Hypoallergenic milk using electric energy

申请号 JP2007500588 申请日 2006-01-27 公开(公告)号 JP4769949B2 公开(公告)日 2011-09-07
申请人 国立大学法人 熊本大学; 独立行政法人国立高等専門学校機構; 发明人 勲 井上; 毅 吉岡; 知明 松本;
摘要
权利要求
  • β−ラクトグロブリン蛋白に電気エネルギーを注入することによって得られる、アレルゲン性を低減化したβ−ラクトグロブリン蛋白。
  • 牛乳アレルギー患者治療又は牛乳アレルギー発症予防のために使用する、請求項1に記載のβ−ラクトグロブリン蛋白。
  • β−ラクトグロブリン蛋白を含む溶液に通電することによって電気エネルギーを注入し、陰極側の溶液を回収することにより得られる請求項1に記載のβ−ラクトグロブリン蛋白。
  • 請求項1から3の何れかに記載のβ−ラクトグロブリン蛋白を使用することによって調製した、牛乳アレルギー患者治療用乳製品及び牛乳アレルギー発症予防用乳製品。
  • β−ラクトグロブリン蛋白に電気エネルギーを注入することを含む、アレルゲン性を低減化したβ−ラクトグロブリン蛋白の製造方法。
  • β−ラクトグロブリン蛋白を含む溶液に通電することによって電気エネルギーを注入し、陰極側の溶液を回収することを含む、アレルゲン性を低減化したβ−ラクトグロブリン蛋白の製造方法。
  • 说明书全文

    本発明は、乳成分摂取によって生じる免疫疾患、特に乳アレルギーの治療やその発症予防に用いることができるアレルゲン性を低減化した乳清原料、β−ラクトグロブリン蛋白及び乳製品、並びにその製造方法に関するものである。 より詳細には、本発明は、蛋白分解酵素などの異物を用いることなく、電気エネルギーによって乳清、特にその中でも最もアレルゲン活性の高いβ−ラクトグロブリン蛋白(足立はるよ、上野川修一。ミルクアレルギーにおけるIgEの特異的抗原認識。アレルギーの臨床(1997)、3巻。144−151頁)のアレルゲン性を低減化させることによって得られる乳清原料、β−ラクトグロブリン蛋白及び乳製品に関するものである。 本発明は、安全で風味を保持した医療用乳製品およびその製造方法に関するものである。

    乳成分のアレルゲン性を失活させる方法としては、ブタ膵臓ないし生物由来蛋白分解酵素を用いて牛乳蛋白のペプチド結合を切断し、アレルギー抗体(IgE抗体)が結合できない分子量(1,000Da)以下に低分子化することが広く行われている(Caffarelli C. et al., Determination of allergenicity to three cow's milk hydrolysates and an amino acid-derived formula in children with cow's milk allergy. Clin. Exp. Immunol., (2002), vol. 32, p74-79;Rosendal A. and Barkholt V., Detection of potentially allergenic material in 12 hydorolyzed milk formulas. J. Dairy Sci., (2000), vol. 83, p2200-2210;及びOldaus G. et al., Cow's milk IgE and IgG antibody responses to cow's milk formulas. Allergy, (1999), vol., 54, p352-357)。 この技術によって製造された乳製品は、牛乳アレルギー患者治療用あるいは牛乳アレルギー発症予防用の加分解ミルクとして市販されている。 また、イヌを用いた実験では、レドックス制御低分子蛋白であるチオレドキシンを用いて、乳清成分中でもアレルゲン活性が最も高いβ−ラクトグロブリン蛋白のジスルフィド(S−S)結合を開裂し、この蛋白のアレルゲン性減弱化が得られたという報告がある(del Val G. et al., Thioredoxin treatment increases digestibility and lowers allergenicity of milk. J. Allergy Clin. Immunol., (1999), vol. 103, p690-697)。

