳塊の温度が室温から所定の均質化熱処理温度に到達するまでの平均昇温速度で表わされ、0.5℃/分以上10℃/分未満であることが必要である。昇温速度が0.5℃/分未満であると、粗大なMg−Si系析出物が生成されやすくなり、分散粒子が粗大なMg−Si系析出物の周りに生成されることで不均質になり、再結晶を生じやすくなる。昇温速度が10℃/分以上であると、粗大な分散粒子が形成されやすくなり、再結晶を生じやすくなる。

均質化熱処理は5〜500nm程度のサイズである分散粒子を高密度に析出させることを目的としている。分散粒子を高密度に析出させることで粒界移動の抑制が高くなり、再結晶を抑制することができる。このとき、最も効果的な温度は480〜560℃であり、十分な析出をさせるには2時間以上行う必要がある。熱処理温度が480〜560℃の範囲から外れると、再結晶抑制に効果のある分散粒子が少なかったり粗大になりすぎて抑制効果が弱くなったりする。熱処理時間が2時間未満であると、分散粒子が十分に生成させることができない。また、熱処理時間は、生産性の点から12時間以下であることが望ましい。

均質化熱処理後の冷却速度は、鋳塊の温度が均質化熱処理温度から300℃以下に到達するまでの平均冷却速度で表わされ、1.0℃/分以上で冷却することが必要である。冷却速度が1.0℃/分未満であると、冷却途中で粗大なMg2Si等の析出物が出るため、分散粒子の効果が小さくなってしまう。さらに、後の加工性が低下するなどの影響が出る。 均質化熱処理には、空気炉、誘導加熱炉、硝石炉などが適宜用いられる。

(押出加工工程) 本発明では、均質化熱処理工程S2の後に、鋳塊を押出加工する押出加工工程S3を行い、その後加熱工程S4を行うことができる。押出加工工程S3を入れると、繊維状組織となることで引張強度と靱性をより向上させる点で好ましい。

本発明では、押出加工工程S3を行わないときに、鋳造工程S1の後または均質化熱処理工程S2の後に、ピーリングを行ってもよい。鋳造後に、鋳造品の表面に偏析相が生成することがある。この偏析相には鋳造品の内部よりも添加元素が多量に存在しており、鋳造品内部よりも硬くて脆い。そのため、この表面の偏析相を除去するために、鍛造工程S6で塑性加工を行う前にピーリングを行うことができる。

(加熱工程) 加熱工程S4は、鍛造工程S6での変形抵抗を減らし、鍛造加工による歪みを減らし、さらに再結晶を抑制するために必要な工程である。加熱工程S4は鍛造加工を最適にするために行う工程であるため、鍛造温度と同等以上の温度が必要となる。

加熱工程S4では、前記均質化熱処理した鋳塊を500〜560℃で0.75〜6時間加熱することが必要である。加熱温度が500℃より低いと上記効果が得られず、560℃より高いと、共晶溶融から製品内部に空隙が残り、鍛造工程S6で鍛造割れや共晶溶融などの欠陥が発生しやすく、強度が著しく低下するおそれがある。加熱時間が0.75時間未満であると、材料中心部まで十分に均一に加熱されない可能性があり、上記効果が得られなくなる可能性がある。また、加熱時間は、均質化熱処理で生成した分散粒子の維持の点から、6時間以下であることが好ましい。

(プリフォーム工程) 本発明では、加熱工程S4の後に、鋳塊をプリフォーム形成するプリフォーム工程S5を行い、その後鍛造工程S6を行うことができる。プリフォームの形成は、フォージングロール等を用いて行われる。プリフォームの形成としては、例えば、棒状の鋳塊を回転させつつ外径断面積を小さくする等の加工により行なわれる。プリフォーム工程S5を行うと、バリとして排出される合金量が減少するため、材料の歩留まりを向上させる点で好ましい。プリフォーム工程S5後に、鋳塊の温度が、所定の鍛造開始温度よりも低下する場合は、プリフォーム形成後の鋳塊を再加熱することにより、所定の鍛造開始温度とすることができる。

