【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、クリーム本来の風味を有ししかも加熱臭がない良好な風味を有し、流通・保存時の乳化安定性にすぐれたクリーム類の製造法、このクリーム類を原料または副原料として使用する風味の良い油脂食品または油脂含有食品の製造法、およびこれらの製造法によって得られる風味のよいクリーム類、油脂食品または油脂含有食品を提供するものである。 【0002】 【従来の技術】 乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)において、「クリーム」とは、生乳、牛乳または特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去したものをいう、と規定され、その成分規格として、乳脂肪分18.0%以上、酸度(乳酸として)0.20%以下であることが規定されている。 生乳等からクリームを得る方法は乳脂肪と脱脂乳との比重差を利用して遠心力により機械的に分離する遠心分離法が普通であり、ディスク型の遠心分離機が常用されている。 【0003】 上記のクリームのほかに、使用原料の違いにより、バターやバターオイルなどの乳脂肪分に脱脂粉乳などの無脂乳固形分、乳化剤、水等を添加して製造した還元クリーム、乳脂肪分および植物性脂肪分に脱脂粉乳などの無脂乳固形分、乳化剤、安定剤、水等を添加して製造したコンパウンドクリーム、植物性脂肪分に脱脂粉乳などの無脂乳固形分、乳由来以外の蛋白質、乳化剤、安定剤、水等を添加して製造した合成クリームなどがある。 【0004】 これらの原料による分類であるクリーム、還元クリーム、コンパウンドクリーム、合成クリームは、用途別に、ホイップ用クリーム、コーヒー用クリーム、料理用クリームなどそれぞれに特定の脂肪率、物性に調整されている。 また、クリームは、バターやバターオイルの原料用としても使用されている。 これらのクリーム類は、原料から調製された後に、殺菌工程に供される。 プレート式熱交換殺菌機により、72〜75℃15秒間、82〜85℃10秒間の高温短時間殺菌法(HTST法)あるいは130〜140℃2秒間の超高温殺菌法(UHT法)で殺菌し、通常は、殺菌後直ちに10℃以下に冷却される。 【0005】 乳、乳を含有する未加熱液が殺菌時に加熱臭成分の代表であるジメチルジサルファイドを生成することが明らかにされおり(特許文献1)、本発明におけるクリーム類の殺菌工程においても、加熱により、乳蛋白質の変性をきたし、硫化水素、ジメチルサルファイド、ジメチルジサルファイド、ジメチルトリサルファイド等の硫化化合物に代表される加熱臭成分が発生することは明らかである。 加熱されることにより、乳蛋白質(特にβ−ラクトグロブリンに代表されるホエイ蛋白質)は、熱変性を受け、ポリペプチド鎖中の含硫アミノ酸残基のジスルフィド結合が開裂し−SH基が露出し、一方、溶存している酸素は、乳脂肪中の不飽和脂肪酸と反応してラジカル化された過酸化脂質を生成する。 硫化化合物は、前記乳蛋白質のポリペプチド鎖中の−SH基と、前記ラジカル化された過酸化脂質が反応して生成するといわれている。 したがって、特にクリーム類は、生乳に比較して粘稠度が高いので熱の伝導が緩慢となり蛋白質の熱変性の程度が大きくなりやすく、かつ、脂肪含量が多いのでラジカル化された過酸化脂質が多く発生しやすいので硫化化合物の発生量が多くなり、加熱臭が発生しやすい傾向にある。 【0006】 牛乳等の溶存酸素を窒素ガスと置換して殺菌する方法において、牛乳等に窒素ガスを直接混合分散する手段と、窒素ガスを混入していない牛乳等を、窒素ガス雰囲気下の窒素ガス置換タンク内に貯留された窒素ガスを混合分散した牛乳等に、上方からノズルで噴霧する手段とを併用して、溶存酸素と窒素ガスとの置換により牛乳等の溶存酸素量を低下させた後、殺菌する、牛乳等の溶存酸素と窒素ガスと置換して殺菌する方法、および、牛乳等の溶存酸素を窒素ガスと置換する装置において、原料タンクと送液パイプで連結された窒素ガス置換タンクを設けると共に、前記送液パイプには、原料タンク側に窒素ガス供給手段を連結すると共に、前記窒素ガス置換タンク側に窒素ガス混合分散機を介装して、送液ポンプの窒素ガス供給手段より上流側に連接した分岐送液パイプの他端を窒素ガス置換タンク内に導き、該部に噴霧ノズルを連接し、前記各送液パイプ、窒素ガス供給手段および連接分岐パイプに流量制御装置を備えた牛乳等の窒素ガス置換装置(特許文献2)が報告されている。 