    しかしこれらの方法によって作製される乳製品には、長期飲用を考える上で健康上の点からいくつかの問題点がある。 まず低アレルゲン化反応に用いたこれらの物質が、乳製品内に残存する点である。 これら加水分解ミルクは乳児に長期にわたり飲用されるため、ブタ膵臓ないし微生物由来蛋白分解酵素がアレルギー素因をもつ乳児への新たなアレルゲンとなることが心配される。 さらにこれらの物質は飲用された後においても生物学的活性を保っているため、器官発達が未熟な乳児での継続的摂取では、その副反応が危惧されることである(Carrocclo A. et al. Evaluation of pancreatic function development after hydrolyzed protein-based and soy-based formulas in unweaned infants. Scand. J. Gastroenterol. (1997), vol. 32, p273-277)。 またこれらの方法は牛乳蛋白の一次構造を変化させることで低アレルゲン化を得ており、食品としての乳固有の風味はなくなっている。

    また、特開2003−18956号公報には、乳成分を含有する液体、および又は、調合液を電気分解処理あるいは通電処理することで、乳成分の品質劣化を長期間に亘って防止することができ、安全性も向上することができ、特に自販機や缶ウオーマーで販売する缶入りミルクコーヒーやミルクテイー飲料の製造に適していることが記載されている。 特許文献1には、乳成分を含有した液体を2本の電極間に連続して流したり、または停留状態にしておいて、電極間に電圧をかけ、0.1Aから50Aの電流を流すことなどが記載されている。 しかしながら、特許文献1には、乳清原料又はβ−ラクトグロブリン蛋白に電気エネルギーを注入することによってアレルゲン性を低減化できることについては全く教示も示唆もされていない。

    本発明は、従来の乳成分の低アレルゲン化製法に上記した様な問題点があるため、新しい低アレルゲン化製法を求める医療界のニーズに対応する目的でなされたものである。 即ち、本発明は、乳清成分、特にその中でも最もアレルゲン活性の高いβ−ラクトブロブリン蛋白のアレルゲン性を、食品としての安全性や官能面での損失を伴うことなく低減化して、牛乳アレルギー治療用乳製品、牛乳アレルギー発症予防用乳製品を製造することを解決すべき課題とした。

    本発明者らは、上記目的を達成するため、各方面から検討した結果、乳成分に酵素などの異物を添加して化学的反応を行うのではなく、物理的方法によって乳成分のアレルゲン性低減化を得るための広範な研究を行った。

    まず本発明者らは、牛乳蛋白の中でもアレルゲン活性が最も高いβ−ラクトグロブリンが、典型的な球状蛋白質であり、その高次構造がアレルゲンとして認識される点に着目した。 一般に蛋白質の高次構造は物理的、化学的方法で変化させることができるが、β−ラクトグロブリンは熱に安定であり、90℃で1時間処理でもアレルゲン性はなくならない(Britt-Marie E. et al., Modification of IgE binding during heat processing of the cow's milk allergen beta-lactoglobulin. J Agric Food Chem., (2004), vol. 52, p1398-1403)。 また食品であるため、酸アルカリ液を用いた化学的処理を行うこともできない。 そこで発明者らは、乳清や単離したβ−ラクトグロブリン蛋白に電気エネルギーを一定量注入したところ、それらのアレルゲン活性が著しく減弱化することを確認した。 本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。

    即ち、本発明によれば、乳清原料又はβ−ラクトグロブリン蛋白に電気エネルギーを注入することによって得られる、アレルゲン性を低減化した乳清原料又はβ−ラクトグロブリン蛋白が提供される。

    好ましくは、本発明の乳清原料又はβ−ラクトグロブリン蛋白は、牛乳アレルギー患者治療又は牛乳アレルギー発症予防のために使用する。

    好ましくは、本発明の乳清原料又はβ−ラクトグロブリン蛋白は、乳清原料又はβ−ラクトグロブリン蛋白を含む溶液に通電することによって電気エネルギーを注入し、陰極側の溶液を回収することにより得られるものである。

    本発明の別の側面によれば、上記した本発明の乳清原料又はβ−ラクトグロブリン蛋白を使用することによって調製した、牛乳アレルギー患者治療用乳製品及び牛乳アレルギー発症予防用乳製品が提供される。

