【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は雪崩や落石等の各種の衝撃エネルギーを効率良く減衰して受け止める衝撃吸収用ネット及び衝撃吸収方法に関する。 【0002】 【従来の技術】落石防護柵においては、斜面に立設した支柱間に複数の横ロープ材を水平方向に張り巡らして構成し、支柱と横ロープ材の強度で以て落石を受け止めることは周知である。 また落石時に横ロープ材が上下に開かないように開き防止用の縦ロープ材を交差させて取り付けたネットや、各縦横ロープ材の交差部に緩衝具を取り付け、ロープ材と緩衝具間の摺動摩擦抵抗により衝撃エネルギーを減衰するネットも提案されている。 またロープ材の円形に丸め、その両端を固定してリング体を形成し、このリング体の内周を相互に接触させて鎖状に形成したネットが特開平8−53814号公報や特開平1 0−88527号公報に開示されている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】これまでは、ロープ材の持つ引張強度で衝撃エネルギーを受け止め、ロープ材の伸びや緩衝具とロープ材間の摺動摩擦抵抗により衝撃エネルギーを減衰する方式である。 この減衰原理の下で大規模な衝撃エネルギーを減衰するには、ロープ材の線径を大きくしたり、緩衝具によるロープ材の把持力を大きくして摺動摩擦抵抗を大きく設定する等の対策が考えられる。 これらの対策案にあっては、重量やコストが増大するだけでなく、取扱性や組立作業性が悪化して実現性に乏しい。 【0004】本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは、衝撃エネルギーの減衰効率が格段に向上する、衝撃吸収用ネット及び衝撃吸収方法を提供することにある。 さらに本発明の他の目的は、 大規模な衝撃エネルギーを受ける用途に適した、衝撃吸収用ネット及び衝撃吸収方法を提供することにある。 【0005】 【課題を解決するための手段】請求項1に係る発明は、 ロープ材をネット状に編成して構成し、所定の間隔を隔てて立設した支柱間に取り付けられる衝撃吸収用ネットにおいて、ロープ材で構成する複数の連続輪要素と、二本のロープ材を摺動を許容して把持する複数の緩衝具とからなり、前記連続輪要素が1本のロープ材で以て連続性を有する複数の単体輪で構成し、一方の連続輪要素の各単体輪と他方の連続輪要素の各単体輪を相互に係合し、前記各単体輪に少なくとも1つの緩衝具を取り付けたことを特徴とする。 請求項2に係る発明は、請求項1 に記載の衝撃吸収用ネットにおいて、隣接する各単体輪の間でロープ材を相互に巻き掛けたことを特徴とする。 請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の衝撃吸収用ネットにおいて、各単体輪を形成するロープ材の交差部に緩衝具を取り付けたことを特徴とする。 請求項4に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の衝撃吸収用ネットにおいて、各単体輪を形成するロープ材の交差部に緩衝具を取り付けると共に、隣接する各単体輪の間に緩衝具を取り付けたことを特徴とする。 請求項5に係る発明は、請求項1又は請求項2にに記載の衝撃吸収用ネットにおいて、各単体輪を形成するロープ材の交差部に緩衝具を取り付け、隣接する各単体輪の間に緩衝具を取り付けると共に、隣接する各連続輪要素の各単体輪の間に緩衝具を取り付けたことを特徴とする。 請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の衝撃吸収用ネットにおいて、緩衝具が、ロープ材を収容可能な溝を両面に形成した中間板と、中間板の両側に配置され、中間板との対向面にロープ材を収容可能な溝を形成した外板と、これらの板を締結するボルト及びナットよりなり、前記ボルト及びナットの締結力により、各板の間に挟持したロープ材の摺動摩擦抵抗が調整可能であることを特徴とする。 請求項7に係る発明は、 ロープ材をネット状に編成した衝撃吸収用ネットを用いて衝撃エネルギーを減衰する、衝撃減衰方法において、 前記請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の衝撃吸収用ネットを使用し、衝撃エネルギーを全体の単体輪に分散して伝達し、各単体輪の変形による減衰作用と、隣接する各単体輪に設置した緩衝具及び単体輪を構成するロープ材間の摺動摩擦抵抗による減衰作用の複合作用によって衝撃エネルギーを減衰することを特徴とする。 【0006】 【発明の実施の形態1】以下図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。 〈イ〉衝撃吸収用ネットの構成 図1に衝撃吸収用ネットの一例を示す。 