【0007】 この報告において、液中溶存酸素を窒素ガスと置換して溶存酸素量を低下させて殺菌する方法は、牛乳以外の飲料で窒素ガスの混合分散により過度に発泡する性質を有する他の飲料、例えば加工乳、乳飲料、還元乳、乳酸菌飲料、生クリーム、果汁飲料等にも適用できる旨記載されている。 しかしながら、クリーム類のように粘稠度の高いものは、この方法、装置によっては混合分散させた窒素ガスを十分に脱気することは不可能である。 そして、窒素ガスの脱気が不十分のまま次工程の殺菌をすると、窒素ガスの気泡を多量に含んだクリーム類となり、保存・移送時の乳化安定性が劣るという欠点があり、現状においてはクリーム類を窒素ガス置換して加熱殺菌する実用可能な方法、装置は見出されていない。 【0008】 【特許文献1】 特開平10−295341号【特許文献2】 特許第3091752号【0009】 【発明が解決しようとする課題】 このように、クリーム類中に存在する溶存酸素が加熱処理による風味劣化の一因であるとの従来の知見に基づいて、クリーム類を強度の減圧下に保持することにより、液中溶存酸素を大幅に低下させて加熱処理をしたところ、加熱臭の発生を防止することはできたが、同時にクリームの風味に欠くべからざる香気が除去されてしまい目的とする風味のよいクリーム類を得ることができなかった。 また、クリーム類の溶存酸素が十分低下するように不活性ガス置換を行ない加熱処理をすると、加熱臭の発生を減少させることはできるが、微細な気泡が多量にクリーム類に取り込まれ、これら微細な気泡は、クリーム類の乳化状態の安定性を著しく損なうものであって、配送時の振動によるクリーム類の凝固や、長期保存時のクリーム塊の生成等を引き起こす原因となり、クリーム類の商品性を著しく損なうものであった。 【0010】 不活性ガス置換クリーム類の気泡を除去するために、不活性ガス置換後に気泡を含んだクリーム類を静置保持したり、クリームの流路の途中に保持タンク等を設け、一時的に貯留することで気泡を除去することはできるが、保持時間を相当長くとらなければならず、少量処理の場合は設備経費も少なくなり有利に使用可能であるが、大量処理の場合には製造効率が悪く適切な製造法とはいえない。 また、特許文献2に示されている不活性ガス置換装置を使用して脱泡する方法は、粘稠度の高いクリーム類では望ましい範囲にまで気泡を除去することができなかった。 本発明は、これらクリーム類に特有の問題点を解決して、不活性ガス置換による液中溶存酸素の低下を図り、その上で加熱処理を行う、すぐれた風味を有し、かつ流通・保存時に重大な影響を及ぼす乳化安定性に優れたクリーム類を製造することを目的とするものである。 【0011】 【課題を解決するための手段】 本発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、本発明者らは、各方面から検討の結果、クリーム類(液温が95℃以下、好ましくは10℃〜85℃、さらに好ましくは25℃〜70℃のもの)に、不活性ガスを通気して液中溶存酸素を低下せしめたのちに、減圧処理、遠心処理、静置処理のいずれかの一つ以上の脱泡処理を行い、ついで加熱処理することにより、クリーム本来の風味を有ししかも加熱臭がない良好な風味を有し、流通・保存時の乳化安定性にすぐれたクリーム類を得ることができることを見出した。 【0012】 また、この脱酸素操作を加えたクリーム類を原料として使用して製造してなる油脂食品または油脂含有食品は、加熱臭がほとんどなく、脱酸素操作を加えていないクリーム類を使用した通常品よりも風味の良好な製品を得ることできた。 【0013】 さらに、この脱酸素操作を加えたクリーム類を副原料として使用して製造してなる油脂含有食品は、加熱臭がほとんどなく、脱酸素操作を加えていないクリーム類を使用した通常品よりも風味の良好な製品を得ることできた。 