    本発明のさらに別の側面によれば、乳清原料又はβ−ラクトグロブリン蛋白に電気エネルギーを注入することを含む、アレルゲン性を低減化した乳清原料又はβ−ラクトグロブリン蛋白の製造方法が提供される。

    本発明のさらに別の側面によれば、乳清原料又はβ−ラクトグロブリン蛋白を含む溶液に通電することによって電気エネルギーを注入し、陰極側の溶液を回収することを含む、アレルゲン性を低減化した乳清原料又はβ−ラクトグロブリン蛋白の製造方法が提供される。

    牛乳は乳幼児にとって基本となる栄養源である。 しかしながらそのアレルゲン活性は高く、わが国の食物アレルギーの原因食品としては2番目に多く報告され、乳児の2%に認められている(飯倉洋治ほか。即時型食物アレルギーの疫学。日本小児アレルギー学会誌(2002)、16巻。139−143頁)。 これらの乳幼児では乳製品を摂取することによって、皮膚にじんま疹やアトピー性皮膚炎が生じたり、呼吸困難や下痢、嘔吐がおこったり、まれに意識障害がみられている(松本知明(著)。わかりやすい小児のアレルギー疾患、金芳堂出版、2003年,1−151頁)。 長期にわたって乳製品が摂取できないために、乳幼児においては栄養障害が生じる。

    牛乳は牛乳アレルギーの原因ばかりではなく、乳製品摂取後に激しい胃腸症状を呈する乳児例も報告されるようになり、この場合は乳製品による食物蛋白誘発性小腸結腸炎と呼ばれている(川瀬昭彦、近藤祐一、松本知明。Food protein-induced enterocolitis syndromeと考えられた低出生体重児の1例。日本小児科学会雑誌(2004),108巻、635−638頁)。 また好酸球性胃腸炎の原因にもなっている(Matsumoto T. et al. Markedly high eosinophilia and an elevated serum IL-5 level in an infant with cow milk allergy. Ann. Allergy Asthma Immunol., (1999), vol. 82, p253-256)。

    牛乳アレルギー患者用ミルクとしては、従来から加水分解ミルクが供与されているが、下記に述べる健康上の問題点がいくつかあった。 そこで申請者らは、電気エネルギーを用いるという全く新しい発想に基づいて鋭意努した結果、これらの問題点を解決した治療用ミルクをつくることができた。

    本発明では、乳清原料又はβ−ラクトグロブリン蛋白に電気エネルギーを注入することによって、アレルゲン性を低減化した乳清原料又はβ−ラクトグロブリン蛋白を製造する。

    本発明で言う乳清原料とは、乳成分を含む任意の原料を意味し、例えば、生乳(牛乳)、加工乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、脱脂乳、濃縮乳などでもよいし、これらを含有した液体、粉末を水や湯で復元した液体、これら液体の濃縮液又は希釈液等でもよい。 乳清原料には、β−ラクトグロブリン蛋白が含まれていることが好ましい。

    本発明では、乳清原料又はβ−ラクトグロブリン蛋白に電気エネルギーを注入する。 電気エネルギーの注入の方法としては、通電処理(又は電気分解処理)などが挙げられる。 本発明では、通電処理は以下のようにして行うことができる。

    通電処理を行うために使用する装置としては、通常の水溶液などを電気分解するために使用される通常の電気分解装置であれば特に限定されない。 イオン交換膜や中性膜を用いた電気分解方法を用いることも可能である。 例えば、適当な大きさのガラス管を2本用意し、中央部をガラス管で連結してH型とし、これを台座に設置する。 左右二本の管口の下方は各々白金電極板および液体採取用ガラスコックを装着したゴムで栓する。 この装置に、乳清原料又はβ−ラクトグロブリン蛋白溶液を充填し、二本の白金電極を直列に接続した回路間に通電することができる。

    通電処理の際に用いる電極としては、白金電極以外にも、例えば陽極として、フェライト電極、白金メッキチタニウム電極などを使用することができ、陰極としてステンレス電極、白金メッキチタニウム電極などを使用することもできる。