(鍛造工程) 鍛造工程S6は、均質化熱処理された前記鋳塊を鍛造素材として使用し、メカニカル鍛造や油圧鍛造などにより鋳塊に熱間鍛造を施して、所定の形状の鍛造材を得る工程である。この際、鍛造素材の鍛造の開始温度は、450〜560℃とする。開始温度が450℃より低いと変形抵抗が高くなり、十分な加工ができなくなる上、鍛造加工による歪みが高くなるため再結晶が生じやすくなる。560℃より高くなると鍛造割れや共晶溶融などの欠陥が発生しやすくなる。

鍛造加工は、鋳塊を所定の形状に変形させるため、必要に応じて複数回行われることがある。その場合には、所定の鍛造終了温度を確保するために、鍛造工程S6の途中で再加熱を行ってもよい。

また、鍛造素材の鍛造の終了温度は、360℃以上とする。終了温度が360℃未満であると、鍛造加工による歪みが高くなるため再結晶が生じやすくなる。また、鍛造の終了温度は、鍛造加工による歪みを少なくする点から、できる限り高くすることが望ましい。

(溶体化処理工程) 溶体化処理工程S7は、鍛造工程S6で導入された歪みを緩和し、溶質元素の固溶を行う工程である。溶体化処理工程S7では、前記鍛造材を500〜560℃で0を超え24時間以内で溶体化処理することが必要である。処理温度が500℃未満になると、溶体化が進まず、時効析出による高強度化が期待できなくなる。560℃を超えると溶質元素の固溶がより促進されるものの、共晶溶融や再結晶が生じやすくなる。また処理時間が24時間を越えると、再結晶を抑制していた分散粒子が粗大化、または消滅することで再結晶が生じやすくなる。

なお、溶体化処理における保持時間、昇温速度は、0.2%耐力を保証するために、保持時間20分〜20時間、昇温速度(平均昇温速度)100℃/hr以上とすることが好ましい。 溶体化処理は、空気炉、誘導加熱炉、硝石炉などが適宜用いられる。

(焼入工程) 焼入工程S8は、前記溶体化処理した鍛造材を75℃以下で焼入れ処理する工程である。通常、水中あるいは温湯中への冷却により行う。処理温度が75℃を超えると、十分な冷却速度で焼きが入らず、粗大なMg−Si系析出物が出るため後の人工時効処理工程S9で十分な引張強度が得られなくなる。

(人工時効処理工程) 人工時効処理工程S9は、前記焼入れした鍛造材を140〜200℃で1〜24時間人工時効処理する工程である。 処理温度が140℃未満になったり処理時間が1時間より短いと引張強度を向上させるMg−Si系析出物が十分成長できなくなる。また処理温度が200℃より高くなったり処理時間が24時間より長くなるとMg−Si系析出物が粗大になりすぎて引張強度向上への効果が減少してしまう。 なお、人工時効硬化処理には、空気炉、誘導加熱炉、オイルバスなどが適宜用いられる。

次に、本発明を実施例に基づいて説明する。尚、本発明は、以下に示した実施例に限定されるものではない。 実施例および比較例において評価した特性は以下のとおりである。

[合金組成] 合金組成は、島津製作所製発光分析装置OES−1014を用いて測定した。製品の測定部位は、測定が可能であれば特に限定されない。操作は取扱説明書に従って行った。

[引張試験] JIS Z2201にある5号試験片を用いて、JIS Z2241の規定に準じて、引張強度、0.2%耐力、伸びの測定を行った。30個の試験片の測定値の平均値として求めた。引張強度のばらつきの指標として標準偏差σを求めた。引張強度は340MPa以上のとき、0.2%耐力は320MPa以上のとき、伸びは10.0%以上のとき、標準偏差σは6.0MPa以下のときに合格と判定した。

