【技術分野】 【0001】 本発明は、高静水圧法を用いた、低温殺菌乳製品のための方法に関する。 【背景技術】 【0002】 食物製品の滅菌または低温殺菌の様々な方法が知られている。 熱処理は、食品の感覚的または栄養的性質に望ましくない変化を引き起こすことが知られているにも関わらず、最も慣習的な方法であることは明らかである。 さらにその上、すでに容器に包装された食品に熱的な低温殺菌を行う場合、−これは、適切な滅菌チャンバーにおける処理を必要とせずに、食品に優れた滅菌性を保証する比較的都合の良い方法であるが−その容器は、低温殺菌温度に耐えられなければならない。 包装容器の選択はそれ故、極めて重要で限定的な要因となる。 【0003】 最近、上記のような熱処理の欠点を克服するために、熱による殺菌または低温殺菌の代替方法が提案されており、これらの代替法は、製品の不可逆的な変性を引き起こす方法を使用しないように設計されている。 例えば、脈動電界、磁界、およびマイクロ波の使用が、高静水圧の使用と同様に提案されている。 高圧の適用は、微生物の細胞に形態学的な変化を引き起こし、これは細胞膜を破裂させて微生物の死を引き起こすのに十分であると考えられる。 高圧処理によって達成される低温殺菌の効率および品質は、適用される場合、食品がさらされる圧力レベルおよび温度、処理時間、および用いる加圧/減圧サイクルの種類を含む様々な要因に依存する。 【0004】 これと関連して、高圧下で低温殺菌されるべき製品が浸漬している流体の断熱性圧縮のために、該流体温度が1000バールの圧力毎に4℃ずつ上昇する傾向があることは留意されるべきである。 従って、4000〜5000バールを超える圧力が加えられた場合、圧縮チャンバー内の温度は16〜20℃だけ、または上述した初期レベルより高く上昇し得る。 従って、この要因もまた、この方法の結果に劇的な影響を及ぼし得る。 実際、一方で温度の上昇は低温殺菌を促進させることができ、そしてそれ故処理時間を短くできるが、他方では、高温は製品の品質の劣化を引き起こし得る。 【0005】 食品に適用する低温殺菌方法の選択が、食品の質的性質にいかなる変化もさせずに要求される程度の低温殺菌が果たされる最適な条件を見極めるために、通常かなりの数の試行を必要とする操作であることは、上記のことから明らかである。 【0006】 これはとりわけ、その処理される食物製品が乳製品、特にチーズである場合である。 多くのチーズの香りおよび風味のかなりの部分が、カビ等のような微生物の存在によって決定されることは周知のことである。 そのようなチーズの例としては、ゴルゴンゾーラおよびロックフォールがあり、そのブルーベイン(blue vein)はペニシリウムロックフォルティ(Penicillium Roqueforti)、ブリー(Brie)(Geotricum Candidum)、およびカマンベール(Penicillium Camemberti)が存在することによる。 しかしながら、タレッジオ(Taleggio)のような他の多くのチーズもまた、それらの最も特徴的な要素をそれらの皮に有しており、熟成過程の間に特異的な微生物が発育する。 【0007】 必要とされる衛生が消費者に提供されなければならない場合に望ましいチーズの低温殺菌方法は、チーズの重要な感覚的特性の原因である微生物を可能な限り生きたままにしなければならないことは明らかである。 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 従って、本発明が解決しようとする課題は、上述した要求に応じたチーズ製品の低温殺菌方法を提供することであり、言い換えれば、製品の衛生とその感覚的および栄養的な特性を保存することとの理想的なバランスを維持するという課題である。 【課題を解決するための手段】 【0009】 この課題は、添付の請求項に概要を述べた方法によって解決される。 【発明を実施するための最良の形態】 【0010】 本発明の方法において、チーズ製品は、5000〜6000barの範囲の圧力、および0℃〜25℃、好ましくは3℃〜15℃の範囲の初期温度で処理される。 