    通電は、乳清原料又はβ−ラクトグロブリン蛋白を含む液体を2本の電極間で滞留させておくか、あるいは2本の電極間に連続して流れている状態において、直流電流を通電して行うことができる。

    電流の量は、0.1A以上が好ましく、0.1〜20Aがさらに好ましく、0.5〜5Aが特に好ましい。 電気伝導度、電極間の距離、温度などに応じて電流の量は適宜設定することができる。

    また通電時間は、数秒〜数時間の任意の時間で行うことができるが、好ましくは1分以上3時間以内であり、より好ましくは5分以上1時間以内である。

    電流及び電圧の量と通電時間を調整することにより、全電気エネルギーを設定することができる。 本発明の方法で注入される全電気エネルギーは、10キロジュール以上が好ましく、20キロジュール以上がさらに好ましく、例えば10〜500キロジュール、より好ましくは20〜300キロジュール、さらに好ましくは30〜200キロジュールに設定することができる。

    本発明では、通電処理後に、陰極側の液体を採取して使用してもよいし、処理槽全体の液体を採取して使用してもよいが、好ましくは陰極側の液体を採取して使用することができる。

    本発明では、アレルゲン性を低減化した乳清原料又はβ−ラクトグロブリン蛋白を用いて乳製品を製造することができる。 本発明で言う乳製品とは、牛乳またはその一部を原料とし、これを加工した製品を意味し、例えばクリーム、バター、バターオイル、チーズ、アイスクリーム、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、加糖粉乳、調製粉乳、発酵乳、乳酸菌飲料、及び乳飲料(生乳や還元乳以外に、コーヒー抽出液や果汁などを原材料に加えた飲料)などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。 本発明の乳製品は、アレルゲン性が低減化しており、牛乳アレルギー患者の治療並びに牛乳アレルギー発症の予防のために用いることができる。
    以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。

    実施例1
    本発明の実施態様のひとつとして、乳成分に電気エネルギーを注入するが、乳成分含有液としては生乳(牛乳)、加工乳、あるいは脱脂粉乳の溶解液を用いる。 これらに酢酸を加え、カゼイン蛋白を沈殿させた後に得られた乳清(ホエー)に5分の1容量のエーテルを加え、分離漏斗内で震盪し脱脂する工程を2回繰り返す。 得られた液体を透析膜に入れ、透析液を用いて2回透析する。 これによって得られた液体(脱脂乳清液)および単離精製されたβ−ラクトグロブリン蛋白(牛乳由来、米国SIGMA社販売、精製度80%)1%溶解液に、各々重量比1%の塩化ナトリウムを加え電気エネルギーを注入する。

    脱脂乳清およびβ−ラクトグロブリン蛋白への電気エネルギー注入は、次のようにして行った。 長さ300mm、口径30mmのガラス管を2本用意し、中央部を長さ40mm、口径25mmのガラス管で連結してH型とし、これを台座に設置する。 左右二本の管口の下方は各々白金電極板および液体採取用ガラスコックを装着したゴムで栓する。 この装置に上記の脱脂乳清液および1%β−ラクトグロブリン蛋白溶解液250mlを満たし、二本の白金電極を直列に接続した回路間に通電する。

    脱脂乳清液に対して電圧83.5V前後で通電する場合、最適電流値は1.0Aとなり、脱脂乳清液の電気抵抗は約84オームであった。 この条件下で30分間まで通電し、全電気エネルギー約150キロジュールまで注入した。 1%β−ラクトグロブリン蛋白溶解液の電気抵抗は約140オーム、電圧83.5V前後での最適電流値は0.6Aであった。 この条件で30分間まで通電し、全電気エネルギー約90キロジュールまで注入した。 各々ペーパータオルでガラス管を包み、冷水を常時浸して溶解液を55℃以下に保った。 試料は管口下方にある液体採取用ガラスコックをひねり50ml採取した。 図1にβ−ラクトグロブリン蛋白へ通電中の装置の全体写真(A)と、管口下方の白金電極板および液体採取用ガラスコックの拡大写真(B)を示す。