衝撃吸収用ネットは複数の連続輪要素10a,10b,10c…と、複数の緩衝具30とにより構成される。 各連続輪要素10 a,10b,10c…は隣接して係合されている。 本発明ではロープ材20の巻き掛けの有無に関係なく、ロープ材20が相互に力の伝達が可能な状態を「係合」と定義づける。 【0007】尚、本発明に係る衝撃吸収用ネットの向きは図1に示す向きに限定されるものではなく、例えば図の上下を反対にしたり、或いは図を90度、又は45度回転した状態であってもよい。 【0008】〈ロ〉連続輪要素 連続輪要素10aは1本のロープ材をループ形状(又はスパイラルを展開した形状)に編成した複数の単体輪2 0a,20a…の連続体により構成される。 他の連続輪要素10b,10c…についても同様に、1本のロープ材1をもとに素材的に連続した複数の単体輪20b,2 0b…、20c,20c…により構成される。 【0009】各単体輪20a,20a…の間(20b, 20b…の間、20c,20c…の間)と、隣接する各連続輪要素10aと10bの間の単体輪20aと20 b、20bと20c……は相互に係合している。 これは縦横方向に隣接する各連続輪要素10a,10b,10 c…間に連続性を持たせるためである。 【0010】各連続輪要素10a,10b,10c…の構造について詳しく説明する。 各連続輪要素10a,1 0b,10c…は、チェーンの如く多数の独立形リング体を連鎖した構造体を含むものではない。 各連続輪要素10a,10b,10c…は、前述したように1本のロープ材20を用いて単体輪20a,20a…、20b, 20b…、20c,20c…を連続的に形成したものであり、引張力等の外力が作用したとき、各単体輪20 a,20b,20cの内径が小さく変化可能な構造体になっている。 【0011】また単体輪20a,20b,20cの形状は、図示する円形の他に楕円形、三角形や四角形等の多角形であってもよく、またこれらの形状を組み合わせたものであってもよい。 【0012】また衝撃吸収用ネットを構成するロープ材は、ワイヤロープが好適であるが、PC鋼線、PC鋼より線や炭素繊維、アラミド繊維も使用可能である。 【0013】〈ハ〉緩衝具 緩衝具30は少なくとも各単体輪に1つ取り付けられる。 本実施の形態1は、各単体輪20a,20a…(2 0b,20b…、20c,20c…)を構成するロープ材20の交差部に緩衝具30を設置した場合について説明する。 【0014】緩衝具30は交差する複数のロープ材をその両側から把持し、設定した把持力を越えるとロープ材の摺動を許容するように作用するもので、把持力(摺動摩擦抵抗)の調整機能を具備している。 緩衝具30は、 隣接する各単体輪20a,20a…、20b,20b …、20c,20c…の間で、過大な外力(引張力)が作用したときに摺動抵抗を発生する構造であれば良い。 【0015】図2を基に緩衝具30について説明する。 緩衝具30は、両面に断面半円形の収容溝35を形成した中間板31と、中間板31の両側に重ねる2枚の外板32,32と、これらの板体31,32,32を締結する締結ボルト33及びナット34とよりなる。 【0016】中間板31の両面及び中間板31と対向する各外板32,32の側面には、夫々断面半円形の収容溝35が凹設されている。 これらの収容溝35は各単体輪20a、(20b,20c…)を構成するロープ材2 0の二箇所を収容して把持できるようになっている。 収容溝35はロープ材20の湾曲形状に合わせて円弧形に形成し、その端部をラッパ状に拡径しておくことが望ましい。 また収容溝35の内周面に摩擦抵抗を大きくするために突起群を形成しておく場合もある。 締結ボルト3 3及びナット34の締結力を調整することで、ロープ材20の把持力(摺動摩擦抵抗力)を調整することができる。 【0017】上記した緩衝具30は一例であり、その他に2枚の板体の間にロープ材の二箇所を挟み込み、ボルト、ナットで締め付けて把持する構造の治具や、公知のワイヤクリップ等を使用できる。 【0018】 【衝撃減衰作用】衝撃吸収用ネットは従来と同様に図示しない支柱間に取り付けられる。 支柱の上部とネット背面の地山との間に控えロープが接続されている。 【0019】以降の説明は、衝撃吸収用ネットに例えば落石が衝突した場合、支柱や控えロープによる衝撃エネルギーの減衰作用を除き、衝撃吸収用ネットのみによる衝撃減衰作用について説明する。 【0020】衝撃吸収用ネットの一部に衝撃が作用すると、この衝撃は連続性を有する連続輪要素10a,10 b,10c…及び単体輪20a,20b,20cを経由してネット全体に伝達され、以下に説明する複数の減衰作用に起因した相乗効果によって、効率的に衝撃エネルギーが減衰される。 衝撃吸収用ネットの全体に分散された衝撃エネルギーはまず、ネット全体の変形により減衰される。 さらに衝撃エネルギーは単体輪20a,20 b,20c群が円形から非円形に変形する際に、ロープ材の変形抵抗力により減衰される。 