【0014】 【発明の実施の形態】 以下、本発明について詳しく説明する。 本発明におけるクリーム類としては、クリーム、還元クリーム、コンパウンドクリーム、合成クリーム、およびこれらのクリーム類を原料として含有するクリーム様食品などがあげられる。 クリームは、生乳、牛乳または特別牛乳をディスク型の遠心分離機に通してクリームと脱脂乳に分離して得ることが常用されている。 クリームの乳脂肪率は一般的にコーヒー用又は料理用には20〜30%、ケーキなどに使用するホイップ用には40〜50%に調整されるほか、用途に応じてその他の乳脂肪率のものも広く使用できる。 【0015】 上記のクリームのほかに、還元クリームは、バターやバターオイルなどの乳脂肪成分に脱脂粉乳などの無脂乳固形分、乳化剤、水等を添加して混合溶解して製造される。 コンパウンドクリームは、乳脂肪分および植物性脂肪分に脱脂粉乳などの無脂乳固形分、乳化剤、安定剤、水等を添加して混合溶解して製造される。 合成クリームは、植物性脂肪分に脱脂粉乳などの無脂乳固形分、乳由来以外の蛋白質、乳化剤、安定剤、水等を添加し混合溶解して製造される。 これらのクリーム類の脂肪率は前述のクリームの場合と同様に用途に応じて低脂肪率のものから高脂肪率のものまで自在に調整して製造することができる。 クリーム類を原料として含有するクリーム様食品は、ホワイトソース、カスタードクリームなど常法により製造するものを使用することができる。 【0016】 クリーム類の加熱殺菌は、常用の殺菌法をすべて実施することができる。 例えば、保持殺菌法では63℃30分間、プレート式熱交換殺菌法では、72〜75℃15秒間、82〜85℃10秒間の高温短時間殺菌法(HTST法)あるいは130〜140℃2秒間の超高温殺菌法(UHT法)を実施することができ、通常は、殺菌後直ちに10℃以下に冷却される。 【0017】 不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス等、以下、窒素ガスをその代表として本発明を説明する)の通気(バブリングということもある)は、クリーム類を貯液したタンク内で、もしくはクリーム類の移送パイプ内等で、クリーム類の液温を、95℃以下、好ましくは10℃〜85℃、さらに好ましくは25℃〜70℃にして実施することが好ましい。 液温が高すぎるとクリーム類に熱変性、加熱臭が発生し、液温が低すぎるとクリーム類の粘稠度が高く窒素ガスの通気が困難になるので好ましくない。 脱酸素処理を行っていないクリーム類の溶存酸素濃度は、通常10〜15ppmである。 これに上記の脱酸素操作を加え、クリーム中の溶存酸素濃度を5ppm以下、好ましくは2ppm以下に低下させる。 【0018】 クリーム類のように粘稠度の高いものは、従来知られている方法、装置(例えが特許文献2に記載のもの)を活用しても、混合分散させた窒素ガスを十分に脱気することは不可能である。 また、窒素ガスの脱気が不十分のまま次工程の殺菌をすると、窒素ガスの気泡を多量に含んだクリーム類を殺菌することになり、保存・移送時の乳化安定性が劣る製品しか製造をすることができない。 そこで、本発明においては、クリーム類に窒素ガスを通気後に脱泡処理をおこなって窒素ガスの気泡を除去することを特徴とするものであり、その脱泡処理としては、減圧処理、遠心処理、静置処理のいずれかの一つ以上を実施する。 【0019】 減圧処理は、窒素ガスを通気したクリーム類を貯液した密閉式タンクを密閉して−5〜−60kPa、好ましくは−10〜−45kPa、より好ましくは−15〜−35kPaに減圧することにより実施することができる。 減圧処理は、密閉式タンクを使用してバッチ処理をするほかに、減圧操作をしている密閉容器にポンプでクリーム類を供給、排出して連続処理をすることもできる。 減圧度が低いとクリーム類の気泡の残存が多く加熱殺菌により乳化安定性が不良になり、また、減圧度が高いとクリーム本来の風味が弱くなり好ましくない。 【0020】 遠心処理は、窒素ガスを通気したクリーム類を遠心分離器(回転直径90mm)にかけることにより900rpm、1分間程度の強度で実施することが好ましい。 