[耐応力腐食割れ性(SCC)] JIS H8711の交互浸漬法の規定に準じて行った。図4には、耐応力腐食割れ性評価用試験片(SCC試験用Cリング)の寸法が示されている。 300MPa負荷時の耐応力腐食割れが30日未満は×、30日以上〜60日未満は○、60日以上は◎と評価した。○または◎は合格と判定した。

[再結晶深さ] 再結晶深さは、以下の条件で測定した。 測定用試料をパーティングライン(PL)を垂直に跨ぐ断面であって、断面積が最小となる位置で切断した。切断面を#600から#1000までの耐水ペーパーにて研磨した後、塩化第II銅水溶液でエッチングした。その後硝酸に付けて水洗いしエアーブロー乾燥した後、切断部の断面のマクロ組織観察を行った。切断部の断面において、再結晶部位の表面からの距離を測定して、最大となる位置における距離をもって、再結晶深さT(mm)とした。 再結晶深さは5mmを超えるとき×、1mm以上5mm以下を○、1mm未満を◎とした。○または◎は合格と判定した。

[実施例1、実施例3〜11、比較例1〜21] 表1に示す各種合金組成を有したAl合金を、ホットトップ鋳造法により、加熱温度720℃かつ鋳造速度250mm/分で、φ80mm径×100mm長さの丸棒に鋳造した。尚、Al合金中の水素量は、鋳造時に測定した。その後この鋳塊を、昇温速度3℃/分で昇温し、540℃×8時間で保持し、300℃以下まで1.5℃/分で冷却して、均質化熱処理を行った。

その後、空気炉を用いて520℃に加熱して1.5時間保持して加熱処理を行った。次に鍛造開始温度520℃、鍛造終了温度440℃で、上下金型を用いたメカニカル鍛造により合計の鍛造圧下率が70%となるように熱間鍛造を行い、φ145mm径×30mm厚の円板形状のAl合金鍛造材を製造した。

さらに、Al合金鍛造材を空気炉で540℃で8時間の溶体化処理した後、60℃の水で水冷(水焼入れ)を行い、引き続いて空気炉で175℃で8時間の人工時効処理を行った。

図2は、上記評価用のアルミニウム合金鍛造材の製造工程を示す模式図である。図2では、溶体化処理工程S7と焼入工程S8と人工時効処理工程S9を合わせて調質工程という名称で示している。図2に示されるように、円柱状の鋳造品は鍛造工程S6においてプレスされて、円板状の鍛造品となり、その後、調質工程を経て、本発明の鍛造材を製造している。円板状の鍛造品および鍛造材には、パーティングラインPLが示されている。

こうして得られたアルミニウム合金鍛造材の円板から図3に示す位置で引張試験用試験片および耐応力腐食割れ性(SCC)評価用試験片(Cリング)を採取した。図3には、円板状のアルミニウム合金鍛造材の平面図と断面図の寸法が示されている。また図3の円板の直径にて切断し、その切断面を観察して、表面からの再結晶部位の距離が最大となる再結晶深さの測定を行った。評価結果を表2に示した。

尚、図5は、本発明の代表的な用途である、L型自動車足回り部材形状のAl合金鍛造材10およびI型自動車足回り部材形状のAl合金鍛造材20における切断位置すなわち再結晶深さの測定位置を具体的に示したものである。図5(a)に示すように、L型自動車足回り部材形状のAl合金鍛造材10は、3つのジョイント部11a、11b、11cと2つのアーム部12a、12bとからなる。切断面X−Xは、その1つのアーム部12aを切断するものである。図5(b)に示すように、I型自動車足回り部材形状のAl合金鍛造材20は、2つのジョイント部21a、21bと1つのアーム部22とからなる。切断面Y−Yは、そのアーム部22を切断するものである。