衝撃エネルギーは各単体輪20a,20b,20cを構成する各ロープ材2 0に引張力として作用する。 この引張力が緩衝具30の把持力(摺動摩擦抵抗)を越えると、ロープ材20が摺動して衝撃エネルギーを減衰する。 ロープ材20の摺動に伴い、単体輪20a,20b,20cが縮径する。 【0021】衝撃吸収用ネットを構成する単体輪20 a,20b,20cが相互に連続性を有することから、 各単体輪20a,20b,20cの縮径方向の変形を伴う衝撃エネルギーの減衰作用はネット全体で行われる。 したがって、分散した衝撃エネルギーを効率よく、かつ速やかに減衰することが可能となる。 この作用効果は、 単なる独立したリング体をチェーンの如く連鎖して形成したネットと比較すれば、顕著である。 【0022】前記のチェーン構造のネットと、本発明の衝撃吸収用ネットを同径のワイヤロープを用いて、同径のリング径に設定して、減衰能力の比較実験を行った。 その結果、チェーン構造のネットの減衰可能なエネルギーは最大で1500KJ程度あったが、本発明の衝撃吸収用ネットでは4000KJであった。 本発明に係る衝撃吸収用ネットは、単なるチェーン構造のネットと比較してその減衰性能が格段に増大することが確認できた。 【0023】 【発明の実施の形態2】以降の説明に際し、既述した実施の形態と同一の部位は同一の符号を付して構造や作用についての詳しい説明を省略する。 【0024】図3及び図4に前述した実施の形態1の構成に緩衝具30の設置箇所を追加した他の実施の形態を示す。 図3は各連続輪要素10a,10b,10cを構成する隣接する単体輪20a,20a…(20b,20 b…、20c,20c…)の隣接部(交差部)にも緩衝具30aを追加して設けた場合を示す。 図4は図3の構成を前提として、各連続輪要素10a,10b,10c の単体輪20a,20b(20b,20c…)の隣接部(交差部)にも緩衝具30bを追加して設けた場合を示す。 【0025】図3に示す衝撃吸収用ネットにあっては、 ロープ材20の交差部に設けた緩衝具30だけでなく、 各単体輪20a,20a…(20b,20b…、20 c,20c…)の交差部に設けた緩衝具30aによる減衰作用も加わり、実施の形態1の衝撃吸収用ネットに比べて衝撃エネルギーの減衰量が大きくなる。 【0026】図4に示す衝撃吸収用ネットの場合は、各単体輪20a,20b,20cが三角形になる組み合わせで配置され、隣接する各単体輪20aと20b間、2 0bと20cの間というように、ひとつの単体輪に対して六つの緩衝具30a,30bが取り付けられることになるため、図3に比べて衝撃エネルギーの減衰量が格段に大きくなる。 【0027】緩衝具30,30a,30bの設置位置については、図1,図3,図4を組み合わせてもよい。 【0028】 【発明の実施の形態3】既述した実施の形態は、各連続輪要素10a,10b,10c…を構成する単体輪20 a,20a…、20b,20b…、20c,20c…のロープ材を相互に巻き掛け(係合)たり、各単体輪20 aと20b、20bと20cの如く連続輪要素10a, 10b,10c…間でロープ材を相互に巻き掛ける場合について説明したが、ロープ材20を各単体輪20a, 20b、20cの間で絡み合わせずに単に並べて各緩衝具30,30a,30bで把持して連結するようにしてもよい。 【0029】 【発明の効果】本発明は以上説明したように、ロープ材や単体輪の各重合部(交差部)に緩衝具を取り付けるだけの簡単に構造の衝撃吸収用ネットを使用することで、 連続輪要素を構成する単体輪の変形と、各単体輪の摺動摩擦抵抗等との複合作用により、従来のネットと比べて衝撃エネルギーの減衰効率が格段に向上する。 【0030】特に大規模な衝撃エネルギーを効果的に減衰できるため、大型の落石や雪崩が予想される衝撃吸収柵や、砂防ダムなどに適用できる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 発明の実施の形態1に係る衝撃吸収用ネットの一部の正面図 【図2】 図1におけるII−IIの断面図 【図3】 発明の実施の形態2に係る衝撃吸収用ネットの一部の正面図 【図4】 緩衝具の設置位置を追加した他の衝撃吸収用ネットの一部の正面図 【符号の説明】 10a,10b,19c… 連続輪要素 20 ロープ材 20a 連続輪要素10aを構成する単位輪 20b 連続輪要素10bを構成する単位輪 20c 連続輪要素10cを構成する単位輪 30,30a,30b 緩衝具 ─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】 【提出日】平成10年6月12日 【手続補正1】 【補正対象書類名】図面 【補正対象項目名】全図 【補正方法】変更 【補正内容】 【図1】 【図2】 【図3】 【図4】 |