より好ましくは、チーズは約6000barの圧力および約4℃の温度で処理される。 【0011】 高圧処理は、適用する圧力および温度によって2分〜10分間の範囲で継続する。 圧力(6000bar)および上述した温度という好ましい条件の場合、最適な処理時間は2〜4分である。 【0012】 本発明の方法は、 a)チーズ製品自体または適切な容器に包装されたチーズ製品を、高静水圧処理用機械の流体が部分的に充填された圧縮チャンバー中に置くことと、その同じ流体で完全に充填することと(全ての空隙を排除する)、そして、その圧縮チャンバーを封着することと、 b)前記圧縮チャンバー内の圧力を、4000bar〜6000barの範囲の圧力が達せられるまで、1〜10分間、好ましくは2〜4分間上昇させることと、 c)充填された流体の温度が3℃〜25℃の範囲で、前記圧縮チャンバー内の圧力を約2〜10分、好ましくは2〜4分間維持することと、 d)大気圧まで減圧し、圧縮チャンバーを開放して前記チーズ製品を取り出すことという操作段階を含む。 【0013】 段階c)のために示した望ましい温度が、圧縮段階の間に達せられることを保証するために、圧縮チャンバー、充填流体、および製品は、温度自動調節手段によって、初めに0℃〜25℃の範囲の操作温度に維持される必要があり、その温度は処理で実行される計画された最終温度と圧力とに従って決定される。 例えば、低温殺菌が6000barおよび4℃で実行される場合、流体が充填された圧縮チャンバーおよび製品は、自動温度調節手段によって4℃に維持される。 【0014】 本発明の方法を実行するのに適した機械は、フローイタリアs. r. l. (Flow Italia srl)から販売されているQFP 351−600オートクレーブである。 【0015】 低温殺菌処理の対象となるチーズ製品は、フィルムまたはプラスチックトレーに包装されていることが好ましい。 好ましい容器材料は、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、およびポリスチレンからなる群から選択され、個別に、または多層形態で使用される。 プラスチック材料の多層箔は、アルミニウムシートを含むこともできる。 特に適したプラスチック材料は、同時に押し出されて成形された(coextruded)多層ポリオレフィン熱収縮性材料、好ましくはシールドエアーコープ(Sealed Air Corp)のCryovac(登録商標)プラスチック材料である。 【0016】 包装は、好ましくは真空タイプである。 一般に、それが必要な食物製品の包装において通常使用される真空タイプで十分である。 これは、いくつかのチーズ製品、特に、温度上昇に感受性の高いチーズが、急速に融解する傾向があることが知られているためである。 そのような製品の典型的な例は、マスカルポーネのようなクリームチーズ、またはゴルゴンゾーラ―マスカルポーネの既知の組合せのようなチーズを含む製品である。 空気が圧縮流体であるため、本発明の方法により要求される処理条件においてかなり熱くなり、従ってチーズ製品を柔らかくまた溶解する点以上の温度に上昇する傾向がある。 【0017】 Cryovac(登録商標)のような熱収縮性材料を使用することで、その材料が製品に十分に密着し、従って製品と容器の間に存在する空隙を殆ど最小にすることが可能であることに留意すべきである。 【0018】 本発明の方法は、全ての種類のチーズ製品に有利に適用することができる。 好ましいチーズ製品は、クリームチーズまたはこれと他の種類、例えばブルーベインドチーズ(blue-veined cheese)との組合せを含む製品である。 【0019】 例として、本発明の方法を、ゴルゴンゾーラとマスカルポーネ(Galbaniによって製造されたMagor)の組合せからなる多層状のチーズ製品試料で行った。 この製品は、Cryovac(登録商標)BB 755食品グレードプラスチック材料に真空包装された。 【0020】 この方法は、上記のように行い、2〜10分間(試料によって)にわたって圧力を約6000barまで上昇させ、この圧力は約2分間維持した。 初期温度は約4℃であり、温度は断熱的な加熱の結果として約32℃まで上昇した。 