遠心処理の強度が弱い(600rpm、1分間程度)と気泡の残存が多く加熱殺菌により乳化安定性が不良になり、また、遠心処理の強度が強い(1200rpm、1分間程度)と遠心処理中にクリームの乳化状態が劣化し、殺菌済クリームの乳化安定性が不良になり好ましくない。 遠心処理は、前記の遠心分離器によるバッチ処理のほかに、ディスク型クリーム分離機などを通す連続処理も可能である。 【0021】 静置処理は、窒素ガスを通気したクリーム類を貯液したタンク内で撹拌することなく少なくとも10分以上、好ましくは少なくとも15分以上、より好ましくは少なくとも30分以上静置することにより実施することができる。 静置時間を長くするほどより完全に脱泡することができるが製造効率が低下するのでこの点を勘案して適切な静置時間を設定することが好ましい。 【0022】 窒素ガスを通気したクリーム類の脱泡処理は、クリーム類の液温を、95℃以下、好ましくは10℃〜85℃、さらに好ましくは25℃〜70℃にして実施するのが好ましい。 液温が高すぎるとクリーム類に熱変性、加熱臭が発生し、液温が低すぎるとクリーム類の粘稠度が高く窒素ガスの脱泡が困難になるので好ましくない。 【0023】 このようにして、クリーム(液温が95℃以下、好ましくは10℃〜85℃、さらに好ましくは25℃〜70℃のもの)に、窒素ガスを通気して液中溶存酸素を低下せしめたのちに、減圧処理、遠心処理、静置処理のいずれかの一つ以上の脱泡処理を行い、ついで加熱処理することにより得られるクリームを原料として使用して常法により製造して得られるバターやバターオイルなどの油脂食品は、加熱臭がない良好な風味を有するものである。 そして、これらの油脂食品を原料として使用して常法により製造して得られるファットスプレッドなどの油脂含有食品は、加熱臭がない良好な風味を有するものである。 【0024】 また、脱酸素操作を加えたクリーム類、このクリーム類を原料として製造して得られる油脂含有食品の一つ以上を原料として使用して常法により製造して得られるクリーム入りマーガリンなどの油脂含有食品は、加熱臭がない良好な風味を有するものである。 【0025】 【実施例】 以下に本発明を実施例、比較例、実験例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 〔試験例1〕 生クリーム(未殺菌クリーム、以下同じ)(脂肪率47%)20kgをタンクに貯液し40℃に調整し、窒素ガスでバブリングすることにより、液中溶存酸素を低下させた後、プレート式熱交換殺菌機を用いて120℃2秒間の殺菌処理を行った。 窒素ガス置換および窒素ガス未置換(対照)生クリームの工程別の溶存酸素濃度、殺菌済クリームの物性、風味検査結果を表1に示した。 【0026】 クリームの溶存酸素濃度(mg/L)は、ポータブルDO計(DO−21p、東亜電波工業(株))の電極を浸漬して測定した。 クリームの粘度(mPa・s)は、B型粘度計(DVL−B2、(株)トキメック)により測定した。 ホイップ時間は、ハンドミキサー(MK−H3、松下電器産業(株))を用い、最高速でビーターを回転させ、クリームがホイップするまでの時間を計測した。 オーバーラン( % )は、ホイップ前後のクリームを一定容量とり重量を測定し、数1の式により算出した。 これらの測定方法は本発明の説明において以下同じである。 【0027】 [数1] オーバーラン(%)={ホイップ前のクリーム重量(g)−ホイップ後のクリーム重量(g)}/ホイップ後のクリーム重量(g)×100 【0028】 【表1】
【0029】 表1の結果より明らかなように、窒素ガス置換生クリームは、バブリング処理により液中溶存酸素濃度が1ppm以下に低下し、 専門パネルによる殺菌済みクリームの風味検査のコメントによれば、窒素ガス置換品の方が窒素ガス未置換品に比較して、新鮮な乳風味が強く好ましいものであった。
この試験例により、窒素ガス置換をして、液中溶存酸素を低下させて加熱殺菌をすると加熱臭が減少し、新鮮な乳風味が強いことを確認することができた。
【0030】
〔比較例1〕