    実施例2
    脱脂乳清液に上記のように電気エネルギーを注入して、陽極側および陰極側で採取した液体を透析膜に入れ、透析液を用いて2回透析した。 5名の医療従事者に依頼して官能テストを行った。 その結果、牛乳特有の風味は損なわれていないことが分かった。

    実施例3
    脱脂乳清液およびβ−ラクトグロブリン溶液に電気エネルギーを注入することによるpH、酸化還元電位(ORP)および蛋白濃度の変化を測定した。 蛋白濃度はローリイ法で測定した(Fryer HJL, Davis GE Lowry protein assay using an automatic microtiter plate spectrophotometer. Anal. Biochem. (1986), vol. 153, p262-266.)。 その結果、脱脂乳清液ではpH変化は小さく、β−ラクトグロブリン溶液ではpH値が大きく変化した。 両液とも陽極側では酸化電位が高くなり、陰極側では還元電位が高くなった。 蛋白濃度は減少したが陽極側、陰極側で大きな差は生じなかった(表1)。

    実施例4
    牛乳アレルギー患者血清にβ−ラクトグロブリン蛋白を加え、患者血清に含まれる抗β−ラクトグロブリン特異的IgE抗体がどの程度吸着されるかを測定した(RAST抑制試験)(Yman L. et al., RAST-based allergen assay methods. Dev.Biol.Stand., (1975), vol.29, p151-165)。 蛋白のアレルゲン性定量には、実際のアレルギー患者での皮膚反応を調べて、その陽性反応閾値から推測することが一般的である。 しかし患者でそのような生体検査(生体実験)が、小児である等の理由から施行できない場合には、ここで述べるRAST抑制試験が用いられる。 これは患者血清中のアレルギー抗体(IgE抗体)量を測定するに先立って、血清中にアレルゲン蛋白を入れると、血清中のIgE抗体がそれに結合して消費されるため、見かけ上血清からIgE抗体が減る、つまり測定値が低くなることを原理としている。 血清中のIgE抗体の減り具合から逆にアレルゲン蛋白量が推測できることになる。

    ここで用いた牛乳アレルギー患者血清は、熊本大学医学部附属病院発達小児科外来を受診した牛乳アレルギー患者の中から選んだ。 この研究の趣旨をよく説明して、患者本人ないし患者両親から同意を得た7名から採取した。 通常の外来診療で血液を採取する際に、2ml余分に採取した。 それらを等量混合した血清に種々のβ−ラクトグロブリン蛋白を加えると、混合血清中の抗β−ラクトグロブリン特異的IgE抗体が吸着されて抗体濃度が低下するが、その低下の割合を下記の式に当てはめて求めた。 なお抗β−ラクトグロブリン特異的IgE抗体価は蛍光酵素抗体法(ファルマシア社製)で測定した。

    特異的IgE抗体価低下率(%)=(1−β−ラクトグロブリン蛋白を加えた血清中のIgE抗体価/何も加えていない血清中のIgE抗体価)×100

    1%β−ラクトグロブリン蛋白溶液を混合血清に加える際に、前もって生理食塩水で10倍、100倍、1,000倍に希釈した。 その8μlを混合血清0.4mlに各々加え、37℃で1時間攪拌し、抗β−ラクトグロブリン特異的IgE抗体価を測定した。 その結果、10倍液を加えた時が最もIgE抗体価が低下した(表2)。 このため、以降のIgE抗体吸着をみる実験には10倍希釈液を用いることにした。

    このようにして血清中のIgE抗体は、β−ラクトグロブリンのアレルゲン部分と結合することによって見かけ上減少する。 この減少する割合を測定することで、β−ラクトグロブリンのアレルゲン活性を評価することにした。 すなわち、処理する前のβ−ラクトグロブリン添加によって得られた減少率から、通電して陽極側ないし陰極側で採取されたβ−ラクトグロブリン、あるいは酸ないしアルカリ処理を受けたβ−ラクトグロブリンを各々添加した時に得られた低下率を差し引いて、その差をβ−ラクトグロブリン蛋白アレルゲン活性減弱化の指標とした。