図7は、図5(a)に示したL型自動車足回り部材形状のアルミニウム合金鍛造材10の切断面X−Xにおいてマクロ組織観察による再結晶部位15を模式的に示した図である。図7に示すように、切断面は、リブ13とウェブ14とからなるH字断面形状を有している。表面付近の再結晶部位15を網点で示した。再結晶部位15の中で表面からの距離が最大となる位置Tにおける距離をもって、再結晶深さとした。

表1、表2に示すように、本発明の請求項1の規定を満足するAl合金からなる鍛造材(実施例1、実施例3〜11)は、引張強度のばらつきが少なく、引張強度、0.2%耐力、伸びおよび耐応力腐食割れ性が優れていた。一方、本発明の規定を満足しないAl合金からなる鍛造材(比較例1〜21)は、引張強度、0.2%耐力、伸びおよび耐応力腐食割れ性のうちのいずれか1つ以上が劣っていた。表1中、本発明の規定を満足しない条件は、数値に下線を引いて示した。また、表1の合金組成において、「<」の記号を付した数値は、この記号のうしろの数値未満であることを示している。この場合、この記号のうしろの数値が、測定装置の検出限界であることを示している。

[実施例12〜18、比較例22〜45] 実施例3に記載の組成、即ち、Si:1.20質量%、Fe:0.22質量%、Mg:0.90質量%、Ti:0.02質量%、Mn:0.70質量%、Cr:0.20質量%、Zr:0.01質量%未満、Cu:0.05質量%、Zn:0.02質量%未満、水素量0.15ml/100gAlで、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を用いて、表3に記載の製造条件を用いて、実施例1、実施例3〜11と同様にアルミニウム合金鍛造材を製造した。尚、Al合金中の水素量は、鋳造時に測定した。 こうして得られたアルミニウム合金鍛造材の円板から実施例1、実施例3〜11と同様に、図3に示す位置で引張試験用試験片および耐応力腐食割れ性(SCC)評価用試験片(Cリング)を採取した。また図3の円板の直径にて切断し、その切断面を観察して、表面からの再結晶部位の距離が最大となる再結晶深さの測定を行った。評価結果を表4に示した。

表3、表4に示すように、本発明の請求項4の規定を満足する製造条件を用いたAl合金鍛造材(実施例12〜18)は、引張強度のばらつきが少なく、引張強度、0.2%耐力、伸びおよび耐応力腐食割れ性が優れていた。一方、本発明の規定を満足しない製造条件を用いたAl合金鍛造材は、比較例22、23、25、34および37については、鋳造又は鍛造をすることができず、比較例24、26〜33、35〜36、38〜45については、引張強度、0.2%耐力、伸びおよび耐応力腐食割れ性のうちのいずれか1つ以上が劣っていた。表3中、本発明の規定を満足しない製造条件は、数値に下線を引いて示した。

実施例13と実施例14とを比較した場合、引張強度については実施例14の方が高い数値となっている。しかしながら、工程能力で±4σ(99.9937%の物が入る範囲)を求めてみると、 実施例13: 386±(4×1.5)=380〜392MPa 実施例14: 391±(4×3.4)=377.4〜404.6MPa となり、実施例13の方が、高強度材が安定して得られていることが分かる。従って、工程能力上の数値としては、実施例13の方が有利な数値となる。これは、実施例14の再結晶深さが1mm以上であるのに対して、実施例13の再結晶深さが1mm未満であり、引張強度のばらつきが小さいことに因るものと考えることができる。

S; 本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法 S1; 鋳造工程 S2; 均質化熱処理工程 S3; 押出加工工程 S4; 加熱工程 S5; プリフォーム工程 S6; 鍛造工程 S7; 溶体化処理工程 S8; 焼入工程 S9; 人工時効処理工程 PL; パーティングライン 10; L型自動車足回り部材形状のAl合金鍛造材 20; I型自動車足回り部材形状のAl合金鍛造材

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