生クリーム(脂肪率48%)20kgを密閉式タンクに貯液し40℃に調整し、撹拌しながら減圧下(減圧度(kPa):−76、−63、−50、0(対照))に5分間保持することにより、液中溶存酸素を低下させた後、プレート式熱交換殺菌機を用いて120℃2秒間の殺菌処理を行った。 減圧度別の生クリームの工程別の溶存酸素濃度、殺菌済クリームの物性、風味検査の結果を表2に示した。
【0031】
クリームの気泡の残存は目視により測定した。 クリームの乳化安定性は、クリーム100gを200mlビーカーに入れ、25℃で120回/分の震とうを与えたときの凝固するまでの時間により評価した。 凝固するまでの時間が、2時間以上のときは「良好」、1時間30分以上2時間未満のときは「やや良好」、1時間以上1時間30分未満のときは「やや不良」、1時間未満のときは「不良」とした。 クリームの風味検査は、専門パネル5名のうち4名以上で一致がみられた特徴を表記した。 これらの測定方法は本発明の説明において以下同じである。
【0032】
【表2】
【0033】
表2の結果より明らかなように、−50〜−76kPaの減圧処理により生クリームの溶存酸素濃度を3.77〜0.75mg/Lに低下させることができたが、殺菌済のクリームは減圧度が高くなるに従ってクリーム本来の香気が弱くなり、かつ乳化安定性も不良になり好ましいものではなかった。
この比較例によって、窒素ガス置換をして液中溶存酸素濃度を低下させて、強度に減圧にして窒素ガスの気泡を除去して後加熱殺菌をすると、加熱臭は減少するが、新鮮な乳風味が弱まり、好ましいクリームが得られないことを確認することができた。
【0034】
〔試験例2〕
生クリーム(脂肪率47%)20kgをタンクに貯液し50℃に調整し、窒素ガスでバブリングすることにより、液中溶存酸素を低下させた後、プレート式熱交換殺菌機を用いて140℃2秒間の殺菌処理を行った。 窒素ガス置換および窒素ガス未置換(対照)生クリームの工程別の溶存酸素濃度、殺菌済クリームの物性、風味検査結果を表3に示した。
【0035】
【表3】
【0036】
表3の結果より明らかなように、窒素ガス置換生クリームは、バブリング処理により液中溶存酸素濃度が2ppm以下に低下し、殺菌済みクリームは、窒素ガス置換品の方が窒素ガス未置換品に比較して、新鮮な乳風味は強いが、窒素ガスの気泡の残存がきわめて多く乳化安定性が不良であり、配送時の振動によるクリーム類の凝固や、長期保存時のクリーム塊の生成等を引き起こすことが予測され好ましいものではなかった。
【0037】
〔実施例1〕
生クリーム(脂肪率47%、酸度0.104、pH6.79)20kgをタンクに貯液し35℃に調整し、窒素ガスでバブリングすることにより、液中溶存酸素を低下させた後、所定時間生クリームを静置し自然脱泡をした。 ついでプレート式熱交換殺菌機を用いて110℃2秒間の殺菌処理を行った。 静置時間別の生クリームの工程別溶存酸素濃度、殺菌済クリームの物性、風味検査の結果を表4に示した。
【0038】
【表4】
【0039】
表4の結果より明らかなように、窒素ガス置換生クリームは、バブリング処理により液中溶存酸素濃度が1ppm以下に低下し、殺菌済みクリームは、窒素ガス置換品の方が窒素ガス未置換品に比較して、新鮮な乳風味が強かった。 一方、窒素ガスのバブリング後に静置脱泡をしないときは、窒素ガスの気泡の残存がきわめて多く乳化安定性が不良であった。 静置脱泡を15分間または30分間したときは、窒素ガスの気泡の残存が「やや多い」〜「少ない」の範囲になり乳化安定性も改善されており、特に、静置脱泡を30分間したときは、気泡の残存が少なく乳化安定性も良好であった。
【0040】
〔実施例2〕
生クリーム(脂肪率45%)20kgを密閉式タンクに貯液し50℃に調整し、窒素ガスでバブリングすることにより、液中溶存酸素を低下させた後、密閉式タンク内を減圧し、所定の減圧度に5分間保持し脱泡をした。 ついでプレート式熱交換殺菌機を用いて100℃30秒間の殺菌処理を行った。 減圧度別の生クリームの工程別溶存酸素濃度、殺菌済クリームの物性、風味検査の結果を表5に示した。
【0041】
【表5】
【0042】