    特異的IgE抗体への吸着率からみたアレルゲン性減弱化率(%)=[無処置のβ−ラクトグロブリンを加えた時のIgE低下率(%)]−[種々の処置を行ったβ−ラクトグロブリンを加えた時のIgE低下率(%)]

    β−ラクトグロブリン溶液に電気エネルギーを注入すると、pH、ORP値に変化が生じるため、β−ラクトグロブリンのアレルゲン性がpHやORPの変化によっても影響を受けるかについて調べた。 表1に示すように、陽極側で得られた溶液のpHは3.50、ORPは182mVであり、陰極側で得られた溶液のpHは11.20、ORPは−208mVである。 そこでβ−ラクトグロブリン蛋白1%溶液30mlに、1モルの酢酸を450μl滴下して、pH3.50(ORP,132mV)の溶液を作製した。 また1モルの水酸化ナトリウム液を150μl滴下してpH11.20(ORP,−256mV)の溶液も作製した。

    牛乳アレルギー患者混合血清0.4mlに、無処置のβ−ラクトグロブリン蛋白溶解液、30分間通電して陽極側で採取した液、同陰極側で採取した溶液、酢酸を加えて酸処置した溶液、水酸化ナトリウム液を加えアルカリ処置した溶液を、各々10倍希釈して8μl加えた。 37℃で1時間攪拌した後、蛍光酵素抗体法で抗β−ラクトグロブリン特異的IgE抗体価を測定した。 この結果、電気エネルギーを注入して陰極側で得られたβ−ラクトグロブリン蛋白には著しいアレルゲン活性の低減化が認められた。 このアレルゲン性低減化は、同レベルのpH,ORPになるように水酸化ナトリウムを加えたβ−ラクトグロブリン蛋白にはみられなかったので、電気エネルギー注入して陰極側で見られるアレルゲン性低減化は単にpH,ORP変化に伴う現象ではないことがわかった(表3)。

    実施例5
    脱脂乳清およびβ−ラクトグロブリン蛋白のアレルゲン活性の評価を、牛乳アレルギー患者に対する皮膚アレルギー反応で行った。 この検査実施に当たっては、熊本大学倫理委員会の臨床研究に関する審査を受けた。 熊本大学附属病院発達小児科外来を受診した牛乳アレルギー患者の中から、患者本人ないし患者両親に研究内容等についてよく説明して、同意が得られた計15名に検査を施行した。 テスト液としては、上記の脱脂乳清液、それに電気エネルギーを30分間注入して、陽極側、陰極側で得られた液、β−ラクトグロブリン蛋白溶解液、それに電気エネルギーを10分間ないし30分間注入して、陽極側、陰極側で採取された溶液、さらには陰性反応対照として生理食塩液を、陽性反応対照としてヒスタミン1,000倍液を用いた。

    各々の前腕内側皮膚に20μl滴下して、小児用プリック針(米国リンコリン社製)で穿刺して、20分後に表面に出現する膨疹の最大直径を測定した。 脱脂乳清液、β−ラクトグロブリン溶液に各々電気エネルギーを注入することによって皮膚アレルギー反応が低下する割合を下記の式で求め、この値をアレルゲン性減弱化の指標とした。

    皮膚アレルギー反応低下率(%)=(1−(電気エネルギー注入後の膨疹径−陰性対照液の膨疹径)/(電気エネルギー注入前の膨疹径−陰性対照液の膨疹径))×100(%)

    図2には、牛乳アレルギー患者の前腕内側皮膚面で、脱脂乳清液(左)およびβ−ラクトグロブリン溶液(右)を用いた時に生じたアレルギー反応の典型例を示す。 いずれも、(−)と皮膚に描記した陰極側採取液に対する反応が、(前)あるいは(βLG)と皮膚に描記した処理を加える前の液、あるいは(+)と描記した陽極側採取液に対する反応に比べて、著しく弱いことが分かる。