この方法で処理された製品試料は、処理直後、または30〜60日間貯蔵した後に、保存性を測定するためと、高圧処理によって引き起こされた何らかの改変を発見するために、計画された一連の実験的試験に供された。 【0021】 各試料は、pH6.8のリン酸緩衝溶液中に分散し、製品のインビボでの消化のプロセスを刺激するための酵素パンクレアチンの存在下における、タンパク質分解作用に対する感受性の試験に供した。 37℃で激しく攪拌して16時間後、10%のトリクロロ酢酸でもって沈殿を形成させた上清層において、280nmの吸光度を計測して、タンパク質分解の程度を測定した。 この実験は、本発明の方法によって処理した試料(試料B)と、未処理のマゴール(Magor)試料(試料A)の両方で行った。 その結果を表1に示す。 【表1】
【0022】 試料B(高静水圧での処理)は、タンパク質分解作用に対して明らかに高い感受性を示している。 これは、高圧処理した製品が未処理の製品よりもより消化されやすいことを示している。
【0023】
本発明に従って処理したさらなる製品試料が、可溶性タンパク質の測定に供された。 いくつかの試料が、それらを調製し、高圧処理した直後に分析され、他の試料は30日間および60日間貯蔵された。 この場合も、本発明の方法によって処理した製品(試料B)は未処理の製品(試料A)と比較した。 測定の前に、製品試料をpH6.8のリン酸緩衝溶液中に分散し、脂質画分を除去するために、その分散系を遠心分離した(タンパク質画分は溶液中に残る)。 この方法で形成した懸濁液に、10% v/vの酢酸を添加してpH4.6に酸性化し、不溶性タンパク質を遠心分離して取り除いた(10,000r.pm 15分 2℃)。 上清層を基準のカットオフが5000ダルトンの限外濾過によって20倍まで濃縮した。
【0024】
その試料のタンパク質含量は、ブラッドフォード比色定量方法(タンパク質の疎水性残基およびクーマシーブルー G−250染料の間の比色定量複合体形態に基づく分光光度的な方法)によって測定した。 タンパク質濃度は、マーカータンパク質としてウシ血清アルブミンを用いて得られた検量直線に関して表した。 その測定の結果は表2に示す。
【表2】
【0025】
この実験データは、試料A(未処理)において、たった30日間貯蔵しただけで溶解タンパク質が著しく減少した(約90%)ことを示している。 試料B(高圧処理)においては、30日間の貯蔵後の溶解タンパク質の減少は約50%である。
【0026】
これは、本発明に従った方法で処理された試料Bにおいて、貯蔵によるタンパク質含量の変化がわずかであったことを示している。 これは、本発明に従って処理された製品が、未処理の製品と比べて良く品質を保持していることを表している。
【0027】
本発明の方法は、多くのチーズに特有の風味に寄与しているカビのような特徴的な微生物の含量を損ねることなしに、衛生の必要条件に従ったチーズ製品の低温殺菌の程度が達成されることを可能にする。 行われた実験は、本方法で用いられるよりも高圧および高温で、チーズ中の有益な微生物の含量が容認できないレベルまで減少し、チーズの感覚的および栄養的な特性が不可逆的に変質するようなものであることを証明した。 逆にいえば、より穏やかな圧力と温度条件では、十分な食品衛生を提供できないということである。
【0028】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、上述した実験データから示されたように、チーズ製品を高静水圧処理することによって、それらの製品に特に有利な特性が与えられることをも発見した。 特に、本明細書において述べられた高静水圧方法の手段によって形成され得るチーズ製品は、未処理の同一製品と比較して、消化性と保存性が改良されていることを特徴とする。
【0029】
明らかに、当該分野の技術者は、添付された請求項に定義された本発明の範囲から反れることなく、上述した本発明の方法を特定の要求に合うように適用することができる。
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