表5の結果より明らかなように、窒素ガス置換生クリームは、バブリング処理により液中溶存酸素濃度が1ppm以下に低下し、殺菌済みクリームは、窒素ガス置換品のうち、減圧度−15〜−35kPa、特に−15〜−19kPaの減圧処理をしたものは、クリーム本来の乳風味を有し加熱臭のない良好な風味を有し、かつ乳化安定性も良好であった。 これらに比較して、減圧処理をしてないものは、気泡の残存が多く乳化安定性が不良であり、減圧度−70kPaの強い減圧処理をしたものは、クリーム本来の乳風味が弱く好ましいものでなかった。
【0043】
〔実施例3〕
生クリーム(脂肪率42%)20kgをタンクに貯液し50℃に調整し、窒素ガスでバブリングすることにより、液中溶存酸素を低下させた後、この窒素ガス置換生クリーム0.3Lを円筒容器(直径90mm×高さ140mm)に入れ、円筒容器を1分間回転させて遠心脱泡をし、5バッチ分をひとまとめにした。 この遠心脱泡をした窒素ガス置換生クリーム1.5Lを、直ちに小型プレート式熱交換殺菌機(FT−74P、Armfield社製)を用いて130℃2秒間の殺菌処理を行った。 遠心脱泡の強度は、円筒容器の回転数で調整して、強(1200rpm)、中(900rpm)、弱(600rpm)とした。 遠心脱泡の強度別の生クリームの工程別溶存酸素濃度、殺菌済クリームの物性、風味検査の結果を表6に示した。
【0044】
【表6】
【0045】
表6の結果より明らかなように、遠心脱泡処理をした窒素ガス置換生クリームは、すべてのもので、クリーム本来の乳風味を有し加熱臭のない良好な風味を有していたが、遠心脱泡の強度が強いもの、または弱いものは、乳化安定性がやや不良であった。
【0046】
〔実施例4〕
実施例2で得られた減圧脱泡処理をした窒素ガス置換生クリームの殺菌済みクリーム▲2▼から▲4▼(脂肪率45%)を原料として使用して常法によりバター3バッチを製造した。 窒素ガス置換を行わない対照クリームを原料として使用して製造したバターに比べて、いずれのバッチのバターも加熱臭がなく良好な風味を呈した。
【0047】
〔実施例5〕
実施例3で得られた遠心脱泡処理をした窒素ガス置換生クリームの殺菌済みクリーム▲2▼(脂肪率42%)を副原料として使用して下記表7の配合表に基づいて常法によりマーガリンを製造した。 窒素ガス置換を行わない対照クリームを副原料として使用して製造したマーガリンに比べて、新鮮な乳風味が強く良好な風味を呈した。
【0048】
【表7】
【0049】
〔実施例6〕
実施例1で得られた静置脱泡処理をした窒素ガス置換生クリームの殺菌済みクリーム▲2▼(脂肪率47%)を原料として使用して常法によりバターオイルを製造した。 このようにして得られたバターオイルを下記表8の配合表に基づいて乳化剤、食塩とともに脱脂乳に分散させ、ついで、窒素ガスでバブリングすることにより、液中溶存酸素を減少させた後、転相および110℃30秒間加熱殺菌処理を行いファットスプレッドを得た。 通常のバターオイルを使用して製造したファットスプレット、窒素ガス置換を行わずに製造したファットスプレッドに比べて、加熱臭がなく良好な風味を呈した。
【0050】
【表8】
【0051】
〔実施例7〕
下記表9の配合表に基づいて、生クリームを含む原料を混合し、ついで、窒素ガスをバブリングすることにより、液中溶存酸素を減少させた後、30分間静置脱泡処理をした。 続いて、110℃30秒間の加熱殺菌処理をした。 このようにして製造したカスタードクリームは、窒素ガス置換を行わずに製造したカスタードクリームに比べて、新鮮な乳風味が強く良好な風味を呈した。
【0052】
【表9】
【0053】
【発明の効果】
クリーム類に、不活性ガスを通気して液中溶存酸素を低下せしめたのちに、脱泡処理を行い、ついで加熱殺菌をすること、からなる本発明によれば、クリーム類が、その加熱殺菌時に、液中溶存酸素に基づく加熱臭を発生するのを防止し、併せてクリーム本来の風味を維持することができる。 また、殺菌済のクリーム類の乳化安定性などの物性も良好であってすぐれたクリーム類を提供することができる。
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