    脱脂乳清液を用いた皮膚反応は合計8名の患者で測定した。 脱脂乳清液に上記条件下で電気エネルギーを30分間注入すると、陰極側ではアレルゲン活性が平均48%低減化された。 一方、陽極側では平均28%の低下にとどまっていた(表4)。

    β−ラクトグロブリンに上記条件下で電気エネルギーを10分間注入して採取した溶液に対する皮膚アレルギー反応は3名の患者で評価した。 この通電時間では陰極側、陽極側ともにアレルゲン活性の低減化はみられなかった(表5)。

    β−ラクトグロブリンに電気エネルギーを30分間注入して、採取した溶液に対する皮膚アレルギー反応を15名の患者で評価した。 陰極側で採取した溶液を用いた場合、通電前の溶液に比べて、その膨疹直径は平均で71%も抑制されており、アレルゲン活性が著しく減弱していることが分かった。 一方、陽極側採取液では膨疹直径への抑制は平均10%にとどまっていた(表6)。

    一般に市販されている普通のミルク(ミルクと表7に記載)、アレルギー用に市販されている加水分解ミルク(加水分解ミルクと表7に記載)、並びにβ−ラクトグロブリンに電気エネルギーを30分間注入して陰極側で採取した溶液(陰極側採取液と表7に記載)を用いた時の皮膚プリックテストの結果を表7に示す。 皮膚の膨疹反応の大きさをミリメートルで記載した。 膨疹がどれくらい小さくなったかを計算し、それを抑制率として%で示した。

    実施例6
    電機エネルギー注入によるβ−ラクトグロブリンのアミノ酸組成変化を調べた。 β−ラクトグロブリン1%溶液0.5mlに12規定塩酸0.5mlを加え、100℃で20時間インキュベートした。 クエン酸リチウム緩衝液で20倍に希釈し、アミノ酸分析専用高速液体クロマトグラフ(L−8500形、日立)を用いて遊離アミノ酸量を測定した。 牛乳由来β−ラクトグロブリンは分子量約18kDaで、20種類162個のアミノ酸で成り立っているが、今回の研究に用いたβ−ラクトグロブリン(米国SIGMA社販売)は精製度80%である。 なお強塩酸処理によってアスパラギン(N)はアスパラギン酸(D)、グルタミン(Q)はグルタミン酸(E)に変化しており、トリプトファン(W)は破壊されるため検出されなかった。

    表8に測定結果を百分比で示した。 電機エネルギー30分注入によって陰極、陽極側ともにシステイン(C)、メチオニン(M)、チロシン(Y)は検出限界以下となった。 またリジン(K)も減少したが、陰極側で特に減少した。 一方、アスパラギン酸(D)、スレオニン(T)、グルタミン酸(E)、ブロリン(P)、ロイシン(L)は陰極側、陽極側でともに増加した。 リジンを除いて、陽極側、陰極側でアミノ酸組成に大きな違いは生じなかった。 そのため、陰極側にみられた著しいβ−ラクトグロブリンのアレルゲン性減弱化は、蛋白のアミノ酸組成変化に関連しないと思われた。

    実施例7
    β−ラクトグロブリンは5個のシステイン残基をもち、うち4個のシステイン残基は分子内ジスルフィド(S−S)結合を2ケ所で形成している。 残り1個のシステイン残基はチオール基(−SH)のままか、分子間ジスルフィド結合を形成するため、通常β−ラクトグロブリンは単体か2量体となっている。 エールマン法でこのチオール基量を測定したところ、陰極側、陽極側ともほぼ同程度に減少していた(表9)。 陰極側にみられたβ−ラクトグロブリンの著しいアレルゲン性減弱化は、del Val G. et al., Thioredoxin treatment increases digestibility and lowers allergenicity of milk. J. Allergy Clin. Immunol., (1999), vol. 103, p690-697で示されたようなチオレドキシンを用いた場合とは異なる機序であることが分かった。

    実施例8
    電気エネルギー注入によってβ−ラクトグロブリンに生じる分子量の変化をポリアクリドアミドゲル電気泳動法で調べた。 各々のβ−ラクトグロブリン溶液を脱塩し、還元作用をもたない緩衝液(8%SDS、40%グリセロール、BPB、200mM Tris−HCL pH6.8)を加えて1mg/mlの蛋白濃度にした。 その10μlを16%ポリアクリルアミドゲル上で定電流16mA、90分間泳動した。 染色はクマシーブリリアントブルーで行った。

    処置前のβ−ラクトグロブリン溶液には分子量18kDa付近の1本のバンドのみが観察され、このバンドは単体β−ラクトグロブリンと考えられた(図3)。 これに上記条件下で電気エネルギーを10分間注入すると陽極側、陰極側ともに18kDa付近のバンドが薄くなり、新たに高分子領域に幅広い陰影が生じた。 しかし30分後には、これら高分子領域陰影は陽極側、陰極側からともに消失した。 陽極側では再び18kDa付近のバンドだけが観察され、陰極側ではこの18kDa付近のバンドもほぼ消失した。 このことから、β−ラクトグロブリンに電気エネルギーを30分間注入すると、陰極側ではβ−ラクトグロブリン単体、同2量体が消失すると考えられた。

    実施例9
    電気エネルギーを一定量注入すると、陰極側でβ−ラクトグロブリン単体がゲル上から消失することが分かったので、この蛋白が高分子化して消失したのか、低分子化して消失したのかを調べた。 すなわち分子分画量30kDaで限外濾過を行い、高分子量側溶液、低分子側溶液を得て、限外濾過前の液とともに再度ポリアクリドアミドゲル電気泳動を行った。 この結果、高分子量側溶液と限外濾過前の液がほぼ同様な泳動像であり、低分子側溶液にバンド形成が全くみられなかったので、β−ラクトグロブリンは高分子化してゲル上から消失したことが分かった(図4)。

    乳清およびβ−ラクトグロブリンに電気エネルギーを一定量注入することにより、陰極側ではそのアレルゲン活性が著しく減弱化する。 この方法によって、蛋白分解酵素やチオレドキシンなどの異種蛋白や化学物質を用いることなく、牛乳アレルギー治療用乳製品、牛乳アレルギー発症予防用乳製品が製造できる。 この製法によって得られた乳製品は安全であり、風味も損なわれない。 この乳製品は、乳成分を摂取することで生じる免疫疾患、とくに牛乳アレルギーの治療やその予防を目的とした医療に貢献する。

    乳清はチーズ製造過程における産業廃棄物であり、その多くは養豚飼料となっている。 今回の実験では、各溶液250mlに電気エネルギーを注入した後50ml採取している。 表1から分かるように、処理前の脱脂乳清蛋白濃度は1,460mg/dl、30分通電後の陰極側溶液蛋白濃度は930mg/dlである。 よって回収率は(50÷250)×(930÷1460)=12.7%であった。 また処理前のβ−ラクトグロブリン溶液の蛋白濃度は728mg/dl、30分通電後の陰極側溶液蛋白濃度は264mg/dlである。 よって回収率は(50÷250)×(264÷728)=7.3%であった。 この程度の回収率であれば、コスト面においても工業的量産に支障ないと考えられる。

    図1は、実施例で用いた大型電気分解装置全体像(A)、及び白金電極および液体採取用コック部分の拡大像(B)を示す。

    図2は、牛乳アレルギー患者の前腕内側皮膚面で、脱脂乳清液(左;whey)およびβ−ラクトグロブリン溶液(右;βLG)を用いた時に生じたアレルギー反応の典型例を示す。

    図3は、電気エネルギー注入によるβ−ラクトグロブリン蛋白の分子量変化を示す。 M:分子量マーカー、1:処置前のβ−ラクトグロブリン溶液、2:エネルギー注入10分後の陽極側採取液、3:同注入10分後の陰極側採取液、4:同注入30分後の陽極側採取液、5:同注入30分後の陰極側採取液

    図4は、β−ラクトグロブリン陰極側採取液の限外濾過(30kDa)後の電気泳動像を示す。 M:分子量マーカー、1:高分子量側溶液、2:低分子量側溶液、3:限外濾過前溶液

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